説明

ケイ素系材料およびその製造方法

【課題】かご型ポリシルセスキオキサンを有するポリマーの更なる物性の向上を図るため、対称性を持つ構造を制御したかご型ポリシルセスキオキサンを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるシロキサン化合物。


〔上記式(1)中、R1およびR2は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、R1とR2は互いに異なる基であり、mは4〜8の整数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン材料、特に対称性を持つかご型ポリシルセスキオキサン(ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン:POSS)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロキサン材料のうち、ポリシルセスキオキサンはケイ素原子一つに3つの酸素原子が結合した構造を有する化合物群であり、有機的性質と無機的性質を併せ持つため有機・無機ハイブリッド材料として注目されている。このポリシルセスキオキサンの中でも、かご型ポリシルセスキオキサンは、その立体的に特異な構造を有するために、シロキサン材料の中でも耐熱性が高く、しかも誘電率が低いため、半導体プロセスにおける高性能層間絶縁膜材料への展開等高性能・高機能性材料としての応用が期待されている。
また、かご型ポリシルセスキオキサンを添加剤として用い、種々のポリマーに導入することにより、成膜性を付与し、耐熱性を向上させる試みもなされている(非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】櫻井英樹 監修、有機ケイ素ポリマーの開発、シーエムシー(1999)
【非特許文献2】玉尾皓平 監修、21世紀の有機ケイ素化学、シーエムシー(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ポリマーの物性は、その一次構造に依存する高次構造に支配される。このため、かご型ポリシルセスキオキサンを有するポリマーの更なる物性の向上を図るためには、構造を制御したかご型ポリシルセスキオキサンの開発を行う必要がある。
そこで、本発明では、対称性を持つかご型ポリシルセスキオキサンの合成を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の1)〜4)に関する。
1)下記式(1)で表されるシロキサン化合物(以下、「シロキサン化合物(1)」ともいう。)を有するケイ素系材料。
【0006】
【化1】

〔上記式(1)中、R1およびR2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、R1とR2は互いに異なる基であり、mは4〜8の整数である。〕
【0007】
2)上記式(1)で表わされるシロキサン化合物が、下記式(1−1)で表わされるシロキサン化合物(以下、「シロキサン化合物(1−1)」ともいう。)であることが好ましい。
【0008】
【化2】

1およびR2 は、式(1)におけるR1およびR2 と同義である。
3)上記式(1)で表されるシロキサン化合物を10重量%以上100質量%以下含有するケイ素系材料
4)下記式(2)で表わされる化合物(以下、「シロキサン化合物(2)」ともいう。)と下記式(3)で表わされる化合物(以下、「シロキサン化合物(3)」ともいう。)とを反応させて上記式(1)で表わされる化合物を得る工程を含むことを特徴とする、式(1)または式(1−1)で表されるシロキサン化合物を含有するケイ素系材料の製造方法。
【0009】
【化3】

〔上記式(2)中、R1 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表わされる基であり、mは4〜8の整数である。ただし、R1とZは異なる基である。〕
【0010】
【化4】

〔上記式(3)中、R2は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表わされる基であり、mは4〜8の整数である。ただし、R2とZは異なる基である。〕
【0011】
5)下記式(2)で表わされる化合物と下記式(4)で表わされる化合物(以下、「シラン化合物(4)」ともいう。)とを反応させて下記式(5)で表わされる化合物(以下、「シロキサン化合物(5)」ともいう。)を得る工程と、下記式(5)で表わされる化合物を反応させて上記式(1)で表わされる化合物を得る工程を含むことを特徴とする、式(1)または式(1−1)で表されるシロキサン化合物を含有するケイ素系材料の製造方法。
【0012】
【化5】

〔上記式(4)中、Xはハロゲン原子であり、R2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Rbは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。〕
【0013】
【化6】

〔上記式(5)中、R1およびR2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Rbは炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R1とR2は互いに異なる基である。〕
【発明の効果】
【0014】
対称性を持つかご型ポリシルセスキオキサンを(高純度で)得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1で得られた本発明の対称性を持つかご型ポリシルセスキオキサンのMALDI−TOF MSのスペクトルである。
【図2】図2は、実施例1で得られた本発明の対称性を持つかご型ポリシルセスキオキサンの29SiNMRのスペクトルである。
【図3】図3は、実施例2で得られた本発明の対称性を持つかご型ポリシルセスキオキサンの1HNMRのスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ケイ素系材料
本発明のケイ素系材料は、下記式(1)で表されるシロキサン化合物(1)を含有する。
【0017】
【化7】

〔上記式(1)中、R1およびR2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、R1とR2は互いに異なる基であり、mは4〜8の整数である。〕
【0018】
ここで、炭素数1〜30の1価の有機基としては、炭素数1〜30の1価の炭化水素基、ならびに酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜30の1価の炭化水素基等を挙げることができる。
【0019】
炭素数1〜30の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基および炭素数6〜30の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0020】
前記炭素数1〜30の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖の炭化水素基がより好ましい。
【0021】
前記直鎖または分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
前記炭素数3〜30の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基がより好ましい。
炭素数3〜30の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基が挙げられる。当該脂環式炭化水素基の結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0023】
前記炭素数6〜30の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、ビフェニル基およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基の結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
【0024】
酸素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基としては、エーテル結合、カルボニル基およびエステル基を有する炭素数1〜30の炭化水素基等を挙げることができる。
エーテル結合を有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数2〜30のアルケニルオキシ基、炭素数2〜30のアルキニルオキシ基、炭素数6〜30のアリールオキシ基および炭素数1〜30のアルコキシアルキル基などを挙げることができる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基およびメトキシメチル基等が挙げられる。
【0025】
また、カルボニル基を有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数2〜30のアシル基等を挙げることができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基およびベンゾイル基等が挙げられる。
【0026】
エステル基を有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数2〜30のアシルオキシ基等が挙げられる。具体的には、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基およびベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
窒素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基としては、イミダゾール基、トリアゾール基、ベンズイミダゾール基およびベンズトリアゾール基等が挙げられる。
酸素原子および窒素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、オキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンズオキサゾール基およびベンズオキサジアゾール基等が挙げられる。
【0028】
1としては炭素数1〜30の1価の炭化水素基が好ましく、R2としては−OH、−SH、炭素数1〜30の1価の炭化水素基が好ましい。mは4〜8の整数であり、4であることが好ましい。
【0029】
下記式(1)で表されるシロキサン化合物(1)は、本発明のケイ素系材料に対して10重量%以上100質量%以下含有することが好ましく、30質量%以上100質量%以下含有することがより好ましく、40質量%以上100質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0030】
シロキサン化合物(1−1)
本発明のシロキサン化合物(1)は、下記式(1−1)で表わされるシロキサン化合物であることができる。
【0031】
【化8】

1およびR2 は、式(1)におけるR1およびR2 と同義である。
【0032】
ケイ素系材料の製造方法−1
(A)工程
本発明のケイ素系材料は、下記式(2)で表される化合物と下記式(3)で表される化合物を反応してシロキサン化合物(1)を得る工程を含む製造方法により製造することができる。
【0033】
【化9】

〔上記式(2)中、R1 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表わされる基であり、mは4〜8の整数である。ただし、R1とZは異なる基である。〕
【0034】
1 は、式(1)のR1と同義である。
Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。アルカリ金属原子としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムが挙げられる。
【0035】
aは炭素数1〜10の炭化水素基であり、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基および炭素数6〜10の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0036】
前記炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖の炭化水素基がより好ましい。
【0037】
前記直鎖または分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0038】
前記炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜8の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3〜5の脂環式炭化水素基がより好ましい。
炭素数3〜10の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基が挙げられる。当該脂環式炭化水素基の結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0039】
前記炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基の結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
具体的には、Zは−OH、−OMが好ましい。
【0040】
【化10】

〔上記式(3)中、R2は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表わされる基であり、mは4〜8の整数である。ただし、R2とZは異なる基である。〕
【0041】
2 は、式(1)のR1と同義である。
は、式(1)のZと同義である。
(A)工程では、触媒を使用することができる。触媒としては、酸性化合物、および塩基性化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0042】
酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、ギ酸、マロン酸、フタル酸、フマル酸等の有機酸が挙げられる。
塩基性化合物としては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、N−エチルメタノールアミン、N−メチルエタノールアミン,N,N−ジメチルメタノールアミン、N,N−ジエチルメタノールアミン、N−メチルジメタノールアミン、N−エチルジメタノールアミン、メトキシメチルアミン、メトキシエチルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、テトラエチルエチレンジアミン、テトラプロピルエチレンジアミン、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム,N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドが挙げられる。
【0043】
また、触媒の使用割合は、反応に供するシロキサン化合物(2)およびシロキサン化合物(3)の合計量1molに対して2〜10molであることが好ましい。
また、(A)工程では、溶媒も使用することができる。溶媒の例としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒および含ハロゲン溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0044】
中でも、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒が好適に用いられる。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、等のアルコール系溶媒;エーテル類として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−i−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶媒が用いられる。
【0045】
さらに、シロキサン化合物(2)と、シロキサン化合物(3)との使用割合は、シロキサン化合物(2)1molに対してシロキサン化合物(3)が0.8〜1.2molであることが好ましく、0.9〜1.1molであることがより好ましく、1molであることが特に好ましい。
【0046】
反応条件としては、例えば反応温度が0〜150℃であることが好ましく、10〜100℃であることがより好ましく、また、反応時間が10分間〜50時間であることが好ましく、1〜20時間であることがより好ましい。
【0047】
ケイ素系材料の製造方法−2
本発明のケイ素系材料は、下記式(4)で表される化合物とを反応させて下記式(5)で表される化合物を得る工程(以下、「(B)工程」)と、下記式(5)で表される化合物をさらに反応してシロキサン化合物(1)を得る工程(以下、「(C)工程」)を含む製造方法により製造することができる。
【0048】
【化11】

〔上記式(4)中、Xはハロゲン原子であり、R2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Rbは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。〕
2 は、式(1)のR1と同義である。
b は、式(2)のRaと同義である。
【0049】
【化12】

〔上記式(5)中、R1およびR2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Rbは炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R1とR2は互いに異なる基である。〕
1およびR2 は、式(1)のR1およびR2と同義である。
b は、式(2)のRaと同義である。
【0050】
(B)工程
(B)工程は、縮合反応により、シロキサン化合物(1)の前駆体を得る工程である。
【0051】
シラン化合物(4)のR2はのうち、炭素数1〜30の1価の有機基としては、炭素数1〜30の1価の炭化水素基、ならびに酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜30の1価の炭化水素基等を挙げることができる。
【0052】
炭素数1〜30の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基および炭素数6〜30の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0053】
前記炭素数1〜30の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖の炭化水素基がより好ましい。
【0054】
前記直鎖または分岐鎖の炭化水素基の好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基およびn−ヘプチル基等が挙げられる。
【0055】
前記炭素数3〜30の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜20の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基がより好ましい。
炭素数3〜30の脂環式炭化水素基の好適な具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロへキシル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基が挙げられる。当該脂環式炭化水素基の結合部位は、脂環上のいずれの炭素でもよい。
【0056】
前記炭素数6〜30の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、ビフェニル基およびナフチル基等が挙げられる。当該芳香族炭化水素基の結合部位は、芳香族環上のいずれの炭素でもよい。
【0057】
酸素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基としては、エーテル結合、カルボニル基およびエステル基を有する炭素数1〜30の炭化水素基等を挙げることができる。
エーテル結合を有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数2〜30のアルケニルオキシ基、炭素数2〜30のアルキニルオキシ基、炭素数6〜30のアリールオキシ基および炭素数1〜30のアルコキシアルキル基などを挙げることができる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基およびメトキシメチル基等が挙げられる。
【0058】
また、カルボニル基を有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数2〜30のアシル基等を挙げることができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基およびベンゾイル基等が挙げられる。
【0059】
エステル基を有する炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数2〜30のアシルオキシ基等が挙げられる。具体的には、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基およびベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0060】
窒素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基としては、イミダゾール基、トリアゾール基、ベンズイミダゾール基およびベンズトリアゾール基等が挙げられる。
酸素原子および窒素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、オキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンズオキサゾール基およびベンズオキサジアゾール基等が挙げられる。
【0061】
mは4〜8の整数であり、4であることが好ましい。
シラン化合物(4)の具体的化合物としては、ジメトキシメチルクロロシラン、ジメトキシエチルクロロシラン、ジエトキシメチルクロロシラン、ジエトキシエチルクロロシラン、ジメトキシメチルブロモシラン、ジメトキシエチルブロモシラン、ジエトキシメチルブロモシラン、ジエトキシエチルブロモシラン等が挙げられ、ジメトキシメチルクロロシランが好ましい。
【0062】
(B)工程では、触媒を使用することができる。触媒としては、(A)工程と同様の触媒を用いることができる。また、触媒の使用割合は、反応に供するシラン化合物(4)1molに対して0.1〜10molであることが好ましく、0.5〜2molであることがより好ましく、1molであることが特に好ましい。
【0063】
また、(B)工程では、溶媒も使用することができる。溶媒としては、(A)工程と同様の溶媒を用いることができる
さらに、シラン化合物(4)と、シロキサン化合物(5)との使用割合は、シロキサン化合物(5)1molに対してシラン化合物(4)が4〜20molであることが好ましく、4〜10molであることがより好ましく、4〜6molであることが特に好ましい。
【0064】
反応条件としては、例えば反応温度が0〜150℃であることが好ましく、10〜100℃であることがより好ましく、また、反応時間が10分間〜50時間であることが好ましく、1〜20時間であることがより好ましい。
【0065】
(C)工程
(C)工程は、化合物(5)を加水分解・縮合反応により、シロキサン化合物(1)を得る工程である。
【0066】
(C)工程では、触媒を使用することができる。触媒としては、(A)工程と同様の触媒を用いることができる。また、触媒の使用割合は、反応に供するシロキサン化合物(5)1molに対して0.1〜10molであることが好ましく、0.5〜2molであることがより好ましい。
【0067】
また、(C)工程では、溶媒も使用することができる。溶媒としては、(A)工程と同様の溶媒を用いることができる。
反応条件としては、例えば反応温度が0〜150℃であることが好ましく、10〜100℃であることがより好ましく、また、反応時間が10分間〜100時間であることが好ましく、1〜60時間であることがより好ましい。
【実施例】
【0068】
合成物の同定は、以下の分析機器により実施した。
1)1HNMR
Varian Gemini2000(300MHz)
Varian UNITY500plus(500MHz)
Ultrashield Plus400MHz magnet
Solvent:CDCl3(ACROS)
Acetone−d(ACROS)
CDCl3(δ7.26ppm、1H)
Acetone−d(δ2.05ppm、1H)
2)29SiNMR
Varian UNITY500plus(99MHz)
Ultrashield Plus400MHz magnet
Solvent:CDCl3(ACROS)
3)MALDI−TOF MS
Applied Bioayatema Inc.
Voyager DE RP
Solvent:THF
Matrix:DHB
【0069】
<実施例1>
シロキサン化合物(1)の合成−1
1)all-cis-テトラフェニルシクロテトラシロキサンテトラオール(all-cis-T4)の合成
250mlの3口フラスコに水酸化ナトリウム(2.0g、50mmol)を入れ100mlの滴下ロートを取り付け窒素雰囲気下にした。そこへ水(0.9g、50mmol)、溶媒として2−プロパノール(50ml)、滴下ロートよりフェニルトリメトキシシラン(9.9g、50mmol)をゆっくり滴下した。滴下後、室温で20時間撹拌し、その後生成した固体を吸引ろ過により溶媒を取り除いた。真空乾燥により溶媒を留去し、白色粉末(化合物2)を得た(2.7g、粗収率40%)。得られた白色粉末は、下記の化合物であった。
【0070】
【化13】

(上記式中、Phはフェニル基を示す。)
【0071】
2)all-cis-テトラトリルシクロテトラシロキサンテトラオール(all-cis-T4)の合成
250mlの3口フラスコに水酸化ナトリウム(2.0g、50mmol)を入れ100mlの滴下ロートを取り付け窒素雰囲気下にした。そこへ水(0.9g、50mmol)、溶媒として2−プロパノール(50ml)、滴下ロートよりトリルトリメトキシシラン(10.6g、50mmol)をゆっくり滴下した。滴下後、室温で20時間撹拌し、その後生成した固体を吸引ろ過により溶媒を取り除いた。真空乾燥により溶媒を留去し、白色粉末(化合物2)を得た(2.9g、粗収率40%)。得られた白色粉末は、下記の化合物であった。
【0072】
【化14】

(上記式中、Phはフェニル基、Tolはトリル基を示す。)
all-cis-テトラフェニルシクロテトラシロキサンテトラオール(All-cis-ph-T4-Tetorol)0.27g(0.49mmol)とall-cis--テトラトリルシクロテトラシロキサンテトラオール(4-Tol- Tetorol)0.30g(0.49mmol)を窒素雰囲気下でフラスコに入れた。そして、テトラヒドロフラン(THF,5ml)とN,N´−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、0.68g、3.3mmol)を加えた。
【0073】
反応原料混合物を12時間撹拌し、溶液を脱イオン化した水で洗浄した。有機層は、無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を除去した後、白色の粉末が得られた(0.18g、収率34.5%)。図1に得られた白色粉末のMALDI−TOF MS(m/s、1129.15,1186.21,1646.15,1703.20)、図2に同じく29SiNMR(99MHz、THF−d8:δ−78.1、77.7)のスペクトルを示す。
【0074】
これらのデータから、得られた白色粉末は、下記の化合物を46重量%含むことが確認された。
【0075】
【化15】

(上記式中、Phはフェニル基、Tolはトリル基を示す。)
【0076】
<実施例2>
シロキサン化合物(1)の合成−2
1)all-cis-テトライソブチルシクロテトラシロキサンテトラオール(all-cis-T4)の合成
500mlの3口フラスコに水酸化ナトリウム(10.0g、0.25mol)を入れ100mlの滴下ロートを取り付け窒素雰囲気下にした。そこへ水(4.5g、0.25mol)、溶媒としてヘキサン(250ml)、滴下ロートよりイソブチルトリメトキシシラン(55.0g、0.25mol)をゆっくり滴下した。滴下後、室温で48時間撹拌し、その後生成した固体を吸引ろ過により溶媒を取り除いた。真空乾燥により溶媒を留去し、白色粉末(化合物2)を得た(113g、粗収率82.0%)。得られた白色粉末は、下記の化合物であった。
【0077】
【化16】

(上記式中、i−Buはイソブチル基を示す。)
次に、100mlの2口フラスコにT4Na2(2.00g、3.6mmol)を入れ10mlの滴下ロートを取り付け、窒素雰囲気下にした。溶媒としてジエチルエーテル(100ml)を入れ、滴下ロートから酢酸(0.960g、16mmol)をゆっくり滴下した。1時間撹拌した。その後、水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水した。脱水した溶媒を除去し、白い個体を得た(0.84g、収率29.0%)。得られた白い固体の1HNMR(400MHz、CDCl3)は、δ1.93−1.79(4H、m、CH3)、0.97(24H、d、J=8.0Hz、CH3)、0.95(24H、d、J=8.0Hz、CH3)、0.64(8H、d、J=8.0Hz、SiCH2)、0.62(8H、d、J=8.0Hz、SiCH2)であり、29SiNMR(99MHz、CDCl3 and TMS)は、δ−48.43(MeSi(OMe)3))、−69.73(OSii−Bu)であった。これらのデータから、得られた白い固体は、下記の化合物3であることが確認された。
【0078】
【化17】

(上記式中、i−Buはイソブチル基を示す。)
2)all-cisT4へのジメトキシメチルクロロシランの縮合 (B)工程
次に、100mlの3口フラスコにT4(0.472g、1.0mmol)を入れ5mlの滴下ロートを取り付け、窒素雰囲気下にした。溶媒としてジエチルエーテル(30ml)、トリエチルアミン(0.51g、5.0mmol)を入れ、滴下ロートからジメトキシメチルクロロシラン(0.700g、5.0mmol)をゆっくり滴下し、2時間撹拌した。その後、溶媒、トリエチルアミン、未反応のジメトキシメチルクロロシランを減圧下で除去し、ゲル状の固体(化合物4)を得た(0.356g、粗収率40.0%)。得られた白い固体は、下記の化合物4であることが確認された。この物質の精製は行わず、次の反応((C)工程)を行った。
【0079】
【化18】

(上記式中、i−Buはイソブチル基を示す。)
3)加水分解・縮合によるC4V対称性を持つかご型POSS(C4V -symmetryT8)の合成
【0080】
(C)工程
次に、50mlのフラスコに化合物4(0.089g、0.1mmol)を入れ、窒素雰囲気下にした。それをアセトニトリル溶媒中で、35%塩酸水溶液0.083g(塩酸として0.029g(0.8mmol))を加え、48時間撹拌した。撹拌後、析出してきた固体をろ過し、アセトニトリル(10ml)で洗い、白い個体を得た(0.017g、収率25.1%)。図3に、得られた白い固体の1HNMR(400MHz、CDCl3)(δ1.92−1.79(4H、m、CH3)、0.97(24H、d、J=8.0Hz、CH3)、0.95(24H、d、J=8.0Hz、CH3)、0.64(8H、d、J=8.0Hz、SiCH2)、0.62(8H、d、J=8.0Hz、SiCH2)、0.60(8H、d、J=8.0Hz、SiCH2)、0.14(12H、s、Si-Me))であり、29SiNMR(99MHz、CDCl3 and TMS)(δ−66.04(OSii−Bu)、−67.85(O3SiMe))のスペクトルを示す。これらのデータから、得られた白い固体は、下記の化合物5であることが確認された。
【0081】
【化19】

(上記式中、i−Buはイソブチル基を示す。)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシロキサン化合物を含有するケイ素系材料。
【化1】

〔上記式(1)中、R1およびR2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、R1とR2は互いに異なる基であり、mは4〜8の整数である。〕
【請求項2】
上記式(1)で表わされるシロキサン化合物が、下記式(1−1)で表わされるシロキサン化合物である、請求項1に記載のケイ素系材料。
【化2】

【請求項3】
上記式(1)で表されるシロキサン化合物を10重量%以上100質量%以下含有する、請求項1または2に記載のケイ素系材料。
【請求項4】
下記式(2)で表わされる化合物と下記式(3)で表わされる化合物とを反応させて上記式(1)で表わされる化合物を得る工程を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素系材料の製造方法。
【化3】

〔上記式(2)中、R1 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表わされる基であり、mは4〜8の整数である。ただし、R1とZは異なる基である。〕
【化4】

〔上記式(3)中、R2は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Zは、水素原子、ハロゲン原子、−OH、−OM(Mはアルカリ金属原子を示す。)、または−ORa(Raは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表わされる基であり、mは4〜8の整数である。ただし、R2とZは異なる基である。〕
【請求項5】
下記式(2)で表わされる化合物と下記式(4)で表わされる化合物とを反応させて下記式(5)で表わされる化合物を得る工程と、下記式(5)で表わされる化合物を反応させて上記式(1)で表わされる化合物を得る工程を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のケイ素系材料の製造方法。
【化5】

〔上記式(4)中、Xはハロゲン原子であり、R2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Rbは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。〕
【化6】

〔上記式(5)中、R1およびR2 は、水素原子、−OH、−SH、または炭素数1〜30の1価の有機基を示し、Rbは炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R1とR2は互いに異なる基である。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−77008(P2012−77008A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221268(P2010−221268)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】