説明

グリース組成物及び転がり軸受

【課題】これまでよりも優れた耐焼付き性、耐焼付き性能及び耐白色剥離性能を付与できるグリース組成物、並びにこれらの性能に優れ、特に自動車の電装部品やエンジン補機等に好適な転がり軸受を提供する。
【解決手段】ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート及びポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートの少なくとも1種、または脂肪酸アミン塩をグリース全量に対し0.1〜10質量%含有するグリース組成物、並びに内輪と外輪との間に保持器により複数の転動体を転動自在に保持するとともに、前記グリース組成物を封入した転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリースを封入した転がり軸受に関し、特に自動車の電装部品 、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、コンプレッサ用プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ等のような高温高速高荷重条件下で使用される部品に使用され、優れた高温焼付き寿命、良好な錆止め性能及び優れた剥離寿命を有する転がり軸受に関する。また、本発明は、前記転がり軸受に好適なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は小型軽量化を目的としたFF車の普及により、さらには居住空間拡大の要望により、エンジンルーム空間の減少を余儀なくされ、上記に挙げたような電装部品やエンジン補機の小型軽量化がより一層進められており、それに組み込まれる各部品も高性能高出力化がますます求められている。しかし、小型化により出力の低下は避けられず、例えばカーエアコン用電磁クラッチでは高速化することにより出力の低下分を補っており、それに伴って中間プーリも高速化することになる。更に、静粛性向上の要望によりエンジンルームの密閉化が進み、エンジンルーム内の高温化が促進されるため、これらの部品は高温に耐えることも必要となっている。
【0003】
また、コンプレッサ用プーリやカーエアコン用電磁クラッチ用軸受では、主に複列アンギュラ玉軸受が使用されていたが、最近ではプーリや電磁クラッチの軽量化や低コスト化のために単列軸受を使用する傾向にあるが、複列アンギュラ玉軸受と同条件で使用すると、PV値が大きいことや、軸受空間容積が少ないことによるグリース量が少ないこと等から、発熱が大きく、グリース劣化を進行させやすいため、早期に焼付きを生じる。また、水素脆性による白色組織変化を伴った白色剥離も生じる。更に、プーリの軽量化のために樹脂製プーリを採用する傾向にあるが、樹脂製プーリは従来の鉄製プーリに比べて放熱性が低いため、軸受がより高温になり、グリース劣化が促進されて焼付きがより早期に起こる。
【0004】
一方、オルタネータにおいても、ラジエータの冷却水によりオルタネータ内部の発熱を冷却する構成のものは、軸受温度が160〜200℃になることがある。
【0005】
また、エンジンルームの下部に取り付けられる部品においては、走行中、雨水等がかかりやすいため錆易い。
【0006】
そのため、焼付寿命を延長させるためにグリース組成を調整することも数多く試みられており、ウレア化合物を増ちょう剤に用いることが一般的である(例えば、特許文献1〜4参照)。また、本出願人は、更なる耐熱性向上を目的としてリン酸エステルを添加したグリース組成物を提案している(特許文献5参照)。更に、耐錆性能や耐白色剥離性能を向上させるために、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤またはエステル系防錆剤を添加したグリース組成物を提案している(例えば、特許文献6参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平9−3466号公報
【特許文献2】特公平5−249580号公報
【特許文献3】特開平3−200898号公報
【特許文献4】特開平3−210394号公報
【特許文献5】特開平11−228985号公報
【特許文献6】特開2006−16441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ウレア系グリースは高温に晒された後に温度が下がると硬化する性質(熱硬化性)がある。また、ウレア化合物は長期間高温に晒されると分解するため、グリースの軟化が起こることも懸念される。実際の自動車では、稼動時に軸受が高温となり、停止時には常温になるため、再駆動時にグリース硬化による流動性不足を生じて焼付きに至るおそれがある。また、グリース軟化によりグリース漏れが起こり易くなるため、軸受内のグリースが不足して焼付きに至る。このように、ウレア系グリースでは温度変化によるちょう度変化や経時的なちょう度変化が起こり易く、これらが焼付き寿命に重大な影響を与えている。
【0009】
上記に挙げた自動車の電装部品やエンジン補機等の高性能化に伴い、軸受の耐焼付き性の要求は今後とも益々高まることは必至であり、従来のウレア系グリースでは対応しきれないことが予想される。そこで本発明は、これまでよりも優れた耐焼付き性、具体的には200℃近い高温でも十分な耐焼付き性を付与でき、更には優れた耐焼付き性能及び耐白色剥離性能を兼備するグリース組成物、並びにこれらの性能に優れ、特に上記に挙げた自動車の電装部品やエンジン補機等に好適な転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のリン酸エステルを添加したグリース組成物を封入することにより軸受の焼付き性能を大幅に改善でき、脂肪酸アミン塩を併用することにより焼付き性能、耐錆性能及び耐白色剥離性能をバランスよく改善でき、更には特定のジウレア化合物と組み合わせることが効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記のグリース組成物及び転がり軸受を提供する。
(1)ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート及びポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートの少なくとも1種をグリース全量に対し0.1〜10質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
(2)脂肪酸アミン塩をグリース全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1記載のグリース組成物、
(3)脂肪酸アミン塩をグリース全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
(4)増ちょう剤として、一般式(1)〜(3)で表されるジウレア化合物を[Rのモル数/(Rのモル数+Rのモル数)]値が0.5〜1.0となるように混合してなる混合物をグリース全量に対し10〜30質量%含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のグリース組成物。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rはシクロヘキシル基または炭素数7〜12のアルキルシクロヘキシル基、Rは炭素数6〜15の2価の芳香族環含有炭化水素基、Rは炭素数8〜20のアルキル基または炭素数7〜20の芳香族炭化水素基を示す)
(5)内輪と外輪との間に保持器により複数の転動体を転動自在に保持するとともに、上記(1)〜(4)の何れか1項に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、200℃付近の高温でも優れた耐焼付き性能を付与でき、耐錆性能や耐白色剥離性能を兼備するグリース組成物、並びにこれまでよりも耐焼付き性能に優れ、耐錆性能や耐白色剥離性能を兼備し、特に自動車の電装部品やエンジン補機等に好適な転がり軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0016】
(グリース組成物)
基油には制限がなく、通常潤滑油の基油に使用される油は全て使用可能である。但し、低温での流動性不足による低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いことによる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が10〜400mm/sであることが好ましく、20〜250mm/sであることがより好ましく、40〜150mm/sであることが特に好ましい。
【0017】
基油の種類について具体的に説明すると、鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油が挙げられる。鉱油系潤滑油としては、鉱油を減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。合成油系潤滑油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。その他の合成潤滑油としては、トリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。天然油系潤滑油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはその水素化物が挙げられる。これらの潤滑油は、単独または混合物として用いることができ、上述した好ましい動粘度に調整される。
【0018】
上記基油には、増ちょう剤として、好ましくは下記一般式(1)〜(3)で表されるジウレア化合物の混合物が配合される。
【0019】
【化3】

【0020】
式中、Rはシクロヘキシル基または炭素数7〜12のアルキルシクロヘキシル基、Rは炭素数6〜15の2価の芳香族環含有炭化水素基、Rは炭素数8〜20のアルキル基または炭素数7〜20の芳香族炭化水素基を示す。また、混合比は、[Rのモル数/(Rのモル数+Rのモル数)]値が0.5〜1.0となるように、より好ましくは0,6〜1.0となるように混合する。
【0021】
また、上記ジウレア化合物の配合量は、グリース組成物の初期混和ちょう度をNLGI No.1〜3にするため、グリース全量の10〜30質量%とすることが好ましい。配合量が10質量%未満ではグリースが軟らかくなりすぎて高温でのグリース漏れ等が懸念され、30質量%を超えるとグリースが硬くなりすぎてトルクむらや低温時の異音発生の原因となる。
【0022】
グリース組成物には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート及びポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートの少なくとも1種が添加される。ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート及びポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートは下記一般式(4)で表わされ、式中のEOはエポキシ基であり、Rは炭素数8〜30のアルキル基またはフェニル基であり、Aは水素原子または水酸基である。また、mは1〜20、xは1〜2である。
【0023】
【化4】

【0024】
これら特定のリン酸エステルの添加量は、グリース全量の0.1〜10質量%であり、0.5〜5質量%がより好ましい。添加量が0.1質量%未満では耐焼付き性能を向上させる効果が十分に得られず、10質量%を超えて添加しても効果が飽和するばかりでなく、相対的に基油量が減少して潤滑性や耐焼付き性能に劣るようになる。
【0025】
また、グリース組成物には、上記の特定のリン酸エステルに代えて脂肪酸アミン塩を添加してもよい。これにより、耐錆性能及び耐白色剥離性能を付与することができる。脂肪酸アミン塩は、炭素数が4〜30の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸と、モノアミン、ポリアミンまたはアルカノールアミンとの塩である。脂肪酸アミンの添加量は、グリース全量の0.1〜10質量%であり、0.25〜5質量%がより好ましい。添加量が0.1質量%未満では耐錆性能及び耐白色剥離性能を向上させる効果が十分に得られず、10質量%を超えて添加するとグリースが軟化してグリース漏れを起こすおそれがあり、更には相対的に基油量が減少して潤滑性や耐焼付き性能に劣るようになる。脂肪酸アミン塩は複数周種を組み合わせてもよく、その場合は合計で前記の添加量とする。
【0026】
更に、上記の特定のリン酸エステルと脂肪酸アミン塩とを併用してもよい。それぞれの添加量は単独使用の場合と同じである。
【0027】
グリース組成物には、その性能を一層高めるため、必要に応じて、従来からグリースに用いられている公知の一般的な添加剤を含有させることができる。例えば、金属石けん、ベントン、シリカゲル等のゲル化剤;アミン系、フェノール系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤;塩素系、イオウ系、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブテン等の極圧剤;脂肪酸、動植物油等の油性剤;ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等が挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて添加することができる。これら添加剤の添加量は、本発明の所期の目的を達成できれば特に限定されるものではないが、混合グリース全量の20質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
グリース組成物の製造方法には制限がなく、従来のウレア系グリースと同様にして調製することができるが、一般的には基油中で上記のジウレア化合物の原料(アミン類とジイソシアネート)を反応させて得られる。尚、そのときの加熱温度や攪拌・混合時間等の製造条件は使用する基油やジウレア化合物の原料、特定のリン酸エスエルまたは脂肪酸アミン塩、更には他の添加剤により適宜設定される。また、リン酸エステルまたは脂肪族アミン塩、更には他の添加剤剤を添加後、十分に攪拌して均一に分散させる必要があるが、その際加熱することも有効である。
【0029】
(転がり軸受)
本発明はまた、上記のグリース組成物を封入してなる転がり軸受に関する。図1は、その一実施形態である玉軸受の構造を示す縦断図面である。この玉軸受1は、内輪10と、外輪11と、内輪10と外輪11との間に転動自在に配設された複数の玉13と、複数の玉13を保持する保持器12と、外輪11に取り付けられた接触形のシール14、14と、で構成されている。また、内輪10と外輪11とシール14、14とで囲まれた軸受空間には、上記のグリース組成物Gが充填され、シール14により玉軸受1内に密封されている。そして、グリース組成物Gにより、前記両輪10、11の軌道面と玉13との接触面が潤滑される。
【0030】
尚、転がり軸受としては、玉軸受の他にも、例えば、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受が挙げられ、同様に上記のグリース組成物が封入される。
【実施例】
【0031】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0032】
(実施例1)
第1の反応容器にジアルキルジフェニルエーテル油(動粘度:100mm/s@40℃)の半量を入れ、そこへシクロヘキシルアミンとステアリルとをシクロヘキシルアミンが1.6モル、ステアリルアミンが0.4モルとなる比率で投入し、70〜80℃に加熱した。次いで、第2の反応容器に前記ジアルキルジフェニルエーテル油の半量を入れ、そこへジフェニルメタンジイソシアネートを上記のアミン量に対し1モルとなる量投入して70〜80℃に加熱し、内容物を第1の反応容器に加え、加熱した。反応熱のため反応物の温度は上昇するが、約30分間この状態で攪拌を続け、反応を十分に行った後、昇温して170〜180℃で30分間保持し、冷却した。その後、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェートをグリース全量に対し0.1〜10質量%となるように添加量を変えて添加し、十分攪拌した後、ロールミルを通すことでグリースを得た。尚、何れのグリースにも、ジアルキルジフェニルアミン(酸化防止剤)を3.0質量%、ナフテン酸亜鉛(防錆剤)を1.0質量%添加してある。また、何れのグリースも混和ちょう度がNLGI No.2となるように調整した。
【0033】
(比較例1)
ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェートを添加しないこと以外は実施例1と同様にしてグリースを調整した。
【0034】
(比較例2)
ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェートの添加量を12質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてグリースを調整した。
【0035】
(実施例2)
第1の反応容器にポリα−オレフィン油(動粘度:50mm/s@40℃)の半量を入れ、そこへシクロヘキシルアミンとp−トルイジンとを投入し、70〜80℃に加熱した。次いで、第2の反応容器に前記ポリα−オレフィン油の半量を入れ、そこへジフェニルメタンジイソシアネートを上記のアミン量に対し1モルとなる量投入して70〜80℃に加熱し、内容物を第1の反応容器に加え、加熱した。反応熱のため反応物の温度は上昇するが、約30分間この状態で攪拌を続け、反応を十分に行った後、昇温して170〜180℃で30分間保持し、冷却した。その後、ポリオキシエチレンフェニルエーテルをグリース全量の2質量%となるように添加し、十分攪拌した後、ロールミルを通した。
【0036】
上記一連の操作を、アミン比を変えて行い、ジウレア化合物の混合物における[シクロヘキシル基(R)のモル数/(シクロヘキシル基(R)のモル数+p−トルイル基(R)のモル数)]値が0.4〜1.0の範囲で異なるグリースを得た。尚、何れのグリースにも、ジアルキルジフェニルアミン(酸化防止剤)を3.0質量%、ナフテン酸亜鉛(防錆剤)を1.0質量%添加してある。また、何れのグリースも混和ちょう度がNLGI No.2となるように調整した。
【0037】
実施例1〜2、比較例1〜2のグリース組成を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(焼付き寿命試験)
上記で調製した各グリースについて、焼付き寿命試験を行った。即ち、内径φ17mm、外径φ40mm、幅12mmの接触ゴムシール付き単列深溝玉軸受(図1参照)にグリースを1.0g封入し、外輪回転速度12000min−1、軸受温度180℃、ラジアル荷重2000Nの条件で連続回転させ、焼付きが生じて軸受外輪温度が190℃以上に上昇したとき、試験を終了した。
【0040】
実施例1、比較例1及び比較例2のグリースについての結果を図2に、実施例2のグリースについての結果を図3に示す。何れも、比較例1のグリースの焼付き寿命に対する相対値で示してある。
【0041】
図2から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.1〜10質量%添加することで、焼付き寿命を大幅に改善できることがわかる。また、図3から、ポリオキシエチレンフェニルエーテルを添加し、更に増ちょう剤として、一般式(1)〜(3)で表され、[Rのモル数/(Rのモル数+Rのモル数)]値が0.5〜1.0の混合物を用いることにより、焼付き寿命を更に改善できることがわかる。
【0042】
(実施例3)
第1の反応容器にジアルキルジフェニルエーテル油(動粘度:100mm/s@40℃)の半量を入れ、そこへシクロヘキシルアミンとp−トルイジンとをシクロヘキシルアミンが1.6モル、p−トルイジンが0.4モルとなる比率で投入し、70〜80℃に加熱した。次いで、第2の反応容器に前記ジアルキルジフェニルエーテル油の半量を入れ、そこへジフェニルメタンジイソシアネートを上記のアミン量に対し1モルとなる量投入して70〜80℃に加熱し、内容物を第1の反応容器に加え、加熱した。反応熱のため反応物の温度は上昇するが、約30分間この状態で攪拌を続け、反応を十分に行った後、昇温して170〜180℃で30分間保持し、冷却した。その後、脂肪酸アミンをグリース全量に対して0.1〜10質量%となるように添加量を変えて添加し、十分攪拌した後、ロールミルを通すことでグリースを得た。尚、何れのグリースも混和ちょう度がNLGI No.2となるように調整した。
【0043】
(比較例4)
脂肪酸アミンの添加量を0.05質量%としたこと以外は実施例3と同様にしてグリースを調製した。
【0044】
(比較例5)
脂肪酸アミンの添加量を12質量%としたこと以外は実施例3と同様にしてグリースを調製した。
【0045】
実施例3、比較例4及び比較例5のグリースについて、上記の焼付き寿命試験、下記に示す急加減速試験及び防錆試験を行った。
【0046】
(急加減速試験)
内径12mm、外径37mm、幅12mmの単列深溝玉軸受にグリースを1.0g封入し、外輪回転速度1000〜6000min−1、室温雰囲気下、ラジアル荷重1220Nの条件で連続回転させた。そして、回転中に振動が生じた場合、軸受外輪転送面に剥離が生じたとみなし、回転開始から500時間以内に振動が生じた数(剥離発生数)から下記式により剥離発生確率を算出した。500時間経過しても振動が無いものについては、その時点で回転を停止した。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0047】
(防錆試験)
内径17mm、外径47mm、幅14mmの接触ゴムシール付き単列深溝玉軸受(図1参照)に、グリースを2.3g封入し、回転速度1800min−1で1分間回転させた後、軸受内に0.1質量%塩水を0.5ml注入し、更に回転数1800min−1で1分間回転させ、50℃、100%RHの条件下に120時間放置した。放置後に軸受を分解し、内外輪軌道面の錆発生状況を観察した。そして、下記の基準を基に、防錆性能を評価した。評価点2以下が合格である。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例3、比較例4及び比較例5のグリース組成及び剥離発生確率を表3に示す。また、図4に、脂肪族アミン塩の添加量と、相対焼付き寿命時間または錆発生状態との関係を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3及び図4から、脂肪酸アミン塩を併用することにより、耐錆性能及び耐白色剥離性能を付与することができることがかわる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の転がり軸受の一実施形態である玉軸受を示す断面図である。
【図2】実施例で得られた、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート添加量と焼付き寿命との関係を示すグラフである。
【図3】実施例で得られた、ジウレア化合物におけるR/(R+R)比と焼付き寿命との関係を示すグラフである。
【図4】実施例で得られた、脂肪族アミン塩の添加量と、相対焼付き寿命時間または錆発生状態との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
13 玉
G グリース組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート及びポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートの少なくとも1種をグリース全量に対し0.1〜10質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
脂肪酸アミン塩をグリース全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1記載のグリース組成物、
【請求項3】
脂肪酸アミン塩をグリース全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項4】
増ちょう剤として、一般式(1)〜(3)で表されるジウレア化合物を[Rのモル数/(Rのモル数+Rのモル数)]値が0.5〜1.0となるように混合してなる混合物をグリース全量に対し10〜30質量%含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のグリース組成物。
【化1】

(式中、Rはシクロヘキシル基または炭素数7〜12のアルキルシクロヘキシル基、Rは炭素数6〜15の2価の芳香族環含有炭化水素基、Rは炭素数8〜20のアルキル基または炭素数7〜20の芳香族炭化水素基を示す)
【請求項5】
内輪と外輪との間に保持器により複数の転動体を転動自在に保持するとともに、請求項1〜4の何れか1項に記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−108263(P2009−108263A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284134(P2007−284134)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】