説明

ガスタービン部品のき裂発生予測方法および予測システム

【課題】ガスタービン部品を破壊することなく、特殊な計測装置を用いることなく、精度よくガスタービン部品のき裂発生時間を推定する。
【解決手段】外表面に遮熱コーティング9,10を有するガスタービン部品11の遮熱コーティング9,10内にセンサ8を装着してセンサ8の物性値を計測し、別途求めたガスタービン部品11の材料にき裂が発生する時間とセンサ8の物性値との相関を用いて前記ガスタービン部品11にき裂が発生するまでの時間を推定する方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービン部品のき裂発生予測方法および予測システムに係り、特に外表面に遮熱コーティングを有するガスタービン部品のリコーディング後のき裂発生時間を非破壊的に推定するガスタービン部品のき裂発生予測方法および予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン発電プラントはガスタービンと同軸に設けられた圧縮機の駆動によって圧縮された圧縮空気を燃焼器に導入して燃焼器で燃料とともに燃焼する。燃焼による高温の燃焼ガスはトランジションピースおよび静翼を経て動翼に導入され、この動翼を回転駆動させてガスタービンの仕事をさせるようになっている。
【0003】
この種のガスタービンの高温部品である燃焼器ライナ、トランジションピース、静翼および動翼にはNi基またはCo基またはNi-Fe基耐熱超合金が用いられているが、ガスタービンの運転とともに種々の損傷が生じる。まず、高温の燃焼ガス雰囲気にあるため、材質劣化が生じるとともに動翼については高速回転により遠心応力でクリープ損傷が蓄積する。また、ガスタービンの起動時には比較的低温環境域から高温環境域に、停止時には逆に高温環境域から低温環境域に推移する段階で熱疲労が生じ、疲労損傷が蓄積する。これらの損傷は重畳して蓄積する。
【0004】
ところでガスタービン高温部品の保守管理は、機器の設計段階で決まるクリープあるいは疲労寿命と実機の運転、立地上の環境により設定される寿命をもとに同一機種あるいは同一運転形態をとるガスタービンを分類し、分類された各グループの先行機の実績を用いて設計寿命を補正し、後続機の保守管理を行っている。近年ではガスタービンの高温部品の劣化と損傷を効率的に精度良く予測する保守管理方法が採用されつつある(例えば特許文献1参照)。いずれの保守管理方法にしても、必要に応じて定検毎に補修を繰返して管理寿命に到達した後、一律に廃却となり新品と交換している。
【0005】
高温部品の中で特に動翼は、運転によって生じる材質劣化とともに蓄積したクリープ損傷、疲労損傷による歪みが大きくなり、き裂が生じる。その後の使用によりき裂が進展し、補修しない場合は破壊事故につながる危険がある。従って、き裂が発生するまでの時間を推定するために歪みを定量的に推定する手法が必要である。なお、各種部品の歪みを推定する手法として下記の手法が主に知られている。
【0006】
切断手法…測定個所を機械的に切断して、物理的に歪みの一部を開放させ、このときの変形量の大きさを歪みゲージで測定する手法
X線回折手法…X線を測定個所に照射して、歪みによる結晶の乱れを測定してX線回折の原理から歪みを推定する手法
【特許文献1】特開平10−293049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように各種部品の歪みを推定する手法として切断手法とX線回折手法が知られているが、切断手法では歪みを推定すべき部品を破壊する必要がある。X線回折手法は非破壊で推定する利点はあるが、X線照射装置、X線検出器等の特殊な装置を必要とする等の問題がある。
【0008】
そこで本発明は、ガスタービン部品を破壊することなく、特殊な計測装置を用いることなくガスタービン部品のき裂発生時間を予測する方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の予測方法は、外表面に遮熱コーティングを有するガスタービン部品の前記遮熱コーティング内にセンサを装着してセンサの物性値を計測し、別途求めた前記ガスタービン部品の材料にき裂が発生する時間とセンサの物性値との相関を用いて前記ガスタービン部品にき裂が発生するまでの時間を推定する方法とする。
【0010】
本発明の予測システムは、外表面に遮熱コーティングを有するガスタービン部品の前記遮熱コーティング内に装着されるセンサと、前記センサの物性値を計測する計測装置と、前記ガスタービン部品の材料にき裂が発生する時間とセンサの物性値との相関関係情報を保持するマスターカーブ作成装置と、前記相関関係情報を用いて前記ガスタービン部品について計測されたセンサの物性値から前記ガスタービン部品にき裂が発生するまでの時間を推定し表示するき裂発生時間表示装置とを備えている構成とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガスタービン部品を破壊することなく、特殊な計測装置を用いることなく、精度よくガスタービン部品のき裂発生時間を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るガスタービン部品のき裂発生予測方法および予測システムの第1および第2の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
本実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測システムは図1に示すように、センサに高融点金属ファイバを用いてガスタービン部品のき裂が発生する時間を推定すべき部位に装着された高融点金属ファイバの電気抵抗値を計測する電気抵抗計測装置1と、計測した電気抵抗値を演算処理する電気抵抗処理装置2と、マスターカーブ作成装置5と、マスターカーブ作成装置5から得られる情報をもとにき裂が発生するまでの時間の推定を行うき裂発生時間表示装置6を備えている。マスターカーブ作成装置5は、実験室等で測定した高融点金属ファイバの電気抵抗値と歪みとの相関特性を予め作成し、この相関特性を記憶しておく記憶機能部と、電気抵抗処理装置2から出力された実測値と前記記憶機能部の相関特性とからき裂が発生するまでの時間を演算して求める演算機能部とを有している。き裂発生時間表示装置6は、マスターカーブ作成装置5で出力された情報をもとに現時点におけるき裂が発生するまでの時間を表示す。
【0014】
図2はマスターカーブ作成装置5に記憶されるデータの例として、蒸気冷却構造の動翼を模擬した実験室等での測定で求められた高融点金属ファイバの電気抵抗値と歪みとの相関曲線7を示す。図2は、図3に示すように基材11とトップコート9との間に設けられたボンドコート10内に高融点金属ファイバ8を埋設したものにおいて、コーディング界面と平行な方向に引張による歪みを付加し、電気抵抗値およびき裂が発生するまでの時間を求めたものである。横軸は歪みであり、縦軸は電気抵抗値である。図2から分かるように、歪みの増大とともに電気抵抗値が増加し、き裂が発生した時点で電気抵抗値が無限大となる。なお前記マスターカーブ作成装置5には高融点金属ファイバ8の埋設位置が前述の図3以外に図4(a),(b)で示す位置、タングステン合金、モリブデン合金、タンタル合金等の各種高融点金属および高融点金属ファイバの直径を変化させた実験室等のデータも記憶されており、推定精度を向上するために追加データの入力も可能になっている。
【0015】
ここでは実プラントで設計リコーティング時間内でリコーティングとなったガスタービンの第1段動翼を対象にき裂発生予測を実施した例を示す。第1段動翼がリコーティングまでに施されていたトップコート9とボンドコート10を除去し、その後、基材11の表面にボンドコート10を施し、このボンドコート10内に高融点金属ファイバとしてタングステンファイバを装着した。図5にタングステンファイバ14を装着した模式図を示す。蒸気冷却翼12の有効部の全周に装着し、深さ方向には図3に示すようにボンドコート10内に埋設した。その後、約10,000時間、約20,000時間使用後に計測端子13間の電気抵抗値を測定し、き裂発生までの時間を推定し、推定時間まで使用した。推定時間まで使用した翼の断面観察によってき裂が生じていることが確認され、精度よくき裂発生までの時間が推定できていた。タングステンファイバ14の装着位置を図6のように翼前縁部あるいは図7に示すように翼付根部とした場合にも同様な結果が得られた。
【0016】
なお、本実施の形態において、トップコート9の厚さ(Dt)、ボンドコート10の厚さ(Db)、および高融点金属ファイバ8の大きさ寸法(Df)は、それぞれDt=0.1〜2mm、Db=0.05〜0.2mm、Df=0.01〜0.1mmの範囲から適宜選定することができる。
【0017】
以上のように、本実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測方法および予測システムによれば、ガスタービン部品を破壊することなく、特殊な計測装置を用いることなく、精度よくガスタービン部品のき裂発生時間を推定することができる。
【0018】
(第2の実施の形態)
本実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測システムは図8に示すように、センサに光ファイバを用いてガスタービン部品のき裂が発生する時間を推定すべき部位に装着された光ファイバの屈折率を計測する屈折率計測装置3と、計測した屈折率を演算処理する屈折率処理装置4と、マスターカーブ作成装置5aと、マスターカーブ作成装置5aから得られる情報をもとにき裂が発生するまでの時間の推定を行うき裂発生時間表示6を備えている。マスターカーブ作成装置5aは、実験室等で測定した光ファイバの屈折率と歪みとの相関曲線を予め作成しこの相関特性を記憶しておく記憶機能部と、光ファイバの屈折率処理装置4から出力された実測値と前記記憶機能部に記憶されている相関特性とからき裂が発生するまでの時間を演算する演算機能部とを有している。き裂発生時間表示装置6は、マスターカーブ作成装置5aで出力された情報をもとに現時点におけるき裂が発生するまでの時間を表示する機能を有している。
【0019】
図9はマスターカーブ作成装置5aに記憶されるデータの例として、蒸気冷却構造の動翼を模擬した実験室等での測定で求められた光ファイバの屈折率と歪みとの相関曲線15を示す。図9は、図10に示すように基材11とトップコート9との間に設けられたボンドコート10内に光ファイバ16を埋設し、コーディング界面と平行な方向に引張による歪みを付加し、屈折率およびき裂が発生するまでの時間を求めたものである。横軸は歪みであり、縦軸は屈折率である。図9から分かるように、歪みの増大とともに屈折率が低下し、き裂が発生した時点で屈折率が0となる。なお、前記マスターカーブ作成装置5aには光ファイバ16の埋設位置が図10以外に図11(a),(b)で示す位置や光ファイバの直径を変化させた実験室等のデータも記憶されており、推定精度を向上するために追加データの入力も可能になっている。
【0020】
ここでは実プラントで設計リコーティング時間内でリコーティングとなったガスタービンの第1段動翼を対象にき裂発生予測を実施した例を示す。第1段動翼がリコーティングまでに施されていたトップコート9とボンドコート10を除去し、その後、基材11の表面にボンドコート10を施し、このボンドコート10内に光ファイバを装着した。図12に光ファイバ16を装着した模式図を示す。蒸気冷却翼12の有効部の全周に装着し、深さ方向には図10に示すようにボンドコート10内に埋設した。その後、約10,000時間、約20,000時間使用後に計測端子13間の屈折率を測定し、き裂発生までの時間を推定し、推定時間まで使用した。推定時間まで使用した翼の断面観察によってき裂が生じていることが確認され、精度よくき裂発生までの時間が推定できていた。光ファイバ16の装着位置を図13に示すように翼前縁部あるいは図14に示すように翼付根部とした場合にも同様な結果が得られた。
【0021】
なお、本実施の形態において、トップコート9の厚さ(Dt)、ボンドコート10の厚さ(Db)、および光ファイバ16の大きさ寸法(Df)は、それぞれDt=0.1〜2mm、Db=0.05〜0.2mm、Df=0.01〜0.1mmの範囲から適宜選定することができる。
【0022】
以上のように、本実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測方法および予測システムによれば、ガスタービン部品を破壊することなく、特殊な計測装置を用いることなく、精度よくガスタービン部品のき裂発生時間を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測システムの構成を示すブロック図。
【図2】高融点金属ファイバの電気抵抗値と歪みの相関曲線を示し、本発明の第1の実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測システムの作用を説明する図。
【図3】本発明の第1の実施の形態における高融点金属ファイバの装着位置を示す断面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態における高融点金属ファイバの装着位置の他の例を示す断面図。
【図5】本発明の第1の実施の形態におけるガスタービン翼へのタングステンファイバの装着位置を示す側面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態におけるガスタービン翼へのタングステンファイバの装着位置の他の例を示す側面図。
【図7】本発明の第1の実施の形態におけるガスタービン翼へのタングステンファイバの装着位置のさらに他の例を示す側面図。
【図8】本発明の第2の実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測システムの構成を示すブロック図。
【図9】光ファイバの屈折率と歪みの相関曲線を示し、本発明の第2の実施の形態のガスタービン部品のき裂発生予測システムの作用を説明する図。
【図10】本発明の第2の実施の形態における光ファイバの装着位置を示す断面図。
【図11】本発明の第2の実施の形態における光フファイバの装着位置の他の例を示す断面図。
【図12】本発明の第2の実施の形態におけるガスタービン翼への光ファイバの装着位置を示す側面図。
【図13】本発明の第2の実施の形態におけるガスタービン翼への光ファイバの装着位置の他の例を示す側面図。
【図14】本発明の第2の実施の形態におけるガスタービン翼への光ファイバの装着位置のさらに他の例を示す側面図。
【符号の説明】
【0024】
1…電気抵抗計測装置、2…電気抵抗処理装置、3…屈折率計測装置、4…屈折率処理装置、5,5a…マスターカーブ作成装置、6…き裂発生時間表示装置、7…電気抵抗値と歪みの相関曲線、8…高融点金属ファイバ、9…トップコート、10…ボンドコート、11…基材、12…蒸気冷却翼、13…計測端子、14…タングステンファイバ、15…屈折率と歪みの相関曲線、16…光ファイバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に遮熱コーティングを有するガスタービン部品の前記遮熱コーティング内にセンサを装着してセンサの物性値を計測し、別途求めた前記ガスタービン部品の材料にき裂が発生する時間とセンサの物性値との相関を用いて前記ガスタービン部品にき裂が発生するまでの時間を推定することを特徴とするガスタービン部品のき裂発生予測方法。
【請求項2】
前記センサは高融点金属ファイバであり、前記物性値は電気抵抗値であることを特徴とする請求項1記載のガスタービン部品のき裂発生予測方法。
【請求項3】
前記センサは光ファイバであり、前記物性値は屈折率であることを特徴とする請求項1記載のガスタービン部品のき裂発生予測方法。
【請求項4】
前記センサの装着部位はガスタービン部品の基材の表面またはボンドコーティングの表面またはボンドコーティング内であることを特徴とする請求項1記載のガスタービン部品のき裂発生予測方法。
【請求項5】
前記センサは装着部位により太さを変化させ、基材のき裂発生時に断線する太さであることを特徴とする請求項1記載のガスタービン部品のき裂発生予測方法。
【請求項6】
外表面に遮熱コーティングを有するガスタービン部品の前記遮熱コーティング内に装着されるセンサと、前記センサの物性値を計測する計測装置と、前記ガスタービン部品の材料にき裂が発生する時間とセンサの物性値との相関関係情報を保持するマスターカーブ作成装置と、前記相関関係情報を用いて前記ガスタービン部品について計測されたセンサの物性値から前記ガスタービン部品にき裂が発生するまでの時間を推定し表示するき裂発生時間表示装置とを備えていることを特徴とするガスタービン部品のき裂発生予測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−242887(P2006−242887A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62330(P2005−62330)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】