説明

クラスタビームを用いた弗化物膜形成方法およびこれによって得られた弗化物膜を用いた光学素子

【課題】基板の高温加熱を行わなくても、可視だけでなく紫外領域においても光学吸収が低く、緻密で、環境耐久性が高いクラスタビームによる弗化物膜の形成方法を提供する。
【解決手段】真空蒸着法による膜形成方法とクラスタビームを用いて、つぎのように弗化物膜を形成する。
すなわち、弗化物膜の形成に際し、クラスタイオンビーム源5から合成石英基板7にクラスタイオンビーム照射しながら、抵抗加熱ボード3から弗化物膜材料を真空蒸発させ、合成石英基板7上に弗化物膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラスタを用いた薄膜形成方法により製造される素子に関するものである。詳細には弗化物膜を用いた光学素子の製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、弗化物膜を用いた素子の製造において、様々な薄膜の形成方法が利用されている。
弗化物膜は、酸化物膜よりもバンドギャップエネルギーが大きく紫外領域の短波長の光に対しても光学吸収が少ないため、紫外光に対する反射防止膜やミラーなどの光学素子に使用することができる。
また、MgF2などは、可視光に対しても屈折率が低いため光学設計上においても大変有
用である。
現在、これらの形成方法として真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法やスパッタリング法などが提案されている。
しかし、例えば真空蒸着法では緻密性、機械的強度、環境耐久性などにおいて優れた膜を得るには基板加熱が必要である。
ところが、この基板加熱はしばしば基板の形状変形、膜応力の増加による膜の剥離やクラックの発生、また生産スループット低下などの問題を招いてしまう場合が多い。
【0003】
また、例えばイオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法やスパッタリング法などでは、基板加熱を行わなくても緻密で機械的強度などに優れた膜を得ることができる。
しかし、これらの方法では、高エネルギーのイオンや電子によってフッ素の解離やカラーセンターなどのダメージが起きてしまい、光学吸収の小さい膜を得ることは困難である。これら以外の薄膜の形成方法として、特許文献1や特許文献2などに開示されているように、クラスタビームを利用したものがある。
クラスタビームは基板、膜に衝突する際にクラスタが分解される。そのため、クラスタサイズ(構成する粒子の個数)を大きくすることで、それぞれの構成粒子をエネルギーの低いものとすることが可能である。
このため、基板や膜で解離などが起きることを抑えられる可能性が高い。
酸化物膜では、例えば、特許文献3においてクラスタビームによる薄膜形成方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3352842号公報
【特許文献2】特公平07−065166号公報
【特許文献3】特開2004−43874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例のクラスタビームを用いた薄膜の形成方法は、酸化物膜の形成方法である。
すなわち、従来のクラスタビームを用いた薄膜の形成方法においては、光学吸収が低く、環境耐久性が高い、等の良好な弗化物膜の形成方法については、未だ達成されていない。例えば、第65回応用物理学会秋季講演会予稿集P543において、LaF3、MgF2を電子銃により蒸発させ、SF6のクラスタビームを基板や膜に照射しながら形成するもの
が発表されている。
しかし、この方法では、消衰係数が10-3台というような光学吸収がきわめて高い膜であり、光学素子として用いることは困難である。
このように、光学吸収が低く、環境耐久性が高い、等の良好な弗化物膜の形成方法は未だ達成されておらず、その実現が望まれている。
本発明は、上記課題に鑑み、基板の高温加熱を行わなくても、可視だけでなく紫外領域においても光学吸収が低く、緻密で、環境耐久性が高いクラスタビームによる弗化物膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記弗化物膜の形成方法によって得られた弗化物膜によって構成された光学素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎのように構成したクラスタビームを用いた弗化物膜の形成方法、及び該方法により得られた弗化物膜によって構成された光学素子を提供するものである。
本発明のクラスタビームを用いた弗化物膜の形成方法は、つぎの工程を有することを特徴としている。
すなわち、上記クラスタビームを基板に照射しながら、抵抗加熱による真空蒸着法によって弗化物膜材料を真空蒸発させ、前記基板上に弗化物膜を形成する工程を有することを特徴としている。
また、本発明は、前記弗化物膜材料として、GdF3、LaF3、NdF3、DyF3、PdF3、MgF2、AlF3、NaF3、LiF、CaF2、BaF2、のいずれかを用いることを特徴としている。
あるいは、SrF2、ErF3、SmF3、CeF3、Na3AlF6、Na5Al314、YbF3、ErF3、TbF3のいずれかを用いることを特徴としている。
その際、それらいずれかとの混合物を用いるようにしてもよい。
また、本発明は、前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてLaF3を用い、
前記基板に堆積されるその弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(1)を満たし、前記基板上に前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴としている。

【0006】
また、本発明は、前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてMgF2、LiF、BaF2、GdF3、NdF3、DyF3、PdF3、CaF2、SrF2、ErF3、SmF3、CeF3、YbF3、TbF3、ErF3のいずれかを用い、
前記基板に堆積されるそれら弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(2)を満たし、前記基板上に前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴としている。

【0007】
また、本発明は、前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてMgF2を用い、
前記基板に堆積されるそれら弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(3)を満たし、前記基板上に平均表面粗さが1.0nm以下の前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴としている。

【0008】
また、本発明は、前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてAlF3、NaF3、Na3AlF6、Na5Al314のいずれかを用い、
前記基板に堆積されるそれら弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(4)を満たし、前記基板上に前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴としている。

【0009】
また、本発明は、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成するそれぞれの原子のエネルギーが、3〜50eV/atmであることを特徴としている。
また、本発明は、前記クラスタビームが、希ガス原子によって構成されることを特徴としている。
また、本発明は、膜の形成後において、これらの弗化物膜にUV光照射を行い光改質によって前記弗化物膜の光学吸収を低下させる工程を有することを特徴としている。
また、本発明の光学素子は、上記したいずれかに記載の弗化物膜の形成方法によって得られた弗化物膜で構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板の高温加熱を行わなくても、可視だけでなく紫外領域においても光学吸収が低く、緻密で、環境耐久性が高いクラスタビームによる弗化物膜の形成方法を実現することができる。
また、上記弗化物膜の形成方法によって得られた弗化物膜で構成された光学素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記構成により、基板の高温加熱を行わなくても、可視だけでなく紫外領域においても光学吸収が低く、緻密で、環境耐久性が高いクラスタビームによる弗化物膜の形成方法を実現することができる。
それは、本発明者らのつぎのような知見に基づくものである。
本発明者らは、鋭意検討した結果、真空蒸着法による膜形成方法とクラスタビームを用いたつぎのような手法を見出した。
具体的には、抵抗加熱による真空蒸着法を用いることで、弗素欠損などの解離が光学特性に対して無視できる非常に少ない程度で弗化物材料を蒸発させて、膜を基板に堆積していく。そして、その際にクラスタビームを照射する。
例えば、弗化物膜材料がLaF3ならば、基板に堆積されるLaF3膜分子の数をx、その際に基板および膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとすると、
これらの間に、

【0012】
という関係式を満たすようにして、基板上に弗化物膜材料による弗化物膜を形成する。
また、クラスタビームを構成する原子のエネルギーが3〜20eV/atmとする。
また、クラスタビームの構成原子に化学的に安定な希ガスを用いることで、例えこれらが膜中に取り込まれるなどしても膜の光学吸収が増加しないようにする。これらにより、まず、蒸発時の材料における弗素欠損などの解離を防ぐことができる。
そして、膜形成中に起こるイオン、電子によるダメージを抑えることができる。さらに、基板の高温加熱が無いにもかかわらず、可視だけでなく紫外領域においても光学吸収が低く、緻密で、平滑でありそして環境耐久性が有る弗化物膜を得ることが可能となる。
そして、このようにして形成された弗化物膜は、光学素子、半導体素子などに有効に利用することが可能である。
【0013】
つぎに、上記した本発明のクラスタビームによる弗化物膜の形成方法に用いられる膜形成装置について説明する。
図1に、本実施の形態における薄膜形成装置の一例を示す。
図1において、1は真空チャンバー、2は真空バルブ、3は抵抗加熱ボード、4は抵抗加熱機構、5はクラスイオンタビーム源、6は基板ドーム、7は合成石英基板、8は膜厚モニター、9はシャッターである。
本発明の実施形態における膜形成装置において、真空チャンバー1には、弗化物膜材料を蒸発するための抵抗加熱機構4と材料が入れられる抵抗加熱ボード3が設けられている。この真空チャンバー1は、真空バルブ2を介して2.0×10-5Paまで真空排気される。
さらに、真空チャンバー1内には、基板7を戴置するための回転可能な基板ドーム6が設けられ、膜厚を制御するために膜厚モニター8とシャッター9が設けられている。
そして、抵抗加熱機構4の抵抗加熱ボード3から蒸発された膜材料が合成石英基板7上で形成される際に、クラスタイオンビーム源5からクラスタビームが基板7に向かって照射しながら、薄膜を形成するように構成されている。
【0014】
図2にクラスタイオンビーム源5の詳細図を示す。
図2において、10はノズル、11はクラスタ生成室、12はスキマー、13はバルブ、14はイオン化室、15はバルブ、16はフィラメント、17は加速電極、18は加速室、19はサイズ分離室である。
本発明の実施形態におけるクラスタイオンビーム源5は、クラスタ生成室11、クラスタのイオン化室14および加速室18、クラスタのサイズ分離室19の各室を備えている。生成室11には、断熱膨張によって導入ガスをクラスタ化するためのノズル10を有し、そのクラスタはスキマー12を介して、イオン化室14および加速室18に取り出される。
イオン化室14では、クラスタはフィラメント16を用いた電子衝突によりイオン化され、加速室18で加速電極17により加速される。
加速されたクラスタイオンビームは、サイズ分離室19でマグネットによる磁場偏向などにより、不要なサイズのクラスタを排除されてから基板7に照射される。
ここで、クラスタ生成室11やイオン化室14を、バルブ13、15を介して作動排気することで、真空チャンバー1の真空度が過剰に上昇しないように構成されている。
【0015】
上記構成の薄膜形成装置によって、つぎのように薄膜を形成する。
このようなクラスタイオンビーム源5を用い、Arガスをノズル10から噴出させて、A
rクラスタを断熱膨張により生成する。このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。
そして、加速電極17によりこのクラスタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3から弗化物膜材料を真空蒸発させて合成石英基板7上に弗化物薄膜を形成する。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明の実施例について説明する。以下の各実施例においては、図1及び図2に示す薄膜形成装置を用いて、つぎのように弗化物膜を形成した。
[実施例1]
実施例1においては、つぎのように弗化物膜を形成した。
まず、クラスタイオンビーム源5において、Arガスをノズル10から噴出させて、Arクラスタを断熱膨張により生成する。このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。そして、加速電極17によりこのクラスタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3からLaF3を真空蒸発させて合成石英基板7上に膜厚260nm
のLaF3膜を形成した。
その際、LaF3膜分子の数をx、基板および膜に照射されるクラスタビームを構成する
Ar原子の個数をaとする場合、
a/x=3.4
である。
【0017】
図3に、本実施例におけるクラスタビームを構成する原子のエネルギーが3〜20eV/atmである場合のLaF3膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す。
図3から、均質で光学Lossがほとんどみられないことが判る。
このLaF3膜の消衰係数は、193nmの光に対して0.0001と小さいものであっ
た。
また、図4にこのLaF3膜を60℃90%の高温高湿環境耐久試験を1000時間行っ
た結果を示す。
波長シフトが1nm未満であった。
また、このLaF3膜の表面粗さをAFMにより測定した結果、平均表面粗さは0.7n
mであった。
このように基板を加熱することなく、可視だけでなく紫外領域においても光学吸収が低く、緻密で環境耐久性が高いLaF3膜を得ることができた。
また、
a/x=5.0
での場合においても同様に、均質で、193nmの光に対する消衰係数が0.0001と小さく、平均表面粗さは0.7nm程度のLaF3膜得ることができた。
【0018】
また、図5に、実施例1との比較例として、
a/x=2.0
とした場合のLaF3膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す。
図5から、反射特性から不均質でポーラスな膜となってしまっていることが判る。
【0019】
[実施例2]
実施例2においては、つぎのように弗化物膜を形成した。
まず、クラスタイオンビーム源5において、Arガスをノズル10から混合して噴出させて、Arクラスタを断熱膨張により生成する。
このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。そして、加速電極17によりこのクラ
スタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3からMgF2を真空蒸発させて合成石英基板7上に、膜厚430n
mのMgF2膜を形成した。
その際、MgF2膜分子の数をx、基板および膜に照射されるクラスタビームを構成する
Ar原子の個数をそれぞれaとする場合、
a/x=2.1
である。
【0020】
図6に、本実施例におけるクラスタビームを構成する原子のエネルギーが3〜20eV/atmである場合のMgF2膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す。
図6に示す反射特性から、均質であることが判る。
また、このMg2膜の消衰係数は193nmの光に対して0.0001と小さいものであ
った。
また、このMgF2膜の波長193nmにおける平均的な屈折率は1.40であった。
【0021】
また、図7に、実施例2との比較例として、
a/x=1.5
での場合のMgF2膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す。
図7に示す反射特性から、不均質でポーラスな膜となってしまっていることが判る。
また、このMgF2膜の波長193nmにおける平均的な屈折率は1.36と低く、緻密
でないものであった。
【0022】
[実施例3]
実施例3においては、つぎのように弗化物膜を形成した。
まず、クラスタイオンビーム源5において、Arガスをノズル10から混合して噴出させて、Arクラスタを断熱膨張により生成する。
このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。そして、加速電極17によりこのクラスタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3からMgF2を真空蒸発させて合成石英基板7上に膜厚430nm
のMgF2膜を形成した。
その際、MgF2膜分子の数をx、基板および膜に照射されるクラスタビームを構成する
Ar原子の個数をaとする場合のそれらの比、
a/x
に対するMgF2膜の平均表面粗さを図8に示す。
比が3.1以上であると平均表面粗さが0.9nm以下と表面が平滑となる。
【0023】
また、図9にこのa/xが3.1の場合のMgF膜のAFM像を示す。また、図10にこのa/xが2.1の場合のMgF膜のAFM像を示す。
また、このa/xが3.1の場合と2.1の場合のMgF2膜を60℃90%の高温高湿
環境耐久試験を1000時間行った結果を図11に示す。
a/xが2.1の場合は波長シフトが3nm以上であるが、3.1の場合では波長シフトが1nm未満で環境耐久性に優れた膜であった。
このようにa/xを3.1以上とすることで、緻密に加えて、より平滑で環境耐久性が高いMgF2膜を得ることができる。
【0024】
[実施例4]
実施例4においては、つぎのように弗化物膜を形成した。
まず、クラスタイオンビーム源5において、Arガスをノズル10から噴出させて、Ar
クラスタを断熱膨張により生成する。
このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。そして、加速電極17によりこのクラスタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3からLaF3またはMgF2を真空蒸発させる。
そして、合成石英基板7上に基板側からMgF2、LaF3、MgF2の順にそれぞれ光学
的膜厚で0.5λ、0.25λ、0.25λのMgF2膜、LaF3膜、MgF2膜の各膜
を形成した。対象中心波長λは193nmである。
その際、LaF3膜分子の数をx、MgF2膜分子の数をy、基板および膜に照射されるクラスタビームを構成するAr原子の個数をaとする場合、
a/x=3.4
a/y=3.1
である。
図12に、本実施例におけるクラスタビームを構成する原子のエネルギーが3〜20eV/atmである場合の反射止膜の光学特性を示す。
透過率の高い反射防止膜となっている。
【0025】
[実施例5]
実施例5においては、つぎのように弗化物膜を形成した。
まず、クラスタイオンビーム源5において、Arガスをノズル10から混合して噴出させて、Arクラスタ断熱膨張により生成する。
このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。そして、加速電極17によりこのクラスタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3からMgF2を真空蒸発させて合成石英基板7上に膜厚340nm
のMgF2膜を形成する。
その際、MgF2膜分子の数をy、その際に基板および膜に照射されるクラスタビームを
構成するAr原子の個数をaとする場合、つぎのとおりである。

【0026】
その際におけるクラスタビームを構成する原子のエネルギーが3〜20eV/atmである場合のMgF2膜の消衰係数は、193nmの光に対して0.0002と小さいもの
であった。
また、このMgF2膜にUV光を照射して光改質を行った後の消衰係数は193nmの光
に対して0.0001とさらに小さいものとなった。
図13に、UV光を照射して光改質を行った後のMgF2膜が形成された合成石英基板の
分光特性を示す。
また、このMgF2膜の平均表面粗さは0.9nmであった。
【0027】
また、図14に、比較例として、クラスタビームを構成する原子のエネルギーが〜3eV/atmのMgF2膜の表面粗さをAFMにより測定した結果を示す。
平均表面粗さは2.3nmと粗いものであった。
また、図15に、比較例として、クラスタビームを構成する原子のエネルギーが〜200eV/atmとした場合を示す。
MgF2膜の消衰係数は193nmの光に対して0.0018と大きいものであった。
また、このMgF2膜にUV光を照射して光改質を行ってもほとんど回復しなかった。
【0028】
[実施例6]
実施例6においては、つぎのように弗化物膜を形成した。
まず、クラスタイオンビーム源5において、Arガスをノズル10から噴出させて、Arクラスタを断熱膨張により生成する。
このArクラスタを電子衝突によりイオン化する。そして、加速電極17によりこのクラスタイオンをビームとして引き出し加速する。
真空チャンバー1において、上記のクラスタイオンビームを合成石英基板7に照射しながら、抵抗加熱ボード3からAlF3を真空蒸発させて合成石英基板7上に膜厚430nm
のAlF3膜を形成する。
その際、AlF3膜分子の数をx、基板および膜に照射されるクラスタビームを構成する
Ar原子の個数をaとする場合、
a/x=1.4
である。
その際におけるクラスタビームを構成する原子のエネルギーは3〜20eV/atmである。
この場合の合成石英上に形成されたAlF3膜にスコッチテープテストを行ったが、膜が
基板から剥がれるといった問題は見られず、密着性の良い膜が形成されていた。
また比較例として、
a/x=1.0
である場合に合成石英上に形成されたAlF3膜に対して同様にスコッチテープテストを
行った。
膜が基板から剥がれる場合があり、密着性の良い膜とはいえないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態におけるクラスタビームによる弗化物膜の形成方法に用いられる薄膜形成装置の一例を示す図。
【図2】本発明の実施の形態における薄膜形成装置のクラスタイオンビーム源の詳細構成を示す図。
【図3】本発明の実施例1におけるLaF3膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す図。
【図4】本発明の実施例1におけるLaF3膜の高温高湿環境耐久試験の結果を示す図。
【図5】本発明の実施例1との比較例におけるLaF3膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す図。
【図6】本発明の実施例2におけるMgF2膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す図。
【図7】本発明の実施例2との比較例におけるMgF2膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す図。
【図8】本発明の実施例3におけるMgF2膜の平均表面粗さを示す図。
【図9】本発明の実施例3におけるa/xが3.1の場合のMgF2膜のAFM像を示す図。
【図10】本発明の実施例3におけるa/xが2.1の場合のMgF膜のAFM像を示す図。
【図11】本発明の実施例3におけるMgF2膜の高温高湿環境耐久試験の結果を示す図。
【図12】本発明の実施例4における反射止膜の光学特性を示す。
【図13】本発明の実施例5におけるMgF2膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す図。
【図14】本発明の実施例5との比較例におけるMgF2膜の表面粗さをAFMにより測定した結果を示す図。
【図15】本発明の実施例5との比較例におけるMgF2膜が形成された合成石英基板の分光特性を示す図。
【符号の説明】
【0030】
1:真空チャンバー
2:真空バルブ
3:抵抗加熱ボード
4:抵抗加熱機構
5:クラスタイオンビーム源
6:基板ドーム
7:基板
8:膜厚モニター
9:シャッター
10:ノズル
11:クラスタ生成室
12:スキマー
13:バルブ
14:イオン化室
15:バルブ
16:フィラメント
17:加速電極
18:加速室
19:サイズ分離室



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスタビームを用いた弗化物膜の形成方法であって、
上記クラスタビームを基板に照射しながら、抵抗加熱による真空蒸着法によって弗化物膜材料を真空蒸発させ、前記基板上に弗化物膜を形成する工程を有することを特徴とする弗化物膜の形成方法。
【請求項2】
前記弗化物膜材料が、GdF、LaF、NdF、DyF、PdF、MgF、AlF、NaF、LiF、CaF、BaF、SrF、ErF、SmF、CeF、NaAlF、NaAl14、YbF、ErF、TbFのいずれか、
または、それらいずれかとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の弗化物膜の形成方法。
【請求項3】
前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてLaFを用い、
前記基板に堆積されるその弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(1)を満たし、前記基板上に前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弗化物膜の形成方法。

【請求項4】
前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてMgF、LiF、BaF、GdF、NdF、DyF、PdF、CaF、SrF、ErF、SmF、CeF、YbF、TbF、ErFのいずれかを用い、
前記基板に堆積されるそれら弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(2)を満たし、前記基板上に前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弗化物膜の形成方法。

【請求項5】
前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてMgFを用い、
前記基板に堆積されるそれら弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(3)を満たし、前記基板上に平均表面粗さが1.0nm以下の前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弗化物膜の形成方法。

【請求項6】
前記基板上に弗化物膜を形成するに際して、前記弗化物膜材料としてAlF、NaF、NaAlF、NaAl14のいずれかを用い、
前記基板に堆積されるそれら弗化物分子の数をx、前記の基板および弗化物膜に照射さ
れるクラスタビームを構成する原子の個数をそれぞれaとするとき、
つぎの関係式(4)を満たし、前記基板上に前記膜材料による弗化物膜を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弗化物膜の形成方法。

【請求項7】
前記の基板および弗化物膜に照射されるクラスタビームを構成するそれぞれの原子のエネルギーが、3〜50eV/atmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の弗化物膜の形成方法。
【請求項8】
前記クラスタビームが、希ガス原子によって構成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の弗化物膜の形成方法。
【請求項9】
前記基板上に弗化物膜を形成する工程における弗化物膜の形成中、または弗化物膜の形成後において、これらの弗化物膜にUV光照射を行い光改質によって前記弗化物膜の光学吸収を低下させる工程を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の弗化物膜の形成方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の弗化物膜の形成方法によって得られた弗化物膜で構成されていることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図11】
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【図15】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−154274(P2007−154274A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352670(P2005−352670)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】