説明

コネクタ

【課題】大径の電線が電線側に応力が生じても、端子金具を正しい姿勢に保持することができるコネクタを提供する。
【解決手段】コネクタハウジン21の係合溝35へ電線11の芯線11Aに固定された回り止め部材50の係合片53を挿入する。回り止め部材50は係合溝35に係合することにより電線11の回動を規制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に大径の電線に適用するに好適なコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばハイブリッド車や電気自動車では、両端にコネクタを設けた動力電線によってモータとインバータとの間等を接続する。この種のコネクタは、例えば特許文献1に示すように芯線の先端に舌片状の端子金具を接続し、これを合成樹脂製のハウジング内に収容して雄型のコネクタとなし、これをモータ等の機器に設けた雌型コネクタに嵌合させる構成である。雌型のコネクタには、箱形をなす端子金具内に雄型の端子金具との間の接圧を確保するためのバネが配置してあり、一方、雄型のコネクタでは、寸法公差を吸収する等のため端子金具はコネクタハウジングに対して僅かにがたつきを許容された状態で配置されている。
【0003】
ところで、近年、この種の車両にあってはモータの高出力化によって動力電線の大径化が進んでいる。電線が大径化すると、その剛性が大きくなるため、電線を曲げながら行う車両への電線の配索時には、電線と端子金具に大きな応力が発生する。この結果、端子金具がコネクタハウジング内で許容されたガタの中で最大に傾いた状態になり、相手方コネクタの端子金具にいわゆる片当たり状態となって接触抵抗が増大してしまうことがある。
従来ならば、このようにコネクタハウジング内で端子金具が傾いたとしても、相手方の雌型コネクタに設けられたバネの圧力によってその姿勢が矯正され、片当たり状態が解消可能であった。しかし、上述のように電線の剛性が高いとバネ圧によって端子金具の姿勢を矯正することが困難になるのである。かといって、バネを大形化して電線の剛性に打ち勝つだけの圧力を生じさせるようにすると、今度はコネクタの嵌合抵抗が極めて大きくなるため、現実には実施不可能である。
【特許文献1】特開2001−35589公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、電線側に応力が生じていても、コネクタハウジングに保持された端子金具を正しい姿勢に保持できるコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、絶縁被覆によって芯線が被覆された電線の端部に設けられるコネクタであって、キャビティを有するコネクタハウジングと、前記キャビティ内に配設され前記絶縁被覆が剥がされた電線の芯線に接続される端子金具と、前記電線に固定され前記コネクタハウジングに係合することで前記電線の軸線回りの回動を規制する回り止め部材とを備える。
上記構成によれば、電線に固定された回り止め部材が前記コネクタハウジングに係合することで電線の軸線回りの回動が規制される。この結果、仮に電線にねじり方向の力が作用したとしても、それは回り止め部材が設けられた部分で受け止められ、それよりも先端の端子金具側に及ぶことはなく、端子金具がキャビティ内で傾いたりすることがない。
【0006】
また、前記回り止め部材を、前記電線のうち絶縁被覆を剥がした芯線に固定するようにすると、絶縁被覆に固定する場合に比べ、絶縁被覆と芯線との間の滑りに起因して回り止め部材が芯線に対し回動変位することを確実に防止できるから、端子金具の傾きを一層確実に防止できる。
【0007】
また、前記回り止め部材を、前記芯線の外周を取り囲んで芯線にカシメ付けられるむバレル部と、そのバレル部と一体に設けられて前記芯線の放射方向に延びる一対の係合片とを備える構成とすると、回り止め構造が1つの部品によって簡単に構成でき、しかも、放射方向に延びる係合片によって高い回り止め効果が得られる。
前記係合片を、前記バレル部に対して前記端子金具側に位置して設けると、バレル部と端子金具との間の距離を最大限長くとることができる。その結果、回り止め部材よりも端子金具側に位置する芯線の回動変位が許容され、ひいては端子金具のがたつきが許容されるため相手コネクタとの安定的な嵌合が可能になる。
【0008】
そして、電線の絶縁被覆に外周に防水シールを嵌着し、その防水シールの外周面をコネクタハウジングのキャビティ内面に密着させ、電線のうち防水シールと端子金具の接続部分との間に位置して前記回り止め部材を固定する構成とすれば、電線の回り止め構造と防水構造とを両立させることができる。
さらには、端子金具は舌片状の雄型をなすと共に係合孔を有し、前記コネクタハウジングのキャビティに設けた弾性係合片を前記係合孔に係合させる構成とすると、端子金具のがたつきがより安定して許容されるから、相手コネクタとの嵌合がより安定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコネクタによれば、電線側に応力が生じていても、コネクタハウジングに保持された端子金具を正しい姿勢に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図6を参照して説明する。
本実施形態のコネクタは、例えばハイブリッド車においてインバータ装置とモータとの間を結ぶワイヤハーネスの接続部分に適用したものである。
【0011】
まず、ワイヤハーネス10の全体構造を概略的に示すと図1の通りである。3本の電線11は、共に芯線11Aの回りに絶縁被覆11Bを被覆してなる周知構造であり、芯線11Aの断面積は例えば20cm2であって自動車用としては剛性が高いものである。3本の電線11の周りには、これらを一括して覆うシールド用の編組線12が電線11の全長に沿って被せてある。3本の電線11群の一端側(図示しないインバータ装置に接続される側)には単一のコネクタハウジング21内に3本の雄型の端子金具40を収容してなる3極型のコネクタ20が設けられ、他端側(図示しないモータに接続される側)には各電線11毎に、3個のモータ端子(図示せず)にボルト止めするための同数(3個)のモータ側コネクタ60が設けられている。なお、このモータ側コネクタ60は、詳細には図示しないが電線11の芯線11Aに端子金具61を圧着し、その端子金具61部分にコネクタハウジング62をモールド成型してコネクタとなしたものである。このようなワイヤハーネス10は、まず各モータ側コネクタ60がモータのモータ端子にボルトによって固定され、そして車両の所定の配索経路に沿って所定形状となるように曲げられて車体に固定され、最後に、コネクタ20がインバータ側の雌型コネクタ(図示せず)に嵌合固定される。
【0012】
次に、上記コネクタ20について、より詳細に述べる。前記コネクタハウジング21は、金属製例えばアルミダイキャスト製のシールドハウジング22と、合成樹脂製のターミナルハウジング30との2部品からなる。シールドハウジング22は、長円筒状の本体筒部23の外周面からフランジ部24を放射方向に延びるように延出させた構成で、そのフランジ部24の例えば3箇所にボルト挿通孔25が形成されている。なお、本体筒部23の外周面には前記編組線12が被せてあり、その外側からカシメリング26をカシメ付けることで編組線12をシールドハウジング22に固定している(電気的接続を兼ねる)。
【0013】
一方、ターミナルハウジング30は、シールドハウジング22の本体筒部23内に挿通可能な大きさを有する長円筒状の本体部31と、その本体部31の前方に本体部31よりも大型の長円筒状をなすフード部32とを一体に有する。本体部31内には3カ所に前後(図3において左右方向。左側を前とする。)に延びるキャビティ33が横並びに形成され、それらの各キャビティ33内には前方を自由端とした弾性係合片であるランス34が設けられている。キャビティ33の後端部は僅かに内径を大きくした円筒状のシール部35となっている。
【0014】
ターミナルハウジング30のフード部32内は2枚の隔壁36によって3室に区画されている。また、フード部32の外周面には環状のシール収納溝37が形成され、ここに環状の防水シール38が嵌め込まれている。この防水シール38は、コネクタ20が図示しない相手方の雌型コネクタと嵌合されると、そのフード部の内周面に密着する。
【0015】
電線11の先端部は所定の長さだけ絶縁被覆11Bが剥がされ、露出された芯線11Aの先端寄りに端子金具40が取り付けられている。この端子金具40は図2に示すように矩形の舌片状をなすいわゆる雄タブ端子であり、基端側に設けられているバレル部41を芯線11Aの先端にカシメ付けることで電線11に固定されている。また、端子金具40の中央近くには矩形の係合孔42が形成されており、電線11に固定した端子金具40をターミナルハウジング30のキャビティ33内に後方から挿入すると、キャビティ33内のランス34の上部突起34Aが端子金具40の下面に当接してランス34が弾性的に押し下げられ、係合孔41が上部突起34Aに遭遇する位置まで端子金具40が挿入されると、ランス34が弾性的に復帰して上部突起34Aが係合孔42内に進入することで端子金具40のキャビティ33内からの抜け止めがなされる。
【0016】
なお、端子金具40がキャビティ33内の正規位置に装着された状態で、端子金具40はキャビティ33前端面に形成されているスリット33Aを貫通してフード部32内に突出しており、かつ、その状態で各所に存在するギャップによって実際には端子金具40は電線11の軸線周りに僅かな角度範囲内で回動(傾き変位)が可能である。
【0017】
また、端子金具40のキャビティ33内への装着時には、電線11の絶縁被覆11Bの先端部分にリング状の防水シール42及び合成樹脂製のシール押さえ43が予め嵌合しておき、端子金具40が正規位置に装着された後に、防水シール42及びシール押さえ43を先端側に滑らせてキャビティ33のシール部36内に押し込むことによってキャビティ33の後端側の防水性を確保する。
【0018】
さて、本実施形態では、絶縁被覆11Bを剥がし取った長さ(芯線11Aの露出長さ)は、端子金具40のカシメ付けに必要なバレル部41の前後方向長さよりも十分に長い(例えばその2倍以上)の長さに確保してあり、電線11の先端部において絶縁被覆11Bよりに芯線11Aが長く露出している。そして、その露出部分には、回り止め部材50が設けられている。この回り止め部材50は、芯線11Aをその全周から包囲するようにカシメ付けられたバレル部51と、これと一体をなす半円筒型の受け部52と、その受け部52の両側から延びる一対の係合片53とを備えている。
【0019】
この実施形態では、バレル部51を絶縁被覆11B側(端子金具40とは反対側)に位置させて芯線11Aにカシメ付けてあり、係合片53はバレル部51の前方において芯線11Aの左右両側において互いに逆向きの放射方向に延びる形状である。各係合片53は、キャビティ33の内周面に当接可能な長さ寸法であって、キャビティ33の内周面に形成した係合溝35内に進入して係合している。この係合溝35は、キャビティ33の後端側から前後方向に延びて形成されており、端子金具40をキャビティ33内に挿入する際に、各係合片53の先端部が各係合溝35内に進入し、これにガイドされつつ係合溝35内を前方に進むようになっている。
【0020】
このように係合片53が前後に延びる係合溝35内に係合することにより、回り止め部材50は電線11の軸線周りの回動が規制され、その回り止め部材50は電線11に固定されているから、電線11自体がその軸線周りの回動が規制されることになる。なお、回り止め部材50の回動(ひいては電線11の回動)が規制されるとはいえ、実際には、係合片53は係合溝35と係合しつつその溝35内を前方に移動可能になっているから、係合溝35との間に僅かなギャップが設定されていて軸線周りの回動は極めて僅かに許容されている。しかし、その許容されている軸線周りの回動角度は、端子金具40に関して許容されている同じく軸線周りの回動角度に比べて小さく設定されている。
【0021】
上記構成の本実施形態では、従来と同様にワイヤハーネス10を車両に組み付けるには、例えばコネクタ60をモータ側コネクタに接続し、各電線11を所定の配索経路に沿うよう曲げながら車体に固定し、最後にコネクタ20を例えばインバータ装置のコネクタに嵌合する。このような配索過程において、各電線11を曲げる際、その剛性が比較的高いため、最終的にコネクタ20を嵌合する際に、電線11を曲げた反力によって端子金具40にはそれをキャビティ33内で傾けようとする強い力が作用する。
【0022】
ところが、本実施形態によれば、電線11の芯線11Aに固定された回り止め部材50の係合片53がコネクタハウジング21の係合溝35に係合することで電線11の軸線回りの回動が規制されている。この結果、電線11に作用する軸線周りのねじり力はコネクタハウジン21の係合溝35に部分で受け止められ、それよりも先端の端子金具40側に及ぶことがない。このため、端子金具40はキャビティ33内で電線11からの力によって傾くことがなく、回り止め部材50のバレル部51よりも先端側の芯線11Aを捻りながらキャビティ33内での回動が許容されている。
【0023】
従って、相手方コネクタのとの嵌合に際して、相手方コネクタの端子金具と姿勢を整合させるべく自由に傾くことができ、相手方コネクタの端子金具と局部的な接触状態となるいわゆる片当たり現象を確実に防止することができる。
【0024】
また、本実施形態では、回り止め部材50を、電線11のうち絶縁被覆を剥がした芯線11Aに固定しているから、絶縁被覆11Bに固定する場合に比べ、絶縁被覆11Bと芯線11Aとの間の滑りに起因して回り止め部材50が芯線11Aに対し回動変位することを確実に防止できるから、キャビティ33内での端子金具40の傾きを一層確実に防止できる。
【0025】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0026】
(1)上記実施形態では、回り止め部材40を芯線11Aにカシメ付けたが、これに限らず、電線11の絶縁被覆11Bの外側にカシメ付けるようにしてもよい。
【0027】
(2)上記実施形態では防水構造のコネクタに適用した例を示したが、必ずしも防水構造は必要ではなく、防水シールを備えないコネクタにも適用可能である。また、防水コネクタに適用する場合であっても、回り止め部材を防水シール外側に配置してもよい。要するに、回り止め部材を電線に固定してコネクタハウジングに係合させることで電線の軸線周りの回動を規制するようにすればよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るコネクタの概観斜視図
【図2】コネクタの組み付け状態を表わす拡大縦断面図
【図3】コネクタの組み付け状態を表わす拡大平断面図
【図4】コネクタハウジングの拡大平断面図
【図5】コネクタと端子金具の分解断面図
【図6】コネクタに端子金具を挿入した状態を表わす一部切欠き拡大背面図
【符号の説明】
【0029】
10…ワイヤーハーネス
11…電線
12…編組線
20…コネクタ
21…コネクタハウジング
22…シールドハウジング
30…ターミナルハウジング
35…係合溝
40…端子金具
50…回り止め部材
51…バレル部
53…係合片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆によって芯線が被覆された電線の端部に設けられるコネクタであって、キャビティを有するコネクタハウジングと、前記キャビティ内に配設され前記絶縁被覆が剥がされた電線の芯線に接続される端子金具と、前記電線に固定され前記コネクタハウジングに係合することで前記電線の軸線回りの回動を規制する回り止め部材とを備えるコネクタ。
【請求項2】
前記回り止め部材は、前記電線のうち前記絶縁被覆を剥がして露出された芯線のうち前記端子金具が接続された部分よりも前記絶縁被覆寄りに固定されていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
前記回り止め部材は、前記芯線の外周を取り囲んで前記芯線にカシメ付けられるバレル部と、そのバレル部と一体に設けられて前記芯線の放射方向に延びる一対の係合片とを備える請求項2記載のコネクタ。
【請求項4】
前記係合片は、前記バレル部に対して前記端子金具側に位置して設けられている請求項3記載のコネクタ。
【請求項5】
前記電線の絶縁被覆には外周に防水シールが嵌着され、その防水シールの外周面が前記コネクタハウジングの前記キャビティ内面に密着しており、前記電線のうち前記防水シールと前記端子金具の接続部分との間に位置して前記回り止め部材が固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のコネクタ。
【請求項6】
前記端子金具は舌片状の雄型をなすと共に係合孔を有し、前記コネクタハウジングのキャビティに設けた弾性係合片が前記係合孔に係合することで前記コネクタハウジング内に固定されることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のコネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−227256(P2007−227256A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49050(P2006−49050)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】