説明

コールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置

【課題】出湯用のノズルの下端に残った凝固塊を出湯後に加熱により良好にノズルから除去することができ、その際に除去用コイルの絶縁被覆を焼損してしまうことのないコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置を提供する。
【解決手段】ノズルコイルによりるつぼ底部16で凝固した凝固金属を高周波誘導溶解して、るつぼ内の溶湯を出湯するようになしたコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置18において、ノズルコイル22を、ノズル20の下端に残った凝固塊k-1を高周波誘導加熱にて除去する除去用コイル24を備えたものとなして、その除去用コイル24をノズル20の下端部に且つその下端がノズル20の下端に、また上端がノズル20の下端から0.5D〜2D(D=ノズル20の口径)の高さに位置する状態に配置し、凝固塊k-1に10kg(質量)以上の錘Wをぶら下げて除去用コイル24に通電を行い、凝固塊k-1を除去するようになす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水冷のるつぼ内で原料金属を溶解用コイルによる高周波誘導加熱で半浮遊状態に溶解するコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンを始めとする高融点で活性な金属の溶解炉として、従来コールドクルーシブル溶解炉が用いられている。
ここで従来用いられているコールドクルーシブル溶解炉は、周方向に複数分割された円弧状の水冷銅セグメントを絶縁材を介して周方向に互いに繋ぎ合わせて筒状の水冷のるつぼ(銅るつぼ)を構成し、そしてその外側に溶解用コイルを配置した形態のもので、るつぼ内部に装入した原料金属を溶解用コイルによる高周波誘導加熱により溶解する。
【0003】
このとき、るつぼ内で溶解した金属は溶解用コイルによる電磁力の作用で、即ち磁気的な反発力(ローレンツ斥力)でるつぼの周壁部から離れ、中心部が上向きに盛り上がったドーム状の半浮遊状態となる(従ってこのコールドクルーシブル溶解炉はレビテーション溶解炉とも呼ばれる)。
このコールドクルーシブル溶解炉による溶解技術は未だ発展途上にある技術であり、現状ではるつぼ内で溶解した金属を銅るつぼ及び溶解用コイルごと傾動させて出湯する方法が一般に用いられている。
【0004】
しかしながらこの出湯方法は、出湯歩留まりその他に様々な問題がある。
そこで図5に示すように、るつぼ底部に出湯用のノズル200を設け、るつぼ内の溶湯をるつぼ底部からノズル200を通じて外部下方に出湯する方法が種々検討されている。
【0005】
しかしながらこの出湯方法にもまた困難な問題が内在している。
コールドクルーシブル溶解炉を用いた溶解では、るつぼ内部の金属溶湯はるつぼ底部に接する部分が、るつぼ底部による冷却によって凝固金属(スカル)となり、金属の溶解中はその凝固金属によって出湯用ノズルが閉塞された状態にある。
【0006】
この状態からるつぼ内部の金属の溶湯をノズル200から出湯するため、従来の出湯用ノズル装置では、ノズル200を逆円錐台形状の上部の漏斗部200-1と、その漏斗部200-1に続いて下方に垂下する下部のストレート部200-2とを有する形態となし、その漏斗部200-1で凝固しノズル200を閉塞している凝固金属を、ノズル200の外側に配置したノズルコイル202による高周波誘導加熱にて溶解し、ノズル200を開放状態として、るつぼ内部の溶湯をノズル200を通じて下方に出湯するようにしている。
【0007】
しかしながら従来の出湯用ノズル装置にあっては、出湯用のノズル200自体もまた分割構造の水冷銅にて構成してあり、そのため出湯に際して溶湯がノズル200に触れることにより冷却され、ノズル200を出たところに、即ちノズル200の下端の下側に凝固塊k-1が付着し且つ成長して、これがノズル200からの出湯流に乱れを生ぜしめ、安定した出湯が得られないといった問題を生じる。
【0008】
またこのようにして生成した凝固塊k-1が出湯後においてもノズル200下端に残ってしまい、そしてこのようにして残った凝固塊k-1が、次に再びるつぼ内に原料金属を挿入して溶解を行い、再度出湯する際に出湯流を乱す要因となり、そしてこうしたことが繰り返し行われると、遂には出湯用のノズル200が閉塞してしまうといったことが起り得る。
【0009】
こうした問題のため、現状では大容量のコールドクルーシブル溶解炉を用いた溶解は未だ実用化に到っていないのが実情である。
尚、出湯用のノズル200への凝固塊の付着の問題を解決することを目的とした出湯用ノズル装置が幾つか提案されているが(例えば下記特許文献1,特許文献2)、未だ十分に上記の問題を解決できてはいない。
【0010】
そこで本発明らは、出湯後にノズル下端に残った凝固塊を除去するために、ノズル下端部に除去用コイルを設け、出湯後においてその除去用コイルにて凝固塊を高周波誘導加熱することによって、これをノズル下端から脱落除去するようになしたものを案出し、先の特許願(特願2007−15661:未公開)において提案している。
【0011】
図6はその具体例を示している。
図示のようにこの出湯用ノズル装置では、ノズル200の上端開口を閉塞している、るつぼ底部の凝固金属を加熱により溶解して出湯を生ぜしめる上側の出湯用コイル201に加え、出湯後に凝固塊k-1(図5)を高周波誘導加熱し、これをノズル200から除去する除去用コイル203を設け、それらによりノズルコイル202を構成している。
【0012】
しかしながらこの出湯用ノズル装置の場合、除去用コイル203が出湯用のノズル200の下端から下向きに突き出しているため、除去用コイル203にて凝固塊を高周波誘導加熱して脱落させる際に、赤熱した凝固塊k-1によって除去用コイル203の絶縁被覆が場合によって焼損してしまう問題を生じることがその後判明した。
【0013】
【特許文献1】特開2001−183067号公報
【特許文献2】特開2006−153362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上のような事情を背景とし、出湯後にノズルの下端に残った凝固塊を、出湯後において良好に除去することができ、且つその際に除去用コイルの絶縁被覆を焼損してしまうことのないコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
而して請求項1のものは、水冷のるつぼの内部に装入した原料金属を該るつぼの外側に設けた溶解用コイルにて高周波誘導溶解し、該原料金属を該るつぼ内で半浮遊状態に溶解するコールドクルーシブル溶解炉のるつぼ底部に溶湯の出湯用のノズルを設けるとともに、該ノズルの外側にノズルコイルを設けて成り、該ノズルコイルにより該るつぼ底部で凝固した凝固金属を高周波誘導溶解して前記るつぼ内の溶湯を出湯するようになしたコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置において、前記ノズルコイルを、出湯後に前記ノズルの下端に付着状態に残った凝固塊を高周波誘導加熱にて除去する除去用コイルを備えたものとなして、該凝固塊の除去時に該除去用コイルを前記ノズルの下端部に、且つ該除去用コイルの下端が該ノズルの下端以上の高さに、また上端が該ノズルの出湯口径をDとして該ノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置する状態に配置し、前記凝固塊に10kg以上の錘をぶら下げて該除去用コイルに通電を行い、該凝固塊を除去するようになしたことを特徴とする。
【0016】
請求項2のものは、水冷のるつぼの内部に装入した原料金属を該るつぼの外側に設けた溶解用コイルにて高周波誘導溶解し、該原料金属を該るつぼ内で半浮遊状態に溶解するコールドクルーシブル溶解炉のるつぼ底部に溶湯の出湯用のノズルを設けるとともに、該ノズルの外側にノズルコイルを設けて成り、該ノズルコイルにより該るつぼ底部で凝固した凝固金属を高周波誘導溶解して前記るつぼ内の溶湯を出湯するようになしたコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置において、前記ノズルコイルを、出湯後に前記ノズルの下端に付着状態に残った凝固塊を高周波誘導加熱にて除去する除去用コイルを備えたものとなして、該凝固塊の除去時に該除去用コイルを前記ノズルの下端部に、且つ該除去用コイルの下端が該ノズルの下端以上の高さに、また上端が該ノズルの出湯口径をDとして該ノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置する状態に配置し、前記除去用コイルに15kHz以上で通電を行い、前記凝固塊を除去するようになしたことを特徴とする。
【0017】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記除去用コイルを上下にスライド移動可能となし、上方にスライド移動させることによって出湯時に加熱を行う出湯用コイルとして用いるようになしたことを特徴とする。
【0018】
請求項4のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記ノズルの下端部に前記除去用コイルを固定的に設けるとともに、該除去用コイルの上側に、出湯時に加熱を行う出湯用コイルを該除去用コイルに対して独立に設け、該出湯時においては上側の出湯用コイルに通電を行い、出湯後においては下側の前記除去用コイルに通電を行って前記凝固塊の除去を行うようになしたことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0019】
以上のように本発明は、ノズルコイルを凝固塊の除去用コイルを備えたものとなして、その除去用コイルを、その下端がノズルの下端以上の高さに、また上端がノズルの出湯口径をDとしてノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置する状態に配置し、出湯後において凝固塊に10kg(質量)以上の錘をぶら下げた状態で、除去用コイルに通電を行うようになしたもので、この請求項1の出湯用ノズル装置によれば、除去用コイルによる高周波誘導加熱により、ノズルの下端に残った凝固塊を良好にノズルから脱落除去することができる。
【0020】
またこの請求項1において、除去用コイルはその下端がノズルの下端以上の高さに位置しているために、凝固塊を高周波誘導加熱にて除去する際に、除去用コイルの絶縁被覆が焼損してしまうのを有効に防止することができる。
【0021】
この請求項1の出湯用ノズル装置は、除去用コイルの下端がノズルの下端以上の高さに、またその上端がノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置するように除去用コイルを配置した点を1つの特徴としており、このことによって次のような効果が得られる。
【0022】
ノズル下端にぶら下り状態で残った凝固塊は、ノズル内壁で冷えて固まった凝固金属と繋がった状態となっている。
そこで除去用コイルをノズルの下端から0.5D〜2Dの高さにかけてノズルの下端部に配置し、ノズルの下端部を集中的に加熱することで、詳しくは下端部の内壁で冷えて固まった凝固金属を集中的に加熱し溶解することで、上側の凝固金属と分断させることができ、そのことと錘の作用とによって、凝固塊を良好にノズルの下端から脱落させ除去することができる。
【0023】
除去用コイルのコイル高さがこれよりも高くなると、即ちその上端が2Dよりも高い位置に位置していると、除去用コイルによって最も強く加熱される部位が、除去用コイルの上下方向の中心位置であることから、ノズルの内壁で冷えて固まった凝固金属に対する強熱部位が上方に移行し、この結果ノズル下端部の内壁の凝固金属に対する加熱のパワーが不足し、凝固塊を良好にノズルの下端から脱落させることができない。
【0024】
即ち錘の下向きの引張作用で凝固塊をノズル下端から分離して下方に脱落させるためには、ノズルの下端部を局所的に集中的に加熱することが必要であり、そのためには錘として10kg以上の質量を有するものを用い、且つ除去用コイルをノズルの下端部に高さ2D以下で配置しておくことが必要であることが判明した。
【0025】
次に請求項2は、除去用コイルを上記と同様に配置し、そしてその除去用コイルに15kHz(キロヘルツ)以上で通電を行い、凝固塊を除去するようになしたものである。
【0026】
このような高周波数で除去用コイルにより誘導加熱を行った場合、ノズル下端部の内壁で固まっている凝固金属に対して、ノズル内壁への接触側の表層部を効果的に強く加熱し得、同表層部を良好に溶融させることができる。
【0027】
従ってこの請求項2によれば、特に凝固塊に錘を付けておかなくても、除去用コイルによる表層部の集中加熱により、ノズル下端部の内壁に付着している凝固金属を、凝固塊とともに良好にノズルから脱落させ、除去することができる。
【0028】
これよりも低い周波数で除去用コイルによる誘導加熱を行った場合、ノズル下端部の内壁の凝固金属を一時的には溶かすことができても、ノズルは常に冷却が強く効いているので、一旦溶融した金属が直ぐに固まってしまい、単なる加熱のみではノズル下端部の内壁の凝固金属を凝固塊とともにノズル下端から下方へと良好に脱落させることができない。
【0029】
こうした場合に、凝固塊に錘をぶら下げておくことで、ノズル下端部の内壁の凝固金属を、溶融させるとほぼ同時に錘による下方への引張力でこれを引きちぎって凝固塊とともにノズルから脱落させることが可能となるが、この請求項2によれば、そのような錘の荷重を凝固塊に作用させておかなくても、除去用コイルによる単なる加熱のみでノズル下端部の内壁の凝固金属を凝固塊とともに下方に脱落させることが可能である。
【0030】
而して請求項1のように凝固塊に錘をぶら下げる場合には、そのための作業が面倒であるとともに、場合によって錘が凝固塊から外れて滑って落ちてしまうといった不都合を生じる。
しかるにこの請求項2によれば、そうした面倒や錘の落下といった不都合を生じることなく、良好に凝固塊をノズルから下方に脱落させ、除去することが可能となる。
但しそのためには除去用コイルに15kHz以上の高周波数で通電を行うことが必要である。
【0031】
次に請求項3は、除去用コイルを上下にスライド移動可能となし、上方にスライド移動させることによって、出湯時に加熱を行う出湯用コイルとして用いるようになしたもので、このようにすれば、単一のコイルにて出湯時における加熱と、出湯後における凝固塊の除去のための加熱を行うことができ、所要のコイルが1つで済む利点が得られる。
【0032】
次に請求項4は、除去用コイルを、その下端がノズルの下端以上の高さに、また上端がノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置する状態に固定的に配置するとともに、その上側に出湯時に加熱を行う出湯用コイルを除去用コイルに対して独立に設け、出湯時においては上側の出湯用コイルに通電して加熱を行い、出湯後においては下側の除去用コイルに通電を行い、凝固塊の除去のための加熱を行うようになしたもので、この請求項4によれば、請求項3のように同一のコイルを出湯時と出湯後において上下にスライド移動させるといった面倒なことを行わなくても、出湯の際の加熱と出湯後における凝固塊の除去とを、コイルの位置を固定したまま行い得る利点が得られる。
【0033】
この場合において、出湯時には上側の出湯用コイルに1〜30kHzで且つ200kW以上で通電を行い、また凝固塊の除去の際には、下側の除去用コイルに15kHz以上で且つ出湯用コイルよりも高周波数で、また200kW以上で通電を行うようになしておくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10はコールドクルーシブル溶解炉で、水冷の銅製のるつぼ12と、その外側に配置された溶解用コイル14とを有している。
るつぼ12は周方向に複数分割された円弧状の水冷銅セグメントを絶縁材を介して円筒形状に繋ぎ合わせて構成してある。
16は平板状をなするつぼ底部で水冷銅製である。
【0035】
18は出湯用ノズル装置で、出湯用のノズル20と、その外側に配置されたノズルコイル22とを有している。
ここでノズルコイル22は、出湯後において加熱を行い、ノズル20の下端にぶら下り状態に残った凝固塊k-1(図4参照)を除去する下側の除去用コイル24と、出湯時において加熱を行い、ノズル20の上端を閉塞している、るつぼ底部の凝固金属Kを加熱して出湯を行わせる上側の出湯用コイル26とを備えている。
ここで下側の除去用コイル24と、上側の出湯用コイル26とはそれぞれ独立に切り離して設けられている。
【0036】
出湯用のノズル20は、逆円錐台形状をなす上部の漏斗部20-1と、この漏斗部20-1に続いて下方に垂下する下部のストレート部20-2とを有している。
このノズル20も周方向に分割構造の水冷銅から成るもので、各セグメントを絶縁材を介して周方向に繋ぎ合わせて構成してある。
尚、28はコールドクルーシブル溶解炉10の下方に設置された鋳型であり、またMはるつぼ12内部で溶解された金属の溶湯を、Kはるつぼ12への接触による冷却によって凝固した凝固金属を表している。
【0037】
このコールドクルーシブル溶解炉10では、るつぼ12内に原料金属を装入し、そして溶解用コイル14に通電を行って、るつぼ12内部の原料金属を高周波誘導加熱にて溶解する。
溶解した金属の溶湯Mは、溶解用コイル14による電磁誘導に基づくローレンツ斥力によってるつぼ12の壁部から離れ、るつぼ12内で中心部が上向きに盛り上がったドーム状に半浮遊した状態となる。
そしてるつぼ底部16に接して冷却された底部が凝固して凝固金属Kを形成する。
このとき、凝固金属Kはノズル20の上部の漏斗部20-1の開口を閉塞した状態にある。
【0038】
溶解用コイル14による一定時間の溶解を行った後、るつぼ12内部の溶湯Mを、出湯用ノズル装置18にて下方の鋳型24内部に出湯する。
具体的には、出湯用コイル26への通電を行って、ノズル20の漏斗部20-1の開口を閉塞している凝固金属Kを高周波誘導加熱により溶解し、閉塞状態にあった漏斗部20-1を開口せしめる。
これにより、るつぼ12内の金属の溶湯Mが、ノズル20を通過して下方の鋳型28へと出湯される。
そしてこの後、除去用コイル24への通電を行って、ノズル20の下端からぶら下り状態で残った凝固塊k-1(図4参照)をノズル20から脱落させ、除去する。
【0039】
尚本実施形態において、ノズルコイル22における除去用コイル24は、図2に示しているようにその下端がノズル20の下端の位置となり、またその上端が、ノズル20の出湯口径、詳しくはストレート部20-2の下端の口部の口径をDとして(ストレート部20-2は他部も内径D)、ノズル20の下端から0.5D〜2Dの高さに位置するように、ノズル20の下端部を取り巻くように配置されている。
即ち除去用コイル24は、ノズル20の下端部の高さH(図2)までの部分を加熱できるようなコイル高さで構成してある。
【0040】
尚、図3(A)に示しているようにストレート部から成る除去用コイル24に漏斗部から成る出湯用コイル26を一体に構成し、除去用コイル24を図1及び図2に示す位置に位置させた状態で、ノズルコイル22に通電を行って出湯後における凝固塊k-1の除去のための加熱を行い、またこれに先立つ出湯時において、除去用コイル24を出湯用コイル26とともに図3(B)に示すように上方にスライド移動させ、出湯用コイル26とともに除去用コイル24に出湯のための加熱を行わせるようにすること、即ち除去用コイル24を出湯用コイルとして用いることも可能である(ここでは出湯用コイルの一部として用いる)。尚図3(A)に示す状態では出湯用コイル26は凝固金属の加熱には寄与しないため、ストレート部から成る除去用コイル24の上端がノズル20の出湯口径をDとして、0.5D〜2.0Dの高さの位置であればよい。
【0041】
図4は、出湯後においてノズル20の下端に残った凝固塊k-1を除去する際の一形態例を示している。
ここでは除去用コイル24を、図1及び図2に示す位置に配置した状態とし、また凝固塊k-1に錘Wをぶら下げた状態とし、その状態で除去用コイル24に通電を行って凝固塊k-1を除去する。
【0042】
その際、錘Wとして10kg以上の重さのものを、凝固塊k-1を把持部材で把持するようにして凝固塊k-1にぶら下げ、そして除去用コイル24に通電して、除去用コイル24により誘導加熱を行うようにする。
【0043】
このとき、ノズル20の内壁に冷却により固まって付着した状態の凝固金属k-2に対して、ノズル20の下端部で局所的且つ集中的な加熱が行われ、同部分の凝固金属k-2が部分的に溶融し、その状態で錘Wの下向きの荷重がかかることで、凝固塊k-1が、ノズル20の内壁に付着している凝固金属k-2の溶融による強度低下により、それより上側の他の凝固金属k-2から引きちぎられて下方に落下し、ノズル20から脱落除去される。
【0044】
このとき錘Wの重さが10kg未満であると、凝固塊k-1を凝固金属k-2の一部とともに引きちぎる力が不足し、凝固塊k-1を良好に脱落させることができない。
また除去用コイル24のコイル高さが上記より高く、上下方向の中心位置が上方に移行すると、除去用コイル24による加熱の中心部が上方に移行し、その結果ノズル下端部に位置する凝固金属k-2に対する加熱のパワーが不足して、同様に凝固塊k-1を良好にノズル20から脱落除去することができない。
【0045】
尚、除去用コイル24のコイル高さを高くし、その上端の位置が上記の2Dよりも高い位置となると、凝固金属k-2の強く加熱される部位が上方に移行する結果、同部位において凝固金属k-2が溶融したとしても、凝固塊k-1に繋がっているノズル20下端部の凝固金属k-2がノズル20の内壁に固着したままとなり、凝固塊k-1を凝固金属k-2の一部とともに引きちぎることができない。
上方で部分的に溶融した凝固金属k-2の溶湯が単に下方に垂れ下がってツララ状となるのみで、凝固塊k-1を引きちぎって脱落させることができない。
また除去用コイル24の出力は、凝固塊k-1を短時間で引きちぎって脱落させるために、200kW以上が好ましい。
【0046】
本実施形態においては、錘Wの荷重を利用して凝固塊k-1を脱落させる他、除去用コイル24による誘導加熱を出湯時における加熱よりも高周波による誘導加熱となし、凝固塊k-1をノズル20から除去するようになすことができる。
【0047】
具体的には、除去用コイル24への通電を15kHz以上の高周波数で行うことによって、錘Wを用いることなく凝固塊k-1をノズル20から脱落除去することができる。
尚出湯用コイルにて出湯時の加熱を行うときには、これよりも低い周波数で加熱を行う。尚、この場合も、除去用コイル24の出力は、凝固塊k-1を短時間で脱落させるために、200kW以上が好ましい。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
ノズル20の口部の口径をφ50mm,除去用コイル24の下端をノズル20の下端と同一としてコイル高さ20〜110mm(0.4D〜2.2D)のものを用い、また錘Wを8〜20kgとして、除去用コイル24を出力250kW−10kHz,2分間の条件で誘導加熱させ、表1に示す各種条件で凝固塊k-1の除去試験を行った。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果に表われているように、除去用コイル24のコイル高さが本発明の下限値である0.5Dよりも低い0.4Dの比較例では加熱不足(コイルの巻数不足)により凝固塊k-1を除去することができず、またコイル高さが本発明の上限値である2.0Dよりも高い2.2Dの比較例にあっても同様に凝固塊k-1を除去することができなかった。
【0051】
また吊下げ錘の重さが8kgで、本発明の下限値である10kg未満の比較例では、凝固塊k-1を除去することができなかった。これに対し、錘の重さが10kg以上の各実施例はいずれも凝固塊k-1を良好に除去することができた。
【0052】
<実施例2>
実施例1と同様に、ノズル20の口部の口径をφ50mmとし、錘Wを使用せずに除去用コイル24を表2に示す各種条件で通電して誘導加熱を行い、凝固塊k-1の除去試験を行った。
結果が表2に併せて示してある。
尚この試験は図1及び図2に示す装置、即ち下側に除去用コイル24を、上側に出湯用コイル26を配置したものを用いて行い、出湯時と出湯後における凝固塊k-1の除去とでコイルへの通電を切り替えて試験を行った。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果に表われているように、除去用コイル24のコイル高さが本発明の下限値である0.5Dよりも低い0.4Dの比較例では、凝固塊k-1を除去することができず、またコイル高さが本発明の上限値である2Dよりも高い2.2Dの比較例では、同様に溶融した凝固金属k-2がツララ状に垂れ下がってしまい、同じく凝固塊k-1を除去することができなかった。
【0055】
また誘導加熱の周波数が15kHzよりも低い10kHzの比較例では、溶融不足により凝固塊k-1を除去できず、凝固塊k-1を除去することができなかった。
これに対してコイル高さ,出力,周波数ともに本発明の条件を満たす実施例については凝固塊k-1を良好に除去することができた。
【0056】
以上本発明の実施形態を詳述したが、これはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態の出湯用ノズル装置をコールドクルーシブル溶解炉とともに示した図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】他の実施形態の要部を示した図である。
【図4】更に他の実施形態の要部を示した図である。
【図5】従来の出湯用ノズル装置の不具合の説明図である。
【図6】本発明の解決課題を説明するために示した比較例図である。
【符号の説明】
【0058】
10 コールドクルーシブル溶解炉
12 るつぼ
14 溶解用コイル
16 るつぼ底部
18 出湯用ノズル装置
20 ノズル
20-1 漏斗部
20-2 ストレート部
22 ノズルコイル
24 除去用コイル
26 出湯用コイル
M 溶湯
K 凝固金属
k-1 凝固塊
k-2 凝固金属
W 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷のるつぼの内部に装入した原料金属を該るつぼの外側に設けた溶解用コイルにて高周波誘導溶解し、該原料金属を該るつぼ内で半浮遊状態に溶解するコールドクルーシブル溶解炉のるつぼ底部に溶湯の出湯用のノズルを設けるとともに、該ノズルの外側にノズルコイルを設けて成り、該ノズルコイルにより該るつぼ底部で凝固した凝固金属を高周波誘導溶解して前記るつぼ内の溶湯を出湯するようになしたコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置において
前記ノズルコイルを、出湯後に前記ノズルの下端に付着状態に残った凝固塊を高周波誘導加熱にて除去する除去用コイルを備えたものとなして、該凝固塊の除去時に該除去用コイルを前記ノズルの下端部に、且つ該除去用コイルの下端が該ノズルの下端以上の高さに、また上端が該ノズルの出湯口径をDとして該ノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置する状態に配置し、前記凝固塊に10kg以上の錘をぶら下げて該除去用コイルに通電を行い、該凝固塊を除去するようになしたことを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置。
【請求項2】
水冷のるつぼの内部に装入した原料金属を該るつぼの外側に設けた溶解用コイルにて高周波誘導溶解し、該原料金属を該るつぼ内で半浮遊状態に溶解するコールドクルーシブル溶解炉のるつぼ底部に溶湯の出湯用のノズルを設けるとともに、該ノズルの外側にノズルコイルを設けて成り、該ノズルコイルにより該るつぼ底部で凝固した凝固金属を高周波誘導溶解して前記るつぼ内の溶湯を出湯するようになしたコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置において
前記ノズルコイルを、出湯後に前記ノズルの下端に付着状態に残った凝固塊を高周波誘導加熱にて除去する除去用コイルを備えたものとなして、該凝固塊の除去時に該除去用コイルを前記ノズルの下端部に、且つ該除去用コイルの下端が該ノズルの下端以上の高さに、また上端が該ノズルの出湯口径をDとして該ノズルの下端から0.5D〜2Dの高さに位置する状態に配置し、前記除去用コイルに15kHz以上で通電を行い、前記凝固塊を除去するようになしたことを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記除去用コイルを上下にスライド移動可能となし、上方にスライド移動させることによって出湯時に加熱を行う出湯用コイルとして用いるようになしたことを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置。
【請求項4】
請求項1,2の何れかにおいて、前記ノズルの下端部に前記除去用コイルを固定的に設けるとともに、該除去用コイルの上側に、出湯時に加熱を行う出湯用コイルを該除去用コイルに対して独立に設け、
該出湯時においては上側の出湯用コイルに通電を行い、出湯後においては下側の前記除去用コイルに通電を行って前記凝固塊の除去を行うようになしたことを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉の出湯用ノズル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−281710(P2009−281710A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137307(P2008−137307)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】