ガスセンサ及びガスセンサ制御装置
【課題】検知部の温度制御の精度を高くし、被測定ガスの検出精度を向上することができる板状のガスセンサを提供する。
【解決手段】測定ガス中の特定ガスを検出する検知部10Aが一方の表面51Aに露出する板状のセンサ素子部50Aを有し、センサ素子部における表面と反対側の裏面52Aの最外層に緻密絶縁層12Aが形成され、緻密絶縁層の直下に検知部の温度を検出するための温度検出手段14Aが配置され、検知部は、一対の電極2Aと、一対の電極に接して設けられた感応部4とを含み、一対の電極間のインピーダンス変化によって測定ガス中のアンモニア濃度を検出する。
【解決手段】測定ガス中の特定ガスを検出する検知部10Aが一方の表面51Aに露出する板状のセンサ素子部50Aを有し、センサ素子部における表面と反対側の裏面52Aの最外層に緻密絶縁層12Aが形成され、緻密絶縁層の直下に検知部の温度を検出するための温度検出手段14Aが配置され、検知部は、一対の電極2Aと、一対の電極に接して設けられた感応部4とを含み、一対の電極間のインピーダンス変化によって測定ガス中のアンモニア濃度を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガスの測定に好適に用いられるガスセンサ及びガスセンサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の燃費向上や燃焼制御を行うガスセンサとして、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサや空燃比センサが知られている。又、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の浄化方法として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction、選択還元触媒)方式が開発されている。尿素SCR方式は、SCR触媒に尿素を添加してアンモニアを発生させ、アンモニアによりNOxを還元するものであり、NOxを還元するアンモニア濃度が適量かどうかを測定するためのアンモニアセンサが求められている。
【0003】
このようなアンモニアセンサとして、酸素イオン伝導体の表面に形成した基準電極と検知電極間の起電力に基づいてアンモニア濃度を検出する起電力式の板状センサが提案されている(特許文献1参照)。このセンサは、アンモニア選択性の検知電極50がセンサ表面に露出する保護層70の直下に配置され、温度センサ84がセンサ内部に配置されている。
又、アンモニア濃度に応じてインピーダンスが変化する感ガス材料(感応層15)で一対の電極を被覆し、電極間に交流を印加した時のインピーダンス変化に基づいてアンモニア濃度を検出するインピーダンス式(固体酸式)の板状センサが提案されている(特許文献2参照)。このセンサは、感応層15がセンサ表面に露出する一方で、温度センサ21がアルミナ製の絶縁基板5内に内蔵されている。
さらに、筒型の起電力式アンモニアセンサとして、外表面に露出するアンモニア選択性のPd触媒層50の直下に検知電極40が配置され、センサ内孔の内側にヒータ素子60がセンサと別体に配置されたものが提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
一方、従来から、センサが有する固体電解質の内部抵抗に基づき、ヒータ素子への印加電圧を制御し、センサを一定温度に制御して測定を安定化させることが行われている(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0045114号明細書(図2)
【特許文献2】特開2005−114355号公報(図3)
【特許文献3】特開2003−83933号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1、2記載の板状センサの場合、検知部をセンサ表面に露出させたり、検知部をセンサ表面に露出する透気性の層(保護層や触媒層)の直下に配置する一方、検知部の温度制御を行う温度センサがセンサ内部に配置されているため、被測定ガスの影響を受けやすい検知部の温度を温度センサで正確に測定できないという問題がある。特に、検知部の温度急変に温度センサが追随し難いという問題がある。
又、特許文献3記載の筒型センサの場合、ヒータ素子がセンサと別体であるため、検知部の温度制御がさらに困難になる。
【0007】
又、特許文献3記載の筒型センサは、ヒータ素子でセンサを所定温度に制御するが、検知部が所定温度に到達するまでに時間を要するため、その間のガス濃度検出が不正確になったり、温度制御中の温度の急変に追随できないためにガス濃度検出が不正確になる。
すなわち、本発明は、検知部の温度制御の精度を高くし、被測定ガスの検出精度を向上することができる板状のガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサは、測定ガス中の特定ガスを検出する検知部が表面に露出し又は前記表面に露出したガス透過性層の直下に前記検知部が配置された板状のセンサ素子部を有し、前記センサ素子部における前記表面と反対側の裏面を構成する最外層に緻密絶縁層が形成され、前記緻密絶縁層の直下に前記検知部の温度を検出するための温度検出手段が配置されている。
このような構成とすると、板状のセンサ素子部の裏面に緻密絶縁層のみを介して温度検出手段が配置されるため、被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部の裏面の温度変化に温度検出手段が従来よりも敏感に追随する。一方、センサ素子部の表面に検知部が露出したり、検知部を表面に露出する透気性の層の直下に配置しているため、検知部の温度は被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部の表面の温度に近い。従って、温度検出手段の測定値は検知部温度に近似したものとなり、検知部の温度を精度よく測定して被測定ガスの検出精度を向上させることができる。
【0009】
前記緻密絶縁層の厚みが50μm以下であることが好ましい。
このような構成とすると、温度検出手段の保護効果を有する限り、緻密絶縁層を薄くすることができ、外気温度に温度検出手段がより敏感に追随して測温精度が向上する。
【0010】
前記検知部は、一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出するものであってもよい。
又、前記検知部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面にそれぞれ対向して積層された一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出するものであってもよい。
【0011】
前記固体電解質層のうち、前記電極が積層された部分を除く露出部が所定の絶縁層で被覆されていることが好ましい。
前記温度検出手段が検出した温度に基づいて制御されるヒータを一体に備えたことが好ましい。
【0012】
本発明のガスセンサ制御装置は、前記ガスセンサの制御に用いられ、前記ガスセンサに接続され、前記温度検出手段が検出した温度に基づいて、前記センサ素子部からの前記特定ガスの検知出力を補正する温度変動補正手段を有する。
温度検出手段により、検知部の温度を精度良く測定でき、被測定ガスの検出精度を向上したガスセンサにおいても、検知部が所定温度に到達するまでの微小な時間を有しているが、本発明のガスセンサ制御装置のようにすると、この微小な時間の間のガス濃度検出を温度検出手段の検出温度に基づいて補正するので、さらに被測定ガスの検出精度を向上できる。また、温度の急変に対しても、追随してガス濃度検出を正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、検知部の温度制御の精度を高くし、被測定ガスの検出精度が向上した板状のガスセンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)200Aの長手方向に沿う断面図を示す。アンモニアセンサ200Aは、アンモニアを検出するセンサ素子部50Aを組み付けたアッセンブリである。アンモニアセンサ200Aは、軸線方向に延びる板状のセンサ素子部50Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がセンサ素子部50Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、センサ素子部50Aと絶縁コンタクト部166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを備えている。
【0015】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。また、主体金具138は、センサ素子部50Aの先端側を貫通孔154の先端側外部に配置し、電極端子部30A〜34Aを貫通孔154の後端側外部に配置する状態で、センサ素子部50Aを貫通孔154に保持している。さらに、棚部152は、軸線方向に垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。
【0016】
なお、主体金具138の貫通孔154の内部には、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲む状態で環状形状のセラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、および上述のセラミックスリーブ106がこの順に先端側から後端側にかけて積層されている。また、セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されており、セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153やセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0017】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、センサ素子部50Aの突出部分を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外部プロテクタ142および内部プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。
【0018】
そして、主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。また、外筒144の後端側(図1における上方)の開口部には、センサ素子部50Aの電極端子部30A〜34Aとそれぞれ電気的に接続される5本のリード線146(図1では3本のみ)が挿通されるリード線挿通孔161が形成されたグロメット150が配置されている。
【0019】
また、主体金具138の後端部140より突出されたセンサ素子部50Aの後端側(図1における上方)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。なお、この絶縁コンタクト部材166は、センサ素子部50Aの後端側の表面に形成される電極端子部30A〜34Aの周囲に配置される。この絶縁コンタクト部材166は、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成されると共に、外表面から径方向外側に突出する鍔部167が備えられている。絶縁コンタクト部材166は、鍔部167が保持部材169を介して外筒144に当接することで、外筒144の内部に配置される。そして、絶縁コンタクト部材166側の接続端子110と、センサ素子部50Aの電極端子部40A〜44Aとが電気的に接続され、リード線146により外部と導通するようになっている。
【0020】
次に、センサ素子部50Aの構成について図2を用いて説明する。センサ素子部50Aは長尺板状であり、排気ガス中のアンモニアガスを検出する検知部10Aが表面51Aの先端部に露出し、表面51Aとは反対側に位置する裏面52Aを構成する最外層に、後述する緻密絶縁層12Aが形成されている。又、センサ素子部50Aの後端部には、電極端子部40A〜44Aがそれぞれ露出している。
【0021】
図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。センサ素子部50Aは固体酸材料を用いた抵抗変化(インピーダンス)式の板状アンモニアセンサである。
センサ素子部50Aは、アルミナ製の絶縁層24A、26Aを積層して本体部分とし、絶縁層24A表面左端に一対の櫛歯電極2Aが配置されている。一対の櫛歯電極2Aから絶縁層24Aの長手方向に沿ってそれぞれリード30A,31Aが延び、リード30A,31A上に絶縁層20Aが被覆され、絶縁層20Aがセンサ素子部の表面51Aを形成している。但し、リード30A,31Aの右端は絶縁層20Aで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部40A、41Aを形成している。
一対の櫛歯電極2Aは、例えば金を主成分とし、それぞれ櫛状の2つの電極が離間して配置されている。また、リード30A,31Aは、例えば白金を主成分とする材料で構成している。
【0022】
櫛歯電極2A上には、櫛歯電極2Aを完全に覆う感応層(感応部)4が形成され、櫛歯電極2Aと感応層4とによって検知部10Aが構成されている。感応層4はアンモニア濃度に応じてインピーダンス(Z)が変化する感ガス材料であり、通常、固体酸物質を用いることができるが、特開2005−114355号公報(例えば段落0066)に記載された固体超強酸物質を用いるのが好ましい。なお、特開2005−114355号公報のすべての記載事項は本発明に引用することができる。
櫛歯電極2A間に交流を印加することにより、電極2A間に埋設された感応層4のインピーダンス(Z)が変化するので、インピーダンス変化に基づいて排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
なお、絶縁層20Aは電極2Aの側縁を被覆しているが、感応層4の上面は絶縁層20Aで被覆されずに露出し、排ガス雰囲気に曝されるようになっている。つまり、検知部10A(感応層4を含む)はセンサ素子部の表面51Aに露出している。
【0023】
一方、絶縁層26Aの外側(図3の下面)には、測温抵抗体である温度検出手段(温度センサ)14Aが配置され、絶縁層24Aと絶縁層26Aの間にはセンサ素子部50Aを加熱する抵抗体であるヒータ16Aが介装されている。さらに、温度検出手段14Aから絶縁層26Aの長手方向に沿ってそれぞれリード32A,33Aが延びている。また、ヒータ16Aから絶縁層26Aの長手方向に沿ってそれぞれリード35A、36Aが延びており、絶縁層26Aに形成されたスルーホールを介して、電極端子部42A、44Aに接続している。ヒータ16Aは、温度検出手段14Aの測温結果に基づいて加熱され、センサ素子部50A(の検知部10A)を活性温度に昇温して動作を安定化させるために用いられる。
温度検出手段14A、ヒータ16A、リード32A,33A、35A、36Aは、それぞれ例えば白金を主成分とする。
【0024】
温度検出手段14Aの外表面は、薄い緻密絶縁層12Aで被覆されているが、リード32A,33Aの右端は絶縁層12Aで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部42A、43Aを形成している。
緻密絶縁層12Aは、温度検出手段14Aが排ガス雰囲気によって経時変化することを防止する保護層として機能する。ここで、絶縁層12Aが緻密であるとは、緻密絶縁層12Aをガスが透過しない場合をいう。絶縁層12Aが緻密である場合、得られたセンサ素子部50Aのうち、絶縁層12Aが形成された部位を、水性インクを希釈した水溶液に浸漬し、緻密絶縁層12Aを通して温度検出手段14Aを目視したとき、温度検出手段14Aが水性インクで着色しない。一方、絶縁層12Aが緻密でないと、緻密絶縁層12Aを通して温度検出手段14Aの形状(図4の蛇行パターンなど)が着色して見える。
これは、温度検出手段14Aもポーラスであり、緻密絶縁層12Aを水性インクが透過した場合には温度検出手段14Aに水性インクが浸透するためである。
【0025】
緻密絶縁層12Aは、温度検出手段14Aの保護効果を有する限り、薄い方がよく、緻密絶縁層12Aが厚くなり過ぎると、緻密絶縁層12A外側の外気温度に温度検出手段14Aが追随し難くなり、測温精度が低下する。このような目的に沿う限り、緻密絶縁層12Aの厚みは特に限定されないが、通常、数〜数10μmの厚みとすることができ、より好ましくは数μm〜50μmとすることができる。
緻密絶縁層12Aとしては、絶縁性を有するセラミック焼結体を用いることができ、アルミナやムライト等の酸化物系セラミックを例示することができる。
このようにして、センサ素子部50Aにおける裏面52Aの最外層に薄い緻密絶縁層12Aが形成され、緻密絶縁層12Aの直下に温度検出手段14Aが配置される。
【0026】
そして、図9のガスセンサ制御装置300により、温度検出手段14Aの測定値に基づいてヒータ16Aの印加電圧が制御され、センサ素子部50Aの検知部10Aが最適温度(活性化温度)に加熱制御される。
【0027】
次に、センサ素子部50Aの製造方法の一例を、展開図4を参照して簡単に説明する。まず、センサ素子部の本体となる比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層24A1,26Aを用意し、絶縁層26A上にPt、アルミナ(共素地として用いる無機酸化物)バインダ及び有機溶剤を含む電極ペースト(以下、「Pt系ペースト」という)をスクリーン印刷してヒータ16A(及びこれから延長するリード35A,36A)を形成する。
【0028】
一方、絶縁層26Aの下面にPt系ペーストをスクリーン印刷して温度検出手段14A(及びこれから延長するリード32A、33A、34A、及び電極端子部42A、43A、44A)を形成し、温度検出手段14A表面にアルミナ、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層12Aを形成する、なお、絶縁層12Aの厚みは、ペーストの塗布量や塗布回数によって調整することができる。
【0029】
次いで、絶縁層24A1上にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード30A,31A,電極端子部40A、41Aを形成し、リード30A,31Aの左端に隣接して絶縁層24A1上に薄い多孔質層25を形成する。多孔質層25は、絶縁層24A1上を粗面化して櫛歯電極2Aとの密着性を高めるためのものであり、図3では特に表示されていない。
さらに、リード30A,31Aを覆うように絶縁層24A1上に絶縁材料(アルミナ等)、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層20Aを形成する。そして、絶縁層24A1の下に絶縁層24A2を形成した後、絶縁層24A2と絶縁層26Aとを合わせて積層圧着し、さらに、所定形状に切断し、所定温度(例えば約400℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば1520℃)で焼成する。なお、絶縁層24A2は、絶縁層24A1と絶縁層26Aとの密着性を高めるものであり、図3では、絶縁層24A1、24A2を合わせて絶縁層24Aと図示している。
【0030】
その後、リード30A,31Aの左端にそれぞれ接続するようにして、Au、バインダ及び有機溶剤を含む電極ペーストをスクリーン印刷して櫛歯電極2Aを形成し、所定温度(例えば、250℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば、1000℃)で焼成する。
さらに、櫛歯電極2Aを覆って感応層4を形成する。感応層4の形成方法は、例えば特開2005−114355号公報(例えば段落0075〜0078)に記載されたA法に基づいて行うことができる。つまり、A法に基づいてWがZrO2に含有した粉末を作製し、この粉末をバインダ及び有機溶剤と混合してスラリーとし、櫛歯電極2A上に塗布後、所定温度(例えば600℃)で焼成して感応層を形成する。
【0031】
以上のように、上記実施形態において、板状のセンサ素子部50Aの裏面52A側に薄い緻密絶縁層12Aの直下に温度検出手段14Aが配置されるため、被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部50Aの裏面52Aの温度変化に温度検出手段14Aが敏感に追随する。一方、センサ素子部50Aの表面51Aに検知部10Aが露出しているため、検知部10Aの温度は被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部50Aの表面51Aの温度に近い。従って、温度検出手段14Aの測定値は検知部10A温度に近似したものとなり、検知部10Aの温度を精度よく測定して被測定ガスの検出精度を向上させることができる。
なお、検知部10Aの最外側に位置する感応層4の表面にガス透過性の保護層や被毒防止層等を設けてもよいが、この場合、感応層4(検知部10A)はセンサ素子部50Aの表面51Aに露出していない。但し、この場合も感応層4(検知部10A)はガス透過性の層を介してセンサ素子部50Aの表面51Aに露出する点に変わりない。従って、本発明においては、検知部10Aがセンサ素子部50Aの表面51Aから外気に曝されるようになっている構造であればよく、検知部10Aがセンサ素子部50Aの表面51Aに直接露出していてもよく、検知部50A表面にガス透過性層が被覆されていてもよい。
【0032】
又、第1の実施形態において、ヒータ16Aはセンサ素子部50Aと一体化しているため、例えば特開2003−83933号公報に記載の筒型センサのようにヒータが素子部と別体である場合に比べ、ヒータの加熱が直ちに検知部に伝達され、温度制御が精度よくかつ迅速に行われる。
【0033】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)について図5を参照して説明する。
図5は、第2の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部50Cの長手方向に沿う断面図を示す。センサ素子部50Cは起電力式の板状アンモニアセンサである。第2の実施形態に係るアンモニアセンサにおいて、センサ素子部50C以外の(アッセンブリ)構造は第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
センサ素子部50Cは、アルミナ製の絶縁層24C、26Cが積層され、絶縁層24Cの外側に固体電解質層6が積層された構造を有する。絶縁層24Cの上面は所定の深さで平面視コの字状に切り抜かれ、コの字の開口が図5の左を向くように配置される。これにより、絶縁層24Cの切り抜き部分と固体電解質層6の下面とによって内部空間が形成され、この空間が基準ガス室Sとなる。
【0034】
基準ガス室Sに面した固体電解質層6の下面には、平面視ほぼ矩形状の基準電極2Cが配置され、固体電解質層6の上面には基準電極2Cと対向する位置に検知電極2Bが配置されている。そして、検知電極2B、基準電極2C、固体電解質層6とによって検知部10Cが構成される。
検知電極2Bに接続し固体電解質層6上面の長手方向に沿ってリード30Cが延び、リード30C上に絶縁層20Cが被覆され、絶縁層20Cがセンサ素子部の表面51Cを形成している。但し、リード30C右端は絶縁層20Cで被覆されずに露出し、電極端子部40C(さらに、後述するリード37Cと接続する電極端子部41C)を形成している。又、基準電極2Cに接続し固体電解質層6下面の長手方向に沿ってリード37Cが延びており、固体電解質層6に形成されたスルーホールを介して、電極端子部41Cに接続している。
そして、検知電極2B、基準電極2C間の電位差を測定することにより、排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
【0035】
検知電極2Bは例えば金を主成分とする。基準電極2Cやリード30C,37C、電極端子部40C、41Cは例えば白金を主成分とし、固体電解質層6は例えばZrO2等の酸素イオン伝導性材料を用いることができる。
なお、絶縁層20Cは検知電極2Bの側縁を被覆しているが、検知電極2Bの上面は絶縁層20Cで被覆されずに露出し、排ガス雰囲気に曝されるようになっている。つまり、検知部10Cはセンサ素子部の表面51Cに露出している。
又、検知電極2B上に、検知電極2Bを完全に覆う選択(反応)層が形成されていてもよい。選択層については後述する。
【0036】
一方、絶縁層26Cの外側(下面)には、測温抵抗体である温度検出手段(温度センサ)14Cが配置され、絶縁層24Cと絶縁層26Cの間にはセンサ素子部50Cを加熱する抵抗体であるヒータ16Cが介装されている。さらに、温度検出手段14Cから絶縁層26Cの長手方向に沿ってそれぞれリード32C,33Cが延びている。また、ヒータ16Cから絶縁層26Cの長手方向に沿ってそれぞれリード35C、36Cが延びており、絶縁層26Cに形成されたスルーホールを介して、電極端子部42C、44Cに接続している。ヒータ16Cは、温度検出手段14Cの測温結果に基づいて加熱され、センサ素子部50Cを活性温度に昇温し、固体電解質層の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
温度検出手段14C、ヒータ16C、リード32C,33C、35C、36Cは、それぞれ例えば白金を主成分とする。
【0037】
温度検出手段14Cの表面は、薄い緻密絶縁層12Cで被覆されているが、リード32C,33Cの右端は絶縁層12Cで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部42C、43Cを形成している。
緻密絶縁層12Cは、第1の実施形態における緻密絶縁層12Aと同様であるので説明を省略する。
このようにして、センサ素子部50Cにおける検知部10Cと反対側の裏面52Cの最外層に薄い緻密絶縁層12Cが形成され、緻密絶縁層12Cの直下に温度検出手段14Cが配置される。
【0038】
なお、検知電極2B上に選択層が形成される場合、選択層は、被測定ガス中のアンモニア以外の可燃性ガス成分を燃焼させる役割を持ち、選択層が存在すると、可燃性ガス成分の影響を受けずに被測定ガス中のアンモニアを検出することができる。選択層は通常、金属酸化物を主成分とするが、特に酸化バナジウム(V2O5)及び酸化ビスマス(Bi2O3)を所定比で含む材料(例えば、酸化ビスマスバナジウム:BiVO4)から形成することが好ましい。
又、検知電極2B上、又は上記選択層上に、ガス透過性の保護層を設けてもよい。そして、検知電極2B上に選択層や保護層が形成されている場合、検知電極2B(検知部)はセンサ素子部の表面に露出していないが、これらの層をガス透過性層とすることにより、検知電極2B(検知部)がガス透過性層を介してセンサ素子部50Cの表面51Cに露出するようになる。
【0039】
次に、センサ素子部50Cの製造方法の一例を、展開図6を参照して簡単に説明する。まず、比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層26Cを用意し、絶縁層26C上にPt系ペーストをスクリーン印刷してヒータ16C(及びこれから延長するリード35C,36C)を形成する。さらに、ヒータ16C上に絶縁材料(アルミナ等)、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層24C4を形成する。
【0040】
一方、絶縁層26Cの下面に、温度検出手段14C,絶縁層12Cを第1の実施形態と同様にして形成する。
【0041】
次に、ジルコニア系粉末、バインダ及び有機溶剤を含むスラリーからドクターブレード法により、固体電解質層6となるグリーンシートを製造し、固体電解質層6の下側に左端に矩形孔を有する絶縁層24C1を積層する。そして、絶縁層24C1の矩形孔内にPt系ペーストをスクリーン印刷して基準電極2C(及びこれから延長するリード37C)を形成する。さらに、左端に矩形孔を有する絶縁層24C2を、基準電極2Cが矩形孔内に入るように重ねてスクリーン印刷する。基準電極2Cは、絶縁層24C2の矩形孔から後述する絶縁層24C3のコの字で形成される内部空間(基準ガス室)に面している。なお、固体電解質層6は、固体電解質ペーストをスクリーン印刷して形成してもよい。
【0042】
また、左端に矩形孔を有する絶縁層22Cを固体電解質層4上にスクリーン印刷し、絶縁層22C上にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード30C、電極端子部40C、41Cを形成する。さらに、リード30Cを覆うようにして左端に矩形孔を有する絶縁層20Cをスクリーン印刷する。
【0043】
そして、左先端に向けてコの字に開口する形状の絶縁層24C3を絶縁層24C4上にスクリーン印刷する。そして、絶縁層24C3の上に絶縁層24C2を合わせて積層圧着し、さらに、所定形状に切断し、所定温度(例えば約400℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば1520℃)で焼成する。なお、絶縁層24C2〜24C4は、基準電極2Cとヒータ16の電気絶縁性を高めるものであり、図5では、絶縁層24C2〜24C4を合わせて絶縁層24Cと図示している。
【0044】
なお、絶縁層24C3に代えて、幅方向中央部が開口して右端に延びる絶縁層24C5を形成することができる。この場合、絶縁層24C5で形成される内部空間(基準ガス室)は、基準電極2C側からセンサ素子部50Cの長手方向に延びて右端で基準ガス(大気)に通じる。
又、基準ガス室は空間であってもよく、多孔質で充填されていてもよい。
【0045】
その後、絶縁層20C、22Cの矩形孔内にAu系ペーストをスクリーン印刷して検知電極2Bを形成し、所定温度(例えば、250℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば、1000℃)で焼成する。ここで、検知電極2Bはリード30Cと接続し、基準電極2C及び検知電極2Bは固体電解質層6の上下面に接している。
【0046】
さらに、選択層が形成される場合、検知電極2B上に選択層となる、金属酸化物を主成分とするペーストをスクリーン印刷し、所定温度(例えば750℃)で焼成して選択層を形成する。
【0047】
第2の実施形態においても、板状のセンサ素子部50Cの裏面52C側に薄い緻密絶縁層12Cを介して温度検出手段14Cが配置されるため、センサ素子部50Cの裏面52Cの温度変化に温度検出手段14Cが敏感に追随する。一方、センサ素子部50Cの表面51Cに検知部10Cが露出しているため、検知部10Cの温度はセンサ素子部50Cの表面51Cの温度に近い。従って、温度検出手段14Cの測定値は検知部10C温度に近似したものとなり、検知部10Cの温度を精度よく測定して被測定ガスの検出精度を向上させることができる。
【0048】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)のセンサ素子部50Dについて展開図7を参照して説明する。第3の実施形態に係るガスセンサは、図6のセンサ素子部のうち絶縁層24C4から検知電極2Bに至る積層構造を、図7の絶縁層24Dから検知電極2Dに至る積層構造に置換したこと以外は、第2の実施形態に係るガスセンサのセンサ素子部と同様であるので、同一部分の説明を省略する。
【0049】
図7において、絶縁層24Dの上に固体電解質層6D(固体電解質層6と同一)を積層し、さらに、左端部において長辺状の2個の開口が幅方向に並ぶ絶縁層22Dを固体電解質層6D上にスクリーン印刷し、絶縁層22D上にPt系ペーストをスクリーン印刷して基準電極2E、リード30D,31D、電極端子部40D,41Dを形成する。さらに、リード30D,31Dを覆うように絶縁層20Dをスクリーン印刷する。これによりリード30D、31Dは絶縁層20Dに完全に被覆される。一方、基準電極2Eは、絶縁層20Dの一方の開口から露出すると共に、この開口を介して固体電解質層6D表面に接する。
さらに、絶縁層20Dの他の開口内にAu系ペーストをスクリーン印刷して検知電極2Dを形成する。検知電極2Dは、絶縁層22Dの他の開口を介して固体電解質層6D表面に接すると共に、リード30Dと接続している。
【0050】
第3の実施形態においては、基準電極2Eと検知電極2Dがいずれもセンサ素子部50D表面に露出することになる。又、第3の実施形態の場合、基準電極2Eと検知電極2Dは固体電解質層6Dの同じ面側に位置する。
【0051】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)のセンサ素子部50Eについて展開図8を参照して説明する。第4の実施形態に係るガスセンサは、図4又は図6の温度検出手段14A又は14Cを、図8の温度検出手段14Eに置換したこと以外は、第1又は第2の実施形態に係るガスセンサのセンサ素子と同様であるので、同一部分の説明を省略する。
図8において、温度検出手段14Eは、固体電解質層14g(固体電解質層6と同一)の下面に、左端部において長辺状の2個の開口が幅方向に並ぶ絶縁層14fをスクリーン印刷し、さらに絶縁層14fの下面にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード38E,39E1及び電極端子部48E、49E1,49E2を形成する。リード38E,39Eの左端部は、それぞれ絶縁層14fの2個の開口を介して固体電解質層14g下面に接する。ここで、固体電解質層14gの抵抗が温度によって変化するため、リード38E,39E間に生じる内部抵抗を検出することにより、固体電解質層14gの温度を測定することができ、温度検出手段として機能する。
このように、温度検出手段として、抵抗体の他、固体電解質の内部抵抗を測定するものを用いることができる。
【0052】
次に、本発明のガスセンサ制御装置について、ブロック図9を参照して説明する。ガスセンサ制御装置300は、ガスセンサ200、及び車両側のエンジン制御装置(以下、ECUという)400に電気的に接続されて、ガスセンサを制御し、センサ出力をECUに送信する。なお、図9においては、ガスセンサ200内のセンサ素子部50A(図3と同一のもの)のみ記載する。
ガスセンサ制御装置300は、マイクロコンピュータ(以下、MCという)302、メモリ304、アナログ回路部306、DA/ADコンバータ308を備えている。アナログ回路部306はセンサ素子部50Aの各リード30A〜36Aに接続する電極端子部40A〜44Aに接続され、(なお、図9においては、分かりやすく説明するため、リード35A、36Aとアナログ回路306とを接続している。)センサ素子部50Aからのガス濃度信号、ヒータ出力、温度センサ出力の増幅や安定化等を行う。MC302はガスセンサ制御装置全体を制御し、CPU(中央演算処理装置)、ROM、RAMを備え、ROM等に予め格納されたプログラムがCPUにより実行される。メモリ304は、後述する温度補正のためのマップを記憶する。
そして、ガスセンサ制御装置300で温度補正されたガスの濃度信号はECUに送信され、ECUは濃度信号に基づいて排気ガス中のアンモニアガス濃度を演算し、エンジンの運転状態の制御などの処理を実行する。
なお、MC302が本発明の温度変動補正手段に相当する。
【0053】
図10は、メモリ304に記憶されたマップのデータ構成を示す。マップにはセンサ素子部の温度に応じて、検知部によるアンモニアガスのセンサ出力(ガス濃度信号,以下、「センサ出力」はガス濃度信号を意味し、温度検出手段(温度センサ)からの出力である温度センサ出力と区別する)の補正係数が記憶されている。なお、温度650℃における濃度信号を基準としている。
そして、MC302は、センサ素子部の温度に基づき、マップを参照して補正係数を取得する。なお、本実施例において、例えば、素子温度がマップ間に存在する場合(例えば、NH3濃度50ppm、素子温度635℃の場合等)前後の補正係数の補間結果を算出し、補正係数とした(例えば、NH3濃度50ppm、素子温度630℃の補正係数0.88と、NH3濃度50ppm、素子温度640℃の補正係数0.94との補間結果を算出する)。なお、マップに限らず、所定の補正式をメモリ304に記憶してもよい。
【0054】
次に、図11を参照して、MC(CPU)302による補正処理について説明する。
まず、MC302は、センサ素子部50Aからセンサ出力を取得する(ステップS2)。次に、MC302は温度検出手段(温度センサ)14Aから温度出力を読取る(ステップS4)。なお、MC302はDA/ADコンバータ308を介して、温度のアナログ出力をデジタル値に変換して読み取る。そして、読み取った温度出力が基準温度か否かを判定する(ステップS6)。読み取った温度出力が基準温度であればYESとなり、そのままセンサ出力をECUに送信する(ステップS8)。他方、読み取った温度出力が基準温度でなければNOとなり、ステップS10に進む。ステップS10では、MC302が、ステップS2で取得した温度をキーとして図10のマップを参照して補正値を取得し(ステップS6)、ステップS4で取得したセンサ出力に補正値を乗じて補正を行う(ステップS8)。
そして、MC302は、補正後のセンサ出力をECUに送信する(ステップS10)。
【0055】
本発明のガスセンサ制御装置は、上記したガスセンサを用いているため、温度検出手段の温度検出感度が高く、ガス流速の影響によってガス温度が変動した場合にも、速やかにガス濃度信号の温度変化を補正し、ガス濃度検出が正確になる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明は、板状センサ素子部の一方の表面に検知部が露出する(又はガス透過性層を介して露出する)あらゆるガスセンサに適用可能であり、例えば、自動車や各種内燃機関の排ガス中や、ボイラ等の燃焼ガス中のNOxガス濃度検出用ガスセンサや、全領域空燃比センサ等の酸素センサに適用することができるが、これらの用途に限られない。例えば、NOxガスセンサの場合、第2ポンプセルの設定電圧を変えることにより、NOX以外のガス(例えばCOXやH2O、HCなど)を選択時に分解させ、これらのガス濃度を測定することもできる。又、各ガスを分解する設定電圧を段階的に変えることにより、O2,NOX,H2O,CO2等の多成分ガスを1つのガスセンサで測定することもできる。
又、酸素センサとしては、センサ素子の一方に電極が露出し、センサ素子内部の大気導入室に他の電極が面したTF(ジルコニア板型)酸素センサが挙げられる。
【実施例】
【0057】
(1)センサの作製
実施例1:上記第1の実施形態に係るインピーダンス式(固体酸式)アンモニアセンサを作製した。
実施例2:上記第2の実施形態に係る起電力式アンモニアセンサを作製した。
比較例1:上記第1の実施形態に係るインピーダンス式アンモニアセンサにおいて、緻密絶縁層12A及び温度検出手段14Aを設けず、その代わりに絶縁層24A内に温度検出手段(サーミスタ)を埋設した。この温度検出手段の配置は、特開2005-114355号公報の図3と同様である。
比較例2:上記第2の実施形態に係る起電力式アンモニアセンサにおいて、温度検出手段14Cとヒータ16Cの位置を逆にした。
【0058】
(2)センサの特性評価
モデルガス発生装置を使用し、センサ特性の評価を行った。モデルガス発生装置のガス組成は、O2=10% CO2=5% H2O=5% N2=bal. NH3=0又は100ppmとした。そして、モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置し、ガス温度を180℃と280℃の2点で変化させた時の、被測定ガス中のアンモニア濃度を各センサで測定し、ガス温度変化に対する追随性(センサ感度)を評価した。センサ素子部の制御温度は、インピーダンス式アンモニアセンサについて400℃とし、起電力式アンモニアセンサについて650℃とした。
センサ感度は、下記算出式を用いた。
インピーダンス式センサのセンサ感度=
{Z(ガス中NH3=0ppm)−Z(ガス中NH3=100ppm)}/Z(ガス中NH3=0ppm)×100
但し、Zはセンサが示すインピーダンス値
起電力式センサのセンサ感度=センサ起電力(ガス中NH3=100ppm)−センサ起電力(ガス中NH3=0ppm)
【0059】
モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させた時の、経過時間に対するセンサ感度を図12、図13に示す。
実施例1,2の場合、ガス温度が急変(180℃と280℃)しても、センサ特性(感度)の変化が少なく、又、センサ感度が定常状態へ戻る緩和時間も短く、センサ特性への影響を低減できることがわかった。これは、温度検出手段がセンサ表層付近に配置され、検知部温度とほぼ同様の温度を検出することができ、温度計測結果に基づいて直ちに検知部温度を制御できるためである。
一方、比較例1、2の場合、ガス温度が急変すると、センサ感度が大きく変化し、又、センサ感度が定常状態へ戻る緩和時間も長くなった。これは、温度検出手段がセンサ内部に配置され、センサ表層の検知部温度を検出することができず、温度計測結果に基づいて検知部温度を制御するのに時間がかかり、安定した出力を得るまでに時間を要するためである。なお、固体酸材料は、制御温度が低いほど高感度となる傾向がある。
又、実施例2の変形例である、上記上記第3、第4の実施形態に係る起電力式アンモニアセンサについても同様に実験を行ったが、実施例2と同様に良好な結果であった。
【0060】
(3)ガスセンサ制御装置による温度補正の効果
次に、コントローラ(ガスセンサ制御装置)として、図9に示す構成のものを用い、実施例1、2のアンモニアセンサと接続した。そして、図11の処理フローに従って、センサ出力(ガス濃度信号)を温度補正した。補正には図10に示すマップを用いた。
実施例1、2と同様にしてモデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置し、ガス温度を280℃で一定とし、ガス流速を1m/sから6m/sへ変化させ1m/sに戻した時の、経過時間に対するセンサ感度(出力)を図14、図15に示す。
【0061】
センサ出力を温度補正した実施例(図14)の場合、ガスセンサ素子の温度が急変しても、センサ出力は安定していた。一方、センサ出力を温度補正しなかった比較例(図15)の場合、ガスセンサ素子の温度が急変すると、センサ出力も変動した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)の長手方向に沿う断面図である。
【図2】センサ素子部50Aの構成を示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】センサ素子部50Aの展開図である。
【図5】第2の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部50Cの長手方向に沿う断面図である。
【図6】センサ素子部50Cの展開図である。
【図7】第3の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部の一部の展開図である。
【図8】第4の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部の一部の展開図である。
【図9】本発明のガスセンサ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図10】メモリ304に記憶されたマップのデータ構成を示す図である。
【図11】MC(CPU)302による補正処理フローを示す図である。
【図12】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させた時の、経過時間に対するセンサ感度を示す図である。
【図13】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させた時の、経過時間に対するセンサ感度を示す別の図である。
【図14】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させ、センサ出力を温度補正した時の、経過時間に対するセンサ感度を示す図である。
【図15】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させ、センサ出力を温度補正しなかった時の、経過時間に対するセンサ感度を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
2A〜2E 電極(検知電極、基準電極)
4 感応部(感応層)
6、6D 固体電解質層
10A、10C、10D 検知部
12A、12C 緻密絶縁層
14A、14C、14E 温度検出手段
16A、16C ヒータ
50A〜50E センサ素子部
51A、51C センサ素子部の表面
52A、52C 表面と反対側の裏面
300 ガスセンサ制御装置
302 温度変動補正手段(マイクロコンピュータ;MC)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガスの測定に好適に用いられるガスセンサ及びガスセンサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の燃費向上や燃焼制御を行うガスセンサとして、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサや空燃比センサが知られている。又、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の浄化方法として、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction、選択還元触媒)方式が開発されている。尿素SCR方式は、SCR触媒に尿素を添加してアンモニアを発生させ、アンモニアによりNOxを還元するものであり、NOxを還元するアンモニア濃度が適量かどうかを測定するためのアンモニアセンサが求められている。
【0003】
このようなアンモニアセンサとして、酸素イオン伝導体の表面に形成した基準電極と検知電極間の起電力に基づいてアンモニア濃度を検出する起電力式の板状センサが提案されている(特許文献1参照)。このセンサは、アンモニア選択性の検知電極50がセンサ表面に露出する保護層70の直下に配置され、温度センサ84がセンサ内部に配置されている。
又、アンモニア濃度に応じてインピーダンスが変化する感ガス材料(感応層15)で一対の電極を被覆し、電極間に交流を印加した時のインピーダンス変化に基づいてアンモニア濃度を検出するインピーダンス式(固体酸式)の板状センサが提案されている(特許文献2参照)。このセンサは、感応層15がセンサ表面に露出する一方で、温度センサ21がアルミナ製の絶縁基板5内に内蔵されている。
さらに、筒型の起電力式アンモニアセンサとして、外表面に露出するアンモニア選択性のPd触媒層50の直下に検知電極40が配置され、センサ内孔の内側にヒータ素子60がセンサと別体に配置されたものが提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
一方、従来から、センサが有する固体電解質の内部抵抗に基づき、ヒータ素子への印加電圧を制御し、センサを一定温度に制御して測定を安定化させることが行われている(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0045114号明細書(図2)
【特許文献2】特開2005−114355号公報(図3)
【特許文献3】特開2003−83933号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1、2記載の板状センサの場合、検知部をセンサ表面に露出させたり、検知部をセンサ表面に露出する透気性の層(保護層や触媒層)の直下に配置する一方、検知部の温度制御を行う温度センサがセンサ内部に配置されているため、被測定ガスの影響を受けやすい検知部の温度を温度センサで正確に測定できないという問題がある。特に、検知部の温度急変に温度センサが追随し難いという問題がある。
又、特許文献3記載の筒型センサの場合、ヒータ素子がセンサと別体であるため、検知部の温度制御がさらに困難になる。
【0007】
又、特許文献3記載の筒型センサは、ヒータ素子でセンサを所定温度に制御するが、検知部が所定温度に到達するまでに時間を要するため、その間のガス濃度検出が不正確になったり、温度制御中の温度の急変に追随できないためにガス濃度検出が不正確になる。
すなわち、本発明は、検知部の温度制御の精度を高くし、被測定ガスの検出精度を向上することができる板状のガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサは、測定ガス中の特定ガスを検出する検知部が表面に露出し又は前記表面に露出したガス透過性層の直下に前記検知部が配置された板状のセンサ素子部を有し、前記センサ素子部における前記表面と反対側の裏面を構成する最外層に緻密絶縁層が形成され、前記緻密絶縁層の直下に前記検知部の温度を検出するための温度検出手段が配置されている。
このような構成とすると、板状のセンサ素子部の裏面に緻密絶縁層のみを介して温度検出手段が配置されるため、被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部の裏面の温度変化に温度検出手段が従来よりも敏感に追随する。一方、センサ素子部の表面に検知部が露出したり、検知部を表面に露出する透気性の層の直下に配置しているため、検知部の温度は被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部の表面の温度に近い。従って、温度検出手段の測定値は検知部温度に近似したものとなり、検知部の温度を精度よく測定して被測定ガスの検出精度を向上させることができる。
【0009】
前記緻密絶縁層の厚みが50μm以下であることが好ましい。
このような構成とすると、温度検出手段の保護効果を有する限り、緻密絶縁層を薄くすることができ、外気温度に温度検出手段がより敏感に追随して測温精度が向上する。
【0010】
前記検知部は、一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出するものであってもよい。
又、前記検知部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面にそれぞれ対向して積層された一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出するものであってもよい。
【0011】
前記固体電解質層のうち、前記電極が積層された部分を除く露出部が所定の絶縁層で被覆されていることが好ましい。
前記温度検出手段が検出した温度に基づいて制御されるヒータを一体に備えたことが好ましい。
【0012】
本発明のガスセンサ制御装置は、前記ガスセンサの制御に用いられ、前記ガスセンサに接続され、前記温度検出手段が検出した温度に基づいて、前記センサ素子部からの前記特定ガスの検知出力を補正する温度変動補正手段を有する。
温度検出手段により、検知部の温度を精度良く測定でき、被測定ガスの検出精度を向上したガスセンサにおいても、検知部が所定温度に到達するまでの微小な時間を有しているが、本発明のガスセンサ制御装置のようにすると、この微小な時間の間のガス濃度検出を温度検出手段の検出温度に基づいて補正するので、さらに被測定ガスの検出精度を向上できる。また、温度の急変に対しても、追随してガス濃度検出を正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、検知部の温度制御の精度を高くし、被測定ガスの検出精度が向上した板状のガスセンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)200Aの長手方向に沿う断面図を示す。アンモニアセンサ200Aは、アンモニアを検出するセンサ素子部50Aを組み付けたアッセンブリである。アンモニアセンサ200Aは、軸線方向に延びる板状のセンサ素子部50Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がセンサ素子部50Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、センサ素子部50Aと絶縁コンタクト部166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを備えている。
【0015】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。また、主体金具138は、センサ素子部50Aの先端側を貫通孔154の先端側外部に配置し、電極端子部30A〜34Aを貫通孔154の後端側外部に配置する状態で、センサ素子部50Aを貫通孔154に保持している。さらに、棚部152は、軸線方向に垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。
【0016】
なお、主体金具138の貫通孔154の内部には、センサ素子部50Aの径方向周囲を取り囲む状態で環状形状のセラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、および上述のセラミックスリーブ106がこの順に先端側から後端側にかけて積層されている。また、セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されており、セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153やセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0017】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、センサ素子部50Aの突出部分を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外部プロテクタ142および内部プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。
【0018】
そして、主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。また、外筒144の後端側(図1における上方)の開口部には、センサ素子部50Aの電極端子部30A〜34Aとそれぞれ電気的に接続される5本のリード線146(図1では3本のみ)が挿通されるリード線挿通孔161が形成されたグロメット150が配置されている。
【0019】
また、主体金具138の後端部140より突出されたセンサ素子部50Aの後端側(図1における上方)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。なお、この絶縁コンタクト部材166は、センサ素子部50Aの後端側の表面に形成される電極端子部30A〜34Aの周囲に配置される。この絶縁コンタクト部材166は、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成されると共に、外表面から径方向外側に突出する鍔部167が備えられている。絶縁コンタクト部材166は、鍔部167が保持部材169を介して外筒144に当接することで、外筒144の内部に配置される。そして、絶縁コンタクト部材166側の接続端子110と、センサ素子部50Aの電極端子部40A〜44Aとが電気的に接続され、リード線146により外部と導通するようになっている。
【0020】
次に、センサ素子部50Aの構成について図2を用いて説明する。センサ素子部50Aは長尺板状であり、排気ガス中のアンモニアガスを検出する検知部10Aが表面51Aの先端部に露出し、表面51Aとは反対側に位置する裏面52Aを構成する最外層に、後述する緻密絶縁層12Aが形成されている。又、センサ素子部50Aの後端部には、電極端子部40A〜44Aがそれぞれ露出している。
【0021】
図3は図2のIII−III線に沿う断面図である。センサ素子部50Aは固体酸材料を用いた抵抗変化(インピーダンス)式の板状アンモニアセンサである。
センサ素子部50Aは、アルミナ製の絶縁層24A、26Aを積層して本体部分とし、絶縁層24A表面左端に一対の櫛歯電極2Aが配置されている。一対の櫛歯電極2Aから絶縁層24Aの長手方向に沿ってそれぞれリード30A,31Aが延び、リード30A,31A上に絶縁層20Aが被覆され、絶縁層20Aがセンサ素子部の表面51Aを形成している。但し、リード30A,31Aの右端は絶縁層20Aで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部40A、41Aを形成している。
一対の櫛歯電極2Aは、例えば金を主成分とし、それぞれ櫛状の2つの電極が離間して配置されている。また、リード30A,31Aは、例えば白金を主成分とする材料で構成している。
【0022】
櫛歯電極2A上には、櫛歯電極2Aを完全に覆う感応層(感応部)4が形成され、櫛歯電極2Aと感応層4とによって検知部10Aが構成されている。感応層4はアンモニア濃度に応じてインピーダンス(Z)が変化する感ガス材料であり、通常、固体酸物質を用いることができるが、特開2005−114355号公報(例えば段落0066)に記載された固体超強酸物質を用いるのが好ましい。なお、特開2005−114355号公報のすべての記載事項は本発明に引用することができる。
櫛歯電極2A間に交流を印加することにより、電極2A間に埋設された感応層4のインピーダンス(Z)が変化するので、インピーダンス変化に基づいて排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
なお、絶縁層20Aは電極2Aの側縁を被覆しているが、感応層4の上面は絶縁層20Aで被覆されずに露出し、排ガス雰囲気に曝されるようになっている。つまり、検知部10A(感応層4を含む)はセンサ素子部の表面51Aに露出している。
【0023】
一方、絶縁層26Aの外側(図3の下面)には、測温抵抗体である温度検出手段(温度センサ)14Aが配置され、絶縁層24Aと絶縁層26Aの間にはセンサ素子部50Aを加熱する抵抗体であるヒータ16Aが介装されている。さらに、温度検出手段14Aから絶縁層26Aの長手方向に沿ってそれぞれリード32A,33Aが延びている。また、ヒータ16Aから絶縁層26Aの長手方向に沿ってそれぞれリード35A、36Aが延びており、絶縁層26Aに形成されたスルーホールを介して、電極端子部42A、44Aに接続している。ヒータ16Aは、温度検出手段14Aの測温結果に基づいて加熱され、センサ素子部50A(の検知部10A)を活性温度に昇温して動作を安定化させるために用いられる。
温度検出手段14A、ヒータ16A、リード32A,33A、35A、36Aは、それぞれ例えば白金を主成分とする。
【0024】
温度検出手段14Aの外表面は、薄い緻密絶縁層12Aで被覆されているが、リード32A,33Aの右端は絶縁層12Aで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部42A、43Aを形成している。
緻密絶縁層12Aは、温度検出手段14Aが排ガス雰囲気によって経時変化することを防止する保護層として機能する。ここで、絶縁層12Aが緻密であるとは、緻密絶縁層12Aをガスが透過しない場合をいう。絶縁層12Aが緻密である場合、得られたセンサ素子部50Aのうち、絶縁層12Aが形成された部位を、水性インクを希釈した水溶液に浸漬し、緻密絶縁層12Aを通して温度検出手段14Aを目視したとき、温度検出手段14Aが水性インクで着色しない。一方、絶縁層12Aが緻密でないと、緻密絶縁層12Aを通して温度検出手段14Aの形状(図4の蛇行パターンなど)が着色して見える。
これは、温度検出手段14Aもポーラスであり、緻密絶縁層12Aを水性インクが透過した場合には温度検出手段14Aに水性インクが浸透するためである。
【0025】
緻密絶縁層12Aは、温度検出手段14Aの保護効果を有する限り、薄い方がよく、緻密絶縁層12Aが厚くなり過ぎると、緻密絶縁層12A外側の外気温度に温度検出手段14Aが追随し難くなり、測温精度が低下する。このような目的に沿う限り、緻密絶縁層12Aの厚みは特に限定されないが、通常、数〜数10μmの厚みとすることができ、より好ましくは数μm〜50μmとすることができる。
緻密絶縁層12Aとしては、絶縁性を有するセラミック焼結体を用いることができ、アルミナやムライト等の酸化物系セラミックを例示することができる。
このようにして、センサ素子部50Aにおける裏面52Aの最外層に薄い緻密絶縁層12Aが形成され、緻密絶縁層12Aの直下に温度検出手段14Aが配置される。
【0026】
そして、図9のガスセンサ制御装置300により、温度検出手段14Aの測定値に基づいてヒータ16Aの印加電圧が制御され、センサ素子部50Aの検知部10Aが最適温度(活性化温度)に加熱制御される。
【0027】
次に、センサ素子部50Aの製造方法の一例を、展開図4を参照して簡単に説明する。まず、センサ素子部の本体となる比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層24A1,26Aを用意し、絶縁層26A上にPt、アルミナ(共素地として用いる無機酸化物)バインダ及び有機溶剤を含む電極ペースト(以下、「Pt系ペースト」という)をスクリーン印刷してヒータ16A(及びこれから延長するリード35A,36A)を形成する。
【0028】
一方、絶縁層26Aの下面にPt系ペーストをスクリーン印刷して温度検出手段14A(及びこれから延長するリード32A、33A、34A、及び電極端子部42A、43A、44A)を形成し、温度検出手段14A表面にアルミナ、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層12Aを形成する、なお、絶縁層12Aの厚みは、ペーストの塗布量や塗布回数によって調整することができる。
【0029】
次いで、絶縁層24A1上にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード30A,31A,電極端子部40A、41Aを形成し、リード30A,31Aの左端に隣接して絶縁層24A1上に薄い多孔質層25を形成する。多孔質層25は、絶縁層24A1上を粗面化して櫛歯電極2Aとの密着性を高めるためのものであり、図3では特に表示されていない。
さらに、リード30A,31Aを覆うように絶縁層24A1上に絶縁材料(アルミナ等)、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層20Aを形成する。そして、絶縁層24A1の下に絶縁層24A2を形成した後、絶縁層24A2と絶縁層26Aとを合わせて積層圧着し、さらに、所定形状に切断し、所定温度(例えば約400℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば1520℃)で焼成する。なお、絶縁層24A2は、絶縁層24A1と絶縁層26Aとの密着性を高めるものであり、図3では、絶縁層24A1、24A2を合わせて絶縁層24Aと図示している。
【0030】
その後、リード30A,31Aの左端にそれぞれ接続するようにして、Au、バインダ及び有機溶剤を含む電極ペーストをスクリーン印刷して櫛歯電極2Aを形成し、所定温度(例えば、250℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば、1000℃)で焼成する。
さらに、櫛歯電極2Aを覆って感応層4を形成する。感応層4の形成方法は、例えば特開2005−114355号公報(例えば段落0075〜0078)に記載されたA法に基づいて行うことができる。つまり、A法に基づいてWがZrO2に含有した粉末を作製し、この粉末をバインダ及び有機溶剤と混合してスラリーとし、櫛歯電極2A上に塗布後、所定温度(例えば600℃)で焼成して感応層を形成する。
【0031】
以上のように、上記実施形態において、板状のセンサ素子部50Aの裏面52A側に薄い緻密絶縁層12Aの直下に温度検出手段14Aが配置されるため、被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部50Aの裏面52Aの温度変化に温度検出手段14Aが敏感に追随する。一方、センサ素子部50Aの表面51Aに検知部10Aが露出しているため、検知部10Aの温度は被測定ガスの影響を受けたセンサ素子部50Aの表面51Aの温度に近い。従って、温度検出手段14Aの測定値は検知部10A温度に近似したものとなり、検知部10Aの温度を精度よく測定して被測定ガスの検出精度を向上させることができる。
なお、検知部10Aの最外側に位置する感応層4の表面にガス透過性の保護層や被毒防止層等を設けてもよいが、この場合、感応層4(検知部10A)はセンサ素子部50Aの表面51Aに露出していない。但し、この場合も感応層4(検知部10A)はガス透過性の層を介してセンサ素子部50Aの表面51Aに露出する点に変わりない。従って、本発明においては、検知部10Aがセンサ素子部50Aの表面51Aから外気に曝されるようになっている構造であればよく、検知部10Aがセンサ素子部50Aの表面51Aに直接露出していてもよく、検知部50A表面にガス透過性層が被覆されていてもよい。
【0032】
又、第1の実施形態において、ヒータ16Aはセンサ素子部50Aと一体化しているため、例えば特開2003−83933号公報に記載の筒型センサのようにヒータが素子部と別体である場合に比べ、ヒータの加熱が直ちに検知部に伝達され、温度制御が精度よくかつ迅速に行われる。
【0033】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)について図5を参照して説明する。
図5は、第2の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部50Cの長手方向に沿う断面図を示す。センサ素子部50Cは起電力式の板状アンモニアセンサである。第2の実施形態に係るアンモニアセンサにおいて、センサ素子部50C以外の(アッセンブリ)構造は第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
センサ素子部50Cは、アルミナ製の絶縁層24C、26Cが積層され、絶縁層24Cの外側に固体電解質層6が積層された構造を有する。絶縁層24Cの上面は所定の深さで平面視コの字状に切り抜かれ、コの字の開口が図5の左を向くように配置される。これにより、絶縁層24Cの切り抜き部分と固体電解質層6の下面とによって内部空間が形成され、この空間が基準ガス室Sとなる。
【0034】
基準ガス室Sに面した固体電解質層6の下面には、平面視ほぼ矩形状の基準電極2Cが配置され、固体電解質層6の上面には基準電極2Cと対向する位置に検知電極2Bが配置されている。そして、検知電極2B、基準電極2C、固体電解質層6とによって検知部10Cが構成される。
検知電極2Bに接続し固体電解質層6上面の長手方向に沿ってリード30Cが延び、リード30C上に絶縁層20Cが被覆され、絶縁層20Cがセンサ素子部の表面51Cを形成している。但し、リード30C右端は絶縁層20Cで被覆されずに露出し、電極端子部40C(さらに、後述するリード37Cと接続する電極端子部41C)を形成している。又、基準電極2Cに接続し固体電解質層6下面の長手方向に沿ってリード37Cが延びており、固体電解質層6に形成されたスルーホールを介して、電極端子部41Cに接続している。
そして、検知電極2B、基準電極2C間の電位差を測定することにより、排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
【0035】
検知電極2Bは例えば金を主成分とする。基準電極2Cやリード30C,37C、電極端子部40C、41Cは例えば白金を主成分とし、固体電解質層6は例えばZrO2等の酸素イオン伝導性材料を用いることができる。
なお、絶縁層20Cは検知電極2Bの側縁を被覆しているが、検知電極2Bの上面は絶縁層20Cで被覆されずに露出し、排ガス雰囲気に曝されるようになっている。つまり、検知部10Cはセンサ素子部の表面51Cに露出している。
又、検知電極2B上に、検知電極2Bを完全に覆う選択(反応)層が形成されていてもよい。選択層については後述する。
【0036】
一方、絶縁層26Cの外側(下面)には、測温抵抗体である温度検出手段(温度センサ)14Cが配置され、絶縁層24Cと絶縁層26Cの間にはセンサ素子部50Cを加熱する抵抗体であるヒータ16Cが介装されている。さらに、温度検出手段14Cから絶縁層26Cの長手方向に沿ってそれぞれリード32C,33Cが延びている。また、ヒータ16Cから絶縁層26Cの長手方向に沿ってそれぞれリード35C、36Cが延びており、絶縁層26Cに形成されたスルーホールを介して、電極端子部42C、44Cに接続している。ヒータ16Cは、温度検出手段14Cの測温結果に基づいて加熱され、センサ素子部50Cを活性温度に昇温し、固体電解質層の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
温度検出手段14C、ヒータ16C、リード32C,33C、35C、36Cは、それぞれ例えば白金を主成分とする。
【0037】
温度検出手段14Cの表面は、薄い緻密絶縁層12Cで被覆されているが、リード32C,33Cの右端は絶縁層12Cで被覆されずに露出し、それぞれ電極端子部42C、43Cを形成している。
緻密絶縁層12Cは、第1の実施形態における緻密絶縁層12Aと同様であるので説明を省略する。
このようにして、センサ素子部50Cにおける検知部10Cと反対側の裏面52Cの最外層に薄い緻密絶縁層12Cが形成され、緻密絶縁層12Cの直下に温度検出手段14Cが配置される。
【0038】
なお、検知電極2B上に選択層が形成される場合、選択層は、被測定ガス中のアンモニア以外の可燃性ガス成分を燃焼させる役割を持ち、選択層が存在すると、可燃性ガス成分の影響を受けずに被測定ガス中のアンモニアを検出することができる。選択層は通常、金属酸化物を主成分とするが、特に酸化バナジウム(V2O5)及び酸化ビスマス(Bi2O3)を所定比で含む材料(例えば、酸化ビスマスバナジウム:BiVO4)から形成することが好ましい。
又、検知電極2B上、又は上記選択層上に、ガス透過性の保護層を設けてもよい。そして、検知電極2B上に選択層や保護層が形成されている場合、検知電極2B(検知部)はセンサ素子部の表面に露出していないが、これらの層をガス透過性層とすることにより、検知電極2B(検知部)がガス透過性層を介してセンサ素子部50Cの表面51Cに露出するようになる。
【0039】
次に、センサ素子部50Cの製造方法の一例を、展開図6を参照して簡単に説明する。まず、比較的厚い(例えば300μm)グリーンシートのアルミナ絶縁層26Cを用意し、絶縁層26C上にPt系ペーストをスクリーン印刷してヒータ16C(及びこれから延長するリード35C,36C)を形成する。さらに、ヒータ16C上に絶縁材料(アルミナ等)、バインダ及び有機溶剤を含むペーストをスクリーン印刷して絶縁層24C4を形成する。
【0040】
一方、絶縁層26Cの下面に、温度検出手段14C,絶縁層12Cを第1の実施形態と同様にして形成する。
【0041】
次に、ジルコニア系粉末、バインダ及び有機溶剤を含むスラリーからドクターブレード法により、固体電解質層6となるグリーンシートを製造し、固体電解質層6の下側に左端に矩形孔を有する絶縁層24C1を積層する。そして、絶縁層24C1の矩形孔内にPt系ペーストをスクリーン印刷して基準電極2C(及びこれから延長するリード37C)を形成する。さらに、左端に矩形孔を有する絶縁層24C2を、基準電極2Cが矩形孔内に入るように重ねてスクリーン印刷する。基準電極2Cは、絶縁層24C2の矩形孔から後述する絶縁層24C3のコの字で形成される内部空間(基準ガス室)に面している。なお、固体電解質層6は、固体電解質ペーストをスクリーン印刷して形成してもよい。
【0042】
また、左端に矩形孔を有する絶縁層22Cを固体電解質層4上にスクリーン印刷し、絶縁層22C上にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード30C、電極端子部40C、41Cを形成する。さらに、リード30Cを覆うようにして左端に矩形孔を有する絶縁層20Cをスクリーン印刷する。
【0043】
そして、左先端に向けてコの字に開口する形状の絶縁層24C3を絶縁層24C4上にスクリーン印刷する。そして、絶縁層24C3の上に絶縁層24C2を合わせて積層圧着し、さらに、所定形状に切断し、所定温度(例えば約400℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば1520℃)で焼成する。なお、絶縁層24C2〜24C4は、基準電極2Cとヒータ16の電気絶縁性を高めるものであり、図5では、絶縁層24C2〜24C4を合わせて絶縁層24Cと図示している。
【0044】
なお、絶縁層24C3に代えて、幅方向中央部が開口して右端に延びる絶縁層24C5を形成することができる。この場合、絶縁層24C5で形成される内部空間(基準ガス室)は、基準電極2C側からセンサ素子部50Cの長手方向に延びて右端で基準ガス(大気)に通じる。
又、基準ガス室は空間であってもよく、多孔質で充填されていてもよい。
【0045】
その後、絶縁層20C、22Cの矩形孔内にAu系ペーストをスクリーン印刷して検知電極2Bを形成し、所定温度(例えば、250℃)で脱バインダ後、所定温度(例えば、1000℃)で焼成する。ここで、検知電極2Bはリード30Cと接続し、基準電極2C及び検知電極2Bは固体電解質層6の上下面に接している。
【0046】
さらに、選択層が形成される場合、検知電極2B上に選択層となる、金属酸化物を主成分とするペーストをスクリーン印刷し、所定温度(例えば750℃)で焼成して選択層を形成する。
【0047】
第2の実施形態においても、板状のセンサ素子部50Cの裏面52C側に薄い緻密絶縁層12Cを介して温度検出手段14Cが配置されるため、センサ素子部50Cの裏面52Cの温度変化に温度検出手段14Cが敏感に追随する。一方、センサ素子部50Cの表面51Cに検知部10Cが露出しているため、検知部10Cの温度はセンサ素子部50Cの表面51Cの温度に近い。従って、温度検出手段14Cの測定値は検知部10C温度に近似したものとなり、検知部10Cの温度を精度よく測定して被測定ガスの検出精度を向上させることができる。
【0048】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)のセンサ素子部50Dについて展開図7を参照して説明する。第3の実施形態に係るガスセンサは、図6のセンサ素子部のうち絶縁層24C4から検知電極2Bに至る積層構造を、図7の絶縁層24Dから検知電極2Dに至る積層構造に置換したこと以外は、第2の実施形態に係るガスセンサのセンサ素子部と同様であるので、同一部分の説明を省略する。
【0049】
図7において、絶縁層24Dの上に固体電解質層6D(固体電解質層6と同一)を積層し、さらに、左端部において長辺状の2個の開口が幅方向に並ぶ絶縁層22Dを固体電解質層6D上にスクリーン印刷し、絶縁層22D上にPt系ペーストをスクリーン印刷して基準電極2E、リード30D,31D、電極端子部40D,41Dを形成する。さらに、リード30D,31Dを覆うように絶縁層20Dをスクリーン印刷する。これによりリード30D、31Dは絶縁層20Dに完全に被覆される。一方、基準電極2Eは、絶縁層20Dの一方の開口から露出すると共に、この開口を介して固体電解質層6D表面に接する。
さらに、絶縁層20Dの他の開口内にAu系ペーストをスクリーン印刷して検知電極2Dを形成する。検知電極2Dは、絶縁層22Dの他の開口を介して固体電解質層6D表面に接すると共に、リード30Dと接続している。
【0050】
第3の実施形態においては、基準電極2Eと検知電極2Dがいずれもセンサ素子部50D表面に露出することになる。又、第3の実施形態の場合、基準電極2Eと検知電極2Dは固体電解質層6Dの同じ面側に位置する。
【0051】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)のセンサ素子部50Eについて展開図8を参照して説明する。第4の実施形態に係るガスセンサは、図4又は図6の温度検出手段14A又は14Cを、図8の温度検出手段14Eに置換したこと以外は、第1又は第2の実施形態に係るガスセンサのセンサ素子と同様であるので、同一部分の説明を省略する。
図8において、温度検出手段14Eは、固体電解質層14g(固体電解質層6と同一)の下面に、左端部において長辺状の2個の開口が幅方向に並ぶ絶縁層14fをスクリーン印刷し、さらに絶縁層14fの下面にPt系ペーストをスクリーン印刷してリード38E,39E1及び電極端子部48E、49E1,49E2を形成する。リード38E,39Eの左端部は、それぞれ絶縁層14fの2個の開口を介して固体電解質層14g下面に接する。ここで、固体電解質層14gの抵抗が温度によって変化するため、リード38E,39E間に生じる内部抵抗を検出することにより、固体電解質層14gの温度を測定することができ、温度検出手段として機能する。
このように、温度検出手段として、抵抗体の他、固体電解質の内部抵抗を測定するものを用いることができる。
【0052】
次に、本発明のガスセンサ制御装置について、ブロック図9を参照して説明する。ガスセンサ制御装置300は、ガスセンサ200、及び車両側のエンジン制御装置(以下、ECUという)400に電気的に接続されて、ガスセンサを制御し、センサ出力をECUに送信する。なお、図9においては、ガスセンサ200内のセンサ素子部50A(図3と同一のもの)のみ記載する。
ガスセンサ制御装置300は、マイクロコンピュータ(以下、MCという)302、メモリ304、アナログ回路部306、DA/ADコンバータ308を備えている。アナログ回路部306はセンサ素子部50Aの各リード30A〜36Aに接続する電極端子部40A〜44Aに接続され、(なお、図9においては、分かりやすく説明するため、リード35A、36Aとアナログ回路306とを接続している。)センサ素子部50Aからのガス濃度信号、ヒータ出力、温度センサ出力の増幅や安定化等を行う。MC302はガスセンサ制御装置全体を制御し、CPU(中央演算処理装置)、ROM、RAMを備え、ROM等に予め格納されたプログラムがCPUにより実行される。メモリ304は、後述する温度補正のためのマップを記憶する。
そして、ガスセンサ制御装置300で温度補正されたガスの濃度信号はECUに送信され、ECUは濃度信号に基づいて排気ガス中のアンモニアガス濃度を演算し、エンジンの運転状態の制御などの処理を実行する。
なお、MC302が本発明の温度変動補正手段に相当する。
【0053】
図10は、メモリ304に記憶されたマップのデータ構成を示す。マップにはセンサ素子部の温度に応じて、検知部によるアンモニアガスのセンサ出力(ガス濃度信号,以下、「センサ出力」はガス濃度信号を意味し、温度検出手段(温度センサ)からの出力である温度センサ出力と区別する)の補正係数が記憶されている。なお、温度650℃における濃度信号を基準としている。
そして、MC302は、センサ素子部の温度に基づき、マップを参照して補正係数を取得する。なお、本実施例において、例えば、素子温度がマップ間に存在する場合(例えば、NH3濃度50ppm、素子温度635℃の場合等)前後の補正係数の補間結果を算出し、補正係数とした(例えば、NH3濃度50ppm、素子温度630℃の補正係数0.88と、NH3濃度50ppm、素子温度640℃の補正係数0.94との補間結果を算出する)。なお、マップに限らず、所定の補正式をメモリ304に記憶してもよい。
【0054】
次に、図11を参照して、MC(CPU)302による補正処理について説明する。
まず、MC302は、センサ素子部50Aからセンサ出力を取得する(ステップS2)。次に、MC302は温度検出手段(温度センサ)14Aから温度出力を読取る(ステップS4)。なお、MC302はDA/ADコンバータ308を介して、温度のアナログ出力をデジタル値に変換して読み取る。そして、読み取った温度出力が基準温度か否かを判定する(ステップS6)。読み取った温度出力が基準温度であればYESとなり、そのままセンサ出力をECUに送信する(ステップS8)。他方、読み取った温度出力が基準温度でなければNOとなり、ステップS10に進む。ステップS10では、MC302が、ステップS2で取得した温度をキーとして図10のマップを参照して補正値を取得し(ステップS6)、ステップS4で取得したセンサ出力に補正値を乗じて補正を行う(ステップS8)。
そして、MC302は、補正後のセンサ出力をECUに送信する(ステップS10)。
【0055】
本発明のガスセンサ制御装置は、上記したガスセンサを用いているため、温度検出手段の温度検出感度が高く、ガス流速の影響によってガス温度が変動した場合にも、速やかにガス濃度信号の温度変化を補正し、ガス濃度検出が正確になる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明は、板状センサ素子部の一方の表面に検知部が露出する(又はガス透過性層を介して露出する)あらゆるガスセンサに適用可能であり、例えば、自動車や各種内燃機関の排ガス中や、ボイラ等の燃焼ガス中のNOxガス濃度検出用ガスセンサや、全領域空燃比センサ等の酸素センサに適用することができるが、これらの用途に限られない。例えば、NOxガスセンサの場合、第2ポンプセルの設定電圧を変えることにより、NOX以外のガス(例えばCOXやH2O、HCなど)を選択時に分解させ、これらのガス濃度を測定することもできる。又、各ガスを分解する設定電圧を段階的に変えることにより、O2,NOX,H2O,CO2等の多成分ガスを1つのガスセンサで測定することもできる。
又、酸素センサとしては、センサ素子の一方に電極が露出し、センサ素子内部の大気導入室に他の電極が面したTF(ジルコニア板型)酸素センサが挙げられる。
【実施例】
【0057】
(1)センサの作製
実施例1:上記第1の実施形態に係るインピーダンス式(固体酸式)アンモニアセンサを作製した。
実施例2:上記第2の実施形態に係る起電力式アンモニアセンサを作製した。
比較例1:上記第1の実施形態に係るインピーダンス式アンモニアセンサにおいて、緻密絶縁層12A及び温度検出手段14Aを設けず、その代わりに絶縁層24A内に温度検出手段(サーミスタ)を埋設した。この温度検出手段の配置は、特開2005-114355号公報の図3と同様である。
比較例2:上記第2の実施形態に係る起電力式アンモニアセンサにおいて、温度検出手段14Cとヒータ16Cの位置を逆にした。
【0058】
(2)センサの特性評価
モデルガス発生装置を使用し、センサ特性の評価を行った。モデルガス発生装置のガス組成は、O2=10% CO2=5% H2O=5% N2=bal. NH3=0又は100ppmとした。そして、モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置し、ガス温度を180℃と280℃の2点で変化させた時の、被測定ガス中のアンモニア濃度を各センサで測定し、ガス温度変化に対する追随性(センサ感度)を評価した。センサ素子部の制御温度は、インピーダンス式アンモニアセンサについて400℃とし、起電力式アンモニアセンサについて650℃とした。
センサ感度は、下記算出式を用いた。
インピーダンス式センサのセンサ感度=
{Z(ガス中NH3=0ppm)−Z(ガス中NH3=100ppm)}/Z(ガス中NH3=0ppm)×100
但し、Zはセンサが示すインピーダンス値
起電力式センサのセンサ感度=センサ起電力(ガス中NH3=100ppm)−センサ起電力(ガス中NH3=0ppm)
【0059】
モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させた時の、経過時間に対するセンサ感度を図12、図13に示す。
実施例1,2の場合、ガス温度が急変(180℃と280℃)しても、センサ特性(感度)の変化が少なく、又、センサ感度が定常状態へ戻る緩和時間も短く、センサ特性への影響を低減できることがわかった。これは、温度検出手段がセンサ表層付近に配置され、検知部温度とほぼ同様の温度を検出することができ、温度計測結果に基づいて直ちに検知部温度を制御できるためである。
一方、比較例1、2の場合、ガス温度が急変すると、センサ感度が大きく変化し、又、センサ感度が定常状態へ戻る緩和時間も長くなった。これは、温度検出手段がセンサ内部に配置され、センサ表層の検知部温度を検出することができず、温度計測結果に基づいて検知部温度を制御するのに時間がかかり、安定した出力を得るまでに時間を要するためである。なお、固体酸材料は、制御温度が低いほど高感度となる傾向がある。
又、実施例2の変形例である、上記上記第3、第4の実施形態に係る起電力式アンモニアセンサについても同様に実験を行ったが、実施例2と同様に良好な結果であった。
【0060】
(3)ガスセンサ制御装置による温度補正の効果
次に、コントローラ(ガスセンサ制御装置)として、図9に示す構成のものを用い、実施例1、2のアンモニアセンサと接続した。そして、図11の処理フローに従って、センサ出力(ガス濃度信号)を温度補正した。補正には図10に示すマップを用いた。
実施例1、2と同様にしてモデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置し、ガス温度を280℃で一定とし、ガス流速を1m/sから6m/sへ変化させ1m/sに戻した時の、経過時間に対するセンサ感度(出力)を図14、図15に示す。
【0061】
センサ出力を温度補正した実施例(図14)の場合、ガスセンサ素子の温度が急変しても、センサ出力は安定していた。一方、センサ出力を温度補正しなかった比較例(図15)の場合、ガスセンサ素子の温度が急変すると、センサ出力も変動した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(アンモニアセンサ)の長手方向に沿う断面図である。
【図2】センサ素子部50Aの構成を示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】センサ素子部50Aの展開図である。
【図5】第2の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部50Cの長手方向に沿う断面図である。
【図6】センサ素子部50Cの展開図である。
【図7】第3の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部の一部の展開図である。
【図8】第4の実施形態に係るアンモニアセンサにおけるセンサ素子部の一部の展開図である。
【図9】本発明のガスセンサ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図10】メモリ304に記憶されたマップのデータ構成を示す図である。
【図11】MC(CPU)302による補正処理フローを示す図である。
【図12】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させた時の、経過時間に対するセンサ感度を示す図である。
【図13】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させた時の、経過時間に対するセンサ感度を示す別の図である。
【図14】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させ、センサ出力を温度補正した時の、経過時間に対するセンサ感度を示す図である。
【図15】ガス流中にセンサを配置してガス温度を変化させ、センサ出力を温度補正しなかった時の、経過時間に対するセンサ感度を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
2A〜2E 電極(検知電極、基準電極)
4 感応部(感応層)
6、6D 固体電解質層
10A、10C、10D 検知部
12A、12C 緻密絶縁層
14A、14C、14E 温度検出手段
16A、16C ヒータ
50A〜50E センサ素子部
51A、51C センサ素子部の表面
52A、52C 表面と反対側の裏面
300 ガスセンサ制御装置
302 温度変動補正手段(マイクロコンピュータ;MC)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ガス中の特定ガスを検出する検知部が表面に露出し又は前記表面に露出したガス透過性層の直下に前記検知部が配置された板状のセンサ素子部を有するガスセンサであって、
前記センサ素子部における前記表面と反対側の裏面を構成する最外層に緻密絶縁層が形成され、前記緻密絶縁層の直下に前記検知部の温度を検出するための温度検出手段が配置されているガスセンサ。
【請求項2】
前記緻密絶縁層の厚みが50μm以下である請求項1記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記検知部は、一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記検知部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面にそれぞれ対向して積層された一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記固体電解質層のうち、前記電極が積層された部分を除く露出部が所定の絶縁層で被覆されている請求項4記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記温度検出手段が検出した温度に基づいて制御されるヒータを一体に備えた請求項1〜5のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガスセンサの制御に用いられ、前記ガスセンサに接続されるガスセンサ制御装置であって、
前記温度検出手段が検出した温度に基づいて、前記センサ素子部からの前記特定ガスの検知出力を補正する温度変動補正手段を有するガスセンサ制御装置。
【請求項1】
測定ガス中の特定ガスを検出する検知部が表面に露出し又は前記表面に露出したガス透過性層の直下に前記検知部が配置された板状のセンサ素子部を有するガスセンサであって、
前記センサ素子部における前記表面と反対側の裏面を構成する最外層に緻密絶縁層が形成され、前記緻密絶縁層の直下に前記検知部の温度を検出するための温度検出手段が配置されているガスセンサ。
【請求項2】
前記緻密絶縁層の厚みが50μm以下である請求項1記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記検知部は、一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記検知部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面にそれぞれ対向して積層された一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって前記測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記固体電解質層のうち、前記電極が積層された部分を除く露出部が所定の絶縁層で被覆されている請求項4記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記温度検出手段が検出した温度に基づいて制御されるヒータを一体に備えた請求項1〜5のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガスセンサの制御に用いられ、前記ガスセンサに接続されるガスセンサ制御装置であって、
前記温度検出手段が検出した温度に基づいて、前記センサ素子部からの前記特定ガスの検知出力を補正する温度変動補正手段を有するガスセンサ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−133808(P2009−133808A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57861(P2008−57861)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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