説明

シリコンウェーハの結晶欠陥評価方法

【課題】選択エッチングによりOSFのエッチピットのみを検出し、OSFを正確に判別することができるシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェーハをウェット酸素雰囲気下で熱処理した後、前記ウェーハ表面をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングを行って前記ウェット酸素雰囲気下での熱処理により析出する欠陥を除去し、続いて、選択エッチングを行い、OSFを判別する。フッ酸と硝酸の混酸を用い、エッチング量(除去厚さ)を1μm以上とすることが望ましい。ウェット酸素雰囲気下での熱処理工程の終了後に、ウェーハ表面に形成された酸化膜を除去するため酸化膜除去洗浄を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの結晶欠陥評価方法に関し、より詳しくは、選択エッチングにより形成されるエッチピットによりOSF評価を行うに際し、OSFのエッチピットのみを検出し、OSFを正確に判別することができるシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用の基板など、半導体材料として用いられるシリコンウェーハは、一般にチョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)により育成されたシリコン単結晶インゴットから切り出され、研磨等の工程を経て製造される。CZ法は、石英るつぼ内の溶融したシリコンに種結晶を浸漬させて引き上げ、単結晶を育成する方法であるが、この方法により育成された結晶には、通常、COP(Crystal Originated Particle)、転位クラスターなど、grown−in欠陥と称される結晶欠陥が発生する。
【0003】
図1は、引き上げられたシリコン単結晶の縦断面図(部分図)で、欠陥分布の一例を模式的に示す図である。この図は、シリコン単結晶の引き上げ速度を徐々に低下させつつ成長させた単結晶を、結晶の中心軸に沿って切断し、その断面にCuを付着させ、熱処理後X線トポグラフ法により微小欠陥分布の観察を行った結果を模式的に示した図である。欠陥分布は結晶の中心軸に対して概ね対称なので、同図では、結晶の中心から外周部までを示している。
【0004】
図1において、COPは、単結晶育成時に結晶格子を構成すべき原子の欠けた空孔の凝集体(微小ボイド)であり、転位クラスターは格子間に過剰に取り込まれた格子間シリコンの凝集体である。これらはいずれもgrown−in欠陥として存在している。一方、PVは空孔型点欠陥が優勢な領域であり、PIは格子間シリコン型点欠陥が優勢な領域であるが、いずれも凝集体を形成するほどの過飽和度には至っておらず、無欠陥領域とされている。
【0005】
また、COPの発生領域に隣接するOSF領域は、as−grown状態では欠陥として顕れてはいないが、板状酸素析出物(OSF核)を含む領域であり、高温(一般的には1000℃から1200℃)で熱酸化された場合には、OSF核が酸化誘起積層欠陥(OSF:Oxidation Induced Stacking Fault)として顕在化する。
【0006】
COPや転位クラスターなどの結晶欠陥は、いずれもデバイス特性に悪影響を与えるので、このような結晶欠陥が含まれないシリコンウェーハを得るための研究開発がなされてきた。その結果、例えば、シリコン単結晶の引き上げ速度Vと引き上げ直後の単結晶内の成長方向の温度勾配Gとの比(V/G)を適正に制御して結晶引き上げを行うことにより、COPや転位クラスター、さらにはOSF領域が含まれない単結晶を引き上げ、この単結晶から切り出して加工することにより、これらの結晶欠陥が含まれないシリコンウェーハを得ることが可能となってきている。図1中に白抜き矢印で示した無欠陥結晶引き上げ速度範囲が、径方向全域が無欠陥領域(PV、PI)からなるシリコン単結晶を引き上げることができる引き上げ速度範囲である。
【0007】
しかしながら、OSF領域はPV領域に隣接しており、結晶引き上げ条件の僅かな変動で生成する場合もある。そのような単結晶から切り出されたウェーハでは、OSF領域が例えばウェーハの外周部近傍でリング状に存在することとなる(後述する図3参照)。OSF領域はas−grown状態で板状酸素析出物(OSF核)を含んでいるため、このウェーハがデバイス製造工程に供され、高温で熱酸化された場合には、OSF核がOSFとして顕在化し、リーク電流の原因になるなどデバイス特性を劣化させる。
【0008】
このため、引き上げられたシリコン単結晶またはそれから切り出されたウェーハにおいて、OSF領域の存否を的確に把握することは、引き上げ条件を適切に設定するとともに、高品質のシリコン単結晶、さらにはウェーハを得る上で極めて重要である。
【0009】
従来、シリコンウェーハのOSF検査を行う場合、1000℃以上でウェーハ表面を熱酸化した後、希釈したフッ酸(HF)で洗浄して酸化膜を除去し、選択エッチングを行ってエッチピットを形成させ、スポットライトの下で目視により、あるいは顕微鏡によりOSFを判別していた。前記の熱酸化は、OSFを形成させるために、ウェット酸素雰囲気中で行われている。
【0010】
しかしながら、熱酸化をウェット酸素雰囲気中で行う場合、ウェーハ表面が熱処理炉からの鉄、ニッケル、銅等の金属により汚染されやすく、汚染された部分が欠陥となり、選択エッチングによりエッチピットを形成する。そのため、OSFに起因するエッチピットとの識別ができにくくなり、OSF領域の正確な判別が困難になる。
【0011】
この問題に対して、OSF検査用のサンプルとして丸形状のウェーハを使用すれば、測定面積が大きいので、金属により汚染されていない正常な面を見つけてその領域で測定することにより対応できる。しかし、1枚のウェーハサンプルを例えばウェーハの中心を通る直線で等面積の扇形に4分割したサンプルを使用して測定する場合は、測定面積が小さいため正常な面が出ていない場合が往々にしてあり、OSF領域の正確な判別はできない。
【0012】
OSF領域の検出方法として、例えば、特許文献1には、結晶中の格子間酸素濃度が10×1017atoms/cm3以下のシリコン単結晶に対して銅デコレーション法を施し、OSFまたはOSFとなる核が存在する領域を検出する結晶欠陥評価方法が提案されている。しかし、熱処理炉からの金属により汚染され、欠陥となった部分が、OSFまたはOSFとなる核が存在する領域からどのように識別されるのかという点については何も記載されていない。
【0013】
また、特許文献2には、シリコン単結晶ウェーハを酸化性雰囲気下で熱処理した後、選択エッチングにより浅いエッチピット(シャローピット)を形成し、N(V)領域、N(I)領域(それぞれ前記のPV領域、PI領域に相当する)を判別する評価方法が提案されている。熱処理炉で熱処理すると、評価サンプル表面は熱処理炉からのニッケル等の金属によって汚染されるが、ゲッタリング能力のないN(I)領域では汚染金属が除去されず、この汚染に起因して欠陥が析出し、選択エッチングを施した場合に、この析出欠陥部にシャローピットが形成される。この場合、酸化性雰囲気をウェット酸素雰囲気とすれば、OSFが形成されるので、OSF領域も判別することができるとされている。
【0014】
しかし、OSF領域を判別しようとする場合、金属による汚染に起因してシャローピットが形成されるN(I)領域とOSF領域との識別が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−81000号公報
【特許文献2】特開2008−222505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、選択エッチングにより形成されるエッチピットからOSFを検出するに際し、OSFのエッチピットのみを検出し、OSFを正確に判別することができるシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明者は、シリコンウェーハをウェット酸素雰囲気下で熱処理した場合に、熱処理炉からの鉄、ニッケル、銅などの金属による汚染に起因して発生し、その後の選択エッチングによりエッチピットを形成する欠陥を、選択エッチングの前に、ウェーハ表面の光沢度を増大させて鏡面のような表面状態にするエッチング(ミラーエッチング)を行うことにより除去し、選択エッチングでは、OSFによるエッチピットのみを顕在化させる方法について検討した。その結果、このような金属汚染に起因して発生する欠陥の除去が可能であることを確認し、本発明をなすに至った。
【0018】
本発明は、下記のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法を要旨とする。
すなわち、OSF評価を行うシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法であって、ウェット酸素雰囲気下で熱処理した後、前記ウェーハ表面をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングを行って前記ウェット酸素雰囲気下での熱処理により析出する欠陥を除去し、続いて、選択エッチングを行い、OSFを判別することを特徴とする結晶欠陥評価方法である。
【0019】
本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法において、ウェット酸素雰囲気下での熱処理を1100℃以上で行うこととすれば、OSF核の成長が著しく促進され、OSFが形成されるので望ましい。
【0020】
本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法においては、フッ酸と硝酸の混酸溶液を用いたエッチングによるウェーハ表面からの除去量を1μm以上とすることが望ましい。
【0021】
また、本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法においては、ウェット酸素雰囲気下で熱処理を施したウェーハの表面をフッ酸で洗浄することとすれば、当該熱処理で形成される酸化膜を除去してその影響を排除することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法によれば、シリコンウェーハをウェット酸素雰囲気下で熱処理した場合に、熱処理炉内での金属による汚染に起因して発生し、選択エッチングによりエッチピットを形成する欠陥を、選択エッチングの前に除去することが可能であり、OSF領域を正確に判別することができる。これにより、シリコン単結晶の引き上げ条件をより適切に設定することができ、高品質のシリコン単結晶、さらにはウェーハの製造に大きく寄与できる。また、小サイズのウェーハサンプルでも安定した測定が可能となるので、選択エッチング用薬液を節約することができ、品質評価等のサンプルとして使用するウェーハ枚数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】引き上げられたシリコン単結晶の縦断面図(部分図)で、欠陥分布の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の結晶欠陥評価方法における処理工程を示す図である。
【図3】選択エッチング後のウェーハ表面の光学顕微鏡による観察(測定)位置を示す図である。
【図4】選択エッチング後のウェーハ表面の光学顕微鏡による観察結果を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法は、OSF評価を行うシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法であって、シリコンウェーハをウェット酸素雰囲気下で熱処理した後、前記ウェーハ表面をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングを行って前記ウェット酸素雰囲気下での熱処理により析出する欠陥を除去し、続いて、選択エッチングを行い、OSFを判別することを特徴とする方法である。
【0025】
本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法において、特にOSF評価を行うことを前提とするのは、前述のように、OSF領域がas−grown状態では顕在化していないが、デバイス製造工程でウェーハが熱酸化された場合にOSFとして顕在化し、デバイス特性を劣化させるなど、シリコンウェーハを基板として用いたデバイスの特性に多大な影響を及ぼす結晶欠陥だからである。
【0026】
図2は、本発明の結晶欠陥評価方法における処理工程を示す図である。以下、本発明の結晶欠陥評価方法を(a)〜(d)の処理工程順に詳細に説明する。
【0027】
(a)ウェット酸素雰囲気下での熱処理工程
この工程は、単結晶インゴットの育成過程で形成された結晶欠陥として顕在化していないOSF核をOSFとして顕在化させ、OSFの判別を可能とするために行う処理工程である。ウェット酸素雰囲気下での熱処理は、シリコンウェーハのOSF検査において従来から実施されてきた手法であり、それに準じて行えばよいが、望ましい熱処理温度範囲を挙げると、1000〜1250℃である。1000℃未満ではOSFの形成が必ずしも十分ではなく、1250℃を超えると、格子間Siの拡散が速くなり、その結果OSFの成長に必要なSi/SiO2界面の格子間シリコンの過飽和度が弱くなるため、OSFの成長が困難となる。より望ましい熱処理温度範囲は、1100〜1200℃である。ウェット酸素雰囲気下で1100℃以上で熱処理することにより、OSF領域に存在しているOSF核の成長を著しく促進させることができ、OSFの形成を確実なものとすることができる。すなわち、デバイス製造工程に供された後、結晶欠陥として顕在化するおそれのあるOSF核を、見逃すことなく検出することが可能となる。
【0028】
なお、ウェット酸素雰囲気下で、しかも1100℃以上で熱処理を施すことにより、金属不純物によるウェーハの汚染(およびそれによる欠陥形成)も進行するので、そのまま選択エッチングを行えば、この金属汚染に起因して選択エッチングによるエッチピットも急増するが、金属汚染に起因する欠陥は次の工程(ミラーエッチング)で除去されるので、OSFの判別に支障をきたすことはない。
【0029】
ウェット酸素雰囲気下での熱処理時間、ウェット酸素雰囲気の調整等についても特に限定はない。熱処理温度を考慮し、従来行われている条件に準じて適宜定めればよい。
【0030】
(b)フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング工程(ミラーエッチング)
この工程は、前記のウェット酸素雰囲気下での熱処理工程で析出した欠陥、すなわち、熱処理炉からの鉄、ニッケル、銅等の金属によるウェーハ表面の汚染に起因して形成された欠陥を除去する工程である。
【0031】
エッチング液としては、結晶欠陥や面方位等による選択性をもたない、例えば、フッ酸と硝酸の混合液が望ましい。特に、フッ酸と硝酸の比率が、フッ酸1に対して硝酸が4〜8(フッ酸:硝酸=1:4〜8)の混合液が好適である。なお、エッチングは室温でも短時間で実施できるので、加温する必要はない。
【0032】
前記の汚染に起因して形成される欠陥は、ウェーハの表面にのみ存在するので、フッ酸と硝酸の混酸溶液で、表面層を軽くエッチングすることにより除去できる。したがって、エッチング量(エッチングによる除去厚さ)は、1μm以上とするのが望ましい。エッチング量が1μmに満たないと、ウェーハ表面の汚染に起因して形成された欠陥の除去が不十分となる。エッチング量の望ましい上限は特に定めないが、汚染に起因して形成される欠陥がウェーハ表面にのみ存在することを考慮すれば5μm以下とするのが望ましい。5μmを超えると、ウェーハ表面を必要以上に溶解させることとなり、望ましくない。
【0033】
フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング時間は、エッチング液組成によって変わるので一概には決められないが、後述する実施例に示すように、フッ酸1に対して硝酸が6の混合液を用いた場合は、30秒以上とすることが望ましい。エッチング時間が30秒より短い場合は、ウェーハの酸素濃度によっては汚染に起因して形成される欠陥の除去が必ずしも十分ではなく、次の選択エッチングを行ったときに部分的にピットが発生する場合がある。
【0034】
フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングの前、すなわち、ウェット酸素雰囲気下での熱処理工程の終了後に、ウェーハ表面に形成された酸化膜を除去するための洗浄(酸化膜除去洗浄)を行ってもよい(図2参照)。
【0035】
ウェット酸素雰囲気下での熱処理によりウェーハ表面に酸化膜が形成されるが、そのままフッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを行うと、酸化膜を溶解する分時間がかかるため、酸化膜の厚さによってはエッチング量にずれが生じる。この酸化膜除去洗浄を実施することとすれば、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング開始時には、酸化膜が完全に除去されているので、エッチングを常に酸化膜が存在していない状態から行うことができ、所定のエッチング量が得られ易い。なお、酸化膜の厚さの変動や、酸化膜の溶解に要する時間をあらかじめ把握しておけば、前記のずれを補償してエッチング量を前記の望ましい範囲内とすることができるので、酸化膜を除去するための洗浄を行う必要はない。
【0036】
酸化膜を除去する洗浄液としては、希フッ酸(HF:H2O=1:1〜50)や、SC1液(アンモニア:過酸化水素:水=1:1:5〜7)が使用できる。
【0037】
(c)選択エッチング工程
この工程は、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング工程でウェーハ表面の金属による汚染に起因して形成された欠陥が除去されたウェーハに対し、選択エッチングを行い、工程(a)で結晶欠陥として顕在化させたOSFをエッチピットとして視覚により確認できるようにするための工程である。
【0038】
エッチング液としては、結晶欠陥を選択的にエッチングすることができる選択性をもった薬液を使用する。このようなエッチング液としては、例えば、Dash液(フッ酸:硝酸:酢酸=1:3:8〜12)、Wright液(フッ酸:硝酸:クロム酸(5M):硝酸銅(II):水:酢酸=60mm:30ml:30ml:2g:60ml:60ml)、Secco液(フッ酸:重クロム酸カリウム(0.15M)=2:1)等があげられる。
【0039】
選択エッチングにおいては、結晶欠陥として顕在化させたOSFをエッチピットとして観察できる程度に結晶欠陥を溶解することができればよく、エッチング量をそれほど大きくする必要はない。通常は、エッチング量(除去厚さ)を1μm〜5μm程度とすればよい。なお、エッチング処理中の反応熱によりエッチング液の温度が上昇し、エッチング速度が変動して所定のエッチング量が得られず、OSFの判別に影響が及ぶのを回避するため、選択エッチングを行う際には恒温槽を使用することが望ましい。
【0040】
(d)OSFを判別する工程
選択エッチングを施した後のウェーハ表面のエッチピットを観察して、OSFを判別する。観察されるエッチピットは、金属汚染に起因して発生したエッチピットを含んでおらず、OSFの形状、密度に対応しているので、このエッチピットを観察することによりOSFを判別し、その形状、密度等を把握することができる。すなわち、OSF領域を正確に判別することができる。
【0041】
エッチピットの観察は、スポットライトの下で目視により行うことも可能であるが、光学顕微鏡を用いて行うのが望ましい。
【0042】
以上説明したように、本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法によれば、選択エッチングによりOSFのエッチピットのみを検出し、OSF領域を正確に判別することができる。これにより、シリコン単結晶の引き上げ条件をより適切に設定することができ、高品質のシリコン単結晶、さらにはウェーハの製造に大きく寄与することができる。
【0043】
さらに、OSF領域を正確に判別できることから、小サイズのウェーハサンプルでも安定した測定が可能となり、選択エッチング用薬液の節約、サンプルとして使用するウェーハ枚数の低減が可能となる。
【実施例】
【0044】
リング状OSFが存在しているシリコンウェーハを対象とし、本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法を適用してその効果を確認すると共に、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを実施する際の望ましいエッチング時間について調査した。
【0045】
(実施例1)
酸素濃度が異なる3種のシリコンウェーハ(直径200mm)をサンプルとして使用した。各サンプルの酸素濃度およびOSF密度は次のとおりである。なお、酸素濃度は、ASTM F121(1979)に規定されたFT−IR法により求めた格子間酸素濃度[Oi]である。
【0046】
サンプルA:[Oi]=11.5×1017atoms/cm3
OSF密度=2個/cm2
サンプルB:[Oi]=12.6×1017atoms/cm3
OSF密度=12個/cm2
サンプルC:[Oi]=14.5×1017atoms/cm3
OSF密度=30個/cm2
【0047】
これらのサンプル(丸サンプル)を中心を通る直線で等面積の扇形に4分割し(1/4分割サンプル)、これら1/4分割サンプルに、ウェット酸素雰囲気中、1100℃で1時間加熱する熱処理を施した後、希釈フッ酸で洗浄してウェーハ表面の酸化膜を除去した。その後、それぞれのサンプルに対して、フッ酸と硝酸の混合液(フッ酸:硝酸=1:6)を使用し、エッチング時間を0秒、10秒、20秒または30秒として、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを行った。エッチング時間0秒とは、エッチングを行っていないことを意味する。続いて、Dash液(フッ酸:硝酸:酢酸=1:3:10)を用いて選択エッチングした後、スポットライトの下でウェーハの表面状態を目視観察した。フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングにおけるエッチング量は、前記組成のエッチング液を用いた場合、エッチング時間が30秒で、約1μmに相当する。また、選択エッチングにおけるエッチング量は1μmとした。
【0048】
調査結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示した結果から明らかなように、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを行わない(エッチング時間0秒)場合は、ウェーハの全面に、または部分的にピット(ウェット酸素雰囲気下での熱処理時における金属汚染に起因するエッチピット)が発生し、OSFによるエッチピットとの識別ができなかった。
【0051】
一方、30秒間のフッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを行った場合は、ウェーハの酸素濃度に関係なく、金属汚染に起因するピットはほとんど認められなかった。ウェーハの酸素濃度によってピットの発生状況に差が生じ、酸素濃度が低いサンプルAよりも、酸素濃度が高いサンプルCの方が、ピットの発生が少なく、表面状態がよかったのは、酸素濃度が高いとウェーハ内部に形成される酸素析出物(BMD−Bulk Micro Defect)密度も高くなるので、ウェーハ表面の汚染金属元素がゲッタリングされ、清浄となることによるものと考えられる。
【0052】
(実施例2)
酸素濃度が12×1017atoms/cm3のシリコンウェーハ(直径200mm)をサンプルとして使用した。このサンプル(丸サンプル)を、実施例1の場合と同様に、等面積の扇形に4分割し(1/4分割サンプル)、この1/4分割サンプルを、ウェット酸素雰囲気中、1100℃で1時間加熱した後、希釈フッ酸で洗浄し、フッ酸と硝酸の混合液(フッ酸:硝酸=1:6)を使用して、エッチング時間を0秒、10秒、20秒または30秒として、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを行った。続いて、Dash液(フッ酸:硝酸:酢酸=1:3:10)を用い、エッチング量を1μmとして選択エッチングした後、ウェーハの表面状態を光学顕微鏡で観察した。
【0053】
図3は、選択エッチング後のウェーハ表面の光学顕微鏡による観察(測定)位置を示す図である。図3における符号(i)〜(vi)のそれぞれの位置が観察位置を表す。図示するように、ウェーハの外周部3箇所((i)、(ii)および(iii))と、リング状OSF領域1の2箇所((iv)および(v))と、中心部近傍の1箇所((vi))の合計6箇所で観察した。
【0054】
図4は、選択エッチング後のウェーハ表面の光学顕微鏡による観察結果を示す図で、測定位置別に、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング時間を変えたときの表面状態を表す写真(倍率:200倍)である。なお、図4において、エッチング時間0sec(秒)とは、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを行っていないことを意味する。また、測定位置の欄の「Ring−OSF領域」とは、リング状OSF領域を意味する。
【0055】
図4に示したように、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング時間が0秒では、測定位置には関係なく、ウェーハのほぼ全面に不均一な密度で金属汚染に起因するエッチピットがみられた。顕微鏡観察ではOSFに起因するエッチピットと金属汚染に起因するエッチピットの判別が困難であり、また、スポットライトの下で観察してもリング状OSFの位置は特定できない状況であった。
【0056】
フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを10秒間行った場合は、金属汚染に起因するエッチピットは、サイズが小さくなったものの、全面に残っている状態であり、Ring−OSFの区別はまだ困難であった。図示していないが、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチングを20秒間とした場合は、スポットライトでリング状OSFを識別できる状態であったが、部分的に金属汚染に起因するエッチピットもみられた。30秒間エッチングを行った場合は、金属汚染に起因する欠陥は完全に除去されており、リング状OSF以外のピットは認められなかった。
【0057】
実施例1および2の結果から、本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法を適用することによりOSF領域を正確に判別できることが確認された。その際、フッ酸と硝酸の混酸溶液によるエッチング時間は、エッチング液として例えばフッ酸と硝酸の混合液(フッ酸:硝酸=1:6)を使用した場合であれば、30秒程度(エッチング量:1μm程度)とすることが望ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法によれば、選択エッチングによりOSFのエッチピットのみを検出し、OSF領域分布を正確に判別することができる。さらに、小サイズのウェーハサンプルでも安定した測定ができるので、選択エッチング用薬液の節約、サンプルとして使用するウェーハ枚数の低減が可能となる。
したがって、本発明の結晶欠陥評価方法は、シリコンウェーハならびに半導体デバイスの製造において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:リング状OSF領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OSF評価を行うシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法であって、
シリコンウェーハをウェット酸素雰囲気下で熱処理した後、
前記ウェーハ表面をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングを行って前記ウェット酸素雰囲気下での熱処理により析出する欠陥を除去し、
続いて、選択エッチングを行い、
OSFを判別することを特徴とするシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法。
【請求項2】
前記ウェット酸素雰囲気下での熱処理を1100℃以上で行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法。
【請求項3】
前記混酸溶液を用いたエッチングによるウェーハ表面からの除去量を1μm以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法。
【請求項4】
前記ウェット酸素雰囲気下で熱処理を施したウェーハの表面をフッ酸で洗浄することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンウェーハの結晶欠陥評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−275147(P2010−275147A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128823(P2009−128823)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】