説明

コンクリート構造物の防食方法

【課題】 下水施設や上水施設の防食工事などに代表される、コンクリート構造物の腐食防止を目的とした樹脂ライニングにおいて、ビニルエステル樹脂はその高い耐食性能から多く用いられてきた。しかしながら、ビニルエステル樹脂は一般に樹脂粘度が低いため施工は容易でガラスマットへの含浸性も良好であるが、低い樹脂粘度のため垂直面で垂れが生じやすく、防食被膜の目的を著しく阻害する要因であるピンホールが発生しやすいため大きな問題となっている。
【解決手段】 ライニング層に補強材として目付量が15〜100g/mであり、且つ、空孔の平均直径が5〜100μmで、繊維を紙状に固定した無機繊維紙を1層以上使用し、該無機繊維紙に粘度が100〜1,500mPa・sの樹脂組成物を含浸・硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の防食を目的とした樹脂ライニングを行う施工において、ピンホールによる表面欠落のない塗膜を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水施設や上水施設の防食工事などに代表される、コンクリート構造物の腐食防止を目的とした樹脂ライニングにおいて、防食被膜のピンホールによる表面欠落は、その目的を著しく阻害する要因として知られており、ピンホールの発生防止について盛んに研究がなされている。
【0003】
特に下水施設の防食においては、下地調整時にピンホールの原因となるコンクリート表面の凹凸や巣穴を完全に埋めることが重要とされてきた。このような状況を踏まえ、平成14年度版下水道コンクリート構造物の腐蝕抑制技術及びライニング技術指針・同マニュアル(日本下水道事業団)において、下水の特に厳しい腐食環境にさらされると考えられる施設の防食工事終了後に、ピンホール試験機を用いた試験を施工面の全面において行うことが義務づけられるに至った。また、上水施設やその他コンクリート構造物においても、ピンホールなど防食被覆層の欠損は長期耐食性の面から問題とされ、ピンホールの発生が少ない工法が求められている。
一方、防食被膜形成樹脂としては現在、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、無溶剤型ポリウレタンエラストマー樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ノンスチレン型ビニルエステル樹脂、ポリウレア樹脂、変性シリコーン樹脂、アクロイル変性アクリル樹脂等又はその他耐酸性樹脂が使用されている。これらの耐酸性樹脂の中でも、ビニルエステル樹脂はその高い耐食性能から多く用いられてきた。しかしながら、ビニルエステル樹脂は一般に樹脂粘度が低いため施工は容易でガラスマットへの含浸性も良好であるが、低い樹脂粘度のため垂直面で垂れが生じやすく、ピンホール発生要因となるため大きな問題となっている。
ビニルエステル樹脂とは、末端不飽和の主鎖化合物に重合性モノマーを配合したもので、重合反応開始剤や重合促進剤を作用させ硬化させる樹脂である。主鎖化合物としてはエピクロルヒドリン・ビスフェノールA型グリシジルエーテル、ノボラック型グリシジルエーテル、臭素化グリシジルエーテル等のエポキシ樹脂と、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸等の不飽和一塩基酸類から合成されるエステル化合物が挙げられる。重合性モノマーとしてはスチレン、ビニルトルエン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート等が挙げられる。重合反応開始剤としては過酸化ベンゾイル、キュメンパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、アセト酢酸エステルパーオキシド等の過酸化物が挙げられる。さらに重合促進剤としてナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト等の有機酸のコバルト塩やジメチルアニリン等の芳香族第3級アミンが挙げられる。
【0004】
これまでにピンホール発生防止を目的とした防食被膜として、コンクリート構造物の表面に、多孔質薄膜シートに液状プライマー樹脂をスプレー塗布して含浸させたシート層を設けることによりピンホールの発生を防止する方法が記載されている。この方法のように多孔質なシートを適応することは、巨視的なピンホール防止には効果的であるが、微視的なピンホールを防止するには十分な方法ではない。さらに、樹脂の塗布方法がスプレーに限定されているので、樹脂のミストによる作業環境の汚染も難点となっている。
【0005】
また、特定の目付け量を有する無機質紙に中・高粘度の樹脂組成物を含浸させた層を形成することで、微視的なピンホールを防止する方法も見いだされているが、低粘度では、含浸性には優れるものの、樹脂組成物が硬化するまでに垂れるなどの保持に欠ける問題がある。
【特許文献1】特開平10−100300公報
【特許文献2】特願2003−298387
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ビニルエステル樹脂などの低粘度樹脂で垂直面に施工しても、樹脂の垂れがなく、ピンホールの出来ない、コンクリート構造物の防食被膜形成法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ビニルエステル樹脂などの低粘度含浸用樹脂を用いた時のピンホール発生原因につき種々検討を重ねた結果、次のような知見を得た。すなわち、ビニルエステル樹脂など低粘度樹脂を用いた防食工法のピンホール発生の原因は、垂直面で施工したときガラスマットに樹脂を含浸しても使用したガラスマットに樹脂の保持力がなく、樹脂が下に流れ出しピンホールが出来やすい為、その樹脂を保持するシートを挟み込むことで樹脂の流れを防止し、また下地の影響を軽減することができること、さらに、樹脂の保持には、含浸させる繊維シートが、ランダムで緻密な空孔を有する不織シートでヨレの生じない紙状になっているものがもっとも効果的であることを見出した。目付け量や空孔の径平均が適切である繊維紙に、樹脂組成物をコテ、ヘラ、刷毛またはローラーで塗布すると、樹脂の垂れが防止され、防食被膜における微視的なピンホールの発生を防止することができ、素地調整、防食被覆の中塗りや上塗りなどのいずれの工程段階においても適応することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート構造物の樹脂ライニング施工において、垂直面の樹脂垂れ、ピンホールの発生がない防食被覆層が得られ、下水道施設内で生成する硫化水素に起因する硫酸によるコンクリート構造物の腐食を完全に抑えることができ、また上水施設やその他コンクリート構造物においても長期の防食性が期待できる。
以下に本発明の実施例を挙げて説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する無機繊維紙は、目付量が15〜100g/mの範囲、空孔の平均直径が5〜100μmであり、繊維を紙状に固定したものが使用できる。目付量が15g/m未満であったり、150g/m を超えるとハンドリングがし辛く施工面への貼り付けが困難となる。また、前記無機繊維紙の空孔の平均直径が100μmを超えると、樹脂の保持が不十分で垂れが生じやすく、ピンホールの発生を防止できない。逆に、空孔の平均直径が5μm未満であると、含浸性が劣り樹脂との一体化が不十分なためピンホールの発生を防止できない。繊維が紙状に固定されていないと、樹脂の含浸過程において空孔径が変化するため、垂れが生じやすくピンホールの発生を防止できない。なお、前記無機繊維紙の含浸施工の前工程に、ガラス繊維や炭素繊維等からマット、不織布、織布等を貼り付けておいてもよい。
前記無機繊維紙の例としてはガラス繊維を水中に均一に分散させ湿式抄法によりペーパー化したもの、または湿式でなくてもガラス繊維をペーパー化したものであればいい。また鉱物、無機物の粉体またはその微細繊維物を主成分としてつくられたミネラルペーパー、具体的には炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、活性炭粉末、珪酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の高機能を持つ粉体をペーパー化したものや炭素繊維紙やセラミック繊維紙、ロックウール繊維紙等があげられる。
ライニング層の施工方法としては、コテ、スプレー、ヘラ、ローラー等いずれでも良いが、作業性の良好なローラーで施工するのがより好ましい。ローラーの種類は、短毛、中毛、長毛どの種類でも問題ないが、特に無泡ローラーが好ましい。
本発明で使用する樹脂組成物は、上記にあげた防食被膜形成樹脂で、樹脂組成物として粘度が100〜1,500mPa・s(25℃、BM型回転粘度計2号ローター)のものが使用できる。粘度が、100mPa・s未満では前記の無機繊維紙であっても樹脂垂れが生じ、1,500mPa・sを超えると含浸性に劣り、ピンホールの発生を防止できない。
前記樹脂組成物には必要に応じて顔料、骨材等の固体成分を含むことができる。前記固体成分としては硅砂、砕石、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、珪酸アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、ウルトラマリーン、カドミウムレット、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、コバルトブルー、酸化クロムグリーン、セルリアンブルー、チタニウムイエロー、ベンガラ、カーボンブラック等が挙げられる。
【実施例】
【0010】
以下、実施例、比較例を挙げて詳細に説明する。
【0011】
実施例1〜5
垂直に保持したコンクリート板(JIS板:50mm×600mm×360mm)に素地調整材(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂パテ VE−904)を1.0kg/mをコテで塗布し、23℃×1日硬化後、ライニング層を塗布する。ライニング層として必要に応じてガラスマット(JIS R 3411−1975に定めるEM450)を貼り付け、さらにこれに目付量30および100g/m のガラス繊維紙を貼り付けた後、含浸用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−403)1.5kg/mを含浸し、23℃×1日硬化後、上塗り用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−408)0.3kg/m をローラーで塗布し23℃×7日間硬化させた。前記含浸用ビニルエステル樹脂は粘度を100、400、700、1000mPa・s (25℃:BM型回転粘度計2号ローター)に調製したものをそれぞれ使用した。
【0012】
ピンホール試験は、株式会社サンコウ電子研究所製TO−250Cピンホール探知機(コンクリート素地用)を使用し、電圧7KVをかけ試験体全体についてピンホールの有無を評価した。(○・・・ピンホールなし、△・・・ピンホールあり(5ヶ以下/試験板)、×・・・多数ピンホールあり(6ヶ以上/試験板))
また、垂れの有無は目視で判定した。(○・・・垂れなし,×・・・垂れあり)
比較例1
垂直に保持したコンクリート板(JIS板:50mm×600mm×360mm)に素地調整材(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂パテ VE−904)を1.0kg/mをコテで 塗布し、23℃×1日硬化後、ライニング層を塗布する。比較例1としてライニング層に含浸用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−403)1.5kg/m をガラスマット(JIS R 3411−1975に定めるEM450)に含浸し、23℃×1日硬化後、上塗り用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−408)0.3kg/m をローラーで塗布し23℃×7日間硬化させた。
比較例2および3のライニング層としては含浸用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−403)1.5kg/m で、ガラスマット(JIS R 3411−1975に定めるEM450) を貼り付け、さらにこれに、ガラスサーフェイスマット(JIS R 3411−1975に定める#30) および目付量10g/m のガラス繊維紙を貼り付け、23℃×1日硬化後、上塗り用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−408)0.3kg/m をローラーで塗布し23℃×7日間硬化させた。
比較例4のライニング層としては含浸用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−403)0.7kg/m で、ガラスクロス(JIS R 3414−1975に定めるEP18D) を貼り付け、23℃×1日硬化後、上塗り用ビニルエステル樹脂(大日本色材工業製:スチレン型ビニルエステル樹脂 VE−408)0.3kg/m をローラーで塗布し23℃×7日間硬化させた。
【0013】
なお、含浸用ビニルエステル樹脂は粘度が400mPa・s (25℃:BM型回転粘度計2号ローター)のものを使用した。
【0014】
【表1】



【0015】
【表2】

【0016】
実施例においては、樹脂粘度が低い場合でも樹脂の垂れがなく、ピンホール試験において十分性能が発揮されていることが確認された。一方比較例のガラスマット、ガラスクロスや目付け量の小さいガラス繊維紙などでは樹脂の保持が不十分で垂れ、ピンホールの発生が確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の防食用樹脂ライニング工法であって、ライニング層に補強材として目付量が15〜100g/mであり、且つ、空孔の平均直径が5〜100μmで、繊維を紙状に固定した無機繊維紙を1層以上使用し、該無機繊維紙に粘度が100〜1,500mPa・sの樹脂組成物を含浸し、硬化させる工程が含まれことを特徴とするコンクリート構造物の防食方法。
【請求項2】
前記無機繊維紙がガラス繊維紙、炭素繊維紙、セラミック繊維紙、ロックウール繊維紙から選択される少なくとも1種である請求項1のコンクリート構造物の防食方法。

【公開番号】特開2006−240950(P2006−240950A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61891(P2005−61891)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】