説明

クランプ及び車両用ボデー構造

【課題】長尺部材を挟持したクランプを保持力を低下させることなく被取付体に容易に取付けることができるクランプ及び車両用ボデー構造を得る。
【解決手段】クランプ10は、チューブを挟持する挟持部18、20、22が形成されたクランプ本体12と、クランプ本体12に対してスライド可能な爪部16が形成された保持部材14とを備えている。クランプ本体12には、上面部12Aに長孔26と、側壁12B、12Cに開口部28とが形成されており、爪部16が長孔26に挿通され、爪部16の根元に設けられた支持部30が開口部28に挿通されている。これにより、クランプ本体12の挟持部18、20、22にチューブを挟持した後に、爪部16を車両用ボデー70の取付孔72の位置に合わせてスライドさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランプ、及びこのクランプを用いた車両用ボデー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、チューブを車両用ボデーの所定位置に取付ける場合、チューブに樹脂製のクランプを先に組み付け、クランプに設けられた爪部を車両用ボデーの孔内に挿入してクランプを固定する構造が開示されている。
【特許文献1】特開2004−218762号公報(例えば、図6を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術による場合、チューブにクランプを組み付けると同時にスラスト力が発生し、クランプを軸方向に移動させることが困難となる。このため、クランプと車両用ボデーの孔の位置が正確に合わないとクランプの爪部を車両用ボデーの孔へ挿入することができず、作業性が低下する。一方、車両用ボデーの孔を長孔にすれば多少自由度が増すが、クランプの保持力が低下してしまう。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、長尺部材を挟持したクランプを保持力を低下させることなく被取付体に容易に取付けることができるクランプ及び車両用ボデー構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係るクランプは、長尺部材を挟持するクランプ本体と、前記クランプ本体に対してスライド可能に保持され、被取付体に形成された取付孔に係合して前記クランプ本体を固定させる爪部と、を有することを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1記載のクランプにおいて、前記クランプ本体に前記爪部の軸径よりも大きな孔を備え、前記爪部の根元に形成された支持部が前記孔にスライド可能に支持され、前記爪部を前記孔から突出させたことを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2記載のクランプにおいて、前記孔が長孔であり、前記長孔の長径部が前記クランプ本体に挟持される前記長尺部材の軸方向に沿って配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3に記載のクランプにおいて、前記支持部が板状体であり、前記クランプ本体に前記板状体がスライド可能に挿通される開口部を有することを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載のクランプにおいて、前記クランプ本体と、前記爪部及び前記支持部とが、樹脂により一型で成形されていることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明に係る車両用ボデー構造は、前記長尺部材が車両に配索されたチューブで、前記被取付体が車両用ボデーであり、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のクランプの前記クランプ本体に前記チューブを挟持させて前記クランプ本体を前記車両用ボデーに固定したことを特徴とする。
【0011】
請求項1記載の本発明によれば、クランプは長尺部材を挟持するクランプ本体を備えており、クランプ本体に対して爪部がスライド可能に保持されている。クランプ本体に長尺部材を挟持させるとスラスト力が発生し、クランプ本体の軸方向移動が困難となるが、クランプ本体に対して爪部をスライドさせることにより、爪部を被取付体の取付孔の位置に合わせることができ、取付孔に対する相対的な組付位置のバラツキを吸収することができる。そして、爪部を取付孔に係合させることにより、クランプ本体が被取付体に固定される。従って、クランプ本体を保持する保持力を低下させることなく爪部を被取付体の取付孔に容易に係合させることができ、取付け時の作業性が向上する。
【0012】
請求項2記載の本発明によれば、クランプ本体に爪部の軸径よりも大きな孔が設けられており、爪部を孔から突出させた状態で、爪部の根元に形成された支持部が孔にスライド可能に支持されている。これにより、支持部が孔から抜けることがなく、爪部が孔の範囲でスライドする。このため、簡単な構成で、被取付体の取付孔の位置に合わせて爪部をスライドさせることができる。
【0013】
請求項3記載の本発明によれば、孔が長孔であり、長孔の長径部がクランプ本体に挟持される長尺部材の軸方向に沿って配置されているので、クランプ本体に長尺部材を挟持させることによりスラスト力が発生しても、クランプ本体に対して爪部を長尺部材の軸方向に沿ってスライドさせることができる。このため、爪部と被取付体の取付孔の位置をより確実に合致させることができる。
【0014】
請求項4記載の本発明によれば、爪部の支持部が板状体であり、クランプ本体の開口部に板状体がスライド可能に挿通されているので、板状体を開口部に沿ってスライドさせることで、爪部を孔の範囲でスムーズにスライドさせることができる。このため、簡単な構成で、被取付体の取付孔の位置に合わせて爪部をスムーズにスライドさせることができる。
【0015】
請求項5記載の本発明によれば、クランプ本体と、爪部及び支持部とが、樹脂により一型で成形されているので、別々に成形したクランプ本体と爪部及び支持部とを組み立てる必要がなく、クランプの製造が容易である。このため、生産効率を向上させることができる。
【0016】
請求項6記載の本発明によれば、クランプ本体にチューブを挟持させることによりスラスト力が発生しても、クランプ本体に対して爪部をスライドさせることで、爪部を車両用ボデーの取付孔に位置に合致させることができる。このため、クランプ本体を保持する保持力を低下させることなく爪部を車両用ボデーの取付孔に容易に係合させることができ、取付け時の作業性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係るクランプは、クランプ本体を保持する保持力を低下させることなく、長尺部材を挟持したクランプ本体の爪部を被取付体の取付孔に容易に取付けることができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項2記載の本発明に係るクランプは、簡単な構成で、爪部をクランプ本体の孔の範囲でスライドさせることができるという優れた効果を有する。
【0019】
請求項3記載の本発明に係るクランプは、簡単な構成で、爪部をクランプに挟持した長尺部材の軸方向に沿ってスライドさせることができるという優れた効果を有する。
【0020】
請求項4記載の本発明に係るクランプは、簡単な構成で、爪部を被取付体の取付孔の位置に合わせてスムーズにスライドさせることができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項5記載の本発明に係るクランプは、クランプの製造が容易であり、低コスト化が可能であると共に、生産効率を向上させることができることができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項6記載の本発明に係る車両用ボデー構造は、チューブを挟持したクランプを車両用ボデーに容易に取付けることができ、車両の組立ラインの生産効率を向上させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1〜図9を用いて、本発明に係るクランプの一実施形態について説明する。
【0024】
図1〜図4には、クランプ10の全体構成が示されている。また、図5には、図3に示すクランプ10のA−A線における断面図、図6には、図2に示すクランプ10のB−B線における部分断面図が示されている。これらの図に示されるように、クランプ10は、長尺部材としてのチューブ60、62、64(図8参照)をそれぞれ挟持可能なクランプ本体12と、このクランプ本体12に対してスライド可能に保持される爪部16が設けられた保持部材14と、で構成されている。
【0025】
クランプ本体12は、樹脂成形体からなり、図1中の上方に配置された上面部12Aと、この上面部12Aの長手方向と直交する方向に配置された両側の側壁12B、12Cと、を備えている。また、クランプ本体12には、径の異なるチューブ60、62、64(図8参照)をそれぞれ挟持するための挟持部18、20、22が設けられている。挟持部18、20、22は、クランプ本体12の長手方向の一端部12D側から順にほぼ平行に配置されており、チューブ60、62、64(図8参照)の軸方向がクランプ本体12の長手方向と直交する方向に挟持される構成となっている。
【0026】
挟持部18は、クランプ本体12の長手方向の一端部12Dに設けられており、一端部12Dの下部から略円弧状に延びた係止片18Aを備えている。係止片18Aは、周方向の略3/4の長さで形成されており、係止片18Aの先端部とクランプ本体12の一端部12Dの上部との間に開口19が設けられている。係止片18Aの先端部には、半径方向に延びた突片18Bが形成されている。係止片18Aは、クランプ本体12の一端部12Dに対して近接・離間する方向に弾性変形が可能であり、突片18Bを把持して係止片18Aをクランプ本体12の一端部12Dに対して離間する方向に変形させ、開口19を拡げることにより、チューブ60(図8参照)を係止片18Aに挟持することが可能となっている。
【0027】
クランプ本体12の上面部12Aの中間部には窪み部12Eが形成されており、この窪み部12Eに挟持部20が設けられている。挟持部20は、窪み部12Eから略円弧状に凹んだ凹部20Aを備えている。凹部20Aは、周方向の略2/3の長さで形成されており、凹部20Aの開口21と対向する位置に、クランプ本体12の窪み部12Eの一方(他端部12F側)から延びた2つの係止片20Bを備えている。係止片20Bは、凹部20Aに対して近接・離間する方向に弾性変形が可能であり、凹部20Aの開口21からチューブ62(図8参照)を挿入することにより、凹部20Aと係止片20Bとの間でチューブ62(図8参照)を挟持することができるようになっている。
【0028】
挟持部22は、クランプ本体12の他端部12Fに設けられており、クランプ本体12から上下方向に延びた略円弧状の2つの係止片22A、22Bを備えている。2つの係止片22A、22Bは、周方向の略3/4の長さで形成されており、2つの係止片22A、22Bの先端部には、開口23が設けられている。係止片22Bの先端部には、半径方向に延びた突片22Cが形成されている。係止片22Aは厚肉で変形しにくいのに対し、係止片22Bは薄肉で係止片22Aに対して近接・離間する方向に弾性変形が可能となっている。そして、突片22Cを把持して係止片22Bを係止片22Aに対して離間する方向に変形させ、開口23を拡げることにより、チューブ64(図8参照)を係止片22A、22Bに挟持することができるようになっている。
【0029】
クランプ本体12の一端部12D側の上面部12Aには、長孔26が形成されており、長孔26の長径部はクランプ本体12の長手方向と直交する方向に配置されている。長孔26の内径は、爪部16の軸径よりも大きく形成されており、長孔26に挿通された爪部16がスライド可能となっている。
【0030】
クランプ本体12の一端部12D側には、クランプ本体12の長手方向と直交する方向に沿って側壁12B、12Cを貫通する開口部28が設けられている。開口部28は、側壁12B、12Cに矩形状に形成されており、開口部28の中間部は長孔26と連通している。また、図4に示されるように、クランプ本体12の側壁12B、12Cの間では、開口部28の下部側に壁が設けられておらず、クランプ本体12の下部側が開口している。
【0031】
保持部材14は、クランプ本体12の開口部28に挿通される板状の支持部30を備えており、支持部30の中央部から爪部16が突設されている。すなわち、支持部30は爪部16の根元部に形成されており、爪部16がクランプ本体12の長孔26から突出された状態で、支持部30がクランプ本体12の開口部28内をスライド可能となっている。
【0032】
なお、図3、図5及び図6では、支持部30が開口部28の中央部に浮いたように図示されているが、これは、クランプ本体12及び保持部材14が樹脂により一型で成形された状態が示されている。実際には、保持部材14の自重により、支持部30の下部が開口部28の下部面に接している。
【0033】
爪部16は、支持部30から立設された円筒状の軸部16Aと、軸部16Aの両側から半径方向に突出する2つの係合爪16Bと、軸部16Aの周方向における係合爪16Bの両側に形成された割溝16Cと、を備えている。軸部16Aと係合爪16Bとは、割溝16Cの上部で連続している。また、図4に示されるように、支持部30には、円筒状の軸部16Aの円形の開口と連続する円形の開口が設けられている。
【0034】
2つの係合爪16Bは、クランプ本体12の長手方向と直交する方向にそれぞれ形成されており、車両用ボデー70に形成された取付孔72(図7参照)に係合可能となっている。すなわち、係合爪16Bは、両側に割溝16Cが設けられていることにより、軸部16Aに対して縮径する方向に弾性変形が可能であり、係合爪16Bを軸部16Aの径より僅かに大きく形成された円形状の取付孔72(図7参照)に係合させることができる。係合爪16Bは、取付孔72(図7参照)に挿入しやすく、外れにくいように、上部にテーパ面が形成され、下部が軸部16Aに対して略直角方向に突出した形状となっている。
【0035】
支持部30は、板状体からなり、図4に示されるように、長手方向両端部の下部と中央部付近に複数の切り欠き30A、30Bが形成されている。複数の切り欠き30A、30Bは、樹脂材料を削減するために設けられている。支持部30の外形は、クランプ本体12の開口部28よりも小さく形成されており、支持部30を開口部28に沿ってクランプ本体12の長手方向と直交する方向(図1中の矢印方向)にスライドさせることができると共に、クランプ本体12の長手方向にもスライドさせることができる。また、支持部30は、開口部28内を上下方向に移動するようになっており、支持部30の上部が開口部28の上部面に接触したときに、係合爪16Bが車両用ボデー70に形成された取付孔72(図7参照)に係合されるように設定されている。すなわち、支持部30の上部が開口部28の上部面に接触したときに、クランプ本体12の上面部12Aに対する係合爪16Bの係合ポイントが、車両用ボデー70の板厚とほぼ一致するように設定されている。
【0036】
本実施形態のクランプ10では、クランプ本体12と保持部材14とを樹脂により一型で成形することができる。ここで、「一型で成形」とは、複数に型割りされた金型を用いて、クランプ本体12と保持部材14とを樹脂により一の成形工程で金型を入れ替えずに成形することをいう。このクランプ10の製造方法については後述する。また、本実施形態では、チューブ60、62、64として、車両の燃料タンクに接続される燃料注入管、ブリーザチューブなどのチューブが用いられている。
【0037】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0038】
図7に示されるように、このクランプ10では、クランプ本体12の長孔26から保持部材14の爪部16が突出しており、保持部材14の支持部30がクランプ本体12の開口部28に挿通されている。支持部30により爪部16の長孔26からの抜け出しが防止されると共に、支持部30をクランプ本体12の開口部28に沿ってスライドさせることにより、クランプ本体12に対して爪部16を長孔26の範囲でスライドさせることができる。
【0039】
図8に示されるように、クランプ10を組み付ける際には、まずクランプ本体12の挟持部18、20、22にそれぞれチューブ60、62、64を挟持させる。挟持部18にチューブ60を挟持させる際には、突片18Bを把持して係止片18Aをクランプ本体12の一端部12Dに対して離間する方向に弾性変形させ、開口19を拡げて係止片18Aにチューブ60を挿入する。これにより、係止片18Aが元の状態に戻り、挟持部18にチューブ60が挟持される。また、挟持部20にチューブ62を挟持させる際には、凹部20Aの開口21からチューブ62を挿入する。これにより、係止片20Bが凹部20Aの方向に弾性変形し、係止片20Bと凹部20Aとの間でチューブ62が挟持される。さらに、挟持部22にチューブ64を挟持させる際には、突片22Cを把持して係止片22Bを係止片22Aに対して離間する方向に弾性変形させ、開口23を拡げて係止片22Bと係止片22Aとの間にチューブ64を挿入する。これにより、係止片22Bが元の状態に戻り、チューブ64が係止片22A、22Bに挟持される。
【0040】
このようにチューブ60、62、64をクランプ本体12の挟持部18、20、22に挟持させるとスラスト力が発生し、クランプ本体12の軸方向移動が困難となる。この状態で、クランプ本体12に対して爪部16をスライドさせることにより、爪部16を車両用ボデー70の取付孔72の位置に合致させることができる(図7参照)。そして、図8(A)に示されるように、支持部30の下部(図8(B)のドット部分)を押して爪部16を取付孔72に挿入することにより、係合爪16Bが縮径する方向に弾性変形し、さらに図9(A)、(B)に示されるように、係合爪16Bの突出部が取付孔72から抜け出ると、係合爪16Bの弾性復元力により係合爪16Bの突出部が取付孔72に係合される。このとき、支持部30の上部がクランプ本体12の開口部28の上部面に接触すると共に、クランプ本体12の上面部12Aと車両用ボデー70とが面接触し、クランプ10が車両用ボデー70に固定される。
【0041】
このようなクランプ10では、爪部16をクランプ本体12に対してスライドさせることで、爪部16を車両用ボデー70の取付孔72の位置に合致させることができ、取付孔72の位置のバラツキを吸収することができる。このため、爪部16を車両用ボデー70の取付孔72に容易に係合させることができ、取付け時の作業性が向上する。
【0042】
これに対して、爪部がクランプ本体12に固定されたクランプでは、爪部をクランプ本体12に対してスライドさせることができず、チューブ60、62、64をクランプ本体12の挟持部18、20、22に挟持させたときに、爪部と車両用ボデー70の取付孔72の位置が正確に合わないと、クランプを車両用ボデー70に取付けることができない。このため、取付け作業が煩雑である。一方、車両用ボデー70の取付孔を長孔とすることで、車両用ボデー70の取付孔に対する相対的な組付位置のバラツキを吸収することが可能であるが、爪部の保持力が低下してしまう。
【0043】
これに対して、本実施形態では、爪部16がクランプ本体12に対してスライド可能であるので、爪部16を車両用ボデー70の取付孔72の位置に合致させることができる。このため、爪部16の保持力を低下させることなく車両用ボデー70の取付孔72に対する相対的な組付位置のバラツキを吸収することができ、クランプ10を車両用ボデー70の取付孔72に容易に取付けることができる。
【0044】
図10及び図11には、本実施形態の変形例に係るクランプ80が示されている。なお、なお、前述した実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0045】
このクランプ80では、樹脂材料を削減するためにクランプ本体82の挟持部22の周囲に周方向に沿って複数の凹部82A、82B、82C、82Dが形成されている。また、クランプ本体82の上面部12Aの中間部に窪み部84Aが形成されており、窪み部84Aに挟持部20が設けられている。また、挟持部20には、窪み部84Aの一方(一端部12Dの側)から延びた係止片84Bが設けられている。クランプ本体82の側壁12B、12Cには開口部28が形成されており、図10(B)に示されるように、開口部28の間のクランプ本体82の下部側には壁が設けられておらず、下部側が開口している。また、開口部28には、保持部材86がスライド可能に配設されている。
【0046】
保持部材86は、爪部16の根元に板状の支持部88を備えており、支持部88が開口部28にスライド可能に挿通されている。図10(B)に示されるように、支持部88には、樹脂材料を削減するために長手方向両端部に切り欠き88A、88Bが形成されており、長手方向中間部に2個の凹部88Cと2個の切り欠き88Dが形成されている。
【0047】
このようなクランプ80では、チューブ60、62、64をクランプ本体82の挟持部18、20、22に挟持させるとスラスト力が発生し、クランプ本体82の軸方向移動が困難になるが、クランプ本体82に対して保持部材86の爪部16をスライドさせることにより、爪部16を車両用ボデー70の取付孔72の位置に合致させることができる。このため、支持部88の下部(図10(B)のドット部分)を押して爪部16を取付孔72に挿入することで、爪部16の係合爪16Bを取付孔72に容易に係合させることができる。このため、クランプ10を車両用ボデー70に取付けるときの作業性が向上する。
【0048】
図12及び図13に示されるように、クランプ本体82と保持部材86は、樹脂により一型で成形することができる。すなわち、クランプ本体82の開口部28付近と保持部材86を成形する金型100は、クランプ本体82の開口部28の下部側及び保持部材86の下部側(図1参照)の外壁面を成形する第1金型部材102と、クランプ本体82の長孔26及び保持部材86の上部側(図1参照)の外壁面を成形する第2金型部材104と、クランプ本体82の側壁12B側の開口部28及び保持部材86の側壁12B側の外壁面を成形する第3金型部材106と、クランプ本体82の側壁12C側の開口部28及び保持部材86の側壁12C側の外壁面を成形する第4金型部材108に型割りされている。これらの第1金型部材102、第2金型部材104、第3金型部材106、第4金型部材106は成形機に一型に組み込まれている。なお、クランプ本体82の他の部分を成形する金型部材については省略する。
【0049】
図13に示されるように、第1金型部材102は、クランプ本体82の側壁12B、12Cと開口部28、及び支持部88の下部側の凹部88Cと切り欠き88D等を形成するための突出部102Aを備えており、さらに突出部102Aの先端に爪部16の内壁面等を形成するための突起102Bを備えている。第1金型部材102は上部側から上下方向に移動するように設定されている。また、第2金型部材104は、クランプ本体82の長孔26と爪部16の外壁面等を形成するための1対の突起104Aを備えている。第2金型部材104は下部側から上下方向に移動するように設定されている。
【0050】
第3金型部材106は、クランプ本体82の側壁12B側の開口部28を形成するための開口部形成部106Aと、開口部形成部106Aの内側に支持部88の端部付近を形成するための凹み部106Bと、支持部88及び爪部16の周面を形成するための略U字状の突起106Cと、を備えている。第3金型部材106は、クランプ本体82の側壁12B側から開口部28に対する支持部88のスライド方向に沿って略水平方向に移動するように設定されている。また、第4金型部材108は、第3金型部材106と左右対称であり、クランプ本体82の側壁12C側の開口部28を形成するための開口部形成部108Aと、開口部形成部108Aの内側に支持部88の端部付近を形成するための凹み部(図示省略)と、支持部88及び爪部16の周面を形成するための略U字状の突起108Cと、を備えている。第4金型部材108は、クランプ本体82の側壁12C側から開口部28に対する支持部88のスライド方向に沿って略水平方向に移動するように設定されている。
【0051】
ここで、クランプ80の製造方法について説明する。図12に示されるように、金型100を用い、第1金型部材102、第2金型部材104、第3金型部材106、第4金型部材108をそれぞれ組み付け方向に移動させ、樹脂によりクランプ本体82の長孔26及び開口部28付近と保持部材86を成形する。これにより、図13に示されるように、クランプ本体82の長孔26及び開口部28付近と、長孔26にスライド可能に保持される爪部16及び開口部28にスライド可能に支持される支持部88を備えた保持部材86が製造される。このため、4つに型割りされた金型100を用いることにより、クランプ本体82の長孔26及び開口部28付近と保持部材86とを1回の成形工程で金型100を入れ替えずに製造することができる。
【0052】
このため、クランプ本体82と、爪部16及び支持部88を備えた保持部材86とを別々に成形して組み立てる必要がなく、クランプ80の製造が容易である。このため、低コスト化が可能であると共に、生産効率を向上させることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、クランプ80の製造方法について説明したが、クランプ10(図1参照)についても同様の型割りの金型を用いることにより、クランプ本体12の開口部28付近と、爪部16及び支持部30を備えた保持部材14とを1回の成形工程で金型を入れ替えずに製造することができる。
【0054】
〔実施形態の補足説明〕
上述した実施形態では、クランプ本体12に3本のチューブ60、62、64を挿入する挟持部18、20、22を設けたが、チューブを挟持する挟持部の個数や形状は、これに限定されず、他の個数や形状に設定することができる。
【0055】
上述した実施形態では、チューブ60、62、64として、車両用の燃料タンクに接続される燃料注入管やブリーザチューブが用いられているが、これに限定されず、他のチューブを用いることができる。また、チューブに限定されず、ワイヤーハーネスなどの他の長尺部材を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一実施形態に係るクランプを示す斜視図である。
【図2】図1に示すクランプの平面図である。
【図3】図1に示すクランプの側面図である。
【図4】図1に示すクランプの底面図である。
【図5】図3に示すA−A線におけるクランプの断面図である。
【図6】図2に示すB−B線におけるクランプの断面図である。
【図7】図1に示すクランプの爪部を車両用ボデーの取付孔に係合させる工程を示す斜視図である。
【図8】図1に示すクランプの爪部を車両用ボデーの取付孔に係合させる工程を示す側面図である。
【図9】図1に示すクランプの爪部を車両用ボデーの取付孔に係合させた状態を示す側面図である。
【図10】変形例に係るクランプの爪部を車両用ボデーの取付孔に係合させる工程を示す側面図である。
【図11】図10に示すクランプの爪部を車両用ボデーの取付孔に係合させた状態を示す側面図である。
【図12】図10に示すクランプのクランプ本体と保持部材を成形する金型の型割りを示す斜視図であって、金型を閉じた状態で示す斜視図である。
【図13】図10に示すクランプのクランプ本体と保持部材を成形する金型の型割りを示す斜視図であって、金型を開いた状態で示す斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
10 クランプ
12 クランプ本体
14 保持部材(爪部と支持部が形成された部材)
16 爪部
18 挟持部(長尺部材が挟持される部分)
20 挟持部(長尺部材が挟持される部分)
22 挟持部(長尺部材が挟持される部分)
26 長孔(孔)
28 開口部
30 支持部
60 チューブ(長尺部材)
62 チューブ(長尺部材)
64 チューブ(長尺部材)
70 車両用ボデー
72 取付孔
80 クランプ
82 クランプ本体
86 保持部材(爪部と支持部が形成された部材)
88 支持部
100 金型(クランプ本体と爪部及び支持部を一型で成形する金型)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺部材を挟持するクランプ本体と、
前記クランプ本体に対してスライド可能に保持され、被取付体に形成された取付孔に係合して前記クランプ本体を固定させる爪部と、
を有することを特徴とするクランプ。
【請求項2】
前記クランプ本体に前記爪部の軸径よりも大きな孔を備え、
前記爪部の根元に形成された支持部が前記孔にスライド可能に支持され、前記爪部を前記孔から突出させたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ。
【請求項3】
前記孔が長孔であり、前記長孔の長径部が前記クランプ本体に挟持される前記長尺部材の軸方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項2に記載のクランプ。
【請求項4】
前記支持部が板状体であり、
前記クランプ本体に前記板状体がスライド可能に挿通される開口部を有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のクランプ。
【請求項5】
前記クランプ本体と、前記爪部及び前記支持部とが、樹脂により一型で成形されていることを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載のクランプ。
【請求項6】
前記長尺部材が車両に配索されたチューブで、前記被取付体が車両用ボデーであり、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のクランプの前記クランプ本体に前記チューブを挟持させて前記クランプ本体を前記車両用ボデーに固定したことを特徴とする車両用ボデー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−52627(P2009−52627A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218690(P2007−218690)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】