説明

ゴム型用裏胴、それを用いたゴム型の製造方法およびゴム型

【課題】プライマー系接着剤を用いることなくゴム部と裏胴との間を強固に固定して、ゴム部の剥がれを防止するとともに、ゴム部からのより確実な脱気を可能とすることで、ゴム型不良の発生を防止して、正確なタイヤトレッドの複製を可能とするための技術を提供する。
【解決手段】タイヤのトレッドパターンを型取りした型取り面Xを有するゴム部3に固着されて、ゴム部3を補強するゴム型用裏胴1である。ゴム部3の型取り面Xの背面方向に向かい設けられた、複数個の貫通孔1Aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム型用裏胴(以下、単に「裏胴」とも称する)、それを用いたゴム型の製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)およびゴム型に関し、詳しくは、タイヤ用アルミニウム(AL)合金モールド製造の一工程であるゴム型製造工程で用いられるゴム型用の裏胴、それを用いたゴム型の製造方法およびゴム型に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを製造するに際しては、成形された生タイヤに内側から圧力をかけて、その外表面を加熱された金型の内壁に密着させ、熱と圧力により生ゴムを加硫する加硫用モールド(以下、「タイヤモールド」と称する)が用いられる。このようなタイヤモールドは、一般にAL合金等よりなり、金型の中央にタイヤのトレッドパターンが転写された鋳型を配置して、その内部に溶湯を流し込む鋳造製法にて製造される(例えば、特許文献1等)。
【0003】
この方法では、具体的にはまず、鋳造しようとするタイヤのトレッドパターンを、木型(ウッドレジン)にて精密に加工、製造する。次いで、得られたウッドレジンのトレッドモデルをゴムにより型取りして、タイヤパターン(意匠)およびタイヤトレッド形状の反転型であるゴム型を作製する。しかる後、トレッドパターンを型取りしたゴム型上に石膏等の鋳型配合組成物を流し込み、硬化させて、上記トレッドパターンが転写された鋳型を得る。このようにして作製した鋳型にAL合金等の溶湯を流し込むことにより、最終目的物であるタイヤモールドが作製される。
【0004】
上述のようにしてタイヤパターン形状を掘り込んだウッドレジンのトレッドモデルをゴムにより型取りする場合、従来は、図2に示すような方法を用いていた。
【0005】
まず、図2(a)に示すように、上下のプレートおよび左右のサイドフレームと呼ばれるパーツにて組み立てられたコアフレーム(枠体)20内に、トレッドモデル30およびゴム型の支持体となる裏胴11をセットする。ここで、裏胴11は、コアフレーム20内にセットした際に、トレッドモデル30との間にゴムが流れ込むための空間ができるように、あらかじめ寸法を検討して製作しておく必要がある。
【0006】
また、裏胴11にはあらかじめ、トレッドモデル30と裏胴11との間に液状ゴムを流し込むための1箇所の貫通孔12を設けておく。さらに、裏胴11には、液状ゴムを流し込む前(コアフレーム20にセットする前)に、ゴムとの接着性確保のためのプライマー系接着剤13を塗布しておく。
【0007】
この状態で、図2(b)に示すように、トレッドモデル30および裏胴11がセットされたコアフレーム20内に、裏胴11に開けられた貫通孔12より液状ゴム14を流し込む。その後、加硫を促進させるための加温を実施して、液状ゴム14を硬化させた後、脱型することで、図2(c)に示すような所望のゴム型40を得ることができる。
【特許文献1】特開2005−169929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようなゴム型の製作工程においては、ゴム型内のゴム部への空気の残留を防止するために、液状ゴムの流し込みが完了した後、加温を与える前に、コアフレームごと真空脱気装置にて内部空気を抜くことが行われる。
【0009】
しかしこの場合、空気の抜け道が液状ゴムを流し込んだ貫通孔の1箇所であるため、内部空気が抜け難く、充分な脱気効果を得ることができず、ゴム部内部に空気が残存したままの状態でゴムが硬化してしまう場合があった。ゴム部内部に空気が残留すると、この残留空気がゴム型使用中の環境温度の変化により膨張、収縮してゴム型寸法を変化させて、正確なタイヤトレッドの複製が不可能となるため、作業環境およびゴム型温度を非常に神経質に管理する必要が生じていた。
【0010】
また、上記したように、得られるゴム型40において、液状ゴムが硬化してなるゴム部15と裏胴11とは、通常、プライマー系接着剤13にて接着されているが、外力によりゴム部15が裏胴11から剥れてしまう場合がある。剥れたゴムと裏胴との間に鋳型の石膏かすなどの異物が入り込むと、ゴム部が持ち上がってゴム型形状を変形させ、正確なタイヤトレッドの複製が不可能となってしまうため、ゴム部と裏胴とをより確実に一体化させることが重要となる。
【0011】
さらに、従来使用されているプライマー系接着剤は異臭や揮発性が高いため、使用時には特別な取扱いが必要であるという難点がある。具体的には、局所排気装置のある指定場所での作業および保護メガネ、マスクの着用が義務付けられており、取り扱いに充分な注意が必要となる。したがって、プライマー系接着剤を使用せずにゴム部と裏胴とを一体化できることが望まれる。
【0012】
以上より、本発明の目的は、プライマー系接着剤を用いることなくゴム部と裏胴との間を強固に固定して、ゴム部の剥がれを防止するとともに、ゴム部からのより確実な脱気を可能とすることにより、ゴム型不良の発生を防止して、正確なタイヤトレッドの複製を可能とするための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討した結果、裏胴によりゴム部全体を保持できるよう裏胴の形状を改良することで、ゴムと裏胴とをより強固に一体化させることができ、これにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、タイヤのトレッドパターンを型取りした型取り面を有するゴム部に固着されて、該ゴム部を補強するゴム型用裏胴であって、該ゴム部の型取り面の背面方向に向かい設けられた、複数個の貫通孔を有することを特徴とするものである。本発明のゴム型用裏胴は、石膏またはアルミニウム合金からなるものとすることができる。
【0015】
また、本発明は、上記本発明のゴム型用裏胴を用いたゴム型の製造方法であって、枠体内に前記タイヤのトレッドパターンが形成されたトレッドモデルを配置し、該枠体内であって該トレッドモデルの上方に前記ゴム型用裏胴を配置した後、該枠体内に、該ゴム型用裏胴の前記複数個の貫通孔を介して液状ゴム組成物を注入し、該液状ゴム組成物を該ゴム型用裏胴の貫通孔を越える位置まで充填した後、該液状ゴム組成物の加硫硬化を行って、前記ゴム部を形成することを特徴とするものである。本発明のゴム型の製造方法においては、前記ゴム型用裏胴の、前記ゴム部と接触する面に接着剤を塗布する必要がない。
【0016】
さらに、本発明は、上記本発明のゴム型の製造方法により製造されたことを特徴とするゴム型である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記構成としたことにより、プライマー系接着剤を用いることなくゴムと裏胴との間を強固に固定して、ゴムの剥がれを防止することができるとともに、ゴムからのより確実な脱気についても可能となる。したがって、タイヤモールド製造の次工程におけるゴム型不良の発生を防止することができ、これにより、正確なタイヤトレッドの複製に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明は、タイヤのトレッドパターンを型取りした型取り面を有するゴム部に固着されて、このゴム部を補強するゴム型用裏胴の形状の改良に係るものである。
【0019】
図1(a)〜(c)に、本発明のゴム型用裏胴1を用いたゴム型の製造方法に係る説明図を示す。図示するように、本発明のゴム型用裏胴1は、ゴム部3の型取り面Xの背面方向に向かい設けられた、複数個の貫通孔1Aを有している。
【0020】
これにより、得られるゴム型10においては、ゴム部3が裏胴1を、型取り面X側のトレッド形状部ゴム3aと、貫通孔1Aに充填された中間部ゴム3bと、背面側のゴム溜まり部ゴム3cとにより挟持する構造を取ることとなり(図1(c)参照)、プライマー系接着剤を用いることなく、ゴム部3と裏胴1との間を強固に一体化して、固定することができる。したがって、裏胴1からのゴム部3の剥がれを防止して、ゴム型10の形状を保持することで、製品タイヤの品質(形状)を確実に担保することが可能となった。
【0021】
また、裏胴1に複数の貫通孔1Aを設けたことで、この貫通孔1Aを介して液状ゴム組成物2の流し込みを行うことができるとともに、流し込み後の脱気時には、液状ゴム組成物2の内部に残存する空気をより容易かつ効果的に排出することができ、充分な脱気を行うことが可能となる。これにより、この裏胴1を用いて得られるゴム型10においては、温度変化による残存空気の膨張、収縮が生じなくなるため、ゴム型寸法の変化がなくなって、結果として、原型寸法を正確に保証した精密なタイヤトレッドの複製を作製することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明では従来のプライマー系接着剤等の接着剤を用いる必要がないため、局所排気設備が不要となるとともに、保護メガネやマスクなどの使用が不要となるため、従来に比し、作業環境をより安全な方向に改善することが可能である。
【0023】
本発明の裏胴1は、ゴム型の製造時および使用時において形状変化しないものであれば、いかなる材質により形成されていてもよく、好適には例えば、石膏またはアルミニウム合金などの金属等、形状変化の極めて小さい材質を用いることができる。また、本発明の裏胴1は、上記ゴム部3の固定、液状ゴムの流し込みおよび脱気を行うことが可能な複数の貫通孔1Aを有するものであれば、その全体の形状については、特に制限されるものではない。さらに、貫通孔1Aの数についても、型取りするタイヤのサイズやトレッド面の大きさ等に応じて適宜決定することができ、特に制限されないが、上記ゴム部3の固定、液状ゴムの流し込みおよび脱気を容易に行う観点からは、3個以上設けることが好ましい。また、貫通孔1Aの径としては、同様の観点から、例えば、φ10〜50mmとすることができる。
【0024】
次に、本発明の裏胴1を用いてゴム型10を製造する手順について、以下に説明する。
まず、図1(a)に示すように、枠体(コアフレーム)20内にタイヤのトレッドパターンが形成されたトレッドモデル30を配置し、枠体20内であってトレッドモデル30の上方に、裏胴1を配置する。
【0025】
次いで、枠体20内に、裏胴1の複数個の貫通孔1Aを介して液状ゴム組成物2を注入し、液状ゴム組成物2を裏胴1の貫通孔1Aを越える位置まで充填する(図1(b))。その後、液状ゴム組成物2の加硫硬化を行ってゴム部3を形成することにより、裏胴1とゴム部3とが一体化されたゴム型10を得ることができる(図1(c))。この場合、前述したように、裏胴1のゴム部2と接触する面に接着剤を塗布することは要しない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の一実施の形態に係るゴム型の製造方法を示す説明図である。
【図2】(a)〜(c)は、従来のゴム型の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1,11 ゴム型用裏胴
1A,12 貫通孔
2,14 液状ゴム組成物
3,15 ゴム部(3a トレッド形状部ゴム,3b 中間部ゴム,3c ゴム溜まり部ゴム)
10,40 ゴム型
13 プライマー系接着剤
20 枠体(コアフレーム)
30 トレッドモデル
X 型取り面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッドパターンを型取りした型取り面を有するゴム部に固着されて、該ゴム部を補強するゴム型用裏胴であって、該ゴム部の型取り面の背面方向に向かい設けられた、複数個の貫通孔を有することを特徴とするゴム型用裏胴。
【請求項2】
石膏またはアルミニウム合金からなる請求項1記載のゴム型用裏胴。
【請求項3】
請求項1または2記載のゴム型用裏胴を用いたゴム型の製造方法であって、枠体内に前記タイヤのトレッドパターンが形成されたトレッドモデルを配置し、該枠体内であって該トレッドモデルの上方に前記ゴム型用裏胴を配置した後、該枠体内に、該ゴム型用裏胴の前記複数個の貫通孔を介して液状ゴム組成物を注入し、該液状ゴム組成物を該ゴム型用裏胴の貫通孔を越える位置まで充填した後、該液状ゴム組成物の加硫硬化を行って、前記ゴム部を形成することを特徴とするゴム型の製造方法。
【請求項4】
前記ゴム型用裏胴の、前記ゴム部と接触する面に接着剤を塗布しない請求項3記載のゴム型の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4記載のゴム型の製造方法により製造されたことを特徴とするゴム型。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−221582(P2008−221582A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62442(P2007−62442)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】