説明

クロストーク抑制回路基板

【課題】回路基板の高密度化を阻害せずにクロストークを十分に抑制することができるクロストーク抑制回路基板を提供する。
【解決手段】本発明のクロストーク抑制回路基板2は、樹脂製の絶縁基板4と、絶縁基板4の一方の面に位置付けられたグランド層8と、絶縁基板4のグランド層8とは反対側の面に位置付けられた配線回路12とを備え、この配線回路12は、所定のパターンにて形成された信号線16と、信号線16の外表面を覆う磁性体からなる被覆材14と、信号線16及び被覆材14を埋設する樹脂製の保護絶縁層18とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並行して配設された信号線間で生じるクロストークを抑制することができる構造を備えたクロストーク抑制回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
配線パターンを形成する信号線を含む回路基板においては、信号線に信号が通るたびに信号線の周囲に磁界が生じる。ここで、2本の信号線が近接して配設されている場合、2つの磁界が互いに作用しあい、互いの信号線間で信号の結合が起こり、いわゆるクロストークが発生する。このようなクロストークが発生すると、回路に組み込まれた電子部品に動作不良を発生させることがある。
【0003】
このクロストークは、信号線間の間隔が狭いほど、信号線の線路長が長いほど、また、信号の周波数が高いほど大きくなるため、回路基板の高密度化、大規模化、高速化にともない、クロストークの問題が顕在化する。このため、回路基板の高密度化等を図るためには、クロストーク対策が必要となっている。
ここで、クロストーク対策を施した回路基板としては、例えば、特許文献1に示すようなクロストークノイズ低減多層配線回路基板が挙げられる。
このクロストークノイズ低減多層配線回路基板は、回路基板に含まれる信号線を囲むように断面視で凹形状のグランドを配置して信号線からの信号の漏れを抑え、クロストークノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−209367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の回路基板は、信号線のまわりを囲むように凹形状のグランドを配置するので回路基板内の構造が複雑となり、製造に手間がかかる。このため、製造コストが嵩むといった問題がある。
また、回路基板内において信号線と間隔をあけて凹形状のグランドを配置するためのスペースが必要となるので、回路基板の高密度化を進める上で限界がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、簡単な構造で製造に手間がかからず、回路基板の高密度化を阻害せずにクロストークを十分に抑制することができるクロストーク抑制回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のクロストーク抑制回路基板は、樹脂製の絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の面に設けられたグランド層と、前記絶縁基板の前記グランド層とは反対側の面に設けられた配線回路とを備え、前記配線回路は、所定のパターンにて形成された信号線と、前記信号線の外表面を覆う磁性体からなる被覆材と、前記信号線及び前記被覆材を埋設する樹脂製の保護絶縁層とを含むことを特徴とする(請求項1)。
【0008】
また、本発明のクロストーク抑制回路基板は、前記配線回路が複数積層された多層構造の積層回路を備えた構成とすることが好ましい(請求項2)。
好ましくは、前記被覆材は、Ni−Pめっきである構成とする(請求項3)。
具体的には、前記Ni−Pめっき中のPの含有量が0重量%〜15重量%である構成とすることが好ましい(請求項4)。
また、前記Ni−Pめっきは、厚さが1μm〜10μmである構成とすることが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るクロストーク抑制回路基板によれば、信号線を覆う磁性体からなる被覆材による磁界のシールド効果が高いため、信号線からの磁界の漏れを抑制することができ、信号線間のクロストークの抑制に非常に有効である。磁性体からなる被覆材の形成には、従来用いられている方法、例えば、めっき法等を採用することができるので、被覆材は簡単に形成することができる。しかも、この被覆材は、信号線に密着しているので、回路基板に対して大幅な設計変更も不要である。このため、基板の製造コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るクロストーク抑制回路基板を示す断面図である。
【図2】第2の実施形態に係るクロストーク抑制回路基板を示す断面図である。
【図3】評価用基板の一部を示す斜視図である。
【図4】評価用基板を示す斜視図である。
【図5】被覆材のリン含有量を変えたときの遠端クロストーク量の周波数特性を示すグラフである。
【図6】被覆材の厚さを変えたときの遠端クロストーク量の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るクロストーク抑制回路基板2の横断面を示している。
図1に示すように、本発明に係るクロストーク抑制回路基板2は、基材として、絶縁基板4を備えている。この絶縁基板4としては、絶縁性を有する樹脂であれば特に限定はされないが、ガラス繊維を補強材としてエポキシ樹脂に含浸させたガラスエポキシ樹脂基板を用いるのが好ましい。
【0012】
この絶縁基板4の一方の面(下端面6)には、グランド層8が形成されている。このグランド層8は、銅箔からなり、その厚さは、例えば12〜105μmである。
そして、この絶縁基板4のグランド層8が形成された面とは反対側の面(外側面10)には、信号線16及びこの信号線16を埋設する保護絶縁層18を含む配線回路12が設けられている。以下、この配線回路12につき詳しく説明する。
【0013】
まず、絶縁基板4の外側面10には、所定のパターンにて形成された複数の信号線16が配設されている。この信号線16は、図1から明らかなように、断面矩形状をなしており、その下面20が絶縁基板4の外側面10に密着している。そして、信号線16の両側面22及び上面24は、磁性体からなる被覆材14で覆われている。
【0014】
ここで、被覆材14は、信号線16の周囲に所定厚さで密着している。このように、信号線16の周囲に密着した磁性体からなる被覆材は、磁路を形成する。よって、磁界の流れ、即ち、磁束は、図1中の矢印mで示すように、被覆材14内を通ることになる。このため、信号線16に信号が通ることに起因して生じる磁界は、被覆材14内を流れるので、漏れが抑えられる。その結果、シールド効果が発揮され、信号線間のクロストークは抑制される。本発明においては、磁性体からなる被覆材14が信号線16に密着しているので、隣接する信号線16同士の間隔を狭めることができ、配線パターンの高密度化を阻害しない。
【0015】
この被覆材14としては、Ni−Pめっきにより形成することが好ましい。
ここで、Ni−Pめっきは、Pの含有量が0重量%〜15重量%の範囲にあると、クロストークの抑制効果が発揮され好ましい。より好ましいPの含有量は、2重量%〜10重量%である。
また、Ni−Pめっきの厚さは、1μm〜10μmの範囲にあると、クロストークの抑制効果が発揮され好ましい。より好ましいNi−Pめっきの厚さは、2μm〜6μmである。
【0016】
以上のように被覆材14を有する信号線16は、ソルダレジスト等の保護絶縁層18で保護されることが好ましい。この保護絶縁層18は、エポキシ樹脂等の絶縁性の樹脂よりなり、絶縁基板4の外側面10において信号線16を完全に覆う所定厚さで形成されている。
【0017】
次に、本発明のクロストーク抑制回路基板2(4層基板)の製造方法について説明する。
まず、ガラスエポキシ樹脂基板からなる絶縁基板9に銅箔が貼着された両面板(コア材)7を準備する。ここで、両面板は、両面に銅箔が既に形成されているので、この銅箔をグランド層8として利用できるので好ましい。
その後、両面板7の両面に対し、プリプレグ(絶縁基板4)と銅箔とを通常の積層プレス条件で積層して、4層基板を作成する。最外面の両面を従来の方法、例えば、サブトラクティブ法等により銅からなる信号線16を所定パターンで形成する。
【0018】
次に、所定パターンの信号線16が形成された絶縁基板4に対して、信号線16以外の部分にめっきレジストを形成し、めっきレジストのない信号線16の外表面に対しNi−Pめっきを施す。詳しくは、以下のようにして信号線16の外表面をNi−Pめっきで覆う。
Ni−Pめっきは、ジアリン酸塩を還元剤として用いた無電解ニッケルめっきを実施することにより行い、信号線16の外表面をNi−Pめっきで覆う。
【0019】
次に、外表面をNi−Pめっきで覆われた信号線16の所定のパターンを備えた絶縁基板4の外側面10に対し、信号線16のパターンの全体を覆うように保護絶縁層18を形成する。この保護絶縁層18は、一般的なソルダレジストを形成する工法で行えばよい。例えば、以下のようにして形成される。
【0020】
まず、絶縁性樹脂インクを準備する。この絶縁性樹脂インクは、エポキシ樹脂及び溶剤からなり、所定の粘度に調整されている。そして、この絶縁性樹脂インクは絶縁基板4の外側面10側に塗布され、絶縁樹脂インク層が形成される。このとき、絶縁樹脂インクは、信号線16のパターンの間隙に充填されるとともに、信号線16を完全に覆うように所定厚さで塗布される。次いで、絶縁基板4全体を、加熱することにより絶縁樹脂インク中の溶剤を蒸発させるとともに絶縁樹脂インクを硬化させる。これにより、絶縁樹脂インク層を保護絶縁層18とする。
以上のようにして、第1の実施形態のクロストーク抑制回路基板2(4層基板)が製造される。
【0021】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態のクロストーク抑制回路基板32(6層基板)を示す。このクロストーク抑制回路基板32は、2つの配線回路12(34,36)が積層された2層構造の積層回路33を備えている構成に変更された点のみで第1の実施形態と相違する。この第2の実施形態について説明するにあたり既に説明した構成部材及び部位と同一の機能を発揮するものについては同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
第2の実施形態のクロストーク抑制回路基板32は、下部配線回路34と上部配線回路36とからなる積層回路33を備えている。この積層回路33は、第1の実施形態における配線回路12(図1参照)を絶縁基板4上に上下両面に繰り返し形成したものである。
【0023】
この第2の実施形態のクロストーク抑制回路基板32によれば、図2中の矢印nで示すように、上部配線回路36内の信号線16aの周りの磁束は、この信号線16aに被覆された被膜材14内及び、この信号線16aの内側に位置付けられた下部配線回路34内の信号線16bに被覆された被覆材14の一部を通る。このため、信号線16a、16b間におけるクロストークも有効に抑制することができる。
なお、本発明は、第2の実施形態のような2層構造の積層回路を備えたクロストーク抑制回路基板に限定されるものではなく、更に多くの配線回路が積層された多層構造の積層回路を備えていてもよい。
【0024】
(実施例1)
クロストークを測定するための評価用基板40を以下のようにして作製した。なお、以下で記載している具体的な数値は一例である。
まず、図3に示すように、内層にグランド層48が形成された4層基板42の両面に互いに平行に延びる2本の信号線44をそれぞれ形成する。この4層基板42は、絶縁層厚400μmのプリプレグ(絶縁基板9)の両面に例えば厚さh2が35μmの銅箔(グランド層48)を貼着して形成された両面板(コア材)7を形成し、この両面板7の両面に、厚さh1が100μmのガラスエポキシ樹脂(絶縁基板46)と12μmの銅箔を重ねて積層プレスで積層して作製される。さらに無電解銅めっき、電解銅めっきを行い、厚さが30μmとなった段階でサブトラクティブ工法で回路形成を行い、上述した2本の信号線44を形成した。例えば、この信号線44の厚みH1は30μmとした。この信号線44は、例えば長さLが25cm、幅Wが130μm、厚さH1が30μmに設定され、2本の信号線間の間隔Gは、50μmに設定されている。
【0025】
次に、図4に示すように、信号線44の外表面に対し、Ni−Pめっき54を施した。このときの、Ni−Pめっきの条件は、以下の通りである。
【0026】
Ni−Pめっきは、ジアリン酸塩を還元剤として用いた無電解ニッケルめっきを実施することにより行い、信号線16の外表面をNi−Pめっきで覆う。
【0027】
ここで、Ni−Pめっき中のPの含有量は2重量%、めっきの厚さH2は例えば6μmとなるように設定した。なお、信号線44の長手方向の両端部は、Ni−Pめっきは施さず信号線44を露出させてある。
次に、矩形状基板52の両面50にエポキシ樹脂と溶剤からなる絶縁性樹脂インクを塗布し、Ni−Pめっきが施された信号線44の全体が覆われるように絶縁性樹脂インク層を形成した。その後、150℃で1時間加熱することにより絶縁樹脂インク中の溶剤を蒸発させるとともに絶縁樹脂インクを硬化させ、絶縁樹脂インク層を保護絶縁層56とした。なお、保護絶縁層56は、図4中、二点鎖線で示した。
【0028】
このようにして得られた評価用基板40に対し、遠端クロストーク(S41)の周波数特性を測定した。ここで、遠端クロストークとは、平行して配設された信号線に同一方向の信号を伝える場合に、一方の信号線を伝わる信号が、他方の信号線を伝わる信号と結合することをいう。この遠端クロストークの量は、具体的には、評価用基板40の一方の信号線44aを主線路、他方の信号線44bを副線路とし、これら主線路−副線路間につき4ポート高周波ネットワークアナライザ(アドバンテスト社製R3767CG OPT14)を用いることにより測定した。この結果を主線路−副線路間の遠端クロストーク(S41)の周波数特性として、図5及び図6中に実線aで示した。ここで、図5及び図6において、縦軸は、遠端クロストーク(S41)量[dB]を示し、横軸は、周波数f[GHz]を示している。
【0029】
(実施例2)
Ni−Pめっき中のPの含有量を7重量%としたことを除き、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。
実施例2の評価用基板に対して実施例1と同様に遠端クロストーク(S41)の周波数特性の測定を行い、その結果を図5中に一点鎖線bで示した。
【0030】
(実施例3)
Ni−Pめっき中のPの含有量を10重量%としたことを除き、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。
実施例3の評価用基板に対して実施例1と同様に遠端クロストーク(S41)の周波数特性の測定を行い、その結果を図5中に二点鎖線cで示した。
【0031】
(実施例4)
Ni−Pめっきの厚さH2を4μmとしたことを除き、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。
実施例4の評価用基板に対して実施例1と同様に遠端クロストーク(S41)の周波数特性の測定を行い、その結果を図6中に一点鎖線dで示した。
【0032】
(実施例5)
Ni−Pめっきの厚さH2を2μmとしたことを除き、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。
実施例5の評価用基板に対して実施例1と同様に遠端クロストーク(S41)の周波数特性の測定を行い、その結果を図6中に二点鎖線eで示した。
【0033】
(比較例1)
Ni−Pめっき施さなかったことを除き、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。
比較例1の評価用基板に対して実施例1と同様に遠端クロストーク(S41)の周波数特性の測定を行い、その結果を図5及び6中に点線gで示した。
【0034】
図5、6からは以下のことが明らかである。
まず、図5に示すように、Ni−Pめっきを施していない比較例1に比べ、Ni−Pめっきを施した実施例1、2、3の遠端クロストークの量は低下しており、Ni−Pめっきを施すことにより遠端クロストークが抑制されていることがわかる。ここで、Pの含有量が2重量%の実施例1の遠端クロストーク量が最も少なく、Ni−Pめっきを施していない比較例1の遠端クロストーク量が最も多かった。1GHz付近の実施例1と比較例1とのクロストーク量の差は10dB程度であることから、Ni−Pめっきを施さないときに比べ、Pの含有量が2重量%のNi−Pめっきを施したときの1GHz付近における遠端クロストークの抑制量は10dBであることがわかる。
【0035】
次に、図6からは、Ni−Pめっきを施さなかったとき(比較例1)の遠端クロストーク量が一番多く、Ni−Pめっきの厚さが2μm、4μm、6μm(実施例5、4,1)と厚くなるほど遠端クロストーク量が減っていくことがわかる。Ni−Pめっきの厚さが6μmの実施例1とNi−Pめっきを施していない比較例1との1GHz付近のクロストーク量の差は10dB程度であることから、Ni−Pめっきの厚さを6μmとしたときの1GHz付近における遠端クロストークの抑制量は10dBであることがわかる。
【符号の説明】
【0036】
2 クロストーク抑制回路基板
4 絶縁基板
6 下端面
8 グランド層
10 外側面
12 配線回路
14 被覆材
16 信号線
18 保護絶縁層
20 下面
22 側面
24 上面
26 上面
33 積層回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の絶縁基板と、
前記絶縁基板の一方の面に設けられたグランド層と、
前記絶縁基板の前記グランド層とは反対側の面に設けられた配線回路と
を備え、
前記配線回路は、
所定のパターンにて形成された信号線と、
前記信号線の外表面を覆う磁性体からなる被覆材と、
前記信号線及び前記被覆材を埋設する樹脂製の保護絶縁層と
を含むことを特徴とするクロストーク抑制回路基板。
【請求項2】
前記配線回路が複数積層された多層構造の積層回路を備えたことを特徴とする請求項1に記載のクロストーク抑制回路基板。
【請求項3】
前記被覆材は、Ni−Pめっきであることを特徴とする請求項1又は2に記載のクロストーク抑制回路基板。
【請求項4】
前記Ni−Pめっき中のPの含有量が0重量%〜15重量%であることを特徴とする請求項3に記載のクロストーク抑制回路基板。
【請求項5】
前記Ni−Pめっきは、厚さが1μm〜10μmであることを特徴とする請求項4に記載のクロストーク抑制回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−23275(P2012−23275A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161535(P2010−161535)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000243906)株式会社メイコー (34)
【Fターム(参考)】