説明

サービス情報提供システム

【課題】コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末の位置するサービス領域に応じた最適なサービス情報を提供する。
【解決手段】建造物内の複数のエリアを移動可能な通信端末1と、通信端末1と無線通信可能なセンター装置2と、を有するサービス情報提供システムSであって、通信端末1は位置検出用電波を発し、センター装置2は、建造物内の所定の測定地点に設けられ、通信端末1の位置検出用電波の発信点を特定するとともに発信点の位置と、発信点からの位置検出用電波に含まれるID情報とによる特定結果に基づき、通信端末1が存在するエリアを検出し、この検出結果に基づき、対応したエリア情報を通信端末1へ送信し、通信端末1は送信されたサービス情報を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物内の複数のサービスエリア領域にそれぞれ対応する、サービス情報を提供するサービス情報提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、移動体通信技術の発達に伴い、個人が所持する携帯型の通信端末に様々な画像情報や音声情報を無線通信で提供可能となっている。
【0003】
従来、自機の現在位置を検出するGPS機能と、各種のメディアからコンテンツデータを選択して再生する機能とを組み合わせて、自機の現在位置に対応したコンテンツデータを選択・再生する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来技術では、携帯型の通信端末にGPS受信機が備えられている。そして、通信端末は、当該GPS受信機から位置情報を入力するとともに、地図情報データベースから地図情報を入力する。そして、通信端末は、上記位置情報と地図情報とに基づいて自機が存在する地点情報を抽出し、この地点情報に基づいてコンテンツデータを検索して取得し、再生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−152174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、例えばデパートや博物館などのサービス施設内で、予め来場者に所持させた携帯型の通信端末に、その時点で当該利用者が位置しているサービス領域に応じたサービス情報を無線通信で提供するシステムが要望されている。
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、移動体である通信端末自体がGPS受信機を備えて自機の現在位置を検出している。この結果、衛星通信ができない屋内などでは利用できず、通信端末自体がGPS受信機を備える必要があることでシステム全体のコストが増大する問題があった。
【0008】
本発明の目的は、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末の位置するサービス領域に応じた最適なサービス情報を提供できる、サービス情報提供システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、建造物内の複数のサービス領域を移動可能な少なくとも1つの通信端末と、前記通信端末に対し無線通信により情報送信可能な管理装置と、を有するサービス情報提供システムであって、前記通信端末は、自通信端末を特定するID情報を含んだ位置検出用電波を発する電波出力手段を有し、前記管理装置は、前記建造物内に位置する所定の測定地点に設けられ、複数のアンテナ素子を備えた受信アンテナと、ビームフォーミングにより前記複数のアンテナ素子の指向性を制御しつつ、所定の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信する受信制御手段と、前記受信制御手段により受信された前記全ての方向に含まれる複数の電波到達方向それぞれに対し、前記測定地点からレイトレーシング法により光を仮想的に仮想光線として放射し、前記建造物内の仮想電波伝播経路を算出する経路図において、前記建造物の構造及び各構造材の材質を前記仮想電波伝播経路を算出するパラメータとして用いて、前記放射した複数の仮想光線の中から異なる任意の2仮想光線を選択する組み合わせによって抽出された前記2仮想光線がお互いに最も近づいた位置を前記経路図上の近接点として、前記近接点を全て抽出する近接点抽出手段と、前記仮想電波伝播経路図の前記所定範囲において線密度計算により算出される前記近接点の数に基づき、前記位置検出用電波の発信点を特定する発信点特定手段と、前記発信点の位置と、前記発信点からの位置検出用電波に含まれたID情報とによる特定結果に基づき、前記複数のサービス領域のうち、前記通信端末が存在するサービス領域を検出する領域検出手段と、前記領域検出手段の検出結果に基づき、前記通信端末が存在する前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信するサービス情報提供手段と、を有し、前記通信端末は、前記サービス情報提供手段から送信された前記サービス情報を表示する表示手段を有することを特徴とする。
【0010】
本願第1発明のサービス情報提供システムでは、少なくとも1つの通信端末が建造物内の複数のサービス領域を移動可能に設けられる。管理装置の領域検出手段は、通信端末の位置するサービス領域の検出を行い、その位置検出結果に応じて、各サービス領域に対応したサービス情報を、サービス情報提供手段が通信端末へ送信する。通信端末は、送信されたサービス情報を、表示手段により表示する。
【0011】
ここで、上記サービス領域の検出を実行するために、管理装置は、建造物内の所定の測定地点に、複数のアンテナ素子を備えたアンテナを設けている。受信制御手段が、アンテナの複数のアンテナ素子の指向性をビームフォーミングにより制御しながら、所定の受信角範囲の全方向にわたり電波を受信する。そして、近接点抽出手段が、レイトレーシング法により、測定地点から、上記全方向に含まれる各電波到達方向に対し、仮想光を仮想的に放射する。このとき、予め、建造物の構造や各構造材の材質に関するパラメータが取得されており、レイトレーシング法を適用する際の各光線の減衰や反射の特性を含めて、上記パラメータを用いて仮想電波伝搬経路を算出し、その算出によって建造物内の仮想電波伝搬経路図が作成される。そして、近接点抽出手段は、放射した複数の仮想光線の中から異なる任意の2つの仮想光線を選択する組み合わせによって抽出された2つの仮想光線がお互いに最も近づいた位置を近接点とし、その近接点の全てを抽出する。以上のように、複数のアンテナ素子の受信方向をビームフォーミングで制御することで電波到達方向を的確に把握する。そして、把握された各電波到達方向に対しレイトレーシング法により放射される仮想光線の挙動に建造物構造や材質を反映させた上で、所定範囲内における各仮想光線の全近接点を抽出する。これにより、当該近接点のいずれか、又はその近傍が通信端末の電波出力手段からの位置検出用電波の発信点であると特定することができるので、高い精度で上記位置検出用電波の発信点を推定することができる。この結果、上記のように移動する通信端末が位置するサービス領域を正確に検出することができる。
【0012】
上記のように、本願第1発明においては、管理装置は、通信端末が発する位置検出用電波を用いて当該電波の発信点を特定する。これにより、従来構成のように通信端末側に別途GPS等の位置検出手段を設けることなく、通信端末の位置を検出することができる。この結果、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末の位置するサービス領域に応じた最適なサービス情報を提供することができる。
【0013】
第2発明は、上記第1発明において、前記管理装置は、さらに、前記領域検出手段の検出結果に基づき、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したか否かを判定する領域判定手段を有し、前記サービス情報提供手段は、前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定された場合に、当該変化後の前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信することを特徴とする。
【0014】
本願第2発明においては、通信端末が移動し、存在するサービス領域が変化した場合、管理装置の領域判定手段により当該サービス領域が変化したことが判定される。この結果、サービス情報提供手段が、変化後の新たなサービス領域に対応したサービス情報を通信端末へと送信する。これにより、少なくとも、通信端末が存在するサービス領域が変化しない間は、管理装置が新たなサービス情報を通信端末へ送信しないようにすることができる。この結果、既に通信端末側で受信し表示手段に表示しているサービス情報と同一のサービス情報を無駄に送信する可能性を低減し、無線通信の不要な錯綜を防止することができる。
【0015】
第3発明は、上記第2発明において、前記通信端末は、さらに、前記サービス情報提供手段から送信され、前記表示手段により表示するための前記サービス情報を記憶保持する情報記憶手段を有し、前記管理装置は、さらに、前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定された場合に、前記通信端末の前記情報記憶手段が保持している前記サービス情報の送信を前記通信端末へ要求する送信要求手段を有し、前記通信端末は、さらに、前記送信要求手段からの要求に応じて、前記情報記憶手段が保持している前記サービス情報を送信するサービス情報送信手段を有し、前記サービス情報提供手段は、前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定された場合に、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報の内容に応じて、前記変化後の前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信することを特徴とする。
【0016】
本願第3発明においては、通信端末は、既に管理装置のサービス情報提供手段から送信されたサービス情報を情報記憶手段で記憶保持している。前述のようにして通信端末の移動が管理装置側で認識された場合に、管理装置の送信要求手段が通信端末側へサービス情報の送信を要求し、この要求に応じて通信端末のサービス情報送信手段が、上記のように記憶保持しているサービス情報を管理装置へと送信する。これにより、管理装置では、当該送信されてきたサービス情報の内容に基づき、新たなサービス情報を通信端末へ送信すべきかどうかの必要性を認識可能となる。この結果、当該必要性があったときにのみサービス情報提供手段が新たなサービス情報を送信することができる。この結果、既に通信端末側で受信済みのサービス情報と同一のサービス情報を無駄に新たに送信する可能性を確実に低減することができる。
【0017】
第4発明は、上記第3発明において、前記管理装置は、さらに、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報の内容が、対応する前記サービス領域に係わる最新の情報であるか否かを判定する更新判定手段を有し、前記サービス情報提供手段は、前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定され、前記更新判定手段により、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報が前記サービス領域に係わる最新の情報ではないと判定された場合に、前記変化後の前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信することを特徴とする。
【0018】
これにより、管理装置は、通信端末のサービス情報送信手段から送信されてきたサービス情報が、通信端末の存在する現在のサービス領域に合致していない場合(領域違い)、若しくは、通信端末の存在する現在のサービス領域には合致しているが、最新のサービス情報ではなく古い情報となっていた場合、のいずれかの場合に限り、新たなサービス情報を通信端末へ送信する必要性があると認識する。この結果、本来不要であるサービス情報を無駄に通信端末へと送信するのを防止し、通信の錯綜を確実に防止することができる。
【0019】
第5発明は、上記第4発明において、前記管理装置は、さらに、前記サービス情報提供手段による前記通信端末への前記サービス情報の送信履歴情報を記憶した履歴記憶手段を有し、前記更新判定手段は、前記履歴記憶手段が記憶した前記送信履歴情報に基づき、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報の内容が、対応する前記サービス領域に係わる最新の情報であるか否かを判定することを特徴とする。
【0020】
これにより、管理装置は、過去の通信端末へのサービス情報の送信履歴を参照することで、本来不要であるサービス情報を無駄に通信端末へと送信するのを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末の位置するサービス領域に応じた最適なサービス情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るサービス情報提供システムを適用したサービス施設の一構成例を概略的に示した図である。
【図2】センター装置と通信端末のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】本発明で利用する送信点推定方法を説明するために、通信端末とセンター装置を一台ずつ配置した建造物モデルの一例を全体を透視して示す斜視図である。
【図4】センター装置の機能構成を説明するための概略的なシステムブロック図である。
【図5】通信端末の位置を推定する際に演算処理部が行う処理手順を概略的に示した説明図である。
【図6】到来角を抽出した分布を示す図である。
【図7】建造物における構造データを可視化して示した図である。
【図8】仮想光路の透過を示す図、及び、仮想光路の反射を説明する説明図である。
【図9】単位方向ベクトルの方位角と仰角を説明する図である。
【図10】図3に対応した仮想電波伝搬経路図の例を示す側面図である。
【図11】2つの仮想光路上における最近接点の配置関係を示す図である。
【図12】発信点と最も近接する探索範囲との配置関係を示す図である。
【図13】演算処理部のCPUによって実行される制御手順を表すフローチャートである。
【図14】図13中のステップS100において実行される到来角候補絞り込み処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【図15】実施形態におけるエリア情報の設定構成の一例を示す図である。
【図16】実施形態におけるエリア情報の送受信を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。
【図17】図16のシーケンスチャートを実行するために、センター装置のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図18】図16のシーケンスチャートを実行するために、通信端末のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図19】エリア情報が時系列で更新する変形例におけるエリア情報の設定構成の一例を示す図である。
【図20】エリア情報が時系列で更新する変形例におけるエリア情報の送受信を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。
【図21】図20のシーケンスチャートを実行するために、センター装置のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図22】図20のシーケンスチャートを実行するために、通信端末のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図23】送信履歴ログの一例を示す図である。
【図24】エリア情報の送受信を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。
【図25】図24のシーケンスチャートを実行するために、センター装置のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図26】図24のシーケンスチャートを実行するために、通信端末のCPUによって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。
【図27】本発明に係るサービス情報提供システムをカラオケボックスの店舗に適用した場合の構成例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1は、本実施形態のサービス情報提供システムを適用したサービス施設の一構成例を概略的に示した図である。なお、本実施形態のサービス情報提供システムは、サービス施設としての博物館に適用した場合の例を示している。
【0025】
図示する例の博物館Mは、一つの建造物内に収容されている。この博物館Mは、その全体は主にエントランスやロビーなどを含むエリアAと、一つ目の第1展示会場に相当するエリアBと、売り場や食堂を含むエリアCと、2つ目の第2展示会場に相当するエリアDの4つのエリアに区分けされ、来館者は4つのエリアを自由に移動することができる。なお、これらエリアのそれぞれが各請求項記載のサービス領域を構成する。
【0026】
本実施形態のサービス情報提供システムSは、通信端末1とセンター装置2(管理装置)とを有している。
【0027】
通信端末1は、センター装置2と無線通信を介して情報を送受可能な携帯型の端末である。来館者は、この通信端末1を所持して当該博物館M内の各エリアをともに自由に移動可能となっている。
【0028】
センター装置2は、上記通信端末1と無線通信を介して情報を送受可能となっている。このセンター装置2は、博物館M内において通信端末1がどのエリアに存在しても無線通信が可能な位置(図示する例では博物館M内の中央位置)に固定的に設置される。なお、本実施形態では、発明の理解の容易のために、以下、1台の通信端末1とセンター装置2との情報送受信を例にとって説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0029】
図2は、センター装置2と通信端末1のハードウェア構成を示すブロック図である。この図2において、センター装置2は、CPU201、ROM202、RAM203、大容量記憶装置204、無線通信部205、及びアレイアンテナ3(受信アンテナ)を有している。
【0030】
CPU201は、いわゆるマイクロコンピュータであり、RAM203の一時記憶機能を利用しつつROM202に予め記憶されたプログラムに従って各種の演算を行うとともに、他の各部との間で情報の交換や各種の制御指示を出力することで、センター装置2全体を制御する機能を有する。
【0031】
ROM202は、後述する各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれた情報記憶媒体である。RAM203は、上記各種のプログラムを実行する上で必要な情報の書き込み及び読み出しが行われる情報記憶媒体である。大容量記憶媒体204は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスクなどで構成される不揮発性の情報記憶媒体である。
【0032】
無線通信部205は、アレイアンテナ3を介して通信端末1との無線通信を制御する機能を有する(後述の図4参照)。
【0033】
アレイアンテナ3は、後に詳述するように複数のアンテナ素子3aを備えて全体の指向性を制御可能なアンテナである(後の図4で詳述する)。
【0034】
一方、通信端末1は、CPU101、ROM102、RAM103(情報記憶手段)、表示部104(表示手段)、スピーカ105、無線通信部106、及び端末アンテナ107を有している。
【0035】
CPU101、ROM102、RAM103は、上記センター装置2が備えるものと同等の機能を有するものであり、説明を省略する。
【0036】
表示部104は、後述するエリア情報のうちの画像情報などを表示して視覚的に出力する機能を有する。スピーカ105は、後述するエリア情報のうちの音声情報などを発音して聴覚的に出力する機能を有する。
【0037】
無線通信部106は、端末アンテナ107を介してセンター装置2との無線通信を制御する機能を有する。
【0038】
端末アンテナ107は、この例では無指向性のものであり、特に送信時には立体的にほぼ360°のあらゆる方向に電波を発信可能となっている。
【0039】
なお、本実施形態では、一例として、通信端末とセンター装置とが、例えばIEEE802.11bなどに準拠した無線LANによって無線通信を行う。したがって、来館者が所持する通信端末1は、当該博物館Mが用意した専用の携帯端末機器以外にも、上記無線LANでの通信が可能であって適宜の表示部とスピーカを備え、対応するアプリケーションを搭載した市販の携帯電話などの無線端末を利用してもよい。
【0040】
そして、上記センター装置2は、上記無線LANの方式に基づいて定期的に通信端末1から位置検出用電波(詳細は後述)を受信した際に、受信した電波の送信点を推定することで当該通信端末1のその時点の現在位置を検出する。以下において、本実施形態で利用する上記の送信点推定方法について詳細に説明する。
【0041】
図3は、本実施形態で利用する送信点推定方法を説明するために、通信端末1とセンター装置2を一台ずつ配置した建造物モデルの一例を全体を透視して示す斜視図である。
【0042】
図3において、建造物Hの内部を移動可能な通信端末1が位置検出用電波(自通信端末を特定するID情報を含む)を発信し、同じ建造物Hの内部で基本的に固定して配置されるセンター装置2が上記位置検出用電波の受信状況に基づいて上記通信端末1の発信点位置を推定する。
【0043】
ここで、本発明が利用する送信点推定方法を実施するにあたっては、以下の条件を満たす環境が前提となっている。
(A)通信端末1及びセンター装置2は、外部から閉じた同一の屋内空間に存在する。
(B)上記屋内空間を形成するそれぞれの壁の位置、形状、大きさ、及び電波に対する性質が全て既知である。
【0044】
図3に示す例では、建造物Hの全体が6面の外壁12,13,14,15,16で略直方体に形成されており、その内部空間が2階床面21によって1階と2階に上下方向に仕切られている。さらに、各階の内部空間は内壁22,23によって水平方向に2つの部屋に仕切られている。このような建造物Hの内部で、通信端末1が2階に位置し、センター装置2が1階に位置している。なお図中では、図示の便宜上、手前側の外壁が省略されている。また、図示する例では、各階の内壁22,23に人が通過可能な出入口24が形成されている。以下においては、このような配置モデルにおいてセンター装置2が通信端末1の位置を推定する場合を説明する。
【0045】
図4は、センター装置2の機能構成を説明するための概略的なシステムブロック図である。この図4において、センター装置2は、アレイアンテナ3、高周波処理部4、A/D処理部5、DSP処理部6、演算処理部7、及び記憶部8を有している。上記図2で示したハードウェア構成と対比すると、上記無線通信部205が、高周波処理部4、A/D処理部5、DSP処理部6をまとめた形で機能し、上記CPU201、ROM202、及びRAM203が演算処理部7として機能し、上記大容量記憶部204が記憶部8として機能する。
【0046】
前述したように、アレイアンテナ3は、複数のアンテナ素子3aを備えており、受信時にはアンテナ素子3aごとの位相差をずらすことで全体の指向性を制御するビームフォーミングを行い、受信電波の到来方向を検出することができる。本実施形態の例では、受信点の位置をほぼ変えることなく、その周囲の360°(ほぼ立体球面範囲)にわたって受信電波の到来方向を検出できるよう、向きの異なる複数のアレイアンテナを備えるか、又は向きを変更できる首振り機構を備える。
【0047】
高周波処理部4は、上記アレイアンテナ3の各アンテナ素子3aが受信した高周波信号を低周波信号にダウンコンバートして出力する。
【0048】
A/D処理部5は、上記高周波処理部4から出力された低周波のアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0049】
DSP処理部6は、上記A/D処理部5から出力されたデジタル受信信号に対して所定の信号処理を行い、解析可能な情報信号として出力する。
【0050】
演算処理部7は、上述したようにCPU、ROM、及びRAMによって構成される機能部であり、予めROMなどに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことで、後述の記憶部8に記憶されている各種情報を参照しつつ、上記DSP処理部6から出力された情報信号の解析を行うとともに、センター装置2全体の制御を行う。
【0051】
記憶部8は、上記演算処理部7が各種の演算及び解析を行う際に必要な情報を記憶する。本実施形態では、記憶する情報の例として、上記建造物Hを構成する各外壁12〜16及び各内壁21,22,23に関する構造データとともに、上記アレイアンテナ3のアンテナ特性も記憶している。
【0052】
図5は、通信端末1の位置を推定する際に上記演算処理部7が行う処理手順を概略的に示した図である。
【0053】
まず最初に、センター装置2は、第1処理段階G1で、アレイアンテナ3の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信し、その受信レベルを全周での到来角分布で測定する。次に、第2処理段階G2で、当該到来角分布で測定された受信レベルのうち、所定のレベル以上に対応する到来角候補(到達角度)をピークサーチによって抽出し、さらにそれら到来角候補のうちで所定以上に離間したものを主要到来角(各請求項に記載の電波到達方向に相当)として絞り込む。なお、以上の2つの処理段階G1,G2のいずれにおいても、演算処理部7は記憶部8からアレイアンテナ3のアンテナ特性を読み出し、参照することで適切な演算を行う。
【0054】
次に、第3処理段階G3で、センター装置2の受信点から上記主要到来角に向けてそれぞれ光を仮想的に放射し、それらの反射経路を解析するレイトレーシング解析を行う。この第3処理段階G3において、演算処理部7は記憶部8から建造物Hの構造データを読み出し、参照することで適切な解析を行う。
【0055】
次に、第4処理段階G4で、上記レイトレーシング解析により生成された複数の仮想光路のうちの任意の組み合わせで、互いに最も近接する最近接点を抽出する。次に、第5処理段階G5で、抽出された多数の最近接点の配置に基づいて、それぞれに対応する線密度と評価値を算出する。そして、最後の第6処理段階G6で、それら線密度及び評価値に基づいて、どの最近接点(又は対応する近接位置)が最も発信点つまり通信端末1に近接しているか、を判定する。
【0056】
上述した各処理段階G1〜G6について、それぞれ順に詳細に説明する。
【0057】
まず、上記第1処理段階G1においてアレイアンテナ3の全周方向にわたって受信した電波の受信レベルのうち、所定のレベル以上となる到来角を到来角候補として抽出した結果の一例が図6である。この図6において、アレイアンテナ3の受信点(各請求項に記載の測定地点に相当)RPを原点としたRx軸−Ry軸−Rz軸の3次元直交座標が設定されており、受信点RPを中心として複数の到来角候補に向けた放射状に受信レベルに対応した長さの線分が示されている。つまり、当該アレイアンテナ3は、図示するそれぞれの到来角候補の角度で所定レベル以上の電波を受信している。なお、このような到来角候補の測定には、公知のいわゆるMUSICアルゴリズム(MUltiple Signal Classificationアルゴリズム)によるピークサーチを行うことで、精度の高い測定が可能となる。
【0058】
しかし、これら抽出した到来角候補は、受信電波の伝達経路における反射時の散乱の影響により、同じくらいの受信レベルにある到来角候補が密集して分布する傾向が強い。一方、本実施形態における送信点推定方法において、レイトレーシング解析に用いる到来角は、受信レベルが高いとともにできるだけ伝達経路が異なる(つまりマルチパス経路が離間している)受信電波の到来角を適用することが望ましい。したがって第2処理段階G2では、さらにこれら抽出した到来角候補のうちから次のレイトレーシング解析に用いる主要到来角を絞り込む。
【0059】
具体的には、本実施形態では、互いに立体角で半値角/2(図中のθh/2)だけ離間する到来角候補のうち最も受信レベルの大きいものから順に必要数(図示する例では5つ)の主要到来角を選択する。このようにすることで、各主要到来角をメインローブ方向としてビームフォーミングしたアレイアンテナ3の仮想上の通信範囲が、それぞれ互いに立体角で半値角/2以上に重なることがなく、すなわち各主要到来角は、相互に異なるマルチパス経路で伝達した受信電波に対応した到来角とみなすことができる。
【0060】
次に、上記第3処理段階G3で行うレイトレーシング解析について説明する。本実施形態におけるレイトレーシング解析は、センター装置2が受信点で電波を受信した主な方向、つまり主要到来角に対し、逆に、電波にみなした仮想的な光を各主要到来角の方向に放射して、それらの建造物H内における反射通過経路(光線;以下、仮想光路という)を解析することで、元の受信電波が伝達してきたマルチパス経路を逆行して可視化する解析手法である。
【0061】
このレイトレーシング解析を行う上で、上述した第3の前提条件、つまり上記屋内空間を形成するそれぞれの壁の位置、形状、大きさ、及び電波に対する性質が全て構造データとして既知であることが必要となる。図7は、上記図3に対応して、建造物Hにおける構造データを可視化して示した図である。図示する例では、6面の外壁12〜16(ただし手前側の外壁は省略)は全て電波を反射する材質の材料(後述の図8(b)参照)からなり、2階床面21と各階の内壁22,23は全て電波を透過する材質の材料(後述の図8(a)参照)からなっている。また、建造物H全体を包括するX軸−Y軸−Z軸の3次元直交座標が設定されており、各壁面はこのXYZ軸絶対座標における平面方程式としてデータ化されている。また、固定的に配置されるセンター装置2の受信点についても、このXYZ軸絶対座標における座標位置が予め既知となっている。また、特に図示しないが、壁面以外にも電波の伝搬に影響を及ぼす可能性のある構造材については全てデータ化されている必要がある。
【0062】
本実施形態では、建造物Hの内部空間だけを計算範囲として取り扱うことで、各壁面の平面方程式を一般化して取り扱いながらも無限の広さとならず、有限の大きさを有する壁面として取り扱うことができる。また、外壁12〜16における電波の反射についても、その減衰率などがパラメータとしてデータ化されている。記憶部8には以上の構造データが予め入力され、記憶している。
【0063】
ここで、本実施形態でのレイトレーシング解析においては、仮想光路は、図8(a)に示すような内壁22,23(又は2階床面21)の透過を何度も可能とする。一方、図8(b)に示すような外壁12〜16に対する反射は1回だけとし、2回目の外壁12〜16との交点をその仮想光路の終点とする。つまり、一つの仮想光路は、受信点RPから出発して最初の外壁12〜16との交点を反射点RePiとして反射し、次の外壁12〜16(図示省略)との交点を終点EPiとして途絶する。以下において、第i番目の主要到来角に向けて放射した仮想光路を

とし、そのうちの受信点RPと最初の交点である反射点RePiとの間の仮想光路を第1仮想光路節

とし、反射点RePiと終点EPiとの間の仮想光路を第2仮想光路節

とする。
【0064】
第1仮想光路節

と、第2仮想光路節

とは、外壁12〜16の表面に垂直な面、及び入射面に垂直な面に関して、面対称の関係にあり、それぞれの単位方向ベクトルを

、外壁12〜16の表面の法線ベクトルを

(ただし入射面とは逆向き)とすると、以下の関係が成り立つ。



ここで、






であり、

は入射側単位方向ベクトル

の方位角(いわゆるアジマス;図9参照)、

は入射側単位方向ベクトル

の仰角(いわゆるエレベーション;図9参照)、

は反射側単位方向ベクトル

の方位角(いわゆるアジマス)、

は反射側単位方向ベクトル

の仰角(いわゆるエレベーション)である。
【0065】
また、第1仮想光路節

上の任意の点を示す位置ベクトル、また第2仮想光路節

上の任意の点を示す位置ベクトルは、それぞれ以下の式で示される。









【0066】
一方、各壁面と仮想光路は、






を満たす

が、

又は

を満たすとき交点を有する。ここで、

は壁面の頂点の位置ベクトルであり、

は上記第1仮想光路節

の単位方向ベクトルである。
【0067】
以上のようなレイトレーシング解析を、上記第2処理段階G2で選択した5つの主要到来角に対してそれぞれ行うことにより、図3に対応する図10に示すような建造物H内の仮想電波伝播経路を算出する経路図が作成される。なお、この図10は図示の便宜上、建造物Hを側面から見た側面図で示している。そして、図中において各仮想光路が集中する範囲内に発信点TP(図7参照)が存在すると推定される。この仮想光路の集中度合いの具体的な指標が線密度であり、さらにこの線密度の有効性を示す指標が評価値である。次の第4処理段階G4では、これら線密度及び評価値を算出するのに必要な最近接点を抽出する。
【0068】
第4処理段階G4では、任意の組み合わせの2つの仮想光路



に対して、図11に示すように互いに最も近接する最近接点Pi、Pj(各請求項記載の近接点)の位置座標を算出する。なお、受信点RPを原点としたRx軸−Ry軸−Rz軸の3次元直交座標は、XYZ軸絶対座標を平行移動した配置関係にある。図示する例では2つの第2仮想光路節



どうしの最近接点を求める場合を示しており、このとき最近接点を求める2つの第2仮想光路節



上に存在する最近接点Pi、Pjの位置ベクトル



はそれぞれ以下のように示される。






ただし

である。これら2つの第2仮想光路節の最近接点Pi,Pjを






より求める。
【0069】
なお、図11に示した上記演算例は第2仮想光路節



どうしでの組み合わせにおける最近接点の求め方であるが、これ以外にも第1仮想光路節

と第2仮想光路節

との組み合わせにおける最近接点も同じ算出方法で求めることができる。なお、同一の仮想光路における仮想光路節どうしの組み合わせ(2回以上の反射を許容した場合でも)や、第1仮想光路節どうしの組み合わせでは、最近接点を求める必要はない。
【0070】
そして上記2つの対応する最近接点Pi、Pjの間の中間点を探索中心点Pcとし、この探索中心点Pcを中心とする所定の半径rの球内に存在する最近接点の個数が線密度である。つまりこの球形の探索範囲(各請求項に記載の所定範囲)30内に存在する最近接点の個数が多いほど、仮想光路節が集中していることになり、当該探索範囲30内に発信点TPが存在する可能性が高くなる。しかし、大きく離間した2つの仮想光路節の組み合わせでも2つの最近接点Pi、Pjとその間の探索中心点Pcを算出できる場合があり、さらにこの探索中心点Pcを中心とした探索範囲30内で他の関係の薄い最近接点が検出される可能性もある。このような場合を排除するために、最近接点間のベクトル

の距離Dを、受信点RPと最近接点Pi,Pjの中間点(つまり上記探索中心点Pc)との間の電波伝搬距離で除して求められる評価値

により、線密度の妥当性を評価する。
【0071】
これにより、2つの対応する最近接点Pi,Pjが近接しているほど評価値

の値は小さくなり、受信点RPから最近接点Pi,Pjとの間の電波伝播距離が長いほど評価値

の値は小さくなる。第5処理段階G5では、以上のようにして各探索中心点Pcを中心としたそれぞれの探索範囲30における線密度と評価値を求める。ここで、線密度の算出にあたって探索範囲30内に計数する対象の最近接点は、当該探索中心点Pcを求めた際の元となる2つの仮想光路節にそれぞれ近接する他の仮想光路節との組み合わせで求められる最近接点が望ましい。
【0072】
そして、第6処理段階G6で、上記第5処理段階G5で求められた各探索範囲30での線密度と評価値に基づいて、どの探索範囲30の探索中心点Pcが最も発信点TPに近接しているかを判定する。ここで、線密度が大きい探索範囲30ほど順位が高く、さらに同じ線密度の場合に評価値が小さい探索範囲30ほど順位が高くなる。このような発信点判定を行うことにより、図12に示すような実際の発信点TPに近い探索中心点Pcを判定し、発信点TPを推定することができる。また、前述したように、レイトレーシング解析に用いられた主要到来角は、図示するように明確にマルチパス経路が離間しているものが選択されているため、受信電波の散乱反射の影響を受けることなく高い精度で発信点TPを推定することができる。
【0073】
図13は、以上説明した内容の処理を実行するために、演算処理部7のCPU(センター装置2のCPU201)によって実行される送信点推定処理S1の制御手順を表すフローチャートである。なお、センター装置2が通信端末1から位置検出用電波を受信した際、又は所定の操作が行われた際にこのフローが開始される。
【0074】
まず、ステップS5で、CPU201は、半値角θhなどアレイアンテナ3に関するアンテナ特性を記憶部8から読み出して取得する。その後、CPU201は、ステップS10において建造物Hに関する構造データを記憶部8から読み出して取得する。
【0075】
そして、ステップS15へ移り、CPU201は、主要到来角選択数の変数Nの値を5に設定する。
【0076】
その後、ステップS20へ移り、CPU201は、アレイアンテナ3の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信し、その受信レベルを全周での到来角分布で測定する。つまり、上記第1処理段階G1に対応する制御を行う。
【0077】
そして、ステップS25へ移り、CPU201は、到来角分布で測定された受信レベルのうち、所定のレベル以上に対応する到来角候補を上記MUSIC法などに基づくピークサーチによって取得する。
【0078】
その後、ステップS30へ移り、CPU201は、上記ステップS25で到来角候補が一つも取得できなかったか否かを判定する。到来角候補の取得数が0である場合、ステップS30の判定が満たされる。つまり、CPU201は、この時点で通信端末1からの電波の発信がない、若しくは電波の受信が困難であるとみなし、このままこのフローを終了する。一方、到来角候補が一つでも取得されていた場合、ステップS30の判定は満たされず、ステップS100の到来角候補絞り込み処理へ移る。
【0079】
ステップS100の到来角候補絞り込み処理では、CPU201は、上記ステップS25で取得された到来角候補のうち、半値角θh/2以上離間して最も受信レベルの大きい5つの主要到来角を選択する(詳細は後述の図14参照)。なお、上記ステップS25と当該ステップS100とで、上記第2処理段階G2に対応する制御が行われる。
【0080】
その後、ステップS35へ移り、CPU201は、上記ステップS100で選択された主要到来角に対するレイトレーシング解析を行う。つまり、上記第3処理段階G3に対応する制御を行う。
【0081】
そして、ステップS40へ移り、CPU201は、上記ステップS35で解析された各仮想光路節どうしの最近接点を全て抽出する。つまり、上記第4処理段階G4に対応する制御を行う。
【0082】
その後、ステップS45へ移り、CPU201は、上記ステップS40で求められた全ての最近接点に対応する探索中心点Pcを求め、それぞれの探索範囲30の球半径を一律に設定する。
【0083】
そして、ステップS50へ移り、CPU201は、上記ステップS45で設定した各探索範囲30のそれぞれにおける線密度を算出する。
【0084】
その後、ステップS55へ移り、CPU201は、上記ステップS45で設定した各探索範囲30のそれぞれにおける評価値

を算出する。なお、上記ステップS45、上記ステップS50、及び当該ステップS55とで、上記第5処理段階G5に対応する制御が行われる。
【0085】
そして、ステップS60へ移り、CPU201は、上記ステップS50で算出した線密度と、上記ステップS55で算出した評価値

とに基づいて、いずれか一つの探索中心点を発信点TPとして判定する。つまり、上記第6処理段階G6に対応する制御を行う。そして、このフローを終了する。
【0086】
図14は、上記図13中のステップS100において実行される到来角候補絞り込み処理の詳細手順を表すフローチャートである。
【0087】
ステップS105で、CPU201は、到来角候補選択数の変数nの値を0にリセットする。
【0088】
その後、ステップS110へ移り、CPU201は、この時点での選択範囲内に到来角候補が一つでも存在しているか否かを判定する。一つも存在していない場合、判定が満たされ、そのままこのフローを終了する。ここで到来角候補選択数nの値が5未満である場合でも、前述のステップS35ではそのままn本の主要到来角に対してレイトレーシング解析が行われる。
【0089】
また一方、この時点での選択範囲内に到来角候補が一つでも存在している場合、ステップS110の判定は満たされず、ステップS115へ移る。
【0090】
ステップS115では、CPU201は、この時点の選択範囲内で受信レベルが最大である到来角候補を選択し、ステップS120で到来角候補選択数nの値を1増加する。
【0091】
その後、ステップS125へ移り、CPU201は、上記ステップS115で選択した到来角候補の方位角及び仰角のそれぞれ±半値角θh/2の範囲を選択範囲から除外する。なお、この場合には、受信点RPを頂点とし、半値角θhを頂角とした略四角錐の範囲で選択範囲の除外を行うことになる。これ以外に、選択した到来角候補を中心とした立体角で±半値角θh/2の範囲を選択範囲から除外してもよい。この場合には、受信点RPを頂点とし、半値角θhを頂角とした略円錐の範囲で選択範囲の除外を行うことになる。
【0092】
そして、ステップS130へ移り、CPU201は、この時点での到来角候補選択数nの値が、主要到来角選択数Nの値(=5;上記ステップS15参照)以上となったか否かを判定する。到来角候補選択数nが主要到来角選択数N未満である場合、つまりn<5である場合、判定は満たされず、上記ステップS110へ戻って同様の手順を繰り返す。一方、n≧5である場合、ステップS130の判定が満たされ、このフローを終了する。
【0093】
以上において、上記第1処理段階G1が各請求項記載の受信制御手段に相当し、上記第3処理段階G3及び第4処理段階G4が近接点抽出手段に相当し、上記第5処理段階G5及び第6処理段階G6が発信点特定手段に相当する。
【0094】
本実施形態におけるセンター装置2は、以上のように実行される送信点推定処理を利用することにより、上記のように博物館M内を自由に移動する通信端末1から位置検出用電波を受信した際に、その時点で位置しているエリアを正確に検出することができる。なお、このためには博物館Mが上述した前提条件を満たす必要がある。すなわち、当該博物館Mが外部から閉じた同一の屋内空間であって、この屋内空間を形成するそれぞれの壁の位置、形状、大きさ、及び電波に対する性質が全て既知である。また、博物館M内において各エリアの領域が明確に区分けされている。これにより、センター装置2は、通信端末1の位置するエリアに応じた最適なエリア情報(サービス情報)を提供する。
【0095】
図15は、本実施形態におけるエリア情報の設定構成の一例を示す図である。この図15において、センター装置2は、大容量記憶装置204に各エリアそれぞれに対応するエリア情報を記憶している。図示する例では、エリアAとエリアCにそれぞれ同じエリア情報Iを対応させて記憶し、エリアBにはエリア情報IIを対応させて記憶し、エリアDにはエリア情報IIIを対応させて記憶している。各エリア情報は、対応するエリアに関係した内容の情報である。例えば、エントランスであるエリアAと売り場・食堂であるエリアCとに対応するエリア情報Iは、当該博物館における一般的な案内情報である。また例えば、エリア情報II,IIIはそれぞれ対応する展示会場の具体的な説明情報などである(上記図1参照)。そしてセンター装置2は、上記送信点推定処理により通信端末1がエリア間を移動したことを検出した際には、移動先の新しいエリアに対応するエリア情報を当該通信端末1に送信する。
【0096】
一方、通信端末1は、センター装置2から受信したエリア情報を保有エリア情報としてRAM103に記憶し、その保有エリア情報に基づいて表示部104での表示とスピーカ105での発音とを行う。なお、この例では、通信端末1は保有エリア情報を一つだけ記憶し、センター装置2から新しいエリア情報を受信するたびに保有エリア情報を上書きして更新する。
【0097】
図16は、このようなエリア情報の送受信を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートである。なお、図示する例では、エリアAからエリアBへの移動を通信端末1が行った際の動作行程例を示す。
【0098】
まず、通信端末1は定期的に位置検出用電波を送信し、センター装置2がこれを受信している(ステップSS1)。これにより、センター装置2は上記位置検出用電波の受信に基づく前述の送信点推定処理により、通信端末1がその時点で位置しているエリアを判定する。そして通信端末1が新しいエリアへ移動(ステップSS2)した際には、センター装置2が送信点推定処理(ステップSS3)により通信端末1を識別確認する(ステップSS4)とともに、その移動先のエリアを判定する(ステップSS5)。センター装置2が通信端末1のエリア移動を検出したことで、当該通信端末1に対してエリア移動したことを通知するためのエリア変更情報を送信する(ステップSS6)。
【0099】
通信端末1は、このエリア変更情報を受信した(ステップSS7)ことで、自機が新しいエリアへ移動したことを初めて認識し、次に自機が記憶している保有エリア情報を読み込んで(ステップSS8)センター装置2に送信する(ステップSS9)。なお、この際にはいずれのエリア情報を保有エリア情報として記憶しているかをセンター装置2に知らせればよいだけであるため、エリア情報の識別情報のみ送信するだけでもよい。
【0100】
この保有エリア情報を受信した(ステップSS10)センター装置2は、当該保有エリア情報と新エリアに対応するエリア情報とが一致しているか確認・判定する(ステップSS11)。もし上記図15で示した設定例で、通信端末1がエリアAとエリアCとの相互間で移動していた場合には、保有エリア情報と新エリア情報が同じエリア情報Iで一致するため、新たにエリア情報を通信端末1に送信する必要はないとしてここで処理を終了する。しかし、上述したようにこの動作行程例では、エリアAからエリアBへの移動(対応するエリア情報が変更する場合のエリア移動)であるため、保有エリア情報と新エリアに対応するエリア情報とが一致せず、新エリア情報を通信端末1に送信する必要が生じる。そこで、センター装置2は大容量記憶装置204(図中ではDBと略記)から新エリアに対応するエリア情報を新エリア情報として取得し(ステップSS12)、通信端末1に送信する(ステップSS13)。
【0101】
この新エリア情報を受信した(ステップSS14)通信端末1は、当該新エリア情報を新たな保有エリア情報として上書きして記憶し、表示部104及びスピーカ105で新エリア情報の内容を表示・発音して出力する(ステップSS15)。
【0102】
図17は、上記シーケンスチャートを実行するために、センター装置2のCPU201によって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートである。なお、センター装置2が通信端末11から位置検出用電波を受信した際、又は所定の操作が行われた際にこのフローが開始される。
【0103】
まず、ステップS1で、CPU201は、受信した位置検出用電波に基づいて当該位置検出用電波を送信した通信端末1の現在位置を推定するための送信点推定処理を行う(上記図13、図14参照)。
【0104】
そして、ステップS205へ移り、CPU201は、上記ステップS1で判定した通信端末1の現在位置と、博物館内におけるエリアの区分けとを参照して、通信端末1が位置しているエリアを判定する。
【0105】
その後、ステップS210へ移り、CPU201は、上記位置検出用電波に含まれる上記ID情報(識別情報)により通信端末1の個体を識別する。
【0106】
そして、ステップS215へ移り、CPU201は、通信端末1がそれまで位置していたエリアから新しいエリアへ移動したか否かを判定する。通信端末1がエリア移動していない場合、判定は満たされず、ステップS1に戻って同様の手順を繰り返す。通信端末1がエリア移動していた場合、判定が満たされ、次のステップS220へ移る。
【0107】
ステップS220では、CPU201は、通信端末1へエリア変更情報を送信する。
【0108】
そして、ステップS225へ移り、CPU201は、通信端末1から保有エリア情報を受信する。
【0109】
そして、ステップS230へ移り、CPU201は、上記ステップS225で受信した保有エリア情報と、新エリアに対応するエリア情報とが一致しているか否かを判定する。保有エリア情報と新エリア情報とが一致している場合、判定が満たされ、新しいエリア情報を送信する必要がないものとみなしてステップS1へ戻り、同様の手順を繰り返す。保有エリア情報と新エリア情報とが一致していない場合、ステップS230の判定は満たされず、ステップS235へ移る。
【0110】
ステップS235で、CPU201は、大容量記憶装置204から新エリアに対応する新エリア情報を取得する。
【0111】
そして、ステップS240へ移り、CPU201は、通信端末1へ新エリア情報を送信し、このフローを終了する。
【0112】
図18は、上記図16のシーケンスチャートを実行するために、通信端末1のCPU101によって実行される通信端末処理の制御手順を表すフローチャートである。なお、通信端末1に電源が投入された際、又は所定の操作が行われた際にこのフローが開始される。
【0113】
まず、ステップS305で、CPU101は、位置検出用電波を送信する。なお、前述したように、この位置検出用電波には、当該通信端末1の個体を識別可能なID情報(識別情報)が含まれている。
【0114】
そして、ステップS310へ移り、CPU101は、センター装置2からのエリア変更情報(上記ステップS220参照)を受信したか否かを判定する。エリア変更情報を受信していない場合、判定は満たされず、ステップS305へ戻って同様の手順を繰り返す。エリア変更情報を受信していた場合、ステップS310の判定が満たされ、自機がエリア移動したものとみなしてステップS315へ移る。
【0115】
ステップS315では、CPU101は、自機が記憶している保有エリア情報をセンター装置2に向けて送信する(上記ステップS225参照)。なお、上述したように、ここでは保有エリア情報として記憶しているエリア情報の識別情報のみを送信するだけでもよい。
【0116】
そして、ステップS320へ移り、CPU101は、センター装置2からの新エリア情報を受信する(上記ステップS240参照)。
【0117】
そして、ステップS325へ移り、CPU101は、上記ステップS320で受信した新エリア情報を新たな保有エリア情報として上書きして記憶し、その情報内容を表示部104及びスピーカ105で表示・発音して出力する。そしてこのフローを終了する。
【0118】
以上において、端末アンテナ107及び上記図18のフローにおけるステップS305で実行される処理が、各請求項に記載の電波出力手段として機能する。また、上記図17のフローにおけるステップS205で実行される処理が、領域検出手段として機能する。また、アレイアンテナ3及びステップS240で実行される処理がサービス情報提供手段として機能し、ステップS215で実行される処理が領域判定手段として機能し、ステップS220で実行される処理が送信要求手段として機能し、ステップS315で実行される処理が、記載のサービス情報送信手段として機能する。
【0119】
以上説明したように、本実施形態においては、センター装置2が、通信端末1が発する位置検出用電波を用いて当該電波の発信点を特定し、これによって通信端末1が存在するエリアを検出する。そして、その検出結果のエリアに対応したエリア情報をセンター装置2が通信端末1へ送信し、通信端末1で当該エリア情報の表示が行われる。これにより、従来構成のように通信端末1側に別途GPS等の位置検出手段を設けることなく、通信端末1の位置を検出することができる。この結果、コスト増大を招くことのない安価なシステム構成で、通信端末1の位置するエリアに応じた最適なエリア情報を提供することができる。
【0120】
また、この実施形態では特に、通信端末1が移動し、存在するエリアが変化した場合、センター装置2がステップS215で当該エリアが変化したことを判定される。そして、センター装置2は、ステップS240で、変化後の新たなエリアに対応した新エリア情報を通信端末1へと送信する。これにより、少なくとも、通信端末1が存在するエリアが変化しない間は、センター装置2が新エリア情報を通信端末1へ送信しないようにすることができる。この結果、既に通信端末1側で受信し表示部104に表示しているエリア情報と同一のエリア情報を無駄に送信する可能性を低減し、無線通信の不要な錯綜を防止することができる。
【0121】
また、この実施形態では特に、通信端末1は、センター装置2がステップS240で送信したエリア情報をRAM103に保有エリア情報として記憶保持する。前述のようにして通信端末1の移動がセンター装置2側で認識された場合に、センター装置2がステップS220で通信端末1側へ保有エリア情報の送信を要求し、この要求に応じて通信端末1がステップS315で上記のように記憶保持している保有エリア情報をセンター装置2へと送信する。これにより、センター装置2では、当該送信されてきた保有エリア情報の内容に基づき、新エリア情報を通信端末1へ送信すべきかどうかの必要性を認識可能となる。この結果、当該必要性があったときにのみステップS240で新エリア情報を送信することができる。したがって、既に通信端末1側で受信済みの保有エリア情報と同一のエリア情報を無駄に新たに送信する可能性を確実に低減することができる。
【0122】
なお、上記実施形態では、センター装置2と1台の通信端末1との情報送受信を例にとって説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、複数の通信端末1を用意した場合でも、それぞれ異なる周波数チャンネルで無線通信することで、各通信端末1の送信点推定が可能であり、それぞれに対応してエリア情報を送受することができる。又は、センター装置2側で時分割で複数の通信端末1との無線通信を個別に行うようにすることでも、同様に動作できる。
【0123】
また、本発明は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0124】
(1)エリア情報が時系列で更新される場合
すなわち、本変形例では、各エリアに対応して設定されるエリア情報が、時系列で異なるエリア情報に更新される。
【0125】
図19は、この変形例におけるエリア情報の設定構成の一例を示す図であり、上記実施形態における図15に対応する図である。
【0126】
この図15において、センター装置2の大容量記憶装置204に記憶される各エリアに対応のエリア情報は、午前と午後とで異なるエリア情報を設定することができる。図示する例では、エリアB、エリアC、エリアDに対応するエリア情報が、それぞれ午前でエリア情報II、エリア情報I、エリア情報IIIに設定され、それぞれ午後にはエリア情報IV、エリア情報V、エリア情報VIに更新される。なお、エリアAに対応するエリア情報は、終日エリア情報Iに維持するよう設定されている。
【0127】
図20は、このようなエリア情報の送受信を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートであり、上記実施形態における図16に対応する図である。なお、図示する例では、午後にエリアAからエリアCへ移動する場合のように、対応するエリア情報が変更する場合のエリア移動を通信端末1が行った際の動作行程例を示す。
【0128】
この図20に示す動作行程例は、基本的には上記図16で示したものとほぼ同じであるが、センター装置2が通信端末1から保有エリア情報を受信した後の動作が相違する。つまり、保有エリア情報を受信した(ステップSS10)センター装置2は、当該保有エリア情報と新エリアに対応する現行の(最新の)エリア情報とが一致しているか確認・判定する(ステップSS11A)。もし上記図20で示した設定例で、午前中に通信端末1がエリアAからエリアCへ移動していた場合には、保有エリア情報と新エリア情報とが同じエリア情報Iで一致するため、新たにエリア情報を通信端末1に送信する必要はないとしてここで処理を終了する。
【0129】
しかし、上述したようにこの動作行程例では、午後においてのエリアAからエリアCへの移動であり、その時点ではエリアCに対応するエリア情報がエリア情報Vに更新されて相違している。このため、保有エリア情報と新エリアに対応する現行のエリア情報とが一致せず、現行のエリア情報を通信端末1に送信する必要が生じる。そこで、センター装置2は大容量記憶装置204(図中ではDBと略記)から新エリアに対応する現行のエリア情報を現行エリア情報として取得し(SS12A)、通信端末1に送信する(SS13A)。
【0130】
そして、この現行エリア情報を受信した(SS14A)通信端末1は、当該現行エリア情報を新たな保有エリア情報として上書きして記憶し、表示部104及びスピーカ105で現行エリア情報の内容を表示・発音して出力する(SS15A)。
【0131】
図21は、本変形例における上記シーケンスチャートを実行するために、センター装置2のCPU201によって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートであり、上記実施形態における図17に対応する図である。
【0132】
この図21に示すフローチャートは、基本的には上記図17で示したものとほぼ同じであるが、ステップS230がステップS230Aに、ステップS235がステップS235Aに、ステップS240がステップS240Aに置き換えられる点で相違する。
【0133】
つまり、ステップS230Aで、CPU201は、上記ステップS225で通信端末1から受信した保有エリア情報と、新エリアに対応する現行のエリア情報とが一致しているか否かを判定する。保有エリア情報と新エリアの現行エリア情報とが一致している場合、判定が満たされ、新しいエリア情報を送信する必要がないものとしてステップS1へ戻り、同様の手順を繰り返す。保有エリア情報と新エリアの現行エリア情報とが一致していない場合、ステップS230Aの判定は満たされず、ステップS235Aへ移る。
【0134】
ステップS235Aで、CPU201は、大容量記憶装置204から新エリアに対応する現行エリア情報を取得する。
【0135】
そして、ステップS240Aへ移り、CPU201は、通信端末1へ現行エリア情報(最新情報)を送信し、このフローを終了する。
【0136】
図22は、本変形例における上記図20のシーケンスチャートを実行するために、通信端末1のCPU101によって実行される通信端末処理の制御手順を表すフローチャートであり、上記実施形態における図18に対応する図である。
【0137】
この図22に示すフローチャートは、基本的には上記図18で示したものとほぼ同じであるが、ステップS320がステップS320Aに、ステップS325がステップS325Aに置き換えられる点で相違する。
【0138】
すなわち、ステップS320Aで、CPU101は、センター装置2から現行エリア情報を受信する。
【0139】
そして、ステップS325Aへ移り、CPU101は、上記ステップS320Aで受信した現行エリア情報を新たな保有エリア情報として上書きして記憶し、その情報内容を表示部104及びスピーカ105で表示・発音して出力する。そしてこのフローを終了する。
【0140】
以上において、アレイアンテナ3及びステップS240Aで実行される処理がサービス情報提供手段として機能し、ステップS230Aで実行される処理が、各請求項に記載の更新判定手段として機能する。
【0141】
以上説明したように、本変形例においては、センター装置2は、ステップS230Aにおいて、通信端末1よりステップS225で受信したエリア情報が、通信端末1の存在する現在のエリアに合致していない場合(領域違い)、若しくは、通信端末1の存在する現在のエリアには合致しているが、最新のエリア情報ではなく古い情報となっていた場合、のいずれかの場合に限り、新たなエリア情報を通信端末1へ送信する必要性があると認識する。そして、必要がある場合にのみ、センター装置2は、ステップS240Aで最新のエリア情報の送信を行う。この結果、本来不要であるエリア情報を無駄に通信端末1へと送信するのを防止し、通信の錯綜を確実に防止することができる。
【0142】
(2)センター装置が送信履歴ログでエリア情報の送信を管理する場合
上記実施形態及び上記第1変形例では、センター装置2から送信したエリア変更情報に応答して通信端末1から送信する保有エリア情報を確認することで、新たなエリア情報を通信端末1へ送信する必要性を認識していたが、本発明はこれに限られない。例えば、センター装置2が通信端末1に対して送信したエリア情報を時系列で送信履歴ログに記録し、通信端末1がエリア移動した際にその直前に送信したエリア情報を保有エリア情報として推定してもよい。
【0143】
図23は、この変形例で利用する送信履歴ログの一例を示す図である。本変形例において、この送信履歴ログ(送信履歴情報)は、センター装置2の大容量記憶装置204(履歴記憶手段)に記憶保持される情報であり、図示する例では、「送信順」「送信時間」「送信エリア情報」「検出エリア」の各項目を有している。
【0144】
「送信順」は、センター装置2から通信端末1へエリア情報を送信した順番を示す項目である。「送信時間」は、各送信順に対応して通信端末1にエリア情報を送信した際の時間を示す項目である。「送信エリア情報」は、各送信順に対応して通信端末1に送信したエリア情報を示す項目である。「検出エリア」は、各送信順に対応して通信端末1にエリア情報を送信した際の当該通信端末1が位置していたエリアを示す項目である。なお、本変形例では、上記(1)の変形例の図19に示した時系列変化のエリア情報設定を適用しており、図示する送信履歴ログには、通信端末1が同じエリアBへ移動した場合でも午前と午後で異なるエリア情報(午前でエリア情報II、午後でエリア情報IV)を送信している例を示している。
【0145】
図24は、このようなエリア情報の送受信を行う場合の動作行程例を示すシーケンスチャートであり、上記実施形態における図16に対応する図である。なお、図示する例では、午後にエリアAからエリアBへの移動(対応するエリア情報が変更する場合)を通信端末1が行った際の動作行程例を示す。
【0146】
この図24に示す動作行程例は、基本的には上記図20で示したものとほぼ同じであるが、センター装置2が通信端末1の移動先のエリアを判定(ステップSS5)した後の動作が相違する。つまり、センター装置2は、送信履歴ログ(図中では送信ログと略記)を参照して通信端末1に最後に送信したエリア情報を調べ、それを現時点で通信端末1が保有している保有エリア情報として推定する(ステップSS20)。そして、この推定された保有エリア情報と新エリアに対応する現行のエリア情報とが一致しているか確認・判定する(上記同様のステップSS11A)。
【0147】
ここで、上述したようにこの動作行程例では、午後においてのエリアAからエリアBへの移動であり、その時点では推定された保有エリア情報と新エリアに対応する現行のエリア情報とが一致せず、現行のエリア情報を通信端末1に送信する必要が生じる。そこで、センター装置2は大容量記憶装置204(図中ではDBと略記)から新エリアに対応する現行のエリア情報を現行エリア情報として取得し(上記同様のステップSS12A)、通信端末1に送信する(上記同様のステップSS13A)。なお、送信後は上記送信ログを更新する(ステップSS21)。
【0148】
そして、この現行エリア情報を受信(上記同様のステップSS14A)した通信端末1は、当該現行エリア情報を新たな保有エリア情報として上書きして記憶し、表示部104及びスピーカ105で現行エリア情報の内容を表示・発音して出力する(上記同様のステップSS15A)。
【0149】
図25は、本変形例における上記シーケンスチャートを実行するために、センター装置2のCPU201によって実行されるセンター装置処理の制御手順を表すフローチャートであり、上記(1)の変形例における図21に対応する図である。
【0150】
この図25に示すフローチャートは、基本的には上記図21で示したものとほぼ同じであるが、ステップS220及びステップS225がステップS228に置き換えられる点で相違する。
【0151】
つまり、ステップS228で、CPU201は、送信履歴ログを参照して通信端末1に最後に送信したエリア情報を調べ、それを現時点で通信端末1が保有している保有エリア情報として推定する。
【0152】
そして、ステップS230Aへ移り、CPU201は、上記ステップS228で推定した通信端末1の保有エリア情報と、新エリアに対応する現行のエリア情報とが一致しているか否かを判定する。保有エリア情報と新エリアの現行エリア情報とが一致している場合、判定が満たされ、新しいエリア情報を送信する必要がないものとしてステップS1へ戻り、同様の手順を繰り返す。保有エリア情報と新エリアの現行エリア情報とが一致していない場合、判定は満たされず、ステップS235Aへ移る。他の手順については上記21と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0153】
図26は、本変形例における上記図24のシーケンスチャートを実行するために、通信端末1のCPU101によって実行される通信端末処理の制御手順を表すフローチャートであり、上記第1変形例における図22に対応する図である。
【0154】
この図26に示すフローチャートは、基本的には上記図22で示したものとほぼ同じであるが、ステップS310、ステップS315、及びステップS320AがステップS310Bに置き換えられる点で相違する。
【0155】
つまり、ステップS310Bで、CPU101は、センター装置2からの現行エリア情報(上記ステップS240A参照)を受信したか否かを判定する。現行エリア情報を受信していない場合、判定は満たされず、ステップS305へ戻って同様の手順を繰り返す。現行エリア情報を受信していた場合、判定が満たされ、ステップS325Aへ移る。
【0156】
ステップS325Aで、CPU101は、上記ステップS310Bで受信した現行エリア情報を新たな保有エリア情報として上書きして記憶し、その情報内容を表示部104及びスピーカ105で表示・発音して出力する。そしてこのフローを終了する。
【0157】
以上説明したように、本変形例においては、センター装置2は、過去の通信端末1へのエリア情報の送信履歴を参照することで、本来不要であるエリア情報を無駄に通信端末1へと送信するのを確実に防止することができる。
【0158】
なお、本変形例では送信履歴ログをセンター装置2に記憶させていたが、本発明はこれに限られない。他にも、同様の内容の受信履歴ログを通信端末1に記憶させておき、通信端末1に参照させるようにしてもよい。
【0159】
また、上記実施形態及び各変形例では、本発明のサービス情報提供システムを博物館に適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、図27に示すようにカラオケボックスの店舗Kに適用してもよく、この場合には各エリアに相当する各部屋90の内装をテーマ別に異ならせておき、各部屋90に設置した通信端末1Aにそれぞれ各部屋90のテーマに対応したエリア情報を送信して、異なる表示や発音を行わせることができる。
【0160】
また、この図27の例では、建物を上部から見た平面図(同一フロア相当)で説明したが、本発明は3次元的な電波の到来角から送信位置を推定(特定)するので、センター装置2と通信端末1Aとが、同一フロアでなくてよい。例えば、特に図示しないが、図27の建物を横から見た場合を考えて、センター装置が1階、エリアB,Dが2階、エリアA,Cが3階として、各通信端末1Aの送信位置が推定できるのは明らかである。
【0161】
なお、以上において、図2、図4等の各図中に示す矢印は信号の流れの一例を示すものであり、信号の流れ方向を限定するものではない。
【0162】
また、図13、図14、図17、図18、図21、図22、図25、図26等に示すフローチャートは本発明を上記フローに示す手順に限定するものではなく、発明の趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で手順の追加・削除又は順番の変更等をしてもよい。
【0163】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0164】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0165】
1,1A 通信端末
2 センター装置(管理装置)
3 アレイアンテナ(受信アンテナ)
3a アンテナ素子
30 探索範囲(所定範囲)
101 CPU
102 ROM
103 RAM(情報記憶手段)
104 表示部(表示手段)
105 スピーカ
106 無線通信部
107 端末アンテナ
201 CPU
202 ROM
203 RAM
204 大容量記憶装置(履歴記憶手段)
205 無線通信部
S サービス情報提供システム
H 建造物
M 博物館
Pc 探索中心点
RP 受信点(測定地点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物内の複数のサービス領域を移動可能な少なくとも1つの通信端末と、
前記通信端末に対し無線通信により情報送信可能な管理装置と、
を有するサービス情報提供システムであって、
前記通信端末は、
自通信端末を特定するID情報を含んだ位置検出用電波を発する電波出力手段を有し、
前記管理装置は、
前記建造物内に位置する所定の測定地点に設けられ、複数のアンテナ素子を備えた受信アンテナと、
ビームフォーミングにより前記複数のアンテナ素子の指向性を制御しつつ、所定の受信角範囲における全ての方向にわたって電波を受信する受信制御手段と、
前記受信制御手段により受信された前記全ての方向に含まれる複数の電波到達方向それぞれに対し、前記測定地点からレイトレーシング法により光を仮想的に仮想光線として放射し、前記建造物内の仮想電波伝播経路を算出する経路図において、前記建造物の構造及び各構造材の材質を前記仮想電波伝播経路を算出するパラメータとして用いて、前記放射した複数の仮想光線の中から異なる任意の2仮想光線を選択する組み合わせによって抽出された前記2仮想光線がお互いに最も近づいた位置を前記経路図上の近接点として、前記近接点を全て抽出する近接点抽出手段と、
前記仮想電波伝播経路図の前記所定範囲において線密度計算により算出される前記近接点の数に基づき、前記位置検出用電波の発信点を特定する発信点特定手段と、
前記発信点の位置と、前記発信点からの位置検出用電波に含まれたID情報とによる特定結果に基づき、前記複数のサービス領域のうち、前記通信端末が存在するサービス領域を検出する領域検出手段と、
前記領域検出手段の検出結果に基づき、前記通信端末が存在する前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信するサービス情報提供手段と、
を有し、
前記通信端末は、
前記サービス情報提供手段から送信された前記サービス情報を表示する表示手段を有する
ことを特徴とするサービス情報提供システム。
【請求項2】
請求項1記載のサービス情報提供システムにおいて、
前記管理装置は、さらに、
前記領域検出手段の検出結果に基づき、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したか否かを判定する領域判定手段を有し、
前記サービス情報提供手段は、
前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定された場合に、当該変化後の前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信する
ことを特徴とするサービス情報提供システム。
【請求項3】
請求項2記載のサービス情報提供システムにおいて、
前記通信端末は、さらに、
前記サービス情報提供手段から送信され、前記表示手段により表示するための前記サービス情報を記憶保持する情報記憶手段を有し、
前記管理装置は、さらに、
前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定された場合に、前記通信端末の前記情報記憶手段が保持している前記サービス情報の送信を前記通信端末へ要求する送信要求手段を有し、
前記通信端末は、さらに、
前記送信要求手段からの要求に応じて、前記情報記憶手段が保持している前記サービス情報を送信するサービス情報送信手段を有し、
前記サービス情報提供手段は、
前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定された場合に、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報の内容に応じて、前記変化後の前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信する
ことを特徴とするサービス情報提供システム。
【請求項4】
請求項3記載のサービス情報提供システムにおいて、
前記管理装置は、さらに、
前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報の内容が、対応する前記サービス領域に係わる最新の情報であるか否かを判定する更新判定手段を有し、
前記サービス情報提供手段は、
前記領域判定手段により、前記通信端末が存在する前記サービス領域が変化したと判定され、前記更新判定手段により、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報が前記サービス領域に係わる最新の情報ではないと判定された場合に、前記変化後の前記サービス領域に対応したサービス情報を、前記通信端末へ送信する
ことを特徴とするサービス情報提供システム。
【請求項5】
請求項4記載のサービス情報提供システムにおいて、
前記管理装置は、さらに、
前記サービス情報提供手段による前記通信端末への前記サービス情報の送信履歴情報を記憶した履歴記憶手段を有し、
前記更新判定手段は、
前記履歴記憶手段が記憶した前記送信履歴情報に基づき、前記通信端末の前記サービス情報送信手段から送信された前記サービス情報の内容が、対応する前記サービス領域に係わる最新の情報であるか否かを判定する
ことを特徴とするサービス情報提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−129577(P2012−129577A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276441(P2010−276441)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】