説明

コンタクトプローブ

【課題】高温中で使用されてもその直径によることなく抵抗値の上昇を抑制可能なコンタクトプローブを提供する。
【解決手段】円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、その内周を形成するAu層と、前記バレルの外周を形成するNi層と、を含み、前記バレルは、所定の直径を有する芯線の外周面に電鋳法により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC等の電子部品の電気特性を測定し、検査する際に用いられるコンタクトプローブに関し、特に、円筒状のバレルと、バレルの端部に設けられるプランジャーと、バレル内に収納されてバレルを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンタクトプローブのプランジャーは、例えばBeCuからなる基材に、Niメッキ膜を下地膜として形成し、その上にAuメッキ膜を表面膜として形成されたものが知られている。また、バレルは、例えばりん青銅からなる素管にNiメッキ膜を下地膜として形成し、その上にAuメッキ膜を表面膜として形成されたものが知られている。
【0003】
一方、IC等の電子部品の検査には、ウェハー状態(前工程)での動作テストや、ワイヤボンディング及びパッケージング等の工程(後工程)を経たパッケージ状態での検査等がある。上述したコンタクトプローブは、ウェハー段階での動作テストにおいて、例えばプローブカードに複数配設されて用いられる。一方、パッケージ状態での検査では、例えばソケットに複数配設されて用いられる。そして、コンタクトプローブは、一端側のプランジャーがICの電極と接触し、他端側のプランジャーが検査装置の回路基板と接触した状態で用いられ、コンタクトプローブに電流が流れたり、電気信号が伝播されたりする。
【0004】
このように検査されるICに対して、昨今、例えばエンジン制御機能や、ブレーキ制御機能などの自動車用途のニーズが増大している。
ところが、自動車用途のICは、例えば自動車のエンジンルーム等の高温環境下で用いられることが多い。そのため、これらの自動車用途のICの検査を高温環境下で実施する重要性が極めて高まっている。
【0005】
このような、高温環境下における試験として例えばパッケージ状態のICをソケットに装着した状態で電圧や電流等の負荷を掛けつつ高温炉の中で数日間保管し、その前後でのICの電気特性の変化の有無を検査するバーンイン試験や、ウェハー状態のICに高温中で電圧や電流等の負荷を掛けつつ動作テストを行うウェハーバーンインと呼ばれる試験等が知られている。
【0006】
ところが、上述のようなコンタクトプローブが高温中に保管されると、例えば下地膜のNi成分が表面に拡散してきて酸化され、コンタクトプローブの電気抵抗値が上昇するという問題があった。また、例えば高温中で、回路基板等と繰返し接触することによって、プランジャーの先端が磨耗して電気抵抗値が上昇しやすくなるという問題があった。
このため、上述したようなコンタクトプローブでは、高温環境下で抵抗値が上昇して検査に必要な電圧や電流等の負荷を掛け続けることができない等により、ICの検査が不十分になるという問題があった。
【0007】
また、ICの高機能化に伴いICの電極数は増加する一方、ICパッケージの小型化に伴いICパッケージサイズが小さくなる傾向が続いている。そのため、一つのソケットにできるだけ多くのコンタクトプローブを配列する必要があることから、コンタクトプローブの配列間隔の狭ピッチ化がすすみ、コンタクトプローブの直径、すなわちバレルの直径をできるだけ細くすることが求められる。
ところが、素管をメッキ浴に浸漬してバレルを形成する従来の方法では、素管の内径が細くなるにつれ表面張力等のためメッキ液が素管内面に浸透しづらくなる。そのため、例えば素管の端近傍の内面におけるAuメッキ膜の厚さに比べて素管の中央部内面のAuメッキ膜の厚さが薄い等、素管の内径が細くなるにつれて素管内面に一様な厚さでAuメッキ膜を形成することが困難になる。
【0008】
このような、Auメッキ膜厚が一部薄いバレルで形成したコンタクトプローブを高温中で用いると、例えば下地のNiが拡散してAuメッキ膜厚の薄い箇所のバレル表面に現れ、この表面に現れたNiが酸化されてコンタクトプローブの抵抗値が上昇する虞があるという問題があった。
すなわち、従来の素管にAuメッキを施すバレル形成方法では、コンタクトプローブの直径が細くなるに従って、高温中で抵抗値が上昇する虞があるという問題があった。
【0009】
上記問題に対して、耐久性に優れたコンタクトプローブ(以下「コンタクトピン」ともいう。)に関し、いくつかの提案がされている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−268090号公報
【特許文献2】特開2009−53124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1によれば、電気部品用ソケットに配設されて、電気部品の端子に接触されるコンタクトピンであって、第1プランジャー(22)と、第2プランジャー(24)と、筒体(25)及びコイルスプリングを有するコンタクトピンが開示されている。そして、このコンタクトピンは、少なくとも前記端子に接触される接触部の表面に、金ニッケル合金メッキが施され、コンタクトピンに半田が転移することを抑制し、150℃の高温中で繰り返し使用されても抵抗値が安定しているものである。
【0012】
しかし、上述した自動車用途のICは、150℃より更に高温環境下で使用されるため、例えば175℃程度の高温環境下でこれらの自動車用途のICを検査する必要がある。そのため、コンタクトピンには少なくとも175℃の高温中で使用されてもその抵抗値が上昇しない高品質が求められる。
ところが、特許文献1によれば、コンタクトピンは金ニッケル合金メッキが施されているため、150℃を超える高温中でニッケル成分が酸化されてコンタクトピンの抵抗値が上昇する虞があるという問題があった。
また、特許文献1によれば、筒体(25)の径を細くした場合、高温保管によるプローブピンの抵抗値変動については不詳である。
【0013】
また、特許文献2には、基材の表面に貴金属薄膜を形成してなる接点部材において、上記貴金属薄膜層の結晶中に粒径が2〜200nmの超分散ダイヤモンド粒子を0.01〜2.0重量%の割合で分散させ、耐久性等を改善した接点部材が開示されている。
しかし、特許文献2によれば、例えば150℃を超える高温中で使用された場合の抵抗値の変動について定かではない。
【0014】
そこで、本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温中で使用されてもその抵抗値の上昇を抑制可能であるとともに、配列間隔の狭ピッチ化に対応可能なコンタクトプローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、その内周を形成するAu層と、前記バレルの外周を形成するNi層と、を含み、前記バレルは、所定の直径を有する芯線の外周面に電鋳法により形成される、コンタクトプローブである。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1記載のコンタクトプローブにおいて、前記Auメッキ膜は、99.9重量%以上の純Auメッキ膜からなることを特徴とする。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1に記載のコンタクトプローブにおいて、前記Auメッキ膜は、AuCoメッキ膜からなることを特徴とする。
【0018】
請求項4の発明は、請求項3に記載のコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、前記AuCoメッキ膜上に、99.9重量%以上のAuからなる純Auメッキ膜を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のコンタクトプローブにおいて、前記バレルは、前記Au層と前記Ni層との間に、Pd層を介在させることを特徴とする。
【0020】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のコンタクトプローブにおいて、前記Au層は、厚さが略1.0〜5μmで99.9重量%以上の純Au層よりなることを特徴とする。
【0021】
請求項7の発明は、円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、平板状の母材と、前記母材の上面に圧着させた第1のNi板と、前記母材の下面に圧着させた第2のNi板と、前記第1のNi板の上面に圧着させた板であって、Au又は貴金属合金で形成される第3の金属板と、前記第2のNi板の下面に圧着させた板であって、Au又は貴金属合金で形成される第4の金属板と、からなるクラッド板を、ディープドローイングして円筒状に形成した、コンタクトプローブである。
【0022】
請求項8の発明は、円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、Au又はAuを含有する貴金属合金で形成される円筒体からなる、コンタクトプローブである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、その内周を形成するAu層と、前記バレルの外周を形成するNi層と、を含み、前記バレルは、所定の直径を有する芯線の外周面に電鋳法により形成される構成であるから、高温中におけるNiの拡散が、合金中間膜により抑制されてプランジャーの表面まで現れ難くなる。したがって高温中で使用してもプランジャー表面の酸化を抑制できるので、プランジャーの抵抗値の上昇を抑制できる。また、バレルはその直径が細く形成されても、一様な厚さのAu層を確実に備えることが可能となる。したがって、Au層の厚さを所定の厚さに設定することにより、高温中においてNiがAu層中を拡散してもバレル内周表面に現れ難くなる。そのため、高温中で使用してもバレルの内周面の酸化を抑制でき、バレルの抵抗値の上昇を抑制できる。このように、本発明によれば、高温中で使用されてもその抵抗値の上昇を抑制可能であるとともに、配列間隔の狭ピッチ化に対応可能なコンタクトプローブを提供できる。
【0024】
また、請求項2の発明によれば、前記Auメッキ膜は、99.9重量%以上の純Auメッキ膜からなる構成であるから、高温中における純Auメッキ膜の酸化を排除できるので、高温中で使用しても、さらにその抵抗値の上昇を抑制可能なコンタクトプローブを提供できる。
【0025】
また、請求項3の発明によれば、前記Auメッキ膜は、AuCoメッキ膜からなる構成であるから、プランジャー表面の硬度を向上させることで、コンタクトプローブの耐摩耗性や耐久性を向上できる。
【0026】
また、請求項4の発明によれば、前記プランジャーは、前記AuCoメッキ膜上に、99.9重量%以上のAuからなる純Auメッキ膜を備える構成であるから、高温中においてもAuCoメッキ膜中のCoの拡散を表面の純Auメッキ膜でさらに抑制することにより、前記Coがプランジャー表面で酸化されて抵抗値が上昇することを抑制できる。
【0027】
また、請求項5の発明によれば、前記バレルは、前記Au層と前記Ni層との間に、Pd層を介在させる構成であるから、Pd層によってNiの拡散を抑制することにより、抵抗値の上昇をさらに抑制可能となる。
【0028】
また、請求項6の発明によれば、前記Au層は、厚さが略1.0〜5μmで99.9重量%以上の純Au層よりなる構成であるから、純Au層によりバレル表面の酸化を防止できるとともに、バレル内周面にNiが拡散してくることを防止できることにより、抵抗値の上昇をさらに抑制可能となる。
【0029】
また、請求項7の発明によれば、円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、平板状の母材と、前記母材の上面に圧着させた第1のNi板と、前記母材の下面に圧着させた第2のNi板と、前記第1のNi板の上面に圧着させた板であって、Au又は貴金属合金で形成される第3の金属板と、前記第2のNi板の下面に圧着させた板であって、Au又は貴金属合金で形成される第4の金属板と、からなるクラッド板を、ディープドローイングして円筒状に形成した構成であるから、高温中におけるNiの拡散が、合金中間膜により抑制されてプランジャーの表面まで現れ難くなる。したがって高温中で使用してもプランジャー表面の酸化を抑制できるので、プランジャーの抵抗値の上昇を抑制できる。また、バレルは、その直径が細く形成されても、クラッド材の第1のNi板と第3の金属板との界面及び第2のNi板と第4の金属板との界面が、高温中におけるNi拡散のバリアとなりNiがバレル表面に析出し難くなる。そのため、高温中で使用してもバレルの表面の酸化を抑制でき、バレルの抵抗値の上昇を抑制できる。このように、本発明によれば高温中で使用されてもその抵抗値の上昇を抑制可能であるとともに、配列間隔の狭ピッチ化に対応可能なコンタクトプローブを提供できる。
【0030】
また、請求項8の発明によれば、円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、前記プランジャーは、基材と、前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、前記バレルは、Au又はAuを含有する貴金属合金で形成される円筒体からなる構成であるから、高温中におけるNiの拡散が、合金中間膜により抑制されてプランジャーの表面まで現れ難くなる。したがって高温中で使用してもプランジャー表面の酸化を抑制できるので、プランジャーの抵抗値の上昇を抑制できる。また、バレルは、その直径が細く形成されても貴金属よりなるためバレルの表面の酸化が抑制され、バレルの抵抗値の上昇を抑制できる。このように、本発明によれば高温中で使用されてもその抵抗値の上昇を抑制可能であるとともに、配列間隔の狭ピッチ化に対応可能なコンタクトプローブを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係るコンタクトプローブの断面説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るプランジャーの成分分析を説明するグラフである。
【図3】本発明のコンタクトプローブの評価装置を説明する概略図である。
【図4】図3の評価装置を用いた評価例を説明するグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態に係るコンタクトプローブの断面説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るコンタクトプローブの断面説明図である。
【図7】本発明の実施例の評価結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について図を用いて説明する。
先ず、本発明の第1実施形態に係るコンタクトプローブ10について主に図1を用いて説明する。
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るコンタクトプローブ10の断面説明図である。図1(b)は、図1(a)におけるb部分の拡大図である。図1(c)は、図1(a)におけるc部分の拡大図である。
本実施形態のコンタクトプローブ10は、図1に示すように、バレル20と、プランジャー30,32と、スプリング40とを備える。
【0033】
本実施形態のバレル20は、図1(a)に示すように、円筒状の管体22と、管体22の両端がそれぞれ縮径した縮径部21とを備える。管体22は、例えば長さが略4mm、内径が略0.3mm、肉厚が略35μmの円筒状の細管で形成される。この縮径部21は、図1(a)に示すように、後述するスプリング40をバレル20内に収納し、プランジャー30,32をバレル20の両端にそれぞれ配置させた後にカシメ加工等により形成される。図1に示すように、後述するプランジャー30,32の鍔部34が縮径部21に係止されて、バレル20外に飛び出さない、すなわち縮径部21は、プランジャー30,32がバレル20外に飛び出さないための係止手段となっている。なお、係止手段は本実施形態の縮径部21に限るものではなく、例えばバレルの側面の一部をカシメ加工により縮径して形成する等、プランジャーの形状に応じた任意の構成とすることができる。
【0034】
次に、本実施形態のバレル20の断面構造並び製造方法について説明する。
本実施形態のバレル20は、図1(c)に示すように、内周を形成するAu層24と、バレル20の外周を形成するNi層26とを含み、電鋳法により形成される。ここで、電鋳法とは、細い芯線の外周面に一層又は多層のメッキ層を形成し、その後芯線を引抜くことによりメッキ層のみからなる円筒体を形成する製造方法をいう。
【0035】
具体的には、バレル20は、所定の直径を有する例えばステンレス製芯線の外周面上に、Au層24としてのAuCoメッキ層を形成し、更にAuCoメッキ層の上にNiメッキ層を形成し、その後前記芯線を引抜くことで形成される。したがって、バレル20は、図1(c)に示すように、Au層24(AuCoメッキ層)が内周を形成し、Ni層26としてのNiメッキ層がバレル20の外周を形成する構成となっている。
内周側をAu層24で形成するのは、後述するプランジャーとの接触抵抗を下げるためである。また、Ni層26で外周側を形成するのは、コンタクトプローブとして必要な強度をバレル20に持たせるためである。
【0036】
このように、バレル20は電鋳法によって形成されるので、内径が細い場合であってもAu層24の厚さがバレル20の筒長方向に沿って略均一に形成可能となる。その際、Au層の厚さは、少なくとも1μm以上で形成することが望ましい。高温中でNi層26のNiが拡散してAu層24の表面に析出することを抑制するためである。
【0037】
なお、本実施形態のバレル20は、上述したように内側のAu層24がAuCoメッキ膜により形成されるが、これに限るものではなく、99.9重量%以上の純AuメッキからなるAu層であってもよい。前記純Auメッキの場合、AuCoメッキに含有されるCoのような酸化されやすい金属を殆ど含有しないので、高温保管中のCoの酸化に起因したバレル抵抗値の上昇を排除できるからである。純AuメッキによるAu層の場合、厚さを1μm〜5μmで形成することが望ましい。1μmより薄い場合、高温中でNi層26のNiが拡散してAu層の表面に析出する虞があるからである。また、5μmより厚い場合は、コンタクトプローブのコスト押上げの要因となるからである。
【0038】
また、本実施形態のバレル20は、図1(c)に示すように、内側がAu層24で、外側がNi層26の2層からなるが、バレルの構造は2層に限るものではなく、Au層24とNi層26との間にPd層を介在させた構成であってもよい。高温中のNiの拡散をPd層で抑制できるからである。上述した芯線の外周面上に、AuメッキによりAu層24を形成し、Au層24の上にPdメッキによりPd層を形成し、前記Pd層の上にNiメッキによりNi層26を形成し、その後例えば前記芯線を引抜くことで形成される。
【0039】
次に、プランジャー30,32について説明する。本実施形態のコンタクトプローブ10は、図1(a)及び図3に示すように、バレル20の一端にプランジャー30を備え、他端にプランジャー32を備える。
プランジャー30は、図1(a)に示すように、縮径部21の内径と略同じ直径を有する円柱状の軸体部33と、軸体部33の先端に設けられたクラウン状の突起31と、管体22の内径程度に下端部が拡径した鍔部34とを備える。また、プランジャー32は、軸体部33の先端中央に突起35を備え、下端部に鍔部34を備える。プランジャー30,32は、上述したようにバレル20の両端にそれぞれ配置され、管体22の筒長方向に沿って摺動自在な構成となっている。
なお、プランジャーの形状は、本実施形態の形状に限るものではなく、バレルの端部に設けることが可能な公知の形状とすることができる。また、本実施形態のコンタクトプローブ10は、プランジャー30,32が双方とも摺動自在な構成となっているが、いずれか一方のプランジャーは、例えばバレルのカシメ加工等のよりその摺動を規制された公知の構成であってもよい。
【0040】
以下、プランジャー30を例にとり、断面構造や製造方法について説明する。
本実施形態のプランジャー30は、図1(b)に示すように、基材36と、基材36の表面を覆う下地膜37と、プランジャー30の表面を形成する表面膜39と、下地膜37と表面膜39との間に形成される合金中間膜38とを備える。
【0041】
次に、プランジャー30の製造方法について説明する。まず、例えばBeCuからなる基材36の表面にNiメッキ膜を形成する。次に、Niメッキ膜の表面にPdCoメッキ膜を形成する。次に、PdCoメッキ膜の表面にAuメッキ膜としてのAuCoメッキ膜を形成する。その後、例えば真空熱処理炉等を用いて、真空雰囲気中で加熱(以下「熱処理」ともいう。)することによって製作できる。
このように、加熱するのは、PdCoメッキ膜中及びAuCoメッキ膜中のそれぞれの金属の相互拡散を促進することにより、Au、Pd及びCoからなる3元系合金の合金化促進のためである。
また、真空雰囲気中で加熱する目的の一つは、熱処理雰囲気中にO等の反応性ガスが含まれていると、AuCoメッキ膜中のCoがAuCoメッキ膜の表面、すなわちプランジャー30の表面に偏析することが多いため、これを抑制することにある。したがって、熱処理中のプランジャー30表面の酸化を抑制できる。
また、他の目的は、熱処理雰囲気中に反応性ガスが含まれていると、反応性ガスと材料との反応が熱拡散を支配することが多いため、反応性ガスを極力排除することで上記合金化を促進するためである。
なお、前記Niメッキ膜と前記PdCoメッキ膜との密着性向上のため、前記Niメッキ膜の表面にAuストライクメッキ膜を形成後に前記PdCoメッキ膜を形成してもよい。また、前記PdCoメッキ膜と前記AuCoメッキ膜との密着性向上のため、前記PdCoメッキ膜の表面にAuストライクメッキ膜を形成後に前記AuCoメッキ膜を形成してもよい。
【0042】
このように、基材36の表面に形成された下地膜37は上記熱処理が施されたNiメッキ膜からなり、表面膜39は上記熱処理が施されたAuメッキ膜(AuCoメッキ膜)からなる。そして、上記熱処理が施されることにより、下地膜37と表面膜39との間にAu、Pd及びCoを含有する合金中間膜38が介在するがこの点については、後で再述する。
また、上述した加熱温度は、略295℃から335℃が望ましい。295℃より低いと、上記合金化が促進されない虞があるからである。また、335℃より高いと、上述した相互拡散が顕著に進み、AuCoメッキ膜中のAuの含有量が低下することによって、プランジャー30の接触抵抗が増加する虞があるからである。
また、加熱時間は、2時間から3時間が望ましい。2時間より短いと、上記合金化が促進されない虞があるからである。また、3時間より長い場合、上述した相互拡散が顕著に進み、AuCoメッキ膜中のAuの含有量が低下することによって、プランジャー30の接触抵抗が増加する虞があるからである。
【0043】
ここで、以下の評価用のプランジャーPを製作し、熱処理の有無とプランジャーPの深さ方向の成分との関係、及び加熱温度とプランジャーPの深さ方向の成分との関係について評価を行った。なお、プランジャーPの形状やサイズは上述したプランジャー30の形状やサイズと同じとした。
BeCuからなる基材の表面に、NiPメッキ浴を用いた無電解メッキにより、略0.5μmの厚さのNiメッキ膜を形成し、その上に、略0.1μm厚さのAuストライクメッキ膜を形成し、その上に、PdCoメッキ浴を用いた電解メッキにより略1.8μmの厚さのPdCoメッキ膜を形成し、その上に、略0.1μm厚さのAuストライクメッキ膜を形成し、その上に、前記AuCoメッキ浴を用いた電解メッキにより略2.6μmのAuCoメッキ膜を形成することによりプランジャーPを製作した。
【0044】
図2は、プランジャーPの深さ方向の成分を測定したグラフである。より詳しくは、プランジャーPのクラウン状の突起の一つを縦方向にカットして断面を露出させ、その断面(図1(b)参照)をEDX(エネルギー分散型X線分光装置)で測定した。図2において、縦軸は検出量(At%)を示す。横軸は、深さ(μm)、すなわち図1(b)に示すように、突起31の先端を基点とした矢印D方向の距離を示す。また、図2において、太い実線がAuのプロファイルJを示し、細い実線がCoのプロファイルLを示し、一点鎖線はPdのプロファイルKを示し、太い鎖線はNiのプロファイルMを示し、細い鎖線はCuのプロファイルHを示す。
【0045】
図2(a)は、熱処理を施す前のプランジャーP断面の測定結果を示すグラフである。
図2(a)のプロファイルHによれば、5μm近傍から深い方向に向かってCu成分の検出量が上昇しているが、これはBeCu材(基材36)のCu成分が検出されていることを示している。
また、図2(a)のプロファイルMによれば、基材36の上にNiメッキ膜が形成されたことがわかる。
また、図2(a)のプロファイルJによれば、プロファイルMのピークよりわずかに浅い領域にピークBを有するが、これはAuストライクメッキ膜のAu成分が検出されたことを示す。また、プランジャーの表面から2〜3μm程度の深さまでAuCoメッキ膜が形成されていることがわかる。
また、図2(a)のプロファイルKによれば、AuCoメッキ膜とNiメッキ膜との間に、PdCoメッキ膜のPd成分が検出されている様子がわかる。またプロファイルLによれば、AuCoメッキ膜とNiメッキ膜との間に、PdCoメッキ膜のCo成分が検出されている様子がわかる。
【0046】
次に、図2(b)は、真空度10−6Torr、略250℃で略1.5時間の熱処理を施した後のプランジャーP断面のEDX測定結果を示すグラフである。
図2(b)のプロファイルJによれば、Au成分が略4μm近傍で略ボトムまで低下しており、PdCoメッキ膜の中へAu成分があまり拡散していないことがわかる。また、図2(a)と図2(b)とのプロファイルKのピーク値が殆ど変化してないことから、PdCoメッキ膜のPd成分がAuCoメッキ膜の中にあまり拡散していないことがわかる。いいかえると、前記熱処理の効果が小さいために、熱処理前と後とでプロファイルにほとんど変化がなく、合金化が進んでいないことがわかる。
【0047】
次に、図2(c)は、真空度10−6Torr、略315℃で略2時間の熱処理を施した後のプランジャーP断面のEDX測定結果を示すグラフである。
図2(c)で明らかなように、表面AuCoメッキ膜のAu成分がPdCoメッキ膜の中へ拡散し、また、PdCoメッキ膜のPd成分がAuメッキ膜の中に拡散している様子がわかる。このように、前記熱処理を施すことで、下地膜37から表面膜39の間に介在し、Au、Co及びPdを含有する合金からなる合金中間膜38が形成されたことがわかる。
本実施形態の例において合金中間膜38は、例えば表面からの深さが略4μm近傍において、Auの含有量が略25At%、Coの含有量が略12At%、Pdの含有量が略55At%からなっている。また、合金中間膜38は、上記含有量の合計値に対して、Au比率(25/(25+12+55))は略27%であり、Co比率(12/(25+12+55))は略13%であり、Pd比率(55/(25+12+55))は略60%となっている。
【0048】
本実施形態のプランジャー30の下地膜37は、前記熱処理を施したNiメッキ膜からなり、合金中間膜38は、Au、Co及びPdを含有する合金からなり、表面膜39は、前記熱処理を施したAuCoメッキ膜からなる。
次に、このように形成されたプランジャー30の下地膜37、合金中間膜38及び表面膜39の硬度を測定した。より詳しくは、プランジャー30表面を数度の傾斜角で鏡面研磨し、その研磨面のビッカース硬度(Hv)をナノインデンテーションにより測定した。
まず、Niメッキ膜(下地膜37)は、その硬度が真空熱処理前に略550Hvであったものが、前記熱処理後に略680Hvまで向上した。
また、合金中間膜38は、熱処理前のPdCoメッキ膜の硬度が略500Hvであったものが、合金化により略600Hvまで向上した。
また、AuCoメッキ膜(表面膜39)は、その硬度が熱処理前は膜の厚さに依存することなく略150Hvであったものが、前記熱処理後に表面が略150Hvで合金中間膜38近傍で略350Hvと、表面側から中間膜側に向かって硬度が上昇する傾向を有する。これは、前記熱処理によって、AuCoとPdCoの相互拡散が起こり、AuCoメッキ膜の深い所ほど、Pd及びCoの量が増加している為と考えられる。
【0049】
ここで、上述した基材36の表面に形成されるNiメッキ膜厚は、0.5μm〜5μmで形成することが望ましい。0.5μmより薄い場合は、プランジャーの耐久性が低下する虞があるからである。また、5μmより厚い場合は、コスト増、及び抵抗増につながりかねないからである。
次に、PdCoメッキ膜厚は、0.5μm〜5μmで形成することが望ましい。0.5μmより薄い場合は、例えば合金中間膜38の厚さが不十分となり高温中におけるNiの拡散を抑制する効果が低下するからである。また、5μmより厚い場合は、コスト増、及び抵抗増につながりかねないからである。
次に、AuCoメッキ膜厚は、0.5μm〜5μmで形成することが望ましい。0.5μmより薄い場合は、プランジャー30のバルク抵抗が上昇するからである。また、プランジャー30を高温保管した場合、AuCoまたはPdCoメッキ膜中のCoがプランジャー30の表面に析出して、酸化されやすい傾向にあるためである。また、5μmより厚い場合は、コスト増につながりかねないからである。
【0050】
なお、本実施形態のプランジャー30は、最表面がAuメッキ膜としてのAuCoメッキ膜からなるが、AuCoメッキ膜上に99.9重量%以上のAuからなる純Auメッキ膜を備える構成であってもよい。このような構成とすることで、AuCoメッキ膜中のCoの酸化を抑制できるからである。
また、Auメッキ膜としてのAuCoメッキ膜に替えて、99.9重量%以上のAuからなる純Auメッキ膜によって構成されていてもよい。このような構成とすることで、Au中のCoを排除でき、酸化をさらに抑制できるからである。
【0051】
次に、本実施形態のスプリング40は、ステンレス製の線材をコイル状に形成した公知のコイルスプリングよりなる。そして、スプリング40は、図1(a)に示すように、バレル20内に収納される。その際、スプリング40は、プランジャー30とプランジャー32との間に介在してプランジャー30とプランジャー32とを外方に向かって付勢する構成となっている。
【0052】
次に、コンタクトプローブ10の評価装置70及び評価方法について図3を用いて説明する。
図3は、コンタクトプローブ10の評価装置70の概略構成説明図である。評価装置70は、図3に示すように、第1基板57、ソケット体62、第2基板55、荷重検知センサー52、昇降手段51、抵抗測定器53、電源(図示しない)、制御部54等を備える。
第1基板57は、公知のプリント基板で形成され、その上面に例えばAuメッキ等により形成された薄い電極パッド59を複数備える。そして、第1基板57は、図3に示すように、テーブル61上に設置される。このテーブル61は、ヒータ等の公知の加熱機構(図示せず)を備えており、加熱しながらでもコンタクトプローブ10を評価可能な構成となっている。
【0053】
次に、ソケット体62は、公知のICソケット等に用いられる絶縁ブロックで形成され、コンタクトプローブ10を収納する複数の貫通孔63を備える。そして、ソケット体62は、図3に示すように、第1基板57上に配置され、コンタクトプローブ10は、例えばプランジャー32が電極パッド59に接触する態様で貫通孔63に保持される。
【0054】
次に、第2基板55は、公知のプリント基板で形成され、その底面の略全体を皮膜する金属プレート56を備える。そして、第2基板55は、図3に示すように、ソケット体62の上方位置に配置される。本実施形態において金属プレート56はAuプレートよりなる。
【0055】
次に、荷重検知センサー52は、例えば公知のロードセル等で形成され、図3に示すように、例えば第2基板55の上面に設置される。
【0056】
次に、昇降手段51は、例えば公知のサーボモータで形成され、第2基板55及び荷重検知センサー52と連結されこれらを上下方向に移動させる。
【0057】
次に、制御部54は、CPU、メモリ、タイマー、カウンター等を備えており、昇降手段51や荷重検知センサー52と接続される。そして、例えば荷重検知センサー52からの信号や、昇降手段51による第2基板55の昇降速度等を基に、第2基板55の下降量を制御し、また上下往復回数を制御する等、昇降手段51の稼動を制御する。
【0058】
次に、抵抗測定器53は、公知の4端子抵抗測定器等で構成され、図3に示すように、第1基板57及び第2基板55に接続される。そして、これらの基板間の抵抗を測定可能な構成となっている。
【0059】
次に、評価装置70の動作例について説明する。
まず、昇降手段51が第2基板55を下降させて金属プレート56がプランジャー30に接触すると、荷重検知センサー52が荷重を検知し制御部54に検出信号を送る。次に、前記検出信号を受けた制御部54は、更に第2基板55を下降させることによりプランジャー30,32がバレル20内に押し込まれる。そして、所定の下降量になったところで、昇降手段51が第2基板55を上昇させる。この下降時と上昇時に荷重検知センサー52が荷重を検知するとともに、抵抗測定器53がコンタクトプローブ10の抵抗値を測定する構成となっている。以下、第2基板55がプランジャー30に接触した高さからの下降量をストローク量(mm)という。
【0060】
次に、上述した評価装置70を用いたコンタクトプローブ10のデータ例について図4を用いて説明する。図4は、評価装置70によるストローク量と荷重との関係及びストローク量と抵抗値との関係を示すグラフである。図4において、横軸はストローク量(mm)、左の縦軸は荷重(g)、右の縦軸は抵抗値(mΩ)にそれぞれ対応する。
図4において、曲線チがストローク量と荷重との関係を示す曲線であり、曲線リがストローク量とコンタクトプローブ10の抵抗値との関係を示す曲線である。
【0061】
まず、曲線チは、図4に示すようにヒステリシス曲線となっているが、曲線チにおける曲線ヌが、第2基板55の下降時に検出される荷重を示し、曲線ルが、第2基板55の上昇時に検出される荷重を示す。なお、本実施形態のコンタクトプローブ10の使用時の推奨ストローク量が0.65mmとされている関係で、折返し点トのストローク量は0.65mmに設定されている。
【0062】
次に、曲線リは、図4に示すようにヒステリシス曲線となっているが、下降時に検出される抵抗値と、上昇時に検出される抵抗値とが略重なっている。また、符合ヲで指す点が折返し点となっている。このように、曲線リによれば、コンタクトプローブ10の抵抗値を評価することができる。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態に係るコンタクトプローブ80について図5を用いて説明する。第1実施形態と同じ部材には、同じ符号を付し、その説明は省略する。第1実施形態と第2実施形態との相違は、バレル28がクラッド材をディープドローイング(Deep Drawing)加工して形成される点である。
【0064】
本実施形態のクラッド材は、具体的には例えばNS鋼からなる平板状の母材と、前記母材の上面に圧着させた第1のNi板と、前記母材の下面に圧着させた第2のNi板と、前記第1のNi板の上面に圧着させた第3の金属板と、前記第2のNi板の下面に圧着させた第4の金属板と、からなる。本実施形態において前記第3の金属板及び第4の金属板は、99.9重量%以上の純Auよりなる。
また、ディープドローイング加工とは、金型を用いた多段階工程を経ることで、板形態の材料から筒形態に加工する公知の加工方法のことである。
ディープドローイング加工によれば、例えば0.3mm程度の細い内径の筒体であっても、最内周の層の厚さが管の筒長方向にわたって一様に形成できる。また、その直径が細く形成されても、クラッド材の第1のNi板と第3の金属板との界面及び第2のNi板と第4の金属板との界面が、高温中におけるNi拡散のバリアとなりNiがバレル表面に析出し難くなる。また、クラッド材を用いるため、上述した電鋳法によるメッキ膜よりも膜質が緻密に形成されることから、上述したPd層等のバリア層を設けなくてもNi等の拡散抑制効果が高い。
【0065】
図5において符号81は、上述した母材をディープローイング加工してなる層であり例えば略80μmの厚さで形成される。また、符号82は、第1のNi板を加工してなる層であり、符号83は第2のNi板を加工してなる層であり、それぞれが例えば略1μmの厚さで形成される。また、符号84は、上述した第3の金属板を加工してなる層であり、符号85は、上述した第4の金属板を加工してなる層であり、それぞれが例えば略1μmの厚さで形成される。
なお、前記第3の金属板及び第4の金属板は、99.9重量%以上の純Auよりなるものに限らず、例えばAu(略69重量%)、Ag(略25重量%)及びPt(略6重量%)で構成される貴金属合金板からなっていてもよい。
【0066】
次に、本発明の第3実施形態に係るコンタクトプローブ90について図6を用いて説明する。第1実施形態と同じ部材には、同じ符号を付し、その説明は省略する。第1実施形態と第3実施形態との相違は、バレル29が、Auで形成される円筒体91からなる点である。
【0067】
本実施形態のバレル29は、99.9重量%以上の純Auからなる円筒状の素材を、公知のシームレス加工により細管化した。前記純Auは、イオン化傾向が小さいため高温中であっても酸化されにくいことにより、高温中でバレル29が酸化されて抵抗値が上昇するという問題を排除できるからである。なお加工方法は、シームレス加工に限らず、例えば熱間押出加工、鍛接管加工、電縫管加工、スパイラル加工等によるものでもよい。
また、前記素材は99.9重量%以上の純Auからなる素材に限らず、例えばAu(略69重量%)、Ag(略25重量%)及びPt(略6重量%)で構成される貴金属合金からなる素材であってもよい。
【0068】
[抵抗値変動の評価]
以下の比較例のコンタクトプローブ、及び実施例のコンタクトプローブを製作した。
[比較例1]
比較例1のコンタクトプローブのプランジャー及びバレルを以下のように製作した。
先ず、プランジャーは、BeCuからなる基材の表面に、NiPメッキ浴を用いた無電解メッキにより、略2μm厚のNiメッキ膜を形成した。次にその上に、Coを略0.3重量%含有するAuCo合金メッキ浴を用いた電解メッキにより、略2.5μm厚のAuCoメッキ膜を形成した。
次に、バレルの素管は、内径が略0.3mmで肉厚が略30μmのりん青銅の管を用いた。そして、前記素管の表面に、Niメッキ浴を用いた電解メッキにより、前記素管の外周側において略2μm厚のNiメッキ膜を形成した。次にその上に、上述と同じAuCo合金メッキ浴を用いた電解メッキにより、前記素管の外周側において略1.5μm厚のAuCoメッキ膜を形成することにより製作した。
なお、バレルの内側に形成されるNiメッキ膜の厚さは、筒長方向の中央近傍で概略1μmであり、AuCoメッキ膜の厚さは筒長方向の中央近傍で概略0.8μmであった。
【0069】
[比較例2]
比較例2において、コンタクトプローブのプランジャーは比較例1と同様に製作した。
次に、バレルは、以下の電鋳法により製作した。すなわち、略0.3mmの直径を有するステンレス製の芯線の外周面上に、前記AuCo合金メッキ浴を用いた電解メッキにより、略1.5μm厚のAuCoメッキ膜(Au層24)を形成した。次に、その上にNiメッキ浴を用いた電解メッキにより略33.5μm厚のNiメッキ膜(Ni層26)を形成し、その後前記芯線を引抜くことで製作した。
【0070】
[実施例1]
実施例1のコンタクトプローブ10のバレル20とプランジャー30,32とを以下のように製作した。
まずプランジャー30,32は、比較例1と同じBeCuの基材の表面に、NiPメッキ浴を用いた無電解メッキにより、略0.5μmの厚さのNiメッキ膜を形成した。次にその上に、略0.1μm厚さのAuストライクメッキ膜を形成した。次にその上に、PdCoメッキ浴を用いた電解メッキにより略1.8μmの厚さのPdCoメッキ膜を形成した。次にその上に、略0.1μm厚さのAuストライクメッキ膜を形成した。次にその上に、前記AuCoメッキ浴を用いた電解メッキにより略2.5μmのAuCoメッキ膜を形成した。その後、真空熱処理炉の中で真空度略10−6Torrにおいて、略315℃で略2時間の熱処理を施すことで製作した。
次に、バレル20は、比較例2と同様に製作した。
【0071】
[実施例2]
実施例2のコンタクトプローブのプランジャーとバレルを以下のように製作した。
実施例1のプランジャー30,32と実施例2のプランジャーとの相違点は、実施例1のようにAuCoメッキ膜を略2.3μmの厚さで形成し、その後真空熱処理炉の中で真空度略10−6Torrにおいて、略315℃で略2時間の熱処理を施し、次に99.9重量%の純Auメッキ浴を用いた電解メッキにより略0.5μm厚の純Auメッキ膜を形成した点である。
次に、バレル20は、比較例2と同様に製作した。
【0072】
これらの比較例及び実施例について評価装置70を用いて以下の評価1及び評価2を行った。
[評価1]
評価1における評価方法は以下の通りである。
図4で説明したように、ストローク量と抵抗値との関係(曲線り)を初期状態と高温保管(高温大気炉内で略200℃の大気雰囲気中において略10時間保管)後とでそれぞれ求めた。そして、初期状態における曲線リの折返し点ヲにおける抵抗値R(図4参照)と前記高温保管後における曲線リの折返し点ヲにおける抵抗値Rとの比(黒丸印)を求めた。
前記評価方法による比較例1,2及び実施例1,2の評価結果を図7に示す。
図7において、縦軸は抵抗値比を示すが、初期状態(白丸印)では1(R/R)となっている。
図7に示すように、比較例1では前記高温保管後にRがRの略2.8倍に上昇し、比較例2では前記高温保管後にRがRの略2倍に上昇している。一方、実施例1及び実施例2については初期状態と前記高温保管後とでの抵抗値の変動はほとんど見られなかった。
【0073】
[評価2]
評価2における評価方法は以下の通りである。
まず、高温大気炉内で略200℃の大気雰囲気中において略20時間保管する。次に、上述した評価装置70により略175℃に加熱するとともに略100mAの電流を印加しながら、昇降手段51により、第2基板55をプランジャー30先端に接触させ、さらに0・65mm下降させたところで第2基板55を上昇させてプランジャー30先端からやや離隔させるという往復運動を繰返した。そして、1000回の往復運動毎に、コンタクトプローブの曲線リの折返し点ヲにおける抵抗値Rを求めた。
前記評価方法により、比較例2、実施例1及び実施例2について往復運動を10万回繰返した測定結果を図8に示す。図8(a)は、比較例2の評価結果、図8(b)は、実施例1の評価結果、図8(c)は、実施例2の評価結果をしめすグラフである。なお、図8において、縦軸は、比較例2、実施例1、実施例2の10万回までの全ての前記抵抗値Rから求めた平均値に対する前記抵抗値Rとの比を示す。また、横軸は摺動回数、すなわち前記往復運動の回数を示す。
【0074】
図8(a)のグラフにおいて、摺動回数0のところで抵抗比が略3.5となっているのは、高温大気炉内で略200℃の大気雰囲気中において略20時間保管したことでプランジャー表面が酸化されたこと等によりコンタクトプローブの接触抵抗が上昇したためである。また、図8(a)のグラフにおいて、摺動回数0から略2000回にかけて抵抗比が下降しているのは、往復運動によりプランジャー30先端が第2基板55に接触することでプランジャー表面の酸化膜が剥がれて接触抵抗が回復したためである。
比較例2の場合、図8(a)から明らかなように、往復運動により抵抗が一端下降するものの、略50000回程度から再び抵抗が上昇していることがわかる。
これに対し、実施例1及び実施例2の場合、図8(b)及び図8(c)から明らかなように、略10万回往復運動を繰返してもその抵抗値の上昇はほとんど見られない、すなわち耐久性に優れることがわかる。
【0075】
このように、実施例1及び実施例2のコンタクトプローブ10が前記高温保管後であっても耐久性において優れているのは、プランジャー30の表面に固体潤滑膜が形成されているためと考えられる。
具体的には、上述したようにプランジャー30の下地膜37の硬度が略680Hvで、下地膜37上に形成された合金中間膜38の硬度が略600Hvで、合金中間膜38上に形成された表面膜39の硬度が合金中間膜38近傍で略350Hvで、最表面で略150Hvとなっていた。このように、硬度が高い金属膜の表面を硬度が低い金属膜で覆った構造とすることにより、表面の硬度が低い金属膜が磨耗し難くなるためと考えられる。
【0076】
これまで述べてきたように、本実施形態のコンタクトプローブ10,80,90によれば、高温中で使用されてもその抵抗値の上昇を抑制可能であるとともに、配列間隔の狭ピッチ化に対応可能なコンタクトプローブを提供できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらはあくまでも例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
10,80,90 コンタクトプローブ
20,28,29 バレル
30,32 プランジャー
40 スプリング(弾性体)
36 基材
37 下地膜(Niメッキ膜)
38 合金中間膜
39 表面膜(Auメッキ膜)
24 Au層
26 Ni層
81 母材
82 第1のNi板
83 第2のNi板
84 第3の金属板
85 第4の金属板
91 円筒体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、
前記プランジャーは、
基材と、
前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、
前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、
前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、
前記バレルは、
その内周を形成するAu層と、
前記バレルの外周を形成するNi層と、を含み、
前記バレルは、所定の直径を有する芯線の外周面に電鋳法により形成されることを特徴とするコンタクトプローブ。
【請求項2】
前記Auメッキ膜は、99.9重量%以上の純Auメッキ膜からなることを特徴とする請求項1に記載のコンタクトプローブ。
【請求項3】
前記Auメッキ膜は、AuCoメッキ膜からなることを特徴とする請求項1に記載のコンタクトプローブ。
【請求項4】
前記プランジャーは、前記AuCoメッキ膜上に、99.9重量%以上のAuからなる純Auメッキ膜を備えることを特徴とする請求項3に記載のコンタクトプローブ。
【請求項5】
前記バレルは、前記Au層と前記Ni層との間に、Pd層を介在させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンタクトプローブ。
【請求項6】
前記Au層は、厚さが略1.0〜5μmで99.9重量%以上の純Au層よりなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンタクトプローブ。
【請求項7】
円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、
前記プランジャーは、
基材と、
前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、
前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、
前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、
前記バレルは、
平板状の母材と、
前記母材の上面に圧着させた第1のNi板と、
前記母材の下面に圧着させた第2のNi板と、
前記第1のNi板の上面に圧着させた板であって、Au又は貴金属合金で形成される第3の金属板と、
前記第2のNi板の下面に圧着させた板であって、Au又は貴金属合金で形成される第4の金属板と、からなるクラッド板を、ディープドローイングして円筒状に形成したことを特徴とするコンタクトプローブ。
【請求項8】
円筒状のバレルと、前記バレルの端部に設けられるプランジャーと、前記バレル内に収納されて前記プランジャーを外方に向かって付勢する弾性体とを含むコンタクトプローブにおいて、
前記プランジャーは、
基材と、
前記基材の表面に形成されたNiメッキ膜と、
前記Niメッキ膜上に形成されたAuメッキ膜と、
前記Niメッキ膜と前記Auメッキ膜との間に介在し、Au、Pd及びCoを含有する合金膜であって、真空雰囲気中で加熱されてなる合金中間膜と、を備え、
前記バレルは、
Au又はAuを含有する貴金属合金で形成される円筒体からなることを特徴とする請求項1に記載のコンタクトプローブ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117882(P2011−117882A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277159(P2009−277159)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(390026859)理化電子株式会社 (8)
【Fターム(参考)】