説明

コンフォメーション固定ペプチド模倣物阻害剤としてのラクタム類

本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤などの、ポストプロリン分解酵素の阻害剤、ならびにその医薬組成物、および上記阻害剤を用いる方法に関する。特に、本発明の阻害剤は、阻害剤の骨格内にラクタム環を取り込んでいる。本発明の化合物は、一理には、標的プロテアーゼに対する毒性の減少および/または特異性の向上により、より良好な治療指数を持つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2004年2月23日に提出した米国仮特許出願60/547,226に基づく利益を請求する。同出願の教示の全体を参照により本願に組み込む。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは、タンパク質を、単一の特異的ペプチド結合において開裂させる酵素である。プロテアーゼは、4つの一般的なクラス、すなわち、セリンプロテアーゼ、チオールまたはシステニルプロテアーゼ、酸またはアスパルテニルプロテアーゼ、およびメタロプロテアーゼに分類することができる(非特許文献1)。プロテアーゼは、消化、血塊の形成および分解、再生、および外来細胞および生物に対する免役反応などの、種々の生物活性にとって必須のものである。異常なタンパク質分解は、ヒトおよび他の動物において複数の病状に関係する。多くの場合、動物を治療的に処置する過程において、1つまたはそれ以上のタンパク分解酵素の機能を妨害することが有益である。
【0003】
ペプチド物質に対する結合部位は、酵素の表面にまたがる一連の「特異性サブサイト」で構成される。「特異性サブサイト」という用語は、酵素に対する基質の一部と相互作用することのできる酵素上のポケットまたは他の部位のことをさす。ペプチドと、たとえばセリンプロテアーゼおよびシステインプロテアーゼなどのプロテアーゼの相互作用を議論する際には、本願においては、非特許文献2の命名法を用いる。基質または阻害剤の個々のアミノ酸残基は、開裂反応において発生するカルボキシ末端残基から開始して、P1,P2などのように示し、対応する酵素のサブサイトをS1、S2などのように示す。基質の切れやすい結合は、基質のP1−P1’間のアミド結合である。したがって、Xaa3残基とXaa4前記の間で開裂されるペプチドXaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4に対しては、Xaa3残基がP1残基と呼ばれ、酵素のS1サブサイトに結合し、Xaa2がP2残基と呼ばれ、S2サブサイトに結合することになる。
【0004】
たとえば、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPIV)は、好ましくは、たとえばP1位にある最後から2番目の位置にプロリンを含んだペプチド鎖から、N末端ジペプチドを開裂するセリンプロテアーゼである。DPIVは、細胞膜関連ペプチド群に属し、大多数の細胞表面ペプチダーゼと同様に、その単一の配列によって原形質膜に繋留されるII型膜内在性タンパク質である。DPIVは、リンパ管由来のものを含む様々な分化した哺乳類上皮、内皮および造血の細胞および組織においてみつかっており、リンパ管においては、CD4T細胞の表面に特異的に認められる。DPIVは、白血球分化マーカーCD26として同定されている。
【非特許文献1】Cuypers et al., J.Biol.Chem、257:7086(l982)
【非特許文献2】Schechrer and Berger, (1967) Biochem. Biophys. Res. Commun. 27: 157~162
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
複数の回転性結合を有する分子は、様々な形状をとりうる。先導構造最適化における有用な構造改変の一つとして、コンフォメーション固定(conformational constraints)を与えることがある。これにより、分子を生物活性コンフォメーションにロックすることができ、結合のエントロピー損失を低減して、生物的効力を高めることができる。ある原子間の閉環を強制することによる、このような分子のコンフォメーション制限は、様々な結果をもたらしうる。凍結されたコンフォメーションが、柔軟な先導部の生物活性コンフォメーションと異なるか、追加した原子が結合を妨害する場合には、結果として生物活性が減少することもある。逆に、閉環が生物活性コンフォメーションを安定化する場合には、大抵は、生物活性が有意に増大することになる。この原理は、一連のラクタム誘導体を含む本発明によって実証されたが、本発明では、ラクタム環を用いて、アミドねじれをtrans配座に制限することによってコンフォメーション固定を与えている。
【0006】
本発明は、標的プロテアーゼを有効に阻害するためにキー官能基を適切に配置しつつ、コンフォメーション制約されたペプチド模倣物(conformationally restricted peptide mimetics)を利用して、ジペプチド遷移状態の環化を予防する。ある実施形態において、本発明は、安定性を向上させることにより、ペプチドボロン酸阻害剤のC末端脱ホウ素をさらに低減する。
【0007】
本発明の1つの側面は、下記の構造式を有するプロテアーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を提供する:
【化1】

式中、
は、H、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、シアノ、スルホニルアミノ、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、または1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖を表し、
およびRは、それぞれ独立して、H、低級アルキル、シクロアルキル、またはアラルキルであるか、RとRは、それらが付属する原子とともに4〜6員の複素環を形成し、
およびRは、それぞれ独立して、H、ハロゲン、またはアルキル、好ましくはHまたは低級アルキルを表すか、RおよびRは、それらが付属する炭素とともに、3〜6員の炭素環式または複素環式環を形成し、
は、標的プロテアーゼの活性部位残基と反応して共有結合配位体を形成する官能基を表し、
は存在しないか、環A上の1つまたはそれ以上の置換基を表し、各置換基は、独立して、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ヒドロキシル、オキソ、エーテル、チオエーテル、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、アミノ、アミド、シアノ、ニトロ、アジド、アルキルアミノ、アシルアミノ、アミノアシル、シアノ、スルフェート、スルフォネート、スルフォニル、スルホニルアミノ,アミノスルホニル、アルコキシカルボニル、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、または1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖から選択され、
は、H、アリール、アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、または1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖を表し、
Lは、存在しないか、アルキル、アルケニル、アルキニル、−(CHO(CH−,−(CHNR(CH−、または−(CHS(CH−を表し、
Xは、存在しないか、−N(R)−、−O−、または−S−を表し、
Yは、存在しないか、−C(=O)−、−C(=S)−、または−SO−を表し、
mは、各場合について独立して、0〜10の整数であり、
nは、0〜3の整数、好ましくは0または1である。
【0008】
ある好ましい実施形態において、Rは、Hまたは低級アルキルを表し、RはHまたは低級アルキルを表し、RはHを表し、nは0である。
【0009】
X、YおよびLが存在しない好ましい実施形態において、Rは、2〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖であり、該ポリペプチド鎖において、プロリンは、式Iの最左側の窒素に直接結合した残基である。このようなある実施形態において、Rは、2個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖であり、該ポリペプチド鎖において、プロリンは、式Iの最左側の窒素に直接結合した残基である。
【0010】
さらなる好ましい実施形態において、C3およびC4における立体化学的表示はそれぞれRおよびSとする。
【0011】
ある他の実施形態において、Rは、ボロン酸、CN、−SO、−P(=O)Z、P(=R)R1011、−C(=NH)NH、−CH=NR12、または−C(=O)−R12を表し、式中、
はOまたはSを表し、
10は、N、SH、NH、NO、またはOLR13を表し、
11は、低級アルキル、アミノ、OLR13、またはその薬学的に許容される塩を表すか、あるいは、
10およびR11は、それらが付属するリンと共に5〜8員の複素環式環を形成し、
12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、−NH、−(CH−R13、−(CH−OH、−(CH−O−アルキル、−(CH−O−アルケニル、−(CH−O−アルキニル、−(CH−O−(CH−R13、−(CH−SH、−(CH−S−アルキル、−(CH−S−アルケニル、−(CH−S−アルキニル、−(CH−S−(CH−R13、−C(O)NH、−C(O)OR14、またはC(Z)(Z)(Z)を表し、
13は、H、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロサイクリルを表し、
14は、H、アルキル、アルケニル、またはLR13を表し、
は、ハロゲンを表し、
およびZは、独立してHまたはハロゲンを表し、
pは、場合ごとに独立して、0〜8の整数であり、
qは、場合ごとに独立して、1〜8の整数である。
【0012】
別の実施形態において、Rは、CN、CHO、またはC(=O)C(Z)(Z)(Z)を表し、式中Zはハロゲンを表し、ZおよびZは、Hまたはハロゲンを表す。このようなある実施形態において、Rは、C(=O)C(Z)(Z)(Z)を表し、式中Zはフッ素を表し、ZおよびZは、Hまたはフッ素を表す。
【0013】
ある好ましい実施形態において、Rは、式B(Y)(Y)で表される基であり、式中、YおよびYは、独立してOHまたはOHに加水分解されうる基であるか(すなわち、ボロン酸を得るために)、それらが付属する原子とともに、ボロン酸へ加水分解可能な5〜8員の環を形成する。
【0014】
ある実施形態において、プロテアーゼ阻害剤は、DPIVを、50nM以下のKiで阻害する。
【0015】
ある実施形態において、阻害剤は、経口的に活性である。
【0016】
ある実施形態において、阻害剤は、ヒトにおける治療指数、たとえば、グルコース代謝調節のための治療指数などが、少なくとも2、さらに好ましくは、5、10または100である。
【0017】
本発明の他の側面は、薬学的に許容される担体と、1つまたはそれ以上の主題のプロテアーゼ阻害剤またはその薬学的に許容されるプロドラッグとを含む医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明の他の側面は、ポストプロリン分解酵素(post-proline cleaving enzyme)をin vivoで阻害する医薬の製造における、1つまたはそれ以上の主題の阻害剤の使用を提供する。たとえば、主題の阻害剤は、ポストプロリン分解酵素(たとえば、DP−IVなど)によって処理される1つまたはそれ以上のペプチドホルモンの血漿濃度を増加させる医薬を製造するために用いることができる。このようなホルモンの血漿濃度を高めるのに有用な医薬としては、たとえば、グルカゴン様ペプチド、NPY、PPY、セクレチン、GLP−1、GLP−2およびGIPが挙げられる。
【0019】
ある好ましい実施形態において、主題の阻害剤は、II型糖尿病、インスリン耐性、グルコース不耐症、高血糖、低血糖、高インスリン血症、肥満、高脂血症、または高リポタンパク血症を患った患者の治療用などの、グルコース代謝を調節するための医薬の製造に用いることができる。
【0020】
本発明のさらに別の側面は、1つまたはそれ以上の主題のプロテアーゼ阻害剤調合物と、薬学的に許容される担体と、グルコース代謝を調節するなど、ポストプロリン分解酵素をin vivoで阻害するための前記調合物の使用を記載した文書および/または図解説明書とを含む包装医薬を提供する。
【0021】
上記包装医薬は、たとえば、プロテアーゼ阻害剤と一緒に調合された、または単に一緒に包装されたインスリンおよび/またはインスリン分泌促進剤を含んでいてもよい。
【0022】
上記包装医薬は、たとえば、プロテアーゼ阻害剤と一緒に調合された、または単に一緒に包装された、M1受容体アンタゴニスト、プロラクチン阻害剤、β細胞のATP依存性カリウムチャンネルに作用する物質、メトホルミン、および/またはグルコシダーゼ阻害剤を含んでいてもよい。
【0023】
本発明は、短期で行われる治療計画に基づいた、前述の疾患の少なくとも1つの長期にわたる改善された治療方法にも関する。
【0024】
本発明は、ヒトを含む脊椎動物のグルコースおよび脂質合成反応の長期にわたる調節および変化方法も提供する。
【0025】
特に、本発明の化合物は、インスリンに対する種の細胞反応の感受性(インスリン耐性の減少)、血中インスリン濃度、高インスリン血症、血中グルコース濃度、体脂肪貯蔵量、および血中リポタンパク質濃度のうちの一つ以上において、長期間持続する有益な変化を与え、これにより、糖尿病、肥満、および/またはアテローム性動脈硬化症に対する有効な治療を提供する方法を提供するために用いてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
I.概略
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤などの、ポストプロリン分解酵素(PPCE)の阻害剤、その医薬組成物、およびそのような阻害剤の使用方法に関する。特に、本発明の阻害剤は、酵素を有効に阻害するために、アミノおよびボロニル基を適切に配置しながら、N−B結合形成および回転を阻害する、新奇なコンフォメーション制約型ジペプチド遷移状態ペプチド模倣物を含むことにより、従来技術のものによりも改善されている。これらの分子の原型は、4員、5員、6員、または7員環を有したラクタム制約型骨格と、様々な側鎖を保有する求電子性部位とを有する:
【化2】

【0027】
本発明の化合物に対する顕著な特徴としては、一部には、毒性の低減および/または標的プロテアーゼに対する特異性の向上による良好な治療指数、良好な経口利用性、品質保持期限の延長、および/または作用の持続時間の延長(たとえば、単回経口投与にて、4時間以上、より好ましくは8、12または16時間も有効であるなど)が挙げられる。
【0028】
本発明の化合物は、DPIVによって媒介されるような、様々な疾患/状態の治療の一部として用いることができる。たとえば、主題の阻害剤は、たとえば、インスリン耐性を軽減する目的、高血糖、高インスリン血症、肥満、高脂血症、高リポタンパク血症(キロミクロン、VLDLおよびLDL)を治療する目的、および体脂肪およびより一般的には脂質貯蔵を調節する目的で、グルコース濃度および/または代謝を調節するための、およびさらに一般的には、糖尿病、肥満および/またはアテローム性動脈硬化症に関連する代謝不全の改善のための治療の一部として、GIPおよびGLP−1活性を、これらのホルモンの半減期を延ばす等によって、アップレギュレートするために用いることができる。
【0029】
何ら特別な理論と結び付けることは望まないが、DPIVを阻害する化合物は、必ずしもDPIV阻害自体に関与する機構を介してではないが、相関的にグルコース耐性を高めることができることが観察されている。実際のところ、類似の化合物が、GLP−1受容体欠失マウスにおいて有効であることが示されており、このことは、GLP−1が他の受容体を有する可能性はまだ否定されていないものの、主題の方法が、GLP−1自体が直接関与する作用機序を含まないかもしれないことを示唆している。しかしながら、好ましい実施形態において、DPIV阻害との相関関係に鑑みて、主題の方法は、DPIV阻害に対するKiが50.0nM以下、より好ましくは10.0nM以下、さらに好ましくは1.0、0.1またはさらには0.01nM以下の物質を用いる。実際のところピコモラーおよびフェムトモラー単位のKi値を有する阻害剤が含意される。このように、本明細書において活性物質は便宜上「DPIV阻害剤」と記載するが、こうした命名は、主題の発明を特定の作用機構に限定しようとするものではない。
【0030】
主題の化合物のあるものは、持続時間が延びている。したがって、ある好ましい実施形態において、単回投与後の少なくとも4時間に亘って、より好ましくは、単回投与後、少なくとも8時間または12時間または16時間にわたって、血清PPCE(たとえば、DPIV)濃度を少なくとも50%阻害する用量を与えるように、阻害剤が選択され、阻害剤の量が調合される。
【0031】
たとえば、ある実施形態において、本方法は、24時間のあいだの好ましくは所定の時間に、グルコース代謝疾患(グルコース不耐症、インスリン耐性、高血糖、高インスリン血症、およびI型およびII型糖尿病)に関連する1つまたはそれ以上の異常指数を改善するのに有効な量で、DPIV阻害剤を投与することを含む。
【0032】
他の実施形態において、本方法は、肥満に関連する異常指数を改善するのに有効な量で、DPIV阻害剤を投与することを含む。脂肪細胞は、ホルモンレプチンを放出し、これが血流に乗って脳に行き、レプチン受容体を介して、GLP−1の生産を刺激する。このGLP−1が、満腹感を与える。殆どの肥満者の脂肪細胞は、おそらくは十分なレプチンを生産するものの、レプチンが脳内のレプチン受容体に適切に嵌合することができず、そのためにGLP−1の生産を刺激しないというのが有力な説である。したがって、GLP−1の製剤を食欲抑制剤として利用することに向けた研究も多くなされている。主題の方法は、肥満に関連する疾患の治療において、内在性および異所的に追加されたGLP−1の両方の半減期を増加させるための手段を提供する。
【0033】
より一般的な意味において、本発明は、DPIVまたはいくつかの他のタンパク分解活性によって、1つまたはそれ以上のペプチドホルモンのタンパク分解を阻害することにより、様々な異なるポリペプチドホルモンの薬物動態を変えるための方法および組成物を提供する。分泌後の代謝は、調節ペプチドの全体的ホメオスタシスにおける重要な要素であり、これらのプロセスに関与する他の酵素が主題の方法による薬理学的介入に対する適切な標的になりうる。
【0034】
たとえば、主題の方法は、他のプログルカゴンから誘導されるペプチド、たとえば、グリセンチン(PG1〜69に対応)、オキシントモジュリン(PG33〜69)、グリセンチン関連膵臓ポリペプチド(GRPP,PG1〜30)、介在ペプチド−2(IP−2,PG111〜122アミド)、およびグルカゴン様ペプチド−2(GLP−2,PG126〜158)などの半減期を増大させるために用いてもよい。
【0035】
たとえば、GLP−2は、腸上皮の増殖を誘導する役割を果たす因子として同定されている。たとえば、Druckerら(1996)PNAS93:7911頁を参照のこと。主題の方法は、クローン病または炎症性腸疾患(IBD)の治療などにおいて、たとえば腸粘膜上皮の成長と修復の強化が望まれる、腸組織の損傷、炎症または切除の治療のための計画の一部として用いてもよい。
【0036】
DPIVは、代謝および成長ホルモン放出因子(GHRF)の不活性化にも関与していることがわかっている。GHRFは、グルカゴン、セクレチン、血管活性腸ペプチド(VIP)、ペプチドヒスチジンイソロイシン(PHI)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、胃抑制ペプチド(GIP)、およびヘロデルミン(Kubiakら(1994)PeptideRes7:153頁)を含む相同タンパク質のファミリーのメンバーである。GHRFは、視床下部によって分泌され、下垂体前葉からの成長ホルモン(GH)の放出を刺激する。したがって、主題の方法は、ある特定の成長ホルモンを欠如した小児に対する臨床治療を向上するために用いてもよいし、成人の臨床治療において、栄養を高めたり、身体組成(筋肉対脂肪)を変えるために用いてもよい。主題の方法は、獣医学実務において、たとえば、より高収量のミルク生産やより多収量の低脂肪家畜を開発するために用いてもよい。
【0037】
同様に、主題の発明のDPIV阻害剤は、セクレチン、VIP,PHI,PACAP,GIP、および/またはヘロデルミンの血漿半減期を変えるために用いてもよい。さらに、主題の方法は、いずれも膵臓ポリペプチドファミリーのメンバーであるペプチドYYおよび神経ペプチドYの薬物動態を変えるために用いてもよいが、これは、DPIVが受容体選択性を変えるようにこれらのペプチドのプロセシングに関与しているとされるためである。
【0038】
他の実施形態において、主題の阻害剤は造血を刺激するために用いてもよい。
【0039】
さらに他の実施形態において、主題の阻害剤は、形質転換細胞/組織の成長または血管新生を阻害するために、たとえば、主要の成長や新生に関連するような細胞増殖を阻害するために、また異常増殖性細胞塊における血管形成を阻害するために用いてもよい。
【0040】
さらに他の実施形態において、主題の阻害剤は、たとえば免疫抑制などの免疫学的反応を低減するために用いてもよい。
【0041】
さらに他の例において、本発明によるDPIV阻害剤は、CNS病、たとえば、発作、腫瘍、虚血、パーキンソン病、記憶喪失、難聴、失明、偏頭痛、脳損傷、脊髄損傷、アルツハイマー病、および筋萎縮性側索硬化症(CNS成分を有する)などを治療するために用いてもよい。さらに、DPIV阻害剤は、多発性硬化症や糖尿病性神経障害などのより末梢の性質を有する疾病の治療に用いてもよい。
【0042】
本発明の別の側面は、主題のポストプロリン分解酵素阻害剤、とりわけDPIV阻害剤の医薬組成物と、ペプチドホルモンのホメオスタシスを変更することによって改善可能な疾患の治療および/または予防における上記医薬組成物の使用に関する。好ましい実施形態において、阻害剤は、血糖降下および抗糖尿作用を有し、異常グルコース代謝(貯蔵を含む)によって特徴づけられる疾患の治療に用いてもよい。特定の実施形態において、主題の方法の組成物は、インスリン分泌促進剤として、あるいは、GLP−1などの分子のインスリン分泌促進効果を強化するために有用である。この点に関して、本組成物のある実施形態が、高脂血症、高血糖、肥満、グルコース耐性不全、インスリン耐性、および糖尿病合併症のうちの1つまたはそれ以上を含む様々な疾患の治療および/または予防に対して有用である。
【0043】
一般に、主題の方法の阻害剤は、小分子であり、たとえばその分子量は7500amu未満、好ましくは5000amu未満、さらに好ましくは2000未満、あるいは1000amu未満である。好ましい実施形態において、阻害剤は経口的に作用する。
【0044】
II.定義
本明細書中における「高親和性」という用語は、解離定数Kが1μM以下の強い分子間結合親和性を意味する。好ましい事例において、Kは100nM、10nM、1nM、100pM、またはさらには10pM未満である。最も好ましい実施形態において、2つの分子は共有結合している(Kは実質的に0)。
【0045】
「ボロ−Ala」という用語は、カルボキシレート基(COOH)がボロニル基(B(OH))で置換されたアラニンのアナログのことをいう。同様に「ボロ−Pro」という用語は、カルボキシレート基(COOH)がボロニル基(B(OH))で置換されたプロリンのアナログのことをいう。より一般的には、「ボロ−Xaa」(Xaaはアミノ酸残基)という用語は、カルボキシレート基(COOH)がボロニル基(B(OH))で置換されたアミノ酸のアナログのことをいう。
【0046】
主題の方法によって治療すべき「患者」または「被験者」は、ヒトまたはヒト以外の被験者のいずれを意味してもよい。
【0047】
「ED50」という用語は、50%の患者において、グルコース応答性、ヘマトクリットの増加、腫瘍容積の減少などの生理学的測定において、臨床的に関連した改善または変化がもたらされる用量を意味する。
【0048】
「IC50」という用語は、生物活性を50%阻害する薬物の用量、たとえば、少なくとも50%のin vivoにおけるDPIV(または他のPPCE)活性を阻害するために必要な阻害剤の量を意味する。
【0049】
化合物は、それが、ホルモンであるインスリンの合成または発現を阻害するか、その要因となる場合に、「インスリン分泌促進活性」を有するということにする。
【0050】
本明細書における「相互作用する」という用語は、タンパク質−タンパク質間、タンパク質−核酸間、核酸−核酸間、タンパク質−小分子間、核酸−小分子間、または小分子−小分子間相互作用などの、分子間のあらゆる相互作用(たとえば、生化学的、化学的または生物物理学的相互作用)を含意する。
【0051】
「LD50」という用語は、被験者の50%致死用量を意味する。
【0052】
「予防的または治療的」処置という用語は、当業者には認識され、1つまたはそれ以上の主題の組成物を宿主に投与することを含む。望ましくない状態(たとえば、宿主動物の疾病または他の望ましくない状態)の臨床徴候が表れる前に投与する場合には、その処置は予防的なものであり(すなわち、宿主が当該望ましくない状態を発症するのを予防する)、望ましくない状態の徴候が現れた後に投与する場合には、その処置は治療的(すなわち、既存の望ましくない状態またはその副作用を軽減、改善または安定化)なものとなる。
【0053】
「予防する」という用語は、当業者によって認識されており、状態に関連して用いる場合には、局所再発(たとえば疼痛)などの状態、眼などの疾病、心不全などの症候群合併症または任意の他の医学的状態などが周知であり、組成物を受けない被験者に比べて、患者における医学的状態の症状の頻度を減らすか、その発症を遅らせる組成物の投与を含んでいる。したがって、ガンの予防には、たとえば、統計的におよび/または臨床的に有意な量だけ、未処置対照集団に比べて予防的処置を受けた患者の集団において、検出可能な癌性増殖の数を減少させること、および/または、未処置対照集団に比べて処置集団における検出可能な癌性増殖の発現を遅らせることを含む。感染の予防には、たとえば、未処置対照集団に比べて処置集団における感染の診断数を減らすこと、および/または、未処置対照集団に比べて処置集団における感染の徴候の発生を遅らせることが含まれる。疼痛の予防には、たとえば、未処置対照集団に比べて処置集団内の被験者の感じる疼痛の大きさを小さくするか、これを遅らせることが含まれる。
【0054】
「治療指数」という用語は、LD50/ED50で定義される薬物の治療指数のことをいう。
【0055】
主題の治療方法に関して「治療上有効な量」の化合物、たとえば本発明のDPIV阻害剤とは、所望の投与計画(哺乳類、好ましくはヒトへの)の一部として投与された場合に、治療対象の疾患または状態に対する臨床上許容される基準にしたがって、または美容上の目的において、たとえば、任意の医学的治療に利用可能な適当な損益比で、疾病または症状を軽減するか、状態を改善するか、または疾病状態の発症を遅らせる、調製物中の化合物の量のことをいう。
【0056】
「単回経口投与製剤」とは、少なくとも当該薬物に対するEC50、かつLD50未満の血漿濃度を与えるような薬物量を提供する用量のことをいう。単回経口投与製剤に対する別の尺度は、少なくとも当該薬物に対するIC50、かつLD50未満の血漿濃度を与えるのに必要な薬物量を与えるものである。いずれの尺度によっても、単回経口投与製剤は、好ましくは、LD50の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、75%未満、または、薬物のLD50の90%未満の血漿濃度を与える薬物量である。
【0057】
脂肪族鎖は、以下に定義するアルキル、アルケニル、およびアルキニルのクラスを含む。直鎖状脂肪族は、非分枝炭素鎖部分に限定される。本願における「脂肪族基」という用語は、直鎖状、分枝鎖状、または環式脂肪族炭化水素基のことをいい、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基などの飽和および不飽和脂肪族基を含む。
【0058】
アルキルとは、指定数の炭素原子、または指定されない場合には30個までの炭素原子を有する、完全飽和の分枝または非分枝状炭素鎖部分のことをいう。たとえば、1〜8個の炭素原子のアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチル、などの部分、および、これらの分子の位置異性体である部分のことをいう。10〜30炭素原子のアルキルとしては、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘネイコシル、ドコシル、トリコシルおよびテトラコシルが挙げられる。好ましい実施形態において、直鎖状または分枝鎖状のアルキルは、その骨格内に30個以下の炭素原子を有し(たとえば、直鎖に対してはC〜C30、分枝鎖に対してはC〜C30)、より好ましくは20個以下の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキルは、その環構造中に3〜10個の炭素原子を有し、より好ましくは環構造内に5、6または7個の炭素を有する。
【0059】
さらに、本明細書、実施例および請求項を通して用いる「アルキル」(または「低級アルキル」)という用語は、「非置換アルキル」および「置換アルキル」の両方を含むことを意図しており、後者は、炭化水素骨格の1つまたはそれ以上の炭素上の水素に対する置換基を有するアルキル部分のことをさす。このような置換基としては、たとえば、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(カルボキシル、アルコキシカルボニル、ホルミル、またはアシル)、チオカルボニル(チオエステル、チオアセテート、またはチオホルメート)、アルコキシル、ホスホリル、ホスフェート、ホスフォネート、ホスフィネート、アミノ、アミド、アミジン、シアノ、ニトロ、スルフヒドリル、アルキルチオ、スルフェート、スルフォネート、スルファモイル、スルフォンアミド、スルフォニル、ヘテロサイクリル、アラルキル、または芳香族または複素芳香族部分が挙げられる。炭化水素鎖上の置換部分は、必要に応じてそれ自体も置換されていてもよいことが当業者には認識されよう。たとえば、置換アルキルの置換基は、アミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスフェートおよびホスフィネートを含む)、スルフォニル(スルフェート、スルフォンアミド、スルファモイル、およびスルフォネートを含む)、およびシリル基、ならびにエーテル、アルキルチオ、カルボニル(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、およびエステルを含む)、−CF、−CNなどの置換および非置換型を含んでいてもよい。置換アルキルの一例を以下に示す。シクロアルキルは、アルキル、アルケニル、アルコキシル、アルキルチオ、アミノアルキル、カルボニル置換アルキル、−CF、−CNなどでさらに置換されていてもよい。
【0060】
炭素数を特に指定しない場合、本願で用いる「低級アルキル」とは、上記定義したアルキル基のうち、1〜10個の炭素、より好ましくは1〜6個の炭素原子を骨格構造内に有する、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、およびtert−ブチルなどを意味する。同様に、「低級アルケニル」および「低級アルキニル」は、類似の鎖長を有する。本願全体を通して、好ましいアルキル基は低級アルキルである。好ましい実施形態において、ここにアルキルとして指定する置換基は低級アルキルである。
【0061】
「アルキルチオ」という用語は、上記定義したアルキル基のうち、硫黄部分が付加したもののことをいう。好ましい実施形態において、「アルキルチオ」部分は、−(S)−アルキル、−(S)−アルケニル、−(S)−アルキニル、および−(S)−(CH−Rのいずれか一つによって表され、上記式中mおよびRについては、下記に定義する。代表的なアルキルチオ基としては、メチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。
【0062】
アルケニルとは、指定数の炭素原子、または炭素数に対する限定がない場合には26個までの炭素を有し、該部分内に1つまたはそれ以上の二重結合を有する任意の分枝状または非分枝状不飽和炭素鎖のことをいう。6〜26個の炭素原子からなるアルケニルとしては、たとえば、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、エイコセニル、ヘネイコソエニル、ドコセニル、トリコセニル、およびテトラコセニルの様々な異性体型が挙げられるが、不飽和結合は、分子中の任意の位置にあってよく、二重結合に関して(Z)または(E)の配位のいずれをとってもよい。
【0063】
アルキニルとは、アルケニルの範囲のヒドロカルボニルであって、分子中に1つまたはそれ以上の三重結合を有するものをいう。
【0064】
本願で用いる「アルコキシル」または「アルコキシ」という用語は、以下に定義するように、酸素部分が付加したアルキル基のことをいう。代表的なアルコキシル基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、tert−ブトキシなどが挙げられる。「エーテル」は、酸素によって共有結合された2つの炭化水素である。したがって、そのアルキルをエーテルにするアルキルの置換基は、−O−アルキル、−O−アルケニル、−O−アルキニル、−O−(CH)m−R(式中、mおよびRについては後述する)によって表すことができるようなアルコキシルであるかこれに類似している。
【0065】
「アミン」および「アミノ」という用語は、当該技術分野においては認識されており、非置換および置換アミノの両方、たとえば、以下の一般式で示すことができるような部分のことをいう:
【化3】

式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、−(CH−Rを表すか、またはRおよびRは協働して、それらが付属するN原子とともに、4〜8個の原子を環構造中に有する複素環を完成し;Rは、アルケニル、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロサイクリル、またはポリシクリルを表し;mはゼロまたは1〜8の範囲の整数である。好ましい実施形態において、RまたはRのうちの一方だけが、カルボニルであってもよく、たとえば、R、Rおよび窒素は一緒になってイミドを形成することがない。さらに好ましい実施形態において、RおよびR(および任意でR)は、それぞれ独立して、水素、アルキル、アルケニル、または−(CH−Rを表す。したがって、本願で用いる「アルキルアミン」という用語は、置換または非置換のアルキルが付加した、すなわち、RおよびRのうちの少なくとも1つがアルキル基であるような、上記定義のようなアミノ基を意味する。ある実施形態において、アミノ基またはアルキルアミンは塩基性であり、これはpKa≧7.00を有することを意味する。これらの官能基のプロトン化型は、水に対するpKasが、7.00を超える。
【0066】
「カルボニル」は、という用語は、当該技術分野においては認識されており、下記の一般式によって表すことができるような部分を含む:
【化4】

式中、Xは、結合または酸素または硫黄を表し、Rは、水素、アルキル、アルケニル、−(CH−R、またはその薬学的に許容される塩を表し、Rは、水素、アルキル、アルケニルまたは−(CH−Rを表し、mおよびRは上記定義した通りである。Xが酸素であり、RまたはRが水素でない場合、式は「エステル」を表す。Xが酸素であり、Rが上述のものである場合、この部分は、カルボキシル基といい、特にRが水素である場合は、上記式は、「カルボン酸」を表す。Xが酸素であり、Rが水素の場合、上記式は、「ホルメート」を表す。一般に、上記式の酸素原子が硫黄で置換されている場合、式は、「チオカルボニル」基を表す。Xが硫黄であり、RまたはRが水素でない場合、式は、「チオエステル」基を表す。Xが硫黄で、Rが水素の場合、式は「チオカルボン酸」基を表す。Xが硫黄であり、Rが水素の場合、式は「チオホルメート」基を表す。一方、Xが結合であり、Rが水素でない場合、上記式は「ケトン」基を表す。Xが結合であり、Rが水素である場合、上記式は、「アルデヒド」基を表す。
【0067】
「複素環」または「複素環基」という用語は、3〜10員環構造、より好ましくは3〜7員環構造のことをいい、これらの環構造には、1〜4個のヘテロ原子が含まれる。複素環は、多環であってもよい。複素環基としては、たとえば、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサンチン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ピリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、オキソラン、チオラン、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、ラクタム、たとえば、アゼチジノンやピロリジノンなど、スルタム、スルトンなどが挙げられる。複素環は、1カ所以上において、上述のような置換基、たとえば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスフェート、ホスフォネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、スルファモイル、スルフィニル、エーテル、アルキルチオ、スルフォニル、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族または複素芳香族部分、−CF、−CNなどで置換されていてもよい。
【0068】
本願で用いる「置換(された)」という用語は、あらゆる許容される有機化合物の置換基を含むものとする。より広い側面において、許容される置換基としては、有機化合物の非環式、分枝状および非分枝状の炭素環式および複素環式、芳香族および非芳香族置換基が含まれる。例示的な置換基としては、たとえば、上記に示したものが挙げられる。この許容される置換基は、適当な有機化合物に対して、1つまたはそれ以上あり、同一または異なっていてもよい。本発明の目的のためには、窒素などのヘテロ原子が水素置換基、および/またはヘテロ原子の価数を満たす本願に記載する任意の許容される有機化合物の置換基を有していてもよい。本発明は、許容される有機化合物の置換基によって何ら限定されるものではない。
【0069】
「ヒドロカルビル」という用語は、水素原子が付加する、26個までの炭素原子からなる炭素鎖または環からなる1価の炭化水素部分のことをいう。この用語には、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、およびアリール基、飽和および不飽和結合を混合して有する基、炭素環式環が含まれ、そのような基の組み合わせも含まれる。また、直鎖、分枝鎖、環構造、またはその組み合わせのこともさす。
【0070】
「ヒドロカルビレン」という用語は、2価のヒドロカルビル部分のことをいう。代表的な例としては、アルキレン、フェニレン、またはシクロへキシレンが挙げられる。好ましくは、ヒドロカルビレン鎖は、完全に飽和しているか、および/または1〜10個の炭素原子からなる鎖を有している。
【0071】
本願で用いる「ニトロ」という用語は、−NOを意味し、「ハロゲン」という用語は、−F、−Cl、−Brまたは−Iを指し、「スルフヒドリル」という用語は、−SHを意味し、「ヒドロキシル」という用語は−OHを意味し、「スルフォニル」という用語は−SO−を意味する。
【0072】
「置換」または「〜で置換された」という場合、そのような置換は置換される原子または置換基の許容価数に従っていることが前提であり、たとえば、その置換が、再構成、環化、脱離などによる自発的変形を受けないような安定な化合物をもたらすものと理解されよう。
【0073】
「スルファモイル」という用語は、当該技術分野においては認識されており、下記の一般式によって表すことのできる部分を含む:
【化5】

式中、RおよびRは上記定義のとおりである。
【0074】
「スルフェート」という用語は、当該技術分野においては認識されており、下記の一般式によって表すことのできる部分を含む:
【化6】

式中Rは上記定義のとおりである。
【0075】
「スルフォンアミノ」という用語は、当該技術分野においては認識されており、下記の一般式によって表すことのできる部分を含む:
【化7】

式中RおよびRは上記定義のとおりである。
【0076】
「スルフォネート」という用語は、当該技術分野においては認識されており、下記の一般式によって表すことのできる部分を含む:
【化8】

式中Rは上記定義のとおりである。
【0077】
本願で用いる「スルフォキシド」または「スルフィニル」という用語は、下記の一般式によって表すことのできる部分を含む:
【化9】

式中、R12は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アラルキルまたはアリールからなる群より選択される。
【0078】
類似の置換を、アルケニルおよびアルキニル基に行って、たとえば、アミノアルケニル、アミノアルキニル、アミドアルケニル、アミドアルキニル、イミノアルケニル、イミノアルキニル、チオアルケニル、チオアルキニル、カルボニル置換アルケニル、またはアルキニルを作成してもよい。
【0079】
本願で用いるたとえば、アルキル、m,nなどの各表現の定義は、それが任意の構造において2回以上発生する場合には、同一構造内のどこであってもその定義は独立して使うものとする。
【0080】
「小さい」置換は、10原子以下のものである。
【0081】
「アミノ酸残基」および「ペプチド残基」という用語は、そのカルボキシル基の−OHを含まないアミノ酸またはペプチド分子を意味する。一般に、本願でアミノ酸および保護基を呼ぶために用いる略語は、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemistry(1972)11:1726〜1732頁)の推奨に基づいている。たとえば、Met,Ile,Leu,AlaおよびGlyは、それぞれメチオニン、イソロイシン、ロイシン、アラニン、およびグリシンの「残基」を表す。残基とは、対応するα−アミノ酸からカルボキシル基のOH部分とα−アミノ基のH部分を除外することによって誘導される部分を意味する。「アミノ酸側鎖」とは、K.D.Kopple”Peptides and Amino Acides”,W.A. Benjamin Inc.,New York and Amsterdam, 1966,2および33頁に定義されるように−CH(NH)COOH部分を除くアミノ酸の部分であり、よくあるアミノ酸の側鎖の例としては、−CHCHSCH(メチオニンの側鎖)、−CH(CH)−CHCH(イソロイシンの側鎖)、−CHCH(CH(ロイシンの側鎖)またはH−(グリシンの側鎖)である。
【0082】
殆どの部分について、本発明の使用に用いるアミノ酸は、タンパク質中に見られる天然のアミノ酸であるか、アミノ基とカルボキシル基とを含むアミノ酸の天然の同化または異化産物である。特に適したアミノ酸側鎖は、グリシン、アラニン、バリン、システイン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、メチオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リジン、アルギニン、プロリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンといったアミノ酸、およびペプチドグリカン細菌細胞膜の構成要素として同定されているアミノ酸およびアミノ酸アナログから選択される側鎖を含む。
【0083】
アミノ酸残基という用語には、本明細書中でいう任意の個々のアミノ酸のアナログ、誘導体および同族体、ならびにC末端またはN末端が保護されたアミノ酸誘導体(たとえば、N末端またはC末端保護基で修飾された)もさらに含まれる。たとえば、本発明は、カルボキシル、アミノまたは環化のための他の反応性前駆体官能基を与えながらも側鎖が延長または短縮されたアミノ酸アナログ、ならびに、適当な官能基をもつ変異側鎖を有するアミノ酸の使用も含意する。たとえば、主題の化合物は、シアノアラニン、カナバニン、ジエンコル酸、ノルロイシン、3−ホスホセリン、ホモセリン、ジヒドロキシフェニルアラニン、5−ヒドロキシトリプトファン、1−メチルヒスチジン、3−メチルヒスチジン、ジアミノピメリン酸、オルニチン、またはジアミノブチル酸などアミノ酸アナログを含んでいてもよい。本願に適した側鎖を有する他の天然のアミノ酸代謝物または前駆体は当業者によって認識されるであろうし、これらも本発明の範囲に含める。
【0084】
また、アミノ酸の構造が立体異性を許容する場合には、当該アミノ酸の(D)および(L)立体異性体も含まれる。本願におけるアミノ酸およびアミノ酸残基の構造は、適当な記号(D)、(L)または(DL)によって示し、さらに、構造が示されていない場合には、該アミノ酸または残基は(D)、(L)または(DL)の構造をとりうるものとする。本発明の化合物のうちのいくつかの構造は、非対称の炭素原子を含んでいる。したがって、このような非対称から生じる異性体も本発明の範囲内にあると理解すべきである。このような異性体は、古典的な分離技術によって、または立体的に制御された合成によって実質的に純粋な形で得ることができる。この用途のために、反対の指示がなければ、命名されたアミノ酸は、(D)および(L)異性体の両方を含むものと解釈するとよい。
【0085】
本願でいう「保護基」とは、反応性官能基を望ましくない化学反応から保護する置換基を意味する。このような保護基の例としては、カルボン酸およびボロン酸のエステル、アルコールのエーテル、およびアルデヒドおよびケトンのアセタールおよびケタールが挙げられる。たとえば、本願で用いる「N末端保護基」または「アミノ保護基」という言い回しは、アミノ酸またはペプチドのN末端を、合成手順の最中の望ましくない反応から保護するために利用可能な様々なアミノ保護基のことをいう。適切な基としては、たとえば、ホルミル、ダンシル、アセチル、ベンゾイル、トリフルオロアセチル、スクシニル、およびメトキシスクシニルなどのアシル保護基;たとえばベンジルオキシカルボニル(Cbz)などの芳香族ウレタン保護基、およびt−ブトキシカルボニル(Boc)または9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)などの脂肪族ウレタン保護基が挙げられる。
【0086】
上記のように、本発明のある化合物は、とりわけ、幾何学的または立体異性体で存在するかもしれない。本発明は、シス、およびトランス異性体、R−およびS−エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)−異性体、(L)−異性体、そのラセミ混合物、およびその他の混合物を含むこのようなすべての化合物を本発明の範囲内のものであるとみなす。アルキル基などの置換基内に、さらに追加の非対称炭素原子が存在していてもよい。このような異性体やその混合物のすべてが本発明に含まれるものとする。
【0087】
たとえば、本発明の化合物の特定のエナンチオマーが望まれる場合には、非対称合成、またはキラル補助剤を用いた誘導体化によって調製してもよく、この場合、得られるジアステレオマー混合物を分離し、補助基を開裂して、純粋な所望のエナンチオマーを与える。あるいは、分子がアミノなどの塩基性官能基、またはカルボキシルなどの酸性官能基を含む場合は、ジアステレオマー塩が適当な光学活性酸または塩とともに形成される。続いて、形成されたジアステレオマーを当該技術分野において周知の分画結晶化またはクロマトグラフィー手段によって分離して、純粋なエナンチオマーを回収する。
【0088】
本発明の目的のために、化学元素を、元素の周期律表(CAS版、Handbook of Chemistry and Physics、第67版、1986〜87年、内表紙)に従って同定する。本発明の目的のために、「炭化水素」という用語は、少なくとも1つの水素と1つの炭素原子を有するあらゆる許容される化合物を含むものとする。広義の解釈として、許容される炭化水素には、置換されていても、置換されていなくてもよい、非環式および環式、分枝状および非分枝状、炭素環式および複素環式、芳香族および非芳香族有機化合物が含まれる。
【0089】
化合物は、ホルモンインスリンの合成または発現を刺激するか、その要因になることができる場合には、「インスリン分泌促進作用」を有するといえる。
【0090】
適当な置換基の組み合わせについての、本願に列挙するすべての一般構造は、価数および安定性によって許容される実施形態をカバーするものと理解されよう。
【0091】
III.例示的な実施形態
(i)化合物
本発明のある実施形態において、主題の化合物は、下記の構造を有するか、その薬学的に許容される塩である:
【化10】

式中、
は、H、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、シアノ、スルホニルアミノ、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、または1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖を表し、
およびRは、それぞれ独立して、H、低級アルキル、またはアラルキルであるか、RとRは、それらが付属する原子とともに4〜6員の複素環を形成し、
およびRは、それぞれ独立して、H、ハロゲン、またはアルキル、RおよびRは、それらが付属する炭素とともに、3〜6員の炭素環式または複素環式環を形成し、
は、標的プロテアーゼの活性部位残基と反応して共有結合配位体を形成する官能基を表し、
は存在しないか、環A上の1つまたはそれ以上の置換基を表し、各置換基は、独立して、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ヒドロキシル、オキソ、エーテル、チオエーテル、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、アミノ、アミド、シアノ、ニトロ、アジド、アルキルアミノ、アシルアミノ、アミノアシル、シアノ、スルフェート、スルフォネート、スルフォニル、スルホニルアミノ,アミノスルホニル、アルコキシカルボニル、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、または1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖から選択され、
は、H、アリール、アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、または1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖を表し、
Lは、存在しないか、アルキル、アルケニル、アルキニル、−(CHO(CH−,−(CHNR(CH−、または−(CHS(CH−を表し、
Xは、存在しないか、−N(R)−、−O−、または−S−を表し、
Yは、存在しないか、−C(=O)−、−C(=S)−、または−SO−を表し、
mは、各場合について独立して、0〜10の整数であり、
nは、0〜3の整数、好ましくは0または1である。
【0092】
ある好ましい実施形態において、Rは、Hまたは低級アルキルを表し、RおよびRは、それぞれ独立して、H、低級アルキル、またはアラルキルを表し、または、RとRは、それらが付属する原子とともに5員の複素環を形成し、Rは、Hまたは低級アルキルを表し、RはHを表す。
【0093】
さらなる好ましい実施形態において、C3およびC4における立体化学的表示はそれぞれRおよびSとする。
【0094】
ある他の実施形態において、Rは、シアノ、ボロン酸、−SO、−P(=O)Z、−P(=R)R1011、−C(=NH)NH、−CH=NR12、または−C(=O)−R12を表し、式中、
はOまたはSを表し、
10は、N、SH、NH、NO、またはOLR13を表し、
11は、低級アルキル、アミノ、OLR13、またはその薬学的に許容される塩を表すか、または、
10およびR11は、それらが付属するリンと共に5〜8員の複素環式環を形成し、
12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、−(CH−R13、−(CH−OH、−(CH−O−アルキル、−(CH−O−アルケニル、−(CH−O−アルキニル、−(CH−O−(CH−R13、−(CH−SH、−(CH−S−アルキル、−(CH−S−アルケニル、−(CH−S−アルキニル、−(CH−S−(CH−R13、−C(O)C(O)NH、−C(O)C(O)OR14、またはC(Z)(Z)(Z)を表し、
13は、H、アルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはヘテロサイクリルを表し、
14は、H、アルキル、アルケニル、またはLR13を表し、
は、ハロゲンを表し、
およびZは、独立してHまたはハロゲンを表し、
pは、場合ごとに独立して、0〜8の整数であり、
qは、場合ごとに独立して、1〜8の整数である。
【0095】
別の実施形態において、Rは、CN、CHO、またはC(=O)C(Z)(Z)(Z)を表し、式中Zはハロゲンを表し、ZおよびZは、Hまたはハロゲンを表す。このようなある実施形態において、Rは、C(=O)C(Z)(Z)(Z)を表し、式中Zはフッ素を表し、ZおよびZは、Hまたはフッ素を表す。
【0096】
ある好ましい実施形態において、Rは、式B(Y)(Y)で表される基であり、式中、YおよびYは、独立してOHまたはOHに加水分解されうる基であるか(すなわち、ボロン酸を得るために)、それらが付属する原子とともに、ボロン酸へ加水分解可能な5〜8員の環を形成する。
【0097】
構造の例としては、以下のものが挙げられる:
【化11】

【0098】
ある好ましい実施形態において、主題の阻害剤は、DPIV阻害に対するKが10nM以下、好ましくは1.0nM以下、さらに好ましくは0.1あるいは0.01nM以下のDPIV阻害剤である。実際のところ、Ki値がピコモラーやフェムトモラー程度のものも考えられる。
【0099】
一般に、主題の方法の阻害剤は、小分子であり、たとえばその分子量は7500amu未満、好ましくは5000amu未満、さらに好ましくは2000未満、あるいは1000amu未満である。好ましい実施形態において、阻害剤は経口的に作用する。
【0100】
本発明の別の側面は、ジペプチジルペプチダーゼ阻害剤の医薬組成物に関し、特に阻害剤と、ペプチドホルモンのホメオスタシスを変えることによって改善可能な疾患の治療および/または予防におけるその使用に関する。好ましい実施形態において、阻害剤は、血糖降下および抗糖尿作用を有し、異常グルコース代謝(貯蔵を含む)によって特徴づけられる疾患の治療に用いてもよい。特定の実施形態において、主題の方法の組成物は、インスリン分泌促進剤として、あるいは、GLP−1などの分子のインスリン分泌促進効果を強化するために有用である。この点に関して、本組成物のある実施形態が、高脂血症、高血糖、肥満、グルコース不耐症、インスリン耐性、および糖尿病合併症のうちの1つまたはそれ以上を含む様々な疾患の治療および/または予防に対して有用である。
【0101】
たとえば、ある実施形態において、本方法は、阻害剤を、好ましくは24時間内の所定の間隔で、グルコース代謝不全(たとえば、グルコース耐性不全、インスリン耐性、高血糖、高インスリン血症、およびII型糖尿病)に関連する1つまたはそれ以上の異常指数を改善するのに有効な量で投与することを含む。阻害剤の有効量は、患者の体重1kgあたり、約0.01,0.1,1,10,30,50,70,100,150,200,500または1000mgである。
【0102】
(ii)GLP−1効果のアゴニズム
主題の方法において有用な阻害剤は、ある実施形態において、血中グルコース濃度を低下させて、肥満を軽減し、悪化したグルコース耐性を軽減し、肝臓のグルコース新生を阻害し、血中脂質を下げ、アルドースレダクターゼを阻害する能力を有している。したがって、それらは、高血糖、肥満、高脂血症、糖尿病の合併症(網膜症、腎症、神経障害、白内障、冠状動脈疾患、および動脈硬化)の予防および/または治療に対して、また、さらには肥満に関係した高血圧症や骨粗鬆症に対しても有用である。
【0103】
糖尿病は、インスリン分泌の相対的または絶対的減少、インスリン感度の減少、またはインスリン耐性から生じる高血糖によって特徴づけられる疾病である。この疾病の有病率と死亡率は、脈管、腎臓、および脳神経の合併症に起因するものである。経口グルコース耐性試験は、糖尿病を診断するために用いられる臨床試験である。経口グルコース耐性試験において、グルコース負荷または挑戦に対しての患者の生理学的反応を評価する。グルコースの消化後、グルコース挑戦に対する患者の生理学的反応を評価する。このことは、一般には、患者の血中グルコース濃度(患者の血漿、血清または全血内のグルコース濃度)を測定することによって行われる。
【0104】
1つの実施形態において、本発明は、GLP−1の作用を増強する(agonize)方法を提供する。腸内および後脳内のプレプログルカゴンに由来するGLP−1のアイソフォーム(GLP−1(7−37)およびGLP−1(7−36))が、インスリン分泌促進作用を有する。すなわち、グルコース代謝を調節する。DPIVは、これらのアイソフォームを不活性なペプチドに開裂する。したがって、ある実施形態において、本発明の阻害剤は、生物活性GLP−1ペプチドの分解を妨害することにより、インスリン分泌促進活性を増強する(agonize)ことができる。
【0105】
(iii)他のペプチドホルモンの効果のアゴニズム
別の実施形態において、主題の物質は、ペプチドホルモン、たとえば、GLP−2、GIPおよびNPYの活性を増強する(agonize)(たとえば、模倣するまたは効果を高める)ために用いることができる。
【0106】
さら説明すると、本発明は、GLP−2の作用を増強する(agonize)ための方法を提供する。GLP−2は栄養剤として作用し、胃腸管組織の成長を促進することが知られている。GLP−2の効果は、とくに小腸の成長が増大することを特徴とするので、本願においては「小腸栄養(intestinotrophic)」効果ということにする。DPIVは、GLP−2を生物学的に不活性なペプチドに開裂することが知られている。したがって、1つの実施形態において、DPIVの阻害が、GLP−2の分解を阻害し、これにより、当該ホルモンの血漿半減期が増大する。
【0107】
さらに他の実施形態において、主題の方法は、他のプログルカゴン由来ペプチド、たとえば、グリセンチン、オキシントモジュリン、グリセンチン関連膵臓ポリペプチド(GRPP)、および/または介在ペプチド−2(IP−2)の半減期を増大させるために用いることができる。たとえば、グリセンチンは、小腸の粘膜の増殖を引き起こし、胃のぜん動運動を阻害することが分かっており、消化管疾病に対する治療剤として有用であることが解明されており、これらのことから本発明が導かれた。
【0108】
したがって、1つの側面において、本発明は、胃腸組織、より特定すると小腸組織の成長および増殖を促進するための、阻害剤の治療関連的使用にも関する。たとえば、主題の方法は、たとえば小腸粘膜上皮の成長および修復の強化が必要とされる、小腸組織の損傷、炎症、または切除を治療するための計画の一部としても用いることができる。
【0109】
小腸組織に関して、このような成長は、未治療対照と比べての、小腸質量および長さを増加として都合良く測定される。小腸に対する対照阻害剤の効果は、腺窩プラス絨毛軸の長さの増大としても表れる。このような活性は、本願においては「小腸栄養」活性とよぶことにする。主題の方法の有効性は、腺窩細胞の増殖の増大および/または小腸上皮アポトーシスの減少として検出してもよい。これらの細胞性の効果は、遠位空腸および特に近位空腸を含む空腸、および遠位回腸に関連して最も著しく注目される。化合物は、該化合物で処理した場合に(または遺伝子工学的にそれ自体を発現させた場合に)試験動物が、有意な小腸重量の増加、腺窩プラス絨毛軸の高さの増加、または腺窩細胞増殖の増加、小腸上皮アポトーシスの減少を示せば、「小腸栄養効果」を有するとみなされる。このような胃腸の成長を判定するのに適したモデルが、米国特許第5,834,428号明細書に記載されている。
【0110】
一般に、小腸質量の増加、および結果としての小腸粘膜の機能の増加のいずれかの恩恵を受ける患者が、主題の方法の治療に対する候補者となる。治療しうる特定の状態としては、小麦由来のα−グリアジンに対する毒性反応に起因し、腸の絨毛の大幅な損失を特徴とするセリアックスプルー、感染に起因し絨毛の部分的な平坦化を特徴とする熱帯性スプルー、一般的な種々な免疫欠損または低ガンマグロブリン血症を有する患者において一般的に観察され絨毛の高さの著しい減少を特徴とする低ガンマグロブリン血スプルーを含む様々な形態のスプルーが挙げられる。治療の治療的効果は、絨毛の形態を評価するための腸バイオプシーにより、栄養素吸収の生化学的評価により、患者の体重減少により、あるいは、これらの状態に関連する症状の改善により監視することができる。主題の方法によって治療しうる、または主題の方法が予防的に有利となるような他の状態としては、たとえば、放射線腸炎、感染、または感染後腸炎、限局性腸炎(クローン病)、毒素または他の化学治療剤による小腸損傷、および短腸症候群患者があげられる。
【0111】
より一般的には、本発明は、消化管疾病を治療するための治療的方法を提供する。本願で用いる「消化管」とは、胃と腸を含む食物が通過する管を意味する。本願で用いる「消化管疾病」とは、消化管粘膜内に定性的または定量的な異常を伴う疾病を意味し、そのようなものとして、たとえば、潰瘍性または炎症性の疾病;吸収不良症候群を含む先天的または後天的消化および吸収不全;腸の粘膜バリア機能の損失による疾病;およびタンパク質漏出性胃腸症が挙げられる。潰瘍性疾病としては、たとえば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、結腸潰瘍、および回腸潰瘍が挙げられる。炎症性疾病としては、たとえば、食道炎、胃炎、十二指腸炎、腸炎、結腸炎、クローン病、直腸炎、胃腸ベーチェット病、放射線腸炎、放射線結腸炎、放射線直腸炎、および薬物性腸炎が挙げられる。吸収不良症候群には、二糖類分解酵素欠失症、グルコース−ガラクトース消化不良、フルクトース消化不良などの本態性吸収不良症候群;二次吸収不良症候群、たとえば、静脈または非経口栄養または基本食を介した消化管粘膜萎縮によって引き起こされる障害、短腸症候群などの小腸の切除や短絡によって引き起こされる疾病、盲嚢症候群;および、ダンピング症候群などの胃の切除によって引き起こされる疾病などの不消化吸収不良症候群が含まれる。
【0112】
本願で用いる「消化管疾病に対する治療剤」という用語は、消化管疾病の予防および治療ための薬剤を意味し、これには、たとえば、消化管潰瘍のための治療剤、炎症性消化管疾病のための治療剤、消化管内の粘膜萎縮のための治療剤、消化管創傷のための治療剤、粘膜バリア機能回復のための消化管機能に対する改善剤、消化および吸収機能に対する改善剤が含まれる。潰瘍には、消化潰瘍とびらん、および急性潰瘍、すなわち急性の粘膜損傷が含まれる。
【0113】
主題の方法は、小腸粘膜の増殖を促進するために、消化および吸収不全の病理状態の治療および予防、すなわち、粘膜萎縮の治療および予防、または消化管組織の形成不全および外科的除去によるそれらの組織の減少の治療、ならびに消化および吸収の改善に用いることができる。さらに、主題の方法は、腸炎、クローン病、および潰瘍性結腸炎などの炎症性疾病による病理粘膜状態の治療、および、たとえばダンピング症候群における手術後の消化管機能の低下の治療、ならびに、胃のぜん動運動の阻害と、胃から回腸への食物の迅速な移動とを併用した十二指腸潰瘍の治療に使用することができる。さらに、グリセンチンは、消化管の機能を改善するだけでなく、外科的侵襲の治癒を促進するためにも効果的に用いることができる。したがって、本発明は、消化管粘膜の萎縮に対する治療薬、消化管内の創傷に対する治療薬、および、グリセンチンを有効成分として含む消化管機能促進のための薬剤をも提供する。
【0114】
同様に、主題の発明の阻害剤は、セクレチンVIP,PHI、PACAP,GIP,および/またはヘロデルミンの血漿半減期を変えるために用いることができる。さらに主題の方法は、いずれも膵臓ポリペプチドファミリーのメンバーであるペプチドYYおよび神経ペプチドYの薬物動態を変えるために用いることができる。これはDPIVが、受容体選択性を変えるようにこれらのペプチドのプロセシングに関与していることが証明されているためである。
【0115】
神経ペプチドY(NPY)は、血圧の調節のみならず、脈管の平滑筋緊張の調節において作用するとされている。NPYは、心筋収縮能を低下させる。NPYは、知られているなかでは最も強力な食欲刺激剤である(Wildingら、(1992)J.Endocrinology 132:299〜302頁)。中枢から喚起される食物摂取(食欲刺激)効果は、主としてNPYY1受容体によって媒介され、体脂肪貯蔵の増加と肥満を引き起こす(Stanleyら、(1989)Physiology and Behavior 46:173〜177頁)。
【0116】
本発明によれば、拒食症の治療方法は、宿主被験者に、有効量の阻害剤を投与して、食欲を刺激して、体脂肪貯蔵を増加させることにより拒食症の症状を実質的に軽減することを含む。
【0117】
低血圧の治療方法は、宿主被験者に、有効量の本発明の阻害剤を投与して、血管収縮を媒介し、血圧を上昇させることにより、実質的に低血圧の症状を軽減することを含む。
【0118】
DPIVは、代謝および、成長ホルモン放出因子(GHRF)の不活性化に関与していることが分かっている。GHRFは、グルカゴン、セクレチン、血管活性腸管ペプチド(VIP)、ペプチドヒスチジンイソロイシン(PHI)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、胃抑制ペプチド(GIP)、およびヘロデルミン(Kubiakら(1994)PeptideRes7:153頁)を含む相同タンパク質のファミリーのメンバーである。GHRFは、視床下部によって分泌され、下垂体前葉からの成長ホルモン(GH)の放出を刺激する。したがって、主題の方法は、ある特定の成長ホルモンを欠如した小児に対する臨床治療を向上するために用いてもよいし、成人の臨床治療において、栄養を高めたり、身体組成(筋肉対脂肪)を変えるために用いてもよい。主題の方法は、獣医学実務において、たとえば、より高収量のミルク生産やより多収量の低脂肪家畜を開発するために用いてもよい。
【0119】
(iv)インスリン分泌促進活性のアッセイ
主題の方法において用いるのに適した化合物の選択においては、化合物のインスリン分泌促進特性は、該化合物を動物細胞に提供するか、該化合物を動物に注射して、免疫反応性インスリン(IRI)の培地中または動物の循環系中への放出を監視することによって判定することができる。IRIの有無は、インスリンを特異的に検出することのできるラジオイムノアッセイを使用して検出することができる。
【0120】
db/dbマウスは、遺伝学上の肥満および糖尿病マウス株である。db/dbマウスは、肥満を発症すると同時に、高血糖および高インスリン血症も発症するため、肥満のI型糖尿病(NIDDM)のモデルとなる。db/dbマウスは、たとえば、The Jackson Laboratories(Bar Harbor,Me)から購入することができる。実施例において、阻害剤を含む計画によるマウスまたは対照の治療に対して、または眼窩下洞血を各動物への投与前および投与後の適当な時間(たとえば60分)後に採取する。血中グルコースの測定は、グルコース測定器を用いるなどの任意のいくつかの従来の技術によって行うことができる。対照と阻害剤を投与した動物における血中グルコース濃度を比較する。
【0121】
外来のGLP−1の代謝的運命も、非糖尿またはII型糖尿被験者の両方について追跡することができ、候補となる阻害剤の効果を判定する。たとえば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と、特異的ラジオイムノアッセイ(RIA)と、酵素免疫吸着アッセイ(ELISA)との組み合わせを用いることができ、これにより、無傷の生物活性GLP−1およびその代謝物を検出することができる。たとえば、Deacoら(1995)Diabetes44:1126〜1131頁を参照のこと。説明すると、GLP−1投与後に、無傷のペプチドをNH末端を標的としたRIAまたはELISAによって測定し、これらのアッセイ間での濃度の差異と、COOH−末端特異的RIAによって、NH末端を切り落とした代謝物の判定を行うようにしてもよい。阻害剤なしの場合、皮下GLP−1は、時間とともに迅速に分解し、HPLC上でGLP−I(9−36)アミドと共溶出し、同じ免疫反応性プロファイルを有する代謝物を生成する。たとえば、糖尿病患者(n=8)にGLP−1を皮下投与してから30分後、代謝物は、COOH末端RIAによって判定さる血漿免疫活性において88.5+1.9%の上昇を示し、これは、健常な被験者において測定されたレベル(78.4+3.2%;n=8;P<0.05)より高かった。前掲のDeaconらを参照のこと。静脈内に注入したGLP−Iもまた非常に分解された。
【0122】
(v)結合投与
本発明の別の側面は、1つまたはそれ以上の他の治療剤をプロテアーゼ阻害剤と共に投与する結合治療を提供する。このような結合治療は、個々の治療成分を、同時、連続、または個別に投与することによって行うことができる。
【0123】
一実施形態において、阻害剤は、インスリンまたは他のインスリン分泌促進剤、たとえば、GLP−1、ペプチドホルモン、たとえばGLP−2、GIPまたはNPY、または前記薬剤とペプチドホルモンの異所発現を引き起こす遺伝子治療ベクターと結合的に投与される。ある実施形態において、前記薬剤またはペプチドホルモンは、1つまたはそれ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含んだ天然または合成ペプチドホルモンの変異体であってもよい。
【0124】
別の実施形態において、主題の阻害剤は、M1受容体アンタゴニストとともに結合投与してもよい。コリン作用物質は、ムスカリン受容体を介して作用するインスリン放出の強力な調節剤である。さらに、このような物質を使用することで、HDL濃度を増加させつつコレステロール濃度を減少させるというさらなる利点がえられる。このようなムスカリン性受容体アンタゴニストとしては、ムスカリン性コリン作用性受容体の活性化を直接または間接的に遮断する物質が挙げられる。好ましくは、そのような物質は、M1受容体に対して選択的である(またはそのような選択性を促進するような量で使用される)。非限定的な例として、四級アミン(メタンセリン、イプラトロピウム、およびプロパンセリンなど)、三級アミン(たとえば、ジシクロミンやスコポラミンなど)、および三環アミン(たとえば、テレンゼピンなど)が挙げられる。ピレンゼピンおよびメチルスポコラミンが好ましい。他の適切なムスカリン性受容体アンタゴニストとしては、ベンゾトロピン(MerckよりCOGENTINとして市販)、ヘキサヒドロ−シラ−ジフェニドールハイドロクロライド(Lambrechtら(1989)Trends in Pharmacol.Sci.10(Suppl):60に記載のHHSIDハイドロクロライド);(+/−)−3−キノクリジニルキサンテン−9−カルボキシレートヘミオキザレート(QNX−ヘミオキザレート;Birdsallら、Trends in Pharmacol.Sci.4:459頁、1983年);テレンゼピンジハイドロクロライド(Coruzziら、(1989)Arch.Int,Pharmacodyn,Ther.302:232頁);およびKawashimaら(1990)Gen.Pharmacol.21:17頁)、ならびにアトロピンが挙げられる。上記ムスカリン性受容体アンタゴニストの用量は、上記概説したように最適化される。脂質代謝不全の場合、用量最適化は、脂質代謝反応性ウィンドウを参照して時間が決められているかどうかとは関係なく必要であろう。
【0125】
インスリンおよび脂質代謝の調節および前述の疾患の軽減に関していえば、主題の阻害剤は、d2ドーパミンアゴニスト(たとえばブロモクリプチン)などのプロラクチン阻害剤と相乗的に作用するかもしれない。したがって、主題の方法は、プロラクチン阻害エルゴアルカロイドやプロラクチン阻害ドーパミンアゴニストなどの、プロラクチン阻害剤の結合投与を含んでいてもよい。適切な化合物の例としては、2−ブロモ−α−エルゴクリプチン、6−メチル−8 β−カルボベンジルオキシアミノエチル−10−α−エルゴリン、8−アシルアミノエルゴリン、6−メチル−8−α−(N−アシル)アミノ−9−エルゴリン、6−メチル−8−α−(N−フェニルアセチル)アミノ−9−エルゴリン、エルゴコルニン、9,10−ジヒドロエルゴコルニン、D−2−ハロ−6−アルキル−8−置換エルゴリン、D−2−ブロモ−6−メチル−8−シアノメチルエルゴリン、カルビドパ、ベンセラジド、および他のドパデカルボキシラーゼ阻害剤、L−ドーパ、ドーパミン、およびその非毒性塩が挙げられる。
【0126】
本発明によって使用される阻害剤は、β細胞のATP依存性カリウムチャンネルに作用する物質、たとえば、グリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、およびAG−EE623ZWと結合的に使用してもよい。阻害剤は、メトホルミンや関連化合物またはアカルボースなどのグルコシダーゼ阻害剤と組み合わせて使用することが有益であるかもしれない。
【0127】
(vi)医薬組成物
本願に記載するように調製した阻害剤は、当該技術分野において周知のように、治療すべき疾患、患者の年齢、状態および体重に応じて、様々な形態で投与することができる。たとえば、化合物を経口投与する場合には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤またはシロップ剤として調合してもよいし、非経口投与のためには、注射剤(静脈内、筋肉内または皮下)、点滴剤、または坐剤として調合してもよい。眼科粘膜経路で与えるためには、点眼剤または眼軟膏剤として調合するとよい。これらの製剤は、従来の手段によって調製することができ、必要に応じて、有効成分を、任意の従来の添加物、たとえば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、矯味剤、可溶化剤、懸濁補助剤、乳化剤、またはコーティング剤と混合してもよい。用量は、症状、患者の年齢および体重、治療または予防すべき疾患の性質および重度、薬物の投与経路および剤形によって変わるが、一般には、0.01〜2000mgの日用量の化合物が、成人ヒト患者に対しては推奨され、この用量は単回または分回のいずれで投与してもよい。
【0128】
所与の患者における治療の効力に関して最も効果的な結果を生み出す投与の正確な時間および/または阻害剤の量は、個々の化合物の活性、薬物動態および生物利用性、患者の生理状態(年齢、性別、疾病のタイプと段階、前進的身体状態、所与の用量に対する反応性、および薬物のタイプ)、投与経路などに依存する。しかしながら、上記のガイドラインは、治療を好転させるため、たとえば、最適な投与時間および/または量を判定させるための基準として用いることができ、これには、被験者をモニタリングして用量および/またはタイミングを調製することからなる常套的な実験以上のことは必要でない。
【0129】
「薬学的に許容される」という言い回しは、本願においては、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題または困難を引き起こすことなく、妥当な損益比に見合った、ヒトおよび動物の組織と照らして用いるのに適した音響医療判断の範囲における、リガンド、材料、組成物、および/または剤形のことをいう。
【0130】
本願で用いる「薬学的に許容される担体」という言い回しは、薬学的に許容される材料、組成物またはビークル、たとえば、液体または固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒またはカプセル化剤を意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合するとともに、患者に損傷を与えないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能しうる材料のいくつかの例として、(1)ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖類、(2)コーンデンプンやポテトデンプンなどのデンプン類、(3)セルロースおよびその誘導体、たとえばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、および酢酸セルロースなど、(4)粉末トラガカント、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤、たとえば、ココアバターや坐薬ワックス、(9)落花生油、綿実油、菜種油、ごま油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油類、(10)プロピレングリコールなどのグリコール類、(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール類、(12)オレイン酸エチルやラウリン酸エチルなどのエステル類、(13)寒天、(14)水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、(15)アルギン酸、(16)発熱物質を含まない水、(17)等張食塩水、(18)リンガー溶液、(19)エチルアルコール、(20)リン酸バッファ溶液、および(21)医薬調合において用いられる他の非毒性適合性物質が挙げられる。ある実施形態において、本発明の医薬組成物は、非発熱性、すなわち、患者に投与されたときに有意な温度上昇を誘引しない。
【0131】
「薬学的に許容される塩」という用語は、阻害剤の、比較的無毒の無機および有機の酸付加塩のことをいう。これらの塩を、阻害剤の最終単離および精製中にin situで調製してもよいし、遊離塩基状態の精製阻害剤を適切な有機または無機酸に別個に反応させて、形成された塩を単離するようにしてもよい。代表的な塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトネート、ラクトビオネート、およびラウリルスルホン酸塩など(たとえば、Bergeら(1977)“PharmaceuticalSalts”,J.Pharm,Sci.66:1〜19頁を参照のこと)が挙げられる。
【0132】
他の場合において、本発明の方法に有用な阻害剤は、1つまたはそれ以上の酸性官能基を含んでいてもよく、それにより、薬学的に許容される塩基とともに、薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの場合における「薬学的に許容される塩」とは、阻害剤の、比較的無毒の無機および有機塩基付加塩のことをさす。これらの塩もまた、阻害剤の最終単離および精製中にin situで調製してもよいし、あるいは、その遊離酸状態の精製阻害剤を、薬学的に許容される金属カチオンのヒドロキシド、カルボネート、またはビカルボネートと、アンモニアと、または薬学的に許容される有機第一級、第二級、または第三級アミンと個別に反応させることによって調製してもよい。代表的なアルカリまたはアルカリ土類塩としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウム塩などが挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な代表的な有機アミンとしては、たとえば、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどが挙げられる(たとえば、前掲のBergeらを参照のこと)。
【0133】
湿潤剤、乳化剤、および潤滑剤、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウムやステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、および香料、防腐剤および抗酸化剤が組成物中に存在してもよい。
【0134】
薬学的に許容される抗酸化剤としては、たとえば、(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビン酸パルミチン酸エステル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レクチン、プロピルガラート、α−トコフェロールなどの油溶性抗酸化剤、(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤が挙げられる。
【0135】
本発明の方法に有用な製剤としては、経口、経鼻、局所(口腔および舌下を含む)、直腸、腟内、エアロゾル、および/または非経口投与に適したものが含まれる。これらの製剤は、都合良く単位用量の剤形で与えてもよいし、薬学技術において周知の任意の方法によって調製してもよい。単回用量を与えるために担体材料と組み合わせることのできる有効成分の量は、治療される宿主および個々の投与形態に応じて異なる。単回用量を与えるために担体材料と組み合わせることのできる有効成分の量は、おおよそ治療的効果を与える化合物量となる。一般に、100%のうち、この量は有効成分の約1%から約99%の範囲にあり、好ましくは約5%から約70%、最も好ましくは約10%から約30%である。
【0136】
これらの製剤または組成物の調製方法は、阻害剤を担体、および任意で1つまたはそれ以上のアクセサリ成分と会合させる工程を含む。一般に、製剤は、リガンドを液体担体または細分化固体担体あるいはその両方と、均一かつ親密に会合させ、必要であれば生成物を成形することによって調製される。
【0137】
経口投与に適した製剤は、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、ドロップ剤(風味付けした基礎材料、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカントを用いる)、粉剤、顆粒剤、または水性または非水性液中の溶液剤または懸濁剤として、または水中油または油中水乳濁液として、またはエリキシル剤またはシロップ剤として、またはトローチ剤(ゼラチンやグリセリン、またはスクロースやアカシアなどの不活性基礎材料を用いる)および/またはうがい薬などの剤形であり、そのそれぞれが有効成分としての所定量の阻害剤を含む。化合物は、ボーラス、舐剤またはペーストとして投与してもよい。
【0138】
経口投与のための固体剤形(カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉剤、顆粒剤など)において、有効成分を1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体、たとえばクエン酸ナトリウムまたはリン酸ジカルシウムなどと、および/または以下の(1)〜(10)の任意のものと混合する。(1)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸などの充填剤または増量剤、(2)たとえばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、および/またはアカシアなどの結合剤、(3)グリセロールなどの湿潤剤、(4)寒天、炭酸カルシウム、ポテトまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種の珪酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(5)パラフィンなどの溶解遅延剤、(6)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(7)アセチルアルコールやモノステアリン酸グリセロール等の加湿剤、(8)カオリンやベントナイトクレイなどの吸着剤、(9)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびその混合物などの潤滑剤、および(10)着色剤。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、医薬組成物は、緩衝剤をさらに含んでいてもよい。同様のタイプの固体組成物は、ラクトースや乳糖などの賦形剤、ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどを用いた軟質および硬質のゼラチンカプセルにおける充填剤として用いることもできる。
【0139】
錠剤は、任意で1つまたはそれ以上のアクセサリ成分とともに、圧縮または成形によって作成することができる。圧縮錠剤は、結合剤(たとえば、ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(たとえば、グリコール酸ナトリウムデンプンまたは架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース)、表面活性または分散剤を用いて調製することができる。成形錠剤は、適切な機械中で、不活性希釈液で湿らせた粉末化ペプチドまたはペプチド模倣物の混合物を成形することによって調製することができる。
【0140】
錠剤、および他の固体剤形、たとえば糖衣錠、カプセル剤、丸剤および顆粒剤は、任意で切り込みを入れるか、腸溶錠や薬剤調合技術において周知の他のコーティングなどコーティングおよびシェルとともに調製してもよい。また、たとえば、所望の放出特性を与えるような種々の比率のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム、および/またはミクロスフェアを用いて有効成分の放出を遅延または制御するように調製を行ってもよい。また、たとえば、使用直前に、細菌保持フィルタを通すろ過や、滅菌水に溶解可能な無菌固体組成物中に滅菌剤、または他の滅菌された注射可能な媒体を組み込むことによって滅菌してもよい。これらの組成物は、任意で乳白剤を含んでいてもよく、胃腸管のある部位に限定的または優先的に、任意で遅延して、有効成分を放出する組成物であってもよい。使用することのできる包埋組成物としては、たとえば、高分子物質およびワックスが挙げられる。有効成分は、適時1つまたはそれ以上の上述の賦形剤とともに、マイクロカプセル化した剤形であってもよい。
【0141】
経口投与のための液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルション、ミクロエマルション、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、およびエリキシル剤が挙げられる。有効成分に加えて、液体剤形は、当該技術分野において広く用いられている不活性希釈剤、たとえば、水や他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤、たとえばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンゼン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油類(特に、綿実油、挽いたナッツの油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、およびその混合物を含んでいてもよい。
【0142】
不活性希釈剤以外に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤などのアジュバント、甘味剤、香味剤、着色剤、香料、および防腐剤を含んでいてもよい。
【0143】
懸濁剤は、活性阻害剤に加えて、懸濁化剤、たとえば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキド、ベントナイト、寒天およびトラガカント、およびその混合物を含んでいてもよい。
【0144】
直腸または腟内投与用の製剤は、坐薬として与えてもよく、1つまたはそれ以上の阻害剤を、たとえば、ココアバター、ポリエチレングリコール、坐剤ワックスまたはサリチル酸塩などからなる1つまたはそれ以上の適切な非刺激性の賦形剤または担体と混合することによって調製してもよく、前記賦形剤または担体は、室温では固定であり、体温においては液体であるため、直腸または腟腔内で溶けて有効成分を放出する。
【0145】
腟内投与に適した製剤には、当該技術分野において適当であると知られている担体を含んだ、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレーも含まれる。
【0146】
阻害剤の局所または経皮投与のための剤形としては、粉剤、噴霧剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、溶液剤、パッチ剤、および吸入剤が挙げられる。活性成分は、無菌状態下で薬学的に許容される担体と、および必要に応じて任意の防腐剤、緩衝剤、または推進剤と混合してもよい。
【0147】
軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤およびゲル剤は、阻害剤の他に、賦形剤、たとえば、動物および植物油脂、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、および酸化亜鉛、またはその混合物を含んでいてもよい。
【0148】
粉剤または噴霧剤は、阻害剤に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、およびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含んでいてもよい。噴霧剤は、さらに、クロロフルオロ炭化水素などの通常の推進剤や、ブタンやプロパンなどの揮発性非置換炭化水素をさらに含んでいてもよい。
【0149】
阻害剤は、エアロゾルによって投与してもよい。このことは、化合物を含む水性エアロゾル、リポソーム調製物、または固体粒子を調製することによって達成される。非水性(たとえば、過フッ化炭素推進剤)懸濁剤を用いることができる。超音波ネブライザーが好ましいが、これは、化合物の分解をもたらしうる剪断に対する薬剤の露出を最小限に抑えるためである。
【0150】
通常、水性エアロゾルは、薬剤の水性溶液または懸濁液を従来の薬学的に許容される担体および安定剤とともに調合することによって作成される。担体および安定剤は、個々の化合物の要件によって異なるが、典型的には、非イオン性界面活性剤(Tween類、プルロニクス、またはポリエチレングリコール)、血清アルブミンなどの無害のタンパク質、ソルビタンエステル、オレイン酸、レクチン、グリシンなどのアミノ酸、緩衝剤、塩、糖、または糖アルコールなどを含む。エアロゾルは一般には等張溶液から調製される。
【0151】
経皮パッチは、体への阻害剤の送達を制御できるというさらなる利点を有している。このような剤形は、薬剤を適当な媒体中に溶解または懸濁することによって作成することができる。吸収増強剤を用いて、皮膚を通る阻害剤の束を大きくするようにしてもよい。このような束の速度は、速度制御膜を設けるか、ポリマーマトリックスまたはゲル中にペプチド模倣物を分散させるかのいずれかによって制御することができる。
【0152】
眼科製剤、眼軟膏剤、粉剤、溶液剤なども、本発明の範囲内にあると解釈される。
【0153】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、1つまたはそれ以上の薬学的に許容される無菌等張水性または非水性溶液、分散液、懸濁液または乳濁液と組み合わせた1つまたはそれ以上の阻害剤、または、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を目的とする受容者の血液と等張にする溶質、または懸濁化剤または増粘剤を含んでもよく使用直前に注射可能な溶液または分散液に再構成することのできる無菌粉末からなる。
【0154】
本発明の医薬組成物において使用しうる適切な水性または非水性担体としては、たとえば、水、エタノール、多価アルコール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびその適切な混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティング材料を使用することによって、分散液の場合には望ましい粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持できる。
【0155】
上記の組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などのアジュバントを含んでいてもよい。様々な抗菌および抗カビ剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含めることによって微生物の活動を確実に妨害するようにしてもよい。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物内に含めることも望ましいかもしれない。さらに、モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの吸収を遅延させる物質を含めることによって、注射製剤の遅延吸収を起こさせるようにしてもよい。
【0156】
薬物の効果を引き延ばすために、皮下または筋肉内注射からの薬物の吸収を遅らせることが望ましい場合もある。このことは、水溶性の乏しい結晶または非晶質材料の懸濁液を用いることによって達成してもよい。したがって、薬物の吸収速度は、その溶解速度に依存し、この溶解速度は、結晶の大きさや結晶の形状に依存しうる。あるいは、非経口投与された薬物形態の遅延吸収は、該薬物を油媒体中に溶解または懸濁することによって行う。
【0157】
注射可能なデポー剤形は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に阻害剤のマイクロカプセル化マトリックスを形成することによって作成される。ポリマーに対する薬物の割合および使用する個々のポリマーの性質に応じて、薬物放出速度を制御することができる。他の生分解可能なポリマーとしては、たとえば、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。また、デポー注射製剤は、体組織に適合可能なリポソームまたはミクロエマルション中に薬物を捕捉することによって調製する。
【0158】
本発明の阻害剤をヒトおよび動物への薬剤として投与する場合には、それ自体または、たとえば0.1〜99.5%(より好ましくは、0.5〜90%)の有効成分を薬学的に許容される担体と組み合わせて含んだ医薬組成物として与えることができる。
【0159】
薬剤の調製物は、経口、非経口、局所または直腸投与のいずれで投与してもよい。当然ながら、各投与経路に適した剤形によって与えられる。たとえば、錠剤またはカプセル剤形で、注射、吸入、目薬、軟膏、坐薬、注入によって投入され、局所投与の場合はローションまたは軟膏によって、または直腸投与の場合は坐薬によって投与される。経口投与が好ましい。
【0160】
本願における「非経口投与」および「非経口的に投与される」という言い回しは、腸内および局所投与以外の投与様式を意味し、通常は、注射によるものであり、その例としては限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内注射および注入が挙げられる。
【0161】
本願における「全身投与」または「全身に投与される」、「末梢投与」または「末梢に投与される」という言い回しは、リガンド、薬物または他の材料が、患者の系に入って代謝などのプロセスを受けるような、中枢神経系に直接投与する以外の投与、たとえば皮下投与などによって投与することを意味する。
【0162】
これらの阻害剤は、ヒトおよび他の動物に治療のために、経口、たとえばスプレーによる経鼻、腟内、非経口、脳槽内、および粉末、軟膏または口腔および舌下を含むドロップによる局所投与を含む任意の適切な投与経路によって投与することができる。
【0163】
選択した投与経路に関係なく、適切な水和形態で用いてもよい阻害剤、および/または本発明の医薬組成物は、当業者によって知られる従来の方法によって薬学的に許容される剤形に調合される。
【0164】
本発明の医薬組成物における有効成分の実際の投与濃度は、患者に対して有毒にならない限りで、特定の患者、組成物および投与様式に対する所望の治療的応答を達成するのに有効な有効成分の量を得るように変更することができる。
【実施例】
【0165】
IV:実施例
本発明を概説してきたが、以下の実施例を参照することによってより容易に理解することができよう。以下の実施例は本発明の特定の側面および実施形態を説明することだけを目的としており、本発明を限定することはない。
【0166】
実施例1:DPIV阻害アッセイ
阻害剤溶液は、3〜5mgの阻害剤をpH2溶液(0.01N HCl)に、溶液の濃度が1mg/10μLとなるように溶解することによって調製した。この溶液の10μLの試料を990μLのpH8バッファ(0.1M HEPES、0.14M NaCl)に加え、溶液を室温で一晩放置した。
【0167】
酵素溶液は、20μLのDPIV(濃度2.5μM)を40mLのpH8バッファに希釈することにより調製した。
【0168】
基質溶液は、2.0mgのL−アラニル−L−プロリン−パラ−ニトロアニリドを20mLのpH8バッファに溶解することにより調製した。
【0169】
250μLの酵素溶液を、96ウェルプレートのウェル#B1〜#Hl、#A2〜#H2、および#A3〜#H3に加え、ウェル#Alには、酵素溶液の代わりに250μLのpH8バッファを入れた。90μLのpH8バッファをカラム5(ウェル#A5〜#H5)に加えた。
【0170】
阻害剤溶液を#A5に加えることにより1:10希釈を行い、溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#A5から#B5に移した。#B5内の溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#B5から#C5に移した。#C5内の溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#C5から#D5に移した。#D5内の溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#D5から#E5に移した。#E5内の溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#E5から#F5に移した。次に、#F5内の溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#F5から#G5に移した。#G5内の溶液をよく混合してから、この溶液の10μLを#G5から#H5に移した。
【0171】
30μLのアリコートをH行について#H5から#H3に移し、内容物をよく混合した。同様の手順を行G、F、E、D、C、B、およびAについて順に繰り返した。プレートをプレート振盪機上で5分間振盪してから、プレートをさらに室温で5分間インキュベートした。
【0172】
プレートをインキュベートしたところで、30μLの基質を#A1以外の各ウェルに加えた。プレートをプレート振盪機上に5分間おいてから、プレートを室温で25分間インキュベートした。波長410nmでの吸収を迅速に読み取った。
【0173】
上記のアッセイを用いて、以下に示す化合物に対してpH8におけるIC50を求めた。
【0174】

化合物 IC50
A 11μM
B 40nM
C 0.34μM
D 34nM
E 23nM
F 69μM
G 6.7nM
I 25nM
J 1.9nM
K 36nM
M 2.6nM
N 3.0nM
O 0.63μM
P 2.1nM
Q 9.9nM

IV.均等物
当業者であれば、常套的な実験だけを用いて、本願に記載に本発明の個々の実施形態に対する多くの均等物を理解するか、確認することができるであろう。このような均等物も以下の請求項によって包含されるものとする。
【0175】
上記のすべての引用文献および出版物は、参照により本願に組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中、
は、H、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、シアノ、スルホニルアミノ、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、および1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖から選択され、
およびRは、それぞれ独立して、H、低級アルキル、シクロアルキル、およびアラルキルから選択されるか、RとRは、それらが付属する原子とともに4〜6員の複素環を形成し、
およびRは、それぞれ独立して、H、ハロゲン、およびアルキルから選択されるか、RおよびRは、それらが付属する炭素とともに、3〜6員の炭素環式または複素環式環を形成し、
は、標的プロテアーゼの活性部位残基と反応して共有結合配位体を形成する官能基を表し、
は存在しないか、環A上の1つまたはそれ以上の置換基であり、各置換基は、独立して、H、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、ヒドロキシル、オキソ、エーテル、チオエーテル、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、アミノ、アミド、シアノ、ニトロ、アジド、アルキルアミノ、アシルアミノ、アミノアシル、シアノ、スルフェート、スルホネート、スルホニル、スルホニルアミノ,アミノスルホニル、アルコキシカルボニル、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、および1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖から選択され、
は、H、アリール、アルキル、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロサイクリル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、および1〜8個のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖から選択され、
Lは、存在しないか、アルキル、アルケニル、アルキニル、−(CHO(CH−,−(CHNR(CH−、および−(CHS(CH−から選択され、
Xは、存在しないか、−N(R)−、−O−、および−S−から選択され、
Yは、存在しないか、−C(=O)−、−C(=S)−、および−SO−から選択され、
mは、各場合について独立して、0〜10の整数であり、
nは、0〜3の整数、好ましくは0または1である。)
【請求項2】
は、シアノ、ボロン酸、−SO、−P(=O)Z、−P(=R)R1011、−C(=NH)NH、−CH=NR12、および−C(=O)−R12から選択され、
はOまたはSを表し、
10は、N、SH、NH、NO、およびOLR13から選択され、
11は、低級アルキル、アミノ、OLR13、またはその薬学的に許容される塩から選択されるか、
10およびR11は、それらが付属するリンと共に5〜8員の複素環式環を形成し、
12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、−(CH−R13、−(CH−OH、−(CH−O−アルキル、−(CH−O−アルケニル、−(CH−O−アルキニル、−(CH−O−(CH−R13、−(CH−SH、−(CH−S−アルキル、−(CH−S−アルケニル、−(CH−S−アルキニル、−(CH−S−(CH−R13、−C(O)NH、−C(O)OR14、およびC(Z)(Z)(Z)から選択され、
13は、H、アルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロサイクリルから選択され、
14は、H、アルキル、アルケニル、およびLR13から選択され、
は、ハロゲンであり、
およびZは、独立してHまたはハロゲンから選択され、
pは、場合ごとに独立して、0〜8の整数であり、
qは、場合ごとに独立して、1〜8の整数であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
は、式−B(Y)(Y)で表される基であり、式中、YおよびYは、独立してOHまたはOHに加水分解されうる基であるか、それらが付属するホウ素原子とともに、ボロン酸へ加水分解可能な5〜8員の環を形成することを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項4】
プロテアーゼ阻害剤であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項5】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPIV)を50nM以下のKiで阻害するプロテアーゼ阻害剤であることを特徴とする請求項4記載の化合物。
【請求項6】
経口活性であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体と、請求項1記載の化合物、あるいはその薬学的に許容される塩またはプロドラッグとを含む医薬組成物。
【請求項8】
ポストプロリン分解酵素を阻害するための医薬の製造における請求項1記載の化合物の使用。
【請求項9】
化合物が、グルカン様ペプチド、NPY、PPY、セクレチン、GLP−1、GLP−2およびGIPから選択されるペプチドホルモンの血漿濃度を高めることを特徴とする請求項8記載の使用。
【請求項10】
グルコース代謝を調節するための医薬の製造における請求項1記載の化合物の使用。
【請求項11】
II型糖尿病、インスリン耐性、グルコース不耐症、高血糖、低血糖、抗インスリン血症、肥満、高脂血症、または抗リポタンパク症を患った患者のグルコース代謝を調節するための、請求項10記載の使用。
【請求項12】
酵素を請求項1の化合物と接触させることを含む、ポストプロリン分解酵素のタンパク質分解活性の阻害方法。
【請求項13】
請求項1の化合物の調製物と、ポストプロリン分解酵素を阻害するための前記調製物の使用について記載した説明書とを含む包装医薬。
【請求項14】
請求項1の化合物の調製物と、グルコース代謝を調節するための前記調製物の使用について記載した説明書とを含む包装医薬。
【請求項15】
化合物が、インスリン、インスリン分泌促進剤またはその両方と一緒に調合されるか、または一緒に包装されることを特徴とする請求項14記載の包装医薬。
【請求項16】
化合物が、M1受容体アンタゴニスト、プロラクチン阻害剤、β細胞のATP依存性カリウムチャンネルに作用する薬剤、メトホルミン、およびグルコシダーゼ阻害剤のうちの1つまたはそれ以上と、一緒に調合されるかまたは一緒に包装されることを特徴とする請求項15記載の包装医薬。

【公表番号】特表2007−526255(P2007−526255A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501011(P2007−501011)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/006127
【国際公開番号】WO2005/082849
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(303043726)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (26)
【Fターム(参考)】