説明

ガラス板のスクライブ方法及びそのスクライブ装置

【課題】ガラス板に破損を生じさせることなく、ガラス板に対して端面から所定の距離を置いた位置に簡単かつ確実にスクライブ線の開始点を設定するスクライブ方法およびスクライブ装置を提供する。
【解決手段】ガラス板1の端面1aに案内板4の端面4aを当接させる。案内板4の端面4aの一部をガラス板1の表面から上方に突出させ、ガラス板1と案内板4との境界部に段差6を形成する。この状態で、ホイールカッター3を案内板4の表面からガラス板1の表面に向かって走行させる。そして、段差6によって、境界部に到達したホイールカッター3を、ガラス板1の端面1aから所定の距離を置いた位置でガラス板1の表面に乗り移らせ、スクライブ線2の開始点をガラス板1の端面から離間させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板を所定サイズに切断する際に、その切断予定線に刻設されるスクライブ線の形成技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年における映像表示装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)が主流となっている。これらのFPDに用いられるガラス基板は、大きなガラス基板(マザーガラス板)を所定サイズに切断することで採取される。
【0003】
FPD用ガラス基板などのガラス板の切断方法としては、ガラス板上にホイールカッターを押し当てながら走行させることにより、ガラス板の切断予定線に沿ってスクライブ線を刻設した後、ガラス板に曲げ応力を加え、ガラス板をスクライブ線に沿って切断(ブレイク)するという方法が通例とされている。
【0004】
詳細には、この種の切断方法としては、例えば、ガラス板の端面からホイールカッターを乗り上げさせることで、ガラス板の端面からスクライブ線を刻設し始める方法が採用される場合がある。
【0005】
しかしながら、この場合には、ホイールカッターがガラス板の端面に接触するときに、破損(欠けや割れなど)を来たしやすいガラス板のコーナー部(端面と表裏面の接続部)に大きな抵抗が作用する。そのため、ホイールカッターがガラス板の端面に接触して、ガラス板のコーナー部に大きな衝撃が加わると、ガラス板のコーナー部近傍に欠け(チッピング)などの破損が生じるという問題がある。
【0006】
また、ホイールカッターがガラス板の端面に接触して大きな抵抗が作用すると、ホイールカッター自体にも衝撃が加わるため、ホイールカッターが早期に磨耗するという問題もある。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1及び特許文献2には、ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置からスクライブ線を形成し始め、ガラス板のコーナー部にホイールカッターが接触するのを防止したスクライブ方法が開示されている。
【0008】
具体的には、ホイールカッターをガラス板の面内上方の所定位置に位置決めした後、その位置決めしたホイールカッターを真下に下降させ、ガラス板の端面から距離を置いた位置でガラス板の表面に接触させ、スクライブ線の開始点をガラス板の端面から離間させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−338285号公報
【特許文献2】特開2003−292332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、スクライブ線の開始点をガラス板の端面から離間させる場合、各々のガラス板でスクライブ線の開始点の端面からの距離にばらつきが大きいと、各々のガラス板の切断に必要な曲げ応力の大きさが相違し、安定した切断を実現することが困難になる。したがって、各々のガラス板の相互間においても、スクライブ線の開始点のガラス板端面からの離間距離をほぼ等しくすることが望ましい。
【0011】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示の方法の場合には、スクライブ線の開始位置は、ガラス板に対するホイールカッターの位置決め精度に大きく依存する。すなわち、ホイールカッターを真下に下降させ、ガラス板の表面と接触した位置がスクライブ線の開始位置となることから、スクライブ線の開始位置を各々のガラス板において、同程度に設定しようとすると、ガラス板に対するホイールカッターの相対位置を厳格に管理する必要が生じ、作業効率が非常に悪いという問題がある。
【0012】
しかも、ホイールカッターを真下に下降させてガラス板の表面に接触させる場合には、接触時にガラス板に対して大きな衝撃が入り、ガラス板が破損するおそれもある。
【0013】
以上の実情に鑑み、本発明は、ガラス板に破損を生じさせることなく、ガラス板に対して端面から所定の距離を置いた位置に簡単かつ確実にスクライブ線の開始点を設定することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係るガラス板のスクライブ方法は、ガラス板を切断するために、ホイールカッターを用いて前記ガラス板の表面にスクライブ線を刻設するガラス板のスクライブ方法において、前記ガラス板の側方に案内板を配置するとともに、前記案内板の表面を前記ガラス板の表面よりも上方に位置させて、前記案内板の表面と前記ガラス板の表面との間に上下方向の段差を形成した状態で、前記ホイールカッターを、前記案内板の表面から前記ガラス板の表面に向かって走行させた後、前記段差によって前記ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置で前記ガラス板の表面に乗り移らせ、前記スクライブ線の開始点を前記ガラス板の端面から離間させることに特徴づけられる。
【0015】
このような方法によれば、ホイールカッターを案内板の表面からガラス板の表面に乗り移らせる際、ガラス板の表面と案内板の表面との間に形成される段差によって、ホイールカッターが、ガラス板の端面、換言すればコーナー部に接触することなく、ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置でガラス板の表面と接触することになる。そのため、スクライブ線の開始点の位置は、段差によって、ガラス板の端面から自動的に離間することになる。そして、このスクライブ線の開始点の位置は、ホイールカッターの径が同一であれば、主として段差の高さに依存する。したがって、同一のホイールカッターを使用している場合には、段差の高さを一定にするだけで、スクライブ線の開始点をガラス板の端面から一定の距離を置いた位置に簡単且つ確実に設定することができる。
【0016】
また、ホイールカッターは、ガラス板の表面に接触する前に案内板の表面に沿って走行しているため、ガラス板の表面に乗り移る際には段差の高さ分だけしか下降しない。そのため、ガラス板の上方に位置決めされたホイールカッターを真下に下降させてガラス板の表面と接触させる場合に比べて、ガラス板に加わる衝撃を大幅に低減することができる。その結果、スクライブ線の開始点がガラス板の端面から離間しているという効果との相乗効果により、スクライブ線の刻設時にガラス板が破損するという事態を可及的に低減することができる。
【0017】
上記の方法において、前記案内板の端面が、前記ガラス板の端面に当接されることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、案内板によってガラス板の位置決めを容易に行うことができることから、スクライブ線の開始点の位置をより精度よく管理することが可能となる。
【0019】
上記の方法において、前記案内板が、弾性体からなることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、案内板の弾性によって、最初にホイールカッターを案内板の表面に接触させる際に生じる衝撃が弱められるので、この接触時の衝撃によってホイールカッターが磨耗するという事態を確実に低減することができる。また同様に、接触させた後に、ホイールカッターを案内板の表面に沿って走行させる間のホイールカッターの磨耗量も可及的に低減することができる。そのため、ホイールカッターの耐用期間を延長でき、交換頻度を抑えることが可能となる。更に、案内板の端面をガラス板の端面に当接させる構成の場合には、案内板の端面をガラス板の端面に当接させた際に、案内板がガラス板の端面に倣って弾性変形する。そのため、案内板の端面との接触によって、ガラス板の端面が損傷するという事態を可及的に防止することができる。
【0021】
ここで、弾性体は、硬質弾性体(例えば硬質ゴム)であることが好ましい。これは、硬質弾性体であれば、ホイールカッターとの接触時に生じる磨耗を低減できるので、案内板の耐用期間が長くなるという利点を享受することができる。
【0022】
上記の方法において、前記ガラス板の板厚が、0.5〜3mmであることが好ましい。
【0023】
すなわち、上記の数値範囲の板厚を有するガラス板であれば、衝撃などによって破損が生じやすいため、本願発明のスクライブ方法の利点を最大限発揮することができる。
【0024】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るガラス板のスクライブ装置は、ガラス板を切断するために、前記ガラス板の表面にスクライブ線を形成するホイールカッターと、前記ガラス板の側方に配置された案内板と、前記ホイールカッターを、前記案内板の表面から前記ガラス板の表面に向かって走行させる移動手段とを備え、前記案内板の表面が前記ガラス板の表面よりも上方に位置して、前記案内板の表面と前記ガラス板の表面との間に上下方向の段差が形成されるとともに、前記段差により、前記案内板の表面を走行する前記ホイールカッターを前記ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置で前記ガラス板の表面に乗り移らせ、前記スクライブ線の開始点を前記ガラス板の端面から離間させることに特徴づけられる。
【0025】
このような構成によれば、既に述べた対応する構成と同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のような本発明によれば、ガラス板の表面と案内板の表面の間に形成された段差を利用して、ホイールカッターによって、ガラス板に破損を生じさせることなく、ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置から簡単かつ確実にスクライブ線を刻設し始めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置の要部を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置によるスクライブ方法を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置の変形例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置の変形例を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係るガラス板のスクライブ装置を示す図である。
【図6】本発明の比較例に係るガラス板のスクライブ装置を示す図である。
【図7】本発明の比較例に係るガラス板のスクライブ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置を示す斜視図である。このスクライブ装置は、ガラス板1の表面にスクライブ線2を形成するホイールカッター3と、ガラス板1の側方に隣接させて配置される案内板4と、ホイールカッター3を走行させる移動手段5とを備えている。
【0030】
ホイールカッター3は、移動手段5の先端部に回転可能に支持されており、この移動手段5によって、案内板4とガラス板1の双方の表面上を順に走行する構成とされている。また、ホイールカッター3は、移動手段5によって、案内板4及びガラス板1に対して一定の押圧力が作用するように、下方に押し付けられながら走行するようになっている。そのため、移動手段5によって、ホイールカッター3をガラス板1の切断予定線に沿って押し付けながら走行させると、ガラス板1の切断予定線に沿ってスクライブ線2が刻設される。
【0031】
案内板4は、この実施形態では、ガラス板1よりも厚肉な平板状をなす。この肉厚差により、案内板4の端面4aをガラス板1の端面1aに当接された状態で、案内板4の表面をガラス板1の表面よりも上方に位置させ、ガラス板1の表面と案内板4の表面との間に上下方向の段差6を形成している。
【0032】
案内板4は、この実施形態では、例えば、ポリアミドイミド樹脂などの硬質弾性体から形成されている。これにより、ホイールカッター3を案内板4に最初に接触させる際や、ホイールカッター3を案内板4の表面に沿って走行させる予備動作で、ホイールカッター3が磨耗したり、案内板4の端面が当接されるガラス板1の端面1aが損傷するという不具合の発生を低減することができる。また、硬質弾性体であれば、ホイールカッター3による案内板4自体の磨耗も低減できることから、複数枚のガラス板1に対して同一の案内板4を繰り返し使用できる。勿論、案内板4は、硬質弾性体などの弾性体で形成されたものに限定されず、例えば、ガラス板などの非弾性体から形成されたものであってもよい。
【0033】
ここで、この実施形態では、スクライブ線2を刻設する対象となるガラス板1の板厚は、例えば、0.5〜3mmである。また、ガラス板1は、例えば、プラズマディスプレイなどのFPD用のガラス基板や、太陽電池用のガラス基板として利用されるもので、フロート法などの公知の成形方法によって形成される。
【0034】
なお、図1の符号L1で示す鎖線は、走行時におけるホイールカッター3の中心の軌跡を示している。また、符号Xで示す領域は、ホイールカッター3を押し当てた際の案内板4の食い込み代を示している。
【0035】
次に、以上のように構成されたスクライブ装置によるガラス板のスクライブ方法を説明する。
【0036】
まず、図2に示すように、案内板4の端面4aにガラス板1の端面1aを当接させ、ガラス板1を位置決めする。次に、この状態でホイールカッター3を案内板4の表面に下降させ、ガラス板1の切断予定線の延長線上を走行させる。このとき、案内板4が硬質弾性体から形成されているため、ホイールカッター3を押し当てている箇所が弾性変形し、ホイールカッター3の一部が案内板4の表面に食い込む。図中のAは、この案内板4に形成される食い込み代(図中のクロスハッチングを付している領域)Xの高さを表している。この場合、Aを除外した図中のBの範囲が段差6の高さとなる。
【0037】
そして、案内板4の表面を走行させたホイールカッター3を、案内板4とガラス板1の境界部に到達した段階でガラス板1の表面に乗り移らせるとともに、引き続きガラス板1の表面を走行させる。このようにホイールカッター3を乗り移らせる際、案内板4とガラス板1との境界部には段差6が形成されているので、ホイールカッター3は、ガラス板1の端面に接触することなく、ガラス板1の端面1aから所定の距離を置いた位置で、ガラス板1の表面と初めて接触する。すなわち、この接触点P1が、ガラス板1の表面に刻設されるスクライブ線2の開始点となる。ここで、このスクライブ線2の開始点P1のガラス板1の端面1aからの離間距離Cは、例えば0.1〜2.0mmに設定される。
【0038】
この離間距離Cは、主として、段差6の高さBと、ホイールカッター3の径で決まる。そのため、同一のホイールカッター3を使用する場合には、段差6の高さBが一定であれば、複数枚のガラス板1の各々において、スクライブ線2の開始点P1を、ガラス板1の端面1aから同じ距離だけ離間させることができる。そして、段差6をガラス板1と案内板4との間の肉厚差によって形成しているので、スクライブ線2の開始点をガラス板1の端面1aから一定の距離を置いた位置に簡単且つ確実に設けることができる。
【0039】
また、ホイールカッター3は、予め案内板4の表面に沿って走行しているので、ガラス板1の表面に乗り移る際には段差6の高さ分だけしか下降しない。そのため、ホイールカッター3がガラス板1の表面に接触した際に生じる衝撃を大幅に低減することができる。その結果、スクライブ線2の刻設時にガラス板1が破損するという事態を防止することができる。
【0040】
したがって、案内板4とガラス板1との境界部に形成した段差6を利用すれば、ホイールカッター3で、ガラス板1に破損を生じさせることなく、ガラス板1の端面1aから一定の距離を置いた位置に簡単かつ確実にスクライブ線2の開始点P1を設定することが可能となる。
【0041】
なお、スクライブ線2をガラス板1に刻設した後は、スクライブ線2の刻設箇所に曲げ応力を作用させ、スクライブ線2に沿ってガラス板1を切断する。この場合、ガラス板1の端面近傍にはスクライブ線2が形成されていないが、この領域もスクライブ線2に形成される切断面を曲げ応力によりスクライブ線2の延長線上に進展させることで問題なく切断できる。したがって、ガラス板1の端面近傍に欠けが形成されることがなく、ガラス板1の端面近傍も廃棄せずに製品として使用することが可能となる。すなわち、ガラス板1の無駄をなくし、ガラス板1全体の有効利用を図ることができる。
【0042】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、案内板4として平板状のものを用いる場合を説明したが、ガラス板1との境界部に段差を有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、図3に示すように、ホイールカッター3を走行させる平面が、ガラス板1側に向かって上りの傾斜を有する案内板4であってもよいし、図4に示すように、ホイールカッター3を走行させる平面が、ガラス板1側に向かって下りの傾斜を有する案内板4であってもよい。
【0043】
また、上記の実施形態では、案内板4の端面4aにガラス板1の端面1aを当接させる場合を説明したが、両端面4a,1aを互いに間隔(例えば、0.1〜2.0mm)を置いて対向させてもよい。
【実施例】
【0044】
本発明の有用性を実証するために、実施例1と、比較例1〜2との対比試験を行った。詳細には、スクライブ線を形成するガラス板として、厚みが1.8mmで、縦500mm、横600mmのものを複数枚用意した。また、ホイールカッターは、直径5.0mmのものを用い、これを1m/秒の速度で走行させた。そして、上記の条件で、実施例1、比較例1及び比較例2では、それぞれ10枚のガラス板に対してスクライブ線を形成し、ガラス板の破損の有無を評価した。以下、実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれのスクライブ方法について説明する。
【0045】
実施例1では、図5に示すように、ガラス板1の端面1aに、板厚2.0mmの案内板4の端面4aを当接させた状態で、ホイールカッター3を案内板4の表面からガラス板1の表面に亘って走行させて、ガラス板1の表面にスクライブ線2を形成した。
【0046】
比較例1では、図6に示すように、ガラス板1の端面1aに他部材を当接することなく、ガラス板1の端面からホイールカッター3を乗り上げさせた後、そのホイールカッター3をガラス板1の表面に沿って走行させて、ガラス板1の表面にスクライブ線2を形成した。
【0047】
比較例2では、図7に示すように、ガラス板1の端面1aに、ガラス板1と略同一の板厚の案内板7の端面7aを当接させた状態で、ホイールカッター3を案内板7の表面からガラス板1の表面に亘って走行させて、ガラス板1の表面にスクライブ線2を形成した。
【0048】
これら対比試験の結果、比較例1では、ホイールカッター3をガラス板1の端面から乗り上げさせる際に、ガラス板1の端面に大きな衝撃が加わり、10枚のガラス板1全てにおいて、端面近傍に大きな欠けが発生するという結果を得た。
【0049】
また、比較例2では、案内板7の表面の高さと、ガラス板1の表面の高さを完全に同一にするには、双方の寸法精度を厳格に管理する必要があり、実用上は困難な場合が多い。そのため、ホイールカッター3がガラス板1の端面1aに直接衝突するという事態を完全に回避することができず、ガラス板1の端面1aに衝撃が加わる場合がある。また、仮に、寸法精度を厳格に管理して、案内板5の表面とガラス板1の表面を同一の高さに維持したとしても、ホイールカッター3によって、ガラス板1の端面に連続するコーナー部からスクライブ線2が形成され始めるので、スクライブ線2の刻設時に、機械的強度の弱いガラス板1の端面1a近傍に不当な応力が作用しやすい。その結果、10枚のガラス板1の中で、端面近傍に小さな欠けが発生するものが含まれるという結果を得た。
【0050】
これに対し、実施例1では、案内板4とガラス板1との境界部に形成される段差により、ホイールカッター3が、ガラス板1の端面に接触することなく、ガラス板1の端面から一定の距離を置いた位置に円滑に乗り移り、その位置からスクライブ線2の刻設が開始する。したがって、10枚のガラス板1全てにおいて、端面近傍に欠け(チッピング)が全く発生しないという良好な結果を得た。
【符号の説明】
【0051】
1 ガラス板
1a ガラス板の端面
2 スクライブ線
3 ホイールカッター
4 案内板
4a 案内板の端面
5 移動手段
6 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板を切断するために、ホイールカッターを用いて前記ガラス板の表面にスクライブ線を刻設するガラス板のスクライブ方法において、
前記ガラス板の側方に案内板を配置するとともに、前記案内板の表面を前記ガラス板の表面よりも上方に位置させて、前記案内板の表面と前記ガラス板の表面との間に上下方向の段差を形成した状態で、
前記ホイールカッターを、前記案内板の表面から前記ガラス板の表面に向かって走行させた後、前記段差によって前記ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置で前記ガラス板の表面に乗り移らせ、前記スクライブ線の開始点を前記ガラス板の端面から離間させることを特徴とするガラス板のスクライブ方法。
【請求項2】
前記案内板の端面が、前記ガラス板の端面に当接されることを特徴とする請求項1に記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項3】
前記案内板が、弾性体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項4】
前記ガラス板の板厚が、0.5〜3mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項5】
ガラス板を切断するために、前記ガラス板の表面にスクライブ線を形成するホイールカッターと、
前記ガラス板の側方に配置される案内板と、
前記ホイールカッターを、前記案内板の表面から前記ガラス板の表面に向かって走行させる移動手段とを備え、
前記案内板の表面が前記ガラス板の表面よりも上方に位置して、前記案内板の表面と前記ガラス板の表面との間に上下方向の段差が形成されるとともに、 前記段差により、前記案内板の表面を走行する前記ホイールカッターを前記ガラス板の端面から所定の距離を置いた位置で前記ガラス板の表面に乗り移らせ、前記スクライブ線の開始点を前記ガラス板の端面から離間させることを特徴とするガラス板のスクライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166970(P2012−166970A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27525(P2011−27525)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】