説明

ガラス基板表面から異物を除去する方法、ガラス基板表面を加工する方法

【課題】ガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法で仕上げ加工されるガラス基板表面から異物を除去する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス基板表面から異物を除去する方法であって、前記ガラス基板表面に対して、加速電圧5〜15keVでガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特長とするガラス基板表面から異物を除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板表面から異物を除去する方法、特に半導体製造工程のEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスク用等に使用されるガラス基板のように、高度の平坦度が要求されるガラス基板表面から異物を除去する方法に関する。より具体的には、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法で加工されるガラス基板表面から異物を除去する方法に関する。
また、本発明は、ガラス基板表面から異物を除去した後、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法を用いて、該ガラス基板表面を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化、高速化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から更に進んでArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられ始めている。また、回路の線幅が100nm以下となる次世代の集積回路に対応するため、露光光源としてF2レーザ(波長157nm)を用いることが有力視されているが、これも線幅が70nm世代までしかカバーできないとみられている。
【0003】
このような技術動向にあって、次の世代の露光光源としてEUV光を使用したリソグラフィ技術が、45nm以降の複数の世代にわたって適用可能と見られ注目されている。EUV光とは軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。現時点では、リソグラフィ光源として13.5nmの使用が検討されている。このEUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)の露光原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のリソグラフィと同じであるが、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料がないために屈折光学系を用いることができず、反射光学系を用いることとなる(特許文献1参照)。
【0004】
EUVLに用いられるマスクは、(1)ガラス基板、(2)ガラス基板上に形成された反射多層膜、(3)反射多層膜上に形成された吸収体層、から基本的に構成される。反射多層膜としては、露光光の波長に対して屈折率の異なる複数の材料がnmオーダーで周期的に積層された構造のものが用いられ、代表的な材料としてMoとSiが知られている。また、吸収体層にはTaやCrが検討されている。ガラス基板としては、EUV光照射下においても歪みが生じないよう低熱膨張係数を有する材料が必要とされ、低熱膨張係数を有するガラスまたは低熱膨張係数を有する結晶化ガラスの使用が検討されている。以下、本明細書において、低熱膨張係数を有するガラスおよび低熱膨張係数を有する結晶化ガラスを総称して、「低膨張ガラス」または「超低膨張ガラス」という。
EUVLのマスクとして用いられる低膨張ガラスまたは超低膨張ガラスとしては、SiO2を主成分とする石英ガラスであって、ガラスの熱膨張係数を下げるために、TiO2、SnO2またはZrO2がドーパントとして添加されたものが最も広く使用されている。
【0005】
ガラス基板はこれらガラスや結晶化ガラスの素材を、高精度に加工、洗浄することによって製造される。ガラス基板を加工する場合、通常は、ガラス基板表面が所定の平坦度および表面粗さになるまで、比較的高い加工レートで予備研磨し、予備研磨により発生した研磨屑のような異物を洗浄により除去した後、より加工精度の高い方法を用いて、ガラス基板表面が所望の平坦度および表面粗さになるように仕上げ加工される。仕上げ加工に用いられる加工精度の高い方法としては、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法が好ましく用いられる。
【0006】
しかしながら、洗浄により除去しきれなかった異物がガラス基板表面に残留する場合や、洗浄後のガラス基板表面に新たな異物が付着する場合がある。このような異物が存在するガラス基板表面を、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法を用いて仕上げ加工した場合、ガラス基板表面のうち、異物が存在する部分は加工されず、その後、洗浄により異物が除去されたガラス基板表面にはガラスの凸欠点が生じるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特表2003−505891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法で仕上げ加工されるガラス基板表面から異物を除去する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、ガラス基板表面から異物を除去した後、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法を用いて、該ガラス基板表面を加工する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、ガラス基板表面から異物を除去する方法であって、
前記ガラス基板表面に対して、加速電圧5〜15keVでガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特長とするガラス基板表面から異物を除去する方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、ガラス基板表面から異物を除去する方法であって、
前記ガラス基板表面に対して、O2、Ar、B、CO2、N2、N2Oおよびボロン水素化物からなる少なくとも1種以上のガスをソースガスとするガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特長とするガラス基板表面から異物を除去する方法を提供する。
【0011】
以下、本明細書において、段落[0009]および[0010]に記載の方法のことを「本発明の異物除去方法」という。
本発明の異物除去方法において、エッチング量が20nm以下となる条件でガスクラスタイオンビームエッチングを施すことが好ましい。
【0012】
本発明の異物除去方法において、前記ガラス基板が、20℃または50℃〜80℃における熱膨張係数が−30〜30ppb/℃の低膨張ガラス製であることが好ましい。
【0013】
本発明の異物除去方法において、ガスクラスタイオンビームエッチングを施す前のガラス基板表面の表面粗さが(Rms)が5nm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の異物除去方法において、クラスタサイズが2000以上の条件でガスクラスタイオンビームエッチングを施すことが好ましい。
【0015】
本発明の異物除去方法において、前記ガラス基板の法線と、前記ガラス基板表面に入射するガスクラスタイオンビームと、がなす角度を3〜60°に保持してガスクラスタイオンビームエッチングを施すことが好ましい。
ここで、前記ガラス基板表面を水平方向に対して3〜60°下方を向けた状態に保持して、ガスクラスタイオンビームエッチングを施すことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記した本発明の異物除去方法によりガラス基板表面の異物を除去する工程、およびイオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いてガラス基板表面を加工する工程よりなることを特徴とするガラス基板表面を加工する方法(以下、「本発明の加工方法(1)」という。)を提供する。
【0017】
本発明の加工方法(1)において、前記加工方法が、ガスクラスタイオンビームエッチングであることが好ましい。
ここで、ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを使用し、加速電圧15keV超でガスクラスタイオンビームエッチングを実施することが好ましい。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびN2の混合ガス、NF3、ArおよびN2の混合ガス
前記ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを用いることがより好ましい。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス
【0018】
また、本発明は、ガラス基板表面の平坦度を測定する工程、上記本発明の異物除去方法によりガラス基板表面の異物を除去する工程、およびイオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いて前記ガラス基板表面を加工する工程よりなり、
前記ガラス基板表面を加工する工程において、前記ガラス基板表面の平坦度を測定する工程から得られた結果に基づいて、前記ガラス基板表面の加工条件を前記ガラス基板の部位ごとに設定することを特徴とするガラス基板表面を加工する方法(以下、「本発明の加工方法(2)」という。)を提供する。
【0019】
本発明の加工方法(2)において、前記加工方法は、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチングまたはプラズマエッチングであり、
前記ガラス基板表面の平坦度を測定する工程から得られた結果から、前記ガラス基板表面に存在するうねりの幅を特定し、
ビーム径がFWHM(full width of half maximum)値で前記うねりの幅以下のビームを用いて前記ガラス基板表面を加工することが好ましい。
ここで、前記ビーム径のFWHM値は、前記うねりの幅の1/2以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明の加工方法(2)において、前記加工方法がガスクラスタイオンビームエッチングであり、
ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを使用し、加速電圧15keV超でガスクラスタイオンビームエッチングを実施することが好ましい。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびN2の混合ガス、NF3、ArおよびN2の混合ガス
前記ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを用いることがより好ましい。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス
【0021】
本発明の加工方法(1),(2)において、前記ガラス基板表面を加工する工程に続いて、ガラス基板表面の表面粗さの改善を目的とする第2の加工工程を実施することが好ましい。
前記第2の加工工程として、O2単独ガス、またはO2と、Ar、COおよびCO2からなる群から選択される少なくとも1つのガスと、の混合ガスをソースガスとして用い、加速電圧3keV以上30keV未満でガスクラスタイオンビームエッチングを実施することが好ましい。
また、前記第2の加工工程として、面圧1〜60gf/cm2で研磨スラリーを用いた機械研磨を実施することが好ましい。
【0022】
また、本発明は、本発明の加工方法により得られる、基板表面の平坦度が50nm以下であり、該基板表面には高さ1.5nm超のガラスの凸欠点が存在しないことを特徴とするガラス基板を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法により、ガラス基板表面を仕上げ加工する場合に、加工後のガラス基板表面にガラスの凸欠点が生じることを防止し、ガラス基板表面を平坦度および表面粗さに優れた表面に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の異物除去方法は、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチング、レーザ光照射によるナノアブレージョンといったガラス基板表面へのビーム照射若しくはレーザ光照射を伴う方法により仕上げ加工されるガラス基板表面(以下、「加工面」ともいう。)、すなわち、仕上げ加工前の加工面から異物を除去する方法である。
このような加工面は仕上げ加工を行う前に洗浄されるが、洗浄により除去しきれなかった異物がガラス基板表面に残留する場合や、洗浄後のガラス基板表面に新たな異物が付着する場合がある。本発明の異物除去方法は、このような異物を除去することを目的とする。
【0025】
本発明の異物除去方法が対象とする異物とは、化学結合によって加工面に固着しているものではなく、ファンデルワールス力によって加工面に付着しているものを指し、その大きさは通常1〜2μm程度、またはそれ以下である。
【0026】
本発明の異物除去方法が対象とするガラス基板は、主として集積回路の高集積化と高精細化に対応可能なEUVL用反射型マスク用のガラス基板である。この用途で使用されるガラス基板は、熱膨張係数が小さく、かつそのばらつきの小さいガラス基板であり、20℃における熱膨張係数が−30〜30ppb/℃の低膨張ガラス製であることが好ましく、20℃における熱膨張係数が−10〜10ppb/℃の超低膨張ガラス製であることがより好ましい。または、50℃〜80℃における熱膨張係数が−30〜30ppb/℃の低膨張ガラス製であることが好ましく、50℃〜80℃における熱膨張係数が−10〜10ppb/℃の超低膨張ガラス製であることがより好ましい。
ガラス基板の形状、大きさおよび厚さ等は、特に限定されないが、EUVL用反射型マスク用の基板の場合、その形状は平面形状が矩形の板状体である。
【0027】
本発明の異物除去方法が対象とするガラス基板は、所定の平坦度および表面粗さになるように、加工面が予備加工されていることが好ましい。
加工面の仕上げ加工に用いるイオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンは、ガラス基板表面を平坦度および表面粗さに優れた表面に加工することができるが、これらの加工方法は従来の機械研磨に比べると加工レート、特に大面積のガラス基板表面を加工する場合の加工レートという点では劣っている。一方、本発明の異物除去方法は、詳しくは後述するが、加工面を実質的に加工することなしに加工面に存在する異物を除去する方法である。このため、本発明の異物除去方法を実施する前に、比較的高い加工レートを有する加工方法を用いて、加工面を所定の平坦度および表面粗さまで予備加工することが好ましい。
【0028】
予備加工に使用する加工方法は特に限定されず、ガラス表面の加工に使用される公知の加工方法から広く選択することができる。但し、加工レートが大きく、表面積が大きい研磨パッドを使用することにより、一度に大面積を研磨加工できることから、通常は機械研磨方法が使用される。ここで言う機械研磨方法には、砥粒による研磨作用のみによって研磨加工するもの以外に、研磨スラリーを使用し砥粒による研磨作用と薬品による化学的研磨作用を併用する方法も含む。なお、機械研磨方法は、ラップ研磨およびポリッシュ研磨のいずれであってもよく、使用する研磨具および研磨剤も公知のものから適宜選択することができる。なお、機械研磨方法を使用する場合、加工レートを大きくするため、ラップ研磨の場合、面圧30〜70gf/cm2で実施することが好ましく、面圧40〜60gf/cm2で実施することが好ましく、ポリッシュ研磨の場合、面圧60〜140gf/cm2で実施することがより好ましく、面圧80〜120gf/cm2で実施することがより好ましい。研磨量としては、ラップ研磨の場合、100〜300μmで実施することが好ましく、ポリッシュ研磨の場合、1〜60μmの研磨量で実施することが好ましい。
【0029】
予備加工を行う場合、予備加工後の加工面の表面粗さ(Rms)は5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。本明細書において、表面粗さと言った場合、1〜10μm□の面積について、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さを意味する。予備加工後のガラス基板の表面粗さが5nm超であると、本発明の異物除去方法を実施した後、加工面を所定の平坦度および表面粗さに仕上げ加工するのにかなりの時間を要することになり、コスト増の要因となる。
【0030】
本発明の異物除去方法は、加工面に対してエッチング量が少ない特定の条件(以下、「低エッチング条件」)でガスクラスタイオンビーム(以下、「GCIB」という。)エッチングを施すことにより、加工面が加工される量を極めて小さくしつつ、該加工面から異物を除去することを特徴とする。
GCIBエッチングとは、常温および常圧で気体状の反応性物質(ソースガス)を、真空装置内に膨張型ノズルを介して加圧状態で噴出させることにより、ガスクラスタを形成し、これに電子照射してイオン化したGCIBを照射して対象物をエッチングする方法である。ガスクラスタは、通常数千個の原子または分子からなる塊状原子集団または分子集団によって構成される。本発明の異物除去方法において、加工面に対してGCIBエッチングを施すと、加工面にガスクラスタが衝突した際に、固体との相互作用により多体衝突効果が生じ加工面から異物が除去される。そして、加工面に対して低エッチング条件でGCIBエッチングを施すので、加工面を実質的に加工することがない。
本発明の異物除去方法において、加工面のうち、異物が存在する部位を特定して、該部位に対して選択的にGCIBエッチングを施してもよいが、大きさが1〜2μm程度、またはそれ以下の微小な異物が存在する部位を特定して、該部位に対して選択的にGCIBエッチングを施すことは困難であることから、通常は、加工面全体に対して低エッチング条件でGCIBエッチングを施す。この場合、GCIBを加工面上で走査させる必要があるが、GCIBを走査させる方法としては、ラスタスキャンとスパイラルスキャンが公知であるが、これらのいずれを用いてもよい。
【0031】
本発明の異物除去方法の第1態様では、加工面に対して低エッチング条件でGCIBエッチングを施すために、加速電極に印加する加速電圧を5〜15keVとする。この場合、ソースガスは、ガラス基板表面の仕上げ加工目的でGCIBエッチングを実施する際に、従来使用されるソースガスであってよい。このような従来のソースガスの具体例としては、例えば、SF6、NF3、CHF3、CF4、C26、C38、C46、SiF4、COF2などのガスを単独で、または混合して使用することができる。
加速電極に印加する加速電圧を5〜15keVとすれば、加工面の仕上げ加工目的でGCIBエッチングを実施する際に従来使用されるソースガスを用いた場合であっても、加工面のエッチング量が十分低くなり、加工面を実質的に加工することなしに、該加工面に存在する異物を除去することができる。加速電圧が5keV未満だと、加工面にガスクラスタが衝突する際の運動エネルギーが小さいため、異物の大きさにもよるが、加工面に存在する異物を除去することができない。具体的には、大きさ1〜2μm程度の異物を除去することができない。加速電圧が15keV超だと、加工面にガスクラスタが衝突する際の運動エネルギーが大きくなるため、加工面に存在する微小な異物を除去する作用よりも、加工面をエッチング作用のほうが顕著となり、異物が存在する加工面をGCIBエッチングで仕上げ加工した場合と同様に、加工面のうち、異物が存在する部分のみがエッチングされずに残り、洗浄等により異物が除去された加工面に凸欠点が生じるという問題がある。
加速電圧は5〜10keVであることがより好ましい。
【0032】
本発明の異物除去方法の第2態様では、加工面に対して低エッチング条件でGCIBエッチングを施すために、O2、Ar、B、CO2、N2、N2Oおよびボロン水素化物(BH3、B410等)からなる少なくとも1種以上のガスをソースガスとしてGCIBエッチングを施す。これらのガス種は、加工面に衝突した際に化学反応を起こしにくく、加工面をエッチングする作用が極めて弱い。これらのガス種をソースガスとしてGCIBエッチングを施した場合、加工面を実質的に加工することなしに、該加工面に存在する異物を除去することができる。
【0033】
本発明の異物除去方法の第2態様では、エッチング作用が極めて弱いガス種を加速電極に印加する加速電圧は特に限定されない。但し、加速電圧を15keV以上とすることが、加工面を実質的に加工することなしに、該加工面に存在する異物を除去する点で優れることから好ましく、20keV以上とすることがより好ましく、30keV以上とすることがさらに好ましい。加速電圧が15keV未満だと、加工面にガスクラスタが衝突する際の運動エネルギーが小さいため、異物の大きさにもよるが、加工面に存在する異物を除去することができないおそれがある。但し、加速電圧が15keV未満であっても、クラスタサイズ、ドーズ量、照射時間等の条件を調節することで、加工面に存在する異物を除去することができる。
【0034】
上記した本発明の異物除去方法の第1態様および第2態様によれば、加工面に対して低エッチング条件でGCIBエッチングを施すため、加工面を実質的に加工することなしに、該加工面に存在する異物を除去することができる。ここで、低エッチング条件とは、好ましくは、エッチング量が20nm以下となる条件であり、より好ましくはエッチング量が10nm以下となる条件である。
【0035】
本発明の異物除去方法の第1態様および第2態様において、クラスタサイズ、クラスタをイオン化させるためにGCIBエッチング装置のイオン化電極に印加するイオン化電流、およびGCIBのドーズ量といった照射条件は、ソースガスの種類や加速電極に印加する加速電圧等に応じて適宜選択することができるが、クラスタサイズが2000以上の条件で実施することが好ましい。クラスタサイズが2000以上であれば、加工面に対して比較的大きなガスクラスタが衝突するので、多体衝突効果により加工面に存在する異物を除去する効果が向上することが期待される。クラスタサイズは3000以上であることがより好ましく、5000以上であることが特に好ましい。
【0036】
本発明の異物除去方法の第1態様および第2態様において、加工面に対して、GCIBを斜め方向から照射することが好ましい。加工面に対して、GCIBを斜め方向から照射すれば、多体衝突効果により加工面に存在する異物が除去する効果が向上することが期待される。図1は、加工面に対して、GCIBを斜めから照射している状態を示した図である。図1において、ガラス基板1の法線N(したがって、加工面10の法線N)と、加工面10に入射するGCIBと、がなす角度θを3〜60°に保持することが好ましい。角度θを3°以上に保持することにより、多体衝突効果により加工面から異物が除去する効果が向上することが期待される。加工面に存在する異物を除去する効果が向上することが期待される。一方、角度θを60°超に保持すると、加工面におけるGCIBのスポット形状が顕著な楕円形状となるため、加工面にガスクラスタが衝突する際の運動エネルギーが分散してしまい、加工面に存在する異物を除去する効果が低下する。また、加工面におけるGCIBのスポット形状が顕著な楕円形状になるため、GCIBエッチング実施後の加工面の平坦度が悪化するおそれがある。
角度θを10〜60°に保持することがより好ましく、30〜60°に保持することがさらに好ましい。
【0037】
加工面に対してGCIBを斜め方向から照射する場合に、図1に示すように、加工面10を水平方向に対して3〜60°下方を向けた状態に保持した状態で、GCIBを水平方向に照射することが好ましい。このようにすることで、多体衝突効果により加工面から異物が除去する効果が向上するとともに、除去された異物が加工面に再付着することが防止される。加工面10は、水平方向に対して10〜60°下方に向けた状態で保持することがより好ましく、30〜60°に保持することがさらに好ましい。
【0038】
本発明の加工方法(1)は、上記した本発明の異物除去方法によりガラス基板表面の異物を除去する工程(以下、「異物除去工程」という。)、およびイオンビームエッチング、GCIBエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いてガラス基板表面を加工する工程(以下、「加工工程」という。
)よりなる。
加工面が所定の平坦度および表面粗さになるように予備研磨されている場合、上記した本発明の異物除去方法により加工面に存在する異物を除去した後、イオンビームエッチング、GCIBエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いて該加工面を仕上げ加工することになる。
なお、異物除去工程後の加工面に新たな異物が付着するのを防止するため、異物除去工程および加工工程を同一のチャンバ内で実施すること、もしくは装置から基板を取り出すことなく輸送できる併設されたチャンバ内で実施することが好ましい。加工工程でGCIBエッチングを用いる場合、異物除去工程および加工工程で同一のGCIBエッチング装置を用いることが好ましい。
【0039】
上記した加工方法の中でも、表面粗さが小さく、平滑性に優れた表面に加工できることからGCIBエッチングを用いることが好ましい。
GCIBエッチングを用いる場合、ソースガスとしては、SF6、Ar、O2、N2、NF3、N2O、CHF3、CF4、C26、C38、C46、SiF4、COF2などのガスを単独で、または混合して使用することができる。これらの中でもSF6、NF3、CHF3、CF4、C26、C38、C46、SiF4およびCOF2は、加工面にガスクラスタが衝突した時に起こる化学反応の点でソースガスとして優れている。中でも、SF6またはNF3を含む混合ガス、具体的には、SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、またはNF3、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびN2の混合ガス、NF3、ArおよびN2の混合ガスがエッチングレートが高く、加工タクトの向上の理由から好ましい。これらの混合ガスにおいて、各成分の好適な混合比率は照射条件等の条件によって異なるが、それぞれ以下であることが好ましい。
SF6:O2=0.1〜5%:95〜99.9%(SF6およびO2の混合ガス)
SF6:Ar:O2=0.1〜5%:9.9〜49.9%:50〜90%(SF6、ArおよびO2の混合ガス)
NF3:O2=0.1〜5%:95〜99.9%(NF3およびO2の混合ガス)
NF3:Ar:O2=0.1〜5%:9.9〜49.9%:50〜90%(NF3、ArおよびO2の混合ガス)
NF3:N2=0.1〜5%:95〜99.9%(NF3およびN2の混合ガス)
NF3:Ar:N2=0.1〜5%:9.9〜49.9%:50〜90%(NF3、ArおよびN2の混合ガス)
これらの混合ガスの中でも、SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、またはNF3、ArおよびO2の混合ガスが好ましい。
【0040】
なお、クラスタサイズ、クラスタをイオン化させるためにGCIBエッチング装置のイオン化電極に印加するイオン化電流、GCIBエッチング装置の加速電極に印加する加速電圧、およびGCIBのドーズ量といった照射条件は、ソースガスの種類、加工面の表面性状、および仕上げ加工の目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、予備加工後の加工面の平坦度を改善する目的で仕上げ加工を行う場合、加速電極に印加する加速電圧が15keV超であることが好ましく、表面粗さを過度に悪化させることなしに加工面の平坦度を改善するためには、加速電圧が15keV超30keV以下であることが好ましい。
また、加工工程において、GCIBエッチングを使用する場合、GCIBを加工面上で走査させる必要があるが、GCIBを走査させる方法としては、ラスタスキャンとスパイラルスキャンが公知であるが、これらのいずれを用いてもよい。
【0041】
本発明の加工方法(2)は、ガラス基板表面の平坦度を測定する工程(以下、「平坦度測定工程」)、上記した本発明の異物除去方法により加工面の異物を除去する工程(「異物除去工程」)、およびイオンビームエッチング、GCIBエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いて加工面を加工する工程(「加工工程」)よりなり、
上記の加工工程において、平坦度測定工程から得られた結果に基づいて、加工面の加工条件を該加工面の部位ごとに設定することを特徴とする。
【0042】
ガラス基板の加工面、例えば、EUVLマスク用のガラス基板の加工面を加工する目的で、予備加工、および、イオンビームエッチング、GCIBエッチング、プラズマエッチングまたはナノアブレージョンを用いた仕上げ加工を実施する場合、予備加工後の加工面に部分的なうねりが存在する場合がある。うねりとは、加工面に存在する周期的な凹凸のうち、その周期が5〜30mmのものをいう。
このようなうねりを仕上げ加工で除去して、加工面を所望の平坦度にすることは困難である。また、予備加工の際に生じたうねりが、仕上げ加工の際にさらに大きなうねりに成長する場合もある。
本発明の加工方法(2)は、このような予備加工後の加工面に生じたうねりを除去して、加工面を平坦度に優れた表面に仕上げ加工する方法である。
【0043】
本発明の加工方法(2)では、平坦度測定工程から得られた結果に基づいて、加工面の加工条件を該加工面の部位ごとに設定するため、平坦度測定工程は、加工工程よりも前に実施すればよく、異物除去工程の後に実施してもよい。但し、異物除去工程後の加工面に新たな異物が付着するのを防止するため、異物除去工程の前に実施することが好ましい。
また、異物除去工程後の加工面に新たな異物が付着するのを防止するため、異物除去工程および加工工程を同一のチャンバ内で実施すること、もしくは装置から基板を取り出すことなく輸送できる併設されたチャンバ内で実施することが好ましい。加工工程でGCIBエッチングを用いる場合、異物除去工程および加工工程で同一のGCIBエッチング装置を用いることが好ましい。
【0044】
平坦度測定工程では、加工面の各部位における平坦度、すなわち、高低差を測定する。
したがって、平坦度測定工程から得られる結果は、加工面の各部位における高低差を示す平坦度マップ(以下、「平坦度マップ」という。)となる。
加工面の各部位における平坦度は、例えばレーザ干渉式平坦度測定機を用いて測定することができる。但しこれに限定されず、レーザ変位計、超音波変位計または接触式変位計を用いて、加工面の各部位における高低差を測定し、その測定結果を用いて平坦度マップを作成してもよい。
【0045】
本発明の加工方法(2)では、平坦度測定および異物除去工程を実施した後、平坦度測定工程から得られた結果に基づいて、加工面の加工条件を該加工面の部位ごとに設定する。
上記したように、平坦度測定工程から得られる結果は、平坦度マップとなる。二次元平面形状である加工面の座標を(x,y)とした場合、平坦度マップはS(x,y)(μm)と表される。加工時間はT(x,y)(min)と表される。加工レートをY(μm/min)とした場合、これらの関係は下記式で表される。
T(x,y)=S(x,y)/Y
したがって、平坦度測定工程から得られた結果に基づいて、加工面の加工条件を該加工面の部位ごとに設定する場合、上記式にしたがって、加工条件、具体的には加工時間を該加工面の部位ごとに設定する。
【0046】
加工工程において、加工面へのビーム照射を伴う方法を用いる場合、具体的には、イオンビームエッチング、GCIBエッチングおよびプラズマエッチングを用いる場合、平坦度測定工程から得られる結果に基づいて、加工面の加工条件を該加工面の部位ごとにさらに設定することができる。以下、この設定手順について、具体的に説明する。
【0047】
この設定手順を行う場合、平坦度測定工程から得られる結果を用いて、加工面に存在するうねりの幅を特定する。うねりの幅と言った場合、加工面に周期的に存在する凹凸形状における、凹部または凸部の長さを意味する。したがって、うねりの幅は、通常うねりの周期の1/2である。なお、加工面に周期が異なるうねりが複数存在する場合、周期が最も小さいうねりの幅を加工面に存在するうねりの幅とする。
【0048】
上記したように、平坦度測定工程から得られる測定結果は、加工面の各部位における高低差を示す平坦度マップである。よって、平坦度マップから加工面に存在するうねりの幅を容易に特定することができる。
【0049】
上記の手順で特定されたうねりの幅を基準として、ビーム径がうねりの幅以下のビームを用いてイオンビームエッチング、GCIBエッチングまたはプラズマエッチングを実施する。ここでビーム径は、FWHM(full width of half maximum)値を基準とする。以下、本明細書において、ビーム径と言った場合、ビーム径のFWHM値を意味する。加工工程において、ビーム径がうねりの幅の1/2以下のビームを用いることがより好ましい。ビーム径がうねりの幅以下のビームを用いれば、加工面に存在するうねりに対して、ビームを集中して照射することが可能となり、うねりを効果的に取り除くことができる。
【0050】
加工工程において、加工面へのビーム照射を伴う方法、すなわち、イオンビームエッチング、GCIBエッチングまたはプラズマエッチングを使用する場合、ビームを加工面上で走査させる必要がある。この理由は、加工面の加工条件を該加工面の部位ごとに設定するために、1回にビームを照射する範囲をできるだけ小さくする必要があるからである。
特に、ビーム径がうねりの幅以下のビームを使用する場合、ビームを加工面上で走査させることが必要となる。ビームを走査させる手法としては、ラスタスキャンとスパイラルスキャンが公知であるが、これらのいずれを用いてもよい。
【0051】
上記した加工方法の中でも、表面粗さが小さく、平滑性に優れた表面に加工できることからGCIBエッチングを用いることが好ましい。
GCIBエッチングを用いる場合、ソースガスおよび照射条件については、本発明の加工方法(1)について記載したのと同様である。
【0052】
本発明の加工方法(1),(2)の加工工程を実施した場合、加工面の性状や、ビームの照射条件によっては、加工面の表面粗さが多少悪化する場合がある。また、ガラス基板の仕様によっては、上記の加工工程では所望の平坦度は達成できても、所望の表面粗さまでは加工できない場合もある。このため、上記の加工工程(以下、「第1の加工工程」という。)に続いて加工面の表面粗さの改善を目的とする第2の加工工程を実施することが好ましい。
【0053】
第2の加工工程において、GCIBエッチングを用いることができる。この場合、異物除去工程に用いるGCIBエッチングおよび第1の加工工程で用いるGCIBエッチングとは、ソースガス、イオン化電流および加速電圧といった照射条件を変えてGCIBエッチングを実施する。具体的には、第1の加工工程に用いるGCIBエッチングよりエッチング量が低くなるような照射条件でGCIBエッチングを実施する。第1の加工工程に用いるGCIBエッチングと比較した場合、より低いイオン化電流、あるいは低い加速電圧を用いて、より緩やかな条件でGCIBエッチングを実施する。より具体的には、加速電圧は、3keV以上30keV未満であることが好ましく、3〜20keVであることがより好ましい。また、ソースガスとしては、加工面に衝突した時に化学反応を起こしにくいことから、O2単独ガス、またはO2と、Ar、COおよびCO2からなる群から選択される少なくとも1つのガスと、の混合ガスを使用することが好ましい。これらの中でもO2と、Arと、の混合ガスを使用することが好ましい。
【0054】
また、第2の加工工程において、タッチポリッシュと呼ばれる低い面圧、面圧1〜60gf/cm2で研磨スラリーを用いた機械研磨を実施することができる。タッチポリッシュでは、ガラス基板を、不織布または研磨布等の研磨パッドを取り付けた研磨盤で挟んでセットし、所定の性状に調整されたスラリーを供給しながら、ガラス基板に対して研磨盤を相対回転させて、面圧1〜60gf/cm2で加工面を研磨加工する。
【0055】
研磨パッドとしては、例えばカネボウ社製ベラトリックスK7512が用いられる。研磨スラリーとしては、コロイダルシリカを含有する研磨スラリーを用いることが好ましく、平均一次粒子径が50nm以下のコロイダルシリカと水とを含み、pHを0.5〜4の範囲となるように調整された研磨スラリーを用いることがより好ましい。研磨の面圧は1〜60gf/cm2とする。面圧が60gf/cm2超だと、基板表面にスクラッチ傷が発生する等により、加工面を所望の表面粗さまで加工することができない。また、研磨盤の回転負荷が大きくなるおそれがある。面圧が1gf/cm2未満だと加工に長時間を要するため実用的ではない。また、面圧が30gf/cm2未満の場合、加工に長時間を要するため、面圧30〜60gf/cm2である程度加工した後、面圧1〜30gf/cm2で仕上げ加工することが好ましい。
【0056】
コロイダルシリカの平均一次粒子径は、好ましくは20nm未満、さらに好ましくは15nm未満、特に好ましくは10nm未満である。コロイダルシリカの平均一次粒子径が50nm超であると、加工面を所望の表面粗さに加工することが困難である。また、コロイダルシリカとしては、粒子径をきめ細かく管理する観点から、一次粒子が凝集してできる二次粒子をできるだけ含有していないことが望ましい。二次粒子を含む場合でも、その平均粒子径は70nm以下であるのが好ましい。なお、ここで言うコロイダルシリカの粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて15〜105×103倍の画像を計測することによって得られたものである。
【0057】
研磨スラリー中のコロイダルシリカの含有量は10〜30質量%であることが好ましい。研磨スラリー中のコロイダルシリカの含有量が10質量%未満では、研磨効率が悪くなり経済的な研磨が得られなくなるおそれがある。一方、コロイダルシリカの含有量が30質量%を超えると、コロイダルシリカの使用量が増加するためコストや洗浄性の観点から支障が生じるおそれがある。より好ましくは18〜25質量%であって、特に好ましくは18〜22質量%である。
【0058】
研磨スラリーのpHを上述の酸性の範囲、すなわち、pHを0.5〜4の範囲とすると、加工面を化学的および機械的に研磨加工して、該加工面を平滑性よく効率的に研磨加工することが可能となる。すなわち、加工面の凸部が研磨スラリーの酸によって軟化されるため、凸部を機械的研磨で容易に除去できるようになる。これにより加工効率が向上すると共に、研磨加工で取り除かれたガラス屑が軟化されているので、該ガラス屑等による新たな傷の発生が防止される。研磨スラリーのpHが0.5未満であると、タッチポリッシュに用いる研磨装置に腐食が発生するおそれがある。研磨スラリーの取扱性の観点からpHは1以上が好ましい。化学的研磨加工効果を充分得るためにはpHは4以下が好ましい。特に好ましくは、pHは1.8〜2.5の範囲である。
【0059】
研磨スラリーのpH調整は、無機酸または有機酸を単独または組合せて添加しておこなうことができる。用いることができる無機酸として、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸などが挙げられ、取扱いの容易さの点から硝酸が好ましい。また、有機酸としては、シュウ酸、クエン酸などが例示される。
【0060】
研磨スラリーに用いられる水は、異物を取り除いた純水または超純水が好ましく用いられる。すなわち、レーザ光等を用いた光散乱方式で計測した、最大径が0.1μm以上の微粒子が実質的に1個/ml以下の純水または超純水が好ましい。材質や形状にかかわらず異物が1個/mlより多く異物が混入していると、加工面に引っ掻き傷やピットなどの表面欠点が生じるおそれがある。純水または超純水中の異物は、例えば、メンブレンフィルターによる濾過や限外濾過により除去できるが、異物の除去方法はこれに限定されない。
【0061】
本発明の加工方法(1),(2)により加工されたガラス基板は、加工面が平坦度および表面粗さに優れており、加工後の加工面の平坦度が50nm以下であり、該加工面に高さ1.5nm超のガラスの凸欠点が存在しない。加工後の加工面の平坦度が30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明の加工方法により加工されたガラス基板は、加工面が平坦度および表面粗さに優れているため、半導体製造用露光装置の光学系に使用される光学素子、特に線幅が45nm以下の次世代の半導体製造用露光装置の光学系に使用される光学素子として好適である。かかる光学素子の具体例としては、レンズ、回折格子、光学膜体及びそれらの複合体、例えば、レンズ、マルチレンズ、レンズアレイ、レンチキュラーレンズ、ハエの目レンズ、非球面レンズ、ミラー、回折格子、バイナリーオプティックス素子、フォトマスク及びそれらの複合体を含む。
また、本発明の加工方法により加工されたガラス基板は、加工面が平坦度および表面粗さに優れているため、フォトマスクおよび該フォトマスクを製造するためのマスクブランクス、特にEUVL用の反射型マスクおよび該マスクを製造するためのマスクブランクスとして好適である。
露光装置の光源は特に限定されず、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)を発するレーザであってもよいが、より短波長の光源、具体的には、波長250nm以下の光源が好ましい。このような光源の具体例としては、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)、F2レーザ(波長157nm)およびEUV(13.5nm)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の異物除去方法における基板の加工面とGCIBとの関係を示した模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1:基板
10:加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板表面から異物を除去する方法であって、
前記ガラス基板表面に対して、加速電圧5〜15keVでガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特長とするガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項2】
ガラス基板表面から異物を除去する方法であって、
前記ガラス基板表面に対して、O2、Ar、B、CO2、N2、N2Oおよびボロン水素化物からなる少なくとも1種以上のガスをソースガスとするガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特長とするガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項3】
エッチング量が20nm以下となる条件でガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特徴とする請求項1または2に記載のガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項4】
前記ガラス基板が、20℃における熱膨張係数が−30〜30ppb/℃の低膨張ガラス製であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項5】
ガスクラスタイオンビームエッチングを施す前のガラス基板表面の表面粗さが(Rms)が5nm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項6】
クラスタサイズが2000以上の条件でガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項7】
前記ガラス基板の法線と、前記ガラス基板表面に入射するガスクラスタイオンビームと、がなす角度を3〜60°に保持してガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項8】
前記ガラス基板表面を水平方向に対して3〜60°下方を向けた状態に保持して、ガスクラスタイオンビームエッチングを施すことを特徴とする請求項7に記載のガラス基板表面から異物を除去する方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法によりガラス基板表面の異物を除去する工程、およびイオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いてガラス基板表面を加工する工程よりなることを特徴とするガラス基板表面を加工する方法。
【請求項10】
前記加工方法が、ガスクラスタイオンビームエッチングである請求項9に記載のガラス基板表面を加工する方法。
【請求項11】
ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを使用し、加速電圧15keV超でガスクラスタイオンビームエッチングを実施する請求項10に記載のガラス基板表面を加工する方法。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびN2の混合ガス、NF3、ArおよびN2の混合ガス
【請求項12】
前記ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを用いる請求項11に記載のガラス基板表面を加工する方法。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス
【請求項13】
ガラス基板表面の平坦度を測定する工程、
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法によりガラス基板表面の異物を除去する工程、およびイオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチング、プラズマエッチングおよびナノアブレージョンからなる群から選択される加工方法を用いて前記ガラス基板表面を加工する工程よりなり、
前記ガラス基板表面を加工する工程において、前記平坦度を測定する工程から得られた結果に基づいて、前記ガラス基板表面の加工条件を前記ガラス基板の部位ごとに設定することを特徴とするガラス基板表面を加工する方法。
【請求項14】
前記加工方法が、イオンビームエッチング、ガスクラスタイオンビームエッチングまたはプラズマエッチングであり、
前記ガラス基板表面の平坦度を測定する工程から得られた結果に基づいて、前記ガラス基板表面に存在するうねりの幅を特定し、
ビーム径がFWHM(full width of half maximum)値で前記うねりの幅以下のビームを用いて前記ガラス基板表面を加工することを特徴とする請求項13に記載のガラス基板表面を加工する方法。
【請求項15】
前記ビーム径のFWHM値が、前記うねりの幅の1/2以下である請求項14に記載のガラス基板表面を加工する方法。
【請求項16】
前記加工方法がガスクラスタイオンビームエッチングであり、
ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを使用し、加速電圧15keV超でガスクラスタイオンビームエッチングを実施する請求項15に記載のガラス基板表面を加工する方法。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびN2の混合ガス、NF3、ArおよびN2の混合ガス
【請求項17】
前記ソースガスとして、下記群から選択されるいずれかの混合ガスを用いる請求項16に記載のガラス基板表面を加工する方法。
SF6およびO2の混合ガス、SF6、ArおよびO2の混合ガス、NF3およびO2の混合ガス、NF3、ArおよびO2の混合ガス
【請求項18】
前記ガラス基板表面を加工する工程に続いて、ガラス基板表面の表面粗さの改善を目的とする第2の加工工程を実施することを特徴とする請求項9ないし17のいずれかに記載のガラス基板表面を加工する方法。
【請求項19】
前記第2の加工工程において、O2単独ガス、またはO2と、Ar、COおよびCO2からなる群から選択される少なくとも1つのガスと、の混合ガスをソースガスとして用い、加速電圧3keV以上30keV未満でガスクラスタイオンビームエッチングを実施することを特徴とする請求項18に記載のガラス基板表面を加工する方法。
【請求項20】
前記第2の加工工程において、面圧1〜60gf/cm2で研磨スラリーを用いた機械研磨を実施することを特徴とする請求項18に記載のガラス基板表面を加工する方法。
【請求項21】
請求項9ないし20のいずれかに記載の方法により得られる、基板表面の平坦度が50nm以下であり、該基板表面に高さ1.5nm超のガラスの凸欠点が存在しないことを特徴とするガラス基板。

【図1】
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【公開番号】特開2009−29691(P2009−29691A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115127(P2008−115127)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】