説明

ゴムローラー

【課題】ゴム層が剥離しにくい高品質なゴムローラーを提供すること。
【解決手段】表面にめっき皮膜が形成された円柱基材と、前記めっき皮膜上に接着剤層を介して形成されたゴム層と、を有するゴムローラーにおいて、前記接着剤層の厚みが、前記めっき皮膜の厚み以上であるゴムローラーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムローラーに関するものであり、特に、電子写真複写機等に用いられる帯電用ゴムローラー、現像用ゴムローラー、転写用ゴムローラー、定着用ゴムローラー、紙送り用ゴムローラー等に用いられるゴムローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター、ファクシミリ等の電子写真装置には、帯電ローラー、現像ローラー、転写ローラー等、多数のゴムローラーが用いられている。これらのゴムローラーは、一般的に、中心軸として機能する円柱基材と、円柱基材の外周面上に形成されたゴム層とを備えて構成されている。
【0003】
ゴムローラーのゴム層は、例えば、円柱基材の外周面上に未加硫のゴム組成物を被覆して加硫処理することで形成することができる。ただし、ゴムローラーの両端部は、電子写真装置に軸着可能なように円柱基材を露出させる場合が多いので、一般には、円柱基材の外周面全体にゴム層を形成した後、不要な部分のゴム層を除去する工程を行う。
【0004】
このようなゴムローラーには、非常に高い寸法精度を保ちつつ長期使用に対する防錆効果が要求されていることから、円柱基材の表面にめっき皮膜を形成する方法が検討されている。例えば、めっき皮膜の均一性が良く処理コストが低い無電解ニッケルめっき皮膜を円柱基材の外周面に形成する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
ところが、無電解ニッケルめっき皮膜は化学的活性に富むため、加硫処理時に円柱基材とゴム層とが焼き付いてしまい、後のゴム層の除去が困難になるという問題があった。その問題に対処する方法として、無電解ニッケルめっき皮膜をクロム酸処理や熱処理等の不活性化処理することにより、円柱基材とゴム層との焼き付きを防止する方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特公平7−74057号公報
【特許文献2】特公平7−74056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の方法では、得られるゴムローラーにおける円柱基材とゴム層との密着性まで低下してしまい、ゴム層が剥離しやすいという問題点がある。
【0007】
また、特許文献1及び2の方法では、めっき皮膜を無電解ニッケルめっきにより形成する必要があり、電気ニッケルめっきや亜鉛めっきなどの他のめっき方法は利用できず、用途に応じためっき皮膜を形成することができない。
【0008】
さらに、特許文献1及び2の方法では、接着剤層を介さずにダイレクトにゴム層を形成しているが、接着剤層を介した場合に比べると円柱基材とゴム層との密着性が低く、用途や使用状況によってはゴム層が剥離してしまうという場合がある。そもそも、円柱基材に接着剤層を介してゴム層を形成したゴムローラーにおいても、接着剤層と円柱基材との密着性が充分ではなく、ゴム層と接着している接着剤層と、円柱基材との間で剥離するという問題が生じているのが現状である。
【0009】
上記のような剥離が発生すると、例えば、製造後のゴムローラーのゴム層表面を研削する際にゴム層が空回りしてしまい、ゴムローラーの寸法精度が悪化するという問題が生じる。また、帯電ローラーのようにゴム層の上に離型層としてフッソ樹脂のチューブを形成する場合には、ゴム層がめくれてしまいフッ素樹脂のチューブを形成できないという問題も生じる。さらに、現像ローラー、トナー供給ローラー、帯電ローラーなどの、外部から駆動されて摺擦や圧接により表面にトルクのかかるローラー(以下、駆動ローラーともいう)として使用される場合にゴム層が空回りしてしまい、電子写真装置の性能に悪影響を及ぼすという問題も生じる。
【0010】
そこで本発明は、このような従来技術の問題点に対して、ゴム層が剥離しにくい高品質なゴムローラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明は、表面にめっき皮膜が形成された円柱基材と、前記めっき皮膜上に接着剤層を介して形成されたゴム層と、を有するゴムローラーにおいて、前記接着剤層の厚みが、前記めっき皮膜の厚み以上であることを特徴とするゴムローラーである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム層が剥離しにくい高品質なゴムローラーを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のゴムローラーに使用する円柱基材は、中空状でも中実状でも良い。円柱基材の材質は特に制限されるものではなく、鉄、鋼等のゴムローラー製造用円柱基材として従来公知のものが使用できる。円柱基材の大きさは、ゴムローラーの適用部位に合わせて適宜選択することができ、例えば、直径4〜50mm、長さ50〜400mmの円柱基材を用いることができる。
【0015】
本発明のゴムローラーに使用する円柱基材は、その表面にめっき皮膜が形成されている。めっきの種類は、ゴムローラーの機能を満足するめっきであれば特に限定はない。例えば、安価な無電解ニッケルめっきでも良く、電気ニッケルめっきでも亜鉛めっきでも良い。すなわち、円柱基材の機能に必要な従来公知のめっきに適合できる。
【0016】
めっき皮膜の厚みは、要求される防錆効果が発揮されるように適宜選択でき、例えば、1〜10μmのめっき皮膜を形成することができる。
【0017】
本発明のゴムローラーは、円柱基材の表面のめっき皮膜上に接着剤層を介してゴム層が形成される。接着剤層はめっき皮膜上の全体に形成されていても構わないが、後にゴム層の除去を行う場合などは、最終的にゴム層が形成される部位にのみ形成されていることが好ましい。
【0018】
接着剤層を形成する接着剤は、ゴム層との密着性の良い従来公知の接着剤を用いればよい。例えば、加硫接着剤、ホットメルト接着剤等を使用することができる。
【0019】
接着剤層の厚みは、めっき皮膜の厚み以上になるように選択する必要がある。このことは、ゴムローラーのゴム層が剥離するメカニズムを解析した結果、めっき皮膜に存在するピンホールが原因であることを見出したことに基づいている。
【0020】
一般的に、円柱基材にめっき皮膜を形成する前には、円柱基材を作製する際の切削時に付着する油や削れカスを除去するため、アルカリ脱脂や酸洗浄といったいわゆるめっき前処理を行う。このめっき前処理を丁寧に行うことで、ある程度めっき皮膜のピンホールの発生を防止することが可能ではあるが、ピンホールを完全になくすことは困難である。
【0021】
そして、めっき皮膜のピンホールの内部には接着剤が入り込みにくく、はじいた状態になってしまう。すなわち、ピンホールの付近では、ゴム層が接着剤層を介さずに円柱基材(またはその表面のめっき皮膜)とダイレクトに接する状態になる。ダイレクトに接している部分の密着力は接着剤層がある部分に比べて低いため、その部分においてゴム層の剥離が起きやすい。
【0022】
ここで、めっき皮膜のピンホールの深さは、最大でめっき皮膜の厚みとなる。そして、めっき皮膜の厚み以上の厚みになるように接着剤層を形成することで、ピンホールの内部まで接着剤が入り込み、ピンホールの付近においても均一な接着剤層が形成されることを見出した。
【0023】
なお、接着剤がピンホール内に入り込みやすくする方法として、接着剤の粘度を低下させる方法や、めっき皮膜に対する接着剤の濡れ性を向上させる方法も考えられる。ただし、好適な粘度や濡れ性は、めっき皮膜と接着剤との組み合わせによって異なるものであり、製品の種類によって各々調整する必要が生じる。また、粘度や濡れ性の調整により接着剤がピンホール内に入り込みやすくなったとしても、ピンホール内部全体を接着剤で埋めるためには、接着剤の絶対量の調整も必要となる。本発明のようにめっき皮膜の厚み以上の厚みになるように接着剤層を形成する方法であれば、めっき皮膜と接着剤との組み合わせによらず、ピンホールの内部全体を接着剤で埋めることができ、ピンホールの付近においても均一な接着剤層を形成することができる。
【0024】
接着剤層は、厚い方が接着剤層を均一に形成する観点からは好ましいが、あまり厚いとコストや機能(接着性)に問題が生じる可能性もある。したがって、接着剤層の厚みは、めっき皮膜の厚みの1〜5倍とすることが好ましく、1.5倍〜3倍がより好ましい。例えば、30μm以下が好ましく、1〜20μmがより好ましい。
【0025】
接着剤層は、表面にめっき皮膜が形成された円柱基材に接着剤を塗布することで形成することができる。塗布の方法としては、バーコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、フレキソコート、フローコート等が挙げられる。その後、必要に応じて乾燥等を行うこともできる。接着剤の塗布量は、最終的な接着剤層が所定の厚みになるように適宜調整する。
【0026】
本発明では、めっき皮膜の厚み以上の厚みの接着剤層を形成することが重要であり、めっき皮膜の種類によらない。すなわち、無電解めっきでも電解めっきでも良く、ゴムローラーの機能、コストに合っためっき方法及び材質が選択できる。
【0027】
本発明のゴムローラーのゴム層を形成するためのゴム組成物としては、ゴム成分に加硫剤を添加した組成物であれば特に制限されるものではなく、ゴムローラーの用途等から適宜選択することができる。主成分となるゴム成分としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリン系ゴム(CO、ECO、GECO)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0028】
加硫剤としては、硫黄原子が含まれるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、硫黄、硫黄供与体、トリアジンチオール、2,3−ジメチルキノキサリンが使用できる。硫黄供与体としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド(TRA)、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(MDB)、4,4’−ジチオジモルホリン等が挙げられる。加硫剤の添加量は、ゴムローラーに要求される特性を満たすように適宜選択される。
【0029】
ゴム組成物には、必要に応じて、導電性物質、離型性物質などの添加物を添加することもできる。
【0030】
ゴム層の厚みは、ゴムローラーの適用部位に合わせて適宜選択することができ、例えば、0.5〜10mmのゴム層を形成することができる。
【0031】
ゴム層は、円柱基材の表面に未加硫のゴム組成物を塗布して加硫する方法、加硫したゴム組成物をチューブ状に成形して円柱基材に圧入する方法、未加硫のゴム組成物を円柱状に押出すと同時に円柱基材をクロスヘッドダイを通過させて被覆した後に加硫する方法、などの方法で形成することができる。
【0032】
ゴム組成物を加硫する方法についても特に制限されるものではなく、熱風炉加硫、遠赤外線加硫等、従来公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0033】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
<ゴムローラーの作製方法>
まず、円柱基材の表面に無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。具体的には、直径6mm、長さ240mmの鋼製円柱基材に対して、アルカリ脱脂、水洗、酸洗い、水洗の処理をこの順序で施した後、無電解ニッケルめっきによりめっき皮膜を作製した。無電解ニッケルめっき液としては、市販されている日本カニゼン(株)製のシューマーS751(商品名、硫酸ニッケル六水和物、次亜リン酸ナトリウム一水和物、錯化剤、安定剤として硝酸鉛が適量含まれている)10Lと純水40Lとを混合しためっき液を用いた。このめっき液が入れられためっき浴槽の浴中温度を90℃に保持した状態で、ステンレス製の籠の中に円柱基材を配置してめっき浴槽中に浸漬させた。浸漬時間は15分とし、円柱基材の外周面に形成されためっき皮膜の厚みは5μmであった。その後、めっき液を回収するとともに、めっき皮膜が形成された円柱基材の水洗(流量3L/分の純水で10秒間)、乾燥(80℃×15分)を行った。
【0035】
次に、めっき皮膜が形成された円柱基材の両端面から10mmの部分を除く外周面に、ロールコート法により、合成ゴム系の接着剤(商品名:ThreeBond3315E、(株)スリーボンド製)を最終的な接着剤層が所定の厚みになるように均一に塗布し、120℃で10分乾燥した。その後、押出し機を用いて未加硫EPDMイオウ加硫系組成物(商品名:EPT4070、三井化学(株)製)を円柱状に押出すと同時に、上記円柱基材を連続的にクロスヘッドダイを通過させることにより、円柱基材の外周面全体に未加硫ゴム組成物を被覆した。その後、加硫処理(条件:温度190℃、時間30分)を施して円柱基材の外周面上にゴム層を形成した。全体の外径はΦ11mm(ゴム層の厚みは2.5mm)とした。
【0036】
さらに、このローラーを回転させながら両端部から10mmの位置にカッター刃を入れ、接着剤を塗布していない円柱基材の両端部のゴム層を除去した。得られたゴムローラーは、長手方向の断面図を図1に示すように、表面にめっき皮膜2が形成された円柱基材1上に接着剤層3を介してゴム層4が形成されている。
【0037】
<ゴム層の剥離有無の評価方法>
上記方法で得られたゴムローラーのゴム層を指でむしるように円柱基材から剥離させる力を加え、ゴム層が剥離しなかったものについては○、ゴム層が剥離したものについては、その程度に関わらず×とした。
【0038】
<実施例1〜3>
実施例1〜3では、最終的な接着剤層の厚みがそれぞれ5μm、7μm、10μmとなるようにゴムローラーを作製した。いずれのゴムローラーにおいてもゴム層の剥離は見られなかった。
【0039】
<比較例1〜3>
比較例1〜3では、最終的な接着剤層の厚みがそれぞれ1μm、2μm、4μmとなるようにゴムローラーを作製した。いずれのゴムローラーにおいてもゴム層が剥離した部位があった。剥離した部位は、接着剤の厚みが薄いほど多く見られた。また、剥離した部位のめっき皮膜には、ピンホールが見られた。
【0040】
以上の結果を表1にまとめて示した。これにより、本発明のゴムローラーは、ゴム層の剥離が発生しない高品質なゴムローラーであることが分かった。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のゴムローラーの長手方向の断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 円柱基材
2 めっき皮膜
3 接着剤層
4 ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にめっき皮膜が形成された円柱基材と、前記めっき皮膜上に接着剤層を介して形成されたゴム層と、を有するゴムローラーにおいて、前記接着剤層の厚みが、前記めっき皮膜の厚み以上であることを特徴とするゴムローラー。

【図1】
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【公開番号】特開2007−108214(P2007−108214A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296169(P2005−296169)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】