サイドエアバッグ装置
【課題】エアバッグの内圧を適切に調圧することのできるサイドエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】膨張用ガスにより膨張するエアバッグ40の膨張部46は、仕切壁50により上流側膨張部47及び下流側膨張部48に仕切られる。仕切壁50は、膨張部46による乗員の拘束に際し、側方から乗員に押圧される箇所に設けられた2枚のシート材56,57によって構成される。仕切壁50には、両シート材56,57の端部58,59を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部61が設けられる。ラップ部61には、上流側膨張部47の膨張時であって乗員を拘束する前には、同上流側膨張部47内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触し、同上流側膨張部47が膨張して乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により撓んで互いに離間する一対の弁体部64,65を備えてなる調圧弁66が設けられる。
【解決手段】膨張用ガスにより膨張するエアバッグ40の膨張部46は、仕切壁50により上流側膨張部47及び下流側膨張部48に仕切られる。仕切壁50は、膨張部46による乗員の拘束に際し、側方から乗員に押圧される箇所に設けられた2枚のシート材56,57によって構成される。仕切壁50には、両シート材56,57の端部58,59を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部61が設けられる。ラップ部61には、上流側膨張部47の膨張時であって乗員を拘束する前には、同上流側膨張部47内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触し、同上流側膨張部47が膨張して乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により撓んで互いに離間する一対の弁体部64,65を備えてなる調圧弁66が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに着座した乗員の側方でエアバッグを展開膨張させ、乗物用シートの側方から加わる衝撃を緩和して乗員を保護するサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側突等により車両に側方から衝撃が加わった場合に、その衝撃から乗員を保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが折り畳まれた状態でインフレータとともに、車両用シートのシートバック(背もたれ)内に組み込まれている。このサイドエアバッグ装置では、車両の側部を構成する部材(ボディサイド部)、例えばサイドドア等に側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグ内に供給される。この膨張用ガスによりエアバッグが展開膨張し、一部をシートバック内に残した状態で車両用シートから飛び出す。このエアバッグは、車両用シートに着座した乗員とボディサイド部との間の狭い空間において、シートバックから車両前方へ向けて展開膨張する。展開膨張したエアバッグが、乗員と車内側へ進入してくるボディサイド部との間に介在して乗員を拘束するとともに、ボディサイド部を通じて乗員へ伝わる側方からの衝撃を緩和する。
【0003】
ところで、サイドエアバッグ装置では、側方からの衝撃によりボディサイド部が車内側へ進入し、そのボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる。この押し付けに伴い、乗員はエアバッグを通じて衝撃の荷重を受ける。この荷重は、乗員がエアバッグから圧力を受ける面積(乗員のエアバッグ側の受圧面積)と、エアバッグの内圧との積によって決定される。この荷重は、乗員を衝撃から保護する観点からは、ボディサイド部の進入開始後短時間で所定値に到達し、その後は、ボディサイド部の進入量(ストローク)に拘らず所定値に維持されることが望ましい。
【0004】
この点、エアバッグ内が仕切られていないタイプのサイドエアバッグ装置では、ボディサイド部の進入量(ストローク)の増加に伴い内圧及び受圧面積が増加することから、乗員がエアバッグから受ける荷重は、ボディサイド部の進入が進むにつれて徐々に増加する。荷重は、ボディサイド部がある程度進入してからでないと所定値に達しない。しかも、荷重は所定値に到達した後も増加し続け、最終的には、所定値を超過する。その結果、荷重が所定値に到達するまでは、乗員の充分な保護が開始されない。荷重が所定値に到達した後には、乗員はエアバッグを通じて、所定値よりも大きな荷重を受ける。
【0005】
これについては、エアバッグの内圧を調整(調圧)することで、荷重についての上記要求に応えようとするサイドエアバッグ装置が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載された「サイドエアバッグ」では、車両用シートの幅方向に互いに重ね合わされた一対の基布が、それらの周縁部において結合されることにより袋状のエアバッグが形成されている。エアバッグでは、両基布を互いに接触させた状態で縫合(結合)させることにより仕切り部(シーム)が設けられており、エアバッグの内部がこの仕切り部(シーム)により、上流側の主膨張室と下流側の副膨張室とに仕切られている。仕切り部(シーム)における両基布間の隙間は、主膨張室と副膨張室とを連通させる連通路を構成しており、主膨張室内の膨張用ガスがこの連通路を通って副膨張室内に供給される。
【0006】
また、特許文献2に記載された「車両用エアバッグ装置」では、2枚の基布により、エアバッグが形成されている。各基布の両端部は、車両用シートの幅方向についての両側に配置され、しかも同幅方向に互いに重ね合わされている。そして、互いに重ね合わされた両基布の端部同士は、上下方向に延びる結合部により結合されている。また、各結合部では、その一部が結合を解除させられることにより、上下方向に延びるスリット状のベントホールが形成されている。
【0007】
この車両用エアバッグ装置によると、エアバッグの展開方向前側に障害物等が存在しないときには、ベントホールが閉じられる。これに対し、エアバッグが、その展開方向前側に存在する障害物等に当接した場合、ベントホールが開くため、膨張用ガスを排出させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−29073号公報
【特許文献2】特開2010−155566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、仕切り部(シーム)における両基布間の連通路を膨張用ガスの通路とする上記特許文献1では、主膨張室の内圧が充分高くなる前に、その主膨張室内の膨張用ガスが連通路を通って副膨張室へ流出するため、エアバッグの内圧を適切に調圧することが難しく、改善の余地がある。
【0010】
また、特許文献2は、上述したように、エアバッグが、その展開方向前側の障害物等に当接したときにベントホールを開かせるものである。そのため、乗物用シートの側方から衝撃が加わった場合に、ベントホールが開いて膨張用ガスが排出されて、エアバッグの内圧を適切に調圧することができるかどうか不明である。
【0011】
その結果、特許文献1においても特許文献2においても、エアバッグを通じて乗員が受ける荷重の特性を、上述したような望ましい特性にすることが難しい。
こうした問題は、車両とは異なる乗物に備え付けられるサイドエアバッグ装置でも同様に起こり得る。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エアバッグの内圧を適切に調圧することのできるサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乗物用シートの側方から加わる衝撃に応じてインフレータから供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張する膨張部を有するエアバッグを備え、前記膨張部を、面状の仕切壁により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部の前側に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の室に仕切り、前記乗物用シートに着座した乗員を前記膨張部により拘束して保護するサイドエアバッグ装置であって、前記仕切壁は、前記膨張部による前記乗員の拘束に際し、側方から同乗員に押圧される箇所に設けられた複数枚のシート材からなり、前記仕切壁には、隣合う前記シート材の端部を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部が設けられ、前記ラップ部には、前記上流側膨張部の膨張時であって前記乗員を拘束する前には、前記上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触し、前記上流側膨張部が膨張して前記乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により撓んで互いに離間する一対の弁体部を備えてなる調圧弁が設けられていることを要旨とする。
【0014】
上記の構成によれば、乗物用シートの側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグの膨張部のうち、まず上流側膨張部に供給されて、同上流側膨張部が膨張を開始する。上流側膨張部の膨張時であって乗員を拘束する前には、その上流側膨張部に面する弁体部が同上流側膨張部内の膨張用ガスによって下流側膨張部側へ押圧されて、その下流側膨張部に面する弁体部に接触し、調圧弁が閉弁する。この閉弁により、上流側膨張部から下流側膨張部への膨張用ガスの流通が規制され、上流側膨張部の内圧のみが上昇する。
【0015】
一方、前記衝撃により、乗物用シートの側方に存在する乗物構成部材が乗物用シート側へ進入し、エアバッグが乗員に押付けられると、その乗員は主として上流側膨張部によって拘束される。
【0016】
このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部が押圧されて変形する。これに伴い、仕切壁が撓んで両弁体部が前後方向に互いに離間し、調圧弁が開弁する。特に、仕切壁を構成するシート材が、膨張部による乗員の拘束に際し側方から同乗員によって押圧される箇所に設けられていることから、乗員の拘束に伴う外力が仕切壁に伝わりやすい。そのため、仕切壁が撓んで両弁体部が互いに離れやすい(調圧弁が開弁しやすい)。そして、上記調圧弁の開弁により上記流通規制が解除され、上流側膨張部から下流側膨張部へ膨張用ガスが流出することが可能となる。
【0017】
上記膨張用ガスの流出により上流側膨張部の内圧が低下する。また、膨張用ガスが供給される下流側膨張部が膨張を開始し、それに伴い同下流側膨張部の内圧が上昇し始める。膨張部が、上流側膨張部に加え下流側膨張部においても乗員に押付けられるようになり、乗員が上流側膨張部及び下流側膨張部によって拘束される。
【0018】
上記のように、乗員拘束前には調圧弁が閉弁して上流側膨張部の内圧のみが上昇し、乗員拘束時には調圧弁が開弁し、上流側膨張部の内圧が低下するとともに下流側膨張部の内圧が上昇する。このように、請求項1に記載の発明によると、上流側膨張部及び下流側膨張部の各内圧が適切に調圧される。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、隣合う前記シート材は、互いに離間させられた状態で前記ラップ部に設けられた複数の結合部により互いに結合され、前記シート材の前記端部において隣合う前記結合部間、及びその周辺箇所により前記弁体部が構成されていることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、互いに離間させられた状態で複数の結合部がラップ部に設けられることにより、隣合うシート材が互いに結合されて、仕切壁が形成されるだけでなく、隣合うシート材の端部において、結合部間、及びその周辺箇所により弁体部が形成される。そのため、仕切壁の形成とは別に、弁体部(調圧弁)を形成するための特別な作業を行なわなくてもすむ。
【発明の効果】
【0021】
本発明のサイドエアバッグ装置によれば、エアバッグの内圧を適切に調圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、サイドエアバッグ装置が装備された車両用シートを乗員とともに示す側面図。
【図2】一実施形態において、車両用シート、乗員及びボディサイド部の位置関係を示す平断面図。
【図3】一実施形態において、シートバックの収納部に組み込まれたエアバッグモジュールを、ボディサイド部とともに示す部分平断面図。
【図4】一実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
【図5】図4のA−A線に沿った仕切壁等の断面構造を模式的に示す部分拡大断面図。
【図6】図3の状態からエアバッグが一部をシートバック内に残して車両用シートから飛び出して展開膨張した状態を示す部分平断面図。
【図7】図4の非膨張展開状態のエアバッグが車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールを、車両用シート及び乗員とともに示す部分側断面図。
【図8】一実施形態のエアバッグが膨張して仕切壁が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図。
【図9】一実施形態を示す図であり、仕切壁における調圧弁の近傍部分を示す部分斜視図。
【図10】(A),(B)は、一実施形態の調圧弁の動作を模式的に示す部分側断面図。
【図11】(A),(B)は、一実施形態の調圧弁の動作を模式的に示す部分平断面図。
【図12】一実施形態において、車内側へ進入するボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる際の内圧、受圧面積及び荷重の各変化態様を示す特性図。
【図13】サイドエアバッグ装置の別例を示す図であり、エアバッグが膨張して仕切壁が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図。
【図14】サイドエアバッグ装置の別例を示す図であり、仕切壁における調圧弁の近傍部分を示す部分斜視図。
【図15】調圧弁の別例を示す図であり、(A)〜(C)は調圧弁の動作を模式的に示す部分平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を車両用サイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方として説明し、車両の後進方向を後方として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味する。さらに、車両の幅方向(車幅方向)についての中央部を基準とし、その中央部に近付く側を「内側」とし、中央部から遠ざかる側を「外側」とするものとする。
【0024】
図1及び図2に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(図2の上側)の近傍には車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された車両構成部材を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リヤドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。
【0025】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)により傾斜角度を調整されるシートバック(背もたれ)14とを備えて構成されている。車両用シート12は、シートバック14が前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0026】
次に、上記シートバック14における車外側の側部の内部構造について説明する。
シートバック14内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図3に示すように、シートバック14内の車外側(図3では下側)部分に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部15」という)は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部15を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド16が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード17が配置されている。なお、シートパッド16は表皮によって被覆されているが、図3ではその表皮の図示が省略されている。後述する図6についても同様である。
【0027】
シートパッド16内において、サイドフレーム部15の車外側近傍には収納部18が設けられている。この収納部18には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが組み込まれている。
【0028】
収納部18の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット19が延びている。シートパッド16の前側の角部16Cとスリット19とによって挟まれた箇所(図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、後述するエアバッグ40によって破断される破断予定部21を構成している。
【0029】
上記シートバック14に組み込まれるエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、図1に示すように、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向を「上下方向」とし、シートバック14の厚み方向を「前後方向」としている。通常、シートバック14は後方へ多少傾斜した状態で使用されることから、「上下方向」は厳密には鉛直方向ではなく、多少傾斜している。同様に、「前後方向」は厳密には水平方向ではなく、多少傾斜している。
【0030】
<インフレータアセンブリ30>
図3及び図4に示すように、インフレータアセンブリ30は、ガス発生源としてのインフレータ31と、そのインフレータ31の外側に装着されたリテーナ32とを備えて構成されている。本実施形態では、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31の長さ方向についての一方の端部(本実施形態では下端部)には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0031】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断してガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0032】
一方、リテーナ32は、ディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ31をエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ32には窓部33が設けられており、インフレータ31から噴出された膨張用ガスG(図1参照)の多くが、この窓部33を通じてリテーナ32の外部へ噴き出される。
【0033】
リテーナ32には、これを上記サイドフレーム部15に取付けるための係止部材として、複数本のボルト34が固定されている。表現を変えると、複数本のボルト34が、リテーナ32を介してインフレータ31に間接的に固定されている。
【0034】
なお、インフレータアセンブリ30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ40>
図1及び図2に示すように、エアバッグ40は、車両10の走行中等に側突等により衝撃が側方からボディサイド部11に加わったときに、インフレータ31から膨張用ガスGの供給を受ける。この膨張用ガスGの供給を受けたエアバッグ40は、自身の一部(後部)を上記収納部18内に残した状態で同収納部18から略前方へ向けて飛び出し、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身とボディサイド部11との間で展開膨張することにより上記側突の衝撃から乗員Pの上半身を保護する。
【0035】
図4は、エアバッグ40が膨張用ガスGを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを示している。また、図7は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図4の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを、車両用シート12及び乗員Pとともに示している。
【0036】
図4及び図7に示すように、エアバッグ40は、1枚の布片41(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線42に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布部43(図7参照)といい、車外側に位置するものを布部44(図4参照)というものとする。
【0037】
なお、本実施形態では、折り線42がエアバッグ40の前端に位置するように布片41が二つ折りされているが、折り線42が他の端部、例えば後端部に位置するように布片41が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ40は折り線42に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ40は、2枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、袋状となるように結合させることにより形成される。さらに、エアバッグ40は3枚以上の布片からなるものであってもよい。
【0038】
エアバッグ40においては、両布部43,44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある。各布部43,44の形状・大きさは、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張したときに、その車両用シート12に着座している乗員Pの上半身に対応する領域を占有し得るように設定されている。
【0039】
上記布部43,44としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0040】
両布部43,44の上記結合は、それらの周縁部に設けられた周縁結合部45においてなされている。本実施形態では、周縁結合部45は、両布部43,44の周縁部のうち、後下端部及び前端部(折り線42の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63,81についても同様である。
【0041】
上記縫製に関し、図4、図7〜図9、さらには、図13、図14では、2つの線種で縫製部分を表現している。一方の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44の外側(布部43,44間ではない)における縫糸の状態を示している(図4等参照)。他方の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44間における縫糸の状態を示している(図7等参照)。すなわち、縫製が後者の態様で表現されている図は、縫製部分を通る断面に沿った断面構造を示している。
【0042】
図4及び図7に示すように、両布部43,44間であって、周縁結合部45によって囲まれた空間は、膨張用ガスG(図1等参照)によって乗員Pの上半身の外側方近傍で膨張することにより、衝撃から同上半身を保護するための膨張部46となっている。
【0043】
なお、周縁結合部45は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63,81についても同様である。
【0044】
上記インフレータアセンブリ30は、前側ほど低くなるように傾斜させられた姿勢で、エアバッグ40内の後端下部に配設されている。そして、リテーナ32のボルト34が、車内側の布部43に挿通されている(図3参照)。こうした挿通により、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。また、エアバッグ40の後部下端は、インフレータアセンブリ30の下端部に対し、環状の締結具37(図4、図7の各二点鎖線参照)によって気密状態で締付けられている。
【0045】
エアバッグ40の膨張部46は、面状の仕切壁50により複数の室に仕切られている。複数の室は、本実施形態では、インフレータ31からの膨張用ガスGが最初に供給される上流側膨張部47と、上流側膨張部47の前側に隣接し、かつ上流側膨張部47を経由した膨張用ガスGが供給される下流側膨張部48とからなる。仕切壁50は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有しており、エアバッグ40の布部43,44と同様の素材を用いて形成されている。
【0046】
図5は、図4のA−A線に沿った断面構造を示している。この図5では、各部材が厚みを省略して描かれるとともに、各内結合部63がジグザグ状に描かれている。この点は、後述する図11(A),(B)、及び図15(A)〜(C)についても同様である。図5及び図7に示すように、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、仕切壁50は、略上下方向に延びる折り線51に沿って折り返されることにより、相対向する対向端部52,53を接近させてなる二つ折り状態にされている。この二つ折り状態の仕切壁50は、折り線51を両対向端部52,53よりも上流側に位置させた状態で膨張部46内に配設されている。なお、図3では、仕切壁50の図示が省略されている。
【0047】
図8及び図9に示すように、上記仕切壁50は、膨張部46の膨張に伴い緊張させられたとき、折り線51に沿う方向に、同折り線51に直交する方向よりも長い長尺状をなしている。仕切壁50は、両対向端部52,53の各々において、略上下方向へ延びる外結合部54,55によって、エアバッグ40の両布部43,44にそれぞれ結合されている。両外結合部54,55は、膨張部46が膨張したときに、乗員Pの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所で、仕切壁50の各対向端部52,53を、対応する布部43,44に結合している(図2参照)。
【0048】
このようにして、仕切壁50は、エアバッグ40における車内側の布部43と車外側の布部44との間に架け渡されている。仕切壁50は、エアバッグ40が非膨張展開状態となったときには、二つ折りされた状態となる(図5、図7参照)。また、仕切壁50は、膨張部46が膨張したとき、車幅方向に緊張させられた状態となり(図8、図9参照)、同膨張部46の車幅方向の厚みを規制する。
【0049】
また、二つ折り状態の仕切壁50は、折り線51に沿う方向の両端部において、エアバッグ40に結合されている。すなわち、仕切壁50の上端部及び下端部は、上述した周縁結合部45(図7参照)によってエアバッグ40の両布部43,44の上端部及び下端部に結合(共縫い)されている。
【0050】
本実施形態では、仕切壁50は、図7〜図9に示すように、折り線51に沿う方向である略上下方向に並べられた2枚のシート材56,57によって構成されている。両シート材56,57は、膨張部46内において、その膨張部46が膨張したときに乗員Pの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所に設けられている。この箇所は、膨張部46による乗員Pの拘束に際し、同乗員P(上半身における前後方向についての中間部)によって側方から押圧される箇所である。
【0051】
シート材56の下側の端部58と、シート材57の上側の端部59とは、互いに前後方向に重ね合わされている。この重ね合わされた状態では、端部58,59はどの箇所においても互いに接触又は接近している。そして、このように、両端部58,59が重ね合わされた部分によって、折り線51に直交する方向へ帯状に延びるラップ部61が構成されている。なお、本実施形態では、端部59が端部58に対し上流側から重ね合わされているが、これに代えて下流側から重ね合わされてもよい。
【0052】
上記両シート材56,57は、折り線51に直交する方向に互いに離間させられた状態で設けられた複数(本実施形態では2つ)の内結合部63によって互いに結合されている。本実施形態では、両シート材56,57は、ラップ部61の同一線上に設けられている。両内結合部63は、特許請求の範囲における「結合部」に該当する。両内結合部63は、折り線51に沿う方向について、シート材56の下側の端縁58Eと、シート材57の上側の端縁59Eとの中間となる箇所に設けられており、同折り線51に直交する方向に延びている。本実施形態では、両内結合部63は、折り線51に沿う方向について、両端縁58E,59E間の中央に設けられている。
【0053】
上記両シート材56,57の端部58,59は、両内結合部63間において結合を解除されている。この結合を解除された箇所は、本実施形態では、折り線51を跨ぐ部分に位置している。上側のシート材56において隣合う内結合部63間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に沿う方向についての両側部分)とによって弁体部64が構成されている。また、下側のシート材57において隣合う内結合部63間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に沿う方向についての両側部分)とによって、弁体部65が構成されている。これらの弁体部64,65によって、膨張部46(上流側膨張部47、下流側膨張部48)の内圧を調整(調圧)する調圧弁66が構成されている。なお、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、両弁体部64,65は、図11(A)に示すように、互いに接触又は接近している。
【0054】
この調圧弁66では、両弁体部64,65が互いに接触することで、両弁体部64,65間での膨張用ガスGの流通が規制される(図10(A)、図11(A)参照)。また、弁体部64と弁体部65とが前後方向へ互いに離間することで、両弁体部64,65間での膨張用ガスGの流通が可能となる(図10(B)、図11(B)参照)。なお、図10(A),(B)は、調圧弁66の動作を、側方から見た状態でもって模式的に示している。また、図11(A),(B)は、調圧弁66の動作を、上方から見た状態でもって模式的に示している。
【0055】
図5及び図7に示すように、ラップ部61及び内結合部63の幅方向についての両端部は、前述した外結合部54,55により、エアバッグ40の対応する布部43,44に対し、シート材56,57の幅方向についての端部(仕切壁50の対向端部52,53)と一緒に結合(共縫い)されている。
【0056】
ところで、図3に示すように、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として有する上記エアバッグモジュールAMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(図4参照)が折り畳まれることにより、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールAMを、シートバック14における限られた大きさの収納部18に対し、収納に適したものとするためである。
【0057】
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30を後側に位置させ、かつエアバッグ40の多くを前側に位置させた状態で、シートバック14の収納部18に配設されている。そして、上述したように、リテーナ32から延びてエアバッグ40(布部43)に挿通されたボルト34がサイドフレーム部15に挿通され、ナット36によって締付けられている。この締付けにより、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に固定されている。
【0058】
なお、インフレータアセンブリ30は、上述したボルト34及びナット36とは異なる手段によって車両10(サイドフレーム部15)に固定されてもよい。
図1に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMの他に衝撃センサ71及び制御装置72を備えている。衝撃センサ71は加速度センサ等からなり、車両10のボディサイド部11(図2及び図3参照)等に設けられており、同ボディサイド部11に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置72は、衝撃センサ71からの検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0059】
上記のようにして、本実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用として、代表的な動作の態様(モード)について、図10(A),(B)及び図11(A),(B)を参照して説明する。これらの図10(A),(B)及び図11(A),(B)は、調圧弁66等の形態が、膨張用ガスGの供給開始後時間とともに変化する様子を模式的に示したものであり、細部については省略・簡略化されている。また、図12は、上流側及び下流側の各膨張部47,48内の膨張用ガスGの圧力(内圧)と、乗員Pの各膨張部47,48側の受圧面積と、乗員Pがエアバッグ40から受ける荷重とが、衝撃により車内側へ進入するボディサイド部11の進入量(ストローク)に応じてどのように変化するかを示している。荷重は、内圧と受圧面積との積によって決定される。
【0060】
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両10に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置72からインフレータ31に作動信号が出力されず、インフレータ31から膨張用ガスGが膨張部46(上流側膨張部47)に供給されない。エアバッグ40は、収納用形態でインフレータアセンブリ30とともに収納部18に収納され続ける(図3参照)。このとき、エアバッグ40では、両布部43,44が互いに接近している。仕切壁50が二つ折り状態となっていて、両弁体部64,65は互いに接近又は接触している。ボディサイド部11の進入量(ストローク)は「0」である。各膨張部47,48の内圧はともに低く(略大気圧)、受圧面積及び荷重はともに「0」である。
【0061】
これに対し、車両10の走行中に、側突等によりボディサイド部11に対し、側方から所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ71によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置72からインフレータ31に作動信号が出力される。このときのボディサイド部11の進入量(ストローク)をS0とする。この作動信号に応じて、インフレータ31では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生する。この膨張用ガスGは、まず上流側膨張部47に供給されて、同上流側膨張部47が膨張を開始する。
【0062】
膨張部46内では、二つ折り状態の仕切壁50が、両対向端部52,53の各々において、外結合部54,55によってエアバッグ40の対応する布部43,44に結合されている(図5参照)。また、仕切壁50は、折り線51に沿う方向の両端部(上端部及び下端部)の各々において、周縁結合部45によって両布部43,44に結合されている(図7参照)。そのため、上記のように上流側膨張部47の膨張が開始すると、二つ折り状態の仕切壁50が引っ張られる。仕切壁50に対し、折り線51に沿う方向や直交する方向にテンションが掛かって、仕切壁50が平面状態になろうとする(図8参照)。
【0063】
このとき、上流側膨張部47に面する弁体部65に対しては、図10(A)及び図11(A)に示すように、上流側膨張部47の内圧が加わる。弁体部65は、上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって下流側膨張部48側へ押圧されて、同下流側膨張部48に面する弁体部64に接触(密着)する。この接触により調圧弁66が閉弁した状態となり、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部64,65間を通って下流側膨張部48へ流出することを規制される。
【0064】
上記の規制により、上流側膨張部47に膨張用ガスGが溜まり、進入量(ストローク)S0以降、上流側膨張部47の内圧のみが上昇し始める。
本実施形態では、膨張部46が仕切壁50によって下流側膨張部48側へ上流側膨張部47及び下流側膨張部48に仕切られていることから、上流側膨張部47の容積は、膨張部46が仕切られていない場合(以下「比較例」という)のその膨張部の容積よりも小さい。そのため、上流側膨張部47の内圧は、膨張部46が仕切られていない場合(比較例)よりも早く上昇を開始し、しかも高くなる。特に、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部64,65間においてのみ流通を許容され、両弁体部64,65間を経由せずに下流側膨張部48へ流出することはない。従って、膨張用ガスGの上記流出が原因で上流側膨張部47の内圧の上昇速度が低下することがない。
【0065】
また、上記の点において本実施形態は、仕切り部(シーム)における両基布間の連通路を膨張用ガスの通路とする特許文献1と大きく異なる。特許文献1では、主膨張室の内圧が充分に高くなる前に、その主膨張室内の膨張用ガスが連通路を通って副膨張室へ流出するが、本実施形態では上記連通路に相当する箇所がなく、調圧弁66が閉弁している。調圧弁66の閉弁中は、上流側膨張部47内の膨張用ガスGが下流側膨張部48へ流出することがないか、あっても僅かである。
【0066】
なお、このときには、エアバッグ40(膨張部46)が未だ乗員Pに接しておらず、従って、受圧面積及び荷重はともに依然として「0」である。
そして、上流側膨張部47の上記膨張により、同上流側膨張部47が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。上流側膨張部47が、折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、シートバック14のシートパッド16がエアバッグ40によって押圧され、破断予定部21(図3参照)において破断される。エアバッグ40は、図6に示すように、一部(インフレータアセンブリ30の近傍部分)をシートバック14内に残した状態で、破断された箇所を通じて同シートバック14から飛び出す。
【0067】
その後も膨張用ガスGの供給される上流側膨張部47は、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身の後半部との間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する。
【0068】
ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS1となり、このボディサイド部11によって膨張部46が乗員Pの上半身に押付けられ、エアバッグ40による乗員Pの拘束が始まる。膨張部46では上流側膨張部47のみが膨張していることから、乗員Pが膨張部46の圧力を受けながら接触する箇所は上流側膨張部47のみである。そのため、乗員Pが膨張部46の圧力を受ける面の面積(膨張部46側の受圧面積)は、上流側膨張部47から圧力を受ける面の面積(上流側膨張部47側の受圧面積)と同じであって小さい。ただし、この上流側膨張部47側の受圧面積は、側突の衝撃に応じたボディサイド部11の車内側への進入が進む(進入量(ストローク)が増加する)につれて増大する。
【0069】
乗員Pが膨張部46を通じて受ける衝撃の荷重もまた、受圧面積及び内圧の増加に伴い増加する。上述したように、上流側膨張部47の内圧が早く上昇を開始することから、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S1は、膨張部46が仕切られていない場合(比較例)において、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S10よりも小さくなる。表現を変えると、膨張部46が仕切られていない場合(比較例)よりも早いタイミングで荷重が増加し始め、その分早く、乗員Pの上半身を衝撃から保護するための所定値αに到達する(図12参照)。
【0070】
膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の途中からは、乗員Pの拘束に伴う外力によって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い仕切壁50が撓み、図10(B)及び図11(B)に示すように、両弁体部64,65が互いに前後方向に離れる。特に、仕切壁50を構成するシート材56,57が膨張部46による乗員Pの拘束に際し、側方から同乗員Pによって押圧される箇所に設けられていることから、乗員Pの拘束に伴う外力が仕切壁50に伝わりやすい。そのため、仕切壁50が撓んで両弁体部64,65が互いに離れやすい。この点において、本実施形態は、エアバッグがその展開方向前側の障害物等に当接したときにベントホールを開かせるにすぎず、側方から衝撃が加わった場合にベントホールが開くかどうか不明な特許文献2と大きく異なる。
【0071】
進入量(ストローク)がS2になると、調圧弁66が開弁した状態となって、上流側膨張部47内の膨張用ガスGが両弁体部64,65間を通って下流側膨張部48へ流出することが可能となる。
【0072】
この膨張用ガスGの流出により、上流側膨張部47の内圧が上昇から低下に転ずる。ただし、ボディサイド部11は車内側へ依然として進入し続けていて、膨張部46が上流側膨張部47において乗員Pに押付けられるため、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積は増加し続ける。
【0073】
また、進入量(ストローク)S2以降、膨張用ガスGにより下流側膨張部48が膨張を開始し、それに伴い同下流側膨張部48の内圧が上昇を開始する。また、内圧の上昇開始から少し遅れて、進入量(ストローク)がS3となったところで、車内側へ進入するボディサイド部11により、上流側膨張部47に加え、下流側膨張部48が乗員Pに押付けられるようになり、同乗員Pが下流側膨張部48の圧力を受ける面の面積(下流側膨張部48側の受圧面積)が増加し始める。
【0074】
なお、上流側膨張部47の内圧と下流側膨張部48の内圧とは、進入量(ストローク)S4以降、等しくなる。
上記のように、調圧弁66の開弁(進入量(ストローク)S2)後には、上流側膨張部47の内圧が低下するとともに下流側膨張部48の内圧が上昇する。また、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積、及び下流側膨張部48側の受圧面積が時間差をもって増加する。このため、進入量(ストローク)S2以降、乗員Pが膨張部46の全体から受ける荷重、すなわち、上流側膨張部47から受ける荷重と下流側膨張部48から受ける荷重との合計は、単に、エアバッグを単一の膨張部により構成し、かつ調圧弁を設けない場合(比較例)の最大値よりも低く、しかも略一定の値(所定値α)に維持される。
【0075】
下流側膨張部48の上記膨張により、同下流側膨張部48が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。下流側膨張部48は、図2に示すように、ボディサイド部11と乗員Pの上半身の前半部(胸部PT)との間で、前方へ向けて、折り状態を解消(展開)しながら展開する。
【0076】
このようにして、エアバッグ40が、乗員Pの上半身と、車内側へ進入してくるボディサイド部11との間に介在する。このエアバッグ40によって上半身が車幅方向内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて上半身へ伝わる側方からの衝撃がエアバッグ40によって緩和されて同上半身が保護される。
【0077】
ここで、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、一般に、後半部において前半部(胸部PT)よりも勝っている。これは、後半部には背骨があり、肋骨がその後部において背骨に接続されているのに対し、肋骨の前部は、上記背骨のような強度を有するものに接続されていないからである。そのため、エアバッグ40の展開膨張に伴い乗員Pの上半身に側方から作用する膨張部46の内圧は、前半部において後半部よりも低いことが望ましい。
【0078】
この点、本実施形態では、膨張部46は、前後方向については、仕切壁50が上半身の前半部と後半部との境界部分の近傍に位置するように膨張する。エアバッグ40の膨張部46が展開膨張した状態では、上半身の後半部の側方近傍には上流側膨張部47が位置し、前半部(胸部PT)の側方近傍には下流側膨張部48が位置する(図2参照)。従って、エアバッグ40による乗員Pの拘束初期には、乗員Pの上半身のうち前半部(胸部PT)よりも耐衝撃性の高い後半部は、早期に内圧が高くなる上流側膨張部47によって押圧される。また、同拘束初期には、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性の比較的低い前半部(胸部PT)は、内圧が上流側膨張部47ほど高くならない下流側膨張部48によって押圧される。
【0079】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ40の膨張部46を上流側膨張部47及び下流側膨張部48に仕切る仕切壁50を、膨張部46による乗員Pの拘束に際し、側方から乗員Pに押圧される箇所に設けられた2枚のシート材56,57によって構成する。仕切壁50には、両シート材56,57の端部58,59を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部61を設け、さらに、一対の弁体部64,65を備えてなる調圧弁66をラップ部61に設けている(図9)。
【0080】
そのため、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pを拘束する前には、上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって弁体部65を押圧して弁体部64に接触させ(調圧弁66を閉弁させ)、上流側膨張部47内の膨張用ガスGが下流側膨張部48へ流出するのを規制して上流側膨張部47の内圧を上昇させることができる。これに対し、上流側膨張部47が膨張して乗員Pを拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により仕切壁50を撓ませて両弁体部64,65を互いに離間させ(調圧弁66を開弁させ)、上流側膨張部47から下流側膨張部48へ膨張用ガスGを流出させて下流側膨張部48の内圧を上昇させることができる。
【0081】
このように、簡単かつ安価な構造でありながら、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pの拘束前には閉弁し、拘束時には開弁して適切な調圧を行なう調圧弁66を成立させることができる。そして、この調圧弁66の作動により、エアバッグ40を通じて乗員Pの上半身が受ける荷重の特性を、短時間で所定値αに到達し、その後は所定値αに維持されるといった、乗員Pを適切に拘束して保護するうえで好適な特性にすることができる。
【0082】
(2)両シート材56,57を、互いに離間させられた状態でラップ部61に設けられた2つの内結合部63によって互いに結合する。そして、各シート材56,57の端部58,59において隣合う内結合部63間と、その周辺箇所とによって弁体部64,65を構成している(図9)。
【0083】
そのため、ラップ部61に2つの内結合部63を設ける作業を行なうだけで、両シート材56,57を互いに結合させて仕切壁50を形成することができるだけでなく、両シート材56,57に弁体部64,65を形成することができる。仕切壁50の形成とは別に、弁体部64,65(調圧弁66)を形成するための特別な作業を行なわなくてもすむ。
【0084】
特に、両弁体部64,65は仕切壁50に対し一体となっている。そのため、両弁体部64,65が仕切壁50とは異なる部品からなる場合に比べ、部品点数を少なくすることができる。また、弁体部64,65を仕切壁50に結合する作業を行なわなくてもすむ。
【0085】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<仕切壁50について>
・仕切壁50は、図13及び図14に示すように、折り線51に直交する方向に並べられた2枚のシート材75,76によって構成されてもよい。
【0086】
この場合、シート材75の端部77と、シート材76の端部78とは、互いに前後方向に重ね合わされる。このように、両端部77,78が重ね合わされた部分によって、折り線51に沿う方向(略上下方向)に延びる帯状のラップ部79が構成される。
【0087】
上記両シート材75,76は、互いに離間させられた状態でラップ部79に設けられた複数(図13、図14では2つ)の内結合部81によって互いに結合される。両内結合部81は、既述した両内結合部63と同様、特許請求の範囲における「結合部」に該当する。両内結合部81は、折り線51に直交する方向について、シート材75の端縁77Eと、シート材76の端縁78Eとの中間となる箇所、例えば中央に設けられ、同折り線51に沿う方向に延びる。
【0088】
上記両シート材75,76は、両内結合部81間において結合を解除される。この結合を解除された箇所は、例えば、折り線51上に設けられる。一方のシート材75において隣合う内結合部81間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に直交する方向についての両側)とによって弁体部82が構成される。また、他方のシート材76において隣合う内結合部81間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に直交する方向についての両側)とによって、弁体部83が構成される。これらの弁体部82,83によって、膨張部46(上流側膨張部47、下流側膨張部48)の内圧を調整(調圧)する調圧弁84が構成される。
【0089】
この調圧弁84では、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pを拘束する前には、上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって、上流側膨張部47に面する弁体部82が下流側膨張部48に面する弁体部83に接触することで、両弁体部82,83間での膨張用ガスGの流通が規制される。また、上流側膨張部47が膨張して乗員Pを拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により仕切壁50が撓んで両弁体部82,83が互いに前後方向へ離間することで、両弁体部82,83間での膨張用ガスGの流通が可能となる。
【0090】
なお、図13及び図14では、端部77が端部78に対し上流側から重ね合わされているが、これに代えて下流側から重ね合わされてもよい。
・仕切壁50は3枚以上のシート材によって構成されてもよい。この場合、隣合うシート材同士は相互に結合される。結合の対象となる箇所は複数箇所となる。
【0091】
ラップ部61,79及び調圧弁66,84は、上記結合の対象となる全ての箇所に設けられてもよいし、一部の箇所にのみ設けられてもよい。
また、調圧弁66,84は全てのラップ部61,79に設けられてもよいし、一部のラップ部61,79にのみ設けられてもよい。
【0092】
・仕切壁50の対向端部52は、エアバッグ40の布部43に対し、上流側膨張部47内で結合されてもよいし、下流側膨張部48内で結合されてもよい。同様に、仕切壁50の対向端部53は、エアバッグ40の布部44に対し、上流側膨張部47内で結合されてもよいし、下流側膨張部48内で結合されてもよい。
【0093】
また、対向端部52,53の一方が上流側膨張部47内で結合され、他方が下流側膨張部48内で結合されてもよい。
・二つ折り状態の仕切壁50における折り線51は、上下方向に対し多少傾斜していてもよい。
【0094】
・上記実施形態と、図13及び図14に示される別例とにおいて、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているとき、二つ折り状態の仕切壁50は、折り線51が両対向端部52,53よりも下流側に位置するものであってもよい。
【0095】
<調圧弁66について>
・図15(A)〜(C)は、上記実施形態とは異なるタイプの調圧弁66の動作を、上方から見た状態でもって模式的に示している。
【0096】
図15(A)は、エアバッグ40が非膨張展開状態にされたときの調圧弁66の状態を示している。このとき、上流側膨張部47に面する弁体部65として、下流側膨張部48に面する弁体部64よりも幅方向に広いものが用いられる。そして、弁体部65が弁体部64から上流側へ離間した状態で、両シート材56,57の端部58,59が内結合部63によって結合される。このようにすることで、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、調圧弁66は、弁体部65が弁体部64から離間した状態、すなわち開弁状態となる。なお、こうした構成は、シート材56よりも幅方向に広いシート材57を用い、同シート材57の両側縁をシート材56の両側縁に合致させた状態で、内結合部63を設けることにより実現可能である。
【0097】
このように変更すると、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pを拘束する前には、上流側膨張部47の内圧が弁体部65に加わることで、図15(B)に示すように、同弁体部65を押圧して弁体部64に接触させて、調圧弁66を閉弁状態にすることが可能である。
【0098】
また、上流側膨張部47が膨張して乗員Pを拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により仕切壁50を撓ませて、図15(C)に示すように、両弁体部64,65を互いに離間させる(調圧弁66を開弁させる)ことが可能である。このとき、弁体部65が弁体部64よりも幅広であることから、外力が加わることで弁体部64から離れやすく、調圧弁66が開弁しやすくなる。
【0099】
<内結合部63,81について>
・上記実施形態において、内結合部63は、仕切壁50の折り線51に直交する方向に延びるものに限らず、斜めに交差する方向に延びるものであってもよい。
【0100】
また、図13及び図14によって示される別例において、内結合部81は、仕切壁50の折り線51に対し平行に延びるものに限らず、傾斜する方向に延びるものであってもよい。
【0101】
・上記実施形態において、両内結合部63間の結合を解除される箇所は、折り線51から、同折り線51に直交する方向へ外れた箇所に設けられてもよい。
また、図13及び図14によって示される別例において、両内結合部81間の結合を解除される箇所は、折り線51の中央から外れた箇所に設けられてもよい。
【0102】
・上記実施形態において、両内結合部63間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
また、図13及び図14によって示される別例において、両内結合部81間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
【0103】
・隣合う内結合部63,81は、ラップ部61,79の同一線上とならない箇所に設けられてもよい。
・上記実施形態において、両内結合部63は、折り線51に沿う方向について、端縁58Eと端縁59Eとの中央から外れた箇所に設けられてもよい。
【0104】
また、図13及び図14に示される別例において、両内結合部81は、折り線51に直交する方向について、端縁77Eと端縁78Eとの中央から外れた箇所に設けられてもよい。
【0105】
<ラップ部61,79について>
・ラップ部61(79)において、両弁体部64,65(82,83)として機能するのは、両シート材56,57(75,76)において隣合う内結合部63(81)間、及びその周辺箇所である。そのため、ラップ部61(79)において、隣合う内結合部63(81)間、及びその周辺箇所ではない部分(非近傍部分)については、端部58,59(77,78)の結合態様が変更されてもよい。例えば、上記非近傍部分は、内結合部63(81)に加え、別の結合部によって結合されてもよい。この結合の手段としては、縫合であってもよいし、接着であってもよい。このように変更されることで、ラップ部61(79)において、隣合う内結合部63(81)間、及びその周辺箇所だけ両弁体部64,65(82,83)として作動させ、それ以外の箇所が不要に動く現象、例えばばたつく現象を抑制することができる。
【0106】
その他にも、ラップ部61,79の上記非近傍部分の少なくとも一部に切欠きが入れられてもよい。
<膨張部46について>
・エアバッグ40は、その略全体が膨張部46からなるもの(上記実施形態がこれに該当する)であってもよいが、膨張用ガスGが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0107】
・膨張部46は仕切壁によって3つ以上の室に仕切られてもよい。この場合、膨張部46において仕切壁を挟んで膨張用ガスGの流れ方向に隣合う2つの室について、上流側に位置するものが上流側膨張部とされ、下流側に位置するものが下流側膨張部とされる。そして、これらの上流側膨張部及び下流側膨張部間の仕切壁に調圧弁が設けられる。
【0108】
<インフレータアセンブリ30について>
・インフレータアセンブリ30はエアバッグ40の外部に設けられてもよい。この場合には、インフレータ31と上流側膨張部47とが管によって繋がれ、この管を介してインフレータ31からの膨張用ガスGが上流側膨張部47に供給されてもよい。
【0109】
<エアバッグモジュールAMの収納部18について>
・車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11に収納部18が設けられ、ここにエアバッグモジュールAMが配設されてもよい。
【0110】
<サイドエアバッグ装置の保護対象について>
・上記実施形態では、乗員Pの主として胸部PTを保護するサイドエアバッグ装置を例に説明したが、本発明は、乗員Pの他の部位、例えば、胸部PT〜頭部にかけての部位、腰部〜胸部(肩部)にかけての部位、腰部〜頭部にかけての部位等、種々の部位を側突等の衝撃から保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0111】
<その他>
・本発明は、シートバック14が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で車両用シート12が配置された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0112】
・本発明のサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・本発明は、車両に限らず、航空機、船舶等の他の乗物に装備されるサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0113】
12…車両用シート(乗物用シート)、31…インフレータ、40…エアバッグ、46…膨張部、47…上流側膨張部、48…下流側膨張部、50…仕切壁、56,57,75,76…シート材、58,59,77,78…端部、61,79…ラップ部、63,81…内結合部(結合部)、64,65,82,83…弁体部、66,84…調圧弁、G…膨張用ガス、P…乗員。
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに着座した乗員の側方でエアバッグを展開膨張させ、乗物用シートの側方から加わる衝撃を緩和して乗員を保護するサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側突等により車両に側方から衝撃が加わった場合に、その衝撃から乗員を保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが折り畳まれた状態でインフレータとともに、車両用シートのシートバック(背もたれ)内に組み込まれている。このサイドエアバッグ装置では、車両の側部を構成する部材(ボディサイド部)、例えばサイドドア等に側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグ内に供給される。この膨張用ガスによりエアバッグが展開膨張し、一部をシートバック内に残した状態で車両用シートから飛び出す。このエアバッグは、車両用シートに着座した乗員とボディサイド部との間の狭い空間において、シートバックから車両前方へ向けて展開膨張する。展開膨張したエアバッグが、乗員と車内側へ進入してくるボディサイド部との間に介在して乗員を拘束するとともに、ボディサイド部を通じて乗員へ伝わる側方からの衝撃を緩和する。
【0003】
ところで、サイドエアバッグ装置では、側方からの衝撃によりボディサイド部が車内側へ進入し、そのボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる。この押し付けに伴い、乗員はエアバッグを通じて衝撃の荷重を受ける。この荷重は、乗員がエアバッグから圧力を受ける面積(乗員のエアバッグ側の受圧面積)と、エアバッグの内圧との積によって決定される。この荷重は、乗員を衝撃から保護する観点からは、ボディサイド部の進入開始後短時間で所定値に到達し、その後は、ボディサイド部の進入量(ストローク)に拘らず所定値に維持されることが望ましい。
【0004】
この点、エアバッグ内が仕切られていないタイプのサイドエアバッグ装置では、ボディサイド部の進入量(ストローク)の増加に伴い内圧及び受圧面積が増加することから、乗員がエアバッグから受ける荷重は、ボディサイド部の進入が進むにつれて徐々に増加する。荷重は、ボディサイド部がある程度進入してからでないと所定値に達しない。しかも、荷重は所定値に到達した後も増加し続け、最終的には、所定値を超過する。その結果、荷重が所定値に到達するまでは、乗員の充分な保護が開始されない。荷重が所定値に到達した後には、乗員はエアバッグを通じて、所定値よりも大きな荷重を受ける。
【0005】
これについては、エアバッグの内圧を調整(調圧)することで、荷重についての上記要求に応えようとするサイドエアバッグ装置が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載された「サイドエアバッグ」では、車両用シートの幅方向に互いに重ね合わされた一対の基布が、それらの周縁部において結合されることにより袋状のエアバッグが形成されている。エアバッグでは、両基布を互いに接触させた状態で縫合(結合)させることにより仕切り部(シーム)が設けられており、エアバッグの内部がこの仕切り部(シーム)により、上流側の主膨張室と下流側の副膨張室とに仕切られている。仕切り部(シーム)における両基布間の隙間は、主膨張室と副膨張室とを連通させる連通路を構成しており、主膨張室内の膨張用ガスがこの連通路を通って副膨張室内に供給される。
【0006】
また、特許文献2に記載された「車両用エアバッグ装置」では、2枚の基布により、エアバッグが形成されている。各基布の両端部は、車両用シートの幅方向についての両側に配置され、しかも同幅方向に互いに重ね合わされている。そして、互いに重ね合わされた両基布の端部同士は、上下方向に延びる結合部により結合されている。また、各結合部では、その一部が結合を解除させられることにより、上下方向に延びるスリット状のベントホールが形成されている。
【0007】
この車両用エアバッグ装置によると、エアバッグの展開方向前側に障害物等が存在しないときには、ベントホールが閉じられる。これに対し、エアバッグが、その展開方向前側に存在する障害物等に当接した場合、ベントホールが開くため、膨張用ガスを排出させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−29073号公報
【特許文献2】特開2010−155566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、仕切り部(シーム)における両基布間の連通路を膨張用ガスの通路とする上記特許文献1では、主膨張室の内圧が充分高くなる前に、その主膨張室内の膨張用ガスが連通路を通って副膨張室へ流出するため、エアバッグの内圧を適切に調圧することが難しく、改善の余地がある。
【0010】
また、特許文献2は、上述したように、エアバッグが、その展開方向前側の障害物等に当接したときにベントホールを開かせるものである。そのため、乗物用シートの側方から衝撃が加わった場合に、ベントホールが開いて膨張用ガスが排出されて、エアバッグの内圧を適切に調圧することができるかどうか不明である。
【0011】
その結果、特許文献1においても特許文献2においても、エアバッグを通じて乗員が受ける荷重の特性を、上述したような望ましい特性にすることが難しい。
こうした問題は、車両とは異なる乗物に備え付けられるサイドエアバッグ装置でも同様に起こり得る。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エアバッグの内圧を適切に調圧することのできるサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、乗物用シートの側方から加わる衝撃に応じてインフレータから供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張する膨張部を有するエアバッグを備え、前記膨張部を、面状の仕切壁により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部の前側に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の室に仕切り、前記乗物用シートに着座した乗員を前記膨張部により拘束して保護するサイドエアバッグ装置であって、前記仕切壁は、前記膨張部による前記乗員の拘束に際し、側方から同乗員に押圧される箇所に設けられた複数枚のシート材からなり、前記仕切壁には、隣合う前記シート材の端部を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部が設けられ、前記ラップ部には、前記上流側膨張部の膨張時であって前記乗員を拘束する前には、前記上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触し、前記上流側膨張部が膨張して前記乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により撓んで互いに離間する一対の弁体部を備えてなる調圧弁が設けられていることを要旨とする。
【0014】
上記の構成によれば、乗物用シートの側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグの膨張部のうち、まず上流側膨張部に供給されて、同上流側膨張部が膨張を開始する。上流側膨張部の膨張時であって乗員を拘束する前には、その上流側膨張部に面する弁体部が同上流側膨張部内の膨張用ガスによって下流側膨張部側へ押圧されて、その下流側膨張部に面する弁体部に接触し、調圧弁が閉弁する。この閉弁により、上流側膨張部から下流側膨張部への膨張用ガスの流通が規制され、上流側膨張部の内圧のみが上昇する。
【0015】
一方、前記衝撃により、乗物用シートの側方に存在する乗物構成部材が乗物用シート側へ進入し、エアバッグが乗員に押付けられると、その乗員は主として上流側膨張部によって拘束される。
【0016】
このときには、乗員拘束に伴い加わる外力によって膨張部が押圧されて変形する。これに伴い、仕切壁が撓んで両弁体部が前後方向に互いに離間し、調圧弁が開弁する。特に、仕切壁を構成するシート材が、膨張部による乗員の拘束に際し側方から同乗員によって押圧される箇所に設けられていることから、乗員の拘束に伴う外力が仕切壁に伝わりやすい。そのため、仕切壁が撓んで両弁体部が互いに離れやすい(調圧弁が開弁しやすい)。そして、上記調圧弁の開弁により上記流通規制が解除され、上流側膨張部から下流側膨張部へ膨張用ガスが流出することが可能となる。
【0017】
上記膨張用ガスの流出により上流側膨張部の内圧が低下する。また、膨張用ガスが供給される下流側膨張部が膨張を開始し、それに伴い同下流側膨張部の内圧が上昇し始める。膨張部が、上流側膨張部に加え下流側膨張部においても乗員に押付けられるようになり、乗員が上流側膨張部及び下流側膨張部によって拘束される。
【0018】
上記のように、乗員拘束前には調圧弁が閉弁して上流側膨張部の内圧のみが上昇し、乗員拘束時には調圧弁が開弁し、上流側膨張部の内圧が低下するとともに下流側膨張部の内圧が上昇する。このように、請求項1に記載の発明によると、上流側膨張部及び下流側膨張部の各内圧が適切に調圧される。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、隣合う前記シート材は、互いに離間させられた状態で前記ラップ部に設けられた複数の結合部により互いに結合され、前記シート材の前記端部において隣合う前記結合部間、及びその周辺箇所により前記弁体部が構成されていることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、互いに離間させられた状態で複数の結合部がラップ部に設けられることにより、隣合うシート材が互いに結合されて、仕切壁が形成されるだけでなく、隣合うシート材の端部において、結合部間、及びその周辺箇所により弁体部が形成される。そのため、仕切壁の形成とは別に、弁体部(調圧弁)を形成するための特別な作業を行なわなくてもすむ。
【発明の効果】
【0021】
本発明のサイドエアバッグ装置によれば、エアバッグの内圧を適切に調圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、サイドエアバッグ装置が装備された車両用シートを乗員とともに示す側面図。
【図2】一実施形態において、車両用シート、乗員及びボディサイド部の位置関係を示す平断面図。
【図3】一実施形態において、シートバックの収納部に組み込まれたエアバッグモジュールを、ボディサイド部とともに示す部分平断面図。
【図4】一実施形態において、エアバッグが非膨張展開状態にされたエアバッグモジュールを示す側面図。
【図5】図4のA−A線に沿った仕切壁等の断面構造を模式的に示す部分拡大断面図。
【図6】図3の状態からエアバッグが一部をシートバック内に残して車両用シートから飛び出して展開膨張した状態を示す部分平断面図。
【図7】図4の非膨張展開状態のエアバッグが車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールを、車両用シート及び乗員とともに示す部分側断面図。
【図8】一実施形態のエアバッグが膨張して仕切壁が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図。
【図9】一実施形態を示す図であり、仕切壁における調圧弁の近傍部分を示す部分斜視図。
【図10】(A),(B)は、一実施形態の調圧弁の動作を模式的に示す部分側断面図。
【図11】(A),(B)は、一実施形態の調圧弁の動作を模式的に示す部分平断面図。
【図12】一実施形態において、車内側へ進入するボディサイド部によってエアバッグが乗員に押付けられる際の内圧、受圧面積及び荷重の各変化態様を示す特性図。
【図13】サイドエアバッグ装置の別例を示す図であり、エアバッグが膨張して仕切壁が緊張したエアバッグモジュールの内部構造について、上流側膨張部側から見た状態を示す断面図。
【図14】サイドエアバッグ装置の別例を示す図であり、仕切壁における調圧弁の近傍部分を示す部分斜視図。
【図15】調圧弁の別例を示す図であり、(A)〜(C)は調圧弁の動作を模式的に示す部分平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を車両用サイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方として説明し、車両の後進方向を後方として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味する。さらに、車両の幅方向(車幅方向)についての中央部を基準とし、その中央部に近付く側を「内側」とし、中央部から遠ざかる側を「外側」とするものとする。
【0024】
図1及び図2に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(図2の上側)の近傍には車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された車両構成部材を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リヤドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。
【0025】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)により傾斜角度を調整されるシートバック(背もたれ)14とを備えて構成されている。車両用シート12は、シートバック14が前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0026】
次に、上記シートバック14における車外側の側部の内部構造について説明する。
シートバック14内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図3に示すように、シートバック14内の車外側(図3では下側)部分に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部15」という)は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部15を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド16が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード17が配置されている。なお、シートパッド16は表皮によって被覆されているが、図3ではその表皮の図示が省略されている。後述する図6についても同様である。
【0027】
シートパッド16内において、サイドフレーム部15の車外側近傍には収納部18が設けられている。この収納部18には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが組み込まれている。
【0028】
収納部18の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット19が延びている。シートパッド16の前側の角部16Cとスリット19とによって挟まれた箇所(図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、後述するエアバッグ40によって破断される破断予定部21を構成している。
【0029】
上記シートバック14に組み込まれるエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、図1に示すように、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向を「上下方向」とし、シートバック14の厚み方向を「前後方向」としている。通常、シートバック14は後方へ多少傾斜した状態で使用されることから、「上下方向」は厳密には鉛直方向ではなく、多少傾斜している。同様に、「前後方向」は厳密には水平方向ではなく、多少傾斜している。
【0030】
<インフレータアセンブリ30>
図3及び図4に示すように、インフレータアセンブリ30は、ガス発生源としてのインフレータ31と、そのインフレータ31の外側に装着されたリテーナ32とを備えて構成されている。本実施形態では、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31の長さ方向についての一方の端部(本実施形態では下端部)には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0031】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断してガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0032】
一方、リテーナ32は、ディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ31をエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ32には窓部33が設けられており、インフレータ31から噴出された膨張用ガスG(図1参照)の多くが、この窓部33を通じてリテーナ32の外部へ噴き出される。
【0033】
リテーナ32には、これを上記サイドフレーム部15に取付けるための係止部材として、複数本のボルト34が固定されている。表現を変えると、複数本のボルト34が、リテーナ32を介してインフレータ31に間接的に固定されている。
【0034】
なお、インフレータアセンブリ30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ40>
図1及び図2に示すように、エアバッグ40は、車両10の走行中等に側突等により衝撃が側方からボディサイド部11に加わったときに、インフレータ31から膨張用ガスGの供給を受ける。この膨張用ガスGの供給を受けたエアバッグ40は、自身の一部(後部)を上記収納部18内に残した状態で同収納部18から略前方へ向けて飛び出し、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身とボディサイド部11との間で展開膨張することにより上記側突の衝撃から乗員Pの上半身を保護する。
【0035】
図4は、エアバッグ40が膨張用ガスGを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを示している。また、図7は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示すべく、図4の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールAMを、車両用シート12及び乗員Pとともに示している。
【0036】
図4及び図7に示すように、エアバッグ40は、1枚の布片41(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線42に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布部43(図7参照)といい、車外側に位置するものを布部44(図4参照)というものとする。
【0037】
なお、本実施形態では、折り線42がエアバッグ40の前端に位置するように布片41が二つ折りされているが、折り線42が他の端部、例えば後端部に位置するように布片41が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ40は折り線42に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ40は、2枚の布片を車幅方向に重ね合わせ、両布片を、袋状となるように結合させることにより形成される。さらに、エアバッグ40は3枚以上の布片からなるものであってもよい。
【0038】
エアバッグ40においては、両布部43,44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある。各布部43,44の形状・大きさは、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張したときに、その車両用シート12に着座している乗員Pの上半身に対応する領域を占有し得るように設定されている。
【0039】
上記布部43,44としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0040】
両布部43,44の上記結合は、それらの周縁部に設けられた周縁結合部45においてなされている。本実施形態では、周縁結合部45は、両布部43,44の周縁部のうち、後下端部及び前端部(折り線42の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63,81についても同様である。
【0041】
上記縫製に関し、図4、図7〜図9、さらには、図13、図14では、2つの線種で縫製部分を表現している。一方の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44の外側(布部43,44間ではない)における縫糸の状態を示している(図4等参照)。他方の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線(破線の一種)であり、これは、縫合の対象となる布部43,44間における縫糸の状態を示している(図7等参照)。すなわち、縫製が後者の態様で表現されている図は、縫製部分を通る断面に沿った断面構造を示している。
【0042】
図4及び図7に示すように、両布部43,44間であって、周縁結合部45によって囲まれた空間は、膨張用ガスG(図1等参照)によって乗員Pの上半身の外側方近傍で膨張することにより、衝撃から同上半身を保護するための膨張部46となっている。
【0043】
なお、周縁結合部45は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、後述する外結合部54,55及び内結合部63,81についても同様である。
【0044】
上記インフレータアセンブリ30は、前側ほど低くなるように傾斜させられた姿勢で、エアバッグ40内の後端下部に配設されている。そして、リテーナ32のボルト34が、車内側の布部43に挿通されている(図3参照)。こうした挿通により、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。また、エアバッグ40の後部下端は、インフレータアセンブリ30の下端部に対し、環状の締結具37(図4、図7の各二点鎖線参照)によって気密状態で締付けられている。
【0045】
エアバッグ40の膨張部46は、面状の仕切壁50により複数の室に仕切られている。複数の室は、本実施形態では、インフレータ31からの膨張用ガスGが最初に供給される上流側膨張部47と、上流側膨張部47の前側に隣接し、かつ上流側膨張部47を経由した膨張用ガスGが供給される下流側膨張部48とからなる。仕切壁50は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有しており、エアバッグ40の布部43,44と同様の素材を用いて形成されている。
【0046】
図5は、図4のA−A線に沿った断面構造を示している。この図5では、各部材が厚みを省略して描かれるとともに、各内結合部63がジグザグ状に描かれている。この点は、後述する図11(A),(B)、及び図15(A)〜(C)についても同様である。図5及び図7に示すように、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、仕切壁50は、略上下方向に延びる折り線51に沿って折り返されることにより、相対向する対向端部52,53を接近させてなる二つ折り状態にされている。この二つ折り状態の仕切壁50は、折り線51を両対向端部52,53よりも上流側に位置させた状態で膨張部46内に配設されている。なお、図3では、仕切壁50の図示が省略されている。
【0047】
図8及び図9に示すように、上記仕切壁50は、膨張部46の膨張に伴い緊張させられたとき、折り線51に沿う方向に、同折り線51に直交する方向よりも長い長尺状をなしている。仕切壁50は、両対向端部52,53の各々において、略上下方向へ延びる外結合部54,55によって、エアバッグ40の両布部43,44にそれぞれ結合されている。両外結合部54,55は、膨張部46が膨張したときに、乗員Pの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所で、仕切壁50の各対向端部52,53を、対応する布部43,44に結合している(図2参照)。
【0048】
このようにして、仕切壁50は、エアバッグ40における車内側の布部43と車外側の布部44との間に架け渡されている。仕切壁50は、エアバッグ40が非膨張展開状態となったときには、二つ折りされた状態となる(図5、図7参照)。また、仕切壁50は、膨張部46が膨張したとき、車幅方向に緊張させられた状態となり(図8、図9参照)、同膨張部46の車幅方向の厚みを規制する。
【0049】
また、二つ折り状態の仕切壁50は、折り線51に沿う方向の両端部において、エアバッグ40に結合されている。すなわち、仕切壁50の上端部及び下端部は、上述した周縁結合部45(図7参照)によってエアバッグ40の両布部43,44の上端部及び下端部に結合(共縫い)されている。
【0050】
本実施形態では、仕切壁50は、図7〜図9に示すように、折り線51に沿う方向である略上下方向に並べられた2枚のシート材56,57によって構成されている。両シート材56,57は、膨張部46内において、その膨張部46が膨張したときに乗員Pの上半身における前後方向についての中間部の側方となる箇所に設けられている。この箇所は、膨張部46による乗員Pの拘束に際し、同乗員P(上半身における前後方向についての中間部)によって側方から押圧される箇所である。
【0051】
シート材56の下側の端部58と、シート材57の上側の端部59とは、互いに前後方向に重ね合わされている。この重ね合わされた状態では、端部58,59はどの箇所においても互いに接触又は接近している。そして、このように、両端部58,59が重ね合わされた部分によって、折り線51に直交する方向へ帯状に延びるラップ部61が構成されている。なお、本実施形態では、端部59が端部58に対し上流側から重ね合わされているが、これに代えて下流側から重ね合わされてもよい。
【0052】
上記両シート材56,57は、折り線51に直交する方向に互いに離間させられた状態で設けられた複数(本実施形態では2つ)の内結合部63によって互いに結合されている。本実施形態では、両シート材56,57は、ラップ部61の同一線上に設けられている。両内結合部63は、特許請求の範囲における「結合部」に該当する。両内結合部63は、折り線51に沿う方向について、シート材56の下側の端縁58Eと、シート材57の上側の端縁59Eとの中間となる箇所に設けられており、同折り線51に直交する方向に延びている。本実施形態では、両内結合部63は、折り線51に沿う方向について、両端縁58E,59E間の中央に設けられている。
【0053】
上記両シート材56,57の端部58,59は、両内結合部63間において結合を解除されている。この結合を解除された箇所は、本実施形態では、折り線51を跨ぐ部分に位置している。上側のシート材56において隣合う内結合部63間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に沿う方向についての両側部分)とによって弁体部64が構成されている。また、下側のシート材57において隣合う内結合部63間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に沿う方向についての両側部分)とによって、弁体部65が構成されている。これらの弁体部64,65によって、膨張部46(上流側膨張部47、下流側膨張部48)の内圧を調整(調圧)する調圧弁66が構成されている。なお、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、両弁体部64,65は、図11(A)に示すように、互いに接触又は接近している。
【0054】
この調圧弁66では、両弁体部64,65が互いに接触することで、両弁体部64,65間での膨張用ガスGの流通が規制される(図10(A)、図11(A)参照)。また、弁体部64と弁体部65とが前後方向へ互いに離間することで、両弁体部64,65間での膨張用ガスGの流通が可能となる(図10(B)、図11(B)参照)。なお、図10(A),(B)は、調圧弁66の動作を、側方から見た状態でもって模式的に示している。また、図11(A),(B)は、調圧弁66の動作を、上方から見た状態でもって模式的に示している。
【0055】
図5及び図7に示すように、ラップ部61及び内結合部63の幅方向についての両端部は、前述した外結合部54,55により、エアバッグ40の対応する布部43,44に対し、シート材56,57の幅方向についての端部(仕切壁50の対向端部52,53)と一緒に結合(共縫い)されている。
【0056】
ところで、図3に示すように、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として有する上記エアバッグモジュールAMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(図4参照)が折り畳まれることにより、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールAMを、シートバック14における限られた大きさの収納部18に対し、収納に適したものとするためである。
【0057】
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30を後側に位置させ、かつエアバッグ40の多くを前側に位置させた状態で、シートバック14の収納部18に配設されている。そして、上述したように、リテーナ32から延びてエアバッグ40(布部43)に挿通されたボルト34がサイドフレーム部15に挿通され、ナット36によって締付けられている。この締付けにより、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に固定されている。
【0058】
なお、インフレータアセンブリ30は、上述したボルト34及びナット36とは異なる手段によって車両10(サイドフレーム部15)に固定されてもよい。
図1に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMの他に衝撃センサ71及び制御装置72を備えている。衝撃センサ71は加速度センサ等からなり、車両10のボディサイド部11(図2及び図3参照)等に設けられており、同ボディサイド部11に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置72は、衝撃センサ71からの検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0059】
上記のようにして、本実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用として、代表的な動作の態様(モード)について、図10(A),(B)及び図11(A),(B)を参照して説明する。これらの図10(A),(B)及び図11(A),(B)は、調圧弁66等の形態が、膨張用ガスGの供給開始後時間とともに変化する様子を模式的に示したものであり、細部については省略・簡略化されている。また、図12は、上流側及び下流側の各膨張部47,48内の膨張用ガスGの圧力(内圧)と、乗員Pの各膨張部47,48側の受圧面積と、乗員Pがエアバッグ40から受ける荷重とが、衝撃により車内側へ進入するボディサイド部11の進入量(ストローク)に応じてどのように変化するかを示している。荷重は、内圧と受圧面積との積によって決定される。
【0060】
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両10に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置72からインフレータ31に作動信号が出力されず、インフレータ31から膨張用ガスGが膨張部46(上流側膨張部47)に供給されない。エアバッグ40は、収納用形態でインフレータアセンブリ30とともに収納部18に収納され続ける(図3参照)。このとき、エアバッグ40では、両布部43,44が互いに接近している。仕切壁50が二つ折り状態となっていて、両弁体部64,65は互いに接近又は接触している。ボディサイド部11の進入量(ストローク)は「0」である。各膨張部47,48の内圧はともに低く(略大気圧)、受圧面積及び荷重はともに「0」である。
【0061】
これに対し、車両10の走行中に、側突等によりボディサイド部11に対し、側方から所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ71によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置72からインフレータ31に作動信号が出力される。このときのボディサイド部11の進入量(ストローク)をS0とする。この作動信号に応じて、インフレータ31では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生する。この膨張用ガスGは、まず上流側膨張部47に供給されて、同上流側膨張部47が膨張を開始する。
【0062】
膨張部46内では、二つ折り状態の仕切壁50が、両対向端部52,53の各々において、外結合部54,55によってエアバッグ40の対応する布部43,44に結合されている(図5参照)。また、仕切壁50は、折り線51に沿う方向の両端部(上端部及び下端部)の各々において、周縁結合部45によって両布部43,44に結合されている(図7参照)。そのため、上記のように上流側膨張部47の膨張が開始すると、二つ折り状態の仕切壁50が引っ張られる。仕切壁50に対し、折り線51に沿う方向や直交する方向にテンションが掛かって、仕切壁50が平面状態になろうとする(図8参照)。
【0063】
このとき、上流側膨張部47に面する弁体部65に対しては、図10(A)及び図11(A)に示すように、上流側膨張部47の内圧が加わる。弁体部65は、上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって下流側膨張部48側へ押圧されて、同下流側膨張部48に面する弁体部64に接触(密着)する。この接触により調圧弁66が閉弁した状態となり、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部64,65間を通って下流側膨張部48へ流出することを規制される。
【0064】
上記の規制により、上流側膨張部47に膨張用ガスGが溜まり、進入量(ストローク)S0以降、上流側膨張部47の内圧のみが上昇し始める。
本実施形態では、膨張部46が仕切壁50によって下流側膨張部48側へ上流側膨張部47及び下流側膨張部48に仕切られていることから、上流側膨張部47の容積は、膨張部46が仕切られていない場合(以下「比較例」という)のその膨張部の容積よりも小さい。そのため、上流側膨張部47の内圧は、膨張部46が仕切られていない場合(比較例)よりも早く上昇を開始し、しかも高くなる。特に、上流側膨張部47内の膨張用ガスGは、両弁体部64,65間においてのみ流通を許容され、両弁体部64,65間を経由せずに下流側膨張部48へ流出することはない。従って、膨張用ガスGの上記流出が原因で上流側膨張部47の内圧の上昇速度が低下することがない。
【0065】
また、上記の点において本実施形態は、仕切り部(シーム)における両基布間の連通路を膨張用ガスの通路とする特許文献1と大きく異なる。特許文献1では、主膨張室の内圧が充分に高くなる前に、その主膨張室内の膨張用ガスが連通路を通って副膨張室へ流出するが、本実施形態では上記連通路に相当する箇所がなく、調圧弁66が閉弁している。調圧弁66の閉弁中は、上流側膨張部47内の膨張用ガスGが下流側膨張部48へ流出することがないか、あっても僅かである。
【0066】
なお、このときには、エアバッグ40(膨張部46)が未だ乗員Pに接しておらず、従って、受圧面積及び荷重はともに依然として「0」である。
そして、上流側膨張部47の上記膨張により、同上流側膨張部47が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。上流側膨張部47が、折り状態を解消(展開)しながら膨張していくと、シートバック14のシートパッド16がエアバッグ40によって押圧され、破断予定部21(図3参照)において破断される。エアバッグ40は、図6に示すように、一部(インフレータアセンブリ30の近傍部分)をシートバック14内に残した状態で、破断された箇所を通じて同シートバック14から飛び出す。
【0067】
その後も膨張用ガスGの供給される上流側膨張部47は、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身の後半部との間で前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する。
【0068】
ボディサイド部11の進入量(ストローク)がS1となり、このボディサイド部11によって膨張部46が乗員Pの上半身に押付けられ、エアバッグ40による乗員Pの拘束が始まる。膨張部46では上流側膨張部47のみが膨張していることから、乗員Pが膨張部46の圧力を受けながら接触する箇所は上流側膨張部47のみである。そのため、乗員Pが膨張部46の圧力を受ける面の面積(膨張部46側の受圧面積)は、上流側膨張部47から圧力を受ける面の面積(上流側膨張部47側の受圧面積)と同じであって小さい。ただし、この上流側膨張部47側の受圧面積は、側突の衝撃に応じたボディサイド部11の車内側への進入が進む(進入量(ストローク)が増加する)につれて増大する。
【0069】
乗員Pが膨張部46を通じて受ける衝撃の荷重もまた、受圧面積及び内圧の増加に伴い増加する。上述したように、上流側膨張部47の内圧が早く上昇を開始することから、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S1は、膨張部46が仕切られていない場合(比較例)において、荷重が増加を開始する進入量(ストローク)S10よりも小さくなる。表現を変えると、膨張部46が仕切られていない場合(比較例)よりも早いタイミングで荷重が増加し始め、その分早く、乗員Pの上半身を衝撃から保護するための所定値αに到達する(図12参照)。
【0070】
膨張部46への膨張用ガスGの供給期間の途中からは、乗員Pの拘束に伴う外力によって膨張部46が押圧されて変形する。これに伴い仕切壁50が撓み、図10(B)及び図11(B)に示すように、両弁体部64,65が互いに前後方向に離れる。特に、仕切壁50を構成するシート材56,57が膨張部46による乗員Pの拘束に際し、側方から同乗員Pによって押圧される箇所に設けられていることから、乗員Pの拘束に伴う外力が仕切壁50に伝わりやすい。そのため、仕切壁50が撓んで両弁体部64,65が互いに離れやすい。この点において、本実施形態は、エアバッグがその展開方向前側の障害物等に当接したときにベントホールを開かせるにすぎず、側方から衝撃が加わった場合にベントホールが開くかどうか不明な特許文献2と大きく異なる。
【0071】
進入量(ストローク)がS2になると、調圧弁66が開弁した状態となって、上流側膨張部47内の膨張用ガスGが両弁体部64,65間を通って下流側膨張部48へ流出することが可能となる。
【0072】
この膨張用ガスGの流出により、上流側膨張部47の内圧が上昇から低下に転ずる。ただし、ボディサイド部11は車内側へ依然として進入し続けていて、膨張部46が上流側膨張部47において乗員Pに押付けられるため、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積は増加し続ける。
【0073】
また、進入量(ストローク)S2以降、膨張用ガスGにより下流側膨張部48が膨張を開始し、それに伴い同下流側膨張部48の内圧が上昇を開始する。また、内圧の上昇開始から少し遅れて、進入量(ストローク)がS3となったところで、車内側へ進入するボディサイド部11により、上流側膨張部47に加え、下流側膨張部48が乗員Pに押付けられるようになり、同乗員Pが下流側膨張部48の圧力を受ける面の面積(下流側膨張部48側の受圧面積)が増加し始める。
【0074】
なお、上流側膨張部47の内圧と下流側膨張部48の内圧とは、進入量(ストローク)S4以降、等しくなる。
上記のように、調圧弁66の開弁(進入量(ストローク)S2)後には、上流側膨張部47の内圧が低下するとともに下流側膨張部48の内圧が上昇する。また、乗員Pの上流側膨張部47側の受圧面積、及び下流側膨張部48側の受圧面積が時間差をもって増加する。このため、進入量(ストローク)S2以降、乗員Pが膨張部46の全体から受ける荷重、すなわち、上流側膨張部47から受ける荷重と下流側膨張部48から受ける荷重との合計は、単に、エアバッグを単一の膨張部により構成し、かつ調圧弁を設けない場合(比較例)の最大値よりも低く、しかも略一定の値(所定値α)に維持される。
【0075】
下流側膨張部48の上記膨張により、同下流側膨張部48が折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消しようとする。下流側膨張部48は、図2に示すように、ボディサイド部11と乗員Pの上半身の前半部(胸部PT)との間で、前方へ向けて、折り状態を解消(展開)しながら展開する。
【0076】
このようにして、エアバッグ40が、乗員Pの上半身と、車内側へ進入してくるボディサイド部11との間に介在する。このエアバッグ40によって上半身が車幅方向内側へ押圧されて拘束される。そして、ボディサイド部11を通じて上半身へ伝わる側方からの衝撃がエアバッグ40によって緩和されて同上半身が保護される。
【0077】
ここで、乗員Pの上半身に対し側方から衝撃が加わった場合の耐衝撃性は、一般に、後半部において前半部(胸部PT)よりも勝っている。これは、後半部には背骨があり、肋骨がその後部において背骨に接続されているのに対し、肋骨の前部は、上記背骨のような強度を有するものに接続されていないからである。そのため、エアバッグ40の展開膨張に伴い乗員Pの上半身に側方から作用する膨張部46の内圧は、前半部において後半部よりも低いことが望ましい。
【0078】
この点、本実施形態では、膨張部46は、前後方向については、仕切壁50が上半身の前半部と後半部との境界部分の近傍に位置するように膨張する。エアバッグ40の膨張部46が展開膨張した状態では、上半身の後半部の側方近傍には上流側膨張部47が位置し、前半部(胸部PT)の側方近傍には下流側膨張部48が位置する(図2参照)。従って、エアバッグ40による乗員Pの拘束初期には、乗員Pの上半身のうち前半部(胸部PT)よりも耐衝撃性の高い後半部は、早期に内圧が高くなる上流側膨張部47によって押圧される。また、同拘束初期には、乗員Pの上半身のうち耐衝撃性の比較的低い前半部(胸部PT)は、内圧が上流側膨張部47ほど高くならない下流側膨張部48によって押圧される。
【0079】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ40の膨張部46を上流側膨張部47及び下流側膨張部48に仕切る仕切壁50を、膨張部46による乗員Pの拘束に際し、側方から乗員Pに押圧される箇所に設けられた2枚のシート材56,57によって構成する。仕切壁50には、両シート材56,57の端部58,59を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部61を設け、さらに、一対の弁体部64,65を備えてなる調圧弁66をラップ部61に設けている(図9)。
【0080】
そのため、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pを拘束する前には、上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって弁体部65を押圧して弁体部64に接触させ(調圧弁66を閉弁させ)、上流側膨張部47内の膨張用ガスGが下流側膨張部48へ流出するのを規制して上流側膨張部47の内圧を上昇させることができる。これに対し、上流側膨張部47が膨張して乗員Pを拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により仕切壁50を撓ませて両弁体部64,65を互いに離間させ(調圧弁66を開弁させ)、上流側膨張部47から下流側膨張部48へ膨張用ガスGを流出させて下流側膨張部48の内圧を上昇させることができる。
【0081】
このように、簡単かつ安価な構造でありながら、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pの拘束前には閉弁し、拘束時には開弁して適切な調圧を行なう調圧弁66を成立させることができる。そして、この調圧弁66の作動により、エアバッグ40を通じて乗員Pの上半身が受ける荷重の特性を、短時間で所定値αに到達し、その後は所定値αに維持されるといった、乗員Pを適切に拘束して保護するうえで好適な特性にすることができる。
【0082】
(2)両シート材56,57を、互いに離間させられた状態でラップ部61に設けられた2つの内結合部63によって互いに結合する。そして、各シート材56,57の端部58,59において隣合う内結合部63間と、その周辺箇所とによって弁体部64,65を構成している(図9)。
【0083】
そのため、ラップ部61に2つの内結合部63を設ける作業を行なうだけで、両シート材56,57を互いに結合させて仕切壁50を形成することができるだけでなく、両シート材56,57に弁体部64,65を形成することができる。仕切壁50の形成とは別に、弁体部64,65(調圧弁66)を形成するための特別な作業を行なわなくてもすむ。
【0084】
特に、両弁体部64,65は仕切壁50に対し一体となっている。そのため、両弁体部64,65が仕切壁50とは異なる部品からなる場合に比べ、部品点数を少なくすることができる。また、弁体部64,65を仕切壁50に結合する作業を行なわなくてもすむ。
【0085】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<仕切壁50について>
・仕切壁50は、図13及び図14に示すように、折り線51に直交する方向に並べられた2枚のシート材75,76によって構成されてもよい。
【0086】
この場合、シート材75の端部77と、シート材76の端部78とは、互いに前後方向に重ね合わされる。このように、両端部77,78が重ね合わされた部分によって、折り線51に沿う方向(略上下方向)に延びる帯状のラップ部79が構成される。
【0087】
上記両シート材75,76は、互いに離間させられた状態でラップ部79に設けられた複数(図13、図14では2つ)の内結合部81によって互いに結合される。両内結合部81は、既述した両内結合部63と同様、特許請求の範囲における「結合部」に該当する。両内結合部81は、折り線51に直交する方向について、シート材75の端縁77Eと、シート材76の端縁78Eとの中間となる箇所、例えば中央に設けられ、同折り線51に沿う方向に延びる。
【0088】
上記両シート材75,76は、両内結合部81間において結合を解除される。この結合を解除された箇所は、例えば、折り線51上に設けられる。一方のシート材75において隣合う内結合部81間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に直交する方向についての両側)とによって弁体部82が構成される。また、他方のシート材76において隣合う内結合部81間(結合を解除されている箇所)と、その周辺箇所(折り線51に直交する方向についての両側)とによって、弁体部83が構成される。これらの弁体部82,83によって、膨張部46(上流側膨張部47、下流側膨張部48)の内圧を調整(調圧)する調圧弁84が構成される。
【0089】
この調圧弁84では、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pを拘束する前には、上流側膨張部47内の膨張用ガスGによって、上流側膨張部47に面する弁体部82が下流側膨張部48に面する弁体部83に接触することで、両弁体部82,83間での膨張用ガスGの流通が規制される。また、上流側膨張部47が膨張して乗員Pを拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により仕切壁50が撓んで両弁体部82,83が互いに前後方向へ離間することで、両弁体部82,83間での膨張用ガスGの流通が可能となる。
【0090】
なお、図13及び図14では、端部77が端部78に対し上流側から重ね合わされているが、これに代えて下流側から重ね合わされてもよい。
・仕切壁50は3枚以上のシート材によって構成されてもよい。この場合、隣合うシート材同士は相互に結合される。結合の対象となる箇所は複数箇所となる。
【0091】
ラップ部61,79及び調圧弁66,84は、上記結合の対象となる全ての箇所に設けられてもよいし、一部の箇所にのみ設けられてもよい。
また、調圧弁66,84は全てのラップ部61,79に設けられてもよいし、一部のラップ部61,79にのみ設けられてもよい。
【0092】
・仕切壁50の対向端部52は、エアバッグ40の布部43に対し、上流側膨張部47内で結合されてもよいし、下流側膨張部48内で結合されてもよい。同様に、仕切壁50の対向端部53は、エアバッグ40の布部44に対し、上流側膨張部47内で結合されてもよいし、下流側膨張部48内で結合されてもよい。
【0093】
また、対向端部52,53の一方が上流側膨張部47内で結合され、他方が下流側膨張部48内で結合されてもよい。
・二つ折り状態の仕切壁50における折り線51は、上下方向に対し多少傾斜していてもよい。
【0094】
・上記実施形態と、図13及び図14に示される別例とにおいて、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているとき、二つ折り状態の仕切壁50は、折り線51が両対向端部52,53よりも下流側に位置するものであってもよい。
【0095】
<調圧弁66について>
・図15(A)〜(C)は、上記実施形態とは異なるタイプの調圧弁66の動作を、上方から見た状態でもって模式的に示している。
【0096】
図15(A)は、エアバッグ40が非膨張展開状態にされたときの調圧弁66の状態を示している。このとき、上流側膨張部47に面する弁体部65として、下流側膨張部48に面する弁体部64よりも幅方向に広いものが用いられる。そして、弁体部65が弁体部64から上流側へ離間した状態で、両シート材56,57の端部58,59が内結合部63によって結合される。このようにすることで、エアバッグ40が非膨張展開状態となっているときには、調圧弁66は、弁体部65が弁体部64から離間した状態、すなわち開弁状態となる。なお、こうした構成は、シート材56よりも幅方向に広いシート材57を用い、同シート材57の両側縁をシート材56の両側縁に合致させた状態で、内結合部63を設けることにより実現可能である。
【0097】
このように変更すると、上流側膨張部47の膨張時であって乗員Pを拘束する前には、上流側膨張部47の内圧が弁体部65に加わることで、図15(B)に示すように、同弁体部65を押圧して弁体部64に接触させて、調圧弁66を閉弁状態にすることが可能である。
【0098】
また、上流側膨張部47が膨張して乗員Pを拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により仕切壁50を撓ませて、図15(C)に示すように、両弁体部64,65を互いに離間させる(調圧弁66を開弁させる)ことが可能である。このとき、弁体部65が弁体部64よりも幅広であることから、外力が加わることで弁体部64から離れやすく、調圧弁66が開弁しやすくなる。
【0099】
<内結合部63,81について>
・上記実施形態において、内結合部63は、仕切壁50の折り線51に直交する方向に延びるものに限らず、斜めに交差する方向に延びるものであってもよい。
【0100】
また、図13及び図14によって示される別例において、内結合部81は、仕切壁50の折り線51に対し平行に延びるものに限らず、傾斜する方向に延びるものであってもよい。
【0101】
・上記実施形態において、両内結合部63間の結合を解除される箇所は、折り線51から、同折り線51に直交する方向へ外れた箇所に設けられてもよい。
また、図13及び図14によって示される別例において、両内結合部81間の結合を解除される箇所は、折り線51の中央から外れた箇所に設けられてもよい。
【0102】
・上記実施形態において、両内結合部63間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
また、図13及び図14によって示される別例において、両内結合部81間の結合を解除される箇所は、複数設けられてもよい。
【0103】
・隣合う内結合部63,81は、ラップ部61,79の同一線上とならない箇所に設けられてもよい。
・上記実施形態において、両内結合部63は、折り線51に沿う方向について、端縁58Eと端縁59Eとの中央から外れた箇所に設けられてもよい。
【0104】
また、図13及び図14に示される別例において、両内結合部81は、折り線51に直交する方向について、端縁77Eと端縁78Eとの中央から外れた箇所に設けられてもよい。
【0105】
<ラップ部61,79について>
・ラップ部61(79)において、両弁体部64,65(82,83)として機能するのは、両シート材56,57(75,76)において隣合う内結合部63(81)間、及びその周辺箇所である。そのため、ラップ部61(79)において、隣合う内結合部63(81)間、及びその周辺箇所ではない部分(非近傍部分)については、端部58,59(77,78)の結合態様が変更されてもよい。例えば、上記非近傍部分は、内結合部63(81)に加え、別の結合部によって結合されてもよい。この結合の手段としては、縫合であってもよいし、接着であってもよい。このように変更されることで、ラップ部61(79)において、隣合う内結合部63(81)間、及びその周辺箇所だけ両弁体部64,65(82,83)として作動させ、それ以外の箇所が不要に動く現象、例えばばたつく現象を抑制することができる。
【0106】
その他にも、ラップ部61,79の上記非近傍部分の少なくとも一部に切欠きが入れられてもよい。
<膨張部46について>
・エアバッグ40は、その略全体が膨張部46からなるもの(上記実施形態がこれに該当する)であってもよいが、膨張用ガスGが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0107】
・膨張部46は仕切壁によって3つ以上の室に仕切られてもよい。この場合、膨張部46において仕切壁を挟んで膨張用ガスGの流れ方向に隣合う2つの室について、上流側に位置するものが上流側膨張部とされ、下流側に位置するものが下流側膨張部とされる。そして、これらの上流側膨張部及び下流側膨張部間の仕切壁に調圧弁が設けられる。
【0108】
<インフレータアセンブリ30について>
・インフレータアセンブリ30はエアバッグ40の外部に設けられてもよい。この場合には、インフレータ31と上流側膨張部47とが管によって繋がれ、この管を介してインフレータ31からの膨張用ガスGが上流側膨張部47に供給されてもよい。
【0109】
<エアバッグモジュールAMの収納部18について>
・車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11に収納部18が設けられ、ここにエアバッグモジュールAMが配設されてもよい。
【0110】
<サイドエアバッグ装置の保護対象について>
・上記実施形態では、乗員Pの主として胸部PTを保護するサイドエアバッグ装置を例に説明したが、本発明は、乗員Pの他の部位、例えば、胸部PT〜頭部にかけての部位、腰部〜胸部(肩部)にかけての部位、腰部〜頭部にかけての部位等、種々の部位を側突等の衝撃から保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0111】
<その他>
・本発明は、シートバック14が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で車両用シート12が配置された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0112】
・本発明のサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・本発明は、車両に限らず、航空機、船舶等の他の乗物に装備されるサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0113】
12…車両用シート(乗物用シート)、31…インフレータ、40…エアバッグ、46…膨張部、47…上流側膨張部、48…下流側膨張部、50…仕切壁、56,57,75,76…シート材、58,59,77,78…端部、61,79…ラップ部、63,81…内結合部(結合部)、64,65,82,83…弁体部、66,84…調圧弁、G…膨張用ガス、P…乗員。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートの側方から加わる衝撃に応じてインフレータから供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張する膨張部を有するエアバッグを備え、
前記膨張部を、面状の仕切壁により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部の前側に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の室に仕切り、
前記乗物用シートに着座した乗員を前記膨張部により拘束して保護するサイドエアバッグ装置であって、
前記仕切壁は、前記膨張部による前記乗員の拘束に際し、側方から同乗員に押圧される箇所に設けられた複数枚のシート材からなり、
前記仕切壁には、隣合う前記シート材の端部を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部が設けられ、
前記ラップ部には、前記上流側膨張部の膨張時であって前記乗員を拘束する前には、前記上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触し、前記上流側膨張部が膨張して前記乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により撓んで互いに離間する一対の弁体部を備えてなる調圧弁が設けられていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
隣合う前記シート材は、互いに離間させられた状態で前記ラップ部に設けられた複数の結合部により互いに結合され、
前記シート材の前記端部において隣合う前記結合部間、及びその周辺箇所により前記弁体部が構成されている請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項1】
乗物用シートの側方から加わる衝撃に応じてインフレータから供給される膨張用ガスにより、前記乗物用シートの側方で前方へ向けて展開膨張する膨張部を有するエアバッグを備え、
前記膨張部を、面状の仕切壁により、前記膨張用ガスが供給される上流側膨張部と、前記上流側膨張部の前側に隣接し、かつ前記上流側膨張部を経由した膨張用ガスが供給される下流側膨張部とを少なくとも含む複数の室に仕切り、
前記乗物用シートに着座した乗員を前記膨張部により拘束して保護するサイドエアバッグ装置であって、
前記仕切壁は、前記膨張部による前記乗員の拘束に際し、側方から同乗員に押圧される箇所に設けられた複数枚のシート材からなり、
前記仕切壁には、隣合う前記シート材の端部を互いに前後方向に重ね合わせてなる帯状のラップ部が設けられ、
前記ラップ部には、前記上流側膨張部の膨張時であって前記乗員を拘束する前には、前記上流側膨張部内の膨張用ガスにより押圧されて互いに接触し、前記上流側膨張部が膨張して前記乗員を拘束するときには、その拘束に伴い加わる外力により撓んで互いに離間する一対の弁体部を備えてなる調圧弁が設けられていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
隣合う前記シート材は、互いに離間させられた状態で前記ラップ部に設けられた複数の結合部により互いに結合され、
前記シート材の前記端部において隣合う前記結合部間、及びその周辺箇所により前記弁体部が構成されている請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−228986(P2012−228986A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99431(P2011−99431)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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