説明

ガスバリア性を有する植物産生樹脂多層容器

【課題】 容器全体が天然素材から成ると共に、優れたバリア性、透明性を有する多層容器を提供するにある。
【解決手段】 植物産生樹脂から成る成形体表面に、親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液と、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーの何れか一方から成るプロラミン含有層が少なくとも形成されていることを特徴とする多層成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性を有する植物産生樹脂容器に関するものであり、より詳細には、天然素材を用いた透明ガスバリア性コーティング材が施された植物産生樹脂多層容器に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック廃棄物の理想的解決法として、自然環境で炭素循環する植物産生プラスチックが注目されている。
【0003】
植物産生プラスチックとしては、従来より、脂肪族ポリエステル、例えばポリヒドロキシブチレート(PHA)、3−ヒドロキシブチレート(3HB)と3−ヒドロキシバリレート(3HV)とのランダムコポリマー、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート・アジペート(PBAS)、ポリ乳酸(PLA)等が知られている。
【0004】
これらの脂肪族ポリエステルの中でも、工業的に量産され入手が容易であり、環境にも優しい脂肪族ポリエステルとして、特にポリ乳酸が挙げられる。ポリ乳酸(PLA)は、トウモロコシなどの穀物でんぷんを原料とする樹脂であり、でんぷんの乳酸発酵物、L−乳酸発酵物、L−乳酸をモノマーとする重合体である。一般にそのダイマーであるラクタイドの開環重合法、及び直接重縮合法により製造される。この重合体は、自然界に存在する微生物により、水と炭酸ガスにより分解され、完全リサイクルシステム型の樹脂としても着目されている。またそのガラス転移点(Tg)も約58℃とポリエチレンテレフタレートのTgに近いという利点を有している。
【0005】
本発明者等は、成形性やガス又は水分バリア性、更には表面光沢や耐内容品特性に優れた生分解性多層容器として、脂肪族ポリエステルの中でも特にポリ乳酸に、エチレン−ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン系共重合体及びシクロヘキサンジメタノール変性芳香族ポリエステルから成る群より選択された樹脂の少なくとも一層を積層して成る多層容器を提案した(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−347623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記多層容器は、優れた成形性やバリア性を有するものであるが、バリア性を付与するためには、合成樹脂を必須の成分として含有する必要があり、ポリ乳酸のような植物産生樹脂を使用していても容器全体としては合成樹脂を含有するものであることから、完全な生分解性容器ということができず、容器全体として石油資源に依存することなく、植物産生樹脂と天然素材のみを用い、環境性に優れた容器が望まれている。
従って本発明の目的は、容器全体が天然素材から成ると共に、優れたバリア性、透明性を有する多層容器を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、植物産生樹脂から成る成形体表面に、親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液と、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーの何れか一方から成るプロラミン含有層が少なくとも形成されていることを特徴とする多層成形品が提供される。
本発明によればまた、植物産生樹脂から成る成形体表面に、少なくとも一層の親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液から成るプロラミン含有層、及び少なくとも一層の油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーから成る第二の層が形成されてなり、最外層がプロラミン含有溶液から成る層であることを特徴とする多層成形品が提供される。
【0009】
本発明の多層成形品においては、
1.植物産生樹脂が、ポリ乳酸であること、
2.油脂ロウが、蜜ろうであること、
3.プロラミン含有層中の親水親油バランス溶媒がアセトン/水系溶媒又はエタノール/水系溶媒であり、前記プロラミン含有層が複数回の塗工により形成されること、
4.フィルム又は容器であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多層成形品は、ポリ乳酸等の植物産生樹脂からなる容器表面に、プロラミン、油脂ロウ、水膨潤性板状フィラーから成るバリア層を形成することにより、容器全体が天然素材から成り、環境性に優れていると共に、耐水性、バリア性、透明性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の多層成形品は、植物産生樹脂からなる成形品の表面に、親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液及び水膨潤性板状フィラーからなるバリア層、或いは親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液及び水膨潤性板状フィラーからなるバリア層を形成してなることが重要な特徴である。
本発明の多層成形品において、バリア層に使用するプロラミン、特にトウモロコシの種子主要貯蔵たんぱく質であるツェインは、親水親油バランス溶媒(以下、HLB溶媒という)にのみ溶解し、水に不溶であることから、かかるプロラミン含有溶液を塗布して成る塗膜により耐水性が向上することが知られている。
【0012】
本発明においては、このようなプロラミンをHLB溶媒に配合してなるプロラミン含有溶液に、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーを組み合わせることにより、耐水性のみならず、優れたバリア性が付与されることを見出したのである。
しかもプロラミン、油脂ロウ、水膨潤性板状フィラーの何れも天然素材からなるものであることから、これらを組み合わせて成るバリア層を植物産生樹脂、特にポリ乳酸から成る成形体上に形成することにより、天然素材のみから成り、生分解性及びバリア性を有する成形体として形成することが可能となるのである。
【0013】
本発明においては、プロラミンと、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーは、同一の層中に介在させてもよいし、プロラミンを含有するプロラミン含有層と、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーを含有する層とを別の層で設けることも勿論できる。尚、油脂ロウと水膨潤性板状フィラーは同一層中に含有させることは相分離を起こすため望ましくなく、一つの層には何れか一方を含有させることが好ましい。
また本発明においては、耐水性、膜安定性、或いは板状フィラーの脱落防止等の点からプロラミン含有層が成形体の最表面に位置することが好ましく、プロラミンが含有されている限り、プロラミン単独含有の層でも、或いはプロラミンと、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーを含有する層の何れであってもよいが、プロラミンを含有する層が最表層に位置していることが耐水性の点で重要である。
【0014】
本発明のこのような作用効果は後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわちポリ乳酸からなるボトル上に、水膨潤性板状フィラーのみを含有し、ツェインを含有しない層を形成した場合には、耐水性及び水分バリア性の両方に劣り(比較例2)、またポリ乳酸からなるボトル上に、ツェインのみを含有し、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーを含有しない層を形成した場合には、水分バリア性に劣っている(比較例1)。これに対して、ポリ乳酸から成るボトル上にツェイン及び板状フィラーを含有する層を形成した場合(実施例1)、或いはポリ乳酸から成るボトル上にツェイン及び蜜ろうを含有する層を形成した場合(実施例2)は、何れも、耐水性及び水分バリア性に優れていることが明らかである。
【0015】
またポリ乳酸からなるボトル上に、ツェイン含有層及び板状フィラー含有層が形成されている場合であっても、最外層が板状フィラー含有層から成る場合は、膜安定性、耐水性に劣り、しかも板状フィラーの脱落によりバリア性も劣っている(比較例4)。これに対して、比較例4の最外層にツェイン含有層を形成している場合は、膜安定性、耐水性、及びバリア性に優れていることが明らかである。
【0016】
また本発明においては、プロラミン含有層中の親水親油バランス溶媒がアセトン/水系溶媒である場合、プロラミン含有層が複数回の塗工により形成されていることが、透明性の点から望ましい。
すなわち、HLB溶媒として水/アセトン系溶媒を用いた場合、一度塗りの場合は、不透明であるが、二度以上塗布することにより塗膜の透明化が可能になるのである(実施例1及び2参照)。
二度塗布することにより塗膜が透明化される理由は明らかではないが、一度塗りの場合はアセトンの揮発速度が大きいため、表層に歪(凹凸)が生じ、その結果外部へイズが生じて不透明になると考えられる。これに対して二度以上塗布することにより、一回目の塗膜の表層に選択的に配列された蛋白質ドメインに相溶性を示す蛋白が近づくため、一回目の塗布で形成された凹凸が埋まっているため、透明になると考えられる。
【0017】
(プロラミン含有溶液)
本発明において使用するプロラミンとしては、上述したトウモロコシの主要貯蔵たんぱく質であるツェインの他、小麦の主要貯蔵たんぱく質であるグリアジンを挙げることができるが、本発明においては、ツェインを用いることが好適である。
前述したとおり、プロラミンは水に不溶であり、HLB溶媒のみに溶解することから、水/アセトン溶媒、或いは水/アルコール溶媒を用いる。これらの溶媒の比率は、水:アセトン又はアルコール=5:95乃至40:60(容積比)の範囲にあることが好適である。
プロラミン含有溶液中のプロラミンの含有量は、HLB溶媒100重量部に対して1乃至20重量部、特に5乃至15重量部の範囲あることが好適である。上記範囲よりもプロラミン含有量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して耐水性、バリア性が劣るようになり、一方上記範囲よりもプロラミン含有量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して膜安定性に劣るようになる。
またプロラミン含有溶液には、一般にソルビトール等の可塑剤を配合することが、塗工性の点から好ましい。かかる可塑剤の配合量は、プロラミンン100重量部に対し、2乃至40重量部の範囲にあることが好ましい。
【0018】
(油脂ロウ)
天然油脂ロウとしては、蜜ロウ、木ろう、白ろう、イボタロウ、カルナバロウがバリア性の点から好適である。
油脂ロウを単層として形成する場合には、n−へキサン、トルエン等の溶剤で溶解して使用することが塗工性の点から好適であり、一般に油脂ロウの濃度が、1乃至40重量%となるように調製することが好ましい。
【0019】
(水膨潤性板状フィラー)
水膨潤性板状フィラーとしては、単位結晶層が積み重なって層状構造を有し、水又は溶剤に膨潤又は劈開してゾルを形成する膨潤性層状粘土鉱物を挙げることができ、具体的には、雲母(マイカ)、スメクタイト、カオリナイト、タルク、バーミキュライト等従来公知の層状粘土鉱物を挙げることができるが、特にマイカが好ましい。
本発明においては、水膨潤性板状フィラーは、膜安定性等の観点から、表層金属イオンがトリス酸、ジメチルステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩等でカチオン交換されていることが、無機フィラーの劈開性や分散性の点で好適である。
水膨潤性板状フィラーを単層で形成する場合には、水又は溶剤100重量部に対して水膨潤性フィラーを0.1乃至4重量部の量で配合することが好ましい。またこの水膨潤性板状フィラー分散体には、水膨潤性板状フィラー100重量部に対して5乃至30重量部のバインダー成分、例えばベタイン等を配合することが膜安定性の点から好適である。
水膨潤性板状フィラーを分散させるために用いる水以外の溶剤としては、トルエン、MEK、クロロフォルム、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0020】
(プロラミン含有混合塗布液)
本発明においては、上述したように、プロラミン含有溶液、油脂ロウ、水膨潤性板状フィラー分散体のそれぞれを単層として形成することもできるが、これらの混合組成物から成る一つの層として形成することもできる。
この場合、プロラミン含有溶液及び油脂ロウ、或いはプロラミン含有溶液及び水膨潤性板状フィラーの組み合わせで混合組成物を形成するが、上述したプロラミン含有溶液、或いは油脂ロウ、水膨潤性板状フィラー分散体を混合することにより調製することができる。
プロラミン含有溶液及び油脂ロウの混合組成物から成る塗布液の調製は、上述したHLB溶媒にプロラミン、必要により可塑剤を配合した溶液中に、上述した溶剤で希釈した乾性油を配合し、ホモジナイザー等で攪拌混合することにより調製することができる。
【0021】
一方、プロラミン含有溶液及び水膨潤性板状フィラーの混合組成物から成る塗布液の調製は、上述したHLB溶媒にプロラミン、必要により可塑剤を配合した溶液中に、上述した必要によりカチオン交換された水膨潤性板状フィラー分散体を配合し、ホモジナイザー等で攪拌混合することにより調製することができる。
【0022】
(層構成)
本発明の多層成形品は、後述する植物産生樹脂からなる成形体の表面、特に外面に、上述したプロラミン含有溶液と油脂ロウの混合物からなる層(以下、「PR+OFW」と略することがある)、プロラミン含有溶液と水膨潤性板状フィラーの混合物からなる層(以下、「PR+CL」と略することがある)の少なくとも一層を形成するか、或いはプロラミン含有溶液からなる層(以下、「PR」と略すことがある)と、油脂ロウからなる層(以下、「OFW」と略すことがある)又は水膨潤性板状フィラーからなる層(以下、「CL」と略すことがある)の各層を少なくとも一層形成し、プロラミン含有層が最表層に位置する限り種々の層構成を採用することができる。
これに限定されるものでないが、以下に層構成を例示する。尚、「PLA」は植物産生樹脂からなる成形体の層を意味する。
【0023】
PLA/PR+OFW,
PLA/PR+CL,
PLA/PR+OFW/PR,
PLA/PR+CL/PR,
PLA/OFW/PR,
PLA/CL/PR,
PLA/PR+CL/PR+OFW,
PLA/PR+OFW/PR+CL,
PLA/PR/CL/PR,
PLA/PR/OFW/PR,
PLA/PR+CL/CL/PR,
PLA/PR+OFW/CL/PR,
PLA/PR+CL/OFW/PR,
PLA/PR+CL/PR+OFW/PR,
【0024】
(植物産生樹脂)
本発明の多層成形品の基体となる植物産生樹脂から成る成形体は、ヒドロキシアルカノエート単位を主体とする脂肪族ポリエステル樹脂からなるものであり、この脂肪族ポリエステル樹脂は、少なくともフィルムを形成し得る分子量を有するべきであり、一般にその数平均分子量は、10000乃至300000、特に20000乃至200000の範囲にあるのがよい。好適な脂肪族ポリエステル樹脂の例は、ポリヒドロキシアルカノエート、或いはこれらの共重合体である。
【0025】
ポリヒドロキシアルカノエートとしては、下記式
R O
| ‖
−[−O−CH−(CH−C−]− ・・・(1)
式中、Rは水素原子、または直鎖或いは分岐鎖のアルキル基であり、nはゼロを含む正の整数である、
で表される反復単位、例えば、
グリコール酸[R=H、n=0、GA]
乳酸[R=CH、n=0、LA]、
3−ヒドロキシブチレート[R=CH、n=1、3HB]、
3−ヒドロキシバリレート[R=CHCH、n=1、3HV]、
3−ヒドロキシカプロエート[R=(CHCH、n=1、3HC]、
3−ヒドロキシヘプタノエート[R=(CHCH3、n=1、3HH]、
γ−ブチロラクトン[R=H、n=2、BL]、
δ−バレロラクトン[R=H、n=3、VL]、
等の1種或いは2種以上からなる重合体が挙げられる。
【0026】
このポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ乳酸(ポリ乳酸としては、構成単位がL−乳酸のみからなるポリ(L−乳酸)、DL−乳酸のみからなるポリ(D−乳酸)およびL−乳酸単位とD−乳酸種任意の割合で存在するポリ(DL−乳酸)を示す。)のような単独重合体であってもよく、他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体でもよい。また3−ヒドロキシブチレートと、他の3−ヒドロキシアルカノエート、特に3−ヒドロキシバリレートとを共重合させた共重合体であってもよい。
【0027】
本発明に用いる植物産生樹脂としては、ガラス転移点(Tg)が−60℃以上、特に30℃以上のものが好ましく、これらの脂肪族ポリエステルの中でも、工業的に量産され入手が容易であり、環境にも優しい脂肪族ポリエステルである、ポリ乳酸を最も好適に使用することができる。
ポリ乳酸(PLA)は、トウモロコシなどの穀物デンプンを原料とする樹脂であり、デンプンの乳酸発酵物、L−乳酸をモノマーとする重合体である。一般にそのダイマーであるラクタイドの開環重合法、及び、直接重縮合法により製造される。この重合体は、自然界に存在する微生物により、水と炭酸ガスにより分解され、完全リサイクルシステム型の樹脂として着目されている。
【0028】
本発明に用いる成形体は、構成単位が実質上L−乳酸から成り、光学異性体であるD−乳酸の含有量が4.0%以下のポリ乳酸を用いることが、耐熱性の点から望ましいが、他の脂肪族ポリエステル或いは他の樹脂とブレンドして用いることもできる。
本発明に用いる成形体には、その用途に応じて、各種着色剤、充填剤、無機系或いは有機系の補強剤、滑剤、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、防錆剤等を、公知の処方に従って配合することができる。
【0029】
(多層成形品の製造)
本発明の多層成形体の製法は、ヒドロキシアルカノエート単位を主体とする脂肪族ポリエステル樹脂から成る成形体を成形する工程、かかる成形体の少なくとも一方の表面、特に外面を上述したプロラミン含有溶液、乾性油、水膨潤性板状フィラー等を含有する塗膜を形成する工程から成っている。
【0030】
(1)成形体の成形工程
本発明に用いる成形体は、上述した植物産生樹脂から成る限り、その製法及び形状は問わず、これに限定されるものではないが、ボトル、カップ等の容器、キャップ、或いはシート、フィルム等の形状をとることができる。
フィルム、シート或いはチューブの成形は、植物産生樹脂を押出機で溶融混練した後、T−ダイ、サーキュラーダイ(リングダイ)等を通して所定の形状に押出すことにより行われ、T−ダイ法フィルム、ブローウンフィルム等が得られる。Tダイフィルムはこれを二軸延伸することにより、二軸延伸フィルムが形成される。
【0031】
また、植物産生樹脂を射出機で溶融混練した後、射出金型中に射出することにより、容器やキャップ、また容器製造用のプリフォームを製造することができる。
更に、植物産生樹脂を押出機を通して、一定の溶融樹脂塊に押し出し、これを金型で圧縮成形することにより、容器や容器製造用のプリフォームを製造することもできる。成形物は、フィルム、シート、ボトル乃至チューブ形成用パリソン乃至はパイプ、ボトル乃至チューブ成形用プリフォーム等の形をとり得る。
パリソン、パイプ或いはプリフォームからのボトルの成形は、押出物を一対の割型でピンチオフし、その内部に流体を吹込むことにより容易に行われる。また、パイプ乃至はプリフォームを冷却した後、延伸温度に加熱し、軸方向に延伸すると共に、流体圧によって周方向にブロー延伸することにより、延伸ブローボトル等が得られる。
更に、また、フィルム乃至シートを、真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形等の熱成形に付することにより、カップ状、トレイ状等の容器を成形することができる。
【0032】
本発明においては特に、ブロー成形や熱成形等の延伸成形による成形物を熱固定に付したボトルやカップ等の成形体であることが好適であり、これにより優れた耐熱性、機械的強度を付与することが可能となる。
延伸温度は、植物産生樹脂として用いる脂肪族ポリエステルの種類によっても相違するが、一般的に言って、用いるポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)を基準とし、Tg乃至Tg+60℃の温度が適当であり、例えばポリ乳酸の場合、Tg+20℃乃至Tg+50℃の温度が適当である。
また延伸倍率は一般的に、機械方向(容器軸方向)の延伸倍率が1.4乃至4倍、横断方向(容器周方向)の延伸倍率が1.4乃至4倍で、好適には面積延伸倍率が2乃至16倍となるようなものである。
熱固定は、70乃至110℃、特に80乃至100℃の温度で0.5乃至30秒行うことが好ましく、成形型内或いは成形型外の何れで行ってもよい。
【0033】
(2)塗装工程
本発明においては、上述した種々の成形法により成形された植物産生樹脂から成る成形体の少なくとも一方の表面、特に外面に、前述したプロラミン含有溶液と、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーを含有する塗膜を形成する。
これらの塗膜の形成は成形体に直接行うが、フィルムを製袋して成るパウチでは、製袋前のウエッブに行い、その後ヒートシール等による製袋を行うことになる。
プロラミン含有溶液と、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーの塗布は、浸漬により好適に塗布することができるが、スプレー等によっても塗布することができる。またフィルム状態の場合はロールコーター等を用いて塗布することができる。
尚、塗膜形成のための塗布は一般に一回の浸漬等で充分であるが、一つの層を形成するために複数回行うこともできる。特に前述したようにプロラミン含有溶液に用いるHLB溶媒が水/アセトン溶媒の場合や、或いは水/エタノール系溶媒の場合は、プロラミン含有溶液の塗工は複数回行うことが好ましい。
【0034】
塗布量は、層構成にもよるので、一概に規定できないが、塗膜全体で、プロラミンが0.01乃至10g/m、特に0.5乃至8g/m、油脂ロウが 0.01 乃至10g/m、特に0.2乃至8g/m、水膨潤性板状フィラーが0.01乃至10g/m、特に0.2乃至8g/m、の範囲となるように、植物産生樹脂から成る成形体の表面に単層或いは多層に形成することができる。また、塗膜の最終厚みは10乃至700μm、特に20乃至300μmの範囲になるように塗布することが好ましい。
塗布後乾燥することにより塗膜を形成することができるが、乾燥条件は、プロラミン含有溶液の場合は、20乃至55℃の温度で5乃至300分間、油脂ロウの場合は、20乃至55℃の温度で5乃至1800分間、水膨潤性板状フィラーの場合は、20乃至55℃の温度で5乃至300分間、乾燥することにより塗膜を形成することができる。
特にプロラミン含有溶液のHLB溶媒として水/アセトン系溶媒を用いた場合には、ポリ乳酸の熱変形温度以下の温度で短時間での乾燥で塗膜形成が可能であり、生産性に優れている。
【実施例】
【0035】
次に実施例をもって本発明を説明する。尚、本発明は実施例記載内容に限定されるものではない。
[評価]
(塗膜性)
ポリ乳酸製延伸ブローボトルを、プロラミン含有溶液に浸漬し、引き出した。塗布液がボトル表面からはじかれた場合、塗布不良とし×とした。一方、表面から塗布液がはじかれない場合、塗布良好とし、○とした。
【0036】
(塗膜安定性)
塗膜形成されたボトルの表面を素手でしごいた。この作業で、塗膜が浮き出し剥離したものは塗膜安定性なしとして×とした。一方、この作業で塗膜が浮き出すことなく、剥離しない塗膜を塗膜安定性ありとし、○とした。
【0037】
(耐水性)
塗膜形成されたボトルをそれぞれ水に浸漬した場合、塗膜が溶解し剥離が生じた場合、耐水性なしとし×とした。一方、水浸漬後に、手で握っても膜剥離が生じないものを耐水性有りとし、○とした。
【0038】
(水分バリア性)
プロラミン溶液を250ml容のポリ乳酸ボトルに塗布、乾燥後、180g量の蒸留水を充填(W)、PLAキャップで密栓し25℃恒温槽に保存した。保存後のボトルを経時毎に重量測定し(Wt)、残留水重量から残留水分残率(%)を求めた。
残留水分残留率(%)=(Wt)/(W0)×100
結果をPLAボトルの水分残留率とPETフィルムの水分残留率差を100とした場合の改善率として示した(例:30%改善率はPLAよりPET側に30%バリア性が向上したことを示す)。
【0039】
(実施例1)
プロラミンとしてツェイン(昭和産業(株)社製)、可塑剤としてソルビトール、水膨潤性板状フィラー(クニミネ工業株式会社製クニピアF)をアミノ塩酸塩水溶液でカチオン交換反応させたフィラーを表1に示す量で用いた。これらの固体成分をアセトン/水(容積比7:3)のHLB溶媒に溶解した。
次に、ポリ乳酸(PLA)ボトルを上記混合液に浸漬し、ボトル底部にたまった余分な液だれをふき取った。この塗布行程で、塗布した塗膜がはじかれることはなく、均一に分布し、塗布性は良好であった。このボトルを55℃恒温槽で1時間乾燥させた。乾燥後のボトルは白化した。次に、この乾燥ボトル(白化PLAボトル)を再び上記混合液に浸漬し、液だれを除去後、55℃で1時間乾燥させた。再度ボトルを乾燥させると、内容液が目視観察できる状態に透明となった。又、水分バリア性の改善率は27%であった。加えて、ボトルを水道水に浸漬した場合、ボトル表層の塗膜は剥離(溶出)することなく保持しており、耐水性を確認した。
【0040】
(実施例2)
水膨潤性板状フィラーの代わりに蜜ろうを表1に示す量で用いた以外は実施例1と同様に行った。
塗布面の塗膜ははじかれることはなく、均一に分布し、塗布性は良好であった。このボトルを55℃恒温槽で1時間乾燥させた。乾燥後のボトルは白化した。
次に、この乾燥ボトル(白化PLAボトル)を再び上記混合液に浸漬し、液だれを除去後、55℃で1時間乾燥させた。再度ボトルを乾燥させると、内容液が目視観察できる状態にボトルが透明となった。又、水分バリア性の改善率は30%であった。加えて、ボトルを水道水に浸漬しても、ボトル表層の塗膜が剥離(溶出)することなく保持していた。
【0041】
(比較例1)
塗膜固体成分としてプロラミンのみを用いた他は、実施例1と同様に処理した。この場合、塗膜の塗布性は良好であったが水分バリア性改善率は2%以下であった。ボトルを水道水に浸漬した場合、ボトル表層の塗膜剥離・溶出はなく、耐水性を確認した。
【0042】
(比較例2)
塗布固体成分としてプロラミンの代わりにポリビニルアルコール樹脂を用いた他は実施例1同様に処理した。この場合、塗膜の塗布性は良好であったが水分バリア性改善率は2%以下であった。ボトルを水道水に浸漬した場合、ボトル表層の塗膜剥離・溶出が生じ耐水性がなかった。
【0043】
(実施例3)
プロラミンとしてツェイン(昭和産業株式会社製 トウモロコシ蛋白ツェインDP)を、アセトン:水の容積比7:3溶媒に、10wt/V%の濃度で配合し、これを溶解後、ツェイン量の約半分量のソルビトールを添加したプロラミン含有溶液中に、ポリ乳酸(PLA)ボトルを浸漬し取り出した後、ボトル底部にたまった余分な液だれをふき取った。この塗布行程では、塗布した塗膜がはじかれることはなく、均一に塗布できた。塗布性は良好であった。
このボトルを55℃恒温槽で1時間乾燥させた。乾燥後のボトルは白化した。
次に、この乾燥ボトル(白化PLAボトル)を、蜜ろう(和光純薬社製)含有量が10重量%のヘキサン溶液に浸漬後、取り出し、ボトル底部にたまった余分な液だれをふき取った。このボトルを室温25℃に72時間放置し、ボトル表面へ塗布した蜜ろうをボトル表面に固定した。
【0044】
次いで、このボトルを上記プロラミン含有溶液中に浸漬し、取り出した後、ボトル底部にたまった余分な液だれをふき取った。この塗布行程で、塗布した塗膜がはじかれることはなく、均一に塗布できた。塗布性は良好であった。このボトルを55℃恒温槽で1時間乾燥させた。
PLAボトル外表面に塗布する塗膜は、PLA/プロラミン(ツェイン)/蜜ろう/プロラミン(ツェイン)の順であった。
乾燥後のボトルを素手でしごいても剥離することはなかった。
【0045】
(実施例4)
水膨潤性板状フィラーとして、マイカ(クニミネ工業(株)社製クニピカF)を1wt/V%になるよう蒸留水に分散し、次に、水膨潤性板状フィラーの添加量の20wt%量の[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩]を添加し、7日間攪拌し、カチオン交換反応した水膨潤性板状フィラー溶液を、実施例3の蜜ロウ含有溶液の代わりに用い、層構成をPLA/プロラミン(ツェイン)/水膨潤性板状フィラー/プロラミン(ツェイン)の順で形成した以外は実施例3と同様に多層ボトルを成形した。
乾燥後のボトルを素手でしごいても剥離することはなかった。
【0046】
(比較例3)
実施例3で用いたプロラミン含有塗料を用い、PLA/プロラミン(ツェイン)/プロラミン(ツェイン)/プロラミン(ツェイン)の多層からなるボトルとした以外は実施例3同様にした。
ボトルを素手でしごいても剥離することはなかったが、バリア性に劣っていた。
【0047】
(比較例4)
実施例4で層構成を、PLA/プロラミン(ツェイン)/水膨潤性板状フィラーとする以外は実施例4同様に行った。
乾燥後のボトルを素手でしごいた場合、クレイ層が剥離した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物産生樹脂から成る成形体表面に、親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液と、油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーの何れか一方から成るプロラミン含有層が少なくとも形成されていることを特徴とする多層成形品。
【請求項2】
植物産生樹脂から成る成形体表面に、少なくとも一層の親水親油バランス溶媒にプロラミンを配合してなるプロラミン含有溶液から成るプロラミン含有層、及び少なくとも一層の油脂ロウ又は水膨潤性板状フィラーから成る第二の層が形成されてなり、最外層がプロラミン含有溶液から成る層であることを特徴とする多層成形品。
【請求項3】
前記植物産生樹脂が、ポリ乳酸である請求項1又は2記載の多層成形品。
【請求項4】
前記油脂ロウが、蜜蝋である請求項1乃至3の何れかに記載の多層成形品。
【請求項5】
前記プロラミン含有層中の親水親油バランス溶媒がアセトン/水系溶媒又はエタノール/水系溶媒であり、前記プロラミン含有層が複数回の塗工により形成される請求項1乃至4の何れかに記載の多層成形品。
【請求項6】
フィルム又は容器である請求項1乃至5の何れかに記載の多層成形品。

【公開番号】特開2007−15139(P2007−15139A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196389(P2005−196389)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】