説明

コンディショニング済み血液組成物およびその製造方法

本発明は、誘発された因子およびサイトカイン、特にインターロイキン−6を含むコンディショニング済み血液組成物の製造方法、ならびにこの方法によって製造可能なコンディショニング済み血液組成物、およびヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するための調整済み血液組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘発された因子またはサイトカインを含むコンディショニング済み(Konditionierter)血液組成物の製造方法、ならびにヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するためのコンディショニング済み血液組成物、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血液または血清の中に含まれる血液成分、とりわけエリスロポエチン、インスリン、またはインターフェロンなどの、タンパク質、因子、またはサイトカインが、治療または予防に有効であることが知られている。インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)などの既知の因子は、炎症を引き起こすプロセスの作用を阻止する。さらに、このような血液成分の一部は、血液組織自体によって産生されるか、または血球から血液の血漿相内に分泌されることが知られている。
【0003】
因子またはサイトカインなどの特定の血液成分の産生または放出は、例えば動物またはヒトの体から採取した全血をインキュベーションすることによって増加させることができる。インキュベーション後には、しばしばインキュベーションされた血液中に、特定の因子がより高い濃度で存在する。これらの血液成分はその後、必要に応じて単離することができる。また誘発された因子を含む血液は、細胞状の構成要素を取り除いて、いわゆる誘発された血清として、動物またはヒトの体内に(再)投与することができる。
【0004】
因子またはサイトカインなどの血液成分の産生または放出を増加させる工程を「誘発」という。全血中の血液成分を誘発するための既知の方法は基本的に、動物またはヒトの体から全血を採取し、その後、硫酸クロムで処理した特殊なガラスビーズが入っている改変された使い捨て注射器内で、特定の時間の間、インキュベーション条件下でインキュベートすることである(Meijerら、Inflamm. res. 52(2003):1〜4)。次に細胞状の構成要素を分離し、これにより幾つかの因子またはサイトカインが誘発されたコンディショニング済み血清組成物が得られる。これに基づきヒトの静脈全血から、抗炎症性のサイトカインであるインターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)、インターロイキン−4(IL−4)、およびインターロイキン−10(IL−10)の割合を、新鮮に採取した全血に比べて増加させた血清が得られる。その際、全血のインキュベーション時間は24時間であり、インキュベーション温度は約37℃である。
【0005】
このように製造された血清組成物は、様々な炎症性疾患および自己免疫疾患、例えば関節リウマチの治療のために使用される。このようなコンディショニング済み血清組成物を局所投与および/または全身投与することにより、例えば関節リウマチを緩和または治癒させ得ることが明らかである。しかしながら、この治療の効果には改善の余地がある。
【0006】
それだけでなく、例えば筋肉損傷など、少なくとも動物モデルでは、IL−1Raその他のものなどの組換えサイトカインを局所投与または全身投与することで治療可能なさらなる疾患がある。この場合、既知の方法で製造可能な血清組成物は、効果を示さないか、または十分には示さない。さらに、筋肉損傷は、他でもないスポーツ医学の領域にあることが多い。というのも筋肉損傷は、スポーツによって生じる病気または傷害の最大30%を占めている。筋肉損傷の90%超は、筋肉の挫傷または極端な伸展負荷によって生じる。これらの傷害は規則的に強い痛みをもたらし、続いてその後のトレーニングをできなくする、もしくはその後スポーツを短期的または永続的にできなくする。このため現在の技術には改善の余地がある。
【0007】
ウマでの深刻な疾患は、慢性または周期性の眼炎(ウマ再発性虹彩炎、ERU)である。現在の技術水準でのこの慢性炎症に関する推測は、いわゆるレプトスピラに対するアレルギー、ならびに急性または慢性のレプトスピラ感染が、慢性眼炎の発症に重要な意味をもつというものである。この寄生生物に関するドイツでの感染率は最大80%である。感染した動物の一部に様々な病像がはっきりと現れており、その中には慢性眼炎も含まれる。その際、発症に関しては、その動物の免疫系がレプトスピラを寄生生物として許容するか否かが重要であるらしい。
【0008】
ウマの場合、腱鞘の激しい炎症または刺激から跛行が生じる可能性がある。その他に、腱組織内の変性変化も跛行の原因となり得る、いわゆる「コア病変」がある。腱組織内の変性変化は続いて、激しい炎症反応を生じさせる。一般的に炎症および跛行の症状は、糖質コルチコイド(コルチゾン)、セルマセレート(Zellmazeraten)(エーセル(ACell)(登録商標))、血小板濃縮液(オステオキン(Osteokin)(登録商標)、マゼラン(Magellan)(登録商標)など)、もしくは骨髄または脂肪組織由来の細胞製剤(「幹細胞」)によって処置される。
【0009】
神経性皮膚炎の病像は、免疫系の過剰反応によって引き起こされる。しかしながら現在頻繁に適用されているコルチゾン含有軟膏による治療は、幾つかの副作用を伴う。
【0010】
さらに集団内でしばしば、たいていは未知の由来による神経系の炎症、または刺激、興奮が発生する。その際、しばしば生じる総体的症状は背痛である。この場合、炎症の原因としての痛みのせいで、鎮痛剤投与による、または(トリアムシノロンなどの)糖質コルチコイドによる、対症状的な処置しかできないことがしばしばある。
【0011】
子宮内膜症は、子宮内膜由来の細胞または組織が腹腔内で定着し、そこでたいていは良性の腫瘍になる疾患である。この腫瘍はたいていホルモンの影響を受けやすく、ホルモンの状態に応じて強い痛みを発する。手術による切除またはホルモン治療により、この病気に関連する苦痛を取り除くことができる。しかしながら、ぶり返しおよび再発に至るのが普通である。別の器官と癒着し、かつ慢性的な強い痛みを発するほどに、腫瘍が慢性化する場合がある。総体的症状は、しばしば強い鎮痛剤でしか我慢できなくなる。思春期から閉経までの全ての女性の約10%が子宮内膜症に罹り、程度の差はあるが強い症状を発生させる。この疾患は、極端な場合には不妊に至る可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このため、前述の疾患ならびに血液内に存在する因子またはサイトカインによって治療することができるさらなる疾患を効果的に治療するための、より良い、別の、容易に製造可能な作用物質組成物およびその製造方法に対する要求がある。なかでも本発明の基礎となる技術的課題は、特定の誘発された因子またはサイトカインを含み、かつ治療または予防のために効果的に使用可能なコンディショニング済み血液組成物を製造するためのより良い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
基礎となる技術的課題は基本的に、血液由来のコンディショニング済み血液組成物の製造方法の提供によって解決され、この方法は少なくとも以下のステップを含む:
ステップ(a)では、血液を、好ましくは静脈全血を、ヒトまたは動物の体から既知の方法で、好ましくは静脈穿刺によって新鮮に採取する。好ましくはすぐに次のステップ(b)において、血液組成物内の因子またはサイトカインを誘発するために、つまり血液組織内のそのような因子またはサイトカインの産生および放出を刺激するために、採取した血液を少なくとも1つの改変された容器内でインキュベートする。本発明によれば、改変された容器内で血液をインキュベートする際の温度は10℃〜40℃であり、好ましくは25℃〜40℃であり、さらに好ましくは約37℃である。ステップ(c)では、特定の誘発された因子またはサイトカインが豊富なコンディショニング済み血液組成物が、改変された容器内に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明によれば、血液をインキュベートする際、少なくとも1つの改変された容器を使用し、この容器は、インキュベートする血液1mLにつき内表面積が少なくとも約100mm/mL以上、特に104mm/mL以上、123mm/mL以上、131mm/mL以上、224mm/mL以上、または283mm/mL以上であることを特徴とする。好ましい変形形態では、容器は約200mm/mL〜約750mm/mL、特に好ましくは約250mm/mL〜約650mm/mLの内表面積を有している。
【0015】
容器の充満容量は、5mL以上、10mL以上、50mL以上、60mL以上、または100mL以上であることが好ましい。例えば約50mLの血液を採取してインキュベートすることが企図される場合、改変された容器の内表面積は、本発明によれば少なくとも約6,600mm(66cm)、好ましくは約10,000mm〜約37,500mm(100cm〜375cm)であるべきである。例えば約10mLの血液を採取してインキュベートすることが企図される場合には、改変された容器の内表面積は、本発明によれば少なくとも約2,300mm(23cm)、好ましくは約2,500mm〜約7,500mm(25cm〜75cm)であるべきである。
【0016】
容器の「内表面積」とは、容器の内側の、インキュベーションの間、コンディショニングされる対象の血液組成物と接触している、つまり基本的に血液組成物によって濡れている表面積と解釈される。
【0017】
つまり本発明は、ヒトまたは動物の体から採取した血液を、特殊な、内表面積200mm/mL以上での特定の表面積指数を備えた改変された容器内でインキュベートすることを企図する。発明者たちには意外であったが、本発明に基づく手法により、比較的短い時間の後には既に、特定の誘発された因子が高い割合で含まれるコンディショニング済み血液組成物が、改変された容器内に得られ、この血液組成物内には、例えばIL−6因子が高い濃度で存在している。さらに、本発明による手法は意外にも、予防および治療に高い有効性を有する血液組成物を生じさせる。そして本発明により得られたコンディショニング済み血液組成物を、血清組成物として、病気に罹った生物体内に、もしくは病気に罹った器官内または器官表面上に投与することで、炎症性関節疾患、ウマの眼炎、腱損傷、神経損傷、子宮内膜症、神経性皮膚炎、および筋肉損傷などを有効に治療することができる。
【0018】
本発明に基づく手法により、ヒトの供血者から新鮮に採取された全血から、例えばIL−6が2,000pg/mL超の割合で存在するコンディショニング済み血液組成物を得ることができる。これに対し未コンディショニングの全血中のIL−6の割合は、約0.5pg/mL〜約15pg/mLである。つまり本発明により、一般的に約200倍〜約4,000倍のIL−6含有率増加が達成される。
【0019】
特に注目すべき因子IL−6の他に、コンディショニング済み血液組成物中には、因子またはサイトカインなどの治療および予防に有効なさらなる成分が高い割合で得られる。この中には、既知の因子IL−4、IL−10、およびIL−1Raの他に、意外にもインターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−1(IL−1)、とりわけIL−1β、腫瘍壊死因子(TNF)、インスリン様増殖因子(IGF)、形質転換増殖因子(TGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、および肝細胞増殖因子(HGF)などの因子も含まれる。つまり、本発明により製造可能なコンディショニング済み血液組成物中には、有利にも、効果的に誘発された様々な因子またはサイトカインの「カクテル」が存在する。理論に結び付けることはできないが、まさに本発明により獲得された因子およびサイトカインの「カクテル」が、治療および予防に有効性の高い作用物質組成物である。
【0020】
これに関し、上述の作用物質は、血液組成物中で小胞、微小胞、またはエキソソームの形でも存在することができる。小胞または微小胞は、細胞より小さい構成要素であって、とりわけ免疫細胞の膜表面によって被覆され得るものと解釈される。エキソソームは、細胞より小さい構成要素であって、ナノメートル単位の小胞状の構造をもち、いわゆる「多小胞体」(multivesicular bodies)の陥入によって、および免疫細胞による分泌によって発生するものと解釈するべきである。
【0021】
本出願では「血液組成物」を、因子およびサイトカインなどのタンパク質から選択される少なくとも1つの成分を含む血液、とりわけ血漿、血清、および血球から成る組成物と解釈する。本出願では、血液組成物は血清組成物とも解釈される。血清組成物は、とりわけ血清組成物が細胞状の構成要素を(もう)含んでいないことによって、血液組成物と区別される。コンディショニング済み血清組成物は、本発明により獲得されたコンディショニング済み血液組成物から得られ、例えば血液組成物から細胞状の構成要素を遠心分離、濾過、または別の適切な手段によって分離することで、血漿および血清構成要素から成る、細胞のない、少なくとも誘発された因子およびサイトカインを含む溶液を獲得することによって得られる。
【0022】
これに基づき好ましい実施形態では、さらなるステップにおいて細胞状の構成要素を、得られたコンディショニング済み血液組成物から完全またはほぼ完全に分離することにより、コンディショニング済み血清組成物を得る。このコンディショニング済み血清は、本発明により獲得された血液組成物と同様に使用することができ、一般的には血液組成物と同一の本発明による技術的利点を実現する。当業者は、コンディショニング済み血清組成物またはコンディショニング済み全血組成物を、適用範囲および合目的性に応じて使用するであろう。好ましくは、当業者はコンディショニング済み血清組成物を使用するであろう。
【0023】
血液のインキュベーションは、少なくとも1つの改変された容器内で、因子またはサイトカインの誘発が十分に進行するまで実施することが好ましい。基本的にインキュベーションン開始時点から、血液組織によって、誘発された因子またはサイトカインが産生および分泌され、これにより誘発された因子またはサイトカインの有効な量が、コンディショニング済み血液組成物中に蓄積される。
【0024】
本発明の一実施形態では、血液組成物中でのIL−6の発生が、成果の高い十分に進行した誘発を知らせる。その際特に、IL−6の割合は少なくとも30pg/mLである。血液組成物中に少なくとも30pg/mLのIL−6が存在するまで、改変された容器内でインキュベーションすることが好ましい。さらに好ましい変形形態では、血液組成物中に少なくとも200pg/mL、好ましくは500pg/mL、特に好ましくは1,000pg/mL存在するまでインキュベートする。
【0025】
さらなる実施形態では、36時間以下の時間でインキュベーションを行う。さらなる実施形態では、9時間以下の時間でインキュベーションを行う。さらなる変形形態では、2時間以上かつ最大36時間、好ましくは最大9時間の時間でインキュベーションを行う。
【0026】
さらなる実施形態では、血液のインキュベーションを低い酸素分圧(pO)下で実施する。特に、インキュベーション中の酸素分圧は5kPaより低く、好ましくは3kPaより低い。好ましい変形形態では、血液のインキュベーションを改変された容器内で、酸素遮断下で実施する。
【0027】
好ましい実施形態では、改変された容器が、その内側に、大きな表面積をもつ特別な構造物を有しており、このため容器の(外側の)形状から本来的に生じる内表面積が、特別な構造物によって拡大される。この特別な構造物による表面積の拡大は、好ましくは10%〜約200%であり、一変形形態では10%〜100%である。この構造物には、好ましくは球体および繊維などの大きな表面積/体積比率を有する構造物が含まれるが、粉末および細粒などの別の粒子、またはそのような構造物の組合せも含まれる。これらの構造物の表面は平滑であることが好ましい。代替的に、幾つかの場合には粗い表面を備えた構造物を用いることができる。
【0028】
当業者は、内部構造物の数および形状を、適用範囲および合目的性に応じて選択するであろう。その際、本発明に基づき企図された表面積/体積比率(表面積指数)を得られるように、加える内部構造物の表面積と改変される容器の内表面積との合計を互いに適合させるよう、加える内部構造物の形状および数を選択することは自明である。
【0029】
好ましくは、改変された容器は非発熱性の内表面を有する。好ましくは、改変された容器は発熱物質を含まない材料から組み立てられる。
【0030】
球体、繊維、粉末、細粒、またはそれらの混合物などの粒子状の内部構造物を使用する場合、これらの内部構造物は、金属、金属酸化物、またはプラスチック、およびそれらの混合物から選択される材料を含むか、または好ましくはそのような材料から成る。これに関する好ましい例は、ガラス、鋼玉、石英、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、およびポリプロピレン、ならびにそれらの混合物である。特に好ましいのはホウケイ酸ガラスである。これらの材料は発熱物質を含まないことが好ましい。
【0031】
好ましくは、少なくとも1つの改変された容器がその内部にガラス球体を、特に好ましくは発熱物質を含まないホウケイ酸ガラスから成るガラス球体を含んでおり、このガラス球体は0.5mm〜5mm、好ましくは1.5mm、2.5mm、または3.5mmの(平均)直径を有している。特に好ましくは、改変される容器に、容器の収容量に応じてガラス球体を約10個〜500個封入する。例えば容器が約50mLの血液を収容することが企図される場合、好ましくは約30個〜300個の球体を、特に約50個〜250個の球体を入れるべきであり、この球体は好ましくは3.5mmの直径を有している。
【0032】
特に好ましい実施形態では、注射器、採血管、または血液バッグなどの輸血医学から既知の採血用または血液保存用の容器を使用することが好ましく、この容器が、前述のような内部構造物を特定の割合で加えられることによって改変され、これにより拡大された内表面積をもつ改変された容器が得られる。これに応じて本発明は、コンディショニング済み血液組成物を製造するために、本発明に基づく表面積指数での大きな内表面積を備えており、球体、繊維、粉末、細粒、粒子、またはそれらの組合せから選択される内部構造物を含む少なくとも1つの改変された容器を使用することを企図する。
【0033】
もちろん当業者は、本発明に従って使用可能であり、拡大された内表面積をもつ改変された容器を得るため、別のまたは追加的な手段を取ることもできる。さらなる好ましい実施形態では、容器の内壁に隆起、くぼみ、および/または突出部を有することで、本発明により企図される表面積/体積比率(表面積指数)を達成する容器が企図される。
【0034】
好ましい実施形態では、改変された容器が弾力性のある容器壁を有しており、この容器壁は好ましくは、動物またはヒトの体からの空気を含まない血液の採取を可能にし、このとき、基本的にまずは真空である改変された容器が、血液が流れ込んではじめて拡張することより、容器内に望ましくない空気空間が発生し得ない。改変された容器内の、容器の内表面積を拡大させるための内部構造物の数および表面積が、弾力性のある容器の最大容量を基準とするのではなく、むしろインキュベートする血液組成物の体積を基準とすることは自明である。
【0035】
そのような弾力性のある容器は、輸血医学において供給される血液バッグから選択されることが好ましく、その血液バッグは1個、2個、3個、または複数個バッグシステムであることが好ましい。1個バッグシステムが、一般的に充填または排出用に少なくとも1つの開口部を備えていることを特色とする一方で、2個、3個、および複数個バッグは、複数のバッグが連結して配置されており、好ましくはチューブ接続によって互いに繋がっている。このようなバッグは、容易な方法で互いに溶着させた2つの弾力性のあるフィルムから構成されることが好ましい。
【0036】
特に好ましい実施形態では、本発明により使用される少なくとも1つの改変された容器は、本発明により選択された数および種類の粒子、好ましくはガラス球体を入れることによって改変された血液バッグまたは血液バッグシステムである。
【0037】
この容器は好ましくは、新鮮に採取された血液中の血液構成要素を分けるための、遠心分離機用の2室の血液バッグシステムとして使用されるようなバッグシステムである。本発明に基づく容器を、好ましくはガラス球体を入れることにより改変すると、この容器内で、コンディショニング済み血液組成物を製造するための本発明による方法を実施することができる。続いて血液バッグシステム内で、コンディショニングされた血液からの血液成分が分画され、そのシステムから「固体の」血液構成要素のないコンディショニング済み血清組成物が得られる。
【0038】
好ましい2室の血液バッグシステムは、少なくとも1つの一次容器および少なくとも1つの二次容器を含んでおり、それらの容器が、連結している容器システムを形成する。一次容器および二次容器は、少なくとも1つの特に閉鎖可能な移行部を介して連絡している。本発明に関して「一次容器」は、好ましくは容器、つまり貯蔵器と解釈され、その中に、コンディショニングされる対象の、かつその後で場合によっては個々の成分に分画される血液組成物が入れられ、インキュベートされ、かつ場合によっては第1の分画が施される。特に好ましくは、一次容器、二次容器、および移行部は、目的に合うように支持板に固定されている。バルブ、コック、および/または栓として形成することができる少なくとも1つの遮断部によって、移行部を閉鎖可能であることが特に好ましい。「二次容器」は、好ましくは容器、つまり貯蔵器と解釈され、その中に、場合によっては完全または部分的に一次容器内で個々の成分に分画された液体または懸濁液が、完全または部分的に入れられ、かつ第2の分画に供される。これらの容器のそれぞれが、特に血液成分を導入するため、つまり入れるまたは再投与するため、かつ/または血液成分を導出するため、つまり採取するため、それぞれ少なくとも1つの特に閉鎖可能な排出部および/または引込部を備えていることが好ましい。ガラス球体などの本発明による追加的な内部構造物は、一次容器内に設けられているか、またはその中に入れられていることが好ましい。
【0039】
好ましい実施形態では、遠心分離機のカップ内に、遠心分離によりコンディショニング済み血清組成物から固体の血液構成要素を分離するためのバッグまたは血液バッグシステムを取り付ける。このバッグは、好ましくは弾力性のあるバッグである容器が、遠心分離の際に容器壁を部分的および/または完全に遠心分離機のカップの内壁に添わせるように伸びるよう形成されることが好ましい。好ましくは無菌カップを使用する。遠心分離中の容器壁および内包された細胞の伸張負荷が減少されることが特に有利である。遠心分離機のカップの好ましい使用によって、機械的に比較的軽く、比較的薄く、およびあまり堅固でない壁材料も、好ましい弾力性のあるバッグのために使用できるようになる。
【0040】
この方法の好ましい実施形態では、インキュベートされる血液組成物は同種異系の血液組成物であり、好ましくは全血の形でヒトまたは動物の供血者から採取され、かつ本発明による方法を実施した後、コンディショニング済み血液組成物として、好ましくはコンディショニング済み血清組成物としてヒトの供血者に投与することができる血液組成物である。一変形形態では、血液組成物は自己由来であり、つまり供血生物と受血生物が同一である。この特に好ましい変形形態では、自家供血の全ての利点が効力を発揮し得る。当業者は、適用および合目的性に応じて供血者の種類および同一性を選択するであろう。その際一般的には、自家供血の選択に重要な既知の基準および利点を考慮することができる。
【0041】
代替的な変形形態では、血液組成物は異種である。つまり血液組成物は異種の生物から採取される。好ましくは、このために動物の供血生物、例えばブタから、未コンディショニングの血液組成物を全血の形で採取し、かつ本発明よる方法を実施した後、コンディショニング済み血液組成物を、別の種類に属するウマ、ヒト、またはスポーツ選手などの治療する対象の個体内に投与する。
【0042】
本発明のさらなる態様は、本発明による方法によって製造可能な、または好ましくは本発明による方法によって製造されるコンディショニング済み血液組成物の提供である。本発明によれば、この血液組成物はヒトまたは動物の体の疾患を治療、緩和、治癒、または予防するために使用することができる。本発明によればこの血液組成物は、本発明による方法を実施した際に誘発された因子であるインターロイキン−6を、少なくとも30pg/mL、好ましくは200pg/mL超、1,000pg/mL超、5,000pg/mL超、10,000pg/mL超、好ましくは30pg/mL〜20,000pg/mL含んでいる。本発明に基づく方法により製造可能なコンディショニング済み血液組成物が、誘発された因子としてのインターロイキン−6の他に、さらなる誘発された因子を有することは自明である。意外にも、まさに本発明により獲得された、誘発された因子組成物の「カクテル」が、本発明による利点および作用を有することを示すことができた。
【0043】
コンディショニング済み血液組成物は、インターロイキン−6(IL−6)の他に、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−10(IL−1)、腫瘍壊死因子(TNF)、インスリン様増殖因子(IGF)、形質転換増殖因子(TGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、および肝細胞増殖因子(HGF)から選択される少なくとも1つのさらなる成分を有することが好ましい。
【0044】
一変形形態では、コンディショニング済み血液組成物がインターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)を30pg/mL〜50,000pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物がインターロイキン−4(IL−4)を2pg/mL〜100pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物がインターロイキン−13(IL−13)を2pg/mL〜100pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物がインターロイキン−1(IL−1)を5pg/L〜1,000pg/Lの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物がインターロイキン−10(IL−10)を5pg/L〜1,000pg/Lの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物が腫瘍壊死因子(TNF)を5pg/mL〜1,000pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物がインスリン様増殖因子(IGF)を100pg/mL〜15,000pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物が形質転換増殖因子(TGF)を10pg/mL〜20,000pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物が血小板由来増殖因子(PDGF)を100pg/mL〜10,000pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物が線維芽細胞増殖因子(FGF)を50pg/mL〜10,000pg/mLの割合で含んでいる。さらなる変形形態では、コンディショニング済み血液組成物が肝細胞増殖因子(HGF)を50pg/mL〜10,000pg/mLの割合で含んでいる。
【0045】
意外にも、まさに本発明により獲得されたコンディショニング済み血液組成物内に存在する誘発された因子およびサイトカインのカクテルが、予防および治療に特に効果的に作用する。本発明によれば、コンディショニング済み血液組成物またはそれから獲得されたコンディショニング済み血清組成物は、ヒトまたは動物の体の一連の病気または疾患の場合に特に効果的に使用され、これにより病気または疾患を治療、治癒、または緩和し、もしくはこれらの病気および疾患を予防する。
【0046】
本発明によれば、本発明により獲得されたコンディショニング済み血液組成物または血清組成物は、筋肉疾患の場合、筋骨格系の疾患の場合、ならびに神経系の炎症および刺激の場合、とりわけ腱損傷、腱鞘炎、靱帯損傷、腱変性、および靱帯変性などの腱器官の疾患の場合に、ならびにアレルギー、食品または薬に対する不適合、免疫系の関与を伴う疾患、とりわけ自己免疫疾患、特にリウマチ様の自己免疫疾患、ならびに神経性皮膚炎に由来する疾患の速い治癒、緩和、もしくは予防ために、および慢性創傷、特に糖尿病性潰瘍の治療および治癒のために、子宮内膜症の治療のために、ならびにウマの慢性眼炎の治療および腱の再生または腱の刺激による痛みの改善のために使用される。筋肉疾患の中には、筋肉の手術の際の筋肉損傷により発生した筋肉疾患、筋肉変性の際、筋肉欠損の際、筋肉萎縮の際、筋肉ヘルニアの際、筋ジストロフィーの際の、筋繊維断裂に関連して発生した筋肉疾患、もしくは筋肉疲労または筋肉痛が原因とされ得る筋肉疾患が含まれる。
【0047】
このため本発明は、ヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するための、本発明による血液組成物の使用、それから獲得されたコンディショニング済み血清組成物の使用に関する。治療、緩和、または治癒、または予防することができるヒトまたは動物の体の疾患は、リウマチ様の疾患、筋骨格系の病気、ならびに免疫系に関する病気、ならびに急性または慢性の痛みを生じる病気から選択することが好ましい。
【0048】
それぞれの疾患を適切に治療するため、当業者が、本発明によるコンディショニング済み血液組成物を投与するための目的に合った投薬方法をその都度選択することは自明である。コンディショニング済み血液組成物または血清組成物は、体内に、および/または関節、筋肉、腱、皮膚、または神経などの罹患器官内に注射または注入されることが好ましく、つまり静脈内に、動脈内に、皮下に、皮内に、結膜下に、局所に、鞘内に、脊髄周囲に、中枢神経の中および/または傍に、末梢神経の中および/または傍に、関節内に、および/または筋肉内に注射または注入されることが好ましい。
【0049】
このため本発明のさらなる態様では、本発明によるコンディショニング済み血液組成物を、ヒトまたは動物の体の疾患の治療または予防のための医薬を製造するために使用する。これらの疾患の特徴は上に示されている。
【0050】
さらにまた、本発明による血液組成物の使用は、治療用でない化粧品として、いわゆる「アンチエイジング」の手段としても企図される。全身的および/または局所的な投与によって、年齢の肉体的な付随現象、とりわけ前述の症状を緩和または治癒させることができ、それどころか皮膚、髪、爪の外見をも改善させることができるのは明らかである。本発明のさらなる態様では、本発明による血液組成物を、化粧品を製造するために使用する。
【0051】
最後に、本発明は上に特徴を示したヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するための方法にも関しており、この方法は少なくとも次のステップ、つまり本発明によるコンディショニング済み血液組成物を治療または予防に有効な用量でヒトまたは動物の体内に投与することを含む。用量および投薬方法は、当業者が適用範囲および合目的性に基づき選択する。
【0052】
以下の実施例および図面により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は制限的なものではない。当業者は、これらの実施例から本発明の根本原理およびそれと結び付いた技術的利点を認識するであろう。当業者は、根本原理および技術的利点を、ここでは明確に論じられていない別の領域に転用することができる。
【実施例】
【0053】
実施例1:全血からコンディショニング済み血液組成物を取得するためのキット
使い捨て用の滅菌可能なキットは以下を含んで構成される:
− 血液をインキュベートするため、および固体の血液構成要素を分離するための、直径3.5mmのホウケイ酸ガラス球体(約200個)が入ったバッグシステム(図1および2、表1)
− 採血用注射器内に抗凝固剤を吸い上げるための20ゲージの針
− 採血のための60mL注射器
− 採血のための翼状針
− コンディショニング済み血清組成物を収容するための60mL注射器
全てのコンポーネントが使い捨てであり、包装およびガンマ線滅菌されており、かつ全体として滅菌した外箱を備えている。
【0054】
表1および表2に、使用するコンポーネントの材料をリストアップする。
【表1】

【表2】

【0055】
実施例2:全血からのコンディショニング済み血清組成物の取得
(a)採血
採血は60mLルアーロック式注射器で行う。注射器を60mLのマークまでゆっくりと全血で満たす。注射器内に実際に正確に60mL存在するように、気泡のない充填に注意を払う。
【0056】
(b)バッグシステムの充填およびインキュベーション
注射器の中身を、ゆっくりかつ完全に、引込/排出部(11)を介して、弾力性のあるバッグとして形成された容器(10)内に入れる。容器内には、ホウケイ酸ガラスから成る直径3.5mmの球体(Duran(登録商標))が約200個入っている。
【0057】
充填後、注射器をねじって外し、バッグの接続部(12)を新しい閉鎖キャップで再び閉鎖する。
【0058】
容器(10)を約37℃で9時間〜36時間の間、好ましくは吊るして置いておく。その際、採取した血液が、内表面積を拡大する球体を備えた容器内でインキュベートされる。拡大された内表面積は、インキュベートする血液1mLにつき約350mmである。
【0059】
(c)固体の血液構成要素の分離
遠心分離機のカップ内にある滅菌した遠心分離機の懸架具内に、容器(10)を取り付ける。正しい重量バランスをチェックした後、遠心分離を約2,500U/minで約3分間実施する。液体の血液構成要素から細胞状の血液構成要素を分ける遠心分離の終了後、容器(10)と共に遠心分離機のカップを慎重に取り外す。
【0060】
遠心分離により、血球、主に赤血球(EZ)が容器(10)の下部内に集まった。遠心分離は血塊から血清を分ける。血清が第2のバッグ内に送られ、続いて場合によっては2回目の遠心分離が実施される。引込/排出部(11)の取出用接続部を介して、コンディショニング済み血清組成物を取り出す。次に、満たされた注射器をねじって外す。
【0061】
実施例3:コンディショニング済み血清組成物の分析
4つの実験バッチA、B、C、D、およびEを作成し、それらを全血インキュベーションのために同じ手法で使用した。
【0062】
バッチAでは、基本的に実施例1および実施例2に記載した市販の血液バッグ(OSTEOKIN、Orthogen社、デュッセルドルフ)に、直径3.5mmのホウケイ酸ガラスから成る球体(Duran(登録商標))を210個装入した。内部構造物の追加により、改変された容器の内表面積は全体で約18,125mmである。50mLの血液をインキュベートする場合、改変された容器の表面積/体積比率(表面積指数)は約360mm/mLである。
【0063】
さらなるバッチBでは、バッチAと同じ血液バッグシステムを使用し、その中に追加的な内部構造物は入れなかった。装入されていない血液バッグシステムは約10,000mmの内表面積を有する。これは50mLの血液の場合、約200mm/mLの表面積指数に相当する。
【0064】
さらなるバッチCでは、バッチAと同じ血液バッグシステムを使用し、直径3.5mmのガラス球体を780個装入した。これで内表面積は全体で約40,000mmである。血液の充填量が50mLの場合、表面積指数は約800mm/mLになる。
【0065】
さらなるバッチDでは、基本的にシリンダ状の形状を有する異なる採血システムに、直径1.5mmのガラス球体を36個装入した。これで内表面積は全体で約4,050mmである。血液の充填量が10mLの場合、表面積指数は約405mm/mLになる。
【0066】
さらなるバッチEでは、基本的にシリンダ状の形状を有する採血システムに、直径3.5mmのガラス球体を62個装入した。これで内表面積は全体で約6,200mmである。血液の充填量が10mLの場合、表面積指数は約620mm/mLになる。
【0067】
それぞれ全ての実験バッチで静脈全血を新鮮に採取し、それぞれバッチA、バッチB、およびバッチCの容器内に入れた。容器は約37℃で24時間(t=24h)インキュベートされた。さらに対照として、それぞれ約10mLの同じ供血者の新鮮な全血を採血直後に総合的に考察した(t=0h)。
【0068】
インキュベーション時間が経過した後、血液組成物内の血液成分IL−1Ra、IL−6、TNFa、およびIL−1βを定量化した。
【0069】
結果:表3に結果を示す。
【表3】

【0070】
バッチAおよびバッチBが、血液組成物における分析した因子の明らかな誘発を示した一方で、バッチCの場合、インキュベーション中に溶血が起こった。誘発の強さが表面積指数に依存することは明らかであり、要するに比較的大きな表面積指数(比較的大きな内表面積)の場合、誘発されたサイトカインが比較的大きな割合で得られる。同時に表面積指数には上限があり、つまり臨界値を超えると溶血する。溶血した血液組成物は、その後使用できなくなる。表面積指数が臨界値に近い大きな値の場合、24時間のインキュベーション時間を6時間〜9時間まで短縮することによって、溶血を一定の制限内で抑制することができる(データは示されていない)。
【0071】
実施例4:コンディショニング済み血液組成物のサイトカインプロフィール
さらなるバッチでは、シリンダ状の採血容器内に、内表面積を拡大するため、直径1.5mmのホウケイ酸ガラスから成るガラス球体(Duran(登録商標))を36個入れた。新鮮に採取した全血50mLをインキュベートした。表面積指数は約405mm/mLであった。
【0072】
採血容器中で、血液を約37℃で3時間、9時間、および24時間インキュベートした。続いてサイトカインFGF、IL−4、IL−10、IL−1β、TNF、IL−6、IL−1Ra、およびTGFβの含有率を決定した。
【0073】
結果:
3時間のインキュベーション後に既に、コンディショニング済み血液組成物内のサイトカイン含有率が明らかな上昇を示した。表4では、24時間後(t=24h)に測定した値を、採血直後(t=0h)に測定した値に対比させている。
【表4】

【0074】
実施例5:神経性皮膚炎の治療
神経性皮膚炎の治療のため、本発明により製造されたコンディショニング済み血液組成物を、注射の形で、また関節内注射として、患者に投与した。その際、コンディショニング済み血液組成物2mLを3週間にわたり、それぞれ2〜3日の間隔をあけて注射する。3日以内に、神経性皮膚炎の症状の改善が確認できた。約2.5カ月後の新たな突然の疾患再発も、3回の注射により高い成果をもって治療された。
【0075】
第1義的には(半月板における関節症および苦痛による)膝痛を治療するために関節内注射を用いた別の患者の場合、6回の注射の実施中に神経性皮膚炎の症状も改善された。それ以降、神経性皮膚炎の突然の再発はない。
【0076】
実施例6:神経系の炎症または興奮の治療
本発明により製造されたコンディショニング済み血液組成物のこの適用では、少なくとも6カ月前から慢性的に、放射状に引き起こされる背痛に苦しんでいた背痛の患者(n=30)を、神経根での局所注射(Kramerらに基づく硬膜外/硬膜周囲の注射)によって治療した。痛みは数週間以内に改善され、かつその効果は平均して6カ月後もまだ歴然であった。その際、同じ注射技術により、比較物質として5mgまたは10mgの糖質コルチコイド(トリアムシノロン)で治療した患者に比べて、少なくとも同等または少し改善された結果が生じた。
【0077】
実施例7:子宮内膜症の治療
痛みを伴う子宮内膜症に罹った患者(n=4)を、子宮内膜症によって引き起こされた腫瘍組織内および/または腹腔内に直接、本発明により製造されたコンディショニング済み血清4mLを腹膜内注射することによって治療した。まず激しい痛みのある状態で投薬の後、数時間以内に明らかに痛みが軽減した。この効果はその後も継続し、翌日にはほぼ完全に痛みから解放された。治療の継続としては、コンディショニングされた血清を1週間ごとにそれぞれ2mL皮下注射することで、引き続き治療を行った。痛みの再発または新たな発生は、これまでまだ観察されていない。本発明によるコンディショニング済み血液組成物の痛み抑制作用は、意外にも通常の鎮痛剤の作用を大幅に上回っている。
【0078】
実施例8:ウマの慢性眼炎
ウマの慢性眼炎(ウマ再発性虹彩炎、ERU)の治療のため、2つの異なる獣医診療所で治療した各3頭の計6頭のウマに対し、本発明によって製造されたコンディショニング済み血液組成物を、目の中(結膜下)に注射し、または目の中に滴下(局所に)した。治療したどの場合でも、最大10カ月の調査期間内に再発は確認できなかった。
【0079】
実施例9:ウマの腱の再生および腱の刺激による痛みの改善
コンディショニング済み血液組成物のさらなる適用では、腱鞘における血腫の形成を伴い、腱鞘の激しい炎症または刺激による跛行が生じたウマに対し、本発明によるコンディショニング済み血清を腱鞘内に3mLずつ注射することによって治療を行った。このためにまず第1のステップにおいて、組織への圧力を軽減し、かつ炎症反応を促進する物質を取り除くため、血腫が穿刺排液された。1回目の注射の後、1週間以内には跛行が、また第2週には確認可能な血腫量が、明らかに軽減した。4週間後、つまり腱鞘内への3回目および最後の用量の注射から1週間後には、ほぼ完全な寛解が跛行にも血腫にも確認できた。
【0080】
いわゆる「コア病変」および/または「表在性病変」、つまり腱組織内の変性変化部への同様の注射によっても、臨床的な総体的症状が明らかに寛解した。幾つかの場合には、コラーゲン繊維による欠損の再補充が観察された。
【0081】
実施例10:ウマの創傷の治療
複数の関節に麻痺のある14歳の去勢したオスウマが、何週間も前から左前の蹄の上部での継続的な創傷に苦しんでいた。この創傷上に本発明によるコンディショニング済み血液組成物を滴下した(約1×3cmの面積に3滴)。続いて創傷に包帯をした。4週間後(1週間ごとの3回の処置の後)の最終評定によれば、開いた創傷の面積が約3分の1だけ減少していたことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】好ましくは半円形の下部(14)および好ましくは先が次第に細くなっている上部(15)を備え、容器の漏斗状の上部(15)内に通じる引込部および/または排出部(11)を少なくとも1つ備えた、弾力性のあるバッグとして形成された容器(10)から成る本発明による装置の好ましい実施形態の概略図である。容器10の空洞内に通じている引込部および/または排出部の下端に、好ましくはリップ弁(13)、つまりフラッタバルブが設けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液からのコンディショニング済み血液組成物の製造方法であって、以下のステップ:
(a)ヒトまたは動物の体から血液を採取するステップ、
(b)血液をコンディショニングするため、内表面積を有する改変された容器内で10℃〜40℃の温度で血液をインキュベートし、その際、因子が誘発され、この場合、前記改変された容器はインキュベートされる血液1mLにつき104mm〜750mmの内表面積を有するステップ、および
(c)前記改変された容器内に、誘発された因子を含むコンディショニング済み血液組成物が得られるステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
血液組成物内で1mLにつき少なくとも30pgの割合のインターロイキン−6(IL−6)の発生が、誘発の成功を知らせる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インキュベーション時間が2時間〜36時間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
インキュベーション中の酸素分圧(pO)が5kPaより低い、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
さらなるステップにおいてコンディショニング済み血液組成物から細胞状の構成要素を分離して、コンディショニング済み血清組成物を得る、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
改変された容器が大きな表面積を備えた内部構造物を有しており、前記構造物は球体、繊維、粉末、細粒、粒子、およびそれらの組合せから選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
内部構造物が、ガラス、鋼玉、石英、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの、金属、金属酸化物、およびプラスチックまたはそれらの組合せから選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
改変された容器が、その内部に直径0.5mm〜5mmのガラス球体を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
改変された容器が、動物またはヒトの体から空気を含まずに血液を採取するため、弾力性のある容器壁を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
容器が輸血医学用の血液バッグから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
容器が、1個、2個、3個、および複数個バッグシステムから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
弾力性のある容器壁が低い酸素透過性を有する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
血液組成物が同種異系である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
血液組成物が自己由来である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
血液組成物が異種である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するための、30pg/mL〜20,000pg/mLのインターロイキン−6(IL−6)を含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法によって製造可能な血液組成物。
【請求項17】
インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)、
インターロイキン−4(IL−4)、
インターロイキン−13(IL−13)、
インターロイキン−1(IL−1)、
インターロイキン−10(IL−10)、
腫瘍壊死因子(TNF)、
インスリン様増殖因子(IGF)、
形質転換増殖因子(TGF)、
血小板由来増殖因子(PDGF)、
線維芽細胞増殖因子(FGF)、および
肝細胞増殖因子(HGF)
から選択される少なくとも1つのさらなる成分を含む、請求項16に記載の血液組成物。
【請求項18】
小胞、微小胞、エキソソーム、iRNA、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項16または17に記載の血液組成物。
【請求項19】
インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)が30pg/mL〜50,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜18に記載の血液組成物。
【請求項20】
インターロイキン−4(IL−4)が2pg/mL〜100pg/mLの量で存在する、請求項16〜19に記載の血液組成物。
【請求項21】
インターロイキン−13(IL−13)が2pg/mL〜100pg/mLの量で存在する、請求項16〜20のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項22】
インターロイキン−1(IL−1)が5pg/mL〜1,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜21のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項23】
インターロイキン−10(IL−10)が5pg/mL〜1,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜22のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項24】
腫瘍壊死因子(TNF)が5pg/mL〜1,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜23のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項25】
インスリン様増殖因子(IGF)が100pg/mL〜15,0000pg/mLの量で存在する、請求項16〜24のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項26】
形質転換増殖因子(TGF)が10pg/mL〜20,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜25のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項27】
血小板由来増殖因子(PDGF)が100pg/mL〜10,0000pg/mLの量で存在する、請求項16〜26のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項28】
線維芽細胞増殖因子(FGF)が50pg/mL〜10,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜27のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項29】
肝細胞増殖因子(HGF)が10pg/mL〜10,000pg/mLの量で存在する、請求項16〜28のいずれか1項に記載の血液組成物。
【請求項30】
筋肉疾患、
腱器官の疾患、
アレルギー、
食品に対する不適合、
薬に対する不適合、
免疫系の関与を伴う疾患、
乾癬、および
糖尿病性潰瘍などの慢性創傷
から選択されるヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するための、請求項16〜29のいずれか1項に記載の血液組成物の使用。
【請求項31】
筋肉疾患が、筋肉損傷、筋肉の手術、筋線維断裂、筋肉変性、筋肉欠損、筋肉萎縮、筋肉ヘルニア、筋ジストロフィー、筋肉疲労、または筋肉痛である、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
筋肉疾患の治療が筋肉組織の再生を含む、請求項30または31に記載の使用。
【請求項33】
神経性皮膚炎、
神経系の炎症および刺激、
子宮内膜症、
ウマの慢性眼炎
から選択されるヒトまたは動物の体の疾患を治療または予防するための、請求項16〜29のいずれか1項に記載の血液組成物の使用。
【請求項34】
血液組成物が、適宜、医薬用賦形剤と共に体内または罹患器官内に注射される、請求項30〜33のいずれか1項に記載の使用。
【請求項35】
請求項30〜33に記載のヒトまたは動物の体の疾患の治療または予防のための医薬を製造するための、請求項16〜29のいずれか1項に記載の血液組成物の使用。
【請求項36】
化粧品としての、請求項16〜29のいずれか1項に記載の血液組成物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−525297(P2009−525297A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552751(P2008−552751)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/000903
【国際公開番号】WO2007/090569
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(500069334)オルソゲン アーゲー (3)
【Fターム(参考)】