説明

コンデンサ充放電式エンジン点火装置

【課題】過回転領域で間引き失火制御を繰り返し行うことにより、エンジン回転数のバラツキを少なくしてエンジンの振動を低減又は緩和でき、エンジン個々の高速回転性能にマッチングした過回転防止制御を採用できるようにする。
【解決手段】ソースコイル4からの正の半波出力により充電される充放電用コンデンサ7と、オン時に充放電用コンデンサ7の電荷を点火コイル3を経て放電させる放電用スイッチング素子8と、ソースコイル4の負の半波出力によりエンジン回転数に応じた点火時期に放電用スイッチング素子8をオンさせる点火時期制御手段14と、エンジンの過回転時に失火させてエンジン回転数を下げる失火制御手段15とを備え、失火制御手段15はエンジンが正の整数である複数のM回回転する毎に、M未満の正の整数である1又は複数のN回失火させる間引き失火制御を繰り返すようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ充放電式エンジン点火装置に関し、エンジン回転数が過回転状態のときにエンジンがM回回転する毎にN回失火させる間引き失火制御を繰り返すようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
2サイクルエンジン等の小型汎用エンジンに搭載するコンデンサ充放電式エンジン点火装置は、エンジンの回転に同期して発生するソースコイルの正の半波出力により充放電用コンデンサを充電し、ソースコイルの負の半波出力によりエンジン回転数に応じた点火時期にスイッチング素子をオンさせて、充放電用コンデンサの電荷を点火コイルの一次側に放電させることによりエンジンを点火し、またエンジン回転数が過回転領域に入れば、過回転防止制御が働いてエンジンの過回転を防止するようにしている。
【0003】
この過回転防止制御には、従来、エンジン回転数が過回転領域になったときにスイッチング素子に印加される点火信号をバイパスさせ充放電用コンデンサの放電を阻止して完全に失火させるようにしたもの(特許文献1の従来技術)と、エンジンの通常運転時の上限回転数以上になれば、その上限回転数から失火回転数までは徐々に点火時期を遅らせ、失火回転数に達すれば完全に失火させるようにしたもの(特許文献1の段落0004)とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−001651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の過回転防止制御には、エンジン回転数が過回転領域まで上昇すれば直ちに完全に失火させるか、又は点火時期を遅らせる制御を経由してその後に完全に失火させるかの違いはあるが、何れにしろエンジン回転数が過回転領域にある間は毎周期完全に失火させているため、完全失火中とその前後との間でのエンジン回転数のバラツキが非常に大きく、エンジンの振動が著しく増大する欠点がある。このため従来のエンジン点火装置では、エンジン個々の高速回転性能にマッチングした過回転防止制御を採用することが困難である。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に鑑み、過回転領域で間引き失火制御を繰り返し行うことにより、エンジン回転数のバラツキを少なくしてエンジンの振動を低減又は緩和でき、エンジン個々の高速回転性能にマッチングした過回転防止制御を採用できるコンデンサ充放電式エンジン点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ソースコイルからの正の半波出力により充電される充放電用コンデンサと、オン時に前記充放電用コンデンサの電荷を点火コイルを経て放電させる放電用スイッチング素子と、前記ソースコイルの負の半波出力によりエンジン回転数に応じた点火時期に前記放電用スイッチング素子をオンさせる点火時期制御手段と、エンジンの過回転時に失火させてエンジン回転数を下げる失火制御手段とを備えたコンデンサ充放電式エンジン点火装置において、前記失火制御手段はエンジンが正の整数である複数のM回回転する毎に、M未満の正の整数である1又は複数のN回失火させる間引き失火制御を繰り返すようにしたものである。
【0008】
前記失火制御手段はエンジンのM回の回転回数をカウントするカウント部と、前記N回の失火回数を記憶する記憶部と、前記カウント部がM回をカウントする間に、前記記憶部に記憶されたN回だけ失火させる間引き失火制御部とを備えたものでもよい。前記失火制御手段はエンジン回転数が失火開始回転数を越えて失火終了回転数以下に戻るまでを前記間引き失火制御を行う過回転領域とし、前記失火終了回転数は前記失火開始回転数よりも大であることが望ましい。
【0009】
前記失火制御手段は失火制御中は前記放電用スイッチング素子のオンにより、前記失火制御を行うと同時に前記充放電用コンデンサの過充電を防止するようにしてもよい。前記失火制御手段はM回の内、M−N回の点火制御を先に行い、その後にN回の失火制御を行うようにしてもよい。前記失火制御手段はM−N回の点火制御の最後の点火制御から、エンジンのN回目の回転時に前記ソースコイルに正の半波出力が発生する前までの間、前記放電用スイッチング素子をオンさせるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過回転領域で間引き失火制御を繰り返し行うことにより、エンジン回転数のバラツキを少なくしてエンジンの振動を低減又は緩和でき、エンジン個々の高速回転性能にマッチングした過回転防止制御を採用できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すコンデンサ充放電式のエンジン点火装置の回路図である。
【図2】同ブロック図である。
【図3】同タイミングチャートである。
【図4】同タイミングチャートの説明図である。
【図5】同エンジン回転数の説明図である。
【図6】同フローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態を示すエンジン回転数の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。図1〜図6は本発明の第1の実施形態を例示する。図1はコンデンサ充放電式のエンジン点火装置を示し、このエンジン点火装置は、エンジンにより駆動される磁石式発電機1と、点火プラグ2に接続された点火コイル3と、磁石式発電機1のソースコイル4に発生する正の半波出力Vp(図3(A)参照)によりダイオード5,6を介して充電される充放電用コンデンサ7と、オン時に充放電用コンデンサ7の電荷を点火コイル3の一次側に放電させると共に間引き失火制御中にソースコイル4に発生する正の半波出力Vpをバイパスさせる放電用スイッチング素子8と、ソースコイル4に発生する負の半波出力Vn1,Vn2(図3(A)参照)によりダイオード9を介して充電される電源回路10と、ソースコイル4の正の半波出力Vpを波形成形する第1波形成形回路11と、ソースコイル4の負の半波出力Vn1,Vn2を波形成形する第2波形成形回路12と、電源回路10の電源電圧Vccにより動作するマイコン13とを備えている。
【0013】
波形成形回路11,12は第1,第2スイッチング素子11a,12aを有し、ソースコイル4の半波出力Vp,Vn1,Vn2を第1,第2スイッチング素子11a,12aのオン・オフによりパルスvp,vn1,vn2に波形成形する(図3(B)(C)参照)。
【0014】
マイコン13はRAM、ROM、CPU等を有し、図2に示すように、ソースコイル4の負の半波出力Vn1に基づいてエンジン回転数に応じた点火時期で放電用スイッチング素子8に点火信号(図3(E)参照)を出力する点火時期制御手段14と、エンジン回転数が過回転領域OT(図5参照)にあるときに、エンジンが複数のM回回転する毎にM回未満の1又は複数のN回失火させる間引き失火制御を繰り返す失火制御手段15とを備えている。
【0015】
点火時期制御手段14は負の半波出力Vn1の前後のパルスvn1間の回転周期Tによりエンジン回転数を検出する回転数検出部16と、この回転数検出部16で検出されたエンジン回転数に応じた点火時期を演算する点火時期演算部17と、その点火時期に応じてパルスvn1の立ち上がり時に短い点火信号(図3(E)参照)を出して放電用スイッチング素子8をオンさせる点火制御部18とを備えている。なお、放電用スイッチング素子8が点火信号によりオンしたときに、図3(D)に示すように充放電用コンデンサ7の電荷が放電して、点火プラグ2に発生するスパークによりエンジンが点火する。
【0016】
失火制御手段15はエンジンが過回転領域OTにあるときに、エンジンがM回回転する毎にN回失火させるN/Mの割合で間引き失火制御を繰り返すように構成されている。Mは正の整数である複数であり、NはM未満の正の整数である1又は複数である。なお、この実施形態では、エンジンが3回転する毎に2回の間引き失火制御を行うので、M=3、N=2となっている。
【0017】
この失火制御手段15は、回転数検出部16と、回転数検出部16で検出されたエンジン回転数が過回転領域OTにあるか否かを判定する過回転領域判定部19と、過回転領域OTでのエンジンのM回の回転回数を繰り返しカウントするカウント部20と、エンジンがM回回転する間のN回の失火回数を記憶する記憶部21と、カウント部20がエンジンのM回の回転回数をカウントする毎に、エンジンの回転回数が1回目(M−N回)のときにはエンジン回転数に応じて点火信号を出力してエンジンを点火し、その後にエンジンがN回回転するまで1回目の点火信号を出力して放電用スイッチング素子8のオン状態を継続してN回の失火制御を行う間引き失火制御部22とを備えている。
【0018】
各点火信号はソースコイル4の負の半波出力Vn1のパルスvn1の立ち上がり時に出力し、また間引き失火制御時には、図4(E)に示すように1回目の点火制御からエンジンがN回回転して、間引き失火制御への移行からエンジンのM回目の回転時にソースコイル4に正の半波出力Vpが発生する前までの間、1回目の点火時の点火信号をそのまま出力するようになっている。
【0019】
従って、放電用スイッチング素子8は1回目の点火以降の間引き失火制御中はオンしたままであり、ソースコイル4に正の半波出力Vpが発生しても、その正の半波出力Vpが放電用スイッチング素子8を経て流れるので、充放電用コンデンサ7は充電されず、1回目の点火後にエンジンが2回回転する間は失火したままとなる。
【0020】
過回転領域判定部19には図5に示すように失火開始回転数N1と失火終了回転数(点火復帰回転数)N2とが設定されており、回転数検出部16で検出されたエンジン回転数が失火開始回転数N1以上に上昇してから失火終了回転数N2以下に低下するまでの回転領域が過回転領域OTとなっている。失火開始回転数N1は通常回転領域の上限回転数付近に設定され、失火終了回転数N2は失火開始回転数N1よりも若干高く設定されている。因みにこの実施形態では、失火開始回転数N1は12000r/minであり、失火終了回転数N2は12500r/minである。
【0021】
このエンジン点火装置は次のように動作して、エンジン回転数が過回転領域OTになれば、N/Mの割合で間引き失火制御を繰り返す。即ち、エンジンの回転中はそのエンジン回転数に同期してソースコイル4に図3(A)に示すように負の半波出力Vn1、正の半波出力Vp、負の半波出力Vn2が繰り返し発生する。そして、ソースコイル4に正の半波出力Vpが発生すると、ダイオード5,6を介して充放電コンデンサ8が充電される。またソースコイル4に負の半波出力Vn1,Vn2が発生すると、ダイオード9を介して電源回路10が充電され、エンジンの1回転後にその電源電圧Vccの立ち上がりによってマイコン13が動作可能な状態になる。
【0022】
ソースコイル4の正の半波出力Vpは第1波形成形回路11の第1スイッチング素子11aのオン・オフにより、ソースコイル4の負の半波出力Vn1,Vn2は第2波形成形回路12の第2スイッチング素子12aのオン・オフにより、夫々図3(B)(C)に示すパルスvp,vn1,vn2に波形成形される。
【0023】
エンジンの回転中は点火時期制御手段14がエンジン回転数に応じた点火時期で点火信号を出力して放電用スイッチング素子8をオンさせて、エンジン回転数に適したタイミングで点火する。即ち、エンジンの回転中は回転数検出部16がエンジン回転数を常時検出しており、エンジンが1回転する都度、回転数検出部16が前後のパルスvn1間の回転周期Tを演算して回転数を検出する。そして、点火時期演算部17が点火時期制御テーブルの点火時期データを読み出して、そのときのエンジン回転数に応じた点火時期を演算するので、点火制御部18がパルスvn1の立ち上がり時に点火信号を出力して放電用スイッチング素子8をオンさせる。
【0024】
放電用スイッチング素子8がオンすると、充放電コンデンサ7の電荷が放電用スイッチング素子8、点火コイル3の一次側を経て放電され、その点火コイル3の二次側に高電圧が発生する。これによって点火プラグ2にスパークが発生してエンジンを点火する。
【0025】
従って、エンジンの通常回転中は、点火時期制御手段14が図3(E)に示すようにエンジン回転数に同期して点火信号を出力し、充放電用コンデンサ7が図3(D)に示すように充放電を繰り返してエンジンを点火する。
【0026】
このようなエンジンの運転中に負荷の急激な軽減等によってエンジン回転数が通常回転領域を越えて過回転領域OTまで上昇すれば、マイコン13が図6に示すフローチャートに従って間引き失火制御を行う。即ち、エンジンの運転中は回転数検出部16で検出されたエンジン回転数を読み込んでおり(ステップS1)、間引き失火制御へ移行したフラグがあるか否かを判断する(ステップS2)。
【0027】
そして、間引き失火制御への移行前であれば、エンジン回転数が失火開始回転数N1以上か否かにより間引き失火制御を開始するか否かを判断する(ステップS3)。そのときのエンジン回転数が失火開始回転数N1(=12000r/min)未満であれば、エンジン回転数が通常回転領域にあるので、負の半波出力Vn1のパルスvn1の立ち上がり時に短い点火信号を出力して、エンジン回転数に応じた点火時期で点火する通常の点火制御を継続する(ステップS4)。
【0028】
またエンジン回転数が失火開始回転数N1以上であれば(ステップS3)、間引き失火制御へ移行したフラグを立てた後(ステップS5)、エンジンの回転回数がM回中の1回目か否かを判断し(ステップS6)、1回目であれば回数カウントの1を加算した後(ステップS7)、図4(C)(E)に示すように負の半波出力Vn1のパルスvn1の立ち上がり時に点火信号を出力する。
【0029】
この点火信号により放電用スイッチング素子8がオンするので、エンジンの3回転中の最初の1回目は充放電コンデンサ7の電荷が放電され、そのときの回転数に応じた点火時期でエンジンを点火し、その後は間引き失火制御を行う(ステップS8)。
【0030】
この間引き失火制御中は図4(E)に示すようにエンジンがN回回転するまで点火信号を出力したままであるため、ソースコイル4に正の半波出力Vpが発生しても、その正の半波出力Vpはダイオード5,6、放電用スイッチング素子8を経て流れることになるので、図4(D)に示すように充放電用コンデンサ7は充電されない。
【0031】
間引き失火制御に移行した後のエンジンの回転回数が2回目になれば、既に間引き失火制御へ移行したフラグが立っているので(ステップS2)、エンジン回転数が失火終了回転数N2(=12500r/min)以下か否かにより失火制御を終了するか否かの判断を行う(ステップS9)。そして、この2回目のエンジン回転数が失火終了回転数N2よりも大であれば、ステップS6を経てステップS10に進み、そのときの回転回数が3回目(M回目)か否かを判断する。このときの回転回数は2回目であるので、回数カウントを1加算し(ステップS11)、間引き失火制御を継続(ステップS12)したままリターンに戻る。
【0032】
間引き失火制御でのエンジンの回転回数が3回目になれば(ステップS10)、回数カウントをリセットして1回目に戻し(ステップS13)、図4(E)に示すようにN回目の失火が終了するまで放電用スイッチング素子8のオンを継続させた後、次の正の半波出力Vpが発生するまでに点火信号の出力を停止させる(ステップS14)。
【0033】
点火信号の出力が停止すると、放電用スイッチング素子8がオフするため、その後にソースコイル4に発生する正の半波出力Vpによって、図4(D)に示すように次回の点火に備えて充放電用コンデンサ7が充電される。
【0034】
間引き失火制御でのエンジンの回転回数が4回目になれば、ステップS1、S2、S9を経て次の3回転の1回目と判断し(ステップS6)、回数カウントを1加算した後(ステップS7)、前述と同様に負の半波出力Vn1のパルスvn1の立ち上がり時点に点火信号を出力して、放電用スイッチング素子8のオンにより充放電用コンデンサ7の電荷を放電させてエンジンを点火する(ステップS8)。エンジンの回転回数が失火終了回転数N2以下に低下するまでの間は同様の制御を繰り返し、3回転毎に2回失火する間引き失火制御を繰り返す。
【0035】
間引き失火制御を繰り返す間に図5に示すようにエンジン回転数が失火終了回転数N2以下に低下すれば(ステップS9)、間引き失火制御へ移行したフラグを消して失火制御を終了し(ステップS15)、通常の点火制御に戻る(ステップS4)。
【0036】
このようにエンジン回転数が過回転領域OTにある場合に、エンジンがM回回転する毎にN回失火させる間引き失火制御を繰り返し行うことにより、毎周期完全に失火させる従来の失火制御に比較して、過回転領域OTとその前後の通常回転領域との間でのエンジンの回転のバラツキを少なくでき、その回転のバラツキに伴って発生していたエンジンの振動を低減又は緩和することができる。従って、エンジン個々の高速回転性能にマッチングした過回転防止制御を採用できる利点がある。
【0037】
またエンジン回転数が失火開始回転数N1以上に上昇してから失火終了回転数N2以下に低下するまでの過回転領域OTを判定するに当たって、その失火終了回転数N2を失火開始回転数N1よりも大にしているので、間引き失火制御に対してエンジン回転数の低下に多少の遅れがあっても、間引き失火制御によるエンジン回転数の下り過ぎを防止でき、通常回転領域の上限近くでエンジン回転数を安定させることができる。
【0038】
更に間引き失火制御中は放電用スイッチング素子8をオンさせるようにしているので、この放電用スイッチング素子8のオンにより、エンジンの点火を阻止する失火制御を行うことができると同時に、ソースコイル4に発生する正の半波出力Vpを放電用スイッチング素子8を経てバイパスさせることができ、これによって充放電用コンデンサ7の過充電を防止することができる。
【0039】
またエンジンが3回転する間の1回目は点火し、2回目、3回目の2回転分を失火させているので、放電用スイッチング素子8をオン・オフさせることにより、間引き失火制御と充放電用コンデンサ7の過充電の防止とを容易に行うことができる。即ち、エンジンの3回転の内の1回目、2回目に失火させて3回目に点火する場合には、放電用スイッチング素子8のオン・オフによる間引き失火はできず、また充放電用コンデンサ7の過充電を防止するために放電用スイッチング素子8とは別にバイパス用の素子が必要になる等、構成が非常に複雑になるが、そのような問題も解消することができる。
【0040】
図7は本発明の第2の実施形態を例示する。この実施形態は、エンジンの5回転(M回)毎に2回(N回)失火させる場合の間引き失火制御を示す。この場合には、エンジン回転数が過回転領域OTまで上昇して間引き失火制御に移行した後、図7(B)に示すようにエンジンの5回転の内、その1回目、2回目は通常と同様の短い点火信号を出力して点火制御を行い、3回目から5回目の3回は第1の実施形態と同様の制御を行う。これによって図7(A)に示すようにエンジンの5回転の内、最初の3回転は点火し、後の2回転は失火する間引き失火制御を行うことができる。
【0041】
従って、エンジンがM回回転する毎にN回失火させる間引き失火制御を繰り返す場合にも、そのM回、N回はエンジンの高速回転特性等を考慮して適宜決定すればよい。またエンジンがM回回転する間にN回失火させる場合に、その(M−N)回が2以上の複数回になる場合には、(M−N)回未満の1回又は複数回は通常の点火制御とし、(M−N)回からM回までのN回は第1実施形態と同様の制御を行えばよい。
【0042】
図8は本発明の第3の実施形態を例示する。この実施形態は、失火開始回転数N1を通常回転領域の上限値付近に設定し、失火終了回転数N2をその失火開始回転数N1よりも若干低く設定した場合を例示する。この場合には、エンジン回転数が失火開始回転数N1を超えてから失火終了回転数N2以下に低下するまでの間が過回転領域OTとなる。
【0043】
このようにエンジン回転数が失火開始回転数N1以上に上昇した後、N/Mの割合で間引き失火制御を行い、その間引き失火制御でエンジン回転数が失火開始回転数N1よりも下の失火終了回転数N2以下に低下したときに、その間引き失火制御を終了すれば、通常の点火制御に復帰した後にエンジン回転数が不測に上昇するようなことを防止できる。
【0044】
以上、本発明の各実施形態について詳述したが、本発明は各実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、間引き失火制御中に点火する際には、急激な馬力の低下を避ける上からは、そのときのエンジン回転数又は通常回転領域の上限付近回転数に適したタイミングで行うことが望ましい。しかし、間引き失火制御中での1回又は複数回の点火は、通常の点火時期に比較して遅角させて点火するようにしてもよい。
【0045】
失火開始回転数N1と失火終了回転数N2は略同じに設定してもよい。また実施形態ではソフト制御方式を採用しているが、ハード制御方式を採用してもよい。
【0046】
M回、N回は任意の数であり、実施形態に例示の回数に限定されるものではない。ただ間引き失火制御により過回転状態にあるエンジン回転数を通常回転領域の上限付近の高速回転に戻す関係から、M回は正の整数である複数、例えば2〜7回、望ましくは3〜5回程度、またN回はM回未満の正の整数である1又は複数、例えば1〜6回、望ましくは2〜4回程度とし、間引き失火の比率が1/3から半分又はそれ以上となる程度が適当である。
【符号の説明】
【0047】
3 点火コイル
4 ソースコイル
7 充放電用コンデンサ
8 放電用スイッチング素子
14 点火時期制御手段
15 失火制御手段
20 カウント部
21 記憶部
22 間引き失火制御部
N1 失火開始回転数
N2 失火終了回転数
OT 過回転領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースコイルからの正の半波出力により充電される充放電用コンデンサと、オン時に前記充放電用コンデンサの電荷を点火コイルを経て放電させる放電用スイッチング素子と、前記ソースコイルの負の半波出力によりエンジン回転数に応じた点火時期に前記放電用スイッチング素子をオンさせる点火時期制御手段と、エンジンの過回転時に失火させてエンジン回転数を下げる失火制御手段とを備えたコンデンサ充放電式エンジン点火装置において、前記失火制御手段はエンジンが正の整数である複数のM回回転する毎に、M未満の正の整数である1又は複数のN回失火させる間引き失火制御を繰り返すようにしたことを特徴とするコンデンサ充放電式エンジン点火装置。
【請求項2】
前記失火制御手段はエンジンのM回の回転回数をカウントするカウント部と、前記N回の失火回数を記憶する記憶部と、前記カウント部がM回をカウントする間に、前記記憶部に記憶されたN回だけ失火させる間引き失火制御部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ充放電式エンジン点火装置。
【請求項3】
前記失火制御手段はエンジン回転数が失火開始回転数を越えて失火終了回転数以下に戻るまでを前記間引き失火制御を行う過回転領域とし、前記失火終了回転数は前記失火開始回転数よりも大であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンデンサ充放電式エンジン点火装置。
【請求項4】
前記失火制御手段は失火制御中は前記放電用スイッチング素子のオンにより、前記失火制御を行うと同時に前記充放電用コンデンサの過充電を防止するようにしたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコンデンサ充放電式エンジン点火装置。
【請求項5】
前記失火制御手段はM回の内、M−N回の点火制御を先に行い、その後にN回の失火制御を行うようにしたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のコンデンサ充放電式エンジン点火装置。
【請求項6】
前記失火制御手段はM−N回の点火制御の最後の点火制御から、エンジンのN回目の回転時に前記ソースコイルに正の半波出力が発生する前までの間、前記放電用スイッチング素子をオンさせるようにしたことを特徴とする請求項5に記載のコンデンサ充放電式エンジン点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−7577(P2012−7577A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145834(P2010−145834)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(392014704)池田デンソー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】