説明

クッションパッドの製造方法、及びこれに用いる金型

【課題】 裏面の補強シートを、下型または中子型の内壁に沿ってインサートとして配置する工程を含むクッションパッドの製造方法、及びこのための金型において、成形時に補強シートと金型内壁との間に垂れ落ち(浮き)が生じ発泡樹脂液が回り込むことによる不具合を防止できるものを提供する。
【解決手段】下型11の内壁の底面に、中子型12の内壁にまでほぼ達するシート支持ピン17を設けて、マトリクス状に配列しておく。特には、中子型12の稜線部18の内側の屈曲部にて、補強シート22を中子型12の内壁へと押し付けることで垂れ落ちを防止する。シート支持ピン17は、型開きの際の下型11と中子型12との間の回動方向に沿った方向に配し、樹脂発泡体21に引っ掻(か)きによる破れが生じるのを防止する。さらに、補強シート22には、中子型12の稜線部18に接する個所に、曲げ剛性を緩和するための抜き部24を設けておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用シートその他に用いるシート用クッションパッドの製造方法、及びこれに用いる金型に関する。特には、裏面にシート材が一体に接合されたクッションパッドの製造方法、及びこれに用いる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両走行時に振動を受ける車両用シートには、乗員への振動の伝達を軽減し、乗り心地を良好に保つべく、ウレタン樹脂発泡体等の弾性樹脂発泡体からなるクッションパッドが座部及び背もたれ部に配されている。
【0003】
クッションパッド全体の弾性等を向上させる目的で、クッションパッドの裏面に、粗毛フェルトや寒冷沙不織布からなる補強シートを取り付けることが、しばしば行われている。このような場合、補強用シートを上方の金型内面に沿ってインサートとして配置しておき、ウレタン樹脂発泡体等のクッションパッド本体と一体に成形するという方法が一般に採用されている。
【0004】
補強シートを上型側の金型内面に沿って配置するためには、補強シートの縁部に、孔を設けておき、金型内面に設けたキノコ状等のピンに係止させている(例えば特開平9−123192)。
【特許文献1】特開平9−123192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような方法では、補強シートの縁部のみを係止しているため、局部的に補強シートが金型内面から浮いてしまうことがある。金型内の下部から膨張する発泡樹脂が充分に押し上げるために、多くの場合、このような浮き、ないし垂(た)れ落ちは解消される。ところが、近年、クッションパッドに対する要求性能の向上等により、クッションパッド裏面の形状が複雑で、かつ、発泡樹脂の発泡の際の膨張の具合などが制約を受けるために、浮きが充分に解消されない場合が生じている。このような垂れ落ちが生じると、補強シートの裏側に発泡樹脂が回り込み、そのような個所では、裏面に来るべき補強シートが樹脂発泡体中に埋もれてしまう。例えば、フレームと樹脂発泡体が直接、擦(す)れ合って摩耗等を引き起こすことにもなる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、補強シートを、上型側の内壁に沿ってインサートとして配置する工程を含むクッションパッドの製造方法、及びこのための金型において、成形時に補強シートと金型内壁との間に浮きが生じ発泡樹脂液が回り込むことによる不具合を防止できるものを提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクッションパッドの製造方法は、第1の金型部分と、これより上方に位置する第2の金型部分とからなる金型内で、第2の金型部分の内壁に沿って補強シートがインサートとして配置された状態で、樹脂の発泡成形を行う工程と、成形後に、前記第1及び第2の金型部分を一つの軸の周りに互いに回動させて型開きを行い、これにより樹脂発泡体を取り出す工程とを含むクッションパッドの製造方法において、前記第1の金型部分の内壁から、前記第2の金型部分の内壁に至る複数の突起を設けておき、前記補強シートが該第2の金型部分から局部的に離れるのを防止することを特徴とする。
【0008】
好ましい態様においては、前記各突起が、それぞれの位置での前記型開きの際の回動方向に沿って延びるピンである。このようであると、型開き、または取り出しの際に、前記突起に起因して樹脂発泡体に破れが生じるのを防止することができる。
【0009】
さらに好ましい態様においては、前記第2の金型部分の内壁が稜線状、また頂部状に突き出す個所に、前記補強シートの曲げ剛性を緩和するための抜き部を設けておくことを特徴とする。このようであると、抜き部を設けた個所での曲げ剛性が低下することから、補強シートが金型内壁の稜線部または頂部に沿いやすくなるので、補強シートを容易に金型内壁に密着させることができる。
【0010】
本発明のクッションパッド製造用の金型は、内壁がクッションパッドの座面に対応した第1の金型部分と、内壁がクッションパッドの裏面に対応した第2の金型部分と、これら第1及び第2の金型部分を回動可能に支持して型開きを可能にする支持軸とを備えた金型において、前記第2の金型部分の内壁から、前記第1の金型の内壁に至る複数の突起が配列され、これら突起は、それぞれ、前記支持軸の周りの回動方向に沿って延びるピンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
成形時に補強シートと金型内壁との間に浮きが生じ発泡樹脂液が回り込むことによる不具合を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施例について、図1〜4を用いて説明する。
【0013】
図1〜2は、実施例の金型の模式的な断面斜視図であり、それぞれ、金型が閉じた状態及び開いた状態にて示す。なお、これらの図は、上下を逆にして示し、下型を上方に描いている。金型1は、バット(浅い桶)状の下型11と、中子(なかご)型12と、中子型12の周囲を囲むように配置される枠状の上型13とからなる。これら各金型部分11,12及び13は、それぞれの支持部11A,12A及び13Aを介して、一つのシャフト14から回動可能に支持されている。すなわち、各支持部11A,12A及び13Aの根元部分が、シャフト14に支持されるヒンジをなし、これにより、各金型部分11,12及び13がシャフト14の周りを回動可能となっている。型開きのときには、不図示の駆動手段等により、中子型12及び上型13が持ち上げられて金型1が2枚貝状に開かれる(図2)。
【0014】
図1中に示すように、中子型12の内壁面に沿って、粗毛布からなる補強シート22がインサートとして配置される。補強シート22には、縁部に係止用の孔が予め開けられており、中子型12の上向き面に設けられた係止ピン19により係止される。係止ピン19は、例えば、軸部の先端に、より径の大きい頭部が接続したものである。
【0015】
また、下型11の内壁の底面からシート支持ピン17が突き出して、対応する中子型12の壁面にほぼ達している。シート支持ピン17は、キャビティー15上における周縁部以外のほぼ全領域にて、補強シート22を中子型12の内壁に押し付けることにより、補強シート22に下方への局部的な垂(た)れ落ちが生じるのを防止している。特には、中子型12の周縁部の下端をなす稜線部18に沿った内側で、補強シート22の垂れ落ちを確実に棒している。すなわち、該稜線部18の内側の付け根の個所に沿って、シート支持ピン17が配列されることにより、補強シート22の曲げ剛性が大きい場合にも、このような屈曲部で、浮き、ないし垂れ落ちが生じるのを防止している。
【0016】
シート支持ピン17は、図示の例において、下型11内壁の畝(うね)状の突起16の個所に、埋め込まれる形で設けられている。この畝状突起16は、クッションパッド2の座面にて、表皮23(図3)を係止するための溝に相当する。なお、図では、表皮係止用のワイヤー等が省かれている。
【0017】
各シート支持ピン17は、シャフト14に垂直な断面(図示の断面)において、ほぼ、シャフト14を中心とした円の接線方向に配されている。すなわち、型開きの際の中子型12が回動する軌跡に沿った方向に、それぞれ配されている。これは、発泡成形後の型開きの際、キャビティー15内を充填する樹脂発泡体21に、引っ掻(か)く形の変形がなるべく加わらないようにして、樹脂発泡体21に破れが発生するのを防止するためである。
【0018】
図3は、実施例の製造方法により得られるクッションパッド2についての、図1〜2に対応する断面斜視図である。クッションパッド2は、マトリクス状に配列されたシート支持ピン17により、樹脂発泡体21の溝25内に小さな孔26が生じるが、表皮23により被覆されるので、表面に露出することがない。また、シート支持ピン17は、適当な強度を有する程度の径に設けられるので、樹脂発泡体21の物性や性能に影響を与えることもない。
【0019】
図4は、図1における中子型12の稜線部18の個所の拡大図である。図4に示すように、補強シート22には、稜線部18の上に来る個所に、円形の抜き部24が、所定間隔で配列されている。この抜き部24の存在により、稜線部18に沿った個所での補強シート22の曲げに対する剛性が低下し、稜線部18の尖った形状に補強シート22が、容易にフィットすることとなる。すなわち、稜線部18に沿った内側の個所での、補強シート22の浮き、ないし垂れ落ちを、さらに防止する機能を果たす。
【0020】
次ぎに、図5〜6には、上記抜き部24の形状についての変形例を示す。図5に示す変形例1においては、抜き部24が矩形状である。また、図6に示す変形例2においては、円形の四方に、切り込みが入れられた形状の抜き部24が設けられている。抜き部24の形状は、これら図示するもの以外にも、例えば三角形であっても良い。これらに例示するいずれの形状の抜き部であっても、実施例と同様の機能を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例の金型について、閉じられた状態にて示す、模式的な断面斜視図である。
【図2】図1の金型について、開いた状態を示す、模式的な断面斜視図である。
【図3】実施例の金型により得られたクッションパッドを示す模式的な断面斜視図である。
【図4】実施例における補強シートの抜き部を模式的に示す要部断面斜視図である。
【図5】変形例1における補強シートの抜き部を模式的に示す要部断面斜視図である。
【図6】変形例2における補強シートの抜き部を模式的に示す要部断面斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 金型 11 下型
12 中子型 13 上型
14 金型1のシャフト 15 キャビティー
16 下型11の畝(うね)状突起 17 シート支持ピン
18 中子型12の稜線部 19 中子型12のシート係止用突起
2 クッションパッド 21 クッションパッド2をなす樹脂発泡体
22 補強シート 23 表皮
24 補強シート22の抜き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金型部分と、これより上方に位置する第2の金型部分とからなる金型内で、第2の金型部分の内壁に沿って補強シートがインサートとして配置された状態で、樹脂の発泡成形を行う工程と、
成形後に、前記第1及び第2の金型部分を一つの軸の周りに互いに回動させて型開きを行い、これにより樹脂発泡体を取り出す工程とを含むクッションパッドの製造方法において、
前記第1の金型部分の内壁から、前記第2の金型部分の内壁に至る複数の突起を設けておき、前記補強シートが該第2の金型部分から局部的に離れるのを防止することを特徴とするクッションパッドの製造方法。
【請求項2】
前記各突起が、それぞれの位置での前記型開きの際の回動方向に沿って延びるピンであることを特徴とする請求項1記載のクッションパッドの製造方法。
【請求項3】
前記第2の金型部分の内壁が稜線状、また頂部状に突き出す個所に、前記補強シートの曲げ剛性を緩和するための抜き部を設けておくことを特徴とする請求項1または2記載のクッションパッドの製造方法。
【請求項4】
内壁がクッションパッドの座面に対応した第1の金型部分と、内壁がクッションパッドの裏面に対応した第2の金型部分と、これら第1及び第2の金型部分を回動可能に支持して型開きを可能にする支持軸とを備えた金型において、
前記第2の金型部分の内壁から、前記第1の金型の内壁に至る複数の突起が配列され、これら突起は、それぞれ、前記支持軸の周りの回動方向に沿って延びるピンであることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−7449(P2006−7449A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184315(P2004−184315)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】