説明

ガスセンサ

【課題】水素等の可燃性ガスの影響及びNOx等の酸化性ガスの影響を低減することができ、従来に比べて臭気ガスに対する検知精度及び検知感度の向上を図ることのできるガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサ1は、矩形状の平面形状を有し、シリコン基板2の上面に絶縁被膜層3が形成され、この絶縁被膜層3には、発熱抵抗体5が内包されるとともに、その上面には密着層7およびガス検知層4が形成された構造を有する。ガス検知層4は、金属酸化物半導体としてのSnO2を主成分とし、さらに、少なくともV25と、Irとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体を用いて特定ガスの検知を行うガスセンサに係り、特に臭いセンサとして好適なガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化スズ等の金属酸化物半導体に、白金、銀又はルテニウムの貴金属を触媒として担持させ、被検知ガスによって電気的特性(例えば、抵抗値)が変化することを利用して、被検知ガスの濃度変化を検知するガスセンサが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記のようなガスセンサのうち特に臭いを検出するガスセンサでは、水素等の可燃性成分の影響を低減することが大きな課題となっていた。すなわち、人間が臭いとして感じる臭覚閾値は、悪臭等に含まれる物質では極低濃度(数ppb〜数ppm)と低く、これらの物質をガスセンサで検知しようとした場合、水素等の可燃性成分に対する感度が悪臭等に含まれる物質の感度よりも非常に大きくなるため、検知が困難になるという課題があった。
【0004】
そこで、従来は、金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層の上に、酸化触媒膜を積層し、水素等の可燃性成分を燃焼除去する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、WO3に、他の金属酸化物半導体成分であるIn23を添加することによって、水素等の可燃性成分の影響を抑制した酸化性ガスのセンサが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平4−29049号公報
【特許文献2】特開2003−262599号公報
【特許文献3】特開平5−302903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の技術のうち、酸化触媒層で水素等の可燃性成分を燃焼除去するガスセンサでは、ガス検知層の上に酸化触媒層を積層するので、検知対象ガスがガス検知層まで到達し反応する時間が遅くなりガス応答性が低下する可能性がある。また、検知対象とする臭気成分が酸化触媒膜で燃焼除去され、ガス感度が低下する可能性があるという問題があった。
【0006】
また、WO3にIn23を添加する方法では、水素等の可燃成分の影響は抑制することができるが、NOx等の酸化性ガスに対する感度が高くなるので、その影響が増大して、悪臭等に含まれる物質(例えばアンモニア)の検出が困難になる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明は、水素等の可燃性ガスの影響及びNOx等の酸化性ガスの影響を低減することができ、従来に比べて臭気ガスに対する検知精度及び検知感度の向上を図ることのできるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスセンサは、被検知ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を有するガスセンサであって、前記金属酸化物半導体は、SnO2であり、さらに前記ガス検知層は、少なくともV25と、Irとを含むことを特徴とする。
【0009】
上記本発明のガスセンサでは、SnO2にV25を含ませた作用により、水素等の可燃性ガスの影響を低減することができ、臭気ガス(アンモニア、硫化水素、酢酸エチル等)の水素等の可燃性ガスに対するガス選択性を向上させることができる。また、V25には、NOx等の酸化性ガスに対する感度を増大させる作用があるが、本発明では、Irを含有することによって、NOx等の酸化性ガスに対する感度の上昇を抑制することができる。これによって、水素等の可燃性ガスの影響及びNOx等の酸化性ガスの影響を低減することができ、従来に比べて臭気ガスに対する検知精度及び検知感度の向上を図ることができる。また、ガス検知層の上に酸化触媒層を積層する必要がないので応答性の低下を招くこともない。なお、本発明のガスセンサにおいて、前記した「金属酸化物半導体を主成分とする」とは、金属酸化物半導体が、その他の含有物に対して最も含有率が高いことを意味している。
【0010】
上記本発明のガスセンサでは、ガス検知層のV25の含有率によって、臭気ガス(アンモニア、硫化水素、酢酸エチル)の可燃性ガスである水素に対するガス選択性、及び酸化性ガスであるNO2に対する感度が変化することが確認された。V25の含有率と上記のガス選択性との関係では、V25の含有率が1.0質量%程度で、最もガス選択性のバランスが良好となり、V25の含有率を1.0質量%より増加させ、1.5質量%、3.0質量%とすると、H2に対する感度は低くなるが、NO2に対する感度が高くなる傾向にある。一方、V25の含有率が0.5質量%未満になると、上記ガス選択性を良好に向上させ難い傾向がある。このため、V25の含有率は0.5質量%〜3.0質量%とすることが好ましく、V25の含有率は0.5質量%〜1.5質量%とすることが上記ガス選択性を効果的に向上させる観点からさらに好ましい。
【0011】
上記本発明のガスセンサでは、ガス検知層のIrの含有率によって、臭気ガス(アンモニア、硫化水素、酢酸エチル等)の可燃性ガスである水素に対するガス選択性、及び酸化性ガスであるNO2に対する感度が変化することが確認された。Irの含有率と上記のガス選択性との関係では、Irの含有率が0.1質量%程度で、含有率が0の場合に比べてH2に対する感度が低下し、ガス選択性が向上する効果が表れる。このような効果は、Irの含有率が1.0質量%程度までは、略同様な傾向にある。しかし、Irの含有率が1.0質量%を超えてさらに増加し、2.0質量%程度となると、臭気ガスの感度が低下し、ガス選択性が低下する。また、NO2に対する感度を低下させる効果もIrの含有率が1.0質量%程度でピークとなり、それ以上増加させるとNO2に対する感度が増加する傾向がある。このため、Irの含有率は、0.1質量%〜1.0質量%程度とすることが好ましい。
【0012】
上記本発明のガスセンサでは、ガス検知層の、V25とIrとの質量比(、V25の質量/Irの質量)を、1/1〜6/1とすることが好ましい。これによって、V25の水素等の可燃性ガスの影響を低減する作用と、IrのNOx等の酸化性ガスに対する感度が上がることを抑制する作用とをバランスさせて、臭気ガス(アンモニア(NH3)、硫化水素(H2S)、酢酸エチル等)の水素等の可燃性ガスに対するガス選択性を良好な範囲とすることができ、かつ、酸化性ガスであるNO2に対する感度を低下させてその影響を軽減できる。
【0013】
また、上記本発明のガスセンサでは、ガス検知層が、さらに、リン酸、白金を含む構成とすることができる。これにより、ガス検知層の臭気ガスに対する感度を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水素等の可燃性ガスの影響及びNOx等の酸化性ガスの影響を低減することができ、従来に比べて臭気ガスに対する検知精度及び検知感度の向上を図ることのできるガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の詳細を、実施形態について図面を参照して説明する。図1〜5は、本発明の一実施形態に係るガスセンサの構成を示すもので、図1はガスセンサ1の平面図、図2は図1に示すA−A線に沿った矢視方向断面図、図3はガスセンサ1の発熱抵抗体5の平面図、図4はガスセンサ1の図1に示すB−B線に沿った矢視方向断面図、図5はガスセンサ1の図2に示すC−C線に沿った矢視方向断面図である。
【0016】
図1に示すように、ガスセンサ1は、縦が2.6mm、横が2mmの矩形状の平面形状を有する。ガスセンサ1は、図2に示すように、シリコン基板2の上面に絶縁被膜層3が形成され、この絶縁被膜層3には、発熱抵抗体5が内包されるとともに、その上面には密着層7およびガス検知層4が形成された構造を有する。ガス検知層4は、被検知ガス中の特定ガスによって自身の抵抗値が変化する性質を有する。ここで、本ガスセンサ1では、ガス検知層4を用いて被検知ガス中のアンモニア(NH3)、硫化水素(H2S)、二硫化メチル((CH322)、メチルメルカプタン(CH3SH)、トリメチルアミン((CH33N)などの特定の臭気ガスを検知するように構成されている。なお、本発明における「検知」とは、被検知ガスに含まれる特定ガスの有無を検知するのみならず、当該特定ガスの濃度変化を検知することを含む趣旨である。以下、ガスセンサ1を構成する各部材について説明する。
【0017】
シリコン基板2は、所定の厚みを有するシリコン製の平板である。また、図2に示すように、シリコン基板2の下面には、シリコン基板2の一部が除去され、絶縁層31の一部が隔壁部39として露出された開口部21が形成されている。すなわち、ガスセンサ1では、開口部21を有するシリコン基板2と絶縁被膜層3とにより、ダイヤフラム構造を有する基体15をなすものである。この開口部21は、隔壁部39の位置が、開口部21の開口側から平面視したとき、絶縁層33,34内に埋設された発熱抵抗体5が配置される位置となるように形成されている。
【0018】
絶縁被膜層3は、シリコン基板2の上面に形成された絶縁層31,32,33,34及び保護層35から構成される。シリコン基板2の上面に形成された絶縁層31は、所定の厚みを有する酸化ケイ素(SiO2)膜であり、この絶縁層31の下面の一部は、シリコン基板2の開口部21に露呈している。また、この絶縁層31の上面に形成された絶縁層32は、所定の厚みを有する窒化ケイ素(Si34)膜であり、この絶縁層32の上面に形成された絶縁層33は、所定の厚みを有する酸化ケイ素(SiO2)膜である。この絶縁層33の上面には、発熱抵抗体5および、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12の他、絶縁層34が形成されている。この絶縁層34は、所定の厚みを有する酸化ケイ素(SiO2)膜である。この絶縁層34の上面には、所定の厚みを有する窒化ケイ素(Si34)膜からなる保護層35が形成されている。この保護層35は、発熱抵抗体5および、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12を覆うように配設されることでこれらの汚染や損傷を防ぐ役割を果たす。
【0019】
発熱抵抗体5は、図2および図3に示すように、シリコン基板2の開口部21の上部に対応する部位であって、絶縁層33と絶縁層34との間に、平面視渦巻き状に形成されている。また、絶縁層33と絶縁層34との間には、発熱抵抗体5に接続され、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12が埋設されており、図4に示すように、このリード部12の末端にて、外部回路と接続するための発熱抵抗体コンタクト部9が形成されている。発熱抵抗体5およびリード部12は、白金(Pt)層とタンタル(Ta)層とから構成された2層構造を有する。また、発熱抵抗体コンタクト部9は、白金(Pt)層とタンタル(Ta)層とから構成された引き出し電極91の表面上に、金(Au)からなるコンタクトパッド92が形成された構造を有する。なお、発熱抵抗体コンタクト部9は、ガスセンサ1に一対設けられている。
【0020】
保護層35の上面には、発熱抵抗体5上に位置するように検知電極6と、検知電極6に通電するためのリード部10(図4参照)とが、それぞれシリコン基板2と平行な同一平面上に形成されている。この検知電極6およびリード部10は、発熱抵抗体コンタクト部9の引き出し電極91と同様に、保護層35の上に形成されるタンタル(Ta)層と、その表面上に形成された白金(Pt)層とから構成されている。また、図4に示すように、リード部10の末端には、その表面上に金(Au)からなるコンタクトパッド11が形成され、外部回路と接続するための酸化物半導体コンタクト部8として構成されている。なお、酸化物半導体コンタクト部8は、図1および図4に示すように、ガスセンサ1に一対設けられている。
【0021】
検知電極6は、図5に示すように、櫛歯状の平面形状を有し、ガス検知層4における電気的特性の変化を検出するための一対の電極である。図2に示すように、この検知電極6のガス検知層4に対向する側の面61は全面、ガス検知層4と当接し、ガス検知層4と検知電極6とが電気的に接続されている。このように、ガス検知層4と検知電極6の面61とが全面接触しているので、ガス検知層4と検知電極6との界面におけるガス反応が密着層7を含めた他部材によって何等阻害されることがない。一方、この検知電極6の保護層35と対向する側の面62は、保護層35と当接している。そして、検知電極6の周りであって、検知電極6の面61を除く部位には、基体15とガス検知層4との密着性を向上させ、ガス検知層4が基体15から剥離することを防ぐ密着層7が設けられている。
【0022】
この密着層7は、基体15とガス検知層4との間の密着性を向上させるための層であって、絶縁性の金属酸化物からなる複数の粒子が凝集した構造をなしている。そのため、密着層7は、自身の表面が凹凸面になっており、基体15と厚膜状に形成されたガス検知層4との密着性を上記凹凸面のアンカー効果によって高めている。なお、この密着層7は、例えば、絶縁性の金属酸化物の粒子を分散させたゾル溶液を塗布し、焼成して固化させることにより得ることができる。
【0023】
そして、この密着層7は、図5に示す横断面図のように、櫛歯状に形成された一対の検知電極6間の領域に形成されるとともに、検知電極6の周縁部と接触する。一方、図2に示す縦断面図のように、検知電極6のガス検知層4との間には、密着層7が形成されておらず、検知電極6のガス検知層4に対向する側の面61は全面、ガス検知層4と当接する構成を有する。このような構成により、検知電極6とガス検知層4との界面で起こるガス反応に影響を及ぼすことなく、基体15とガス検知層4との密着性を向上させている。さらに、ガス検知層4が剥離する場合には、ガス検知層4の端部から剥離することが多いが、本実施形態の密着層7は、その上面において、ガス検知層4の端部と当接しているため、ガス検知層4の端部から剥離することも防止することができる。
【0024】
さらに、この密着層7は、検知電極6とガス検知層4との界面で起こるガス反応に影響を及ぼさないよう、アルミナ(Al23)やシリカ(SiO2)等の絶縁性の金属酸化物により構成されている。なお、検知電極6とガス検知層4との密着性を向上させるために、この密着層7の膜厚は、検知電極6の厚みより小さいことが好ましい。このような構成にすることにより、密着層7の厚さを薄くすることができる他、検知電極6のガス検知層4と対向する側の面61が全面にわたって密着層7の上面に対して確実に露出するため、当該面61を全面、確実にガス検知層4と当接させることができる。
【0025】
次に、後述する実施例において使用した上記構成ガスセンサ1の製造方法について説明する。ガスセンサ1の製造工程は、大別してシリコン基板作製工程と、ガス感応膜(ガス検知層)作製工程とからなる。まず、シリコン基板作製工程について説明する。
【0026】
(シリコンウエハの洗浄)
まず、シリコンウエハを洗浄液中に浸漬し、洗浄処理を行った。
【0027】
(酸化ケイ素膜形成)
次に、シリコンウエハを熱処理炉に入れ、熱酸化処理により膜厚が100nmの酸化ケイ素膜(絶縁層31)を形成した。
【0028】
(窒化ケイ素膜形成)
次に、LP−CVDにて、ジクロルシラン(SiH2Cl2)、アンモニア(NH3)をソースガスとして膜厚が200nmの窒化ケイ素膜(絶縁層32)を形成した。
【0029】
(酸化ケイ素膜形成)
次に、プラズマCVDにて、TEOS(テトラエトキシシラン)、O2をソースガスとして膜厚が100nmの酸化ケイ素膜(絶縁層33)を形成した。
【0030】
(発熱抵抗体形成)
次に、上記シリコンウエハに、DCスパッタ装置を用いて、Ta層(膜厚20nm)を形成後、Pt層(膜厚220nm)を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィーによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理を行って発熱抵抗体5を形成した。
【0031】
(酸化ケイ素膜形成)
次に、プラズマCVDにて、TEOS(テトラエトキシシラン)、O2をソースガスとして膜厚が100nmの酸化ケイ素膜(絶縁層34)を形成した。
【0032】
(窒化ケイ素膜形成)
次に、LP−CVDにて、ジクロルシラン(SiH2Cl2)、アンモニア(NH3)をソースガスとして膜厚が200nmの窒化ケイ素膜(絶縁層35)を形成した。
【0033】
(発熱抵抗体コンタクト部形成)
次に、フォトリソグラフィーによりレジストのパターニングを行い、ドライエッチング処理を行って窒化ケイ素膜(絶縁層35)と酸化ケイ素膜(絶縁層34)のエッチングを行い、その後発熱抵抗体コンタクト部9を形成した。
【0034】
(検知電極形成)
次に、DCスパッタ装置を用いて、Ta層(膜厚20nm)を形成後、Pt層(膜厚40nm)を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィーによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理を行って櫛歯状の検知電極6を形成した。
【0035】
(酸化物半導体コンタクト部形成)
次に、DCスパッタ装置を用いて、Au層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィーによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理を行って酸化物半導体コンタクト部8を形成した。
【0036】
(ダイヤフラムの形成)
次に、開口部21を形成するために、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液中にシリコンウエハを浸漬して、シリコンの異方性エッチングを行い、ダイヤフラムを形成した。
【0037】
(密着層形成)
次に、櫛歯状の検知電極6間およびその周囲の窒化ケイ素膜(絶縁層35)上に、アルミナの密着層7を形成した。
【0038】
(シリコンウエハの切断)
次に、上記のシリコンウエハを切断して、ガスセンサを構成するためのシリコン基板2(基体15)を得た。
【0039】
次に、上記工程によって得られた基体15に、ガス検知層4を形成する工程について説明する。
【0040】
(ペースト調整)
後述するようにして得た感応材料粉末を、らいかい機で1時間粉砕した後、適量の有機溶剤と調合し、らいかい機あるいはポットミルで4時間粉砕後、バインダーおよび粘度調整剤を適量添加し4時間粉砕してペーストを作製した。
【0041】
(ガス検知層形成)
次に、上記のようにして作製したペーストを、厚膜印刷により基体15に塗布し、500℃で1時間焼成してガス検知層4を形成した。
【0042】
次に、上記工程によって製造したガスセンサの実施例及び比較例について説明する。これらの実施例及び比較例では、上記したペースト調整に用いる感応材料粉末を変更して得られたガスセンサの特性を調べたものである。
【0043】
(実施例)
SnO2を所定量秤量し、リン酸、塩化イリジウム溶液、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液、メタバナジン酸アンモニウムを、各々0.02質量%(PO4換算)、0.5質量%(Ir換算)、0.2質量%(Pt換算)、0.5質量%(酸化物換算)となるように添加した。乾燥後、550℃、1時間で焼成し、感応材料粉末を得た。この感応材料粉末を用いて、前述した方法により、実施例1のガスセンサを作製した。この実施例1のガスセンサの特性を調べた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
また、上記実施例1のメタバナジン酸アンモニウムの含有率を1.5質量%(酸化物換算)とした以外は、実施例1と同一の条件で作製した実施例2、上記実施例1のメタバナジン酸アンモニウムの含有率を3.0質量%(酸化物換算)とした以外は、実施例1と同一の条件で作製した実施例3のガスセンサの特性を調べた結果を表1に示す。
【0046】
(比較例)
次に、比較例1として、SnO2を所定量秤量した後、リン酸、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液を、各々0.02質量%(PO4換算)、0.2質量%(Pt換算)となるように添加した。乾燥後、550℃、1時間で焼成し、感応材料粉末を得た。この感応材料粉末を用いて、前述した方法により、比較例1のガスセンサ(V25とIrを含まない)を作製した。この比較例1のガスセンサの特性を調べた結果を表1に示す。
【0047】
また比較例2として、上記の比較例1に、メタバナジン酸アンモニウムを3.0質量%(酸化物換算)添加したガスセンサ(V25を含みIrを含まない)を作製した。この比較例2のガスセンサの特性を調べた結果を表1に示す。
【0048】
また、比較例3として、上記の比較例1に、塩化イリジウム溶液を0.5質量%(Ir換算)添加したガスセンサ(V25を含まずIrを含む)を作製した。この比較例3のガスセンサの特性を調べた結果を表1に示す。
【0049】
上記のガスセンサの特性評価では、被検ガスとして、臭気ガス(アンモニア(NH3)、硫化水素(H2S)、酢酸エチル)、可燃性ガス(水素(H2))、二酸化窒素(NO2)を選択し、アンモニア10ppm、硫化水素0.5ppm、酢酸エチル7ppm、水素15ppm、二酸化窒素1ppmのガス感度(発熱抵抗体5の温度は300℃一定とした)を測定した。
【0050】
ベースガスは、O2が20.9%、残りがN2のガスであり、相対湿度40%、ガス温度25℃で一定とし、ガス感度の定義は、Ra(ベースガスを流した時の素子抵抗値)/Rg(ベースガスに対して被検ガス打ち込みから180秒後の素子抵抗値)である。またガス選択性の定義は、S/N=(1−(アンモニア、硫化水素、酢酸エチルの感度))/(1−(H2の感度))である。
【0051】
表1に示されるように、比較例1では、NH3、H2S、酢酸エチル等の臭気ガスの感度は良好であるものの、H2に対する感度が高いため、臭気ガスのH2に対するガス選択性が悪くなっている。比較例1に対してIn23を加えた比較例2では、比較例1よりはガス選択性が良くなっているが、NO2に対する感度が高くなっている。また、比較例1に対してIrを加えた比較例3では、NO2に対する感度が抑制されているが、ガス選択性は比較例1と同レベルに過ぎない。
【0052】
上記比較例1〜3と比較すると、表1に示されるように、実施例1〜3では、アンモニア、硫化水素、酢酸エチルのH2に対するガス選択性が良好で、NO2に対する感度は低く抑えられている。また、実施例1〜3の中では、V25の含有率を0.5質量%とした実施例1が、上記ガス選択性のバランスが良好となっており、V25の含有率を0.5質量%より増加させ、1.5質量%、3.0質量%とすると、H2に対する感度は低くなるが、NO2に対する感度が高くなる傾向にあった。したがって、V25の含有率は0.5質量%〜3.0質量%とすることが好ましく、V25の含有率は0.5質量%〜1.5質量%とすることがさらに好ましい。
【0053】
次に、上記した実施例1において、Irの含有率のみが異なるガスセンサを作成してその特性を測定した結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
この表2に示されるように、Irの含有率が0.1質量%の場合、含有率が0の場合に比べてH2に対する感度が低下し、ガス選択性が向上する効果が表れる。このような効果は、Irの含有率が1.0質量%程度までは、略同様な傾向にある。しかし、Irの含有率が1.0質量%を超えてさらに増加し、2.0質量%程度となると、臭気ガスの感度が低下し、ガス選択性が低下する。また、NO2に対する感度を低下させる効果もIrの含有率が1.0質量%程度でピークとなり、それ以上増加させるとNO2に対する感度が増加する傾向がある。このため、Irの含有率は、0.1質量%〜1.0質量%程度とすることが好ましい。なお、上記のIrの換わりに他の貴金属を添加した比較例として、ロジウム(Rh)を添加した(含有率=0.5質量%)比較例のガスセンサの特性を測定した結果を表2の最下段に示す。表2に示されるように、Irの換わりにRhを添加した場合、Irを添加した場合に比べて、臭気ガスに対する感度が低く、ガス選択性も低くなった。
【0056】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。例えば、上記の実施の形態においては、ガス検知層4としてリン酸、白金を含有させたものを説明したが、これらの成分を含有させずにガス検知層を構成してもよい。また、上記の実施の形態では、密着層7として絶縁性の金属酸化物の粒子を分散させたゾル溶液を塗布し、焼成して固化させた構成のものを示した。しかし、密着層7の構成はこれに限定されず、例えば、Alからなる金属層をスパッタリングで形成し、検知電極6のパターンを考慮して適宜パターニングした後、当該金属層を酸化させて密着層を形成(構成)するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係るガスセンサの全体構成を示す平面図。
【図2】図1のガスセンサのA−A線に沿った矢視方向断面図。
【図3】図1のガスセンサの発熱抵抗体の平面図。
【図4】図1のガスセンサのB−B線に沿った矢視方向断面図。
【図5】図2のガスセンサのC−C線に沿った矢視方向断面図。
【符号の説明】
【0058】
1……ガスセンサ、2……シリコン基板、3……絶縁被膜層、4……ガス検知層、5……発熱抵抗体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を有するガスセンサであって、
前記金属酸化物半導体は、SnO2であり、さらに前記ガス検知層は、少なくともV25と、Irとを含むことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサであって、
前記ガス検知層のV25の含有率が0.5質量%〜3.0質量%であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガスセンサであって、
前記ガス検知層のIrの含有率が0.1質量%〜1.0質量%であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載のガスセンサであって、
前記ガス検知層が、さらに、リン酸、白金を含むことを特徴とするガスセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−309556(P2008−309556A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156323(P2007−156323)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】