説明

カルボン酸金属塩を含むエチレンビニルアルコール組成物

組成物、前記組成物を含むかまたは前記組成物から製造される物品、およびエチレンビニルアルコールコポリマーのゲル形成を減少させるための方法を開示する。前記組成物は、エチレンビニルアルコールコポリマーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンビニルアルコールコポリマーおよびカルボン酸金属塩を含む組成物、その組成物を含む物品類ならびにその組成物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)は、優れた酸素バリヤー性、耐油性、制電性および機械的強度を有する有用なポリマー材料であり、また様々な包装材料および梱包材料たとえばフィルム類、シート類、容器等々に広く使用される。多くの場合、EVOHは、多層構造物中の一層として使用される。たとえば、ポリオレフィン樹脂などの基材と一緒にEVOHを共押出して、EVOH層および基材樹脂層が、それらの間の接着剤層によって互いに接着されている多層構造物を供給することが可能である。したがって、こうした構造では、EVOHは高い層間接着力を有することが必要である。
【0003】
EVOHは、前駆体ポリマー、たとえばエチレン酢酸ビニル等から、製造することが可能である。EVOHの溶融粘度は通常、特に高温で処理した時、一般に時間と共に増大する。粘度の増大は、溶融したEVOHのゲル化または凝固を引き起こす可能性がある。このような挙動は、加工装置の金属表面が、処理しにくい、変色した、劣化ポリマーのワニス様層でコーティングされるようになり、そのため押出機スクリューに必要なトルクが徐々に増大し、そして剥離するとき、押出製品にゲル粒子が散在的に出現するという結果を招く可能性がある。したがって、ゲル粒子がなく、かつこのような粘度上昇を示さないEVOHを得ることが望ましく、また高温に加熱されたとき粘度の減少(粘度低下)を示すことはさらに望ましいであろう。
【0004】
米国特許第4753760号明細書は、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、ビス−脂肪酸アミド、脂肪酸の金属塩およびポリオレフィンよりなる群から選択されるメンバーである潤滑剤を含むメタノールまたは水−メタノール溶液を押出すことにより、加水分解されたエチレン−酢酸ビニルコポリマーのペレットを調製する方法を開示している。特開昭64−69653号公報、米国特許第5118743号明細書、米国特許第5360670号明細書、特開昭62−143954号公報、米国特許第5118743号明細書、米国特許第5360670明細書も参照されたい。
【0005】
米国特許第6432552号明細書は、粘度およびトルク変化比を特徴とするEVOHペレットを開示しており、そのペレットは、EVOHペレットを基準にして30〜300ppmの量で上記EVOHペレットの表面に付着する、12〜18個の炭素原子を有する高級脂肪酸アルカリ土類塩を含む。
【0006】
米国特許第5032632号明細書は、脂肪族カルボン酸の一価金属塩または二価金属塩およびヒンダードフェノール系酸化防止剤を含むEVOH組成物を開示している。米国特許第6232382号明細書は、酢酸および酢酸マグネシウムまたは酢酸カルシウムを含み、ホウ素化合物および/または酢酸ナトリウムを含んでもよいEVOH組成物を、粘度低下挙動およびゲル形成率低下を示す例を挙げて、開示している。米国特許第4613644号明細書(特開昭60−199040号公報に相当)は、熱可塑性樹脂、EVOHコポリマーおよびI〜III族から選択される少なくとも1つの元素を含む低分子量塩または酸化物からなる樹脂組成物を開示しており、斑点のない成形品を提供する。米国特許第7064158号明細書は、高級脂肪族カルボン酸の遷移金属塩または金属塩を含むEVOH組成物を開示している。米国特許出願公開第2005/0096419号明細書はまた、ゲル形成しにくい、カルボン酸を含むアルカリ塩類またはアルカリ土類塩類とリン酸塩類とのEVOH組成物を開示している。これらの参考文献の中で、EVOH樹脂中に既に存在するゲルを減らす実現性を開示しているものは皆無である。
【0007】
EVOHはまた、特に非極性ポリマーに対して、接着力が乏しいことも知られており、このような接着力を改良する努力としては、高級脂肪酸の金属塩類、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩類、金属硫酸塩類および金属ケイ酸塩類を、少なくとも1つの層に組み入れることなどが挙げられる(たとえば、特開昭54−87783号公報)(積層構造物に対して)。米国特許第6485842号明細書および米国特許第6485842号明細書も参照されたい。
【0008】
米国特許第6964990号明細書は、特定のタイプのカルボン酸および特定量のある種のアルカリ土類金属塩類およびアルカリ金属塩類を含むEVOH、安定性のためのリン酸塩の使用、ならびに任意のリン酸塩を使用できることを、開示している。
【0009】
しかし、本質的に接着力が劣るEVOHを用いる場合、ゲル形成を回避するために必要な目標とする粘度低下に要するカルボン酸カルシウムレベルは、EVOHの接着力をさらに弱くする。さらに、密着性に必要なアルカリ塩は、過剰な粘度低下を引き起こす可能性がある。最後に、EVOH組成物中に既に存在するゲルを除去する方法が必要である。したがって、ゲルがなく、従前のEVOH樹脂に匹敵するゲル形成を有するEVOHの接着力を改善することが望ましい。さらに、添加物の意外な結果またはある一定のタイプのリン酸塩(およびEVOHと共に使用される他の特定の化学薬品)が総体的熱安定性に与える負の効果を、本願明細書に開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
組成物は、コポリマーの重量を基準にして約20〜約50%のエチレン由来反復単位;
組成物中に存在するアルカリ金属イオン類の総計が、組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、約1マイクロ当量/g〜約15マイクロ当量/g、約1マイクロ当量/g〜約12マイクロ当量/g、約2マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/g、約3マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/g、約5マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/g、または約6.5マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/gである、少なくとも1つのアルカリ金属塩;
組成物中に存在するアルカリ土類金属イオン類の総計が、組成物1グラム当たりのアルカリ土類金属イオンマイクロ当量に基づいて、約0.1マイクロ当量/g〜約5マイクロ当量/g、0.2マイクロ当量/g〜約4マイクロ当量/g、0.35マイクロ当量/g〜約3マイクロ当量/g、または0.5マイクロ当量/g〜約2.5マイクロ当量/gである、少なくとも1つアルカリ土類金属塩;および
上記組成物中に存在する3〜18個の炭素原子を有する総カルボキシレート部分が、上記組成物1グラム当たりのカルボキシレートマイクロ当量に基づいて、約0.5〜約7マイクロ当量/gである、3〜18個の炭素原子を有する少なくとも1つのカルボキシレート部分;
を含むエチレンビニルアルコールコポリマーを含む、から本質的になる、からなるまたは製造される。
【0011】
物品は、フィルム、シート、チューブ、ボトル、容器、パイプ、繊維、トレー、またはカップの形状であってもよい単層または多層構造物を含む、上述の組成物を含む。
【0012】
上述のエチレンビニルアルコールコポリマー組成物を調製する方法は、コポリマーの重量を基準にして約20〜約50%のエチレン由来反復単位を含むエチレンビニルアルコールコポリマーを含む第1の組成物を、少なくとも1つのアルカリ金属塩;少なくとも1つのアルカリ土類金属塩;3〜18個の炭素原子を有する少なくとも1つのカルボキシレート部分;および場合によりコポリマーの重量を基準にして、約20〜約50%のエチレン由来反復単位を含むエチレンビニルアルコールコポリマー;を含む組み合わせと接触させることを含み、その組み合わせ中の少なくとも1つのアルカリ土類金属塩に対する少なくとも1つのアルカリ金属塩の比率は、約2〜約20当量であり、少なくとも1つのアルカリ土類金属塩に対する少なくとも1つのカルボキシレート部分の比率は、約1〜約15当量である。
【0013】
濃縮物として使用することが可能な組成物は、コポリマーの重量を基準にして、約20〜約50%のエチレン由来反復単位;少なくとも1つのアルカリ金属塩;少なくとも1つのアルカリ土類金属塩;および3〜18個の炭素原子を有する少なくとも1つのカルボキシレート部分;を含むエチレンビニルアルコールコポリマーを含み、少なくとも1つのアルカリ土類金属塩に対する少なくとも1つのアルカリ金属塩の比率は約2〜約20当量であり、少なくとも1つのアルカリ土類金属塩に対する少なくとも1つのカルボキシレート部分の比率は約1〜約15当量であり、また上記組成物中に存在するアルカリ土類金属イオン類の総計は、組成物1グラム当たりのアルカリ土類金属イオンのマイクロ当量に基づいて、約0.5〜約250マイクロ当量/gである。
【0014】
修飾されたエチレンビニルアルコールコポリマー組成物を調製する方法は、コポリマーの重量を基準にして約20〜約50%のエチレン由来反復単位を含むエチレンビニルアルコールコポリマーを含む第1の組成物を、3〜18個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルカリ土類金属カルボン酸塩;場合により、少なくとも1つのアルカリ金属塩;および場合により、コポリマーの重量を基準にして約20〜約50%のエチレン由来反復単位を含むエチレンビニルアルコールコポリマー;を含む組み合わせと溶融混合して、修飾されたエチレンビニルアルコールコポリマー組成物を提供することを含み、存在する3〜18個の炭素原子を有する総カルボキシレート部分は、組成物1グラム当たりのカルボン酸塩のマイクロ当量に基づいて、約0.5〜約10マイクロ当量/gであり;修飾されたエチレンビニルアルコールコポリマー組成物は、第1の組成物に比してゲルが少ない。
【0015】
EVOH組成物の粘度を制御するための方法は、EVOH組成物の酸度またはアルカリ度を調整することを含む。
【0016】
アルカリ金属とアルカリ土類金属カルボン酸塩添加物の混合物は、EVOHに改良された特性を提供する。たとえば、カルボン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩類と、カルボン酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩との組み合わせを使用することにより、所望の粘度低下挙動の実現を可能にし、EVOHの改良された接着力を従来のEVOH樹脂にもたらす。
【0017】
粘度低下の量は、所与の温度で所与の時間加工した後のEVOH組成物の粘度を、より短時間における粘度と比較することによって特徴づけられる。たとえば、250℃で混合した約60分後に測定される粘度を、250℃で混合した約30分後に測定される粘度と比較してもよい(粘度比)。1より大きい粘度比は、粘度上昇を示し;1未満は粘度低下を示す。上記比率が1より大きいとき、その試料は架橋して、目に見えるゲル粒子または斑点を最終的に生じさせる。ゲル粒子は、審美的理由から、EVOHのフィルム用途に好ましくない。ゲルはまた、EVOH層に小さい穴を形成するため、酸素バリヤー価値も損なう可能性がある。上記比率が1.0未満であるとき、試料はEVOH分子の鎖が切断される可能性があり、長期間にわたってEVOHをフィルムに溶融加工する間のゲル形成を最小限に抑えて、目に見えるゲル粒子数を減少させるのに役立つ可能性がある。
【0018】
2を大きく上回る粘度比は、長期間にわたってEVOH中にゲルが漸進的に生成する可能性を示すため、好ましくないであろう。このような状況は、何週間も続く企業規模の押出運転で起こり、そこでは、ゲルが押出機の壁上に発生して最終的に押出製品中に剥がれ落ちることもある。たとえば0.1未満という低い比率は、押出速度が変化するとEVOHの溶融粘度が変化するため、やはり好ましくない。たとえば製造速度が低い場合、一般に溶融物の滞留時間が長くなり、それによってより低粘度のEVOHがダイに送出され、押出物品の寸法が変化するという結果を招く。
【発明を実施するための形態】
【0019】
EVOHシートの押出に使用される温度は、約200℃から300℃まで様々であってもよい。アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩類の組み合わせに起因するEVOHの分子量の低下率は、溶融温度に比例する。たとえば、250℃で加工される組成物は、粘度低下率が高いが、220℃における粘度低下は無視できる。この変動およびEVOHの滞留時間の変動は、許容できる粘度低下の範囲が高いことを意味する。
【0020】
本組成物は、このような条件で、0.1〜2;0.3〜1.1;または0.8〜1の範囲の粘度比またはトルク比を有することが可能である。望ましい粘度比(上述の通り測定するとき)は、0.3〜1.2、0.5〜1.0、または0.7〜0.95、たとえば、0.8〜0.95または0.85〜0.95等であってもよい。
【0021】
いかなる理論にも拘束されることなく、カルボン酸塩類は、EVOHの融点以上に加熱されるとき、EVOHの鎖の切断を引き起こす可能性がある。鎖の切断の速度およおび程度は、カルボン酸アニオンの量が増すにつれて増大すると思われる。アルカリ度上昇等の因子は、カルボン酸水素分子のカルボン酸アニオン類へのル・シャトリエシフトによる開裂をさらに加速する。同様に、高い酸性度は、カルボキシレートのアニオンを酸にシフトすることによって、鎖の切断を減速しかつ/または架橋速度を高め、そのことが溶融粘度の低下を減速する。所望の粘度挙動および低ゲル形成に必要な添加物の量は、EVOHの総体的酸−塩基性によって異なるであろう。粘度挙動、ゲル形成および接着力もまた、EVOH組成物中に存在する塩類の総体的レベルおよびタイプに影響されるであろう。
【0022】
EVOHポリマー類は概して、約15〜約60モル%または約20〜約50モル%、たとえば28、32、38、44または48モル%、または約28〜約48モル%のエチレン含量である。市販のEVOHの密度は一般に、約1.12g/cm3〜約1.20g/cm3の範囲であり、ポリマー類は、約142℃〜191℃の範囲の溶融温度を有する。重合度および反復単位の分子量から算出したEVOH成分の重量平均分子量Mwは、約5,000〜約300,000ダルトンの範囲内、または約60,000ダルトンであろう。
【0023】
EVOHコポリマー類は、共重合可能成分として、コモノマー類を含んでもよい。コモノマー類の例は、たとえば、プロピレン、イソブテン、α−オクテン、α−ドデセンおよびα−オクタデセン等のα−オレフィン類、不飽和カルボン酸類、塩類、部分的にまたは完全にアルキル化されたエステル類、ニトリル類、アミド類、無水物類、不飽和スルホン酸類、それらの塩類等々である。コモノマーは、存在するとき、0.1〜10%、または0.5〜5モル%、存在してもよい。
【0024】
EVOHコポリマー類は、周知の技術で調製することもでき、あるいは商業的供給源から入手することもできる。EVOHコポリマー類は、エチレン酢酸ビニルコポリマー類を鹸化または加水分解することにより調製することが可能である。したがって、EVOHはまた、加水分解されたエチレン酢酸ビニル(HEVA)コポリマーとしても知られているであろう。加水分解の程度は、好ましくは約50〜100モルパーセント、より好ましくは約85〜100モル%、たとえば95%である。あるいは、EVOHコポリマー類は、メタノール中で、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類を、たとえばナトリウムメトキシドまたは水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒で処理し、それらを中和することによって調製することも可能である。この方法は、エステル交換反応を引き起こす。エチレンビニルアルコールポリマーへの、所望の高い変換度が達成されたとき、僅かに過剰の酸、たとえば酢酸等を加えて触媒を中和し、その反応溶液を水または稀アルコール−水溶液と混合または接触させることによって、EVOHを沈殿させる。結果として生じる多孔質粒子を、スラリーから濾過し、乾燥前の最後の洗浄ステップで、ある種の稀酸水溶液でpH4〜5に酸性化した水で洗浄することにより、アルコールおよび塩副生成物(たとえば酢酸ナトリウム)を除去する。この合成経路の変法は、当業者に周知である。処理条件によって、様々な少量の塩類、たとえば酢酸ナトリウム等が、EVOH組成物中に結果として存在する可能性がある。
【0025】
好適なEVOHポリマー類は、Eval America(Houston,TX)、日本合成化学工業株式会社(Nippon Synthetic Chemical Industry Co.,Ltd)(日本)、または日本の株式会社クラレ(Kuraray Company)から、EVALという商標名で得ることが可能である。EVOHはまた、SOARNOLという商標名で、Noltex L.L.Cからも入手できる。このようなEVOH樹脂の例としては、米国のEval Companyまたは日本の株式会社クラレから得られるEVALまたはEVAL SPという商標名で販売されているものなどがある。このようなEVOH樹脂の例としては、EVAL F101、EVAL F171、EVAL E105、EVAL J102、およびEVAL SP 521、EVAL SP 292およびEVAL SP 482などがある。その他のEVOH樹脂としては、SOARNOL DT2903、SOARNOL DC3203およびSOARNOL ET3803などがある。
【0026】
イオン類を含むアルカリ金属塩類としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩および/またはセシウム塩類などがある。本組成物で使用されるアルカリ金属塩は、NaCl等のアルカリ金属ハロゲン化物、たとえばリン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸水素二カリウム等のアルカリ金属リン酸化合物、たとえばホウ酸のアルカリ金属塩類、ホウ砂、水素化ホウ素ナトリウム等々のアルカリ金属−ホウ素化合物などを包含するであろう。アルカリ金属塩の例としては、酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウムなども挙げられる。
【0027】
例として、メタケイ酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)カルシウム二ナトリウム、硫酸化ヒマシ油のナトリウム塩、ココナツオイル、脂肪酸類、脂肪酸類のナトリウム塩類、EDTA二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、モノグリセリンおよびジグリセリンの誘導体、リン酸リボフラビンナトリウム、硫酸ナトリウム2−エチルヘキシル、アルギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、二酢酸ナトリウム、ジステアリルリン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、乳酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、カプリン酸リチウム、ヨウ化リチウム、ネオデカン酸リチウム、パルミチン酸リチウム、ステアリン酸リチウム、リン酸水素カリウムアンモニウム、ヒマシ油カリ石鹸、クエン酸二カリウム、EDTA二カリウム、EDTAカリウム、EDTA四カリウム、クエン酸一カリウム、硫酸化オレイン酸カリウム塩、酸性酒石酸カリウム、アルギン酸カリウム、安息香酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、水酸化カリウム、次亜リン酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ化カリウム、乳酸カリウム、過硫酸カリウム、リン酸三カリウム、プロピオン酸カリウム、リシノール酸カリウム、硫酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、およびクエン酸三カリウムも挙げられる。
【0028】
アルカリ土類金属塩類は、金属イオン類が、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、および/またはバリウム塩を含む、アルカリ土類金属イオン類を含むものである。本組成物で使用されるアルカリ土類金属塩は、CaCl2等のハロゲン化物、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、およびリン酸三カルシウム等のアルカリ土類金属リン酸化合物を含んでもよい。例として、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ヨウ素酸カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸三マグネシウム、EDTAカルシウム二ナトリウム、およびEDTAカルシウムも挙げられる。
【0029】
好ましくは、このアルカリ土類金属塩類は、マグネシウムカルボン酸塩またはカルシウムカルボン酸塩を含む、アルカリ土類金属カルボン酸塩として、特に、3〜18個の炭素原子を有するカルボン酸塩として組成物に加えられ、カルシウムカルボン酸塩類がより好ましい。例としては、2−エチルヘキサン酸カルシウム、酢酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、カプリン酸カルシウム、カプリル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、イソデカン酸カルシウム、イソステアリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、ナフテン酸カルシウム、ネオデカンン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム亜鉛、植物性脂肪酸のカルシウム塩またはマグネシウム塩、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、カプリン酸マグネシウム、カプリル酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム、イソデカン酸マグネシウム、ラウリル硫酸マグネシウム、リノール酸マグネシウム、ナフテン酸マグネシウム、ネオデカン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、リシノール酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ロジンのカルシウム亜鉛塩、および大豆油脂肪酸類のマグネシウム塩類等が挙げられる。
【0030】
EVOHの添加物として使用されるカルボン酸塩類は、3〜18個の炭素原子を有する有機酸から調製される。これらは、好ましくは一塩基性(各分子中に1つのカルボン酸部分)であるが、たとえば酒石酸、フマル酸、クエン酸、アコニチン酸およびアジピン酸等のジカルボン酸類を含む、多塩基性酸も使用することが可能である。
【0031】
脂肪族有機酸の例としては、C2〜C24またはC3〜C18(たとえばC3~9、C4~18、またはC6~9)酸類が挙げられる。この酸類は、最長の炭素鎖上で、C1〜Cアルキルまたはヒドロキシよりなる群から独立に選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい。こうした有機酸類の例としては、プロピオン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、またはそれらの2つ以上の組み合わせなどが挙げられるが、その限りではない。飽和有機酸類、たとえばステアリン酸およびカプリル酸等が好ましいであろう。芳香族酸類、たとえば安息香酸およびナフタン酸も使用することが可能である。
【0032】
有機酸類は、指定された有機酸と、様々なより少量の、構造的に異なる多数の有機酸類の混合物として、商業的に入手することが可能である。組成物が指定された酸またはその塩を含むとき、その他の指定されていない酸類は、指定された酸または塩の商業的供給品中に存在すると従来知られているレベルで存在してもよい。
【0033】
こうした有機酸類のいずれかの塩類としては、金属イオン類が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩および/またはセシウム塩を含む、アルカリ金属イオン類を包含する、アルカリ金属塩類(すなわち、アルカリ金属カルボン酸塩類)などが挙げられる。好ましいアルカリ金属カルボン酸塩類としては、リチウムカルボン酸塩、ナトリウムカルボン酸塩またはカリウムカルボン酸塩などが挙げられる。
【0034】
アルカリ土類金属カルボン酸塩類としては、マグネシウムカルボン酸塩またはカルシウムカルボン酸塩などがあり、カルシウムカルボン酸塩類がより好ましい。例として、カプリル酸カルシウムおよびステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0035】
この組成物は、当業者に周知の任意の方法で、たとえば、さらなる溶融混合または乾式ブレンド/混合、押出、共押出のための樹脂ペレットの表面コーティングで、成分をブレンドすることにより調製して、組成物を製造することが可能である。本組成物は、ペレットブレンド、乾燥ブレンド、添加物成分の一部または全部で表面被覆されたペレットまたは溶融押出ブレンドであってもよい。本組成物は、加熱と混合(溶融混合または溶融ブレンド)の併用で調製することが可能である。たとえば、一軸スクリュー押出機または二軸スクリュー押出機等のメルトミキサー、ブレンダー、バスニーダー(Buss Kneader(Coperion SA,スイス))、二重らせんアトランティックミキサー(double helix Atlantic mixer)、バンバリーミキサー(Banbury mixer)、ロールミキサー等々を使用して、実質的に分散するかまたは均質になるまで成分材料を混合して、樹脂組成物を提供することが可能である。あるいは、成分材料の一部をメルトミキサー内で混合し、その成分材料の残りを続いて加え、実質的に分散するかまたは均質になるまでさらに溶融混合する。本添加物を樹脂上に表面被覆し、それによって次に、ペレットを最終製品に変えるために使用される溶融加工中に、樹脂に混ぜ込むことが可能である。
【0036】
たとえば、ハーケ(Haake)ミキサー等のバッチ混合装置、連続二軸スクリュー押出機または一軸スクリュー押出機等々の中で、成分を溶融混合することにより、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩の組み合わせを、EVOHベース樹脂に加えることが可能である。
【0037】
あるいは、EVOHコポリマー組成物中のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩の濃縮物を調製することが可能であり、またその濃縮物をさらなるEVOHコポリマーに加えて、最終組成物を調製することが可能である。
【0038】
アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩の量が、最終EVOH組成物中で望ましい量の2〜100倍(たとえば5倍、10倍、20倍、または50倍)である濃縮物を調製することが可能である。好ましい濃縮物は、最終EVOH組成物で望ましい量の20〜50倍を含んでもよい。
【0039】
EVOH開裂の速度および程度は、塩類の総当量の増加と共に、特にカルボン酸塩の増加と共に、増大する。たとえば、エチレン含量32%の未修飾EVOH試料は、上述の試験条件250℃で、約3という粘度比を有する;12マイクロ当量のカルシウムカルボキシレートを含む同じEVOHは、粘度比0.65を有し;また12マイクロ当量のカルシウムカルボキシレートおよび4.4マイクロ当量の酢酸ナトリウムをさらに含むEVOHは、ほぼ0という粘度比を有する。別の未修飾EVOHは、約2という粘度比を有し;12マイクロ当量の酢酸ナトリウムを含む同じEVOHは、0.40という粘度比を有する。
【0040】
高濃度の添加物を有する濃縮物が250℃で調製されると、EVOH分子量が減少して、望ましくない大幅の粘度低下につながるであろう。その開裂は、ペレット化したストランドではあり得ない濃縮物の溶融物を生じる可能性があり、かつ/またはその濃縮物が添加されるEVOH樹脂の靭性不足を招く。過剰なEVOH分子量低下を避けるために、上述の通り添加物の濃縮物を含む最終組成物の加工に使用されるであろう温度より低温で濃縮物を調製することが可能である。約220℃以下の温度を使用して製造される濃縮物は、満足な性能を提供することが可能である。
【0041】
重合および加水分解工程で、EVOHを含むメタノール溶媒にアルカリ土類金属カルボン酸塩類を添加してもよい。濃厚な液体を水中に押出してEVOHを硬化し、溶媒を除去してもよい。アルカリ土類金属カルボン酸塩は、この操作の間にEVOH固体に吸着されるであろう。結果として得られる修飾されたEVOHを切断して水で洗浄してもよい。
【0042】
あるいは、重合工程の最終ステップで、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩の組み合わせをEVOHペレット上にスプレーしてもよい。場合によっては、この組み合わせの成分の1つまたは複数を、EVOH中に混合し、残りの成分をペレット上にスプレーしてもよい。たとえば、本EVOH樹脂がアルカリ金属塩を含み、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩をペレット上にスプレーしてもよい。アルカリ金属塩を樹脂に添加してもよく、またはエチレン酢酸ビニル前駆体の鹸化またはエステル交換の後、加工条件の結果としてアルカリ金属塩が樹脂中に存在してもよい。ステアリン酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩で、ペレットを被覆することが有利な場合もある。樹脂ペレットの通常の最終乾燥ステップの間に、塗布された被膜を乾燥させてもよい。
【0043】
押出機から出てくるEVOHペレットをアルカリ土類金属カルボン酸塩で被覆することにより、ペレットの外側にアルカリ土類金属カルボン酸塩のついたペレットを生じる。重合装置から出てくるEVOHペレットをアルカリ土類金属カルボン酸塩で被覆し、次いでそれらのペレットを再押出することは、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属塩類とともにアルカリ土類金属カルボン酸塩がペレットの内側に組み込まれる、ペレットの調製方法である。いずれにしても、ペレットを再押出して、本願明細書に記載の調整剤組み合わせによって所望の粘度挙動とEVOHへの接着力を兼備する完成品に加工することができる。
【0044】
容認しがたいほど高いゲル含量を含むEVOH樹脂を、EVOHコポリマー組成物中のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびカルボン酸塩とブレンドして、ゲル含量の減少が、単に高ゲル含量EVOHを低ゲル含量濃縮物で希釈したことに起因する場合に予測されるであろうものより少ないゲル含量を有する、最終的な修飾されたEVOH組成物を提供することが可能である。所望のゲル含量は、厚さ1.5〜2.5ミルのフィルム50平方フィート当たり約2000ゲル未満、1000ゲル未満、または250ゲル未満であろう。望ましいゲル数は、800μmより大きいものについては、50平方フィート当たり20ゲル未満、15ゲル未満、10ゲル未満、または5ゲル未満であろう。
【0045】
必要に応じて、本EVOH組成物を、各々異なる重合度、異なるエチレン含量および/または異なる鹸化を有する様々な種類のEVOHとブレンドしてもよい。やはり必要に応じて、様々な可塑剤、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、着色剤、紫外線吸収剤、スリップ剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、金属塩類、フィラー類、様々な繊維類等の補強材等々の適量を、本樹脂組成物に添加してもよい。
【0046】
必要に応じて、何か他の熱可塑性樹脂の適量を、本樹脂組成物に添加してもよい。本組成物に添加することが可能な他の熱可塑性樹脂としては、たとえば、様々な種類のポリオレフィン類(たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン−プロピレンコポリマー類、エチレンと、少なくとも4個の炭素原子を有するα−オレフィン類とのコポリマー類、ポリオレフィン−無水マレイン酸コポリマー類、エチレン−ビニルエステルコポリマー類、エチレン−アクリレートコポリマー類、ならびにこのようなポリマー類およびコポリマー類を不飽和カルボン酸類またはそれらの誘導体でグラフト修飾することによって調製された修飾されたポリオレフィン類、等々)、様々な種類のナイロン類(たとえば、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6/6,6コポリマー類、等々)、およびポリ塩化ビニル類、ポリ塩化ビニリデン類、ポリエステル類、ポリスチレン類、ポリアクリロニトリル類、ポリカーボネート類、ポリアセタール類、修飾されたポリビニルアルコール樹脂類、等々も挙げられる。
【0047】
本組成物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤を含んでもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、OH基に対してオルトに位置する立体的に嵩張る置換基のついたフェノール基を特徴とする、1つまたは複数の酸化防止剤類であってもよい。このような酸化防止剤は周知であり、また様々な商標名で販売されている。好適な酸化防止剤としては、4,4’−チオ−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロケイヒ酸)メタン、オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロケイヒ酸、N,N’−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナムアミド)、N,N’−トリメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナムアミド)、カルシウムビス(モノエチル(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホン酸)、1,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジン、ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロケイヒ酸)、およびそれらの2つ以上の組み合わせよりなる群から選択される、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
【0048】
本EVOH組成物は、フィルム類、シート類、容器類、パイプ類、繊維類、等々の様々な成形品に形成することが可能である。本成形品は、すりつぶして再成形することにより、リサイクルすることが可能である。本組成物のフィルム類、シート類および繊維類は、一軸延伸または二軸延伸が可能である。本組成物は、押出、膨張押出、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形、等々により、こうした物品に加工することが可能である。成形される樹脂組成物が溶融する温度は、組成物中のEVOHの融点に応じて異なるが、好ましくは、150〜270℃位である。
【0049】
本EVOH組成物は、本組成物のみの単層成形品に成形されることもあり、あるいは本組成物の層がフィルム、シート等々の任意の形状であってもよい、少なくとも1層の本組成物を含む多層構造物に形成されることもある。本多層構造物は、EVOH組成物の層、EVOH組成物以外の熱可塑性樹脂の層およびそれらの間に接着剤層を含んでもよい。
【0050】
多層構造物の層構成は、たとえば、E/Adh/T、T/Adh/E/Adh/T、等々を含み、ここでEはEVOH組成物を示し、Adhは接着剤樹脂を示し、またTは熱可塑性樹脂を示す。しかし、これらに限定されるものではない。本多層構造物において、各層は、一層であってもよく、または場合によって、多層であってもよい。
【0051】
上記のような多層構造物を製造する任意の方法を使用することが可能である。例としては、本EVOH組成物の成形品(たとえば、フィルム、シート、等々)の上に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法;本EVOH組成物を、何か他の熱可塑性樹脂等々と一緒に共押出する方法;EVOH組成物を、何か他の熱可塑性樹脂と一緒に共射出する方法;本EVOH組成物の成形品のフィルムまたはシートおよび何か他の基材を、たとえば、有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル化合物等々の、既知の接着剤をそれらの間に用いて、積層する方法などが挙げられる。これらの中で、本EVOH組成物を何か他の熱可塑性樹脂と一緒に共押出する方法が好ましい。
【0052】
本EVOH組成物と積層するかまたは共押出することが可能な熱可塑性樹脂としては、たとえば、オレフィン類のホモポリマー類またはコポリマー類、たとえば直鎖低密度ポリエチレン類、低密度ポリエチレン類、中密度ポリエチレン類、高密度ポリエチレン類、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類、エチレン−アクリル酸アルキルコポリマー類、エチレン−プロピレンコポリマー類、ポリプロピレン類、プロピレン−α−オレフィンコポリマー類(α−オレフィンは、4〜20個の炭素原子を有する)、ポリブテン類、ポリペンテン類等々;ポリエステル類、たとえばポリエチレンテレフタレート類等々;ポリエステルエラストマー類;ポリアミド樹脂、たとえばナイロン−6、ナイロン−6,6等々;ならびにポリスチレン類、ポリ塩化ビニル類、ポリ塩化ビニリデン類、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタンエラストマー類、ポリカーボネート、クロロポリエチレン類、クロロポリプロピレン類等々がある。これらの中で、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、エチレン−プロピレンコポリマー類、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類、ポリアミド類、ポリスチレン類、およびポリエステル類が好ましい。
【0053】
本EVOH組成物が別の熱可塑性樹脂に容易に付着するために、多層構造物は、接着剤または「タイ(tie)」層を含んでもよい。たとえば、接着剤樹脂は好ましくは、カルボン酸修飾されたポリオレフィンを含む。カルボン酸修飾されたポリオレフィンは、エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物を、たとえば、付加反応またはグラフト反応によって、オレフィン系ポリマーに化学的に結合させることにより調製することが可能である。オレフィン系ポリマーとしては、たとえば、ポリオレフィン類、たとえばポリエチレン類(低圧方法、中圧方法または高圧方法で製造される)、直鎖低密度ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ポリブテン類等々;オレフィン類と、オレフィンと共重合することができるコモノマー類(たとえば、ビニルエステル類、不飽和カルボキシレート類等々)とのコポリマー類、たとえばエチレン−酢酸ビニルコポリマー類、エチレン−エチルアクリレートコポリマー類、等々がある。これらの中で、直鎖低密度ポリエチレン類、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類(酢酸ビニル含量5〜55重量%)、およびエチレン−エチルアクリレートコポリマー類(エチルアクリレート含量8〜35重量%)が好ましく;直鎖−低密度ポリエチレン類およびエチレン−酢酸ビニルコポリマー類がより好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸およびその無水物としては、たとえば、エチレン性不飽和モノカルボン酸類およびそれらのエステル類、エチレン性不飽和ジカルボン酸類およびそれらのモノエステル類またはジエステル類および無水物などがある。これらの中で、エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物、たとえばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸モノメチル等々が好ましい。無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルおよびマレイン酸モノエチル修飾されたポリオレフィン類が最も好ましい。このようなポリマー類は、BYNELという商標名で、E.I.du Pont de Nemours and Company(DuPont)から市販されている。
【0054】
オレフィン系ポリマーに添加またはグラフト化されるエチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物の量(すなわち、ポリマーの修飾度)は、オレフィン系ポリマーの0.0001〜15重量%、または0.001〜10重量%になるであろう。オレフィン系ポリマーへの、エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物の付加反応またはグラフト反応は、たとえば、触媒(たとえば、過酸化物、等々)の存在下、溶媒(たとえば、キシレン、等々)中で、ラジカル重合により、達成することが可能である。
【0055】
あるいは、接着剤層は、高圧フリーラジカル重合方法で得られる、たとえばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸モノメチル等々の、エチレンおよびエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物のコポリマーを含む組成物を含む。それらは、「ダイレクト」コポリマー類、すなわち、全てのモノマー類を同時に加えることにより重合されるコポリマー類である。このようなコポリマー類を調製するのに好適な高圧方法は、たとえば、米国特許第4351931号明細書に記述されている。この方法は、互いに反応してポリマー鎖を形成するモノマー類の共重合単位を有するランダムコポリマー類を提供する。単位は、このようにしてポリマー骨格またはポリマー鎖に組み込まれる。こうしたダイレクトコポリマー類は、既存のポリマー上にモノマーがグラフト化されてペンダント基を有するポリマー鎖を形成する上述のグラフトコポリマーと異なる。
【0056】
カルボン酸修飾されたポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)は、190℃で測定するとき、好ましくは0.2〜30g/10分、より好ましくは0.5〜10g/10分になるであろう。接着剤樹脂は、単層になるように単独で使用してもよく、または2層以上になるように合わせて使用してもよい。
【0057】
EVOH組成物を、熱可塑性樹脂と共に共押出するためには、たとえば、マルチマニホールド・フローコンバインTダイ法、フィードブロックフローコンバインT−ダイ法、またはインフレーション法のいずれかが好適である。
【0058】
多層構造物における層間接着の態様は、「未熟成接着力」であり、これは、その物品が押し出された後1時間以内かそこらに生じる接着力である。このような接着力は、押出操作持続期間の続行中の結果を判断するために、コンバーターで使用される。簡単にするために、「未熟成接着力」に「接着力」を使用する。EVOH組成物と接着剤層との間の接着力は、望ましくは、約600〜約1500g/インチまたは800〜約1200g/インチである。本組成物は、300g/インチ超、500g/インチ超、または800g/インチ超の、接着力範囲(未熟成接着力に関して)および厚さ(より厚い構造は、より大きい接着力を有する)を有することが可能である。
【0059】
共押出された多層構造物を、様々な成形品(たとえば、フィルム類、シート類、チューブ類、ボトル類等々)に加工することが可能であり、たとえば、下記のものなどが挙げられる:(1)多層構造物(たとえば、シート類、フィルム類、等々)を一軸延伸または二軸延伸するか、または、それらを二軸延伸し、その後、熱固定することによって製造される、多層、共延伸シート類またはフィルム類;(2)多層構造物(たとえば、シート類、フィルム類、等々)を圧延することにより製造される、多層ロールドシート類またはフィルム類;(3)多層構造物(たとえば、シート類、フィルム類等々)の真空成形、加圧成形、真空加圧成形または等温成形によって製造される、多層トレー容器またはカップ容器;(4)多層構造物(たとえば、パイプ類等々)の延伸ブロー成形により製造される、多層ボトル容器またはカップ容器。
【0060】
多層構造物を加工する方法は、上述の限りではなく、また何か他の既知の加工方法(たとえば、ブロー成形、等々)を構造物に適用することができよう。
【0061】
EVOH組成物の酸度またはアルカリ度の調整を含む、EVOH組成物の粘度を制御する方法も開示する。本方法は、EVOH組成物の粘度を上昇または低下させるのに効果的な条件下で、EVOH組成物の酸度またはアルカリ度を上昇または低下させることを含むことができる。概して、組成物のpHは、0.0001〜約1だけ、0.0002〜約0.5だけ、0.0005〜約0.2だけ、0.001〜約0.1だけ、0.002〜約0.05だけ、0.005〜約0.02だけ、または0.001〜約0.01だけ、調整、上昇または低下させることができる。
【実施例】
【0062】
使用材料
ADH−1:0.11重量%の無水マレイン酸および1.1g/10分のMIでグラフト修飾した、直鎖低密度ポリエチレン。
EVOH−32−1:32モル%のエチレンを有するEVOH。
EVOH−32−2:32モル%のエチレンを有し、210℃のメルトフローが5.4dg/mであり、重合過程からの残存物として6ppmのカルシウムおよび16ppmのナトリウムを含む(誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectroscopy)(ICP)法による)、EVOH。
EVOH−32−3:32モル%のエチレンを有し、9ppmのカルシウムおよび48ppmのナトリウムを残存物として含む、EVOH。
EVOH−38−1:38モル%のエチレンを有するEVOH。
EVOH−38−2:38モル%のエチレンを有し、210℃のメルトフローが4.4dg/mであり、8ppmのカルシウムおよび19ppmのナトリウムを残存物として含む、EVOH。
EVOH−44−1:44モル%のエチレンを有するEVOH。
EVOH−44−2:44モル%のエチレンを有し、210℃のメルトフローが約8dg/mであり、2ppmのカルシウムおよび14ppmのナトリウムを残存物として含む、EVOH。
HDPE:高密度ポリエチレン。
Irganox 1010:Ciba Specialty Chemicals,Incから入手可能な酸化防止剤。
カプリル酸カルシウム−Pechiney Ltd.から入手可能。
ステアリン酸カルシウム−Scandinavian Formulasから入手可能。
ステアリンン酸ナトリウム−City Chemicalから入手可能。
酢酸ナトリウム。
ホウ砂,溶融無水物(Na247)。
リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・H2O)。
リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)。
【0063】
材料を、ハーケ(Haake)ブレンダーまたは押出機のいずれかの中で混合した。
【0064】
EVOH組成物の接着力を評価するために、下記の構造:HDPE層/ADH−1層/EVOH層を有するブローンフィルム共押出により、3層積層ブローンフィルム構造物を作製した。T−剥離試験を使用して、製造の約1時間以内に、EVOH層とADH−1層との間の接着力を測定した。この多層構造物を、フィルムの縦方向に、1インチ(25.4mm)幅のストリップに切断し、最も弱い層間で分離した。次いで、分離したストリップをInstronのジョーに入れ、12インチ/分(0.305m/分)の試験速度でストリップを分離するための剥離力を測定した。10ストリップの平均値を報告する。
【0065】
下表で使用した組成物を、添加物と混ぜ合わせる前に未修飾組成物として評価した。EVOHの試料を、30mm Werner & Pfleider押出機内、速度約30ポンド/時間で、溶融ブレンドした。溶融温度は、ダイで、220〜230℃であった。その溶融物を、単孔ダイ(直径4.7mm)を通してストランドに押出し(スクリーンパックを使用せずに)、水冷してペレット化させた。このペレットを、真空および窒素中、100℃で一晩乾燥させた。このペレットを、250℃、キャピラリーレオメーターで試験した。このペレットを、閉鎖したレオメーター内に総計約90分間保持し、約72/秒の剪断速度で、示度を定期的に読み取った。約60分における粘度の示度を、30分における示度で割って、比率を出した。カチオンの形の金属元素が、重合方法からの残存物として未修飾EVOH中に存在する。これらの元素は、ICP比および粘度比ならびにADH−1への接着力を使用して測定し、表1にまとめる(Vは、比率が粘度比であったことを意味し、またTは、比率がトルク比であったことを意味する)。
【0066】
表1

【0067】
上表で、粘度比は、250℃で60分間保持した後に測定したトルクまたは粘度と、約30分後に測定したトルクまたは粘度の比率であった。トルク値は、50rpmで作動しているローラーブレンドを使用して、Haake Rheomix 600バッチ装置で出した。この装置に樹脂55gを充填し蓋を閉めた。空気を最小限に抑えるために、上端の周りに窒素ブランケットを使用した。粘度数は、約20gを毛細管中に入れてプランジャーを取り付けたキャピラリーレオメーターを使用して求められる。樹脂を60分間保持した。72/秒で、定期的に粘度示度を読み取った。
【0068】
表2中の例は全て、EVOH−32−1 2.27kgおよびIrganox 1010 4.54gを含んでいた。
【0069】
表2

【0070】
その他の成分は全て、表1に記載の通りであり、その量はグラムである。未修飾EVOH−32−1は、50ppmのNaおよび7ppmのCa残存物を有し、未熟成剥離接着力600g/インチを示した。試料85−2および85−5は、それぞれの試料85−1および85−4に比べて、酸性度の高い塩類(プロトン供与塩類)が所望の粘度低下作用の妨害に与える効果を証明する粘度比を示す。
【0071】
試料85−2および85−5は、それぞれの試料85−1および85−4に比べて、酸性度の高い塩類(プロトン供与塩類)が所望の粘度低下作用の妨害に与える効果を証明した粘度比を示す。
【0072】
本組成物は、全ての運搬要素および約5%の混練ブロック要素を有するスクリューを使用して、30mm W&P押出機内でブレンドした。スクリューを、設定値175℃、200rpmで運転した。ペレットを水冷した。
【0073】
表3〜5に記載の通り、EVOH 3.18kgおよびIraganox 1010 6.36gを使用して、試料を調製した。他成分の量は、ppm(重量基準)で示した場合を除き、グラムで記載されている。
【0074】
表3

【0075】
類似した当量のカルボン酸塩を添加する場合、所望の粘度低下挙動を生じさせる上で、アルカリ土類カルボン酸塩の方が、アルカリカルボン酸塩より有効であることが、表3のデータから分かる。すなわち、溶融ブレンドした添加物カプリル酸カルシウムはそれだけで、添加物酢酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム残存物のいずれよりも有効な成分である。試料52−13、52−14、および52−15は、酢酸ナトリウムより優れたカプリル酸カルシウムの可能性をさらに示し、また、所望の粘度低下を生じさせる上で、カルボン酸ナトリウムに添加された少量のカルボン酸カルシウムが、カルボン酸ナトリウムの有効性を高めることも示す。粘度比は、(60分/28分)として測定した。
【0076】
EVOHが、約100ppmより多い総ナトリウム(32%では110ppm、38%では130ppmおよび44%では150ppm)を含むとき、接着力は、800g/インチ以上に改良された。
【0077】
表4

【0078】
表4は、非常に優れた接着力(800g/インチより大きいが、粘度低下は僅少または皆無)を有する実施例を示す。
【0079】
Caカルボン酸塩のみを含む組成物(実施例95−11、95−13、95−14)は、大幅な粘度低下および低い接着力を有することが、表5のデータから分かる。NaイオンおよびCaイオンの両者を含む組成物では、良好な接着力および粘度低下を兼備することが、95−15および95−16から分かる。実施例95−16は、酢酸ナトリウムのみを含む組成物である。
【0080】
表5

【0081】
別の実験では、ローラーブレードを使用して、250℃、Haake Rheomix 600二軸−スクリューバッチミキサー内で未修飾EVOH−32−3 55gを溶融ブレンドした。rpmは50であり、トルクを60分間モニターした。トルクは溶融粘度に比例する。30分におけるトルクで割った60分におけるトルクの比率は1.7であり、粘度が時間と共に増加することを意味する。別の実験では、Werner & Pfleiderer製造の30mm二葉型二軸押出機を使用して、EVOH−32−3を、0.126重量%のカプリル酸カルシウム、0.11重量%のステアリン酸カルシウム、および0.2重量%のIrganox 1010と溶融混合した。スクリューは、長さの5%が混練ブロックであり、オールフォワード運搬要素に配慮して設計されている。溶融温度は215℃であり、スクリーンパックは無く、直径4.7mmのダイが1つあり、溶融物は30ポンド/時間でペレット化したストランドであった。そのペレットを、100℃の真空中で一晩乾燥させた。ペレットの粘度安定性は、Haake Rheomix 600(容量55g)で、250℃、50rpmで作動しているローラーブレードを60分間使用して分析した。60分におけるトルクと30分におけるトルクの比率は、0.4であった。この比率は、溶融粘度が時間と共に低下したことを意味する。次いで、乾燥ペレットをPrism A PM−44 16mm二葉型二軸押出機に送り込み、バレルを220℃に設定した;スクリーンパックは無かった。樹脂は、水分を導入せずにストランドを冷却するためにドライアイス(固体の二酸化炭素)を使用してペレット化したストランドであった。ストランドをペレット化し、そのペレットを再押出した。ペレット試料を、4、8および12パス、押出機を通した。
【0082】
厚さ3.5ミル(±1.5ミル)のブローンフィルムを作製する円形ダイを給送するために、C.W.Brabender Instruments,Inc.(South Hackensack,NJ)から販売されている1.9cm一軸(25:1 長さ:直径)スクリュー押出機を使用して、ペレットをブローンフィルムに押出した。フィルム中のゲルは、フィルムに対して接線方向に光を照らしたときのフィルムの写真から見積もった。ゲルは、白色の斑点として現れる。4cm2の領域内の、直径約0.1mmより大きいゲル粒子の計数を、手作業で行った。結果を表6にまとめる。結果から、元の試料(添加物を含むEVOH−32−3および添加物を含まないEVOH−32−3(「非再押出」))中に存在したゲルが顕著にかつ驚くほど減少したことがわかる。
【0083】
表6

【0084】
ゲル減少率の上昇は、EVOHと添加物とをブレンドし、溶融物を軽く混合することによって達成された。
【0085】
比較として、F101という名称でクラレにより供給される32% EVOHも繰り返し再押出し、次いでブローンフィルムに押出した。ゲル数は、非再押出樹脂および4、8、および12パスバージョンについて、4cm2当たり約3ゲルで一定であった。
【0086】
別の実験では、上述の通り、EVOH−32−3のペレットと、0.126%カプリル酸カルシウム、0.11%ステアリン酸カルシウム、および0.2%Irganox 1010とを溶融混合し、250℃の代わりに230℃であったこと以外は上述で使用した方法で、キャピラリーレオメーター中で溶融安定性を測定した。30分における粘度で割った60分における粘度の比率は、0.99であった。用時調製した試料に対して、210℃で、レオメーター試験を実施し、その粘度比は1.15であった。この結果は、210℃では、カルボン酸塩添加物は、230℃または特に250℃での速度に匹敵する速度でEVOH分子を開裂しなかったことを意味する。この結果は、担体それ自身が分解されることと関係なく、低温で、EVOH担体中で添加物成分の濃縮物が作られることを意味する。
【0087】
別の例では、EVOH−32−2 50gを、Haakeバッチブレンダー内、180〜190℃の範囲の温度で、5分間、0.2重量%カプリル酸カルシウム、0.4重量%酢酸ナトリウム、および2重量%Irganox 1010とブレンドする。結果として得られる組成物10部を、EVOH−32−2 90部と共に、ブローンフィルムダイを供給する上述の一軸スクリュー押出機に送り込む。バレルを250℃に設定した。定常状態に達するまで工程を実行し、次いで装置を3時間停止させる。この工程を再開する。ダイから離れるフィルムのゲル含量を、2つの滞留時間について、モニターする。一方の滞留時間後にダイから離れるフィルムは、一軸スクリュー押出機の供給端に保持される樹脂を表す。そのフィルム中のゲルをモニターした。添加物を含まないEVOH−32−2は、1−滞留時間のフィルムでは、非常に高いゲル数を有し、また10%のHaake製「濃縮物」を含むEVOH−32−2からなる試料は、低いゲル数および粘度低下が予測される。
【0088】
別の実験では、エチレン含量32%および残存ナトリウム1マイクロ当量/gのEVOHを酢酸ナトリウムと溶融ブレンドし、ICP測定で240ppmのナトリウム(10.4ミリ当量/gナトリウム)を含むペレットを作製した。ブレンドは、Prism二軸押出機を使用して、溶融温度約200℃で遂行した[E107558−137]。生じたペレットを100℃で一晩乾燥させた。このペレットを、キャピラリーレオメーター内に、250℃で60分間保持することによって試験した。72/秒での粘度の中間試験で、30分における粘度で割った60分における粘度の比率は1.1であった。酢酸ナトリウムを添加していない同じEVOH樹脂は、その比率が1.8であった。この結果から、添加した酢酸ナトリウムは、粘度低下効果を示すことが分かる。
【0089】
エチレンコモノマー含量32%のEVOHを、酢酸ナトリウムを保有する方法で作った。ICP測定で、樹脂の総ナトリウム含量は190ppm(8.3マイクロ当量/g)であった[E109032−98]。この樹脂の試料をキャピラリーレオメーター内、250℃で60分間、保持した。30分における粘度で割った60分における粘度比は、1.38であった。89ppmのナトリウム(3.9マイクロ当量/g)を含む別のEVOH試料を試験し、その比率は1.53であった。この結果から、残存酢酸ナトリウムの使用を、粘度低下作用を引き起こすために使用できることが分かる。
【0090】
カルボキシレート源が、脂肪族または芳香族であってもよいことを証明する実験では、エチレン32%ならびに残存ナトリウム13ppmおよび残存カルシウム3ppmのEVOHを、様々な添加物と、Haakeブレンダー内、250℃で60分間、溶融ブレンドした。トルクをモニターした。以下の結果から、芳香族カルボキシレートまたは脂肪族カルボキシレートのいずれも、粘度低下をもたらす上で有効なことが分かる。
【0091】
表7

【0092】
表8では、EVOH−32−2、EVOH−38−2、およびEVOH−44−2を、設定点210℃の1.5インチ一軸スクリュー押出機を使用し、20/60/20のスクリューパック(Mesh)を通して、速度30フィート/分で動く厚さ2±0.5ミルのフィルムに押出した。
【0093】
表 8

【0094】
全てOptical Control Systems GmbH(Witten,ドイツ)から供給されるOCS FS−5 カメラを使用して、このフィルムを自動ゲルカウント(モジュラー局面検査)装置「Film Test FSA100」でモニターした。存在したゲルを、フィルム50平方フィート当たりのゲル粒子数として記録した。長さ1750mm、40mmのWerner & Pfleiderer製二葉型二軸押出機を使用して、同EVOH樹脂を、酢酸ナトリウム(表6に表示の量)、200ppmのカプリル酸カルシウムおよび2000ppmのIrganox 1010とブレンドした。スクリューは、長さ約90mmのニーディングブロックを具備する、オールフォワード運搬要素で構成されていた。スクリーンパックは全く使用しなかった。バレルの設定点は約190℃であり、また樹脂溶融物、約205〜210℃に維持した。この樹脂を、ストランドダイを通して押出し、ペレット化して、含水量約0.3%まで乾燥させた。この樹脂を、上述と同じ方法で、フィルムに加工し、自動ゲル計数測定も行った。結果から、化学修飾したEVOH樹脂は、以前に樹脂中に存在していたものより驚くほどゲルの減少を示すことが分かる。
【0095】
溶融粘度比および接着力を測定し(「良好」は、その層を分離できなかったことを意味する)(接着力は、約900g/インチより大きい)、表9にまとめた。
【0096】
表9

【0097】
未修飾か、またはカプリル酸カルシウムと酢酸ナトリウムの組み合わせを添加することにより修飾された、EVOH−32およびEVOH−38から、同様のフィルムを作製した。上述の条件で、30mm押出機を使用して、ペレットを作製した。未修飾のEVOH−32−3ペレットおよびEVOH−38−2ペレットは、無添加で押出機を通して処理し、保存した。新たなひと組のEVOH−32−3ペレットおよびEVOH−38−2ペレットを、200pmのカプリル酸カルシウム、580ppmの酢酸ナトリウムおよび2000ppmのIrganox 1010の添加物と共に押出機を通して処理した。4つのペレット試料を乾燥させ、次いでフィルムに加工し、既述の方法でレーザーカウントした。結果(表10)から、添加物組み合わせの存在は、最初に未修飾EVOHペレット中に存在していたゲル数の減少に関与することが分かる。
【0098】
表10

【0099】
別の実験では、EVOH−32−2を55gと、2000ppmのカプリル酸カルシウム、2000ppmのIrganox 1010および5800ppmの酢酸ナトリウムとを、225℃、125rpmで5分間ブレンドすることにより、添加物の濃縮物を作った。温度が225℃で一定のとき、トルクは低下しなかった。結果として得られた生成物を粒径約2mmの粒子に挽いた。この粒子を、EVOH−32−2 10部に対して1部の比率で、EVOH−32−2と乾燥ブレンドした。スクリューが、スクリューの約33%が、溶融物を強制的に混合させるための規制があるミキシングスクリューであったこと以外は上述の通りに、この乾燥ブレンドを一軸スクリュー押出機に送り込んだ。押出物を、厚さ約2ミルのブローンフィルムにした。未修飾EVOH−32−2のゲル含量は、4cm2当たり10ゲルであった。修飾されたEVOH−32−2のゲル含量は、4cm2当たり3ゲルであった。
【0100】
EVOH−32−2の組成物を、ハーケ(Haake)バッチブレンダー内、250℃で60分間、ブレンドした。1つの組成物を、200pmのカプリル酸カルシウム、1100ppmのステアリン酸カルシウム、2000ppmのIrganox 1010、および438ppmのNaH2PO4とブレンドした。60分におけるトルクと30におけるトルクとの比率は、溶融粘度の上昇を示す1.5であった。NaH2PO4の代わりに312ppmのNa3PO4を使用したこと以外は同じ手順では、溶融粘度の低下を示す0.40という比率であった。これらの結果は、有益な粘度低下を提供すると考えられている、カルボン酸アニオンをシフトするプロトン供与体の傾向を明示する。
【0101】
EVOH32−2の組成物を、2000ppmのIrganox1010および574ppmのNa3PO4を使用したこと以外は前述の実施例と同様にブレンドした。トルク比は1.05であった。この結果は、カルボキシレートが粘度を低下させる有益な値を明示する。
【0102】
同一EVOHの組成物を、200ppmのカプリル酸カルシウム、1100ppmステアリン酸カルシウム、2000ppmのIrganox 1010、および285ppmの炭酸カルシウムとブレンドした。トルク比は0.46であった。
【0103】
30mm二軸押出機で、約90%の運搬要素および10%のニーディングブロックを具備するスクリューを使用して、30ポンド/時間で、EVOH−32−4を溶融加工した。溶融を220℃に制御した。同様の方法で、200ppmのカプリル酸カルシウム、2000ppmのIrganox 1010、および580ppmの酢酸ナトリウムを使用したこと以外は上述の通りに、EVOH−32−4の別試料をブレンドした。どちらの場合も、EVOHペレットは、ペレット化して、窒素中、100℃で一晩、乾燥させたストランドであった。そのペレットを、表10で使用される手順でフィルムに押出した。無添加のEVOH−32−4は、200μmのゲル数が、50平方フィート当たり11000ゲルであった。添加物を含むEVOH−32−4のゲル数は、5000であった。400〜800μmのゲル数は、それぞれ175ゲルおよび100ゲルであった。これらの結果は、EVOHに本来存在うるものよりゲル粒子を小さくするために開示した化学の価値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンビニルアルコールコポリマーおよび混合物を含むか、またはそれらから製造される組成物であって、
前記エチレンビニルアルコールコポリマーが、コポリマーの重量を基準にして、約20〜約50%のエチレン由来反復単位を含み;
前記混合物が、少なくとも1つのアルカリ金属塩、少なくとも1つのアルカリ土類金属塩、および3〜18個の炭素原子を有する少なくとも1つのカルボキシレート部分を含み;
前記組成物中に存在するアルカリ金属イオン類の総計が、前記組成物1グラム当たりのアルカリ金属イオンマイクロ当量(マイクロ当量/g)に基づいて、約1マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/gであり;
前記組成物中に存在する前記アルカリ土類金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ土類金属イオンマイクロ当量に基づいて、約0.5マイクロ当量/g〜約40マイクロ当量/gであり;
前記カルボキシレート部分が、前記組成物中に、前記組成物1グラム当たりのカルボキシレートのマイクロ当量に基づいて、約0.5マイクロ当量/g〜約7マイクロ当量/gで存在し;および
前記組成物が、前記エチレンビニルアルコールコポリマーに比して少ないゲル形成を有する、
組成物。
【請求項2】
前記エチレンビニルアルコールコポリマーが、約30〜約44%のエチレン由来反復単位を含み;
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属酢酸塩であり、また前記カルボキシレート部分がアルカリ土類金属カルボン酸塩であり;また
前記組成物中に存在する前記アルカリ土類金属イオンが、前記組成物1グラム当たりのアルカリ土類金属イオンのマイクロ当量を基準にして、約0.5マイクロ当量/g〜約4マイクロ当量/gである;
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エチレンビニルアルコールが、約30〜約40%のエチレン由来反復単位を含み;
前記カルボキシレート部分が前記組成物中に約0.5マイクロ当量/g〜約4マイクロ当量/g存在する;
請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中に存在する前記アルカリ金属イオンが約1マイクロ当量/g〜約2.5マイクロ当量/gであり;
前記アルカリ土類金属塩に対する前記アルカリ金属塩の比率が約1〜約20当量であり;また
前記アルカリ土類金属塩に対する前記カルボキシレート部分の比率が約0.1〜約15であり;また
前記組成物中に存在する総カルボキシレート部分が、約0.5マイクロ当量/g〜約4マイクロ当量/gである;
請求項1、2または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルカリ金属酢酸塩が、前記組成物中に約2マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/g存在し;
前記アルカリ金属酢酸塩が、酢酸ナトリウムであり、また前記アルカリ土類金属カルボン酸塩がカプリル酸カルシウムであり;
前記組成物中に存在する前記アルカリ土類金属イオンおよび前記カルボキシレート部分の各々が、約2.5マイクロ当量/g〜約4マイクロ当量/gであり;および
前記組成物が粘度比0.3〜1.2を有する、
請求項2、3、または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中に存在するアルカリ金属イオン類の総計が約2.5マイクロ当量/g〜約6.5マイクロ当量/gである、請求項1、2、または3に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が酸化防止剤をさらに含み、前記組成物から製造される厚さ1.5〜2.5ミル(37〜62μm)のフィルムが、50平方フィート当たり約2000ゲル未満のゲル含量を有する、請求項1、2、3、4、5、または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記酸化防止剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記物品が、単層構造物、多層構造物、フィルム、シート、チューブ、ボトル、容器、パイプ、繊維、トレー、またはカップを含み;また
前記組成物が、請求項1、2、3、4、5、6、7、または8で特徴づけられたものと同じであり、
組成物を含むかまたは組成物から製造される物品。
【請求項10】
前記物品が、第1層、接着剤層、および第2層を含む多層構造物であり;
前記第1層が前記組成物を含み、前記第2層が前記組成物以外の熱可塑性樹脂を含み、前記接着剤層が前記第1層と前記第2層との間にあり、また、前記第1層と前記接着剤層との間の接着力が、300g/インチより大きく;
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、またはそれらの2つ以上の組み合わせであり;また
前記ポリオレフィンが、直鎖低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸アルキルコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、ポリペンテン、クロロポリエチレン、クロロポリプロピレン、またはそれらの2つ以上の組み合わせである、
請求項9に記載の物品。
【請求項11】
組成物を製造するのに効果的な条件下で、エチレンビニルアルコールコポリマーを混合物と接触させることを含む方法であって
前記組成物は、請求項1〜8のいずれか1項に特徴があり;
前記混合物が、少なくとも1つのアルカリ金属塩;少なくとも1つのアルカリ土類金属塩;3〜18個の炭素原子を有する少なくとも1つのカルボキシレート部分;を含み;
前記組成物は、エチレンビニルアルコールコポリマーに比べてゲルが少なく;
総カルボキシレート部分が、前記混合物に、前記エチレンビニルアルコールコポリマーグラム当たりのカルボキシレートマイクロ当量に基づいて、約0.5マイクロ当量/g〜約10マイクロ当量/g存在し;
前記アルカリ土類金属塩に対する前記アルカリ金属塩の比率が、約1〜約20当量であり;また
前記アルカリ土類金属塩に対する前記少なくとも1つのカルボキシレート部分の比率が、約0.1〜約15当量である;
方法。
【請求項12】
前記接触することが溶融混合であり;前記方法が、場合により前記組成物を追加的エチレンビニルアルコールコポリマーと接触させることをさらに含んでもよく;また前記混合物が、場合により前記エチレンビニルアルコールコポリマーと同じであるかまたは異なる第2のエチレンビニルアルコールコポリマーをさらに含んでもよい;
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記接触させることが、前記エチレンビニルアルコールの粘度を上昇または低下させるのに効果的な条件下で、前記エチレンビニルアルコールコポリマーの酸度またはアルカリ度を調整することにより実施される、請求項11または12に記載の方法。

【公表番号】特表2012−504689(P2012−504689A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530153(P2011−530153)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/058934
【国際公開番号】WO2010/039766
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】