説明

クランクシャフトの主軸受を包囲するための装置

【課題】
クランク室内でオイルを辺りに飛び散らせずに、主軸受から流出するオイルを適切に排出可能にする装置を提供する。
【解決手段】
主軸受が、オイル供給溝(3)を介してオイルを供給され、主軸受用の軸受シート(2)が、そのクランクシャフトのクランクシャフトウェブ側に、主軸受とクランクシャフトウェブに向かって開放したオイルトラフ(5)を備える、クランクシャフトの主軸受を包囲するための装置において、オイルトラフ(5)を、軸受シート(2)に固定されるシールディスク(11)によってクランクシャフトウェブに向かってシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸受が、オイル供給溝を介してオイルを供給され、主軸受用の軸受シートが、そのクランクシャフトのクランクシャフトウェブ側に、主軸受とクランクシャフトウェブに向かって開放したオイルトラフを備える、クランクシャフトの主軸受を包囲するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような装置は、特許文献1から公知である。この装置は、回転するクランクシャフトウェブによって飛ばされた、主軸受の軸受箇所から流出するオイルを案内するために、マルチシリンダ式の内燃機関で使用される。従って、軸受シートの側面にオイルトラフが設けられている。これにより、クランクシャフトによって飛ばされたオイルが直接補足及び案内されるので、オイルの著しい泡立ちが防止される。クランク室内でのオイルの滞留時間が低減されるので、オイルが迅速にオイルパンに戻り、飛散損失が低減される。
【0003】
特許文献2には、クランクシャフトに対して軸受シートをシールするためのシール装置が記載されている。軸受シートは、クランクシャフトの回転軸と同軸に溝を備え、この溝に、リング状バネ要素とクランクシャフトに当接するシールリングが配設されている。リング状バネ要素とシールリングは、その組立てを可能にするため、それぞれ分離箇所を備える。シールリングは、特にセラミック、金属又はゴムから成り、特殊な材料の使用により低い摩擦値が実現可能である。オイルの排出を可能にするため、溝から、取付け状態で下に向かって排出路が出ており、この排出路は、クランクシャフトに対してブラインドで遮蔽されている。
【0004】
冷凍機用のコンプレッサでのクランクシャフトの主軸受から潤滑油の吸引が、特許文献3から公知である。そこでは、主軸受から、供給されたオイルが、中心溝とこれに続く負圧ラインを介して再び吸引される。
【特許文献1】独国特許第195 37 192号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第199 52 097号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第2 250 947号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、クランク室内でオイルを辺りに飛び散らせずに、主軸受から流出するオイルを適切に排出可能にする、冒頭で述べた方式の装置を発展させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、冒頭で述べた方式の装置において、オイルトラフが、軸受シートに固定されるシールディスクによってクランクシャフトウェブに向かってシールされていることによって解決される。
【0007】
シールディスクによって、クランクシャフトウェブに向かって閉じた部屋が構成されるので、主軸受から流出するオイルは、クランク室に達することができずに、シールディスクの主軸受側に達する。
【0008】
組立ての理由から、それぞれのシールディスクは、特に半円形に形成されている。従って、主軸受の各面を、2つの半円形のシールディスクが、半径方向に循環するオイルトラフをカバーする。
【0009】
それぞれのシールディスクは、特に軸受シートに保持されている。半円形に形成されたそれぞれのシールディスクが、その半円形終端領域を軸受シートに保持されている場合が、特に有利である。この固定は、例えば、それぞれのシールディスクが、その半円形終端領域に、軸受シートの分離面内の溝に係合する固定プレートを備えることによって行なわれる。従って、軸受シートの2つの部分は、半円形の2つのシールディスクをその間に保持し、その固定プレートを狭持する。
【0010】
選択的な形成によれば、軸受半体に付設される2つのシールディスクが、ツインフレームの形式で一体的に形成されている。
【0011】
更に、それぞれのシールディスクが、少なくとも1つの固定プレートを備え、それぞれの固定プレートが、軸受シートの穴、特に穿孔、に係合するように、それぞれのシールディスクを形成してもよい。シールディスクは、もっぱら、軸受シートの穴に係合する固定プレートを介して保持可能であるが、前記の保持部を組み合わせることも、従って、特に、軸受シートの分離面内の溝に保持される、その半円形終端領域に固定プレートを備え、シールディスクの弧のほぼ半分のところに、軸受シートの穴もしくは穿孔に係合する別の固定プレートを備えるシールディスクも、可能である。
【0012】
特に、固定プレートを収容するための穴又は穿孔が設けられている場合は、この穴もしくは穿孔が、特にクランクシャフトの回転軸に対して斜めに配設されている。従って、固定プレートが、容易に穴もしくは穿孔から脱出不能であることが、保証されている。固定プレートが、予荷重をもって軸受シートに接触する場合、シールディスクの軸受シートへの保持が、特に確実である。
【0013】
それぞれのシールディスクが、主軸受方向に整向された半径方向のインナエッジを備える場合は、有利である。これにより、クランクシャフトの主軸受ジャーナルに向かう十分なシールが得られる。半径方向のインナエッジは、主軸受に対するシールの最適化をするためにマイクロシールエッジ、特に研磨したマイクロシールエッジ、又はマイクロシールリップとして形成可能である。
【0014】
従って、軸受シートに固定されたシールディスクは、オイルトラフと主軸受ジャーナルをシールする。従って、主軸受の領域からクランク室への潤滑油の流出は、防止もしくは十分防止される。シールディスクは、クランクシャフトウェブに接触せず、これにより、シールディスクは、シールディスクに対して相対的に移動する部分による摩耗の支配下にない。
【0015】
特に、シールディスクが、主軸受に軸受されたクランクシャフトジャーナルに対して最小の間隔で終わる場合に限って、シールディスクは、半径方向内側に向かって延在する。
【0016】
シールディスクが、もっぱら、主軸受の領域からクランク室への潤滑油の流出を防止もしくは十分防止する目標のために使用される、従って適切なオイルのフィードバックのために使用されない場合、これは、クランクシャフトの主軸受の領域のオイルフローの抑制を必要とする。主軸受オイル供給部のリークが抑制されるので、これは、クランクシャフトのコンロッド軸受の領域のオイル送量を高める。これにより、コンロッド軸受の最適な潤滑が得られる。
【0017】
この純粋な絞り構成に関して、軸受の包囲とオイルのフィードバックは、別々に考察すべきである。この観点から、本発明の発展形は、オイルトラフが、取付け状態で、オイル用のアンダドレンを備えることを提案する。シールディスクとアンダドレンに基づいて、飛散損失が低減され、オイルを迅速にオイルパンに戻すことができる。
【0018】
オイル用のアンダドレンは、特に、シールディスク又は軸受シートと固定されたカバーによってカバーされた、クランクシャフトウェブに向かって開放したオイルトラフを備える。構造的に特に簡単な、加えて特に簡単な組立てを可能にする形成は、それぞれのカバーとこれに隣接するシールディスクが、一体的に形成されている場合に得られる。従って、カバーとシールディスクは、一緒に1つの作業工程で組み立てられる。
【0019】
金属板は、シールディスク及び/又はカバー用の好ましい材料である。これは、簡単な打抜き及び成形工程によって固定プレートの製造を可能にするために有利な変形特性を備えることで、シールディスクもしくはカバーを薄肉に製造することを可能にする。
【0020】
本発明の別の特徴は、従属請求項、後続の図面の説明及び図面自体に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の好ましい実施例を、図面を基にして詳細に説明する。
【0022】
内燃機関は、6シリンダのボクサーエンジンである。クランクケースは、垂直に分割されている。それぞれのクランクケース半体1は、6つの軸受シート2を備える。両クランクケース半体1の軸受シートは、図示してない主軸受を備え、その中に、同様に図示してないクランクシャフトが、その主軸受ジャーナルの領域を軸受けされている。軸受シート2のオイル供給溝3を介して、この軸受シートに付設された主軸受は潤滑油を供給される。軸受シート2の切欠き4は、主軸受の位置決めに使用される。
【0023】
図2は、図示した軸受シート2に対して、この軸受シートが、その両方の軸方向の端面に、従ってそのクランクシャフトのクランクシャフトウェブ側に、半径方向内側に向かって、従って主軸受に向かって、そして軸方向に、従ってクランクシャフトウェブに向かって、開放したオイルトラフ5を備える。これらオイルトラフは、それぞれ半円形に延在する。半径方向外側で、それぞれのオイルトラフ5に半円形のリング状部分6が続き、このリング状部分は、軸受シート2の半径方向に接続する表面7に対して若干低くなっている。クランクケース半体1は、それぞれの軸受シート2の領域の、他方のクランクケース半体の軸受シートとの分離面の領域でオイル供給溝3の両側に、軸方向に延在する溝8を備え、その深さは、比較的小さく、表面7に対するリング状部分の段差の深さに相当する。
【0024】
クランクケースの取付け状態で、それぞれの軸受シート2は、下方両側に、軸方向と、他方のクランクケース半体の対応する軸受シートに対して開放したオイルトラフ9を備える。このオイルトラフ9の表面7に対する深さは、この表面7に対するオイルトラフ5の深さに相当する。
【0025】
軸受シート2には、リング状部分6の領域の弧のほぼ半分のところに、穿孔10が設けられており、この穿孔は、クランクシャフトの回転軸に対して斜めに配設され、その方向成分は、穿孔入口から出発して半径方向外側に整向されている。
【0026】
それぞれのオイルトラフ5とリング状部分6をカバーするために、図5に詳細に図示したシールディスク11が使用される。このシールディスクは、金属板から成る。シールディスクは、半円形に形成され、その半円形終端領域に固定プレート12を備える。この固定プレートは、シールディスク11の主面に対して垂直に配設及び整向されている。弧の半分の領域で半径方向外側の領域に、シールディスク11は、主面から斜めに突出する固定プレート12を備える。半径方向内側の半円形の周囲を、シールディスク11は、マイクロシールリップ又は特に研磨したマイクロシールエッジ14として形成されている。半径方向内側を、このマイクロシールエッジ14は、若干軸方向に、即ち固定プレート12の方向に、整向されている。一方の固定プレート12に隣接して、シールディスク11は、長方形断面の窓15を備える。
【0027】
図2の状態から出発して、図3は、クランクケース半体1と結合された一方の軸受シート2の領域の2つのシールディスク11を図示する。それぞれのシールディスク11は、軸受シートの窪んだ表面7に当接し、固定プレート12が軸受シート2の溝8に導入され、更に、固定プレート13が軸受シート12の穿孔10に挿入されている。固定プレート13の初期位置が斜めであるため、シールディスク11は、予荷重をもって軸受シート2に保持される。固定プレーと12の自由端領域の折り返された突出部16は、溝8の窪みに挿入されるので、シールディスク11は、軸受シート2に不動に保持される。
【0028】
軸受シート2に対するそれぞれのシールディスク11のこの配設に基づいて、付設されたオイルトラフ5は、クランクシャフトウェブに向かってシールされている。この場合、シールディスク11は、クランクシャフトウェブに接触していない。
【0029】
それぞれのシールディスク11は、取付け状態で窓15が下に配設されるように組み立てられている。図4は、オイル用のアンダドレンを構成するオイルトラフ9が、細長い、同様に金属板から製造されたカバー17によってカバーされていることを図示する。弧のカバーは、窓15に引っ掛けられ、場合によっては付加的にその下端領域を軸受シート2と結合されている。同様に、それぞれのシールディスク11とカバー17を一体的に形成し、これにより、この部品が半円形の部分とこれに続く半径方向の部分を備えるようにすることも考えられる。オイルトラフ9とカバー17の間に、オイル用の排出シャフトが構成されている。両クランクケース半体と主軸受とクランクシャフトが組み立てられ、軸受シート2が本発明によるカバーを備えた場合、クランクケース半体1のシールディスク11の協働により、2つのシールディスク11によってカバーされた閉じたオイルトラフが得られ、更に、両クランクケース半体のオイルトラフ9は、軸受シート2の横に配設されたシールディスク11の領域を、シールディスクと結合された両カバー17によってカバーされている。シールディスク11は、非接触で、シール間隙をもって、そのマイクロシールエッジ又はシールリップ14を介して主軸受ジャーナルに対してシールをする。これにより、それぞれの主軸受の領域の軸受シートの密閉と、主軸受から下方へのオイルのシール状態での排出が保証されている。
【0030】
図6及び7による実施形は、主軸受に供給される潤滑油の抑制の観点からの、従って、図1〜4による実施形に従って説明した適切なオイルの排出の観点からではない、クランクシャフトの主軸受を包囲するための装置の使用に関する。主軸受と、軸受シート2の主軸受を取り囲む領域を最適に包囲するため、図5に記載したシールディスク11は、シールディスクが窓15を備えないように変更を加えられている。カバー17も設けられていない。軸受シート2は、図7から分かるように、オイルトラフ9を備えない。主軸受を包囲し、これにより主軸受オイル供給部のリークを抑制する図6及び7の実施形の場合、クランクシャフトのコンロッド軸受のオイル送量を高め、これにより、コンロッド軸受の潤滑効果を改善する。
【0031】
図7から分かるように、図示したクランクケース半体1の軸受シート2の領域で、第1の実施形のように、2つのシールディスク11が軸受シート2と結合されている。この場合、各シールディスク11は、2つの固定プレート12を備える。両シールディスク11を一体的に、従ってツインフレームの形式で、形成することも、十分考えられる。この場合、両シールディスク11の間の固定プレート12の間の分離がなくなり、従って、固定プレートが結合されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】最適な潤滑油の排出をするために本発明による装置を備えた、内燃機関のクランクケース半体の側面図を示す。
【図2】シールディスクとカバーを図示してない、軸受シートの領域の、図1に示したクランクケース半体の斜視図を示す。
【図3】シールディスクを図示した図2の斜視図を示す。
【図4】シールディスクとカバーを図示した図2及び3の斜視図を示す。
【図5】シールディスクの斜視図を示す。
【図6】図5に相当する図で、変更を加えたシールディスクを示す。
【図7】オイルドレンを備えない、クランクケース半体に2つの図5のシールディスクを配設したところを示す。
【符号の説明】
【0033】
1 クランケケース半体
2 軸受シート
3 オイル供給溝
4 切欠き
5 オイルトラフ
6 リング状部分
7 表面
8 溝
9 オイルトラフ
10 穿孔
11 シールディスク
12 固定プレート
13 固定プレート
14 マイクロシールリップ
15 窓
16 突出部
17 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸受が、オイル供給溝(3)を介してオイルを供給され、主軸受用の軸受シート(2)が、そのクランクシャフトのクランクシャフトウェブ側に、主軸受とクランクシャフトウェブに向かって開放したオイルトラフ(5)を備える、クランクシャフトの主軸受を包囲するための装置において、
オイルトラフ(5)が、軸受シート(2)に固定されるシールディスク(11)によってクランクシャフトウェブに向かってカバーされていることを特徴とする装置。
【請求項2】
それぞれのシールディスク(11)が、半円形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
それぞれのシールディスク(11)が、その半円形終端領域を軸受シート(2)に保持されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
それぞれのシールディスク(11)が、その半円形終端領域に、軸受シート(2)の分離面内の溝(8)に係合する固定プレート(12)を備えることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
それぞれのシールディスク(11)が、少なくとも1つの固定プレート(13)を備え、それぞれの固定プレートが、軸受シート(2)の穴(10)、特に穿孔、に係合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
穴(10)もしくは穿孔が、クランクシャフトの回転軸に対して斜めに配設されていることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
固定プレート(12,13)が、予荷重をもって軸受シート(2)に接触することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の装置。
【請求項8】
それぞれのシールディスク(11)が、主軸受方向に整向された半径方向のインナエッジを備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の装置。
【請求項9】
半径方向のインナエッジが、主軸受に対してシールをするためにマイクロシールエッジ、特に研磨したマイクロシールエッジ、又はマイクロシールリップ(14)として形成されていることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
それぞれのシールディスク(11)が、非接触で主軸受に向かってシールをすることを特徴とする請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
軸受半体に付設される2つのシールディスク(11,11)が、一体的に形成されていることを特徴とする請求項2〜10のいずれか1つに記載の装置。
【請求項12】
オイルトラフ(5)が、取付け状態で、オイル用のアンダドレン(9)を備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
アンダドレン(9)が、シールディスク(11)及び/又は軸受シート(2)と固定されたカバー(17)によってカバーされた、クランクシャフトウェブに向かって開放したオイルトラフ(9)を備えることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
それぞれのカバー(17)とこれに隣接するシールディスク(11)が、一体的に形成されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
シールディスク(11)及び/又はカバー(17)が、金属板であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−127864(P2009−127864A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295353(P2008−295353)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】