グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子ならびに使用
本発明は、グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子ならびに使用に係り、特にグリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子、ならびにこれらの抗細菌における使用に関する。本発明におけるグリシンリッチタンパク質は、以下のタンパク質ファミリーから選択される少なくとも一種である:配列表中の配列番号1、配列番号3〜14のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1、配列番号3〜14のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質。本発明におけるグリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子は、抗細菌に用いられ得る。例えば、ヒトまたは家畜の細菌性感染病を予防および/または治療するための薬物の調製に用いられる。潜在する細菌感染を予防および/または治療するための各種の生物用製品の調製に用いられる。病虫害の防除のための遺伝子組換え生物の製造に用いられる。上記グリシンリッチタンパク質の誘導体、アンタゴニスト、リガンド、または抗体の調製に用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシンリッチタンパク質、それをコードする遺伝子および使用に係り、特に、ヒト起源およびマウス起源のグリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子、ならびに抗細菌におけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
20余年以来、医薬界においていかなる新規の抗生物質ファミリーも発見されていない。一方、薬物耐性現象が極めて迅速に発展してきている。人々は肉眼で細菌の遺伝子の突然変異を観察できることに至っている。さらに恐ろしいことに、黄色ブドウ球菌の耐性の問題を克服したとたん、アメリカの医者が、有効に細菌を阻止できる最新の抗生物質であるバンコマイシンに対して耐性を有する菌株を発見した。病原菌の薬物耐性の問題は、益々ヒトの健康を著しく脅かしつつある。そこで、全く新規なタイプの抗生物質を探すことが、薬物耐性問題を解決するために有効な方法の1つである。抗菌ペプチドは、生体の天然免疫の活性分子として、各種の生体に外界からの病菌の侵入を防ぐのに用いられ、生物界において広範に存在している。分離された天然由来の抗菌ペプチドは、抗菌活性が高い、抗菌スペクトルが幅広い、種類が多い、選択できる範囲が広い、目的菌株に薬物耐性の突然変異を生じにくいなどの特徴を示しているため、医薬工業、食品工業および農業において応用の見込みが明るいとされている。
【0003】
抗菌ペプチドとは、コードされる遺伝子によりリボソーム上で合成された、相対分子質量が通常10kDa以下で、抗菌活性を有するポリペプチド系物質をいい、ポリペプチド抗生物質とも言われる。ほとんどの抗菌ペプチドは、熱安定性を有し、100℃で10〜15分間加熱しても、その活性を保つことができる。抗菌ペプチドは、高いイオン強度および極度に高いまたは低いpH値に対して強い耐性を有する。大多数の抗菌ペプチドは、等電点が7以上であり、強い陽イオンの特徴を示している。それと同時に、一部の抗菌ペプチドは、トリプシンまたはペプシンによる加水分解に抵抗する能力を有する。また、研究によれば、異なるファミリーの抗菌ペプチドの間には、ほとんど配列相同性がないが、同一ファミリーの異なるメンバー間に、その配列に高度の保存性があることが分かった。これは、その機能も非常に保存的であることを意味している。抗菌ペプチドは、抗細菌または抗真菌の作用を有するほか、抗原生動物、抗ウイルスまたは抗腫瘍活性を有するものもある。抗菌ペプチドは、生物界に広範に存在している。今まで、細菌、真菌から、両生類、昆虫、高等植物、哺乳動物、ひいてはヒトにおいて、700種類以上にも達したポリペプチド系抗生物質が発見されている。現在、多種類の抗菌ペプチドに関して、臨床前の実行可能性研究が実施中である。また、抗菌ペプチドによる遺伝子組換え動物および遺伝子組換え植物、ならびに食品の防腐、生花の保存、化粧品、種子コーティングおよび動物飼料添加剤などの面における抗菌ペプチドの応用研究も実施中である。
【0004】
抗菌ペプチドが医薬工業、食品工業および農業において応用の見込みが明るいことに鑑み、種々の方法を通じて生物界の中から新型の天然由来の抗菌ペプチドを見出すことは、既に現在世界的にもブームの1つになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子ならびにそれらの抗菌用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明で提供されるグリシンリッチタンパク質は、名称をグリリチン(Glyrichin)とし、下記のタンパク質ファミリー(グリリチンファミリー)から選択(クローニング)される少なくとも一種である:
1)ヒトグリリチン(hグリリチン)とマウスグリリチン(mグリリチン):いずれも配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
2)ゼブラフィッシュ(Danio rerio)グリリチン:配列表中の配列番号3のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号3のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
3)ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)グリリチン:配列表中の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号4のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
4)キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)グリリチン:配列表中の配列番号5のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号5のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
5)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号6のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号6のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
6)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号7のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号7のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
7)分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)グリリチン:配列表中の配列番号8のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号8のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
8)清酒酵母(Sacchromyces serevisiae)グリリチン:配列表中の配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号9のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
9)シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)グリリチン:配列表中の配列番号10のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号10のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
10)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum 3D7)グリリチン:配列表中の配列番号11のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号11のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
11)マラリア原虫(Plasmodium yoelii yoelii)グリリチン:配列表中の配列番号12のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号12のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
12)イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)グリリチン:配列表中の配列番号13のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号13のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
13)アカパンカビ(Neurospora crassa)グリリチン:配列表中の配列番号14のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号14のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質。
【0007】
上記グリシンリッチタンパク質は、好ましくは、ヒトグリリチンおよびマウスグリリチンである。
【0008】
そのうち、上記欠失、挿入および/または置換、ならびにカルボキシル末端および/またはアミノ末端に結合するアミノ酸残基の数は、好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜5であり、最も好ましくは1〜3である。
【0009】
好ましい置換を、表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
本発明におけるグリシンリッチタンパク質に、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、およびリン酸化のような修飾(通常、一次構造を変化させない)を加えることができる。
【0012】
上記グリシンリッチタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の保護範囲に属する。
【0013】
そのうち、上記ヒトグリリチン(hグリリチン)をコードする遺伝子は、配列表中の配列番号2のDNA配列、または配列表中の配列番号2に限定するDNA配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列表中の配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA配列、または高度厳密な条件下、配列表中の配列番号2に限定するDNA配列とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を有し得る。
【0014】
上記ハイブリダイゼーションの高度厳密な条件は、0.1×SSPE(または0.1×SSC)、0.1%SDSを含む溶液中での65℃でのブロッティング膜の洗浄を指す。
【0015】
上記グリシンリッチタンパク質のコード遺伝子を含む発現ベクター、細胞系および遺伝子操作菌は、全て本発明の保護範囲に属する。
【0016】
本発明に述べるグリシンリッチタンパク質は、抗細菌に用いることができる。具体的に、次のいくつかの局面での用途を含める:
1)ヒトまたは家畜の細菌性感染病を予防および/または治療するための薬物の調製に用いられる;
2)潜在する細菌感染を予防および/または治療するための各種の生物用製品の調製に用いられる;
3)病虫害の防除のための遺伝子組換え生物の製造に用いられる;
4)上記グリシンリッチタンパク質の誘導体、アンタゴニスト、リガンド、または抗体の調製に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者は、サプレッションサブトラクティブハイブリダイゼーション(Suppression Subtractive Hybridization:SSH)法を用いて、LTC(長期培養:long term culture)培養前後におけるマウスの骨髄間質細胞の差次的に発現する遺伝子に対してスクリーニングを行い、131の差次的に発現したESTクローンを得た。生物情報学的解析によって、これらのクローンは既知のまたは一部の機能が知られている26の遺伝子と全く新規な7つの遺伝子を表す。そのうち5つが完全なオープンリーディングフレームを有する。マウス由来のmグリリチン遺伝子(GenBank番号はAYO28425)は、その中の1つであり、配列表中の配列番号1のアミノ酸配列のグリシンリッチタンパク質mグリリチンをコードする。
【0018】
マウス由来のmグリリチンを獲得した後、本発明者は、マウス由来のグリリチン遺伝子に基づいて一対のプライマーを設計し、ヒト胎児肝臓mRNAを鋳型として、RT−PCR増幅を通じて、240bpのヒト由来グリリチンの完全なORF配列、およびこのORF配列により推定したアミノ酸配列を得た。本発明者は、生物情報学的手法を利用して、配列に関して詳しい解析を行った上、グリリチンファミリーのメンバー間で相同性解析(多配列整列)を行った。
【0019】
グリリチンファミリーの各メンバーの類縁関係を検討するために、図1に示した12の配列に関して系統樹解析を行った。図1は、グリリチン遺伝子の下等から高等への進化過程および各メンバー間の類縁関係の遠近を示している。グリリチンファミリーのメンバー間の保存されたグリシンを豊富に含む領域(Glyrich domain)は、図2に示すとおりである(図中、保存されたアミノ酸を反転表示にて表す)。図3に示すように、グリリチンファミリーの異なるメンバー間のグリシンを豊富に含む構造領域(Glyrich構造領域)の配列一致性により、あらゆる2つのメンバー間の類縁関係の遠近が理解できる。電子PCRの結果は、hグリリチン遺伝子が、ヒト染色体の20ql1.21領域に位置し、3つのエクソンから構成され、79個のアミノ酸の小分子タンパク質をコードすることを示している。アミノ酸レベルBlastP相同性解析は、この遺伝子が進化において非常に保存され、真菌(ニューロスポラ、酵母菌など)、植物(シロイヌナズナなど)、熱帯熱マラリア原虫、線虫、キイロショウジョウバエ、ガンビエハマダラカ、ゼブラフィッシュ、マウスからヒトなどに至るまでの種の中に存在しており、グリリチン相同性タンパク質ファミリーを構成することを示す。異なる種属間で高い相同性を示し、既知のヒト由来グリリチンは、マウス由来のものと比べて100%の相同性を有し、ゼブラフィッシュグリリチンと比べて90%の相同性を有し、キイロショウジョウバエとの相同性が62%、酵母との相同性も46%ある。ファミリーの中の異なるメンバー間の類縁関係を、系統樹で示す(図1)。
【0020】
そのうち、配列番号1、配列番号3〜14のアミノ酸配列を有するグリリチンタンパク質ファミリーのメンバーの配列特性は、表2に示すとおりである。
【0021】
【表2】
【0022】
そのうち、ヒトグリリチン(hグリリチン)は、79個のアミノ酸残基から構成され、分子量が8.8kDa、等電点が9.36で、pHが7の条件下で4.79の正電荷を帯び、グリシン含量が21.52%である。本発明者は、hグリリチン二次構造予測を行った。hグリリチンの構造特性は、図4に示すように、SignalP解析の結果である。グリリチンファミリーのその他のメンバーの等電点はいずれも7以上で、pH=7の時全て正電荷を帯び、かつ、強い疎水性領域が存在している。上記結果は、グリリチンファミリーが、既知の抗菌ペプチドの典型的な構造特性を有することを表している。
【0023】
本発明におけるグリリチンタンパク質ファミリーの13のメンバーは、真菌からヒトまでのゲノム配列解析が完了した種の中に存在している。このことに基づいて、当業者は、ゲノムの配列解析が完了していない他の種の中にも存在している、と容易に推定し得る。構造上の共通の特徴として、59〜68アミノ酸の間の長さの1つのグリシン(Glycine)リッチ領域が存在する。この領域は、ほとんどヒト由来とマウス由来のグリリチンの全配列を包含している。その他の種の中に存在するグリリチンは、グリシンリッチの共通の領域のほか、この保存された領域のアミノ末端またはカルボキシル末端にその他の配列(例えば、シグナルペプチドなど)が存在している。ただし、保存性を有さない(図2、図3)。これは、グリシンリッチの保存された領域が、グリリチンタンパク質ファミリーのメンバーの最も基本的な生物活性を決定していることを示す。また別の方面からは、生物の進化過程において次第に冗長な配列が淘汰されることによって、分子がより小さくなり、構造がよりコンパクトになることを示している。
【0024】
普通の組換えDNA技術を通じて、本発明のグリシンリッチタンパク質のコード遺伝子を利用して、組換えのグリシンリッチタンパク質を発現し、または作製することができる。例えば、下記の方法で発現または作製し得る:
(1)上記グリシンリッチタンパク質のコード遺伝子を含む組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換する;
(2)上記宿主細胞を培養する;
(3)培地または細胞の中から、タンパク質を分離し、または精製する。
【0025】
上記組換え発現ベクターの構築に用いる開始ベクターとして、当該分野においてよく知られている細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス(例えば、アデノウイルス)またはその他のベクターが使用され得る。要するに、宿主内で複製し、安定発現できる全てのプラスミドおよびベクターが使用され得る。
【0026】
発現ベクターは、重要な特徴の1つとして、一般には、複製開始点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳制御機構を含む。当業者に公知の方法が、グリリチンコードDNA配列および適当な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの構築に用いられ得る。
【0027】
当業者は、いかにして適当なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞を選択するかを理解している。上記組換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換する時、当業者によく知られた通常の技術を用い得る。得られた形質転換体を通常の方法で培養することによって、本発明の遺伝子がコードするグリシンリッチタンパク質を発現させ得る。上記方法におけるグリシンリッチタンパク質は、細胞内または細胞膜上で発現され、または細胞外に分泌され得る。必要に応じて、その物理的、化学的およびその他の特性を利用して、各種の分離方法によって、組換えタンパク質は分離、精製され得る。本発明のグリリチンタンパク質の使用と共に、その他の薬物(例えば、ペニシリンなどの抗生物質)も使用し得る。
【0028】
本発明において、用語「グリリチン」、「グリリチンファミリーのメンバー」、「グリリチンタンパク質」または「グリリチンポリペプチド」は、交換して使用でき、いずれも天然由来の抗菌ペプチドグリリチンファミリーに属する各メンバーのアミノ酸配列(配列表1中の配列番号1、配列番号3〜14)を有するタンパク質またはポリペプチドをいう。これらは、開始メチオニンを含むまたは含まない天然由来の抗菌ペプチドグリリチンファミリーのメンバー、ならびにシグナルペプチドを含むまたは含まないグリリチンメンバーのタンパク質を含む。
【0029】
用語「Glyrich構造領域」とは、特に配列表中の配列番号1〜13で最も保存された部位のポリペプチドをいう。この部位は、そのアミノ酸長が59〜68の間であり、等電点が7以上で、pH7.0の条件で正電荷を帯び、グリシン含量が20種類のアミノ酸の中で最も高く、かつ、少なくとも1つの疎水性領域がある。それらの配列および構造特性は、図3、図4および表2に示されるとおりである。
【0030】
用語「グリリチンファミリー」とは、Glyrich構造領域を有し、かつ、当該構造領域の部位において相互間のアミノ酸相同性が30%以上のポリペプチドをいい、本発明において言及した13個のポリペプチドおよびその他の発表されていないポリペプチドが含まれる。進化生物学的観点から見れば、これは、同じ起源に由来する。
【0031】
本発明は、グリリチンポリペプチドまたはその断片を含む融合タンパク質もまた提供する。ほとんど全長のポリペプチドのほか、本発明はまた、グリリチンポリペプチドの可溶性断片を包含する。通常、当該断片は、グリリチンポリペプチド配列中の一定の数の連続したアミノ酸の配列を有する。本発明におけるポリペプチドは、上記に挙げた代表的なポリペプチドに限定されないことを理解すべきである。
【0032】
用語「修飾」(通常、一次構造を変化させない)は、ポリペプチドのインビボまたはインビトロでの化学的修飾(例えば、アセチル化またはカルボキシル化)を包含する。また修飾は、グリコシル化も含む(例えば、ポリペプチドの合成およびプロセシング、またはさらなるプロセシングの過程におけるグリコシル化によって産生したポリペプチド)。これらの修飾は、グリコシル化を行う酵素(例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)にポリペプチドを曝露させることによって、行われ得る。また、修飾様式は、リン酸化アミノ酸残基(例えば、ホスホセリン、ホスホトレオニン)を有する配列も含む。修飾によってタンパク質加水分解耐性が向上し、または溶解度が最適化されたポリペプチドも含む。
【0033】
ヒト由来グリリチンポリヌクレオチド配列を獲得した後、本発明者は、ヒト由来グリリチンおよびマウス由来グリリチンを例として用いて、当該遺伝子ファミリーの機能について検討した。この結果は、ヒト由来グリリチンおよびマウス由来グリリチンが、ヒトおよびマウスの種々の組織において広範に発現している、抗菌活性を有する天然の免疫分子であることを示す。天然に存在する抗菌ペプチドとして、医薬工業およびすべての細菌感染を阻止する必要がある種々の分野において発展することが期待できる。これは、グリリチンファミリーの各メンバーの基本機能および活性でもある。
【0034】
以下に、ヒト由来グリリチン(ヒトグリリチン、hグリリチン)遺伝子のクローニング、発現、精製および抗菌活性評価の実施例を例として、より詳細に本発明を説明する。これらの実施例は、本発明の説明にのみ用いられるのであって、本発明の範囲を制限しないことが理解されるべきである。下記の実施例で具体的な条件を記載していない実験方法は、通常、標準の条件(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載される条件、または製造者による推奨条件)による。
【実施例】
【0035】
(実施例1:ヒトグリリチン遺伝子の獲得および分析)
1、ヒトグリリチン遺伝子の完全なORF配列の獲得
マウス由来グリリチン遺伝子に基づき、下記のような一対のプライマー:
5’プライマーPa:5-CGATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCT-3
3’プライマーPb:5-TTAGCATCGTATGCCCATTCCA-3
を設計し、ヒト胎児肝臓mRNAを鋳型としてRT−PCR反応を行う。
【0036】
PCR反応系。PCR反応系は、分子生物学において標準の系による。PCR増幅条件は、94℃で4分間を1サイクル;94℃で40秒、60℃で50秒、72℃で1分間を30サイクル;72℃で7分間を1サイクルとする。PCR産物を、Winzard PCR preps purification kit(Promega社から購入)で精製し、T4リガーゼを用いてpGEM-Tベクター中に連結し、組換えプラスミドpGEM-T/hグリリチンを得る。次いで、大腸菌JM109に形質転換し、配列決定を行う。その結果は、ヒトグリリチン遺伝子が配列表中の配列番号2のヌクレオチド配列を有し、配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するグリシンリッチタンパク質のヒトグリリチンをコードすることを示す。
【0037】
2、ノーザンブロット解析
4種類のヒト腫瘍細胞株HepG2、HeLa、JurketおよびHEK293を培養し、次いでWinzard plus RNA purification kit(Promega社から購入)を用いて総RNAを抽出する。それぞれ20μgの総RNAを採取し、1.2%ホルムアルデヒド変性アガロースゲル上で分離し、Hybond N+ナイロンメンブレン上に転写する。hグリリチンの完全なORFをプローブとして、Promega社のPrime-a-gene試薬キットを用いて標識する。ハイブリダイゼーションの結果は、図5Aに示すように、ヒトグリリチン遺伝子が、供試した異なる組織由来の4種類の腫瘍細胞株のすべてで発現があることを示し、それは広範に発現する天然由来の抗菌ペプチドであり得ることを示唆している。また、1つの遺伝子転写物しか存在せず、かつ、大きさが約600bpであることを示している。
【0038】
3、インビトロ転写および翻訳試験
pGEM-T/hグリリチンプラスミドを鋳型とし、以下のプライマー:
5’プライマー:5’-CGGGATCCCGATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCT-3’および
3’プライマー:5’-gctcgagttagcatcggatgcccatcc-3’
を用いてPCR増幅し、hグリリチン遺伝子の全長のORFを得る。PCR反応系は、通常の(Short Protocols in Molecular Biologyを参照)PCR反応系を用いる。PCR増幅の条件は、94℃で4分間を1サイクル;94℃で40秒、60℃で50秒、72℃で1分間を30サイクル;72℃で7分間を1サイクルとする。
【0039】
次いで、BamHI酵素およびSacI酵素でPCR増幅産物を切断し、pT7ベクター(Promega社から購入)を同じ酵素で切断する。T4DNAリガーゼで連結し、pT7-hグリリチンプラスミドを構築する。構築したプラスミドは、以下の系で転写および翻訳反応を行う。
【0040】
25μl系:
ウサギ網状赤血球溶血液 12.5μl
反応緩衝液 1.0μl
アミノ酸混合物 0.5μl
S35−Met 1.0μl(50μli)
DNA 2.0μl(0.5μg/μl)
Rnaseインヒビター 0.5μl
T7 DNAポリメラーゼ 0.5μl
脱イオン水 7.0μl
総容量 25.0μl。
【0041】
30℃で90分間反応させる。反応が完了した後、5μlの試料を採取し、10μlのLoading Bufferを加えて、SDS-PAGE電気泳動を行う。固定液の中で30分間固定した後、乾燥剤に5分間浸し、トレーでゲルを固定し、一夜ゲルを乾燥する。オートラジオグラフィ法を用いて、−20℃で24時間プレスして、現像する。その結果を、図5Bに示す。これは、hグリリチン遺伝子がコードするタンパク質のインビトロ翻訳後の大きさが約8.8kDaであることを示し、理論的に推定した結果と一致している。このことは、当該遺伝子がインビトロで正常に転写し、翻訳することができることを表している。反応系において使用した材料は、PromegaのTNT試薬キットからのものである。S35−MetはAmersham Biosience社から購入したものである。図中では、1は分子量標準、2は無関係な遺伝子UBF(GenBankUBF-f1 AF294842.中国応用生理学雑誌, 20: 66,2004)の翻訳産物、3はhグリリチン遺伝子翻訳産物、4は試薬キットが提供する陽性対照翻訳産物である。
【0042】
(実施例2:内因性誘導発現によるhグリリチン(mグリリチン)の大腸菌BL21に対する生育阻止試験)
1、pET-22b-hグリリチンの構築
pGEM-T/hグリリチンを鋳型として、以下のプライマー:
プライマー1:5’-GGAATTCCATATGCCGGTGGCCGTGGGTC-3’および
プライマー2:5’-CCGCTCGAGTTAGCATCGGATGCCCATC-3’
を用いて、通常のPCRでhグリリチン遺伝子を増幅する。PCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は、実施例1の手順3と同様である。
【0043】
得られたhグリリチン遺伝子の増幅産物を、NdeI酵素およびXhoI酵素で切断し、NdeI酵素およびXhoI酵素で切断しておいた発現ベクターpET-22b(+)のNdeI部位とXhoI部位との間に、T4DNAリガーゼを用いて連結する。大腸菌BL21を形質転換し、酵素切断によって陽性クローン1および8(プラスミドpET-22b-hグリリチンを含有)を同定する。
【0044】
2、対照プラスミドpET-22b(+)-UBFおよびpET-22b(+)-PTPの構築
UBF遺伝子(GenBankUBF-f1 AF294842.中国応用生理学雑誌, 20: 66,2004)とPTP遺伝子(副甲状腺ホルモンの34ペプチド遺伝子配列)(GenBank NM000315)をそれぞれpET-22b(+)のマルチクローニング部位にクローニングし、対照プラスミドであるpET-22b(+)-UBFおよびpET-22b(+)-PTPを得る。
【0045】
3、生育阻止試験
陽性クローンを選抜し、AMP耐性の液体LB培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に接種する。それを37℃、250rpmで12時間振盪培養する。1:100の体積比で試験管に注入し、OD値が0.03になるまで培養を継続する。各試験管に最終濃度が0.5mMになるまでIPTGを加え、陰性対照群には相応の体積のPBSを加える。30℃、250rpmで振盪し、45分毎に1mlの菌液を取り出し、OD600値を測定する。連続して10回以上測定する。時間を横軸、OD600対数値を縦軸として、生育曲線を作成する。その結果は、図6A、図6B、図6Cおよび図6Dのとおりである。図6Aは、ブランクベクターpET-22b(+)単独の形質転換菌株の場合、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、細菌の生育曲線がほとんど一致していることを示している。図6Bは、抗菌活性を有さないことが知られる2つの遺伝子UBFおよびPTPの単独の形質転換の場合、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、細菌の生育が同様に影響を受けないことを示している。図6Cおよび図6Dは、グリリチンを導入した後、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、細菌の生育曲線に明らかな差異があることを示している。IPTGを加えた時、細菌の生育が明らかに阻止された。図中から、培養時間が長くなるにつれてIPTGがほとんど消耗し尽くされ、細菌の生育がまた回復してきたことも分かる。ところが、供試したその他の遺伝子には、この現象がなかった。上記結果は、このような細菌阻止効果がグリリチンタンパク質自体の役割であることを十分に説明している。
【0046】
(実施例3:遊離hグリリチン発現産物の精製および殺菌活性の測定)
マウスグリリチンのcDNA配列用に設計した以下のプライマー:
5’-CGGGATCCCGATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCT-3’および
5’-GGAATTCTTAGCATCGTATGCCCATTCCA-3’
に基づき、ヒト胎児肝臓mRNAを用いて、RT−PCR増幅を行う(そのPCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は実施例1の手順1と同じ)。精製後のPCR産物を配列決定し、制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化し、次いでT4DNAリガーゼの作用下で、同じ制限酵素で消化済みのpGEX4−4T2(Pharmcia社から購入)原核生物発現ベクターに挿入する。JM109大腸菌を形質転換した後、0.5mM IPTGをもって5時間インビトロで発現を誘導し、菌体を収集する。PBSを用いて再懸濁し、凍結融解を繰り返す。4℃、12000rpmで20分間遠心分離し、上清を取って、SDS−PAGE電気泳動を行う。その結果は、図7に示すように、GST-グリリチン融合タンパク質が上清で発現し、その分子量が34KDであることを示している。図中では、レーン1はタンパク質分子量標準、レーン2はGST−hグリリチン融合タンパク質の誘導発現産物、レーン3は誘導なしのGST−hグリリチン融合タンパク質の発現産物、レーン4はGSTタンパク質の誘導発現産物、レーン5は誘導なしのGSTタンパク質の発現産物である。
【0047】
誘導発現によって得られたGST−グリリチン融合タンパク質を、Sepharose 4B−GST精製カラム(Pharmcia Inc.)で精製した後、エンテロキナーゼ(Enterokinase, Roche社)で切断し、遊離したhグリリチンタンパク質を得る。96ウェルプレートを用いて、GST−グリリチン融合タンパク質および遊離hグリリチンタンパク質の抗菌活性(大腸菌DH5αと枯草桿菌DB430に対する)を計測し、最小細菌阻止濃度(MIC)を測定する。抗菌活性の測定の際、菌液の濃度を104〜105CFU/mlに希釈し、96ウェルプレートに菌液を1ウェルあたり80μl接種する。ポリペプチドを一定の割合で希釈し、1ウェルあたり5μlずつ加える。96ウェルプレートを37℃で12時間培養し、紫外可視分光光度計でOD600値を測定する。結果は、GST−グリリチン融合タンパク質が細菌生育を阻止する活性がないのに対し、遊離グリリチンは低濃度で細菌生育を阻止する活性があることを示している。遊離グリリチンタンパク質は、低濃度でグラム陽性菌およびグラム陰性菌の生育を阻止し、抗菌活性を有する(表3)。
【0048】
【表3】
【0049】
(実施例4:hグリリチン酵母発現およびその発現産物の殺菌活性の測定)
以下のPCRプライマー:
(全長上流プライマー:5’-AGGAATTCATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCTAC-3’;
5’欠失体上流プライマー:5’-AGGAATTCATGGGCTTCGTGATGGGTTGC-3’;
全長下流プライマー:5’-AAGGAAAAAAGCGGCCGCTTAGCATCGGATGCCCATCCCAATG-3’)
を設計し、hグリリチン全長を含むpET-22bプラスミドを鋳型として、全長hグリリチン遺伝子およびその5’欠失体(配列番号2の5’末端より1番目から60番目までの塩基が欠失した遺伝子)をそれぞれ、全長上流プライマーおよび全長下流プライマー、5’欠失体上流プライマーおよび全長下流プライマーの存在下でPCR増幅させる。PCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は、実施例1の手順3と同様である。
【0050】
PCR増幅によって得られた全長hグリリチン遺伝子およびその5’欠失体遺伝子を、それぞれpPIC9K酵母発現プラスミド(Invitrogen社)のEcoRIとNotIとの間に挿入し、大腸菌BL-21操作菌を形質転換する。クローンをスクリーニングし、それぞれ全長hグリリチン遺伝子を有するプラスミドおよび5’欠失したhグリリチン遺伝子を有するプラスミドを得る。得られた高純度プラスミドをSalIエンドヌクレアーゼで直線化し、電気形質転換法を用いてGS115酵母菌を形質転換し、G418(50μg/ml)を含むMDプレートでのスクリーングを経て陽性クローンを得る。陽性クローンを、5ml BMGYを含む培地に接種し、30℃でOD600=2.0〜6.0になるまで培養する。次いで、BMMY(最終濃度が1%のメタノールを含む)培地を用いてOD600=1.0まで希釈し、培養を継続する。その後、24時間毎に、最終濃度が0.5%になるまでメタノールを加える。誘導培養後、種々の時間で1mlを採取し、エッペンドルフ遠心チューブに入れ、16000rpmで遠心分離し、上清を残して活性試験を行う。活性試験は、寒天平板拡散法を用いる。即ち、1%寒天を含むLB平板の表面に均一に検体(大腸菌BL-21)を塗布し、次いで、各小ブロックの中央に直径約2mmの濾紙を載せる。15μlの異なるクローン上清を濾紙に滴下し、20分後さらに等量を滴下する。全部で3回加える。37℃で4時間培養し、生育阻止環を観察することによって、陽性クローンを得る。同時に、濃度が100mg/mlのアンピシリン10μlを活性対照とする。活性スクリーニングを経て、全長hグリリチンの発現の陽性クローン(L4クローン)と5’側が欠失したhグリリチンの発現の陽性クローン(S2、S12およびS5クローン)を得た。L4、S2、S12およびS5クローンの生育阻止効果は、図8に示すように、全長を含むまたは5’側が欠失したhグリリチン遺伝子で形質転換された陽性クローン(L4、S2、S12とS5)の上清は、明らかに寒天平板表面で大腸菌BL-21の生育を抑制する効果を有することを示す。上記実験結果から、酵母発現系はhグリリチン(Glyrinchin)タンパク質を発現し得、かつ、発現産物が抗菌活性を有すること、全長遺伝子および5’側が欠失した遺伝子はいずれも活性タンパク質を発現することが確認される。これは、当該遺伝子の活性を表す確かな構造をさらに探索するための確固たる基盤を固めた。上記一連の試験結果に基づき、当業者はさらに、同様の方法で、同様の活性を有する最小タンパク質分子を極めて容易にスクリーニングし得る。
【0051】
(実施例5:hグリリチン遺伝子の構造−活性相関解析)
1、異なる欠失体プラスミドによる形質転換菌が形質転換菌の生育に与える影響
本発明者は、遺伝子組換え技術を利用して、一連のPCRプライマー:
プライマー1:5’-GGAATTCCATATGCCGGTGGCCGTGGGTC-3’
プライマー2:5’-GGAATTCCATATGGGCTTCGTGATGGGTTGC-3’
プライマー3:5’-CCGGCTC GAG TTA GAA TGT GCC AAA GGT-3’
プライマー4:5’-CCGCTCGAGTTAGCATCGGATGCCCATC-3’
を設計した。pET-22b-hグリリチンを鋳型として、異なるプライマーの組合せの存在下で、それぞれ全長hグリリチン遺伝子(プライマー1とプライマー4との組合せ)、5’欠失体(配列番号2の5’末端から1番目から60番目までの塩基が欠失した遺伝子)(プライマー2とプライマー4との組合せ)、および3’欠失体(配列番号2の5’末端から211番目から240番目までの塩基が欠失した遺伝子)(プライマー1とプライマー3との組合せ)をPCR増幅する。PCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は、実施例1の手順3と同様である。PCR増幅によって得られた長さが違うhグリリチン遺伝子断片について、実施例2に述べた方法により、それぞれの遺伝子断片とpET-22b(+)プラスミドとを連結し、大腸菌BL-21菌を形質転換し、クローン選抜し、そして同定する。同様に、実施例2の方法により、上記陽性クローン菌の発現誘導を行うことによって、全長および異なる欠失体の形質転換菌の生育に与える影響を観察する。その結果は、図9に示すように、ブランクベクターで形質転換した大腸菌BL-21が、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、その生育が影響を受けないのに対し、全長または一部欠失した目的遺伝子を有するプラスミドで形質転換した場合、IPTG誘導がなければ細菌の生育は影響を受けないが、IPTG誘導後5時間以内には形質転換菌の生育が明らかに抑制された。図中のX軸は、IPTG誘導後の時間数(カッコ中)、Y軸はOD600の吸光度値を示す。上記結果から、hグリリチン遺伝子の5’末端および3’末端部分のヌクレオチド配列は、抗菌作用を発揮するに必須なものでないことが確認される。図9中の各図例中の(−)はIPTG添加なし、(+)は0.5mM IPTG添加ありを示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明者は、実験を通じて、初めてグリリチンファミリーを発見し、その保存された配列を得るとともに、hグリリチンが抗細菌の作用を有することを確認した。グリリチンは、医薬品分野および抗生物質を使用する必要がある種々の分野に使用できるものであり、応用の見込みが明るい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、グリリチンファミリーメンバー間の相同性解析における12の配列の系統樹分析図である。
【図2】図2は、保存されたGlyrich構造領域である。
【図3】図3は、異なるメンバー間のGlyrich構造領域の配列一致性である。
【図4】図4は、hグリリチンファミリーの構造特徴図である。
【図5A】図5Aは、hグリリチン遺伝子をプローブとしてhグリリチン転写パターンの大きさと発現スペクトルを検出するノーザンブロット解析である。
【図5B】図5Bは、ヒトグリリチンのインビトロ転写および翻訳試験の結果である。
【図6A】図6Aは、pET-22b(+)ブランクベクターで形質転換した大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における半対数成長曲線である。
【図6B】図6Bは、pET-22b(+)-UBFでの形質転換およびpET-22b(+)-PTHでの形質転換による大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における半対数成長曲線である。
【図6C】図6Cは、pET-22b-hグリリチン陽性クローン1またはクローン8での形質転換による大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における半対数成長曲線である。
【図6D】図6Dは、pET-22b-hグリリチン陽性クローン1での形質転換による大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における二回繰り返し実験結果の半対数成長曲線である。
【図7】図7は、hグリリチンの原核生物発現産物のPAGE電気泳動の結果である。
【図8】図8は、全長または5’欠失体のhグリリチン遺伝子で形質転換した酵母の発現産物の大腸菌BL-21菌体の生育に対する阻止作用である。
【図9】図9は、hグリリチン全長、5’欠失体、または3’欠失体の遺伝子形質転換後のBL-21菌の生育に対する影響である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシンリッチタンパク質、それをコードする遺伝子および使用に係り、特に、ヒト起源およびマウス起源のグリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子、ならびに抗細菌におけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
20余年以来、医薬界においていかなる新規の抗生物質ファミリーも発見されていない。一方、薬物耐性現象が極めて迅速に発展してきている。人々は肉眼で細菌の遺伝子の突然変異を観察できることに至っている。さらに恐ろしいことに、黄色ブドウ球菌の耐性の問題を克服したとたん、アメリカの医者が、有効に細菌を阻止できる最新の抗生物質であるバンコマイシンに対して耐性を有する菌株を発見した。病原菌の薬物耐性の問題は、益々ヒトの健康を著しく脅かしつつある。そこで、全く新規なタイプの抗生物質を探すことが、薬物耐性問題を解決するために有効な方法の1つである。抗菌ペプチドは、生体の天然免疫の活性分子として、各種の生体に外界からの病菌の侵入を防ぐのに用いられ、生物界において広範に存在している。分離された天然由来の抗菌ペプチドは、抗菌活性が高い、抗菌スペクトルが幅広い、種類が多い、選択できる範囲が広い、目的菌株に薬物耐性の突然変異を生じにくいなどの特徴を示しているため、医薬工業、食品工業および農業において応用の見込みが明るいとされている。
【0003】
抗菌ペプチドとは、コードされる遺伝子によりリボソーム上で合成された、相対分子質量が通常10kDa以下で、抗菌活性を有するポリペプチド系物質をいい、ポリペプチド抗生物質とも言われる。ほとんどの抗菌ペプチドは、熱安定性を有し、100℃で10〜15分間加熱しても、その活性を保つことができる。抗菌ペプチドは、高いイオン強度および極度に高いまたは低いpH値に対して強い耐性を有する。大多数の抗菌ペプチドは、等電点が7以上であり、強い陽イオンの特徴を示している。それと同時に、一部の抗菌ペプチドは、トリプシンまたはペプシンによる加水分解に抵抗する能力を有する。また、研究によれば、異なるファミリーの抗菌ペプチドの間には、ほとんど配列相同性がないが、同一ファミリーの異なるメンバー間に、その配列に高度の保存性があることが分かった。これは、その機能も非常に保存的であることを意味している。抗菌ペプチドは、抗細菌または抗真菌の作用を有するほか、抗原生動物、抗ウイルスまたは抗腫瘍活性を有するものもある。抗菌ペプチドは、生物界に広範に存在している。今まで、細菌、真菌から、両生類、昆虫、高等植物、哺乳動物、ひいてはヒトにおいて、700種類以上にも達したポリペプチド系抗生物質が発見されている。現在、多種類の抗菌ペプチドに関して、臨床前の実行可能性研究が実施中である。また、抗菌ペプチドによる遺伝子組換え動物および遺伝子組換え植物、ならびに食品の防腐、生花の保存、化粧品、種子コーティングおよび動物飼料添加剤などの面における抗菌ペプチドの応用研究も実施中である。
【0004】
抗菌ペプチドが医薬工業、食品工業および農業において応用の見込みが明るいことに鑑み、種々の方法を通じて生物界の中から新型の天然由来の抗菌ペプチドを見出すことは、既に現在世界的にもブームの1つになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子ならびにそれらの抗菌用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明で提供されるグリシンリッチタンパク質は、名称をグリリチン(Glyrichin)とし、下記のタンパク質ファミリー(グリリチンファミリー)から選択(クローニング)される少なくとも一種である:
1)ヒトグリリチン(hグリリチン)とマウスグリリチン(mグリリチン):いずれも配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
2)ゼブラフィッシュ(Danio rerio)グリリチン:配列表中の配列番号3のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号3のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
3)ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)グリリチン:配列表中の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号4のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
4)キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)グリリチン:配列表中の配列番号5のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号5のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
5)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号6のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号6のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
6)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号7のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号7のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
7)分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)グリリチン:配列表中の配列番号8のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号8のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
8)清酒酵母(Sacchromyces serevisiae)グリリチン:配列表中の配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号9のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
9)シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)グリリチン:配列表中の配列番号10のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号10のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
10)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum 3D7)グリリチン:配列表中の配列番号11のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号11のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
11)マラリア原虫(Plasmodium yoelii yoelii)グリリチン:配列表中の配列番号12のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号12のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
12)イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)グリリチン:配列表中の配列番号13のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号13のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
13)アカパンカビ(Neurospora crassa)グリリチン:配列表中の配列番号14のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号14のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質。
【0007】
上記グリシンリッチタンパク質は、好ましくは、ヒトグリリチンおよびマウスグリリチンである。
【0008】
そのうち、上記欠失、挿入および/または置換、ならびにカルボキシル末端および/またはアミノ末端に結合するアミノ酸残基の数は、好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜5であり、最も好ましくは1〜3である。
【0009】
好ましい置換を、表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
本発明におけるグリシンリッチタンパク質に、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、およびリン酸化のような修飾(通常、一次構造を変化させない)を加えることができる。
【0012】
上記グリシンリッチタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の保護範囲に属する。
【0013】
そのうち、上記ヒトグリリチン(hグリリチン)をコードする遺伝子は、配列表中の配列番号2のDNA配列、または配列表中の配列番号2に限定するDNA配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列表中の配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA配列、または高度厳密な条件下、配列表中の配列番号2に限定するDNA配列とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を有し得る。
【0014】
上記ハイブリダイゼーションの高度厳密な条件は、0.1×SSPE(または0.1×SSC)、0.1%SDSを含む溶液中での65℃でのブロッティング膜の洗浄を指す。
【0015】
上記グリシンリッチタンパク質のコード遺伝子を含む発現ベクター、細胞系および遺伝子操作菌は、全て本発明の保護範囲に属する。
【0016】
本発明に述べるグリシンリッチタンパク質は、抗細菌に用いることができる。具体的に、次のいくつかの局面での用途を含める:
1)ヒトまたは家畜の細菌性感染病を予防および/または治療するための薬物の調製に用いられる;
2)潜在する細菌感染を予防および/または治療するための各種の生物用製品の調製に用いられる;
3)病虫害の防除のための遺伝子組換え生物の製造に用いられる;
4)上記グリシンリッチタンパク質の誘導体、アンタゴニスト、リガンド、または抗体の調製に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者は、サプレッションサブトラクティブハイブリダイゼーション(Suppression Subtractive Hybridization:SSH)法を用いて、LTC(長期培養:long term culture)培養前後におけるマウスの骨髄間質細胞の差次的に発現する遺伝子に対してスクリーニングを行い、131の差次的に発現したESTクローンを得た。生物情報学的解析によって、これらのクローンは既知のまたは一部の機能が知られている26の遺伝子と全く新規な7つの遺伝子を表す。そのうち5つが完全なオープンリーディングフレームを有する。マウス由来のmグリリチン遺伝子(GenBank番号はAYO28425)は、その中の1つであり、配列表中の配列番号1のアミノ酸配列のグリシンリッチタンパク質mグリリチンをコードする。
【0018】
マウス由来のmグリリチンを獲得した後、本発明者は、マウス由来のグリリチン遺伝子に基づいて一対のプライマーを設計し、ヒト胎児肝臓mRNAを鋳型として、RT−PCR増幅を通じて、240bpのヒト由来グリリチンの完全なORF配列、およびこのORF配列により推定したアミノ酸配列を得た。本発明者は、生物情報学的手法を利用して、配列に関して詳しい解析を行った上、グリリチンファミリーのメンバー間で相同性解析(多配列整列)を行った。
【0019】
グリリチンファミリーの各メンバーの類縁関係を検討するために、図1に示した12の配列に関して系統樹解析を行った。図1は、グリリチン遺伝子の下等から高等への進化過程および各メンバー間の類縁関係の遠近を示している。グリリチンファミリーのメンバー間の保存されたグリシンを豊富に含む領域(Glyrich domain)は、図2に示すとおりである(図中、保存されたアミノ酸を反転表示にて表す)。図3に示すように、グリリチンファミリーの異なるメンバー間のグリシンを豊富に含む構造領域(Glyrich構造領域)の配列一致性により、あらゆる2つのメンバー間の類縁関係の遠近が理解できる。電子PCRの結果は、hグリリチン遺伝子が、ヒト染色体の20ql1.21領域に位置し、3つのエクソンから構成され、79個のアミノ酸の小分子タンパク質をコードすることを示している。アミノ酸レベルBlastP相同性解析は、この遺伝子が進化において非常に保存され、真菌(ニューロスポラ、酵母菌など)、植物(シロイヌナズナなど)、熱帯熱マラリア原虫、線虫、キイロショウジョウバエ、ガンビエハマダラカ、ゼブラフィッシュ、マウスからヒトなどに至るまでの種の中に存在しており、グリリチン相同性タンパク質ファミリーを構成することを示す。異なる種属間で高い相同性を示し、既知のヒト由来グリリチンは、マウス由来のものと比べて100%の相同性を有し、ゼブラフィッシュグリリチンと比べて90%の相同性を有し、キイロショウジョウバエとの相同性が62%、酵母との相同性も46%ある。ファミリーの中の異なるメンバー間の類縁関係を、系統樹で示す(図1)。
【0020】
そのうち、配列番号1、配列番号3〜14のアミノ酸配列を有するグリリチンタンパク質ファミリーのメンバーの配列特性は、表2に示すとおりである。
【0021】
【表2】
【0022】
そのうち、ヒトグリリチン(hグリリチン)は、79個のアミノ酸残基から構成され、分子量が8.8kDa、等電点が9.36で、pHが7の条件下で4.79の正電荷を帯び、グリシン含量が21.52%である。本発明者は、hグリリチン二次構造予測を行った。hグリリチンの構造特性は、図4に示すように、SignalP解析の結果である。グリリチンファミリーのその他のメンバーの等電点はいずれも7以上で、pH=7の時全て正電荷を帯び、かつ、強い疎水性領域が存在している。上記結果は、グリリチンファミリーが、既知の抗菌ペプチドの典型的な構造特性を有することを表している。
【0023】
本発明におけるグリリチンタンパク質ファミリーの13のメンバーは、真菌からヒトまでのゲノム配列解析が完了した種の中に存在している。このことに基づいて、当業者は、ゲノムの配列解析が完了していない他の種の中にも存在している、と容易に推定し得る。構造上の共通の特徴として、59〜68アミノ酸の間の長さの1つのグリシン(Glycine)リッチ領域が存在する。この領域は、ほとんどヒト由来とマウス由来のグリリチンの全配列を包含している。その他の種の中に存在するグリリチンは、グリシンリッチの共通の領域のほか、この保存された領域のアミノ末端またはカルボキシル末端にその他の配列(例えば、シグナルペプチドなど)が存在している。ただし、保存性を有さない(図2、図3)。これは、グリシンリッチの保存された領域が、グリリチンタンパク質ファミリーのメンバーの最も基本的な生物活性を決定していることを示す。また別の方面からは、生物の進化過程において次第に冗長な配列が淘汰されることによって、分子がより小さくなり、構造がよりコンパクトになることを示している。
【0024】
普通の組換えDNA技術を通じて、本発明のグリシンリッチタンパク質のコード遺伝子を利用して、組換えのグリシンリッチタンパク質を発現し、または作製することができる。例えば、下記の方法で発現または作製し得る:
(1)上記グリシンリッチタンパク質のコード遺伝子を含む組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換する;
(2)上記宿主細胞を培養する;
(3)培地または細胞の中から、タンパク質を分離し、または精製する。
【0025】
上記組換え発現ベクターの構築に用いる開始ベクターとして、当該分野においてよく知られている細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス(例えば、アデノウイルス)またはその他のベクターが使用され得る。要するに、宿主内で複製し、安定発現できる全てのプラスミドおよびベクターが使用され得る。
【0026】
発現ベクターは、重要な特徴の1つとして、一般には、複製開始点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳制御機構を含む。当業者に公知の方法が、グリリチンコードDNA配列および適当な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの構築に用いられ得る。
【0027】
当業者は、いかにして適当なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞を選択するかを理解している。上記組換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換する時、当業者によく知られた通常の技術を用い得る。得られた形質転換体を通常の方法で培養することによって、本発明の遺伝子がコードするグリシンリッチタンパク質を発現させ得る。上記方法におけるグリシンリッチタンパク質は、細胞内または細胞膜上で発現され、または細胞外に分泌され得る。必要に応じて、その物理的、化学的およびその他の特性を利用して、各種の分離方法によって、組換えタンパク質は分離、精製され得る。本発明のグリリチンタンパク質の使用と共に、その他の薬物(例えば、ペニシリンなどの抗生物質)も使用し得る。
【0028】
本発明において、用語「グリリチン」、「グリリチンファミリーのメンバー」、「グリリチンタンパク質」または「グリリチンポリペプチド」は、交換して使用でき、いずれも天然由来の抗菌ペプチドグリリチンファミリーに属する各メンバーのアミノ酸配列(配列表1中の配列番号1、配列番号3〜14)を有するタンパク質またはポリペプチドをいう。これらは、開始メチオニンを含むまたは含まない天然由来の抗菌ペプチドグリリチンファミリーのメンバー、ならびにシグナルペプチドを含むまたは含まないグリリチンメンバーのタンパク質を含む。
【0029】
用語「Glyrich構造領域」とは、特に配列表中の配列番号1〜13で最も保存された部位のポリペプチドをいう。この部位は、そのアミノ酸長が59〜68の間であり、等電点が7以上で、pH7.0の条件で正電荷を帯び、グリシン含量が20種類のアミノ酸の中で最も高く、かつ、少なくとも1つの疎水性領域がある。それらの配列および構造特性は、図3、図4および表2に示されるとおりである。
【0030】
用語「グリリチンファミリー」とは、Glyrich構造領域を有し、かつ、当該構造領域の部位において相互間のアミノ酸相同性が30%以上のポリペプチドをいい、本発明において言及した13個のポリペプチドおよびその他の発表されていないポリペプチドが含まれる。進化生物学的観点から見れば、これは、同じ起源に由来する。
【0031】
本発明は、グリリチンポリペプチドまたはその断片を含む融合タンパク質もまた提供する。ほとんど全長のポリペプチドのほか、本発明はまた、グリリチンポリペプチドの可溶性断片を包含する。通常、当該断片は、グリリチンポリペプチド配列中の一定の数の連続したアミノ酸の配列を有する。本発明におけるポリペプチドは、上記に挙げた代表的なポリペプチドに限定されないことを理解すべきである。
【0032】
用語「修飾」(通常、一次構造を変化させない)は、ポリペプチドのインビボまたはインビトロでの化学的修飾(例えば、アセチル化またはカルボキシル化)を包含する。また修飾は、グリコシル化も含む(例えば、ポリペプチドの合成およびプロセシング、またはさらなるプロセシングの過程におけるグリコシル化によって産生したポリペプチド)。これらの修飾は、グリコシル化を行う酵素(例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)にポリペプチドを曝露させることによって、行われ得る。また、修飾様式は、リン酸化アミノ酸残基(例えば、ホスホセリン、ホスホトレオニン)を有する配列も含む。修飾によってタンパク質加水分解耐性が向上し、または溶解度が最適化されたポリペプチドも含む。
【0033】
ヒト由来グリリチンポリヌクレオチド配列を獲得した後、本発明者は、ヒト由来グリリチンおよびマウス由来グリリチンを例として用いて、当該遺伝子ファミリーの機能について検討した。この結果は、ヒト由来グリリチンおよびマウス由来グリリチンが、ヒトおよびマウスの種々の組織において広範に発現している、抗菌活性を有する天然の免疫分子であることを示す。天然に存在する抗菌ペプチドとして、医薬工業およびすべての細菌感染を阻止する必要がある種々の分野において発展することが期待できる。これは、グリリチンファミリーの各メンバーの基本機能および活性でもある。
【0034】
以下に、ヒト由来グリリチン(ヒトグリリチン、hグリリチン)遺伝子のクローニング、発現、精製および抗菌活性評価の実施例を例として、より詳細に本発明を説明する。これらの実施例は、本発明の説明にのみ用いられるのであって、本発明の範囲を制限しないことが理解されるべきである。下記の実施例で具体的な条件を記載していない実験方法は、通常、標準の条件(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載される条件、または製造者による推奨条件)による。
【実施例】
【0035】
(実施例1:ヒトグリリチン遺伝子の獲得および分析)
1、ヒトグリリチン遺伝子の完全なORF配列の獲得
マウス由来グリリチン遺伝子に基づき、下記のような一対のプライマー:
5’プライマーPa:5-CGATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCT-3
3’プライマーPb:5-TTAGCATCGTATGCCCATTCCA-3
を設計し、ヒト胎児肝臓mRNAを鋳型としてRT−PCR反応を行う。
【0036】
PCR反応系。PCR反応系は、分子生物学において標準の系による。PCR増幅条件は、94℃で4分間を1サイクル;94℃で40秒、60℃で50秒、72℃で1分間を30サイクル;72℃で7分間を1サイクルとする。PCR産物を、Winzard PCR preps purification kit(Promega社から購入)で精製し、T4リガーゼを用いてpGEM-Tベクター中に連結し、組換えプラスミドpGEM-T/hグリリチンを得る。次いで、大腸菌JM109に形質転換し、配列決定を行う。その結果は、ヒトグリリチン遺伝子が配列表中の配列番号2のヌクレオチド配列を有し、配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するグリシンリッチタンパク質のヒトグリリチンをコードすることを示す。
【0037】
2、ノーザンブロット解析
4種類のヒト腫瘍細胞株HepG2、HeLa、JurketおよびHEK293を培養し、次いでWinzard plus RNA purification kit(Promega社から購入)を用いて総RNAを抽出する。それぞれ20μgの総RNAを採取し、1.2%ホルムアルデヒド変性アガロースゲル上で分離し、Hybond N+ナイロンメンブレン上に転写する。hグリリチンの完全なORFをプローブとして、Promega社のPrime-a-gene試薬キットを用いて標識する。ハイブリダイゼーションの結果は、図5Aに示すように、ヒトグリリチン遺伝子が、供試した異なる組織由来の4種類の腫瘍細胞株のすべてで発現があることを示し、それは広範に発現する天然由来の抗菌ペプチドであり得ることを示唆している。また、1つの遺伝子転写物しか存在せず、かつ、大きさが約600bpであることを示している。
【0038】
3、インビトロ転写および翻訳試験
pGEM-T/hグリリチンプラスミドを鋳型とし、以下のプライマー:
5’プライマー:5’-CGGGATCCCGATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCT-3’および
3’プライマー:5’-gctcgagttagcatcggatgcccatcc-3’
を用いてPCR増幅し、hグリリチン遺伝子の全長のORFを得る。PCR反応系は、通常の(Short Protocols in Molecular Biologyを参照)PCR反応系を用いる。PCR増幅の条件は、94℃で4分間を1サイクル;94℃で40秒、60℃で50秒、72℃で1分間を30サイクル;72℃で7分間を1サイクルとする。
【0039】
次いで、BamHI酵素およびSacI酵素でPCR増幅産物を切断し、pT7ベクター(Promega社から購入)を同じ酵素で切断する。T4DNAリガーゼで連結し、pT7-hグリリチンプラスミドを構築する。構築したプラスミドは、以下の系で転写および翻訳反応を行う。
【0040】
25μl系:
ウサギ網状赤血球溶血液 12.5μl
反応緩衝液 1.0μl
アミノ酸混合物 0.5μl
S35−Met 1.0μl(50μli)
DNA 2.0μl(0.5μg/μl)
Rnaseインヒビター 0.5μl
T7 DNAポリメラーゼ 0.5μl
脱イオン水 7.0μl
総容量 25.0μl。
【0041】
30℃で90分間反応させる。反応が完了した後、5μlの試料を採取し、10μlのLoading Bufferを加えて、SDS-PAGE電気泳動を行う。固定液の中で30分間固定した後、乾燥剤に5分間浸し、トレーでゲルを固定し、一夜ゲルを乾燥する。オートラジオグラフィ法を用いて、−20℃で24時間プレスして、現像する。その結果を、図5Bに示す。これは、hグリリチン遺伝子がコードするタンパク質のインビトロ翻訳後の大きさが約8.8kDaであることを示し、理論的に推定した結果と一致している。このことは、当該遺伝子がインビトロで正常に転写し、翻訳することができることを表している。反応系において使用した材料は、PromegaのTNT試薬キットからのものである。S35−MetはAmersham Biosience社から購入したものである。図中では、1は分子量標準、2は無関係な遺伝子UBF(GenBankUBF-f1 AF294842.中国応用生理学雑誌, 20: 66,2004)の翻訳産物、3はhグリリチン遺伝子翻訳産物、4は試薬キットが提供する陽性対照翻訳産物である。
【0042】
(実施例2:内因性誘導発現によるhグリリチン(mグリリチン)の大腸菌BL21に対する生育阻止試験)
1、pET-22b-hグリリチンの構築
pGEM-T/hグリリチンを鋳型として、以下のプライマー:
プライマー1:5’-GGAATTCCATATGCCGGTGGCCGTGGGTC-3’および
プライマー2:5’-CCGCTCGAGTTAGCATCGGATGCCCATC-3’
を用いて、通常のPCRでhグリリチン遺伝子を増幅する。PCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は、実施例1の手順3と同様である。
【0043】
得られたhグリリチン遺伝子の増幅産物を、NdeI酵素およびXhoI酵素で切断し、NdeI酵素およびXhoI酵素で切断しておいた発現ベクターpET-22b(+)のNdeI部位とXhoI部位との間に、T4DNAリガーゼを用いて連結する。大腸菌BL21を形質転換し、酵素切断によって陽性クローン1および8(プラスミドpET-22b-hグリリチンを含有)を同定する。
【0044】
2、対照プラスミドpET-22b(+)-UBFおよびpET-22b(+)-PTPの構築
UBF遺伝子(GenBankUBF-f1 AF294842.中国応用生理学雑誌, 20: 66,2004)とPTP遺伝子(副甲状腺ホルモンの34ペプチド遺伝子配列)(GenBank NM000315)をそれぞれpET-22b(+)のマルチクローニング部位にクローニングし、対照プラスミドであるpET-22b(+)-UBFおよびpET-22b(+)-PTPを得る。
【0045】
3、生育阻止試験
陽性クローンを選抜し、AMP耐性の液体LB培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に接種する。それを37℃、250rpmで12時間振盪培養する。1:100の体積比で試験管に注入し、OD値が0.03になるまで培養を継続する。各試験管に最終濃度が0.5mMになるまでIPTGを加え、陰性対照群には相応の体積のPBSを加える。30℃、250rpmで振盪し、45分毎に1mlの菌液を取り出し、OD600値を測定する。連続して10回以上測定する。時間を横軸、OD600対数値を縦軸として、生育曲線を作成する。その結果は、図6A、図6B、図6Cおよび図6Dのとおりである。図6Aは、ブランクベクターpET-22b(+)単独の形質転換菌株の場合、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、細菌の生育曲線がほとんど一致していることを示している。図6Bは、抗菌活性を有さないことが知られる2つの遺伝子UBFおよびPTPの単独の形質転換の場合、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、細菌の生育が同様に影響を受けないことを示している。図6Cおよび図6Dは、グリリチンを導入した後、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、細菌の生育曲線に明らかな差異があることを示している。IPTGを加えた時、細菌の生育が明らかに阻止された。図中から、培養時間が長くなるにつれてIPTGがほとんど消耗し尽くされ、細菌の生育がまた回復してきたことも分かる。ところが、供試したその他の遺伝子には、この現象がなかった。上記結果は、このような細菌阻止効果がグリリチンタンパク質自体の役割であることを十分に説明している。
【0046】
(実施例3:遊離hグリリチン発現産物の精製および殺菌活性の測定)
マウスグリリチンのcDNA配列用に設計した以下のプライマー:
5’-CGGGATCCCGATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCT-3’および
5’-GGAATTCTTAGCATCGTATGCCCATTCCA-3’
に基づき、ヒト胎児肝臓mRNAを用いて、RT−PCR増幅を行う(そのPCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は実施例1の手順1と同じ)。精製後のPCR産物を配列決定し、制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化し、次いでT4DNAリガーゼの作用下で、同じ制限酵素で消化済みのpGEX4−4T2(Pharmcia社から購入)原核生物発現ベクターに挿入する。JM109大腸菌を形質転換した後、0.5mM IPTGをもって5時間インビトロで発現を誘導し、菌体を収集する。PBSを用いて再懸濁し、凍結融解を繰り返す。4℃、12000rpmで20分間遠心分離し、上清を取って、SDS−PAGE電気泳動を行う。その結果は、図7に示すように、GST-グリリチン融合タンパク質が上清で発現し、その分子量が34KDであることを示している。図中では、レーン1はタンパク質分子量標準、レーン2はGST−hグリリチン融合タンパク質の誘導発現産物、レーン3は誘導なしのGST−hグリリチン融合タンパク質の発現産物、レーン4はGSTタンパク質の誘導発現産物、レーン5は誘導なしのGSTタンパク質の発現産物である。
【0047】
誘導発現によって得られたGST−グリリチン融合タンパク質を、Sepharose 4B−GST精製カラム(Pharmcia Inc.)で精製した後、エンテロキナーゼ(Enterokinase, Roche社)で切断し、遊離したhグリリチンタンパク質を得る。96ウェルプレートを用いて、GST−グリリチン融合タンパク質および遊離hグリリチンタンパク質の抗菌活性(大腸菌DH5αと枯草桿菌DB430に対する)を計測し、最小細菌阻止濃度(MIC)を測定する。抗菌活性の測定の際、菌液の濃度を104〜105CFU/mlに希釈し、96ウェルプレートに菌液を1ウェルあたり80μl接種する。ポリペプチドを一定の割合で希釈し、1ウェルあたり5μlずつ加える。96ウェルプレートを37℃で12時間培養し、紫外可視分光光度計でOD600値を測定する。結果は、GST−グリリチン融合タンパク質が細菌生育を阻止する活性がないのに対し、遊離グリリチンは低濃度で細菌生育を阻止する活性があることを示している。遊離グリリチンタンパク質は、低濃度でグラム陽性菌およびグラム陰性菌の生育を阻止し、抗菌活性を有する(表3)。
【0048】
【表3】
【0049】
(実施例4:hグリリチン酵母発現およびその発現産物の殺菌活性の測定)
以下のPCRプライマー:
(全長上流プライマー:5’-AGGAATTCATGCCGGTGGCCGTGGGTCCCTAC-3’;
5’欠失体上流プライマー:5’-AGGAATTCATGGGCTTCGTGATGGGTTGC-3’;
全長下流プライマー:5’-AAGGAAAAAAGCGGCCGCTTAGCATCGGATGCCCATCCCAATG-3’)
を設計し、hグリリチン全長を含むpET-22bプラスミドを鋳型として、全長hグリリチン遺伝子およびその5’欠失体(配列番号2の5’末端より1番目から60番目までの塩基が欠失した遺伝子)をそれぞれ、全長上流プライマーおよび全長下流プライマー、5’欠失体上流プライマーおよび全長下流プライマーの存在下でPCR増幅させる。PCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は、実施例1の手順3と同様である。
【0050】
PCR増幅によって得られた全長hグリリチン遺伝子およびその5’欠失体遺伝子を、それぞれpPIC9K酵母発現プラスミド(Invitrogen社)のEcoRIとNotIとの間に挿入し、大腸菌BL-21操作菌を形質転換する。クローンをスクリーニングし、それぞれ全長hグリリチン遺伝子を有するプラスミドおよび5’欠失したhグリリチン遺伝子を有するプラスミドを得る。得られた高純度プラスミドをSalIエンドヌクレアーゼで直線化し、電気形質転換法を用いてGS115酵母菌を形質転換し、G418(50μg/ml)を含むMDプレートでのスクリーングを経て陽性クローンを得る。陽性クローンを、5ml BMGYを含む培地に接種し、30℃でOD600=2.0〜6.0になるまで培養する。次いで、BMMY(最終濃度が1%のメタノールを含む)培地を用いてOD600=1.0まで希釈し、培養を継続する。その後、24時間毎に、最終濃度が0.5%になるまでメタノールを加える。誘導培養後、種々の時間で1mlを採取し、エッペンドルフ遠心チューブに入れ、16000rpmで遠心分離し、上清を残して活性試験を行う。活性試験は、寒天平板拡散法を用いる。即ち、1%寒天を含むLB平板の表面に均一に検体(大腸菌BL-21)を塗布し、次いで、各小ブロックの中央に直径約2mmの濾紙を載せる。15μlの異なるクローン上清を濾紙に滴下し、20分後さらに等量を滴下する。全部で3回加える。37℃で4時間培養し、生育阻止環を観察することによって、陽性クローンを得る。同時に、濃度が100mg/mlのアンピシリン10μlを活性対照とする。活性スクリーニングを経て、全長hグリリチンの発現の陽性クローン(L4クローン)と5’側が欠失したhグリリチンの発現の陽性クローン(S2、S12およびS5クローン)を得た。L4、S2、S12およびS5クローンの生育阻止効果は、図8に示すように、全長を含むまたは5’側が欠失したhグリリチン遺伝子で形質転換された陽性クローン(L4、S2、S12とS5)の上清は、明らかに寒天平板表面で大腸菌BL-21の生育を抑制する効果を有することを示す。上記実験結果から、酵母発現系はhグリリチン(Glyrinchin)タンパク質を発現し得、かつ、発現産物が抗菌活性を有すること、全長遺伝子および5’側が欠失した遺伝子はいずれも活性タンパク質を発現することが確認される。これは、当該遺伝子の活性を表す確かな構造をさらに探索するための確固たる基盤を固めた。上記一連の試験結果に基づき、当業者はさらに、同様の方法で、同様の活性を有する最小タンパク質分子を極めて容易にスクリーニングし得る。
【0051】
(実施例5:hグリリチン遺伝子の構造−活性相関解析)
1、異なる欠失体プラスミドによる形質転換菌が形質転換菌の生育に与える影響
本発明者は、遺伝子組換え技術を利用して、一連のPCRプライマー:
プライマー1:5’-GGAATTCCATATGCCGGTGGCCGTGGGTC-3’
プライマー2:5’-GGAATTCCATATGGGCTTCGTGATGGGTTGC-3’
プライマー3:5’-CCGGCTC GAG TTA GAA TGT GCC AAA GGT-3’
プライマー4:5’-CCGCTCGAGTTAGCATCGGATGCCCATC-3’
を設計した。pET-22b-hグリリチンを鋳型として、異なるプライマーの組合せの存在下で、それぞれ全長hグリリチン遺伝子(プライマー1とプライマー4との組合せ)、5’欠失体(配列番号2の5’末端から1番目から60番目までの塩基が欠失した遺伝子)(プライマー2とプライマー4との組合せ)、および3’欠失体(配列番号2の5’末端から211番目から240番目までの塩基が欠失した遺伝子)(プライマー1とプライマー3との組合せ)をPCR増幅する。PCR反応系(プライマーを除いて)および反応条件は、実施例1の手順3と同様である。PCR増幅によって得られた長さが違うhグリリチン遺伝子断片について、実施例2に述べた方法により、それぞれの遺伝子断片とpET-22b(+)プラスミドとを連結し、大腸菌BL-21菌を形質転換し、クローン選抜し、そして同定する。同様に、実施例2の方法により、上記陽性クローン菌の発現誘導を行うことによって、全長および異なる欠失体の形質転換菌の生育に与える影響を観察する。その結果は、図9に示すように、ブランクベクターで形質転換した大腸菌BL-21が、IPTG添加ありとIPTG添加なしとで、その生育が影響を受けないのに対し、全長または一部欠失した目的遺伝子を有するプラスミドで形質転換した場合、IPTG誘導がなければ細菌の生育は影響を受けないが、IPTG誘導後5時間以内には形質転換菌の生育が明らかに抑制された。図中のX軸は、IPTG誘導後の時間数(カッコ中)、Y軸はOD600の吸光度値を示す。上記結果から、hグリリチン遺伝子の5’末端および3’末端部分のヌクレオチド配列は、抗菌作用を発揮するに必須なものでないことが確認される。図9中の各図例中の(−)はIPTG添加なし、(+)は0.5mM IPTG添加ありを示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明者は、実験を通じて、初めてグリリチンファミリーを発見し、その保存された配列を得るとともに、hグリリチンが抗細菌の作用を有することを確認した。グリリチンは、医薬品分野および抗生物質を使用する必要がある種々の分野に使用できるものであり、応用の見込みが明るい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、グリリチンファミリーメンバー間の相同性解析における12の配列の系統樹分析図である。
【図2】図2は、保存されたGlyrich構造領域である。
【図3】図3は、異なるメンバー間のGlyrich構造領域の配列一致性である。
【図4】図4は、hグリリチンファミリーの構造特徴図である。
【図5A】図5Aは、hグリリチン遺伝子をプローブとしてhグリリチン転写パターンの大きさと発現スペクトルを検出するノーザンブロット解析である。
【図5B】図5Bは、ヒトグリリチンのインビトロ転写および翻訳試験の結果である。
【図6A】図6Aは、pET-22b(+)ブランクベクターで形質転換した大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における半対数成長曲線である。
【図6B】図6Bは、pET-22b(+)-UBFでの形質転換およびpET-22b(+)-PTHでの形質転換による大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における半対数成長曲線である。
【図6C】図6Cは、pET-22b-hグリリチン陽性クローン1またはクローン8での形質転換による大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における半対数成長曲線である。
【図6D】図6Dは、pET-22b-hグリリチン陽性クローン1での形質転換による大腸菌BL21の0.5mM IPTG誘導ありまたは誘導なしの条件下における二回繰り返し実験結果の半対数成長曲線である。
【図7】図7は、hグリリチンの原核生物発現産物のPAGE電気泳動の結果である。
【図8】図8は、全長または5’欠失体のhグリリチン遺伝子で形質転換した酵母の発現産物の大腸菌BL-21菌体の生育に対する阻止作用である。
【図9】図9は、hグリリチン全長、5’欠失体、または3’欠失体の遺伝子形質転換後のBL-21菌の生育に対する影響である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシンリッチタンパク質であって、以下のタンパク質ファミリーから選択される少なくとも一種である、タンパク質:
1)ヒトグリリチン(hグリリチン)とマウスグリリチン(mグリリチン):いずれも配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
2)ゼブラフィッシュ(Danio rerio)グリリチン:配列表中の配列番号3のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号3のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
3)ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)グリリチン:配列表中の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号4のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
4)キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)グリリチン:配列表中の配列番号5のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号5のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
5)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号6のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号6のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
6)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号7のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号7のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
7)分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)グリリチン:配列表中の配列番号8のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号8のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
8)清酒酵母(Sacchromyces serevisiae)グリリチン:配列表中の配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号9のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
9)シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)グリリチン:配列表中の配列番号10のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号10のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
10)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum 3D7)グリリチン:配列表中の配列番号11のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号11のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
11)マラリア原虫(Plasmodium yoelii yoelii)グリリチン:配列表中の配列番号12のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号12のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
12)イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)グリリチン:配列表中の配列番号13のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号13のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
13)アカパンカビ(Neurospora crassa)グリリチン:配列表中の配列番号14のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号14のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質。
【請求項2】
前記グリシンリッチタンパク質が、ヒトグリリチン(hグリリチン)およびマウスグリリチン(mグリリチン)であり、配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質であることにより特徴付けられる、請求項1に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項3】
前記欠失、挿入および/または置換およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に付加するアミノ酸残基の数が、1〜10であることにより特徴付けられる、請求項1または2に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項4】
前記欠失、挿入および/または置換およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に付加するアミノ酸残基の数が、1〜5であることにより特徴付けられる、請求項3に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項5】
前記欠失、挿入および/または置換およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に付加するアミノ酸残基の数が、1〜3であることにより特徴付けられる、請求項4に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のグリシンリッチタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項7】
前記グリシンリッチタンパク質がヒトグリリチンであり、それをコードする遺伝子が、配列表中の配列番号2のDNA配列、または配列表中の配列番号2に限定するDNA配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列表中の配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA配列、または高度厳密な条件下、配列表中の配列番号2に限定するDNA配列とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を有することにより特徴付けられる、請求項6に記載の遺伝子。
【請求項8】
請求項6または7に記載の遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項6または7に記載の遺伝子を含む細胞系。
【請求項10】
請求項6または7に記載の遺伝子を含む遺伝子操作菌。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載のグリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子の抗細菌における使用。
【請求項12】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、ヒトまたは家畜の細菌性感染病を予防および/または治療するための薬物の調製に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、潜在する細菌感染を予防および/または治療するための異なる種類の生物用製品の調製に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、病虫害の防除ための遺伝子組換え生物の製造に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、該グリシンリッチタンパク質の誘導体、アンタゴニスト、リガンド、または抗体の調製に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項1】
グリシンリッチタンパク質であって、以下のタンパク質ファミリーから選択される少なくとも一種である、タンパク質:
1)ヒトグリリチン(hグリリチン)とマウスグリリチン(mグリリチン):いずれも配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
2)ゼブラフィッシュ(Danio rerio)グリリチン:配列表中の配列番号3のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号3のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
3)ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)グリリチン:配列表中の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号4のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
4)キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)グリリチン:配列表中の配列番号5のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号5のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
5)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号6のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号6のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
6)線虫(Caenorhabditis elegans)グリリチン:配列表中の配列番号7のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号7のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
7)分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)グリリチン:配列表中の配列番号8のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号8のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
8)清酒酵母(Sacchromyces serevisiae)グリリチン:配列表中の配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号9のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
9)シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)グリリチン:配列表中の配列番号10のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号10のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
10)熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum 3D7)グリリチン:配列表中の配列番号11のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号11のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
11)マラリア原虫(Plasmodium yoelii yoelii)グリリチン:配列表中の配列番号12のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号12のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
12)イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)グリリチン:配列表中の配列番号13のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号13のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質;
13)アカパンカビ(Neurospora crassa)グリリチン:配列表中の配列番号14のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号14のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質。
【請求項2】
前記グリシンリッチタンパク質が、ヒトグリリチン(hグリリチン)およびマウスグリリチン(mグリリチン)であり、配列表中の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは配列表中の配列番号1のアミノ酸配列において、1〜20のアミノ酸残基が欠失、挿入および/または置換されたもの、およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に1〜20のアミノ酸残基が付加されたものであって、かつ、抗細菌作用を有するタンパク質であることにより特徴付けられる、請求項1に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項3】
前記欠失、挿入および/または置換およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に付加するアミノ酸残基の数が、1〜10であることにより特徴付けられる、請求項1または2に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項4】
前記欠失、挿入および/または置換およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に付加するアミノ酸残基の数が、1〜5であることにより特徴付けられる、請求項3に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項5】
前記欠失、挿入および/または置換およびカルボキシル末端および/またはアミノ末端に付加するアミノ酸残基の数が、1〜3であることにより特徴付けられる、請求項4に記載のグリシンリッチタンパク質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のグリシンリッチタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項7】
前記グリシンリッチタンパク質がヒトグリリチンであり、それをコードする遺伝子が、配列表中の配列番号2のDNA配列、または配列表中の配列番号2に限定するDNA配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列表中の配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA配列、または高度厳密な条件下、配列表中の配列番号2に限定するDNA配列とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を有することにより特徴付けられる、請求項6に記載の遺伝子。
【請求項8】
請求項6または7に記載の遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項6または7に記載の遺伝子を含む細胞系。
【請求項10】
請求項6または7に記載の遺伝子を含む遺伝子操作菌。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載のグリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子の抗細菌における使用。
【請求項12】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、ヒトまたは家畜の細菌性感染病を予防および/または治療するための薬物の調製に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、潜在する細菌感染を予防および/または治療するための異なる種類の生物用製品の調製に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、病虫害の防除ための遺伝子組換え生物の製造に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記グリシンリッチタンパク質およびそれをコードする遺伝子が、該グリシンリッチタンパク質の誘導体、アンタゴニスト、リガンド、または抗体の調製に用いられることにより特徴付けられる、請求項11に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2008−504003(P2008−504003A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543349(P2006−543349)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/CN2004/001435
【国際公開番号】WO2005/056591
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505249816)中国人民解放▲軍▼▲軍▼事医学科学院放射医学研究所 (3)
【出願人】(507011105)南通宏慈薬業有限公司 (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/CN2004/001435
【国際公開番号】WO2005/056591
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505249816)中国人民解放▲軍▼▲軍▼事医学科学院放射医学研究所 (3)
【出願人】(507011105)南通宏慈薬業有限公司 (1)
【Fターム(参考)】
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