説明

カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質または大豆タンパク質を含む口腔ケア組成物

本発明は、後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗を防除するための(即ち、予防、抑制および/または治療を助けるための)、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食(dental erosion)および/または歯牙摩耗(tooth wear)を防除する(combat)ための(即ち、予防、抑制および/または治療を助けるための)、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
歯のミネラルは、主として、カルシウムヒドロキシアパタイト、Ca10(PO4)6(OH)2で構成されており、これは、炭酸またはフッ化物などのアニオンおよび亜鉛またはマグネシウムなどのカチオンで部分的に置き換えられ得る。歯のミネラルは、さらにまた、リン酸オクタカルシウムおよび炭酸カルシウムなどの非アパタイト系ミネラル相(non-apatitic mineral phases)も含み得る。
【0003】
歯の喪失は、齲蝕の結果として起こり得る。ここで、齲蝕は、乳酸などの細菌性の酸が完全には再石灰化することのない表面下の脱灰化を引き起こし、その結果、段階的に組織が失われ、最終的には空洞が形成されるという、多因性の疾患である。歯垢バイオフィルムの存在は齲蝕になるための前提条件であり、易発酵性炭水化物(例えば、スクロース)のレベルが口腔内で長期間にわたって上昇した場合、ストレプトコックス・ムタンス(Streptococcus mutans)などの酸産生菌は病原性になり得る。
【0004】
齲蝕原性の疾患が存在していない場合でさえ、酸による侵食および/または物理的な歯牙摩耗(これらのプロセスは、相乗的に作用すると考えられている)の結果として、歯の硬組織は失われ得る。歯の硬組織が酸にさらされると脱灰化が起こり、結果として表面が軟化し、ミネラル密度が低下する。正常な生理学的条件下では、脱灰化された組織は、唾液の再石灰化作用を通して自己修復する。唾液はカルシウムおよびリン酸について過飽和である。健康な個体においては、唾液の分泌は酸による攻撃を洗い流す働きをし、平衡をミネラルの沈着に有利に変化させるようにpHを上昇させる。
【0005】
歯牙侵食(即ち、酸による摩耗)は、細菌由来ではない酸による、脱灰化および最終的には歯表面の完全な溶解を伴う、表面現象である。最も一般的には、該酸は、食事由来であり、例えば、果物または炭酸飲料に由来するクエン酸、コーラ飲料に由来するリン酸および食用酢に由来する酢酸などである。歯牙侵食は、さらにまた、胃によって産生される塩酸(HCl)と繰り返し接触することにも起因し得る。ここで、該塩酸は、胃食道逆流などの不随意応答を通してまたは過食症患者が遭遇し得る誘発反応を通して口腔内に入り得る。
【0006】
物理的な歯牙摩耗は、咬耗(attrition)および/または摩耗(abrasion)に起因し得る。咬耗は、歯の表面が互いにこすれあう場合に起こる(二体摩耗の形態)。しばしば見られる劇的な例は、歯ぎしり(大きな力を加えてすりあわせる癖)をする被験体において観察される例であり、特に咬合面上において摩耗が促進にされることを特徴とする。摩耗は、典型的には、三体摩耗の結果として生じる。最も一般的な例は、練り歯磨きを用いた歯磨きに関連するものである。完全に石灰化されたエナメル質の場合、市販されている練り歯磨きに起因する摩耗のレベルは最小限であり、臨床的な結果が殆どないかまたは全くない。しかしながら、侵食性の攻撃にさらされることによってエナメル質が脱灰化および軟化されている場合、そのエナメル質は歯牙摩耗に対する感受性が増大する。象牙質はエナメル質よりも遙かに軟らかく、従って、摩耗に対してより感受性である。象牙質が露出している被験体は、アルミナに基づく練り歯磨きのような高摩耗性の練り歯磨きの使用は避けるべきである。この場合も、侵食性の攻撃による象牙質の軟化は、当該組織の摩耗に対する感受性を増大させる。
【0007】
象牙質は、インビボにおいては通常その位置に応じて(即ち、それぞれ、歯冠であるか歯根であるかに応じて)エナメル質またはセメント質で覆われている重要な組織である。象牙質は、エナメル質よりも有機含量が非常に高く、その構造は、象牙質-エナメル質または象牙質-セメント質接合面から象牙芽細胞/歯髄界面へと走る体液で満たされた細管が存在していることを特徴とする。象牙質感覚過敏の原因が、象牙芽細胞/歯髄界面の近くに位置すると考えられている機械的受容器の刺激をもたらす露出した細管中の体液の流れの変化と関連しているということ(流体力学理論)は、広く認められている。象牙質は一般にスメア層(主として、象牙質自体に由来するミネラルおよびタンパク質で構成され、さらには、唾液に由来する有機成分も含む閉塞混合物(occlusive mixture))で覆われているため、露出した全ての象牙質が感受性であるとは限らない。時間の経過とともに、細管の内腔は、石灰化された組織で徐々に塞がれ得る。歯髄の外傷または化学的刺激に応答して修復象牙質が形成されるということも、文書で十分に立証されている。それにも関わらず、侵食性の攻撃は、スメア層および細管の「栓」を除去して歯液の外部への流出を引き起こし、このことによって、象牙質は、熱さ、冷たさおよび圧力などの外的刺激に対してさらに非常に感受性となり得る。先に示したように、侵食性の攻撃は、さらにまた、象牙質の表面を摩耗に対してもさらに非常に感受性とし得る。さらに、象牙質感覚過敏は、露出した細管の直径が増大するにつれて悪化する。また、この細管の直径は象牙芽細胞/歯髄界面の方向へ進むにつれて増大するので、象牙質の進行性の摩耗は、特に象牙質の摩耗が急速である場合、感覚過敏を増強し得る。
【0008】
侵食および/または酸介在性摩耗を通して保護的なエナメル層が喪失されることによって、下にある象牙質が露出される。従って、そのような保護的なエナメル層の喪失は、象牙質感覚過敏の進行における主要な病因学的因子である。
【0009】
食事に由来する酸の増大した摂取および様式化された食事時間からの逸脱に歯牙侵食および歯牙摩耗の発生率の上昇が伴っているということが主張されてきた。このことを考慮すれば、歯牙侵食および歯牙摩耗の予防を助けるような方法は有利であろう。
【0010】
EP 1568356A(Sara Lee)は、歯牙侵食を予防するかまたは低減させるための口腔ケア組成物中における初乳タンパク質の使用に関する。0.5〜2.0mgの初乳タンパク質を含むその口腔ケア組成物は、10mM 硝酸(pH5.0)の中でヒドロキシアパタイトが溶解するのを阻止するということが明らかにされた。
【0011】
WO 06/056013(University of Melbourne)は、歯科用途(これは、抗侵食/腐食を包含する)において有用な、特に、歯の再石灰化において有用な、リンペプチドで安定化された非晶質リン酸カルシウムおよび/または非晶質フッ化リン酸カルシウム錯体に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP 1568356A
【特許文献2】WO 06/056013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ある種のタンパク質が食事に由来する酸の摂取に起因する歯牙侵食を防除する能力(即ち、歯牙侵食の予防、抑制および/または治療を助ける能力)を有しているという発見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、後に酸にさらされること(即ち、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質の投与後に酸にさらされること)によって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗を防除するための口腔ケア組成物の製造における、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
別の態様において、本発明は、後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗の防除において使用するための、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質を含む口腔ケア組成物を提供する。一実施形態では、該タンパク質はカゼインである。
【0016】
本発明の口腔ケア組成物中で使用されるタンパク質は、0.001%(w/v)〜10.0%(w/v)の量で、適切には、0.01%(w/v)〜5.0%(w/v)の量で、さらに適切には、0.10%(w/v)〜2.0%(w/v)の量で存在している。
【0017】
適切には、本発明において使用されるタンパク質は、天然源に由来する。
【0018】
カゼインおよび乳漿タンパク質は、典型的には、全乳から抽出される。乳漿タンパク質は、チーズの製造における副産物である。オボアルブミンは、典型的には、鳥類の卵(例えば、鶏の卵)から抽出される。大豆タンパク質は、典型的には、大豆から抽出される。
【0019】
本発明のタンパク質含有口腔ケア組成物によって提供される利点は、歯が、本発明の組成物で前処理された場合、後に食事に由来する酸(典型的には、pH範囲2.0〜4.5)にさらされることによる有害な影響に対して保護されるということである。
【0020】
本明細書中で使用される用語「前処理」または「前処理された」は、酸にさらされる前に上記タンパク質を含む組成物で歯を処理することを意味する。
【0021】
本発明のタンパク質含有口腔ケア組成物は、製剤化のために口腔ケア組成物の技術分野において慣習的に使用される製剤化剤(formulating agent)から選択される適切な製剤化剤、例えば、研磨剤、界面活性剤、増粘剤、湿潤剤、矯味矯臭剤、甘味剤、乳白剤または着色剤、防腐剤および水などを含有する。そのような製剤化剤の例は、例えば、EP 929287に記載されている。
【0022】
好ましくは、本発明に従って使用されるタンパク質含有組成物は、さらに、可溶性フッ化物イオン源、例えば、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ(II)またはフッ化アミンによって提供されるものを、25ppm〜3500ppm(好ましくは、100ppm〜1500ppm)のフッ化物を提供する量で含有する。
【0023】
さらなる口腔ケア活性成分も、本発明によるタンパク質含有組成物中に含ませることができる。
【0024】
本発明に従って使用されるタンパク質含口腔ケア組成物は、典型的には、練り歯磨き、スプレー、マウスウォッシュ、ジェル、ロゼンジ、チューインガム、タブレット、パステル、インスタント粉末、経口ストリップおよび頬パッチの形態に製剤化する。
【0025】
本発明に従って使用されるタンパク質含有組成物は、適切な相対量の当該成分を都合のよい任意の順序で混合させ、必要に応じて、所望の値(例えば、pH5.5〜9.0、適切には、pH6.5〜7.5)をもたらすようにpHを調節することによって、調製することができる。
【0026】
本発明の別の態様において、後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗を防除する方法が提供され、ここで、該方法は、防除を必要とする個体に上記で定義されている口腔ケア組成物の有効量を適用することを含む。
【0027】
以下の非限定的な実施例を通して、本発明について例証する。
【実施例】
【0028】
実施例1.カゼインを含む組成物の前処理の効果についての例証
材料および方法
ヒドロキシアパタイトの溶解の測定
50mLの水ジャケットで覆われた反応容器を備えた自動滴定システム(Metrohm, Buckingham, UK)を、50mmol/LのHClを添加することによって一定のpHが維持されるように設定した。反応温度は36℃であった。歯エナメル質の類似物としてヒドロキシアパタイトを使用した(Barbour and Rees (2004) J. Dentistry 32: 591-602)。粘着性のワックスを用いてヒドロキシアパタイト(HA)のディスク(Hitemco Medical Applications, Old Bethpage, USA)[直径12.05mm×厚さ1.25mm]をガラス棒に固定し、そのディスクの下面をマニキュア液でコーティングして各ディスクについて155.5mm2の一定の曝露領域を与えた。該反応容器の蓋の入り口に合い且つ撹拌機に関して再現性のある位置に試験片を保持している管に、前記ディスクを担持しているガラス棒を固定した。各溶解測定に関して、15mLの試験溶液を上記反応容器内に入れ、磁気撹拌機で撹拌した。温度およびpHが平衡に達したとき、前記HAディスクを該溶液の中に浸すことによって反応を開始させた。酸の添加は、時間の経過とともに直線的であり、酸の添加速度をHA溶解の尺度として用いた。
【0029】
新しいディスクを撹拌下にある対照クエン酸溶液に30分間さらして緩く付着しているかまたはさらに溶けやすい物質を除去することによって、その新しいディスクをコンディショニングした。全ての測定に関して、対照ランおよび試験ランを実施した。対照クエン酸溶液中におけるHAディスクの溶解速度を最初に測定し、次いで、試験溶液中における同じHAディスクの溶解速度を測定した。かくして、測定毎にそれに特有の対照を用いた。各試験溶液は、3回試験した。ディスクをタンパク質試験溶液にさらした後、それを廃棄した。
【0030】
酸による侵食に対する当該タンパク質の作用の持続性を評価するために、順次的な測定を行った。ディスクをコンディショニングした後、対照クエン酸溶液中における30分間の対照ランを3回実施して、平均ベースライン測定値を得た。その後、0.10%(w/v)カゼイン(pH6.5)を用いて、2分間のランを1回実施した。次いで、そのディスクを洗浄した後、溶解速度がベースラインレベルに達するまで、対照酸溶液(pH3.2)中での30分間のランを順次実施した。作用の持続性についての各実験は、0.10%(w/v)のタンパク質を用いて少なくとも3回実施したが、ここで、各々は別々のHAディスク上でのランであった。
【0031】
結果
図1.0.10%(w/v)カゼインにさらす前及びさらした後の240分間にわたる、ヒドロキシアパタイトの0.3%(w/v)クエン酸、pH3.2への溶解
【表1】

【0032】
表1.0.10%(w/v)カゼインにさらす前及びさらした後の240分間にわたる、ヒドロキシアパタイトの0.3%(w/v)クエン酸、pH3.2への溶解(括弧内標準偏差)
【表2】

【0033】
要約
実施例1は、前処理の効果を示しており、ここで、試験片をクエン酸の中に2.5時間連続して浸した後でさえ、酸による損傷に対するカゼインの抑制効果は明らかである。
【0034】
実施例2.典型的な歯磨剤製剤 − 2.0%(w/v)タンパク質
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗を防除するための口腔ケア組成物の製造における、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質またはそれらの混合物の使用。
【請求項2】
前記タンパク質が0.001%(w/v)〜10.0%(w/v)の量で存在している、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記口腔ケア組成物がさらにフッ化物イオン源も含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗を防除する、カゼイン、オボアルブミン、乳漿タンパク質および大豆タンパク質のうちの1種以上から選択されるタンパク質を含む、口腔ケア組成物。
【請求項5】
前記タンパク質が0.001%(w/v)〜10.0%(w/v)の量で存在している、請求項4に記載の口腔ケア組成物。
【請求項6】
さらにフッ化物イオン源も含む、請求項4または5に記載の口腔ケア組成物。
【請求項7】
後に酸にさらされることによって引き起こされる歯牙侵食および/または歯牙摩耗を防除する方法であって、防除を必要とする個体に請求項1〜6のいずれか1項で定義されている口腔ケア組成物の有効量を適用することを含む、上記方法。

【公表番号】特表2011−504910(P2011−504910A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535375(P2010−535375)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066314
【国際公開番号】WO2009/068602
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】