説明

ゴム射出成形装置及びゴム製品の製造方法

【課題】押出機からの押出通路内の残留ゴムの発生をなくして成形型に注入されるゴム温度を高め、これにより加硫時間を短縮化することのできるゴム射出成形装置を提供することを目的とする。
【解決手段】成形キャビティ16を有する成形型10と、射出シリンダ24内のゴムを射出プランジャ28の前進により成形キャビティ16に射出する射出機12と、供給されたゴムを混練状態で押出シリンダ44先端の押出口50と射出チャンバ26とを連通させる押出通路52を通じて射出チャンバ26内に押し出す押出機14とを有するゴム射出成形装置において、押出機14によるゴムの押出動作後に残った押出通路52内のゴムを射出チャンバ26内に押し込む押込装置15を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はゴム射出成形装置及び射出成形を用いたゴム製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴム製品の成形方法として射出成形方法が広く用いられている。
図8はゴム射出成形装置として従来用いられているものの一例を示している。
同図において200は成形キャビティ202を有する成形型、204は射出機、206は押出機である。
射出機204は、射出シリンダ208内部に射出チャンバ210を有しており、この射出チャンバ210内に設定チャージ量でチャージされたゴムを、射出プランジャ212の図中下向きの前進により、射出シリンダ208の先端部のノズル214から成形型200の成形キャビティ202内に一挙に射出する。
【0003】
尚射出シリンダ208には、射出チャンバ210内のゴムを加熱する加熱手段216が設けられている。また射出シリンダ208には、射出チャンバ210に続いてノズル214に到るストレート形状の射出通路218が形成されている。
【0004】
一方、押出機206は押出シリンダ220とその内部に設けられたスクリュー222とを有しており、供給口224から供給されたゴムをスクリュー222の回転により混練し、流動性を高めた上で押出シリンダ220先端の押出口226から、それら押出口226と射出シリンダ208の射出チャンバ210とを連通させる押出通路228を通じて射出チャンバ210内に押し出す。
【0005】
このとき射出プランジャ212は、射出チャンバ210へのゴムの押出し即ち装入につれて、その圧力により図中上向きに後退運動する。そして射出チャンバ210内へのゴムの装入量が1回の射出のための適正な設定チャージ量となったところで、押出機206によるゴムの押出しが停止させられる。
即ち射出チャンバ210及び射出プランジャ212は、その内部に装入されたゴムを計量する機能も有している。
【0006】
尚、押出機206においても押出シリンダ220にシリンダ内部のゴムを加熱するための加熱手段232が設けられている。
また押出機206と射出機204とを連絡する上記の押出通路228上には、射出チャンバ210内のゴムが押出シリンダ220側に逆流するのを防止する逆止弁(逆流防止弁)230が設けられている。
尚、図中234は射出プランジャ212の駆動装置であり、また236は押出機206におけるスクリュー222の駆動装置である。
【0007】
図9はこのゴム射出成形装置の動作を表したものである。
図示のようにこのゴム射出成形装置では、押出機206からのゴムの押出しによって、射出シリンダ208の射出チャンバ210内にゴムが装入され、これとともに射出プランジャ212が図中上方に後退移動して行く。
そして射出プランジャ212が予め設定された後退端に到ったところで、押出機206によるゴムの押出しが停止させられる。
ここで射出プランジャ212の後退端は、射出プランジャ212内へのゴムの装入量が1回の射出当りの設定チャージ量となる位置に予め定められている。
【0008】
このようにして射出チャンバ210内に設定量のゴムがチャージされたところで、続いて図9(II)に示しているように射出プランジャ212が図中下向きに前進させられ、これにより射出チャンバ210内のゴムが、ストレート形状の射出通路218を経て、ノズル214から成形型200の成形キャビティ202内に一挙に射出される。
尚射出プランジャ212の前進により射出チャンバ210内のゴムを射出し、成形キャビティ202に注入し終えた状態で、ストレート形状の射出通路218には一定量のゴムが残留した状態となる。この残留ゴムは次の射出によって成形キャビティ202に射出されることとなる。
【0009】
成形キャビティ202内に注入されたゴムは、予め加硫温度に保持されている成形型200内部で一定時間かけて加硫され、その後において成形型200から脱型される。
このゴム射出成形装置を用いたゴム製品の加硫成形では、成形型200の温度よりも低い温度で成形キャビティ202内にゴムが注入される。注入されたゴムは成形金型200による加熱作用で成形金型200の温度まで上昇させられ、その後成形金型の温度具体的には加硫設定温度に一定時間保持されて加硫が行われる。
【0010】
例えば従来では射出チャンバ210内のゴム温度が約90℃、ノズル214を通過する段階でゴム温度は約110℃、そして成形キャビティ202に注入された時点でゴム温度は130℃程度である場合、成形キャビティ202内に注入されたゴムは、金型の加硫設定温度を170℃とし、約6分間加熱されて加硫が完了する。
【0011】
而して成形キャビティ202に注入されたゴムは金型の加熱により徐々に加硫を開始するが、加硫時間を短くするために金型の設定温度を上げると、製品中心部の温度が上がる前に周囲がオーバーキュアになってしまうので、製品を均一に加硫するには、どうしても5〜6分の時間を要していた(尚ゴム製品の種類が変れば加硫温度,加硫条件,加硫温度までのゴムの昇温時間等も当然異なってくる)。
以上のようにゴム製品の加硫成形のためには、成形キャビティ202内に注入された全てのゴムを加硫温度まで昇温させ、均一に加硫を行うための時間が必要であり、それらを含めた時間が加硫のための所要時間となる。
【0012】
従来、ゴム射出成形装置を用いたゴム製品の射出成形おいてはこの加硫時間を短縮することが大きな課題となっていた。
加硫時間が長くなれば生産効率が低下し、また必要な成形型の型数も多く必要となるとともに、これに伴って加硫設備の占めるスペースも大きくなってしまう。
【0013】
このようなゴム射出成形装置を用いたゴム製品の加硫成形に際し、加硫時間を短縮するためには、成形キャビティ202内に注入されるゴム温度を高めることが必要となる。
その手段として、少なくとも射出チャンバ210内のゴム設定温度を高めることが考えられる。
【0014】
ところが従来のゴム射出成形装置では、図9(II)に示しているように射出プランジャ212の前進により射出チャンバ210内のゴムを射出したとき、ストレート形状の射出通路218内や押出シリンダ220先端の押出口226と射出チャンバ210とを連通させる押出通路228内にゴムが残留した状態となるため、射出チャンバ210の設定温度を上げすぎるとスコーチ(ゴム焼け)が発生してしまう。スコーチしたゴムは品質面で悪影響を及ぼすため、単純に設定温度を上げるのみでは問題を解決できない。
【0015】
射出通路218に残留するゴムについては、例えば下記特許文献1,特許文献2,特許文献3に開示がなされているように、射出チャンバ210の先端部を同形状とし射出通路218(ノズル214内に形成)を短くするとともに、下方に広がった形状とすることで、金型側のランナーと一緒に排出することが可能である。
【0016】
しかるに押出通路228内に残留するゴムについては全く配慮されていないのが実状である。射出チャンバ210へ供給するゴムの温度を高くするために押出機の加熱手段232の温度設定を上げても押出通路228内に残留するゴムは射出プランジャ212が動作して次の押出しが始まるまでに温度が下がってしまい、射出チャンバ210内の温度分布にバラツキを発生させてしまう。温度低下を防ぐために押出通路の周囲に加熱手段を設けると、今度はスコーチの問題が生じてしまう。
即ち従来、この点についての問題の指摘及び解決手段については何ら開示も提案もなされていない。
【0017】
【特許文献1】特開2003−11189号公報
【特許文献2】特許第3174346号
【特許文献3】EP 0 287 001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は以上のような事情を背景とし、押出通路内の残留ゴムの発生をなくして成形型に注入されるゴム温度を高め、これにより加硫時間を短縮することのできるゴム射出成形装置及び射出形成によるゴム製品の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
而して請求項1はゴム射出成形装置に関するもので、(A)内部に成形キャビティを有する成形型と、(B)射出シリンダ内に射出チャンバを有し、該射出チャンバ内のゴムを射出プランジャの前進により前記成形キャビティに射出する射出機と、(C)押出シリンダ内に供給されたゴムを混練状態で押出シリンダ先端の押出口と前記射出チャンバとを連通させる押出通路を通じて該射出チャンバ内に押し出す押出機と、を有するゴム射出成形装置において、前記押出機によるゴムの押出動作後に残った前記押出通路内のゴムを前記射出チャンバ内に押し込む押込手段を設けたことを特徴とする。
【0020】
請求項2のものは、請求項1において、前記押込手段は、前記押出通路内のゴムを前記射出チャンバ内に押し込んだ後において該射出チャンバ内のゴムを押し留め、該射出チャンバから該押出通路側へのゴムの逆流を防止する逆流防止手段を成していることを特徴とする。
【0021】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記押込手段は前記押出通路と略同じ断面形状の可動のピストンを有し、該ピストンを駆動装置により該押出通路に沿って前進させることで、該押出通路内のゴムを前記射出チャンバ内に押込むものであることを特徴とする。
【0022】
請求項4のものは、請求項3において、前記ピストンがロッド状をなしていることを特徴とする。
【0023】
請求項5のものは、請求項3,4の何れかにおいて、前記押出通路が直線状に設けてあるとともに、前記ピストンを該押出通路内に進入させ、また該押出通路から後退させるための移動通路が該押出通路と直線状をなしていることを特徴とする。
【0024】
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、前記押出通路の外周部に前記押出機から押し出されるゴムを該押出通路の部分で加熱する加熱手段が設けてあることを特徴とする。
【0025】
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかにおいて、前記押出機からのゴムの押出しによる前記射出チャンバへのゴムの装入に伴って後退する前記射出プランジャが、設定後退端まで後退したことを検出する検出手段と、該検出手段による検出に基づいて前記押出機によるゴムの押出しを停止させる制御部と、を有しており、且つ前記設定後退端は、前記射出チャンバ内へのゴムの装入量に前記押出通路からの残留ゴムの押込量を加えた量が1回の設定チャージ量となるように定めてあることを特徴とする。
【0026】
請求項8のものは、請求項1〜7の何れかにおいて、前記射出チャンバは前記射出シリンダの先端のノズルに到るまで先端部が先細り形状をなしているとともに、前記射出プランジャは先端部が該射出チャンバの先端部と同形状の先細り形状をなしており、前進端で該射出チャンバの先端部に嵌り合って該射出チャンバの先端部を埋めるものとなしてあることを特徴とする。
【0027】
請求項9はゴム製品の製造方法に関するもので、(A)内部に成形キャビティを有する成形型と、(B)射出シリンダ内に射出チャンバを有し、該射出チャンバ内のゴムを射出プランジャの前進により前記成形キャビティに射出する射出機と、(C)押出シリンダ内に供給されたゴムを混練状態で押出シリンダ先端の押出口と前記射出チャンバとを連通させる押出通路を通じて該射出チャンバ内に押し出す押出機と、を有する射出成形装置を用いてゴム製品を射出成形するに際し、前記押出機によるゴムの押出動作後に残った前記押出通路内のゴムを押込手段にて前記射出チャンバ内に押し込み、その後に前記射出プランジャの前進により、該射出チャンバ内のゴムを前記成形キャビティ内に射出し、該成形キャビティ内で加硫成形することを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0028】
以上のように本発明は、押出機によるゴムの押出動作後に残った押出通路内のゴムを射出チャンバ内に押し込む押込手段を設けたものである。
かかる本発明によれば、射出プランジャの前進により射出チャンバ内のゴムを射出し、成形型の成形キャビティ内に注入した後において、押出通路内に残留ゴムが発生するのを防止し得、残留ゴムにより射出チャンバ内のゴム温度がばらついたり、スコーチしたゴムを供給したりすることにより、成形キャビティに注入されるゴムを不安定にする問題を解消して、成形キャビティへの注入段階でゴム温度を従来に増して高めることが可能となる。
【0029】
これにより、成形キャビティに注入されたゴムが加硫温度に達するまでの時間を可及的に少なくし得て、所要の加硫時間を従来よりも大幅に短縮化することができる。
【0030】
そして加硫時間の短縮化を実現し得ることによってゴム製品の生産効率を大幅に高めることができるとともに、必要な成形型の型数を少なくし得、またこれに伴って加硫設備の占めるスペースを少なくすること即ち省スペース化を果たすことができる。
【0031】
本発明においてはまた、上記の押込手段を、押出通路内のゴムを射出チャンバ内に押し込んだ後において射出チャンバ内のゴムを押し留め、射出チャンバから押出通路側へのゴムの逆流を防止する逆流防止手段として働かせることができる(請求項2)。
そしてこのようにすることによって、図8に示す従来のゴム射出成形装置における逆止弁230を無くすことができる。
【0032】
従来のゴム射出成形装置では、押出通路上の逆流防止弁230の存在が、押出通路228内の残留ゴムを無くすことの阻害要因の一つとなっていたが、本発明では押出通路内のゴムを射出チャンバ内に押し込む押込手段そのものが逆流防止弁として働くため、従来必要とされていた逆流防止弁230が不要となって、押出通路228内のゴムを容易に射出チャンバへと押し込み可能となる。
【0033】
このような逆流防止弁230を設けた場合、その逆流防止弁230内部にも残留ゴムが発生する問題が生じ、これに対し本発明ではそのような逆流防止弁230を省略可能となしたことによって、逆流防止弁230に残る残留ゴムの問題も同時に解決することが可能となる。
【0034】
本発明においては、上記押込手段を、押出通路と略同じ断面形状の可動のピストンを備え、そのピストンを駆動装置により押出通路に沿って前進させることで、押出通路内のゴムを射出チャンバ内に押し込むものとなしておくことができる(請求項3)。
このようにすれば押込手段を簡単に構成することができ、且つ押出通路内のゴムを効率的に射出チャンバ内に押し込むことができる。
ここで上記可動ピストンはロッド状となしておくことができる(請求項4)。
【0035】
本発明においては、上記の押出通路を直線状に設けておくとともに、ピストンをその押出通路内に進入させ、また後退させるための移動通路を押出通路と直線状になしておくことができる(請求項5)。
【0036】
次に請求項6は、押出通路の外周部に押出機から押し出されるゴムをその押出通路の部分で加熱する加熱手段を設けたものである。
従来にあっては、押出機から初期に押し出されるゴム(初期押出ゴム)と、中期,後期の押出ゴムとの間に温度差があり、このことが成形キャビティへの注入ゴムのゴム温度にばらつきを生ぜしめる原因となっており、そしてこのことがまた製品特性に影響を及ぼす問題を生じていた。
【0037】
ここにおいて請求項6によれば初期押出ゴムの温度を高めることができ、これにより成形キャビティへの注入ゴムのゴム温度のばらつきを少なくし得て、製品の品質をより高めることが可能となる。
【0038】
ここで加熱手段は、押出機に備えた加熱手段よりも高温度に温度設定しておくことができる。
押出機からの中期押出ゴム,後期押出ゴムのゴム温度は、押出機に備えられた加熱手段による加熱に加えてスクリューの回転による圧縮や剪断による自己発熱により温度上昇するが、射出動作上間欠運転にならざるを得ず初期押出ゴムはそのような自己発熱の影響が少ないためにどうしてもゴム温度は低くなる。
【0039】
そこで押出通路のゴムを加熱する加熱手段の温度設定を押出機に備えた加熱手段よりも高温度に温度設定しておくことで、初期押出ゴムのゴム温度を効果的に高めることができる。
【0040】
尚この加熱手段による加熱の温度設定を、自己発熱を見込んだ中期ないし後期押出ゴムのゴム温度以上としておけば、初期,中期,後期に拘わらず安定した温度のゴムを射出チャンバ内へ装入することができる。
【0041】
尚、従来の押込手段を有しない押出通路内に残留ゴムがある場合においてこのような加熱手段を設けると、射出プランジャの前進から押出機を作動させるまでの間(加硫時間が長いと数分)にその加熱手段による加熱によって押出通路内の残留ゴムがスコーチを生じてしまう問題を生ずるが、本発明ではその押出通路内に残留ゴムを生ぜしめないので、このような問題を生じる恐れはない。
換言すれば、本発明において押出通路内の残留ゴムの発生をなくすことで、このような加熱手段を設けることが可能となる。
【0042】
ところで従来のゴム射出成形装置においては、射出チャンバへのゴムの装入量が設定チャージ量となる位置を、射出プランジャの後退端として定めている。
然るに本発明のゴム射出成形装置では、押出機からのゴムの押出しを停止した後において、押込手段により押出通路内のゴムが射出チャンバ内へと押し込まれる。
従って従来と同様に射出プランジャの後退端を定めておくと、1回のチャージ量がそれだけ多くなってしまうことになる。
ここにおいて請求項7では、射出プランジャの後退端を、後における押込手段による押出通路内のゴムの押込量を見込んで定めてあるもので、かかる本発明によれば、押込手段による押出通路内のゴムの押込みにも拘わらず、射出チャンバ内に適正な量でゴムを装入し、1回分のチャージ量となすことができる。
【0043】
次に請求項8は、射出チャンバが射出シリンダ先端のノズルに到るまで先端部が先細り形状をなしているとともに、これに対応して射出プランジャの先端部が射出チャンバの先端部と同形状の先細り形状とされていて前進端でそれらが互いに嵌り合い、射出チャンバの先端部が射出プランジャの先端部で埋められるように構成してあるもので、この請求項8によれば、射出後において射出シリンダに残留ゴムが発生するのをなくすことができる。
尚、請求項1の押出通路内の残留ゴム発生防止と組み合わせた構造とすることにより、押出機から押し出されたゴムの全てが残留することなく確実に射出毎に入れ替わることになるので、ゴム射出成形装置の全てのゴム温度を高くすることが可能になり、注入ゴムのゴム温度を更に高め得て、加硫時間をより一層短縮化することができる。
【0044】
次に請求項9はゴム製品の製造方法に関し、射出成形装置を用いてゴム製品を射出成形するに際し、押出機によるゴムの押出動作後に残った押出通路内のゴムを、押込手段で射出チャンバ内に押し込み、その後に射出プランジャの前進にて射出チャンバ内のゴムを成形キャビティ内に射出し、加硫するもので、この製造方法によれば、押出通路内の残留ゴムをなくすことができ、ばらついた温度のゴムや焼けゴムを射出チャンバ内へ供給することによる諸問題を解消することができる。更に押出通路内の残留ゴムがなくなることにより、ゴム射出成形装置のゴム温度の設定及び成形キャビティ内へ供給するゴム温度を高くすることが可能となるため、ゴム製品の加硫時間を効果的且つ大幅に短縮化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は本実施形態のゴム射出成形装置の全体構成を示したもので、図示のようにこのゴム射出成形装置は、成形型10と、射出機12と、押出機14に加えて更に押込装置15を備えている。
【0046】
成形型10は、内部に成形キャビティ16を有しており、更にこの成形キャビティ16に連通したスプルー18,ランナー20及びゲート22を有している。
24は射出機12における射出シリンダで、内部に射出チャンバ26を有しており、この射出チャンバ26内に装入されたゴムが、射出プランジャ28の図中下向きの前進により射出シリンダ24先端(図中下端)のノズル38から射出され、成形型10の成形キャビティ16内に注入される。
【0047】
ここで射出プランジャ28は、駆動シリンダ30により図中下向きに前進駆動される。
射出プランジャ28は後退方向にはフリーの状態とされており、射出チャンバ26内にゴムが押出機14から装入されると、その圧力で図中上向きに後退運動する。
【0048】
射出シリンダ24には、射出チャンバ26内のゴムを加熱するための加熱手段32が設けられている。加熱手段32は、ここでは加熱媒体34とこれを流通させる通路36とで構成されている。
【0049】
本実施形態では、図2(A)にも示しているようにノズル38の先端の射出口に至るまで射出チャンバ26として構成されている。
射出チャンバ26の先端部は、図2(A)に示しているように先細り形状のテーパ部40とされており、またこれに対応して射出プランジャ28の先端部が同じ傾斜角度のテーパ部42とされている。
その結果として、図3に示しているように射出プランジャ28が前進端まで突き出されると射出チャンバ26のテーパ部40と射出プランジャ28のテーパ部42とが互いにほぼ隙間なく嵌り合い、射出チャンバ26のテーパ部40が射出プランジャ26のテーパ部42にて埋められる。
【0050】
即ち射出プランジャ28が前進端まで突き出された時点で、射出チャンバ26はその全体が射出プランジャ28で埋められる。
従ってこの実施形態では、射出プランジャ28の前進によりゴムを射出する際、射出チャンバ26内のゴムが全てノズル38から射出され、成形型10の成形キャビティ16内に注入される。
即ち射出シリンダ24には、射出プランジャ28の前進による射出後において残留ゴムは発生しない。
【0051】
上記押出機14は、押出シリンダ44とその内部に組み込まれたスクリュー46とを有しており、供給口48から供給されたゴムをスクリュー46の回転により可塑化及び混練して流動性を高めた上で、図2に示すように押出シリンダ44先端の押出口50から、押出口50及び前記の射出チャンバ26とを連通する押出通路52を通じて、射出チャンバ26内に押し出す。
【0052】
このとき射出プランジャ28は、射出チャンバ26内へのゴムの装入に伴って、その圧力で図中上向きに後退運動して行く。
ここで押出通路52は、図中左右方向に直線状に設けられており、その先端が射出チャンバ26におけるテーパ部40で開口している。
【0053】
押出シリンダ44には、供給されたゴムをスクリュー46の回転により可塑化するに際して、押出シリンダ44内部のゴムを加熱する加熱手段56が設けられている。
この加熱手段56もまた、加熱媒体34とこれを流通させる通路36とで構成されている。
【0054】
54は押出機14と射出機12とを連結する連結ブロックで、上記押出通路52はその一部がこの連結ブロック54にて形成されている。
この連結ブロック54には、押出通路52の外周部において、押出通路52を通じて押し出されるゴムを加熱するための加熱手段58が設けられている。この加熱手段58もまた、加熱媒体34とこれを流通させる通路36とで構成されている。
【0055】
ここで加熱手段58による加熱温度は、押出シリンダ44の加熱手段56による加熱温度よりも高温度に設定されている。この加熱手段58による加熱温度は、押出機14から押し出される後期押出ゴムの温度よりも高い温度である。
押出機14から押し出されるゴムのうち中期押出ゴム及び後期押出ゴムは、加熱手段56による加熱に加えて圧縮及び剪断による自己発熱により初期押出ゴムよりも約20℃高い温度となる。加熱手段58による加熱温度はそれよりも約10℃高い温度であり、従って初期押出ゴムは30℃近い温度差を加熱するのに対して、中期押出ゴムは20℃、後期押出ゴムは10℃の温度差を加熱することになる。
【0056】
上記押込装置15は、ロッド状のピストン62を有しており、このピストン62を駆動シリンダ(駆動装置)64にて図中左向きに前進移動させることで、押出通路52内のゴムを射出チャンバ26内に押し込むようになっている。
【0057】
尚、ピストン62は前進端で押出通路52の先端の開口、即ち押出通路62と射出チャンバ26との連通開口を閉鎖する。
従って射出プランジャ28の前進により射出チャンバ26内のゴムに対して射出圧力がかかっても、射出チャンバ26内のゴムが押出通路52へと逆流することはない。
即ちこの実施形態において、押込装置15は同時に射出チャンバ26から押出通路52側へのゴムの逆流を防止する逆流防止装置(逆流防止手段)を成している。
【0058】
連結ブロック54には、ピストン62を押出通路52内に進入させ、また押出通路52から後退させるための移動通路66が、押出通路52と直線状をなすように形成してある。
尚、68は押出機14におけるスクリュー46の回転用の駆動装置であり、70は射出機12における射出プランジャ28の後退端を検出する検出装置である。
【0059】
本実施形態において、検出装置70は直線型ポテンショメータにて構成してある。
この直線型ポテンショメータは、射出プランジャ28と一体に直線的に移動する可動片72と、抵抗体74(図2(B)参照)とを有している。
この直線型ポテンショメータでは、可動片72が射出プランジャ28と一体に移動すると、図2(B)に示す摺動子76が抵抗体74上を直線的にスライド移動し、摺動子76と抵抗体74端子との間の抵抗値が変位の大きさに比例して変化する。従ってこの抵抗体74に一定電圧をかけておくと摺動子76により分圧された電圧が取り出され、直線的な移動の変位が検出される。
【0060】
本実施形態では、この検出装置70により射出プランジャ28の設定後退端が検出されるようになっている。
ここで設定後退端は、射出チャンバ26内へのゴムの装入量に上記押出通路52からのゴムの押込量を加えた量が1回の設定チャージ量となる位置に予め定められている。
【0061】
78はその検出装置70からの検出信号に基づいて、押出機14及び押込装置15を作動制御するコントローラで、ここでは射出プランジャ28が後退端まで後退したことを検出装置70が検出すると、その検出信号を受けてコントローラ78が押出機14によるゴムの押出しを停止させるとともに、続いて押込装置15を作動させて、押出通路52内のゴムをピストン62の前進により射出チャンバ26内に押し込ませる。
【0062】
次に本実施形態のゴム射出成形装置の動作を図3〜図6に基づいて詳しく説明する。
図3は前回のゴム射出動作を終えてチャージを開始した状態を表しており、このときプランジャ28は前進端にあって射出チャンバ26内を全体的に埋めた状態にある。
この状態で押出機14が作動して、押出シリンダ44内のゴムをスクリュー46の回転により押出口50,押出通路52を通じて射出チャンバ26内に押し出す。
【0063】
前進端にある射出プランジャ28は、そのゴムの圧力によって図4に示しているように図中上向きに後退して行く。
そして同図に示しているように射出プランジャ28が設定後退端(図中P)に到ると検出装置70にてこれが検出される。
コントローラ78はこの検出装置70から検出信号を受けて押出機14を作動停止させ、射出チャンバ26へのゴムの押出しを停止させる。
【0064】
この段階では押出通路52内にゴムは残ったままである。
その後続いて押込装置15が作動させられてピストン62が図中左向きに前進させられる。
そしてそのピストン62の前進により、押出通路52内に残っていたゴムが射出チャンバ26内に押し込まれる。このときにも射出プランジャ28は図5に示しているようにその押出通路52内のゴムの押込量に応じた微小ストロークだけ後退運動し、図中Pの位置に到る。
【0065】
ここで前進移動したピストン62は、押出通路52の開口60を閉鎖した状態にそのまま保持され、その状態で図6に示しているように射出プランジャ28が図中下向きに前進させられて、射出チャンバ26内のゴムが先端のノズル38から射出され、成形型10の成形キャビティ16内に注入される。
このとき押込装置15がゴムの逆流防止装置として働き、射出チャンバ26内のゴムが押出通路52内へと逆流するのを防止する。
成形キャビティ16内に注入されたゴムは、その後加硫温度まで昇温させられ、続いて加硫温度に一定時間保持されて加硫が行われる。
【0066】
一方前進端まで突き出された上記のピストン62は、射出工程の後において図7に示しているように引込端まで引込運動(後退運動)し、その状態で次の押込動作まで待機する。
【0067】
以上のように本実施形態によれば、押出通路52内に残留ゴムが発生するのを防止することができ、次の射出工程でその押出通路52内の残留ゴムが成形キャビティ16への注入ゴムに入り込むことにより、注入ゴム温度が低下する問題を解消して、成形キャビティ16への注入段階でゴム温度を従来に増して高めることができる。
【0068】
これにより成形キャビティ16に注入されたゴムが加硫温度に達するまでの時間を可及的に少なくでき、所要の加硫時間を従来に較べて大きく短縮化することができる。
具体的には、射出チャンバ26内のゴム温度が約120℃、ノズル38を通過する段階でゴム温度は約140℃、そして成形キャビティ16に注入された時点でゴム温度は約160℃に昇温することができ、金型の加硫設定温度が170℃とした場合の加硫時間を測定した結果、従来の6分から2.5分と大幅に加硫時間を短縮することができた。
このように加硫時間の大幅な短縮化によってゴム製品の生産効率を大幅に高めることができ、また必要な成形型10の型数を少なくし得て、加硫設備の占めるスペースを小スペース化することができる。
【0069】
本実施形態においてはまた、ゴムの押込装置15が押出通路52側へのゴムの逆流を防止する逆流防止手段として働くため、図8に示す従来のゴム射出成形装置における逆止弁230をなくすことができる。
また逆流防止弁を省略可能としたことによって、逆流防止弁に残留ゴムが生じる問題も同時に解決することができる。
【0070】
本実施形態では、ピストン62を駆動装置64により押出通路52に沿って前進させるように押込装置15を構成しており、これにより押込装置15を簡単に構成することができ、且つ押出通路52内のゴムを効率的に射出チャンバ26内に押し込むことができる。
【0071】
また本実施形態では、加熱手段58を設けることで押出機14からの初期押出ゴムの温度を高めることができ、実際に90℃に温調された押出機14で250mlのゴムを1ショット分の間欠運転をした後に押し出し、50mlずつ分けて温度を測定したところ、押出通路52の加熱手段がない従来品が76℃,95℃,105℃,106℃、106℃と、最大30℃のゴム温度のばらつきがあったのに対し、押出通路52の加熱手段58(温度設定は120℃)を有する発明品においては、113℃,113℃,114℃,115℃,115℃と、ゴムの温度差を僅か2℃にすることができた。以上の結果からも分かるように、加熱手段58を設けたことにより、間欠運転であっても射出チャンバ26及び成形キャビティ16への注入ゴムのゴム温度のばらつきを少なくし得て、製品の品質をより高めることができる。
【0072】
更に本実施形態のゴム射出成形装置では、押出機14からのゴムの押出しによる射出プランジャ28の後退端を、押込装置15による押出通路52内のゴムの押込量を見込んで定めていることから、押込装置15による押出通路52内のゴムの押込みにも拘わらず、射出チャンバ26内に適正な量でゴムを装入し1回分のチャージ量とすることができる。
【0073】
また本実施形態では、射出プランジャ28が前進端で射出チャンバ26を全体的に埋めるように構成してあるため、射出後に射出シリンダ24に残留ゴムが生じる問題を無くすことができ、これにより成形キャビティ16への注入ゴムの温度を更に高め得て、加硫時間をより一層短縮化することができる。
【0074】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態であるゴム射出成形装置の全体を表す図である。
【図2】図1の要部を拡大して示した図である。
【図3】同実施形態のゴム射出成形装置の一作用状態を示す説明図である。
【図4】図3に続く作用状態の説明図である。
【図5】図4に続く作用状態の説明図である。
【図6】図5に続く作用状態の説明図である。
【図7】図6に続く作用状態の説明図である。
【図8】従来のゴム射出成形装置の一例を示す図である。
【図9】図8のゴム射出成形装置の一作用状態の説明図である。
【符号の説明】
【0076】
10 成形型
12 射出機
14 押出機
15 押込装置
16 成形キャビティ
24 射出シリンダ
26 射出チャンバ
28 射出プランジャ
38 ノズル
40,42 テーパ部
44 押出シリンダ
46 スクリュー
50 押出口
52 押出通路
58 加熱手段
62 ピストン
66 移動通路
70 検出装置
78 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)内部に成形キャビティを有する成形型と
(B)射出シリンダ内に射出チャンバを有し、該射出チャンバ内のゴムを射出プランジャの前進により前記成形キャビティに射出する射出機と
(C)押出シリンダ内に供給されたゴムを混練状態で押出シリンダ先端の押出口と前記射出チャンバとを連通させる押出通路を通じて該射出チャンバ内に押し出す押出機と
を有するゴム射出成形装置において、
前記押出機によるゴムの押出動作後に残った前記押出通路内のゴムを前記射出チャンバ内に押し込む押込手段を設けたことを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項2】
請求項1において、前記押込手段は、前記押出通路内のゴムを前記射出チャンバ内に押し込んだ後において該射出チャンバ内のゴムを押し留め、該射出チャンバから該押出通路側へのゴムの逆流を防止する逆流防止手段を成していることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記押込手段は前記押出通路と略同じ断面形状の可動のピストンを有し、該ピストンを駆動装置により該押出通路に沿って前進させることで、該押出通路内のゴムを前記射出チャンバ内に押込むものであることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項4】
請求項3において、前記ピストンがロッド状をなしていることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項5】
請求項3,4の何れかにおいて、前記押出通路が直線状に設けてあるとともに、前記ピストンを該押出通路内に進入させ、また該押出通路から後退させるための移動通路が該押出通路と直線状をなしていることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記押出通路の外周部に前記押出機から押し出されるゴムを該押出通路の部分で加熱する加熱手段が設けてあることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかにおいて、前記押出機からのゴムの押出しによる前記射出チャンバへのゴムの装入に伴って後退する前記射出プランジャが、設定後退端まで後退したことを検出する検出手段と、該検出手段による検出に基づいて前記押出機によるゴムの押出しを停止させる制御部と、を有しており、且つ前記設定後退端は、前記射出チャンバ内へのゴムの装入量に前記押出通路からの残留ゴムの押込量を加えた量が1回の設定チャージ量となるように定めてあることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかにおいて、前記射出チャンバは前記射出シリンダの先端のノズルに到るまで先端部が先細り形状をなしているとともに、前記射出プランジャは先端部が該射出チャンバの先端部と同形状の先細り形状をなしており、前進端で該射出チャンバの先端部に嵌り合って該射出チャンバの先端部を埋めるものとなしてあることを特徴とするゴム射出成形装置。
【請求項9】
(A)内部に成形キャビティを有する成形型と、(B)射出シリンダ内に射出チャンバを有し、該射出チャンバ内のゴムを射出プランジャの前進により前記成形キャビティに射出する射出機と、(C)押出シリンダ内に供給されたゴムを混練状態で押出シリンダ先端の押出口と前記射出チャンバとを連通させる押出通路を通じて該射出チャンバ内に押し出す押出機と、を有する射出成形装置を用いてゴム製品を射出成形するに際し、
前記押出機によるゴムの押出動作後に残った前記押出通路内のゴムを押込手段にて前記射出チャンバ内に押し込み、その後に前記射出プランジャの前進により、該射出チャンバ内のゴムを前記成形キャビティ内に射出し、該成形キャビティ内で加硫成形することを特徴とするゴム製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−82300(P2006−82300A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267452(P2004−267452)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000177058)三友工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】