説明

クラッチレス圧縮機

【課題】外部冷媒回路を経由して循環させる場合と経由させずに循環させる場合とに冷媒の循環経路を切替えることにより、起動性と信頼性の両立を図る。
【解決手段】吐出通路35に、当該吐出通路35を開閉する逆止弁45を設ける。また、第3連通路55には吐出圧力と吸入圧力の差圧に応じて第3連通路55を開閉する切替弁49を設ける。吐出圧力と吸入圧力との差圧が設定圧を越える場合には、逆止弁45により外部冷媒回路36に接続される吐出通路35を開放する一方で、切替弁49により第3連通路55を閉鎖し、冷媒ガスを吐出室29から外部冷媒回路36を経由して吸入室28へ循環させる。吐出圧力と吸入圧力との差圧が設定圧以下の場合には、逆止弁45により外部冷媒回路36に接続される吐出通路35を閉鎖する一方で、切替弁49により第3連通路55を開放し、冷媒ガスを吐出室29から外部冷媒回路36を経由することなく吸入室28へ循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク室内の圧力と吸入圧とのピストンを介した差圧に応じて斜板の傾斜角を制御し、圧力供給通路を介して吐出圧領域の圧力をクランク室に供給するとともに、放圧通路を介してクランク室の圧力を吸入圧領域に放出してクランク室内の調圧を行うクラッチレス圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両用空調装置の圧縮機として、自動車のエンジンとの間の動力伝達経路上に電磁クラッチ機構を設けないクラッチレス圧縮機が用いられている。この種のクラッチレス圧縮機は、ハウジング内に斜板を収容するクランク室が設けられており、当該斜板の傾斜角を制御することにより吐出容量が変更される可変容量タイプとされている。このような可変容量タイプのクラッチレス圧縮機では、冷房不要時において良好な起動性を得るために吐出容量が最小となるように斜板の傾斜角が制御されている。すなわち、クラッチレス圧縮機では、冷房不要時においても吐出圧領域から冷媒が吐出されている。このため、吐出された冷媒が外部冷媒回路に流出してしまうと、当該外部冷媒回路を構成する蒸発器におけるフロスト発生が問題となる。そこで、本出願人は、フロスト防止のために吐出通路に逆止弁を設け、冷房不要時における外部冷媒回路への冷媒の流出を防止する技術を提案した(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−205446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、逆止弁を設けただけでは、逆止弁の作用によって冷房不要時において冷媒の流出を防止し得るが、吐出された冷媒により吐出圧領域内の圧力が上昇し、当該圧力が所定圧に達することで望ましくないタイミングで逆止弁が押し開かれて冷媒が流出する可能性もある。そこで、特許文献1においては、吐出圧領域内の圧力上昇を抑制するために冷房不要時において、逆止弁の作用により冷媒の流出を防止しつつ、当該冷媒を圧縮機の内部で循環(吐出圧領域から吸入圧領域へ循環)させることが考えられている。しかしながら、このように構成した場合には、冷房不要時と冷房必要時における循環経路の切替えが必要となる。すなわち、冷房不要時においては前述のように内部で循環されているが、冷房必要時においても内部で循環されたままであったり、冷房不要時に圧縮機が高回転になった時においても内部で循環されたままであったりした場合には、圧縮機の吐出能力が低下するばかりか、圧縮された冷媒によって圧縮機内が高温となり、信頼性の低下に繋がる虞がある。
【0004】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、外部冷媒回路を経由して循環させる場合と経由させずに循環させる場合とに冷媒の循環経路を切替えることにより、起動性と信頼性の両立を図ることができるクラッチレス圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングに形成したシリンダボア内にピストンを収容するとともに前記ハウジングに形成したクランク室内に斜板を収容し、前記クランク室内の圧力と吸入圧との前記ピストンを介した差圧に応じて前記斜板の傾斜角を制御し、圧力供給通路を介して吐出圧領域の圧力を前記クランク室に供給するとともに放圧通路を介して前記クランク室の圧力を吸入圧領域に放出して前記クランク室内の調圧を行うクラッチレス圧縮機において、前記吐出圧領域から吐出された冷媒を圧縮機に接続される外部冷媒回路に排出する吐出通路と、前記外部冷媒回路を経由した前記冷媒を前記吸入圧領域に導入する吸入通路と、前記外部冷媒回路を経由させることなく前記吐出圧領域から前記吸入圧領域に前記冷媒を循環させるバイパス通路とを有し、前記吐出通路には前記吐出通路を開閉する第1の弁体を設ける一方で、前記バイパス通路には吐出圧力と吸入圧力の差圧に応じて前記バイパス通路を開閉する第2の弁体を設け、前記第1の弁体が前記吐出通路を開放している場合には前記第2の弁体が前記バイパス通路を閉鎖し、前記冷媒を前記吐出圧領域から前記外部冷媒回路を経由して前記吸入圧領域へ至る外部循環経路で循環させる一方で、前記第1の弁体が前記吐出通路を閉鎖している場合には前記第2の弁体が前記バイパス通路を開放し、前記冷媒を前記吐出圧領域から前記外部冷媒回路を経由させずに前記吸入圧領域へ至る内部循環経路で循環させることを要旨とする。
【0006】
これによれば、第1の弁体が吐出通路を閉鎖し、第2の弁体がバイパス通路を開放した場合には、吐出圧領域から吐出された冷媒が外部冷媒回路を経由することなく吸入圧領域に循環される。このため、車両用空調装置における冷房不要時においては、冷媒が外部冷媒回路に流出することがない。そして、圧縮機内では、吐出容量を最小とした状態で冷媒が循環されることになるので、起動性を良好なものとすることができる。また、第1の弁体が吐出通路を開放し、第2の弁体がバイパス通路を閉鎖した場合には、吐出圧領域から吐出された冷媒が外部冷媒回路を経由して吸入圧領域に循環される。このため、車両用空調装置における冷房必要時においては、圧縮機が冷却されることにより、信頼性を良好なものとすることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のクラッチレス圧縮機において、前記第1の弁体と前記第2の弁体は、圧縮機の回転数をもとに定めた設定圧を境界として前記冷媒の循環経路を切替えることを要旨とする。
【0008】
これによれば、回転数の上昇とともに圧力と温度が上昇する圧縮機の動作状態に応じて冷媒の循環経路を切替えることができ、起動性と信頼性の両立を図ることができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のクラッチレス圧縮機において、前記第1の弁体と前記第2の弁体は、圧縮機の最小容量状態においても、前記設定圧を超えた場合に前記内部循環経路から前記外部循環経路へ切替えることを要旨とする。
【0009】
これによれば、圧縮機が最小容量時であっても圧縮機の回転数が高回転になったときに内部循環経路から外部循環経路に切替え、高温になった冷媒を外部循環経路に排出することにより圧縮機内が高温になるのを防止することができる。通常のクラッチレス圧縮機においては、最小容量時、冷媒は内部循環経路を循環し続けているが、圧縮機の回転数が高回転になった場合、圧縮が頻繁に行われることにより冷媒が高温となり、圧縮機内の温度が上昇し、信頼性が低下する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のクラッチレス圧縮機において、前記第1の弁体と前記第2の弁体は、別体構成とされており、各弁体が独立して動作することを要旨とする。
【0011】
これによれば、第1の弁体と第2の弁体を独立させて動作させることにより、圧縮機の設計を容易にすることができる。すなわち、第1の弁体と第2の弁体を連動させる場合には、冷媒の循環経路を確実に切替えるために双方の動作状態(動作量など)を加味して通路の位置などを設計する必要があり、設計が複雑化する虞がある。例えば、第1の弁体が吐出通路を閉鎖した時に第2の弁体がバイパス通路を開放するように、バイパス通路の配置や弁体の動作量を設定する必要がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外部冷媒回路を経由して循環させる場合と経由させずに循環させる場合とに冷媒の循環経路を切替えることにより、起動性と信頼性の両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を冷凍サイクルに用いられるクラッチレス圧縮機(以下、単に「圧縮機」という)に具体化した一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。なお、以下の説明において、「上」「下」「前」「後」は、図1に示す矢印Y1の方向を上下方向とし、矢印Y2の方向を前後方向とする。
【0014】
図1は、圧縮機10の縦断面図を示す。図1に示すように、圧縮機10のハウジング11は、シリンダブロック12と、該シリンダブロック12の前端に接合されたフロントハウジング13と、シリンダブロック12の後端に弁・ポート形成体14を介して接合されたリヤハウジング15とからなる。
【0015】
ハウジング11の内部において、シリンダブロック12とフロントハウジング13との間には、クランク室16が区画形成されている。シリンダブロック12とフロントハウジング13との間には、クランク室16を挿通するようにして、駆動軸17が回転可能に支持されている。駆動軸17の前端は、クランク室16から外部へ突出しており、この突出端部にはプーリ18が止着されている。プーリ18は、ベルト19を介して車両のエンジン(図示略)に連結されている。プーリ18は、アンギュラベアリング20を介してフロントハウジング13に支持されている。フロントハウジング13は、アンギュラベアリング20を介して、プーリ18に作用するスラスト方向の荷重及びラジアル方向の荷重の両方を受け止める。
【0016】
クランク室16内において駆動軸17には、ロータ21が一体回転可能に固定されている。クランク室16内には、円盤状をなすカムプレートとしての斜板22が収容されている。斜板22は、その中央部に駆動軸17が挿通されており、駆動軸17に対して一体回転可能でかつ傾動可能に支持されている。ロータ21と斜板22との間には、ヒンジ機構23が介在されている。そして、斜板22は、ヒンジ機構23を介したロータ21との間でのヒンジ連結、及び駆動軸17の支持により、ロータ21及び駆動軸17と同期回転可能であるとともに、駆動軸17の軸方向(中心軸L方向)へのスライド移動を伴いながら駆動軸17に対し傾動可能となっている。
【0017】
シリンダブロック12において駆動軸17の中心軸L周りには、複数のシリンダボア24が等角度間隔で前後方向に貫通形成されている。片頭型のピストン25は、各シリンダボア24内に前後方向へ移動可能に収容されている。シリンダボア24の前後開口は、弁・ポート形成体14の前端面及びピストン25によって閉塞されており、このシリンダボア24内にはピストン25の前後方向への移動に応じて容積が変化する圧縮室26が区画形成されている。
【0018】
ピストン25のストローク(ピストンストローク)は、ピストン25の正面(図1では圧縮室26に臨む面)にかかる圧力、すなわち圧縮室26の圧力(シリンダボア24内の圧力)と、ピストン25の背面(図1ではクランク室16に臨む面)にかかる圧力、すなわちクランク室16内の圧力(クランク室圧Pc)との差圧によって決定される。このため、ピストンストロークは、クランク室16内の圧力を高くし、圧縮室26とクランク室16との差圧を小さくすることにより、斜板22の傾斜角が小さくなることに伴って小さくなる。一方で、ピストンストロークは、クランク室16内の圧力を低くし、圧縮室26とクランク室16との差圧を大きくすることにより、斜板22の傾斜角が大きくなることに伴って大きくなる。
【0019】
各ピストン25は、一対のシュー27を介して斜板22の外周部に係留されている。したがって、駆動軸17の回転によって斜板22が回転すると、該斜板22は駆動軸17の中心軸L方向前後に揺動される。斜板22の揺動によって、ピストン25が前後方向に往復直線運動される。圧縮機10では、クランク室16、駆動軸17、斜板22、及びピストン25などによって圧縮機構が構成されている。
【0020】
ハウジング11の内部において、弁・ポート形成体14とリヤハウジング15との間には、吸入圧領域としての吸入室28及び吐出圧領域としての吐出室29がそれぞれ区画形成されている。弁・ポート形成体14には、圧縮室26と吸入室28との間に位置するように、吸入ポート30と吸入弁31がそれぞれ形成されている。弁・ポート形成体14には、圧縮室26と吐出室29との間に位置するように、吐出ポート32と吐出弁33がそれぞれ形成されている。
【0021】
吸入室28には、当該吸入室28へ冷媒ガス(例えば、二酸化炭素冷媒)を導入する吸入通路34が接続されているとともに、吐出室29には、当該吐出室29から冷媒ガスを排出する吐出通路35が接続されている。そして、吸入通路34と吐出通路35は、圧縮機10の外部に設けられた外部冷媒回路36で接続されている。外部冷媒回路36上には、凝縮器37、膨張弁38及び蒸発器39が介在されている。外部冷媒回路36(詳しくは、蒸発器39の出口側)から吸入通路34を介して吸入室28に導入された冷媒ガスは、各ピストン25の上死点位置から下死点位置側への移動により、吸入ポート30及び吸入弁31を介して圧縮室26に吸入される。そして、圧縮室26に吸入された冷媒ガスは、ピストン25の下死点位置から上死点位置側への移動により所定の圧力にまで圧縮され、吐出ポート32及び吐出弁33を介して吐出室29に吐出されるとともに、吐出通路35を介して外部冷媒回路36に排出される。
【0022】
ハウジング11には、シリンダブロック12と弁・ポート形成体14を貫通するように放圧通路としての抽気通路40が設けられている。抽気通路40は、クランク室16と吸入室28とを接続する。また、抽気通路40の途中には、固定絞り41が設けられている。また、ハウジング11には、シリンダブロック12、弁・ポート形成体14及びリヤハウジング15を貫通するように圧力供給通路としての給気通路42が接続されている。給気通路42は、リヤハウジング15に収容された周知の電磁弁よりなる制御弁43と吐出通路35を介してクランク室16と吐出室29とを接続する。
【0023】
圧縮機10においては、制御弁43の開度を調整することにより、給気通路42を介したクランク室16への高圧な吐出ガスの供給量と、抽気通路40を介したクランク室16からのガスの排出量(放出量)とのバランスが制御され、クランク室16が調圧される。そして、クランク室16の調圧により、斜板22の傾斜角が変更される結果、ピストン25のストロークが可変制御され、圧縮機10の吐出容量が調節される。例えば、制御弁43の弁開度が減少すると、クランク室16の内圧が低下されることにより、斜板22の傾斜角が大きくなることに伴ってピストンストロークが大きくなり、圧縮機10の吐出容量が増大される。逆に、制御弁43の弁開度が増大すると、クランク室16の内圧が上昇されることにより、斜板22の傾斜角が小さくなることに伴ってピストンストロークが小さくなり、圧縮機10の吐出容量が減少される。すなわち、本実施形態の圧縮機10は、斜板式の可変容量タイプとされている。なお、車両用空調装置(図示略)における冷房不要などの要求に応じて制御弁43への電流供給を停止すれば、制御弁43が全開となって圧縮機10の吐出容量は最小化される。したがって、制御弁43は、冷媒ガスの流量が最小量のときは全開状態となり、吐出室29からクランク室16へは給気通路42を介して冷媒ガスが流れている。
【0024】
また、リヤハウジング15には、吐出室29と外部冷媒回路36との間の吐出通路35上に第1弁室44が設けられており、当該第1弁室44には第1の弁体としての逆止弁45が収容されている。逆止弁45は、吐出圧力が十分に高い場合(本実施形態では逆止弁45の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が所定圧を超える場合)に開放されて、吐出室29からの冷媒ガスの外部冷媒回路36を経由する冷媒循環を許容する。一方、逆止弁45は、吐出圧力が低い場合(本実施形態では逆止弁45の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が所定圧を下回る場合)に閉鎖されて、吐出室29からの冷媒ガスの外部冷媒回路36を経由する冷媒循環を停止する。吐出圧力が低くなる状況は、例えば、車両用空調装置(図示略)における冷房不要などの要求に応じて圧縮機10の吐出容量が最小化された場合にもたらされる。逆止弁45は、吐出通路35を開閉する弁体として設けられている。
【0025】
また、リヤハウジング15には、弁孔46を介して連通される第2弁室47と第3弁室48とが設けられている。第2弁室47と第3弁室48には、第2の弁体としての切替弁49が収容されている。切替弁49は、弾性復元力を有するベローズ50と、当該ベローズ50の一端に連結された弁体51と、当該弁体51に連結される球状の頭部52とからなる。ベローズ50は、第2弁室47内に収容されており、当該第2弁室47をベローズ外室47aとベローズ内室47bとに区画している。弁体51は、ベローズ50の伸縮動作に合わせて弁孔46内を動作可能(図1では上下動可能)に遊嵌されている。頭部52は、第3弁室48内に収容されており、弁体51の動作(図1では上下動)に伴って弁孔46の開口端部に対して当接又は離間する。これにより、第2弁室47と第3弁室48は、頭部52が弁孔46の開口端部から離間した場合には当該弁孔46が開放されて連通状態とされる一方で、頭部52が弁孔46の開口端部に当接した場合には当該弁孔46が閉鎖されて連通状態が遮断される。
【0026】
そして、切替弁49は、吸入通路34と吐出通路35に接続されている。具体的に言えば、リヤハウジング15において第2弁室47内のベローズ外室47a(ベローズ50の外方)は、第1連通路53を介して吐出通路35に接続されている。第1連通路53は、吐出室29と第1弁室44(逆止弁45)との間の吐出通路35に接続されている。また、リヤハウジング15において第2弁室47内のベローズ内室47b(ベローズ50の内方)は、第2連通路54を介して吸入通路34に接続されている。第2連通路54は、吸入室28と外部冷媒回路36との間の吸入通路34に接続されている。
【0027】
この構成により、切替弁49を構成するベローズ50は、ベローズ外室47a(吐出圧力Pd)とベローズ内室47b(吸入圧力Ps)との差圧により伸縮動作する。具体的に言えば、ベローズ50は、吐出圧力が十分に高い場合(本実施形態では吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧が設定圧を超える場合)には自身の弾性力に抗して収縮し、弁孔46を閉鎖させるように動作する。一方で、ベローズ50は、吐出圧力が低い場合(本実施形態では吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧が設定圧以下の場合)には吸入圧力Psと自身の弾性力にて伸長し、弁孔46を開放させるように動作する。
【0028】
また、リヤハウジング15において第3弁室48は、バイパス通路としての第3連通路55を介して吸入通路34に接続されている。第3連通路55は、吸入室28と外部冷媒回路36との間の吸入通路34上であって、第2連通路54よりも吸入室28寄りに接続されている。そして、吐出圧力が低く、弁孔46が開放されている場合(第2弁室47と第3弁室48とが連通している場合)には、吐出通路35に排出された冷媒が第1連通路53、第2弁室47、弁孔46及び第3弁室48を介して第3連通路55に至り、当該第3連通路55から吸入通路34(吸入室28)に排出される。すなわち、切替弁49は、第3連通路55を開閉する弁体として設けられている。また、第3連通路55には、固定絞り56が設けられている。この固定絞り56により、圧力差が調整されている。また、本実施形態では、第3連通路55(固定絞り56)の通路面積(通路径)と外部冷媒回路36における膨張弁38の通路面積(通路径)を比較した場合、第3連通路55の通路面積の方を大きく設定し、圧力差が調整されるようになっている。
【0029】
本実施形態の圧縮機10では、逆止弁45の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧に応じて逆止弁45による吐出通路35の開閉及び吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧に応じて切替弁49による第3連通路55の開閉が制御される。すなわち、吐出圧力Pdと吸入圧力Psの差圧が設定圧を超える場合(冷房必要時)には、切替弁49によって第3連通路55が閉鎖された後、逆止弁45の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が所定圧を超えた冷媒ガスが、逆止弁45を押し退け、吐出通路35を開放する。このとき、圧縮機10には、吐出室29から吐出された冷媒ガスの循環経路として、吐出通路35、第1弁室44、外部冷媒回路36、吸入通路34及び吸入室28を順に循環する経路(以下、「外部循環経路」という)が形成される。
【0030】
一方、吐出圧力Pdと吸入圧力Psの差圧が設定圧以下の場合(冷房不要時)には、吐出圧力Pdの減少により、逆止弁45によって吐出通路35が閉鎖された後、切替弁49によって第3連通路55が開放される。このとき、圧縮機10には、吐出室29から吐出された冷媒ガスの循環経路として、吐出通路35、第1連通路53、第2弁室47、弁孔46、第3弁室48、第3連通路55、吸入通路34及び吸入室28を順に循環する経路(以下、「内部循環経路」という)が形成される。
【0031】
本実施形態では、外部循環経路と内部循環経路とを切替えるための設定圧を圧縮機10の回転数をもとに設定している。そして、本実施形態では、最小容量時における圧縮機10の回転数をもとに設定圧を決定し、当該設定圧を境界として循環経路が切替えられるように、第3連通路55上の固定絞り56の径やベローズ50の弾性力を決定している。なお、圧縮機10は、回転数の上昇により、圧力が上昇するとともに温度も上昇する。このため、回転数は、圧縮機10の信頼性を確保するために冷却が必要と考えられる値に設定され、例えばシミュレーションなどにより決定される。そして、固定絞り56の径を変更することにより、冷媒ガスを循環させる循環経路の切替えタイミングを設定することが可能となる。また、本実施形態では、逆止弁45と切替弁49とが別体構成とされており、逆止弁45の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧及び吐出圧力と吸入圧力の差圧に応じてそれぞれが独立して動作し得るように構成されている。
【0032】
以下、本実施形態の圧縮機10の作用を図2及び図3にしたがって説明する。
図2は、冷房不要時における冷媒ガスの流れを模式的に示した図である。図3は、冷房必要時における冷媒ガスの流れを模式的に示した図である。
【0033】
最初に、図2にしたがって冷房不要時における冷媒ガスの流れを説明する。冷房不要時の圧縮機10は、制御弁43が全開となることにより斜板22の傾斜角が最小角度となり、吐出容量が最小とされている。このとき、吐出圧力Pdと吸入圧力Psは、その差圧が設定圧以下となる。このため、逆止弁45は、外部冷媒回路36に接続される吐出通路35を閉鎖し、吐出室29からの冷媒ガスの外部冷媒回路36を経由する冷媒循環を停止する。また、切替弁49は、ベローズ外室47aにかかる吐出圧力Pdとベローズ内室47bにかかる吸入圧力Psとの圧力差が小さいことにより、ベローズ50が第2弁室47と第3弁室48とを連通するように伸長する。その結果、冷房不要時においては、内部循環経路が形成される。そして、吐出室29から吐出された冷媒ガスは、外部冷媒回路36を経由することなく、切替弁49を介して第3連通路55を経由することで吐出通路35と吸入通路34との間でバイパスされ、吸入室28に流出する。
【0034】
したがって、冷房不要時においては、吐出室29から吐出された冷媒ガスが吐出圧領域に滞留することが防がれ、圧力上昇が抑制される。また、冷房不要時においては、内部循環経路で冷媒ガスを循環させることにより、最小吐出容量分を固定容量として圧縮機10内で循環させることが可能となる。
【0035】
次に、図3にしたがって冷房必要時における冷媒ガスの流れを説明する。冷房必要時の圧縮機10は、制御弁43の弁開度が減少することにより斜板22の傾斜角が増大し、かつ吐出容量も増大される。これにより、吐出圧力Pdと吸入圧力Psは、その差圧が大きくなる。そして、吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧が設定圧を超えると、逆止弁45は、吐出通路35を開放し、吐出室29からの冷媒ガスの外部冷媒回路36を経由する冷媒循環を許容する。また、切替弁49は、ベローズ外室47aにかかる吐出圧力Pdとベローズ内室47bにかかる吸入圧力Psとの圧力差が大きくなることにより、ベローズ50が第2弁室47と第3弁室48との連通を遮断するように収縮する。その結果、冷房必要時においては、外部循環経路が形成される。そして、吐出室29から吐出された冷媒ガスは、外部冷媒回路36を経由して吸入室28に流出する。したがって、冷房必要時においては、吐出室29から吐出された冷媒ガスが外部冷媒回路36にて冷却される。
【0036】
したがって、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)逆止弁45が外部冷媒回路36に接続される吐出通路35を閉鎖し、切替弁49が第3連通路55を開放した場合には、吐出室29から吐出された冷媒ガスが外部冷媒回路36を経由することなく吸入室28に循環される。このため、車両用空調装置における冷房不要時においては、冷媒ガスが外部冷媒回路36に流出することがなく、蒸発器39のフロスト発生を抑制できる。そして、圧縮機10内では、最小容量の冷媒ガスが循環されているので、起動性を良好なものとすることができる。また、切替弁49が第3連通路55を閉鎖し、逆止弁45が外部冷媒回路36に接続される吐出通路35を開放した場合には、吐出室29から吐出された冷媒ガスが外部冷媒回路36を経由して吸入室28に循環される。このため、車両用空調装置における冷房必要時においては、圧縮機10が冷却されることにより、信頼性を良好なものとすることができる。
【0037】
(2)圧縮機10の回転数をもとに定めた設定圧を境界として冷媒ガスの循環経路を切替えることにより、回転数の上昇とともに圧力と温度が上昇する圧縮機10の動作状態に応じて冷媒を循環させる循環経路を切替えることができる。特に、圧縮機10が最小容量状態である場合には、圧縮機10の回転数が高回転になった時に内部循環経路から外部循環経路に切替え、高温になった冷媒を外部循環経路に排出し、外部冷媒回路から低温な冷媒を導入することにより圧縮機10内が高温になるのを防止することができる。したがって、起動性と信頼性の両立を図ることができる。
【0038】
(3)逆止弁45と切替弁49を独立させて動作させることにより、逆止弁45と切替弁49を連動させて冷媒ガスの循環経路を切替えるようにした場合に比して圧縮機10の設計を容易にすることができる。逆止弁45と切替弁49を連動させる場合には、冷媒ガスを循環させる循環経路を確実に切替えるために双方の動作状態(動作量など)を加味して通路の位置などを設計する必要があり、設計が複雑化する虞があるが、本実施形態においては設計が複雑化する虞はない。
【0039】
(4)冷媒ガスを循環させる循環経路を切替えるための構成として逆止弁45と切替弁49を設け、これらの弁を逆止弁45の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧、及び吐出圧力Pdと吸入圧力Psの差圧に応じて動作させるようにした。これらの弁による循環経路の切替えは機械的に行われることになるので、切替えタイミング時において循環経路の切替えの確実性を得ることができる。
【0040】
(5)また、逆止弁45と切替弁49を圧縮機10内に収容することにより、圧縮機10を含む車両用空調装置の車両への組み付け性を向上させることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0041】
○ 切替弁49を、ダイヤフラムや電磁弁に変更しても良い。
○ 第3連通路55に固定絞り56を設けたが、固定絞り56に代えて可変絞りを設けても良い。可変絞りにした場合には、絞り量を調整することにより、冷媒ガスを循環させる循環経路の切替えタイミングを変更することができる。
【0042】
○ 制御弁43、逆止弁45及び切替弁49の配置やこれらに接続される各通路(吸入通路34、吐出通路35、第1〜第3連通路53,54,55など)の配置を変更しても良い。なお、図1では、制御弁43、逆止弁45及び切替弁49を簡略化して図示している。そして、図1は、吸入室28及び吐出室29に対する制御弁43、逆止弁45及び切替弁49の接続形態を模式的に図示しており、圧縮機10の設計においては制御弁43、逆止弁45及び切替弁49の配置や各通路の配置などは変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】クラッチレス圧縮機を示す縦断面図。
【図2】冷房不要時における冷媒ガスの流れを示す模式図。
【図3】冷媒必要時における冷媒ガスの流れを示す模式図。
【符号の説明】
【0044】
10…クラッチレス圧縮機、11…ハウジング、12…シリンダボア、16…クランク室、22…斜板、25…ピストン、28…吸入室、29…吐出室、34…吸入通路、35…吐出通路、36…外部冷媒回路、40…抽気通路、42…給気通路、45…逆止弁、49…切替弁、55…第3連通路、56…固定絞り、Pd…吐出圧力、Ps…吸入圧力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成したシリンダボア内にピストンを収容するとともに前記ハウジングに形成したクランク室内に斜板を収容し、前記クランク室内の圧力と吸入圧との前記ピストンを介した差圧に応じて前記斜板の傾斜角を制御し、圧力供給通路を介して吐出圧領域の圧力を前記クランク室に供給するとともに放圧通路を介して前記クランク室の圧力を吸入圧領域に放出して前記クランク室内の調圧を行うクラッチレス圧縮機において、
前記吐出圧領域から吐出された冷媒を圧縮機に接続される外部冷媒回路に排出する吐出通路と、
前記外部冷媒回路を経由した前記冷媒を前記吸入圧領域に導入する吸入通路と、
前記外部冷媒回路を経由させることなく前記吐出圧領域から前記吸入圧領域に前記冷媒を循環させるバイパス通路とを有し、
前記吐出通路には前記吐出通路を開閉する第1の弁体を設ける一方で、前記バイパス通路には吐出圧力と吸入圧力の差圧に応じて前記バイパス通路を開閉する第2の弁体を設け、
前記第1の弁体が前記吐出通路を開放している場合には前記第2の弁体が前記バイパス通路を閉鎖し、前記冷媒を前記吐出圧領域から前記外部冷媒回路を経由して前記吸入圧領域へ至る外部循環経路で循環させる一方で、前記第1の弁体が前記吐出通路を閉鎖している場合には前記第2の弁体が前記バイパス通路を開放し、前記冷媒を前記吐出圧領域から前記外部冷媒回路を経由させずに前記吸入圧領域へ至る内部循環経路で循環させることを特徴とするクラッチレス圧縮機。
【請求項2】
前記第1の弁体と前記第2の弁体は、圧縮機の回転数をもとに定めた設定圧を境界として前記冷媒の循環経路を切替えることを特徴とする請求項1に記載のクラッチレス圧縮機。
【請求項3】
前記第1の弁体と前記第2の弁体は、圧縮機の最小容量状態においても、前記設定圧を超えた場合に前記内部循環経路から前記外部循環経路へ切替えることを特徴とする請求項2に記載のクラッチレス圧縮機。
【請求項4】
前記第1の弁体と前記第2の弁体は、別体構成とされており、各弁体が独立して動作することを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のクラッチレス圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−170267(P2007−170267A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368628(P2005−368628)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】