説明

シロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子及びその製造方法、シロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子分散液、並びに樹脂組成物

【課題】本発明は、イオン性液体が固定されたナノコンポジット粉末状粒子であって、イオン性液体の含有量が高くかつ分散性が高いナノコンポジット粉末状粒子を提供する。
【解決手段】アルコキシシラン、イオン性液体、下記一般式(1)
【化1】


で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解する反応工程を行い得られる、イオン性液体を含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子であることを特徴とするナノコンポジット粉末状粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体が固定化された、シロキサン結合を主骨格とするコンポジット粉末状粒子、その製造方法、該コンポジット粉末状粒子を含有する粒子分散液、樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体はカチオンとアニオンとの塩であり、常温、常圧で液体であり、沸点を持たない物質であるが、そのうちのいくつかは20世紀初頭から電気化学の分野で研究されてきた。しかし、他の用途については研究されていなかった。
【0003】
ところが、1990年代になりグリーンケミストリーが叫ばれるようになると、イオン性液体は不燃性、不揮発性等の興味深い性質を示すことから注目を集め始めた。そのため、種々のイオン性液体が開発されるようになった。そして近年、イオン性液体を、不燃性、不揮発性かつ極性の高い溶媒として利用することについて研究が進められている。
【0004】
しかし、溶媒としての用途以外についてはイオン性液体の利用方法については未だ開発されておらず、今後、イオン性液体の新規な用途が期待される。
【0005】
イオン性液体の新規な用途の1つとして、イオン性液体を含有する機能材料が考えられる。ところが、イオン性液体を含有する機能材料を製造するためには、イオン性液体を種々の溶媒又は樹脂材料等に均一に分散しなければならないが、イオン性液体が液体であるため、種々の溶媒又は樹脂材料等に均一に分散することが極めて困難であるという問題があった。
【0006】
このため、本発明者らは、先に溶媒や樹脂に均一に分散させることができる粒子表面にイオン性液体を固定化した粉末状のシリカコンポジット粒子を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−270124号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1の粉末状のシリカコンポジット粒子は、平均粒子径が5〜200nmのコアシリカ粒子を含有するシリカゾル、アルコキシシラン及びイオン性液体を混合して得られる反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解し得られる懸濁した反応液から遠心分離処理して沈殿させて得た固形物を用いるものである。このため、イオン性液体の固定量を多くすることができないという問題があった。
【0009】
したがって、本発明の課題は、イオン性液体が固定されたナノコンポジット粉末状粒子であって、イオン性液体の含有量が高くかつ分散性が高いナノコンポジット粉末状粒子を提供することにある。また、本発明の課題は、該粉末状粒子を工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーを用い、該フルオロアルキル基含有オリゴマー、イオン性液体及びアルコキシシラン及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、シリカゾル等のコア粒子を添加しないで反応を行っても、イオン性液体を固定化したナノコンポジット粉末状粒子が得られ、該ナノコンポジット粉末状粒子は、イオン性液体の含有率が高いこと。更に該ナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒又は樹脂材料等に均一に分散することができること等を見出した。更に、本発明者らは、特定のホスホニウム塩系イオン性液体を用いると、前記アルコキシシランを加水分解して得られる反応液は、従来の懸濁した反応液とは異なり、目視にて固形物が観察されず、該反応液を遠心分離処理しても沈殿物が観察されない高分散性のものになること、また、該反応液から反応溶媒を蒸発除去することにより、目的物とする粉末状粒子をほぼ定量的に得ることができること等を見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、アルコキシシラン、イオン性液体、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解する反応工程を行い得られる、イオン性液体を含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子であることを特徴とするナノコンポジット粉末状粒子を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、アルコキシシラン、イオン性液体、下記一般式(1)
【化2】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解する反応工程を有することを特徴とするシロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記本発明(1)の粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記本発明(1)の粉末状粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イオン性液体が固定されたナノコンポジット粉末状粒子であって、イオン性液体の含有量が高くかつ分散性が高いナノコンポジット粉末状粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該ナノコンポジット粉末状粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1〜3で得られたホスホニウム基含有粉末状粒子の熱重量分析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の粉末状粒子(以下、本発明のナノコンポジット粉末状粒子ともいう)は、アルコキシシラン、イオン性液体、下記一般式(1)
【化3】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解する反応工程を行い得られる、イオン性液体を含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子である。
【0018】
反応工程に係るアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン、ヘキシルオキシトリメチルシラン等のアルコキシトリアルキルシランが挙げられる。これらのアルコキシシランにおけるアルキル基の炭素鎖長は1〜6であることが好ましい。アルコキシ基の炭素鎖長も1〜6であることが好ましい。これらのうち、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランが、製造上、取り扱い易い点で好ましい。また、アルコキシシランは、1種単独でも、2種以上の組み合せでもよい。
【0019】
反応工程に係るイオン性液体は、公知のものを使用することができる。例えば、イミダゾリウム化合物、4級アンモニウム化合物、ピリジニウム化合物、ホスホニウム化合物が挙げられるが、本発明では、特に下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体を用いると高分散性のものが得られる点で好ましい。
【化4】

(式中、R、R及びRは炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
【化5】

(式中、R10〜R13は、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、又はフェニル基を示し、水素原子で一部が置換されていてもよく、R10〜R13の基は同一の基であっても異なる基であってもよい。Xは、アニオン基を示す。)
【0020】
前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のR、R及びRは、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、この中で、n−ブチル基が好ましい。R、R及びRはそれぞれが同一の基でも異なる基であってもよい。また、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のRは、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、この中で、特にメチル基が好ましい。また、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のnは1〜8の整数、好ましくは3である。また、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のXはアニオン基を示す。Xのアニオン基としては、ベンゾトリアゾールイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF、PF、N(SOCF、PO(OMe)、PS(OEt)、(COMe)PhSO等のアニオン基が挙げられ、この中で、塩素イオンが特に好ましい。
【0021】
前記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のR10、R11、R12及びR13は、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、又はフェニル基を示す。また、R10、R11、R12及びR13が、シクロアルキル基又はフェニル基の場合、例えば、4−メチルシクロヘキシル基、4−メチルフェニル基のように、シクロアルキル環又はベンゼン環の水素原子の一部が、アルキル基で置換されていてもよい。また、R10、R11、R12及びR13は、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、R10、R11、R12及びR13は、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、又はフェニル基の水素原子の一部が、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基等の置換基で置換されている基であってもよい。これらのうち前記R10〜R14の基は炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、特に4〜10のアルキル基が好ましい。
【0022】
また、前記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のXはアニオン基を示す。Xのアニオン基としては、ベンゾトリアゾールイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF、PF、N(SOCF、PO(OMe)、PS(OEt)、(COMe)PhSO等のアニオン基が挙げられる。
【0023】
前記一般式(2)又は(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体のうち、特に前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体を用いると、前記反応液から反応溶媒を蒸発除去することにより、目的物とする粉末状粒子をほぼ定量的に得ることができること等の利点を有する。
【0024】
反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(1)で表される。
【化6】

【0025】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0026】
反応原料溶液が、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するナノコンポジット粉末状粒子となる。本発明のナノコンポジット粉末状粒子が、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が更に高くなり、更には撥油性等の特性も有することができる。
【0027】
前記一般式(1)中のR、R及びRで示される炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造することができる(例えば、特開2002−338691号公報参照)。
【0028】
反応工程に係る反応溶媒は、反応工程に係るアルコキシシラン、イオン性液体及び前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解するものが用いられる。反応工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0029】
反応工程において、反応原料溶液を調製する際に、アルコキシシラン、イオン性液体及び一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを反応溶媒に混合する順序は特に制限されるものではない。
【0030】
反応原料溶液中のアルコキシシランの含有量は、ナノコンポジット粉末状粒子中のイオン性液体の含有量、及びナノコンポジット粉末状粒子の分散安定性の観点から、好ましくは10〜80重量%、特に好ましくは20〜60重量%である。
【0031】
反応原料溶液中のイオン性液体の含有量は、アルコキシシラン1mmolに対して、好ましくは0.1ml以上、さらに好ましくは0.2〜10ml、特に好ましくは0.3〜5mlである。反応原料溶液中の前記イオン性液体の含有量が、上記範囲にあることにより、ナノコンポジット粉末状粒子中のイオン性液体の含有量が高くなる。反応原料溶液中に含有させるイオン性液体の含有量が、アルコキシシラン1mmolに対して、0.1ml未満だと、ナノコンポジット粉末状粒子中に含有されるイオン性液体の含有量が低くなり易い。
【0032】
反応原料溶液中の前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は、アルコキシシラン1mmolに対して、好ましくは0.01〜10g、特に好ましくは0.02〜10gである。反応原料溶液中の前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量が、上記範囲にあることにより、種々の分散溶媒又は樹脂材料へのナノコンポジット粉末状粒子の分散性が高くなる。
【0033】
本発明に係る反応工程において、反応原料溶液に加える酸又はアルカリとしては、アルコキシシランの加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウム又は塩酸であり、特に好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0034】
反応原料溶液に加える酸又はアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料溶液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシランの加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、アルコキシシランの加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、ナノコンポジット粉末状粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料溶液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシランの加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0035】
そして、反応工程を行うことにより、シロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子が生成し、ナノコンポジット粉末状粒子を含有する反応液が得られる。
【0036】
多くの場合、前記一般式(2)で表わされるホスホニウム塩系イオン性液体以外のイオン性液体を用いて前記反応工程を行い得られるナノコンポジット粉状粒子を含有する反応液は、懸濁液であり、目視にて反応液中に固形物が観察される。また、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときには、ナノコンポジット粒子が固形物として沈殿する。
【0037】
従って、本発明では、反応工程を行い得られる反応液から、ナノコンポジット粉末状粒子を回収する方法としては、例えば、該反応液を遠心加速度800Gで30分間程度の遠心分離処理して目的物を固形分として沈殿物させればよい。そして、沈殿物を回収した後、乾燥することでナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0038】
一方、イオン性液体として前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体を用いた場合には、分散性が高く、反応工程を行い得られる反応液中で微細にかつ均一に分散している。前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩液イオン性液体を用いて反応工程を行い得られる、ナノコンポジット粉末状粒子を含有する反応液は、目視にて固形物が観察されず、かつ、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときに目視にて沈殿物が観察されないほど、反応液にナノコンポジット粉末状粒子が高分散している。
なお、遠心分離処理は、処理物を遠心管に入れ、遠心分離機で処理するが、沈殿物がある場合は、目視にて遠心管の底に沈殿物が観察される。よって、遠心分離処理したときに目視にて沈殿物が観察されないとは、処理後に、遠心管の底に目視で判別できるような沈殿物がないことを指す。
従って、イオン性液体として前記一般式(2)で表わされるホスホニウム塩系イオン性液体を用いた場合には、ナノコンポジット粉末状粒子を回収する方法としては、反応工程を行い得られる反応液から、反応溶媒を蒸発させ除去して、ナノコンポジット粉末状粒子を得る溶媒蒸発除去工程を行い、該反応液から、ナノコンポジット粉末状粒子を回収する。溶媒蒸発除去工程では、常圧又は減圧下で、反応溶媒が蒸発する温度に加熱して、反応溶媒の蒸発除去を行う。また、固形物を回収後、必要により乾燥を行う。そして、溶媒蒸発除去工程を行うことにより、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を得る。イオン性液体として、前記一般式(2)で表わされるホスホニウム塩系イオン性液体を用いた場合には、反応工程を行って得られる反応液から、そのまま反応溶媒を蒸発により除去するので、ほぼ定量的に、ナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0039】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、従来の特開2007−270124号公報の粉末状のシリカコンポジット粒子に比べ、イオン性液体の含有率が高いことに、その1つの特徴がある。即ち、従来の特開2007−270124号公報の粉末状のシリカコンポジット粒子は、コアシリカ粒子の表面にホスホニウム塩系イオン性液体を固定したものであるため、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は低い。実際には、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が、多くても5重量%未満である。これに対して、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、コアシリカ粒子を有しないため、イオン性液体の含有率を高めることができる。例えば、本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10〜90重量%である。なお、本発明のナノコンポジット粉末状粒子におけるホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、該ナノコンポジット粉末状粒子をフッ化水素で溶解して溶液となし、該溶液をICP分析或いは熱重量分析することで求めることができる。
【0040】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、オリゴマーとして、好ましくは10重量%以上、特に好ましくは15〜90重量%である。本発明のナノコンポジット粉末状粒子におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、Fを元素分析することで求めることができる。
【0041】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、反応工程においてアルコキシシランの加水分解により形成されたシロキサン結合を主骨格とする。ここでいうシロキサン結合には、Si原子に、アルコキシシラン由来のアルコキシ基が残存して結合しているシロキサン結合のほか、アルコキシ基が残存していないシロキサン結合、即ち、Si原子とO原子とが交互に結合してSiOの三次元ネットワッークを形成しているシロキサン結合も含む。本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、Si原子の含有量は、SiO換算で、好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20〜90重量%である。本発明のナノコンポジット粉末状粒子におけるSi原子の含有量は、熱重量分析により求めることができる。
【0042】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子の他の好ましい物性としては、平均粒子径が好ましくは10〜500nm、特に好ましくは15〜300nmである。平均粒子径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が良好である点で好ましい。
【0043】
テトラアルコキシシランは、加水分解により、アルコキシシランの加水分解物であるポリシロキサン化合物に変化し、更に、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーも反応工程において、加水分解可能な部位を有しており、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基と、アルコキシシランの加水分解物であるポリシロキサン化合物とが、化学結合又は分子間水素結合を形成することにより、ポリシロキサン化合物の表面に、結合を形成して存在するものと、分子鎖の一部が、ポリシロキサン化合物のネットワーク中に取り込まれて存在しているものがあると本発明者らは推測している。そして、ポリシロキサン化合物の表面に結合している前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基の分子鎖、及びポリシロキサン化合物のネットワークに取り込まれなかった、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基の部分が、ナノコンポジット粉末状粒子の表面から伸びるため、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの反応残基がコロナのように、表面から放射状に伸びた形状となる。更にイオン性液体は、ポリシロキサン化合物の表面に、結合を形成して存在するものと、ポリシロキサン化合物のネットワーク内に存在するものがあると推測される。そして、粉末状粒子の表面から放射状に伸びた前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの分子鎖の作用効果により、更に種々の分散溶媒又は樹脂材料への分散性が向上するものと考えられる。
【0044】
更に、イオン性液体として、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体を用いた場合には、該ホスホニウム塩系イオン性液体も、反応工程において加水分解可能な部位を有しており、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の反応残基と、アルコキシシランの加水分解物であるポリシロキサン化合物とが、化学結合又は分子間水素結合を形成することにより、ポリシロキサン化合物の表面に、結合を形成して存在するものと、分子鎖の一部が、ポリシロキサン化合物のネットワーク中に取り込まれて存在しているものがあると本発明者らは推測する。
そして、ポリシロキサン化合物の表面に結合している前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の反応残基の分子鎖、及びポリシロキサン化合物のネットワークに取り込まれなかった、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の反応残基の部分が、ナノコンポジット粉末状粒子の表面から伸びるため、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の反応残基がコロナのように、表面から放射状に伸びた形状となる。
【0045】
そして、イオン性液体として、前記一般式(2)で表わされるホスホニウム塩系イオン性液体を用いた場合には、特に本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、その表面から伸びる、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の反応残基の分子鎖の作用及び粉末状粒子の表面から放射状に伸びた前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの分子鎖の作用により、種々の分散溶媒又は樹脂材料に加えた時に、ナノコンポジット粉末状粒子同士が凝集し難くなるので、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒又は樹脂材料への分散性がさらに向上する。そのため、前記一般式(2)で表わされるホスホニウム塩系イオン性液体を用いて得られる本発明のナノコンポジット粉末状粒子によれば、微細でかつ均一なナノコンポジット粉末状粒子の分散液が得られる。また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、前記のポリシロキサン化合物のネットワーク中に、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体を含有するので、該ナノコンポジット粉末状粒子によれば、微細かつ均一にイオン性液体が分散された分散液が得られる。
【0046】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されている分散液である。
【0047】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒に対して高い分散性を示す。そのため、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を分散溶媒に分散させて得られる分散液、すなわち、本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液では、ナノコンポジット粉末状粒子が凝集せずに分散しているので、目視において固形物が観察されない。
【0048】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る分散溶媒としては、本発明のナノコンポジット粉末状粒子に不活性で、均一分散可能なものであれば特に制限はなく、水又は有機溶媒のいずれでもよく、また、有機溶媒としては、極性有機溶媒又は非極性有機溶媒のいずれでもよい。本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、水、メタノール、ジクロロメタンに対して極めて高い分散性を示す。
【0049】
また、イオン性液体として前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体を用いた場合には、本発明のナノコンポジット粉末状粒子に係る反応工程を行い得られる反応液は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を高純度で含有する反応液なので、本発明のナノコンポジット粉末状粒子に係る反応工程を行い得られる反応液、あるいは、該反応液の分散溶媒による希釈液は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液として用いることができる。
すなわち、アルコキシシラン、イオン性液体、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより得られた反応液、又はこの反応液を分散溶媒で希釈した希釈液も、本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液である。
【0050】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液中、イオン性液体の濃度は、用途や使用方法等を考慮して適宜調整すればよく特に制限されるものではなく、多くの場合、0.1〜90重量%である。
【0051】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液には、更にイオン性液体を添加して、イオン性液体を含有させることができる。そして、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、追加添加されたイオン性液体を、分散溶媒に分散させる分散剤としても機能するので、イオン性液体が更に添加された本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液では、追加添加されたイオン性液体が微細かつ均一に分散されている。つまり、本発明のナノコンポジット粉末状粒子及び本発明のナノコンポジット末状粒子分散液は、追加添加されたイオン性液体を、種々の分散溶媒に対して微細かつ均一に分散性させることができる。
【0052】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液に、更に追加添加するイオン性液体としては、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではない。追加添加するイオン性液体としては、例えば、イミダゾリウム化合物、4級アンモニウム化合物、ピリジニウム化合物、ホスホニウム化合物が挙げられ、また、前記一般式(2)及び/又は前記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体であってもよい。追加添加するイオン性液体の添加量は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液の分散溶媒に分散可能な範囲の添加量であれば特に制限されるものではない。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を含有する。言い換えると、本発明の樹脂組成物は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子が、樹脂材料に分散されている。そして、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、微細でありかつ樹脂材料への分散性が高いので、本発明の樹脂組成物は、ナノコンポジット粉末状粒子が微細でかつ均一に分散された樹脂組成物である。また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、イオン性液体を含有するので、本発明の樹脂組成物は、イオン性液体が、微細かつ均一に分散された樹脂組成物である。
【0054】
本発明の樹脂組成物において、ナノコンポジット粉末状粒子を分散させる樹脂材料としては、特に限定はなく、ゴムの組成物として用いる場合には、例えば天然ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、アクロニトリル−ブタジエン系ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン系ゴム(EPPM)、クロロブチレンゴム(CR)、ポリイソブチレンゴム、アルリルゴム、水素化アクロニトリル−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム、クリリスルホン化ゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性物等が挙げられ、これらは、2種以上のブレンドゴムであってもよい。また、その他シート、フィルム、容器、繊維等の樹脂成型品を得る場合にマトリックスとなる樹脂類としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリールフタレート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂、アルキド樹脂、メラニン樹脂、グアナジン樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、含フッ素樹脂及びそれらの変性物等が挙げられる。
【0055】
本発明の樹脂組成物中、本発明のナノコンポジット粉末状粒子の含有量は、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.5〜40重量%である。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物は、他の成分として、ホワイトカーボン、カーボンブラック、ゼオライト、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等の無機質充填剤、ハイスチレン樹脂、リグニン、フェノール樹脂等の有機質充填剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、体質顔料、分散助剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤、老化防止剤、可塑剤等を含有することができる。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、例えば、本発明のナノコンポジット粉末状粒子と、所望の樹脂材料とを混合し、溶融ブレンド等することにより、樹脂材料に本発明のナノコンポジット粉末状粒子を分散させて製造される。また、本発明の樹脂組成物は、例えば、所望の樹脂材料を溶媒に溶解させた樹脂溶液に、本発明のナノコンポジット粉末状粒子又は本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液を添加し、混合した後、例えば、フィルム状等所望の形状に成形し、乾燥して、溶媒を蒸発除去することにより製造される。
【0058】
また、本発明の樹脂組成物には、樹脂材料に本発明のナノコンポジット粉末状粒子を分散させる際に、ナノコンポジット粉末状粒子と共に、更にイオン性液体を添加して、それらを樹脂材料に分散させることにより、イオン性液体を含有させることができる。そして、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、追加添加されたイオン性液体を、樹脂材料に均一に分散させることができるので、追加添加されたイオン性液体を含有する本発明の樹脂組成物では、追加添加されたイオン性液体が均一に分散されている。つまり、本発明の樹脂組成物は、追加添加されたイオン性液体を微細に分散された状態で含有する。
【0059】
本発明の樹脂組成物に係る更に追加添加するイオン性液体としては、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではない。追加添加するイオン性液体としては、例えば、イミダゾリウム化合物、4級アンモニウム化合物、ピリジニウム化合物、ホスホニウム化合物が挙げられ、また、前記一般式(2)又は/及び前記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体であってもよい。追加添加するイオン性液体の添加量は、本発明の樹脂組成物に分散可能な範囲の添加量であれば特に制限されるものではない。
【0060】
イオン性液体を、液体のまま、種々の溶媒又は樹脂材料に、全体的に均一に分散させることは困難なので、イオン性液体を、液体のまま分散させると、分散ムラが生じ易い。また、イオン性液体は、種々の分散溶媒又は樹脂材料中で、液滴の状態で分散されるが、液滴の粒径を小さくすることは困難なので、イオン性液体一滴当りの体積が大きくなる。そのために、イオン性液体が、液体のまま分散されている分散溶媒又は樹脂材料を、小さい単位で局部観察をした場合、イオン性液体の存在量のムラが大きい。つまり、イオン性液体を液体のまま、種々の分散溶媒又は樹脂材料に分散させると、全体観察及び局部観察のいずれにおいても、分散ムラが大きくなってしまう。
【0061】
一方、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を、種々の分散溶媒又は樹脂材料に分散させる場合は、アルコキシシラン由来の固体であるポリシロキサン化合物を担体として用いて、イオン性液体を分散させることになるので、イオン性液体を液体のまま分散させる場合に比べ、分散させ易い。そのため、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒又は樹脂材料全体へのイオン性液体の分散性が高い。また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、好ましくは10〜500nmと極めて微細であるため、小さい単位で観察した場合、イオン性液体を液体のまま分散させる場合に比べ、イオン性液体が微細かつ均一に分散している。すなわち、本発明のナノコンポジット粉末状粒子によれば、全体観察及び局部観察のいずれにおいても、分散ムラが小さく、イオン性液体の微細かつ均一な分散が可能となる。
【0062】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、追加添加したイオン性液体を、分散溶媒又は樹脂材料に、微細かつ均一に分散させることができるので、本発明によれば、種々のイオン性液体が、分散溶媒に微細かつ均一に分散された分散液、及び種々のイオン性液体が、樹脂材料に微細かつ均一に分散された樹脂組成物を提供できる。
【0063】
また、ホスホニウム塩は、イオン伝導性、帯電防止性、抗菌性、耐熱等を有しているので、本発明のナノコンポジット粉末状粒子によれば、導電性、帯電防止性、抗菌性、耐熱性、触媒活性等の種々の機能を有する機能性材料を製造することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
(合成例1)
トリメトキシビニルシラン(2.3g)を過酸化ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル(5.1g)を含むAK−225溶液150gに加え、窒素雰囲気下で45Cにて5時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を除去し、次いで蒸留を行うことにより、目的とする一般式(2)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−VMオリゴマー)3.0gを得た。その結果を表1に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCFCFCHCl/CClFCFCHClFで表される。
【0066】
【表1】

【0067】
*表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0068】
(ホスホニウム塩系イオン性液体)
ホスホニウム塩系イオン性液体としては、以下の化学式(A)〜(C)の日本化学工業社製のものを用いた。
【化7】

【0069】
(実施例1〜3)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表2に示す添加量で、ホスホニウム塩系イオン性液体(化合物(A))、合成例1で調製したRF−VMオリゴマー及びテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)を入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)で25重量%アンモニア水を5.0ml添加した。次に室温(25℃)で5時間攪拌し反応を行って透明な反応液を得た。反応終了後、反応液から真空乾燥により溶媒を除去し、残渣として固形分(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た。反応収率を表2に示す。
該固形分をIRで分析した結果、いずれの実施例においても、1465cm−1及び1412cm−1付近、更には2900cm−1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
また、いずれの実施例においても、得られた反応液は、遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理しても、目視にて沈殿物は観察されなかった。
【0070】
(比較例1)
テトラエトキシシランを使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、反応液がゲル化し、ナノコンポジット粉末状粒子は得られなかった。
【0071】
(比較例2)
テトラエトキシシラン及びRF−VMオリゴマーを使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、反応液がゲル化し、ナノコンポジット粉末状粒子は得られなかった。
【0072】
【表2】

注)収率はRF−VMオリゴマー、ホスホニウム塩イオン性液体及びSi(OEt)に基づく収率を示す。
【0073】
(実施例4〜6)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表3に示す添加量で、ホスホニウム塩系イオン性液体(化合物(B))、合成例1で調製したRF−VMオリゴマー及びテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)を入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)で25重量%アンモニア水を5.0ml添加した。次に室温(25℃)で2時間攪拌し反応を行た。反応終了後、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理し、沈殿物を析出させた。次に上澄み液を除去し、沈殿物を回収し、該沈殿物をメタノールで2回リンスを行い、乾燥して固形分(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た。反応収率を表3に示す。
該固形分をIRで分析した結果、いずれの実施例においても、1460cm−1及び2900cm−1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
【0074】
(比較例3〜5)
テトラエトキシシランを使用しなかった以外は、実施例4〜6と同様の操作を行なった。
【表3】

注)収率はRF−VMオリゴマー、ホスホニウム塩イオン性液体及びSi(OEt)に基づく収率を示す。
【0075】
(実施例7〜9)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表4に示す添加量で、ホスホニウム塩系イオン性液体(化合物(C))、合成例1で調製したRF−VMオリゴマー及びテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)を入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)で25重量%アンモニア水を5.0ml添加した。次に室温(25℃)で2時間攪拌し反応を行た。反応終了後、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理し、沈殿物を析出させた。次に上澄み液を除去し、沈殿物を回収し、該沈殿物をメタノールで2回リンスを行い、乾燥して固形分(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た。反応収率を表4に示す。
該固形分をIRで分析した結果、いずれの実施例においても、1465cm−1及び2900cm−1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
【表4】

注)収率はRF−VMオリゴマー、ホスホニウム塩イオン性液体及びSi(OEt)に基づく収率を示す。
【0076】
<物性評価>
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られたナノコンポジット粉末状粒子試料について、平均粒子径、Si含有量、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有量、ゼータ電位を測定した。なお、実施例1〜3で得られたナノコンポジット粉末状粒子試料のTGAチャートを図1に示した。
(平均粒子径の評価)
得られたナノコンポジット粉末状粒子を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。。
(イオン性液体の含有量の評価)
ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、該ナノコンポジット粉末状粒子を熱重量分析して求めた。
【0077】
【表5】

【0078】
(分散性の評価)
実施例1〜9で得られたナノコンポジット粉末状粒子の各種分散溶媒に対する分散性を試験した。その結果を表6に示す。なお、評価は分散溶媒5mlにナノコンポジット粉末状粒子0.01gを添加し、分散状態を目視で観測して評価した。
表中の記号は以下のことを示す。
○;良好な分散
△;一部分散
×;ほとんど分散しない
【表6】

注)AK−225(CFCFCHClとCClFCFCHClFの重量比で1:1の混合溶液)、THF(テトラヒドロフラン)
5)1,2−ジクロロエタン(CHClCHCl)
【0079】
(樹脂組成物)
水8mlにポリビニールアルコールを溶かし、これに実施例1、4及び7で得られたナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させた分散液に添加し、ポリビニールアルコール0.7重量部に対してナノコンポジット粉末状粒子を0.3重量部含有する樹脂溶液を調製した。次いでシャーレにこれら樹脂溶液を加え、2日間室温(25℃)を自然乾燥、更には1晩真空乾燥し、キャストフィルムを作成した。調製した樹脂溶液の樹脂組成を表7に示す。また、得られたポリビニールアルコールフィルムの表面及び裏面のドデカンの接触角及び導電率を室温下(25℃)で測定した。その結果を表7に示す。接触角は、協和界面科学製のDrop Master.300を使用して測定した。導電率は、Agilent
Technology製の4339Bを使用して測定した。
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の粉末状粒子、粒子分散液及び樹脂組成物によれば、イオン性液体が微細かつ均一に分散された分散液及び樹脂組成物を、工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン、イオン性液体、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解する反応工程を行い得られる、イオン性液体を含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子であることを特徴とするナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項2】
前記イオン性液体が下記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体であることを特徴とする請求項1記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【化2】

(式中、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。Rは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
【請求項3】
前記粉末状粒子が、アルコキシシラン、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解し、得られた反応液から該反応溶媒を蒸発除去することにより得られるものであることを特徴とする請求項2記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項4】
前記反応液が、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときに、沈殿物が観察されないものであることを特徴とする請求項2記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項5】
前記反応溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項3記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項6】
前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のR、R及びRがn−ブチル基であり、Rがメチル基であり、nが3であることを特徴とする請求項2記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項7】
前記イオン性液体が下記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体であることを特徴とする請求項1記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【化3】

(式中、R10〜R13は、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、又はフェニル基を示し、水素原子で一部が置換されていてもよく、R10〜R13の基は同一の基であっても異なる基であってもよい。Xは、アニオン基を示す。)
【請求項8】
前記粉末状粒子が、アルコキシシラン、前記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解し、得られた反応液を遠心分離処理することにより沈殿物として得られるものであることを特徴とする請求項7記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項9】
前記反応溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項8記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項10】
前記一般式(3)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の式中のR10、R11及びR12及びR13が炭素数1〜10のアルキル基であることを特徴とする請求項2記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項11】
アルコキシシラン、イオン性液体、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解する反応工程を有することを特徴とするシロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか一項記載のナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液。
【請求項13】
前記粒子分散液が、アルコキシシラン、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体及び前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより得られた反応液、又は該反応液の希釈液であることを特徴とする請求項12記載の粒子分散液。
【請求項14】
請求項1ないし10のいずれか一項記載のナノコンポジット粉末状粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77383(P2010−77383A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60080(P2009−60080)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】