説明

オープンラック式気化器のAl合金製伝熱管およびそのAl合金製伝熱管の製造方法

【課題】 耐食性、耐サンドエロージョン性、耐エロージョンコロージョン性等に優れたオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管を提供する。
【解決手段】 基材の表面に、この基材よりも電位が低い金属からなるクラッド被膜が形成されてなるオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管の前記クラッド被膜の厚さを400〜1000μmとし、前記基材とクラッド被膜との界面の平均粗さRaを0.1〜10μm、最大粗さRmaxを10〜100μmとし、この基材とクラッド被膜との界面の100μm×100μmの範囲において間隔5μmの格子点法により求めた隙間面積率の10視野の平均値を0.10%未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンラック式気化器のAl合金製伝熱管およびそのAl合金製伝熱管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(LNG)は、通常低温高圧の液状で移送または貯蔵されるが、実際に使用されるときには事前に気化される。例えば、海水との熱交換によってLNGを加温して気化させるオープンラック式気化器(以下、ORVという。)では、伝熱管の素材として熱伝導性が良好なアルミニウム合金が使用されている。しかしながら、アルミニウム合金は、海水との接触により腐食し、そして一旦腐食が始まると、その腐食部分が集中的に侵され、いわゆる孔があく孔腐食を受け易いという欠点がある。通常、ORVの伝熱管パネル(伝熱管の集合体)では、表面に犠牲防食金属(Al−Zn合金等)の溶射やクラッド等により犠牲防食金属被膜を形成して防食するようにしている。
【0003】
犠牲防食金属被膜としては、Zn量が2〜15質量%のAl−Zn合金を溶射法により形成して用いる場合が最も一般的で適用例が多い。溶射法によれば、伝熱管パネルを組み上げた後から犠牲防食金属被膜を形成させることが可能であり、実機使用後に腐食等により犠牲防食金属被膜が消失してしまった場合にも現地で再形成することができるという施工上の利点がある。これに対して、クラッド法では、伝熱管パネル製造前に予め伝熱管に犠牲防食金属被膜を形成させておかなければならず、実機使用後の再形成が困難であるため、溶射法に比較して施工性が劣るという欠点がある。しかしながら、クラッド法で形成した犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜は気孔等の腐食起点となる欠陥が少ないため、溶射法により形成した溶射被膜よりも長寿命である。クラッド被膜を、クラッド被膜を再形成する必要がない程度に長寿命化することができれば、溶射法に対してクラッド法の施工上の欠点とは無関係に実用することができる。
【0004】
上記のような実情に鑑み、長期間に亘って伝熱管の基材を防食することを可能ならしめるようにした犠牲防食金属被膜として、厚さ1mm以上のクラッド被膜を形成させたスターフィンチューブ(以下、伝熱管という。)が提案されている。以下。この従来例に係る伝熱管を説明する。即ち、棒状の母材インゴットの外周面に被クラッド用のAl−Zn合金管を外嵌したクラッド素材を用いて押出し成型法により所要形状のフィンチューブを形成することにより、表面に所要厚みの犠牲陽極膜(犠牲防食金属被膜)がクラッドされた伝熱管を得る。このような方法で製造した伝熱管を、乾湿交互浸漬試験を行ったところ、一部ピッチングが散見されたものの、母材表面まで消耗した個所は皆無であるということが説明されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−164496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例に係る伝熱管では、犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜の寿命は溶射法により形成したクラッド被膜に比較して改善されていると考えられる。しかしながら、伝熱管のクラッド被膜の損傷について検討した結果、下記のことが判明した。即ち、先ず、クラッド被膜の表面において孔腐食状の腐食が進行し、孔腐食部分における海水の流動によりキャビテーションエロージョンが発生し、海水の腐食作用との重畳によってクラッド被膜の損傷が加速されることを見出した。このようなクラッド被膜の損傷作用は海水の氷着と解氷による機械的作用よりも大きく、通常のクラッド被膜では密着性が不十分で犠牲防食金属被膜と基材とが比較的早く剥離してしまうことに起因するということが分った。
【0006】
即ち、クラッド法によりクラッド被膜を形成する際には、表面が荒れているとクラッドしたときに隙間が生じて耐腐食性が低下するという問題があるため、基材と被クラッド被膜素材との合わせ面を予め機械加工により平坦にしておくのが普通である。ところが、このようにしても密着性が十分であるとはいえず、実機の使用期間を勘案すると、上記従来例に係る伝熱管のクラッド被膜では寿命が不十分である。
【0007】
従って、本発明の目的は、耐食性、耐サンドエロージョン性、耐エロージョンコロージョン性等に優れたORVのAl合金製伝熱管およびそのAl合金製伝熱管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るORVのAl合金製伝熱管が採用した手段は、Al合金からなる基材の表面に、この基材よりも電位が低い金属からなるクラッド被膜が形成されてなるオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管において、前記クラッド被膜の厚さが400〜1000μmであり、クラッド被膜と基材との界面の平均粗さRaが0.1〜10μm、最大粗さRmaxが10〜100μmであり、またクラッド被膜と基材との界面を含む断面の100μm×100μmの範囲において間隔5μmの格子点法により求めた隙間面積率の10視野の平均値が0.10%未満であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係るORVのAl合金製伝熱管が採用した手段は、請求項1に記載のORVのAl合金製伝熱管において、前記クラッド被膜が、1〜30質量%のZnを含有するAl−Zn合金であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係るORVのAl合金製伝熱管の製造方法が採用した手段の要旨は、Al合金からなる基材の表面に、この基材よりも電位が低い金属からなるクラッド被膜が形成されてなるオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管の製造方法において、前記クラッド被膜側の表面粗さの山数をN1とし、基材側の表面粗さの山数をN2としたとき(N1−N2)/N2×100で求められるΔN%の値と、クラッド被膜側の表面平均粗さをRa1とし、基材側の表面平均粗さをRa2としたとき(Ra1−Ra2)/Ra2×100で求められるΔRa%の値と、クラッド被膜側の表面最大粗さをRmax1とし、基材側の表面最大粗さをRmax2としたとき(Rmax1−Rmax2)/Rmax2×100で求められるΔRmax%の値とのそれぞれが20%以下になるように基材の表面とクラッド被膜の表面とを粗面化した後、クラッド化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1、または2に係るORVのAl合金製伝熱管、およびそのAl合金製伝熱管の製造方法によれば、犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜の厚さを400μmにすることにより、その消耗速度とORVの使用期間を勘案すると十分な寿命を得ることができる。しかしながら、1000μmを超えると、孔腐食の孔内で腐食生成物の体積膨張作用が大きくなり、被膜剥離が起こり易くなる。従って、クラッド被膜の厚さを、400μm〜1000μmにすれば、腐食生成物の体積膨張作用の影響を抑制しながら、Al合金製伝熱管に対して十分な寿命を付与することができる。
【0012】
犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜の割れや剥離の発生を防止するためには、伝熱管の基材とクラッド被膜との密着力をある程度高める必要がある。界面が粗い方が密着力にとって好ましく、平均粗さRaが0,1μm以上で、かつ最大粗さRmaxが10μm以上であることが必要である。ところが、最大粗さRmaxが100μmを超えると、クラッド形成時に界面の凹部に空隙が形成され、その空隙部分から起こり易いということや、使用時の腐食(孔腐食)の進展時に基材の露出部が早期に形成されるため、逆にクラッド被膜の寿命が低下する。従って、平均粗さRaを0,1μm以上、かつ最大粗さRmaxを10μm以上、100μm以下にすることにより、Al合金製伝熱管に対して十分な寿命を付与することができる。
【0013】
伝熱管の基材には、通常3000系、5000系、あるいは6000系アルミニウム合金が用いられている。基材の表面に形成した被膜が犠牲防食金属として作用するためには、基材よりも電位が低くなければならないが、犠牲防食金属としてAl合金、Zn合金、Mg合金を使用することができる。3価のイオンとして溶解するAlは、2価イオンとして溶解するZnやMgよりも有効電気量が大きいため、少なくとも同じ基材防食効果が得られる。原子量から単純計算すると、1gの基材アルミニウム合金を防食するために要する溶解量は、Alでは1g、Mgでは1.4g、Znでは3.6gであるから、寿命(防食効果持続期間)の観点から最も好ましいのはAl合金である。但し、犠牲防食金属としてAl合金を用いる場合には、上記のとおり、基材として用いるアルミニウム合金よりも電位を低くする必要がある。被膜中のZnは電位を低下させる働きがあり、被膜を犠牲防食金属被膜として作用させるのに有効である。また、Znは被膜の硬度を高める作用を有するが、Znの添加量が1%未満であると被膜硬度が不足し、海水衝突によるエロージョン損傷を受け易い。一方、Znの添加量が30%を超えると、被膜自身の耐食性が低下する。従って、犠牲防食金属として、1〜30%のZnを添加したAl合金を用いることにより、Al合金製伝熱管に対して十分な寿命を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の形態に係るAl合金性伝熱管を説明する。図1は犠牲防食金属被膜の膜厚および粗大粗さ測定方法説明摸式図であり、図2は平均粗さRaの測定方法説明図である。本発明の形態に係るAl合金製伝熱管は、このAl合金製伝熱管の基材と犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜の素材とを合わせて、押出しまたは引抜き加工によって製造するが、製造するに当たり、Al合金製伝熱管の犠牲防食金属被膜の膜厚、Al合金製伝熱管の基材と犠牲防食金属被膜の界面粗さ、Al合金製伝熱管の犠牲防食金属被膜中のZn量は、それぞれ下記のようにして決定される。
【0015】
先ず、Al合金製伝熱管の犠牲防食金属被膜の膜厚については、下記のとおりである。即ち、犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜はORVのAl合金製伝熱管を防食するために必要不可欠であり、クラッド被膜の膜厚を400μm以上にすることにより、その消耗速度とORVの使用期間からすると、十分な寿命を得ることができる。しかしながら、1000μmを超えると、孔腐食の孔内で腐食生成物の体積膨張作用が大きくなり、被膜剥離が起こり易くなる。従って、クラッド被膜の厚さを、400μm〜1000μmにすれば、腐食生成物の体積膨張作用の影響を抑制しながら、Al合金製伝熱管に対して十分な寿命を付与することができる。なお、図1に示すように、犠牲防食金属被膜を形成させたORVのAl合金製伝熱管の光学顕微鏡での断面写真(光学顕微鏡倍率は最大粗さに応じて適宜変更されるものである。)において、Al合金製伝熱管の基材の界面と表面部のそれぞれの凹凸範囲の中心間の距離を膜厚と定義し、任意の10視野の平均値として算出するものである。
【0016】
Al合金製伝熱管の基材と犠牲防食金属被膜の界面の粗さについては、下記のとおりである。即ち、犠牲防食金属被膜であるクラッド被膜の割れや剥離の発生を防止するためには、基材とクラッド被膜との密着力をある程度高める必要がある。界面が粗い方が密着力にとって好ましく、平均粗さRaが0,1μm以上で、かつ最大粗さRmaxが10μm以上であることが必要である。ところが、最大粗さRmaxが100μmを超えると、クラッド形成時に界面の凹部に空隙が形成され、その空隙部分から起こり易いということや、使用時の腐食(孔腐食)の進展時に基材の露出部が早期に形成されるため、逆にクラッド被膜寿命が低下する。従って、平均粗さRaが0,1μm以上で、かつ最大粗さRmaxが10μm以上、100μm以下にすることにより、Al合金製伝熱管に対して十分な寿命を付与することができる。ここで、規定するRaおよびRmaxは、クラッド被膜形成後の最終的な界面の粗さパラメータを意味するものである。
【0017】
なお、最大粗さRmaxは、と犠牲防食金属被膜を形成させたORVのAl合金製伝熱管の光学顕微鏡での断面写真(光学顕微鏡倍率は最大粗さに応じて適宜変更されるものである。)において、図1に示すように、Al合金製伝熱管の基材の界面部の凹凸範囲の最大値を最大粗さと定義し、任意の10視野の最大値として算出するものとする。また、平均粗さRaは、図2に示すように、光学顕微鏡の視野において、Al合金製伝熱管の基材と犠牲防食金属被膜との界面の凹凸の中間線A−A′と凹凸曲線とに囲まれた面積に等しくなるような長方形を描いたときの長方形の縦の長さ(短片)に相当し、画像解析等の手法によって求めることが可能であり、このような方法で任意の10視野の平均値として算出するものである。実機のAl合金製伝熱管における界面の粗さの確認方法としては、基材と犠牲防食金属被膜の界面の粗さについては、Al合金製伝熱管の長手方向に水平切断した断面に関して測定することが好ましい。その理由は、用いるAl合金製伝熱管の曲率半径にもよるが。Al合金製伝熱管の長手方向に垂直に切断した断面では界面の中央線が曲線になるために、Ra、Rmaxを正確に測定することができないからである。
【0018】
さらに、Ra、Rmaxを上記のように粗くした上で、Al合金製伝熱管の基材とクラッド被膜との界面に実質的に隙間がないことが必要である。隙間が存在すると、基材と被膜との密着性が劣り、また隙間から基材側に腐食が進み易くなるからである。実質的に隙間がないということは、基材と被膜との界面を含む断面を、光学顕微鏡により400倍で観察し、紙面上で間隔2mm(実態5μm)の格子点法により隙間面積率を求めた場合に、隙間面積率が0.10%未満である場合をいうものとする。隙間面積率は、光学顕微鏡により400倍で観察し、紙面上の20mm×20mmの範囲(実態50μm×50μm)に間隔1mm(実態2.5μm)の格子点において、隙間として認められた格子点の数を全格子点数で除したものとして定義されるものである。なお、隙間面積率は任意の10視野の平均値を用いるものとする。
【0019】
Al合金製伝熱管の犠牲防食金属被膜中の好ましいZn量については、下記のとおりである。即ち、LNGの低温に耐え得る材料としては、9%以上のNiを添加した鉄鋼、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304等)、アルミニウム合金、銅合金等がある。
ORVにおいては、熱伝導性、加工性、コスト等の観点から、伝熱管の基材としてはアルミニウム合金が最も好ましく、使用例が多い。伝熱管の基材には、通常3000系、5000系、あるいは6000系アルミニウム合金が用いられている。Al合金製伝熱管の表面に形成された被膜が犠牲防食金被膜として作用するためには、これらの基材よりも電位が低くなければならないが、犠牲防食金属被膜としてAl合金、Zn合金、Mg合金を使用することができる。3価のイオンとして溶解するAlは、2価イオンとして溶解するZnやMgよりも有効電気量が大きいため、少なくとも同じ基材防食効果が得られる。原子量から単純計算すると、1gの基材アルミニウム合金を防食するために要する溶解量は、Alでは1g、Mgでは1.4g、Znでは3.6gであるから、寿命(防食効果持続期間)の観点から最も好ましいのはAl合金である。
【0020】
但し、Al合金製伝熱管の犠牲防食金属被膜としてAl合金を用いる場合、基材として用いるアルミニウム合金よりも電位を低くする必要がある。被膜中のZnは電位を低下させる働きがあり、被膜を犠牲防食金属被膜として作用させるのに有効である。また、Znは被膜の硬度を高める作用を有するが、Znの添加量が1%未満であると被膜硬度が不足し、海水衝突によるエロージョン損傷を受け易い。一方、Znの添加量が30%を超えると、被膜自身の耐食性が低下する。従って、犠牲防食金属被膜として、1〜30%のZnを添加したAl合金を用いることにより、Al合金製伝熱管に対して十分な寿命を付与することができる。なお、犠牲防食金属被膜中のZn量とは、被膜中の平均的なZn成分のことである。そして、犠牲防食金属被膜中のZn量は、犠牲防食金属被膜を形成させたAl合金製伝熱管からの剥離片を酸等の適当な溶媒に溶解させて、発光分析や原子吸光分析等の適当な分析方法で分析して求めることができる。
【0021】
本発明の形態に係るAl合金製伝熱管は、上記のとおり、Al合金製伝熱管の基材と犠牲防食金属被膜とするクラッド被膜の素材とを合わせて、押出しまたは引抜き加工により製造される。製造する際は、Al合金製伝熱管の基材とクラッド被膜との合わせ面の粗さを調整することにより、クラッド被膜形成後の界面粗さを変化させることが可能である。
このとき、合わせ面の粗さ特性に差違が大きいと、界面に空隙が形成され、剥離が起こり易くなる。このような空隙の形成を抑制するために、合わせ面の粗さ特性に関しては、下記の式で表される山数の違いΔN、平均粗さの違いΔRa、最大粗さの違いΔRmaxをそれぞれ20%以下にするのが好ましい。なお、クラッド被膜形成時の圧下率や用いる素材の機械的特性によって状況が異なるので、両者の粗さの絶対値は特に制限されるものではない。
ΔN(%) =(クラッド被膜側の山数−基材側の山数)/基材側の山数×100
ΔRa(%) =(クラッド被膜側のRa−基材側のRa)/基材側のRa×100
ΔRmax(%)=(クラッド被膜側のRmax−基材側のRmax)/基材側のRmax×100
但し、山数とは、犠牲防食金属被膜を形成させたAl合金製伝熱管の光学顕微鏡での断面写真において、例えば図1に示すように、山と認められる数を評価した長さで除した値を算出し、任意の10視野についての平均値として定義されるものである。
【0022】
ところで、基材の表面にクラッド被膜を形成させたAl合金製伝熱管を用いて伝熱管パネルを製造する場合、Al合金製伝熱管とヘッダーの接合部は、溶接のために機械加工が施される。この機械加工によってクラッド被膜が除去されてしまうため、接合部に別途防食を施す必要がある。機械加工部の防食方法としては、例えば重防食塗料の塗布や溶射法等が採用されるが、特に防食方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の実施例1では、Al合金基材として、寸法100×50×5mmのA3203材を用いて、片面に犠牲防食金属被膜を形成させた供試材を作成し、下記のとおりの種々の試験を行って性能を評価した。被膜材料No.1およびNo.2の犠牲防食金属被膜の形成方法は、溶線式フレーム溶射法(酸素+プロパン炎)である。そして、被膜材料No.3以降は、所定の成分および厚さ箔を基材に重ねて冷間圧延を行うという冷間圧延法によりクラッド被膜を形成させた。冷間圧延前にブラスト処理や機械加工を行って基材の表面粗さを予め変化させて、基材と被膜との界面のRaやRmaxを制御した。具体的には、ブラスト処理では基材の表面に平均粒径5〜80μmのアルミナ粒子を吹き付けて粗さを調整した。
【0024】
また、機械加工は番手の異なるベルトを用いてヘアライン仕上げを行って、基材の表面粗さを調整した。Rmaxが概ね50μm以下の供試材については、ブラスト処理を行い、Rmaxがそれ以上のものについては機械加工を行った。なお、供試材の被膜中のZn量は、以下の方法で測定した。即ち、鑢等を用いて供試材の被膜から削り取った粉末1gを、1mol/リットルの希塩酸に溶解させ、その溶解液のICP発光分光分析を行って被膜中のZn量を測定した。なお、被膜材料No.1〜7までは比較例に係る供試材であり、被膜材料No.8〜26までが、本発明に係る供試材である。これら被膜材料No.1〜26の試験結果は、下記表1(被膜材料No.1〜20までを表示)および表2(被膜材料No.21〜26までを表示)に示すとおりである。
【表1】

【表2】

【0025】
実機の伝熱管パネルは、伝熱管パネルの入口側(通常は下部である。)ではLNGがまだ気化していないため低温であり、出口側(通常は上部である。)では既に気化して常温となっている。従って、ORVの稼動時には停止時に比べて、上下の温度差により伝熱管パネルの全体が変形する傾向がある。そこで、製作した試験片に対して、JISZ2248に準じる方法で押し曲げ試験を行い、このような伝熱管パネルの変形に対する耐久性を調べた。試験片の曲げ方向は被膜の表面および裏面の両面であり、曲げ角度は90度までとした。試験後の被膜損傷状況を目視観察し、何れかの曲げ方向で被膜に割れや剥離が発生した供試材は×印評価(割れや剥離あり)とし、発生しなかった供試材は○印評価(割れや剥離なし)とした。
【0026】
被膜材料No.1〜20までの供試材の押し曲げ試験結果は、表1の「曲げ試験*1」に示すとおりであり、被膜材料No.21〜26までの供試材の押し曲げ試験結果は、表2の「曲げ試験*1」に示すとおりである。即ち、最も一般的な溶射被膜の供試材(被膜材料No.1,2)や本願請求の範囲と外れている被膜/基材の界面、隙間面積率等の条件を有する供試材(被膜材料No.3〜7)では×印評価であり、特に隙間面積率が0.23の被膜材料No.4については割れが発生した。本願請求の範囲の界面粗さに制御した供試材(被膜材料No.8〜26)については、何れも割れや剥離が発生せず、優れた密着性を有していることが分った。なお、実機では90度まで変形が進むことはないが、加速試験の位置付けとして実施したものである。
【0027】
実機では、ORVの起動・停止によって伝熱管が低温−室温の熱サイクルを受け、このときの氷着と解氷の繰り返しによる機械的作用や熱応力で犠牲防食金属被膜に割れや剥離が発生する場合がある。これに対する劣化特性を調べるために、LNGよりも沸点温度が低温の液体窒素を用いて熱サイクル試験を行った。試験条件は、液体窒素に5分間浸漬した後、60℃に温度調整した恒温器内に55分間保持するという熱サイクルを1日当たり8回繰返し、これを30日間継続した。1日の熱サイクル試験が終了したサンプルは、次の日の熱サイクル試験を実施するまで室温のデシケータ内で保管した。
【0028】
試験後に犠牲防食金属被膜の割れや剥離の発生状況を目視により観察した結果(×印;割れや剥離あり、○印;割れや剥離なし)は、表1および表2の「熱サイクル試験*2」に示すとおりである。この熱サイクル試験結果によれば、最も一般的な溶射被膜の供試材(被膜材料No.1,2)や供試材(被膜材料No.3〜7)には割れや剥離が発生したが、本願請求の範囲の界面粗さに制御した供試材(被膜材料No.8〜26)については、何れも割れや剥離は認められなかった。このような液体窒素−室温の温度変化により犠牲防食金属被膜に割れや剥離が発生しないことから、これよりも温度差が少ない実機のLNG−室温の温度変化に対しても十分耐久性があるものと判断することができる。
【0029】
実機の伝熱管では、被膜の表面において腐食が孔食状に進行し、この孔食部分における海水の流動によりキャビテーションエロージョンが発生して、海水の腐食作用との重畳によって被膜の損傷が加速される。このような状態を模擬する試験として、試験片の被膜の形成面に垂直に人工海水を吹き付けることにより表面を腐食させて被膜の割れや剥離の状況を調べた。試験片の表面以外はシリコンシーラントで被覆し、また吹き付ける人工海水は温度を0℃に制御し、内径5mmφの4フッ化エチレン樹脂からなるノズルから試験片に吹き付けて、キャビテーションエロージョン作用と腐食作用を重畳した。実機において、自然落下により伝熱管に衝突する海水の速度は、ORVの大きさにも依存するが概ね2〜4m/sである。本実施例における試験では、人工海水の拭き付け速度を10m/sと実機の場合よりも高速とし、損傷を加速した。試験時間は12ヶ月で、1日毎に犠牲防食金属被膜の割れや剥離の発生状況を目視で観察して、試験開始から割れや剥離が発生するまでの時間を評価した。
【0030】
試験後に犠牲防食金属被膜の割れや剥離の発生状況を目視により観察した結果は、表1および表2の「腐食試験*3」に示すとおりである。これら表1および表2の「腐食試験*3」において、◎印;は12ヶ月経過しても割れや剥離なし、○印:9〜12ヶ月で割れや剥離発生、△印:6〜9ヶ月で割れや剥離発生、×印:6ヶ月未満で割れや剥離発生した場合をそれぞれ示すものである。この腐食試験結果によれば、最も一般的な溶射被膜の供試材(被膜材料No.1,2)や本願の範囲から外れた範囲の供試材(被膜材料No.3,5〜7)は、6ヶ月未満で犠牲防食金属被膜に割れや剥離が発生した。ただ、被膜材料No.4では6〜9ヶ月で、やや犠牲防食金属被膜の割れや剥離の発生期間が延長されているが、不十分なレベルである。これに対して、本願請求の範囲の界面粗さに制御した供試材(被膜材料No.8〜26)については、犠牲防食金属被膜の割れや剥離の発生期間は9ヶ月以上に延長されており、実機環境において十分な密着性を有していると考えられる。特に、Zn量を1〜30%としたAl−Zn合金のクラッド被膜では、高硬度で、耐食性も良好であるため海水衝突のエロージョン作用や海水の腐食作用に対して耐性があり、割れや剥離が発生しにくくなっていることが良く示されている。
【0031】
次に、本発明の実施例2について説明する。本発明の実施例2の場合には、Al合金基材としてA5083材を用いて、押出しにより外周面にクラッド被膜を形成させたパイプ(外径;50mm,内径;34mm.長さ;300mm)により性能評価を行った。評価試験に用いた犠牲防食金属被膜の被膜材料と合わせ面との粗さ特性は、被膜材料No.27〜40までのデータを示す表3のとおりである。合わせ面の粗さは、上記実施例1の場合と同様に、平均粒径5〜80μmのアルミナ粒子の吹き付けによるブラスト処理や番手の異なるベルトを用いたヘアライン加工によって、押出し前に予め調整しておいた。上記実施例1の場合と同様の方法で実施した熱サイクル試験の結果は、表3の「熱サイクル試験*2」に示すとおりである。
【表3】

【0032】
被膜材料No.27では界面のRaが、被膜材料No.28では界面のRmaxが、被膜材料No.29では界面のRmaxと隙間面積率が、被膜材料No.30では界面の隙間面積率がそれぞれ不適切であったため、Al合金基材と被膜との密着性が不十分で剥離の発生が認められた。それに対して、界面の粗さ特性を本願の範囲内に制御した被膜材料No.31〜40については、被膜が剥離しておらず、熱サイクルに対して優れた耐久性があることが分かる。
【0033】
上記実施例1の場合と同様の方法で実施した被膜材料の腐食試験の結果は、表3の「腐食試験*3」に示すとおりである。試験溶液である人工海水は、垂直方向からパイプの中央部に衝突するようにした。この試験の場合には、パイプの内部に試験溶液が入るのを防ぐために、パイプそれぞれの両端部にアクリル樹脂板(寸法;60×60×8mm)を接着して、その開口を塞いだ上で腐食試験に供した。これら各パイプの腐食試験の結果は、上記熱サイクル試験結果の場合と同様に、被膜材料No.27では界面のRaが、被膜材料No.28では界面のRmaxが、被膜材料No.29では界面のRmaxと隙間面積率が、被膜材料No.30では界面の隙間面積率がそれぞれ不適切であったため、Al合金基材と被膜との密着性が不十分で人工海水の衝突力あるいは腐食生成物の体積膨張圧に耐えきれず剥離の発生が認められた。それに対して、界面の粗さ特性を本願の範囲内に制御した被膜材料No.31〜40については、被膜が剥離しておらず、腐食に対して優れた耐久性があることが分かる。なお、被覆中のZn量を1〜30%に制御したものの耐食性は特に優れていることが分かる。
【0034】
以上の試験片による実施例1では、冷間圧延によるクラッド法の場合を例に挙げ、またパイプによる実施例2では、押出しによるクラッド法の場合を例に挙げた。しかしながら、例えば爆発圧着法等他のクラッド被膜形成方法でも、本発明と同等の効果を得ることができるので、犠牲防食金属被膜を形成する方法は、冷間圧延や押出しによるクラッド法に限定されるものではない。また、粗さの制御方法に関しても、上述の方法に限定されるものではなく、例えばブラスト処理ではアルミナ粒子以外のセラミックス粒子やガラスビーズを用いてもよい。機械加工もヘアライン仕上げ以外の加工(研削加工等)でも本発明と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】犠牲防食金属被膜の膜厚および粗大粗さ測定方法説明摸式図である。
【図2】平均粗さRaの測定方法説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金からなる基材の表面に、この基材よりも電位が低い金属からなるクラッド被膜が形成されてなるオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管において、前記クラッド被膜の厚さが400〜1000μmであり、クラッド被膜と基材との界面の平均粗さRaが0.1〜10μm、最大粗さRmaxが10〜100μmであり、またクラッド被膜と基材との界面を含む断面の100μm×100μmの範囲において間隔5μmの格子点法により求めた隙間面積率の10視野の平均値が0.10%未満であることを特徴とするオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管。
【請求項2】
前記クラッド被膜が、1〜30質量%のZnを含有するAl−Zn合金であることを特徴とする請求項1に記載のオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管。
【請求項3】
Al合金からなる基材の表面に、この基材よりも電位が低い金属からなるクラッド被膜が形成されてなるオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管の製造方法において、前記クラッド被膜側の表面粗さの山数をN1とし、基材側の表面粗さの山数をN2としたとき(N1−N2)/N2×100で求められるΔN%の値と、クラッド被膜側の表面平均粗さをRa1とし、基材側の表面平均粗さをRa2としたとき(Ra1−Ra2)/Ra2×100で求められるΔRa%の値と、クラッド被膜側の表面最大粗さをRmax1とし、基材側の表面最大粗さをRmax2としたとき(Rmax1−Rmax2)/Rmax2×100で求められるΔRmax%の値とのそれぞれが20%以下になるように基材の表面とクラッド被膜の表面とを粗面化した後、クラッド化することを特徴とするオープンラック式気化器のAl合金製伝熱管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−38368(P2006−38368A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220466(P2004−220466)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】