説明

カロテノイドを含有する液体製剤

本発明は、少なくとも1種類のカロテノイド、少なくとも1種類の親水性保護コロイドおよび少なくとも1種類の水混和性アルコールを含む液体製剤に関する。本発明の製剤を、水性または非水性の調製物に直接加えることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体製剤、その製造方法、ならびに動物の飼料およびヒトの食品に対する添加物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドの製剤は、水に対するわずかな溶解性および化学的な不安定性のために、難しい課題である。それ故、一方で安定であり、他方で良好な生体利用能を示すカロテノイド製剤を提供しようとしたり、あるいは使用時における所望の色収率(カラーイールド又は染着率)を提供しようとする数多くの試みがなされている。粉末形態のカロテノイドの取得と使用者による液体製剤の調製が不要になるので、液体のカロテノイド製剤は特に関心を持たれている。
【0003】
ナノメーター範囲の粒径を有するカロテノイドの一次粒子(primary particle)の製造は、適切な生体利用能および色収率を達成するために不可欠である。かかる粒子を製造するために、例えば国際公開第91/06292号パンフレットおよび国際公開第94/19411号パンフレットに記載されているように、従来技術においては粉砕工程が使用されてきた。カロテノイドは、水性または油性媒質中でコロイドミルを用いて粉砕され、これによりナノメーター範囲の粒径を達成する。
【0004】
欧州特許出願公開第1 460 060号明細書は、油中で粉砕することによるルテイン懸濁液の製造を記載している。前記文献はまた、水に非混和性の有機溶媒中にルテインを溶解し、乳化剤の存在下において加工デンプンの中へカプセル化することによって製造される、冷水に分散可能なルテイン製剤を記載している。
【0005】
米国特許出願公開第2005/0084462号明細書は、担体としてのアラビアゴムの存在下において水中で色素を粉砕し、次いで30〜60℃で加熱することによる、食品、医薬品および化粧品における使用のための混色(color mixture)の作成を記載している。
【0006】
米国特許第5,827,539号明細書は、油中でカロテノイドの分散液を粉砕し、デンプン、砂糖および抗酸化物質とともに乳濁液を形成して、次いで噴霧乾燥することを記載している。
【0007】
国際公開第96/13178号パンフレットは、リコピンが実質的に不溶性の液体媒質中でリコピンを粉砕することによる、安定なリコピン濃縮液の製造を記載している。使用された液体媒質は、グリセロール、プロピレングリコールまたはエタノールである。しかしながら、親水コロイドは使用されていない。
【0008】
国際公開第96/23429号パンフレットは、アスタキサンチンを粉砕し、該粉砕の間または後に油を加えることによる、2μm未満の粒径を有する油性のアスタキサンチン懸濁液の製造を記載している。保護コロイドまたは乳化剤の使用は開示されていない。当該粒子は、凝集体形成を起こしやすいことが指摘されている。よって、凝固点未満で懸濁液を保存することによる、さらなる安定化が考えられている。
【0009】
国際公開第93/04598号パンフレットは、油、水に分散可能なマトリクス形成剤(例えば砂糖)および安定剤(例えばゼラチンもしくはカゼイン)の分散液、ならびに乳化剤と、また適切であればグリセロールのような非油性の溶媒中にカロテノイドを含む、カロテノイド組成物の製造を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第91/06292号パンフレット
【特許文献2】国際公開第94/19411号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第1 460 060号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0084462号明細書
【特許文献5】米国特許第5,827,539号明細書
【特許文献6】国際公開第96/13178号パンフレット
【特許文献7】国際公開第96/23429号パンフレット
【特許文献8】国際公開第93/04598号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、容易に製造でき、かつさらなる労力なしに使用者が使用することができる、液体のカロテノイド製剤を提供しようという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、本目的は、カロテノイドおよび親水性保護コロイドに加えて、少なくとも1種類の水混和性アルコールを含む液体製剤によって達成されることを見出した。
【0013】
したがって、本発明は、少なくとも1種類のカロテノイド、少なくとも1種類の親水性保護コロイドおよび少なくとも1種類の水混和性アルコールを含む液体製剤に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に使用することができるカロテノイドは、天然の供給源から、または合成によって得ることができる公知の代表的な物質である。さらに、天然の供給源から、または合成によって得ることができる公知の代表的な物質を、本発明に使用することができる。前記物質の例は、β−カロテン、リコピン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、シトラナキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン、ビキシン、β−アポ-4-カロテナール、β−アポ-8-カロテナール、β−アポ-4-カロテン酸エステルであり、これらは単独であっても、または混合物としてでもよい。アスタキサンチン、β−カロテン、β−アポ-8-カロテナール、β−アポ-8'-カロテン酸エチル、カンタキサンチン、シトラナキサンチン、エキネノン、ルテイン、リコピンおよびゼアキサンチンが好ましい。アスタキサンチンおよびカンタキサンチン、とりわけアスタキサンチンが特に好ましい。
【0015】
カロテノイドは通常50 nm〜10 μm、好ましくは100 nm〜5 μm、特に好ましくは100 nm〜3 μm、150 nm〜2 μm、とりわけ200 nm〜1 μmの範囲の粒径を有する。
【0016】
水に溶解可能であるか、または膨潤可能なコロイドが、親水性保護コロイドとして好適である。保護コロイドは、タンパク質ベースの誘導体、加工デンプン誘導体および加工セルロース誘導体が好ましい。タンパク質ベースの保護コロイドは、特にカゼイン、カゼイネート(caseinate)、ウシ、ブタまたは魚類のゼラチンであり、とりわけ0〜250の範囲のブルーム数(Bloom number)を有する酸または塩基で分解されたゼラチン、ならびにそれらの混合物である。加工デンプン誘導体および加工セルロース誘導体は、特にそれらのエステルであり、例えばオクテニルコハク酸デンプンである。対応する製品は、Purity Gum 2000(National Starch社)またはClear Gum CO 01(Roquette社)、Hi Cap 100もしくはCapsul(National Starch社)の製品名で市販されている。
【0017】
加工デンプンを親水性保護コロイドとして用いることが好ましい。
【0018】
好適な水混和性アルコールは、1価アルコールおよび多価アルコールである。1価アルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのようなアルカノールである。しかしながら、多価アルコールを使用することが好ましい。これらは特に2価または3価アルコールである。前記多価アルコールの例は、グリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、グリセロールとC1-C5モノカルボン酸のモノエステル、またはグリセロールのモノエーテルである。本発明の製剤は、グリセロールを含むことが特に好ましい。
【0019】
カロテノイドは、本発明の製剤中において、製剤の全重量に対して通常0.1〜50重量%、好ましくは0.2 〜30重量%、とりわけ1.0〜15重量%の範囲で存在する。
【0020】
親水性保護コロイドの量は、通常1〜40重量%、好ましくは2 〜30重量%、特に3〜25重量%の範囲である。
【0021】
カロテノイドと親水性保護コロイドの比は、重量比で通常5:1〜1:5、好ましくは3:1〜1:3の範囲である。水混和性アルコールの量は、製剤の全重量に対して通常30〜95重量%、特に30〜90重量%の範囲であり、特に好ましくは35〜90重量%の範囲である。
【0022】
本発明の製剤は、製剤の全重量に対して40重量%以下、好ましくは35重量%以下の量で水を含みうる。
【0023】
本発明の製剤は油を含まないことが好ましい。
【0024】
酸化的分解に対する活性成分の安定性を増すために、α−トコフェロール、t-ブチルヒドロキシトルエン、t-ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸またはエトキシキンのような安定剤を加えることが有利である。
【0025】
本発明の製剤は、増粘剤、硬化油脂(hard fat)、キレート剤(例えばクエン酸、フィチン酸またはリン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩)および/または乳化剤のような補助的物質を追加的に含みうる。乳化剤の例は、パルミチン酸アスコルビル、ポリグリセロール-3ポリリシノレート(PGPR 90)のようなポリグリセロールと脂肪酸のエステル、ソルビタンモノステアレート(span 60)、PEG(20)ソルビトールモノオレアートのようなソルビタンと脂肪酸のエステル、プロピレングリコールと脂肪酸のエステルまたはレシチンのようなリン脂質である。
【0026】
本発明の製剤は、水混和性アルコール中でカロテノイドおよび親水性保護コロイドの分散液を粉砕することによって製造される。しかしながら、前記アルコールの一部を粉砕の間に加えることもできる。粉砕は、カロテノイド結晶および親水性保護コロイドの平均粒径が5 μm未満、好ましくは1 μm未満に達するまで続けられる。粉砕装置として、例えばコロイドミル、Dynomill(KDLタイプまたはmultilab タイプ)のようなボールミルなどの当業者に公知の通常の装置を用いることができる。
【0027】
本発明の製剤を、水性または非水性の調製物に直接加えることが可能である。しかしながら、加える前に、使用されたアルコールを用いて該製剤をさらに希釈することも可能である。
【0028】
本発明の製剤は、動物の飼料およびヒトの食料品に対する添加物、または配合飼料として、医薬品および化粧品を製造するための組成物、あるいはヒトおよび動物向けの栄養補助食品を製造するための組成物として、とりわけ好適である。本発明の懸濁液を、例えば押出時に飼料ペレットの中に混合することによって、または飼料ペレットに対して散布もしくは噴霧することによって、飼料に対する家畜栄養の添加物として好ましく使用することができる。飼料に対する添加物としての使用は、例えばいわゆるペレット化後の散布(post-pelleting application)として、特に本発明の製剤の直接噴霧によって実施される。飼料ペレットに、減圧下で本発明の製剤を添加することが好ましい。
【0029】
ヒトの食品向けの典型的な使用分野は、例えば飲料、ヨーグルト、牛乳もしくはミルクアイス、およびブラマンジェ(blancmange)粉末のような酪農製品、卵製品、ベーキングミックスならびに菓子類に対するビタミン添加および着色である。化粧品向けでは、例えば装飾用パーソナルケア組成物のために、例えばクリーム、ローションの形態で、口紅またはメーキャップとして本発明の油性懸濁液を使用することができる。
【0030】
本発明はさらに、本発明の製剤を含む、栄養補助食品、動物の飼料、ヒトの食品、医薬品および化粧品に関する。好適なものは動物の飼料であり、とりわけ本発明の製剤を添加した飼料ペレットである。
【0031】
栄養補助食品および医薬品はとりわけ、本発明の製剤を含む錠剤、コーティング錠(coated tablet)、ならびに好ましくは、ハードおよびソフトゼラチンのカプセルを意味する。
【実施例】
【0032】
以下の実施例は、本発明の技術的範囲を限定することなく本発明を例証するものである。
【0033】
(実施例1)
10.5%濃度のβ−カロテン分散液の製造
784.16 gのグリセロールを、2 lのガラス製ビーカーの中へ導入し、110.84 g (H2O含有量 5.27%)のPurity Gum 2000 (オクテニルコハク酸デンプン)を加えて撹拌した。次いで、105.0 gの結晶β−カロテンを加え、完全に湿潤するまで撹拌した(30〜40分)。このようにして得られた分散液を、イットリウムで安定化した0.4〜0.6 mmの直径を有するZrビーズおよびSiLiビーズを用いた、Dynomill Multilab(Siegmund Lindner製)を用いて粉砕した。粉砕容器は、400 mlの上記の粉砕ビーズで満たした。粉砕は、54〜70℃の範囲の温度で、0.10 mmの粉砕スリットおよび2986 rpmで回転しているミルを用いて実施した。
【0034】
(実施例2)
7.0%濃度のβ−カロテン分散液の製造
210.0 gの結晶β−カロテン、221.68 gのPurity Gum 2000 (H2O含有量 5.27%)および2568.32 gのグリセロールの分散液を、実施例1で述べた方法により粉砕した。粉砕は、52〜68℃の範囲の温度で実施した。1.5時間後、β−カロテンが438 nmの粒径を有する低粘度の分散液を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のカロテノイド、少なくとも1種類の親水性保護コロイドおよび少なくとも1種類の水混和性アルコールを含む液体製剤。
【請求項2】
アルコールが1価アルコールである、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
アルコールが多価アルコールである、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
多価アルコールが2価または3価アルコールである、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
多価アルコールが、グリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、グリセロールのモノエステル、およびグリセロールのモノエーテルから選択される、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
保護コロイドが、カゼイン、カゼイネート、ゼラチン、植物タンパク質、加工デンプン誘導体および加工セルロース誘導体から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
親水コロイドが加工デンプン誘導体である、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
加工デンプン誘導体がデンプンエステル、特にオクテニルコハク酸デンプンである、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
0〜40重量%の水を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
カロテノイドがアスタキサンチンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
多価アルコールがグリセロールである、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
動物の飼料、ヒトの食品もしくは栄養補助食品に対する添加物、または医薬品もしくは化粧品組成物としての、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の製剤を含む、動物の飼料、ヒトの食品または栄養補助食品。

【公表番号】特表2010−515447(P2010−515447A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545201(P2009−545201)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050401
【国際公開番号】WO2008/087140
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】