説明

ガスバリア性積層フィルム

【課題】高温高湿の環境下に長期間曝された際や、レトルト処理後であっても、ガスバリア性の低下が少なく層間剥離が起こらない、優れたガスバリア性及び層間密着性を有するガスバリア性積層フィルムを提供する。
【解決手段】プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、(A)第1無機薄膜層、(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び(D)第2無機薄膜層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されており、(C)ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂(a)と無機層状化合物(b)とカップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤(c)とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、無機層状化合物(b)の含有量が、ガスバリア性樹脂(a)、無機層状化合物(b)及び前記添加剤(c)の合計100質量%中0.1質量%〜20質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有し、水蒸気や酸素等に対するバリア性に優れ、食品、医薬品、工業製品等の包装フィルムとして有用であるほか、長期の安定したガスバリア性や耐久性が求められる太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途においても好適に用いられるガスバリア性積層フィルムに関する。詳しくは、高温高湿の環境下に長期間曝されたり、レトルト処理されても、良好なガスバリア性と密着性(ラミネート強度)を発現することができるガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバリア性フィルムとして、プラスチックフィルムの表面に、アルミニウム等の金属薄膜や、酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機酸化物の薄膜を積層させたフィルムが知られていた。なかでも、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、これらの混合物等の無機酸化物の薄膜を積層させたフィルムは、透明であり内容物の確認が可能であることから、食品用途で広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの無機薄膜を積層させたフィルムは、薄膜形成の工程でピンホールやクラック等が発生し易く、さらに加工工程において無機薄膜層がひび割れてクラックが発生し易いため、期待通りの十分なガスバリア性は得られていない。そこで、このような欠点を改善する方法として、無機薄膜の上にさらにガスバリア性層を設ける試みがなされている。例えば、無機薄膜上に特定の粒径及びアスペクト比の無機層状化合物を含有する樹脂層をコートしたガスバリア性フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、プラスチックフィルムの表面に高いガスバリア性を有する樹脂組成物をコートしたフィルムも多く提案されている。このようなフィルムに用いられる樹脂組成物においては、さらにガスバリア性を向上させる方法として、樹脂組成物中に無機層状化合物等の扁平形態の無機物を分散させる方法が知られており、例えば、基材フィルム上に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、水溶性ジルコニウム系架橋剤及び無機層状化合物からなるバリアコート層を設けることが提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、これらの方法によれば、ボイル時や高湿下での特性の改良は認められるものの、太陽電池や電子ペーパー等の工業用途として必要な高温高湿環境下での長期間使用に耐えうるガスバリア性は得られていない。また、レトルト後のガスバリア性及びラミネート強度も充分に満足しうるレベルには至っておらず、安定した品質のガスバリア性フィルムは得られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3681426号公報
【特許文献2】特開2008−297527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、各種食品、医薬品、工業製品等の包装フィルムのほか、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途にも用いることができる、優れたガスバリア性及び層間密着性を有するガスバリア性積層フィルムを提供することにある。特に、高温高湿の環境下に長期間曝された際や、レトルト処理後であっても、ガスバリア性の低下が少なく層間剥離が生じにくいガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明のガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、(A)第1無機薄膜層、(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び(D)第2無機薄膜層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されており、前記(C)ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂(a)と、無機層状化合物(b)と、カップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤(c)とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、該ガスバリア性樹脂組成物中の無機層状化合物(b)の含有量が、前記ガスバリア性樹脂(a)、前記無機層状化合物(b)及び前記添加剤(c)の合計100質量%中、0.1質量%〜20質量%であることを特徴とする。
【0009】
前記無機層状化合物(b)は、スメクタイトであることが好適である。
前記(A)第1無機薄膜層及び/又は前記(D)第2無機薄膜層は、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物を含有することが好ましい。
【0010】
前記添加剤(c)としてカップリング剤を用いる場合、前記カップリング剤は、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤であることが好ましい。前記添加剤(c)として架橋剤を用いる場合、前記架橋剤は、水素結合性基用架橋剤であることが好ましい。前記添加剤(c)の含有量(カップリング剤と架橋剤を含有する場合には合計含有量)は、前記ガスバリア性樹脂(a)、前記無機層状化合物(b)及び前記添加剤(c)の合計100質量%中、0.3質量%〜20質量%であることが好ましい。
【0011】
また、前記(A)第1無機薄膜層と前記(C)ガスバリア性樹脂組成物層との間に、(B)アンカーコート層を有することも好ましい態様である。この場合、前記(B)アンカーコート層を形成するアンカーコート剤組成物は、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤を含有していることが好ましい。この場合、前記アンカーコート剤組成物中の前記シランカップリング剤の含有量は、アンカーコート剤組成物100質量%中、0.1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記(B)アンカーコート層、前記(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び前記(D)第2無機薄膜層からなる積層構造を一つの繰り返し単位とし、該単位が2以上繰り返されてなる態様も好適である。
【0013】
さらに、前記プラスチックフィルムと前記(A)第1無機薄膜層との間に、プライマーコート層を有する態様も好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温高湿の環境下に長期間曝された際や、レトルト処理後であっても、長期に安定性した酸素、水蒸気に対する優れたガスバリア性を持ち、また層間接着力が高くラミネート強度に優れたガスバリア性積層フィルムが得られる。かかるガスバリア性積層フィルムは、特に、レトルト処理を行ってもガスバリア性及び層間接着力の低下が少なく、各種用途に適した実用性の高いものであり、しかも生産安定性に優れ、均質な特性が得られやすいという利点がある。したがって、このような本発明のガスバリア性積層フィルムは、各種食品、医薬品、工業製品等の包装フィルムのほか、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、(A)第1無機薄膜層、(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び(D)第2無機薄膜層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されている。以下、本発明のガスバリア性積層フィルムについて、各層ごとに説明する。
【0016】
1.プラスチックフィルム
まず、本発明で用いるプラスチックフィルムは、有機高分子からなるフィルムであればよく、特に制限はされない。前記有機高分子としては、ポリエステルのほか、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ乳酸等を挙げることができる。
【0017】
前記ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられる。また、これらを主成分とする共重合体であってもよい。ポリエステルが共重合体である場合、そのジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の多官能カルボン酸;アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が用いられ、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール;p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコール;等が用いられる。
【0018】
特に、本発明のガスバリア性フィルムを、太陽電池用のバリアフィルム、有機エレクトロルミネッセンス用のバリアフィルム、電子ペーパー用のバリアフィルム等として用いる場合には、前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートからなるフィルムが好ましい。とりわけ、太陽電池用のバリアフィルムとして用いる場合には、耐加水分解性が高いことが求められるため、プラスチックフィルムの酸価は10当量/トン以下であることが好ましく、より好ましくは5当量/トン以下である。前記プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートで構成される場合、ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV値)は0.60以上が好ましく、より好ましくは0.65以上であり、0.90以下が好ましく、より好ましくは0.80以下である。なお、IV値は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(6/4質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。また、前記ポリエチレンテレフタレート中の環状三量体の含有量は0.7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0019】
前記プラスチックフィルムを構成する有機高分子は、フィルム強度、透明性、耐熱性等を損なわない範囲で、必要に応じて、さらに他のモノマーを少量共重合したり、他の有機高分子をブレンドしても良い。また、前記有機高分子には、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
【0020】
前記プラスチックフィルムの厚さは1μm以上が好ましく、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上であり、500μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
前記プラスチックフィルムの透明度は、特に限定されるものではないが、透明性が求められる包装材料として使用する場合には、50%以上の光線透過率をもつものが望ましい。
【0021】
前記プラスチックフィルムは、例えば、溶融押出しによりフィルム化した後、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施すことにより得ることができる。フィルム化の方法としては、押出し法、キャスト法など、公知の方法を採用することができる。
なお、前記プラスチックフィルムは、単層型フィルムであってもよいし、積層型フィルムであってもよい。積層型フィルムとする場合の各層のフィルムの種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
【0022】
前記プラスチックフィルムには、本発明の目的を損なわないかぎりにおいて、コロナ放電処理、グロー放電、火炎処理、表面粗面化処理等の表面処理が施されていてもよく、また、公知のアンカーコート処理、印刷、装飾等が施されてもよい。
【0023】
2.(A)第1無機薄膜層、(D)第2無機薄膜層
前記(A)第1無機薄膜層及び(D)第2無機薄膜層は、金属又は無機酸化物からなる薄膜である。前記金属薄膜を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、例えば、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、インジウム等が挙げられ、コスト等の観点からアルミニウムが好ましい。また、前記無機酸化物薄膜を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、好ましくは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムである。これらの中でも、ガスバリア性に優れることから、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜がより好ましく、酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜が最も好ましい。ここでいう酸化ケイ素とはSiOやSiO2等の各種珪素酸化物の混合物であり、酸化アルミニウムとは、AlOやAl23等の各種アルミニウム酸化物の混合物である。
【0024】
なお、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜が、ガスバリア性に優れる理由は、多元系無機酸化物薄膜は薄膜中の無機物の比率により膜のフレキシブル性やガスバリア性を変化させることが可能であり、性能バランスの取れた良好な薄膜を得ることができるからである。また、後述するように第2無機薄膜層上に接着剤層やヒートシール層を設ける場合、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜と接着剤層との間において高い密着力が得られやすく、ヒートシール層が剥離しにくいからである。
【0025】
前記酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜において、無機酸化物薄膜中に占める酸化アルミニウムの含有量は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、99質量%以下が好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。酸化ケイ素・酸化アルミニウム系二元系無機酸化物薄膜中の酸化アルミニウムの含有量が20質量%以上であれば、ガスバリア性がより向上し、99質量%以下であれば、蒸着膜の柔軟性が良好となり、ガスバリア性積層フィルムの曲げや寸法変化に強くなり、二元系とすることの効果がより向上する。
前記酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜は、酸化ケイ素・酸化アルミニウムを含み、さらに他の無機酸化物を含んでいてもよく、このような多元系無機酸化物薄膜もガスバリア性積層体としての効果は大きい。
【0026】
なお、無機酸化物薄膜が酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜である場合、該無機酸化物薄膜の比重の値と無機酸化物薄膜中の酸化アルミニウムの含有量(質量%)との関係を、D=0.01A+b(D:薄膜の比重、A:薄膜中の酸化アルミニウムの質量%)で示すときに、b値が1.6〜2.2となるのが好ましく、さらに好ましくは1.7〜2.1となるのがよい。もちろんこの範囲に限定されるものではないが、b値が1.6よりも小さい領域のときには、酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜の構造が粗となり、一方、b値が2.2よりも大きい領域の場合、酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜が硬くなる傾向にある。
【0027】
本発明において、(A)第1無機薄膜層と(D)第2無機薄膜層は、同じ組成でも良く、異なる組成でも良い。さらに、(A)第1無機薄膜層及び(D)第2無機薄膜層は、それぞれを2層以上の積層構成としてもよい。
【0028】
本発明において、(A)第1無機薄膜層及び(D)第2無機薄膜層の膜厚は、いずれも1nm以上が好ましく、より好ましくは5nm以上であり、800nm以下が好ましく、より好ましくは500nm以下である。膜厚が1nm以上であれば、ガスバリア性がより向上する。なお、800nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上の効果は得られない。
【0029】
(A)第1無機薄膜層及び(D)第2無機薄膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、蒸着法など公知の薄膜形成法を適宜採用すればよい。以下、無機薄膜層を形成する方法を、酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜を例に説明する。蒸着法による薄膜形成法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)等が適宜用いられる。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiO2とAl23の混合物、あるいはSiO2とAlの混合物等が好ましく用いられる。これら蒸着原料としては通常粒子が用いられるが、その際、各粒子の大きさは蒸着時の圧力が変化しない程度の大きさであることが望ましく、好ましい粒子径は1mm〜5mmである。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱、レーザー加熱などの方式を採用することができる。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、基材(プラスチックフィルム)にバイアスを印加したり、基材(プラスチックフィルム)を加熱したり冷却する等、成膜条件も任意に変更することができる。このような蒸着材料、反応ガス、基板バイアス、加熱・冷却等は、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に適用可能である。以上のような方法により、透明でガスバリア性に優れ、各種処理、例えば、煮沸処理やレトルト処理、さらには耐屈曲性試験にも耐えることができる優れた性能のガスバリア性積層フィルムを得ることが可能となる。
【0030】
3.(C)ガスバリア性樹脂組成物層
本発明において(C)ガスバリア性樹脂組成物層は、ガスバリア性樹脂組成物から形成される。前記ガスバリア性樹脂組成物は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称することもある)からなるガスバリア性樹脂(a)と無機層状化合物(b)と添加剤(c)とを含んでなる。以下、ガスバリア性樹脂組成物を構成する個々の成分ごとに説明する。
【0031】
3−1.ガスバリア性樹脂(a)
ガスバリア性樹脂(a)として用いることができるEVOHとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものが挙げられる。ここで、エチレン−酢酸ビニル系共重合体とは、エチレンと酢酸ビニルと必要に応じてその他の単量体とからなる単量体成分を共重合して得られるものである。エチレン−酢酸ビニル系共重合体において、共重合前の単量体成分におけるエチレン比率(エチレンの含有率)は20モル%〜60モル%であることが好ましく、より好ましくは20〜50モル%である。エチレン比率が20モル%以上であれば、高湿度下におけるガスバリア性がより向上し、また、レトルト処理後のラミネート強度の低下がより抑制される。一方、エチレン比率が60モル%以下であれば、ガスバリア性がより向上する。前記エチレン−酢酸ビニル系共重合体は、酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上のものが好ましい。酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上であればガスバリア性や耐油性がより良好となる。
【0032】
前記EVOHは、溶剤中での溶解安定性を向上させるために、過酸化物等により処理して分子鎖切断し、低分子量化したものであってもよい。このとき用いることのできる過酸化物としては、例えば下記(i)〜(vii)のタイプのものが挙げられる。
(i)過酸化水素(H22
(ii) M22型(M:Na、K、NH、Rb、Cs、Ag、Li等)
(iii) M’O2型(M’:Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cs、Hg等)
(iv) R−O−O−R型(R:アルキル基、以下の「R」も同様):過酸化ジエチル等の過酸化ジアルキル類
(v) R−CO−O−O−CO−R型:過酸化ジアセチル、過酸化ジアミル、過酸化ジベンゾイル等の過酸化アシル等
(vi) 過酸化酸型
a)−O−O−結合を持つ酸:過硫酸(H2SO5)、過リン酸(H3PO5)等
b)R−CO−O−OH:過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等
(vii)過酸化水素包含物:(NaOOH)2/H22、(KOOH)2/3H22
これらの中でも特に(i)過酸化水素が、後に還元剤、還元性酵素もしくは触媒を用いて容易に分解できる点で好ましい。
【0033】
前記EVOHを過酸化物で処理する方法としては特に限定されず、公知の処理方法を用いることができる。具体的には、例えば、EVOHを溶解した溶液(以下、「EVOH溶液」と称することもある)に、過酸化物や分子鎖切断を行うための触媒(例えば、硫酸鉄等)を添加し、攪拌下で40〜90℃で加熱する方法が挙げられる。
【0034】
より詳しくは、過酸化物として過酸化水素を使用する方法を例にとると、EVOH溶液(例えば、後述する溶剤中に溶解させた溶液)に過酸化水素(通常は35質量%水溶液)を添加し、攪拌下で、温度40℃〜90℃、1時間〜50時間の条件で処理すればよい。過酸化水素(35質量%水溶液)の添加量は、溶液中のEVOH100質量部に対して3質量部〜300質量部程度である。また、分子鎖切断を行うための触媒として、酸化分解の反応速度を調整するため、金属触媒(CuCl、CuSO、MoO、FeSO、TiCl、SeO等)をEVOH溶液当たり1ppm〜5000ppm(質量基準、以下同じ)程度添加してもよい。かかる処理の終了時点は、溶液の粘度が初期の1割程度以下となった点を一つの目安とすることができる。処理終了後の溶液から公知の方法にて溶媒を除去することにより、分子末端に0.03meq/g〜0.2meq/g程度のカルボキシル基を有する末端カルボン酸変性EVOHを得ることができる。
【0035】
前記ガスバリア性樹脂(a)の含有量は、ガスバリア性樹脂(a)、無機層状化合物(b)及び添加剤(c)の合計100質量%中、66質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは79質量%以上であり、最も好ましくは83質量%以上であり、99.6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは98質量%以下、最も好ましくは91.5質量%以下である。ガスバリア性樹脂(a)の含有量を前記範囲内とすることにより、高温高湿下の長期使用やレトルト処理後のラミネート強度の低下をより効率よく抑制することができる。
【0036】
3−2.無機層状化合物(b)
前記無機層状化合物(b)としては、スメクタイト、カオリン、雲母、ハイドロタルサイト、クロライト等の粘土鉱物(その合成品を含む)を挙げることができる。具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、カオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイト、加水ハロイサイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、金雲母、タルク、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、バーミキュライト、ザンソフィライト、緑泥石等を挙げることができる。また前記無機層状化合物(b)として鱗片状シリカ等も使用できる。これらの中でも特に、スメクタイト(その合成品を含む)が、水蒸気バリア性が良好な点で好ましい。なお、無機層状化合物(b)は単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0037】
また前記無機層状化合物(b)としては、その中に酸化還元性を有する金属イオン、特に鉄イオンが存在するものが好ましい。さらに、このようなものの中でも、塗工適性やガスバリア性の点からはモンモリロナイトが好ましい。モンモリロナイトとしては、従来からガスバリア剤に使用されている公知のものが使用できる。例えば、下記一般式:
(X,Y)2〜3410(OH)2・mH2O・(Wω)
(式中、Xは、Al、Fe(III)、Cr(III)を表す。Yは、Mg、Fe(II)、Mn(II)、Ni、Zn、Liを表す。Zは、Si、Alを表す。Wは、K、Na、Caを表す。H2Oは、層間水を表す。m及びωは、正の実数を表す。)
で示されるモンモリロン石群鉱物を使用することができる。これらの中でも、式中のWがNaであるものが水性媒体中でへき開する点から好ましい。
【0038】
前記無機層状化合物(b)の大きさや形状は、特に制限されないが、粒径(長径)としては5μm以下が好ましく、そのアスペクト比としては50〜5000、より好ましくは200〜3000である。
【0039】
前記無機層状化合物(b)の含有量は、ガスバリア性樹脂(a)、無機層状化合物(b)及び添加剤(c)の合計100質量%中、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、特に好ましくは1.2質量%以上であり、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。無機層状化合物(b)が0.1質量%未満であると、高温高湿下の長期使用やレトルト処理によってガスバリア性が低下したり、レトルト処理後のラミネート強度が低下しやすくなる場合がある。一方、無機層状化合物(b)の含有量が20質量%を超えると、やはり高温高湿下の長期使用やレトルト処理によって、ラミネート強度やガスバリア性が低下する傾向がある。これは、高温高湿下の長期使用やレトルト処理により層間剥離強度が低下して、無機薄膜層とガスバリア性樹脂組成物層間で剥離が生じたり、ガスバリア性樹脂組成物層の柔軟性が低下して、使用中の各種応力や振動もしくはレトルト処理時のシャワー水の応力などによりガスバリア性樹脂組成物層に亀裂が入ったりする結果、ガスバリア性が低下しやすくなると推測される。
【0040】
ちなみに、従来、ガスバリア性樹脂組成物層中の無機層状化合物(b)の含有量が少ない場合にはガスバリア性は低くなり、多い場合にはガスバリア性は高くなると考えられていた。しかし、本発明のように無機薄膜層と積層する場合においては、ガスバリア性樹脂組成物層中の無機層状化合物(b)の含有量が上記のように比較的少ない場合であっても、無機薄膜との相乗効果により高いガスバリア性を示す。これは、無機薄膜層上に形成されたガスバリア性樹脂組成物層が無機薄膜のピンホールや割れによって生じた欠点を埋める機能を果たすとともに、無機薄膜の割れなどの破損を防ぐ機能をも発揮するからであると考えられる。しかも、かかる機能は無機層状化合物(b)の含有量が少なくても十分に発現されるので、無機層状化合物の含有量に拘らず高いガスバリア性を確保できるものと考えられる。逆に、無機層状化合物(b)の含有量が多くなると、高温高湿下の長期使用やレトルト処理の際に層間接着力の低下や膜の柔軟性の低下といった現象が現れ、無機薄膜の破損を防ぐ機能が低下して、全体としてはそれ以上のガスバリア性の向上効果が得られないだけでなく、逆にガスバリア性の低下につながることになると考えられる。
【0041】
3−3.添加剤(c)
前記添加剤(c)は、カップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種である。これらの添加剤(c)は、層間接着性の向上に寄与する。カップリング剤は、樹脂組成物に使用されるものであれば特に限定されないが、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤(以下「有機官能基含有シランカップリング剤」と称することもある)が好ましく、架橋剤としては、水素結合性基用架橋剤が好ましい。添加剤(c)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記有機官能基含有シランカップリング剤が有する有機官能基としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基、イソシアネート基などが挙げられる。
具体的には、エポキシ基含有シランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−[N−(2−アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
アルコキシ基含有シランカップリング剤としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
水素結合性基用架橋剤としては、例えば水酸基やカルボキシル基などの水素結合性基の間に介在しうる化合物であればよく、例えば、水溶性ジルコニウム化合物、水溶性チタン化合物などが挙げられる。
水溶性ジルコニウム化合物の具体例としては、塩酸化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムナトリウム、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム八水和物、オキシ塩化ジルコニウム、モノヒドロキシトリス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、テトラキス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、モノヒドロキシトリス(スレート)ジルコニウムアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、塗布凝集力の向上効果及びラミネート用ガスバリア性樹脂組成物としての安定性の点から、塩酸化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウムが好ましく、特に塩酸化ジルコニウムが好ましい。
【0047】
水溶性チタン化合物の具体例としては、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタン(トリエタノールアミネート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)等が挙げられる。
【0048】
前記添加剤(c)の含有量(カップリング剤及び架橋剤の合計量)は、ガスバリア性樹脂(a)、無機層状化合物(b)及び添加剤(c)の合計100質量%中、0.3質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、最も好ましくは8質量%以上であり、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、最も好ましくは12質量%以下である。添加剤(c)の含有量を前記範囲内とすることにより、高温高湿下の長期使用やレトルト処理後のラミネート強度の低下をより効率よく抑制することができる。
【0049】
3−4.形成方法
ガスバリア性樹脂組成物層の形成は、例えば、1)ガスバリア性樹脂組成物を構成する各材料を溶媒に溶解・分散させた塗工液を用意し、これをガスバリア性樹脂組成物層形成面(例えば第1無機薄膜層や後述するアンカーコート層(B)など)に塗工する方法、2)ガスバリア性樹脂組成物を溶融して、ガスバリア性樹脂組成物層形成面に押し出してラミネートする方法、3)ガスバリア性樹脂組成物を構成する各材料を用いてフィルムを別途作成し、これをガスバリア性樹脂組成物層形成面に接着剤等で貼り合わせる方法、などが挙げられる。これらの中でも1)の塗工液を用いる方法が簡便性、生産性等の点で好ましい。なお、この際に(A)第1無機薄膜層上に後述する(B)アンカーコート層を設け、該(B)アンカーコート層面をガスバリア性樹脂組成物層形成面としてガスバリア性樹脂組成物層を設けてもよい。(B)アンカーコート層については後述する。
【0050】
以下、ガスバリア性樹脂組成物層の形成方法の一例として、上記1)の方法について説明する。
【0051】
ガスバリア性樹脂組成物を塗工液とするための溶媒(溶剤)としては、EVOHを溶解し得る水性または非水性の溶剤を使用できるが、水と低級アルコールとの混合溶剤を用いることが好ましい。具体的には、水と炭素数2〜4の低級アルコール(エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等)との混合溶剤が好適である。このような混合溶剤を使用するとEVOHの溶解性が良好となり、適度な固形分を維持できる。前記混合溶媒中の低級アルコールの含有量は15質量%〜70質量%が好ましい。混合溶剤中の低級アルコール含有量が70質量%以下であれば、前記無機層状化合物(b)を分散した場合、無機層状化合物のへき開がより進行し、また、15質量%以上であれば、ガスバリア性樹脂組成物を溶解、分散させた塗工液の塗工適性がより向上する。
【0052】
ガスバリア性樹脂組成物(該樹脂組成物を構成する各材料)を溶媒(溶剤)に溶解、分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、ガスバリア性樹脂(a)として用いるEVOHと無機層状化合物(b)とは、予めEVOHを溶解させた溶液中に、無機層状化合物(b)(必要に応じて予め水等の分散媒体中に膨潤・へき開させておいてもよい)を添加してもよいし、あるいは、予め水等の分散媒体中に無機層状化合物(b)を膨潤・へき開させておいた分散液中に、EVOH(必要に応じて予め溶剤に溶解させておいてもよい)を添加してもよい。なお、添加剤(c)は、どのタイミングで添加してもよく、例えば、上述したEVOHの溶液や無機層状化合物(b)の分散液の中に予め添加しておいてもよいのであるが、できるだけ添加剤の影響を抑えるという観点からは最終段階(ガスバリア性樹脂(a)と無機層状化合物(b)を混合した後)で添加することが好ましい。
【0053】
ガスバリア性樹脂組成物(該樹脂組成物を構成する各材料)を混合するにあたり、無機層状化合物(b)を均一に分散させるには、従来公知の攪拌装置や分散装置を利用すればよいのであるが、特に透明で安定な無機層状化合物(b)の分散液を得るには、高圧分散機(例えば、APVゴーリン社製の「ゴーリン」、ナノマイザー社製の「ナノマイザー」、マイクロフライデックス社製の「マイクロフルイタイザー」、スギノマシン社製の「アルチマイザー」、Bee社製の「DeBee」など)を使用することが好ましい。これら高圧分散機の圧力条件としては100MPa以下とすることが好ましい。圧力条件が100MPa以下であれば、無機層状化合物(b)の粉砕を抑制でき、目的であるガスバリア性が良好となる。塗工の方式は、グラビアコート、バーコート、ダイコート、スプレーコート等従来の方式が、塗工液の特性に合わせて採用することができる。
【0054】
ガスバリア性樹脂組成物の塗工液を塗工した後には、必要に応じて加熱乾燥を施すことができる。その場合、乾燥温度は好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、好ましくは200℃以下である。乾燥温度が100℃以上であれば、塗工層が十分に乾燥でき、ガスバリア性樹脂組成物層の結晶化や架橋が進行し、高温高湿下の長期使用やレトルト処理後のガスバリア性やラミネート強度がより良好となる。一方、乾燥温度が200℃以下であれば、プラスチックフィルムに熱がかかりすぎることが抑制され、フィルムが脆くなったり、収縮してしまうことが抑制され、加工性が良好となる。また、別処理工程での追加の熱処理、例えば一度フィルムを巻き取った後、巻き返しながら、またはロールで、或はラミネート工程等の後工程を行う前やその途中で追加の加熱処理(150〜200℃)を行うことも効果的である。
【0055】
以上のようにして形成されたガスバリア性樹脂組成物層の厚さは、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.08μm以上であり、0.70μm以下が好ましく、より好ましくは0.50μm以下、さらに好ましくは0.30μm以下である。厚さが0.01μm以上であれば、高温高湿下の長期使用やレトルト処理後のガスバリア性がより向上し、0.70μm以下であれば、塗工液を用いた場合でも乾燥しやすくなり、ラミネート強度がより向上する。
【0056】
4.(B)アンカーコート層
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいては、(A)第1無機薄膜層と(C)ガスバリア性樹脂組成物層との間に、(B)アンカーコート層を有することが好ましい。(B)アンカーコート層を有することにより、(A)第1無機薄膜層と(C)ガスバリア性樹脂組成物層との接着力をより向上させることができる。なお、(B)アンカーコート層は、(A)第1無機薄膜層と(C)ガスバリア性樹脂組成物層との間に限らず、例えば(C)ガスバリア性樹脂組成物層と(D)第2無機薄膜層との間に設けてもよい。
【0057】
前記アンカーコート層は、アンカーコート剤組成物と溶媒とを含有するアンカーコート層用塗工液を用いて形成される。前記アンカーコート剤組成物としては、例えば、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、チタン系、イソシアネート系、イミン系、ポリブタジエン系等の樹脂に、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系等の硬化剤を添加したものが挙げられる。前記溶媒(溶剤)としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤;メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール誘導体;等が挙げられる。
【0058】
前記アンカーコート剤組成物は、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤を含有していることが好ましい。前記有機官能基としては、アルコキシ基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。かかるシランカップリング剤の具体例としては、ガスバリア性樹脂組成物を構成する添加剤(c)として例示したシランカップリング剤と同様である。前記シランカップリング剤の含有量としては、アンカーコート剤組成物(樹脂、硬化剤及びシランカップリング剤)の合計100質量%中、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。アンカーコート剤組成物中のシランカップリング剤の含有量が0.1質量%以上であればレトルト処理後のラミネート強度がより向上し、10質量%以下であれば、特に良好な水蒸気バリア性を保持させることができる。
【0059】
アンカーコート層の厚さは、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上、最も好ましくは0.15μm以上であり、0.7μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。アンカーコート層の厚さが0.01μm以上であれば、レトルト処理によるラミネート強度の低下がより抑制され、一方、0.7μm以下であれば、コート斑が発生せずガスバリア性がより良好となる。
【0060】
5.プライマーコート層
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいては、プラスチックフィルムと(A)第1無機薄膜層との間に、プライマーコート層を有することが好ましい。プライマーコート層を有することにより、ガスバリア性積層フィルムの平面性が向上し、プラスチックフィルムと(A)第1無機薄膜層との接着力もより向上する。
【0061】
プライマーコート層は、プライマーコート層を構成する樹脂成分を溶解又は分散させたプライマーコート層用塗工液を用いて形成できる。プライマーコート層を構成する樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、共重合ポリエステル樹脂等が挙げられ、特にポリウレタン樹脂と共重合ポリエステル樹脂とを併用することが好ましい。
【0062】
前記ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、ポリヒドロキシ酸、鎖伸長剤等を反応させることにより得ることができる。前記ポリイソシアネート化合物としては、プラスチックフィルムへのコート特性の観点から、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートが好ましく挙げられ、特にメタキシリレンジイソシアネート(MXDI)や水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)が、酸素バリア性及び水蒸気バリア性の点で好ましい。さらに、MXDIと水添XDIを併用すると、自己架橋が進行しやすくなるという利点がある。前記ポリオール化合物としては、低分子量のグリコールからオリゴマーまで用いることができるが、ガスバリア性の観点からは、通常、エチレングリコール等のアルキレングリコールが好ましい。前記ポリヒドロキシ酸としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられる。前記鎖伸長剤としては、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、2−アミノエチルアミノプロパノール等のヒドロキシル基含有ジアミン等が挙げられる。ポリウレタン樹脂の製造法は特に限定されず、アセトン法やプレポリマー法など通常のポリウレタン樹脂の水性化技術を利用して調製できる。また、ポリウレタン樹脂を製造する際のウレタン化反応では、必要に応じてアミン系触媒、錫系触媒、鉛系触媒等のウレタン化触媒を使用してもよい。
【0063】
前記ポリウレタン樹脂は、ウレタン基及びウレア基(尿素基)の合計濃度が高く、かつ酸基を有することが好ましい。ポリウレタン樹脂のウレタン基及びウレア基の合計濃度は、ガスバリア性の観点から、15質量%〜60質量%が好ましい。なお、ウレタン基濃度及びウレア基濃度とは、ウレタン基の分子量(59g/当量)又はウレア基の分子量(一級アミノ基(アミノ基):58g/当量、二級アミノ基(イミノ基):57g/当量)を、繰り返し構成単位構造の分子量で除した値を意味する。前記ポリウレタン樹脂の酸価は、水溶性又は水分散性を付与できる範囲で調整すればよいが、通常5mgKOH/g〜100mgKOH/gが好ましい。
【0064】
前記共重合ポリエステル樹脂は、水分散性を付与する観点から、カルボキシル基又はその塩、スルホン酸基又はその塩等の親水性基を有する重合体であるか、もしくは親水性のグラフト重合体であることが好ましい。前記共重合ポリエステル樹脂は、例えば、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート等のカルボン酸エステルと、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール等のポリオール化合物とをエステル交換反応した後、さらにフマル酸等のポリカルボン酸とエステル化反応させることにより得ることができる。
【0065】
プライマーコート層を構成する樹脂成分として前記ポリウレタン樹脂と前記共重合ポリエステル樹脂とを併用する場合、ポリウレタン樹脂と共重合ポリエステル樹脂の比率は、ポリウレタン樹脂/共重合ポリエステル樹脂(質量比)=10/90〜70/30が好ましく、15/85〜50/50がより好ましい。ポリウレタン樹脂と共重合ポリエステル樹脂の比率が前記範囲とすることで、プラスチックフィルムへの密着性がより向上する。
【0066】
プライマーコート層用塗工液は、溶媒を含有していてもよい。例えば、前記ポリウレタン樹脂や前記共重合ポリエステル樹脂を樹脂成分とする場合、これらの溶解性や分散性の点から、さらには形成されるプライマー層のコートの均一性や製造時の安全性の点から、溶媒として、水単独溶媒もしくは水/低級アルコール混合溶媒を用いることが好ましい。プライマーコート層用塗工液の全固形分濃度は2質量%〜35質量%が好ましい。
プライマーコート層用塗工液には、樹脂成分と溶媒のほかに、必要に応じて、静電防止剤、滑り剤、アンチブロッキング剤等の公知の無機または有機の各種添加剤を含有させてもよい。
【0067】
プライマーコート層をプラスチックフィルム上に形成する方法は、特に制限されない。プライマーコート層用塗工液の粘度や塗布量などに応じて、公知の水系溶液の塗工方法から採用すればよく、例えばファウンテンバーコーティング法等を採用することができる。
【0068】
プライマーコート層の厚さは、ガスバリア性や経済性の点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以下が好ましく、より好ましくは0.3μm以下である。プライマーコート層の厚さが0.1μm以上であれば、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性により優れることとなり、一方、0.5μm以下であれば、プライマーコート層の自己架橋が十分に進行するので、ガスバリア性がより良好となる。
【0069】
6.積層構成
本発明のガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルム側から、少なくとも(A)第1無機薄膜層/(C)ガスバリア性樹脂組成物層/(D)第2無機薄膜層を順に有しているが、この積層構成に限定されず、例えば上述した(B)アンカーコート層を適宜組合わせることができる。そのような積層構成としては、例えば、態様(i)(A)第1無機薄膜層/(B)アンカーコート層/(C)ガスバリア性樹脂組成物層/(D)第2無機薄膜層;態様(ii)(A)第1無機薄膜層/(B1)第1アンカーコート層/(C1)第1ガスバリア性樹脂組成物層/(D)第2無機薄膜層/(B2)第2アンカーコート層/(C2)第2ガスバリア性樹脂組成物層;等が挙げられる。これらの中では、態様(i)が好ましい。
また本発明のガスバリア性積層フィルムの積層構成においては、プライマーコート層を組合わせることもでき、上述したように、プラスチックフィルムと(A)第1無機薄膜層の間にプライマーコート層を設ける態様も好ましい。例えば上記態様(i)、(ii)の場合、ガスバリア性樹脂組成物層と第2無機薄膜層との間にプライマーコート層を設けてもよい。
【0070】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいては、特に、(B)アンカーコート層、(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び(D)第2無機薄膜層からなる積層構造を一つの繰り返し単位とし、該単位が2以上繰り返されてなる構成も好ましい態様である。なお、この態様における(B)アンカーコート層、(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び(D)第2無機薄膜層や、上記態様(ii)のアンカーコート層のように、積層構成において同じ種類の層を2以上積層する場合には、各層の組成は同じであってもよいし異なっていてもよい。
さらに本発明のガスバリア性積層フィルムにおいては、プラスチックフィルムの両面に上記の各層を設けてもよい。この場合、両面で積層構成や各層の組成が異なっていてもよい。
【0071】
7.他のフィルム等との積層
本発明のガスバリア性積層フィルムは、食品包装用途をはじめ様々な用途に用いることができ、それに合わせて、ヒートシール層、印刷層、他の樹脂フィルム、これらの層を接着するための接着剤層などの1種以上を設けることができる。これらその他の層を積層する際には、例えば、本発明のガスバリア性積層フィルムのいずれかの層の上に直接溶融押し出しラミネートする方法、コーティングによる方法、フィルム同士を直接または接着剤を介してラミネートする方法など、公知の手段を採用すればよい。また、高いバリア性が求められる場合には、本発明のガスバリア性積層フィルムを2枚以上積層することもできる。
【0072】
例えば、レトルトパウチ等やレトルト食品の蓋材として用いる場合には、(D)第2無機薄膜層上にポリエチレンやポリプロピレン等のヒートシール層を設けることが好ましい。また、(C)ガスバリア性樹脂組成物層とヒートシール層の間に他の樹脂フィルムを積層してもよい。他の樹脂フィルムとしてはプラスチックフィルムとして挙げたような樹脂フィルムを用いることができる。これらの積層の際には接着剤を介して積層することができる。
【0073】
また、太陽電池等の用途に用いる場合は、本発明のガスバリア性積層フィルムに、フッ素系フィルムや耐加水分解性ポリエステルフィルム等の耐候性フィルム、光反射性白色フィルム、黒色系の着色フィルム等を積層してバックシートとして用いることができる。太陽電池受光面側のフィルムとして用いる場合には、本発明のガスバリア性積層フィルムに防汚コート、反射低減コート、防眩コート、ハードコート等を施したり、これらのコートを施した他のフィルムを積層してもよい。また、有機ELや電子ペーパー等の用途においても、防汚コート、反射低減コート、防眩コート、ハードコート等を施したり、これらのコートを施した他のフィルムを積層してもよい。これらの他のコート及び他のフィルムは本発明のガスバリア性積層フィルムのどちらの面に設けても良い。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0075】
1.評価方法
1−1.評価用ラミネートガスバリア性積層フィルムの作製
ガスバリア性積層フィルムNo.1〜17の第2無機薄膜層(No.13、17ではガスバリア性樹脂組成物層)の上に、ウレタン系2液硬化型接着剤を用いたドライラミネート法により、ヒートシール層として無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製「P1147」:厚さ70μm)を貼り合わせ、40℃にて4日間エージングを施すことにより、評価用のラミネートガスバリア性積層フィルム(以下「評価用ラミネートフィルム」と称することもある)を得た。なお、ウレタン系2液硬化型接着剤で形成される接着剤層の乾燥後の厚さは3μmであった。
【0076】
1−2.ラミネート強度の測定方法
評価用ラミネートフィルムを幅15mm、長さ200mmに切り出して試験片とし、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、テンシロン万能材料試験機(東洋ボールドウイン社製「テンシロンUMT−II−500型」)を用いてラミネート強度(レトルト処理前)を測定した。なお、ラミネート強度の測定は、引張速度を200mm/分とし、ガスバリア性積層フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとの間に水をつけて、剥離角度90度で剥離させたときの強度を測定した。
他方、評価用ラミネートフィルムに対して、温度121℃、圧力0.2MPa(2kgf/cm2)の水蒸気中に保持するレトルト処理を30分間施した後、40℃で24時間乾燥し、得られたレトルト処理後のラミネートフィルムについて、上記と同様にして試験片を切り出し、ラミネート強度(レトルト処理後)を測定した。
【0077】
1−3.酸素透過度
評価用ラミネートフィルムについて、JIS−K7126−2の電解センサー法(付属書A)に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OX−TRAN 2/20」)を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で酸素透過度(レトルト処理前)を測定した。
他方、評価用ラミネートフィルムに対して、温度121℃、圧力0.2MPa(2kgf/cm2)の水蒸気中に保持するレトルト処理を30分間施した後、40℃で24時間乾燥し、得られたレトルト処理後のラミネートフィルムについて、上記と同様にして酸素透過度(レトルト処理後)を測定した。
【0078】
1−4.水蒸気透過度測定
評価用ラミネートフィルムについて、JIS−K7129−B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN−W 3/33MG」)を用い、温度40℃、湿度100%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度(レトルト処理前)を測定した。なお、測定においては、評価用ラミネートフィルムのプラスチックフィルム側からガスバリア性樹脂組成物層側に向けて水蒸気が透過するよう配置し、調湿した。
他方、評価用ラミネートフィルムに対して、温度121℃、圧力0.2MPa(2kgf/cm2)の水蒸気中に保持するレトルト処理を30分間施した後、40℃で24時間乾燥し、得られたレトルト処理後のラミネートフィルムについて、上記と同様にして水蒸気透過度(レトルト処理後)を測定した。
【0079】
2.準備
2−1.プラスチックフィルムの作製
固有粘度(30℃、フェノール/テトラクロロエタン(質量比)=60/40)が0.62であり、シリカを100ppm含むポリエチレンテレフタレート(PET)を予備結晶化した後、本乾燥し、Tダイを有する押出し機を用いて280℃で押出し、表面温度40℃のドラム上で急冷固化させて無定形シートを得た。次に、この無定形シートを加熱ロールと冷却ロールとの間で縦方向に100℃にて4倍に延伸し、プラスチックフィルムとして一軸延伸PETフィルムを得た。
【0080】
2−2.プライマーコート層を形成するための塗工液の調製
メタキシリレンジイソシアネート(MXDI)45.59質量部、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI(1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン))93.9質量部、エチレングリコール24.8質量部、ジメチロールプロピオン酸13.4質量部及び溶剤としてメチルエチルケトン80.2質量部を混合し、窒素雰囲気下70℃で5時間反応させた。得られたカルボキシル基含有ウレタンプレポリマー溶液を40℃にてトリエチルアミン9.6質量部で中和した。このウレタンプレポリマー溶液を624.8質量部の水にホモディスパーにより分散させ、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール21.1質量部で鎖伸長反応を行った後、メチルエチルケトンを留去することにより、固形分25質量%、平均粒子径90nmの水分散型ポリウレタン樹脂を得た。この樹脂の酸価は26.9mgKOH/gであり、ウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計は39.6質量%であった。これを水で希釈し、固形分15質量%のポリウレタン樹脂水分散液とした。
【0081】
他方、撹拌機、温度計及び部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、ジメチルテレフタレート466質量部、ジメチルイソフタレート466質量部、ネオペンチルグリコール401質量部、エチレングリコール443質量部、及びテトラ−n−ブチルチタネート0.52質量部を仕込み、160℃から220℃まで4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、フマル酸23質量部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで、255℃まで昇温し、反応系内を徐々に減圧していき、26.7Pa(0.2mmHg)の圧力下で1時間30分反応させた後、無水トリメリット酸19質量部を加え、窒素雰囲気下220℃で1時間撹拌して、共重合ポリエステル樹脂を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂は、淡黄色透明で重量平均分子量は12000であった。
【0082】
次に、攪拌器、温度計、還流装置及び定量滴下装置を備えた反応器に、上記で得られた共重合ポリエステル樹脂75質量部とメチルエチルケトン56質量部とイソプロピルアルコール19質量部とを入れ、65℃で加熱し攪拌して樹脂を溶解させた。樹脂が完溶した後、メチルエチルケトン25質量部にメタクリル酸17.5質量部及びアクリル酸エチル7.5質量部の混合物とアゾビスジメチルバレロニトリル1.2質量部とを溶解させた溶液を、0.2mL/分で、完溶した共重合ポリエステル樹脂溶液中に滴下し、滴下終了後さらに2時間攪拌を続けた。次いで、得られた反応溶液に水300質量部とトリエチルアミン25質量部とを加え、1時間攪拌して、グラフト化ポリエステルの分散体を得た。得られた分散体の温度を100℃にまで上げて、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール及び過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去させ、共重合ポリエステル水系分散体を得た。得られた分散体中の共重合ポリエステル樹脂粒子は、白色で、平均粒子径が300nm、25℃におけるB型粘度が50cpsであった。これを水で希釈して、固形分25質量%の共重合ポリエステル樹脂水分散液とした。
【0083】
上記のポリウレタン樹脂水分散液と共重合ポリエステル樹脂水分散液とを、ポリウレタン樹脂と共重合ポリエステル樹脂の割合が、ポリウレタン樹脂/ポリエステル樹脂(質量比)=20/80となるように混合し、これを水で希釈して、固形分10質量%のプライマーコート層用塗工液とした。
【0084】
2−3.アンカーコート層を形成するための塗工液の調製
ウレタン系樹脂(三井化学社製「タケラック(登録商標)A525−S」)に、イソシアネート系硬化剤(三井化学社製「タケラック(登録商標)A−50」)を添加し、溶媒として酢酸エチルを用い、固形分濃度が6.5質量%になるよう調製した。ここに、エポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業社製「KBM403」)を、アンカーコート用樹脂組成物(樹脂、硬化剤及びシランカップリング剤の合計100質量%)中の含有量が5質量%となるように添加し、得られた樹脂組成物をアンカーコート層用塗工液(アンカーコート用樹脂組成物)とした。
【0085】
2−4.ガスバリア性樹脂組成物層の材料の調製
<エチレン−ビニルアルコール系共重合体溶液の調製>
精製水20.996質量部とn−プロピルアルコール(NPA)51質量部との混合溶媒に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学社製「SG−525」;エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られた重合体、エチレン比率26モル%、酢酸ビニル成分のケン化度約100%(以下「EVOH」と略記することがある))15質量部を加え、さらに過酸化水素水(濃度30質量%)13質量部と硫酸鉄(FeSO4)0.004質量部とを添加し、撹拌下で80℃まで加温して約2時間反応させた。その後、反応液を冷却し、カタラーゼを3000ppmになるように添加することにより残存過酸化水素を除去して、固形分15質量%のほぼ透明なエチレン−ビニルアルコール共重合体溶液(EVOH溶液)を得た。
【0086】
<ポリビニルアルコール樹脂溶液の調製>
精製水40質量%、n−プロピルアルコール(NPA)60質量%からなる混合溶剤70質量部に、完全けん化ポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学社製「ゴーセノール(登録商標)NL−05」;けん化度99.5%以上)30質量部を加えて溶解させて、固形分30質量%の透明なポリビニルアルコール樹脂溶液(PVA溶液)を得た。
【0087】
<無機層状化合物分散液の調製>
無機層状化合物であるモンモリロナイト(クニミネ工業社製「クニピア(登録商標)F」)4質量部を精製水96質量部中に攪拌しながら添加し、高圧分散装置にて圧力50MPaの設定にて充分に分散させた。その後、40℃にて1日間保温して、固形分4質量%の無機層状化合物分散液を得た。
【0088】
<添加剤>
架橋剤:塩酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製「ジルコゾール(登録商標)Zc−20」;固形分20質量%)
架橋剤:チタンラクテート(松本製薬工業社製「オルガチックス(登録商標)TC−310」;固形分約45質量%)
シランカップリング剤:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製「KBE−403」;固形分100質量%)
【0089】
2−5.ガスバリア性樹脂組成物層を形成するための塗工液の調製
<調製例1>
混合溶剤A(精製水:n−プロピルアルコール(質量比)=40:60)62.30質量部に、EVOH溶液を31.75質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.95質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作から得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した。分散処理した混合液97質量部に対して、添加剤として架橋剤(塩酸化ジルコニウム)0.75質量部、精製水0.9質量部、NPA1.35質量部を添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュ(目開き60μm)のフィルターにて濾過し、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.1を得た。
【0090】
<調製例2>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A65.76質量部、EVOH溶液33.00質量部、無機層状化合物分散液1.24質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.2を得た。
【0091】
<調製例3>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A64.00質量部、EVOH溶液32.36質量部、無機層状化合物分散液3.64質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.3を得た。
【0092】
<調製例4>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A66.21質量部、EVOH溶液33.17質量部、無機層状化合物分散液0.62質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.4を得た。
【0093】
<調製例5>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A60.67質量部、EVOH溶液31.15質量部、無機層状化合物分散液8.18質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.5を得た。
【0094】
<調製例6>
添加剤をシランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)0.15質量部に変更し、精製水及びNPAの使用量を、精製水1.14質量部、NPA1.71質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.6を得た。
【0095】
<調製例7>
添加剤を架橋剤(チタンラクテート)0.33質量部に変更し、精製水及びNPAの使用量を、精製水1.07質量部、NPA1.60質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.7を得た。
【0096】
<調製例8>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A59.10質量部、EVOH溶液30.58質量部、無機層状化合物分散液10.32質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.8を得た。
【0097】
<調製例9>
混合溶剤A61.52質量部に、EVOH溶液を32.40質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液6.08質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作から得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して、添加剤として架橋剤(塩酸化ジルコニウム)0.25質量部と、混合溶剤A2.75質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.9を得た。
【0098】
<調製例10>
混合溶剤A65.02質量部に、EVOH溶液を29.46質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.52質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作から得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して、添加剤として架橋剤(塩酸化ジルコニウム)2.50質量部と、混合溶剤A0.50質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.10を得た。
【0099】
<調製例11>
混合溶剤A66.67質量部に、EVOH溶液を33.33質量部添加し、充分に攪拌混合した。更に、この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
この様にして得られた混合液97質量部に対して、添加剤として架橋剤(塩酸化ジルコニウム)0.75質量部と、混合溶剤A2.25質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.11を得た。
【0100】
<調製例12>
混合溶剤A78.17質量部に、ポリビニルアルコール樹脂溶液(PVA溶液)を15.87質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.95質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作から得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して、添加剤として架橋剤(塩酸化ジルコニウム)0.75質量部と、混合溶剤A2.25質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.12を得た。
【0101】
3.ガスバリア性積層フィルムの作製
<製造例1>
上記プライマーコート層用塗工液を、液をフィルム表面へ吐出するためのファウンテンに繋がった温調タンクに投入し、攪拌しながら25℃に制御した。上記一軸延伸PETフィルムの片面にファウンテンを接面し、30p孔のポリプロピレン製カプセルフィルターを通して異物を濾別したクリーンな液を、吐出量0.028m3/分の条件で一軸延伸PETフィルムの片面にコートした。次いで、14mm直径の平滑なバーを液面につけ、延伸後のプライマーコート層の厚さが0.20μmとなるようにコート液をかきとった。コート速度(製膜速度)は150m/分とし、コート性に関連するバーの回転速度については、フィルムの進行方向と同方向で、60rpm(周速で2.6m/分)とした。
【0102】
次に、乾燥ゾーン(テンター)にフィルムを導き、予熱温度100℃で溶媒を揮発、乾燥させた。そして、温度120℃で横方向に4.0倍に延伸し、6%の横方向の弛緩を行いながら、225℃に設定した熱固定ゾーンにおいて熱固定処理を行った。各温度での処理時間は、予熱温度100℃で3秒、延伸温度120℃で5秒、熱固定処理温度225℃で8秒であったが、この処理時間は限定されるものではない。その後、冷却し、両縁部を裁断除去することによって、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを1000m以上に亘って連続的に製膜してなるミルロールを得た。得られたミルロールを、幅400mm、長さ1000mにスリットして、3インチ紙管に巻き取り、プライマーコート層を有するPETフィルムを得た。
【0103】
次に、上記プライマーコート層を有するPETフィルムのプライマーコート層の面に、第1無機薄膜層として、酸化ケイ素と酸化アルミニウムの二元系酸化物無機薄膜層(酸化ケイ素/酸化アルミニウムの比率(質量比)=50/50)を形成した。具体的には、酸化ケイ素(二酸化ケイ素)と酸化アルミニウムとの二元系無機酸化物薄膜の形成は、蒸着源(蒸着材料)として、3mm〜5mm程度の大きさの粒子状のSiO2(純度99.99%)とA123(純度99.9%)を用い、加熱源としてはEB(Electron Beam)銃を用いて、電子ビーム蒸着法により行なった。蒸着材料は、混合せずに、2つに区切って投入し、EB銃のエミッション電流を1.2Aとして、SiO2とA123との質量比が50:50となるように、SiO2とA123のそれぞれを時分割で加熱した。このとき、フィルム送り速度は30m/分とし、蒸着時の圧力は1×10-2Paに、蒸着時のフィルムを冷却するためのロールの温度は−10℃にそれぞれ調整した。このようにして得られた第1無機薄膜層の厚さは27nmであった。
【0104】
次に、第1無機薄膜層上にアンカーコート層用塗工液をグラビアロールコート法によって塗布し乾燥させアンカーコート層を形成した。乾燥後のアンカーコート層の厚さは0.30μmであった。
次いで、アンカーコート層上に、ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.1をグラビアロールコート法によって塗布し、160℃で乾燥させて、ガスバリア性樹脂組成物層を形成した。乾燥後のガスバリア性樹脂組成物層の厚さは0.25μmであった。
次いで、ガスバリア性樹脂組成物層の上に、第2無機薄膜層として、酸化ケイ素と酸化アルミニウムの2元系酸化物無機薄膜層(酸化ケイ素/酸化アルミニウムの比率(質量比)=50/50)を上記第1無機薄膜層と同様にして形成し、ガスバリア性積層フィルムNo.1を得た。なお、第2無機薄膜層の厚さは27nmであった。
【0105】
<製造例2〜10>
ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液を、ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.2〜10に変更したこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.2〜10を作製した。
【0106】
<製造例11>
製造例1で作製したガスバリア性積層フィルムNo.1の第2無機薄膜層上に、さらに製造例1と同様にしてアンカーコート層、ガスバリア性樹脂組成物層、第2無機薄膜層を形成し、ガスバリア性積層フィルムNo.11を作製した。
【0107】
<製造例12>
製造例11で作製したガスバリア性積層フィルムNo.11の第2無機薄膜層(最外層)の上に、さらに製造例1と同様にしてアンカーコート層、ガスバリア性樹脂組成物層、第2無機薄膜層形成し、ガスバリア性積層フィルムNo.12を作製した。
【0108】
<製造例13>
第2無機薄膜層を形成しなかったこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.13を作製した。
【0109】
<製造例14>
ガスバリア性樹脂組成物層を形成しなかったこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.14を作製した。
【0110】
<製造例15,16>
ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液を、ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.11、12に変更したこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.15、16を作製した。
【0111】
<製造例17>
第1無機薄膜層の厚さが50nmになるように、該第1無機薄膜層を形成する際にフィルム送り速度を16m/分とし、蒸着時の圧力を1×10-2Paとし、蒸着時のフィルムを冷却するためのロールの温度を−10℃とし、かつ第2無機薄膜層を形成しなかったこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.17を作製した。
【0112】
作製したガスバリア性積層フィルムNo.1〜17の構成及びこれらの評価結果を表1、表2及び表3に示した。表1及び表2に示す例は本発明例であり、表3に示す例は比較例に相当する。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
ガスバリア性積層フィルムNo.1〜12は、本発明要件を満足するものである。これらのフィルムでは、レトルト処理後においても、ラミネート強度が高く、酸素透過度及び水蒸気透過度が低い値である。特に、繰り返し単位の積層回数が2以上であるガスバリア性積層フィルムNo.11,12は、レトルト処理後の酸素透過度及び水蒸気透過度が特に優れている。
【0117】
ガスバリア性積層フィルムNo.13は第2無機薄膜層を有さないもの、ガスバリア性積層フィルムNo.14はガスバリア性樹脂組成物層を有さないもの、ガスバリア性積層フィルムNo.15はガスバリア性樹脂組成物が無機層状化合物を含有しない場合であるが、これらはいずれも酸素透過度及び水蒸気透過度が高い値である。ガスバリア性積層フィルムNo.16はガスバリア性樹脂組成物中のガスバリア性樹脂がポリビニルアルコール(PVA)である場合であるが、これはレトルト処理前の酸素透過度及び水蒸気透過度が高い値を示し、且つ、レトルト処理時にガスバリア性積層フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとが剥離してしまった。ガスバリア性積層フィルムNo.17は第2無機薄膜層を有さない代わりに第1無機薄膜層の厚さを厚くしたものであるが、やはりガスバリア性樹脂組成物層が第1無機薄膜層と第2無機薄膜層とに挟まれた構成でないと、本発明と同等の酸素透過度及び水蒸気透過度は得られない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明により、酸素、水蒸気等に対する高いガスバリア性を持ちながら層間接着力が高くラミネート強度に優れたガスバリア性積層フィルムが得られる。特に、レトルト処理を行ってもガスバリア性、層間接着力の低下が少なく、各種用途に適した実用性の高いガスバリア性積層フィルムを得ることができる。また、生産安定性に優れ、均質な特性が得られやすいガスバリア性積層フィルムとなる。
【0119】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、レトルト用の食品包装に止まらず、各種食品や医薬品、工業製品の包装用途のほか、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途にも広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、(A)第1無機薄膜層、(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び(D)第2無機薄膜層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されており、
前記(C)ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂(a)と、無機層状化合物(b)と、カップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤(c)とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、該ガスバリア性樹脂組成物中の無機層状化合物(b)の含有量が、前記ガスバリア性樹脂(a)、前記無機層状化合物(b)及び前記添加剤(c)の合計100質量%中、0.1質量%〜20質量%であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記無機層状化合物(b)が、スメクタイトである請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記(A)第1無機薄膜層及び/又は前記(D)第2無機薄膜層が、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物を含有する請求項1又は2に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記カップリング剤が、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤である請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記架橋剤が、水素結合性基用架橋剤である請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記添加剤(c)の含有量が、前記ガスバリア性樹脂(a)、前記無機層状化合物(b)及び前記添加剤(c)の合計100質量%中、0.3質量%〜20質量%である請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項7】
前記(A)第1無機薄膜層と前記(C)ガスバリア性樹脂組成物層との間に、(B)アンカーコート層を有する請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項8】
前記(B)アンカーコート層を形成するアンカーコート剤組成物が、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤を含有している請求項7に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項9】
前記アンカーコート剤組成物中の前記シランカップリング剤の含有量が、アンカーコート剤組成物100質量%中、0.1質量%〜10質量%である請求項8に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項10】
前記(B)アンカーコート層、前記(C)ガスバリア性樹脂組成物層及び前記(D)第2無機薄膜層からなる積層構造を一つの繰り返し単位とし、該単位が2以上繰り返されてなる請求項7〜9のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項11】
前記プラスチックフィルムと前記(A)第1無機薄膜層との間に、プライマーコート層を有する請求項1〜10のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。

【公開番号】特開2011−148306(P2011−148306A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285042(P2010−285042)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】