説明

ガス発生器

【課題】製造が容易でかつ伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能なガス発生器を提供する。
【解決手段】ガス発生器1Aは、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20からなる両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングと、イニシエータシェル10に取付けられた点火器30と、点火器30によって着火される伝火薬34が収容されたエンハンサカップ32と、このエンハンサカップ32の外周を取り囲むように配置された隔壁部63とを備える。エンハンサカップ32は、ガス発生剤42が収容された燃焼室40内に突出して設けられており、点火器30の作動に伴う伝火薬34の燃焼により破裂または溶融する機械的強度の低いアルミニウム製のカップ状部材からなる。隔壁部63は、燃焼室40のエンハンサカップの外周側に位置する部分の少なくとも一部を、エンハンサカップ側の空間S1とハウジングの周壁部12,22側の空間S3とに隔てている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に組み込まれるガス発生器に関し、より特定的には、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張・展開させることにより、エアバッグがクッションとなって乗員の体を受け止めるものである。ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時にコントロールユニット(作動器)からの通電によって点火器(スクイブ)を発火し、点火器において生じる火炎によりガス発生剤を燃焼させて多量のガスを瞬時に発生させ、これによりエアバッグを膨張・展開させる機器である。なお、エアバッグ装置は、たとえば自動車のステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に装備される。
【0003】
ガス発生器には、種々の構造のものが存在するが、特にステアリングホイール等に装備される運転席側エアバッグ装置に好適に利用されるガス発生器として、いわゆるディスク型のガス発生器がある。ディスク型のガス発生器は、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有し、ハウジングの周壁にガス噴出口が設けられるとともにハウジングの内部にガス発生剤や点火器等が収容されてなるものである。このディスク型のガス発生器においては、点火器にて生じた火炎によって確実にガス発生剤が着火されることとなるように、ガス発生剤が収容された燃焼室と点火器との間に燃焼促進剤としての伝火薬(エンハンサ)が配置されることが一般的である。通常、伝火薬は、エンハンサカップと呼ばれるカップ状部材の内部に設けられた伝火室に収容され、この伝火室が点火器の点火部(スクイブカップ)に面するようにエンハンサカップが燃焼室内に突出した状態で配置される。このような構成のガス発生器が開示された文献として、たとえば特開2002−370607号公報(特許文献1)等がある。
【特許文献1】特開2002−370607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス発生器においては、エアバッグの膨張に適した所望のガス出力が得られるように、ガス発生剤の燃焼が所望の燃焼特性を示すように設計されていることが重要である。そのためには、点火器にて生じた火炎エネルギーが制御性よくガス発生剤に伝達されることが重要であり、特に伝火薬による火炎エネルギーの伝達を最適化しておくことが重要である。このため、上述の特許文献1に開示のガス発生器においては、たとえばステンレス合金製等の機械的強度の高いエンハンサカップを使用し、このエンハンサカップの所定位置に所定の大きさの開口を設けることにより、伝火薬の燃焼による火炎エネルギーの伝達を制御することとしている。
【0005】
しかしながら、上述のように開口を有するエンハンサカップを使用した場合には、振動等によって伝火薬が燃焼室に移動したりガス発生剤が伝火室に移動したりすることを防止するために、シール部材によって開口を閉塞しておくことが必要である。通常、この開口を閉塞するシール部材としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔が使用されるが、このアルミニウム箔は非常に薄くその取扱いが困難であり、製造工程が煩雑になる問題がある。また、近年、自動車の軽量化がますます重要な課題となっているが、上述のようにステンレス合金製等の機械的強度の高いエンハンサカップを使用した場合には、エンハンサカップの重量が重くなり、ガス発生器全体としての重量が増加してしまう問題も有している。
【0006】
そのため、機械的強度が低く、伝火薬の着火に伴って破裂または溶融するように構成されたエンハンサカップを利用することが検討されている。このようなエンハンサカップを利用した場合には、予めエンハンサカップに開口を設ける必要がなく上述した開口の閉塞作業が不要となり、製造工程が大幅に容易化するメリットが得られる。また、機械的強度が低いエンハンサカップを利用することが可能となれば、エンハンサカップ自体を軽量化することも可能となり、ガス発生器全体としての軽量化が図られるばかりでなく、材料の使用量の低減に伴うコスト低減や資源の保護の観点からも非常に好適なものとなる。なお、機械的強度が低く、伝火薬の着火に伴って破裂または溶融する脆弱なエンハンサカップとしては、たとえばその材質をアルミニウム製またはアルミニウム合金製あるいはプラスチック製とすることや、材質としては従来どおり鉄や銅等の金属製を採用するがその厚みを非常に薄くすること等が検討されている。
【0007】
しかしながら、このようにエンハンサカップを脆弱にした場合には、伝火薬が着火することによって伝火室内の圧力が高められてエンハンサカップが破裂したりその熱によって溶融したりすると、伝火室内に生じた火炎が急速に燃焼室に流入してガス発生剤に伝達されることになる。そのため、ガス発生剤が急速に燃焼することになり、ガス出力を所定時間にわたって持続させる等のガス出力の調整が非常に困難となる。このように、エンハンサカップを脆弱にした場合には、その機械的強度の低下に伴って伝火薬による火炎エネルギーの伝達の制御が非常に困難になるという課題が存在している。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題点を解決すべくなされたものであり、製造が容易でかつ伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能なガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に基づくガス発生器は、ハウジングと、点火器と、カップ状部材と、隔壁部とを備える。上記ハウジングは、軸方向の両端を閉塞する天板部および底板部と、ガス噴出口が設けられた周壁部とによって構成された短尺筒状の部材からなり、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含んでいる。上記点火器は、上記底板部に取付けられ、作動時において着火する点火薬が収容された点火部を含んでいる。上記カップ状部材は、伝火薬が収容された伝火室を内部に含み、上記点火部に上記伝火室が面するように上記燃焼室内に突出して配置されている。このカップ状部材は、当該ガス発生器の作動時において、上記点火器の作動に伴う上記伝火薬の燃焼により、破裂または溶融するように構成されている。上記隔壁部は、上記燃焼室内において上記カップ状部材の外周を取り囲むように上記カップ状部材と上記周壁部との間に配置され、上記燃焼室の上記カップ状部材の外周側に位置する部分の少なくとも一部を、上記カップ状部材側の空間と上記周壁部側の空間とに隔てている。
【0010】
このように構成することにより、カップ状部材の機械的強度を低下させた場合にも、ガス発生器の作動時において、カップ状部材が破裂または溶融することによって燃焼室内に流入した火炎によって着火されたガス発生剤の燃え広がりが、燃焼室内を一部区画するように設けられた隔壁部を迂回するように進行するため、燃焼室内に収容されたガス発生剤の燃焼の進行を意図的に遅延させることが可能になる。そのため、ガス発生剤の燃焼特性を容易に調整することが可能となり、仕様に応じて最適化することによってガス発生剤が短時間に燃え尽きることを防止することが可能になる。また、機械的強度の高いカップ状部材を使用する必要がなくなるため、開口を閉塞する作業が不要となって製造が大幅に容易化する。したがって、製造が容易でかつ伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能なガス発生器とすることができる。
【0011】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記隔壁部が上記底板部の内底面から上記天板部に向かって延びていることが好ましく、その場合に、上記隔壁部が当該隔壁部が延びる方向において上記燃焼室を上記カップ状部材側の空間と上記周壁部側の空間とに途中位置まで区画していることが好ましい。また、上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記隔壁部が上記燃焼室内において上記カップ状部材よりもさらに上記天板部側に向かって突出していてもよい。
【0012】
このように構成することにより、放射状に燃え広がろうとするガス発生剤の燃焼の進行を隔壁部によって確実に制限することが可能になり、隔壁部が設けられていない天板部側の経路を経由しての燃焼の進行が確実に再現されるようになる。したがって、燃焼室内に収容されたガス発生剤の燃焼の進行を意図的に遅延させることが可能になり、ガス発生剤の燃焼特性をより容易に調整することが可能になる。
【0013】
なお、適切な着火を得るためには、上記燃焼室の上記ガス発生剤が収容された部分における上記隔壁部の上記天板部側の端部から上記天板部に向けての距離を5.0mm以上とすることが好ましい。
【0014】
上記本発明に基づくガス発生器においては、上記燃焼室を取り囲むように上記ハウジングの内周に沿って配置された筒状のフィルタ部材と、上記フィルタ部材の内周面および上記底板部の内底面に当接することにより、上記フィルタ部材を上記ハウジングに固定する固定部材とをさらに備えていることが好ましく、その場合に、上記隔壁部が上記固定部材の上記底板部の内底面に当接する部分から連続して一体的に形成されていることが好ましい。
【0015】
このように構成することにより、フィルタ部材を固定する固定部材の一部を延設することによって燃焼室内に簡便に隔壁部を設けることが可能になるため、隔壁部を設けることに伴う製造工程の複雑化の問題がなくなる。
【0016】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記ガス発生剤が上記隔壁部によって隔てられた上記燃焼室の上記カップ状部材側の空間と上記周壁部側の空間のいずれにも収容されていることが好ましい。
【0017】
このように構成することにより、隔壁部を燃焼室内に設けることによるガス発生剤の充填量の減少を必要最小限に抑えることができるため、ガス発生器の出力の低下を効果的に防止することが可能になる。
【0018】
なお、上記カップ状部材の外周面と上記隔壁部の内周面との間の距離は、0.1mm以上10.0mm以下であることが好ましい。
【0019】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記カップ状部材がアルミニウム製またはアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0020】
このように、カップ状部材をアルミニウム製またはアルミニウム合金製とすれば、従来のステンレス合金製のカップ状部材に比べて容易に機械的強度を低下させることが可能になるため、伝火薬の燃焼によって確実に破裂または溶融するカップ状部材とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造が容易でかつ伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能なガス発生器とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれる、いわゆるディスク型のガス発生器に本発明を適用した場合を示すものである。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図である。図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、軸方向の両端が閉塞された短尺円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に各種の構成部品が収容されている。
【0024】
短尺円筒状のハウジングは、それぞれが有底筒状に形成されたイニシエータシェル10およびクロージャシェル20を組み合わせることによって形成されている。より具体的には、イニシエータシェル10は底板部11と周壁部12とを有しており、クロージャシェル20は天板部21と周壁部22とを有しており、これらイニシエータシェル10とクロージャシェル20の開口端同士が面するように組み合わされることにより、その内部に各種の構成部品が収容される空間が形成されている。
【0025】
イニシエータシェル10およびクロージャシェル20は、いずれもステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成される。より具体的には、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20は、それぞれ一枚の板状または一片のブロック状の金属部材から、各部分に相当する金型等を使用して鍛造加工、絞り加工、プレス加工等を組み合わせることによって加圧流動の繰り返しによって成形される。また、イニシエータシェル10およびクロージャシェル20の接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用される。
【0026】
イニシエータシェル10の底板部11の略中央部には、保持部13が形成されている。この保持部13は、点火器30を挿入・保持するための部位である。具体的には、保持部13に設けられた開口に点火器30の端子ピン30bが挿通するように点火器30が保持部13にイニシエータシェル10の内側から取付けられ、この状態において保持部13の先端に設けられたかしめ部14aを点火器30側に向かってかしめることにより、点火器30がイニシエータシェル10の保持部13にかしめ固定されている。なお、ハウジングの外部に露出するように配置された端子ピン30bには、点火器30とコントロールユニットとを結線するためのハーネスのコネクタ(図示せず)が接続される。
【0027】
点火器30は、火炎を発生させるための点火装置であり、点火部30aと上述の端子ピン30bとを含んでいる。点火部30aは、その内部に、作動時において着火する点火薬と、この点火薬を燃焼させるための抵抗体とを含んでいる。端子ピン30bは、点火薬を着火させるために点火部30aに接続されている。より詳細には、点火器30は、一対の端子ピン30bを挿通・保持する基部と、基部上に取付けられたスクイブカップとを備えており、スクイブカップ内に挿入された端子ピン30bの先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に接するようにスクイブカップ内に点火薬が充填されている。抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。スクイブカップは、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0028】
衝突を検知した際には、端子ピン30bを介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器30が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
【0029】
点火器30と保持部13との間には、シール部材36が介在されている。シール部材36は、点火器30と保持部13との間に生じる隙間を気密に封止することによって後述する伝火室33を密閉するためのものであり、点火器30を保持部13にかしめ固定する際に上記隙間に挿入される。シール部材36としては、十分な耐熱性および耐久性の材料からなるものを利用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM樹脂製のOリング等を利用することが好適である。なお、別途、シール部材36が介装される部分に液状のシール剤を塗布しておけば、さらに伝火室33の密閉性を高めることができる。
【0030】
イニシエータシェル10の保持部13には、点火器30を覆うように有底筒状のカップ状部材としてのエンハンサカップ32が固定されている。エンハンサカップ32は、頂壁部32a、側壁部32bおよびフランジ部32cを有しており、その内部に伝火薬34が収容された伝火室33を含んでいる。エンハンサカップ32は、その内部に設けられた伝火室33が点火部30aに面するように保持部13に固定されている。より具体的には、保持部13に設けられたかしめ部14bによってエンハンサカップ32のフランジ部32cがかしめられることにより、エンハンサカップ32が保持部13に固定されている。
【0031】
エンハンサカップ32は、頂壁部32aおよび側壁部32bのいずれにも開口を有しておらず、エンハンサカップ32がイニシエータシェル10の保持部13に固定された状態において、その内部に設けられた伝火室33を完全に密閉している。このエンハンサカップ32は、点火器30が作動することによって伝火薬34が着火された場合に伝火室33内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものであり、その機械的強度は従来のステンレス合金製のエンハンサカップに比べて非常に低いものである。そのため、エンハンサカップ32の材質としては、成形性や軽量化の観点からアルミニウムやアルミニウム合金、プラスチック等が好適に利用される。また、材質としては従来どおり鉄や銅等の金属製を採用するがその厚みを非常に薄くすること等も考えられる。
【0032】
伝火室33に充填された伝火薬34は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬34としては、後述するガス発生剤42を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬34は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成型されたもの等が利用される。バインダによって成型された伝火薬の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0033】
イニシエータシェル10およびクロージャシェル20からなるハウジングの内部の空間のうち、上述のエンハンサカップ32が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤42が収容される燃焼室40が位置している。より具体的には、上述のエンハンサカップ32は、ハウジングの内部に形成された燃焼室40内に突出して配置されており、このエンハンサカップ32の頂壁部32aの外表面に面する部分および側壁部32bの外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室40として構成されている。さらに、このガス発生剤42が収容された燃焼室40を取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ部材44が配置されている。フィルタ部材44は、筒状の形状を有しており、その中心軸はハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されている。
【0034】
ガス発生剤42は、点火器30によって点火された伝火薬34が燃焼することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させるものである。ガス発生剤42は、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成型体として形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0035】
ガス発生剤42の成型体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状など様々な形状のものがある。また、成型体内部に孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成型体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤42の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤42の形状の他にもガス発生剤42の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成型体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0036】
フィルタ部材44は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属からなる線材や網材を巻き回したものやプレス加工することによって押し固めたもの等が利用される。具体的には、メリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。フィルタ部材44は、燃焼室40にて発生した作動ガスがこのフィルタ部材44中を通過する際に、作動ガスが有する高温の熱を奪い取ることによって作動ガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、作動ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。したがって、作動ガスを十分に冷却し、かつ残渣が外部に放出されないようにするためには、燃焼室40内にて発生した作動ガスが確実にフィルタ部材44中を通過するようにすることが必要である。
【0037】
フィルタ部材44に対面する部分のクロージャシェル20の周壁部22には、ガス噴出口23が複数設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ部材44を通過した作動ガスをハウジングの外部に導出するためのものである。クロージャシェル20の周壁部22のフィルタ部材44側に位置する主面には、上記ガス噴出口23を閉塞するようにシール部材24が貼付されている。このシール部材24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、燃焼室40の気密性が確保されている。
【0038】
ハウジングの内部の空間のうち、クロージャシェル20の天板部21側の端部には、フィルタ部材44の上端をハウジングに固定するためのクロージャシェル側保持部材50が配置されている。クロージャシェル側保持部材50は、クロージャシェル20の天板部21に当接する第1当接部51と、フィルタ部材44の上端部分の内周面に当接する第2当接部52とを有している。このクロージャシェル側保持部材50の内部には、燃焼室40内に収容されたガス発生剤42に接触するようにクッション材46が配置されている。このクッション材46は、成型体からなるガス発生剤42が振動等によって粉砕されることを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成型体や発泡シリコン等が利用される。
【0039】
一方、ハウジングの内部の空間のうち、イニシエータシェル10の底板部11側の端部には、フィルタ部材44の下端をハウジングに固定するためのイニシエータシェル側保持部材60が配置されている。イニシエータシェル側保持部材60は、イニシエータシェル10の底板部11の内底面に当接する第1当接部61と、フィルタ部材44の下端部分の内周面に当接する第2当接部62と、第1当接部61の内側の端部から燃焼室40側に向けて立設された隔壁部63とを有している。
【0040】
これらクロージャシェル側保持部材50およびイニシエータシェル側保持部材60は、たとえば単一の金属製板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板(SPCC)やステンレス鋼板(SUS304)等)が用いられる。クロージャシェル側保持部材50およびイニシエータシェル側保持部材60は、上述のように金属製板状部材の一部を折り曲げることによって形成されたものであるため、クロージャシェル側保持部材50およびイニシエータシェル側保持部材60はそれぞれ適度な弾性を有している。そのため、クロージャシェル側保持部材50の第2当接部52およびイニシエータシェル側保持部材60の第2当接部62は、それぞれフィルタ部材44の内周面に適度に圧接触することになり、これによりフィルタ部材44がハウジングに保持・固定されることになる。また、クロージャシェル側保持部材50およびイニシエータシェル側保持部材60のそれぞれは、フィルタ部材44の上端とクロージャシェル20の天板部21との間の隙間およびフィルタ部材44の下端とイニシエータシェル10の底板部11との間の隙間からのガスの流出を防止する機能も果たしている。
【0041】
イニシエータシェル側保持部材60から延設された隔壁部63は、燃焼室40内においてエンハンサカップ32の外周を取り囲むようにエンハンサカップ32とハウジングの周壁部12,22との間に配置されており、イニシエータシェル10の底板部11の内底面からクロージャシェル20の天板部21に向かって延びることによって、隔壁部63が延びる方向において燃焼室40をエンハンサカップ32側の空間S1とハウジングの周壁部12,22側の空間S3とに途中位置まで区画している。すなわち、隔壁部63は、燃焼室40のエンハンサカップ32の外周側に位置する部分を、エンハンサカップ32側の空間S1とハウジングの周壁部12,22側の空間S3とに隔てている。これら空間S1,S3は、燃焼室40の隔壁部63が設けられていない部分の空間、すなわちクロージャシェル20側の空間S2によって通じている。
【0042】
次に、図1に示すガス発生器1Aの組立作業の要領を同図に基づいて説明する。まず、イニシエータシェル10の保持部13にシール部材36を添接して点火器30をかしめ固定する。そして、内部に伝火薬34が収容されたエンハンサカップ32をイニシエータシェル10の保持部13にかしめ固定する。次いで、イニシエータシェル側保持部材60およびフィルタ部材44をイニシエータシェル10の内底面に向けて挿入配置する。そして、フィルタ部材44の内側にガス発生剤42を充填し、クッション材46を介装したクロージャシェル側保持部材50をフィルタ部材44の上端部分に内挿する。その後、ガス噴出口23がシール部材24によって閉塞されたクロージャシェル20をイニシエータシェル10に対して被せ、イニシエータシェル10とクロージャシェル20とを溶接する。以上により、図1に示す構成のガス発生器1Aの組立てが完了する。
【0043】
ここで、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、エンハンサカップ32に開口が設けられていないため、エンハンサカップ32の内部に設けられた伝火室33に伝火薬34を充填する工程が非常に容易に行なえる。これは、ガス発生器1Aの作動時において、エンハンサカップ32が破裂または溶融するようにエンハンサカップ32自体が機械的強度が低い脆弱な部材にて構成されているためである。すなわち、従来のガス発生器の組立作業時において必要であった、伝火薬を充填するためにエンハンサカップに設けられた開口を閉塞する作業が不要になるため、製造工程を大幅に簡素化することができる。
【0044】
次に、本実施の形態におけるガス発生器1Aの動作について説明する。本実施の形態におけるガス発生器1Aが搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて点火器30が作動する。伝火室33に収容された伝火薬34は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬34の燃焼により、エンハンサカップ32内の圧力が高まるとエンハンサカップ32がその圧力または熱によって破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室40に流れ込む。
【0045】
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室40に収容されたガス発生剤42が着火されて燃焼し、多量の作動ガスを発生させる。燃焼室40にて発生した作動ガスは、フィルタ部材44中を通過し、その際フィルタ部材44によって熱が奪われて冷却されるとともに作動ガス中に含まれる残渣がフィルタ部材44によって除去されてハウジングの外周縁部に流れ込み、その後、クロージャシェル20の周壁部22に設けられたガス噴出口23からハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ガス発生器に隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張・展開する。
【0046】
以下においては、本実施の形態におけるガス発生器1Aとした場合に、伝火薬による火炎エネルギーの伝達が好適に制御可能となる仕組みについて説明する。
【0047】
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、イニシエータシェル側保持部材60の一部によって構成された隔壁部63が、エンハンサカップ32と所定の距離Dをもって燃焼室40内に配置されている。ここで、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、ガス発生剤42の最小外形寸法よりも上記距離Dが大きくなるように設定されており、燃焼室40の隔壁部63が位置しない部分の空間S2および隔壁部63とフィルタ部材44との間の空間S3のみならず、隔壁部63の内周面とエンハンサカップ32の側壁部32bの外周面との間の空間S1内にもガス発生剤42が充填されている。
【0048】
一方、イニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準とした隔壁部63の高さHAは、イニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準としたエンハンサカップ32の高さHよりも高くなるように調整されている。そして、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、燃焼室40内において隔壁部63がエンハンサカップ32よりもさらにクロージャシェル20の天板部21側に向けて突出した状態となるように構成されている。
【0049】
以上のように構成することにより、点火器30の作動によって伝火薬34が燃焼してエンハンサカップ32が破裂または溶融した状態において、燃焼室40内に流入した火炎によって着火されるガス発生剤42の燃え広がりが伝火室33を中心として放射状に進行しようとするが、このうちの空間S1におけるガス発生剤42の燃焼が隔壁部63によって堰き止められることになり、その進行が抑制されることになる。そのため、空間S1におけるガス発生剤42の燃焼が直ちに空間S3におけるガス発生剤42の燃焼につながらず、空間S2におけるガス発生剤42の燃焼が隔壁部63を回り込むように迂回して進行することによって空間S3におけるガス発生剤42の燃焼が開始されることになる。このガス発生剤42の燃え広がりを図1中において破線矢印にて模式的に表わしている。このように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、隔壁部63によって燃焼室40内におけるガス発生剤42の燃焼の進行が意図的に遅延させられることとなるため、隔壁部63の配置位置や形状、サイズ等を適宜調整することにより、ガス発生剤42の燃焼特性を仕様に応じて最適化することが可能になる。
【0050】
また、エンハンサカップ32を機械的強度の低い部材で構成した場合には、伝火薬34の燃焼によってエンハンサカップ32が破裂または溶融した際の衝撃がフィルタ部材44に直接加わることになり、フィルタ部材44が損傷してしまうおそれがあるが、本実施の形態におけるガス発生器1Aの如く隔壁部63をエンハンサカップ32とフィルタ部材44との間に配置することにより、このようなフィルタ部材44の損傷が未然に防止される効果も得られる。
【0051】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、隔壁部63の内周面とエンハンサカップ32の側壁部32bの外表面との間の距離Dが、0.1mm以上10.0mm以下となるように調整されている。このように構成することにより、効果的にガス発生剤42の燃焼の進行を遅延させることが可能となるとともに、上記空間S1にガス発生剤42を充填するか否かの選択が可能になる。また、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、隔壁部63のイニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準とした高さHAが、燃焼室40の空間S2の高さHGが5.0mm以上となるように選択されている。ここで、燃焼室40の空間S2の高さHGは、燃焼室40のガス発生剤42が収容された部分における隔壁部63のクロージャシェル20の天板部21側の端部から当該天板部21に向けての距離に相当する。すなわち、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、隔壁部63の上端からクッション材46の下面までの距離である。このように構成することにより、隔壁部63を迂回するガス発生剤42の燃え広がりのための経路が確保されることになり、空間S2におけるガス発生剤42の燃焼が確実に空間S3に達することになる。
【0052】
図2は、本実施の形態におけるガス発生器の変形例を示す模式断面図である。前述の図1に示す実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、イニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準とした隔壁部63の高さHAがイニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準としたエンハンサカップ32の高さHよりも高くなるように調整された場合を例示した。しかしながら、必ずしもこのように構成されている必要はなく、隔壁部63の高さHAがより低く設定されていてもよい。図2に示す変形例に係るガス発生器1Bにおいては、イニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準とした隔壁部63の高さHAがイニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準としたエンハンサカップ32の高さHよりも低くなるように調整されている。このように構成された場合にも、やはり空間S1におけるガス発生剤42の燃焼が隔壁部63によって堰き止められることになり、空間S1におけるガス発生剤42の燃焼が直ちに空間S3におけるガス発生剤42の燃焼につながらなくなる。そのため、空間S2におけるガス発生剤42の燃焼が隔壁部63を回り込むように迂回して進行することにより、空間S3におけるガス発生剤42の燃焼が開始されることになり、燃焼室40内におけるガス発生剤42の燃焼の進行を意図的に遅延させることができる。
【0053】
しかしながら、隔壁部63の高さHAは、好ましくはイニシエータシェル10の底板部11の内底面を基準とした点火器30の高さhよりも高いことが好ましい。この点火器30の高さhよりも隔壁部63の高さHAを低く設定した場合には、燃焼室40内に流入した火炎によって着火されるガス発生剤42の燃え広がりが伝火室33を中心として放射状に進行し、隔壁部63を迂回することなくフィルタ部材44に達してしまうことになる。したがって、燃焼室40内におけるガス発生剤42の燃焼の進行をほとんど遅延させることができなくなってしまい、ガス発生剤42の燃焼特性の調整が実質的に行なえないこととなってしまう。
【0054】
(実施例)
図3は、図1および図2に示すガス発生器を実際に試作しこれを作動させることにより、上述の隔壁部によってどの程度ガス発生剤の燃焼特性を調整することが可能になるかを検証した試験の結果を示すグラフである。図3に示すグラフは、いわゆるP−T(圧力−時間)グラフと呼ばれるものであり、縦軸にタンク内圧力を、横軸に時間をとったものである。
【0055】
(実施例1)
含窒素有機化合物成分として硝酸グアニジン:53.0重量部、酸化剤成分として硝酸ストロンチウムを主剤とした硝酸塩:43.6重量部、バインダとして酸性白土:3.0重量部、および滑剤としてステアリン酸マグネシウム:0.4重量部をV型混合機により乾式混合した。その後、回転式打錠機で直径6.1mm、高さ1.5mmの形状にプレス成形し、105℃で15時間乾燥させ、本実施例に用いるガス発生剤組成物の錠剤を得た。この錠剤を、図1に示す構成のガス発生器1Aの燃焼室に60g装填した。なお、イニシエータシェルの底板部の内底面を基準とする隔壁部の高さHAは、30mmとした。また、伝火薬としてはボロン硝石を1.5g使用した。このガス発生器を内容積60リットルのタンクに取付けた後、ガス発生器を作動させ、タンク内にガスを放出させて、タンク内圧力の時間変化の測定を行なった。
【0056】
(実施例2)
上述の実施例1と同様のガス発生剤組成物の錠剤を、図2に示す構成のガス発生器1Bの燃焼室に60g装填した。なお、イニシエータシェルの底板部の内底面を基準とする隔壁部の高さHAは、20mmとした。また、伝火薬についても上述の実施例1と同様のものを使用した。このガス発生器を内容積60リットルのタンクに取付けた後、ガス発生器を作動させ、タンク内にガスを放出させて、タンク内圧力の時間変化の測定を行なった。
【0057】
,(比較例)
上述の実施例1と同様のガス発生剤組成物の錠剤を、隔壁部を備えない以外の点において図1に示す構成のガス発生器1Aと同様のガス発生器の燃焼室に60g装填した。また、伝火薬についても上述の実施例1と同様のものを使用した。このガス発生器を内容積60リットルのタンクに取付けた後、ガス発生器を作動させ、タンク内にガスを放出させて、タンク内圧力の時間変化の測定を行なった。
【0058】
図3に示すように、実施例1および実施例2においては、比較例ほど急峻な圧力の立ち上がりが生じず、なだらかな圧力の立ち上がりが生じていることが分かる。また、隔壁部の高さを調整することにより、圧力の立ち上がりの度合いを容易に制御することが可能であることも分かる。すなわち、本発明を適用することにより、燃焼室内におけるガス発生剤の燃焼の進行を意図的に遅延させることができ、そのためエアバック装置の仕様に応じて最適化されたガス出力を有するガス発生器を容易に製作することができることが裏付けられた。
【0059】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0060】
図4に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Cにおいては、イニシエータシェル側保持部材60の一部によって構成された隔壁部63が、エンハンサカップ32に近接して配置されている。ここで、本実施の形態におけるガス発生器1Cにおいては、ガス発生剤42の最小外形寸法よりも隔壁部63の内周面とエンハンサカップ32の側壁部32bの外表面との間の距離Dが小さくなるように設定されており、隔壁部63の内周面とエンハンサカップ32の側壁部32bの外周面との間の空間である燃焼室40の空間S1内にガス発生剤42が充填されないように構成している。
【0061】
このように構成した場合にも、空間S1の容積分だけガス発生剤の充填量が減少するものの、上述の実施の形態1における場合と同様に、隔壁部63によって燃焼室40内におけるガス発生剤42の燃焼の進行が意図的に遅延させられることとなるため、ガス発生剤42の燃焼特性を容易に調整することが可能になる。
【0062】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0063】
図5に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Dにおいては、イニシエータシェル側保持部材60と別個に設けられた隔壁部形成部材70によって隔壁部が形成されている。具体的には、イニシエータシェル側保持部材60は、イニシエータシェル10の底板部11の内底面に当接する第1当接部61と、フィルタ部材44の下端部分の内周面に当接する第2当接部62とのみを有している。一方、このイニシエータシェル側保持部材60とは別体にて構成された隔壁部形成部材70は、イニシエータシェル10の底板部11の内底面に当接する当接部71と、燃焼室40側に向けて立設する隔壁部73を有している。これらイニシエータシェル側保持部材60と隔壁部形成部材70とはその端部同士が嵌め合わされることによって一体化され、イニシエータシェル10の底板部11の内底面に取付けられている。
【0064】
なお、これらイニシエータシェル側保持部材60および隔壁部形成部材70は、たとえば単一の金属製板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板(SPCC)やステンレス鋼板(SUS304)等)が用いられる。
【0065】
このように構成した場合にも、上述の実施の形態1における場合と同様に、隔壁部73によって燃焼室40内におけるガス発生剤42の燃焼の進行が意図的に遅延させられることとなるため、ガス発生剤42の燃焼特性を容易に調整することが可能になる。
【0066】
(実施の形態4)
図6は、本発明の実施の形態4におけるガス発生器の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0067】
図6に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Eにおいては、エンハンサカップ32の頂壁部32aが、クロージャシェル側保持部材50を介してクロージャシェル20の天板部21に押し付けられるように構成している。したがって、ガス発生剤42が収容される燃焼室40は、エンハンサカップ32の側壁部32bを取り巻く空間にのみ形成されている。また、イニシエータシェル側保持部材60の一部によって構成された隔壁部63は、イニシエータシェル10の底板部11の内底面からクロージャシェル20の天板部21に向かって延びることにより、隔壁部63が延びる方向において燃焼室40をエンハンサカップ32側の空間S1とハウジングの周壁部12,22側の空間S3とに途中位置まで区画している。これら空間S1,S2は、燃焼室40の隔壁部63が設けられていない部分の空間、すなわちクロージャシェル20側の空間S2によって通じている。また、クッション材46は、イニシエータシェル側保持部材60に嵌装されている。
【0068】
このように構成した場合にも、上述の実施の形態1における場合と同様に、空間S1におけるガス発生剤42の燃え広がりが隔壁部63によって堰き止められることになり、その進行が抑制されることになる。そのため、空間S1におけるガス発生剤42の燃焼が直ちに空間S3におけるガス発生剤42の燃焼につながらず、空間S2におけるガス発生剤42の燃焼が隔壁部63を回り込むように迂回して進行することによって空間S3におけるガス発生剤42の燃焼が開始されることになる。このガス発生剤42の燃え広がりを図6中において破線矢印にて模式的に表わしている。このように、本実施の形態におけるガス発生器1Eの如くの構成とした場合にも、上述の実施の形態1における場合と同様に、隔壁部63によって燃焼室40内におけるガス発生剤42の燃焼の進行が意図的に遅延させられることとなるため、ガス発生剤42の燃焼特性を容易に調整することが可能になる。
【0069】
上述の実施の形態1ないし4においては、ハウジングとは別体に構成された内部構成部品にて隔壁部が形成されるように構成した場合を例示して説明を行なったが、隔壁部がハウジングから直接立設している構成を採用することも当然に可能である。その場合には、イニシエータシェルの底板部から隔壁部が立設されている場合に限られず、イニシエータシェルの周壁部から隔壁部が立設している場合やクロージャシェルの天板部あるいは周壁部から立設している場合等、種々の構成を採用することが可能である。その場合にも、隔壁部によって燃焼室が完全に仕切られることなく少なくとも燃焼室の一部分が隔壁部によって隔てられる構成を採用していれば、ガス発生剤の燃焼特性を調整するという本発明の目的が達成可能である。
【0070】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の変形例を示す模式断面図である。
【図3】図1および図2に示すガス発生器の性能試験を行なった結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図である。
【図6】本発明の実施の形態4におけるガス発生器の模式断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1A〜1E ガス発生器、10 イニシエータシェル、11 底板部、12 周壁部、13 保持部、14a,14b かしめ部、20 クロージャシェル、21 天板部、22 周壁部、23 ガス噴出口、24 シール部材、30 点火器、30a 点火部、30b 端子ピン、32 エンハンサカップ、32a 頂壁部、32b 側壁部、32c フランジ部、33 伝火室、34 伝火薬、36 シール部材、40 燃焼室、42 ガス発生剤、44 フィルタ部材、46 クッション材、50 クロージャシェル側保持部材、51 第1当接部、52 第2当接部、60 イニシエータシェル側保持部材、61 第1当接部、62 第2当接部、63 隔壁部、70 隔壁部形成部材、71 当接部、73 隔壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の両端を閉塞する天板部および底板部と、ガス噴出口が設けられた周壁部とによって構成され、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に含む短尺筒状のハウジングと、
前記底板部に取付けられ、作動時において着火する点火薬が収容された点火部を含む点火器と、
伝火薬が収容された伝火室を内部に含み、前記点火部に前記伝火室が面するように前記燃焼室内に突出して配置され、前記点火器の作動に伴う前記伝火薬の燃焼により破裂または溶融するカップ状部材と、
前記燃焼室内において前記カップ状部材の外周を取り囲むように前記カップ状部材と前記周壁部との間に配置され、前記燃焼室の前記カップ状部材の外周側に位置する部分の少なくとも一部を、前記カップ状部材側の空間と前記周壁部側の空間とに隔てる隔壁部とを備えた、ガス発生器。
【請求項2】
前記隔壁部は、前記底板部の内底面から前記天板部に向かって延び、当該隔壁部が延びる方向において前記燃焼室を前記カップ状部材側の空間と前記周壁部側の空間とに途中位置まで区画している、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記隔壁部は、前記燃焼室内において前記カップ状部材よりもさらに前記天板部側に向かって突出している、請求項2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記燃焼室の前記ガス発生剤が収容された部分における前記隔壁部の前記天板部側の端部から前記天板部に向けての距離が、5.0mm以上である、請求項2または3に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記燃焼室を取り囲むように前記ハウジングの内周に沿って配置された筒状のフィルタ部材と、
前記フィルタ部材の内周面および前記底板部の内底面に当接することにより、前記フィルタ部材を前記ハウジングに固定する固定部材とを備え、
前記隔壁部が、前記固定部材の前記底板部の内底面に当接する部分から連続して一体的に設けられている、請求項2から4のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項6】
前記ガス発生剤が、前記隔壁部によって隔てられた前記燃焼室の前記カップ状部材側の空間と前記周壁部側の空間のいずれにも収容されている、請求項1から5のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項7】
前記カップ状部材の外周面と前記隔壁部の内周面との間の距離が、0.1mm以上10.0mm以下である、請求項1から6のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項8】
前記カップ状部材は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製である、請求項1から7のいずれかに記載のガス発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−183939(P2008−183939A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16856(P2007−16856)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】