カーボンナノチューブ電子放出源の製造方法
【課題】 電子放出に班がなく、CNTの起毛が良好で起毛密度が高いCNT電子放出源を提供する。
【解決手段】 上記課題は、導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上に高濃度のカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板のカーボンナノチューブ層表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法によって解決される。
【解決手段】 上記課題は、導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上に高濃度のカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板のカーボンナノチューブ層表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法によって解決される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極基板上にカーボンナノチューブを固着させて電子放出源を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極基板上にカーボンナノチューブ(CNT)を固着させる方法としては、例えば、絶縁基板にカソード導体を被着し、そのカソード導体にカーボンナノチューブを含むペースト材料を塗布してカーボン層を形成し、このペースト状カーボン層に多孔質シート部材を付着、乾燥し、このシート部材を剥離した後、カーボン層を焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
ペースト材料としては、例えば、カーボンナノチューブ3%、バインダーとしてエチルセルロース25%、ベヒクルとしてガラスパウダー5%、溶媒としてテルピネオール67%よりなるものが用いられ、これを基板に20ミクロンの厚さでスクリーン印刷し、400℃で焼成後、粘着テープによる引き剥がしを行っている。この方法で得られた、電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像を図9のAとBに示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3468723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンナノチューブ(CNT)含有ペーストを用いた従来電子放出源製造技術では、粘着テープでペースト膜を引き剥がす場合、引き剥がれる位置が膜の厚さ方向でばらつき、電子放出に班ができる原因となっていた。また、膜を固定するために、CNT以外のバインダーやガラス粉末などを混ぜているので相対的にCNT密度が低下し、引き剥がした表面の電子放出サイト(毛羽立ったCNT)の密度低下の原因となっていた。さらに、実際に電子放出に寄与するCNTは表面に存在する毛羽立ったCNTのみであるが、従来法では膜内部に埋もれたCNTや粘着テープで除去されたCNTの割合が多く、高価なCNTを無駄に使用せざるを得なかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するべくなされたものであり、膜構造を多層とし、少なくとも、導電性基板への接着性と通電を確保する導電性ペースト層の第1層と、主としてCNTからなり、強度が弱く引き剥がし時に破断面(CNTが毛羽立った状態で割れた面)を形成するようにしたカーボンナノチューブ濃度を高めた薄い第2層を設けることで、引き剥がれ位置の安定化と平滑化、電子放出サイトとなる毛羽立ったCNTの密度向上、およびCNT使用量の削減、が達成できることを見出してなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上にカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板のカーボンナノチューブ層表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法、と導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上にカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られた基板のカーボンナノチューブ層表面に更に第3層の膜を形成する工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板の膜表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを前記第3層の膜とともに引き剥がす方法によりなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法では、導電性基板への接着性と通電を確保する第1層とは別に、カーボンナノチューブ濃度を高めた、強度の弱い第2層を設けることにより、引き剥がし時に第2層で破断面を形成するようにし、かつ破断面に現れる毛羽立ったカーボンナノチューブの密度を高めることができる。そうすることにより、電子放出面が平滑で電子放出サイトが増大するので、従来法に比べ電子放出に要する駆動電圧が低くでき、省エネ効果が高くなる。また電子放出量の面分布が均一となるので、例えば電子を蛍光物質に当て光らせる発光デバイスなどに使用すれば性能の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法の一例を模式的に説明する図である。
【図2】実施例1の方法を模式的に説明する図である。
【図3】実施例1で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図4】実施例3の方法を模式的に説明する図である。
【図5】実施例3で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図6】実施例4の方法を模式的に説明する図である。
【図7】実施例4で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図8】従来の方法の一例を模式的に説明する図である。
【図9】従来法で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図10】実施例1〜3および従来法で得られた各電子放出源の電界放出特性を示すグラフである。
【図11】実施例2の方法を模式的に説明する図である。
【図12】実施例2で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電極基板は、導電性基板であり、表面にITO(錫ドープ酸化インジウム)皮膜を有するガラス基板などが利用できる。ITO皮膜は薫着等で形成することができ、ITO皮膜を有するガラス基板は公知であり、それを本発明の方法に利用できる。
【0011】
導電性ペーストは、一般に市販されているような銀、金、銅、アルミなどの金属微粒子やITOなどの微粒子、またはカーボン材料の微粒子などを含み導電性を確保したものが利用できる。
【0012】
導電性ペースト膜の厚みは、乾燥厚みで1〜10μm程度でよく、例えば、スクリーン印刷等で膜を形成できる。
【0013】
カーボンナノチューブ層は、例えば、高濃度のカーボンナノチューブのペーストを導電性ペースト膜上に直接塗布することによって形成することができる。カーボンナノチューブペーストは、カーボンナノチューブ、バインダー、ベヒクル、溶媒(分散媒)等よりなる。バインダーとしてはエチルセルロースが主に使用される。ベヒクルとしては、ガラスパウダーやインジウムや錫などの低融点金属、または高分子樹脂などが用いられる。そして分散媒としては、テルピネオールやBCAなど比較的沸点の高いものが用いられる。配合比としては、カーボンナノチューブが10〜50重量%程度、バインダーが10〜30重量%程度、ベヒクルが1〜10重量%程度、そして溶媒は40〜80重量%程度が適当である。カーボンナノチューブ層を導電性ペースト膜の上にスクリーン印刷する場合は、予め基板を100℃で10分程加熱しておき、導電性ペーストに含まれる溶媒を蒸発させ、導電性ペーストを乾燥させてからの方がカーボンナノチューブペーストの印刷性が向上する。また、カーボンナノチューブ層として、カーボンナノチューブを溶媒に分散して濾過することによって形成したようなカーボンナノチューブシートを導電性ペースト膜の上に貼り付けることによっても形成できる。この場合は、導電性ペーストが乾燥する前にカーボンナノチューブシートを導電性ペースト膜の上に貼り付けた方が、両者の接合性が向上するので望ましい。さらに、カーボンナノチューブ層には黒鉛あるいは金属の微粉末を含有させることによってカーボンナノチューブ層の破断(CNTが毛羽立った状態で割れること)を容易に起こすことができる。金属は例えば銀、金、銅、アルミなどの金属微粒子やITOなどの微粒子を用いることができる。微粉末の粒径は0.1〜2μm程度が適しており、カーボンナノチューブ層における含有量は20重量%以下が良い。カーボンナノチューブ層の厚みは、乾燥厚みで1〜6μm程度が良い。
【0014】
さらに、カーボンナノチューブ層の上に第3層の膜(引き剥がし安定膜)を形成することも好ましい。この膜は、後工程である引き剥がし工程において、カーボンナノチューブ層内での破断を安定化するためのものであり、導電性あるいは不導電性ペーストを用いスクリーン印刷で形成することができる。第3層の厚みは、乾燥厚みで5〜20μm程度が良い。
【0015】
カーボンナノチューブ層を含む膜を形成したら、次いで焼成する。焼成とは、ペースト中の有機成分を炭化させると共に、基板との密着性を強固にするために行う。焼成は大気中で、温度は400〜500℃程度で10〜30分程度行なえばよい。
【0016】
焼成後は、そのまま粘着テープの貼り付けと引き剥がしを行い、カーボンナノチューブ層で破断させることによりカーボンナノチューブの起毛した表面を形成する。
【実施例1】
【0017】
ITO膜を有するガラス基板のITO膜上に導電性ペーストとして銀ペーストを5μmの厚さにスクリーン印刷した。これを100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた。続いて、カーボンナノチューブを10%含有するカーボンナノチューブペーストを同じく5μmの厚さにスクリーン印刷した。次いで100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0018】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0019】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図3に示す像を得た。同図Aに示すように、引き剥がし面には、カーボンナノチューブ(CNT)が密集していることがわかる。このCNT電子放出源で電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は2.0V/μmであった。
【実施例2】
【0020】
第2層のカーボンナノチューブペーストを印刷し乾燥させるまでは、実施例1と同様に行った。その後、カーボンナノチューブ層表面に、第3層の膜を印刷した。第3層の膜は、第1層の導電性ペーストと同じものを用い、厚さ5μmで印刷した。その後、100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0021】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図12を得た。同図Aに示すように、引き剥がしが安定して行われたことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は1.6V/μmであった。
【実施例3】
【0022】
ITO膜を有するガラス基板のITO膜上に導電性ペーストとして銀ペーストを5μmの厚さにスクリーン印刷した。導電性ペーストを乾燥させる前に、厚さ4μmのカーボンナノチューブシート(CNTシート)を軽く押し付けて貼り付けた。次いで100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた。その後は、実施例2と同様に、カーボンナノチューブ層表面に、第3層の膜を印刷し、乾燥後大気中450℃で10分間焼成した。
【0023】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図5を得た。同図Aに示すように、引き剥がしが安定して行われたことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は1.4V/μmであった。
【実施例4】
【0024】
用いたカーボンナノチューブシート以外は実施例3と同様に行った。カーボンナノチューブシートは平均粒径1μmの黒鉛粉を10%混合した厚さ6μmのものを用いた。
【0025】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図7を得た。同図Aに示すように、微粒子の影響で、CNTシートでの引き剥がしが容易になり、CNTの起毛が大きくなったことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は1.2V/μmであった。
【従来例】
【0026】
実施例1〜4と同じでITO膜を有するガラス基板のITO膜上にペーストを20μmの厚さにスクリーン印刷した。用いたペーストは、CNT3重量%、エチルセルロース(バインダー)25重量%、ガラスパウダー(ベヒクル)5重量%およびテルピネオール(溶媒)67重量%よりなるものを用いた。次いで、400℃で10分間焼成した。
【0027】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで、粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0028】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図9を得た。同図Aに示すように、引き剥がしの際に班ができ、また、同図Bに示すように起毛したCNTが少ないことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は2.6V/μmであった。
【0029】
各実施例および従来例で得られたカーボンナノチューブ電子放出源の平均電界と放出電流密度との関係を測定した結果を図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明で得られるカーボンナノチューブ電子放出源は、電子放出特性にすぐれていることから、電界放出型電子放出素子として、種々の電気機器、電子装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
図10における■は実施例1、△は実施例2、×は実施例3、◆は従来例をそれぞれ示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極基板上にカーボンナノチューブを固着させて電子放出源を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極基板上にカーボンナノチューブ(CNT)を固着させる方法としては、例えば、絶縁基板にカソード導体を被着し、そのカソード導体にカーボンナノチューブを含むペースト材料を塗布してカーボン層を形成し、このペースト状カーボン層に多孔質シート部材を付着、乾燥し、このシート部材を剥離した後、カーボン層を焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
ペースト材料としては、例えば、カーボンナノチューブ3%、バインダーとしてエチルセルロース25%、ベヒクルとしてガラスパウダー5%、溶媒としてテルピネオール67%よりなるものが用いられ、これを基板に20ミクロンの厚さでスクリーン印刷し、400℃で焼成後、粘着テープによる引き剥がしを行っている。この方法で得られた、電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像を図9のAとBに示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3468723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンナノチューブ(CNT)含有ペーストを用いた従来電子放出源製造技術では、粘着テープでペースト膜を引き剥がす場合、引き剥がれる位置が膜の厚さ方向でばらつき、電子放出に班ができる原因となっていた。また、膜を固定するために、CNT以外のバインダーやガラス粉末などを混ぜているので相対的にCNT密度が低下し、引き剥がした表面の電子放出サイト(毛羽立ったCNT)の密度低下の原因となっていた。さらに、実際に電子放出に寄与するCNTは表面に存在する毛羽立ったCNTのみであるが、従来法では膜内部に埋もれたCNTや粘着テープで除去されたCNTの割合が多く、高価なCNTを無駄に使用せざるを得なかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するべくなされたものであり、膜構造を多層とし、少なくとも、導電性基板への接着性と通電を確保する導電性ペースト層の第1層と、主としてCNTからなり、強度が弱く引き剥がし時に破断面(CNTが毛羽立った状態で割れた面)を形成するようにしたカーボンナノチューブ濃度を高めた薄い第2層を設けることで、引き剥がれ位置の安定化と平滑化、電子放出サイトとなる毛羽立ったCNTの密度向上、およびCNT使用量の削減、が達成できることを見出してなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上にカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板のカーボンナノチューブ層表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法、と導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上にカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られた基板のカーボンナノチューブ層表面に更に第3層の膜を形成する工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板の膜表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを前記第3層の膜とともに引き剥がす方法によりなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法では、導電性基板への接着性と通電を確保する第1層とは別に、カーボンナノチューブ濃度を高めた、強度の弱い第2層を設けることにより、引き剥がし時に第2層で破断面を形成するようにし、かつ破断面に現れる毛羽立ったカーボンナノチューブの密度を高めることができる。そうすることにより、電子放出面が平滑で電子放出サイトが増大するので、従来法に比べ電子放出に要する駆動電圧が低くでき、省エネ効果が高くなる。また電子放出量の面分布が均一となるので、例えば電子を蛍光物質に当て光らせる発光デバイスなどに使用すれば性能の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法の一例を模式的に説明する図である。
【図2】実施例1の方法を模式的に説明する図である。
【図3】実施例1で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図4】実施例3の方法を模式的に説明する図である。
【図5】実施例3で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図6】実施例4の方法を模式的に説明する図である。
【図7】実施例4で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図8】従来の方法の一例を模式的に説明する図である。
【図9】従来法で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【図10】実施例1〜3および従来法で得られた各電子放出源の電界放出特性を示すグラフである。
【図11】実施例2の方法を模式的に説明する図である。
【図12】実施例2で得られた膜のSEM像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電極基板は、導電性基板であり、表面にITO(錫ドープ酸化インジウム)皮膜を有するガラス基板などが利用できる。ITO皮膜は薫着等で形成することができ、ITO皮膜を有するガラス基板は公知であり、それを本発明の方法に利用できる。
【0011】
導電性ペーストは、一般に市販されているような銀、金、銅、アルミなどの金属微粒子やITOなどの微粒子、またはカーボン材料の微粒子などを含み導電性を確保したものが利用できる。
【0012】
導電性ペースト膜の厚みは、乾燥厚みで1〜10μm程度でよく、例えば、スクリーン印刷等で膜を形成できる。
【0013】
カーボンナノチューブ層は、例えば、高濃度のカーボンナノチューブのペーストを導電性ペースト膜上に直接塗布することによって形成することができる。カーボンナノチューブペーストは、カーボンナノチューブ、バインダー、ベヒクル、溶媒(分散媒)等よりなる。バインダーとしてはエチルセルロースが主に使用される。ベヒクルとしては、ガラスパウダーやインジウムや錫などの低融点金属、または高分子樹脂などが用いられる。そして分散媒としては、テルピネオールやBCAなど比較的沸点の高いものが用いられる。配合比としては、カーボンナノチューブが10〜50重量%程度、バインダーが10〜30重量%程度、ベヒクルが1〜10重量%程度、そして溶媒は40〜80重量%程度が適当である。カーボンナノチューブ層を導電性ペースト膜の上にスクリーン印刷する場合は、予め基板を100℃で10分程加熱しておき、導電性ペーストに含まれる溶媒を蒸発させ、導電性ペーストを乾燥させてからの方がカーボンナノチューブペーストの印刷性が向上する。また、カーボンナノチューブ層として、カーボンナノチューブを溶媒に分散して濾過することによって形成したようなカーボンナノチューブシートを導電性ペースト膜の上に貼り付けることによっても形成できる。この場合は、導電性ペーストが乾燥する前にカーボンナノチューブシートを導電性ペースト膜の上に貼り付けた方が、両者の接合性が向上するので望ましい。さらに、カーボンナノチューブ層には黒鉛あるいは金属の微粉末を含有させることによってカーボンナノチューブ層の破断(CNTが毛羽立った状態で割れること)を容易に起こすことができる。金属は例えば銀、金、銅、アルミなどの金属微粒子やITOなどの微粒子を用いることができる。微粉末の粒径は0.1〜2μm程度が適しており、カーボンナノチューブ層における含有量は20重量%以下が良い。カーボンナノチューブ層の厚みは、乾燥厚みで1〜6μm程度が良い。
【0014】
さらに、カーボンナノチューブ層の上に第3層の膜(引き剥がし安定膜)を形成することも好ましい。この膜は、後工程である引き剥がし工程において、カーボンナノチューブ層内での破断を安定化するためのものであり、導電性あるいは不導電性ペーストを用いスクリーン印刷で形成することができる。第3層の厚みは、乾燥厚みで5〜20μm程度が良い。
【0015】
カーボンナノチューブ層を含む膜を形成したら、次いで焼成する。焼成とは、ペースト中の有機成分を炭化させると共に、基板との密着性を強固にするために行う。焼成は大気中で、温度は400〜500℃程度で10〜30分程度行なえばよい。
【0016】
焼成後は、そのまま粘着テープの貼り付けと引き剥がしを行い、カーボンナノチューブ層で破断させることによりカーボンナノチューブの起毛した表面を形成する。
【実施例1】
【0017】
ITO膜を有するガラス基板のITO膜上に導電性ペーストとして銀ペーストを5μmの厚さにスクリーン印刷した。これを100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた。続いて、カーボンナノチューブを10%含有するカーボンナノチューブペーストを同じく5μmの厚さにスクリーン印刷した。次いで100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0018】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0019】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図3に示す像を得た。同図Aに示すように、引き剥がし面には、カーボンナノチューブ(CNT)が密集していることがわかる。このCNT電子放出源で電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は2.0V/μmであった。
【実施例2】
【0020】
第2層のカーボンナノチューブペーストを印刷し乾燥させるまでは、実施例1と同様に行った。その後、カーボンナノチューブ層表面に、第3層の膜を印刷した。第3層の膜は、第1層の導電性ペーストと同じものを用い、厚さ5μmで印刷した。その後、100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0021】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図12を得た。同図Aに示すように、引き剥がしが安定して行われたことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は1.6V/μmであった。
【実施例3】
【0022】
ITO膜を有するガラス基板のITO膜上に導電性ペーストとして銀ペーストを5μmの厚さにスクリーン印刷した。導電性ペーストを乾燥させる前に、厚さ4μmのカーボンナノチューブシート(CNTシート)を軽く押し付けて貼り付けた。次いで100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた。その後は、実施例2と同様に、カーボンナノチューブ層表面に、第3層の膜を印刷し、乾燥後大気中450℃で10分間焼成した。
【0023】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図5を得た。同図Aに示すように、引き剥がしが安定して行われたことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は1.4V/μmであった。
【実施例4】
【0024】
用いたカーボンナノチューブシート以外は実施例3と同様に行った。カーボンナノチューブシートは平均粒径1μmの黒鉛粉を10%混合した厚さ6μmのものを用いた。
【0025】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図7を得た。同図Aに示すように、微粒子の影響で、CNTシートでの引き剥がしが容易になり、CNTの起毛が大きくなったことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は1.2V/μmであった。
【従来例】
【0026】
実施例1〜4と同じでITO膜を有するガラス基板のITO膜上にペーストを20μmの厚さにスクリーン印刷した。用いたペーストは、CNT3重量%、エチルセルロース(バインダー)25重量%、ガラスパウダー(ベヒクル)5重量%およびテルピネオール(溶媒)67重量%よりなるものを用いた。次いで、400℃で10分間焼成した。
【0027】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで、粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0028】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所を変えて撮影し、図9を得た。同図Aに示すように、引き剥がしの際に班ができ、また、同図Bに示すように起毛したCNTが少ないことがわかる。このCNT電子放出源は、電流密度1mA/cm2の放出電流が得られる平均電界値は2.6V/μmであった。
【0029】
各実施例および従来例で得られたカーボンナノチューブ電子放出源の平均電界と放出電流密度との関係を測定した結果を図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明で得られるカーボンナノチューブ電子放出源は、電子放出特性にすぐれていることから、電界放出型電子放出素子として、種々の電気機器、電子装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
図10における■は実施例1、△は実施例2、×は実施例3、◆は従来例をそれぞれ示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上に高濃度のカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板のカーボンナノチューブ層表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法。
【請求項2】
導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上に高濃度のカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られた基板のカーボンナノチューブ層表面に更に第3層の膜を形成する工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板の膜表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを前記第3層の膜とともに引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ層をカーボンナノチューブシートまたは、黒鉛あるいは金属の微粉末を含有するシートとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法。
【請求項1】
導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上に高濃度のカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板のカーボンナノチューブ層表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法。
【請求項2】
導電性を有する基板に導電性ペースト膜を形成した後、該導電性ペースト膜上に高濃度のカーボンナノチューブを含む膜を形成するカーボンナノチューブ層形成工程と、前記工程により得られた基板のカーボンナノチューブ層表面に更に第3層の膜を形成する工程と、前記工程により得られたカーボンナノチューブ層形成基板を400〜500℃で焼成する焼成工程と、前記工程で焼成した基板の膜表面に粘着テープを貼り付け、次いで、これを前記第3層の膜とともに引き剥がすことにより、前記カーボンナノチューブ層表面を起毛状態とする起毛工程とを有することを特徴とするカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ層をカーボンナノチューブシートまたは、黒鉛あるいは金属の微粉末を含有するシートとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカーボンナノチューブ電子放出源の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−171005(P2011−171005A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31540(P2010−31540)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
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