説明

シリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造

【課題】シリンダ及びピストンに対する潤滑並びに冷却効率を高める。
【解決手段】 内部にシリンダ室1を備えたシリンダブロック2をクランクケース4の上部に取り付け、そのシリンダブロック2の上部にシリンダヘッド9が取り付けられており、前記クランクケース4内に設けたオイルポンプpから供給されるオイルが、前記クランクケース4に設けたケース内油路14と前記シリンダブロック2に設けたブロック内油路12とを通って前記シリンダヘッド9へ供給されており、前記シリンダブロック2に、前記ブロック内油路12と前記シリンダ室1の内壁とを結ぶ貫通孔21を設けて、その貫通孔21を通じて前記ブロック内油路12内のオイルが前記シリンダ室1の内壁から噴出するようになっており、前記貫通孔21は、前記シリンダ室1内に進退可能に設けたピストン8の下死点Dにおけるピストンリング11よりも下方の空間に開口するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造、及びその潤滑並びに冷却構造を備えたエンジンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダ及びピストンを潤滑並びに冷却するために、そのエンジンのクランクケース内にオイルノズルを備えたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1,2,3に示すエンジンでは、クランクケース内に備えたオイルノズルから、シリンダ室内で進退運動するピストンよりもクランクケース側の空間に向けてオイルを噴射することにより、ピストンをはじめ、そのピストンに接続されるコンロッド、シリンダ室の内壁等の各部を潤滑並びに冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291704号公報(第9頁第3図)
【特許文献2】特開2008−38757号公報(第10頁第1図)
【特許文献3】特開2005−9336号公報(第9頁第2図、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1,2のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造によれば、オイルノズルがクランクケース内に備えられているため、そのオイルノズルとピストンとの距離が比較的遠くなってしまう傾向があった。
このため、ピストンに掛けられるオイル量が少なく、特に、ピストンの下面(クランクケース側の面)に対して潤滑並びに冷却効率を高めるには限界がある。
【0006】
また、特許文献3のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造では、例えば、図6に示すように、内部に前記シリンダ室1を有するシリンダブロック2の下部に、前記シリンダ室1の側方部分の外形よりもやや小径の挿入部3が設けられている。
この挿入部3は筒状であり、その筒状の挿入部3が、シリンダブロック2とは別体であるクランクケース4内に入り込んだ状態で、シリンダブロック2とクランクケース4とが固定されている。
【0007】
その挿入部3に、内外を貫く貫通孔5が設けられて、その貫通孔5が、クランクケース4内のオイル流路(ケース内油路)14から引き出された連通孔7に臨んでいる。ピストン8を潤滑並びに冷却するためのオイルを噴射するオイルノズル10は、前記連通孔7と貫通孔5とに跨って差し込まれている。
【0008】
しかし、この例においても、オイルノズル10は、クランクケース4内に位置しており、その位置は、前述の特許文献1,2のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造と比較すると、ややピストン8に近づくものの、依然として、ピストン8に対する潤滑並びに冷却効率をさらに高めたいという要請がある。オイルノズル10は、クランクケース4内に位置しているからである。
【0009】
また、このようなピストン8に対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えないエンジンに対しては、このようなオイルノズル等を後発的に付加する(後付けする)ことは困難であるという問題がある。シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射するためのオイル流路を有さないエンジンに対し、そのようなオイル流路をエンジン内部に新設することは、スペースの確保や部材の強度確保、耐久性の低下等の問題から事実上困難だからである。
【0010】
そこで、この発明は、シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造において、そのシリンダ及びピストンに対する潤滑並びに冷却効率を高めることを第一の課題とし、シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えないエンジンに対して、シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を付加することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の第一の課題を解決するために、この発明は、内部にシリンダ室を備えたシリンダブロックをクランクケースの上部に取り付け、そのシリンダブロックの上部にシリンダヘッドが取り付けられており、前記クランクケース内に設けたオイルポンプから供給されるオイルが、前記クランクケースに設けたケース内油路と前記シリンダブロックに設けたブロック内油路とを通って前記シリンダヘッドへ供給されており、前記シリンダブロックに、前記ブロック内油路と前記シリンダ室の内壁とを結ぶ貫通孔を設けて、その貫通孔を通じて前記ブロック内油路内のオイルが前記シリンダ室の内壁から噴出するようになっており、前記貫通孔は、前記シリンダ室内に進退可能に設けたピストンの下死点におけるピストンリングよりも下方の空間に開口することを特徴とするシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を採用した。
【0012】
従来のように、クランクケース内にオイルを噴射する手段を設けるのではなく、シリンダブロックに設けたブロック内油路とシリンダ室の内壁とを貫通孔で直接結んだので、よりピストンに近い位置でオイルを噴射することができる。
すなわち、ピストンに比較的近い位置でオイルを噴射するので、ピストンに掛けられるオイル量を増やし、特に、ピストンの下面(クランクケース側の面)やピストンスカートの内側、シリンダ室の内壁に対しての潤滑並びに冷却効率を高めることができる。
【0013】
なお、前記貫通孔のシリンダ室側の開口に、シリンダブロックとは別体のオイルノズルを設けてもよい。オイルノズルを設ければ、例えば、そのオイルノズルを所望のノズル径、ノズルの向きを有するものに交換するだけで、オイルの噴射量、噴射方向等を適切に調節する機能を発揮することができ、また、オイルの拡散度合い、すなわち、オイルをピストンの下面やコンロッド等に対してまんべんなく噴射できるようにする機能を発揮することもできる。
【0014】
これらの構成において、前記貫通孔は、前記ブロック内油路から前記シリンダ室内の空間に向かって直線状に形成されている構成を採用することができる。
貫通孔の形態としては、途中で屈曲しているものであってもよいが、例えば、その貫通孔が直線状であれば、シリンダブロックにボーリングで所定のシリンダ室を形成した後、あるいは、所定のシリンダ室が既に形成されたシリンダブロックを用い、そのシリンダ室側やブロック内油路側から容易にドリル等で穿孔することができる。このため、シリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造の構築が容易である。
【0015】
この貫通孔を設ける位置は、シリンダ室側の開口が、ピストンが下死点にある時におけるそのピストンのピストンリングの位置よりも下方であれば、その位置を自由に設定できる。特に、ピストンリングを複数備える場合は、最も下方(クランクケースに近い側)に位置するピストンリングよりも下方に位置することが望ましい。
【0016】
さらに、前記貫通孔が、シリンダ室のブロック内油路側の内壁と、ブロック内油路のシリンダ室側の内壁との距離が最短である位置に設けてもよい。また、この貫通孔は、シリンダ室の内壁の円周方向に沿って、潤滑並びに冷却効率が最も最適となる場所に開口するように設けることが望ましい。
【0017】
また、上記の第二の課題を解決するために、この発明は、これらの各構成からなるシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えたエンジンの製造方法として、以下の構成を採用することができる。
すなわち、内部にシリンダ室を備えたシリンダブロックをクランクケースの上部に取り付け、そのシリンダブロックの上部にシリンダヘッドが取り付けられており、前記クランクケース内に設けたオイルポンプから供給されるオイルが、前記クランクケースに設けたケース内油路と前記シリンダブロックに設けたブロック内油路とを通って前記シリンダヘッドへ供給されており、前記シリンダブロックに、前記ブロック内油路と前記シリンダ室内の空間とを結ぶ貫通孔を有さないエンジンの前記シリンダブロックに対し、前記ブロック内油路と前記シリンダ室の内壁とを結ぶ貫通孔を穿孔して、その貫通孔を通じて前記ブロック内油路内のオイルが前記シリンダ室の内壁から噴出するようにし、前記貫通孔は、前記シリンダ室内に進退可能に設けたピストンの下死点におけるピストンリングよりも下方の空間に開口するものとしたことを特徴とするシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えたエンジンの製造方法である。
【0018】
この製造方法によれば、シリンダブロックに穿孔するだけで、シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えないエンジンに対して、シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を容易に付加することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、シリンダブロックに設けたブロック内油路とシリンダ室の内壁とを貫通孔で直接結んだので、よりシリンダ及びピストンに近い位置でオイルを噴射することができ、シリンダ及びピストンに掛けられるオイル量を増やし、そのシリンダ及びピストンに対する潤滑並びに冷却効率を高めることができる。
【0020】
また、シリンダ及びピストンに対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えないエンジンのシリンダブロックに対し、ブロック内油路とシリンダ室の内壁とを結ぶ貫通孔を穿孔してシリンダ室内にオイルが噴出するようにしたので、シリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えないエンジンに対してシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を付加することができる。また、従来のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えるエンジンに対しても、本構造を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施形態のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造の全体図
【図2】同実施形態において、ピストンが上死点にある状態を示す断面図
【図3】同実施形態において、ピストンが下死点にある状態を示す断面図
【図4】シリンダブロックの要部拡大斜視図
【図5】同実施形態の二輪車用エンジンのオイルの流路を示す斜視図
【図6】従来例のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えた二輪車用エンジンの要部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態では、シリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えた二輪車用エンジンEと、そのシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えない二輪車用エンジン(汎用エンジン)に対してシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を付加する方法について説明する。
【0023】
エンジンの主たる構成は従来例と同様であり、図4に示すように、内部にシリンダ室1を有するシリンダブロック2の下部にクランクケース4が固定されている。また、そのシリンダブロック2の上部にシリンダヘッド9が取り付けられている。
【0024】
クランクケース4は、その内部にクランクシャフト15を回転自在に収納するクランク室16を有する。シリンダブロック2は、図1及び図2に示すように、前記クランクケース4側からヘッド側へと貫通するシリンダ孔(ボア)を有し、そのシリンダブロック2と前記シリンダヘッド9とが、複数本のスタッドボルト(ボルト軸)、及びガスケット等を介して一体に接続されている。
【0025】
また、図2の要部拡大図において、図中に示すピストン8の位置は、そのピストン10の上死点Uを、図3の要部拡大図において、図中に示すピストン8の位置は、そのピストン8の下死点Dを示している。
【0026】
ピストン8上部における混合気の燃焼により、ピストン8がその上死点Uと下死点Dとの間で進退を繰り返し、その進退によりコンロッド13を介してクランクシャフト15に回転力を付与する。なお、図中の符号16は変速機を、符号19はシリンダヘッド9内に配置されたロッカーアームを示している。
【0027】
図1(a)の全体図に示すように、前記クランクケース4内にはケース内油路14が設けられている。このケース内油路14は、同じくクランクケース4内に設けたオイルポンプpの機能によって所定の油圧で供給されるオイルの流通路である。なお、オイルポンプpへは、エンジン下部に設けたオイルパンに溜められたオイルが、そのオイルポンプpの持つ機能によって吸い上げられるようになっている。
【0028】
また、前記シリンダブロック2には、ブロック内油路12が設けられている。ブロック内油路12は、シリンダ室1の内壁に沿って上下方向に伸びており、その上端と下端とがシリンダブロック2の下面と上面とに開口している。
【0029】
なお、そのブロック内油路12は、シリンダ室1の内壁に沿って上下方向に真っ直ぐに(直線状に)伸びているタイプのエンジンEもあれば、この実施形態のように、例えば、途中でシリンダブロック2の肉薄の部分を避けて、横方向、斜め方向にその向きを変えながら前記上端、下端間を結んでいるエンジンEもある。
【0030】
シリンダブロック2がクランクケース4の上部に固定された状態で、ブロック内油路12とケース内油路14とは連通した状態である。
また、そのシリンダブロック2と前記シリンダヘッド9とが固定された状態で、前記ブロック内油路12は、前記シリンダヘッド9内の前記ロッカーアーム19を備えた空間に連通している。
【0031】
さらに、そのシリンダヘッド9内の前記ロッカーアーム19を備えた空間は、シリンダブロック2内に設けられた前記ブロック内油路12(往路のブロック内油路12)とは別のブロック内油路12’に連通している。
また、この別のブロック内油路12’(復路のブロック内油路12’)は、クランクケース4内に設けられた前記往路のケース内油路14とは別のケース内油路(復路のケース内油路)を通じて、オイルパンへと通じている。
【0032】
オイルポンプpの機能によってオイルパンから吸い上げられたオイルは、ケース内油路14(往路のケース内油路14)、及びブロック内油路12(往路のブロック内油路12)を通って前記シリンダヘッド9へ供給される。また、そのオイルは、前記シリンダヘッド9内を潤滑した後、前記別のブロック内油路12’(復路のブロック内油路12’)、及び前記別のケース内油路(復路のケース内油路)を通じて、オイルパンへ戻されて循環する。
【0033】
このシリンダブロック2に対し、図1(b)に示すように、前記シリンダ室1内の空間へのオイル噴射を目的とする噴射部20が設けられている。
【0034】
この実施形態で、噴射部20は、シリンダブロック2において、前記ブロック内油路12と前記シリンダ室1内の空間とを結ぶ貫通孔21で構成されている。なお、図中の符号21aは、前記貫通孔21のシリンダ室1側の開口を、符号21bは、前記貫通孔21のブロック内油路12への接続部を示す。また、図4は、その噴射部20を設けた部分を示し、シリンダブロック2のクランクケース4側に向く面からの斜視図である。
【0035】
前記ブロック内油路12内のオイルは、オイルポンプpによって油圧が加えられているから、その油圧によって大部分がシリンダヘッド9側へ向かう。また、前記ブロック内油路12内のオイルの一部は、前記貫通孔21を通じて、シリンダ室1の内壁からシリンダ室1内に噴出する。
このとき、オイルは、ピストン8の内側8b(ピストンスカート8aの内面や、そのピストンスカート8aよりも内側におけるピストンの下面を含む)にまんべんなく掛けられるのである。オイルが広範囲にむら無く掛けられれば、潤滑並びに冷却効率も向上する。
【0036】
この点について、より詳しく説明すると、図2に示すように、ピストン8が上死点Uに近づいて、ピストンスカート8aの最下部が、前記貫通孔21の開口21aよりも上方(上死点U側)になれば、その貫通孔21を通じて噴出するオイルによって、シリンダ室1の内壁とピストンスカート8aの内側8bを潤滑、冷却することができる。
また、図3に示すように、ピストン8が下死点Dに近づいて、貫通孔21の開口21aがピストンスカート8aに対面する状態であれば、その貫通孔21を通じて噴出するオイルによって、シリンダ室1の内壁とピストンスカート8a(特にピストンスカート8aの外面)を潤滑、冷却することができる。
【0037】
このように、クランクケース4内にオイルを噴射する手段を設けるのではなく、シリンダブロック2に設けたブロック内油路12とシリンダ室1内の空間とを貫通孔21で直接結んで噴射部20を構成したので、よりピストン8に近い位置でそのピストン8に向かってオイルを噴射することができる。
ピストン8に比較的近い位置でオイルを噴射するので、ピストン8に掛けられるオイル量を増やし、特に、ピストン8の内側8bに対して潤滑並びに冷却効率を高めることができる。また、そのピストン8に接続されているコンロッド13等に対する潤滑並びに冷却効率も高めることができる。
【0038】
なお、この実施形態では、図2及び図3に示すように、コンロッド13の表裏面(クランクピンの伸びる方向の両端面)に噴射部20が対向するようにし、そのコンロッド13に対するオイルの噴射面積を大きく確保しているが、噴射部20を設ける方位(シリンダ室1の筒軸周りの方位)は自由であるから、他の方位としてもよい。
【0039】
さらに、この貫通孔21は、前記シリンダ室1内に進退可能に設けたピストン8の下死点Dにおけるピストンリング11よりも下方の空間に開口している。このため、貫通孔21を通ってシリンダ室1内に噴出したオイルが、混合気とともに燃焼してしまうような事態は生じない。
【0040】
なお、噴射部20の構成として、例えば、前記貫通孔21のシリンダ室側の開口21aに、シリンダブロック2とは別体のオイルノズルを設けてもよい。オイルノズルを設ければ、例えば、オイルの噴射量を適量に調節する機能を発揮することができる。また、オイルの噴射を霧状にすることもできる。
【0041】
さらに、この実施形態で、前記貫通孔21は、前記ブロック内油路12から前記シリンダ室1内の空間に向かって直線状に形成されている。
このように貫通孔21が直線状であるので、シリンダブロック2にボーリングでシリンダ室1を形成した後、そのシリンダ室1側から又はブロック内油路12側からドリル等で容易に穿孔することができる。このため、シリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造の構築が容易である。
【0042】
なお、この貫通孔21を設ける位置の高さ(シリンダ室の筒軸方向に沿う高さ)は、シリンダ室1側の開口21aが、ピストン8が下死点Dにある時におけるそのピストン8のピストンリング11の位置よりも下方であれば、その位置を自由に設定できる。
特に、貫通孔21が、シリンダ室1のブロック内油路12側の内壁と、ブロック内油路12のシリンダ室1側の内壁との距離が最短である位置に設けられている構成とすれば、穿孔する長さが最短となって、その穿孔に伴う、シリンダブロックの強度低下を抑制することができる。
【0043】
また、上記の実施形態では、ピストン8が下死点Dに近づいて、貫通孔21の開口21aがピストンスカート8aに対面する状態になるように貫通孔21の位置を設定したが、貫通孔21の位置を、ピストン8の下死点Dにおけるピストンスカート8aの下端よりも下方とすることもできる。この構成によれば、例えば、前述のように、噴射部20に別体の前記オイルノズルを設けた場合に、そのオイルノズルがシリンダ室1の内壁から多少突出していても、ピストン8の進退を阻害しない。
【0044】
また、上記の実施形態では、貫通孔21を、ブロック内油路12側からシリンダ室1内壁側に向かって上向き(ブロック内油路12側からシリンダ室1内壁側に向かうにつれてシリンダヘッド9に近づく方向)に設けている。これにより、オイルの噴射方向をやや上向きとして、ピストン8に対する潤滑並びに冷却性能を高めている。ただし、貫通孔21の向きは、このような上向きに限定されるものではなく、例えば、シリンダ室の軸心に対して直交する方向であってもよい。
【0045】
さらに、上記の実施形態では、シリンダブロック2に設けられる貫通孔21の数を一つとしたが、一つのシリンダブロック2に対して二つ以上の貫通孔21を設けてもよい。
そのとき、その複数の貫通孔21は、例えば、シリンダブロック2の上下方向に並列させてもよいし、横方向に並列させてもよい。
また、既に備えられているブロック内油路12とは別に、新たにシリンダ内部や外部に油路を形成し、その新たに形成した油路と、シリンダ室の内壁とを結ぶ貫通孔21を穿孔してもよい。
【0046】
このシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えたエンジンを製造するに際し、例えば、既に稼働しているエンジン(シリンダブロック2に、噴射部20、すなわち、ブロック内油路12とシリンダ室1内の空間とを結ぶ貫通孔21を有さないエンジン)を分解して、シリンダブロック2をクランクケース4から取り外し、そのシリンダブロック2のシリンダ室1側からブロック内油路12に向かって、又は、ブロック内油路12側からシリンダ室1に向かってドリルで穿孔して貫通孔21を形成することができる。
【0047】
また、取り外したシリンダブロック2そのものではなく、新規なシリンダブロック2、あるいは、取り外した後、シリンダ室1の内径を拡大するボーリングを施した後のシリンダブロック2に対して上記穿孔を行ってもよい。
【0048】
この製造方法によれば、ピストン8に対してオイルを噴射する手段を有するシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えないエンジンに対して、シリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を容易に付加することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 シリンダ室
2 シリンダブロック
3 挿入部
4 クランクケース
5 貫通孔
6 オイル流路
7 連通孔
8 ピストン
9 シリンダヘッド
10 オイルノズル
11 ピストンリング
12 ブロック内油路
13 コンロッド
14 ケース内油路
15 クランクシャフト
16 変速機
17 ストレーナ
18 ドレン
19 ロッカーアーム
20 噴射部
21 貫通孔
p オイルポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にシリンダ室(1)を備えたシリンダブロック(2)をクランクケース(4)の上部に取り付け、そのシリンダブロック(2)の上部にシリンダヘッド(9)が取り付けられており、前記クランクケース(4)内に設けたオイルポンプ(p)から供給されるオイルが、前記クランクケース(4)に設けたケース内油路(14)と前記シリンダブロック(2)に設けたブロック内油路(12)とを通って前記シリンダヘッド(9)へ供給されており、前記シリンダブロック(2)に、前記ブロック内油路(12)と前記シリンダ室(1)の内壁とを結ぶ貫通孔(21)を設けて、その貫通孔(21)を通じて前記ブロック内油路(12)内のオイルが前記シリンダ室(1)の内壁から噴出するようになっており、前記貫通孔(21)は、前記シリンダ室(1)内に進退可能に設けたピストン(8)の下死点(D)におけるピストンリング(11)よりも下方の空間に開口することを特徴とするシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造。
【請求項2】
前記貫通孔(21)は、前記ブロック内油路(12)から前記シリンダ室(1)内の空間に向かって直線状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造。
【請求項3】
前記貫通孔(21)は、前記シリンダ室(1)の前記ブロック内油路(12)側の内壁と、前記ブロック内油路(12)の前記シリンダ室(1)側の内壁との距離が最短である位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載のシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えたエンジンの製造方法であって、
内部にシリンダ室(1)を備えたシリンダブロック(2)をクランクケース(4)の上部に取り付け、そのシリンダブロック(2)の上部にシリンダヘッド(9)が取り付けられており、前記クランクケース(4)内に設けたオイルポンプ(p)から供給されるオイルが、前記クランクケース(4)に設けたケース内油路(14)と前記シリンダブロック(2)に設けたブロック内油路(12)とを通って前記シリンダヘッド(9)へ供給されており、前記シリンダブロック(2)に、前記ブロック内油路(12)と前記シリンダ室(1)の内壁とを結ぶ貫通孔(21)を有さないエンジンの前記シリンダブロック(2)に対し、
前記ブロック内油路(12)と前記シリンダ室(1)内の空間とを結ぶ貫通孔(21)を穿孔して、その貫通孔(21)を通じて前記ブロック内油路(12)内のオイルが前記シリンダ室(1)の内壁から噴出するようにし、前記貫通孔(21)は、前記シリンダ室(1)内に進退可能に設けたピストン(8)の下死点(D)におけるピストンリング(11)よりも下方の空間に開口するものとしたことを特徴とするシリンダ及びピストンの潤滑並びに冷却構造を備えたエンジンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−255509(P2010−255509A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106121(P2009−106121)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(504223536)株式会社スペシャルパーツ武川 (8)
【Fターム(参考)】