説明

ゲートバルブ装置

【課題】高温環境において使用された場合でもラジカルによりシール部材が劣化することを防止できるゲートバルブ装置を提供する。
【解決手段】弁座63に対して所定の距離が離間した状態で着座して開口部を閉塞する弁体と、弁体が弁座に着座したときに弁体と弁座との間をシールするシール部材と、を有するゲートバルブ装置であって、シール部材は、常温環境下で弁座を押圧することにより弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する第1シール部58と、高温環境下で熱膨張することにより弁座を押圧すると同時に弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する第2シール部60と、を有し、第1シール部58の体積は第2シール部60の体積よりも小さく設定され、第1シール部58の弁座側の先端部は第2シール部60の弁座側の先端部よりも弁座側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被処理体に対して所定の処理を行う処理チャンバに用いられるゲートバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体製造装置等の処理チャンバ内では、成膜、エッチング、洗浄等の各処理のために、プラズマによって化合物を分解する方法が多用されている。そして、プラズマによって化合物を分解すると、ラジカル(遊離基。不対電子を持った原子)が生成する。ラジカルは、熱エネルギを持ち、非常に反応性が高く、真空チャンバの壁面に数回衝突しても、その熱エネルギを失う傾向がなく、パッキン等のシール部材の重合状態を分解させ、シール部材を劣化させる。
【0003】
このため、ラジカルによる悪影響を防止するため、従来から様々な工夫がされている。例えば、特許文献1は、弁体と弁箱の弁座との間に、弁体に取り付けられたシール部材までの距離を確保する間隙を設けることにより、ラジカルがその間隙を進む間に、ラジカルから熱エネルギを奪い、シール部材を保護するものである。
【特許文献1】特開2005−30459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術のゲートバルブ装置は、弁体が高温環境(150℃以上)で使用されると、特に、シール部材が熱膨張する。このとき、シール部材が熱膨張することにより弁座からシール部材を介して弁体に作用するシール反力が増大することで、弁体が撓んでしまう。これにより、弁体と弁箱の弁座との隙間が広がることになる。弁体と弁箱の弁座との隙間が広がれば、その隙間にラジカルが進入し易くなり、弁体に取り付けられたシール部材が劣化するという問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、高温環境において使用された場合でも、ラジカルによりシール部材が劣化することを防止できるゲートバルブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1発明は、弁座を有し開口部が形成された弁箱の内部に設けられ、前記弁座に対して所定の距離が離間した状態で着座して前記開口部を閉塞する弁体と、前記弁体に設けられ前記弁体が前記弁座に着座したときに前記弁体と前記弁座との間をシールするシール部材と、を有するゲートバルブ装置であって、前記シール部材は、常温環境下で前記弁座を押圧することにより前記弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する第1シール部と、高温環境下で熱膨張することにより前記弁座を押圧すると同時に前記弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する第2シール部と、を有し、前記第1シール部の体積は、前記第2シール部の体積よりも小さく設定され、かつ前記第1シール部の前記弁座側の先端部は、前記第2シール部の前記弁座側の先端部よりも前記弁座側に位置していることを特徴とする。
【0007】
本願第1発明によれば、常温環境は装置立上時を想定しており、プラズマが発生しない。高温環境はプロセス稼動時を想定しており、チャンバが高温で保持され、プラズマが発生する。また、常温環境下において、シール部材の第1シール部が弁座を押圧することにより弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する。これにより、プラズマが発生しない常温環境下では、第1シール部によって弁箱の開口部が気密にシールされる。また、プラズマが発生する高温環境下において、シール部材の第2シール部が熱膨張することにより弁座を押圧すると同時に弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する。これにより、高温環境下では、第2シール部によって弁箱の開口部が気密にシールされる。このように、プラズマが発生しない常温環境下及びプラズマが発生する高温環境下において、各々のシール部材により弁箱の弁座と弁体との間(換言すれば、弁箱の開口部)を気密にシールすることができる。
【0008】
ここで、第1シール部の体積は、第2シール部の体積よりも小さく設定され、かつ第1シール部の弁座側の先端部は、第2シール部の弁座側の先端部よりも弁座側に位置している。第1シール部材は、常温環境下でシール機能が発揮されればよく、最低限のつぶし量を有する体積に設定できる。このため、弁座に接触している第1シール部の体積が第2シール部の体積よりも小さく設定することができる。それにより、高温環境下では第1シール部の熱膨張後の体積も小さくなる。この結果、弁体が第1シール部を介して弁座から受ける反作用力(シール反力)も小さくなる。
【0009】
一方、第2シール部の体積は、第1シール部の体積よりも大きくなるが、第2シール部の弁座側の先端部は、第1シール部の弁座側の先端部よりも弁座側と反対側に位置している。第2シール部は、常温環境下でシール性能を発揮させる必要がなく、高温環境下でシール機能を発揮できれば良い。そこで、高温環境下でシールの熱膨張後に所定のつぶし量を確保できる設計となる。このため、高温環境下では、第2シール部の熱膨張後の体積が第1シール部の熱膨張後の体積より大きくなるが、弁座側と反対側に第2シール部の先端部が位置しているため、常温環境下における第2シール部の先端部と弁座との距離で、第2シール部の熱膨張した体積の少なくとも一部を吸収することができる。これにより、第2シール部が熱膨張して弁座を押圧する圧力が小さくなる。この結果、弁体が第2シール部を介して弁座から受ける反作用力(シール反力)を低減できる。
【0010】
以上のように、常温環境下及び高温環境下のいずれにおいても、弁体に作用する弁座からの反作用力(シール反力)を小さくすることができるため、弁体の曲げ変形(撓み量)を小さくできる。特に、高温環境下における弁体の撓み量を小さくすることができるため、弁体と弁箱の弁座との離間距離が一定となり(常温環境下から変化することがなく)、弁体と弁箱の弁座との間にラジカルが進入することを抑制できる。この結果、ラジカルによりシール部材が攻撃されることで生じるシール部材の劣化を防止できる。
【0011】
なお、本明細書において、「常温環境下」とは、5℃以上35℃以下の範囲を示すものであり、特に、20℃以上30℃以下の温度を想定している。また、「高温環境下」とは、150℃以上250℃以下の範囲を示すものであり、特に、180℃以上220℃以下の温度を想定している。
【0012】
本願第2発明は、本願第1発明に記載のゲートバルブ装置において、前記常温環境下において、前記第2シール部は、前記弁座に接触していないことを特徴とする。
【0013】
本願第2発明によれば、常温環境下において、第2シール部が弁座に接触していないため、第2シール部の弁座側の先端部と弁座とを離間させることができる。これにより、高温環境下において第2シール部が熱膨張した場合でも、第2シール部の熱膨張した増加体積分を第2シール部の弁座側の先端部と弁座との離間距離で吸収することができる。この結果、高温環境下で第2シール部が弁座を押圧する圧力を小さくすることができ、弁座から第2シール部を介して弁体に作用する反作用力(シール反力)を大幅に低減することができる。
【0014】
本願第3発明は、本願第1発明又は本願第2発明に記載のゲートバルブ装置において、前記第1シール部はフッ素ゴム(FKM)で構成され、前記第2シール部はパーフルオロエラストマ(FFKM)で構成されていることを特徴とする。
【0015】
本願第3発明によれば、第1シール部はフッ素ゴムで構成され、第2シール部はパーフルオロエラストマ(FFKM)で構成されているため、プラズマが発生しない常温環境下では、第1シール部によって弁箱の開口部が気密にシールされ、プラズマが発生する高温環境下では、ラジカル耐性を有する第2シール部によって弁箱の開口部が気密にシールされることで、プラズマ環境下で生成するラジカルによりシール部材が劣化することを防止できる。ひいてはシール性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温環境において使用された場合でも、ラジカルによりシール部材が劣化することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、処理チャンバ12を区画する側壁36には、半導体ウエーハを通過させて搬出入させる細長い搬出入開口部38が形成され、また、処理チャンバ12と連通可能な搬送室14を区画する側壁40にも開口部42が形成されている。そして、ゲートバルブ装置10は、例えばアルミニウムよりなる略直方体状の弁箱44を有している。この弁箱44の一の側壁には、処理チャンバ12内に連通する細長い開口部46が形成されている。開口部46の近傍には、弁体52の第2シール面57が所定の距離をあけて着座し後述のシール部材55が接触する弁座63が形成されている。なお、弁箱44と上記処理チャンバ12及び搬送室14との接合面には、Oリング48、50がそれぞれ介在されて気密性を保持できるようになっている。
【0019】
弁箱44内には、弁体52とこの弁体52を駆動する弁体駆動機構11が設けられており、必要に応じて弁体52が開口部46に着座してこれらを気密にシールできるようになっている。なお、上記開口部46と搬出入開口部38とは一体的に連通されているので、上記開口部46を開閉することにより搬出入開口部38も開閉されることになる。
【0020】
ここで、弁体52は、第1開口部46に対向する第1シール面56と、開口部46を閉塞したときに開口部46の弁座63に対向する第2シール面57と、第2シール面57に設けられたシール部材55と、を有している。なお、シール部材55は、後述するように、第1シール部58と、第2シール部60と、で構成されている。
【0021】
第1シール面56は、第2シール面57の中央部から突出するように形成されている。弁体52が開口部46を閉塞したときに、第1シール面56は、開口部46の内部に入り込み、弁体と弁箱の弁座との間に、弁体に取り付けられたシール部材までの距離を確保する間隙を形成している。ラジカルがその間隙を進む間に、ラジカルから熱エネルギを奪い、シール部材への攻撃を抑制できる。
【0022】
図1、図6(A)に示すように、第2シール面57は、開口部46の弁座63と対向する平面部71を有している。弁体52が開口部46を閉塞したときに、第2シール面57の平面部71が開口部46の弁座63に対して所定の離間距離(例えば、0.1mmから0.2mmの範囲のいずれか)をあけて対向するように設定されている。また、第2シール面57の平面部71であって第2シール面の外縁側には、第1シール溝75が形成されている。第1シール溝75は、1本の連続した溝であり、第1シール面56を囲むように形成されている。第1シール溝75には、第1シール部58が嵌められている。
【0023】
さらに、第2シール面57の平面部71であって第2シール面57の外縁側には、第2シール溝77が形成されている。第2シール溝77は、1本の連続した溝であり、第1シール溝75のさらに内縁側であって、かつ第1シール面56を囲むように形成されている。第2シール溝77には、第2シール部60が嵌められている。
【0024】
第1シール部58及び第2シール部60は、弁箱44の開口部46の弁座63に対し所定の圧力で押圧した状態で接触することにより、この反作用として弁座63から受ける反作用力(シール反力)により弾性変形(圧縮変形)される。このため、第2シール面57の平面部71と開口部46の弁座63との間が第1シール部58及び第2シール部60によって区画され、開口部46が気密にシールされている。
【0025】
ここで、図6に示すように、第1シール溝75と第2シール溝77の溝深さの関係は、各シール溝79、81に各シール部58、60を嵌め込んだときに、第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部の第2シール面57の平面部71からの高さ寸法が、第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部の第2シール面57の平面部71からの高さ寸法よりも大きくなるように設定されている。本実施形態では、第2シール溝77の溝深さ寸法は、第1シール溝75の溝深さ寸法よりも大きく(深く)なるように設定されている。また、第1シール溝75と第2シール溝77の容積の関係は、後述のように、第2シール部60体積が第1シール部58の体積よりも大きくなるため、各シール溝79、81に各シール部58、60を嵌め込めるように、第2シール溝77の容積が第1シール溝75の容積よりも大きくなるように設定されている。以上のように、第1シール部58が第1シール溝75に装着され、第2シール部60が第2シール溝77に装着された状態では、第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部の平面部71からの高さは、第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部の平面部71からの高さよりも高くなる。この結果、第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部は、第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部よりも弁座63に近接した位置になっている。
【0026】
第1シール部58の体積は、第2シール部60の体積よりも小さくなるように設定されている。具体的には、第1シール部58の体積は、第2シール部60の体積の1/4倍から1/27倍程度が好ましい。このため、高温環境下(例えば、200℃)において、第2シール部60の熱膨張による体積の増加分が第1シール部58の熱膨張による体積の増加分よりも大きくなる。換言すれば、高温環境下(例えば、200℃)において、第2シール部60は、第1シール部58よりも大きく膨らみ、高温環境下(例えば、200℃)における第2シール部60の第1シール部58に対する体積倍率が常温環境下(例えば、25℃)における第2シール部60の第1シール部58に対する体積倍率よりも大きくなる。
【0027】
なお、第1シール部58は、フッ素ゴム(FKM)で構成され、第2シール部60は、パーフルオロエラストマ(FFKM)で構成されている。第1シール部58がフッ素ゴム(FKM)で構成されていることにより、耐熱性及び耐油性の機能を持ちせることができる。また、第2シール部60がパーフルオロエラストマ(FFKM)で構成されていることにより、耐熱性と耐薬品性の機能を持たせ、ラジカルに強い性質(耐ラジカル性)にすることができる。これにより、プラズマが発生しない常温環境下では、第1シール部によって弁箱の開口部が気密にシールされ、プラズマが発生する高温環境下では、第2シール部によって弁箱の開口部が気密にシールされることで、プラズマ環境下で生成するラジカルによりシール部材が劣化することを防止できる。
【0028】
また、第1シール部58及び第2シール部60がパーフルオロエラストマ(FFKM)で構成されていてもよく、これにより、第2シール溝77及び第2シール部60を第1シール溝75及び第1シール部58の内側であって開口部46に近接するように設定が好ましいが、これに限られるものではなく、両者を逆の配置にすること、すなわち、第1シール溝75及び第1シール部58は、第2シール溝77及び第2シール部60の内側であって第1開口部46又は第2開口部62に近接するように設定できる。
【0029】
図1に示すように、弁体52の長手方向両端部近傍には、弁体52を弁箱44に対して回動させ又は径方向に移動させるための弁体駆動機構11が取り付けられている。
【0030】
ここで、弁体52を駆動させる弁体駆動機構11の構成について説明する。
【0031】
図2及び図3に示すように、弁体52の長手方向両端部には、支持部13が取り付けられている。この支持部13は、中空状に形成されている。この支持部13は、弁箱44の軸受部15により回動可能となるように支持されている。また、支持部13の内側には、軸受部を介して偏心シャフト17が回動可能となるように配置されている。この偏心シャフト17は、シャフト本体部17Aと、シャフト本体部17Aの中心(軸心)から所定の距離だけ離れた部位に中心が位置する偏心軸部17Bと、で構成されている。この偏心軸部17Bの外周には、すべり軸受けを介してローラ22が配置されており、径方向に延在した支持片19が取り付けられている。すなわち、この支持片19には、ローラ22が挿入される挿入部21が形成されており、このローラ22を介して偏心軸部17Bが回動可能に接続された構成となっている。上記した支持片19の径方向外側端部は、弁体52と接続されている。なお、支持片19と弁体52とは、ビスやネジなどの固着具により接続されている。また、支持部13には、支持片19の外周を囲むと共に、弁体52が径方向外側に移動する際に伸び、弁体52が径方向内側に移動する際に縮むベローズ33が取り付けられている。
【0032】
さらに、弁箱44には、駆動モータ66が取り付けられている。この駆動モータ66は、正方向及び逆方向に回転するモータ回転軸66Aを備えている。このモータ回転軸66Aは偏心シャフト17のシャフト本体部17Aに接続されており、モータ回転軸66Aの回転により偏心シャフト17を一方向又は逆方向に回動することができるようになっている。
【0033】
次に、本実施形態のゲートバルブ装置10の作用について説明する。図1に示すように、本実施形態の作用では、常温環境下(例えば、25℃)において、弁体52が開口部46と90度対向する面にある弁箱44の側壁62と対向する位置にある状態(OPEN状態)を基準に説明する。
【0034】
図1及び図2に示すように、弁体52が側壁62と対向する位置にある状態(OPEN状態)では、偏心シャフト17の偏心軸部17Bは、回動中心を基準として側壁62側と反対側(径方向内側)に位置している。
【0035】
次に、図4に示すように、駆動モータ66が駆動されると、支持部13が偏心シャフト17とともに略90度回動し、弁体52は、第1開口部46に対向する位置に移動する。
【0036】
図5に示すように、図4に示す略90度の位置から駆動モータ66のモータ回転軸66Aが正方向にさらに回転されると、偏心シャフト17は駆動モータ66の回転駆動力を受けることになるため、偏心シャフト17のみが回動する。偏心シャフト17が図4に示す90度の位置から180度だけ回転すると、偏心シャフト17の偏心軸部17Bは、その偏心量×2倍の距離(偏心軸部17Bの直径寸法に相当)だけ開口部46側に移動する。これにより、弁体52が開口部46近傍の弁座63に着座し、開口部46が閉塞される(CLOSE時状態)。
【0037】
ここで、弁体52が開口部46近傍の弁座63に着座し、開口部46が閉塞した状態では、弁体52の第1シール面56の縁と開口部46との間、及び弁体52の第2シール面57の平面部71と第1開口部46外縁の弁座63との間は、所定の距離(例えば、0.1mmから0.2mmの範囲のいずれか)だけ離間した状態になっている。
【0038】
このとき、弁体52の押圧力により、第1シール部58から開口部46近傍の弁座63に対して所定の圧力が作用する。これにより、図6(B)に示すように、常温環境下(例えば、25℃)において、第1シール部58は、弁座63からその反作用力としてシール反力を受け、弾性変形している。また、第2シール部60は、第1開口部46近傍の弁座63に対して接触していないか、あるいは圧力ゼロで当接しているため、シール反力を受けず、弾性変形しない。このように、常温環境下(例えば、25℃)では、主に、第1シール部58のみにより、第1開口部46が気密にシールされる。
【0039】
一方、図6(C)に示すように、高温環境下(例えば、200℃)において、第1シール部58は、熱膨張により体積が増大しているため、弁座63から作用するシール反力が大きくなり、弾性変形量が大きくなる。また、第2シール部60も同様にして、熱膨張して体積が大きくなる。このため、第2シール部60が開口部46近傍の弁座63に対して所定の圧力を及ぼして接触するため、第2シール部60は反作用力としてシール反力を受け、弾性変形する。このように、高温環境下(例えば、200℃)では、第1シール部58及び第2シール部60により、開口部46が気密にシールされる。
【0040】
弁体52が開口部46に着座して第1開口部46が閉塞された状態から開口部46を開放する場合には、駆動モータ66のモータ回転軸66Aを逆方向に回転させて偏心シャフト17を逆方向に回転させる。偏心シャフト17を逆方向に180度回転させると、偏心シャフト17の偏心軸部17Bは、その偏心量×2倍の距離(偏心軸部17Bの直径寸法に相当)だけ第1開口部46側と反対側(径方向内側)に移動して、図4に示す90度の位置に戻る。これにより、第1開口部46は開放される。
【0041】
図4に示す90度の位置から駆動モータ66のモータ回転軸66Aをさらに逆方向にさらに回転させると、偏心シャフト17は支持部13とともに所定の方向に回動する。そして、支持部13は、偏心シャフト17とともに90度だけ回動して、図3に示す位置に戻る。これにより、弁体52は、側壁62と対向する位置に移動する。
【0042】
次に、本発明の一実施形態のゲートバルブ装置10の作用及び効果について説明する。
【0043】
図6(A)及び図6(B)に示すように、常温環境下(例えば、25℃)では、弁体52の第1シール部58が弁箱44の開口部46の弁座63に対して所定の圧力を作用させる形で接触する。これにより、第1シール部58は、弁座63から反作用力(シール反力)を受けて弾性変形(圧縮変形)する。これに伴い、弁体52の第2シール面57の平面部71には、第1シール部58を介してシール反力が作用する。換言すれば、弁体52は、各支持端部となる外縁部からシール反力が作用した両端支持梁のような力学状態になっている。
【0044】
また、常温環境下(例えば、25℃)では、弁体52の第2シール部60が弁箱44の開口部の弁座63に接触していないか、あるいは圧力を作用させずに当接した状態になっている。このため、弁座63から第2シール部60に対してシール反力が作用せず、第2シール部60は、弾性変形(圧縮変形)しない。この結果、弁体52の第2シール面57の平面部71には、第2シール部60を介してシール反力が作用しない。
【0045】
そして、常温環境下(例えば、25℃)では、第1シール部58が弁体52と弁箱44の弁座63との隙間を閉塞し、開口部46との連通状態が遮断される。このとき、処理チャンバ12内はプラズマが発生しない常温環境下であるため、第1シール部58及び第2シール部60がプラズマ環境下で生成するラジカルによりシール部材が劣化されることがない。
【0046】
ここで、図6(C)に示すように、高温環境下(例えば、200℃)になると、第1シール部58及び第2シール部60が熱膨張する。第1シール部58は、熱膨張により体積が増加するが、もともとの体積が小さく設定されているため、増加分の体積も小さくなる。このため、第1シール部58が弁座63を押す圧力も比較的小さくなり、第1シール部58に作用するシール反力も小さくて済む。
【0047】
また、第2シール部60は、熱膨張により体積が増加する。そして、第2シール部60のもともとの体積が大きいため、増加分の体積も大きくなる。ここで、第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部と弁座63との間には所定の距離(クリアランス)が存在するため、第2シール部60は、体積が増加するに伴い、クリアランスを埋めるようにして弁座63側に近づいていき、やがて弁座63に接触する。第2シール部60が各弁座63に接触すると、第2シール部60が弁座63に対して所定の圧力を作用させるとともに、第2シール部60は弁座63から反作用力となるシール反力を受ける。これにより、第2シール部60が弾性変形(圧縮変形)するとともに、弁体52の第2シール面57の平面部71には第2シール部60を介してシール反力が作用する。このように、弁体52には、第1シール部58及び第2シール部60から所定のシール反力が作用する。この結果、弁体52は、各支持端部となる外縁部から大きなシール反力が作用した両端支持梁のような力学状態になっている。
【0048】
ここで、第2シール部60はもともとの体積が大きく設定されており、熱膨張による体積増加も大きくなるが、第2シール部60の増加した体積の一部を第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部と弁座63との間には所定の距離(クリアランス)で吸収することができる。これにより、第2シール部60の弁座63に接触する体積分が小さくなり、第2シール部60から弁座63に作用する圧力が小さくなる。この結果、第2シール部60が弁座63から受けるシール反力も小さくなり、弁体52に作用するシール反力も小さくなる。これにより、高温環境下(例えば、200℃)では、弁体52は、第1シール部58及び第2シール部60を介して弁座63からシール反力を受けることになるが、弁体52が弁座63から受けるシール反力を低減することができる。
【0049】
なお、常温環境下(例えば、25℃)において、第2シール部60が弁座63に対し圧力がゼロの状態(押圧していない状態)で接触している構成でも、第2シール部60を介して弁体52に作用するシール反力を小さくすることができる。
【0050】
同時に、高温環境下(例えば、200℃)では、弁体52と弁箱44の弁座63との隙間は、第1シール部58及び第2シール部60により閉塞されている。これにより、2つのシール部58、60により、開口部46がより気密にシールされる。特に、高温環境下(例えば、200℃)では、体積の大きな第2シール部60の作用により、シール性を高めることができる。
【0051】
以上のように、常温環境下(例えば、25℃)及び高温環境下(例えば、200℃)において、弁座63から弁体52に作用するシール反力を低減させることができる。これにより、弁体52がシール反力を受けることによる弁体52の弾性変形(撓み変形)による変形量(撓み量)を小さくできる。この結果、弁体52の第1シール面56の傾斜部69と開口部46の傾斜面61とのクリアランス、及び、弁体52の第2シール面57の平面部71と開口部46近傍の弁座63とのクリアランスを一定値に維持することができる。このように、特に高温環境下(例えば、200℃)における弁体52の撓み変形によって、弁体52の第1シール面56の傾斜部69と開口部46の傾斜面61とのクリアランス、及び、弁体52の第2シール面57の平面71と開口部近傍の弁座63とのクリアランスが変更することを防止できるため、ラジカルの進入を防止でき、ひいては各シール部58、60の劣化を防止できる。そして、各シール部58、60の製品寿命を向上させることができる。
【0052】
また、常温環境下(例えば、25℃)及び高温環境下(例えば、200℃)において、弁座63から弁体52に作用するシール反力を低減させることができることにより、弁体52が弁座63を押す力を小さくすることができる。これにより、弁体52の駆動源を小型化することができ、ひいてはゲートバルブ装置10を小型化することができる。
【0053】
特に、第1シール部58をフッ素ゴム(FKM)で、第2シール部60をパーフルオロエラストマ(FFKM)で構成することにより、より高いラジカル耐性を持たせ、長寿命化を実現できる。
【0054】
(実施例)
次に、各シール部58、60の性質及び各シール溝79、81の深さ寸法の関係について具体的な数値を検討する。なお、実施例では、弁体52が開口部46を閉塞したときに、第2シール面57の平面部71と開口部46の弁座63との離間距離が0.2mmであることを前提にする。
【0055】
第1シール部58は、フッ素ゴム(FKM)が使用され、第2シール部60は、パーフルオロエラストマ(FFKM)が使用される。第1シール部58の線膨張係数は、0.00018であり、第2シール部60の線膨張係数は、0.00030である。
【0056】
常温環境下(例えば、25℃)での、各シール部58、60のシール公差0.1、各シール溝79、81及び弁体52の公差0.1とするときの第1シール部58の最小潰し量(圧縮変形量)が0.2mmとなる。この状態で、第1シール部58の10%の潰し量((常温環境下での第1シール部58に圧力が作用していないときの第1シール部58の体積/第1シール部58に圧力が作用していないときの第1シール部58の体積)×100)とするためには、0.2/0.1=2.0(mm)となり、第1シール部58の高さ寸法(第1シール溝75の溝底部79から第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部までの寸法)の最小値は、2.0(mm)となる。
【0057】
高温環境下(例えば、200℃)での、第1シール部58の高さ寸法(第1シール溝75の溝底部79から第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部までの寸法)は、2.0×(1+0.00018×(200−25))=2.06(mm)となる。
【0058】
ここで、第1シール溝75の溝底部79と第2シール溝77の溝底部81との高さの差をt、第2シール部60の常温環境(25℃)での高さ寸法(第2シール溝77の溝底部81から第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部までの寸法)をdとすると、常温環境下(25℃)において第2シール部60が弁座63に対して非接触となる条件は、d<t+(2.0−0.2)…(1式)
【0059】
一方、高温環境下(200℃)において第2シール部60が弁座63に対して接触し、かつ第2シール部60の潰し量が0.2mm(最小値)となる条件は、
d×(1+0.00030×(200−25))>1.8+0.2+t…(2式)
【0060】
(1式)及び(2式)より、d>3.81(mm)となり、第2シール部60の高さ寸法(第2シール溝77の溝底部81から第2シール部60の最も弁座63側に位置する先端部までの寸法)は、3.81(mm)よりも大きな値になる。
【0061】
以上をまとめると、常温環境下(25℃)における第1シール部58の潰し量は、0.2から0.8(mm)の範囲が好ましい。また、第1シール部58の潰し率:3から20(%)が好ましい。また、常温環境下(25℃)における第2シール部60の潰し量は、0(第2シール部60の潰し率:0(%))となる。
【0062】
高温環境下(200℃)における第1シール部58の潰し量は、0.2(mm)から1.0(mm)の範囲が好ましい。また、高温環境下(200℃)における第2シール部60の潰し量は、0.2mmから0.6(mm)の範囲が好ましい。
【0063】
また、第1シール部58の高さ寸法(第1シール溝75の溝底部79から第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部までの寸法)は、1.0から3.0(mm)の範囲に設定することが好ましい。また、第2シール部60の高さ寸法(第1シール溝75の溝底部79から第1シール部58の最も弁座63側に位置する先端部までの寸法)は、第1シール部58の高さ寸法の2倍から3倍、すなわち、2.0から9.0(mm)の範囲に設定することが好ましい。
【0064】
次に、本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置10の弁体52に取り付けられたシール部材(第1シール部58及び第2シール部60)の各変形例について説明する。
【0065】
図7に示すように、シール部材83は、第1シール部58と第2シール部60とが一体形成されたものである。各シール溝79、81が相互に連通した状態になっており、各シール溝79、81にまたがるようにして、シール部材83が嵌められている。なお、各シール部58、60の機能は、上記実施形態と同様であるので省略する。
【0066】
図8に示すように、シール部材85は、第1シール部58と第2シール部60とが一体形成されたものであり、各シール溝79、81にまたがるようにして設けられている。このシール部材85は、各シール溝79、81に対して溶着することにより位置決め固定されている。なお、各シール部58、60の機能は、上記実施形態と同様であるので省略する。
【0067】
上記各変形例のシール部材83、85を用いた構成でも、上記実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の取り付け状態を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の要部を示す部分拡大図である。
【図3】OPEN状態における本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の弁体部の位置を示す断面図である。
【図4】90度回転状態における本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の弁体部の位置を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の弁体部により第1開口部を閉塞した状態の弁体部の位置を示す断面図である。
【図6】(A)は、本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の弁体が弁箱の開口部を開放した状態(第1シール部及び第2シール部にシール反力が作用していない状態)のシール部材の構成図であり、(B)は、常温環境下(25℃)においてゲートバルブ装置の弁体が弁箱の弁座に対して所定の距離をあけて着座した状態(第1シール部のみにシール反力が作用している状態)のシール部材の構成図であり、(C)は、高温環境下(200℃)においてゲートバルブ装置の弁体が弁箱の弁座に対して所定の距離をあけて着座した状態(第1シール部及び第2シール部にシール反力が作用している状態)のシール部材の構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の弁体に取り付けられたシール部材(第1シール部及び第2シール部)の第1変形例の構成を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るゲートバルブ装置の弁体に取り付けられたシール部材(第1シール部及び第2シール部)の第2変形例の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
10 ゲートバルブ装置
44 弁箱
46 開口部
52 弁体
55 シール部材
58 第1シール部(シール部材)
60 第2シール部(シール部材)
62 側壁
63 弁座


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座を有し開口部が形成された弁箱の内部に設けられ、
前記弁座に対して所定の距離が離間した状態で着座して前記開口部を閉塞する弁体と、
前記弁体に設けられ前記弁体が前記弁座に着座したときに前記弁体と前記弁座との間をシールするシール部材と、
を有するゲートバルブ装置であって、
前記シール部材は、
常温環境下で前記弁座を押圧することにより前記弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する第1シール部と、
高温環境下で熱膨張することにより前記弁座を押圧すると同時に前記弁座から作用する反作用力を受けて弾性変形する第2シール部と、
を有し、
前記第1シール部の体積は、前記第2シール部の体積よりも小さく設定され、かつ前記第1シール部の前記弁座側の先端部は、前記第2シール部の前記弁座側の先端部よりも前記弁座側に位置していることを特徴とするゲートバルブ装置。
【請求項2】
前記常温環境下において、前記第2シール部は、前記弁座に接触していないことを特徴とする請求項1に記載のゲートバルブ装置。
【請求項3】
前記第1シール部はフッ素ゴム(FKM)で構成され、及び前記第2シール部はパーフルオロエラストマ(FFKM)で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のゲートバルブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38308(P2010−38308A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203641(P2008−203641)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】