説明

コンデンサマイクロホン用チップ、コンデンサマイクロホンおよびその製造方法

【課題】シリコン基板をマイクロ加工して形成されるコンデンサマイクロホン用チップの微細化および高感度化を図る。
【解決手段】マイクロホン用チップのシリコン基板をほぼ六角形状、望ましくは正六角形状をなすようにダイシングし、背気室を円形または、正六角形とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサマイクロホン用チップ、コンデンサマイクロホンおよびその製造方法に係り、特にシリコンウェハを用いて製造されるコンデンサマイクロホン用基板のダイシングに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレット・コンデンサ・マイクロホン(ECM)は、コンデンサの一方の電極にエレクトレット膜を配置し、このエレクトレット膜に電荷を与え音波による音圧によって変動するコンデンサの容量変化を電気信号として検出する電気音響変換器である。このエレクトレット・コンデンサ・マイクロホンは、半永久的な分極をもつエレクトレット膜を利用することにより、コンデンサの直流バイアスを不要とした、小型の音響電気変換装置として、注目されている。
【0003】
従来のECMは機械的な部品を金属ケースの中に挿入することで組み立て、金属ケースをカーリングと呼ばれる金属加工法で封じるように構成されていたため、かしめを容易にするために円柱形状を構成しているものが多い。
【0004】
このような状況の中で、近年、機械部品を組立てることによって形成するのではなく、シリコン基板をマイクロマシニング加工することによって、半導体プロセスのみで超小型のコンデンサマイクロホンを形成する技術(MEMS技術)が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
いわゆるMEMS(微小電気機械システム)素子の製造技術を用いて製造されるシリコンのコンデンサマイクロホンは、「シリコンマイクロホン(あるいは、シリコンマイク)」と呼ばれており、小型化、薄型化が進展する携帯電話端末等に搭載するためのECMの製造技術として近年特に注目されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
ここで、シリコンマイクロホンは、前述したように半導体プロセス技術を用いて、シリコン基板を加工することにより製造されるものである。従って、シリコンマイクロホン用チップは、通常、シリコンウェハに素子形成を行った後に、シリコンウェハのダイシング加工により分割されるため、四角形に形成される。
【0007】
ところで、シリコン基板上の振動膜は、シリコン基板が裏面から切り取られて露呈せしめられた領域、すなわち背気室の形状によって、実際に振動してマイク感度に寄与する有効部分が決定される。このような感度の観点からも、振動膜面積を大きくするために背気室を四角形に形成し、振動膜の有効部分は四角形に形成される。さらにまた、四角形に背気室を形成する理由として、シリコンの加工法の一つである異方性のウエットエッチングを用いることができることがあげられる。(例えば、特許文献6参照。)
【0008】
また、四角形のシリコン基板にシリコンをドライエッチングすることによって円形の背気室を形成し、振動特性を高めている例もある。
【0009】
また、特許文献4では、シリコン基板を加工せず、コンデンサを形成し、その一方の形状を正多角形に形成する方法が行われている。
【0010】
ダイシング工程において、従来のダイシングブレードによる切断に替えて、ウェハの内部に集光点を合わせたレーザ光を入射し、ウェハ内部に多光子吸収による改質領域を形成して個々のチップに分割するレーザ加工方法に関する技術が提案されている(例えば、特許文献5参照) 。
【0011】
ところで、ECMの音響感度は、以下のような式で計算される。
音響感度は振動膜の面積に比例し、固有振動数に反比例する。
特許文献6に記載の技術のように、背気室が四角形に形成されるとき、振動膜は、背気室の上部で支持されるため、振動モードは四角形の振動モードとなる。このとき、膜面積が同一の場合は、四角形の方が円形より膜の固有振動数が高くなり感度が低くなる。
【0012】
しかしながら、特許文献3に記載の技術のように、四角形のシリコン基板に、背気室を円形に形成すると、四角形のシリコン基板の面積が同一の場合に、形成できる背気室の面積が、円形のほうが四角形より小さくなり、感度が低くなる。
【0013】
従来、四角形以外のチップ形状としては、樹脂封止における熱収縮応力あるいは熱膨張応力を分散し、パッケージクラックを防止するために、六角形あるいはそれ以上の多角形あるいは円形としたものが提案されている(特許文献7参照)。
【0014】
つまり、ダイシングによって半導体ウェハから半導体チップを切り出す工程における収率を考慮すると、円は無駄となる領域が大きく収率が低い。また、実際には、ダイシングのための描画工程における位置ずれの問題もあり、かかる構成では、十分な作業性と、収率との両方を満足するには困難であった。
【0015】
【特許文献1】特開平11−88992号公報
【特許文献2】特開2005−20411号公報(図1)
【特許文献3】特表2000−508860号公報(図1A,図1B)
【特許文献4】特開2001−231099号公報(図10,11)
【特許文献5】特開2002−192367号公報
【特許文献6】特開2002−27595号公報(段落番号〔0030〕〜〔0035〕、図1、図3)
【特許文献7】特開平5−101997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、背気室の形状を円形にすると振動モードが円形の振動モードとなり、四角形の場合に比べて高感度化をはかることができる。
しかしながら、シリコン基板が四角形の場合、円形の背気室を形成しうる大きさを考慮すると十分に大きく形成することができないという問題がある。
また、実際にシリコンウェハをダイシングしてコンデンサマイクロホン用チップを形成しようとする場合、四角形以外の形状では余剰部ができ、収率の低下を招くだけでなく、実際のダイシングが極めて難しいという問題があった。特に円形のチップを形成しようとすると、周縁すべてがダイシングラインとなり、個々のチップの周りにダイシングラインを描画する必要がある。また加工作業が極めて難しく、位置ずれが生じやすく、生産作業性がよくないという問題があった。特にシリコン基板の裏面側から背気室などの凹部を形成した構造の場合、わずかな位置ずれにより、特性の劣化を招くのみならず、クラックの発生を招き易く製造歩留まりが大幅に低下するという問題がある。
【0017】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、シリコン基板をマイクロ加工して形成されるコンデンサマイクロホン用チップの微細化および高感度化を図ることを目的とする。
また本発明は、収率の低下を防ぎ、生産性に優れたコンデンサマイクロホン用チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、マイクロホン用チップのシリコン基板をほぼ六角形状、望ましくは正六角形状をなすようにダイシングし、背気室を円形または、正六角形とする。
【0019】
すなわち、本発明は、シリコン基板上に、可動電極としての振動膜と、前記振動膜に対してエアギャップを介して相対向するように配置され、音孔を有する固定電極と、前記振動膜の背面側が露呈するように、前記シリコン基板の一部が、除去され、背気室を形成するコンデンサマイクロホン用チップであって、前記シリコン基板が正六角形を構成する。
この構成により、シリコン基板が正六角形をなすように形成しているため、シリコンウェハ上に最密充填により、隙間なく配置した状態で形成することができる。従って、ダイシングラインで、分割することができるため、生産性が向上する。また、エッジがすべて鈍角であるため、応力歪の発生はより低減される。
また、ダイシングに際しても、各辺が120度づつ回転した状態となっているため、レーザ描画を120度づつずらして3回おこなうことによってダイシングが可能となる。
【0020】
また、本発明は上記コンデンサマイクロホン用チップにおいて、前記背気室は、前記シリコン基板の中央が円形状に切り取られて形成されたものを含む。
この構成により、振動膜の振動モードを円形とすることができ、高感度化を図ることが出来る。
【0021】
また、本発明は上記コンデンサマイクロホン用チップにおいて、前記背気室は、前記シリコン基板の中央が正六角形に切り取られて形成されたものを含む。
この構成により、面積率が良好で、小型でかつ高感度化をはかることができる。望ましくは、外形と背気室の対応する辺とが平行となるように構成することにより、より面積率の増大を図ることが出来、高感度化をはかることが可能となる。
【0022】
また、本発明は上記コンデンサマイクロホン用チップにおいて、前記背気室は、前記シリコン基板の中央が多角形に切り取られて形成されたものを含む。
この構成により、より面積率の向上をはかることが可能となる。
【0023】
また、本発明は上記コンデンサマイクロホン用チップを実装したコンデンサマイクロホンである。
この構成により、小型でかつ高感度のコンデンサマイクロホンを提供することが可能となる。
【0024】
また、本発明は、シリコンウェハ表面に、振動膜となる多層膜を形成する工程と、前記多層膜上に犠牲層を介して固定電極を形成する工程と、前記シリコンウェハを裏面側から、前記振動膜が露呈するまで異方性エッチングし、背気室を構成する複数の凹部を形成する工程と、前記犠牲層をエッチング除去し、エアギャップを形成する工程と、前記シリコンウェハを、前記凹部を中央にもつように六角形状にダイシングし、六角形状を有するコンデンサマイクロホン用チップを形成するダイシング工程とを含む。
この構成により、効率よくダイシングをおこなうことができ、収率を高めつつ、高感度のコンデンサマイクロホン用チップを提供することが可能となる。
【0025】
また、本発明は、上記コンデンサマイクロホンの製造方法において、前記ダイシング工程は、レーザ描画により、前記コンデンサマイクロホン用チップの1辺を形成する第1の方向に、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによりレーザ描画を行う第1の描画工程と、前記第1の方向に対して120度の角度を持つ第2の方向に、前記1辺の終点と、当該描画における始点が一致するように、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによりレーザ描画を行う第2の描画工程と、前記第2の方向に対して120度の角度を持つように、前記1辺の終点と、当該描画における始点が一致するように、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによりレーザ描画を行う第3の描画工程とを含むものを含む。
この構成により、極めて容易にレーザ描画をおこなうことができ、効率よくダイシングをおこなうことが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のコンデンサマイクロホン用チップは、シリコン基板をマイクロマシニング法により加工することによって形成されるコンデンサマイクロホン用チップの音響感度を高め、高効率で信頼性の高いコンデンサマイクロホン用チップを提供することが可能となる。
本発明によれば、チップ面積を一定とするとき、より高感度のコンデンサマイクロホン用チップを提供することが可能となる。
さらにまた、音響感度を同一感度とするとき、チップ面積を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
本実施の形態のコンデンサマイクロホンを、図1乃至5に示す。図1乃至3は、本発明の実施の形態のシリコン基板をマイクロ加工して製造されるコンデンサマイクロホン用チップの形状を説明するための斜視図、上面図、断面図である。図4および図5は、本発明の実施の形態のシリコンマイクロホン用チップおよびこのシリコンマイクロホン用チップを搭載したエレクトレットマイクロホンの断面説明図である。
本実施の形態では、図1乃至4に示す正六角形状のシリコンマイクロホン用チップ43を、図5に示すように、実装基板42に搭載し、ワイヤボンディング法により電気的接続をおこなうとともに、シールドケース41内に収納したことを特徴とするものである。図1に示すように、固定電極31はシリコンマイクロホン用チップ43(シリコン基板34)と同心であってかつ各辺と平行となるように形成された六角形状をなすように形成されており、図示しないが、この固定電極と相対向するように同一形状をなす貫通孔がシリコンマイクロホン用チップ43の裏面側から形成されており、背気室38を構成している。
他の構造については通例の構造をなすように形成されている。
【0029】
このシリコンマイクロホン用チップ43は、図4に示すように、シリコン基板34と、この表面に形成された多結晶シリコン膜からなり、コンデンサの一極として機能する振動膜33と、エレクトレット膜(エレクトレット化対象の膜)としての無機誘電体膜32としての酸化シリコン膜と、酸化シリコン膜からなるスペーサ部37と、コンデンサの他極として機能する固定電極31とシリコン基板34をエッチングすることで形成される背気室38とを有する。固定電極31には、複数の音孔(音波を振動膜33に導くための開口部)35が設けられている。なお、参照符号36はエアギャップ、Hは電気的接続のためのコンタクトホールを示す。
【0030】
マイクロホンを構成する振動膜33、固定電極31、無機誘電体膜32は、シリコンの微細加工技術と、CMOS(相補型電界効果トランジスタ)の製造プロセス技術とを利用して製造され、いわゆるMEMS素子を構成するものである。
【0031】
図5は、シリコン基板を用いたエレクトレットマイクロホンの実装構造(ケース封入後の構造)を示す断面図である。図5において、図1乃至4と共通する部分には同じ参照符号を付してある。また、図5において、シリコンマイクロホン(半導体デバイス)チップ43は、簡略化して記載している(実際の構造は、図4に示すとおりである)。
【0032】
図5に示すように、プラスチックまたはセラミックの多層配線構造を有する実装基板42上に、シリコンマイクロホン(半導体デバイス)チップ43とその他の素子である電子部品(FET、抵抗、アンプ等)45が実装されている。
【0033】
実装基板42の裏面には、接地パターン46と、マイク信号出力パターン47が配置されている。図5に示したように、シリコンマイクロホンチップ43は、実装基板42上に実装されている。コンデンサの一極をなす振動膜33は、スペーサ部37を構成する絶縁膜に設けられたコンタクトホールHからボンディングワイヤ44aを介してその他の電子部品45に接続される。さらに電子部品45は、ボンディングワイヤ44cを介して、実装基板42上の配線パターン60bに電気的に接続されている。コンデンサの他極をなす固定電極31は、ボンディングワイヤ44bを介して、実装基板上の配線パターン60aに電気的に接続されている。また、各配線パターン60a,60bは各々、実装基板の内部の配線L1,L2を介して、実装基板42の裏面に設けられた接地パターン46およびマイク信号出力パターン47と電気的に接続されている。図5では電気的接続の流れを理解し易くするために矢印で模式的に示した。
【0034】
シールドケース41は、エレクトレット化処理が済んだ後に、実装基板42上に取り付けられる。このシールドケース41には、音波を導く音孔としての広い開口部49が設けられている。
シリコン基板34は正六角形であり、背気室38も同様に正六角形に形成されている。
【0035】
図6は、シリコン基板サイズと背気室サイズの関係を説明するための図を示す。背気室38の上部に露呈する振動膜33は、振動膜の振動に有効な部分である。
【0036】
図6(a)は、シリコン基板34の形状が六角形で、背気室38の形状も六角形である場合で、図6(b)は、従来のシリコン基板34が四角形で背気室38の形状も四角形である場合である。(a)と(b)のシリコン基板の面積が同一で、さらにシリコン基板34底部の背気室を囲む枠の幅Aが同一の場合、背気室38の上部によって規定される振動膜33の振動に有効な面積は(a)の方が5%程度大きくなる。さらに、振動膜の固有振動数は、同面積の場合四角形よりも六角形の方が5%程度低くなっている。
以上の二つの効果により、(a)の方が(b)より10%程度感度が高くなる。
【0037】
図7は、コンデンサマイクロホン用チップの、シリコンウェハ上での配置図である。正六角形は、四角形を配列した場合と同様に隙間なく並べることができ、無駄な部分がない。たとえば、正八角形では、ウェハ面積の30%が無駄になり、円形では、直線にダイシングができないばかりか、ウェハ面積の25%が無駄になる。
【0038】
次にこのコンデンサマイクロホン用チップの製造工程、特に、コンデンサマイクロホンチップを製造するための、ダイシング方法について説明する。
【0039】
まず、図8(a)に示すように、シリコン基板34を構成するためのシリコンウェハ表面に、酸化シリコン膜などの絶縁膜Iを介して、振動膜33を構成する多結晶シリコン膜を形成する。
【0040】
続いて、図8(b)に示すように、エレクトレット膜32を構成する酸化シリコン膜を順次積層した後、これらをパターニングする。このとき振動膜およびエレクトレット膜32は、正六角形をなすようにパターニングされる。
【0041】
続いて、図8(c)に示すように、振動膜33およびエレクトレット膜32を構成する酸化シリコン膜を覆うようにパッシベーション膜Pとしての窒化シリコン膜を形成する。
【0042】
続いて、図8(d)に示すように、エアギャップ36を形成するための犠牲層およびスペーサとなる酸化シリコン膜(BPSG膜)37を形成した後、固定電極31を構成する多結晶シリコン層を形成し、これをフォトリソグラフィによりパターニングし、図8(e)に示すように、音孔35を形成する。そして、この音孔35からエッチャントを供給することにより、音孔35の下にある酸化シリコン膜(犠牲層)をエッチングし、エアギャップ36を形成する。このとき振動膜33およびエレクトレット膜32を構成する酸化シリコン膜を覆うように形成されたパッシベーション膜Pがエッチングストッパとして作用し、エアギャップが形成される。またここで音孔35のない部分はエッチングされずに残り、スペーサ37として作用する。
【0043】
なお図示はしないが、この犠牲層のエッチングに先立ち、振動膜33としての多結晶シリコン膜をエッチングストッパとして、シリコン基板の裏面側からエッチングを行い、背気室38を形成する。
最後に、ワイヤボンディングのためのコンタクト孔H(図4参照)を形成する。
このようにして素子領域の形成されたシリコンウェハに対し、レーザを用いてダイシングをおこなうことにより、シリコンマイクロホンチップに分割する。
【0044】
ダイシングに際しては、図9に示すように、まず、レーザ描画により、前記コンデンサマイクロホン用チップの1辺を形成する第1の方向に、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することにより第1のレーザ描画領域R1を形成する(第1の描画工程)。
【0045】
続いて、図9に示すように、第1の方向に対して120度の角度を持つ第2の方向に、前記1辺の終点と、当該描画における始点が一致するように、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによってレーザ描画を行うことにより第2のレーザ描画領域R2を形成する(第2の描画工程)
【0046】
そして最後に図9に示すように、第2の方向に対して120度の角度を持つ第3の方向に、前記1辺の終点と、当該描画における始点が一致するように、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによってレーザ描画を行うことにより第3のレーザ描画領域R3を形成する(第3の描画工程)。
【0047】
このように、本発明のダイシング方法によれば、3回の位置決めで、平行にレーザ描画をおこなうことにより、極めて容易にかつ効率よくダイシングをおこなうことができる。そしてウェハ面積にまったく無駄がなく形成できるため収率がほぼ100%と極めて高いものとなっている。
【0048】
本実施の形態1の方法では、六角形のチップが図7に示したように敷き詰められているので、通常のようにブレードダイシングすることができない。そのため、レーザーによってシリコンを切断する方法を用いる。図9にR1,R2,R3で示す直線に沿ってレーザーを走査して、さらにレーザー照射を一定の時間間隔でON、OFFする。図9に示す実線部のみを切断するように調節することにより、極めて容易に作業性よく正六角形をなすようにシリコンコンデンサ用チップが形成され、高感度のコンデンサマイクロホン用チップを提供することが可能となる。
【0049】
(実施の形態2)
次に本発明の実施の形態2について説明する。
図10、11、12は、本発明のコンデンサマイクロホン用チップの形状を説明するための斜視図、上面図、断面図である。
前記実施の形態1ではコンデンサマイクロホン用チップは正六角形で構成され背気室も同心状に形成された正六角形で構成したが、本実施の形態では、コンデンサマイクロホン用チップを構成するシリコン基板34は正六角形であり、背気室38は円形に形成されていることを特徴とする。他は実施の形態1と同様に形成されている。
【0050】
図12は、シリコン基板サイズと背気室サイズの関係を説明するための図を示す。背気室38の上部の形状によって、振動膜33の振動に有効な部分の形状が規定される。
図13(a)は、シリコン基板34の形状が六角形で、背気室38の形状は円形である場合で、図13(b)は、従来のシリコン基板34が四角形で背気室38の形状も四角形である場合の説明図である。
【0051】
これら(a)と(b)の比較から明らかなように、(a)と(b)のシリコン基板サイズが同一で、さらに枠の幅Aが同一の場合、背気室38の上部によって規定される振動膜33の振動に有効な面積は(a)の方が10%程度大きくなる。さらに、振動膜の固有振動数は、同面積の場合四角形よりも円形の方が10%程度低い。
【0052】
従ってこの構造によれば正六角形の(a)は四角形である(b)と感度は同程度となるが、円形の方が製造歩留まりが良好である。
【0053】
(実施の形態3)
次にこのコンデンサマイクロホン用チップの製造工程の変形例について説明する。
前記実施の形態1ではBPSG膜を犠牲層として用い、音孔からのエッチャントの浸入によりスペーサを残すようにエアギャップを形成したが、本実施の形態ではレジストを犠牲層として用いた例について説明する。
【0054】
まず、図14(a)に示すように、シリコン基板34を構成するためのシリコンウェハ表面に、酸化シリコン膜などの絶縁膜Iを介して、振動膜33を構成する多結晶シリコン膜を形成する。
【0055】
続いて、図14(b)に示すように、エレクトレット膜32を構成する酸化シリコン膜を順次積層した後、これらをパターニングする。このとき振動膜およびエレクトレット膜32は、正六角形をなすようにパターニングされる。この上層にレジストを塗布し犠牲層Rを形成する。
【0056】
続いて、図14(c)に示すように、エアギャップ36を形成するための犠牲層Rを形成する。この後、スペーサとなる酸化シリコン膜37を形成した後、固定電極31を構成する多結晶シリコン層を形成し、これをフォトリソグラフィによりパターニングし、図8(d)に示すように、音孔35を形成する。そして、この多結晶シリコン層のパターニング工程で用いたレジストを剥離する際、犠牲層Rを除去し、エアギャップ36を形成する。
【0057】
この後、ワイヤボンディングのためのコンタクト孔H(図4参照)を形成する。
なお図示はしないが、犠牲層の除去によるエアギャップの形成に先立ち、振動膜33としての多結晶シリコン膜をエッチングストッパとして、シリコン基板の裏面側からエッチングを行い、背気室38を形成する。
このようにして素子領域の形成されたシリコンウェハに対し、レーザを用いてダイシングをおこなうことにより、シリコンマイクロホンチップに分割する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、シリコン基板を微細加工して形成される半導体チップを用いたシリコンマイクロホン用チップにおいて、同一面積における高感度化を実現するという効果を奏し、移動体通信機に搭載される超小型のシリコンマイクロホン、シリコンマイクロホンを構成マイクロホン用チップ、ならびに、その製造に使用される装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1のシリコンマイクロホン用チップの斜視図
【図2】本発明の実施の形態1のシリコンマイクロホン用チップの上面図
【図3】本発明の実施の形態1のシリコンマイクロホン用チップの断面図
【図4】本発明の実施の形態1のシリコン基板をマイクロ加工して製造されるシリコンマイクロホン用チップの構造を説明するためのデバイスの断面図
【図5】シリコン基板を用いたエレクトレットマイクロホンの実装構造(ケース封入後の構造)を示す断面図
【図6】シリコン基板サイズと背気室サイズの関係を説明するための比較図
【図7】シリコンウェハ上での配置図
【図8】本発明の実施の形態1のシリコンマイクロホンチップの製造工程を示す説明図
【図9】ダイシング方法を説明するための図
【図10】本発明の実施の形態2のシリコンマイクロホン用チップの斜視図
【図11】本発明の実施の形態2のシリコンマイクロホン用チップの上面図
【図12】本発明の実施の形態2のシリコンマイクロホン用チップの断面図
【図13】シリコン基板サイズと背気室サイズの関係を説明するための図
【図14】本発明の実施の形態3のシリコンマイクロホンチップの製造工程を示す説明図
【符号の説明】
【0060】
31 固定電極
32 誘電体膜(無機誘電体膜)
33 振動膜電極(振動膜)
34 シリコン基板(シリコンダイヤフラム)
35 固定電極に設けられる音孔(開口部)
36 犠牲層のエッチングにより形成されるエアギャップ
41 シールドケース
42 プラスチックまたはセラミックからなる実装基板
43 シリコン基板を用いた半導体チップ(シリコンマイクロホンチップ)
44(44a,44b) ボンディングワイヤ
45(45a,45b) 電子部品(FET、抵抗、アンプ等)
46 接地パターン
47 マイク信号出力パターン
49 マイクパッケージの音孔(開口部)
L1,L2 実装基板内の配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上に、可動電極としての振動膜と、前記振動膜に対してエアギャップを介して相対向するように配置され、音孔を有する固定電極とを形成すると共に、
前記振動膜の背面側が露呈するように、前記シリコン基板の一部が、除去され、背気室を形成するコンデンサマイクロホン用チップであって、
前記シリコン基板がほぼ正六角形を構成するコンデンサマイクロホン用チップ。
【請求項2】
請求項1記載のコンデンサマイクロホン用チップであって、
前記背気室は、前記シリコン基板の中央が円形状に切り取られて形成されたコンデンサマイクロホン用チップ。
【請求項3】
請求項1記載のコンデンサマイクロホン用チップであって、
前記背気室は、前記シリコン基板の中央がほぼ正六角形に切り取られて形成されたコンデンサマイクロホン用チップ。
【請求項4】
請求項1記載のコンデンサマイクロホン用チップであって、
前記背気室は、前記シリコン基板の中央が多角形に切り取られて形成されたコンデンサマイクロホン用チップ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のコンデンサマイクロホン用チップを実装したコンデンサマイクロホン。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のコンデンサマイクロホン用チップの製造方法であって、
シリコンウェハ表面に、振動膜となる多層膜を形成する工程と、
前記多層膜上に犠牲層を介して固定電極を形成する工程と、
前記シリコンウェハを裏面側から、前記振動膜が露呈するまで異方性エッチングし、背気室を構成する複数の凹部を形成する工程と、
前記犠牲層をエッチング除去し、エアギャップを形成する工程と、
前記シリコンウェハを、前記凹部を中央にもつようにほぼ正六角形状にダイシングし、六角形状を有するコンデンサマイクロホン用チップを形成するダイシング工程とを含むコンデンサマイクロホンの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のコンデンサマイクロホンの製造方法であって、
前記ダイシング工程は、
レーザ描画により、前記コンデンサマイクロホン用チップの1辺を形成する第1の方向に、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによりレーザ描画を行う第1の描画工程と、
前記第1の方向に対して120度の角度を持つ第2の方向に、前記1辺の終点と、当該描画における始点が一致するように、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによりレーザ描画を行う第2の描画工程と、
前記第2の方向に対して120度の角度を持つように、前記1辺の終点と、当該描画における始点が一致するように、前記1辺の長さに相当する長さを、前記長さに相当する長さ分を隔てつつ、レーザをオンオフ制御することによりレーザ描画を行う第3の描画工程とを含むコンデンサマイクロホンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−11154(P2008−11154A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179359(P2006−179359)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】