説明

シリコンオキシナイトライド膜の形成方法およびそれにより製造されたシリコンオキシナイトライド膜付き基板

【課題】エネルギーコストを抑制できるシリコンオキシナイトライド膜の製造方法とそれにより製造されたシリコンオキシナイトライド膜付き基板の提供。
【解決手段】基板表面にポリシラザン化合物を含む被膜形成用組成物を塗布して塗膜を形成させ、前記塗膜に含まれる過剰の溶媒を除去し、溶媒除去後の塗膜を150℃未満の温度条件下で紫外線を照射することを含むシリコンオキシナイトライド膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンオキシナイトライド膜の形成方法およびその方法により得られるシリコンオキシナイトライド膜に関するものである。さらに詳しくは、本発明は半導体装置や液晶表示装置における絶縁膜、保護膜などとして、あるいはセラミックスや金属等の表面改質被膜などとして有用なシリコンオキシナイトライド膜を、高効率かつ低コストで形成させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ、シリコンナイトライド、およびシリコンオキシナイトライド等の珪素質セラミックス薄膜は、その優れた耐熱性、耐摩耗性、耐蝕性等の面から、例えば半導体装置や液晶表示装置における絶縁膜として、あるいは画素電極ないしカラーフィルター上に設けられる保護膜として、利用されている。それらの薄膜の中でもシリコンナイトライド膜は特に不活性雰囲気や還元性雰囲気においても高温で安定であり、またシリカ等に比べ高屈折率な透明膜であるという特徴を有する。このためシリコンナイトライド膜は緻密性、高屈折率の点から、近年光デバイスの保護膜、ガスバリア膜として有用である。
【0003】
このような分野で用いられるシリコンナイトライド膜またはシリコンオキシナイトライド膜(以下、簡単のためにSiN膜およびSiON膜ということがある)は、一般に、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、以下CVD法という)、またはスパッタリング法等の気相成長法によって基板上に形成されている。
【0004】
塗布法は、水酸化シリコンやポリシラザンなどのケイ素含有化合物を含む被膜形成用塗布液を基板に塗布し、熱処理によってケイ素含有化合物を酸化してシリカ、シリコンナイトライド、またはシリコンオキシナイトライドに転換させる方法である。例えばペルヒドロポリシラザンまたはその変性物を基板上に塗布し、真空下に600℃以上の温度で焼成してSiN膜を得る方法(特許文献1)、ペルヒドロポリシラザンを含む組成物を基板上に塗布し、不活性雰囲気下650℃で30分程度熱処理してアモルファスシリコンナイトライドに転換させる方法(非特許文献1)などが知られている。
【0005】
このような塗布法は、比較的設備が簡便であるので広く採用されているが、比較的高い温度で熱処理が行われるために、熱エネルギーコストが高いうえ、生産性も比較的低い。
【0006】
一方、気相成長法もよく知られている方法であるが、CVD法は、形成される被膜表面の平滑性が不十分となることがあり、また基板表面に溝構造などがある場合、その溝内部を均一に埋設することが困難であり、溝内に空孔が形成されたりすることがある。
【0007】
このような気相成長法の問題点を改善するために、350℃程度の温度でCVD法を行ってアモルファスシリコンナイトライド膜を形成することも検討されている(非特許文献2)。しかし、この方法では、一般的に複雑なCVDプロセスがさらに複雑になってしまう。また、プロセスコストが高く、生産性も比較的低いので改良の余地がある。
【0008】
また、CVD法により形成されたSiN膜からはアンモニアが発生することがある。このため、CVD法により得られたSiN膜を底面反射防止膜として用い、その上にレジストパターンを形成させようとしたときに、そのレジストパターンが裾引き形状となってしまうことがある。このような形状はレジストフッティングと呼ばれ、レジストパターンには好ましくないものである。このため、CVD法により形成されたSiN膜の表面に、さらにキャッピング膜としてSiO膜を形成させなければならないことがあった。さらにはそのようなキャッピング膜を設けた場合には、レジストパターンの矩形の根元が細くなることがあった。このような形状はボトムピンチと呼ばれ、これもレジストパターンには好ましくない。すなわち、CVD法によるSiN膜を底面反射防止膜に用いると、レジストフッティングまたはボトムピンチが起こりやすく、その改良が望まれていた。
【0009】
このようなSiN膜の形成方法に対して、塗布法を採用しながら、熱処理の温度を低くしようという試みもされている(特許文献2)。この方法では、ペルヒドロ系ポリシラザン溶液を基板に塗布し、紫外線照射を行いながら200〜300℃で熱処理を行い、SiN膜を形成させている。しかしながら、この文献の実施例に記載されているFT−IRスペクトルを見る限り、生成されているのはSiN膜ではなく、シリコンオキシド膜である可能性がある。また、この方法は塗布法に対して、プロセスが複雑であるうえ、温度が相対的に下がっているものの、依然として熱処理が必要であり、熱エネルギーコストを低減するという目的に対しては、さらなる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−194873号公報
【特許文献2】特開平7−206410号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】舟山ら、J. Mat. Sci., 29(18), p4883-4888, 1994
【非特許文献2】Y. Kuo, J. Elecrochem. Soc., 142, 186, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、SiN膜を形成させるための従来技術は、いずれも複雑であり、また熱エネルギーコストが高いという問題点があった。このような問題点は、従来の技術を応用してSiON膜を形成させようとした場合にも改良すべきものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるシリコンオキシナイトライド膜の形成方法は、
基板表面にポリシラザン化合物を含む被膜形成用組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
前記塗膜に含まれる過剰の溶媒を除去する乾燥工程、
溶媒除去後の塗膜を150℃未満の温度条件下で紫外線を照射する紫外線照射工程、
を含むこと特徴とするものである。
【0014】
また本発明によるシリコンオキシナイトライド膜付き基板は、前記の方法により形成されたことを特徴とするものである
【0015】
また本発明によるレジストパターン形成方法は、フォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成させるものであって、レジスト層の基板側に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法によりシリコンオキシナイトライドからなる底面反射防止膜を形成させることを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の方法に比較して簡略な一段階の工程でSiON膜を形成させることができる。このとき、基板表面の溝構造などがある場合であっても、空隙の発生が少なく、埋設性に優れている。さらには、熱エネルギーコストを低減することができ、生産効率を改良することができる。さらに得られるシリコンナイトライドの膜特性の観点においては、紫外線の照射エネルギーを制御することだけで減衰係数などの特性を制御することが可能であり、任意の特性のSiON膜を容易に形成させることができる。そして、このような方法により形成されたSiON膜は、レジストフッティングやボトムピンチが少なく、また製造条件により屈折率や吸収係数が調整できる点で優れており、リソグラフィーにおける底面反射防止膜に好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
本発明によるSiON膜の形成方法は、基板表面にポリシラザン化合物に由来するSiON膜を形成させるためのものである。ここで、目的とされるシリコンオキシナイトライドは、ケイ素と酸素と窒素とからなるものである。ここで、本発明においては酸素と窒素との組成比を制御することで、屈折率(n)と吸収係数(k)を制御することが可能である。一方、窒素含有率が高いほど緻密性が高くなって機械的強度が高くなり、また屈折率が高くなる傾向がある。このため、より具体的には、シリコンオキシナイトライドは、重量を基準として酸素含有率が10%以下であることが好ましい。
【0019】
SiON膜に含まれる酸素含有率は、用いられる被膜形成組成物の成分や、SiON膜を形成させるときの条件によって変化する。これらの条件については後述する。
【0020】
本発明により、SiON膜は、基板上に形成される。ここで、基板は特に限定されず、金属、無機材料、有機材料などの任意のものから選択される。ベアシリコン、必要に応じて熱酸化膜などを成膜したシリコンウェハー、などを用いることもできる。必要に応じて、基板上にトレンチアイソレーション溝などの構造が形成されていてもよい。さらに、表面に半導体素子や配線構造が形成されていてもよい。
【0021】
本発明によるSiON膜の形成方法においては、それらの基板表面にポリシラザン化合物と溶媒とを含む被膜形成用組成物を塗布する。ここで本発明に用いられるポリシラザン化合物は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは、無機化合物あるいは有機化合物のいずれのものであってもよい。これらポリシラザンのうち、無機ポリシラザンとしては、例えば一般式(I)で示される構造単位を有する直鎖状構造を包含するペルヒドロポリシラザンが挙げられる。
【化1】

【0022】
これらのペルヒドロポリシラザンは、従来知られている任意の方法により製造することができ、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含むもので、下記の化学式で表すことができるものである。
【化2】

【0023】
また、他のポリシラザンの例として、例えば、主として下記一般式(II)で表される構造単位からなる骨格を有するポリシラザンまたはその変性物が挙げられる。
【化3】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)
【0024】
本発明において用いられるポリシラザン化合物の分子量は特に限定されないが、例えばポリスチレン換算平均分子量が1,000〜20,000の範囲にあるものが好ましく、 1,000〜10,000の範囲にあるものがより好ましい。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
本発明による被膜形成用組成物は、前記のポリシラザン化合物を溶解し得る溶媒を含んでなる。このような溶媒としては、用いられるポリシラザン化合物を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、
(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、
(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、
(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および
(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。
これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物、(d)エーテル類、および(e)ケトン類が好ましい。
【0026】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用することができる。
【0027】
このような溶媒として、市販の溶媒も用いることができる。例えば、炭素数8以上の芳香族炭化水素を5重量%以上25重量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物として、ペガソールAN45(商品名:エクソンモービル社製)、芳香族炭化水素を含まない脂肪族/脂環式炭化水素混合物として、エクソールD40(商品名:エクソンモービル社製)などが市販されているが、これらを用いることもできる。なお、溶媒の混合物を用いる場合、人体への有害性を低減するという観点から、芳香族炭化水素の含有率は溶媒混合物の総重量に対して30重量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明による組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば粘度調整剤、架橋促進剤等が挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0029】
本発明によるポリシラザン化合物含有組成物は、前記のポリシラザン化合物、および必要に応じてその他の添加物を前記の溶媒に溶解または分散させて組成物とする。ここで、有機溶媒に対して各成分を溶解させる順番は特に限定されない。また、配合成分を反応させた上で、溶媒を置換することもできる。
【0030】
また、前記の各成分の含有量は、目的とする組成物の用途によって変化するが、十分な膜厚のSiON膜を形成させるためにポリシラザン化合物の含有率が0.1〜40重量%であることが好ましく、0.1〜20重量%とすることがより好ましく、0.1〜10重量%とすることがさらに好ましい。
【0031】
基板表面に対して被膜形成用組成物を塗布する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいのはスピンコート法である。塗布後の塗膜の厚さは、後述する紫外線照射の際に効率的に硬化できるように薄いことが好ましい。このために、塗膜の厚さは1μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。一方、塗膜の厚さに下限はないが、形成されるSiON膜が所望の効果を発揮できるように選択される。一般には、塗膜の厚さは0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下とされる。
【0032】
基板表面に形成された塗膜は乾燥され、過剰の有機溶媒が除去される。このとき、乾燥は比較的高温で行うことでより効率よく行うことができるが、そのような熱エネルギーを外部から加えることは熱エネルギーコストの増大につながるので好ましくない。したがって、乾燥は熱エネルギーを加えないで行うことが好ましいが、もし高温で乾燥を行う場合には、乾燥温度は150℃以下で行うことが好ましく、100℃以下で行うことがより好ましい。
【0033】
また、乾燥は減圧により行うこともできる。すなわち、塗布後の基板に対して、真空ポンプやロータリーポンプなどで陰圧をかけることによって、塗膜中の溶媒の蒸発が早くなり、乾燥を促進することができる。
【0034】
乾燥によって過剰な溶媒が除去された塗膜は、引き続き紫外線照射に付される。紫外線照射の条件は、形成させようとするSiON膜の厚さ、組成、硬度などに応じて適切に選択されるが、一般的には下記のような範囲で選択される。
【0035】
照射する紫外線の波長は、一般に400〜50nmであり、好ましくは300〜100nm、より好ましくは250〜150nmである。また、紫外線の光電子エネルギーは高いほうが硬化が迅速に進むので好ましい。具体的には、紫外線の光電子エネルギーは3ev以上であることが好ましく、6ev以上であることがより好ましく、7ev以上であることが特に好ましい。
【0036】
また、紫外線光源の出力エネルギーは1mW以上であることが好ましく、5mW以上であることがより好ましく、10mW以上であることが特に好ましい。また、紫外線照射時間は一般に5分以上、好ましくは30分以上である。そして、必要な照射エネルギーは、塗膜に含まれるポリシラザンがシリコンオキシナイトライドに充分に転化する量であり、特に限定されないが、0.5kJ/m以上であることが好ましく、1.0kJ/m以上であることがより好ましい。このような紫外線光源は、種々のものが知られており、任意のものを用いることができるが、例えばキセノン放電管、水銀放電管、エキシマーランプ、紫外線LEDなどを挙げることができる。
【0037】
また、紫外線照射を行う雰囲気は、目的とするSiON膜の組成などに応じて任意に選択される。すなわち、窒素の組成比が高い膜を得ようとする場合には、酸素が少ない雰囲気で紫外線照射を行うことが好ましい。このような場合には、真空中または減圧条件下や、不活性ガス雰囲気下で紫外線照射を行う。また、雰囲気を減圧したあと、不活性ガスを導入してから紫外線照射を行うことも有効である。なお、ここで、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、およびそれらの混合ガスなどが用いられる。このとき窒素ガスは不活性であって、SiON膜中に取り込まれることはなく、窒素の組成比を上昇させることもない。また、紫外線照射は密閉された容器内で行うばかりでなく、不活性ガスのフロー中で行うことも可能である。このほか、例えばアンモニア、一酸化二窒素、およびそれらの不活性ガスとの混合ガス中で紫外線照射を行うこともできる。このとき、アンモニアや一酸化二窒素はSiON膜を構成する窒素源となり、これらを用いることによって窒素の組成比を上げることができる。
【0038】
紫外線照射の際には、エネルギーを外部から加えないことが好ましい。エネルギーコストを低く抑えるためである。しかしながら、硬化をより迅速に行うために、トータルコストを上げない範囲で、外部エネルギーを加えて昇温することもできる。このような場合であっても、紫外線照射は一般に150℃以下、好ましくは50℃以下で行われる。
【0039】
このような紫外線照射によって、塗膜中のポリシラザン化合物がシリコンオキSiON膜シナイトライド膜に転化されるが、転化が進行しているかどうかは、例えばFT−IRなどで確認することができる。すなわち、転化反応が進行すると、転化前に存在している3350cm−1および1200cm−1付近にあるN−H結合に基づく吸収、および2200cm−1にあるSi−H結合に基づく吸収が消失するので、これによりSiON膜に転化されたことが確認できる。
【0040】
このようにして形成されたSiON膜は、安定性、緻密性、および透明性などに優れているので、半導体デバイスなどの保護膜、絶縁膜、ガスバリアなどに用いることができる。また、半導体の製造過程における上面反射防止膜または底面反射防止膜にも用いることができる。具体的には、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成させるパターン形成方法において、レジスト層内の反射および干渉を防ぐために、レジスト層の上側または基板側に、本発明の方法によりSiON膜を反射防止膜として形成させる。本発明によるSiON膜はそのような反射防止膜、特にレジスト層の基板側に形成させる底面反射防止膜として用いるのにも適している。例えば、フォトリソグラフィーの光源としてArFレーザー(波長193nm)を用いる場合の底面反射防止膜は、その波長において、屈折率が1.56〜2.22であることが好ましく、1.70〜2.10であることがより好ましく、1.90〜2.05であることが好ましく、また吸光係数が0.20〜0.80であることが好ましく、0.30〜0.70であることがより好ましく、0.40〜0.60であることが特に好ましい。また、光源としてKrFレーザー(波長248nm)を用いる場合の底面反射防止膜は、その波長において、屈折率が1.56〜2.05であることが好ましく、1.60〜1.90であることがより好ましく、1.70〜1.80であることが好ましく、また吸光係数が0.20〜1.90であることが好ましく、0.30〜0.70であることがより好ましく、0.40〜0.60であることが特に好ましい。本発明により得られるSiON膜は、このような要求を充分に満足することができるものである。
【0041】
本発明を諸例をあげて説明すると以下の通りである。
【0042】
実施例1
ポリシラザンを含む被膜形成溶組成物として、ペルヒドロポリシラザン(重量平均分子量1700)のジブチルエーテル溶液をシリコンウェハーに塗布した。塗布液のポリマー濃度は1重量%であり、塗布は1000rpmの条件で行った。塗膜の厚さは0.07μmであった。
【0043】
塗布後の基板をホットプレート上で乾燥させた。乾燥条件は80℃3分間とした。
【0044】
乾燥後の基板をクォーツ窓の設けられた密閉容器に入れ、ロータリーポンプにより減圧して、容器内の圧力を76mBarまで低下させた、引き続き、窒素ガスを導入して大気圧に戻した後、ガスフロー中、室温で基板に紫外線を照射した。ガスには窒素を用い、またガスフロー量は5リットル/分とした。
【0045】
照射した紫外線の波長は172nmであり、出力エネルギーは10mWであり、照射時間は15分間であった。また、照射エネルギーは1.0kJ/mであった。
【0046】
紫外線照射された試料を容器から取り出し、FT/IR−660PLUS型スペクトロメーター(商品名、日本分光株式会社製)およびVUV302型エリプソメーター(商品名、ジェーエーウーラム・ジャパン株式会社製)で評価した。
【0047】
FT−IRの評価によれば、もともと小さいピークであった3350cm−1および1200cm−1付近にあるN−H結合に基づく吸収がほとんど完全に消失し、2200cm−1にあるSi−H結合に基づく比較的大きな吸収が10分の1程度になっており、ポリシラザンがほぼSiON膜に転化されていることが確認された。また得られた膜の193nmにおける屈折率および吸光係数は、2.052および0.3357であり、反射防止膜として充分利用可能なものであった。
【0048】
実施例2〜9
紫外線の照射時間、紫外線照射を行うときの雰囲気ガスを変更して、被膜を形成させて評価した。得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例10
シリコンウェハー上に実施例5の条件で0.07μmのSiON膜を形成し、その後遠紫外線用レジストAZ TX1311(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を140℃、180秒間のソフトベーク後に膜厚が0.846μmとなるようにコートし、ソフトベーク後、FPA−3000EX5型半導体露光装置(商品名、キヤノン株式会社製)を用いて露光波長248nmで露光した。露光後のウェハーを、110℃、180秒間ポスト・エクスポージャー・ベークした後に2.38重量%TMAH水溶液により、シングルパドル現像により23℃で180秒間現像し、リンス後乾燥した。得られたライン・アンド・スペースパターンを走査型電子顕微鏡により観察した結果、レジストフッティング、およびボトムピンチのない、良好なレジストパターンが得られた。
【0051】
実施例11
シリコンウェハー上に実施例4の条件で0.07μmのSiON膜を形成し、その後遠紫外線用レジストAZ AX3110P(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を100℃、180秒間のソフトベーク後に膜厚が0.105μmとなるようにコートし、ソフトベーク後、NSR−S306Dスキャナ(商品名、株式会社ニコン製)を用いて露光波長193nmで露光した。露光後のウェハーを、110℃、60秒間ポスト・エクスポージャー・ベークした後に2.38重量%TMAH水溶液により、シングルパドル現像により23℃で30秒間現像し、リンス後乾燥した。得られたライン・アンド・スペースパターンを走査型電子顕微鏡により観察した結果、レジストフッティング、ボトムピンチのない、良好なレジストパターンが得られた。
【0052】
比較例1
シリコンウェハー上にプラズマCVD(RF出力:0.3 W/cm(@13.56MHz)、総合RF出力:300W/cm)により、基板温度:330℃、導入ガス:アンモニア(NH)/シラン(SiH)=1/2.5、ガス流量:20sccm、真空度:12Paの条件で膜厚が0.093μmのSiN膜を形成した。その後遠紫外線用レジストAZ TX1311(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を140℃、180秒間のソフトベーク後に膜厚が0.85μmとなるようにコートし、ソフトベーク後、FPA−3000EX5型半導体露光装置(商品名、キヤノン株式会社製)を用いて露光波長248nmで露光した。露光後のウェハーを、110℃、180秒間ポスト・エクスポージャー・ベークした後に2.38重量%TMAH水溶液により、シングルパドル現像により23℃で180秒間現像し、リンス後乾燥した。得られたライン・アンド・スペースパターンを走査型電子顕微鏡により観察した結果、レジストフッティングが認められた。
【0053】
比較例2
シリコンウェハー上に、比較例1と同じ条件でプラズマCVDにより膜厚が0.025μmのSiN膜を形成した。その後遠紫外線用レジストAZ AX3110P(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を100℃、180秒間のソフトベーク後に膜厚が0.1μmとなるようにコートし、ソフトベーク後、NSR−S306Dスキャナ(商品名、株式会社ニコン製)を用いて露光波長193nmで露光した。露光後のウェハーを、110℃、60秒間ポスト・エクスポージャー・ベークした後に2.38重量%TMAH水溶液により、シングルパドル現像により23℃で30秒間現像し、リンス後乾燥した。得られたライン・アンド・スペースパターンを走査型電子顕微鏡により観察した結果、レジストフッティングが認められた。
【0054】
比較例3
シリコンウェハー上に実施例1記載の方法により、0.07μmのペルヒドロポリシラザン膜を形成した。その後遠紫外線用レジストAZ TX1311(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を140℃、180秒間のソフトベーク後に膜厚が0.846μmとなるようにコートし、ソフトベーク後、FPA−3000EX5型半導体露光装置(商品名、キヤノン株式会社製)を用いて露光波長248nmで露光した。露光後のウェハーを、110℃、180秒間ポスト・エクスポージャー・ベークした後に2.38重量%TMAH水溶液により、シングルパドル現像により23℃で180秒間現像し、リンス後乾燥した。得られたライン・アンド・スペースパターンを走査型電子顕微鏡により観察した結果、大きなレジストフッティングのためスペース部にもレジストの残存が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面にポリシラザン化合物を含む被膜形成用組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
前記塗膜に含まれる過剰の溶媒を除去する乾燥工程、
溶媒除去後の塗膜を150℃未満の温度条件下で紫外線を照射する紫外線照射工程、
を含むこと特徴とするシリコンオキシナイトライド膜の形成方法。
【請求項2】
前記紫外線照射工程を室温で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紫外線照射工程において、紫外線以外のエネルギーを外部から加えない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記紫外線照射工程を不活性雰囲気下で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記紫外線が波長200nm未満の遠紫外線である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記紫外線の照射エネルギーが0.5kJ/m以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塗膜の厚さが0.01〜1.0μmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により形成されたことを特徴とする、シリコンオキシナイトライド膜付き基板。
【請求項9】
フォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成させるレジストパターン形成方法であって、レジスト層の基板側に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法によりシリコンオキシナイトライドからなる底面反射防止膜を形成させることを含むことを特徴とする、レジストパターン形成方法。

【公開番号】特開2012−4349(P2012−4349A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138102(P2010−138102)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】