説明

シルクフィブロイン複合材料およびその製造方法

【課題】耐衝撃性、耐熱性を有し、かつ天然物に由来し、リサイクル性に優れたシルクフィブロイン複合材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】シルクフィブロイン1を繊維材料3に含浸させてなり、シルクフィブロイン1の重量が、シルクフィブロイン複合材料10全体の重量に対して20重量%以上、90重量%以下の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルクフィブロイン複合材料およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、耐衝撃性を向上させるために、シルクフィブロインの他に繊維材料を含有しているシルクフィブロイン複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蚕由来のシルク(絹)タンパク質は、フィブロインとセリシンという2種類のタンパク質から構成されている。その中で、セリシンは、保湿、抗酸化、紫外線吸収作用等の特徴が注目され、化粧品等に幅広く利用されている。その際、効率よくセリシンを抽出するために、シルクパウダーの状態で処理することも多い。
【0003】
また、シルクフィブロインは製糸、製織工程において大量に排出されている。従来、シルクタンパク質からセリシンを抽出した後のフィブロインは、十分な利用法が見い出されていない。そこで近年、その廃棄物としてのフィブロインを有効利用する方法が求められている。例えば、シルクフィブロインを粉末化したものは、化粧品、食品、医薬品等に用いることができる。
【0004】
ここで、シルクフィブロインは、特定の中性塩水溶液に溶解させることが可能であり、塩を除去後に凍結乾燥で脱水することにより、フィブロイン粉末が得られ、水分とともに加熱圧縮することにより、板状の材料となる(例えば、非特許文献1参照)。また、シルクフィブロインをハロゲン化アルカリ金属塩/低級アルコール/水の3成分を特定の比率で混合した溶媒に溶解することで高粘度の紡糸原液とし、該紡糸原液を乾湿式紡糸した後、次いで溶媒抽出と延伸および洗浄することにより、シルクフィブロインからなる材料を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、繊維強化プラスチック材料の分野において、環境負荷の低減や廃棄処分のしやすさを目的としたグリーンコンポジットの研究開発が進められている。生物由来の繊維や樹脂は、石油由来の繊維や樹脂とは異なり、再生可能な資源である。また、生物由来の繊維や樹脂は、ガラス強化繊維を用いた材料と比べて、燃焼、分解等が容易である。これに対して、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等は、高い強度を示すものであるが、廃棄時に粉砕および焼却し難い。
【0006】
従来、マトリクス材料に強化繊維材料を加えて強度の向上を図った繊維強化複合材料の技術が存在している。例えば、マトリクス材料として生分解性樹脂を用いて廃棄時の環境負荷を少なくする技術、強化繊維材料としてセルロース繊維材料を用いた技術、強化繊維材料としてシルク繊維材料を用いた技術等が開発されている。例えば、特許文献2には、熱可塑性樹脂とシルク繊維材料(絹織物)とからなる繊維強化複合材料が示されている。
【特許文献1】特開平6−346314号公報(平成6年12月20日公開)
【特許文献2】特開2004−142261号公報(平成16年5月20日公開)
【非特許文献1】金子淳、平井伸治、玉田靖,「繊維学会予稿集」,社団法人繊維学会発行,2007年,第62巻,第3号,p.67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1および上記特許文献1に示されるシルクフィブロイン複合材料は、強化繊維材料を含有していないため、耐衝撃性に劣るという問題点を有している。
【0008】
また、上記特許文献2に示される繊維強化複合材料は、熱可塑性樹脂を用いているため、熱可塑性樹脂の融点付近で軟化し、高温に耐えることができないという問題点を有している。
【0009】
さらに、マトリクス材料として生分解性樹脂を用いると、生分解性樹脂を合成するのに多くのエネルギーを必要とするので、リサイクルを繰り返さない限り、汎用のプラスチックと比べて、製品製造時の二酸化炭素の排出量が増えるという問題点を有している。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、耐衝撃性、耐熱性を有し、かつ天然物に由来し、リサイクル性に優れたシルクフィブロイン複合材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、シルクフィブロインおよび繊維材料を所定の条件で加熱圧縮(加熱および加圧)することで、シルクフィブロイン複合材料を製造することができることを独自に見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、上記課題を解決するために、シルクフィブロインを繊維材料に含浸させており、上記シルクフィブロインの重量が、上記シルクフィブロイン複合材料全体の重量に対して20重量%以上、90重量%以下の範囲内であることを特徴としている。
【0013】
上記の発明によれば、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインを含有するので、耐熱性を有している。さらに、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインを含有するので、天然物(蚕由来のシルク)に由来し、リサイクル性に優れたものとなる。そして、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、上記シルクフィブロイン(天然物)の重量が、上記シルクフィブロイン複合材料全体の重量に対して20重量%以上、90重量%以下の範囲内であるので、繊維材料のみからなる材料と比べて、コストを低減することができる。
【0014】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、繊維材料を含有するので、耐衝撃性を有している。さらに、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、従来のシルクフィブロイン複合材料と比べて耐衝撃性が向上しているので、用途が増加し、リサイクル性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料を加熱圧縮して成形されることが好ましい。
【0016】
これにより、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインを繊維材料に含浸させやすくなる。
【0017】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、上記繊維材料が、天然繊維からなるものであることが好ましい。
【0018】
これにより、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインだけでなく繊維材料も天然物に由来し、リサイクル性に優れたものとなる。
【0019】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、シルクフィブロインおよび繊維材料を積層する積層工程と、上記積層工程で積層された上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料を加熱圧縮する加熱圧縮工程とを含み、上記積層工程では水を添加し、上記水の重量が、上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料の合計100重量部に対して30重量部以上、130重量部以下の範囲内であることを特徴としている。
【0020】
上記の発明によれば、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、水がフィブロイン分子を移動させやすくするという働きをすることにより、シルクフィブロイン複合材料を効率よく製造することができる。
【0021】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、100℃未満で少なくとも10分以上、望ましくは30分以上加熱し、その後100℃以上で少なくとも30分以上、望ましくは90分以上加熱することが好ましい。
【0022】
これにより、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、100℃未満の低温で一定時間加熱するので、成形性に優れたシルクフィブロイン複合材料を製造することができる。
【0023】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、0MPaよりも大きく、40MPa以下の範囲内で加圧することが好ましい。
【0024】
これにより、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、シルクフィブロインと繊維材料とをより一層一体化させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシルクフィブロイン複合材料は、以上のように、シルクフィブロインを繊維材料に含浸させてなり、上記シルクフィブロインの重量が、上記シルクフィブロイン複合材料全体の重量に対して20重量%以上、90重量%以下の範囲内であるものである。
【0026】
それゆえ、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、耐衝撃性、耐熱性を有し、かつ天然物に由来し、リサイクル性に優れたものとなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。具体的には、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0028】
(I)本発明におけるシルクフィブロイン複合材料に用いられる物質等
本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインを繊維材料に含浸させてなり、上記シルクフィブロインの重量が、上記シルクフィブロイン複合材料全体の重量に対して20重量%以上、90重量%以下の範囲内であるものである。具体的には、シルクフィブロインと繊維材料とが一体化しているものである。
【0029】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、該シルクフィブロイン複合材料の特性を阻害しない限り、上記物質以外の物質(以下、「他の物質」という)を含んでいてもよい。他の物質を含める方法としては、特に限定されるものではない。
【0030】
<シルクフィブロイン>
本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインを含有するものである。本明細書等において、「シルクフィブロイン」とは、シルクに含まれるフィブロインタンパク質のみを抽出したものをいう。また、「フィブロイン」とは、繊維状の不溶性タンパク質のことをいう。
【0031】
本発明のシルクフィブロイン複合材料において、シルクフィブロインは、粉末で用いることが好ましい。
【0032】
上記シルクフィブロイン複合材料全体に対する上記シルクフィブロインの含有率は、20重量%以上90重量%以下であり、より好ましくは40重量%以上80重量%以下の範囲内である。上記シルクフィブロイン複合材料全体に対する上記シルクフィブロインの含有率が上記範囲を超えると、耐熱性およびリサイクル性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0033】
<繊維材料>
本発明のシルクフィブロイン複合材料は、繊維材料を含有するものである。本明細書等において、「繊維材料」とは、繊維を主成分とするものであれば特に限定されない。つまり、繊維を主成分としていれば、繊維以外の物質が含まれていても本発明に含まれる。
【0034】
本発明に用いられる繊維としては、天然繊維、化学繊維、鉱物繊維等、特に限定されないが、リサイクル性に優れているとの理由から、天然繊維であることが好ましい。
【0035】
本発明に用いられる天然繊維としては、特に限定されず、木綿、ジュート、竹、ケナフ等のセルロース系繊維;シルク繊維;羊毛;羽毛;などが挙げられる。その中でも、耐衝撃性に優れているとの理由から、木綿、シルクなどが好ましい。また、シルクフィブロインの含浸性が向上するとの理由から、シルク繊維が好ましい。
【0036】
本発明のシルクフィブロイン複合材料において、繊維材料は、シート状、板状等で用いることが好ましい。
【0037】
上記シルクフィブロイン複合材料全体に対する上記繊維材料の含有率は、10重量%以上80重量%以下であり、より好ましくは20重量%以上60重量%以下の範囲内である。上記シルクフィブロイン複合材料全体に対する上記繊維材料の含有率が上記範囲を超えると、耐衝撃性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0038】
<シルクフィブロインと繊維材料との比率>
上記シルクフィブロインの重量は、上記シルクフィブロイン複合材料全体の重量に対して20重量%以上90重量%以下の範囲内であり、より好ましくは40重量%以上80重量%以下の範囲内である。
【0039】
(II)本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の製造方法
本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法について、図1ないし図4に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0040】
本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、シルクフィブロインおよび繊維材料を積層する積層工程と、上記積層工程で積層された上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料を加熱圧縮する加熱圧縮工程とを含み、上記積層工程では水を添加し、上記水の重量が、上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料の合計100重量部に対して30重量部以上、130重量部以下の範囲内であり、特に好ましくは80重量%である。
【0041】
なお、上記積層工程において、上記水を添加するタイミングは特に限定されない。また、上記水は、加熱により蒸発するため、シルクフィブロイン複合材料には残存していない。
【0042】
本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、100℃未満で10分以上加熱し、その後100℃以上で30分以上加熱することが好ましく、さらには100℃未満で30分以上加熱し、その後100℃以上で90分以上加熱することがより好ましい。また、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、0MPaよりも大きく40MPa以下の範囲内で加圧することが好ましい。なお、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、従来公知の積層装置(プレス機)を用いて行うことができる。
【0043】
さらに、本発明のシルクフィブロイン複合材料の製造方法は、従来の繊維強化プラスチック材料の製造方法のような真空状態での加熱圧縮(加熱および加圧)をしなくとも、製造されたシルクフィブロイン複合材料における反り等の成形性に問題を生じない。
【0044】
図1は、本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の製造装置を示している。図1において、シルクフィブロイン複合材料の製造装置は、シルクフィブロイン1、水2、繊維材料3およびPETフィルム4を、2枚のヒーター5で挟み込んで加熱および加圧することにより、シルクフィブロイン複合材料10を製造するものである。シルクフィブロイン複合材料10は、シルクフィブロイン1と繊維材料3とが一体化してなるものである。
【0045】
図1において、シルクフィブロイン複合材料10を2枚以上製造することも可能である。つまり、図1に示している「シルクフィブロイン1、水2、繊維材料3およびPETフィルム4」の組み合わせ2セット以上を、2枚のヒーター5で挟み込んで加熱および加圧することにより、シルクフィブロイン複合材料10を2枚以上製造することも可能である。
【0046】
また、図1において、繊維材料3を、シルクフィブロイン1および水2の片側にのみ積層する(存在させる)ことも可能である。
【0047】
また、図1において、繊維材料3を2枚以上重ねて、シルクフィブロイン1および水2の両側または片側に積層することも可能である。
【0048】
また、図1において、繊維材料3を、シルクフィブロイン1および水2で挟み込むように積層する(存在させる)ことも可能である。
【0049】
図2(a)・(b)は、シルクフィブロイン複合材料10における繊維材料3の含有率と引張強度・引張弾性率との関係を示すグラフである。詳細については後述する。
【0050】
図3は、水2の添加率とシルクフィブロイン複合材料10の中心部の面積との関係を示すグラフである。水2の添加率は、
水2の添加率(%)=水2の添加量(g)/[シルクフィブロイン1の重量(g)+繊維材料3の重量(g)]×100
により求められる。
【0051】
図4は、圧力(Press)とシルクフィブロイン複合材料10の中心部の面積との関係を示すグラフである。
【0052】
(III)本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の物性等
本発明のシルクフィブロイン複合材料の物性等について、図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0053】
また、本発明のシルクフィブロイン複合材料は、シルクフィブロインと繊維材料とが一体化していればよいが、上記シルクフィブロインの両側に上記繊維材料が存在していることが好ましい。本発明のシルクフィブロイン複合材料は、上記シルクフィブロインの両側に上記繊維材料が存在していることにより、対称な構造となり、反りが軽減する。
【0054】
図2(a)・(b)は、シルクフィブロイン複合材料における繊維材料の含有率と引張強度・引張弾性率との関係を示すグラフである。本発明のシルクフィブロイン複合材料は、用途に応じて必要な引張強度・引張弾性率を満たすように、繊維材料の含有率が調整されていればよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕
(1)使用材料(物質)
<繊維材料>
実施例では、繊維材料として、平織り木綿繊維(縦糸28.2yarn/cm、横糸27.0yarn/cm)JIS L 0803準拠「かなきん3号」を用いた。縦糸の繊度は20tex、横糸の繊度は16tex、厚さは0.22mm、目付は100g/mであった。
【0057】
<シルクフィブロイン>
実施例では、精練済みのシルク糸を用いた。粉末の作製は、以下の手順で行った。
【0058】
シルクフィブロインの溶液を作製するために、セリシン抽出後のシルクフィブロイン糸を使用した。まず、塩化カルシウム:水:エタノールを、重量比で1:8:2の割合となるように混合し、約80℃に加熱した。この溶液中に、含有率が10重量%となるようにカットしたシルクフィブロイン糸を加え、攪拌しながら溶解させた。この溶液をセルロースチューブ(分画分子量12,000〜14,000)に入れ、流水を満たした容器内にこのセルロースチューブを3日間浸漬させ、脱塩処理を行った。その後、透析外液に硝酸銀水溶液(試薬)を滴下し、その白濁により塩化物イオンの有無を判断した。透析終了後の溶液を、3000rpmで30分間遠心分離し、浮遊物を取り除いた。それにより得られた溶液を冷凍してから凍結乾燥を行った。
【0059】
(2)実験方法
<成形方法>
シルクフィブロイン複合材料(シルクフィブロイン複合材料10)の成形方法については、図1に示すように行った。具体的には、まず、上記木綿繊維(繊維材料3)を50×50mmに切断し、耐熱ポリエステルシート(PETフィルム4)(東レ株式会社製、商品名「ルミラー」)で覆った金属板(金属板5)の上に1枚の切断した木綿繊維0.250gを乗せ、蒸留水(水2)0.441gを噴霧し、その上に上記シルクフィブロイン(シルクフィブロイン1)の粉末0.501gを均等に乗せ、その上にもう1枚の切断した木綿繊維0.250gを乗せ、再度蒸留水0.441gを噴霧し、耐熱ポリエステルシートで覆い、その上にもう1枚の金属板を乗せ、80℃に加熱したホットプレス機(テスター産業株式会社製、商品名「SA−302」)に入れて30MPaの圧力を加え、加熱した。この時、水分添加量は、シルクフィブロインおよび繊維材料の合計100重量部に対して88重量部であった。
【0060】
80℃で30分間加熱した後、150℃に昇温してさらに150分間加熱し、その後、ホットプレス機上で60℃になるまで加圧状態を保持したまま放冷し、シルクフィブロインの含有率が50重量%であるシルクフィブロイン複合材料(複合材料)を得た。
【0061】
<評価方法>
シルクフィブロイン複合材料の機械的特性を評価するため、引張試験を行った。引張試験は、以下の手順で行った。
【0062】
シルクフィブロイン複合材料の成形品から試験片(25×10mm)を切り取り、引張試験を行い、引張強度および引張弾性率を求めた。引張試験には、小型卓上試験機(JTトーシ株式会社製、「LSC−01−1/30型」)を使用し、引張速度10mm/minで、同一条件において5本の試験片について試験した。
【0063】
〔実施例2〕
シルクフィブロイン複合材料の成形方法について、80℃で30分間加熱する操作に変えて、80℃で60分間加熱する操作を行った以外は、実施例1と同様の成形方法でシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0064】
その結果、実施例2におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積と変わりなかった。
【0065】
〔実施例3〕
シルクフィブロイン複合材料の成形方法について、80℃で30分間加熱する操作に変えて、40℃で30分間加熱する操作を行った以外は、実施例1と同様の成形方法でシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0066】
その結果、実施例3におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積と変わりなかった。
【0067】
〔実施例4〕
シルクフィブロイン複合材料の成形方法について、80℃で30分間加熱する操作に変えて、60℃で30分間加熱する操作を行った以外は、実施例1と同様の成形方法でシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0068】
その結果、実施例4におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積と変わりなかった。
【0069】
〔実施例5〕
シルクフィブロイン複合材料の成形方法について、80℃で30分間加熱する操作に変えて、95℃で30分間加熱する操作を行った以外は、実施例1と同様の成形方法でシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0070】
その結果、実施例5におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積と変わりなかった。
【0071】
〔実施例6〕
シルクフィブロイン粉末の使用量を、0.501gに変えて、1.00gとした以外は、実施例1と同様の成形方法で、シルクフィブロインの含有率が67重量%であるシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0072】
その結果、実施例6におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積と変わりなかった。
【0073】
〔実施例7〕
水分添加量を、シルクフィブロインおよび繊維材料の合計100重量部に対して88重量部に変えて、30重量部とした以外は、実施例1と同様の成形方法でシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0074】
その結果、実施例7におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積に対して約3分の1になったが、実施例7におけるシルクフィブロイン複合材料は、もろい状態にはなっていなかった。
【0075】
〔比較例1〕
シルクフィブロイン複合材料の成形方法について、80℃で30分間加熱する操作に変えて、100℃で30分間加熱する操作を行った以外は、実施例1と同様の成形方法でシルクフィブロイン複合材料の製造を行った。
【0076】
その結果、比較例1におけるシルクフィブロイン複合材料は、実施例1におけるシルクフィブロイン複合材料と比べて、空隙の入ったもろい状態となった。
【0077】
〔実施例まとめ〕
(1)実験結果
図5(a)は本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の外観を示す図であり、図5(b)は本発明におけるシルクフィブロイン複合材料における中心部の外観を示す図である。図5に示すように、シルクフィブロイン複合材料の成形品は、外観が全体的に均等ではなく、中心部と周辺部とで外観が異なっていた。具体的には、図5(a)に示すように、中心部は茶褐色になっており、シルクフィブロインが木綿繊維に十分含浸していると考えられる。また、図5(b)に示す拡大の写真により、シルクフィブロインが木綿繊維に十分含浸していると考えられる。
【0078】
図2(a)・(b)は、シルクフィブロイン複合材料における木綿繊維(繊維材料)の含有率と引張強度・引張弾性率との関係を示すグラフである。図2(a)・(b)により、木綿繊維の含有率が増加するとともに、引張強度および引張弾性率も増加した。これにより、強化繊維でシルクフィブロインの機械特性が改善されるということが明らかになった。
【0079】
(2)結論
木綿織物2枚と、シルクフィブロイン(含有率50%)とでシルクフィブロイン複合材料を成形した場合、45MPaの引張強度を有するもの(複合材料)が得られた。また、上記複合材料は、薄いシート状に限らず、2枚以上積層することにより厚い材料とすることも可能である。さらに、繊維材料は、木綿織物に限らず、シルク織物等の他の繊維材料を強化材料に使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のシルクフィブロイン複合材料は、耐衝撃性、耐熱性を有しているため、車の内装材、電子基板の代替材料、風呂タブ、飛行機の船体、モーターボートの船体等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の製造装置を示す断面図である。
【図2】(a)は、本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の繊維含有率と引張強度との関係を示すグラフであり、(b)は、本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の繊維含有率と引張弾性率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の製造方法での、水添加率とシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積との関係を示すグラフである。
【図4】本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の製造方法での、圧力とシルクフィブロイン複合材料の中心部の面積との関係を示すグラフである。
【図5】(a)は本発明におけるシルクフィブロイン複合材料の外観を示す図であり、(b)は本発明におけるシルクフィブロイン複合材料における中心部の外観を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 シルクフィブロイン
2 水
3 繊維材料
4 PETフィルム
5 金属板
10 シルクフィブロイン複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルクフィブロインを繊維材料に含浸させてなり、
上記シルクフィブロインの重量が、シルクフィブロイン複合材料全体の重量に対して20重量%以上、90重量%以下の範囲内であることを特徴とするシルクフィブロイン複合材料。
【請求項2】
上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料を加熱圧縮して成形されることを特徴とする請求項1に記載のシルクフィブロイン複合材料。
【請求項3】
上記繊維材料が、天然繊維からなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載のシルクフィブロイン複合材料。
【請求項4】
シルクフィブロインおよび繊維材料を積層する積層工程と、
上記積層工程で積層された上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料を加熱圧縮する加熱圧縮工程とを含み、
上記積層工程では水を添加し、
上記水の重量が、上記シルクフィブロインおよび上記繊維材料の合計100重量部に対して30重量部以上、130重量部以下の範囲内であることを特徴とするシルクフィブロイン複合材料の製造方法。
【請求項5】
100℃未満で10分以上加熱し、その後100℃以上で30分以上加熱することを特徴とする請求項4に記載のシルクフィブロイン複合材料の製造方法。
【請求項6】
0MPaよりも大きく、40MPa以下の範囲内で加圧することを特徴とする請求項4または5に記載のシルクフィブロイン複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95596(P2010−95596A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266737(P2008−266737)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本繊維機械学会第61回年次大会 研究発表論文集 講演要旨集」 発行日 2008年5月29日 発行所 社団法人日本繊維機械学会
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】