説明

ガスバリア性フィルム

【課題】ガスバリア性を低下させることなく透明性を高めることができる炭素含有酸化珪素膜を形成したガスバリア性フィルムを提供すること。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも一方の面に、膜厚が5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜が形成され、前記炭素含有酸化珪素膜の炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲であり、かつ着色度(YI)が1.0〜5.0の範囲であることを特徴とするガスバリア性フィルム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムに関し、特に基材フィルムに、珪素原子と炭素原子が特定の組成比である炭素含有酸化珪素膜が被覆され、ガスバリア性、透明性に優れたガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば飲食品、医薬品及び化粧品等の収容容器としてプラスチックフィルムを加工した包装材料が使用されている。プラスチックフィルムは、金属成形体及びガラス成形体に比べ、透明性に優れ、軽量で加工成形性が容易という長所がある一方、ガス透過性が高くガスバリア性に劣るという問題があった。
【0003】
そのため、例えば、炭酸ガスが発生する飲料、酸素や水(水蒸気)との接触を嫌う医薬品・食品等においては容易に利用することはできなかった。
【0004】
そこで、プラスチックフィルムの厚みを厚くしたり、さらに金属皮膜を積層させたりするなどの方法を用いることによりガスバリア性を高めることがなされてきたが、上述した金属成形体及びガラス成形体に比べ、透明性が高く、軽量で加工成形性が容易というプラスチックフィルムの長所が失われるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決する手段として、プラスチックフィルムの表面に(1)ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon、以下「DLC」ともいう)被膜、(2)酸化アルミ被膜、(3)酸化珪素や窒化珪素等の珪素被膜を形成することによりガスバリア性を高めたプラスチックフィルムが知られている。
【0006】
例えば、(1)DLC被膜は、プラスチックフィルムの変形に対する追従性・柔軟性が高いためガスバリア性の低下が少なく、X線による異物検査機も使用できる点で優れている(例えば、特許文献1参照)が、DLC被膜は一般に茶色から黒色を呈するという外観、透明性の問題がある。
【0007】
そこで、これらの問題を解決するために、DLC被膜の膜厚を薄くすると、外観、透明性については解決できるが、ガスバリア性が低下してしまうという問題がある。
【0008】
また、(2)酸化アルミ被膜をコーティングしたガスバリア性フィルムは、X線による異物検査等が使用できず、また、アルカリ性の内容物と直接触れることにより被膜が剥離するという問題がある。
【0009】
さらに、(3)珪素被膜をコーティングしたガスバリア性フィルムは、フィルムの屈曲・伸縮等の応力により珪素被膜が割れてガスバリア性が低下し易いという問題があり、基材フィルムにプライマー層を設ける必要がある。
【0010】
そして、屈曲性・伸縮性向上のため、DLC被膜と珪素被膜を順次積層する方法も検討されているが(例えば、特許文献2参照)、DLC被膜と珪素被膜の接着性が悪いという問題があり、被膜間に中間層を形成する必要がある。なお、PETボトル等のプラスチック容器の表面に珪素含有DLC被膜を設けることは知られているが(特許文献3参照)、ガスバリア性フィルムとしての利用は記載されておらず、また検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平06−344495号公報
【特許文献2】特開2005−88452号公報
【特許文献3】特開2006−213390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、ガスバリア性を低下させることなく透明性を高めることができる炭素含有酸化珪素膜を形成したガスバリア性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、鋭意検討したところ、ガスバリア層である炭素含有酸化珪素膜に対して、特定比率の珪素原子と炭素原子を有する炭素含有酸化珪素を含有させることにより、ガスバリア性を低下させることなく透明性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
第1の本発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、膜厚が5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜が形成され、前記炭素含有酸化珪素膜の炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲であり、かつ着色度(YI)が1.0〜5.0の範囲であることを特徴とするガスバリア性フィルムである。
【0015】
第1の本発明において、全光線透過率は80%以上であることが好ましい。全光線透過率をこのような範囲とすることによって、ガスバリア性フィルムを飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に適用した場合に内容物の確認及び変色等を容易且つ正確に確認することができる。
【0016】
また第1の本発明において、25℃、80%RH条件下での酸素ガス透過率は、1.0cc/m・24h以下であることが好ましい。酸素ガス透過率をこのような範囲とすることによって、例えば、高温・高湿下での処理工程を要する物品、長期間の保存を要する物品などの包装材料として好適に用いることができる。
【0017】
さらに、第1の本発明において、炭素含有酸化形成膜は、パルスプラズマCVD法により形成されることが好ましい。パルスプラズマCVD法によれば、薄膜の積層形成が容易となり、珪素化合物膜のピンホールを効果的に抑制することができる。
【0018】
第1の本発明において、基材フィルムは、縦方向に2〜6倍及び横方向に2〜5倍延伸処理することが好ましい。このような延伸処理によって、機械強度を付与させることができる。
【0019】
また、第1の本発明において、基材フィルムは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン及び環状オレフィン系樹脂からなる群より選択され、厚みが12〜300μmであることが好ましい。基材フィルムとして上記のような材料を採用することで、成形性や炭素含有酸化珪素膜との密着性に優れ、さらに透明性が高いので飲食品等の収納容器に好適に用いることができる。
【0020】
第2の本発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、膜厚が5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜が形成され、着色度(YI)が1.0〜5.0の範囲であるガスバリア性フィルムの製造方法であって、少なくとも1種以上の酸素含有ガス及び有機珪素化合物を含有する成膜用原料を用いて、炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲となるように炭素含有酸化珪素膜を形成したことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法である。
【0021】
第2の本発明において、酸素含有ガスは、O、CO、CO、HOの群から選ばれるいずれか1種以上であること好ましい。
【0022】
第2の本発明において、炭素含有酸化珪素膜は、パルスプラズマCVD法により形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、基材フィルムに炭素含有酸化珪素膜が被覆されたガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア性を低下させることなく、透明性に優れ、内容物視認性が改善されたガスバリア性フィルム及びその製造方法を提供することができ、これらのガスバリア性フィルムは、その性質から、例えば、飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に好適に用いることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、フィルムとシートの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明において、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとする。
【0025】
<ガスバリア性フィルム>
第1の本発明であるガスバリア性フィルムとしては、基材フィルムの少なくとも一方の面に、膜厚が5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜が形成され、炭素含有酸化珪素膜の炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲であり、かつ着色度(YI)が1.0〜5.0の範囲にあるものであれば、特に制限されず、合成樹脂によりフィルム状に成形された基材フィルムと、その表面に所定厚みを有し、かつ特定比率の炭素原子(C)と珪素原子(Si)を有する炭素含有酸化珪素膜が被覆された構成を有している。
【0026】
本発明においては、形成される炭素含有酸化珪素膜の炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲とすることが重要である。これは、炭素原子の割合を珪素原子に対して、できるだけ少なくさせることで、ガスバリア性を維持したまま、着色度(YI)を効果的に低減させることができるからである。前記組成比は、中でも0を超えて0.8以下とすることが好ましく、0を超えて0.5以下とすることがより好ましく、0を超えて0.1以下とすることが最も好ましい。
【0027】
(成膜用原料)
本発明のガスバリア性フィルムに使用される成膜用原料としては、例えば、モノシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等の有機珪素化合物を単独で、又は2種以上混合して、併用することができる。
【0028】
炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)を所定の範囲にするには、成膜用原料ガスとして、上述した有機珪素化合物のほかに、酸素や二酸化炭素などの酸素含有ガスを用いればよい。このようなガス原料を用いることによって、Si−Oの結合が増加し、ガスバリア性を維持したまま着色度(YI)を低減させることができる。この酸素含有ガスとしては、酸素(O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、水蒸気(HO)などの酸素原子を含むガス(気体)を挙げることができる。
【0029】
このように、酸素含有ガスを混入させながら、Si−O結合の割合をコントロールして、炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)を所定の範囲とすることによって、基材フィルムとの密着性及びガスバリア性を維持したまま、着色度(YI)を低減させることができる。
【0030】
(炭素含有酸化珪素膜の組成)
基材フィルム上に形成された炭素含有酸化珪素膜の組成としては、特に制限されるものではないが、例えば、SiOxCy又はSiCy(x=1〜1.8、y=0.1〜1.0)で表される珪素化合物であることが、バリア性及びフィルムとの密着性の点から好ましい。
【0031】
(炭素含有酸化珪素膜の厚み)
基材フィルムに被覆される炭素含有酸化珪素膜の膜厚は、10〜200nmとすることが好ましく、15〜100nmとすることがより好まく、60〜150nmとすることが最も好ましい。炭素含有酸化珪素膜の膜厚が5nm未満であるとガス透過度の上昇を招くおそれがある。一方、炭素含有酸化珪素膜の膜厚が300nmを超えると黄色度が上昇するとともに全光線透過率の低下を招くおそれがある。炭素含有酸化珪素膜の膜厚は、プラズマCVD法を使用する場合、出力、原料ガスの圧力・濃度、プラズマ発生時間等を調節することにより変化させることができる。
【0032】
(全光線透過率)
本発明のガスバリア性フィルムは、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。全光線透過率が80%以上であると、ガスバリア性フィルムを飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に適用した場合に内容物の確認及び変色等を容易且つ正確に確認することができる。全光線透過率は基材フィルムを構成する合成樹脂材料、膜厚、ガスバリア層の膜厚に依存する。全光線透過率(%)は、JISK7105に準じて分光光度計を用いて測定することができる。
【0033】
(酸素ガス透過率)
本発明のガスバリア性フィルムは、内容物の長期保存等の観点から25℃、80%RH条件下での酸素ガス透過率が1.0cc/m・24h以下であることが好ましい。なお、酸素ガス透過率は、JISK7126Bに準拠して測定される値である。
【0034】
(着色度YI)
本発明のガスバリア性フィルムは、黄色度(YI)が2.5〜5.0の範囲内であることがより好ましい。なお、黄色度(YI)は、JISZ7103に準拠して測定される値である。具体的には、市販の色差計によって測定することができ、三刺激値X、Y、Zを求め、これらを次の式を用いて計算する。
【数1】

【0035】
黄色度(YI)とは、無色又は白色から色相が黄色向に離れる度合いであり、プラスの量として表示される。従って、黄色度がマイナスの値で表示される時は色相が青方向へ移向することを示している。そこで、透明合成樹脂を原料としてガスバリア性フィルムを成形した場合、黄色度(YI)が低いことは炭素含有酸化珪素膜由来の着色が少ないことを示す。黄色度(YI)が1.0〜5.0の範囲内であると、ガスバリア性フィルムを飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に適用した場合に内容物の確認及び変色等を容易且つ正確に確認することができる。黄色度(YI)はガスバリア性フィルムを構成する合成樹脂材料、膜厚、ガスバリア層の膜厚・膜組成に依存する。
【0036】
本発明のガスバリア性フィルムは、着色の原因である炭素含有酸化珪素膜に対して、ガスバリア性を有し透明度の高い珪素膜を混合することにより、ガスバリア被膜中のDLC組成が低下するため黄色度(YI)を1.0〜5.0の範囲内まで低下し、且つ高いガスバリア性を維持することができる。
【0037】
(基材フィルム)
本発明のガスバリア性フィルムに使用される基材フィルムの樹脂材料としては、特に限定されず、樹脂成形品に適用される公知の合成樹脂材料を使用することができる。具体的には、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、シクロオレフィンコポリマ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ−4−メチルペンテン−1 樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、アイオノマ樹脂、ポリスルホン樹脂及び4−フッ化エチレン樹脂(TFE)、ポリ乳酸樹脂(PLA)等が挙げられる。これらのうちで、炭素含有酸化珪素膜との密着性及び成形性が良好である点、透明性が高く飲食品等の収容容器に好適に使用することができる点よりポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。
【0038】
基材フィルムは、上記合成樹脂材料を原料として公知の方法により製造することができる。基材フィルムは、未延伸でもよいが、機械強度を向上させるために好ましくは延伸フィルムが適用される。延伸倍率は、縦方向、横方向共に2〜10倍が好ましく、二軸延伸が好ましい。フィルムの厚さは、目的・用途、機械強度、可撓性、透明性等の観点より適宜設定することができる。
【0039】
(基材フィルムの厚み)
本発明のガスバリア性フィルムが、例えば飲食品、医薬品及び化粧品等の収容容器として使用される場合、基材フィルムの厚みは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは12〜300μmの範囲に設定される。また、フィルムの幅や長さは特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
【0040】
(成膜方法)
基材フィルム上に、炭素含有酸化珪素膜を形成する方法の一例としては、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。プラズマCVD法を用いた炭素含有酸化珪素膜の形成は、市販のプラズマCVD装置を用いて行なうことが可能である。プラズマCVD装置を用いた具体的な炭素含有酸化珪素膜の形成方法としては、1)まず真空チャンバー内に基材フィルムをセットする。2)真空チャンバー内には二対の電極があり、片方に所定(例えば13.56MHz)の高周波(RF)電源が接続され、もう一方はアースとなる。3)この真空チャンバー内を真空ポンプを用いて所定の圧力(例えば1〜50Pa)まで減圧し、ガス導入口から原料ガスを真空チャンバー内に導入する。4)プラズマ発生用電源に電力を印加することにより基材フィルム表面にプラズマを発生させ、ガスバリア性薄膜を形成させる、方法を挙げることができる。なお、炭素含有酸化珪素膜の形成方法はこれに限定されるものではなく、基材フィルムの種類・大きさ、厚み等に応じ公知の方法を適宜用いることができる。
【0041】
プラズマを発生させるための方法としては、特に限定されず市販のプラズマ発生用電源が適用される。具体的には、400KHz〜100MHzの高周波電源、915MHz〜2.45GHzのマイクロ波電源、パルス幅変調型の高周波・マイクロ波電源等が挙げられる。これらのうちで、プラズマの制御が容易であり、低温にてプラズマを発生できるため、パルス幅変調型電源が好ましい。さらに、パルス幅変調型電源は、その電力印加特性より定間隔において断続的にプラズマが発生するため、形成される珪素化合物膜は非常に薄い珪素化合物膜を何層も積層した構成となることが考えられる。ガスバリア性が低下する原因の一つとして、珪素化合物膜のピンホールが挙げられる。このピンホールを埋める手段として、薄膜の積層形成が有効である。そのためパルス幅変調型電源が好ましい。パルス幅変調型電源のパルス幅は好ましくは1〜50μsec、より好ましくは1〜20μsecの範囲に設定される。
【0042】
(用途)
上記ガスバリア性フィルムの用途は、特に限定されず、ガスバリア性が要求される飲食品、医薬品及び化粧品等の収容容器等に適用することができる。
【0043】
(その他の添加剤)
なお、本発明の効果を損なわない範囲において基材フィルムに添加剤として酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、増感剤等を配合してもよい。
【0044】
<ガスバリア性フィルムの製造方法>
第2の本発明であるガスバリア性フィルムの製造方法としては、基材フィルムの少なくとも一方の面に、少なくとも1種以上の酸素含有ガス及び有機珪素化合物を含有する成膜用原料を用いて、炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲となるように、膜厚5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜を形成し、かつフィルムの着色度(YI)を1.0〜5.0の範囲とした方法であれば、特に制限されるものではなく、基材フィルム、成膜用原料、成膜方法等については上述したものと同様のものを使用できる。
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
基材フィルムとして、厚さ125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を使用した。成膜は平行平板型のパルスプラズマCVD装置を用いて行った。先ず、真空チャンバー内を真空ポンプにより0.01Paに減圧した後、テトラメチルシラン(TMS)と酸素を1:1の流量比において導入し、装置内圧力を6Paとして、パルス幅を5μsecの直流単パルス電源により電力を印加してプラズマを発生し、炭素含有酸化珪素膜を形成した。なお、TMSは常温では液体であるために、液体原料の気化システムにより気化した状態において、マスフローコントローラーにより流量制御を行った。実施例1で得られた炭素含有酸化珪素膜コーティングガスバリア性フィルムについて、酸素透過率、全光線透過率、炭素含有酸化珪素膜の膜厚、黄色度、組成比について測定した。各測定及び評価の方法は以下のとおりである。なお、以下の実施例及び比較例も同様の測定及び評価方法にて行った。測定結果を表1に示した。
【0047】
[炭素含有酸化珪素膜の膜厚]
予めPETフィルムの成膜面に黒色インキ等でマスキングを行って、炭素含有酸化珪素膜を被覆した後、ジエチルエーテル等でマスキングを除去し、米国sloan社製、表面形状測定器「DEKTAK3030」によって膜厚を測定した。
【0048】
[酸素透過率]
酸素透過測定装置(米国モダンコントロール製、「OX−TRAN2/21」)を使用し、温度25℃、相対湿度80%の条件下で測定した。
【0049】
[黄色度]
色差計(日本電色社製「ZE2000」)により垂直に光を通過させてYIを測定することにより、前記被膜による黄色の程度を評価した。
【0050】
[全光線透過率]
JISK7105に準じて光度計(日本電色社製「NDH−300A」)を用いて全光線透過率を測定した。
【0051】
[組成比]
ESCA(アルバック・ファイ社製「ESCA−5100」)を用いてSi、C、O組成比を測定し、CとSiの比を算出した。
【実施例2】
【0052】
TMSと二酸化炭素を1:1の流量比において導入した以外は実施例1と同一内容にて、ガスバリア性PETフィルムを得た。
【0053】
[比較例1]
TMSのみを導入した以外は実施例1と同一内容にて、ガスバリア性PETフィルムを得た。
【0054】
[比較例2]
アセチレンのみを導入した以外は実施例1と同一内容にて、ガスバリア性PETフィルムを得た。
【表1】

【0055】
表1に示すように、実施例1及び2においては、炭素含有酸化珪素膜の組成比(C/Si)が所定の範囲内にあることによって、酸素透過率と黄色度とが共に優れる値となるが、この組成比が1を超える比較例1では、酸素透過率が高く、また珪素を含有しない比較例2では、黄色度が極めて高い値となることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、膜厚が5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜が形成されたガスバリア性フィルムであって、
前記炭素含有酸化珪素膜の炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲であり、かつ着色度(YI)が1.0〜5.0の範囲であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
全光線透過率が80%以上である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
25℃、80%RH条件下での酸素ガス透過率が、1.0cc/m・24h以下である請求項1又は2のいずれか記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
炭素含有酸化形成膜が、パルスプラズマCVD法により形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記基材フィルムが、縦方向に2〜6倍及び横方向に2〜5倍延伸処理してなる請求項1〜4のいずれか記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記基材フィルムが、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン及び環状オレフィン系樹脂からなる群より選択され、厚みが12〜300μmである請求項1〜5のいずれか記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、膜厚が5〜300nmの炭素含有酸化珪素膜が形成され、着色度(YI)が1.0〜5.0の範囲であるガスバリア性フィルムの製造方法であって、
少なくとも1種以上の酸素含有ガス及び有機珪素化合物を含有する成膜用原料を用いて、炭素原子(C)と珪素原子(Si)の組成比(C/Si)が0を超えて1以下の範囲となるように炭素含有酸化珪素膜を形成したことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
酸素含有ガスが、O、CO、CO、HOの群から選ばれるいずれか1種以上であることを特徴とする請求項7記載のガスバリアファイルムの製造方法。
【請求項9】
炭素含有酸化珪素膜が、パルスプラズマCVD法により形成されたことを特徴とする請求項7又は8のいずれか記載のガスバリアファイルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−158832(P2010−158832A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2388(P2009−2388)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】