説明

シリコンドットの形成方法及び装置

【課題】シリコンドット形成対象基板上に、従来より、低温で、粒径の揃ったシリコンドットを均一な密度分布で形成することができるシリコンドット形成方法及び装置を提供する。
【解決手段】シリコンスパッタターゲット(例えばターゲット30)を内部に設けた真空チャンバ1内に基板Sを配置し、チャンバ1内にスパッタリング用ガス(代表的には水素ガス)を導入し、該ガスに高周波電力を印加することでチャンバ1内にプラズマを発生させ、該ターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するとともに該プラズマでターゲットをケミカルスパッタリングして基板S上にシリコンドットSiDを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一電子デバイス等のための電子デバイス材料や発光材料などとして用いられるシリコンドット、すなわち、微小サイズのシリコンのドット( 所謂シリコンナノ粒子) を基板上に形成するシリコンドットの形成方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンドットは、電子デバイス(例えば、シリコンドットの電荷蓄積機能を利用したメモリ素子)や、発光素子等を形成するために利用できる。
シリコンドットの形成方法としては、シリコンを不活性ガス中でエキシマレーザー等を用いて加熱、蒸発させて基板上にシリコンドットを形成する物理的手法が知られており、また、ガス中蒸発法も知られている(神奈川県産業技術総合研究所研究報告No.9/2003 77〜78頁参照) 。後者は、レーザーに代えて高周波誘導加熱やアーク放電によりシリコンを加熱蒸発させて基板上にシリコンドットを形成する手法である。
【0003】
また、CVDチャンバ内に材料ガスを導入し、加熱した基板上にシリコンナノ粒子を形成するCVD法も知られている(特開2004−179658号公報参照)。
この方法では、シリコンナノ粒子成長のための核を基板上に形成する工程を経て、該核からシリコンナノ粒子を成長させる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−179658号公報
【非特許文献1】神奈川県産業技術総合研究所研究報告No.9/2003 77〜78頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコンをレーザー照射により加熱蒸発させる手法は、均一にエネルギー密度を制御してレーザーをシリコンに照射することが困難であり、シリコンドットの粒径や密度分布を揃えることが困難である。
ガス中蒸発法においても、シリコンの不均一な加熱が起こり、そのためにシリコンドットの粒径や密度分布を揃えることが困難である。
【0006】
また、前記のCVD法においては、前記核を基板上に形成するにあたり、基板を550℃程度以上に加熱しなければならず、耐熱温度の低い基板を採用できず、基板材料の選択可能範囲がそれだけ制限される。
【0007】
そこで本発明は、シリコンドット形成対象基板上に、従来より、低温で、粒径の揃ったシリコンドットを均一な密度分布で形成できるシリコンドット形成方法を提供することを第1の課題とする。
また本発明は、シリコンドット形成対象基板上に、従来より、低温で、粒径の揃ったシリコンドットを均一な密度分布で形成できるシリコンドット形成装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はかかる課題を解決するため研究を重ね、次のことを知見するに至った。
すなわち、スパッタリング用ガス(例えば水素ガス)をプラズマ化し、該プラズマでシリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリング(反応性スパッタリング)することで、低温でシリコンドット形成対象基板上に直接、粒径の揃った結晶性のシリコンドットを均一な密度分布で形成することが可能である。
【0009】
また、シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするにあたっては、シリコンスパッタターゲットにスパッタリング制御用バイアス電圧(スパッタリング量を制御する電圧)を印加することで、プラズマからシリコンスパッタターゲットへの荷電粒子の入射エネルギを制御してスパッタ量をコントロールし、それにより所望粒径のシリコンドットを形成できる。
【0010】
また、シリコンスパッタターゲットをプラズマ発光において波長288nmにおけるシリコン原子の発光強度Si(288nm) と波長484nmにおける水素原子の発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕が10.0以下、より好ましくは3.0以下、或いは0.5以下であるプラズマでケミカルスパッタリングすれば、500℃以下の低温においても、粒径20nm以下、さらには粒径10nm以下の範囲で、粒径の揃った結晶性のシリコンドットを均一な密度分布で基板上に形成することが可能である。
【0011】
かかるプラズマの形成は、プラズマ形成領域にスパッタリング用ガス(例えば水素ガス)を導入し、これに高周波電力を印加することで行える。
【0012】
ここで、シリコンドットの「粒径が揃っている」とは、各シリコンドットの粒径がいずれも同じ又は略同じである場合のほか、シリコンドットの粒径にバラツキがあったとしても、シリコンドットの粒径が、実用上は、揃っているとみることができる場合も指す。例えば、シリコンドットの粒径が、所定の範囲(例えば20nm以下の範囲或いは10nm以下の範囲)内に揃っている、或いは概ね揃っているとみても、実用上差し支えない場合や、シリコンドットの粒径が例えば5nm〜6nmの範囲と8nm〜11nmの範囲に分布しているが、全体としては、シリコンドットの粒径が所定の範囲(例えば10nm以下の範囲)内に概ね揃っているとみることができ、実用上差し支えない場合等も含まれる。要するに、シリコンドットの「粒径が揃っている」とは、実用上の観点から、全体として、実質上揃っている、と言える場合を指す。
【0013】
かかる知見に基づき、本発明は、前記第1の課題を解決するため、
1又は2以上のシリコンスパッタターゲットを内部に設けたシリコンドット形成用真空チャンバ内にシリコンドット形成対象基板を配置する工程と、
該真空チャンバ内にスパッタリング用ガスを導入し、該ガスに高周波電力を印加することで該真空チャンバ内にプラズマを発生させ、前記シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するとともに該プラズマで該シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングして前記シリコンドット形成対象基板上にシリコンドットを形成するシリコンドット形成工程と
を含むシリコンドット形成方法を提供する。
【0014】
ここで「シリコンドット」とは、一般に「シリコンナノ粒子」等と称されている、粒径サイズが100ナノメートル(100nm)未満の微小なシリコンドット、例えば、粒径サイズが数nm〜数十nmの微小シリコンドットである。なお、シリコンドットのサイズの下限については、それには限定されないが、形成の難易の点から、概ね1nm程度となろう。
【0015】
かかるシリコンドット形成方法によると、低温(例えば500℃以下の低温で)シリコンドット形成対象基板上に直接、従来より、粒径の揃った結晶性のシリコンドットを均一な密度分布で形成することが可能である。
【0016】
シリコンスパッタターゲットは、市場で入手できるシリコンスパッタターゲット等の予め準備されたものを真空チャンバに後付け設置して用いてもよいのであるが、前記シリコンスパッタターゲットのうち少なくとも一つは、前記真空チャンバ内に、前記シリコンドット形成対象基板を配置するに先立って、シラン系ガス及び水素ガスを導入し、これらガスに高周波電力を印加して該真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマにより該真空チャンバ内壁に形成したシリコン膜からなるシリコンスパッタターゲットであってもよい。
以下、このシリコンスパッタターゲットによるシリコンドット形成方法を第1方法或いは第1のシリコンドット形成方法と言うことがある。
【0017】
この場合、真空チャンバ内壁にシリコンスパッタターゲットとなるシリコン膜を形成するので、市販のシリコンスパッタターゲットを真空チャンバに後付け配置する場合よりも大面積のシリコンスパッタターゲットを容易に得ることができ、それだけ、基板の広い面積にわたり、均一にシリコンドットを形成し易くなる。
【0018】
なお、ここでの「真空チャンバ内壁」は、真空チャンバを形成しているチャンバ壁の内面そのものであってもよいし、かかるチャンバ壁の内側に設けた内壁であってもよいし、これらの組み合わせでもよい。
このように真空チャンバ内壁に形成されたシリコン膜からなるシリコンスパッタターゲットには、例えば、該真空チャンバ内壁を導体或いは半導体材料で形成し、該真空チャンバ内壁を介して前記のケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加できる。
【0019】
また、前記シリコンスパッタターゲットのうち少なくとも一つは、前記シリコンドット形成用真空チャンバに外部から気密に遮断される状態に連設されたシリコンスパッタターゲット形成用真空チャンバ内にターゲット基板を配置し、該シリコンスパッタターゲット形成用真空チャンバ内にシラン系ガス及び水素ガスを導入し、これらガスに高周波電力を印加してプラズマを発生させ、該プラズマにより該ターゲット基板上にシリコン膜を形成して得たシリコンスパッタターゲットを、該シリコンスパッタターゲット形成用真空チャンバから前記シリコンドット形成用真空チャンバ内に外気に触れさせることなく搬入設置したシリコンスパッタターゲットとしてもよい。
以下、このシリコンスパッタターゲットによるシリコンドット形成方法を第2方法或いは第2のシリコンドット形成方法と言うことがある。
【0020】
このようなシリコンスパッタターゲットを採用する場合には、例えば、該ターゲット基板を導体或いは半導体材料で形成し、該ターゲット基板を介して前記のケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加できる。
【0021】
シリコンスパッタターゲットが前記のように真空チャンバ内壁のシリコン膜であったり、このようにターゲト基板にシリコン膜を形成したものである場合は、該シリコンスパッタターゲットを外気に触れさせないでおけるので、それだけ、予定されない不純物の混入が抑制されたシリコンドットを形成でき、且つ、低温で(例えば基板温度が500℃以下の低温で)シリコンドット形成対象基板上に、粒径の揃った結晶性のシリコンドットを均一な密度分布で形成することが可能である。
【0022】
前記シリコンスパッタターゲットは、既述のとおり、予め準備されたシリコンスパッタターゲット(例えば市販のシリコンスパッタターゲット)を、前記真空チャンバ内に後付け設置したものであってもよい。
さらに言えば、シリコンスパッタターゲットのうち少なくとも一つ(換言すればシリコンスパッタターゲットの全部又は一部)は、予め準備されたシリコンスパッタターゲット(例えば市販のシリコンスパッタターゲット)を、前記真空チャンバ内に後付け設置したものであってもよい。
以下、このようなシリコンスパッタターゲットを用いるシリコンドット形成方法を第3方法或いは第3のシリコンドット形成方法と言うことがある。
【0023】
かかる予め準備されたシリコンスパッタターゲットは、シリコンを主体とするターゲットであり、例えば単結晶シリコンからなるもの、多結晶シリコンからなるもの、微結晶シリコンからなるもの、アモルファスシリコンからなるもの、これらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0024】
また、シリコンスパッタターゲットは、不純物が含まれていないもの、含まれていてもその含有量ができるだけ少ないもの、適度量の不純物含有により所定の比抵抗を示すものなど、形成するシリコンドットの用途に応じて適宜選択できる。
【0025】
不純物が含まれていないシリコンスパッタターゲット及び不純物が含まれていてもその含有量ができるだけ少ないシリコンスパッタターゲットの例として、燐(P)、ホウ素(B)及びゲルマニウム(Ge)のそれぞれの含有量がいずれも10ppm未満に抑えられたシリコンスパッタターゲットを挙げることができる。
【0026】
所定の比抵抗を示すシリコンスパッタターゲットとして、比抵抗が0.001Ω・cm〜50Ω・cmであるシリコンスパッタターゲットを例示できる。
【0027】
前記スパッタリング用ガスとしては、代表例として水素ガスを挙げることができる。この場合、該水素ガスは、希ガス〔ヘリウムガス(He)、ネオンガス(Ne)、アルゴンガス(Ar)、クリプトンガス(Kr)及びキセノンガス(Xe)から選ばれた少なくとも1種のガス)〕と混合されたものでもよい。
【0028】
すなわち、前記いずれのシリコンドット形成方法においても、前記シリコンドット形成工程では、前記シリコンドット形成対象基板を配置した真空チャンバ内に前記スパッタリング用ガスとして水素ガスを導入し、該水素ガスに高周波電力を印加することで該真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマでシリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングしてシリコンドット形成対象基板上にシリコンドットを形成することができる。また、そのとき、500℃以下の低温で(換言すれば、基板温度を500℃以下の低温として)、基板上に直接、粒径が20nm以下、或いは粒径10nm以下のシリコンドットを形成することが可能である。
【0029】
前記スパッタリング用ガスとして水素ガスを採用し、該水素ガスに高周波電力を印加してシリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリング用プラズマを発生させる場合、該ケミカルスパッタリング用プラズマは、電子密度が1010/cm3 (1010cm-3)以上のプラズマであることが好ましい。
【0030】
ケミカルスパッタリング用プラズマ中の電子密度が1010/cm3 より小さくなってくると、シリコンドットの結晶化度が低下したり、シリコンドット形成速度が低下したりしてくる。しかし、かかる電子密度があまり大きくなりすぎると、かえって形成されるシリコンドットがダメージを受けたり、基板がダメージを受けたりするようになってくる。そこで、ケミカルスパッタリング用プラズマ中の電子密度の上限としては、1012/cm3 程度を挙げることができる。
【0031】
かかる電子密度は、スパッタリング用水素ガスに印加する高周波電力の大きさ、周波数、真空チャンバ内のシリコンドット形成圧力等のうち少なくとも一つを制御することで調整できる。電子密度は、例えば、ラングミューアプローブ法により確認できる。
【0032】
シリコンスパッタターゲットのスパッタリング用プラズマによるケミカルスパッタリングにおいて該シリコンスパッタターゲットに印加する前記スパッタリング制御用バイアス電圧は、−20V〜+20Vの範囲におけるバイアス電圧であることが好ましい。
【0033】
バイアス電圧が+20Vを超えてくると、プラズマ中の荷電粒子(水素ガスプラズマの場合は特に水素イオン)によるスパッタ効果が期待できなくなってくる。また、バイアス電圧が+20Vを超えてくると、それがプラズマ電位を超えてきて、プラズマ中の電子が一気にバイアス印加電極又はバイアス印加電極相当部分に流れ込み、放電が発生するという恐れがある。バイアス電圧が−20Vを下回ってくると、荷電粒子エネルギが大きくなりすぎてスパッタ粒子の大きさの制御が困難になったり、場合によっては、荷電粒子がターゲットへ注入されてしまってスパッタリングが困難になったりする。
スパッタリングを行うえで、スパッタリング制御用バイアス電圧は、前記のとおり、−20V〜+20Vの範囲におけるバイアス電圧であることが望ましい。
【0034】
また、以上説明したシリコンドット形成方法では、シリコンスパッタターゲットとなるシリコン膜の形成のための前記シラン系ガス及び水素ガス由来のプラズマ形成においても、また、該シリコン膜をスパッタリングするためのスパッタリング用ガス(例えば水素ガス)由来のスパッタリング用プラズマ形成においても、それらプラズマは、プラズマ発光において波長288nmにおけるシリコン原子の発光強度Si(288nm) と波長484nmにおける水素原子の発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕が10.0以下であるプラズマとすることが望ましく、3.0以下であるプラズマとすることがより好ましい。0.5以下であるプラズマとしてもよい。
【0035】
本発明に係るシリコンドット形成方法では、プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を10.0以下に設定する場合、それはプラズマ中の水素原子ラジカルが豊富であることを示す。
【0036】
第1方法における、シリコンスパッタターゲットとなる真空チャンバ内壁上のシリコン膜の形成のためのシラン系ガス及び水素ガスからのプラズマ形成において、また、第2方法における、ターゲット基板上へのシリコン膜の形成のためのシラン系ガス及び水素ガスからのプラズマ形成において、該プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を10.0以下、より好ましくは3.0以下、或いは0.5以下に設定すると、真空チャンバ内壁に、或いはターゲット基板に、500℃以下の低温で、シリコンドット形成対象基板へのシリンコンドット形成に適した良質のシリコン膜(シリコンスパッタターゲット)が円滑に形成される。
【0037】
また、いずれのシリコンドット形成方法においても、シリコンスパッタターゲットをスパッタリングするためのスパッタリング用プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を10.0以下に、より好ましくは3.0以下、或いは0.5以下に設定することで、500℃以下の低温で(換言すれば、基板温度を500℃以下の低温として)、粒径20nm以下、さらには粒径10nm以下の範囲で、粒径の揃った結晶性のシリコンドットを均一な密度分布で基板上に形成できる。
【0038】
いずれの方法においても、かかる発光強度比が10.0より大きくなってくると、結晶粒(ドット)が成長し難くなり、基板上にはアモルファスシリコンが多くできるようになる。よって発光強度比は10.0以下がよい。粒径の小さいシリコンドットを形成するうえで、発光強度比は3.0以下がより好ましい。0.5以下としてもよい。
【0039】
しかし、発光強度比の値が余り小さすぎると、結晶粒(ドット)の成長が遅くなり、要求されるドット粒径を得るのに時間がかかる。さらに小さくなってくると、ドットの成長よりエッチング効果の方が大きくなり、結晶粒が成長しなくなる。発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕は、他の種々の条件等にもよるが、概ね0.1以上とすればよい。
【0040】
発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕の値は、例えば各種ラジカルの発光スペクトルをプラズマ発光分光計測装置により測定し、その測定結果に基づいて得ることができる。また、発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕の制御は、導入ガスに印加する高周波電力(例えば周波数や電力の大きさ)、シリコンドット形成時の真空チャンバ内ガス圧、真空チャンバ内へ導入するガス(例えば水素ガス、或いは水素ガス及びシラン系ガス)の流量等の制御により行える。
【0041】
前記いずれのシリコンドット形成方法においても、スパッタリング用ガスとして水素ガスを採用する場合、シリコンスパッタターゲットを発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕が10.0以下、より好ましくは3.0以下、或いは0.5以下であるプラズマでケミカルスパッタリングすることで基板上に結晶核の形成が促進され、該核からシリコンドットを成長させることが可能である。
【0042】
このように結晶核形成が促進され、シリコンドットが成長するため、予めシリコンドット形成対象基板上にダングリングボンドやステップなどの核となり得るものが存在しなくても、シリコンドットが成長するための核を比較的容易に高密度に形成することができる。また、水素ラジカルや水素イオンがシリコンラジカルやシリコンイオンより豊富であり、核密度の過剰に大きい部分については、励起された水素原子や水素分子とシリコン原子との化学反応によりシリコンの脱離が進み、これによりシリコンドットの核密度は基板上で高密度となりつつも均一化される。
【0043】
またプラズマにより分解励起されたシリコン原子やシリコンラジカルは核に吸着し、化学反応によりシリコンドットへと成長するが、この成長の際も水素ラジカルが多いことから吸着脱離の化学反応が促進され、核は結晶方位と粒径のよく揃ったシリコンドットへと成長する。以上より、基板上に結晶方位と粒径サイズの揃ったシリコンドットを高密度且つ均一分布で形成することが可能である。
【0044】
以上説明したシリコンドット形成方法は、シリコンドット形成対象基板上に微小粒径のシリコンドット、例えば、粒径が20nm以下、より好ましくは粒径が10nm以下のシリコンドットを形成しようとするものであるが、実際には極端に小さい粒径のシリコンドットを形成することは困難であり、それには限定されないが粒径1nm程度以上のものになるであろう。例えば3nm〜15nm程度のもの、より好ましくは3nm〜10nm程度のものを例示できる。
【0045】
かかるシリコンドット形成方法によると、500℃以下の低温下で(換言すれば、基板温度を500℃以下の低温として)、条件次第では400℃以下の低温下で(換言すれば条件次第では、基板温度を400℃以下として)、基板上にシリコンドットを形成できるので、基板材料の選択範囲がそれだけ広くなる。例えば耐熱温度500℃以下の安価な低融点ガラス基板へのシリコンドット形成が可能である。
【0046】
このように、低温下でシリコンドットを形成できるが、シリコンドット形成対象基板温度が低すぎると、シリコンの結晶化が困難となるので、他の諸条件にもよるが、概ね150℃以上、或いは200℃以上の温度で(換言すれば、基板温度を概ね150℃以上、或いは200℃以上として)シリコンドットを形成することが望ましい。
【0047】
前記いずれのシリコンドット形成方法においても、スパッタリング用プラズマ形成時の真空チャンバ内圧力としては、0.1Pa〜10.0Pa程度を例示できる。
0.1Paより低くなってくると、結晶粒(ドット)の成長が遅くなり、要求されるドット粒径を得るのに時間がかかる。さらに低くなってくると、結晶粒が成長しなくなる。10.0Paより高くなってくると、結晶粒(ドット)が成長し難くなり、基板上にはアモルファスシリコンが多くできるようになる。
【0048】
前記第2のシリコンドット形成方法や、前記シリコンスパッタターゲットとして予め準備された、例えば市販のシリコンスパッタターゲットを利用する前記第3のシリコンドット形成方法のように、シリコンスパッタリングターゲットをシリコンドット形成用真空チャンバ内に後付け配置する場合、該ターゲットの該真空チャンバ内における配置としては、これがスパッタリング用プラズマによりケミカルスパッタリングされる配置であればよいが、例えば、真空チャンバ内壁面の全部又は一部に沿って配置する場合を挙げることができる。チャンバ内に独立して配置してもよい。チャンバ内壁に沿って配置されるものと、独立的に配置されるものを併用してもよい。
【0049】
真空チャンバの内壁にシリコン膜を形成してこれをシリコンスパッタターゲットとしたり、シリコンスパッタターゲットを真空チャンバ内壁面に沿って配置すると、真空チャンバを加熱することでシリコンスパッタターゲットを加熱することができ、ターゲットを加熱すると、ターゲットが室温である場合よりもスパッタされやすくなり、それだけ高密度にシリコンドットを形成し易くなる。真空チャンバを例えばバンドヒータ、加熱ジャケット等で加熱してシリコンスパッタターゲットを80℃以上に加熱する例を挙げることができる。加熱温度の上限については、経済的観点等から概ね300℃程度を例示できる。チャンバにオーリング等を使用している場合はそれらの耐熱性に応じて300℃よりも低い温度にしなければならないこともある。
【0050】
いずれのシリコンドット形成方法においても、シリコンドット形成用真空チャンバ内へ導入されるスパッタリング用ガスへの高周波電力の印加は、電極を用いて行うが、誘導結合型電極、容量結合型電極のいずれも採用することができる。誘導結合型プラズマを発生させるために誘導結合型電極(高周波アンテナ)を採用するとき、それは真空チャンバ内に配置することも、チャンバ外に配置することもできる。
【0051】
誘導結合型電極(高周波アンテナ)を採用すると、容量結合型電極を採用する場合より、高密度で均一なプラズマを得やすい。また、誘導結合型アンテナは、チャンバ外部に配置するよりも内部に配置する方が、投入される高周波電力の利用効率が向上する。
【0052】
真空チャンバ内に配置する電極については、シリコンを含む電気絶縁性膜、アルミニウムを含む電気絶縁性膜のような電気絶縁性膜(例えばシリコン膜、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、アルミナ膜等)で被覆して、高密度プラズマの維持、電極表面のスパッタリングによるシリコンドットへの不純物の混入抑制等を図ってもよい。
【0053】
容量結合型電極を採用する場合には、基板へのシリコンドット形成を妨げないように、該電極を基板表面に対し垂直に配置すること(さらに言えば、基板のシリコンドット形成対象面を含む面に対して垂直姿勢に配置すること)が推奨される。
【0054】
いずれにしてもプラズマ形成のための高周波電力の周波数としては、比較的安価に済む13MHz程度から100MHz程度の範囲のものを例示できる。100MHzより高周波数になってくると、電源コストが高くなってくるし、高周波電力印加時のマッチングがとり難くなってくる。
【0055】
また、いずれにしても、高周波電力の電力密度〔印加電力(W)/真空チャンバ容積(L:リットル)〕は5W/L〜100W/L程度が好ましい。5W/Lより小さくなってくると、基板上のシリコンがアモルファスシリコンとなってきて、結晶性のあるドットになり難くなってくる。100W/Lより大きくなってくると、シリコンドット形成対象基板表面(例えば、酸化シリコン膜を形成した基板の該酸化シリコン膜)のダメージが大きくなってくる。上限については50W/L程度でもよい。
【0056】
以上、シリコンドット形成方法について説明してきたが、本発明は、前記第2の課題を解決するために、次の第1から第3のシリコンドット形成装置を提供する。
(1)第1のシリコンドット形成装置
シリコンドット形成対象基板を支持するホルダを有するシリコンドット形成用真空チャンバと、
該真空チャンバ内に設けられるシリコンスパッタターゲットと、
該真空チャンバ内に水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
該真空チャンバ内から排気する排気装置と、
該真空チャンバ内に前記水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する高周波電力印加装置と、
前記プラズマによる前記シリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリングにあたり、該シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と
を備えているシリコンドット形成装置。
【0057】
(2)第2のシリコンドット形成装置
シリコンドット形成対象基板を支持するホルダを有するシリコンドット形成用真空チャンバと、
該真空チャンバ内に水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
該真空チャンバ内にシラン系ガスを供給するシラン系ガス供給装置と、
該真空チャンバ内から排気する排気装置と、
該真空チャンバ内に前記水素ガス供給装置から供給される水素ガス及び前記シラン系ガス供給装置から供給されるシラン系ガスに高周波電力を印加して、該真空チャンバの内壁にシリコン膜を形成するためのプラズマを形成する第1高周波電力印加装置と、
該シリコン膜形成後に、該真空チャンバ内に前記水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して、該シリコン膜をシリコンスパッタターゲットとしてケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する第2高周波電力印加装置と、
前記水素ガスから形成されるケミカルスパッタリング用プラズマによる前記シリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリングにあたり、該シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と
を備えているシリコンドット形成装置。
【0058】
この第2の装置は前記の第1のシリコンドット形成方法を実施できる装置である。第1、第2の高周波電力印加装置は、互いに一部又は全部が共通であってもよい。
【0059】
(3)第3のシリコンドット形成装置
ターゲット基板を支持するホルダを有する第1真空チャンバと、
該第1真空チャンバ内に水素ガスを供給する第1水素ガス供給装置と、
該第1真空チャンバ内にシラン系ガスを供給するシラン系ガス供給装置と、
該第1真空チャンバ内から排気する第1排気装置と、
該第1真空チャンバ内に前記第1水素ガス供給装置から供給される水素ガス及び前記シラン系ガス供給装置から供給されるシラン系ガスに高周波電力を印加して、前記ターゲット基板上にシリコン膜を形成してシリコンスパッタターゲットを得るためのプラズマを形成する第1高周波電力印加装置と、
前記第1真空チャンバに外部から気密に遮断される状態に連設され、シリコンドット形成対象基板を支持するホルダを有するシリコンドット形成用の第2真空チャンバと、
前記シリコンスパッタターゲットを前記第1真空チャンバから第2真空チャンバへ、外気に触れさせることなく搬入配置する搬送装置と、
該第2真空チャンバ内に水素ガスを供給する第2水素ガス供給装置と、
該第2真空チャンバ内から排気する第2排気装置と、
該第2真空チャンバ内に前記第2水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して、該第2真空チャンバ内に搬入配置される前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する第2高周波電力印加装置と、
前記ケミカルスパッタリング用プラズマによる前記シリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリングにあたり、該シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と
を備えているシリコンドット形成装置。
【0060】
この第3の装置は前記の第2のシリコンドット形成方法を実施できる装置である。
第1、第2の高周波電力印加装置は、互いに一部又は全部が共通であってもよい。
第1、第2の水素ガス供給装置も、互いに一部又は全部が共通でもよい。
第1、第2の排気装置についても、互いに一部又は全部が共通でもよい。
【0061】
前記の搬送装置の配置としては、第1又は第2の真空チャンバに配置する例を挙げることができる。第1、第2の真空チャンバの連設は、ゲートバルブ等を介して直接的に連設してもよいし、前記搬送装置を配置した真空チャンバを間にして間接的に連設することも可能である。
【0062】
以上のいずれのシリコンドット形成装置においても、前記シリコンドット形成用真空チャンバにおいて水素ガスから前記ケミカルスパッタリング用プラズマを発生させるための前記高周波電力印加装置は、該プラズマとして誘導結合型プラズマを発生させるための高周波放電アンテナを含むものでもよい。
また、水素ガスは、例えば希ガスが混合されたものでもよい。
【0063】
いずれのシリコンドット形成装置においても、前記シリコンドット形成用真空チャンバ内での前記ケミカルスパッタリング用プラズマのプラズマ発光における波長288nmでのシリコン原子の発光強度Si(288nm) と波長484nmでの水素原子の発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕を求めるプラズマ発光分光計測装置を含んでいてもよい。
【0064】
この場合、プラズマ発光分光計測装置で求められる発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕と10.0以下の範囲から定めた基準発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕とを比較して、前記シリコンドット形成用真空チャンバ内の前記ケミカルスパッタリング用プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕が該基準発光強度比に向かうように、該ケミカルスパッタリング用プラズマ生成のための前記高周波電力印加装置の電源出力、該ケミカルスパッタリング用プラズマ生成のための前記水素ガス供給装置から該真空チャンバ内への水素ガス供給量及び該真空チャンバから排気するための前記排気装置による排気量のうち少なくとも一つを制御する制御部をさらに有していてもよい。
基準発光強度比は、3.0以下、或いは0.5以下の範囲から定めてもよい。
【0065】
前記プラズマ発光分光計測装置の例として、プラズマ発光における波長288nmでのシリコン原子の発光強度Si(288nm) を検出する第1検出部と、プラズマ発光における波長484nmでの水素原子の発光強度Hβを検出する第2検出部と、該第1検出部で検出される発光強度Si(288nm) と該第2検出部で検出される発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕を求める演算部とを備えているものを挙げることができる。
【0066】
以上説明したシリコンドット形成装置によると、低温で(例えば500℃以下の低温で)シリコンドット形成対象基板上に直接、粒径の揃ったシリコンドットを均一な密度分布で形成することが可能である。
【発明の効果】
【0067】
以上説明したように本発明によると、シリコンドット形成対象基板上に、従来より、低温で、粒径の揃ったシリコンドットを均一な密度分布で形成できるシリコンドット形成方法を提供することができる。
また本発明によると、シリコンドット形成対象基板上に、従来より、低温で、粒径の揃ったシリコンドットを均一な密度分布で形成できるシリコンドット形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下図面を参照してシリコンドット形成装置の例とそれによるシリコンドット形成方法等について説明する。
<シリコンドット形成装置の1例(装置A)>
図1はシリコンドット形成装置の1例の概略構成を示している。
図1に示す装置Aは、板状のシリコンドット形成対象基板Sにシリコンドットを形成するもので、真空チャンバ1、チャンバ1内に設置された基板ホルダ2、該チャンバ1内の基板ホルダ2の上方領域において左右に設置された一対の放電電極3、各放電電極3にマッチングボックス41を介して接続された放電用高周波電源4、チャンバ1内に水素ガスを供給するためのガス供給装置5、チャンバ1内にシリコンを組成に含む(シリコン原子を有する)シラン系ガスを供給するためのガス供給装置6、チャンバ1内から排気するためにチャンバ1に接続された排気装置7、チャンバ1内に生成されるプラズマ状態を計測するためのプラズマ発光分光計測装置8等を備えている。電源4、マッチングボックス41及び電極3は高周波電力印加装置を構成している。
【0069】
前記シラン系ガスとしてはモノシラン(SiH4 )の他、ジシラン(SiH2 )、四フッ化ケイ素(SiF4 )、四塩化ケイ素(SiCl4 )、ジクロルシラン(SiH2 Cl2 )などのガスも使用できる。
【0070】
基板ホルダ2は基板加熱用ヒータ2Hを備えている。
電極3はその内側面に絶縁性膜として機能させるシリコン膜31を予め設けてある。電極3はいずれも、基板ホルダ2上に設置される後述するシリコンドット形成対象基板S表面(より正確に言えば、基板S表面を含む面)に対し垂直な姿勢で配置されている。
【0071】
チャンバ1内には、チャンバ壁(本例では天井壁)に沿って内壁W1を設けてある。内壁W1は図示を省略した絶縁性部材によりチャンバ壁に支持されている。内壁W1の下面にはシリコンスパッタターゲット30を貼着してある。さらに内壁W1には、ケミカルスパッタリング制御用のDCバイアス電源BPWが接続されている。従って、シリコンスパッタターゲット30に電源BPWからスパッタリング制御用のバイアス電圧を印加できる。
【0072】
シリコンスパッタターゲット30は、形成しようとするシリコンドットの用途等に応じて、例えば、市場で入手可能な次の(1) 〜(3) に記載のシリコンスパッタターゲットから選択したものを採用できる。
(1) 単結晶シリコンからなるターゲット、多結晶シリコンからなるターゲット、微結晶シリコンからなるターゲット、アモルファスシリコンからなるターゲット、これらの2以上の組み合わせからなるターゲットのうちのいずれかのターゲット、
(2) 前記(1) 記載のいずれかのターゲットであって、燐(P)、ホウ素(B)及びゲルマニウム(Ge)のそれぞれの含有量がいずれも10ppm未満に抑えられたシリコンスパッタターゲット、
(3) 前記(1) 記載のいずれかのターゲットであって、所定の比抵抗を示すシリコンスパッタターゲット(例えば比抵抗が0.001Ω・cm〜50Ω・cmであるシリコンスパッタターゲット)。
【0073】
電源4は出力可変の電源であり、周波数60MHzの高周波電力を供給できる。なお、周波数は60MHzに限らず、例えば13、56MHz程度から100MHz程度の範囲のもの、或いはそれ以上のものを採用することもできる。
DC電源BPWも出力可変電源である。
チャンバ1及び基板ホルダ2はいずれも接地されている。
【0074】
ガス供給装置5は水素ガス源の他、図示を省略した弁、流量調整を行うマスフローコントローラ等を含んでいる。
ガス供給装置6はここではモノシラン(SiH4 )ガス等のシラン系ガスを供給できるもので、SiH4 等のガス源の他、図示を省略した弁、流量調整を行うマスフローコントローラ等を含んでいる。
【0075】
排気装置7は排気ポンプの他、排気流量調整を行うコンダクタンスバルブ等を含んでいる。
発光分光計測装置8は、ガス分解による生成物の発光分光スペクトルを検出することができるもので、その検出結果に基づいて、発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を求めることができる。
【0076】
かかる発光分光計測装置8の具体例として、図2に示すように、真空チャンバ1内のプラズマ発光から波長288nmにおけるシリコン原子の発光強度Si(288nm) を検出する分光器81と、該プラズマ発光から波長484nmにおける水素原子の発光強度Hβを検出する分光器82と、分光器81、82で検出される発光強度Si(288nm) と発光強度Hβとから両者の比〔Si(288nm) /Hβ〕を求める演算部83とを含んでいるものを挙げることができる。なお、分光器81、82に代えて、フィルター付きの光センサを採用することも可能である。
【0077】
<装置Aでシリコンスパッタターゲットのスパッタリング用ガスとして水素ガスを用いるシリコンドット形成>
次に、以上説明したシリコンドット形成装置Aによる基板Sへのシコンドット形成例、特にプラズマ形成用ガスとして水素ガスのみを用いる場合の例について説明する。
シリコンドット形成は、真空チャンバ1内の圧力を0.1Pa〜10.0Paの範囲のものに維持して行う。真空チャンバ内圧力は、図示を省略しているが、例えば該チャンバに接続した圧力センサで知ることができる。
【0078】
先ず、シリコンドット形成に先立って、チャンバ1から排気装置7にて排気を開始する。排気装置7におけるコンダクタンスバルブ(図示省略)はチャンバ1内の前記シリコンドット形成時の圧力0.1Pa〜10.0Paを考慮した排気量に調整しておく。
排気装置7の運転によりチャンバ1内圧力が予め定めておいた圧力或いはそれより低下してくると、ガス供給装置5からチャンバ1内へ水素ガスの導入を開始するとともに電源4から電極3に高周波電力を印加し、導入した水素ガスをプラズマ化する。
さらにバイアス電源BPWから、前記の内壁W1を介してシリコンスパッタターゲット30にバイアス電圧を印加する。このときのバイアス電圧はシリコンドット形成時のバイアス電圧−20V〜+20Vを考慮して調整する。
【0079】
かくて発生したガスプラズマから、発光分光計測装置8において発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を算出し、その値が0.1以上10.0以下の範囲、より好ましくは0.1以上3.0以下、或いは0.1以上0.5以下の範囲における予め定めた値(基準発光強度比)に向かうように、高周波電力の大きさ(コスト等を考慮すると例えば1000〜8000ワット程度)、水素ガス導入量、チャンバ1内圧力等を決定する。
【0080】
高周波電力の大きさについては、さらに、電極3に印加する高周波電力の電力密度〔印加電力(W:ワット)/真空チャンバ容積(L:リットル)〕が5W/L〜100W/Lに、或いは5W/L〜50W/Lに納まるように決定する。
このようにしてシリコンドット形成条件を決定したあとは、その条件に従ってシリコンドットの形成を行う。
【0081】
シリコンドット形成においては、チャンバ1内の基板ホルダ2にシリコンドット形成対象基板Sを設置し、該基板Sをヒータ2Hにて500℃以下の温度、例えば400℃に加熱する。また、排気装置7の運転にてチャンバ1内をシリコンドット形成のための圧力に維持しつつチャンバ1内にガス供給装置5から水素ガスを導入し、電源4から放電電極3に高周波電力を印加し、導入した水素ガスをプラズマ化する。
さらにバイアス電源BPWから、前記の内壁W1を介してシリコンスパッタターゲット30に−20V〜+20V程度の範囲から選んだケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加する。
【0082】
かくして、プラズマ発光における波長288nmでのシリコン原子の発光強度Si(288nm) と波長484nmでの水素原子の発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕が0.1以上10.0以下の範囲、より好ましくは0.1以上3.0以下、或いは0.1以上0.5以下の範囲における前記基準発光強度比或いは実質上該基準発光強度比のプラズマを発生させる。そして、該プラズマにてシリコンスパッタターゲット30をケミカルスパッタリング(反応性スパッタリング)する。
【0083】
このとき、バイアス電源BPWからシリコンスパッタターゲット30に、前記のケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧が印加されることで、該ターゲットのスパッタリングが、放電発生の抑制、スパッタ粒子の大きさ制御等の点で良好に行われる。かくして、基板S表面に結晶性を示す粒径20nm以下のシリコンドットを形成することができる。
【0084】
以上説明したシリコンドット形成装置Aでは、電極として平板形状の容量結合型電極を採用しているが、誘導結合型電極を採用することもできる。誘電結合型電極の場合、それは棒状、コイル状等の各種形状のものを採用できる。採用個数等についても任意である。
【0085】
誘導結合型電極を採用する場合においてシリコンスパッタターゲットを採用する場合、該電極がチャンバ内に配置される場合であれ、チャンバ外に配置される場合であれ、該シリコンスパッタターゲットはチャンバ内壁面の全部又は一部に沿って配置したり、チャンバ内に独立して配置したり、それら両方の配置を採用したりできる。
後ほど図6、図8を参照して、誘導結合電極を採用したシリコンドット形成装置とそれによるシリコンドット形成について説明する。
【0086】
また、装置Aでは、真空チャンバ1を加熱する手段(バンドヒータ、熱媒を通す加熱ジャケット等)の図示が省略されているが、シリコンスパッタターゲットのスパッタリングを促進させるために、かかる加熱手段にてチャンバ1を加熱することでシリコンスパッタターゲットを80℃以上に加熱してもよい。
【0087】
<シリコンスパッタターゲットの他の例>
以上説明したシリコンドット形成においては、シリコンスパッタターゲットとして、市場で入手できるターゲットを真空チャンバ1内に後付け配置した。しかし、次の、外気に曝されないシリコンスパッタターゲットを採用することで、予定されていない不純物混入が一層抑制されたシリコンドットを形成することが可能である。
【0088】
すなわち、前記の装置Aにおいて、当初は、真空チャンバ1内に、基板Sを未だ配置せずに、ガス供給装置5、6から水素ガスとシラン系ガスを導入し、これらガスに電源4から高周波電力を印加してプラズマ化し、該プラズマにより真空チャンバ1の内壁(前記内壁W1等)にシリコン膜を形成する。かかるシリコン膜形成においては、チャンバ壁を外部ヒータで加熱することが望ましい。その後、該チャンバ1内に基板Sを配置し、該内壁上のシリコン膜をスパッタターゲットとして、該ターゲットを、既述のように、水素ガス由来のプラズマでケミカルスパッタリングして基板S上にシリコンドットを形成する。
【0089】
かかる、シリコンスパッタターゲットとして用いるシリコン膜の形成においても、良質なシリコン膜を形成するために、プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を0.1以上10.0以下の範囲、より好ましくは0.1以上3.0以下、或いは0.1以上0.5以下の範囲に維持して形成することが望ましい。
【0090】
<シリコンドット形成方法及び装置の他の例>
図4はシリコンドット形成装置の他の例を示している。図4の装置Bは、図1の装置Aにシリコンスパッタターゲット形成用の真空チャンバ10等を連設したものである。 すなわち、図4に概略図示するように、シリコンスパッタターゲット形成のための真空チャンバ10を前記の真空チャンバ1にゲートバルブVを介して外部から気密に遮断された状態に連設する。
【0091】
チャンバ10のホルダ2’にターゲット基板100を配置し、排気装置7’で該真空チャンバ内から排気して該真空チャンバ内圧を所定の成膜圧に維持しつつ該チャンバ内に水素ガス供給装置5’から水素ガスを、シラン系ガス供給装置6’からシラン系ガスをそれぞれ導入する。さらに、それらガスに出力可変電源4’からマッチングボックス41’を介してチャンバ内電極3’に高周波電力を印加することでプラズマを形成する。該プラズマにより、ヒータ2H’で加熱したターゲット基板100上にシリコン膜を形成する。
【0092】
その後、ゲートバルブVを開け、シリコン膜が形成されたターゲット基板100を搬送装置Tで真空チャンバ1内へ搬入し、チャンバ1内の台SP上にセットする。次いで、搬送装置Tを後退させ、ゲートバルブVを気密に閉じ、チャンバ1内で、該シリコン膜が形成されたターゲット基板100をシリコンスパッタターゲットとして、該ターゲットにバイアス電源BPWから所定のバイアス電圧を印加しつつ、水素ガスプラズマにてケミカルスパッタリングし、それにより、チャンバ1内に配置された基板S上にシリコンドットを形成する。
【0093】
図5は、かかるターゲット基板100と、電極3(或いは3’)、チャンバ10内のヒータ2H’、チャンバ1内の台SP、基板S等との位置関係を示している。それには限定されないが、ここでのターゲット基板100は、図5に示すように、大面積のシリコンスパッタタゲットを得るために、門形に屈曲させた基板である。搬送装置Tは、該基板100を電極等に衝突させることなく搬送できる。搬送装置Tは、基板SPを真空チャンバ1内へ搬入し、セットできるものであればよく、例えば、基板100を保持して伸縮できるアームを有する装置を採用できる。
【0094】
チャンバ10でのターゲット基板上へのシリコン膜形成においては、良質なシリコン膜を形成するために、プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を0.1以上10.0以下の範囲、より好ましくは0.1以上3.0以下、或いは0.1以上0.5以下の範囲に維持して形成することが望ましい。
【0095】
なお、搬送装置に関して言えば、真空チャンバ10と真空チャンバ1との間に、搬送装置を設けた真空チャンバを配置し、該搬送装置を設けたチャンバを、ゲートバルブを介してチャンバ10とチャンバ1にそれぞれ連設してもよい。
【0096】
<真空チャンバ内圧等の他の制御例>
以上説明したシリコンドット形成においては、出力可変電源4の出力、水素ガス供給装置5による水素ガス供給量(又は水素ガス供給装置5による水素ガス供給量及びシラン系ガス供給装置6によるシラン系ガス供給量)、排気装置7による排気量等の制御は、発光分光計測装置8で求められる発光分光強度比を参照しつつマニュアル操作で行われた。
【0097】
しかし、図3に示すように、発光分光計測装置8の演算部83で求められた発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を制御部80に入力してもよい。そして、かかる制御部80として、演算部83から入力された発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕が予め定めた基準発光強度比か否かを判断し、基準発光強度比から外れていると、基準発光強度比に向けて、前記の出力可変電源4の出力、水素ガス供給装置5による水素ガス供給量、シラン系ガス供給装置6によるシラン系ガス供給量及び排気装置7による排気量のうち少なくとも一つを制御することができるように構成されたものを採用してもよい。
【0098】
かかる制御部80の具体例として、排気装置7のコンダクタンスバルブを制御することで該装置7による排気量を制御し、それにより真空チャンバ1内のガス圧を、前記基準発光強度比達成に向けて制御するものを挙げることができる。
【0099】
この場合、出力可変電源4の出力、水素ガス供給装置5による水素ガス供給量(又は水素ガス供給装置5による水素ガス供給量及びシラン系ガス供給装置6によるシラン系ガス供給量)及び排気装置7による排気量について、基準発光強度比或いはそれに近い値が得られる、予め実験等で求めた電源出力、水素ガス供給量(又は水素ガス供給量及びシラン系ガス供給量)及び排気量を初期値として採用すればよい。
かかる初期値決定に際しても、排気装置7による排気量は、真空チャンバ1内の圧力が0.1Pa〜10.0Paの範囲に納まるように決定する。
【0100】
電源4の出力は、電極3に印加する高周波電力の電力密度が5W/L〜100W/Lに、或いは5W/L〜100W/Lに納まるように決定する。
【0101】
さらに、水素ガス及びシラン系ガスの双方をプラズマ形成のためのガスとして採用する場合は、それらガスの真空チャンバ1内への導入流量比(シラン系ガス流量/水素ガス流量)を1/200〜1/30の範囲のものに決定する。例えば、シラン系ガスの導入流量を1sccm〜5sccmとし、〔シラン系ガスの導入流量(sccm)/真空チャンバ容積(リットル)〕を1/200〜1/30の範囲のものに決定する。
【0102】
さらに、バイアス電源BPWからシリコンスパッタターゲットへの印加バイアスは−20V〜+20V程度の範囲のものに決定する。
【0103】
そして、電源4の出力、水素ガス供給装置5による水素ガス供給量(又は水素ガス供給装置5による水素ガス供給量及びシラン系ガス供給装置6によるシラン系ガス供給量) 及びバイアス電圧については、それらの初期値をその後も維持し、排気装置7による排気量を、基準発光強度比達成に向けて、制御部80に制御させればよい。
【0104】
<シリコンドット形成方法及び装置のさらに他の例>
図6は本発明に係るシリコンドット形成装置のさらに他の例を示している。図6に示すシリコンドット形成装置Cは、図1の装置Aにおいて、容量結合型電極3に代えて誘導結合型プラズマを発生させるための高周波アンテナ9を真空チャンバ1の天井壁SWからチャンバ内へ吊り下げ配置し、さらに、チャンバ1内にチャンバ壁に沿って内壁W2を配置し、該内壁にDCバイアス電源BPWを接続したものである。内壁W2は絶縁部材を介してチャンバ壁に支持させてある。
【0105】
その他の点は、装置Aと実質上同じであり、装置Aにおける部分、部品と実質上同じ部分、部品には装置Aと同じ参照符号を付してある。
【0106】
高周波放電アンテナ9は、真空チャンバ1外からチャンバ1内へ延び、チャンバ1内で電気的に並列に分岐し、各分岐部分の終端がチャンバ1に直接的に接続されているアンテナである。チャンバ1は接地電位に設定される。
【0107】
図面を参照してさらに説明すると、図7にも示すように、高周波アンテナ9は立体構造のアンテナであり、第1部分91と複数本の第2部分92とからなっている。第1部分91はチャンバ1外から該チャンバの天井壁SWを通り、チャンバ内へ真っ直ぐ棒状に延在している。第2部分92は、第1部分91のチャンバ内側端部91eから放射状に分岐して延びるとともに天井壁SWへ向かって延びている。各第2部分92の終端92eは天井壁SWにコネクタにて直接接続されており、従ってチャンバ1を介して接地された状態にある。
【0108】
第2部分92の群れは、全体として、コの字形に屈曲した2本のアンテナ部分を平面から見て十字形に組み合わせて第1部分91につなげた形態を呈している。
また、高周波アンテナ9はそのアンテナ導体の表面が絶縁性膜(ここではアルミナ膜)で被覆されている。
【0109】
高周波アンテナ9の第1部分91はマッチングボックスMXを介して高周波電源PWに接続されている。マッチングボックスMX及び電源PWは高周波電力印加装置を構成している。第1部分91のうちチャンバ1外に出ているプラズマ生成に寄与しない部分は極力短くされ、マッチグボックスMXに直接的に接続されている。なお、第1部分91はチャンバ1の天井壁SWに設けた気密シールを兼ねる絶縁部材SWaを貫通している。
かくして高周波アンテナ9は短く形成され、さらに、チャンバ1内で電気的に並列に分岐された並列配線構造となっているから、アンテナ9のイダクタンスはそれだけ低減されている。
【0110】
かかるシリコンドット形成装置Cによると、次のようにしてシリコンドットを形成することができる。
すなわち、当初は、真空チャンバ1内に、基板Sを未だ配置せずに、ガス供給装置5、6から水素ガスとシラン系ガスを導入し、これらガスに高周波アンテナ9を介して電源PWから高周波電力を印加してプラズマ化し、該プラズマにより真空チャンバ1内の内壁W2にシリコン膜30’を形成する。かかるシリコン膜形成においては、チャンバ壁を外部ヒータで加熱してもよい。
【0111】
その後、該チャンバ1内に基板Sを配置し、該内壁W2上のシリコン膜30’をスパッタターゲットとして、該ターゲットを、装置Aにおけるシリコンスパッタターゲット30のケミカルスパッタリングの場合と同様に、ターゲット30’にバイアス電源BPWからスパッタリング制御用バイアス電圧を印加しつつ、水素ガス供給装置5から供給される水素ガス由来のスパッタリング用プラズマでケミカルスパッタリングして、基板S上にシリコンドットを形成することができる。
【0112】
かかる、シリコンスパッタターゲットとして用いるシリコン膜30’の形成においても、良質なシリコン膜を形成するために、プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕を0.1以上10.0以下の範囲、より好ましくは0.1以上3.0以下、或いは0.1以上0.5以下の範囲に維持して形成することが望ましい。
【0113】
<シリコンドット形成方法及び装置のさらに他の例>
図8は本発明に係るシリコンドット形成装置のさらに他の例を示している。図7に示すシリコンドット形成装置Dは、図6の装置Cにおいて、内壁W2とそれに形成されたシリコン膜30’に代えて、高周波アンテナ9の周囲を囲むように配置されたシリコンスパッタターゲット30”を採用するものである。バイアス電源BPWはシリコンスパッタターゲット30”に接続してある。その他の点は図6の装置Cと略同構造である。但し、シラン系ガス供給装置6は不要であるから省略してある。装置Cにおける部分、部品と実質上同じ部、部品については、装置Cと同じ参照符号を付してある。
【0114】
この装置Dによると、水素ガス供給装置5からチャンバ1内へ供給されるガスをアンテナ9からの高周波電力の印加によりプラズマ化し、該プラズマで、装置Aにおけるシリコンスパッタターゲット30のケミカルスパッタリングの場合と同様に、ターゲット30”にバイアス電源BPWからスパッタリング制御用バイアス電圧を印加しつつターゲット30”をケミカルスパッタリングして、基板S上にシリコンドットを形成することができる。
【0115】
<実験例>
次に幾つかのシリコンドット形成の実験例について説明する。
(1) 実験例1
図1に示すタイプのシリコンドット形成装置を用い、但しシランガスは採用しないで、水素ガスとシリコンスパッタターゲットを用いて、基板上に直接シリコンドットを形成した。ドット形成条件は以下のとおりであった。
シリコンスパッタターゲット:単結晶シリコンスパッタターゲット
基板:酸化膜(SiO2 )で被覆されたシリコンウェハ
チャンバ容量:180リットル
高周波電源:60MHz、4kW
電力密度:22W/L
基板温度:400℃
チャンバ内圧:0.6Pa
水素導入量:100sccm
バイアス電圧:−20V
Si(288nm) /Hβ:0.2
【0116】
このようにして、図9に模式的に示す、シリコンドットSiDが形成された基板Sを得た。
このシリコンドットSiDを有する基板Sの断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、それぞれ独立的に形成され、また、均一分布で高密度な状態に形成された、粒径の揃ったシリコンドットを確認できた。TEM像から50個のシリコンドットの粒径を測定し、その平均値を求めたところ、5nmであり、20nm以下、さらに言えば10nm以下の粒径のシリコンドットが形成されていることが確認された。ドット密度は約2.0×1012個/cm2 であった。
【0117】
(2) 実験例2
図6に示すタイプのシリコンドット形成装置を用い、先ず、真空チャンバ1の内壁W2にシリコン膜を形成し、次いで該シリコン膜をスパッタターゲットとしてシリコンドットを形成した。シリコン膜形成条件及びドット形成条件は以下のとおりであった。
シリコン膜形成条件
内壁面積:約3m2
チャンバ容量:440リットル
高周波電源:13.56MHz、10kW
電力密度:23W/L
チャンバ内壁温度:80℃ (チャンバ内部に設置のヒータでチャンバを加熱)
チャンバ内圧:0.67Pa
モノシラン導入量:100sccm
水素導入量:150sccm
Si(288nm) /Hβ:2.0
【0118】
ドット形成条件
基板:酸化膜(SiO2 )で被覆されたシリコンウェハ
チャンバ容量:440リットル
高周波電源:13.56MHz、5kW
電力密度:11W/L
チャンバ内壁温度:80℃ (チャンバ内部に設置のヒータでチ ャンバを加熱)
基板温度:430℃
チャンバ内圧:0.67Pa
水素導入量:150sccm (モノシランガスは使用し なかった。)
バイアス電圧:−10V
Si(288nm) /Hβ:1.5
【0119】
このようにして、図9に模式的に示す、シリコンドットSiDが形成された基板Sを得た。
このシリコンドットSiDを有する基板Sの断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、それぞれ独立的に形成され、また、均一分布で高密度な状態に形成された、粒径の揃ったシリコンドットを確認できた。小さいドットでは5nm〜6nm、大きいドットでは9nm〜11nmであった。TEM像から50個のシリコンドットの粒粒を測定し、その平均値を求めたところ、8nmであり、10nm以下の粒径のシリコンドットが実質的に形成されていることが確認された。ドット密度は約7.3×1011個/cm2 であった。
【0120】
(3) 実験例3
図6に示すタイプのシリコンドット形成装置を用い、先ず、真空チャンバ1の内壁W2に実験例2におけるシリコン膜形成条件でシリコン膜を形成し、次いで該シリコン膜をスパッタターゲットとしてシリコンドットを形成した。ドット形成条件は、チャンバ内圧力を1.34Paとし、Si(288nm) /Hβを2.5とした以外は実験例2と同じとした。
【0121】
このようにして、図9に模式的に示す、シリコンドットSiDが形成された基板Sを得た。
このシリコンドットSiDを有する基板Sの断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、それぞれ独立的に形成され、また、均一分布で高密度な状態に形成された、粒径の揃ったシリコンドットを確認できた。TEM像から50個のシリコンドットの粒粒を測定し、その平均値を求めたところ、10nmであり、10nm以下の粒径のシリコンドットが実質的に形成されていることが確認された。ドット密度は約7.0×1011個/cm2 であった。
【0122】
(4) 実験例4
図6に示すタイプのシリコンドット形成装置を用い、先ず、真空チャンバ1の内壁W2に実験例2におけるシリコン膜形成条件でシリコン膜を形成し、次いで該シリコン膜をスパッタターゲットとしてシリコンドットを形成した。ドット形成条件は、チャンバ内圧力を2.68Paとし、Si(288nm) /Hβを4.6とした以外は実験例2と同じとした。
【0123】
このようにして、図9に模式的に示す、シリコンドットSiDが形成された基板Sを得た。
このシリコンドットSiDを有する基板Sの断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、それぞれ独立的に形成され、また、均一分布で高密度な状態に形成された、粒径の揃ったシリコンドットを確認できた。TEM像から50個のシリコンドットの粒粒を測定し、その平均値を求めたところ、13nmであり、20nm以下の粒径のシリコンドットが実質的に形成されていることが確認された。ドット密度は約6.5×1011個/cm2 であった。
【0124】
(5) 実験例5
図6に示すタイプのシリコンドット形成装置を用い、先ず、真空チャンバ1の内壁W2に実験例2におけるシリコン膜形成条件でシリコン膜を形成し、次いで該シリコン膜をスパッタターゲットとしてシリコンドットを形成した。ドット形成条件は、チャンバ内圧力を6.70Paとし、Si(288nm) /Hβを8.2とした以外は実験例2と同じとした。
【0125】
このようにして、図9に模式的に示す、シリコンドットSiDが形成された基板Sを得た。
このシリコンドットSiDを有する基板Sの断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、それぞれ独立的に形成され、また、均一分布で高密度な状態に形成された、粒径の揃ったシリコンドットを確認できた。TEM像から50個のシリコンドットの粒粒を測定し、その平均値を求めたところ、16nmであり、20nm以下の粒径のシリコンドットが実質的に形成されていることが確認された。ドット密度は約6.1×1011個/cm2 であった。
【0126】
<シコリンドット付き基板形成の他の例>
以上の実験例から分かるように、予めSiO2 等の絶縁物層を表面に形成した基板Sを採用し、該絶縁物層の上にシリコンドットSiDを形成することができる。
【0127】
しかし、例えば、シリコンドット形成のためのチャンバの他に絶縁物層形成のためのチャンバを設け、絶縁物層については、該絶縁物層形成チャンバで形成し、そこで絶縁物層が形成された基板を外気に曝すことなくシリコンドット形成チャンバに搬入して、該絶縁物層上にシリコンドットを形成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、単一電子デバイス等のための電子デバイス材料や発光材料などとして用いられる、シリコンドット、すなわち、微小サイズのシリコンのドット( 所謂シリコンナノ粒子) を提供することに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明に係るシリコンドット形成装置の1例を示す図である。
【図2】プラズマ発光分光計測装置例を示すブロック図である。
【図3】排気装置による排気量(真空チャンバ内圧)の制御等を行う回路例のブロック図である。
【図4】シリコンドット形成装置の他の例を示す図である。
【図5】シリコン膜を形成するターゲット基板と電極等との位置関係を示す図である。
【図6】シリコンドット形成装置のさらに他の例を示す図である。
【図7】図6の装置における誘導結合型プラズマ生成用の高周波アンテナの斜視図である。
【図8】シリコンドット形成装置のさらに他の例を示す図である。
【図9】シリコンドット形成基板の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0130】
A シリコンドット形成装置
1 真空チャンバ
2 基板ホルダ
2H ヒータ
3 放電電極
31 シリコン膜
W1 内壁
30 シリコンスパッタターゲット
4 放電用高周波電源
41 マッチングボックス
5 水素ガス供給装置
6 シラン系ガス供給装置
7 排気装置
8 プラズマ発光分光計測装置
S シリコンドット形成対象基板
81、82 分光器
83 演算部
80 制御部
BPW バイアス電源

B シリコンドット形成装置
10 真空チャンバ
V ゲートバルブV
2’ホルダ
100 ターゲット基板
7’排気装置
5’水素ガス供給装置
6’シラン系ガス供給装置
4’出力可変電源
41’マッチングボックス
3’チャンバ内電極
2H’ヒータ2H’
T 搬送装置
SP チャンバ1内の台

C シリコンドット形成装置
SW 真空チャンバの天井壁
SWa 絶縁性シール部材
W2 内壁
30’ シリコン膜
9 高周波アンテナ
91 アンテナの第1部分
92 アンテナの第2部分
91e 第1部分のチャンバ内側端部
92e 第2部分の終端
MX マッチングボックス
PW 高周波電源

D シリコンドト形成装置
30’ シリコンスパッタターゲット

S 基板
SiD シリコンドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上のシリコンスパッタターゲットを内部に設けたシリコンドット形成用真空チャンバ内にシリコンドット形成対象基板を配置する工程と、
該真空チャンバ内にスパッタリング用ガスを導入し、該ガスに高周波電力を印加することで該真空チャンバ内にプラズマを発生させ、前記シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するとともに該プラズマで該シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングして前記シリコンドット形成対象基板上にシリコンドットを形成するシリコンドット形成工程と
を含むことを特徴とするシリコンドット形成方法。
【請求項2】
前記シリコンスパッタターゲットのうち少なくとも一つは、前記真空チャンバ内に、前記シリコンドット形成対象基板を配置するに先立って、シラン系ガス及び水素ガスを導入し、これらガスに高周波電力を印加して該真空チャンバ内にプラズマを発生させ、該プラズマにより該真空チャンバ内壁に形成したシリコン膜からなるシリコンスパッタターゲットである請求項1記載のシリコンドット形成方法。
【請求項3】
前記シリコンスパッタターゲットのうち少なくとも一つは、前記シリコンドット形成用真空チャンバに外部から気密に遮断される状態に連設されたシリコンスパッタターゲット形成用真空チャンバ内にターゲット基板を配置し、該シリコンスパッタターゲット形成用真空チャンバ内にシラン系ガス及び水素ガスを導入し、これらガスに高周波電力を印加してプラズマを発生させ、該プラズマにより該ターゲット基板上にシリコン膜を形成して得たシリコンスパッタターゲットを、該シリコンスパッタターゲット形成用真空チャンバから前記シリコンドット形成用真空チャンバ内に外気に触れさせることなく搬入設置したシリコンスパッタターゲットである請求項1記載のシリコンドット形成方法。
【請求項4】
前記シリコンスパッタターゲットのうち少なくとも一つは、予め準備されたシリコンスパッタターゲットを、前記真空チャンバ内に後付け設置したものである請求項1記載のシリコンドット形成方法。
【請求項5】
前記スパッタリング用ガスとして水素ガスを採用し、該水素ガスに高周波電力を印加して前記ケミカルスパッタリング用のプラズマを発生させる請求項1から4のいずれかに記載のシリコンドット形成方法。
【請求項6】
前記スパッタリング用水素ガスをプラズマ化させる高周波電力の印加を、該ガスから誘導結合型プラズマを発生させる高周波放電アンテナを用いて行う請求項5記載のシリコンドット形成方法。
【請求項7】
前記ケミカルスパッタリング用プラズマは、電子密度が1010/cm3 以上のプラズマである請求項5又は6記載のシリコンドット形成方法。
【請求項8】
前記ケミカルスバッタリング用プラズマは、プラズマ発光において波長288nmにおけるシリコン原子の発光強度Si(288nm) と波長484nmにおける水素原子の発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕が10.0以下のプラズマである請求項5から7のいずれかに記載のシリコンドット形成方法。
【請求項9】
前記発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕が3.0以下である請求項8記載のシリコンドット形成方法。
【請求項10】
前記スパッタリング制御用バイアス電圧は−20V〜+20Vの範囲におけるバイアス電圧である請求項1から9のいずれかに記載のシリコンドット形成方法。
【請求項11】
シリコンドット形成対象基板を支持するホルダを有するシリコンドット形成用真空チャンバと、
該真空チャンバ内に設けられるシリコンスパッタターゲットと、
該真空チャンバ内に水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
該真空チャンバ内から排気する排気装置と、
該真空チャンバ内に前記水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する高周波電力印加装置と、
前記プラズマによる前記シリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリングにあたり、該シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と
を備えていることを特徴とするシリコンドット形成装置。
【請求項12】
シリコンドット形成対象基板を支持するホルダを有するシリコンドット形成用真空チャンバと、
該真空チャンバ内に水素ガスを供給する水素ガス供給装置と、
該真空チャンバ内にシラン系ガスを供給するシラン系ガス供給装置と、
該真空チャンバ内から排気する排気装置と、
該真空チャンバ内に前記水素ガス供給装置から供給される水素ガス及び前記シラン系ガス供給装置から供給されるシラン系ガスに高周波電力を印加して、該真空チャンバの内壁にシリコン膜を形成するためのプラズマを形成する第1高周波電力印加装置と、
該シリコン膜形成後に、該真空チャンバ内に前記水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して、該シリコン膜をシリコンスパッタターゲットとしてケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する第2高周波電力印加装置と、
前記水素ガスから形成されるケミカルスパッタリング用プラズマによる前記シリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリングにあたり、該シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と
を備えていることを特徴とするシリコンドット形成装置。
【請求項13】
ターゲット基板を支持するホルダを有する第1真空チャンバと、
該第1真空チャンバ内に水素ガスを供給する第1水素ガス供給装置と、
該第1真空チャンバ内にシラン系ガスを供給するシラン系ガス供給装置と、
該第1真空チャンバ内から排気する第1排気装置と、
該第1真空チャンバ内に前記第1水素ガス供給装置から供給される水素ガス及び前記シラン系ガス供給装置から供給されるシラン系ガスに高周波電力を印加して、前記ターゲット基板上にシリコン膜を形成してシリコンスパッタターゲットを得るためのプラズマを形成する第1高周波電力印加装置と、
前記第1真空チャンバに外部から気密に遮断される状態に連設され、シリコンドット形成対象基板を支持するホルダを有するシリコンドット形成用の第2真空チャンバと、
前記シリコンスパッタターゲットを前記第1真空チャンバから第2真空チャンバへ、外気に触れさせることなく搬入配置する搬送装置と、
該第2真空チャンバ内に水素ガスを供給する第2水素ガス供給装置と、
該第2真空チャンバ内から排気する第2排気装置と、
該第2真空チャンバ内に前記第2水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して、該第2真空チャンバ内に搬入配置される前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する第2高周波電力印加装置と、
前記ケミカルスパッタリング用プラズマによる前記シリコンスパッタターゲットのケミカルスパッタリングにあたり、該シリコンスパッタターゲットにケミカルスパッタリング制御用バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と
を備えていることを特徴とするシリコンドット形成装置。
【請求項14】
前記シリコンドット形成用真空チャンバにおいて水素ガスから前記ケミカルスパッタリング用プラズマを発生させるための前記高周波電力印加装置は、該プラズマとして誘導結合型プラズマを発生させるための高周波放電アンテナを含んでいる請求項11、12又は13記載のシリコンドット形成装置。
【請求項15】
前記シリコンドット形成用真空チャンバ内での前記ケミカルスパッタリング用プラズマのプラズマ発光における波長288nmでのシリコン原子の発光強度Si(288nm) と波長484nmでの水素原子の発光強度Hβとの比〔Si(288nm) /Hβ〕を求めるプラズマ発光分光計測装置を含んでいる請求項11、12、13又は14に記載のシリコンドット形成装置。
【請求項16】
前記プラズマ発光分光計測装置で求められる発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕と10.0以下の範囲から定めた基準発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕とを比較して、前記シリコンドット形成用真空チャンバ内の前記ケミカルスパッタリング用プラズマにおける発光強度比〔Si(288nm) /Hβ〕が該基準発光強度比に向かうように、該ケミカルスパッタリング用プラズマ生成のための前記高周波電力印加装置の電源出力、該ケミカルスパッタリング用プラズマ生成のための前記水素ガス供給装置から該真空チャンバ内への水素ガス供給量及び該真空チャンバから排気するための前記排気装置による排気量のうち少なくとも一つを制御する制御部をさらに有している請求項15記載のシリコンドット形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−80999(P2007−80999A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264939(P2005−264939)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】