サスペンション装置
【課題】多数の要素の集合体で構成されているサスペンション装置のシステム全体としてのシステムバネ剛性を最適に発揮させることができるサスペンション装置を提供する。
【解決手段】車両の車輪2または車体9から伝達される振動を抑制する振動抑制手段、または車体9の高さを調整する車高調整手段の車体9への取付状態を調整して、サスペンション装置1aのシステム全体で発揮するシステムバネ剛性の制御を行うシステムバネ剛性制御手段5を備える。振動抑制手段、または車高調整手段は、車輪2側と車体9側との間に接続され、車輪2側と車体9側との相対移動を減衰させる減衰力を発生させるダンパ装置6であり、システムバネ剛性制御手段5は、ダンパ装置6の車輪2側または車体9側の取付部6a、6bに設けられ、ダンパ装置6の取付位置を移動させることによってシステムバネ剛性を制御する。
【解決手段】車両の車輪2または車体9から伝達される振動を抑制する振動抑制手段、または車体9の高さを調整する車高調整手段の車体9への取付状態を調整して、サスペンション装置1aのシステム全体で発揮するシステムバネ剛性の制御を行うシステムバネ剛性制御手段5を備える。振動抑制手段、または車高調整手段は、車輪2側と車体9側との間に接続され、車輪2側と車体9側との相対移動を減衰させる減衰力を発生させるダンパ装置6であり、システムバネ剛性制御手段5は、ダンパ装置6の車輪2側または車体9側の取付部6a、6bに設けられ、ダンパ装置6の取付位置を移動させることによってシステムバネ剛性を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バネ上系とバネ下系との間に設けられて車両の緩衝動作を行うサスペンション装置に関し、特に、バネ剛性を変化させる機構を備えたサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンション装置としては、コイルバネと鋼鉄棒材のトーションバースプリングとを組み合わせて主バネのバネ剛性を変化させるものが知られている。また、走行中の車両に対して緩衝動作を行うサスペンション装置として、例えば、車速に応じてバネ定数を自動的に変化させるエアサスペンションシステムの技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、車速に応じて、ピストンロッドをシリンダ内に所定距離だけ押し込ませることにより、サブチャンバの容積を変化させてエアスプリングのバネ定数を変化させている。すなわち、車速が速いときはサブチャンバの容積を小さくして、ピストンロッドをシリンダ内にさらに押し込ませることにより、エアサスペンションシステムのバネ定数を大きくしている。また、車速が遅いときはサブチャンバの容積を大きくして、ピストンロッドをシリンダ内から引き出させることにより、エアサスペンションシステムのバネ定数を小さくしている。このようにして、車速に応じてエアサスペンションシステムのバネ定数の大きさを調整することによって、車速に応じた緩衝動作を行うようにしている。
【0003】
また、油圧緩衝器のピストンロッドを車体側に取付けるマウントラバーと、シリンダ内筒に設けられてピストンロッドを支持するロッドガイドとを備えてエアサスペンション装置を構成する技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。この技術によれば、エアサスペンション装置として、空気室と油圧緩衝器とが一体的に設けられていて、油圧緩衝器のピストンロッドの上端は、マウントラバーを介して車体側に連結されている。また、ピストンロッドはロッドガイドにより支持された構成となっている。このとき、空気室の空気圧でアクチュエータの可動隔壁を変位させている。このような構成により、エアサスペンション装置の部品点数を低減させることができると共に、そのエアサスペンション装置を安定的に動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−61873号公報
【特許文献2】特開2000−186736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示された技術は、車速に応じてサブチャンバの容積を変化させることにより、シリンダ内のピストロッドの位置を移動させて、エアサスペンションシステムのバネ定数の大きさを調整しているが、エアサスペンションシステムの系全体のバネ定数を制御するようには考慮されていない。言い換えると、この技術は、サブチャンバに連接するエアスプリングの内圧を可変させることによって、エアサスペンションシステムのバネ定数の大きさを調整している。
【0006】
ところが、自動車のサスペンションシステムは多くの要素の集合体で構成されていて、それらの集合体の近接する各要素が相互に影響を及ぼし合って、最終的に、エアサスペンションシステムの系全体のバネ特性を発揮している。しかし、特許文献1に開示された技術は、エアサスペンションシステムを構成する各要素の集合体としてのシステム全体のバネ特性は考慮されていない。すなわち、サブチャンバのバネ定数のみではシステム全体のバネ特性を得ることはできない。また、エアサスペンションシステムは、車速以外にも路面状態などによってバネ定数を調整する必要があるが、特許文献1に開示された技術は路面状態などについては考慮されていない。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術においては、マウントラバーはゴム等の可撓性材料によって形成されているため、路面からの外力などがピストンロッドを通じてマウントラバーに伝達された場合にはマウントラバーが変形する。このようなマウントラバーの変形時において、マウントラバーは固有のバネ定数を有するために、そのバネ定数に応じた反力を発生させる。すなわち、マウントラバー自体がバネ定数を有しているので、外力に対して所定の反力を発生させる。したがって、エアサスペンション装置は、空気バネのバネ定数だけではなく、マウントラバーのバネ定数なども考慮して設計しなければならないが、特許文献2の技術はマウントラバーのバネ定数を加える考慮はなされていない。
【0008】
また、エアサスペンション装置を構成するロッドガイドは、一般的に、ピストンを摺動可能なように支持されているため、油圧緩衝器のストローク時においてロッドガイドとピストンロッドとの間には摩擦力が発生する。したがって、マウントラバー自体のバネ定数やロッドガイドとピストンロッドとの間の摩擦力などが相互に影響を及ぼし合うために、サスペンション装置(または、サスペンションシステム)の系全体から生じるシステムバネ定数は、空気バネのバネ定数以外に各要素間で発生する様々なバネ定数を加える必要があるが、特許文献2の技術は各要素間で発生するバネ定数を加える考慮はなされていない。
【0009】
つまり、車両が目的とする姿勢制御や制振制御を行う際に、目標とするバネ定数の調整や振動減衰力を実現させるときに、エアサスペンションの空気室(例えば、サブチャンバなど)のバネ定数の調整、流体粘度の調整、あるいは流体の流路面積の調整などによって、振動減衰力を制御する減衰力可変ダンパが発生させる振動減衰力を所定の値に設定してしまうと、マウントラバーのバネ定数やピストンロッドの摺動抵抗(摩擦力)が影響して、サスペンションシステムの系全体としては目的とするバネ定数や減衰力からずれてしまう。その結果、車両の姿勢制御や制振制御において、意図しない影響を及ぼすおそれがある。
【0010】
言い換えると、マウントラバーで発生するバネ定数やピストンロッドの摩擦力も考慮して、サスペンション装置のシステム全体としてバネ剛性を調整することにより、サスペンション装置全体として目標とするバネ定数や減衰力(荷重)を発生させて、車両に対して所望の制振制御や姿勢制御を行う必要があるか、特許文献1や特許文献2に開示された技術では、サスペンション装置の系全体としてバネ剛性を調整することはできない。また、これらの技術では、エアサスペンション(空気バネ)や減衰力可変ダンパを用いることなく、マウントラバーのバネ定数やロッドガイドの摩擦力を有効に利用して、サスペンション装置全体のシステムバネ剛性を所望の剛性に調整することができない。すなわち、サスペンション装置において、主バネのバネ剛性だけを変化させても、システム全体のシステムバネ剛性を所望の剛性に変化させることはできない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、多数の要素の集合体で構成されているサスペンション装置の各要素及び要素間の摩擦力等を有効に利用することにより、システム全体としてのシステムバネ剛性を最適に発揮させることができるサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るサスペンション装置は、車両の車輪または車体から伝達される振動を抑制する振動抑制手段、または前記車体の高さを調整する車高調整手段を有するサスペンション装置において、
前記振動抑制手段または前記車高調整手段の前記車体への取付状態を調整して、サスペンション装置のシステム全体で発揮するシステムバネ剛性の制御を行うシステムバネ剛性制御手段を備えることを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、システムバネ剛性制御手段が、振動抑制手段または車高調整手段の車体への取付状態を調整することができるので、要素間の摩擦力等を調整することができ、サスペンション装置のシステム全体で発揮するシステムバネ剛性を制御することができる。そのため、振動抑制手段や車高調整手段に固有の主バネ剛性に加えて、振動抑制手段や車高調整手段以外の構成要素が発揮するマウントバネ剛性も付加されたシステムバネ剛性によって車両の制振制御や姿勢制御を行うことが可能となる。これによって、車両の走行状態に応じてきめ細かな振動制御や姿勢制御を行うことができる。
【0014】
本発明の請求項2に係るサスペンション装置は、請求項1に記載のサスペンション装置において、
前記振動抑制手段、または前記車高調整手段は、前記車輪側と前記車体側との間に接続され、前記車輪側と前記車体側との相対移動を減衰させる減衰力を発生させるダンパ装置であり、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の車輪側または車体側の取付部に設けられ、前記ダンパ装置の取付位置を移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴としている。
【0015】
この構成によれば、ダンパ装置の車両へ(車輪側または車体側へ)の取付位置を移動させることで、単にダンパ装置の主バネ剛性が発揮する荷重(減衰力)だけではなく、各種構成要素が発生するマウント剛性も含めて、サスペンション装置のシステム全体として発揮するシステムバネ剛性を調整することができる。そのため、車両の制振制御や姿勢制御の精度を向上させることが可能となる。なお、振動抑制手段はダンパ機能を備えているが、車高調整手段はダンパ機能と車高調整機能とを備えている。
【0016】
本発明の請求項3に係るサスペンション装置は、請求項2に記載のサスペンション装置において、前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の取付位置を前記車両の前後方向または車幅方向、もしくはその両方向に移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴としている。
【0017】
この構成によれば、ダンパ装置の取付位置を任意の方向へ変化させることができるため、それに伴ってダンパ装置の車体への傾斜状態を任意の方向へ変化させることができる。したがって、ダンパ装置の内部で発生する摺動による摩擦力をきめ細かく変化させることができるので、サスペンション装置のシステムバネ剛性を微細に調整することが可能となる。これによって、車両の制振制御や姿勢制御の精度をさらに向上させることができる。
【0018】
本発明の請求項4に係るサスペンション装置は、請求項1乃至3の何れかに記載のサスペンション装置において、前記車両の振動状態を検出する振動状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記振動状態検出手段が検出した前記車両の振動状態が所定の振動状態を超えたとき、前記システムバネ剛性を減少させるように制御することを特徴としている。
【0019】
この構成によれば、システムバネ剛性制御手段は、振動状態検出手段が検出した車両の振動情報に基づいて、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御することができ、車両の振動が大きい場合には、サスペンション装置のシステムバネ剛性を下げることで、車両の乗心地を向上させることができる。
【0020】
本発明の請求項5に係るサスペンション装置は、請求項1乃至4の何れかに記載のサスペンション装置において、前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段、または前記車両の姿勢状態を検出する姿勢状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記旋回状態検出手段が検出した前記車両の旋回状態が所定の旋回状態(角度)を超えたとき、または前記姿勢状態検出手段が検出した前記車両の姿勢状態が所定の傾斜角度を超えたとき、前記システムバネ剛性を増加させるように制御することを特徴としている。
【0021】
この構成によれば、サスペンション装置のシステム全体としてのシステムバネ剛性を大きくして、旋回性能を高めたり、姿勢傾斜の抑制を促進したりすることができるので、走行中の車両における操作の安定性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多数の要素の集合体で構成されているサスペンション装置の各要素及び要素間の摩擦力等を有効に利用することにより、システム全体としてのシステムバネ剛性を最適に発揮させることができるサスペンション装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の各実施形態に係るサスペンション装置におけるシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図である。
【図2】図1の特性図において特性aと特性bの下死点を一致させたときのシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置およびその周辺構成を示す構成図であり、(a)は車両の後方から透視した構成図、(b)は上方から透視した構成図である。
【図4】図3の構成図におけるステアリングナックル4とアクチュエータ5とダンパ6の下端の取付部6aとの位置関係を下方から鳥瞰して示す第1実施形態のサスペンション装置の模式図である。
【図5】本発明の各実施形態に係るサスペンション装置における第1の制御方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の各実施形態に係るサスペンション装置における第2の制御方法を示すフローチャートである。
【図7】図3の構成図におけるステアリングナックル4とアクチュエータ5とダンパ6の下端の取付部6aとの位置関係を下方から鳥瞰して示す第2実施形態のサスペンション装置の模式図である。
【図8】ある車両について測定した、タイヤの変位(前後方向と横方向)とサスペンション装置の上下変位との関係を示す特性図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るサスペンション装置およびその周辺構成を示す構成図であり、(a)は車両の後方から透視した構成図、(b)は上方から透視した構成図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置を車両に搭載したときのサスペンション特性の及ぼす効果を示す特性図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置を車両に搭載したときの車体側のバネ上応答に及ぼす効果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
自動車のサスペンション装置は多くの要素の集合体で構成されているため、近接する各要素が相互に影響を及ぼし合って、最終的にシステムとしてのサスペンション特性を発揮している。具体的には、主バネやダンパやダンパーマウントなどがサスペンション装置の構成要素となっている。したがって、サスペンション装置のシステムとしての応答性は、主バネのバネ剛性ではなく、システム全体のシステムバネ剛性に支配されることになる。
【0025】
本発明のサスペンション装置は、アクティブサスペンションで調整可能なバネ定数や荷重のみならず、サスペンション装置を構成するマウントラバーのバネ定数やロッドガイドの摺動抵抗など、サスペンション装置を構成する各種の要素や要素間で発生する反力や摺動抵抗を有効に利用して、サスペンション装置のシステム全体のバネ剛性(システムバネ剛性)を制御することを特徴としている。なお、バネ剛性(N/m)とは、ある物体を撓ませたときに発生する接触力(つまり、反力や加重)の比率に相当するものである。したがって、マウントラバーの反力やロッドガイドの摩擦力などは、サスペンション装置のシステム全体で見たときに、ピストンロッドをストロークさせたときに発生する荷重として捉えられるため、サスペンションシステム全体のシステムバネ剛性に影響を与えることができる。
【0026】
図1は、本発明の各実施形態に係るサスペンション装置におけるシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図であり、横軸に変位、縦軸に荷重を表わしている。図1において、特性aは、構成要素の摩擦力が小さいとき(低摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性であり、特性bは、構成要素の摩擦力が大きいとき(高摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性である。低摩擦時の特性aにおけるa1−a2間、およびa3−a4間、高摩擦時の特性bにおけるb1−b2間、およびb3−b4間は、サスペンション装置や可変減衰力ダンパによって特性変更が可能な主バネ剛性の特性領域である。この主バネ剛性の特性領域においては、特性a、bのいずれの特性においても、主バネ剛性の特性に基づいて変位量に比例して荷重は増加(または、減少)している。
【0027】
また、低摩擦時の特性aにおけるa2−a3間、およびa4−a1間、高摩擦時の特性bにおけるb2−b3間、およびb4−b1間は、マウントラバーの反力やロッドガイドの摺動抵抗などによって定まるマウント剛性の特性領域である。このマウント剛性の特性領域は、特性a、bのいずれの特性においても、マウントラバーの反力やロッドガイドの摺動抵抗などによるマウント剛性によって荷重は急激に増加(または、減少)する。
【0028】
すなわち、図1に示すように、システムバネ剛性の特性は、マウントラバーの反力やロッドガイドの摺動抵抗などによって生じるヒステリシスを有し、主バネ剛性により増加または減少し、所定の変位量を超えるとマウント剛性によって荷重は急激に増加または減少する。
【0029】
さらに詳しく述べると、構成要素の摩擦力が小さいとき(低摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性は特性aのようなループを描き、構成要素の摩擦力が大きいとき(高摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性は特性bのようなループを描く。つまり、サスペンション装置の変位−荷重特性においては、低摩擦時の特性aと高摩擦時の特性bは、ともに平行四辺形の相似形特性を描く。なお、構成要素の摩擦力が0のときはマウント剛性による急激な荷重の変化はないので、ほぼ主バネ剛性の特性に基づいた1本の比例特性となる。
【0030】
図2は、図1の特性図において特性aと特性bの下死点を一致させたときのシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図であり、横軸に変位、縦軸に荷重を表わしている。特性aと特性bを比較して、サスペンション装置の下死点から上死点までの変位運動の挙動を見ると、摩擦力の大きさの差が、マウント剛性に大きな影響を与え、主バネ剛性にはあまり影響を与えていないことがわかる。
【0031】
結果的には、構成要素の摩擦力が大きいときは、下死点b1から上死点b3へのトータルの傾きである特性b0がシステムバネ剛性となり、変位量が最大の上死点における荷重(つまり、復元力)が大きくなってシステムバネ剛性が高くなる。また、構成要素の摩擦力が小さいときは、下死点a1から上死点a3へのトータルの傾きである特性a0がシステムバネ剛性となり、変位量が最大の上死点における荷重(つまり、復元力)が小さくなってシステムバネ剛性が低くなる。
【0032】
すなわち、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する際には、マウント剛性(つまり、マウントラバー反力やロッドガイドの摺動抵抗)を変えて、サスペンション装置や減衰力可変ダンパによるバネ定数や荷重などを変えることなく、サスペンション装置のシステム全体のシステムバネ剛性を変えることができる。
【0033】
そこで、本発明の各実施形態に係るサスペンション装置では、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)を付加することにより、各構成要素のレイアウトや寸法公差などの制約条件に基づいて構成された一般的なサスペンション装置で実現されるシステムバネ剛性を積極的に制御することにより、サスペンション装置に所望のバネ上応答を実現させるようにしている。
【0034】
以下、本発明に係るサスペンション装置の幾つかの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0035】
(第1実施形態)
図3(a)と(b)に、本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置およびその周辺構成を示す。図3(a)に車両の後方から透視した構成図を示し、図3(b)に上方から透視した構成図を示す。なお、図3(a)において、図の左矢印が車両の左側、右矢印が車両の右側を示し、図の上側が車両の上部、図の下側が車両の下部を示し、かつ、紙裏側が車両の前方、紙表側が車両の後方を示している。
【0036】
図3(a)と(b)において、タイヤ2は図示しないホイールを介してハブ3に回動可能に固定されている。ハブ3にはステアリングナックル4が取付けられている。サスペンション装置1aは、ステアリングナックル4の上部側のダンパ保持部4aの上に取り付けられている。すなわち、このサスペンション装置1aは、ダンパ保持部4aの上部に取り付けられたアクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5と、アクチュエータ5の上部にブッシュ(ダンパ下端の取付部:マウントラバー)6aによって可動自在に取り付けられたダンパ(振動抑制手段)6と、ダンパ6と並列かつ伸縮自在に取り付けられたコイルバネ7と、ダンパ6とコイルバネ7の上部に取り付けられて車両のボディ(車体)9に可動自在に接続するブッシュ(ダンパ上端の取付部:マウントラバー)6bとを備えて構成されている。なお、ダンパ6は、振動抑制機能に加えて、車高調整機能を実現するための車高調整手段を備えることもできる。
【0037】
また、ステアリングナックル4とナックルロアアーム4bとの間には、タイヤ2に回転力を伝達させるためのドライブシャフト10が延在されている。また、ナックルロアアーム4bから、ロアボールジョイント11を介してロアアーム12が延在されてボディ9に固定されている。さらに、ステアリングナックル4からステアリングナックルアーム4cを介してタイロッド13が可動自在に取り付けられ、タイヤ2を転舵できるように構成されている。
【0038】
また、図3に示すように、サスペンション装置1aの動作状態を検出する手段として、車両の振動状態を検出する振動状態検出手段15と、車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段16と、車両の姿勢状態を検出する姿勢状態検出手段17とが備えられている。なお、旋回状態検出手段16と姿勢状態検出手段17はいずれか1つを設けてもよい。また、車両の振動状態は、車両の加速度を計測したり、車両左右のダンパ6の伸縮状態(サスペンション変位)を計測したり、横方向加速度(横G)を計測したりすることで検出することができる。車両の旋回状態と姿勢状態は、操舵角を計測したり、車両左右のダンパ6の伸縮状態(サスペンション変位)を計測したり、横方向加速度(横G)を計測したりすることで検出することができる。
【0039】
図4に、図3の構成図におけるステアリングナックル4とアクチュエータ5とダンパ下端の取付部6aとの位置関係を示す。なお、図4では、図の左方が車両の前方、図の右方が車両の後方を示している。ダンパ下端の取付部6aにアクチュエータ5を付加し、このアクチュエータ5を回動自在にステアリングナックル4(実際にはダンパ保持部4a)に取り付ける。すなわち、ダンパ下端の取付部6aとステアリングナックル4とを仲介する位置にアクチュエータ5を配置する。
【0040】
そして、アクチュエータ5の駆動力によって、図4の矢印b,c方向(車両の前後方向)に示すように、ダンパ下端の取付部6aをステアリングナックル4から相対的に車両の前後方向に変位させることにより、ダンパ6の中心軸6cの軸方向を中立時の矢印dから最大変位時の矢印eの方向へと、最大変位時の矢印fの方向へ、また、それらの逆方向へ、傾斜させることができる。これによって、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力を増減させるような制御をすることができる。すなわち、ダンパ下端の取付部6aが変位しないでダンパ6の中心軸6cの軸方向が矢印dのときは、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力は小さくなり、ダンパ下端の取付部6aが矢印b,cの方向に変位してダンパ6の中心軸6cの軸方向が矢印e,fの方向へ傾いたときは、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力は大きくなる。こうして、コイルバネ7によるバネ剛性に、増減制御可能なダンパ6の摩擦力によるマウント剛性が加算され、トータルとしてのシステムバネ剛性を増減させる制御を行うことができる。
【0041】
なお、アクチュエータ5は、ダンパ下端の取付部6aに変位を発生させるものであれば動力や形式などは問わない。また、ダンパ下端の取付部6aの変位方向は、図4に示す方向と直角な方向であっても、ダンパ6の摩擦力を変化させることができればよい。
【0042】
次に、図3に示す構成のサスペンション装置1aで実現させる制御方法の内容について説明する。図5に、第1実施形態のサスペンション装置1aにおける第1の制御方法を示す。一般的に、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性は、車両の乗心地に対してはシステムバネ剛性が低く、操作の安定性に対してはシステムバネ剛性が高いことが求められる。したがって、車両の走行状態を判定してシステムバネ剛性を制御する。
【0043】
まず、ステップS1で、振動状態検出手段15と、旋回状態検出手段16と、姿勢状態検出手段17は、車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位などによって車両の走行状態(振動状態、旋回状態、姿勢状態)を検出する。また、速度計は、車速を計測(検出)する。そして、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、検出された車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位、車速などを取得する。
【0044】
次に、ステップS2で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、車両の走行状態が旋回中、急加速中、急ブレーキ中などであって、走行時の安定性が現状よりさらに必要か(例えば、車両左右でのサスペンション変位の差が所定値を超えているか)否かを判定する。ここで、車両の走行状態が旋回中などではなく、走行時の安定性を特に必要としない場合は(ステップS2でNo)、ステップS1に戻り、車両の走行状態を継続して検出する。一方、車両の走行状態が旋回中などであり、走行時の安定性を必要とする場合は(ステップS2でYes)、ステップS3に進む。
【0045】
ステップS3で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、アクチュエータ5に対して、システムバネ剛性を増加させる方向に、ダンパ6の下端(ダンパ下端の取付部6a)を変位させるように指示を出す。これによって、アクチュエータ5はダンパ6の下端を、車両の前後方向に大きく変位させるので、ダンパ6の中心軸6cの軸方向が傾き、摩擦力が増加してマウント剛性が増加する。その結果、サスペンション装置のシステムバネ剛性が増加する。これによって、車両は、旋回時等における操作の安定性を確保することができる。
【0046】
また、路面状態によってタイヤ2がボディ(車体)9に対して上下する際には、車両の前後方向においても同時に変位が発生する。すなわち、車両の前後方向の変位は、ボディ9の前部が下がるアンチダイブ・スコート、および路面状態によってボディ9に感じる振動などのハーシュネスの対策などによって定まるが、タイヤ2の取り付け状態によるアライメントの変化を決める位置関係を示すジオメトリの変化によっても、ダンパ6の摩擦力の増加が発生する。これによって、意図しないシステムバネ剛性の上昇が発生することがある。このような場合は、図3に示すサスペンション装置1aの機構によって、ダンパ6の摩擦力を減少させる方向にダンパ6の下端の変位量を制御して、システムバネ剛性を低下させることによって車体の振動エネルギを減少させることができる(第2の制御方法)。
【0047】
図6に、図3に示す第1実施形態のサスペンション装置1aにおける第2の制御方法を示す。まず、ステップS11で、振動状態検出手段15と、旋回状態検出手段16と、姿勢状態検出手段17は、車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位などによって車両の走行状態(振動状態、旋回状態、姿勢状態)を検出する。また、速度計は、車速を計測(検出)する。そして、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、検出された車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位、車速などを取得する。
【0048】
次に、ステップS12で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、車両の走行状態が直進走行であって、かつ、ハーシュネス等があるために、現状よりさらにゆったり感が必要か(例えば、ハーシュネス等によるサスペンション変位が所定値を超えているか)否かを判定する。ここで、車両は直進走行中でなく、ゆったり感を必要としない場合は(ステップS12でNo)、ステップS11に戻り、車両の走行状態を継続して検出する。一方、車両の走行状態が直進走行中であり、かつ、現状よりさらにゆったり感を必要とするときは(ステップS12でYes)、ステップS13に進む。
【0049】
ステップS13で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、アクチュエータ5に対して、システムバネ剛性を減少させる方向に、ダンパ6の下端(ダンパ下端の取付部6a)を変位させるように指示を出す。これによって、アクチュエータ5はダンパ6の下端を、車両の前後方向に変位させ、ダンパ6の中心軸6cの軸方向が傾き、摩擦力が減少してマウント剛性が低下する。その結果、サスペンション装置のシステムバネ剛性が低下する。これによって、車両は、直進走行時において、システムバネ剛性を低下させることによって、車体の振動エネルギを減少させることができる。
【0050】
(第2実施形態)
第1実施形態のサスペンション装置1aは、図3(b)に示すようにダンパ6の下端にアクチュエータ5を付加し、そのアクチュエータ5によってダンパ6の下端を車両の前後方向に変位させて、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を制御した。第2実施形態のサスペンション装置1aでは、第1実施形態と同様に、図3(b)に示すようにダンパ6の下端にアクチュエータ5を付加するが、アクチュエータ5によってダンパ6の下端を車両の左右方向(図3(b)における図の左右方向)に変位させて、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を制御するようにした。
【0051】
図7に、第2実施形態のサスペンション装置1bのステアリングナックル4(ダンパ保持部4a)とアクチュエータ5とダンパ6との関係を示す。なお、図7において、矢印左の方向が車両の左方であり、矢印右の方向が車両の右方である。図7に示すように、ダンパ下端の取付部6aにアクチュエータ5を取り付け、このアクチュエータ5を回動自在にステアリングナックル4に取り付ける。すなわち、ダンパ下端の取付部6aとステアリングナックル4とを仲介する位置にアクチュエータ5を配置する。
【0052】
そして、アクチュエータ5の駆動力によって、図7の矢印b,c方向(車両の左右方向)に示すように、ダンパ下端の取付部6aをステアリングナックル4から相対的に車両の横方向(左右方向)に変位させることにより、第1実施形態と同様に、ダンパ6の中心軸6cの軸方向を左右方向に傾かせることができるので、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力を制御することができる。
【0053】
アクチュエータ5によってダンパ6の下端を左右方向へ変位させると、ダンパ6の下端が、ステアリングナックル4から延在されたダンパ保持部4aから相対的に車両の左右方向に変位する。これによって、ダンパ6は図示しないダンパ側壁の内筒と外筒を擦るために摩擦力が大きくなる。こうして、コイルバネ7によるバネ剛性に、増減制御可能なダンパ6の摩擦力によるマウント剛性が加算され、トータルとしてのシステムバネ剛性を増減させる制御を行うことができる。
【0054】
なお、アクチュエータ5は、ダンパ6に変位を発生させるものであれば動力や形式などは問わない。また、ダンパ6の変位方向は、第2実施形態のように車両の横方向(左右方向)である方が、第1実施形態のような車両の前後方向よりもシステムバネ剛性の効果は大きい。
【0055】
次に、第2実施形態のサスペンション装置1aで実現させる制御方法の内容について説明する。一般的に、サスペンション装置のシステムバネ剛性は乗心地に対しては低く、操作の安定性に対しては高いことが求められる。したがって、車両の走行状況を判定してシステムバネ剛性を制御する。
【0056】
この場合、走行中の車両が旋回中のなどであって走行時の安定性が必要か否かを判断して、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する場合は、前述の図5で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。また、走行中の車両が直進走行であって、かつ、ゆったり感が必要か否かを判断して、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を制御する場合は、前述の図6で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。
【0057】
また、路面状態によってタイヤ2がボディ9に対して上下する際には、ボディ9は横方向にも同時に変位する。一般的に、サスペンション装置1aの変位量は、ボディ9が前後方向に変位したときよりも横方向に変位したときの方が大きく、かつボディ9が横方向に変位したときのサスペンション装置1aの変位量は非線形特性になりやすい。図8は、ある車両について測定した、タイヤ2の前後方向と横方向の変位に対するサスペンション装置1aの上下変位との関係を示す特性図であり、横軸にタイヤ2の変位(前後方向と横方向)、縦軸にサスペンション装置1aの上下変位を示している。すなわち、図8に示すように、タイヤ2がボディ9に対して上下したときのタイヤ2の変位量(前後方向と横方向)に対するサスペンション装置1aの上下の変位量は、ボディ9が前後方向に変位したときよりもボディ9が横方向に変位したときの方が大きくなっており、かつ非線形特性になっている。
【0058】
このような現象により、路面状態によってタイヤ2がボディ9に対して上下する際には、ボディ9は横方向の変位によって、意図しないシステムバネ剛性の上昇が非線形に発生するおそれがある。したがって、第2実施形態のサスペンション装置1aにおいては、アクチュエータ5の駆動力によって、ダンパ6の下端を横方向に変位させることにより、ダンパ6の摩擦力がより効果的に減少する方向に制御して、システムバネ剛性を低下させることによってボディ9へ伝達される振動エネルギを減少させている。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態では、ダンパの上端にアクチュエータを付加した構成のサスペンション装置について説明する。図9は、本発明の第3実施形態に係るサスペンション装置1bおよびその周辺構成を示す構成図であり、(a)は車両の後方から透視した構成図、(b)は上方から透視した構成図である。なお、図9(a)において、図の左矢印が車両の左側、右矢印が車両の右側を示し、図の上側が車両の上部、図の下側が車両の下部を示し、かつ、紙裏側が車両の前方、紙表側が車両の後方を示している。
【0060】
図9の第3実施形態が図3の第1と2の実施形態と異なる点は、図3の第1と2の実施形態ではサスペンション装置1aを構成するダンパ6の下端にアクチュエータ5を付加したが、図9の第3実施形態ではサスペンション装置1bの上部にアクチュエータ5を付加してボディ9に接触させている点である。したがって、図3との相違点のみについて説明し、重複する説明は省略する。
【0061】
図9(a)に示すように、ダンパ6の上端(ダンパ上端の取付部6b)とボディ9を仲介する位置にアクチュエータ5を配置し、図9(b)に示すように、サスペンション装置1bの上端をボディ9から相対的に車両の横方向と前後方向に変位させることで、ダンパ6の中心軸6cを偏心させて摩擦力を制御している。なお、アクチュエータ5はダンパ6に変位を発生させるものであれば動力や形式などは問わない。
【0062】
ダンパ6の変位方向は前後方向および横方向における2自由度を持たせているので、特に摩擦力を下げてシステムバネ剛性を小さくする場合において最適化(最小化)を図ることができる。また、第3実施形態の構成においては、バネ上配置となるために耐振動性の面で有利である。
【0063】
次に、第3実施形態の構成のサスペンション装置1bが実現する制御方法について説明する。サスペンション装置のシステムバネ剛性は、乗心地に対しては低く、操作の安定性に対しては高いことが望ましいので、走行状態を判定してシステムバネ剛性を制御する。この場合、走行中の車両が旋回中のなどであって走行時の安定性が必要か否かを判断して、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する場合は、前記の図5で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。また、走行中の車両が直進走行であって、かつ、ゆったり感が必要か否かを判断して、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する場合は、前記の図6で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。
【0064】
また、タイヤ2がボディ9に対して上下する際には、車体の前後方向および横方向にも同時に変位し、車体が横方向に変位したときのサスペンション装置1bの変位量は大きくかつ非線形特性になりやすい。そのため、変位の組合せによっては意図しないシステムバネ剛性の上昇が非線形に発生することがある。ところが、本実施形態のサスペンション措置は2自由度で変位するため、ダンパ6の単体時の摩擦力とほぼ等しい程度まで摩擦力を減少させることができるので、結果的に、システムバネ剛性を最適(最小)に低下させて振動エネルギを減少させることができる。
【0065】
《実験結果》
前記の各実施形態に係るサスペンション装置1a、1bを車両に組込み、サスペンションシステムとして変位と荷重特性、およびボディ9側のバネ上応答への効果を検証した。図10は、本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置1aを車両に搭載したときのサスペンション特性の及ぼす効果を示す特性図であり、横軸に変位、縦軸に荷重を示している。そして、第2と3の実施形態に係るサスペンション装置1a、1bを車両に搭載したときのサスペンション特性でも、第1の実施形態と同様の効果を示す特性図を得ることができた。
【0066】
図10には、アクチュエータ5の可動部によってダンパ6の下端を中立時(位置)d(図4参照)にして計測した場合と、最大変位時(位置)f(図4参照)にして計測した場合を示したが、ダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fまで変位させると、平行四辺形型となる特性図も連続的に変化して荷重座標方向に拡大し、摩擦力は最小摩擦力F1から最大摩擦力F2に連続的に増大することが確認された。これによって、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を、最小摩擦力F1に相当する値から最大摩擦力F2に相当する値までの範囲で変化させる(制御する)ことができることがわかった。
【0067】
また、図11は、本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置1aを車両に搭載したときのボディ9側のバネ上応答に及ぼす効果を示す特性図であり、横軸に周波数、縦軸にバネ上加速度実効値を示している。すなわち、アクチュエータ5の可動部によってダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fに変位させた状況で、サスペンション装置1aがボディ9側に及ぼすバネ上応答を計測すると、図11に示すように、バネ上応答が変化することが確認された。中立時dより最大変位時fの方で、共振周波数(図11中のそれぞれの山型のグラフのピークを示す周波数)がより上昇し、その共振周波数におけるバネ上加速度実効値(図11中のそれぞれの山型のグラフのピーク)がより大きくなっている。これより、中立時dより最大変位時fの方で、バネ剛性が高くなっていることがわかった。図10に示すように平行四辺形型の特性図を荷重座標方向に拡大する(摩擦力を増大させる)ことで、図11に示すようにバネ剛性を高められることがわかった。そして、本発明の第2と3の実施形態に係るサスペンション装置1a、1bを車両に搭載したときのボディ9側のバネ上応答に及ぼす効果でも、第1の実施形態と同様の効果を示す特性図を得ることができた。
【0068】
すなわち、ダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fまで変位させることにより、路面からの振動周波数が所定の周波数以上になると、サスペンション装置1aのバネ上加速度実効値は、中立時dのバネ上加速度実効値から最大変位時fのバネ上加速度実効値まで上昇する。このことは、ダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fまで変位させることにより、共振周波数が上昇し、その共振周波数におけるバネ上加速度実効値が大きくなることから、システムバネ剛性が増加した特性を示しており、ボディ9側の振動エネルギを増減する制御が可能であることを示している。
【0069】
前記説明したように、本発明の各実施形態に係るサスペンション装置1a、1bは、本来は機構部分を動作させるときに減衰要素として作用する摩擦力を積極的に利用し、サスペンション装置1a、1bの特性を決定するシステムバネ剛性を変化させている。これによって、サスペンション装置1a、1bの単体のバネ剛性を変化させることなく、サスペンション特性の実効性が高い等価的なシステムバネ剛性を効果的に制御することができるので、車両の乗り心地と操作の安定性とを併せて実現することが可能となる。
【0070】
以上、本発明を3つの実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ダンパ6とアクチュエータ5の配置関係は前記の各実施形態に限定されるものではなく、ダンパ6を変位させる機構であればダンパ6とアクチュエータ5は如何なる位置関係にあって本発明に含まれる。
【0071】
本発明のサスペンション装置1a、1bによれば、各種構成要素の摩擦力や反力を利用するだけでシステムバネ剛性を可変制御することができるので、汎用車両から高級車両に至るまで有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1a,1b サスペンション装置
2 タイヤ(車輪)
3 ハブ
4 ステアリングナックル
4a ダンパ保持部
5 アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)
6 ダンパ(振動抑制手段、車高調整手段)
6a ダンパ下端の取付部
6b ダンパ上端の取付部
9 ボディ(車体)
15 振動状態検出手段
16 旋回状態検出手段
17 姿勢状態検出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、バネ上系とバネ下系との間に設けられて車両の緩衝動作を行うサスペンション装置に関し、特に、バネ剛性を変化させる機構を備えたサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンション装置としては、コイルバネと鋼鉄棒材のトーションバースプリングとを組み合わせて主バネのバネ剛性を変化させるものが知られている。また、走行中の車両に対して緩衝動作を行うサスペンション装置として、例えば、車速に応じてバネ定数を自動的に変化させるエアサスペンションシステムの技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、車速に応じて、ピストンロッドをシリンダ内に所定距離だけ押し込ませることにより、サブチャンバの容積を変化させてエアスプリングのバネ定数を変化させている。すなわち、車速が速いときはサブチャンバの容積を小さくして、ピストンロッドをシリンダ内にさらに押し込ませることにより、エアサスペンションシステムのバネ定数を大きくしている。また、車速が遅いときはサブチャンバの容積を大きくして、ピストンロッドをシリンダ内から引き出させることにより、エアサスペンションシステムのバネ定数を小さくしている。このようにして、車速に応じてエアサスペンションシステムのバネ定数の大きさを調整することによって、車速に応じた緩衝動作を行うようにしている。
【0003】
また、油圧緩衝器のピストンロッドを車体側に取付けるマウントラバーと、シリンダ内筒に設けられてピストンロッドを支持するロッドガイドとを備えてエアサスペンション装置を構成する技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。この技術によれば、エアサスペンション装置として、空気室と油圧緩衝器とが一体的に設けられていて、油圧緩衝器のピストンロッドの上端は、マウントラバーを介して車体側に連結されている。また、ピストンロッドはロッドガイドにより支持された構成となっている。このとき、空気室の空気圧でアクチュエータの可動隔壁を変位させている。このような構成により、エアサスペンション装置の部品点数を低減させることができると共に、そのエアサスペンション装置を安定的に動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−61873号公報
【特許文献2】特開2000−186736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示された技術は、車速に応じてサブチャンバの容積を変化させることにより、シリンダ内のピストロッドの位置を移動させて、エアサスペンションシステムのバネ定数の大きさを調整しているが、エアサスペンションシステムの系全体のバネ定数を制御するようには考慮されていない。言い換えると、この技術は、サブチャンバに連接するエアスプリングの内圧を可変させることによって、エアサスペンションシステムのバネ定数の大きさを調整している。
【0006】
ところが、自動車のサスペンションシステムは多くの要素の集合体で構成されていて、それらの集合体の近接する各要素が相互に影響を及ぼし合って、最終的に、エアサスペンションシステムの系全体のバネ特性を発揮している。しかし、特許文献1に開示された技術は、エアサスペンションシステムを構成する各要素の集合体としてのシステム全体のバネ特性は考慮されていない。すなわち、サブチャンバのバネ定数のみではシステム全体のバネ特性を得ることはできない。また、エアサスペンションシステムは、車速以外にも路面状態などによってバネ定数を調整する必要があるが、特許文献1に開示された技術は路面状態などについては考慮されていない。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術においては、マウントラバーはゴム等の可撓性材料によって形成されているため、路面からの外力などがピストンロッドを通じてマウントラバーに伝達された場合にはマウントラバーが変形する。このようなマウントラバーの変形時において、マウントラバーは固有のバネ定数を有するために、そのバネ定数に応じた反力を発生させる。すなわち、マウントラバー自体がバネ定数を有しているので、外力に対して所定の反力を発生させる。したがって、エアサスペンション装置は、空気バネのバネ定数だけではなく、マウントラバーのバネ定数なども考慮して設計しなければならないが、特許文献2の技術はマウントラバーのバネ定数を加える考慮はなされていない。
【0008】
また、エアサスペンション装置を構成するロッドガイドは、一般的に、ピストンを摺動可能なように支持されているため、油圧緩衝器のストローク時においてロッドガイドとピストンロッドとの間には摩擦力が発生する。したがって、マウントラバー自体のバネ定数やロッドガイドとピストンロッドとの間の摩擦力などが相互に影響を及ぼし合うために、サスペンション装置(または、サスペンションシステム)の系全体から生じるシステムバネ定数は、空気バネのバネ定数以外に各要素間で発生する様々なバネ定数を加える必要があるが、特許文献2の技術は各要素間で発生するバネ定数を加える考慮はなされていない。
【0009】
つまり、車両が目的とする姿勢制御や制振制御を行う際に、目標とするバネ定数の調整や振動減衰力を実現させるときに、エアサスペンションの空気室(例えば、サブチャンバなど)のバネ定数の調整、流体粘度の調整、あるいは流体の流路面積の調整などによって、振動減衰力を制御する減衰力可変ダンパが発生させる振動減衰力を所定の値に設定してしまうと、マウントラバーのバネ定数やピストンロッドの摺動抵抗(摩擦力)が影響して、サスペンションシステムの系全体としては目的とするバネ定数や減衰力からずれてしまう。その結果、車両の姿勢制御や制振制御において、意図しない影響を及ぼすおそれがある。
【0010】
言い換えると、マウントラバーで発生するバネ定数やピストンロッドの摩擦力も考慮して、サスペンション装置のシステム全体としてバネ剛性を調整することにより、サスペンション装置全体として目標とするバネ定数や減衰力(荷重)を発生させて、車両に対して所望の制振制御や姿勢制御を行う必要があるか、特許文献1や特許文献2に開示された技術では、サスペンション装置の系全体としてバネ剛性を調整することはできない。また、これらの技術では、エアサスペンション(空気バネ)や減衰力可変ダンパを用いることなく、マウントラバーのバネ定数やロッドガイドの摩擦力を有効に利用して、サスペンション装置全体のシステムバネ剛性を所望の剛性に調整することができない。すなわち、サスペンション装置において、主バネのバネ剛性だけを変化させても、システム全体のシステムバネ剛性を所望の剛性に変化させることはできない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、多数の要素の集合体で構成されているサスペンション装置の各要素及び要素間の摩擦力等を有効に利用することにより、システム全体としてのシステムバネ剛性を最適に発揮させることができるサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るサスペンション装置は、車両の車輪または車体から伝達される振動を抑制する振動抑制手段、または前記車体の高さを調整する車高調整手段を有するサスペンション装置において、
前記振動抑制手段または前記車高調整手段の前記車体への取付状態を調整して、サスペンション装置のシステム全体で発揮するシステムバネ剛性の制御を行うシステムバネ剛性制御手段を備えることを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、システムバネ剛性制御手段が、振動抑制手段または車高調整手段の車体への取付状態を調整することができるので、要素間の摩擦力等を調整することができ、サスペンション装置のシステム全体で発揮するシステムバネ剛性を制御することができる。そのため、振動抑制手段や車高調整手段に固有の主バネ剛性に加えて、振動抑制手段や車高調整手段以外の構成要素が発揮するマウントバネ剛性も付加されたシステムバネ剛性によって車両の制振制御や姿勢制御を行うことが可能となる。これによって、車両の走行状態に応じてきめ細かな振動制御や姿勢制御を行うことができる。
【0014】
本発明の請求項2に係るサスペンション装置は、請求項1に記載のサスペンション装置において、
前記振動抑制手段、または前記車高調整手段は、前記車輪側と前記車体側との間に接続され、前記車輪側と前記車体側との相対移動を減衰させる減衰力を発生させるダンパ装置であり、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の車輪側または車体側の取付部に設けられ、前記ダンパ装置の取付位置を移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴としている。
【0015】
この構成によれば、ダンパ装置の車両へ(車輪側または車体側へ)の取付位置を移動させることで、単にダンパ装置の主バネ剛性が発揮する荷重(減衰力)だけではなく、各種構成要素が発生するマウント剛性も含めて、サスペンション装置のシステム全体として発揮するシステムバネ剛性を調整することができる。そのため、車両の制振制御や姿勢制御の精度を向上させることが可能となる。なお、振動抑制手段はダンパ機能を備えているが、車高調整手段はダンパ機能と車高調整機能とを備えている。
【0016】
本発明の請求項3に係るサスペンション装置は、請求項2に記載のサスペンション装置において、前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の取付位置を前記車両の前後方向または車幅方向、もしくはその両方向に移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴としている。
【0017】
この構成によれば、ダンパ装置の取付位置を任意の方向へ変化させることができるため、それに伴ってダンパ装置の車体への傾斜状態を任意の方向へ変化させることができる。したがって、ダンパ装置の内部で発生する摺動による摩擦力をきめ細かく変化させることができるので、サスペンション装置のシステムバネ剛性を微細に調整することが可能となる。これによって、車両の制振制御や姿勢制御の精度をさらに向上させることができる。
【0018】
本発明の請求項4に係るサスペンション装置は、請求項1乃至3の何れかに記載のサスペンション装置において、前記車両の振動状態を検出する振動状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記振動状態検出手段が検出した前記車両の振動状態が所定の振動状態を超えたとき、前記システムバネ剛性を減少させるように制御することを特徴としている。
【0019】
この構成によれば、システムバネ剛性制御手段は、振動状態検出手段が検出した車両の振動情報に基づいて、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御することができ、車両の振動が大きい場合には、サスペンション装置のシステムバネ剛性を下げることで、車両の乗心地を向上させることができる。
【0020】
本発明の請求項5に係るサスペンション装置は、請求項1乃至4の何れかに記載のサスペンション装置において、前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段、または前記車両の姿勢状態を検出する姿勢状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記旋回状態検出手段が検出した前記車両の旋回状態が所定の旋回状態(角度)を超えたとき、または前記姿勢状態検出手段が検出した前記車両の姿勢状態が所定の傾斜角度を超えたとき、前記システムバネ剛性を増加させるように制御することを特徴としている。
【0021】
この構成によれば、サスペンション装置のシステム全体としてのシステムバネ剛性を大きくして、旋回性能を高めたり、姿勢傾斜の抑制を促進したりすることができるので、走行中の車両における操作の安定性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多数の要素の集合体で構成されているサスペンション装置の各要素及び要素間の摩擦力等を有効に利用することにより、システム全体としてのシステムバネ剛性を最適に発揮させることができるサスペンション装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の各実施形態に係るサスペンション装置におけるシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図である。
【図2】図1の特性図において特性aと特性bの下死点を一致させたときのシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置およびその周辺構成を示す構成図であり、(a)は車両の後方から透視した構成図、(b)は上方から透視した構成図である。
【図4】図3の構成図におけるステアリングナックル4とアクチュエータ5とダンパ6の下端の取付部6aとの位置関係を下方から鳥瞰して示す第1実施形態のサスペンション装置の模式図である。
【図5】本発明の各実施形態に係るサスペンション装置における第1の制御方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の各実施形態に係るサスペンション装置における第2の制御方法を示すフローチャートである。
【図7】図3の構成図におけるステアリングナックル4とアクチュエータ5とダンパ6の下端の取付部6aとの位置関係を下方から鳥瞰して示す第2実施形態のサスペンション装置の模式図である。
【図8】ある車両について測定した、タイヤの変位(前後方向と横方向)とサスペンション装置の上下変位との関係を示す特性図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るサスペンション装置およびその周辺構成を示す構成図であり、(a)は車両の後方から透視した構成図、(b)は上方から透視した構成図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置を車両に搭載したときのサスペンション特性の及ぼす効果を示す特性図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置を車両に搭載したときの車体側のバネ上応答に及ぼす効果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
自動車のサスペンション装置は多くの要素の集合体で構成されているため、近接する各要素が相互に影響を及ぼし合って、最終的にシステムとしてのサスペンション特性を発揮している。具体的には、主バネやダンパやダンパーマウントなどがサスペンション装置の構成要素となっている。したがって、サスペンション装置のシステムとしての応答性は、主バネのバネ剛性ではなく、システム全体のシステムバネ剛性に支配されることになる。
【0025】
本発明のサスペンション装置は、アクティブサスペンションで調整可能なバネ定数や荷重のみならず、サスペンション装置を構成するマウントラバーのバネ定数やロッドガイドの摺動抵抗など、サスペンション装置を構成する各種の要素や要素間で発生する反力や摺動抵抗を有効に利用して、サスペンション装置のシステム全体のバネ剛性(システムバネ剛性)を制御することを特徴としている。なお、バネ剛性(N/m)とは、ある物体を撓ませたときに発生する接触力(つまり、反力や加重)の比率に相当するものである。したがって、マウントラバーの反力やロッドガイドの摩擦力などは、サスペンション装置のシステム全体で見たときに、ピストンロッドをストロークさせたときに発生する荷重として捉えられるため、サスペンションシステム全体のシステムバネ剛性に影響を与えることができる。
【0026】
図1は、本発明の各実施形態に係るサスペンション装置におけるシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図であり、横軸に変位、縦軸に荷重を表わしている。図1において、特性aは、構成要素の摩擦力が小さいとき(低摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性であり、特性bは、構成要素の摩擦力が大きいとき(高摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性である。低摩擦時の特性aにおけるa1−a2間、およびa3−a4間、高摩擦時の特性bにおけるb1−b2間、およびb3−b4間は、サスペンション装置や可変減衰力ダンパによって特性変更が可能な主バネ剛性の特性領域である。この主バネ剛性の特性領域においては、特性a、bのいずれの特性においても、主バネ剛性の特性に基づいて変位量に比例して荷重は増加(または、減少)している。
【0027】
また、低摩擦時の特性aにおけるa2−a3間、およびa4−a1間、高摩擦時の特性bにおけるb2−b3間、およびb4−b1間は、マウントラバーの反力やロッドガイドの摺動抵抗などによって定まるマウント剛性の特性領域である。このマウント剛性の特性領域は、特性a、bのいずれの特性においても、マウントラバーの反力やロッドガイドの摺動抵抗などによるマウント剛性によって荷重は急激に増加(または、減少)する。
【0028】
すなわち、図1に示すように、システムバネ剛性の特性は、マウントラバーの反力やロッドガイドの摺動抵抗などによって生じるヒステリシスを有し、主バネ剛性により増加または減少し、所定の変位量を超えるとマウント剛性によって荷重は急激に増加または減少する。
【0029】
さらに詳しく述べると、構成要素の摩擦力が小さいとき(低摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性は特性aのようなループを描き、構成要素の摩擦力が大きいとき(高摩擦時)のシステムバネの変位−荷重特性は特性bのようなループを描く。つまり、サスペンション装置の変位−荷重特性においては、低摩擦時の特性aと高摩擦時の特性bは、ともに平行四辺形の相似形特性を描く。なお、構成要素の摩擦力が0のときはマウント剛性による急激な荷重の変化はないので、ほぼ主バネ剛性の特性に基づいた1本の比例特性となる。
【0030】
図2は、図1の特性図において特性aと特性bの下死点を一致させたときのシステムバネの変位−荷重特性を示す特性図であり、横軸に変位、縦軸に荷重を表わしている。特性aと特性bを比較して、サスペンション装置の下死点から上死点までの変位運動の挙動を見ると、摩擦力の大きさの差が、マウント剛性に大きな影響を与え、主バネ剛性にはあまり影響を与えていないことがわかる。
【0031】
結果的には、構成要素の摩擦力が大きいときは、下死点b1から上死点b3へのトータルの傾きである特性b0がシステムバネ剛性となり、変位量が最大の上死点における荷重(つまり、復元力)が大きくなってシステムバネ剛性が高くなる。また、構成要素の摩擦力が小さいときは、下死点a1から上死点a3へのトータルの傾きである特性a0がシステムバネ剛性となり、変位量が最大の上死点における荷重(つまり、復元力)が小さくなってシステムバネ剛性が低くなる。
【0032】
すなわち、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する際には、マウント剛性(つまり、マウントラバー反力やロッドガイドの摺動抵抗)を変えて、サスペンション装置や減衰力可変ダンパによるバネ定数や荷重などを変えることなく、サスペンション装置のシステム全体のシステムバネ剛性を変えることができる。
【0033】
そこで、本発明の各実施形態に係るサスペンション装置では、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)を付加することにより、各構成要素のレイアウトや寸法公差などの制約条件に基づいて構成された一般的なサスペンション装置で実現されるシステムバネ剛性を積極的に制御することにより、サスペンション装置に所望のバネ上応答を実現させるようにしている。
【0034】
以下、本発明に係るサスペンション装置の幾つかの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0035】
(第1実施形態)
図3(a)と(b)に、本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置およびその周辺構成を示す。図3(a)に車両の後方から透視した構成図を示し、図3(b)に上方から透視した構成図を示す。なお、図3(a)において、図の左矢印が車両の左側、右矢印が車両の右側を示し、図の上側が車両の上部、図の下側が車両の下部を示し、かつ、紙裏側が車両の前方、紙表側が車両の後方を示している。
【0036】
図3(a)と(b)において、タイヤ2は図示しないホイールを介してハブ3に回動可能に固定されている。ハブ3にはステアリングナックル4が取付けられている。サスペンション装置1aは、ステアリングナックル4の上部側のダンパ保持部4aの上に取り付けられている。すなわち、このサスペンション装置1aは、ダンパ保持部4aの上部に取り付けられたアクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5と、アクチュエータ5の上部にブッシュ(ダンパ下端の取付部:マウントラバー)6aによって可動自在に取り付けられたダンパ(振動抑制手段)6と、ダンパ6と並列かつ伸縮自在に取り付けられたコイルバネ7と、ダンパ6とコイルバネ7の上部に取り付けられて車両のボディ(車体)9に可動自在に接続するブッシュ(ダンパ上端の取付部:マウントラバー)6bとを備えて構成されている。なお、ダンパ6は、振動抑制機能に加えて、車高調整機能を実現するための車高調整手段を備えることもできる。
【0037】
また、ステアリングナックル4とナックルロアアーム4bとの間には、タイヤ2に回転力を伝達させるためのドライブシャフト10が延在されている。また、ナックルロアアーム4bから、ロアボールジョイント11を介してロアアーム12が延在されてボディ9に固定されている。さらに、ステアリングナックル4からステアリングナックルアーム4cを介してタイロッド13が可動自在に取り付けられ、タイヤ2を転舵できるように構成されている。
【0038】
また、図3に示すように、サスペンション装置1aの動作状態を検出する手段として、車両の振動状態を検出する振動状態検出手段15と、車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段16と、車両の姿勢状態を検出する姿勢状態検出手段17とが備えられている。なお、旋回状態検出手段16と姿勢状態検出手段17はいずれか1つを設けてもよい。また、車両の振動状態は、車両の加速度を計測したり、車両左右のダンパ6の伸縮状態(サスペンション変位)を計測したり、横方向加速度(横G)を計測したりすることで検出することができる。車両の旋回状態と姿勢状態は、操舵角を計測したり、車両左右のダンパ6の伸縮状態(サスペンション変位)を計測したり、横方向加速度(横G)を計測したりすることで検出することができる。
【0039】
図4に、図3の構成図におけるステアリングナックル4とアクチュエータ5とダンパ下端の取付部6aとの位置関係を示す。なお、図4では、図の左方が車両の前方、図の右方が車両の後方を示している。ダンパ下端の取付部6aにアクチュエータ5を付加し、このアクチュエータ5を回動自在にステアリングナックル4(実際にはダンパ保持部4a)に取り付ける。すなわち、ダンパ下端の取付部6aとステアリングナックル4とを仲介する位置にアクチュエータ5を配置する。
【0040】
そして、アクチュエータ5の駆動力によって、図4の矢印b,c方向(車両の前後方向)に示すように、ダンパ下端の取付部6aをステアリングナックル4から相対的に車両の前後方向に変位させることにより、ダンパ6の中心軸6cの軸方向を中立時の矢印dから最大変位時の矢印eの方向へと、最大変位時の矢印fの方向へ、また、それらの逆方向へ、傾斜させることができる。これによって、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力を増減させるような制御をすることができる。すなわち、ダンパ下端の取付部6aが変位しないでダンパ6の中心軸6cの軸方向が矢印dのときは、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力は小さくなり、ダンパ下端の取付部6aが矢印b,cの方向に変位してダンパ6の中心軸6cの軸方向が矢印e,fの方向へ傾いたときは、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力は大きくなる。こうして、コイルバネ7によるバネ剛性に、増減制御可能なダンパ6の摩擦力によるマウント剛性が加算され、トータルとしてのシステムバネ剛性を増減させる制御を行うことができる。
【0041】
なお、アクチュエータ5は、ダンパ下端の取付部6aに変位を発生させるものであれば動力や形式などは問わない。また、ダンパ下端の取付部6aの変位方向は、図4に示す方向と直角な方向であっても、ダンパ6の摩擦力を変化させることができればよい。
【0042】
次に、図3に示す構成のサスペンション装置1aで実現させる制御方法の内容について説明する。図5に、第1実施形態のサスペンション装置1aにおける第1の制御方法を示す。一般的に、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性は、車両の乗心地に対してはシステムバネ剛性が低く、操作の安定性に対してはシステムバネ剛性が高いことが求められる。したがって、車両の走行状態を判定してシステムバネ剛性を制御する。
【0043】
まず、ステップS1で、振動状態検出手段15と、旋回状態検出手段16と、姿勢状態検出手段17は、車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位などによって車両の走行状態(振動状態、旋回状態、姿勢状態)を検出する。また、速度計は、車速を計測(検出)する。そして、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、検出された車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位、車速などを取得する。
【0044】
次に、ステップS2で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、車両の走行状態が旋回中、急加速中、急ブレーキ中などであって、走行時の安定性が現状よりさらに必要か(例えば、車両左右でのサスペンション変位の差が所定値を超えているか)否かを判定する。ここで、車両の走行状態が旋回中などではなく、走行時の安定性を特に必要としない場合は(ステップS2でNo)、ステップS1に戻り、車両の走行状態を継続して検出する。一方、車両の走行状態が旋回中などであり、走行時の安定性を必要とする場合は(ステップS2でYes)、ステップS3に進む。
【0045】
ステップS3で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、アクチュエータ5に対して、システムバネ剛性を増加させる方向に、ダンパ6の下端(ダンパ下端の取付部6a)を変位させるように指示を出す。これによって、アクチュエータ5はダンパ6の下端を、車両の前後方向に大きく変位させるので、ダンパ6の中心軸6cの軸方向が傾き、摩擦力が増加してマウント剛性が増加する。その結果、サスペンション装置のシステムバネ剛性が増加する。これによって、車両は、旋回時等における操作の安定性を確保することができる。
【0046】
また、路面状態によってタイヤ2がボディ(車体)9に対して上下する際には、車両の前後方向においても同時に変位が発生する。すなわち、車両の前後方向の変位は、ボディ9の前部が下がるアンチダイブ・スコート、および路面状態によってボディ9に感じる振動などのハーシュネスの対策などによって定まるが、タイヤ2の取り付け状態によるアライメントの変化を決める位置関係を示すジオメトリの変化によっても、ダンパ6の摩擦力の増加が発生する。これによって、意図しないシステムバネ剛性の上昇が発生することがある。このような場合は、図3に示すサスペンション装置1aの機構によって、ダンパ6の摩擦力を減少させる方向にダンパ6の下端の変位量を制御して、システムバネ剛性を低下させることによって車体の振動エネルギを減少させることができる(第2の制御方法)。
【0047】
図6に、図3に示す第1実施形態のサスペンション装置1aにおける第2の制御方法を示す。まず、ステップS11で、振動状態検出手段15と、旋回状態検出手段16と、姿勢状態検出手段17は、車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位などによって車両の走行状態(振動状態、旋回状態、姿勢状態)を検出する。また、速度計は、車速を計測(検出)する。そして、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、検出された車両の舵角、横方向加速度(横G)、サスペンション変位、車速などを取得する。
【0048】
次に、ステップS12で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、車両の走行状態が直進走行であって、かつ、ハーシュネス等があるために、現状よりさらにゆったり感が必要か(例えば、ハーシュネス等によるサスペンション変位が所定値を超えているか)否かを判定する。ここで、車両は直進走行中でなく、ゆったり感を必要としない場合は(ステップS12でNo)、ステップS11に戻り、車両の走行状態を継続して検出する。一方、車両の走行状態が直進走行中であり、かつ、現状よりさらにゆったり感を必要とするときは(ステップS12でYes)、ステップS13に進む。
【0049】
ステップS13で、アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)5の制御部は、アクチュエータ5に対して、システムバネ剛性を減少させる方向に、ダンパ6の下端(ダンパ下端の取付部6a)を変位させるように指示を出す。これによって、アクチュエータ5はダンパ6の下端を、車両の前後方向に変位させ、ダンパ6の中心軸6cの軸方向が傾き、摩擦力が減少してマウント剛性が低下する。その結果、サスペンション装置のシステムバネ剛性が低下する。これによって、車両は、直進走行時において、システムバネ剛性を低下させることによって、車体の振動エネルギを減少させることができる。
【0050】
(第2実施形態)
第1実施形態のサスペンション装置1aは、図3(b)に示すようにダンパ6の下端にアクチュエータ5を付加し、そのアクチュエータ5によってダンパ6の下端を車両の前後方向に変位させて、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を制御した。第2実施形態のサスペンション装置1aでは、第1実施形態と同様に、図3(b)に示すようにダンパ6の下端にアクチュエータ5を付加するが、アクチュエータ5によってダンパ6の下端を車両の左右方向(図3(b)における図の左右方向)に変位させて、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を制御するようにした。
【0051】
図7に、第2実施形態のサスペンション装置1bのステアリングナックル4(ダンパ保持部4a)とアクチュエータ5とダンパ6との関係を示す。なお、図7において、矢印左の方向が車両の左方であり、矢印右の方向が車両の右方である。図7に示すように、ダンパ下端の取付部6aにアクチュエータ5を取り付け、このアクチュエータ5を回動自在にステアリングナックル4に取り付ける。すなわち、ダンパ下端の取付部6aとステアリングナックル4とを仲介する位置にアクチュエータ5を配置する。
【0052】
そして、アクチュエータ5の駆動力によって、図7の矢印b,c方向(車両の左右方向)に示すように、ダンパ下端の取付部6aをステアリングナックル4から相対的に車両の横方向(左右方向)に変位させることにより、第1実施形態と同様に、ダンパ6の中心軸6cの軸方向を左右方向に傾かせることができるので、ダンパ6の図示しないダンパ側壁の内筒と外筒との間に生じる摩擦力を制御することができる。
【0053】
アクチュエータ5によってダンパ6の下端を左右方向へ変位させると、ダンパ6の下端が、ステアリングナックル4から延在されたダンパ保持部4aから相対的に車両の左右方向に変位する。これによって、ダンパ6は図示しないダンパ側壁の内筒と外筒を擦るために摩擦力が大きくなる。こうして、コイルバネ7によるバネ剛性に、増減制御可能なダンパ6の摩擦力によるマウント剛性が加算され、トータルとしてのシステムバネ剛性を増減させる制御を行うことができる。
【0054】
なお、アクチュエータ5は、ダンパ6に変位を発生させるものであれば動力や形式などは問わない。また、ダンパ6の変位方向は、第2実施形態のように車両の横方向(左右方向)である方が、第1実施形態のような車両の前後方向よりもシステムバネ剛性の効果は大きい。
【0055】
次に、第2実施形態のサスペンション装置1aで実現させる制御方法の内容について説明する。一般的に、サスペンション装置のシステムバネ剛性は乗心地に対しては低く、操作の安定性に対しては高いことが求められる。したがって、車両の走行状況を判定してシステムバネ剛性を制御する。
【0056】
この場合、走行中の車両が旋回中のなどであって走行時の安定性が必要か否かを判断して、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する場合は、前述の図5で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。また、走行中の車両が直進走行であって、かつ、ゆったり感が必要か否かを判断して、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を制御する場合は、前述の図6で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。
【0057】
また、路面状態によってタイヤ2がボディ9に対して上下する際には、ボディ9は横方向にも同時に変位する。一般的に、サスペンション装置1aの変位量は、ボディ9が前後方向に変位したときよりも横方向に変位したときの方が大きく、かつボディ9が横方向に変位したときのサスペンション装置1aの変位量は非線形特性になりやすい。図8は、ある車両について測定した、タイヤ2の前後方向と横方向の変位に対するサスペンション装置1aの上下変位との関係を示す特性図であり、横軸にタイヤ2の変位(前後方向と横方向)、縦軸にサスペンション装置1aの上下変位を示している。すなわち、図8に示すように、タイヤ2がボディ9に対して上下したときのタイヤ2の変位量(前後方向と横方向)に対するサスペンション装置1aの上下の変位量は、ボディ9が前後方向に変位したときよりもボディ9が横方向に変位したときの方が大きくなっており、かつ非線形特性になっている。
【0058】
このような現象により、路面状態によってタイヤ2がボディ9に対して上下する際には、ボディ9は横方向の変位によって、意図しないシステムバネ剛性の上昇が非線形に発生するおそれがある。したがって、第2実施形態のサスペンション装置1aにおいては、アクチュエータ5の駆動力によって、ダンパ6の下端を横方向に変位させることにより、ダンパ6の摩擦力がより効果的に減少する方向に制御して、システムバネ剛性を低下させることによってボディ9へ伝達される振動エネルギを減少させている。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態では、ダンパの上端にアクチュエータを付加した構成のサスペンション装置について説明する。図9は、本発明の第3実施形態に係るサスペンション装置1bおよびその周辺構成を示す構成図であり、(a)は車両の後方から透視した構成図、(b)は上方から透視した構成図である。なお、図9(a)において、図の左矢印が車両の左側、右矢印が車両の右側を示し、図の上側が車両の上部、図の下側が車両の下部を示し、かつ、紙裏側が車両の前方、紙表側が車両の後方を示している。
【0060】
図9の第3実施形態が図3の第1と2の実施形態と異なる点は、図3の第1と2の実施形態ではサスペンション装置1aを構成するダンパ6の下端にアクチュエータ5を付加したが、図9の第3実施形態ではサスペンション装置1bの上部にアクチュエータ5を付加してボディ9に接触させている点である。したがって、図3との相違点のみについて説明し、重複する説明は省略する。
【0061】
図9(a)に示すように、ダンパ6の上端(ダンパ上端の取付部6b)とボディ9を仲介する位置にアクチュエータ5を配置し、図9(b)に示すように、サスペンション装置1bの上端をボディ9から相対的に車両の横方向と前後方向に変位させることで、ダンパ6の中心軸6cを偏心させて摩擦力を制御している。なお、アクチュエータ5はダンパ6に変位を発生させるものであれば動力や形式などは問わない。
【0062】
ダンパ6の変位方向は前後方向および横方向における2自由度を持たせているので、特に摩擦力を下げてシステムバネ剛性を小さくする場合において最適化(最小化)を図ることができる。また、第3実施形態の構成においては、バネ上配置となるために耐振動性の面で有利である。
【0063】
次に、第3実施形態の構成のサスペンション装置1bが実現する制御方法について説明する。サスペンション装置のシステムバネ剛性は、乗心地に対しては低く、操作の安定性に対しては高いことが望ましいので、走行状態を判定してシステムバネ剛性を制御する。この場合、走行中の車両が旋回中のなどであって走行時の安定性が必要か否かを判断して、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する場合は、前記の図5で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。また、走行中の車両が直進走行であって、かつ、ゆったり感が必要か否かを判断して、サスペンション装置のシステムバネ剛性を制御する場合は、前記の図6で示したフローチャートと同様の流れを示すので、その説明は省略する。
【0064】
また、タイヤ2がボディ9に対して上下する際には、車体の前後方向および横方向にも同時に変位し、車体が横方向に変位したときのサスペンション装置1bの変位量は大きくかつ非線形特性になりやすい。そのため、変位の組合せによっては意図しないシステムバネ剛性の上昇が非線形に発生することがある。ところが、本実施形態のサスペンション措置は2自由度で変位するため、ダンパ6の単体時の摩擦力とほぼ等しい程度まで摩擦力を減少させることができるので、結果的に、システムバネ剛性を最適(最小)に低下させて振動エネルギを減少させることができる。
【0065】
《実験結果》
前記の各実施形態に係るサスペンション装置1a、1bを車両に組込み、サスペンションシステムとして変位と荷重特性、およびボディ9側のバネ上応答への効果を検証した。図10は、本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置1aを車両に搭載したときのサスペンション特性の及ぼす効果を示す特性図であり、横軸に変位、縦軸に荷重を示している。そして、第2と3の実施形態に係るサスペンション装置1a、1bを車両に搭載したときのサスペンション特性でも、第1の実施形態と同様の効果を示す特性図を得ることができた。
【0066】
図10には、アクチュエータ5の可動部によってダンパ6の下端を中立時(位置)d(図4参照)にして計測した場合と、最大変位時(位置)f(図4参照)にして計測した場合を示したが、ダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fまで変位させると、平行四辺形型となる特性図も連続的に変化して荷重座標方向に拡大し、摩擦力は最小摩擦力F1から最大摩擦力F2に連続的に増大することが確認された。これによって、サスペンション装置1aのシステムバネ剛性を、最小摩擦力F1に相当する値から最大摩擦力F2に相当する値までの範囲で変化させる(制御する)ことができることがわかった。
【0067】
また、図11は、本発明の第1の実施形態に係るサスペンション装置1aを車両に搭載したときのボディ9側のバネ上応答に及ぼす効果を示す特性図であり、横軸に周波数、縦軸にバネ上加速度実効値を示している。すなわち、アクチュエータ5の可動部によってダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fに変位させた状況で、サスペンション装置1aがボディ9側に及ぼすバネ上応答を計測すると、図11に示すように、バネ上応答が変化することが確認された。中立時dより最大変位時fの方で、共振周波数(図11中のそれぞれの山型のグラフのピークを示す周波数)がより上昇し、その共振周波数におけるバネ上加速度実効値(図11中のそれぞれの山型のグラフのピーク)がより大きくなっている。これより、中立時dより最大変位時fの方で、バネ剛性が高くなっていることがわかった。図10に示すように平行四辺形型の特性図を荷重座標方向に拡大する(摩擦力を増大させる)ことで、図11に示すようにバネ剛性を高められることがわかった。そして、本発明の第2と3の実施形態に係るサスペンション装置1a、1bを車両に搭載したときのボディ9側のバネ上応答に及ぼす効果でも、第1の実施形態と同様の効果を示す特性図を得ることができた。
【0068】
すなわち、ダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fまで変位させることにより、路面からの振動周波数が所定の周波数以上になると、サスペンション装置1aのバネ上加速度実効値は、中立時dのバネ上加速度実効値から最大変位時fのバネ上加速度実効値まで上昇する。このことは、ダンパ6の下端を中立時(位置)dから最大変位時(位置)fまで変位させることにより、共振周波数が上昇し、その共振周波数におけるバネ上加速度実効値が大きくなることから、システムバネ剛性が増加した特性を示しており、ボディ9側の振動エネルギを増減する制御が可能であることを示している。
【0069】
前記説明したように、本発明の各実施形態に係るサスペンション装置1a、1bは、本来は機構部分を動作させるときに減衰要素として作用する摩擦力を積極的に利用し、サスペンション装置1a、1bの特性を決定するシステムバネ剛性を変化させている。これによって、サスペンション装置1a、1bの単体のバネ剛性を変化させることなく、サスペンション特性の実効性が高い等価的なシステムバネ剛性を効果的に制御することができるので、車両の乗り心地と操作の安定性とを併せて実現することが可能となる。
【0070】
以上、本発明を3つの実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ダンパ6とアクチュエータ5の配置関係は前記の各実施形態に限定されるものではなく、ダンパ6を変位させる機構であればダンパ6とアクチュエータ5は如何なる位置関係にあって本発明に含まれる。
【0071】
本発明のサスペンション装置1a、1bによれば、各種構成要素の摩擦力や反力を利用するだけでシステムバネ剛性を可変制御することができるので、汎用車両から高級車両に至るまで有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1a,1b サスペンション装置
2 タイヤ(車輪)
3 ハブ
4 ステアリングナックル
4a ダンパ保持部
5 アクチュエータ(システムバネ剛性制御手段)
6 ダンパ(振動抑制手段、車高調整手段)
6a ダンパ下端の取付部
6b ダンパ上端の取付部
9 ボディ(車体)
15 振動状態検出手段
16 旋回状態検出手段
17 姿勢状態検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪または車体から伝達される振動を抑制する振動抑制手段、または前記車体の高さを調整する車高調整手段を有するサスペンション装置において、
前記振動抑制手段または前記車高調整手段の前記車体への取付状態を調整して、サスペンション装置のシステム全体で発揮するシステムバネ剛性の制御を行うシステムバネ剛性制御手段を備えることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記振動抑制手段、または前記車高調整手段は、前記車輪側と前記車体側との間に接続され、前記車輪側と前記車体側との相対移動を減衰させる減衰力を発生させるダンパ装置であり、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の車輪側または車体側の取付部に設けられ、前記ダンパ装置の取付位置を移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の取付位置を前記車両の前後方向または車幅方向、もしくはその両方向に移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記車両の振動状態を検出する振動状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記振動状態検出手段が検出した前記車両の振動状態が所定の振動状態を超えたとき、前記システムバネ剛性を減少させるように制御することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段、または前記車両の姿勢状態を検出する姿勢状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記旋回状態検出手段が検出した前記車両の旋回状態が所定の旋回状態を超えたとき、または前記姿勢状態検出手段が検出した前記車両の姿勢状態が所定の傾斜角度を超えたとき、前記システムバネ剛性を増加させるように制御することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のサスペンション装置。
【請求項1】
車両の車輪または車体から伝達される振動を抑制する振動抑制手段、または前記車体の高さを調整する車高調整手段を有するサスペンション装置において、
前記振動抑制手段または前記車高調整手段の前記車体への取付状態を調整して、サスペンション装置のシステム全体で発揮するシステムバネ剛性の制御を行うシステムバネ剛性制御手段を備えることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記振動抑制手段、または前記車高調整手段は、前記車輪側と前記車体側との間に接続され、前記車輪側と前記車体側との相対移動を減衰させる減衰力を発生させるダンパ装置であり、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の車輪側または車体側の取付部に設けられ、前記ダンパ装置の取付位置を移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記システムバネ剛性制御手段は、前記ダンパ装置の取付位置を前記車両の前後方向または車幅方向、もしくはその両方向に移動させることによって前記システムバネ剛性を制御することを特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記車両の振動状態を検出する振動状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記振動状態検出手段が検出した前記車両の振動状態が所定の振動状態を超えたとき、前記システムバネ剛性を減少させるように制御することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段、または前記車両の姿勢状態を検出する姿勢状態検出手段を備え、
前記システムバネ剛性制御手段は、前記旋回状態検出手段が検出した前記車両の旋回状態が所定の旋回状態を超えたとき、または前記姿勢状態検出手段が検出した前記車両の姿勢状態が所定の傾斜角度を超えたとき、前記システムバネ剛性を増加させるように制御することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のサスペンション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−207346(P2011−207346A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77082(P2010−77082)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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