説明

コンクリート水路補修工法

【課題】コンクリート水路の補修において補修材料が、コンクリートの脆弱化層をはつり取った後のコンクリート体のみならず、劣化や脆弱化したコンクリートとも接着性に優れて一体化することができ、補修材料の剥離の危険性が少なく、耐摩耗性、遮水性、耐ひび割れ抵抗性、通水性及び施工性が良好で、特に耐摩耗性に優れたコンクリート水路の補修工法を提供する。
【解決手段】コンクリート水路を補修するにあたり、エポキシ樹脂系接着剤を塗布する工程、ポリマーセメントモルタルで補修する工程を含み、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、セメントを100質量部、平均粒径0.8mm〜2.5mmの細骨材を150〜600重量部、セメント混和用ポリマーを1〜20重量部、膨張材を1〜20質量部、収縮低減剤を0.5〜10質量部、長繊維を0.1〜3.0質量部及び微粉状繊維を0.1〜3.0質量部の割合で含有するポリマーセメントモルタルで補修する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート水路補修工法に関し、特に、コンクリート構造物からなる水路の底版や側版を補修するにあたり、優れた接着耐久性を有し、施工性にも優れるとともに、特に耐摩耗性に優れた補修面を得ることができる、水路補修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物からなる水路構造物においては、長期間の使用により、水流の影響による表面摩耗や混在する砂利・砂等による摩耗・欠損が生じ、その内表面が脆弱化して粗となり、通水量も低下している。
また、水中に混在している土砂等の不純物や酸性成分等の有害な物質による劣化、および凍害や地盤沈下等によるコンクリート構造物の耐久性の低下、ひび割れによる水路から漏水等の問題が発生している。
【0003】
かかる水路の補修においては、補修後においても、必要な水の通過断面積を確保する必要性が要され、従って、補修材料を厚くして補修することは好ましくない。
また、一般に水路の劣化は、表面の摩耗だけでなく、コンクリート中からカルシウムが溶脱することによってもおこり、コンクリートの表面から数mm〜数cmの箇所まで強度の低下が認められる。
【0004】
このようにカルシウムが溶脱したコンクリート水路を補修する際には、高圧水洗等によって、コンクリートの劣化部を取り除いてから補修を行っているが、脆弱層を完全に取り除くことは困難である。
そのため、劣化したコンクリート水路を補修するにあたり、残存するコンクリートの脆弱層を強化しない場合には、補修材料とコンクリート構造物とが良好に接着したとしても、コンクリート脆弱層部で容易に剥離することとなり、その対策が必要とされる。
【0005】
これらのコンクリート構造物に対する補修工法としては、従来、パネル貼付け工法、ウレタン樹脂吹付け工法、セメント系材料による断面修復工法が知られている。
パネル貼付け工法は、鉄板やFRPパネルを、補修部分にボトル等で固定する工法である。
かかる工法は、残存する脆弱層部での剥離の心配がなく、補修面の平滑性が良いため粗度係数が低く、従って補修後の水路の通水性能が高い一方、パネルを取り付けるため水路断面積が縮小し、通水量が減少する。
また、予め貼り付けるパネルを適切な形状に成形しなければならず、パネルの水路の補修箇所への搬入、パネル連結部の施工やパネルを水路母体へ固着させるためのボルト定着が煩雑であり、これらの施工を行うために多くの機器類が必要であるという欠点がある。
【0006】
また、ウレタン樹脂吹付け工法では、特殊な吹付け装置を使用し、吹付けのための作業スペースが必要となるため、狭い場所で作業が困難であり、施工性に劣る。
更に、吹き付けた補修膜は、水路断面積を縮小することなく通水量の確保はできるものであるが、脆弱層部が残存していなくともコンクリート表面での接着強度が十分ではなく接着耐久性に劣り、絶えず水流に晒される場所では、コンクリート表面から剥がれやすいという問題がある。
【0007】
セメント系材料による断面修復工法においては、コンクリートとの付着性のよいポリマーセメントモルタルが一般に用いられ、作業性に優れ、取り扱いも容易である。
しかし、汎用的なポリマーセメントモルタルを用いた従来の補修工法では、施工環境条件により下地コンクリートとの十分な接着強度が得られないという問題や、残存するコンクリートの脆弱層部での剥離や、補修面が大きい場合に、一度に厚く塗布することができないため施工性が悪いという問題がある。
また、硬化後の表面粗度を考慮していないため、補修後の通水量の確保が不十分である場合が多い。
【0008】
また、耐摩耗性や耐汚染性が十分ではない材料も存在し、セメントモルタルの乾燥収縮率が大きい材料を使用した場合には、補修モルタルの表面に微細なひび割れが生じる。
かかる微細なひび割れは、ひび割れが目立ちやすく外観上好ましくないのみならず、更に水路においては水が濡れる要因となり、不透水性能に悪影響を及ぼすこととなる。
【0009】
水路の補修工法として、特許第3022708号公報には、水硬性材料および特定の重量比のポリマーディスパージョンとメタクリル酸塩からなる硬化性組成物及び該組成物を水路内面に塗布する工法が提案されている。
かかる工法は、多湿環境下の施工性等の向上を目的としているが、短期間に作業が完了するため、仕上げ作業を十分に行う時間を確保することが難しく、補修したモルタル表面の粗度係数が高くなり、通水抵抗が大きくなってしまうという問題は解決されていない。
この通水抵抗性を改善するためには、通水抵抗を低減させる上塗りの仕上げ塗装が更に必要となり、結局、煩雑な工法となっている。
【0010】
また、特開平2001−213653号公報には、特定の粒径を有する硝子屑を利用して、セメントやフライアッシュとともに一定の配合割合で配合されて製造された、モルタル組成物および該モルタル組成物を用いた水路の補修方法ならびに水路構造が提案されている。
かかる工法は、水路補修材料に必要な性能である耐衝撃性、耐摩耗性についてはある程度優れた性能を示すものである。
しかしながら、長期のコンクリート構造物の収縮による、ひび割れ抵抗性が劣り、モルタルにひび割れが発生し、それによる遮水性能の低下、透水抑止性能についての問題は解決されていない。また、通水量の確保についての問題も解決されていない。
【特許文献1】特許第3022708号公報
【特許文献2】特開平2001−213653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、コンクリート水路の補修において、補修材料が、コンクリートの脆弱化層をはつり取った後のコンクリート体のみならず、劣化や脆弱化したコンクリートとも接着性に優れるため一体化することができ、補修材料の剥離の危険性が少なく、遮水性、耐ひび割れ抵抗性、通水性及び施工性が良好で、特に耐摩耗性に優れる、コンクリート水路の補修工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、下地コンクリートのプライマーとしてコンクリート打ち継ぎ用エポキシ樹脂系接着剤を用い、その上に高い摩耗性と低い硬化収縮率を有する特定のポリマーセメントモルタルを施工する工法が有効であることを見出し、至ったものである。
すなわち本発明のコンクリート水路の補修工法は、コンクリート水路を補修するにあたり、エポキシ樹脂系接着剤を塗布する工程、ポリマーセメントモルタルで補修する工程を含み、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、セメントを100質量部、平均粒径0.8mm〜2.5mmの細骨材を150〜600重量部、セメント混和用ポリマーを1〜20重量部、膨張材を1〜20質量部、収縮低減剤を0.5〜10質量部、長繊維を0.1〜3.0質量部及び微粉状繊維を0.1〜3.0質量部の割合で含有するポリマーセメントモルタルで補修することを特徴とする工法である。
【0013】
本発明のコンクリート水路の補修工法は、好適には、上記コンクリート水路の補修工法において、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、該エポキシ樹脂系接着剤が硬化する前に、ポリマーセメントモルタルで補修することを特徴とするものである。
また、更に好適には、本発明のコンクリート水路の補修工法において、該ポリマーセメントモルタルは、硬化後のテーバー摩耗試験おける摩耗減量が4g以下でかつ打設91日後の長さ変化率が0.05%以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコンクリート水路補修工法によれば、コンクリート水路の脆弱化部分を十分にはつりとることができない場合であっても、コンクリートの脆弱層部での剥離の危険性が少なく、コンクリートと補修材料とが接着性に優れて一体化することができ、かつ耐ひび割れ性及び耐摩耗性が良好な硬化物で、コンクリート水路損傷部を補修することができる。
更に、本発明のコンクリートのコンクリート水路の補修工法によれば、骨材粒度分布の調整を行い種々の打設厚への適応性を確保するとともに、材料の保水性を高めることで、ひび割れ抵抗性、躯体との一体化、耐摩耗性が向上し、耐久性の確保・向上が図られる。
更にまた、本発明のコンクリート水路補修工法によれば、補修面の平滑性が良いため、補修後のコンクリート水路の通水性能が高く、特に耐摩耗性に優れるため、長期にわたり補修効果を維持できるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を以下の好適例により詳細に説明する。
本発明のコンクリート水路の補修工法は、コンクリート水路を補修するにあたり、エポキシ樹脂系接着剤を塗布する工程、ポリマーセメントモルタルで補修する工程を含み、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、セメントを100質量部、平均粒径0.8mm〜2.5mmの細骨材を150〜600重量部、セメント混和用ポリマーを1〜20重量部、膨張材を1〜20質量部、収縮低減剤を0.5〜10質量部、長繊維を0.1〜3.0質量部及び微粉状繊維を0.1〜3.0質量部の割合で含有するポリマーセメントモルタルで補修する工法である。
このような工法を採用することで、上記効果が有効に発現でき、特に、耐摩耗性に優れたコンクリート水路が提供できる。
【0016】
本発明においては、必要に応じて、エポキシ樹脂系接着剤を塗布する前に、コンクリートの劣化部をはつりとる工程を実施することが、より好ましい。
コンクリート水路、特に底版や側版は、長期間の使用により、水流の影響で表面摩耗や混在する砂利・砂等による摩耗・欠損が生じたり、その表面が脆弱化して粗となり、通水量も低下し、また水中に混在している土砂等の不純物や酸性成分等の有害な物質による酸劣化、および凍害や地盤沈下等によるコンクリート構造物の耐久性の低下、ひび割れによる水路からの漏水等の問題が発生していることから、望ましくは、補修をするにあたり、エポキシ樹脂系接着剤を塗布する前に、劣化コンクリートの脆弱化部分を予めはつりとることが望ましい。
コンクリート水路の劣化・脆弱化部分をはつりとるには、高圧水を利用したウォーター・ジェットによる方法や電動ピックを使用した方法等の、公知の任意の方法が用いられる。
【0017】
このように、劣化・脆弱化部分を予めはつりとることが望ましいが、コンクリート体の脆弱化部分を完全にはつりとることは困難であり、また、コンクリート体の脆弱化していない部分と脆弱している部分とを区別することも困難である。
本発明のコンクリート水路の補修工法は、コンクリート体の脆弱化部分での剥離の危険性を少なくすることができる工法である。
【0018】
コンクリート水路を補修するにあたり、必要に応じてコンクリートの劣化部をはつり取った後、図1に示すように、当該箇所にエポキシ樹脂系接着剤を一様に塗布する。
エポキシ樹脂系接着剤は、コンクリートの脆弱層部の強化、打ち継ぎモルタルとの一体化及び接着耐久性を併せ持つものである。
コンクリートの脆弱化部分を完全に除去できなくても、エポキシ樹脂系接着剤が脆弱層に浸透して固化することにより、補修モルタルとの接着性に優れ、かつ、長期間にわたり水流にさらされても、汎用の水系接着剤のように接着性能が低下することがない。
このようなエポキシ樹脂系接着剤としては、例えば、液状のエポキシ樹脂組成物を主成分とする主剤と、液状のアミン化合物や酸無水物などを主成分とする硬化剤を混合して得られるエポキシ樹脂系接着剤等が好適に用いられることができるが、市販されている少なくとも1種の任意のコンクリート打ち継ぎ用エポキシ樹脂系接着剤を用いることができる。
【0019】
エポキシ樹脂としては、従来公知のものであれば、任意の1種以上を使用することができる。
例えば、ビフェニル、ビスフェニルA、ビスフェニルF、ビスフェニルAD、ビスフェノールSなどとエピクロルヒドリンを反応させて得られるビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などやこれらを水添化あるいは臭素化したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、メタキシレンジアミンやヒダントインなどをエポキシ化した含窒素エポキシ樹脂、ポリブタジエンあるいはNBRを含有するゴム変性エポキシ樹脂などを単独で又は混合して使用できる。
【0020】
また、エポキシ樹脂の硬化剤としては、従来公知のものであれば、任意のものが使用できる。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロプロピレントリアミン、ビスヘキサメチレントリアミン、1,3、6−トリスアミノメチルヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メンセンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジン、メタキシリレンジアミン、メタフェニルレンジアミン、ジアミノジフェニルスルフォン、イソフォロンジアミン、ジアミノジフェニルメタンの単体およびこれらの変性物などを単独で又は混合して用いることができる。
【0021】
更にまた、フェノールノボラック、ポリメルカプタン化合物、ポリサルファイド、ケチミン化合物、オキサゾリジン化合物、第三アミン化合物、有機酸ヒドラジッド、ジアンジアミド及びその誘導体、ポリアミノアミド、アミンイミド、カルボン酸エステル、三フッ化硼素−アミンコンプレックス、イミダゾール化合物、酸無水物類、脂肪族酸無水物類、ハロゲン化酸無水物類、芳香族ジアジニウム塩、ジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩、リアアリルセレニウム塩などを単独で又は混合して用いることができる。
【0022】
かかるエポキシ樹脂系接着剤を、コンクリート被補修部分に塗布する方法としては、例えば、刷毛、ローラー、吹付け等による、任意の塗布方法が可能である。
エポキシ樹脂系接着剤を塗布後直後から硬化前までの間に、好ましくは塗布直後にモルタル施工を行うため、塗布量が多すぎると壁面施工においては、上部に塗布するモルタルがズレ落ちる可能性があり、エポキシ樹脂系接着剤の塗布量としては、例えば200〜1000g/mが好ましい。
【0023】
次いで、図1に示すようにかかるエポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、その上に、ポリマーセメントモルタルを用いて補修する。
かかるポリマーセメントモルタルは、エポキシ樹脂系接着剤を塗布したその直後から該エポキシ樹脂系接着剤が硬化する前までに、塗布した該エポキシ樹脂系接着剤の上に塗布して、補修するものである。
【0024】
本発明に用いるポリマーセメントモルタルは、セメントを100質量部、平均粒径0.8mm〜2.5mmの細骨材を150〜600重量部、セメント混和用ポリマーを1〜20重量部、膨張材を1〜20質量部、収縮低減剤を0.5〜10質量部、長繊維を0.1〜3.0質量部及び微粉状繊維を0.1〜3.0質量部の割合で含有して構成されるものである。
具体的に、本発明に用いるポリマーセメントモルタルに使用されるセメントとしては、現場の施工条件等を考慮して選定することができ、特に限定されず、例えば普通、早強、中庸熱及び超早強等の各種ポルトランドセメント、これらの各種ポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグなどを混合した高炉セメント等の各種混合セメント、速硬セメント等を、単独または2種以上で用いることができる。
特に安価で早期強度を発現することから、早強セメントを用いることが好ましい。
【0025】
また、該セメントには、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、無水石膏などの公知の混和材を添加することができる。
【0026】
また、上記ポリマーセメントモルタルに使用する細骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂、3〜8号珪砂、石灰石、及びスラグ骨材等を使用することができ、特に、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度調整した珪砂や石灰石等の細骨材を用いることが好ましい。
その配合割合は、上記セメント100質量部に対して、好ましくは150〜600質量部、特に好ましくは、200〜450質量部とすることが望ましい。
これは、かかる配合比で細骨材を混合することより、本発明において、更に、作業性が良く、実用的な強度発現性を有し、実用上問題のない硬化収縮を有する補修材料となるからである。
【0027】
更に、細骨材の最大粒径は6mm以下で、該細骨材の平均粒径が0.8mm〜2.5mmのものが好ましく、1.0〜2.0mmのものがより好ましい。
細骨材がセメント100質量部に対して150質量部未満で、平均粒径が0.8mmより小さいと、水和熱によりひび割れが発生しやすくコテ仕上げ性も劣るものになり、600質量部を超え、平均粒径が0.8mm未満であると、セメントに対する混練水量が増加しモルタルの強度が低くなり、摩耗に対する抵抗性が小さくなってしまう場合があるからである。
【0028】
また、平均粒径が2.5mmよりも大きく、骨材量が150質量部未満の場合には、ひび割れが発生しやすく、更に平均粒径が2.5mmより大きく、骨材量が600質量部より多すぎる場合には、表面の仕上げが粗くなるため、粗度係数が大きくなってしまう場合があるからである。
【0029】
ここで、平均粒径とは、細骨材の粒度分布を、JIS Z 8801−1に規定されたふるいを用いて測定したものであって、以下の式によって表される質量分布基準の平均粒径Mを示すものである。
M=(Σf・m)/100
ここで、miは相隣する篩目の大きさの平均値、fはmを求めるふるい間に残留する粒子の質量百分率である。
また、最大粒径とは、質量で骨材の90%以上が通るふるいのうち,最小寸法のふるいの呼び寸法で示される骨材の寸法をいう。
【0030】
また、上記ポリマーセメントモルタルに使用するセメント混和用ポリマーとしては、例えばJIS A 6203に規定されたものを使用することができ、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサック酸ビニルエステル/アクリル酸エステル等の樹脂が挙げられ、これらの中から適宜、選択して単独で又は混合して使用することができる。
特に、耐水性等の耐久性が要求される部材に用いる場合には、ポリアクリル酸エステル系の使用が好ましく、施工現場での計量手間や計量ミスを少なくすることを考慮すると、再乳化型粉末樹脂の使用が好ましい。
【0031】
再乳化形粉末樹脂は、JIS A 6203に規定するポリマーディスパージョンを噴霧乾燥した粉末樹脂で、水を添加すると再度乳化するものをいい、ポリマーディスパージョンとは、上記ポリマーの微粒子が水中に分散し、浮遊している状態のものであって、ポリマーを安定化する方法としては、例えば、アクリル酸を共重合するカルボキシル方式(アニオン化方式)、水溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール等の水溶液中で重合する保護コロイド方式、重合反応性界面活性剤等を共重合する方式、非重合反応性界面活性剤による安定化方式がある。
【0032】
かかる再乳化形粉末樹脂の製造方法は特に限定されることなく、これらのポリマーディスパージョンを粉末化方法やブロッキング防止法等の公知の任意の方法を用いて調製することができる。
再乳化形粉末樹脂の再乳化液としては、最低造膜温度が0℃以上であることが望ましい。
最低造膜温度が0℃以上であることにより、コンクリートとの付着性向上およびポリマーセメントモルタルの表面硬度が硬く、早期強度発現性に優れることとなる。
【0033】
かかるセメント混和用ポリマー(固形分)の配合量としては、セメント100質量部に対して、1〜20質量部配合されてなり、好適には、2〜10質量部であることが望ましい。
これは、かかる配合比で、セメント混和用ポリマー、好ましくは再乳化形粉末樹脂を混合することにより、ポリマーセメントモルタルとして使用した際に、コンクリートに対して、更に良好な接着性を有するものとなる。
該ポリマーがセメントに対して1質量部未満では、コンクリートとの付着性能が十分に発揮できず、モルタルの遮水性能が小さくなり、また、20質量部を超えると、ポリマーセメントモルタルの流動性や強度が低下し、コンクリート構造物の補修材料としての性能に支障が発生する恐れがあり、作業性が劣るものとなる場合があるからである。
【0034】
上記ポリマーセメントモルタルに用いる膨張材としては、カルシウムサルフォアルミネート系、生石灰系、石膏系、生石灰−石膏系、石灰−エトリンガイト複合系、鉄粉系、マグネシウム系及びアルミニウム粉末等の任意のコンクリート用膨張材を1種以上で使用することができ、修復後の断面を適度に膨張させ、乾燥収縮によるひび割れを補償することができるものであれば特に限定されず、公知のもの又は市販品を用いることができる。
【0035】
かかる膨張材の配合量は、セメント100質量部に対して、1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部とすることが望ましい。
かかる範囲とすることで、乾燥収縮によるひび割れを補償することが効果的に実施できる。上記範囲より少ないと、収縮によりひび割れが発生し、上記範囲より多いと膨張によるひび割れ、剥離が発生するおそれがある。
【0036】
更に、上記ポリマーセメントモルタルには、乾燥収縮低減剤が含まれる。
かかる乾燥収縮低減剤は、強アルカリ溶液中でその溶液の表面張力を大幅に低下する機能を有する。
乾燥収縮低減剤は、低級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、ポリエーテル、エーテル型非イオン表面活性剤、低分子量アルキレンオキシド共重合体などを主成分とするものを用いることができ、その組成および形状(液体もしくは粉体)に関わらず、強アルカリ溶液中でその表面張力を低下させることで、乾燥収縮を低減できるものであれば任意の1種以上の乾燥収縮低減剤を用いることができる。
乾燥収縮低減剤の混合量としては、セメント100質量部に対して、0.5〜10.0質量部、好ましくは1.0〜6.0質量部が好ましい。
0.5質量部未満では、乾燥収縮低減効果が小さくひび割れ抵抗性が劣る場合があり、また、10.0質量部を越えて混合しても、乾燥収縮低減効果がほとんど変わらず、経済的ではないからである。
【0037】
更に、上記ポリマーセメントモルタルには、3〜12mmの長繊維及び微粉状繊維が含まれる。
このような繊維としては、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維等が例示でき、更にこれらの少なくとも1種以上を用いることができる。
長繊維はとしては、その長さは、3〜12mmが好ましく、繊維の長さが短くなるとひび割れ抑止効果が低下し、逆に長くなると水との混練性および施工性が悪化する。
微粉状繊維は、チクソ性を付与できるものであれば、その長さ及び直径は特に限定されるものではない。
ポリマーセメントモルタルに、適度なチクソ性がないと、モルタルを側壁に施工した場合には、ダレを生じ、良好な施工が困難となる。
また、微粉状繊維を混和しない場合は、ひび割れ抵抗性が劣った材料になる。
【0038】
本発明に用いるポリマーセメントモルタルにおいては、上記材料のほかに、凝結遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、消泡剤、発泡剤、防錆剤、防凍剤、着色剤等の添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することができる。
【0039】
また、本発明の工法に用いるポリマーセメントモルタルは、上記材料に適量な水を添加して混練するが、水は、セメント等の硬化に悪影響を及ぼす成分を含有していなければ、水道水や地下水、河川水等の水を用いることができ、例えば、「JIS A 5308 付属書9 レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水」に適合するものが好ましいが、前記混和剤に含まれる水を用いることも可能である。
当該水の量は、水/セメント質量比が、0.3〜0.6、好ましくは0.35〜0.55となるように添加調整することが、上記効果をより有効に発現させるために好ましい。
なお、上記ポリマーディスパージョンとして水を用いた場合には、かかる水も含めて、水/セメント質量比を考慮するものとする。
【0040】
本発明のポリマーセメントモルタルは、それぞれの材料を施工時に混合しても、予め一部を混合してもかまわないが、予め粉末成分を混合した材料と水とを混合することが、施工現場での計量手間や計量ミスをなくす点で好ましい。
粉末成分を予め混合する装置としては、均一に混合できるものであれば特に限定されず、既存の任意の装置を使用でき、例えば、ヘンシェルミキサー、オムニミキサー、V型ミキサーやナウターミキサー等が挙げられる。
【0041】
このようにして得られたポリマーセメントモルタルは、例えば、コテ、吹付け等により塗布施工を行うことが可能であり、一般に使用される補修モルタルと同様に壁面施工においては一度に厚み10mm程度まで塗布することが可能である。施工方法については、特に限定はされない。
【0042】
このようにして充填したポリマーセメントモルタルは、施工後に、例えば、コテ均し等を行うことにより、図1に示すように、その表面の平滑性を良好にすることができる。
コテ均しは、セメントモルタルの表面を水や養生剤等を使用して行うことで、平滑性を更に良好にすることが可能となる。
【0043】
このようにして実施される本発明のコンクリート水路補修工法を適用した補修後のコンクリート水路は、得られたポリマーセメントモルタル硬化物の表面粗度が、600μm以下、好ましくは400μm以下とすることができ、これにより、良好な通水性を確保することが可能となる。
但し、かかる表面粗度は、指触式3次元計測器(PICAZA PIX−30 ローランドディージー株式会社製)により測定した値である。
更に、本発明のコンクリート水路の補修工法を適用した補修後のコンクリート水路のポリマーセメント硬化物は、後述する、JIS K 7240に準ずるテーバー式耐摩耗性試験において、摩耗減量が4g以下で、下記試験例で記載したひび割れ促進試験によってもひび割れが発生しないものである。
従って、耐摩耗性にきわめて優れているものであり、補修後の長期維持が可能となる。
更にまた、本発明のコンクリート水路補修工法を適用した補修後のコンクリート水路のポリマーセメントモルタル硬化物の長さ変化率は、後述する、JIS A 1129に準ずる長さ変化測定方法試験において、打設91日後の長さ変化率が0.05%以下であり、ひび割れ抵抗性に優れ、補修後の長期維持が可能となる。
【0044】
また、このように実施される本発明のコンクリート水路の補修工法は、施工しやすく作業性が良好で、建築・土木分野での水路の補修に有用であり、脆弱化部分を十分にはつりとることができない場合であっても、コンクリートの脆弱層部での剥離の危険性が少なく、コンクリートと補修材料とが接着性に優れて一体化することができ、かつ耐ひび割れ性及び耐摩耗性が良好な硬化物である。
更にまた、本発明のコンクリート水路補修工法によれば、補修面の平滑性が良いため、補修後のコンクリート水路の通水性能が良好で、耐摩耗性に優れるため長期維持ができるという効果も得られる。
【実施例】
【0045】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例により説明するが、これらに限定されるものではない。
A.使用材料
以下の材料を使用して、実施例及び比較例を実施した。
1)接着剤
表1に示す接着剤を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
2)モルタル
表2に示す各材料を用い、コンシステンシーがほぼ同一になるように調整した表5に示す配合割合で混合して、JIS A 1171に準じて均一に攪拌・混練することにより、セメントモルタルを調製した。
但し、表2中の粒度調整砂(骨材)としては、表3に示す粒度分布(篩い残量分を表す)の細骨材を表4に示す割合で配合したものを用いた。
また、これらの珪砂は、すべて日瓢砿業社製のものを用いた。
得られた各粒度調整砂の平均粒径も表4に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
なお、粒度分布は、JIS Z 8801−1に規定されたふるいを用いて測定したものであり、平均粒径は、以下の式によって表される質量分布基準の平均粒径Mを示すものである。
M=(Σf・m)/100
ここで、miは相隣する篩目の大きさの平均値、fはmを求めるふるい間に残留する粒子の質量百分率である。
【0052】
実施例1〜2・比較例1〜12
接着性能試験には、上記表5に示す組み合わせ及び配合比で、コンクリート用接着剤及び各セメントモルタルを用いて、コンクリートの補修工法を実施した。
【0053】
【表5】

【0054】
接着性能試験
接着性能試験は、下地板として300×300×60mmのJIS A 5371普通平板を、0.1Nの塩酸に6時間浸漬して、当該平板の表面を脆弱化し、その後3ヶ月間、通水量0.1m/分の水流下に静置し、表面を当該水流により摩耗させた。
その後20℃湿度60%にて7日以上乾燥させた当該平板に、表5に示す実施例1〜2、比較例1、3〜12の各接着剤を、刷毛を用いて塗布量200g/mで薄く塗布し、塗布直後、すなわち接着剤が固化しないうちに、厚み1cmで各ポリマーセメントモルタルをコテで一様に塗付して、28日間20℃湿度60%で養生して、補修を実施し、各試験体を得た。
なお、比較例2においては、接着剤を塗布せずに、上記処理を施した平板に直接ポリマーセメントモルタルを塗布して試験体とした。
【0055】
上記各試験体に、40×40mmの大きさの切り込みがコンクリート板に達するまで切り込みを入れて、鋼製アタッチメントをエポキシ樹脂系接着剤で接着した後、建研式接着試験装置(LPT−3000,オックスジャッキ株式会社製)を用いて、接着強度の測定を行った。
上記測定結果の評価として、1.5N/mm以上を「○」、1.5N/mm未満を「×」として評価し、その結果を表6に示す。
その結果を表6に示す。
【0056】
ひび割れ抵抗性
ひび割れ抵抗性試験は、上記接着性能試験で用いた同様の上記各試験体(実施例1〜2、比較例3〜12)を作製後、直ちに風速3m/秒に調整した風洞内に入れ、試験体を気流に平行になるように設置し、6時間後に試験体を取り出し、ひび割れの発生の有無を目視によって評価した。
ひび割れが目視で確認できなかった試験体について、更にその後、50℃、湿度40%で28日間養生し、施工表面に散水を行い、ひび割れの発生の有無を評価した。
上記測定結果の評価として、6時間後にひび割れが確認されたものを「×」、50℃28日養生後にひび割れが確認されたものを「△」、ひび割れが確認されなかったものを「○」として、表6にその結果を示す。
【0057】
長さ変化率
上記実施例1〜2、比較例3〜12で用いた表5に示す各セメントモルタルを用いて、温度20℃の恒温室内において、40×40×160mmの形状に成形し、24時間後に脱型後、直ちに基長の測定を行い、更に温度20℃、湿度60%で91日間養生を行い、長さ変化率の試験を行った。
該試験は、JIS A 1129(モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法)のダイヤルゲージ法に準じて測定を行い、長さ変化率を評価した。
上記測定結果の評価として、長さ変化率が0.05%以下を「○」、0.05%よりも大きいものを「×」として評価し、表6にその結果を示す。
【0058】
耐摩耗性
上記実施例1〜2、比較例3〜12で用いた表6に示す各セメントモルタルを用いて、φ100mm×200mmの円柱体をそれぞれ作成し、20℃湿度60%で28日間養生後、打設面(供試体上部面)より厚さ10mmで切り出したものを、各試験体とした。
前記切り出した厚さ10mmの試験体の打設面を、下記摩耗試験面として、耐摩耗性を評価した。
テーバー式摩耗試験機(ロータリーアブレージョンテスタ、株式会社東洋精機製作所製)を用いてJIS K 7204に準じて下記の条件で摩耗試験を行い、試験前後の試験体の重量を測定して摩耗減量を算出し、耐摩耗性を評価した。
摩耗輪 H−22
荷重 1000g
回転数 1000回転
上記測定結果の評価として、摩耗減量が4g以下を「○」、4gよりも大きいものを「×」として評価し、表6にその結果を示す。
【0059】
表面粗度
上記実施例1〜2、比較例3〜12で用いた表6に示す各セメントモルタルを用いて、
200×100×30mmの平板をそれぞれ作成し、20℃湿度60%で28日間養生後ものを、各試験体とした。
前記各試験体の表面を、下記表面粗度試験面として、表面粗度の計測を行った。
但し、粗度は、得られた各試験体の表面を、触針式の3次元計測器(製品番号 PICAZA PIX−30 ローランドディージー株式会社製)を用いて、試験体の中央部(100×50mm)を0.5mm間隔で計測し、その算術平均粗さ(Ra)によって表した値である。
上記測定の評価として、400μm未満を「○」、400μm以上600μm未満を「△」、600μm以上を「×」として評価し、その結果を表6に示す。
【0060】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のコンクリート水路の補修工法は、例えばダム導水路、放水路、農工業用水路や上下水道管渠等の各種水路内面の補修、特に水路の底版や側版の補修に有効に適用することができ、土木、建築業界において広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のコンクリート水路の補修工法を実施した補修箇所を概略的に示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート水路を補修するにあたり、エポキシ樹脂系接着剤を塗布する工程、ポリマーセメントモルタルで補修する工程を含み、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、セメントを100質量部、平均粒径0.8mm〜2.5mmの細骨材を150〜600重量部、セメント混和用ポリマーを1〜20重量部、膨張材を1〜20質量部、収縮低減剤を0.5〜10質量部、長繊維を0.1〜3.0質量部及び微粉状繊維を0.1〜3.0質量部の割合で含有するポリマーセメントモルタルで補修することを特徴とする、コンクリート水路の補修工法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート水路の補修工法において、エポキシ樹脂系接着剤を塗布した後、該エポキシ樹脂系接着剤が硬化する前にポリマーセメントモルタルで補修することを特徴とする、コンクリート水路の補修工法。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンクリート水路の補修工法において、該ポリマーセメントモルタルは、硬化後のテーバー摩耗試験おける摩耗減量が4g以下でかつ打設91日後の長さ変化率が0.05%以下であることを特徴とする、コンクリート水路の補修工法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−37704(P2008−37704A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214454(P2006−214454)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】