サスペンション制御装置
【課題】 ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整して、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させる。
【解決手段】 ばね上加速度センサ7と積分器10によって、ばね上速度ynを検出する。スケジューリングパラメータ演算器13は、ばね上速度ynの大きさに基づいてスケジューリングパラメータpを算出する。ゲインスケジュールドH∞制御器16は、ばね上速度ynとスケジューリングパラメータpとに基づいて、目標減衰力urの利得を調整する。これにより、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させることができる。
【解決手段】 ばね上加速度センサ7と積分器10によって、ばね上速度ynを検出する。スケジューリングパラメータ演算器13は、ばね上速度ynの大きさに基づいてスケジューリングパラメータpを算出する。ゲインスケジュールドH∞制御器16は、ばね上速度ynとスケジューリングパラメータpとに基づいて、目標減衰力urの利得を調整する。これにより、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載され、車両の振動を制御するサスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に搭載されたサスペンション制御装置として、車体と各車軸との間に減衰力を調整可能な制御ダンパ(緩衝器)を設けると共に、制御器を用いて制御ダンパによる減衰力特性を調整する構成としたものが知られている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、スカイフック理論に基づいて制御ダンパの減衰力を調整すると共に、ばね上の振動の周波数と振幅の大きさに応じて制御器の利得(ゲイン)を調整する構成が開示されている。特許文献2,3には、振動周波数毎に利得が異なるH∞制御器を用いて制御ダンパの減衰力を調整する構成が開示されている。非特許文献1には、車両の操縦安定性を向上させるために、ロバストゲインスケジュールド制御器を用いて制御ダンパの減衰力を調整する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−255152号公報
【特許文献2】特開2000−148208号公報
【特許文献3】特開2009−280022号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高橋正樹、熊丸誉、吉田和夫,「操舵による車体挙動を考慮した自動車用セミアクティブサスペンションの総合的制御系設計」,日本機械学会論文集,C編,2008年8月,第74巻,第744号,p.2015−2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的にサスペンション制御装置を用いて良い乗り心地を実現するためには、ばね上の振動周波数と振幅の大きさにより、制御器の利得を切り換える必要がある。具体的には、ばね上共振付近の周波数領域での振動(以下、フワフワ感という)が小さいときには、ばね上共振とばね下共振間の周波数領域での振動(以下、ヒョコヒョコ感という)を抑制するために制御器の利得を小さくし、フワフワ感が大きいときには、フワフワ感を抑制するために制御器の利得を大きくする必要がある。また、フワフワ感およびヒョコヒョコ感をもっと抑えたいという要望には、制御器の利得をもっと上げたり、下げたりするために、制御ゲインの調整をリアルタイムに行わなければならない。
【0007】
例えばスカイフック理論に基づく制御では、全ての周波数領域で同じ利得となるため、フワフワ感の抑制効果はあるものの、ヒョコヒョコ感の抑制効果はない。これに対し、特許文献1に記載されたサスペンション制御装置では、ばね上振動等に基づいて路面状況を判定し、この判定結果に基づいて制御器の利得を調整している。このため、路面判定の方法をチューニングすることによって、ヒョコヒョコ感の抑制も可能である。しかし、このような制御効果を得るためには、様々な路面を走行して、その都度、路面判定のチューニングを行う必要があり、工数が多くかかる。これに加え、未走行の路面に関しては、必ずしも制御効果が得られるとは限らないという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2,3のように、H∞制御器を用いる場合には、周波数毎に利得を異ならせることができるから、フワフワ感付近の周波数領域では利得を高くし、ヒョコヒョコ感付近の周波数領域では利得を低くすることができる。しかし、フワフワ感付近の周波数領域とヒョコヒョコ感付近の周波数領域では位相が異なり、制御タイミングにずれが生じる。これに加え、ばね上の振幅の大きさに対してはH∞制御器の利得は変わらないため、同じ周波数の振動に対してもっと利得を上げたい、下げたい等の要望には応えることができず、フワフワ感およびヒョコヒョコ感の抑制を両立させることが難しい。また、H∞制御器に対して利得の大きさを勝手に変更した場合、H∞制御理論に基づいて補償された制御性能が失われてしまうという問題もある。
【0009】
さらに、非特許文献1には、ロバストゲインスケジュールド制御器を用いて制御ダンパの減衰力を調整する構成が開示されているが、これは操縦安定性を向上するシステムであり、路面に対する乗り心地は良くならない。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整することができ、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させることができるサスペンション制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車体と車輪との間に介装され、前記車体と前記車輪との間に減衰力を発生させることにより前記車体の振動を抑制するサスペンション制御装置であって、目標減衰力に応じて前記減衰力を発生させる制御ダンパと、前記車体の運動を検出する運動検出手段と、検出された車体運動に基づいて前記目標減衰力を算出するフィードバック制御器とを備え、前記車体および前記制御ダンパに基づく線形システムであって、路面状況に応じて変動する要素を有する線形パラメータ変動システムを構築し、前記フィードバック制御器は、該線形パラメータ変動システムに基づいて設計され、路面外乱および観測ノイズに対してロバスト安定となるロバストゲインスケジュールド制御器によって構成し、前記運動検出手段によって検出された車体運動に基づいて路面状態に応じた変動パラメータを算出する変動パラメータ算出手段を備え、該変動パラメータ算出手段は、前記車体運動としてのばね上速度の大きさを用いて前記変動パラメータを算出し、前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、該変動パラメータ算出手段によって算出された変動パラメータに応じて前記目標減衰力の利得を変化させる構成としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整して、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態によるサスペンション制御装置を模式的に示す図である。
【図2】図1中のコントローラ等を示すブロック図である。
【図3】図2中のスケジューリングパラメータ演算器を示すブロック図である。
【図4】実施の形態によるゲインスケジュールドH∞制御器を設計する一般化プラントを示すブロック図である。
【図5】ばね上加速度に係る周波数重み関数を示す特性線図である。
【図6】バウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイト、ピストン速度に係る周波数重み関数を示す特性線図である。
【図7】目標減衰力に係る周波数重み関数を示す特性線図である。
【図8】バウンスレイトの閉ループ系の周波数応答を示す特性線図である。
【図9】ピッチレイトの閉ループ系の周波数応答を示す特性線図である。
【図10】ロールレイトの閉ループ系の周波数応答を示す特性線図である。
【図11】パワースペクトラム密度の周波数特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態によるサスペンション制御装置を例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0015】
図中、1は車両のボディを構成する車体で、該車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられ、該車輪2はタイヤ3を含んで構成されている。このとき、タイヤ3は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
【0016】
4は車体1と車輪2との間に介装して設けられたサスペンション装置で、該サスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該ばね5と並列になって車体1と車輪2との間に設けられた制御ダンパとしての減衰力調整式ダンパ(以下、ダンパ6という)とにより構成されている。なお、図1中では1組のサスペンション装置4を、車体1と車輪2との間に設けた場合を例示している。しかし、サスペンション装置4は、例えば4輪の車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられるもので、このうちの1組のみを図1では模式的に図示している。
【0017】
ここで、サスペンション装置4のダンパ6は、例えばセミアクティブダンパ等の減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。このダンパ6には、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に調整するため、減衰力調整バルブ等からなるアクチュエータ6Aが付設されている。
【0018】
また、ダンパ6は、車体1と車輪2間の相対速度および目標減衰力urに応じてその減衰力特性が調整される。そして、ダンパ6は、後述するGSH∞制御器16から出力される目標減衰力urに応じた減衰力(実減衰力Fd)を発生させる。
【0019】
7は車体1に設けられたばね上加速度センサで、該ばね上加速度センサ7は、所謂ばね上側となる車体1側で上,下方向の振動加速度を検出するため、例えばダンパ6の近傍となる位置で車体1に取付けられている。そして、ばね上加速度センサ7は、上,下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ9に出力する。
【0020】
8は車両の車輪2側に設けられたばね下加速度センサで、このばね下加速度センサ8は、所謂ばね下側となる車輪2側で上,下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ9に出力する。
【0021】
9はマイクロコンピュータ等により構成されるコントローラで、該コントローラ9は、その入力側が加速度センサ7,8等に接続され、出力側がダンパ6のアクチュエータ6A等に接続されている。
【0022】
コントローラ9は、図2に示すように、積分器10を備えている。この積分器10は、ばね上加速度センサ7からの検出信号を積分することによって、車体運動として、車体1の上,下方向に対する速度となるばね上速度ynを演算する。このため、ばね上加速度センサ7および積分器10は、車体1の運動を検出する運動検出手段としての運動検出装置11を構成し、フィードバック信号としてのばね上速度ynを出力する。
【0023】
また、コントローラ9は、ダンパ6の非線形性を補償する非線形補償部12と、変動パラメータとしてのスケジューリングパラメータp(以下、パラメータpという)を演算するスケジューリングパラメータ演算器13(以下、パラメータ演算器13という)と、パラメータpおよび運動検出装置11からの出力信号(ばね上速度yn)を用いて目標減衰力urを演算するフィードバック制御器としてのゲインスケジュールドH∞制御器16(以下、GSH∞制御器16という)とを備えている。
【0024】
非線形補償部12は、非線形制御器12Aおよびオブザーバ12Bを含み、例えば非線形制御のひとつであるバックステップ法を適用するように構成されている。このバックステップ法では、実減衰力Fdのうちの減衰特性可変部がGSH∞制御器16から出力される目標減衰力urに近付くように、指令電流iを生成する。
【0025】
具体的には、オブザーバ12Bは、ダンパ6の非線形ダイナミクスを考慮して減衰特性可変部に対する推定処理を行い、推定減衰力Fuを出力する。また、オブザーバ12Bは、ばね上加速度センサ7からの検出信号とばね下加速度センサ8からの検出信号を用いることによって、車体1と車輪2との間の上,下方向の相対速度に対応した推定ピストン速度vを演算する。非線形制御器12Aは、オブザーバ12Bから出力される推定ピストン速度vおよび推定減衰力Fuと、GSH∞制御器16から出力される目標減衰力urとに基づいて、ダンパ6が実際に発生する実減衰力Fdのうちの減衰特性可変部が推定減衰力Fuに近付くように指令電流iを生成する。これにより、非線形補償部12は、推定減衰力Fuの減衰特性可変部と目標減衰力urとの誤差を小さくすることで、加速度の過渡特性を改善してジャークを低減すると共に、ダンパ6の時間遅れを抑制している。
【0026】
パラメータ演算器13は、車体運動となるばね上速度ynに基づいて路面状態に応じたパラメータpを算出する変動パラメータ算出手段を構成している。このパラメータ演算器13は、運動検出装置11から出力されるばね上速度ynに基づいてばね上共振成分を取り出し、このばね上共振成分に応じたパラメータpを算出する。
【0027】
具体的には、パラメータ演算器13は、図3に示すように、ばね上速度ynの絶対値qy0を演算する絶対値演算部14と、該絶対値演算部14から出力される絶対値qy0に基づいてパラメータpを出力するパラメータ出力部15とを備えている。このパラメータ出力部15は、以下の数1の式に示すように、絶対値qy0の大きさを制限する飽和関数に基づいて絶対値qy0の上限と下限を制限した制限信号qyを出力する制限処理部15Aと、制限信号qyを以下の数2の式に示す100分率の計算により正規化する正規化処理部15Bとによって構成されている。これにより、パラメータpは、1以下の範囲で正規化された値に設定される。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
なお、数1の式に示す上限値qymaxおよび下限値qyminは、実際の車体1を用いたチューニングによって実験的に決定される。下限値qyminが大きいほど制御ゲインはローゲインから上がり難く、下限値qyminが小さいほど制御ゲインはローゲインから上がり易い。また、上限値qymaxが大きいほど制御ゲインはハイゲインに到達し難く、上限値qymaxが小さいほど制御ゲインはハイゲインに到達し易い。
【0031】
GSH∞制御器16は、後述するように図4に示す一般化プラント21に基づいて設計され、運動検出装置11から出力されるばね上速度ynと、パラメータ演算器13から出力されるパラメータpとに基づいて、目標減衰力urを演算する。具体的には、GSH∞制御器16は、ばね上速度ynのうちばね上共振に近い周波数成分に対しては利得が大きく、ばね上共振よりも高周波の周波数成分に対しては利得が小さくなるような周波数特性をもった目標減衰力urを出力する。
【0032】
また、GSH∞制御器16は、パラメータpが最大値(p=1)に近付くに従って目標減衰力urの利得を上昇させ、最小値(p=0)に近付くに従って目標減衰力urの利得を低下させる。即ち、GSH∞制御器16は、ばね上共振付近の振幅が大きいときには利得を上げてダンパ6の減衰力をハード特性側にし、ばね上共振付近の振幅が小さいときには利得を下げてダンパ6の減衰力をソフト特性側にする。これにより、GSH∞制御器16は、ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整し、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させている。
【0033】
次に、GSH∞制御器16の設計方法について、図4ないし図10を参照しつつ説明する。
【0034】
まず、GSH∞制御器16を設計するために、車体1、車輪2、サスペンション装置4を含めた一般化プラントをパラメータpに依存した線形パラメータ変動システム(LPVシステム)に変換する。このとき、線形パラメータ変動システムは、車体1およびダンパ6に基づく線形システムであって、路面状況のパラメータpに応じて変動する要素を有している。これにより、図4に示すように、パラメータpを導入した一般化プラント21を構築する。この一般化プラント21中の車両42は、例えば車体1および車輪2に対して理想的なアクティブダンパが取り付けられたものを示している。この理想的なアクティブダンパは、例えば時間遅延することなく目標減衰力urに応じた減衰力を発生させることができるものである。
【0035】
また、一般化プラント21は、制御器出力となる目標減衰力urに応じた制御入力と、路面外乱wdおよび観測ノイズwnに応じた外乱入力wと、制御入力(目標減衰力ur)に周波数重み関数WT(p)を乗じた制御量ruを含む評価出力rと、車体運動としてのばね上速度ynに応じた制御出力(観測出力)とを有している。ここで、路面外乱wdは車両42に作用し、観測ノイズwnは車両42の実際の出力y(実際のばね上速度)に加わる。
【0036】
本実施の形態では、評価出力rは、制御性能およびモデル変動を評価するための出力ysとして、車両42のばね上加速度、バウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイト、ピストン速度に周波数重み関数Wsを乗じた制御量rsも含んでいる。
【0037】
具体的には、周波数重み関数Wsは、前輪側と後輪側のばね上加速度に関する重み関数Ws1,Ws2、バウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイトに関する重み関数Ws3〜Ws5、およびピストン速度に関する重み関数Ws6を含んでいる。これらの周波数重み関数Wsおよび周波数重み関数WT(p)を、図5ないし図7に示す。周波数重み関数Wsおよび周波数重み関数WT(p)は、路面外乱wdからバウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイトの閉ループ系の周波数応答(図8ないし図10参照)において、ばね上共振のときにハイゲイン制御時(p=1)の応答が、制御を行わずに減衰力をソフトにした非制御時に比べて1/5以下となり、3Hz以上の周波数領域のときにローゲイン制御時(p=0)の応答が非制御時と同程度になるようにチューニングした。
【0038】
一方、周波数重み関数WT(p)は、図7に示すように、ばね上共振付近の周波数帯域では目標減衰力urの利得が大きくなり、ばね上共振よりも低周波の帯域および高周波の帯域では目標減衰力urの利得が小さくなるように設定した。
【0039】
また、周波数重み関数WT(p)は、パラメータpに応じて利得が全体的に上昇または下降する。即ち、図7中に実線で示すように、パラメータpが1に近付くに従って、周波数重み関数WT(p)は、全体的に目標減衰力urがハイゲインとなり、ハードな特性となるように設定されている。これに対し、図7中に破線で示すように、パラメータpが0に近付くに従って、周波数重み関数WT(p)は、全体的に目標減衰力urがローゲインとなり、ソフトな特性となるように設定されている。
【0040】
一般的に、周波数重み関数WT(p)は、低次のシステムの方が高次のシステムに比べて、GSH∞制御器16の解を求め易い。このため、周波数重み関数WT(p)は、以下の数3の式に示すように、例えば分母側にラプラス演算子sの二乗項を含む2次システムとし、パラメータpは減衰比に相当する部分に含まれる構成とした。
【0041】
【数3】
【0042】
但し、数3の式中でa,b,c,d,e,fは周波数特性を決める所定の係数である。
【0043】
以上のような一般化プラント21に対してH∞制御問題を解くことによって、GSH∞制御器16を求める。即ち、一般化プラント21が内部安定化し、以下の数4の式に示すように、外乱入力wから評価出力rまでの伝達関数GrwのH∞ノルムが定数γ未満になるように、GSH∞制御器16を設計する。
【0044】
【数4】
【0045】
具体的には、H∞制御問題の解が存在するように、定数γの値を十分に大きな値を設定し、例えば線形行列不等式(LMI)に基づく可解条件を調べる。2分法等のアルゴリズムを用いて、このような操作を繰り返し、H∞制御問題の解が存在する定数γの最小値を求める。定数γの最小値に対して、GSH∞制御器16を例えばMatlab等の設計CADを用いて数値計算により求める。これにより、GSH∞制御器16は、路面外乱wdおよび観測ノイズwnに対してロバスト安定となる。
【0046】
以上の操作を、パラメータpが最小となるとき(p=0)と最大となるとき(p=1)について行い、それぞれのGSH∞制御器16の利得(K(p))を求める。これにより、GSH∞制御器16は、パラメータpの変動に対してロバスト安定となる。また、GSH∞制御器16の利得はパラメータpに応じて変化し、パラメータpはばね上の振動に応じて変化する。このため、GSH∞制御器16の利得は、ばね上の振動に応じて変化することになる。
【0047】
本実施の形態によるサスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ9を用いてダンパ6の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
【0048】
まず、コントローラ9には、車両の走行時に図1および図2に示すように、ばね上加速度センサ7からばね上(車体1)側の上,下方向の振動加速度の検出信号が入力される。このとき、コントローラ9に設けられた積分器10は、ばね上加速度センサ7による振動加速度の検出信号を積分し、車体1の上,下方向の速度をばね上速度ynとして算出する。また、コントローラ9に設けられたパラメータ演算器13は、4輪のばね上速度ynに基づいてばね上共振成分に応じたパラメータpを算出する。
【0049】
そして、GSH∞制御器16は、ばね上速度ynに基づいて目標減衰力urを演算し、ダンパ6を用いて車体1のバウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイト等の運動をフィードバック制御する。ここで、GSH∞制御器16は、ばね上共振に近い周波数領域では利得が低くなり、それ以外の周波数領域では利得が高くなる周波数特性を有する。これに加え、GSH∞制御器16の利得は、パラメータpに応じて上昇または低下する。このため、GSH∞制御器16は、ばね上共振成分が大きいときには、ゲインを上げてサスペンション装置4をハードな特性にすることができ、ばね上共振よりも高周波側の周波数成分が大きいときには、ゲインを下げてサスペンション装置4をソフトな特性にすることができる。
【0050】
また、例えば特開平10−244819号公報、特開平9−76720号公報、特開2009−132237号公報等に開示されているように、ばね上またはばね下の振動状態を検出した検出信号に対して、周波数フィルタを用いて所望の信号成分を取り出し、この信号成分に基づいて制御ゲインを調整する構成が知られている。
【0051】
しかし、周波数フィルタはゲイン特性と位相特性を有するため、周波数フィルタのフワフワ感領域のゲインを0dBとしつつ、ヒョコヒョコ感領域ではゲインをできるたけ小さくしたい反面、制御タイミングがずれないように位相特性はできるだけ広い範囲で0度に維持したいというようなトレードオフの関係がある。従って、周波数フィルタを用いるスケジューリング方法では、フィルタ次数の選定やカットオフ周波数のチューニング等が難しく、複数の周波数成分を含む実走行路面では、周波数フィルタにより、所望の性能が狙い通りに得ることができないばかりか、却って悪化する可能性も有する。
【0052】
これに対し、本実施の形態によるパラメータ演算器13は、フィルタ処理等を行うことなく、ばね上速度ynの大きさ(振幅)から直接的にパラメータpを求める構成とした。このため、ばね上速度ynの変化に対して時間遅延等を生じることなく、GSH∞制御器16の利得をリアルタイムに調整することができ、フィルタ処理による制御性能の悪化を防止しつつ、所望の特性を得ることができる。
【0053】
このような本実施の形態の有効性を検証するために、ランダム路面での走行実験を行った。そのときのばね上加速度のパワースペクトル密度(PSD)を図11に示す。図11中で、実線は本実施の形態を示し、破線はばね上速度にフィルタ処理を施した後にスケジューリングパラメータを求め、該スケジューリングパラメータを用いてゲインスケジュールドH∞制御器を構成した比較例を示している。
【0054】
なお、比較例では、例えばばね上速度に基づくバウンスレイトに低域通過フィルタによるフィルタ処理を行ってばね上共振成分を取り出し、このばね上共振成分を用いてスケジューリングパラメータを求めるものである。
【0055】
図11に示すように、例えば2Hz以下のばね上共振付近の周波数領域(フワフワ感領域)では、本実施の形態および比較例はほぼ同様な値となり、いずれも減衰力ハード特性に近くなる。一方、ばね上共振よりも高い周波数領域(ヒョコヒョコ感領域)では、本実施の形態および比較例はいずれも減衰力素ソフト特性となるものの、比較例に比べて本実施の形態の方がPSDがさらに低下していることが分かる。このため、本実施の形態では、フワフワ感とヒョコヒョコ感の低減を両立できると共に、比較例に比べてヒョコヒョコ感の低減効果が大きくなることが分かる。
【0056】
かくして、本実施の形態では、車体1およびダンパ6に基づいて線形パラメータ変動システムからなる一般化プラント21を構築し、該一般化プラント21に基づいてフィードバック制御器となるGSH∞制御器16を設計したから、路面外乱wdに対するロバスト性を高めることができ、例えば未走行の路面に対しても制御効果を得ることができる。
【0057】
また、本実施の形態では、ばね上速度ynに基づいて路面状態に応じたパラメータpを算出するパラメータ演算器13を備え、GSH∞制御器16は、該パラメータ演算器13によって算出されたパラメータpに応じて目標減衰力urの利得を変化させる。このため、ばね上の振幅の大きさを用いてGSH∞制御器16の利得を調整できるから、ばね上共振付近の振幅が大きく、フワフワ感が大きいときには、GSH∞制御器16の利得を上げて減衰力ハード特性に近い制振効果を得ることができる。一方、ばね上共振の振幅が他の周波数領域の振幅に比べて小さいとき、即ちフワフワ感が小さいとき、またはヒョコヒョコ感が大きいときには、GSH∞制御器16の利得を下げて減衰力ソフト特性に近い除振効果を得ることができる。この結果、フワフワ感とヒョコヒョコ感の両方を低減することができる。これに加え、ばね上速度ynに基づいてGSH∞制御器16の利得をスケジューリングするから、制御タイミングのずれを無くすことができる。
【0058】
特に、本実施の形態では、パラメータpは、フィルタ処理等を行うことなく、ばね上速度ynの大きさ(振幅)から直接的に求める構成とした。このため、ばね上速度ynの変化に対して時間遅延等が生じることなく、GSH∞制御器16の利得をリアルタイムに調整することができる。この結果、例えばパラメータ演算器13が低域通過フィルタ等を備える場合に比べて、ばね上共振よりも高周波側の振動が大きいときには、速やかにGSH∞制御器16の利得を下げて減衰力ソフト特性に調節することができ、ヒョコヒョコ感の低減効果を高めることができる。また、フィルタ処理のチューニングを行う必要がなく、容易にパラメータ演算器13を構成できるのに加え、フィルタ処理に伴って制御性能が悪化する可能性がなくなる。
【0059】
さらに、GSH∞制御器16は一般化プラント21に基づいて設計することができるから、例えば特許文献1のように路面判定の結果に応じて制御器のゲインを調整する場合に比べて、様々な路面を走行して路面判定のチューニングを行う必要がなく、GSH∞制御器16のチューニングを容易に行うことができる。
【0060】
例えば特許文献1のように路面判定の結果に応じて制御器のゲインを調整する場合には、ばね上加速度の大きさに応じて必要なゲインの大きさを変える構成となっている。この考えに基づいて、GSH∞制御器を設計した場合には、一般化プラントのうちばね上加速度の大きさに応じて車両からの出力に係る周波数重み関数Wsを変える制御器となる。即ち、一般化プラントの出力側にゲインスケジュールを組み込むことに相当する。
【0061】
しかし、出力側にゲインスケジュールを組み込んだ一般化プラントを用いて実際に設計してみると、期待通りのゲインの幅を得ることができず、パラメータpが変化してもゲインが殆ど変化しない制御器になることが分かった。そこで、発明者等が鋭意検討したところ、制御入力となる目標減衰力urに係る周波数重み関数WT(p)がパラメータpに応じて変化する一般化プラント21を構築し、この一般化プラント21に基づいて、GSH∞制御器16を設計すると、パラメータpに応じて目標減衰力urのゲインを大きく変化させることができることが分かった。この結果、GSH∞制御器16は、パラメータpに応じて目標減衰力urのゲインを大きく変化させて、ばね上の振動の大きさに応じた減衰力を発生させることができる。
【0062】
また、制御入力に係る周波数重み関数WT(p)は2次システムであり、パラメータpは、該2次システムのうち減衰比に相当する部分に含まれる構成としたから、パラメータpに応じてGSH∞制御器16のゲインを変化させることができる。これに加えて、周波数重み関数WT(p)の次数を低下させることができるから、GSH∞制御器16の設計に伴う数値計算を容易に行うことができる。
【0063】
なお、前記実施の形態では、一般化プラント21の評価出力には、制御入力(目標減衰力ur)に周波数重み関数WT(p)を乗じた制御量ruに加えて、車両42のばね上加速度等に周波数重み関数Wsを乗じた制御量rsを含む構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、一般化プラントは、制御量rsを省き、制御入力に周波数重み関数WT(p)を乗じた制御量ruだけを評価出力とする構成としてもよい。
【0064】
また、前記実施の形態では、ロバストゲインスケジュールド制御器としてGSH∞制御器16を例に挙げて説明した。しかし、ロバストゲインスケジュールド制御器は、例えばゲインスケジューリング型スライディングモード制御器のように、安定性や制御性能の理論的な保証を与えるものであり、かつ観測値を用いて制御器のゲインをリアルタイムに調整できる制御器であればよい。
【0065】
前記実施の形態では、路面判定手段として車体運動としてのばね上速度ynからパラメータpを演算するパラメータ演算器13を例に挙げて説明した。しかし、路面判定手段は、例えば悪路やうねり路をばね上加速度、ばね下加速度、路面変位等の観測出力から見極める関数を用いる構成としてもよく、ばね上速度ynとパラメータpとの関係を格納したマップ等を用いる構成としてもよい。
【0066】
前記実施の形態では、制御ダンパがセミアクティブダンパからなる減衰力調整式ダンパ6である場合を例に説明したが、これに代えて、アクティブダンパ(電気アクチュエータ、油圧アクチュエータのいずれか)を用いるようにしてもよい。
【0067】
さらに、前記実施の形態では、単一のGSH∞制御器16によって、4輪に設けた全てのサスペンション装置4を一括して制御する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、4輪それぞれに設けたサスペンション装置4に対して個別にGSH∞制御器を設け、これらのGSH∞制御器によって別個に独立して制御する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 車体
2 車輪
4 サスペンション装置
5 ばね
6 減衰力調整式ダンパ(制御ダンパ)
7 ばね上加速度センサ
8 ばね下加速度センサ
9 コントローラ
10 積分器
11 運動検出装置(運動検出手段)
13 スケジューリングパラメータ演算器
16 ゲインスケジュールドH∞制御器
21 一般化プラント
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載され、車両の振動を制御するサスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に搭載されたサスペンション制御装置として、車体と各車軸との間に減衰力を調整可能な制御ダンパ(緩衝器)を設けると共に、制御器を用いて制御ダンパによる減衰力特性を調整する構成としたものが知られている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、スカイフック理論に基づいて制御ダンパの減衰力を調整すると共に、ばね上の振動の周波数と振幅の大きさに応じて制御器の利得(ゲイン)を調整する構成が開示されている。特許文献2,3には、振動周波数毎に利得が異なるH∞制御器を用いて制御ダンパの減衰力を調整する構成が開示されている。非特許文献1には、車両の操縦安定性を向上させるために、ロバストゲインスケジュールド制御器を用いて制御ダンパの減衰力を調整する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−255152号公報
【特許文献2】特開2000−148208号公報
【特許文献3】特開2009−280022号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高橋正樹、熊丸誉、吉田和夫,「操舵による車体挙動を考慮した自動車用セミアクティブサスペンションの総合的制御系設計」,日本機械学会論文集,C編,2008年8月,第74巻,第744号,p.2015−2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的にサスペンション制御装置を用いて良い乗り心地を実現するためには、ばね上の振動周波数と振幅の大きさにより、制御器の利得を切り換える必要がある。具体的には、ばね上共振付近の周波数領域での振動(以下、フワフワ感という)が小さいときには、ばね上共振とばね下共振間の周波数領域での振動(以下、ヒョコヒョコ感という)を抑制するために制御器の利得を小さくし、フワフワ感が大きいときには、フワフワ感を抑制するために制御器の利得を大きくする必要がある。また、フワフワ感およびヒョコヒョコ感をもっと抑えたいという要望には、制御器の利得をもっと上げたり、下げたりするために、制御ゲインの調整をリアルタイムに行わなければならない。
【0007】
例えばスカイフック理論に基づく制御では、全ての周波数領域で同じ利得となるため、フワフワ感の抑制効果はあるものの、ヒョコヒョコ感の抑制効果はない。これに対し、特許文献1に記載されたサスペンション制御装置では、ばね上振動等に基づいて路面状況を判定し、この判定結果に基づいて制御器の利得を調整している。このため、路面判定の方法をチューニングすることによって、ヒョコヒョコ感の抑制も可能である。しかし、このような制御効果を得るためには、様々な路面を走行して、その都度、路面判定のチューニングを行う必要があり、工数が多くかかる。これに加え、未走行の路面に関しては、必ずしも制御効果が得られるとは限らないという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2,3のように、H∞制御器を用いる場合には、周波数毎に利得を異ならせることができるから、フワフワ感付近の周波数領域では利得を高くし、ヒョコヒョコ感付近の周波数領域では利得を低くすることができる。しかし、フワフワ感付近の周波数領域とヒョコヒョコ感付近の周波数領域では位相が異なり、制御タイミングにずれが生じる。これに加え、ばね上の振幅の大きさに対してはH∞制御器の利得は変わらないため、同じ周波数の振動に対してもっと利得を上げたい、下げたい等の要望には応えることができず、フワフワ感およびヒョコヒョコ感の抑制を両立させることが難しい。また、H∞制御器に対して利得の大きさを勝手に変更した場合、H∞制御理論に基づいて補償された制御性能が失われてしまうという問題もある。
【0009】
さらに、非特許文献1には、ロバストゲインスケジュールド制御器を用いて制御ダンパの減衰力を調整する構成が開示されているが、これは操縦安定性を向上するシステムであり、路面に対する乗り心地は良くならない。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整することができ、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させることができるサスペンション制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車体と車輪との間に介装され、前記車体と前記車輪との間に減衰力を発生させることにより前記車体の振動を抑制するサスペンション制御装置であって、目標減衰力に応じて前記減衰力を発生させる制御ダンパと、前記車体の運動を検出する運動検出手段と、検出された車体運動に基づいて前記目標減衰力を算出するフィードバック制御器とを備え、前記車体および前記制御ダンパに基づく線形システムであって、路面状況に応じて変動する要素を有する線形パラメータ変動システムを構築し、前記フィードバック制御器は、該線形パラメータ変動システムに基づいて設計され、路面外乱および観測ノイズに対してロバスト安定となるロバストゲインスケジュールド制御器によって構成し、前記運動検出手段によって検出された車体運動に基づいて路面状態に応じた変動パラメータを算出する変動パラメータ算出手段を備え、該変動パラメータ算出手段は、前記車体運動としてのばね上速度の大きさを用いて前記変動パラメータを算出し、前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、該変動パラメータ算出手段によって算出された変動パラメータに応じて前記目標減衰力の利得を変化させる構成としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整して、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態によるサスペンション制御装置を模式的に示す図である。
【図2】図1中のコントローラ等を示すブロック図である。
【図3】図2中のスケジューリングパラメータ演算器を示すブロック図である。
【図4】実施の形態によるゲインスケジュールドH∞制御器を設計する一般化プラントを示すブロック図である。
【図5】ばね上加速度に係る周波数重み関数を示す特性線図である。
【図6】バウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイト、ピストン速度に係る周波数重み関数を示す特性線図である。
【図7】目標減衰力に係る周波数重み関数を示す特性線図である。
【図8】バウンスレイトの閉ループ系の周波数応答を示す特性線図である。
【図9】ピッチレイトの閉ループ系の周波数応答を示す特性線図である。
【図10】ロールレイトの閉ループ系の周波数応答を示す特性線図である。
【図11】パワースペクトラム密度の周波数特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態によるサスペンション制御装置を例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0015】
図中、1は車両のボディを構成する車体で、該車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられ、該車輪2はタイヤ3を含んで構成されている。このとき、タイヤ3は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
【0016】
4は車体1と車輪2との間に介装して設けられたサスペンション装置で、該サスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該ばね5と並列になって車体1と車輪2との間に設けられた制御ダンパとしての減衰力調整式ダンパ(以下、ダンパ6という)とにより構成されている。なお、図1中では1組のサスペンション装置4を、車体1と車輪2との間に設けた場合を例示している。しかし、サスペンション装置4は、例えば4輪の車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられるもので、このうちの1組のみを図1では模式的に図示している。
【0017】
ここで、サスペンション装置4のダンパ6は、例えばセミアクティブダンパ等の減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。このダンパ6には、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に調整するため、減衰力調整バルブ等からなるアクチュエータ6Aが付設されている。
【0018】
また、ダンパ6は、車体1と車輪2間の相対速度および目標減衰力urに応じてその減衰力特性が調整される。そして、ダンパ6は、後述するGSH∞制御器16から出力される目標減衰力urに応じた減衰力(実減衰力Fd)を発生させる。
【0019】
7は車体1に設けられたばね上加速度センサで、該ばね上加速度センサ7は、所謂ばね上側となる車体1側で上,下方向の振動加速度を検出するため、例えばダンパ6の近傍となる位置で車体1に取付けられている。そして、ばね上加速度センサ7は、上,下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ9に出力する。
【0020】
8は車両の車輪2側に設けられたばね下加速度センサで、このばね下加速度センサ8は、所謂ばね下側となる車輪2側で上,下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ9に出力する。
【0021】
9はマイクロコンピュータ等により構成されるコントローラで、該コントローラ9は、その入力側が加速度センサ7,8等に接続され、出力側がダンパ6のアクチュエータ6A等に接続されている。
【0022】
コントローラ9は、図2に示すように、積分器10を備えている。この積分器10は、ばね上加速度センサ7からの検出信号を積分することによって、車体運動として、車体1の上,下方向に対する速度となるばね上速度ynを演算する。このため、ばね上加速度センサ7および積分器10は、車体1の運動を検出する運動検出手段としての運動検出装置11を構成し、フィードバック信号としてのばね上速度ynを出力する。
【0023】
また、コントローラ9は、ダンパ6の非線形性を補償する非線形補償部12と、変動パラメータとしてのスケジューリングパラメータp(以下、パラメータpという)を演算するスケジューリングパラメータ演算器13(以下、パラメータ演算器13という)と、パラメータpおよび運動検出装置11からの出力信号(ばね上速度yn)を用いて目標減衰力urを演算するフィードバック制御器としてのゲインスケジュールドH∞制御器16(以下、GSH∞制御器16という)とを備えている。
【0024】
非線形補償部12は、非線形制御器12Aおよびオブザーバ12Bを含み、例えば非線形制御のひとつであるバックステップ法を適用するように構成されている。このバックステップ法では、実減衰力Fdのうちの減衰特性可変部がGSH∞制御器16から出力される目標減衰力urに近付くように、指令電流iを生成する。
【0025】
具体的には、オブザーバ12Bは、ダンパ6の非線形ダイナミクスを考慮して減衰特性可変部に対する推定処理を行い、推定減衰力Fuを出力する。また、オブザーバ12Bは、ばね上加速度センサ7からの検出信号とばね下加速度センサ8からの検出信号を用いることによって、車体1と車輪2との間の上,下方向の相対速度に対応した推定ピストン速度vを演算する。非線形制御器12Aは、オブザーバ12Bから出力される推定ピストン速度vおよび推定減衰力Fuと、GSH∞制御器16から出力される目標減衰力urとに基づいて、ダンパ6が実際に発生する実減衰力Fdのうちの減衰特性可変部が推定減衰力Fuに近付くように指令電流iを生成する。これにより、非線形補償部12は、推定減衰力Fuの減衰特性可変部と目標減衰力urとの誤差を小さくすることで、加速度の過渡特性を改善してジャークを低減すると共に、ダンパ6の時間遅れを抑制している。
【0026】
パラメータ演算器13は、車体運動となるばね上速度ynに基づいて路面状態に応じたパラメータpを算出する変動パラメータ算出手段を構成している。このパラメータ演算器13は、運動検出装置11から出力されるばね上速度ynに基づいてばね上共振成分を取り出し、このばね上共振成分に応じたパラメータpを算出する。
【0027】
具体的には、パラメータ演算器13は、図3に示すように、ばね上速度ynの絶対値qy0を演算する絶対値演算部14と、該絶対値演算部14から出力される絶対値qy0に基づいてパラメータpを出力するパラメータ出力部15とを備えている。このパラメータ出力部15は、以下の数1の式に示すように、絶対値qy0の大きさを制限する飽和関数に基づいて絶対値qy0の上限と下限を制限した制限信号qyを出力する制限処理部15Aと、制限信号qyを以下の数2の式に示す100分率の計算により正規化する正規化処理部15Bとによって構成されている。これにより、パラメータpは、1以下の範囲で正規化された値に設定される。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
なお、数1の式に示す上限値qymaxおよび下限値qyminは、実際の車体1を用いたチューニングによって実験的に決定される。下限値qyminが大きいほど制御ゲインはローゲインから上がり難く、下限値qyminが小さいほど制御ゲインはローゲインから上がり易い。また、上限値qymaxが大きいほど制御ゲインはハイゲインに到達し難く、上限値qymaxが小さいほど制御ゲインはハイゲインに到達し易い。
【0031】
GSH∞制御器16は、後述するように図4に示す一般化プラント21に基づいて設計され、運動検出装置11から出力されるばね上速度ynと、パラメータ演算器13から出力されるパラメータpとに基づいて、目標減衰力urを演算する。具体的には、GSH∞制御器16は、ばね上速度ynのうちばね上共振に近い周波数成分に対しては利得が大きく、ばね上共振よりも高周波の周波数成分に対しては利得が小さくなるような周波数特性をもった目標減衰力urを出力する。
【0032】
また、GSH∞制御器16は、パラメータpが最大値(p=1)に近付くに従って目標減衰力urの利得を上昇させ、最小値(p=0)に近付くに従って目標減衰力urの利得を低下させる。即ち、GSH∞制御器16は、ばね上共振付近の振幅が大きいときには利得を上げてダンパ6の減衰力をハード特性側にし、ばね上共振付近の振幅が小さいときには利得を下げてダンパ6の減衰力をソフト特性側にする。これにより、GSH∞制御器16は、ばね上の振幅の大きさに応じて利得を調整し、フワフワ感とヒョコヒョコ感の抑制を両立させている。
【0033】
次に、GSH∞制御器16の設計方法について、図4ないし図10を参照しつつ説明する。
【0034】
まず、GSH∞制御器16を設計するために、車体1、車輪2、サスペンション装置4を含めた一般化プラントをパラメータpに依存した線形パラメータ変動システム(LPVシステム)に変換する。このとき、線形パラメータ変動システムは、車体1およびダンパ6に基づく線形システムであって、路面状況のパラメータpに応じて変動する要素を有している。これにより、図4に示すように、パラメータpを導入した一般化プラント21を構築する。この一般化プラント21中の車両42は、例えば車体1および車輪2に対して理想的なアクティブダンパが取り付けられたものを示している。この理想的なアクティブダンパは、例えば時間遅延することなく目標減衰力urに応じた減衰力を発生させることができるものである。
【0035】
また、一般化プラント21は、制御器出力となる目標減衰力urに応じた制御入力と、路面外乱wdおよび観測ノイズwnに応じた外乱入力wと、制御入力(目標減衰力ur)に周波数重み関数WT(p)を乗じた制御量ruを含む評価出力rと、車体運動としてのばね上速度ynに応じた制御出力(観測出力)とを有している。ここで、路面外乱wdは車両42に作用し、観測ノイズwnは車両42の実際の出力y(実際のばね上速度)に加わる。
【0036】
本実施の形態では、評価出力rは、制御性能およびモデル変動を評価するための出力ysとして、車両42のばね上加速度、バウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイト、ピストン速度に周波数重み関数Wsを乗じた制御量rsも含んでいる。
【0037】
具体的には、周波数重み関数Wsは、前輪側と後輪側のばね上加速度に関する重み関数Ws1,Ws2、バウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイトに関する重み関数Ws3〜Ws5、およびピストン速度に関する重み関数Ws6を含んでいる。これらの周波数重み関数Wsおよび周波数重み関数WT(p)を、図5ないし図7に示す。周波数重み関数Wsおよび周波数重み関数WT(p)は、路面外乱wdからバウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイトの閉ループ系の周波数応答(図8ないし図10参照)において、ばね上共振のときにハイゲイン制御時(p=1)の応答が、制御を行わずに減衰力をソフトにした非制御時に比べて1/5以下となり、3Hz以上の周波数領域のときにローゲイン制御時(p=0)の応答が非制御時と同程度になるようにチューニングした。
【0038】
一方、周波数重み関数WT(p)は、図7に示すように、ばね上共振付近の周波数帯域では目標減衰力urの利得が大きくなり、ばね上共振よりも低周波の帯域および高周波の帯域では目標減衰力urの利得が小さくなるように設定した。
【0039】
また、周波数重み関数WT(p)は、パラメータpに応じて利得が全体的に上昇または下降する。即ち、図7中に実線で示すように、パラメータpが1に近付くに従って、周波数重み関数WT(p)は、全体的に目標減衰力urがハイゲインとなり、ハードな特性となるように設定されている。これに対し、図7中に破線で示すように、パラメータpが0に近付くに従って、周波数重み関数WT(p)は、全体的に目標減衰力urがローゲインとなり、ソフトな特性となるように設定されている。
【0040】
一般的に、周波数重み関数WT(p)は、低次のシステムの方が高次のシステムに比べて、GSH∞制御器16の解を求め易い。このため、周波数重み関数WT(p)は、以下の数3の式に示すように、例えば分母側にラプラス演算子sの二乗項を含む2次システムとし、パラメータpは減衰比に相当する部分に含まれる構成とした。
【0041】
【数3】
【0042】
但し、数3の式中でa,b,c,d,e,fは周波数特性を決める所定の係数である。
【0043】
以上のような一般化プラント21に対してH∞制御問題を解くことによって、GSH∞制御器16を求める。即ち、一般化プラント21が内部安定化し、以下の数4の式に示すように、外乱入力wから評価出力rまでの伝達関数GrwのH∞ノルムが定数γ未満になるように、GSH∞制御器16を設計する。
【0044】
【数4】
【0045】
具体的には、H∞制御問題の解が存在するように、定数γの値を十分に大きな値を設定し、例えば線形行列不等式(LMI)に基づく可解条件を調べる。2分法等のアルゴリズムを用いて、このような操作を繰り返し、H∞制御問題の解が存在する定数γの最小値を求める。定数γの最小値に対して、GSH∞制御器16を例えばMatlab等の設計CADを用いて数値計算により求める。これにより、GSH∞制御器16は、路面外乱wdおよび観測ノイズwnに対してロバスト安定となる。
【0046】
以上の操作を、パラメータpが最小となるとき(p=0)と最大となるとき(p=1)について行い、それぞれのGSH∞制御器16の利得(K(p))を求める。これにより、GSH∞制御器16は、パラメータpの変動に対してロバスト安定となる。また、GSH∞制御器16の利得はパラメータpに応じて変化し、パラメータpはばね上の振動に応じて変化する。このため、GSH∞制御器16の利得は、ばね上の振動に応じて変化することになる。
【0047】
本実施の形態によるサスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ9を用いてダンパ6の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
【0048】
まず、コントローラ9には、車両の走行時に図1および図2に示すように、ばね上加速度センサ7からばね上(車体1)側の上,下方向の振動加速度の検出信号が入力される。このとき、コントローラ9に設けられた積分器10は、ばね上加速度センサ7による振動加速度の検出信号を積分し、車体1の上,下方向の速度をばね上速度ynとして算出する。また、コントローラ9に設けられたパラメータ演算器13は、4輪のばね上速度ynに基づいてばね上共振成分に応じたパラメータpを算出する。
【0049】
そして、GSH∞制御器16は、ばね上速度ynに基づいて目標減衰力urを演算し、ダンパ6を用いて車体1のバウンスレイト、ピッチレイト、ロールレイト等の運動をフィードバック制御する。ここで、GSH∞制御器16は、ばね上共振に近い周波数領域では利得が低くなり、それ以外の周波数領域では利得が高くなる周波数特性を有する。これに加え、GSH∞制御器16の利得は、パラメータpに応じて上昇または低下する。このため、GSH∞制御器16は、ばね上共振成分が大きいときには、ゲインを上げてサスペンション装置4をハードな特性にすることができ、ばね上共振よりも高周波側の周波数成分が大きいときには、ゲインを下げてサスペンション装置4をソフトな特性にすることができる。
【0050】
また、例えば特開平10−244819号公報、特開平9−76720号公報、特開2009−132237号公報等に開示されているように、ばね上またはばね下の振動状態を検出した検出信号に対して、周波数フィルタを用いて所望の信号成分を取り出し、この信号成分に基づいて制御ゲインを調整する構成が知られている。
【0051】
しかし、周波数フィルタはゲイン特性と位相特性を有するため、周波数フィルタのフワフワ感領域のゲインを0dBとしつつ、ヒョコヒョコ感領域ではゲインをできるたけ小さくしたい反面、制御タイミングがずれないように位相特性はできるだけ広い範囲で0度に維持したいというようなトレードオフの関係がある。従って、周波数フィルタを用いるスケジューリング方法では、フィルタ次数の選定やカットオフ周波数のチューニング等が難しく、複数の周波数成分を含む実走行路面では、周波数フィルタにより、所望の性能が狙い通りに得ることができないばかりか、却って悪化する可能性も有する。
【0052】
これに対し、本実施の形態によるパラメータ演算器13は、フィルタ処理等を行うことなく、ばね上速度ynの大きさ(振幅)から直接的にパラメータpを求める構成とした。このため、ばね上速度ynの変化に対して時間遅延等を生じることなく、GSH∞制御器16の利得をリアルタイムに調整することができ、フィルタ処理による制御性能の悪化を防止しつつ、所望の特性を得ることができる。
【0053】
このような本実施の形態の有効性を検証するために、ランダム路面での走行実験を行った。そのときのばね上加速度のパワースペクトル密度(PSD)を図11に示す。図11中で、実線は本実施の形態を示し、破線はばね上速度にフィルタ処理を施した後にスケジューリングパラメータを求め、該スケジューリングパラメータを用いてゲインスケジュールドH∞制御器を構成した比較例を示している。
【0054】
なお、比較例では、例えばばね上速度に基づくバウンスレイトに低域通過フィルタによるフィルタ処理を行ってばね上共振成分を取り出し、このばね上共振成分を用いてスケジューリングパラメータを求めるものである。
【0055】
図11に示すように、例えば2Hz以下のばね上共振付近の周波数領域(フワフワ感領域)では、本実施の形態および比較例はほぼ同様な値となり、いずれも減衰力ハード特性に近くなる。一方、ばね上共振よりも高い周波数領域(ヒョコヒョコ感領域)では、本実施の形態および比較例はいずれも減衰力素ソフト特性となるものの、比較例に比べて本実施の形態の方がPSDがさらに低下していることが分かる。このため、本実施の形態では、フワフワ感とヒョコヒョコ感の低減を両立できると共に、比較例に比べてヒョコヒョコ感の低減効果が大きくなることが分かる。
【0056】
かくして、本実施の形態では、車体1およびダンパ6に基づいて線形パラメータ変動システムからなる一般化プラント21を構築し、該一般化プラント21に基づいてフィードバック制御器となるGSH∞制御器16を設計したから、路面外乱wdに対するロバスト性を高めることができ、例えば未走行の路面に対しても制御効果を得ることができる。
【0057】
また、本実施の形態では、ばね上速度ynに基づいて路面状態に応じたパラメータpを算出するパラメータ演算器13を備え、GSH∞制御器16は、該パラメータ演算器13によって算出されたパラメータpに応じて目標減衰力urの利得を変化させる。このため、ばね上の振幅の大きさを用いてGSH∞制御器16の利得を調整できるから、ばね上共振付近の振幅が大きく、フワフワ感が大きいときには、GSH∞制御器16の利得を上げて減衰力ハード特性に近い制振効果を得ることができる。一方、ばね上共振の振幅が他の周波数領域の振幅に比べて小さいとき、即ちフワフワ感が小さいとき、またはヒョコヒョコ感が大きいときには、GSH∞制御器16の利得を下げて減衰力ソフト特性に近い除振効果を得ることができる。この結果、フワフワ感とヒョコヒョコ感の両方を低減することができる。これに加え、ばね上速度ynに基づいてGSH∞制御器16の利得をスケジューリングするから、制御タイミングのずれを無くすことができる。
【0058】
特に、本実施の形態では、パラメータpは、フィルタ処理等を行うことなく、ばね上速度ynの大きさ(振幅)から直接的に求める構成とした。このため、ばね上速度ynの変化に対して時間遅延等が生じることなく、GSH∞制御器16の利得をリアルタイムに調整することができる。この結果、例えばパラメータ演算器13が低域通過フィルタ等を備える場合に比べて、ばね上共振よりも高周波側の振動が大きいときには、速やかにGSH∞制御器16の利得を下げて減衰力ソフト特性に調節することができ、ヒョコヒョコ感の低減効果を高めることができる。また、フィルタ処理のチューニングを行う必要がなく、容易にパラメータ演算器13を構成できるのに加え、フィルタ処理に伴って制御性能が悪化する可能性がなくなる。
【0059】
さらに、GSH∞制御器16は一般化プラント21に基づいて設計することができるから、例えば特許文献1のように路面判定の結果に応じて制御器のゲインを調整する場合に比べて、様々な路面を走行して路面判定のチューニングを行う必要がなく、GSH∞制御器16のチューニングを容易に行うことができる。
【0060】
例えば特許文献1のように路面判定の結果に応じて制御器のゲインを調整する場合には、ばね上加速度の大きさに応じて必要なゲインの大きさを変える構成となっている。この考えに基づいて、GSH∞制御器を設計した場合には、一般化プラントのうちばね上加速度の大きさに応じて車両からの出力に係る周波数重み関数Wsを変える制御器となる。即ち、一般化プラントの出力側にゲインスケジュールを組み込むことに相当する。
【0061】
しかし、出力側にゲインスケジュールを組み込んだ一般化プラントを用いて実際に設計してみると、期待通りのゲインの幅を得ることができず、パラメータpが変化してもゲインが殆ど変化しない制御器になることが分かった。そこで、発明者等が鋭意検討したところ、制御入力となる目標減衰力urに係る周波数重み関数WT(p)がパラメータpに応じて変化する一般化プラント21を構築し、この一般化プラント21に基づいて、GSH∞制御器16を設計すると、パラメータpに応じて目標減衰力urのゲインを大きく変化させることができることが分かった。この結果、GSH∞制御器16は、パラメータpに応じて目標減衰力urのゲインを大きく変化させて、ばね上の振動の大きさに応じた減衰力を発生させることができる。
【0062】
また、制御入力に係る周波数重み関数WT(p)は2次システムであり、パラメータpは、該2次システムのうち減衰比に相当する部分に含まれる構成としたから、パラメータpに応じてGSH∞制御器16のゲインを変化させることができる。これに加えて、周波数重み関数WT(p)の次数を低下させることができるから、GSH∞制御器16の設計に伴う数値計算を容易に行うことができる。
【0063】
なお、前記実施の形態では、一般化プラント21の評価出力には、制御入力(目標減衰力ur)に周波数重み関数WT(p)を乗じた制御量ruに加えて、車両42のばね上加速度等に周波数重み関数Wsを乗じた制御量rsを含む構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、一般化プラントは、制御量rsを省き、制御入力に周波数重み関数WT(p)を乗じた制御量ruだけを評価出力とする構成としてもよい。
【0064】
また、前記実施の形態では、ロバストゲインスケジュールド制御器としてGSH∞制御器16を例に挙げて説明した。しかし、ロバストゲインスケジュールド制御器は、例えばゲインスケジューリング型スライディングモード制御器のように、安定性や制御性能の理論的な保証を与えるものであり、かつ観測値を用いて制御器のゲインをリアルタイムに調整できる制御器であればよい。
【0065】
前記実施の形態では、路面判定手段として車体運動としてのばね上速度ynからパラメータpを演算するパラメータ演算器13を例に挙げて説明した。しかし、路面判定手段は、例えば悪路やうねり路をばね上加速度、ばね下加速度、路面変位等の観測出力から見極める関数を用いる構成としてもよく、ばね上速度ynとパラメータpとの関係を格納したマップ等を用いる構成としてもよい。
【0066】
前記実施の形態では、制御ダンパがセミアクティブダンパからなる減衰力調整式ダンパ6である場合を例に説明したが、これに代えて、アクティブダンパ(電気アクチュエータ、油圧アクチュエータのいずれか)を用いるようにしてもよい。
【0067】
さらに、前記実施の形態では、単一のGSH∞制御器16によって、4輪に設けた全てのサスペンション装置4を一括して制御する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、4輪それぞれに設けたサスペンション装置4に対して個別にGSH∞制御器を設け、これらのGSH∞制御器によって別個に独立して制御する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 車体
2 車輪
4 サスペンション装置
5 ばね
6 減衰力調整式ダンパ(制御ダンパ)
7 ばね上加速度センサ
8 ばね下加速度センサ
9 コントローラ
10 積分器
11 運動検出装置(運動検出手段)
13 スケジューリングパラメータ演算器
16 ゲインスケジュールドH∞制御器
21 一般化プラント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と車輪との間に介装され、前記車体と前記車輪との間に減衰力を発生させることにより前記車体の振動を抑制するサスペンション制御装置であって、
目標減衰力に応じて前記減衰力を発生させる制御ダンパと、
前記車体の運動を検出する運動検出手段と、
検出された車体運動に基づいて前記目標減衰力を算出するフィードバック制御器とを備え、
前記車体および前記制御ダンパに基づく線形システムであって、路面状況に応じて変動する要素を有する線形パラメータ変動システムを構築し、
前記フィードバック制御器は、該線形パラメータ変動システムに基づいて設計され、路面外乱および観測ノイズに対してロバスト安定となるロバストゲインスケジュールド制御器によって構成し、
前記運動検出手段によって検出された車体運動に基づいて路面状態に応じた変動パラメータを算出する変動パラメータ算出手段を備え、
該変動パラメータ算出手段は、前記車体運動としてのばね上速度の大きさを用いて前記変動パラメータを算出し、
前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、該変動パラメータ算出手段によって算出された変動パラメータに応じて前記目標減衰力の利得を変化させる構成としてなるサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、ばね上共振付近の振幅が大きいときには利得を上げて前記制御ダンパの減衰力をハード特性側にし、ばね上共振付近の振幅が小さいときには利得を下げて前記制御ダンパの減衰力をソフト特性側にする構成としてなる請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記線形パラメータ変動システムは、目標減衰力に応じた制御入力と、路面外乱および観測ノイズに応じた外乱入力と、前記制御入力に周波数重み関数を乗じた評価出力と、車体運動に応じた制御出力とを有する一般化プラントであり、
該一般化プラントは、前記制御入力に係る周波数重み関数が前記変動パラメータに応じて変化し、
前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、該一般化プラントにおいて前記変動パラメータの変動に対してロバスト安定となるように設計したゲインスケジュールドH∞制御器である請求項1または2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記制御入力に係る周波数重み関数は2次システムであり、前記変動パラメータは、該2次システムのうち減衰比に相当する部分に含まれる構成としてなる請求項3に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記制御ダンパは、前記車体と前記車輪間の相対速度および前記目標減衰力に応じてその減衰力特性が調整される減衰力調整式ダンパである請求項1,2,3または4に記載のサスペンション制御装置。
【請求項1】
車体と車輪との間に介装され、前記車体と前記車輪との間に減衰力を発生させることにより前記車体の振動を抑制するサスペンション制御装置であって、
目標減衰力に応じて前記減衰力を発生させる制御ダンパと、
前記車体の運動を検出する運動検出手段と、
検出された車体運動に基づいて前記目標減衰力を算出するフィードバック制御器とを備え、
前記車体および前記制御ダンパに基づく線形システムであって、路面状況に応じて変動する要素を有する線形パラメータ変動システムを構築し、
前記フィードバック制御器は、該線形パラメータ変動システムに基づいて設計され、路面外乱および観測ノイズに対してロバスト安定となるロバストゲインスケジュールド制御器によって構成し、
前記運動検出手段によって検出された車体運動に基づいて路面状態に応じた変動パラメータを算出する変動パラメータ算出手段を備え、
該変動パラメータ算出手段は、前記車体運動としてのばね上速度の大きさを用いて前記変動パラメータを算出し、
前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、該変動パラメータ算出手段によって算出された変動パラメータに応じて前記目標減衰力の利得を変化させる構成としてなるサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、ばね上共振付近の振幅が大きいときには利得を上げて前記制御ダンパの減衰力をハード特性側にし、ばね上共振付近の振幅が小さいときには利得を下げて前記制御ダンパの減衰力をソフト特性側にする構成としてなる請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記線形パラメータ変動システムは、目標減衰力に応じた制御入力と、路面外乱および観測ノイズに応じた外乱入力と、前記制御入力に周波数重み関数を乗じた評価出力と、車体運動に応じた制御出力とを有する一般化プラントであり、
該一般化プラントは、前記制御入力に係る周波数重み関数が前記変動パラメータに応じて変化し、
前記ロバストゲインスケジュールド制御器は、該一般化プラントにおいて前記変動パラメータの変動に対してロバスト安定となるように設計したゲインスケジュールドH∞制御器である請求項1または2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記制御入力に係る周波数重み関数は2次システムであり、前記変動パラメータは、該2次システムのうち減衰比に相当する部分に含まれる構成としてなる請求項3に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記制御ダンパは、前記車体と前記車輪間の相対速度および前記目標減衰力に応じてその減衰力特性が調整される減衰力調整式ダンパである請求項1,2,3または4に記載のサスペンション制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−240825(P2011−240825A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114700(P2010−114700)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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