説明

キラル配位子

式(1):[式中、Rは、C−C−アルキル、非置換のシクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルもしくはアダマンチル、又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシによって置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は非置換であるか、1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキル又はC−C−フルオロアルコキシ、F及びClによって置換されているベンジル、フェニル、ナフチル及びアントリルであり、R及びRは、各々独立して、C−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基であり、Rは、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、メチルフェニル、メチルベンジル又はベンジルである]の配位子を調製する方法であって、(a)式(A):(式中、Rは上記定義のとおりである)の化合物を、アミン側鎖のオルト位で立体選択的にメタル化し、式R−PX2(ここで、Rは上記定義のとおりであり、Xは、Cl又はBrである)のジハライドと反応させ、立体選択的加水分解により、SPO基を含む化合物を得て、式H−PR(ここで、R及びRは、上記定義のとおりである)の第二級ホスフィンとの反応により、式(1)の化合物を得ること、を含む方法。本方法によって得られた新規な配位子及びそれらの金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P−キラル第二級ホスフィンオキシド(−P(=O)HR)基及びキラルなアルキレン−第二級ホスフィン基(−C(R)(H)PR)が結合した、面性キラリティを持つフェロセン骨格を有する配位子を調製するための新規な方法;そのような二座配位子の新規なジアステレオマー及びそれらの金属錯体;ならびに、不斉合成、特に少なくとも1つの炭素/炭素又は炭素/ヘテロ原子二重結合を含むプロキラル有機化合物の水素による水素化の触媒としての、金属錯体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル混合第二級ホスフィンオキシド(SPO)−ホスフィン類は、近年、金属錯体触媒の優れた配位子であることが見出されている。WO 2007/135179は、いくつかの第二級ホスフィンオキシド−ホスフィン配位子の新規なクラス、それらの調製及び触媒反応でのそれらの使用を記載している。該特許文献は、以下の一般式(I):
第二級ホスフィン−Q−P(=O)HR
[式中、
第二級ホスフィンは、炭化水素基又はヘテロ炭化水素基を置換基として有する第二級ホスフィン基であり;
Qは、2つのリン原子がビスアリール又はビスヘテロアリール架橋結合のオルト位に結合している、軸性キラル中心を持つ二価のビスアリール又はビスヘテロアリール基であるか、あるいはQは、第二級ホスフィンのリン原子がシクロペンタジエニル環に直接又はC−C−炭素鎖を介して結合している、面性キラル中心を持つか、又は面性キラル中心を持たない二価のフェロセニル基であり;
−P(=O)HR基は、結合する第二級ホスフィンに対してオルトの位置で同じシクロペンタジエニル環に結合しているか、又は他のシクロペンタジエニル環に結合しているかのいずれかであり;
は、キラルなリン原子であり、そして、
は、炭化水素基、ヘテロ炭化水素基又はフェロセニル基であり、ここでRは、フェロセニル基としてのQが面性キラル中心を持たないとき、面性キラル中心を持つフェロセニル基である]の化合物の全てのジアステレオマーに関する特許請求の範囲を有する。
【0003】
この一般式(I)に該当する配位子の、以下の重要なクラスは、WO 2007/135179に記載され、特許請求されている(この文献の18〜19頁及び請求項5を参照されたい)。これは、以下の一般的構造(VIIa)(ここでは面性キラリティの1つの形態のみを描く):
【0004】
【化1】


[式中、
は、C−C−アルキル、非置換シクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシで置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は非置換もしくは1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC-C−フルオロアルコキシ、F及びClで置換されているベンジル及びフェニルであり;
及びRは、各々独立して、1〜18個の炭素原子を有し、非置換であるか又はC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si、ハロゲン及び/もしくはOヘテロ原子によって置換されている炭化水素基であり、そして、
は、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、メチルフェニル、メチルベンジル又はベンジルである]を有している。
【0005】
及びRが同一であるとき、式(VIIa)の配位子は、3つのキラル要素を有する(側鎖中のキラリティ、フェロセンの面性キラリティ及び第二級ホスフィンオキシド(SPO)基のP−キラリティ)。結果として、これらの配位子の8つの異なる立体異性体(ジアステレオマーの4対の鏡像異性体)を予測することができる。
【0006】
WO 2007/135179は、一般式(I)の配位子を調製する3工程方法を記載しており(図1:スキーム1を参照されたい)、この方法は、
−(a)公知の方法による、1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモフェロセンを立体選択的に調製する工程、
−(b)第二級ホスフィンに対し、上記化合物のジメチルアミノ基を交換する工程、
−(c)得られた生成物を、例えばアルキルリチウムを用いてメタル化し、次にメタル化化合物をジハロホスフィンと反応させ、そして加水分解によって、−P(=O)HR基を最終的に形成する工程
を含む。
【0007】
この方法は、各々が式(VIIa)(ここでR及びRは同一であり、Rはメチルである)である配位子L1、L2、L8、L9及びL10を調製するための、実施例A1、A2、A7、A8及びA9で用いられている。この方法は、完全に又は極めて圧倒的にジアステレオマーの1対の鏡像異性体のみ(第2のジアステレオマーは検出が報告されていない)を導き、そのホスフィンオキシド部分での絶対配置は決定されていない。
【0008】
スキーム1(図1を参照のこと)は、この文献で開示されている立体異性体の3工程合成を示しており、エピマーの2対の鏡像異性体に対して、決定されていないSPO部分上での絶対配置を、それぞれ、「Config-BP」及び「Config-AP」と名づけている。
【0009】
異なる平面構造を持つジアステレオ異性体の、他の鏡像異性体の対は、スキーム2(図2を参照のこと)に表されているように、第一に従来の化学反応を用いて面性キラリティを反転し、次にWO 2007/135179に記載されている3工程合成方法を実施することを含む、5工程方法によって得ることができる。
【0010】
側鎖のキラル中心の立体化学(R又はS)及びフェロセンの面性キラリティ(Rplanar又はSplanar)を制御することは、当技術において周知である[例えば、Ferrocenes, eds. A. Togni, T. Hayashi, VCH Weinheim 1995を参照のこと]。
【0011】
本出願において面性キラリティの記載のために、Schloeglの立体化学命名法が用いられていることに留意されたい;K. Schloegl, Top. Stereochem. 1 (1967) 39-91及びH. Falk, K. Schloegl, Monatsh. Chem. 96 (1965) 1065-80を参照されたい。
【0012】
その一方、このような分子において第二級ホスフィンオキシド(SPO)の立体化学を制御することについては何も知られていない。
【0013】
WO 2007/135179に記載されているキラルなSPOの形成(図1:スキーム1を参照されたい)は、極めて立体選択的であり、与えられた平面構造及び与えられた側鎖の立体配置から開始して、明らかに、完全に又は極めて圧倒的に、ジアステレオマーの可能な2つの鏡像異性体の対のうち、ジアステレオ異性体の1対の鏡像異性体のみを生じる:そのようなフェロセン−SPO配位子のジアスレテオ異性体の1対の鏡像異性体のみ(それらのホスフィンオキシド部分での絶対配置は決定されていない)が単離され、WO 2007/135179の実施例A1、A2、A7、A8及びA9において特徴づけられている。
【0014】
現在まで、どの配位子を持つどの金属錯体が、どの反応条件下でどの不飽和基質に対して触媒活性及び立体選択性に関して実用的に使用できる水素化の結果を生じるかを予測することは未だ可能となっていない。したがって、産業上妥当な、すなわち簡単かつ経済的な方法で調製することができ、また金属錯体の配位子として適切であり、不斉触媒として優れた結果を有する、骨格に結合したホスフィン及び第二級ホスフィンオキシド基を有するさらなる配位子が強く求められている。
【0015】
キラルな配位子の産業上の妥当性は費用の減少とともに上昇し、最も重要な費用の要素の1つは、それらの合成に要求される工程数である。上記のとおり、WO 2007/135179に記載された配位子は、3工程合成にて調製される。そのような配位子の立体異性体が3工程未満の合成によって入手できれば、大きな商業的価値となるであろう。
【0016】
いまや驚くべきことに、下記の一般的構造(1)(ここでは面性キラリティの形態の1つのみを描く):
【0017】
【化2】


[式中、
は、C−C−アルキル、非置換シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルもしくはアダマンチル、又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシで置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC−C−フルオロアルコキシ、F及びClによって置換されているベンジル、フェニル、ナフチル及びアントリルであり、
及びRは、独立してC−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基であり、
は、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、メチルフェニル、メチルベンジル又はベンジルである]を有する配位子は、
(a)WO 2007/135179に記載されている3工程合成に代わる、スキーム3(図3を参照されたい)に記載されている経路を用いる、新規な、極めて経済的な2工程合成によって調製することができること(どちらの合成においても、クロロホスフィンはいかなる操作もなしでさらに反応するため、クロロホスフィンの形成及びその加水分解は、1工程として考えられることを留意されたい)、そして、
(b)中間体(B)の調製に対するジアステレオ選択性(つまり、式(1)の配位子の調製に対するジアステレオ選択性)は、加水分解条件に強く依存し、合成は極めてジアステレオ選択的であるように方向づけることができること、
(c)中間体(B)中のSPOは、酢酸中高温に耐え(中間体(B)中のジアミノ基の第二級ホスフィンによる交換に用いられる条件)、望まない方向へ反応しないこと、
(d)用いられるRのタイプ及び加水分解条件に依存して、本新規合成経路は、WO 2007/135179号に記載されている合成経路と比べて、SPOで反対の立体配置を持つジアステレオマーを主生成物として生じることができること、ならびに
(e)新規2工程合成によって主に得られたこれら式(1)の配位子のジアステレオマーの形態は、多くの場合において、WO 2007/135179に開示されている3工程合成によって得られた式(1)のジアステレオマーより有意に性能が優れていること
が見出された。
【0018】
本発明はしたがって、第一に、式(1):
【0019】
【化3】


[式中、
は、C−C−アルキル、非置換のシクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルもしくはアダマンチル、又は1〜3個のC−C−アルキル又はC−C−アルコキシで置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は非置換か、又は1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC−C−フルオロアルコキシ、F及びClで置換されているベンジル、フェニル、ナフチル及びアントリルであり、
及びRの各々は、独立して、C−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基であり、
は、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、メチルフェニル、メチルベンジル又はベンジルである]で示される化合物を調製する新規な方法であって、以下の工程:
(a)式(A):
【0020】
【化4】


[式中、Rは、上記定義のとおりである]で示される化合物をアミン側鎖のオルト位で立体選択的にメタル化し、
次いで、式R−PX2(ここで、Rは上記定義のとおりであり、Xは、Cl又はBrである)のジハライドとの反応により、式(B):
【0021】
【化5】


で示される化合物を得て、
式(B)の化合物を立体選択的に加水分解して、SPO基を含む、式(C):
【0022】
【化6】


で示される化合物を得る工程、及び、
(b)式(C)の化合物と、式H−PR(ここで、R及びRは、上記定義のとおりである)の第二級ホスフィンとの反応により、式(1)の化合物を得る工程、
を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1はスキーム1を示す図である。
【図2】図2はスキーム2を示す図である。
【図3】図3はスキーム3を示す図である。
【0024】
説明として、特許請求の範囲を含む本出願の全体は、下記のことに留意すべきである:
− 式(1)の化合物はまた、−P(OH)R基が−P(=O)HRとして表される互変異性体を含む。2つの互変異性体において、リン原子は不斉及びキラルである。
− 一般式の図において、面性キラリティの2つの可能な形態の1つのみが表されているが、両方が包含されることを意味する。
【0025】
出発物質として用いられる式(A)の化合物中、Rは、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、メチルフェニル、メチルベンジル又はベンジルである。
【0026】
好ましくは、Rはメチル又はフェニルであり、最も好ましくは、メチルである。
【0027】
アミン側鎖のオルト位での立体選択的メタル化
メタル化剤は、好ましくはアルキルリチウム化合物である。アルキルリチウム化合物を用いたフェロセン化合物の立体選択的メタル化は、周知であり、Phosphorous Ligands in Asymmetric Catalysis, ed. A. Boerner, Wiley-VCH Weinheim 2008又はFerrocenes, eds. A. Togni, T. Hayashi, Wiley-VCH Weinheim 1995及びそれらに引用されている文献に記載されているように実施することができる。
【0028】
アルキルリチウム中のアルキルは、例えば、1〜4個の炭素原子を含むことができる。メチルリチウム及びn−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム又はt−ブチルリチウムが頻繁に用いられる。
【0029】
反応は、有利には低温、例えば−100℃〜40℃、好ましくは−80〜0℃で実施される。メタル化剤の添加後、温度は室温に上昇するにまかせてもよい。反応時間は、約1〜20時間である。反応は、有利には不活性な保護ガス中、例えば窒素又はヘリウムもしくはアルゴンのような希ガス中で実施される。
【0030】
反応は、有利には不活性溶媒の存在下で実施される。そのような溶媒は、単独で又は少なくとも2つの溶媒の組み合わせとしてのどちらでも用いることができる。適切な溶媒の例は、脂肪族化合物、脂環式化合物、及びまた開環状又は環状エーテルである。具体的な例は、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチル又はテトラヒドロフラン及びジオキサンである。
【0031】
好ましい態様において、メタル化剤はs−BuLi又はn−BuLiであり、溶媒は、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル又はテトラヒドロフランである。
【0032】
式R−PX2のジハライドとの反応
式R−PX2のジハライドにおいて、
Xは、Cl又はBr、好ましくはClであり、そして、
は、C−C−アルキル、非置換のシクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルもしくはアダマンチル、又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシで置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は非置換か、又は1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC−C−フルオロアルコキシ、F及びClで置換されているベンジル、フェニル、ナフチル及びアントリルである。
【0033】
好ましくは、Rは、t−ブチル、イソプロピル、シクロヘキシル、シクロペンチル、エチル、フェニル、ベンジル、オルト−トリル、オルト−アニシル、メタ−アニシル、パラ−アニシル、p−トリフルオロフェニル、2,5−ジトリフルオロメチルフェニル、3,5−ジメトキシフェニル又は3,5−ジメトキシ−4−メチルフェニルである。
【0034】
最も好ましくは、Rは、t−ブチル又はフェニルである。
【0035】
メタル化フェロセンを含む反応混合物は、−80〜0℃(好ましくは:−78〜−30℃)に冷却し、−80℃〜0℃の温度で撹拌した不活性溶媒中のR−PX2の溶液に添加される。添加の後、冷媒を除去してもよく、反応物を反応が完了するまでさらに0.5〜24時間撹拌する。Rが大きいとき(例えば、t−ブチル)、R−PXは、メタル化フェロセンに添加されてもよい。
【0036】
この反応での溶媒は、単独で又は少なくとも2つの溶媒の組み合わせとしてのどちらでも用いることができる。適切な溶媒の例は、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素類、及びまた、開環状又は環状エーテルである。具体的な例は、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチル又はテトラヒドロフラン及びジオキサンである。
【0037】
式(B)の化合物の立体選択的加水分解
式(B)の化合物を有する、得られた反応混合物は、次に下記のような方法:
−反応混合物を、水と混合すること、又は
−反応混合物を、酸を含む水と混合すること、又は
−反応混合物を、塩基を含む水と混合すること
(ここで、ホスフィンハライド(B)を、加水分解媒体へ添加することも、加水分解媒体をホスフィンハライド(B)に添加することもできる)で加水分解する。
【0038】
適切な酸は、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸及びベンゼンカルボン酸である。
【0039】
適切な塩基は、NaOH、KOH、LiOH、NaCO、KCO又はトリエチルアミン、ジ−イソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリンのような第三級アミン類及びピリジンである。
【0040】
酸又は塩基の濃度は、適切には0.01〜5Mである。加水分解は、適切には0℃〜90℃、好ましくは0〜25℃の範囲の温度で実施される。
【0041】
あるいは、ホスフィンハライド(B)はまた、塩基の存在下で、第一級もしくは第二級アミン又はアルコールと反応して、アミノホスフィン又はホスフィナイトを形成することができ、これを次に上記記載の方法又は希釈していないギ酸もしくは酢酸のようなカルボン酸との反応によって加水分解することができる。
【0042】
加水分解条件は、式(C)の化合物のSPO基の立体化学に影響を与える。形成されるエピマーの比は、加水分解媒体のpHに強く依存する。
【0043】
興味深い新規な式(1)の化合物を、第三級アミン、例えばトリエチルアミン、ジ−イソプロピルメチルアミン、N,N−ジメチルアニリン及びピリジン、特にトリエチルアミンを含む塩基性水性溶媒中で加水分解を実施することで得た。
【0044】
好ましい態様において、式(B)の化合物を含む反応混合物を、トリエチルアミン及び水の混合物、特にトリエチルアミン及び水の1:10混合物に、0℃から室温の間の温度で加えることにより加水分解が実施される。
【0045】
得られた中間体(C)は、抽出のような、又は、(C)もしくは(C)の塩が固体のときは、析出もしくは結晶化のような標準的な実験室手法によって仕上げることができる。場合により中間体(C)は、クロマトグラフィーによって、又は(C)もしくは(C)の塩が固体のときは、(C)もしくは(C)の塩、例えば(C)のアンモニウム塩の結晶化によって精製してもよい。
【0046】
式(C)の化合物と式H−PRの第二級ホスフィンとの反応(工程(b))
式H−PRの第二級ホスフィンの導入は、当技術において周知の方法及び条件を用いて実施することができる(例えば、「Phosphorous Ligands in Asymmetric Catalysis」, ed. A. Boerner, Wiley-VCH Weinheim 2008又はFerrocenes, eds. A. Togni, T. Hayashi, Wiley-VCH Weinheim 1995及びそれらの引用する文献を参照されたい)。
【0047】
好ましい態様において、1モル当量の式(C)の化合物及び1〜1.2モル当量の第二級ホスフィンH−PRの混合物を、酢酸中、60〜140℃、好ましくは80〜120℃の温度で、反応が完了するまで撹拌する。反応時間は、3〜48時間の範囲をとるが、通常、一晩である。
【0048】
得られた式(1)の化合物は、抽出、析出、結晶化及びクロマトグラフィーのような、標準的な実験室手法を用いて単離し、精製することができる。
【0049】
式H−PRの第二級ホスフィンにおいて、各々R及びRは、独立して、C−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基である。
【0050】
好ましくは、R及びRは、同一のC−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基である。
【0051】
C−結合炭化水素基及びヘテロ炭化水素基R及びRは、非置換もしくは置換されており、ならびに/又はO、S及びNの群から選択されるヘテロ原子を含んでもよい。これらは、1〜30個、好ましくは1〜18個、より好ましくは1〜12個の炭素原子を含んでもよい。C−結合炭化水素基は、直鎖又は分岐鎖C−C18−アルキル;非置換であるか、又はC−C−アルキル−もしくはC−C−アルコキシ−で置換されているC−C12−シクロアルキルもしくはC−C12−シクロアルキル−CH−;フェニル、ナフチル、フリル又はベンジル;又はハロゲン−、C−C−アルキル−、トリフルオロメチル−、C−C−アルコキシ−、トリフルオロメトキシ−、(CSi、(C−C12−アルキル)Siもしくは第二級アミノ−で置換されているフェニル、ナフチル、フリルもしくはベンジルの群から選択されていてもよい。
【0052】
好ましい態様において、R及びRの各々は、独立して、1〜18個の炭素原子を有し、非置換であるか、又はC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si、ハロゲンによって置換されている、C−結合炭化水素基もしくはO−原子含有ヘテロ炭化水素基である。
【0053】
好ましくは1〜6個の炭素原子を含むアルキルとしてのR、Rの例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル及び、ペンチル及びヘキシルの異性体である。場合によりアルキル−置換されているシクロアルキルとしてのR、Rの例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチル−及びエチルシクロヘキシルならびにジメチルシクロヘキシルである。アルキル−及びアルコキシ−置換フェニル及びベンジルとしてのR、Rの例は、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、メチルベンジル、メトキシフェニル、ジメトキシフェニル、トリメトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ビス(トリフルオロメチル)フェニル、トリス(トリフルオロメチル)フェニル、トリフルオロメトキシフェニル、ビス(トリフルオロメトキシ)フェニル、フルオロ−及びクロロフェニル、ならびに3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0054】
好ましくは、R及びRは、C−C−アルキル、非置換のシクロペンチルもしくはシクロヘキシル又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシによって置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC−C−フルオロアルコキシ、F及びClによって置換されている、ベンジル及び特にフェニルの群から選択される、同一のC−結合基である。
【0055】
好ましい態様において、R及びRは、各々、直鎖もしくは分岐鎖C−C−アルキル、非置換シクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシによって置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、フリル、非置換ベンジル又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシによって置換されているベンジル、及び特に非置換フェニル又は1〜3個のF、Cl、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC−C−フルオロアルコキシによって置換されているフェニルの群から選択される、C−結合基である。
【0056】
より好ましくは、R及びRは、各々、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フリル及び非置換フェニル又は1〜3個のF、Cl、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ及び/もしくはC−C−フルオロアルキルによって置換されているフェニルの群から選択される基である。
【0057】
式H−PRの第二級ホスフィンは、環状第二級ホスフィン、例えば以下の式:
【0058】
【化7】


[これらは、非置換であるか、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、フェニル、C−C−アルキル−もしくはC−C−アルコキシフェニル、ベンジル、C−C−アルキル−もしくはC−C−アルコキシベンジル、ベンジルオキシ、C−C−アルキル−もしくはC−C−アルコキシ−ベンジルオキシ又はC−C−アルキリデンジオキシによって、モノ−又は多置換されている]のそれらであってもよい。
【0059】
置換基は、キラルな炭素原子を導入するために、リン原子のα位の一方又は両方で結合してもよい。α位の一方又は両方の置換基は、好ましくはC−C−アルキル又はベンジル、例えば、メチル、エチル、n−もしくはi−プロピル、ベンジルであるか、又は−CH−O−C−C−アルキルもしくは−CH−O−C−C10−アリールである。
【0060】
β、γ位の置換基は、例えば、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、ベンジルオキシ又は−O−CH−O−、−O−CH(C−C−アルキル)−O−及び−O−C(C−C−アルキル)−O−であってもよい。幾つかの例は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、−O−CH(メチル)−O−及び−O−C(メチル)−O−である。
【0061】
置換の種類及び置換基の数に依存して、環状第二級ホスフィンは、C−キラル、P−キラル又はC−及びP−キラルであってもよい。
【0062】
脂肪族5−もしくは6−員環又はベンゼンは、上記式の基の2つの隣接する炭素原子上で縮合していてもよい。
【0063】
環状第二級ホスフィンは、例えば、式(可能なジアステレオマーの1つのみを示す):
【0064】
【化8】


[式中、
R’及びR”基は、各々、C−C−アルキル、例えばメチル、エチル、n−もしくはi−プロピル、ベンジルであるか、又は−CH−O−C−C−アルキルもしくは−CH−O−C−C10−アリールであり、R’及びR”は、同一であるか、互いに異なっている]に相当するものであってよい。
【0065】
本発明の好ましい態様において、式HPRの第二級ホスフィンは、H−P(C−C−アルキル)、H−P(C−C−シクロアルキル)、H−P(C−C−ビシクロアルキル)、H−P(o−フリル)、H−P(C、H−P[2−(C−C−アルキル)C、H−P[3−(C−C−アルキル)C、H−P[4−(C−C−アルキル)C、H−P[2−(C−C−アルコキシ)C、H−P[3−(C-C−アルコキシ)C、H−P[4−(C−C−アルコキシ)C、H−P[2−(トリフルオロメチル)C、H−P[3−(トリフルオロメチル)C、H−P[4−(トリフルオロメチル)C、H−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、H−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)、H−P[3,5−ビス(C−C−アルコキシ)及びH−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)−4−(C−C−アルコキシ)Cの群から選択される非環状第二級ホスフィンであるか、下記:
【0066】
【化9】


[これらは、非置換であるか、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ又はC−C−アルキリデンジオキシによってモノ−又は多置換されている]で示される群から選択される環状ホスフィンである。
【0067】
幾つかの具体的な例は、H−P(CH、H−P(i−C、H−P(n−C、H−P(i−C、H−P(t−C、H−P(C)、−P(C11、H−P(ノルボルニル)、H−P(o−フリル)、H−P(C、H−P[2−(メチル)C、H−P[3−(メチル)C、H−P[4−(メチル)C、H−P[2−(メトキシ)C、H−P[3−(メトキシ)C、H−P[4−(メトキシ)C、H−P[3−(トリフルオロメチル)C、H−P[4−(トリフルオロメチル)C、H−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、H−P[3,5−ビス(メチル)、H−P[3,5−ビス(メトキシ)及びH−P[3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)C、及び−PRが以下の式:
【0068】
【化10】


[式中、
R’は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル又はベンジルオキシメチルであり、R”は、独立してR’と同じ定義を有し、かつR’とは異なる]の1つを有するそれである。
【0069】
本発明は、第二に、非常に富化された又は純粋なジアステレオマーの混合物の形態での、少なくとも3つのキラル要素、すなわち、面性キラリティ、キラル側鎖及びP−キラル第二級ホスフィンオキシドを有する式(1)の化合物を提供する。これらの幾つかの化合物は新規であり、WO 2007/135179に開示されている化合物とは異なる立体化学を有し、予測しえない興味深い特性を有する。
【0070】
本発明はしたがって、次の絶対配置(R,Splanar,SP(SPO))又は(S,Rplanar,RP(SPO))を有する、式(1a):
【0071】
【化11】


[式中、
R’は、t−ブチルであり、
R’及びR’は、各々独立して、1〜18個の原子を有するC−結合炭化水素又はヘテロ炭化水素基であり、任意のヘテロ原子は1つ以上の酸素原子であり、炭化水素又はヘテロ炭化水素基は、非置換であるか、又は1〜3個の基C−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si及び/もしくはハロゲンによって置換されており、そして、
R’は、メチル又はフェニルである]で示される新規な化合物に関する。
【0072】
これらの化合物は、興味深い触媒特性を有する配位子である。
【0073】
−PR’R’の興味深い例は、−P(CH、−P(i−C、−P(n−C、−P(i−C、−P(t−C、−P(C)、−P(C11、−P(ノルボルニル)、−P(o−フリル)、−P(C、P[2−(メチル)C、P[3−(メチル)C、−P[4−(メチル)C、−P[2−(メトキシ)C、−P[3−(メトキシ)C、−P[4−(メトキシ)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(メチル)、−P[3,5−ビス(メトキシ)及び−P[3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)C、ならびに式:
【0074】
【化12】


[式中、
R’は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル又はベンジルオキシメチルであり、R”は、独立してR’と同じ定義を有し、かつR’とは異なる]で示される基である。
【0075】
好ましくは、R’及びR’は、同一である。
【0076】
好ましくは、−PR’R’は、−P(t−C、−P(C、−P(C11、−P(o−フリル)、−P(C、−P[4−(メトキシ)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、及び−P[3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)Cから選択される。
【0077】
最も好ましくは、−PR’R’は、−P(t−C及び−P(Cから選択される。
【0078】
R’は、好ましくはメチルである。
【0079】
特に興味深い式(1a)の化合物は、
【0080】
【化13】


ならびにこれらの対応する鏡像異性体
【0081】
【化14】


である。
【0082】
本発明はまた、WO 2007/135179に開示されている配位子L2及びL8とは異なる第二級ホスフィンオキシド部分の絶対配置を有する、式(1b):
【0083】
【化15】


[式中、
R”は、フェニルであり、
R”及びR”は、各々独立して、1〜18個の原子を有するC−結合炭化水素又はヘテロ炭化水素基であり、任意のヘテロ原子は1つ以上の酸素原子であり、炭化水素又はヘテロ炭化水素基は、非置換であるか、又は1〜3個の基C−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si及び/もしくはハロゲンで置換されており、そして、
R”は、メチル又はフェニルである]で示される新規な化合物に関する。
【0084】
さらに、本発明は、絶対配置R,Splanar,SP(SPO)及び/又はS,Rplanar,RP(SPO)を有する、式 (1b):
【0085】
【化16】


[式中、
R”は、フェニルであり、
R”及びR”は、各々独立して、1〜18個の原子を有するC−結合炭化水素又はヘテロ炭化水素基であり、任意のヘテロ原子は1つ以上の酸素原子であり、炭化水素又はヘテロ炭化水素基は、非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si及び/もしくはハロゲンによって置換されており、そして、
R”は、メチル又はフェニルである]で示される化合物に関する。
【0086】
これらの化合物はまた、興味深い触媒特性を有する配位子である。
【0087】
R’及びR’に対する上記の好ましいものはまた、R”及びR”に適用される。
【0088】
最も好ましくは、−PR’R’は、−P(t−Cである。
【0089】
好ましくは、R”は、メチルである。
【0090】
特に興味深い式(1b)の化合物は、H−NMR(C;300MHz)での以下の特徴的なシグナル:7.8(d,J=472Hz,1H)、7.87−7.96(m,2H)、7.09−7.14(m,3H)、4.29(s,5H)、4.13(s,1H)、3.99−4.07(m,3H)、1.67(dd,3H)、1.32(d,9H)、0.86(d,9H)、31P−NMR(C、121MHz,H−デカップリング):51.8(d,J=〜4Hz)、21.2(d,J=〜4Hz)を有する化合物A3’である。
【0091】
本発明はさらに、元素の周期表の遷移族の遷移金属と、配位子としての式(1a)又は(1b)の化合物との金属錯体を提供する。
【0092】
遷移金属の中で、金属は、より好ましくはFe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Pd、Os、Irの群から選択される。非常に特に好ましい金属は、Cu、Pd、Ru、Rh、Ir及びPtである。有機合成の例は、プロキラル不飽和有機化合物の不斉水素化だけでなく、アミンカップリング、エナンチオ選択的開環及びヒドロシリル化である。
【0093】
特に好ましい金属は、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムである。
【0094】
金属原子の酸化数及び配位数に依存して、金属錯体はさらに配位子及び/又はアニオンを含んでもよい。金属錯体はまた、カチオン性金属錯体であってもよい。そのような類似の金属錯体及びそれらの調製は、何度も文献に記載されている。
【0095】
金属錯体は、例えば、以下の一般式(XIV)及び(XV):
MeL(XIV)、(AMeL(z+)(E(XV)
[式中、Aは、式(1a)又は(1b)の化合物であり;
Lは、同一又は異なる単座のアニオン性もしくは非イオン性配位子であるか、あるいは2つのLは、同一又は異なる二座のアニオン性もしくは非イオン性配位子であり;
nは、Lが単座配位子であるときは2、3又は4であり、あるいは、Lが二座配位子であるときは、nは、1又は2であり;
zは、1、2又は3であり;
Meは、Rh、Ir及びRuの群から選択される金属であり;ここで、金属は0、1、2、3又は4の酸化状態を有し;
は、酸素酸又は錯酸のアニオンであり;そして、
アニオン性配位子は、金属の1、2、3又は4の酸化状態の電荷の平衡を保つ]に相当してよい。
【0096】
式(1a)又は(1b)の化合物に対して、上記の好ましいもの及び態様が適用される。
【0097】
単座の非イオン性配位子は、例えば、オレフィン類(例えばエチレン、プロピレン)、アリル類(アリル、2−メタリル)、溶解溶媒(ニトリル、直鎖又は環状エーテル、場合によりn−アルキル化されたアミド類及びラクタム類、アミン類、ホスフィン類、アルコール類、カルボン酸エステル類、スルホン酸エステル類、一酸化窒素及び一酸化炭素の群から選択されてもよい。
【0098】
単座のアニオン性配位子は、例えば、ハライド(F、Cl、Br、I)、擬ハライド(シアニド、シアネート、イソシアナート)及びカルボン酸、スルホン酸、リン酸のアニオン(カーボネート、ホルメート、アセタート、プロピオネート、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホネート、フェニルスルホネート、トシレート)の群から選択されてもよい。
【0099】
二座の非イオン性配位子は、例えば、直鎖又は環状ジオレフィン類(例えばヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン)、ジニトリル類(マロノニトリル)、場合によりN−アルキル化されたカルボキサミド類、ジアミン類、ジホスフィン類、ジオール類、アセトニルアセトナート類、ジカルボン酸エステル類及びジスルホン酸エステル類の群から選択されてもよい。
【0100】
二座のアニオン性配位子は、例えば、ジカルボン酸、ジスルホン酸及びジリン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、メチレンジスルホン酸及びメチレンジホスホン酸)のアニオンの群から選択されてもよい。
【0101】
好ましい金属錯体はまた、Eが、−Cl、−Br、−I、ClO、CFSO、CHSO、HSO、(CFSO、(CFSO、テトラアリールボレート、例えばB(フェニル)、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]、B[ビス(3,5−ジメチル)フェニル]、B(C及びB(4−メチルフェニル)、BF、PF、SbCl、AsF又はSbFであるそれらである。
【0102】
特に水素化に適切な、特に好ましい金属錯体は、以下の式(XVI)及び (XVII):
[AMeYZ](XVI)、[AMeY](XVII)
[式中、
は、式(1a)又は(1b)の化合物であり;
Meは、ロジウム又はイリジウムであり;
Yは、2つのオレフィン又は1つのジエンであり;
Zは、Cl、Br又はIであり;そして、
は、酸素酸又は錯酸のアニオンである]に相当する。
【0103】
式(1a)又は(1b)の化合物に対して、上記の態様及び好ましいものが適用される。
【0104】
Yがオレフィンとして定義されるとき、それはC−C12−オレフィン、好ましくはC−C−オレフィン、そしてより好ましくはC−C−オレフィンであることができる。例は、プロペン、ブタ−1−エン及び特にエチレンである。ジエンは、5〜12個、及び好ましくは5〜8個の炭素原子を含んでいてもよく、開鎖、環状又は多環状ジエンであってもよい。ジエンの2つのオレフィン基は、好ましくは1つ又は2つのCH基によって結合している。例は、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−又は1,5−ヘプタジエン、1,4−又は1,5−シクロヘプタジエン、1,4−又は1,5−オクタジエン、1,4−又は1,5−シクロオクタジエン及びノルボルナジエンである。Yは、好ましくは2つのエチレン、あるいは1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン又はノルボルナジエンである。
【0105】
式(XVI)において、Zは、好ましくはCl又はBrである。Eの例は、BF、ClO、CFSO、CHSO、HSO、B(フェニル)、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]、PF、SbCl、AsF又はSbFである。
【0106】
本発明の金属錯体は、文献に公知の方法によって調製される(US-A-5,371,256, US-A-5,446,844, US-A-5,583,241及びE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto (eds.), Comprehensive Asymmetric Catalysis I-III, Springer Verlag, Berlin, 1999、ならびにそれらの引用する文献もまた参照されたい)。
【0107】
本発明の金属錯体は、反応条件下で活性であり、プロキラル不飽和有機化合物への不斉付加反応に用いることができる均一系触媒又は触媒前駆体である。E. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto (eds.), Comprehensive Asymmetric Catalysis I-III, Springer Verlag, Berlin, 1999及びB. Cornils et al., in Applied Homogeneous Catalysis with Organometallic Compounds, Volume 1, Second Edition, Wiley VCH-Verlag, (2002)を参照されたい。さらなる適用は、例えば、パラジウム錯体を用いる、脱離基、例えば、ハライド又はスルホネートを有する芳香族化合物又はヘテロ芳香族化合物の、第一級又は第二級アミン類を用いるアミノ化であり、あるいは、好ましくはオキサ二環式アルカン類のRh−触媒エナンチオ選択的開環反応である(M. Lautens et al. in Acc. Chem. Res. Volume 36 (203), 頁 48-58)。
【0108】
金属錯体は、例えば、炭素/炭素又は炭素/ヘテロ原子二重結合を持つプロキラル化合物の不斉水素化(水素の付加)に用いることができる。そのような可溶性の均一系金属錯体を用いた水素化は、例えば、Pure and Appl. Chem., Vol. 68, No. 1, 頁 131-138 (1996) に記載されている。好ましい水素化される不飽和化合物は、C=C、C=N及び/又はC=O基を含む。水素化のために、本発明によれば、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムの金属錯体を使用することが好まれる。
【0109】
本発明はさらに、プロキラル有機化合物中の炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によって、キラルな有機化合物を調製するための均一系触媒としての、本発明の金属錯体の使用を提供する。
【0110】
本発明のさらなる態様は、付加が、少なくとも1つの本発明の金属錯体の触媒量の存在下で実施されることを特徴とする、触媒の存在下、プロキラル有機化合物中の炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によって、キラルな有機化合物を調製するための方法である。
【0111】
好ましい、水素化されるプロキラル不飽和化合物は、開鎖又は環状有機化合物中に、1つ以上の同一もしくは異なるC=C、C=N及び/又はC=O基を含んでもよく、ここでC=C、C=N及び/又はC=O基は、環系の一部であるか、又は環外の基であってもよい。プロキラル不飽和化合物は、アルケン類、シクロアルケン類、ヘテロシクロアルケン類、及びまた、開鎖又は環状ケトン類、α,β−ジケトン類、α−又はβ−ケトカルボン酸類及びそれらのα,β−ケトアセタール類又はケタール類、エステル類及びアミド類、ケチミン類及びケチドラゾン類(kethydrazones)であってもよい。アルケン類、シクロアルケン類、ヘテロシクロアルケン類はまた、エナミド類を含む。
【0112】
本発明の方法は、低温又は上昇した温度で、例えば−20〜150℃、好ましくは−10〜100℃、及びより好ましくは10〜80℃の温度で実施することができる。光学収率は、一般的には比較的高温よりも比較的低温で良好である。
【0113】
本発明の方法は、通常の圧力又は高圧下で実施することができる。圧力は例えば、10〜2×10Pa(パスカル)であってもよい。水素化は、通常の圧力又は高圧下で実施してもよい。
【0114】
触媒は、水素化される化合物に基づいて、好ましくは0.00001〜10mol%、より好ましくは0.00001〜5mol%及び特に好ましくは0.00001〜2mol%の量で用いられる。
【0115】
配位子及び触媒の調製、及び水素化は、不活性溶媒の非存在下又は存在下で実施することができ、その場合1種の溶媒又は溶媒混合物を用いてもよい。適切な溶媒は、例えば、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素類(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)、脂肪族ハロ炭化水素類 (塩化メチレン、クロロホルム、ジ−及びテトラクロロエタン)ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル)、ケトン類(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステル類及びラクトン類(酢酸エチル又は酢酸メチル、バレロラクトン)、N−置換ラクタム類(N−メチルピロリドン)、カルボキサミド類(ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド)、非環状尿素類(ジメチルイミダゾリン)、及びスルホキシド類及びスルホン類(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)及び場合によりフッ素化されているアルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、1,1,1−トリフルオロエタノール)ならびに水である。適切な溶媒はまた、低分子量のカルボン酸、例えば酢酸である。
【0116】
反応は、助触媒、例えば第四級アンモニウムハライド(テトラブチルアンモニウムクロリド、ブロミド又はヨーダイド)又はプロトン酸、例えば塩酸(HCl)のような鉱酸もしくはトリフルオロ酢酸のような強有機酸、又はそのようなハライド及び酸の混合物の存在下で実施することができる(例えば、US-A-5,371,256, US-A-5,446,844及びUS-A-5,583,241及びEP-A-0 691 949を参照されたい)。フッ素化されたアルコール類、例えば、1,1,1−トリフルオロエタノールの存在はまた、触媒反応を促進する。塩基、例えば第三級アミン類又はホスフィン類、アルカリ金属水酸化物、第二級アミド類、アルコキシド、炭酸塩及び炭酸水素塩の添加もまた、有利でありうる。助触媒の選択は、主に金属錯体中の金属及び基質によって導かれる。プロキラルなアリールケチミンの水素化において、イリジウム錯体をテトラ−C−C−アルキルアンモニウムヨーダイド及び鉱酸、好ましくはHIと組み合わせて用いることが有用であることが見出された。
【0117】
触媒として用いられる金属錯体は、別々に調製した単離化合物として加えてもよく、さもなくば反応前にインシチューで形成し、次に水素化される基質と混合してもよい。単離した金属錯体を使用する反応の場合はさらに配位子を加えるか、又はインシチューでの調製の場合は過剰量の配位子を使用することが有利であり得る。超過分は例えば、調製に用いられる金属化合物に基づいて1〜6mol及び好ましくは1〜2molであってもよい。
【0118】
本発明の方法は、一般的に、触媒を最初に仕込み、次に基質、場合により反応補助剤及び加えられる化合物を加え、次に反応を開始することにより実施される。加えられるガス状化合物、例えば水素は、好ましくは加圧下で注入される。この方法は、様々なタイプの反応器中で連続的に又はバッチ式に実施することができる。
【0119】
本発明に従って調製することができるキラルな有機化合物は、特に、芳香剤及び着臭剤、医薬品及び農薬の調製の分野においてそのような物質を調製するための活性物質又は中間体である。
【0120】
以下の実施例は、本発明を例示する。全ての反応は、空気を排除したアルゴン下、脱気した溶媒を用いて実施した。
【0121】
A)配位子の調製
全ての反応は、アルゴン下で実施した。反応及び収率は、最適化されていない。クロロホスフィンの導入及びその加水分解は、クロロホスフィンは処理されないがただちに加水分解されるため、一段階反応として考えられる。
【0122】
実施例A1−A2:
【0123】
【化17】

【0124】
化合物3の合成;
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)50ml(62.8mmol)を、ジエチルエーテル120ml中の(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン1 14.7g(57.1mmol)の撹拌した溶液に、−78℃で約10分以内で添加した。次にこの混合物を室温まで温め、1時間撹拌した。この混合物を再度−78℃に冷却し、−78℃で撹拌したジエチルエーテル100ml中のジクロロtert−ブチルホスフィン9.1g(57.1mmol)溶液に加えた。冷媒を除去し、反応混合物を室温で一晩撹拌した。得られた化合物2の橙色の懸濁液を次に、水400ml中のNEt 40mlの撹拌した混合物に注ぎ、1時間撹拌した。有機相を分離し、水で洗浄し、NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧下で留去した。得られた固体粗生成物は、SPO基の立体配置が異なる主要なジアステレオマー3及び僅少ジアステレオマー3’(比〜10:1)の混合物から成る。存在するなら、未反応の1は、粗生成物をヘプタン40ml中、0℃で2時間懸濁及び撹拌し、溶媒を濾別することで分離することができる。所望であれば、純粋な主要又は僅少ジアステレオマーは、例えば、クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離液=ヘプタン/酢酸エチル/NEt 1:1:0.05)によって得ることができる。
主要なジアステレオマー3のH−NMR(C、300MHz、特徴的なシグナル):6.80(d,J=443Hz,1H)、4.65(q,1H)、4.19(s,5H)、4.08(s、1H)、4.0(q,1H)、3.82−3.86(m,1H)、2.13(s,6H)、1.13(d,9H)、1.09(d,3H)。31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):48.5(s)。
僅少ジアステレオマー3’のH−NMR(C、300MHz、特徴的なシグナル):6.96(d,J=458,1H)、4.42−4.49(m,1H)、4.31(s,5H)、4.01−4.04(m,1H)、3.89−3.91(m,1H)、3.57(q,1H)、1.87(s,6H)、1.27(d,9H)、1.35(d,3H)、31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):36.7(s)。
【0125】
2つのジアステレオマー3及び3’の比の加水分解条件への依存性:
以下の実験は、2つのジアステレオマー3及び3’の比は、加水分解の条件に強く依存することを示す。化合物2の懸濁液を、水50ml(水400ml中のNEt 40mlの混合物の代わりに)に注ぎ撹拌することによって加水分解すると、主要及び僅少ジアステレオマー3及び3’の混合物を、約1:1の比で得た。
【0126】
配位子A1の合成:
酢酸中の20%(質量)溶液のジフェニルホスフィン24.4mmolを、酢酸40ml中の化合物3(主要なジアステレオマー3及び僅少ジアステレオマー3’の約10:1混合物)8.0g(22.1mmol)の溶液に加えた。赤色溶液を100℃で17時間撹拌した。31P−NMRによれば、この条件下では、化合物3又は形成した生成物A1の、有意な分解又はエピマー化は観察されなかった。室温に冷却した後、水を加え、反応混合物を酢酸エチルを用いて数回抽出した。有機相を回収し、NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧下で留去した。得られた粗生成物のカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液=CHCl/MeOH 99:1)で、純粋な配位子Aを、橙色の固体として得た(収率75%)。
H−NMR(C;300MHz、特徴的なシグナル):7.00(d,J=449Hz,1H)、7.42−7.60(m,4H)、6.98−7.14(m,6H)、4.72(q,1H)、4.18(s、5H)、3.96−4.02(m,1H)、3.82−4.02(m,1H)、3.65(s,1H)、1.45(dd,3H)、1.15(d,9H)、31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):49.25(dPP,J=〜4Hz)、13.24(d,JPP=〜4Hz)。
【0127】
A1の金属錯体の結晶で、X線解析により、A1の絶対配置を決定した。A1の絶対配置は、(R,Splanar,SP(SPO))であることが見出された。
【0128】
配位子A2の合成:
酢酸中の25%(質量)溶液のジ−tert−ブチル−ホスフィン4.7mmolを、酢酸10ml中の化合物3の主要なジアステレオマー1.55g(4.3mmol)溶液に加えた。赤色溶液を、100℃で20時間撹拌した。31P−NMRによれば、この条件下では、化合物3又は形成した生成物A2の有意な分解又はエピマー化は観察されなかった。大部分の酢酸を、減圧下で留去した。得られた残渣を次にジクロロメタン及び水で抽出した。有機相をNaSOで乾燥させ、溶媒を減圧下で留去した。得られた粗生成物のカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液=CHCl/MeOH 99:1)で、純粋な配位子A2を、褐色の結晶質固体として得た(収率69%)。
H−NMR(C;300MHz 特徴的なシグナル):7.15(d,J=458Hz,1H)、4.25(s,5H)、4.11(s、1H)、4.06(q、1H)、3.89(s、1H)、1.74(dd,3H)、1.40(d,9H)、1.24(d,9H)、1.09(d,9H)、31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):53.6(s)、53.2(s)。
【0129】
A2の絶対配置は、(R,Splanar,SP(SPO))であることが見出された。
【0130】
実施例A3:
【0131】
【化18】

【0132】
化合物5の合成:
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)50.5ml(65.4mmol)を、ジエチルエーテル120ml中に(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン1 15.3g(59.9mmol)を撹拌した溶液に、−78℃で加えた。次に赤褐色の溶液を室温まで温まるにまかせ、1時間撹拌した。混合物を再び−78℃に冷却し、−78℃で撹拌したジエチルエーテル100ml中のジクロロフェニルホスフィン10.4g(59.5mmol)溶液に加えた。冷媒を除去し、反応混合物を室温で一晩撹拌した。得られた化合物4の褐色の懸濁液を、次に、撹拌した水400ml中のNEt 40ml混合物に注ぎ、1時間撹拌した。有機相を分離し、水で洗浄し、NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧下で留去した。得られた暗色油状粗生成物は、SPO基の立体配置が異なる主要なジアステレオマー5及び僅少ジアステレオマー5’(比〜5:1)の混合物からなる。所望によりこれら2つのジアステレオマーはカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;溶離液=酢酸エチル/ヘプタン/NEt 1:1:0.05)によって分離することができる。
主要なジアステレオマー5のH−NMR(C、300MHz、特徴的なシグナル):8.07(d,J=494Hz,1H)、7.70−7.79(m,2H)、7.06−7.14(m,3H)、4.32(q,1H)、4.25(s,5H)、4.01−4.10(m,1H)、3.92−3.99(m,1H)、3.88−3.91(m,1H)、1.99(s,6H)、1.02(d,3H)、31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):14.9(s)。
僅少ジアステレオマー5’のH−NMR(C、300MHz、特徴的なシグナル):7.07(d,J=461Hz,1H)、7.70−7.79(m,2H)、6.93−7.11(m,3H)、4.51(q,1H)、4.25(s,5H)、4.03−4.10(m,3H)、1.79(s,6H)、1.00(d,3H)。31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):17.0(s)。
【0133】
2つのジアステレオマー5及び5’の比の、加水分解条件への依存性:
以下の実験は、化合物5の2つのジアステレオマーの比は、加水分解の条件に強く依存することを示す。化合物4の懸濁液を、水50ml(水400ml中のNEt 40mlの混合物の代わりに)に注ぎ撹拌することによって加水分解すると、主要及び僅少ジアステレオマー5及び5’の混合物が、約3:2の比で得られる。
【0134】
配位子A3(主要なジアステレオマー)及びA3’(僅少ジアステレオマー)の合成:
酢酸中の25%(質量)溶液のジ−tert−ブチル−ホスフィン29mmolを、酢酸80ml中の主要なジアステレオマー5及び僅少ジアステレオマー5’の5:1混合物10.2g(26.2mmol)溶液に加えた。反応混合物を、100℃で16時間撹拌した。31P−NMRによれば、この条件下では、化合物5又は形成した生成物A3の有意な分解又はエピマー化は観察されなかった。大部分の酢酸を、減圧下で留去した。得られた残渣を次にジクロロメタン及び水で抽出した。有機相をNaSOで乾燥させ、溶媒を減圧下で留去した。得られた粗生成物のカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液=CHCl/MeOH 99:1)で、ジアステレオマーA3及びA3’の両方を分離した。初めに主要なジアステレオマーA3(橙褐色の固体、収率67%)が、続いて僅少ジアステレオマーA3’(橙褐色の固体、収率12%)が溶離した。
主要なジアステレオマーA3のH−NMR(C;300MHz、特徴的なシグナル):8.65(d,J=501Hz,1H)、7.67−7.76(m,2H)、7.02−7.11(m,3H)、4.30(s,5H)、4.14−4.20(m,1H)、4.02(q,1H)、3.85(q,1H)、3.56(q,1H)、1.76(dd,3H)、1.43(d,9H)、1.13(d,9H)、31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):47.6(d,J=38Hz)、16.2(d,J=38Hz)。
僅少ジアステレオマーA3’のH−NMR(C;300MHz、特徴的なシグナル):7.8(d,J=472Hz,1H)、7.87−7.96(m,2H)、7.09−7.14(m,3H)、4.29(s,5H)、4.13(s,1H)、3.99−4.07(m,3H)、1.67(dd,3H)、1.32(d,9H)、0.86(d,9H)、31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング):51.8(d,J=〜4Hz)、21.2(d,J=〜4Hz)。
【0135】
本発明の方法で調製した配位子とWO 2007/135179に記載されている同じ配位子又はWO 2007/135179に記載されている3工程合成によって調製した同じ配位子の選択された立体異性体との比較
本研究及びWO 2007/135179中の全ての配位子は、(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン1から出発して調製した。同じ置換基を有する配位子は、そのSPO基の立体配置のみが異なる。全ての立体配置が未だ決定されていないため、エピマーもまたこれらのNMRデータに記載されている。
【0136】
【表1】

【0137】
NMRデータは、WO 2007/135179に記載されている3工程合成と比較して、この新規な2工程合成は、異なるSPO基の立体配置を有する配位子を与え得ることを示している。
【0138】
決定された絶対配置を持つ配位子の構造:
【表2】

【0139】
B)金属錯体の調製
Rh錯体を、1モル当量の配位子と0.95モル当量の[Rh(nbd)]BFを、メタノール、CDOD又はCDCl中で混合することにより調製した。概ね、錯体は10分未満で形成した。溶液は、直接31P NMRによって分析した。錯体は、例えばヘプタンを用いた析出によって単離することができた。
【0140】
実施例B1:CDOD中での配位子A1とのRh錯体
懸濁液が得られた。31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング、特徴的なシグナル):δ 131.6(dd)、58.04(dd)
【0141】
【化19】


実施例B2: CDCl中での配位子A1とのRh錯体
スラリーが得られ、そこから結晶が形成した。31P−NMR(C、121MHz、H−デカップリング 特徴的なシグナル):δ 61.2(s)、40.5(d)
【0142】
【化20】

【0143】
C)使用実施例
実施例C1−C38(表2):SPO基の立体配置が異なる、相違するエピメリック配位子の、様々な不飽和基質の水素化及び水素化の結果の比較:
【0144】
全ての操作は、アルゴン下、脱気した溶媒を用いて実施した。水素化は、ガラスバイアル(低水素圧)又は鋼製オートクレーブ(高水素圧)中で実施した。撹拌は、磁気撹拌機又は反応容器を振とうすることのいずれかによって達成した。触媒は、金属前駆体の金属1モル当量(表2を参照されたい)を、1.1モル当量の配位子と、表2に示した溶媒中で混合することによって「インシチューで」調製した。基質は、表2に示した溶媒中に溶解し、溶液として触媒に加えた。続いて不活性ガスを水素に交換し、撹拌をはじめることによって水素化を開始した。
【0145】
【表3】

【0146】
表2の略語は次の意味である:ee=エナンチオマー過剰率、GC=ガスクロマトグラフィー、TMS=トリメチルシリル、HPLC=高圧液体クロマトグラフィー。
【0147】
【表4】



【0148】
表2において:[S]はモル基質濃度を意味し;S/Cは基質/触媒の比を意味し;tは水素化時間(ほとんどの場合、完全な転化を得るために必要な時間はより短い)を意味し;Lig.は配位子を意味し、Sol.は溶媒(MeOH=メタノール;EtOH=エタノール;Tol=トルエン;THF=テトラヒドロフラン;DCE=1,2−ジクロロエタン、TFE=2,2,2−トリフルオロエタノール)を意味し;
Metalは、水素化に用いた金属前駆体:Rha)=[Rh(ノルボルナジエン)]BF;Rub)=[RuI(p−メチル−シメン)];[Irc)=[Ir(シクロオクタジエン)Cl]を意味し;C=転化率;ee=水素化生成物のエナンチオマー過剰率である。正数は、保持時間の短いエナンチオマーが、保持時間の長いエナンチオマーよりGC又はHPLCのピークが大きいことを意味し、負数は、保持時間の長いエナンチオマーが、保持時間の短いエナンチオマーよりGC又はHPLCのピークが大きいことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化21】


[式中、
は、C−C−アルキル、非置換のシクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルもしくはアダマンチル、又は1〜3個のC−C−アルキルもしくはC−C−アルコキシで置換されているシクロペンチルもしくはシクロヘキシル、又は非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキルもしくはC−C−フルオロアルコキシ、F及びClで置換されているベンジル、フェニル、ナフチル及びアントリルであり、
及びRの各々は、独立して、C−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基であり、
は、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、メチルフェニル、メチルベンジル又はベンジルである]で示される化合物を調製する方法であって、以下の工程:
(a)式(A):
【化22】


[式中、Rは、上記定義のとおりである]で示される化合物をアミン側鎖のオルト位で立体選択的にメタル化し、
式R−PX2(ここで、Rは、上記定義のとおりであり、Xは、Cl又はBrである)のジハライドとの反応により、式(B):
【化23】


で示される化合物を得て、
式(B)の化合物の立体選択的加水分解により、SPO基を含む、式(C):
【化24】


で示される化合物を得る工程、及び、
(b)式(C)の化合物と、式H−PR(ここで、R及びRは、上記定義のとおりである)の第二級ホスフィンとの反応により、式(1)の化合物を得る工程、
を含む方法。
【請求項2】
加水分解が、第三級アミンを含む塩基性水性溶媒中で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
加水分解が、式(B)の化合物を含む反応混合物をトリエチルアミン及び水の混合物に0℃から室温の間の温度で加えることにより実施される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
及びRが、同一のC−結合炭化水素基又はヘテロ炭化水素基である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
及びRの各々が、独立して、1〜18個の炭素原子を有し、非置換であるか、もしくはC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si、ハロゲンにより置換されている、C−結合炭化水素基又はO−原子含有ヘテロ炭化水素基である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
式HPRの第二級ホスフィンが、H−P(C−C−アルキル)、H−P(C-C−シクロアルキル)、H−P(C−C−ビシクロアルキル)、H−P(o−フリル)、H−P(C、H−P[2−(C−C−アルキル)C、H−P[3−(C−C−アルキル)C、H−P[4−(C−C−アルキル)C、H−P[2−(C−C−アルコキシ)C、H−P[3−(C−C−アルコキシ)C、H−P[4−(C−C−アルコキシ)C、H−P[2−(トリフルオロメチル)C、H−P[3−(トリフルオロメチル)C、H−P[4−(トリフルオロメチル)C、H−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、H−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)、H−P[3,5−ビス(C−C−アルコキシ)及びH−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)−4−(C−C−アルコキシ)Cの群から選択される非環状第二級ホスフィンであるか、又は下記:
【化25】


[これらは非置換であるか、又はC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシもしくはC−C−アルキリデンジオキシによってモノ−もしくは多置換されている]で示される群から選択される環状ホスフィンである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
が、t−ブチル又はフェニルである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
が、メチル又はフェニルである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
次の絶対配置(R,Splanar,SP(SPO))又は(S,Rplanar,RP(SPO))を有する、式 (1a):
【化26】


[式中、
R’は、t−ブチルであり、
R’及びR’は、各々独立して、1〜18個の原子を有するC−結合炭化水素又はヘテロ炭化水素基であり、任意のヘテロ原子は1つ以上の酸素原子であり、炭化水素又はヘテロ炭化水素基は、非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si及び/もしくはハロゲン基によって置換されており、そして、
R’は、メチル又はフェニルである]で示される化合物。
【請求項10】
基−PR’R’が、−P(CH、−P(i−C、−P(n−C、−P(i−C、−P(t−C、−P(C)、−P(C11、−P(ノルボルニル)、−P(o−フリル)、−P(C、P[2−(メチル)C、P[3−(メチル)C、−P[4−(メチル)C、−P[2−(メトキシ)C、−P[3−(メトキシ)C、−P[4−(メトキシ)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(メチル)、−P[3,5−ビス(メトキシ)及び−P[3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)C、ならびに式:
【化27】


[式中、
R’は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル又はベンジルオキシメチルであり、R”は、独立してR’と同じ定義を有し、R’とは異なる]で示される基から選択される、請求項9記載の化合物。
【請求項11】
下記:
【化28】


から選択される、請求項9記載の化合物。
【請求項12】
WO 2007/135179に開示されている配位子L2及びL8とは異なるホスフィン部分の絶対配置を有する、式(1b):
【化29】


[式中、
R”は、フェニルであり、
R”及びR”は、各々独立して、1〜18個の原子を有するC−結合炭化水素又はヘテロ炭化水素基であり、任意のヘテロ原子は1つ以上の酸素原子であり、炭化水素又はヘテロ炭化水素基は、非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si及び/もしくはハロゲン基で置換されており、そして、
R”は、メチル又はフェニルである]で示される化合物。
【請求項13】
絶対配置R,Splanar,SP(SPO)及び/又はS,Rplanar,RP(SPO)を有する、式 (1b):
【化30】


[式中、
R”は、フェニルであり、
R”及びR”は、各々独立して、1〜18個の原子を有するC−結合炭化水素又はヘテロ炭化水素基であり、任意のヘテロ原子は1つ以上の酸素原子であり、炭化水素又はヘテロ炭化水素基は、非置換であるか、又は1〜3個のC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si及び/もしくはハロゲン基によって置換されており、そして、
R”は、メチル又はフェニルである]で示される化合物。
【請求項14】
元素の周期表の遷移族の遷移金属と、配位子としての式 (1a)又は(1b)の化合物との金属錯体。
【請求項15】
触媒の存在下、プロキラル有機化合物中の炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によって、キラルな有機化合物を調製するための方法であって、付加が、少なくとも1種の請求項14記載の金属錯体の触媒量の存在下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項16】
プロキラル有機化合物中の炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によって、キラルな有機化合物を調製するための均一系触媒としての、請求項14記載の金属錯体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−508722(P2012−508722A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536019(P2011−536019)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065082
【国際公開番号】WO2010/055112
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】