説明

サイトカイン生成抑制剤およびそれを含有する化粧品組成物

【課題】紫外線照射をはじめとする外部刺激により発症する皮膚炎症の抑制・改善に関して、IL−6やIL−8を選択的に制御することでIL−1αやTNFαのもつ細胞にとって有益な作用を残しつつ、炎症を抑制するサイトカイン生成抑制剤及びこれを含有する化粧品組成物を提供する。
【解決手段】セリシンを含有し、紫外線照射後の表皮角化細胞において、インターロイキン−1α及び腫瘍壊死因子の生成には影響を与えることなく、インターロイキン−6及び/またはインターロイキン−8の生成を抑制することを特徴とするサイトカイン生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射後の表皮角化細胞において、サイトカインであるインターロイキン−6(IL−6)及び/またはインターロイキン−8(IL−8)の生成を抑制することで炎症を改善及びその発症を抑制するサイトカイン生成抑制剤及びこれを含有する化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線照射、乾燥、化学薬剤暴露をはじめとする外部刺激は皮膚にさまざまなダメージを与える。特に紫外線照射による炎症を伴って肌が赤くなる状態(サンバーン)は、痛みやほてりを生じるだけでなく、重度の場合には、やけどと同じような火ぶくれを起こすこともある。
【0003】
紫外線をはじめとする様々な外部刺激による炎症の原因の一つに、活性酸素やフリーラジカルの産生が挙げられる。活性酸素やフリーラジカルが皮膚で発生すると、細胞にダメージを与え、サンバーンセル(日やけ細胞)が形成されたり、遺伝子が傷ついたりし(DNAの損傷)、また長期間にわたってDNAの損傷が蓄積されると、皮膚がんを発生させることもある。そのため、抗酸化作用を有する薬剤、生薬などが肌の炎症を抑える目的でよく利用されている。その他、抗炎症作用を有するステロイドや保湿効果を発揮する各種保湿剤、動物・植物エキスも炎症を鎮める目的で使用されている。
【0004】
一方、人は紫外線照射をはじめとする外部刺激を受けると、表皮角化細胞において炎症性サイトカインと呼ばれているインターロイキン−1α(IL−1α)及び腫瘍壊死因子(TNFα)の生成量が増大することが知られている。最近までIL−1αやTNFαの生成を抑制させることが抗炎症につながるとされてきた。しかしながら、これらIL−1αやTNFαには細胞賦活作用など細胞にとって有益な作用も有するため、現在ではより炎症発現に近い情報伝達物質を制御することが抗炎症作用としては望ましいとされている。IL−6やIL−8は好中球や抗酸球の遊走に関与するサイトカインであり、炎症発生に直接的に関与していることが報告されており、最近になって、IL−6やIL−8の生成に関して、IL−1αやTNFαの生成を経由しない経路が発見されている。
【特許文献1】特表平11−515020号公報
【非特許文献1】Ishida T.and Sakaguchi I.,Protection of human keratinocytes from UVB-iuduced inflammation using root extract of lithospermum erythrorhizon,Biol. Pharm. Bull. 30(5),928-934,2007
【非特許文献2】Kunsch C. and Rosen C.A.,NF-kB subunit-specific regulation of the interleukin-8 promoter,Molecular and Cellular Biology 13(10),6137-6146,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のとおり、皮膚に紫外線を照射した場合、IL−1αやTNFαが表皮内で生成されることが知られており、これらのサイトカインは確かに炎症を間接的に誘導するものの、細胞増殖作用等皮膚免疫を活性化する作用も持ち合わせている。IL−1αやTNFαの生成を抑えてしまうと、抗炎症作用はあるものの、皮膚免疫が活性化されないため、より直接的に炎症を抑えるサイトカインを制御する必要がある。
【0006】
本発明は、紫外線照射をはじめとする外部刺激により発症する皮膚炎症の抑制・改善に関して、IL−6やIL−8が炎症発生に直接的な作用を及ぼしていることに着目し、IL
−6やIL−8を選択的に制御することでIL−1αやTNFαのもつ細胞にとって有益な作用を残しつつ、炎症を抑制するサイトカイン生成抑制剤及びこれを含有する化粧品組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セリシンを含有し、紫外線照射後の表皮角化細胞において、インターロイキン−1α及び腫瘍壊死因子の生成には影響を与えることなく、インターロイキン−6及び/またはインターロイキン−8の生成を抑制することを特徴とするサイトカイン生成抑制剤及びこれを含有することを特徴とする化粧品組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、紫外線照射をはじめとする外部刺激により発症する皮膚炎症の抑制・改善に関して、炎症発生に直接的な作用を及ぼしているIL−6やIL−8を選択的に制御することでIL−1αやTNFαのもつ細胞にとって有益な作用を残しつつ、炎症を抑制するサイトカイン生成抑制剤及びこれを含有する化粧品組成物を提供できる。その結果、従来技術とは全く新たな手段による、例えば副作用のない、より有効な紫外線による炎症の予防、治療、改善が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるサイトカイン生成抑制剤はセリンを含むたんぱく質が好適であり、代表的なたんぱく質としてセリシンが挙げられる。セリシンの分子量については経皮への吸収を考慮し、50kDa以下が好適である。さらに詳しくは30kDa以下がさらに好適である。セリシンの分子量が小さすぎる場合、たんぱく質による皮膚感差反応を助長する懸念があり、あまり好ましくなく、500Da以上が好適である。
【0010】
本発明により得られる化粧品組成物は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来化粧品に用いるものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【0011】
本発明により得られる化粧品組成物への該サイトカイン生成抑制剤の配合量は特に限定されないが、化粧品組成物の性質上、例えば0.005%〜5%、好ましくは0.05%〜0.5%の濃度範囲として適用される。尚、本発明に係る薬剤を入浴剤として調製する場合、使用時に通常100〜1000倍程度に希釈されるので、配合はそれを加味した高濃度で処方されるのが好ましい。
【0012】
また、本発明により得られる化粧品組成物は、上記必須成分たるサイトカイン生成抑制剤以外に、通常化粧品に用いられる成分、例えば、その他の美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0013】
例えば、組成物の用途に合わせ、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【実施例】
【0014】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
(材料と方法)
(1)セリシンの調製
繭100gを沸騰した精製水1Lに加え、1時間煮沸した後、室温まで放冷し、ろ過して抽出液を得、これをゲルろ過クロマトグラフィーにかけて、分子量10kDaから50kDaまでの分画を分取し、凍結乾燥して、重量平均分子量30kDaのセリシン固体を得た。
【0016】
(2)正常ヒト表皮角化細胞の培養
市販の表皮角化細胞(クラボウ社製)を購入し、表皮角化細胞増殖用培地(Humedia−KG2)にて培養を行った。細胞は60mm培養シャレーに1シャレーあたり1.5×10個となるように播種した。
【0017】
(3)細胞を回収してサイトカインmRNA発現量(IL−1α,TNFα,IL−6,IL−8)の測定
播種した細胞が80%コンフルエントになる前に、Humedia−KG2培地を捨て、表皮角化細胞基礎培地(Humedia−KB2)またはHumedia−KB2に溶解した試験液を2mL入れ、24時間後に培養上清液を採取した。同時に、細胞を回収し、細胞中IL−1α、TNFα、IL−6、IL−8のmRNA発現量について、RT−PCR法にて測定した。また、採取した培養上清中のIL−6、IL−8については、市販のELISAキット(R&D systems社、USA)を用いて測定した。
【0018】
(4)紫外線照射の条件
Humedia−KB2またはHumedia−KB2に溶解した試験液を捨てた後にPBS(−)を入れ、UVBを強度11mJ/cmとなるように照射した。照射後、PBS(−)を捨て、新しいHumedia−KB22mLを入れ、24時間後に培養上清液を採取した。
【0019】
(5)RNAの調製とcDNAの作製
照射24時間後の細胞を使用した。細胞のtRNAは、mirVana miRNA Isolation Kit (Ambion社)を用い、その操作法に従って抽出した。tRNAを鋳型として逆転写酵素kit(AB社)を用いてcDNAを作製した。
【0020】
(6)蛍光プローブを用いたRT−PCR法(Taqman−PCR法)による遺伝子発現の定量
得られたcDNAをABI PRISM 7700 Sequence Detector (AB社)の装置操作書に従い、TaqMan法により遺伝子発現を定量的に解析した。得られた結果は内部標準のヒトGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ)の発現量で補正した。
【0021】
実施例1
(1)紫外線照射後表皮角化細胞のIL−1α、TNFα、IL−6、IL−8のmRNA量の測定
24時間後の培養細胞を回収し、RT−PCR法によりIL−1α,TNFα,IL−6,IL−8のmRNA発現量の測定を行った。その結果を図1に示す。図1に示すように、セリシンを添加することによって細胞のIL−1α、TNFαのmRNA発現量は有意な変化が見られなかったが、一方、IL−6及びIL−8のmRNA発現量が有意に減少した。縦軸はGAPDH遺伝子発現量で補正した細胞のIL−1α,TNFα,IL−6,IL−8の遺伝子発現量について、それぞれのサイトカインの紫外線照射前発現量を1
とした場合の発現度(相対値)を示す。
【0022】
実施例2(IL−6,IL−8生成抑制試験)
(1)紫外線照射後培養上清中のIL−6分泌量の測定
24時間後の培養上清液を採取し、ELISA測定キットによりIL−6量の測定を行った。その結果を図2に示す。図2に示すように、紫外線照射後、培養上清中のIL−6量が有意に上昇した。紫外線照射する前にセリシンを添加し、24時間前培養を行ったことで、紫外線照射によるIL−6分泌量の増加がセリシンの添加によって有意に抑制された。
【0023】
(2)紫外線照射後培養上清中のIL−8分泌量の測定
24時間後の培養上清液を採取し、ELISA測定キットによりIL−8量の測定を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、紫外線照射後、培養上清中のIL−8量が有意に上昇した。紫外線照射する前にセリシンを添加し、24時間前培養を行ったことで、紫外線照射によるIL−8分泌量の増加がセリシンの添加によって有意に抑制された。
【0024】
実施例3(ヒト皮膚の紅斑抑制試験)
紫外線感受性が高い(SkinTypeI及びII)、20〜40歳の健常女性10名を対象とし、紫外線照射後(1.2MED)にセリシン水溶液(0.1%)を2mg/cm塗布、紅斑への影響をミノルタ社製色彩式差計にて測定した。
【0025】
図4に示すように、0.1%セリシン溶液において、紫外線照射直後に、有意な紅斑抑制効果が確認された。さらに24時間後に関しても紅斑抑制傾向が見られた。
【0026】
実施例4(化粧水)
成分名 配合量(%)
(1)エタノール 10.0
(2)POE(60)硬化ヒマシ油 0.5
(3)大豆レシチン 0.01
(4)グリセリン 3.0
(5)1,3−ブチレングリコール 2.0
(6)ジプロピレングリコール 3.0
(7)ポリエチレングリコール1500 1.0
(8)セリシン(平均分子量5kDa) 0.01
(9)クエン酸Na 0.02
(10)フェノキシエタノール 0.3
(11)エデト酸四ナトリウム 0.01
(12)精製水 残 量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
計 100.0
【0027】
(調製方法)
1.成分(1)〜(3)を混合、溶解する(a)。
2.成分(4)〜(12)を混合、溶解する(b)。
3.(b)に(a)を添加して攪拌し、化粧水を得た。
【0028】
実施例5(クリーム)
成分名 配合量(%)
(1)ステアリン酸 2.0
(2)モノイソステアリン酸ソルビタン 2.0
(3)セタノール 3.0
(4)コレステロール 0.5
(5)スクワラン 5.0
(6)流動パラフィン 5.0
(7)ミリスチン酸オクチルドデシル 5.0
(8)メチルシクロポリシロキサン 5.0
(9)水素添加大豆レシチン 2.0
(10)セリシン(平均分子量30kDa) 0.1
(11)キサンタンガム 0.1
(12)グリセリン 5.0
(13)1,3−ブチレングリコール 3.0
(14)フェノキシエタノール 0.3
(15)エデト酸二カリウム 0.05
(16)精製水 残 量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
計 100.0
【0029】
(調製方法)
1.成分(1)〜(9)を80℃にて、混合、溶解する(a)。
2.成分(11)〜(15)、(16)の一部を80℃にて、混合、溶解する(b)。
3.(a)に(b)を添加して攪拌し、冷却する(c)。
4.(c)に、成分(16)の残部に成分(10)を溶解したものを添加し、攪拌後、クリームを得た。
【0030】
実施例6(サンスクリーン)
成分名 配合量(%)
(1)エタノール 10.0
(2)メトキシケイ皮酸オクチル 7.0
(3)POE・POP変性ジメチルポリシロキサン 2.0
(4)微粒子酸化チタン 5.0
(5)酸化亜鉛 5.0
(6)メチルシクロポリシロキサン 10.0
(7)ジメチルポリシロキサン 5.0
(8)卵黄レシチン 0.1
(9)SEPIPULS 265(*) 0.1
(10)セリシン(平均分子量30kDa) 0.2
(11)精製水 残 量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
計 100.0
*:SEPPIC社製のSEPIPLUS 265
【0031】
(調製方法)
1.成分(2)〜(8)を80℃にて、混合、溶解する(a)。
2.成分(9)、(11)の一部を80℃にて、混合する(b)。
3.(a)に(b)を添加して攪拌し、冷却する(c)。
4.(c)に、成分(11)の残部に成分(10)を溶解したもの及び(1)を添加し、攪拌後、サンスクリーンを得た。
【0032】
実施例4(化粧水)、実施例5(クリーム)、実施例6(サンスクリーン)のいずれの化
粧品もその使用により、紅斑が抑制された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】紫外線照射後ケラチノサイトのIL−1α、TNF−α、IL−6及びIL−8mRNAの変化を示すグラフである。
【図2】紫外線照射後培地中IL−6の分泌量の変化を示すグラフである。
【図3】紫外線照射後培地中IL−8の分泌量の変化を示すグラフである。
【図4】セリシンのヒト皮膚における紫外線による紅斑抑制作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリシンを含有し、紫外線照射後の表皮角化細胞において、インターロイキン−1α及び腫瘍壊死因子の生成には影響を与えることなく、インターロイキン−6及び/またはインターロイキン−8の生成を抑制することを特徴とするサイトカイン生成抑制剤。
【請求項2】
セリシンの平均分子量が50kDa以下である請求項1記載のサイトカイン生成抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2記載のサイトカイン生成抑制剤を含有する化粧品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−203167(P2009−203167A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43909(P2008−43909)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(306018365)クラシエホームプロダクツ株式会社 (188)
【Fターム(参考)】