説明

グラフェン製造用銅箔、グラフェン製造用銅の製造方法、及びグラフェンの製造方法

【課題】大面積のグラフェンを低コストで生産可能なグラフェン製造用銅箔及びそれを用いたグラフェンの製造方法を提供する。
【解決手段】銅箔基材の表面に、厚み5μm未満の銅めっき層を設けてなり、水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で、1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度が共に300%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンを製造するための銅箔基材、グラフェン製造用銅の製造方法、及びグラフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトは平らに並んだ炭素6員環の層がいくつも積み重なった層状構造をもつが、その単原子層〜数原子層程度のものはグラフェン又はグラフェンシートと呼ばれる。グラフェンシートは独自の電気的、光学的及び機械的特性を有し、特にキャリア移動速度が高速である。そのため、グラフェンシートは、例えば、燃料電池用セパレータ、透明電極、表示素子の導電性薄膜、無水銀蛍光灯、コンポジット材、ドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアーなど、産業界での幅広い応用が期待されている。
【0003】
グラフェンシートを製造する方法として、グラファイトを粘着テープで剥がす方法が知られているが、得られるグラフェンシートの層数が一定でなく、大面積のグラフェンシートが得難く、大量生産にも適さないという問題がある。
そこで、シート状の単結晶グラファイト化金属触媒上に炭素系物質を接触させた後、熱処理することによりグラフェンシートを成長させる技術(化学気相成長(CVD)法)が開発されている(特許文献1)。この単結晶グラファイト化金属触媒としては、Ni、Cu、Wなどの金属基板が記載されている。
同様に,NiやCuの金属箔やSi基板上に形成した銅層上に化学気相成長法でグラフェンを製膜する技術が報告されている.なお,グラフェンの製膜は1000℃程度で行われる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−143799号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SCIENCE Vol.324 (2009) P1312-1314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように単結晶の金属基板を製造することは容易でなく極めて高コストであり、又、大面積の基板が得られ難く、ひいては大面積のグラフェンシートが得難いという問題がある。一方,非特許文献1には、Cuを基板として使用することが記載されているが,Cu箔上では短時間にグラフェンが面方向に成長せず,Si基板上に形成したCu層を焼鈍で粗大粒として基板としている。この場合、グラフェンの大きさはSi基板サイズに制約され,製造コストも高い。
そこで、本発明者が銅箔を基板としてグラフェンを製造したところ、銅箔表面を極めて平滑(例えば、60度光沢度が500%以上)にしないとグラフェンの製造歩留が高くならないことが判明した。しかしながら、銅箔表面を平滑にするには圧延加工度等の製造条件を厳密に規定する必要があり、製造の自由度が低いという問題がある。
すなわち、本発明は、大面積のグラフェンを低コストで生産可能なグラフェン製造用銅箔及びそれを用いたグラフェンの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のグラフェン製造用銅箔は、銅箔基材の表面に、厚み5μm未満の銅めっき層を設けてなり、水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度が共に300%以上である。
【0008】
水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱前の前記銅めっき層表面の算術平均粗さRaが0.20μm以下であり、水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の算術平均粗さRaが0.15μm以下であることが好ましい。
前記銅箔基材は、JIS-H3100に規格するタフピッチ銅、JIS−H3100に規格する無酸素銅、JIS−H3510に規格する無酸素銅、又は前記タフピッチ銅若しくは前記無酸素銅に対してSn及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.001質量%以上0.15質量%以下含有する組成からなることが好ましい。
水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の平均結晶粒径が100μm以上であることが好ましい。
【0009】
本発明のグラフェン製造用銅箔の製造方法は、前記グラフェン製造用銅箔の製造方法であって、前記銅箔基材の表面に、1〜5A/dm2の電流密度で厚み5μm未満の銅めっき層を形成する。
【0010】
又、本発明のグラフェンの製造方法は、前記グラフェン製造用銅箔を用い、所定の室内に、加熱した前記グラフェン製造用銅箔を配置すると共に、水素ガスと炭素含有ガスを供給し、前記グラフェン製造用銅箔の前記銅めっき層の表面にグラフェンを形成するグラフェン形成工程と、前記グラフェンの表面に転写シートを積層し、前記グラフェンを前記転写シート上に転写しながら、前記グラフェン製造用銅箔をエッチング除去するグラフェン転写工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大面積のグラフェンを低コストで生産可能とする銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るグラフェンの製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るグラフェン製造用銅箔及びグラフェンの製造方法について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
本発明の実施形態に係るグラフェン製造用銅箔は、銅箔基材の表面に、厚み5μm未満の銅めっき層を形成してなる。
【0014】
<銅箔基材の組成>
銅箔基材としては、JIS-H3100に規格するタフピッチ銅(TPC)、又はJIS-H3510若しくはJIS−H3100に規格する無酸素銅(OFC)を用いることができる。
又、これらタフピッチ銅又は無酸素銅に対し、Sn及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.15質量%以下含有する組成を用いることもできる。上記元素を含有すると、銅箔の強度が向上し適度な伸びを有すると共に、結晶粒径を大きくすることができる。上記元素の含有割合が合計で0.15質量%を超えると強度は更に向上するものの、伸びが低下して加工性が悪化すると共に結晶粒径の成長が抑制される場合がある。より好ましくは上記元素の含有割合が合計で0.10質量%以下であり、更に好ましくは合計で0.050質量%以下であり、最も好ましくは合計で0.040質量%以下である。
なお、上記元素を合計した含有割合の下限は特に制限されないが、例えば0.001質量%を下限とすることができる。上記元素の含有割合が0.001質量%未満であると、含有割合が小さいためその含有割合を制御することが困難になる場合がある。好ましくは、上記元素の含有割合の下限値は0.003質量%以上、更に好ましくは0.004質量%以上、最も好ましくは0.005質量%以上である。
【0015】
<銅箔基材の厚み>
銅箔基材の厚みは特に制限されないが、一般的には5〜150μmである。さらに、ハンドリング性を確保しつつ、後述するエッチング除去を容易に行うため、銅箔基材の厚みを12〜50μmとすると好ましい。銅箔基材の厚みが12μm未満であると、破断し易くなってハンドリング性に劣り、厚みが50μmを超えるとエッチング除去がし難くなる場合がある。
【0016】
<銅箔基材の60度光沢度>
銅めっき前の銅箔基材の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度(JIS Z 8741)が共に80%以上であることが好ましい。
後述するように、本発明のグラフェン製造用銅箔を用いてグラフェンを製造した後、銅箔から転写シートへグラフェンを転写する必要があるが、銅箔の表面が粗いと転写がし難く、グラフェンが破損することがわかった。そこで、銅箔の表面凹凸が平滑である必要があるが、本発明のグラフェン製造用銅箔においては、銅箔基材の表面に銅めっき層をめっきして加熱することで銅箔の表面凹凸を平滑にしている。しかしながら、銅箔基材の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度のいずれかが80%未満であると、銅めっきして加熱しても銅箔表面が平滑にならず、転写の際にグラフェンが破損する場合がある。
なお、圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度の上限は特に制限されないが、500%未満とすれば銅箔基材の製造時に圧延加工度等の製造条件を厳密に規定しなくてもよく、製造の自由度が高くなるので好ましい。又、圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度の上限は実用上、800%程度である。
又、このように転写シートへグラフェンを転写し易くするため、JIS B0601に規格する銅箔基材表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下であることが好ましい。
【0017】
<銅めっき層>
銅箔基材の表面に、厚み5μm未満の銅めっき層が設けられる。そして、この銅めっき層を1000℃で1時間加熱すると、銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度が共に300%以上となり、転写シートへグラフェンを転写し易くなる。これは、銅めっき層を1000℃で1時間加熱すると銅めっき層が半溶融状態になり、銅箔基材表面の凹部に銅めっき層が流動して凹凸が小さくなるためと考えられる。
銅めっき層の厚みが5μm以上になると、めっき時に電着粒が大きく成長してめっき層の凹凸が大きくなり、めっき後に加熱しても表面が平滑にならない。
銅めっき層の厚みの下限は、0.3μm程度である。銅めっき層の厚みは好ましくは0.3〜4.5μm、より好ましくは0.3〜3.5μm、さらに好ましくは、0.5〜2.5μm、最も好ましくは0.5〜1.5μmである。なお、銅めっき層の厚みは、後述する1000℃で1時間加熱前であれば、断面の組織観察にて測定することが可能である。又、1000℃で1時間加熱後の場合、例えば銅箔基材がTPCであれば、銅箔基材の組織の特徴(銅中の亜酸化銅が還元されたピットや断面の空洞)と異なる表層部分の深さで測定することが可能である。
なお、銅めっき層は実質的に純銅(例えば、上記タフピッチ銅又は無酸素銅)と同一組成とみなすことができる。
【0018】
1000℃で1時間加熱前の銅めっき層表面の算術平均粗さRaが0.20μm以下であると、加熱後に半溶融状態の銅めっき層が銅箔基材表面の凹部に流動し易くなるので好ましい。
1000℃で1時間加熱後の銅めっき層表面の算術平均粗さRaが0.15μm以下であると、銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度を確実に300%以上にすることができる。
【0019】
<平均結晶粒径>
又、銅めっき層を1000℃で1時間加熱することで、銅めっき層の下地の銅箔基材も加熱され、銅箔基材の平均結晶粒径が100μm以上に成長する。
銅箔基材の平均結晶粒径が100μmより小さいと、グラフェンを成長させる際の障害となり、面方向にグラフェンが成長し難くなる。これは、銅めっき層の下地の銅箔基材の結晶粒界が、グラフェンの成長の障害となるためと考えられる。
なお、1000℃で1時間の加熱は、グラフェンを製造する際、グラフェン製造用銅箔を炭素含有ガスの分解温度以上に加熱する条件を模したものである。
又、平均結晶粒径は、JIS H0501の切断法により、銅箔基材を測定する。
【0020】
以上のように規定したグラフェン製造用銅箔を用いることで、大面積のグラフェンを低コストで、かつ高い歩留りで生産することができる。
【0021】
<グラフェン製造用銅箔の製造>
本発明の実施形態に係るグラフェン製造用銅箔は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、所定の組成の銅インゴットを製造し、熱間圧延を行った後、焼鈍と冷間圧延を繰り返し、圧延板を得る。この圧延板を焼鈍して再結晶させ,所定の厚みまで圧下率を80〜99.9%(好ましくは85〜99.9%、更に好ましくは90〜99.9%)として最終冷間圧延して銅箔基材を得る。
【0022】
次に、銅箔基材の表面に、1〜5A/dm2の電流密度で厚み5μm未満の銅めっき層を形成する。銅めっき浴としては、無光沢銅めっき浴、又は光沢銅めっき浴を用いることができる。無光沢銅めっき浴は、硫酸銅浴(Cu10〜100g/L 、硫酸100〜250g/L)、シアン化銅浴(Cu60〜80g/L、Na70〜100g/L、酒石酸KNa40〜60g/L)、ピロ燐酸銅浴(Cu70〜100g/L、ピロ燐酸K250〜450g/L)等が例示される。光沢銅めっき浴は、上記無光沢銅めっき浴に対し、公知の光沢剤(例えば、荏原ユージライト社製の製品名CU-BRITE、メルテックス社製の製品名CLX、進和社製の製品名LABORA、日本化学産業社製の製品名ピロニカES等)を添加したものを使用することができる。
これら銅めっき浴を用い、1〜5A/dm2の電流密度でめっきすることにより、めっき時に電着粒が大きく成長せず、めっき層の凹凸が小さくなり、めっき後に加熱すると表面が平滑になる。
【0023】
<グラフェンの製造方法>
次に、図1を参照し、本発明の実施形態に係るグラフェンの製造方法について説明する。
まず、室(真空チャンバ等)100内に、上記した本発明のグラフェン製造用銅箔10を配置し、グラフェン製造用銅箔10をヒータ104で加熱すると共に、室100内を減圧又は真空引きする。そして、ガス導入口102から室100内に炭素含有ガスGを水素ガスと共に供給する(図1(a))。炭素含有ガスGとしては、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン、アルコール等が挙げられるがこれらに限定されず、これらのうち1種又は2種以上の混合ガスとしてもよい。又、グラフェン製造用銅箔10の加熱温度は炭素含有ガスGの分解温度以上とすればよく、例えば1000℃以上とすることができる。又、室100内で炭素含有ガスGを分解温度以上に加熱し、分解ガスをグラフェン製造用銅箔10に接触させてもよい。このとき、グラフェン製造用銅箔10を加熱することで、銅めっき層が半溶融状態になって銅箔基材表面の凹部に流動し、グラフェン製造用銅箔10の最表面の凹凸が小さくなる。そして、このように平滑となったグラフェン製造用銅箔10の表面に分解ガス(炭素ガス)が接触し、グラフェン製造用銅箔10の表面にグラフェン20を形成する(図1(b))。
【0024】
そして、グラフェン製造用銅箔10を常温に冷却し、グラフェン20の表面に転写シート30を積層し、グラフェン20を転写シート30上に転写する。次に、この積層体をシンクロール120を介してエッチング槽110に連続的に浸漬し、グラフェン製造用銅箔10をエッチング除去する(図1(c))。このようにして、所定の転写シート30上に積層されたグラフェン20を製造することができる。
さらに、グラフェン製造用銅箔10が除去された積層体を引き上げ、グラフェン20の表面に基板40を積層し、グラフェン20を基板40上に転写しながら、転写シート30を剥がすと、基板40上に積層されたグラフェン20を製造することができる。
【0025】
転写シート30としては、各種樹脂シート(ポリエチレン、ポリウレタン等のポリマーシート)を用いることができる。グラフェン製造用銅箔10をエッチング除去するエッチング液としては、例えば硫酸溶液、過硫酸ナトリウム溶液、過酸化水素、及び過硫酸ナトリウム溶液又は過酸化水素に硫酸を加えた溶液を用いることができる。又、基板40としては、例えばSi、 SiC、Ni又はNi合金を用いることができる。
【実施例】
【0026】
<試料の作製>
表1に示す組成の銅インゴットを製造し、800〜900℃で熱間圧延を行った後、300〜700℃の連続焼鈍ラインで焼鈍と冷間圧延を1回繰り返して1〜2mm厚の圧延板を得た。この圧延板を600〜800℃の連続焼鈍ラインで焼鈍して再結晶させ,7〜50μmの厚みまで圧下率を95〜99.7%として最終冷間圧延し、表1に示す厚みの銅箔基材を得た。
【0027】
ここで、最終冷間圧延の最終パスの油膜当量を表1に示す値に調整した。
油膜当量は下記式で表される。
(油膜当量)={(圧延油粘度、40℃の動粘度;cSt)×(圧延速度;m/分)}/{(材料の降伏応力;kg/mm2)×(ロール噛込角;rad)}
【0028】
銅箔基材の片面に、表1に示す厚みの無光沢銅めっき又は光沢銅めっきを行った。
無光沢銅めっき浴は、硫酸銅浴(Cu10〜100g/L 、硫酸100〜250g/L)を使用した。又、浴温20〜40℃、電流密度1〜5A/dm2とした。
光沢銅めっき浴は、上記硫酸銅浴の無光沢浴に光沢剤(荏原ユージライト製CU-BRITE、メルテックス製CLX、進和製LABORA、日本化学産業製ピロニカES等)を添加剤として添加した。又、浴温20〜40℃、電流密度1〜5A/dm2とした。
【0029】
<60度光沢度の測定>
各実施例及び比較例の銅箔基材の最終冷間圧延後、銅箔基材に銅めっき後、及び銅めっき後に水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の表面の60度光沢度を測定した。水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で、1000℃で1時間加熱したのは、グラフェン製造条件を模したためである。
60度光沢度は、JIS−Z8741に準拠した光沢度計(日本電色工業製、商品名「PG-1M」)を使用して測定した。
【0030】
<表面粗さ(Ra,Rz,Sm)の測定>
各実施例及び比較例の銅箔基材の最終冷間圧延後、銅箔基材に銅めっき後、及び銅めっき後に水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の表面粗さを測定した。
接触粗さ計(小坂研究所製、商品名「SE−3400」)を使用し、JIS−B0601に準拠した算術平均粗さ(Ra;μm)を測定し、オイルピット深さRzはJIS B0601−1994に準拠して十点平均粗さを測定した。測定基準長さ0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ値0.8mm、送り速さ0.1mm/秒の条件で圧延方向と平行に測定位置を変えて10回行ない、各方向で10回の測定での値を求めた。また凹凸の平均間隔(Sm;mm)は、測定基準長さ0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ値0.8mm、送り速さ0.1mm/秒の条件で圧延方向と平行に測定位置を変えて10回行ない、10回の測定での値を求めた。なお、Smは表面性状を輪郭曲線方式で表すJIS B0601−2001(ISO4287−1997準拠)において、凹凸の「凹凸の平均間隔」と規定されており、基準長さ内での各凹凸の輪郭長さの平均をいう。
コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社製、型番:HD100D)で1mm×1mmの測定視野につき、JIS−B0601に準拠した算術平均粗さ(Ra;μm)と最大断面高さ(Rt;μm)を測定した。なお、Smは表面性状を輪郭曲線方式で表すJIS B0601−2001(ISO4287−1997準拠)において、凹凸の「凹凸の平均間隔」と規定されており、基準長さ内での各凹凸の輪郭長さの平均をいう。
【0031】
<平均結晶粒径の測定>
各実施例及び比較例の銅箔基材に銅めっき後、さらに水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後、JIS H0501の切断法により、得られたグラフェン製造用銅箔の表面の平均結晶粒径を測定した。なお、加熱により銅めっき層も再結晶する。
【0032】
<グラフェンの製造>
各実施例のグラフェン製造用銅箔(縦横100X100mm)を真空チャンバーに設置し、1000℃に加熱した。真空(圧力:0.2Torr)下でこの真空チャンバーに水素ガスとメタンガスを供給し(供給ガス流量:10〜100cc/min)、銅箔を1000℃まで30分で昇温した後、1時間保持し、銅めっき層表面にグラフェンを成長させた。
各実施例について、上記条件でグラフェンの製造を10回行い、銅めっき層表面のグラフェンの有無を原子間力顕微鏡(AFM)で観察して評価した。AFMにより、表面全体にうろこ状の凹凸が観察されたものをグラフェンが製造されたものとみなし、10回の製造のうちグラフェンが製造された回数により以下の基準で歩留を評価した。評価が◎、○又は△であれば実用上問題はない。
◎:10回の製造のうち、5回以上グラフェンが製造された
○:10回の製造のうち、4回グラフェンが製造された
△:10回の製造のうち、3回グラフェンが製造された
×:10回の製造のうち、グラフェンが製造された回数が2回以下
【0033】
得られた結果を表1、表2に示す。なお、表1、表2において、G60RD、G60TDはそれぞれ圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度を示す。又、GSは平均結晶粒径を示す。
又、表中のTPCは、JIS-H3100に規格するタフピッチ銅を表し、実施例10〜13、実施例17〜32のOFCはJIS-H3100に規格する無酸素銅を表す。また、実施例35のOFCはJIS−H3510に規格する無酸素銅を表す。従って、「OFC+Sn1200ppm」は、JIS-H3100に規格する無酸素銅にSnを1200wtppm添加したことを表す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1、表2から明らかなように、銅箔基材の表面に、厚み5μm未満の銅めっき層を設けた各実施例の場合、1000℃で1時間加熱後の銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度が共に300%以上となり、グラフェンの製造歩留が優れていた。
【0037】
一方、銅箔基材の表面に、厚み5μmを超える銅めっき層を設けた各比較例の場合、1000℃で1時間加熱後の銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度が共に300%未満となり、グラフェンの製造歩留が劣った。
【符号の説明】
【0038】
10 グラフェン製造用銅箔
20 グラフェン
30 転写シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基材の表面に、厚み5μm未満の銅めっき層を設けてなり、
水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度が共に300%以上であるグラフェン製造用銅箔。
【請求項2】
水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱前の前記銅めっき層表面の算術平均粗さRaが0.20μm以下であり、
水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の算術平均粗さRaが0.15μm以下である請求項1に記載のグラフェン製造用銅箔。
【請求項3】
前記銅箔基材は、JIS-H3100に規格するタフピッチ銅、JIS−H3100に規格する無酸素銅、JIS−H3510に規格する無酸素銅、又は前記タフピッチ銅若しくは前記無酸素銅に対してSn及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.001質量%以上0.15質量%以下含有する組成からなる請求項1又は2に記載のグラフェン製造用銅箔。
【請求項4】
水素を20体積%以上含有し残部アルゴンの雰囲気中で1000℃で1時間加熱後の前記銅めっき層表面の平均結晶粒径が100μm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のグラフェン製造用銅箔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のグラフェン製造用銅箔の製造方法であって、
前記銅箔基材の表面に、1〜5A/dm2の電流密度で厚み5μm未満の銅めっき層を形成するグラフェン製造用銅箔の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のグラフェン製造用銅箔を用いたグラフェンの製造方法であって、
所定の室内に、加熱した前記グラフェン製造用銅箔を配置すると共に水素ガスと炭素含有ガスを供給し、前記グラフェン製造用銅箔の前記銅めっき層の表面にグラフェンを形成するグラフェン形成工程と、
前記グラフェンの表面に転写シートを積層し、前記グラフェンを前記転写シート上に転写しながら、前記グラフェン製造用銅箔をエッチング除去するグラフェン転写工程と、を有するグラフェンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−6709(P2013−6709A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138784(P2011−138784)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】