説明

ケトン化合物の製造方法および蓄電デバイスの製造方法

【課題】容易かつ確実にケトン化合物を製造することが可能な低コストのケトン化合物の製造方法および蓄電デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造を有する前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(2)で表される構造を有するケトン化合物を製造する。
一般式(1):
【化1】


一般式(2):
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトン化合物の製造方法および蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物は、炭素骨格(炭素鎖)の長さや分岐を多様に変化させることで、無機化合物に比べて種々の構造を形成することが可能であり、構造を変化させることで様々な物性を実現することができる。その中で、ケトン基(C=O)を有する有機化合物(以下、「ケトン化合物」)は、有用性の高い有機化合物の一つであり、様々な分野で用いられている。ケトン化合物の合成方法には、たとえば、エーテル化合物をラジカル開始剤存在下で他有機化合物と反応させる方法が挙げられる(たとえば、特許文献1参照)。そのほかにも、六価クロム化合物などを用いてアルコール体を酸化させる方法、1,3−ジチアンを用いて有機化合物分子内にケトン基を設ける方法、グリコールを開裂させる方法、オゾンを用いてアルケンを開裂させる方法、または芳香環を用いたフリーデル・クラフツ反応などが挙げられる。そして、目的とするケトン化合物や前駆体化合物の構造に応じて上記方法のいずれかが採用されている。
【0003】
ケトン化合物の中でも、分子内にケトン基を3つ以上有する有機化合物は、抗菌化合物や除草剤の材料として利用されている。分子内にケトン基を3つ以上有する化合物としては、たとえば、上記化学式(A)で表される構造を有する1,2,3−インダントリオンが挙げられる。
【0004】
【化1】

【0005】
上記1,2,3−インダントリオンに代表されるような、分子内に環構造を含み、その環構造が連続する3つのケトン基を含む有機化合物(以下、「環状トリケトン化合物」)の製造方法としては、分子内において1つの炭素原子に2つの水酸基が結合した前駆体化合物を高温加熱して、脱水反応により前駆体化合物からトリケトン化合物を製造する方法が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。一例として、前駆体化合物であるニンヒドリンから1,2,3−インダントリオンを製造する反応を下記反応式(B)に示す。なお、反応式(B)では、真空条件下で加熱して脱水反応を起こす。
【0006】
【化2】

【0007】
ケトン化合物の上記以外の用途としては、酸化還元能を利用した蓄電デバイス用電極活物質への用途が提案されている。たとえば、芳香環に2つのケトン基を有するキノン化合物を電極活物質に用いることが提案されている。具体的には、芳香環に2つのケトン基がパラ位に配された有機化合物、または芳香環に2つのケトン基がオルト位に配された有機化合物を、水溶液系二次電池の電極活物質に用いることが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。二次電池における電極反応は、ケトン基へのプロトンの付加および脱離に基づく。この電極活物質を用いることにより、可逆性に優れた二次電池が得られる。
しかし、これらの水溶液系二次電池では、一般的に電池電圧は1〜2V程度であり、非水系電池であるリチウム系二次電池の電池電圧3〜4Vよりも低く、リチウム系二次電池並みの高エネルギー密度を得ることは困難である。
【0008】
水溶液系二次電池よりも高エネルギー密度が期待される非水系リチウム二次電池用の電極活物質に上記有機化合物を用いることが検討されている。たとえば、有機溶媒にリチウム塩が溶解した非水電解液を備えた蓄電デバイスの電極活物質にキノン化合物を用いることが提案されている。具体的には、芳香環に2つのケトン基がオルト位に配されたキノン化合物を非水電解液二次電池の電極活物質に用いることが提案されている(たとえば、特許文献3参照)。また、芳香環に2つのケトン基がパラ位に配されたキノン化合物を高分子化したポリマーを非水電解液二次電池の電極活物質に用いることが提案されている(たとえば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2008−24674号公報
【特許文献2】特許第3045750号明細書
【特許文献3】特許第1469326号明細書
【特許文献4】特開平10−154512号公報
【非特許文献1】W. Adam and W. S. Patterson, Journal of Organic Chemistry 1995, 60, 7769-7773
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来の前駆体化合物の脱水反応によりケトン化合物を製造する場合、加熱工程または触媒反応させる工程を要する。また、加熱または触媒の使用のために装置を準備する必要がある。このため、工程が複雑化し、製造コストが高くなる。
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するため、容易かつ確実にケトン化合物を製造することが可能な低コストのケトン化合物の製造方法および蓄電デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のケトン化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される構造を有する前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(2)で表される構造を有するケトン化合物を製造することを特徴とする。
【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
一般式(1)および(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、前記炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよく、R1およびR2により環が形成されていてもよく、R1およびR2は、さらにケトン基を含んでいてもよい。
【0014】
前記一般式(1)で表される構造を有する前駆体化合物は、下記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物であり、
前記一般式(2)で表される構造を有するケトン化合物は、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物であるのが好ましい。
【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
一般式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0018】
前記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物は、下記一般式(5)で表される構造を有する前駆体化合物であり、
前記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物は、下記一般式(6)で表される構造を有するケトン化合物であるのが好ましい。
【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
一般式(5)および(6)中、R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、
前記アルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0022】
また、本発明の第1の蓄電デバイスの製造方法は、正極、負極、および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法であって、
下記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を製造する第1工程と、
前記ケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極は、前記正極および負極の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
一般式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【0026】
前記非プロトン性溶媒が、前記非水電解液中に含まれる非水溶媒と同じであるのが好ましい。
本発明は、本発明の第2の蓄電デバイスの製造方法は、正極、負極、および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法であって、
下記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物を含む前駆体電極を製造する第1工程と、
前記前駆体電極を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極は、前記正極および負極の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
一般式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
前記非プロトン性溶媒が、前記非水電解液中に含まれる非水溶媒と同じであるのが好ましい。
【0030】
本発明の第3の蓄電デバイスの製造方法は、正極、負極および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法であって、
一般式(3)表される構造を有する前駆体化合物を含む前駆体電極を製造する第1工程と、
前記前駆体電極を含む電極群を電池ケースに収納した後、非プロトン性溶媒を含む非水電解液を注液し、前記前駆体電極における前記前駆体化合物を前記非プロトン性溶媒と反応させて、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極が、前記正極および負極のうち少なくとも一方であることを特徴とする。
【0031】
【化13】

【0032】
【化14】

【0033】
一般式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、特定の前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬させるという簡潔な方法により、ケトン化合物を効率よく製造することができる。従来の加熱工程および触媒反応工程が要らない。また、加熱装置などを設置する必要がない。このため、工程を簡素化でき、製造コストを低減することができる。
また、蓄電デバイスの製造方法においても、従来の蓄電デバイスの製造工程から、触媒反応工程や加熱工程を省くことができ、工程を簡素化でき、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、下記一般式(2)で表される構造を有するケトン化合物(以下、ケトン化合物(2)とする。)の製造方法に関し、下記一般式(1)で表される構造を有する前駆体化合物(以下、前駆体化合物(1)とする。)を非プロトン性溶媒に浸漬する点に特徴を有する。
【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
式(1)および(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、前記炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよく、R1およびR2により環が形成されていてもよく、R1およびR2は、さらにケトン基を含んでいてもよい。
たとえば、式(2)中の3つのケトン基と、R1およびR2中の1つ以上のケトン基とにより、4つ以上のケトン基が連続して結合してもよい。また、R1およびR2が、3つのケトン基が連続して結合した構造を含んでもよい。
【0039】
前駆体化合物(1)は、分子内に、1つの炭素原子が、2つのケトン基および2つの水酸基と結合した構造を含む。プロピレンカーボネートのような非プロトン性溶媒に、前駆体化合物(1)を浸漬すると、非プロトン性溶媒中において前駆体化合物(1)は脱水反応を起こし、前駆体化合物(1)内に存在する2つの水酸基からH2Oが取り除かれて、3つのケトン基が連続して結合したケトン化合物(2)が得られる。上記脱水反応は、非プロトン性溶媒を用いるだけで、加熱や触媒を要せずに、室温にて進行する。脱水反応を促進させるために、非プロトン性溶媒を撹拌するのが好ましい。脱水反応を下記式(1a)に示す。
【0040】
【化17】

【0041】
本発明のケトン化合物の製造方法は、非プロトン性溶媒に浸漬するという簡潔な方法であり、従来の加熱工程または触媒反応工程を要しない。また、加熱装置を設ける必要がない。このため、ケトン化合物の製造工程を簡素化し、製造コストを低減することができる。
【0042】
ここでいう非プロトン性溶媒とは、有機溶媒であり、有機溶媒がプロトン(H+)を放出したり、水素結合を供与したりする性質が非常に弱い溶媒をいう。プロピレンカーボネートやエチルメチルカーボネートのような非プロトン性溶媒を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。非プロトン性溶媒中で前駆体化合物を脱水反応させるため、非プロトン性溶媒中の水分量は100ppm未満であるのが好ましい。
【0043】
ケトン化合物を蓄電デバイス用電極活物質として用いる場合、ケトン化合物の構造安定性および電気化学特性の観点から、ケトン化合物(2)は、分子内に環構造を含み、前記環は少なくとも3つのケトン基が隣接した構造を含む環状トリケトン化合物であるのが好ましい。
ケトン化合物を蓄電デバイス用電極活物質として用いる場合、非プロトン性溶媒としては、蓄電デバイスの非水電解液に用いられるプロピレンカーボネートやエチルメチルカーボネートのような非水溶媒を用いればよい。
【0044】
蓄電デバイスとしては、たとえば、一次電池、二次電池、キャパシタ、電解コンデンサ、センサー、またはエレクトロクロミック素子が挙げられる。また、トリケトン化合物を溶媒に溶解させたトリケトン化合物溶液を、液体供給手段を用いて、電極に供給し、電極活物質を溶媒に溶解させた状態で充放電可能なレドックスフロー型蓄電デバイスが挙げられる。
【0045】
環状トリケトン化合物としては、下記一般式(4)で表される構造を有する化合物(以下、ケトン化合物(4)とする。)が挙げられる。
ケトン化合物(4)は、下記式(3)で表される構造を有する前駆体化合物(以下、前駆体化合物(3)とする。)を非プロトン溶媒に浸漬することにより得られる。
【0046】
【化18】

【0047】
【化19】

【0048】
式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0049】
ケトン化合物(4)としては、たとえば、下記一般式(6)で表される構造を有する5員環の環構造を有するトリケトン化合物(以下、トリケトン化合物(6)とする。)が挙げられる。トリケトン化合物(6)は、下記一般式(5)で表される構造を有する前駆体化合物(以下、前駆体化合物(5)とする。)を非プロトン性溶媒に浸漬することにより得られる。
【0050】
【化20】

【0051】
【化21】

【0052】
式(5)および(6)中、R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、
前記アルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。式(5)および(6)中のR3〜R6は、電子吸引性の高い置換基であるのが好ましい。より具体的には、フェニル基などのアリール基、シアノ基、またはフルオロ基が好ましい。
【0053】
トリケトン化合物(6)としては、たとえば、下記一般式(8)で表される構造を有する1,2,3−インダントリオン(以下、ケトン化合物(8)とする。)が挙げられる。ケトン化合物(8)は、下記一般式(7)で表される構造を有するニンヒドリンを非プロトン性溶媒に浸漬することにより得られる。
【0054】
【化22】

【0055】
【化23】

【0056】
本発明の製造方法により得られるケトン化合物は、上記一般式(4)、(6)または(8)のケトン化合物を基本ユニット(単量体)としてこれが複数個結合した多量体でもよく、多量体が複数個結合した高分子体でもよい。多量体または高分子体である場合、より大きな反応電子数が得られる。
なお、ここでいう多量体とは、少なくとも2個以上の基本ユニット(単量体)を含む化合物を指し、2個〜50個程度の基本ユニットが結合してなる化合物が一般的である。
また、ここでいう高分子体とは、分子量10000以上の化合物を指し、上限は特に限定されないが、分子量1000000以下の化合物が一般的に多く用いられる。
たとえば、多量体としては、以下の化学式(9)〜(11)で表される構造を有するケトン化合物が挙げられる。
【0057】
【化24】

【0058】
【化25】

【0059】
【化26】

【0060】
上記化学式(9)〜(11)は、それぞれ下記化学式(12)〜(14)で表される構造を有する前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬することにより得られる。
【0061】
【化27】

【0062】
【化28】

【0063】
【化29】

【0064】
また、本発明の製造方法により得られるケトン化合物は、分子内に、少なくとも3つのケトン基が隣接して存在する部位を1つ有する化合物でもよく、上記部位を複数個有する化合物でもよい。上記部位を複数個有する化合物としては、たとえば、化学式(15)で表される構造を有するケトン化合物が挙げられる。この場合、前駆体化合物には化学式(16)で表される構造を有する化合物を用いればよい。
【0065】
【化30】

【0066】
【化31】

【0067】
以下、本発明の蓄電デバイスの製造方法について説明する。
(1)第1の蓄電デバイスの製造方法
本発明の第1の蓄電デバイスの製造方法は、正極、負極、および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法に関し、
前駆体化合物(3)を非プロトン性溶媒に浸漬し、ケトン化合物(4)を製造する第1工程と、
前記ケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極を、前記正極および負極の少なくとも一方に用いる点に特徴を有する。
上記方法により電極活物質であるケトン化合物を容易かつ確実に製造することができ、従来の加熱工程または触媒反応工程を要しない。また、加熱装置等を設ける必要がない。このため、蓄電デバイスの製造工程を簡素化し、製造コストを低減することができる。
また、非プロトン性溶媒の残留による蓄電デバイスへの影響がないため、非プロトン性溶媒に、非水電解液に用いられる非水溶媒と同じものを用いるのが好ましい。
【0068】
以下、本発明の第1の蓄電デバイスの製造方法の一実施形態を、図1に示す本発明の第1の蓄電デバイスの製造方法のフロー図を参照しながら説明する。
<工程(A1):浸漬工程>
前駆体化合物(3)を非プロトン性溶媒に浸漬し、ケトン化合物(4)を製造する。非プロトン性溶媒中の水分量は100ppm以下であるのが好ましい。製造時に使用する非プロトン性溶媒は1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
非プロトン性溶媒の残留による蓄電デバイスへの影響がないため、非プロトン性溶媒は、蓄電デバイスに用いられる非水電解液中の非水溶媒と同じであるのが好ましい。
非水電解液電池では、水以外の非水溶媒および非水溶媒に溶解する支持塩からなる非水電解質が用いられている。
前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬させる時間は、前駆体化合物の量、非プロトン性溶媒の種類および量、ならびに浸漬条件により応じて適宜決めればよい。
浸漬条件は適宜変更すればよい。ケトン化合物を含む電極(作用極)および非水電解質を用いてサイクリックボルタンメトリーを実施し、ケトン化合物による酸化還元反応を確認することにより、ケトン化合物が得られたと判断することができる。
【0069】
<工程(A2):電極製造工程>
得られたケトン化合物を活物質として含む電極を製造する。電極の製造工程としては、この分野で常用されている方法を用いればよい。たとえば、得られたケトン化合物に、結着剤および導電材を加えて電極合剤を得、この電極合剤を集電体上に塗布して、集電体上に電極合剤層を形成し、電極を得る。
【0070】
<工程(A3):蓄電デバイス組立工程>
得られた電極を用いて、蓄電デバイスを組み立てる。
本発明の蓄電デバイスの製造方法により製造される蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極と負極との間に配されるセパレータと、非水電解液とを具備する。上記で得られた電極を、正極および負極の少なくとも一方に用いる。
蓄電デバイスの組み立て工程は、この分野で常用されている工程であればよい。たとえば、正極と負極との間にセパレータを介在させて電極群を作製する工程、この電極群を電池ケースに収納し、非水電解液を注入する工程、電池ケースを密閉する工程を含む。非水電解液の注入は、通常、常温・常圧下で行うが、非水電解液の粘度が高い場合には、加温または加圧状態で非水電解液を注入してもよい。
【0071】
次に、蓄電デバイスの構成部材について説明する。
正極は、正極集電体および正極集電体上に形成された正極活物質層からなる。正極集電板としては、この分野で常用されているものを使用すればよい。たとえば、ニッケル、アルミニウム、金、銀、銅、ステンレス鋼、アルミニウム合金などの金属材料からなる多孔質または無孔のシート状物またはフィルム状物を使用すればよい。シート状物またはフィルム状物は、たとえば金属箔やメッシュ体である。正極活物質層と正極集電体との結合強化を図るために、正極集電層と正極集電体とを化学的または物理的に結合させてもよい。
【0072】
本発明の製造方法を用いて得られたケトン化合物を正極活物質として用いる場合、負極活物質には、Liイオンを吸蔵放出可能な材料が用いられる。たとえば、負極活物質には、炭素、黒鉛化炭素(グラファイト)、非結晶炭素などの炭素化合物、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン化合物、Si、Si酸化物もしくはSi合金等のSi化合物、Sn、またはSn酸化物もしくはS合金等のSn化合物が用いられる。
【0073】
電子伝導補助剤およびイオン伝導補助剤は、電極の抵抗を低減するために用いられる。電子伝導補助剤としては、この分野で常用のものを使用すればよく、たとえば、カーボンブラック、グラファイト、もしくはアセチレンブラックのような炭素材料、またはポリアニリン、ポリピロール、もしくはポリチオフェンのような導電性高分子化合物が挙げられる。イオン伝導補助剤としては、この分野で常用のものを使用すればよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸メチルなどのゲル電解質が挙げられる。
【0074】
結着剤は、電極の構成材料の結着性を向上させるために用いられる。結着剤としては、この分野で常用のものを使用すればよく、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルライドーヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライドーテトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンーブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリイミドが挙げられる。
【0075】
負極は、負極集電体および前記負極集電体上に形成される負極活物質層からなる。負極集電体には、上記記載の正極集電体に使用可能な金属材料から、蓄電デバイス構成に適した金属材料を選定すればよい。負極集電体の表面にも、正極集電体と同様に、カーボンなどの炭素材料を塗布し、抵抗値の低減、触媒効果の付与、負極活物質層と負極集電体との結合強化などを図ってもよい。
【0076】
本発明の製造方法を用いて得られたケトン化合物を負極活物質として用いる場合、正極活物質には、たとえば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24などのリチウム含有金属酸化物、活性炭、酸化還元可能な有機化合物が用いられる。酸化還元可能な有機化合物としては、テトラチアフルバレンに代表されるπ電子共役雲を分子内に有する有機化合物や、ニトロキシラジカルに代表される安定ラジカルを分子内に有する有機化合物が用いられる。負極の電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、および結着剤には、正極の電子伝導補助剤、イオン伝導性補助剤、および結着剤と同じものを用いればよい。
【0077】
セパレータには、たとえば、所定のイオン透過度、機械的強度、および絶縁性を有する微多孔性のシートまたはフィルムが用いられる。セパレータには、たとえば、織布または不織布が用いられる。また、セパレータには、各種樹脂材料が用いられるが、耐久性、シャットダウン機能、および蓄電デバイスの安全性の観点から、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを用いるのが好ましい。なお、シャットダウン機能とは、蓄電デバイスの発熱量が大幅に増大した際に貫通孔が閉塞し、イオン透過性が低下し、蓄電デバイスの反応を遮断する機能である。
【0078】
非水電解質としては、たとえば、液状電解質またはゲル電解質が用いられる。
液状の非水電解質は非水溶媒および非水溶媒に溶解する支持塩を含む。支持塩としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに通常用いられる支持塩を用いればよい。たとえば、以下のカチオンとアニオンとからなる支持塩が挙げられる。カチオンとしては、たとえば、リチウム、ナトリウム、もしくはカリウムなどのアルカリ金属のカチオン、マグネシウムなどのアルカリ土類金属のカチオン、またはテトラエチルアンモニウムもしくは1,3−エチルメチルイミダゾリウムなどの4級アンモニウムカチオンを使用できる。これらのカチオンを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アニオンとしては、たとえば、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、四ホウフッ化物アニオン、トリフルオロリン6フッ化物アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、またはビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンが挙げられる。これらのアニオンを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。支持塩としては、リチウムカチオンおよび上記アニオンからなるリチウム塩が好ましい。
【0079】
支持塩が液状である場合、支持塩と溶媒とを混合してもよく、混合しなくてもよい。支持塩が固体状である場合、溶媒に支持塩を溶解して用いるのが好ましい。
溶媒としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに用いられる非水溶媒を用いればよい。たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルが用いられる。これらの非水溶媒を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ゲル電解質としては、たとえば、樹脂材料、非水溶媒、および支持塩の混合物が用いられる。樹脂材料としては、たとえば、ポリアクリロニトリル、エチレンとアクリロニトリルとのコポリマー、これらを架橋したポリマーが挙げられる。非水溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネート、またはプロピレンカーボネートなどの低分子量の非プロトン性溶媒が用いられる。支持塩としては、上記と同じものを使用できる。ゲル電解質はセパレータを兼ねることができる。
【0081】
(2)第2の蓄電デバイスの製造方法
本発明の第2の蓄電デバイスの製造方法は、正極、負極、および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法に関し、
上記前駆体化合物(3)を含む前駆体電極を製造する第1工程と、
前記前駆体電極を非プロトン性溶媒に浸漬し、上記ケトン化合物(4)を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極を、前記正極および負極の少なくとも一方に用いる点に特徴を有する。
上記方法により電極活物質であるケトン化合物を容易かつ確実に製造することができ、従来の加熱工程または触媒反応工程を要しない。また、加熱装置等を設ける必要がない。このため、蓄電デバイスの製造工程を簡素化し、製造コストを低減することができる。
また、非プロトン性溶媒の残留による蓄電デバイスへの影響がないため、非プロトン性溶媒に、非水電解液に用いられる非水溶媒と同じものを用いるのが好ましい。
【0082】
以下、本発明の第2の蓄電デバイスの製造方法の一実施形態を、図2に示す本発明の第2の蓄電デバイスの製造方法のフロー図を参照しながら説明する。
<工程(B1):前駆体電極製造工程>
前駆体化合物(3)を含む前駆体電極を製造する。たとえば、前駆体化合物(3)と、結着剤、電子伝導補助剤、およびイオン伝導補助剤を加えて前駆体合剤を集電体上に塗布し、集電体上に前駆体合剤層が形成された前駆体電極を製造する。
【0083】
<工程(B2):浸漬工程>
得られた前駆体電極を非プロトン性溶媒に浸漬し、前駆体電極内に含まれる前駆体化合物を脱水反応させて、ケトン化合物(4)を活物質として含む電極を製造する。
前駆体電極全体にすばやく非プロトン性溶媒を含浸させるために、工程(B2)では、脱気して一度減圧状態とし、その後常圧に戻してもよい。
【0084】
<工程(B3):蓄電デバイス組立工程>
工程(B3)では、上記工程(A3)と同じ方法により蓄電デバイスを組み立てればよい。
【0085】
(2)本発明の第3の蓄電デバイスの製造方法
本発明の第3の蓄電デバイスの製造方法は、
正極、負極および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法に関し、
上記一般式(3)表される構造を有する前駆体化合物を含む前駆体電極を製造する第1工程と、
前記前駆体電極を含む電極群を電池ケースに収納した後、非プロトン性溶媒を含む非水電解液を注液し、前記前駆体電極における前記前駆体化合物を前記非プロトン性溶媒と反応させて、上記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極を、前記正極および負極のうち少なくとも一方に用いる点に特徴を有する。
上記方法により電極活物質であるケトン化合物を容易かつ確実に製造することができ、従来の加熱工程または触媒反応工程を要しない。また、加熱装置等を設ける必要がない。第2工程の注液工程がケトン化合物の製造工程を兼ねている。このため、蓄電デバイスの製造工程を簡素化し、製造コストを低減することができる。
【0086】
以下、本発明の第3の蓄電デバイスの製造方法の一実施形態を、図3に示す本発明の第3の蓄電デバイスの製造方法のフロー図を参照しながら説明する。
<工程(C1):前駆体電極製造工程>
工程(C1)では、上記工程(B1)と同様の方法を用いればよい。
【0087】
<工程(C2):蓄電デバイス組立工程>
一対の電極およびセパレータからなり、前記一対の電極の少なくとも一方が前駆体電極である電極群を電池ケースに収納した後、電池ケース内に非水電解液を注液する(注液工程)。一対の電極の組み合わせとしては、前駆体正極および負極、正極および前駆体負極、前駆体正極および前駆体負極が挙げられる。
上記注液工程において、前駆体電極が非プロトン性溶媒を含む非水電解液に浸漬するため、前駆体電極内に含まれる前駆体化合物が脱水反応を起こし、ケトン化合物(4)を得る。このようにして、注液工程において、ケトン化合物(4)を活物質として含む電極を製造する。この電極は、正極および負極の少なくとも一方として用いられる。上記以外は、上記工程(A3)と同様の方法により蓄電デバイスを組み立てればよい。
上記方法では、注液工程が浸漬工程を兼ねるため、浸漬工程を別途設ける必要がなく、蓄電デバイスの製造工程を簡略化できる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
《実施例1》
ポリプロピレン容器内の非プロトン性溶媒としてのプロピレンカーボネート100重量部中に前駆体化合物としてのニンヒドリン(Aldrich社製)を0.2重量部投入し、5分間撹拌した(浸漬工程)。この浸漬工程は、ガス精製装置を備えたグローボックス内で実施し、グローボップ内は室温25℃およびアルゴン雰囲気とした。
【0089】
《比較例1》
ニンヒドリンを真空下にて300℃に加熱し、環状トリケトン化合物である1,2,3−インダントリオンを得た。プロピレンカーボネート100重量部に1,2,3−インダントリオン0.2重量部を投入し、5分間撹拌した。
【0090】
[評価1]
実施例1および比較例1でプロピレンカーボネート内の有機化合物を紫外・可視分光法により評価した。この評価は、5分間撹拌した直後に行った。
有機化合物を浸漬させたプロピレンカーボネートを石英ガラス製の紫外・可視分光法専用容器に入れた後、規定の波長範囲で各溶液の吸収スペクトルを測定した。波長範囲は、1010nm〜190nmの範囲内において、各溶液の吸収スペクトルが測定する範囲に応じて適宜調整した。この評価は、上記グローボックス内で行った。
【0091】
実施例1および比較例1の紫外・可視光の吸収スペクトルを図4および図5に示す。図4に示すように、実施例1のプロピレンカーボネートでは、550nm〜600nmにおいて吸収スペクトルのピークが確認された。図5に示すように、1,2,3−インダントリオンを入れたプロピレンカーボネートでは、図4と同様に、550nm〜600nmにおいて吸収スペクトルのピークが確認された。このピークは1,2,3-インダントリオンの構造に由来する。以上の結果から、実施例1の方法では、プロピレンカーボネート内のニンヒドリンが1,2,3−インダントリオンに変化したことが確かめられた。また、実施例1および比較例1の550nm〜600nmの吸収スペクトル強度を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示すように、実施例1における550nm〜600nmの吸収スペクトルのピーク強度が、比較例1の1,2,3−インダントリオンを入れたプロピレンカーボネートにおける550nm〜600nmの吸収スペクトルのピーク強度と同程度であることがわかった。吸収スペクトル強度は溶媒中の溶質濃度に比例するため、ニンヒドリンから1,2,3−インダントリオンへの変換率はほぼ100%であることが確かめられた。
【0094】
上記の結果より、前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬させることにより、ケトン化合物を製造できることが確かめられた。また、本発明のケトン化合物の製造方法では、室温下で短時間にケトン化合物が得られることがわかった。本発明のケトン化合物の製造方法では、触媒を使用することや真空下で加熱処理することがなく、製造コストの低減、および工程の簡素化の観点から、本発明のケトン化合物の製造方法は有用であることが示された。
【0095】
《実施例2》
本発明の蓄電デバイスの製造方法により、図6に示す3電極式の蓄電デバイスを作製した。図6は、蓄電デバイスの概略構成図である。蓄電デバイスの作製は、ガス精製装置を備えたグローボックス内で行った。グローボックス内は室温(25℃)およびアルゴン雰囲気とした。
【0096】
電極を収容するための第1の電極収納部67aおよび第2の電極収納部67c、ならびに電極収納部間を連絡する連絡部67bを有するガラス製のセル67を準備した。セル67の第2の収納部67cには非水電解液61を入れた。非水電解液61には、濃度1mol/Lのほうフッ化リチウムが溶解したプロピレンカーボネートを用いた。セル67の第1電極収納部67aには、非水電解液61と同じ組成の非水電解液に前駆体化合物としてのニンヒドリンを1mmol/L加えた非水電解液を入れた。このとき、非水電解液中のプロピレンカーボネートによりニンヒドリンの脱水反応が生じ、環状トリケトン化合物として1,2,3−インダントリオンが生成した。このようにして、環状トリケトン化合物が1mmol/L溶解した非水電解液65を得た。第1の電極収納部67aには、溶解さした環状トリケトン化合物が酸化還元するための正極62を配した。正極62には、直径3mmφのグラッシーカーボン電極(BAS社製)を用いた。第2の電極収納部67cには、負極63および参照電極64を配した。負極63には、10mm角のメッシュ状のニッケル集電板に、金属リチウム板(厚み300μm)を貼り付けたものを用いた。参照電極64には、7mm角のメッシュ状ニッケル集電板に、金属リチウム(300μm)を貼り付けたものを用いた。正極62を非水電解液65に浸漬し、負極63および参照電極64を非水電解液61に浸漬した。連絡部67b内に設けられたガラスフィルター66(セパレータ)により、非水電解液61と非水電解液65とを隔離した。このようにして、環状トリケトン化合物は負極側の非水電解液61と混合しない蓄電デバイスAを構成した。
【0097】
《比較例2》
ニンヒドリンを真空下にて300℃に加熱し、環状トリケトン化合物である1,2,3−インダントリオンを得た。セル67の第1電極収納部67に、上記非水電解質65の代わりに非水電解液61と同じ組成の非水電解液に1,2,3−インダントリオンを1mmol/L加えた非水電解液を入れた。これ以外、実施例2と同様の方法により蓄電デバイスBを作製した。
【0098】
[評価2]
実施例2および比較例2の製造方法で得られた蓄電デバイスAおよびBを以下のように評価した。この評価は、上記グローボックス内にて行った。評価は、蓄電デバイス製造直後に行った。
蓄電デバイスの正極を電位走査し、正極活物質の還元(放電)反応および酸化(充電)反応を評価した。具体的には、リチウム参照電極基準に対して1.0〜4.0Vの電位範囲において、自然電位(平衡電位)から放電側(卑な方向)へ電位走査し、その後充電側(貴な方向)へ電子走査した。そして、規定の電位範囲で電位を3往復走査した。走査する電位範囲は、1.0〜4.0Vの範囲内において、正極活物質の酸化還元反応に相当するピークが見られる電位を含む範囲に適宜調節した。走査速度は20mV/secとした。初期の電位走査時には電流が安定しなかったため、3往復目の電位走査時の電流―電位曲線を図7および図8に示す。
【0099】
図7は、蓄電デバイスAの場合のサイクリックボルタモグラムを示し、図8は、蓄電デバイスBの場合のサイクリックボルタモグラムを示す。図7および8に示すように、蓄電デバイスAおよびBでは、2段階の酸化還元反応が確認された。蓄電デバイスAおよびBにおける正極の酸化還元電位を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
表2に示すように、蓄電デバイスAは、蓄電デバイスBと酸化還元電位がほぼ同じであった。上記の結果より、本発明の製造方法により得られた蓄電デバイスAは、蓄電デバイスBと、同じ動作をすることが確認された。
蓄電デバイスAの製造方法では、蓄電デバイスBの製造方法のようなニンヒドリンの加熱工程が要らない。また、蓄電デバイスAの製造方法では、注液工程が環状トリケトン化合物の製造工程を兼ねる。このことから、蓄電デバイスAの製造方法では、環状トリケトン化合物を容易にかつ確実に製造できると同時に、製造工程を簡素化でき、製造コストを低減することができることが確かめられた。
なお、本発明の実施例2では、上記本発明の第3の蓄電デバイスの製造方法により蓄電デバイスを製造したが、本発明の第1および2の蓄電デバイスの製造方法により蓄電デバイスを作製した場合でも、上記と同様の結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の製造方法により得られる蓄電デバイスは、各種携帯電子機器や輸送機器の電源、または無停電電源装置に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施の形態1における蓄電デバイスの製造工程のフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態2における蓄電デバイスの製造工程のフロー図である。
【図3】本発明の実施の形態3における蓄電デバイスの製造工程のフロー図である。
【図4】本発明の実施例1の溶媒中の有機化合物の紫外・可視分光法の吸収スペクトルである。
【図5】従来の比較例1の溶媒中の有機化合物の紫外・可視分光法の吸収スペクトルである。
【図6】本発明の実施例2の蓄電デバイスの概略構成図である。
【図7】本発明の実施例2の蓄電デバイスのサイクリックボルタモグラムである。
【図8】従来の比較例2の蓄電デバイスのサイクリックボルタモグラムである。
【符号の説明】
【0104】
61 非水電解液
62 正極
63 負極
64 参照電極
65 環状トリケトン化合物を含む非水電解液
66 ガラスフィルター
67a 第1の電極収納部
67b 連絡部
67c 第2の電極収納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(2)で表される構造を有するケトン化合物を製造することを特徴とするケトン化合物の製造方法。
一般式(1):
【化1】


一般式(2):
【化2】

(式(1)および(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、前記炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよく、R1およびR2により環が形成されていてもよく、R1およびR2は、さらにケトン基を含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造を有する前駆体化合物は、下記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物であり、
前記一般式(2)で表される構造を有するケトン化合物は、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物である請求項1記載のケトン化合物の製造方法。
一般式(3):
【化3】

一般式(4):
【化4】

(式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【請求項3】
前記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物は、下記一般式(5)で表される構造を有する前駆体化合物であり、
前記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物は、下記一般式(6)で表される構造を有するケトン化合物である請求項2記載のケトン化合物の製造方法。
一般式(5):
【化5】

一般式(6):
【化6】


(式(5)および(6)中、R3〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、前記アルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数3〜6のシクロアルキル基、炭素原子数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【請求項4】
正極、負極、および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法であって、
下記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を製造する第1工程と、
前記ケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極は、前記正極および負極の少なくとも一方であることを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
一般式(3):
【化7】

一般式(4):
【化8】

(式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【請求項5】
前記非プロトン性溶媒が、前記非水電解液中に含まれる非水溶媒と同じである請求項4記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
正極、負極、および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法であって、
下記一般式(3)で表される構造を有する前駆体化合物を含む前駆体電極を製造する第1工程と、
前記前駆体電極を非プロトン性溶媒に浸漬し、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極は、前記正極および負極の少なくとも一方であることを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
一般式(3):
【化9】

一般式(4):
【化10】


(式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒が、前記非水電解液中に含まれる非水溶媒と同じである請求項6記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
正極、負極および非水電解液を具備する蓄電デバイスの製造方法であって、
一般式(3)表される構造を有する前駆体化合物を含む前駆体電極を製造する第1工程と、
前記前駆体電極を含む電極群を電池ケースに収納した後、非プロトン性溶媒を含む非水電解液を注液し、前記前駆体電極における前記前駆体化合物を前記非プロトン性溶媒と反応させて、下記一般式(4)で表される構造を有するケトン化合物を活物質として含む電極を製造する第2工程と、
を含み、
前記電極が、前記正極および負極のうち少なくとも一方であることを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
一般式(3):
【化11】

一般式(4):
【化12】

(式(3)および(4)中、Xは、炭素原子数2〜4の飽和炭化水素または不飽和炭化水素であり、前記炭素原子の少なくとも一つは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種に置換されていてもよい。また、前記飽和炭化水素および不飽和炭化水素は、水素原子の置換基として、フッ素原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、またはアラルキル基を含んでいてもよく、前記アルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルケニル基、アリール基、およびアラルキル基は、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、および珪素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−111639(P2010−111639A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286993(P2008−286993)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】